衝撃吸収部材、防弾板
【課題】低コストで、重量や厚みを抑え、衝撃の分散と吸収を効率化させることの実現とを、バランスよく解決できる衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】衝撃吸収部材1は、所定の素材を有する第1層2と、第1層2に積層される第2層3と、を備え、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合と粒子4、5同士の結合の残部である複数の空隙6とを含み、複数の空隙6同士は、複数の粒子4,5の周囲に渡って、連通する。
【解決手段】衝撃吸収部材1は、所定の素材を有する第1層2と、第1層2に積層される第2層3と、を備え、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合と粒子4、5同士の結合の残部である複数の空隙6とを含み、複数の空隙6同士は、複数の粒子4,5の周囲に渡って、連通する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾丸や砲弾などの飛翔物に対する防御および防弾を実現する衝撃吸収部材に関し、特に、セラミックスを用いることで、軽量化と防御性を両立させた衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
戦車や装甲車などの軍事用特殊車両の外板や装甲には、特殊な合金や素材を用いた防弾部材が用いられている。このような軍事特殊車両は、パワーも大きく走行能力も高いので、非常に厚みと重量のある特殊な防弾部材をその装甲に用いることができる。
【0003】
一方で、例えば兵員輸送のための軽車両や紛争地における一般車両(例えば、マスコミやボランティア要員を輸送する車両)も、銃弾や砲弾などの飛翔物の脅威にさらされている。しかしながら、これらの軽車両や一般車両は、軍事用特殊車両と異なり、パワーや走行能力に劣るので、厚くて重い特殊な防弾部材を、その外板に用いることが困難である。当然ながら、コスト面でもこのような厚くて重い特殊な防弾部材を用いることは困難である。
【0004】
このような中で、大型の戦争よりも内紛やテロの勃発の可能性が高くなっている近年では、紛争地における民間活動、ボランティア活動、行政活動の必要性はますます高まっている。民間活動、ボランティア活動、行政活動においては、機動性や現地住民との交流促進のために(もちろん、コスト面からも)、威圧感のある戦車や装甲車よりも、軽車両や一般車両が用いられることが好適である。とはいえ、当然ながらこのような軽車両や一般車両であっても、紛争地域であれば、銃弾や防弾に対する防御性や防弾性を必要とする。
【0005】
以上のことから、紛争地域において使用される軽車両や一般車両(当然に、特殊車両も含む。例えば、兵員輸送用バンなど)に使用可能であって、薄くて軽いながらも防御性能や防弾性能に優れた衝撃吸収部材や防弾部材の開発が望まれている。
【0006】
このような開発への要望環境下、種々の技術開発がなされているが、(1)異なる素材を複数の層に積層する技術、(2)積層される層にセラミックスを用いる技術、についての技術開発がなされている。
【0007】
異なる素材を複数の層に積層することで、飛翔物が衝突する層とこれに積層される層との相乗効果によって、飛翔物による破壊を低減する技術が提案されている。加えて、この積層される層の一部に、セラミックスを用いる技術も提案されており、上記の(1)、(2)のいずれかもしくは組み合わせによる衝撃吸収部材の技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、衝撃吸収部材の性能そのものを強化する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11−500809号公報
【特許文献2】特開平4−222398号公報
【特許文献3】特開2009−242834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、保護される表面を被覆する少なくとも一つの破砕材料の層を含み、この破砕材料の外側に外皮を備える防御性を有するコーティングを開示する。この外皮は、ブロック状に形成されており、外皮に衝突した弾丸などの衝撃は、外皮のブロック層で分散される。さらに、このブロック層の食い込みを破砕材料の破壊が吸収する。すなわち、特許文献1の図4、図4bに示されるように、外皮に衝突した弾丸などの衝撃は、互い違いの層となっているブロック層の広がるような破壊によって、面的に分散する。分散された衝撃は、破壊されたブロック層に押し出されて破壊される破砕材料によって吸収される。
【0010】
特許文献1は、この破砕材料の一例として、発泡材やセラミックス材料などを開示する。このような発泡材やセラミックス材は、押し出されるブロック層によって容易に破壊されることで、ブロック層で分散された衝撃を吸収する。
【0011】
このように特許文献1は、複数の層の積層であって、外皮による衝撃の分散およびこれに続くセラミックスなどの破砕材料の層での衝撃の吸収によるコーティングを開示する。
【0012】
また、特許文献2は、鋼板の間にセラミックス層を積層した防弾部材を開示する。特許文献2に開示される防弾部材は、鋼板で受けた弾丸の衝撃を、セラミックス層で分散・吸収することで、弾丸の衝撃を低減させる。
【0013】
特許文献3は、金属母材とセラミックス強化材とによる衝撃吸収部材を開示する。このような剛性を強化された衝撃吸収部材によって、弾丸等からの衝撃を軽減する技術を開示する。
【0014】
特許文献1、2に開示される衝撃吸収部材は、いずれも積層によって、衝撃の分散と吸収を実現しており、積層される部分にセラミックス層を用いることを特徴としている。
【0015】
しかしながら、特許文献1が開示する破砕材料の層に用いられるセラミックス層は、衝撃に弱く、外皮における衝撃の分散が不十分である場合には、想定以上に破壊されてしまう問題を有している。特に、互い違いに積層されているブロック層である外皮によって、弾丸の衝撃を分散することを企図しているが、弾丸の衝撃が非常に狭い領域に集中した場合には、破砕材料の層は、容易に破壊されてしまい、弾丸からの衝撃を止めることが困難となりうる。
【0016】
同様に、特許文献2に開示される防弾部材は、鋼板の間にセラミックス層を積層しているが、弾丸からの衝撃が強い場合や狭い領域に集中した場合には、セラミックス層での衝撃の分散が不十分となって、最終の鋼板の層も容易に破壊されてしまう可能性がある。このため、特許文献2に開示される防弾部材は、弾丸からの衝撃を十分に吸収して止めることができない問題を有している。
【0017】
また、特許文献1に開示される破砕材料は、多孔性のものであって、気泡をその内部に有する多孔質の材料を用いる。このような内部に気泡を有する多孔質セラミックス層は、弾丸やブロック層から伝達される衝撃に対して非常に脆い特性を有している。
【0018】
図13は、従来技術における多孔質セラミックス層での衝撃伝播を説明する説明図である。図13(a)にしめされるように、内部に気泡801を含有しているセラミックス層800では、衝突した弾丸802の衝撃がまず本体部分に伝わる。
【0019】
なお、図13では、部材の内部に、気泡が点々と存在する状態の部材を示しているが、内部に多くの気泡を有する部材であっても同様である。
【0020】
図13(a)に示す矢印Xは、セラミックス層800の表面803に衝突した弾丸802が、最初に伝達させる衝撃の伝達を示している。矢印Xに示されるように、セラミックス層800の表面803から、本体部分805に衝撃が伝わり始める。
【0021】
次に、図13(b)に示されるように、表面803ではじまった衝撃は、気泡801から隣接する気泡801に連続的に伝達される。矢印Yは、この気泡801から隣接する気泡801への衝撃の連続的な伝達を示している。矢印Yのように気泡801から気泡801に衝撃が連続的に伝達されることで、気泡801と隣接する気泡801との間に挟まれる本体部分805の領域が破壊される。このような領域は、両端を気泡801で挟まれた本体部分805であるので、衝撃によって簡単にクラックが入るからである。
【0022】
この矢印Yによる衝撃の連続的な伝達によって、セラミックス層800の領域810は、容易に破壊されてしまうことになる。結果的に、セラミックス層800は、弾丸800からの衝撃を吸収して防御することができなくなる。
【0023】
また、図13に示されるような、内部に気泡を有しているセラミックス層では衝撃によって破壊された本体部分805のセラミックスが、隣接する本体部分805に連続的に衝突して破壊する。すなわち、衝撃によって破壊された固体物が、周囲の固体物を連続的に破壊してしまう。このように、本体部分805が内部に気泡801を含むセラミックス層では、衝撃によって破壊された固体物の逃げ場がないことが、連続的な破壊を生じさせてしまうものと考えられる。
【0024】
このように、特許文献1、2のようなセラミックス層を含む多層構造の衝撃吸収部材は、セラミックス層の破壊の非容易性を利用することで、衝撃の分散や吸収を企図しているが、破壊力の強い弾丸や衝撃が集中しやすい弾丸などには対応できない問題を有している。ここで、内部に気泡を有する発泡性素材のセラミックス層が用いられるとしても、セラミックス層は、容易に破壊されてしまうので、弾丸等からの衝撃を吸収して防御することは困難である。もし、このような弾丸にも対応する場合には、金属層、外皮層、セラミックス層のいずれかもしくは全部の厚みを厚くする必要が生じる。しかしながら厚くすれば、衝撃吸収部材は、重くまた嵩張るものとなってしまい、軽車両や一般車両には、適用が難しくなる問題がある。
【0025】
また、特許文献3のように、金属の母材とセラミックス強化材による衝撃吸収材料は、製造コストを高める問題を有する。またセラミックス強化材のように、剛性のみが強化されても、衝撃が狭い領域に集中するような弾丸などでは、衝撃を分散することが困難となって、衝撃を十分に吸収できない問題も有している。
【0026】
以上のように、従来技術は、(1)軽量化、(2)薄型化、(3)低コスト化、(4)軽車両や一般車両などの装甲への適用の容易性、(5)衝撃の分散および吸収の効率化、(6)(5)に基づく、衝撃からの防御、といった問題を、全てバランスよく解決できない問題を有していた。
【0027】
本発明は、上記課題に鑑み、軽量化や低コスト化といった製造および適用面での容易性と、空隙の中における粒子同士の接続で構成されるセラミックス層が衝撃を空隙で低減させることで、衝撃の分散と吸収を効率化させることの実現とを、バランスよく解決できる衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題に鑑み、本発明の衝撃吸収部材は、所定の素材を有する第1層と、第1層に積層される第2層と、を備え、第2層は、結合体を形成する複数の粒子同士の連続的な結合と該粒子同士の結合の残部である複数の空隙とを含み、複数の空隙同士は、複数の粒子の周囲に渡って、連通する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の衝撃吸収部材は、本体部の中に生じる気泡を有するセラミックス部材(セラミックスの本体部が主であり気泡は従である)ではなく、空隙の中における粒子同士の接続によって、空隙と粒子とが連続的に存在するセラミックス部材によって(セラミックスの本体部となる粒子と空隙とのそれぞれが主である)、弾丸等の飛翔物からの衝撃を、広く分散することができる。加えて、本発明の衝撃吸収部材は、分散された衝撃を空隙部分が弱めることで(空隙は気体部分であるので、固体部分と異なり衝撃を容易に弱めてしまう)、衝撃を低減させることができる。
【0030】
結果として、衝撃吸収部材およびこれを適用した防弾部材は、弾丸等からの衝撃を防御することができる。特に、貫通を防止できるので、人命を守ることを容易に実現できる。
【0031】
また、空隙を備えるセラミックス層を用いることで、本発明の衝撃吸収部材および防弾部材は、薄くまた軽くできるので、軽車両や一般車両のような重量制限のある車両の装甲にも、容易に装着が可能である。特に、コストも低減できるので、民間活動やボランティア活動に必要となる軽車両や一般車両に、容易に防弾能力を持たせることができる。
【0032】
このような結果、紛争地域における民間活動、ボランティア活動、行政活動の安全性が保たれ、紛争地域での問題解決が早期に図られるメリットを生み出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における第2層3での衝撃の吸収を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。
【図5】本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。
【図6】本発明の実施の形態1における被覆セラミックス粒子による第2層の部分拡大図である。
【図7】本発明の実施の形態2における衝撃吸収部材の破壊状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の側面図である。
【図9】本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の模式図である。
【図10】本発明の実施の形態4における装甲車両の模式図である。
【図11】本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。
【図12】本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。
【図13】従来技術における多孔質セラミックス層での衝撃伝播を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の発明に係る衝撃吸収部材は、所定の素材を有する第1層と、第1層に積層される第2層と、を備え、第2層は、結合体を形成する複数の粒子同士の連続的な結合と該粒子同士の結合の残部である複数の空隙とを含み、複数の空隙同士は、複数の粒子の周囲に渡って、連通する。
【0035】
この構成により、衝撃吸収部材は、飛翔物の衝突によって生じる衝撃を、面方向に分散すると共に吸収できる。
【0036】
本発明の第2の発明に係る衝撃吸収部材では、第1の発明に加えて、第2層は、飛翔物からの衝撃を分散、吸収し、第1層は、飛翔物からの防御対象物への直接的な衝突を防御する。
【0037】
この構成により、衝撃吸収部材は、第1層と第2層の異なる役割を発揮することで、飛翔物の衝突による衝撃を吸収できる。
【0038】
本発明の第3の発明に係る衝撃吸収部材では、第1又は第2の発明に加えて、第1層は、防御対象物に、直接的もしくは間接的に対向し、第2層は、飛翔物に、直接的もしくは間接的に対向する。
【0039】
この構成により、衝撃吸収部材は、まず第2層によって飛翔物の衝突による衝撃を分散・吸収し、第1層によって最終的な衝撃を低減させる。
【0040】
本発明の第4の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第2層は、該第2層を形成する空間に、結合体を形成する複数の粒子が充填・結合されて形成され、空間における粒子の結合で生じる隙間が、複数の空隙を形成する。
【0041】
この構成により、第2層は、飛翔物の衝突による衝撃を、固体部分に連鎖的に伝播させること無く、破壊された固体部分を空隙に収納させることができる。結果として、第2層は、衝撃を面方向に分散させると共に吸収できる。
【0042】
本発明の第5の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、第2層は、結合体を形成する複数の粒子と複数の空隙とが連続して隣接することで形成される。
【0043】
この構成により、第2層は、飛翔物の衝突による衝撃を、固体部分に連鎖的に伝播させること無く、破壊された固体部分を空隙に収納させることができる。結果として、第2層は、衝撃を面方向に分散させると共に吸収できる。
【0044】
本発明の第6の発明に係る衝撃吸収部材では、第5の発明に加えて、第2層は、結合体を形成する複数の粒子と複数の空隙との連続的な隣接に加えて、複数の粒子同士の連続的な結合と複数の空隙同士の連通とによって形成される。
【0045】
この構成により、第2層は、飛翔物の衝突による衝撃を、固体部分に連鎖的に伝播させること無く、破壊された固体部分を空隙に収納させることができる。特に、ほとんどの状態において、空隙が粒子の周囲に存在することで、衝撃の伝播を弱めることができる。
【0046】
本発明の第7の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、複数の粒子の結合による骨格によって、複数の空隙が形成され、複数の空隙は、骨格の周囲に渡って連通する。
【0047】
この構成により、第2層は、固体部分における衝撃の伝播を低減させ、破壊された粒子の収納を空隙に行わせることができる。結果として、衝撃を分散・吸収できる。
【0048】
本発明の第8の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、粒子は、平均粒径、構造および素材の少なくとも一つを基準とする複数の種類の粒子要素を含む。
【0049】
この構成により、第2層は、周囲に空隙を容易に作ることができる結合体を形成できる。
【0050】
本発明の第9の発明に係る衝撃吸収部材では、第8の発明に加えて、複数の粒子要素は、平均粒径の異なる第1粒子要素および第2粒子要素を含み、第1粒子要素は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有し、第2粒子要素は、10μm〜200μmの平均粒径を有する。
【0051】
この構成により、粒子同士が結合しやすくなると共に、粒子と空隙とが容易に結合できるようになる。結果として、衝撃を分散・吸収させやすい第2層が形成される。
【0052】
本発明の第10の発明に係る衝撃吸収部材では、第8又は第9の発明に加えて、粒子要素は、セラミックス粒子を含み、セラミックス粒子は、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物、金属元素の炭化物、金属元素のホウ化物およびこれらの固溶体の少なくとも一つを含む。
【0053】
この構成により、結合体が容易かつ低コストに製造される。
【0054】
本発明の第11の発明に係る衝撃吸収部材では、第8から第10のいずれかの発明に加えて、セラミックス粒子は、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化チタン、窒化珪素、ホウ化チタン、炭化チタン、イットリア−アルミナ−ガーネット(以下、「YAG」という)、酸化珪素、酸化ジルコニウム(完全安定化酸化ジルコニウムおよび部分安定化酸化ジルコニウムを含む)および立方晶窒化ホウ素の少なくとも一つを含む。
【0055】
この構成により、結合体が容易かつ低コストに製造される。
【0056】
本発明の第12の発明に係る衝撃吸収部材では、第7から第11のいずれかの発明に加えて、粒子要素は、セラミックス粒子および周囲を金属および有機物の少なくとも一つによって被覆されたセラミックス粒子の少なくとも一つを含む。
【0057】
この構成により、通常のセラミックス粒子の場合に比較して、より低コストに結合体(第2層)が製造できる。
【0058】
本発明の第13の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、飛翔物が、第1層および第2層を破壊する場合に、飛翔物の入射面における飛翔物の衝撃で破壊されて生じる開口面積S1(mm2)と、飛翔物の到達面における飛翔物による破壊で生じる開口面積S2(mm2)とは、第1層および第2層の合計の厚みをt1(mm)として
(関係式) S2 = (t1+a)2/a2 × S1
但し、50 ≧ a ≧ 1.44
で示される関係を有する。
この構成により、第2層は、飛翔物からの衝撃を分散・吸収できる。結果として、衝撃吸収部材は、飛翔物からの被害を最小限に食い止める。
【0059】
本発明の第14の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第13のいずれかの発明に加えて、第2層に積層される第3層を更に備え、第2層および第3層の少なくとも一方は、飛翔物の衝突を受ける。
【0060】
この構成により、衝撃吸収部材は、まず飛翔物の速度と勢いを落とし、次いで衝撃を分散・吸収し、最後に衝撃による被害を食い止めることができる。
【0061】
本発明の第15の発明に係る衝撃吸収部材では、第14の発明に加えて、第1層および第3層の少なくとも一方は、セラミックス、金属および合金の少なくとも一つで形成される層を有する。
【0062】
この構成により、第3層は、飛翔物の衝突時において、飛翔物の速度と勢いを低減できる。あるいは、飛翔物の先端をつぶすことができる。
【0063】
本発明の第16の発明に係る衝撃吸収部材では、第2層における複数の空隙の占める割合は、第2層全体に対して、20%〜50%である。
【0064】
この構成により、第2層は、その層としての強度を確保しつつも、衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0065】
以下、図面を用いながら実施の形態について説明する。
【0066】
(実施の形態1)
【0067】
実施の形態1について説明する。
【0068】
(全体概要)
図1を用いて、実施の形態1における衝撃吸収部材の全体概要を説明する。図1は、本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の側面図である。図1は、衝撃吸収部材1の側面の内部断面を示している。
【0069】
衝撃吸収部材1は、飛翔物10からの防御対象物と、直接的もしくは間接的に対向する第1層2と、第1層2に積層される第2層3と、を備える。ここで防御対象物は、図1の第1層2の内側(図1では下側)に存在する。例えば、衝撃吸収部材1が車両の装甲に用いられる場合には、第1層2の内側には、乗員がいることになる。もちろん、第1層2に更に積層される別の層が存在する場合には、第1層2は、間接的に、防御対象物(例としては乗員)と対向する。
【0070】
同様に、第2層3は、飛翔物10に、直接的もしくは間接的に対向する。衝撃吸収部材1が車両の装甲に用いられ、第2層3が最外郭である場合には、第2層3は、飛翔物10に、直接的に対向する。あるいは、第2層3の外側に別の層が積層される場合には、第2層3は、飛翔物10に間接的に対向する。
【0071】
いずれにしても、第2層3は、飛翔物10からの衝撃を受けてこの衝撃を分散・吸収し、第1層2は、この分散・吸収された衝撃を、最終的に押しとどめる。
【0072】
第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合により形成される結合体と、この複数の粒子4、5同士の結合の残部である複数の空隙6と、を含む。図1では、第2層3内部の黒色の領域は、粒子4、5を示しており、白色の領域は、空隙6を示している。また、図1に示されるとおり、複数の空隙6は、複数の粒子4、5の周囲に渡って連通する。
【0073】
すなわち、第2層3は、従来技術のように、セラミックス層の内部に、気泡が存在する多孔質ではなく、第2層3は、ある空間内部で複数の粒子4、5同士が結合し、この空間内部の残部が、複数の空隙6となる。このため、粒子4、5と空隙6とは相互に隣接する状態となり、粒子4、5の周囲は、粒子4、5同士の結合部分を除いて、空隙6に囲まれる。すなわち、固体部分の中に気体部分が生じるのではなく、気体部分の中に固体部分である粒子4、5が存在する状態である。
【0074】
第1層2は、第2層3に積層されるが、第2層3が飛翔物10の衝撃を吸収することで、飛翔物10の貫通を防止もしくは貫通してもその勢いを低減させることで、防御対象物を守る。
【0075】
(衝撃吸収のメカニズム)
【0076】
例えば、飛翔物10が、弾丸である場合には、この弾丸が第2層3の表面に衝突する。弾丸は、所定のスピードで第2層3の表面に衝突するので、第2層3に衝撃を与える。図12を用いて説明したように、従来技術のセラミックスを用いた衝撃吸収部材では、固体部分のみもしくは気泡のある固体部分において、衝突した弾丸の衝撃が、容易に伝播してしまい、セラミックス層は、簡単に破壊される。特に、衝撃が直線的に伝播するので、非常に狭い断面積において、簡単に破壊されてしまう。これに対して、実施の形態1における衝撃吸収部材1の第2層3は、この衝撃を効率的に吸収する。一般的には、弾丸の衝撃は、固体部分を伝播することで、固体部分を破壊する。この破壊によって、衝撃吸収部材は破壊される。
【0077】
一方で、実施の形態1の衝撃吸収部材1の第2層3は、固体部分である粒子4、5は、かならず気体部分である空隙6と隣接している。すなわち、固体部分である粒子4、5と気体部分である空隙6とが、連続的に隣接しながら、固体部分の周囲の一定範囲を気体部分が覆っている。加えて複数の空隙6同士も連通している。このため、第2層3の表面に衝突した弾丸の衝撃は、高速かつ連続的には、第2層3内部を伝播しない。つまり、第2層3は、衝突した弾丸の衝撃を、広く分散させることができ、この分散によって、第1層2に対して、集中的かつ強い衝撃を与えないようにできる。
【0078】
図2は、本発明の実施の形態1における第2層3での衝撃の吸収を説明する模式図である。
【0079】
弾丸11は、第2層3の表面に衝突する。この衝突によって衝撃が発生する。この衝撃は、気体部分である空隙6でも伝播するが、気体部分における伝播力は弱い。そもそも、空隙6は、結合体を形成していないので、破壊されるという概念になじまない。
【0080】
このため、弾丸11の衝撃は、固体部分である粒子4、5を伝播しやすくなる。矢印A、矢印Bは、弾丸11の衝撃が伝わる伝播経路を模式的に示している。弾丸11が衝突した第2層3の表面の位置から、まず固体部分である近接する粒子4、5に、衝撃は伝播する。次いで、衝撃が到達したこの粒子4、5から、この粒子4、5に近接する他の粒子4、5に衝撃は伝播する。このとき、最初の粒子4、5から近接する次の粒子4、5までの空間には、空隙6が存在している。この空隙6の存在により、(1)次の粒子へ伝播する衝撃が減衰する、(2)次の粒子への伝播に距離が生じるので、衝撃は分散されやすくなる、(3)分散されることで、衝撃も減衰しやすくなる、(4)分散されることにより、第1層2における単位面積に対する衝撃の強さも低くなる、との効果が生じる。
【0081】
矢印A、Bに示されるように、弾丸11が衝突した部位から、衝撃は、第2層3の平面方向に拡散するように分散される。この分散によって、第2層3の表面から第1層2との接合面にまで到達する衝撃は、広い範囲に渡って到達するようになる。図2は、衝撃が到達する衝撃到達領域を示している。従来技術の場合を示す図12と比較すればわかる通り、第2層3を伝播する衝撃は、広い範囲に渡って分散されていることが分かる。
【0082】
衝撃到達領域が広いことで、第1層2に到達する衝撃は、広い面積に分散されることになる。すなわち、第1層2の単位面積当たりの衝撃の強さは、小さくなる。第1層2は、金属、合金、樹脂、硬質部材などで形成される板部材を有するので、第1層2は、この衝撃に対応できる。すなわち、第1層2は、破壊されないか、破壊されるとしても、弾丸11の勢いを減衰させるので、防御対象物を弾丸11から守ることができる。
【0083】
また、図3に示されるように、第2層3は、複数の空隙6を相互に結合する粒子4、5の周囲に有している。図3は、本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の断面図である。弾丸11が第2層3の表面に衝撃することによって、生じる破壊によって、固体部分である粒子4、5が移動する。このとき、粒子4、5は、従来技術のセラミックス層と異なり、その周囲に複数の空隙6を有している(従来技術のセラミックス層は、固体部分の内部に、点在する気泡を有しており、固体部分が主であって気泡は従である)。このため、破壊されて他の粒子4、5との結合が失われた粒子4、5は、その周囲の空隙6に移動できる。すなわち、破壊された粒子4、5の周囲に存在する空隙6は、破壊された粒子4、5の逃げ場として活用されることになる。
【0084】
図3では、灰色の円形で示された粒子4、5が、弾丸11の衝撃によって破壊されて周囲の空隙6に受け止められた状態を示している。すなわち、破壊された粒子4,5は、粒子の形状を維持したもの、破壊されたことで砕かれた粒子の粉体などが、周囲の空隙6に高速に弾き飛ばされて、空隙6に受け止められた(収容された)状態である。言い換えると、破壊された粒子4,5は、周囲の空隙6に受け止められる(叩き込まれるような受け止められ方である)。このように、破壊された粒子4、5が逃げる場所としての空隙6が備わっていることで、固体である粒子4、5の移動がもたらす新たな破壊が生じないメリットがある。なお、図3中の灰色で示された菱形は、破壊されて砕かれた粒子4,5の粉体(カス)を示している。このように、周囲の空隙6には、灰色の円形で示される粒子4,5の形状を維持したものと、破壊された粉体とが混在して受け止められている。
【0085】
このように、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合と、粒子4、5同士の結合の残部である複数の空隙6を含む第2層3は、弾丸11などの飛翔物10からの衝撃を、分散、吸収する。また、第1層2は、この衝撃の分散、吸収に基づいて、飛翔物10からの防御対象物への直接的な衝突を防御できる。
【0086】
すなわち、第2層3は、粒子4、5と空隙6との連続的な結合による結合体を備えることで、飛翔物10からの衝撃を分散、吸収する役割を担い、第1層3は、分散された衝撃を、最終的に押しとどめる役割を担う。この第1層2と第2層3との異なる役割の組み合わせによって、衝撃吸収部材1は、飛翔物10から防御対象物を防御できる。
【0087】
特に、セラミックス粒子による結合体は、ユゴニオ弾性形限界が高いという特徴を有している。これは、セラミックス粒子は、主として共有結合による結合により結晶を形成しているからである。これに対して、共有結合よりも結合力の低い金属結合からなる金属材料よりも飛翔体の衝撃に対して格段に液状になりにくい。ユゴニオ弾性限界が高いことは、液状になりにくいという特徴を生じさせるので、実施の形態1における第2層3は、衝撃を分散・吸収しやすくなる。
【0088】
すなわち、実施の形態1における第2層3は、ユゴニオ弾性形限界が、所定値以上である結合体を有していればよい。第2層3は、このユニゴオ弾性形限界の値によっても定義することができる。
【0089】
以上のように、衝撃吸収部材1は、弾丸や砲弾などの飛翔物10からの被害を、防御対象物に与えない。
【0090】
次に、各部の詳細について説明する。
【0091】
(第1層)
第1層2は、第2層3と積層される。特に、第1層2は、防御対象物と対向する可能性の高い層である。すなわち、第1層2が、飛翔物10からの防御の最終ラインになる。図1では、第1層2は、第2層3の下に積層されているように示されているが、第1層2と第2層3とは、物理的な上下関係を有する必要はない。防御対象物に対向するのが第1層2であり、第1層2の外側(防御対象物を基準として)に第2層3が積層されればよい。例えば、衝撃吸収部材1が車両の装甲に用いられる場合には、防御対象物は車内の装備や搭乗者である。
【0092】
もちろん、第1層2が防御対象物と対向せずに、第2層3が防御対象物と対向するような層構造を、衝撃吸収部材1が備えていても良い。層構造によって、衝撃吸収部材1の作用は変化しうるが、防御対象物の特性、衝撃吸収部材1の適用アプリケーションの特徴に応じて、層構造(第1層2および第2層3のいずれが防御対象物と対向するか)が、定められれば良い。
【0093】
第1層2は、第2層3によって分散・吸収された衝撃を、最終的に受け止める最終層になるので、所定の素材で形成された板部材を備えることが好適である。例えば、第1層2は、セラミック、金属、合金、樹脂、硬質物質などの素材で形成された板部材を備えれば良い。例えば、第1層2は、鋼板を備えることでも良い。
【0094】
第1層2は、所定の厚さを有していればよいが、衝撃吸収部材1の重さが重くなりすぎない程度の厚さを有していることが好適である。また、第2層3の厚みとのバランスを考慮することも好適である。例えば、第2層3の厚みが数mmである場合には、第1層2の厚みは、数mmであって、第2層3の厚みとの差分が大きくない程度が好ましい。あるいは、第2層3は、飛翔物10の衝撃を分散・吸収する必要があるので、所定の厚みを必要とするが、第1層2は、この第2層3に続く層であるので、第2層3よりも厚みが薄くても良いこともある。
【0095】
なお、第1層2と第2層3とは、接着されても良いし、熱接合されてもよいし、溶着されてもよい。あるいは、第1層2と第2層3とは、両面テープで接着されて固定されても良い。
【0096】
(第2層)
第2層3は、第1層2に積層され、飛翔物10の衝突により生じる衝撃を分散、吸収する。上述の通り、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合と、この複数の粒子4、5同士の結合の残部である、複数の空隙6を含む。更に、この複数の空隙6同士は、複数の粒子4、5の周囲に渡って相互に連通する。すなわち、第2層3は、従来技術のような固体部分内部に相互に連通しない気泡を有するセラミックス層ではなく、ある所定空間内部に結合体を形成する複数の粒子4、5が結合しつつ充填されることで得られる結合体と空隙6との混合層である。すなわち、気体部分である空隙6と粒子4、5とが連続的に隣接している状態であり、いずれが主や従ということではない。
【0097】
このため、固体部分となる複数の粒子4、5の周囲は、粒子4、5同士の結合部分を除いて、複数の空隙6で囲まれることになる。第2層3は、空隙6の連通を有しており、粒子4、5は、空隙6を介して他の粒子4、5とつながっていくことになる。
【0098】
(第2層3の構造)
第2層3は、第2層3が形成される空間7に、結合体を形成する複数の粒子4、5が充填・結合されることで形成されても良い。第2層3は、予め所定の厚みや面積を有することが求められる。このため、第2層3が形成される空間7は、衝撃吸収部材1の用途に応じて、その体積が定まる。すなわち、第2層3が形成される空間7は、仮定の下で定まる。
【0099】
この想定される空間7に、結合体を形成する複数の粒子4、5が充填される。結合体を形成する複数の粒子4、5は、セラミックス粒子や周囲を金属や有機物で覆われたセラミックス粒子を含む。これら複数の粒子4、5が充填された後に、圧力および温度が付与されて結合体が形成される。
【0100】
この圧力および温度の付与によって、複数の粒子4、5は結合するが、結合の際に空間7に含まれる粒子4、5の数(充填率)をある程度にしておけば、結合体が形成された後でも、結合した粒子4、5の周囲に、複数の空隙6が残る。この複数の空隙6は、結合している粒子4、5の周囲において連通することになるので、第2層3は、結合する複数の粒子4、5の周囲が連通する複数の空隙6となる構造を有する。
【0101】
このため、従来技術のように、固体部分を形成する粒子同士の密な結合の内部に、点在する気泡が生じる構造とは異なる。
【0102】
なお、第2層3を形成すると想定される空間7に、複数の粒子4、5を充填して結合させる製造工程は、セラミックスを製造する種々の公知の製造技術を用いればよい。
【0103】
(複数の粒子と複数の空隙との連続した隣接)
また、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5と複数の空隙6とが、連続して隣接している状態とも言える。
【0104】
図1、図2から明らかな通り、複数の粒子4、5は、それぞれが結合することで、結合体を形成する。結合体は、複数の粒子4、5同士の結合を有する。このとき、複数の粒子4、5のそれぞれの周囲には、空隙6が生じる。これは、結合体を形成する複数の粒子4、5の第2層3に対する密度を調整した結果である。
【0105】
また、ある位置における複数の粒子4、5においては、この複数の粒子4、5と複数の空隙6とが隣接し、他の位置における複数の粒子4、5においても、この複数の粒子4、5と複数の空隙6とが隣接する。すなわち、第2層3全体で見ると、複数の粒子4、5と複数の空隙6とが連続して隣接する状態となる。
【0106】
このように、複数の粒子4、5と複数の空隙6とが、連続して隣接する状態であることで、固体部分となる複数の粒子4、5は、その周囲に必ず空隙6を有することになる。この結果、第2層3に飛翔物10が衝突する場合には、次のメカニズムが生じる。
【0107】
(メカニズム1)固体部分となる粒子4、5に連続的に衝撃が伝わりにくい(粒子4、5の周囲に存在する空隙6によって衝撃が低減される)。メカニズム1は、図2に示される。
【0108】
(メカニズム2)衝撃によって破壊された固体部分である粒子4、5は、粒子の状態を維持した状態および破壊された粉体となった状態とを混在させて、周囲に存在する空隙6に高速に弾き飛ばされて、受け止められる。この結果、破壊された粒子4、5は、周囲の粒子4、5を連鎖的に破壊することが少なくなる。これは図3に示されるとおりである。
【0109】
この(メカニズム1)、(メカニズム2)の組み合わせによって、第2層3は、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0110】
(粒子同士の連続的な結合と空隙同士の連通)
【0111】
また、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5と複数の空隙6との連続的な隣接に加えて、複数の粒子4、5同士の連続的な結合と、複数の空隙6同士の連通とによって、形成される。
【0112】
すなわち、第2層3においては、次の<1>〜<3>の全てが組み合わされて生じている。
【0113】
<1>複数の粒子4、5同士は、それぞれにおいて連続的に結合する。
<2>複数の粒子4、5が結合していない残部である複数の空隙同士は、連通する。
<3>複数の粒子4、5と複数の空隙6とが、連続的に隣接する。
【0114】
このような<1>〜<3>の全ての組み合わせによって、第2層3は、従来技術のような固体部分内部に散在する気泡を有する層とは異なり、固体部分となる粒子4、5同士の結合は、その周囲の一部が、必ず連通する複数の空隙6で囲まれる状態となる。この結果、第2層3は、飛翔物10の衝撃に対して、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)を発揮することで、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0115】
(粒子の結合による骨格)
また、第2層3では、複数の粒子4、5の結合による骨格によって、複数の空隙6を形成している状態といえる。
【0116】
複数の粒子4、5は、結合体を形成する際にそれぞれ結合する。この結合によって、複数の粒子4、5は、骨格のように繋がっていく。結合している複数の粒子4、5があたかも骨格を形成することになるからである。骨格が生じるということは、骨格以外の部分は、空隙6となる。
【0117】
このため、複数の粒子4、5が結合して形成される骨格と、骨格以外の空隙6とが連続的に隣接することとなって、固体部分である骨格の周囲は、空隙6を備えることとなる。この場合も、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)を生じさせて、第2層3は、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0118】
なお、ここで骨格を形成する複数の粒子4、5は、複数の種類の粒子要素を含み、複数の種類の粒子要素のそれぞれは、素材、平均粒径および構造の少なくとも一つが異なる。このようなある観点で相違する異なる種類の粒子要素が結合することで、形成される骨格は、より複雑な骨格となるので、固体部分と気体部分とが、それぞれ連続的に隣接できるようになる。結果として、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)が発揮されやすい構造を、第2層3は有することができるようになる。
【0119】
(粒子)
次に、粒子の詳細について説明する。
【0120】
粒子は、図1〜図3に示される粒子4、5のように、第2層3に含まれる結合体を形成する。ここで、粒子は、単一の種類の粒子要素を含んでも良いし、複数の種類の粒子要素を含んでも良い。種類は、素材、平均粒径および構造の少なくとも一つを、その基準として含む。
【0121】
結合体は、単一の種類の粒子要素の結合で形成されても良い。図4は、本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。図4は、単一の種類の粒子要素41のみで結合体30を形成した状態を示している。粒子要素41は、素材および平均粒径が単一種類のものであって、概ね同様の大きさの粒子要素41が結合することで、結合体30を形成している。
【0122】
単一の種類の粒子要素41の結合によって結合体が形成される場合でも、図4に示されるとおり、粒子要素41の結合の残部によって、複数の空隙6が生じている。粒子要素41同士の結合によって結合体が形成されるので、粒子要素41の周囲には、粒子要素41同士の結合部分以外では必ず空隙6が生じることになる。この結果、複数の粒子要素41同士の結合、複数の空隙6同士の連通(但し、全てが連通するとは限らず、部位によっては連通せずに寸断されている場合もある)および粒子要素41と空隙6との隣接が生じる。
【0123】
但し、結合体30が、単一種類の粒子要素41で形成される場合には、粒子要素41同士の結合において、空隙6が形成されにくかったり、形成されても小さくなったりする可能性がある。特に、平均粒径が同様である単一粒子41同士の結合で、結合体30が形成される場合には、粒子要素41同士が広い結合面積および近い距離で結合するので、空隙6が小さくなりがちである。このように空隙6が小さくなりすぎてしまうと、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)の効果が低減してしまうこともある。
【0124】
このため、粒子は、複数の種類の粒子要素を含んで、この複数の粒子要素の結合によって結合体30が形成されることも好適である。
【0125】
図5は、本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。図5は、複数の種類の粒子要素41、42で結合体30を形成した状態を示している。特に図5は、平均粒径の異なる二つの種類の粒子要素41、42で形成された結合体30を示している。粒子要素41は、平均粒径が大きく、粒子要素42は、粒子要素41よりも平均粒径が小さい。このように、平均粒径の大きな粒子要素41と平均粒径の小さな粒子要素42とが結合する場合には、次の3種類の領域が生じやすくなる。
【0126】
(領域31)平均粒径の大きな粒子要素41同士を、平均粒径の小さな粒子要素42が接続するように、複数の粒子要素41、42が結合している領域。
(領域32)平均粒径の小さな粒子要素42が主として結合している領域。
(領域33)平均粒径の大きな粒子要素41が主として結合している領域。
【0127】
また、これらの3種類の領域においては、それぞれ空隙6が生じる。ここで、単一種類の粒子要素41のみで結合体30が形成される場合に比較して、領域31〜33のように、バリエーション豊かな結合状態が生じることで、図5の結合体30は、様々な大きさや形状の空隙6を備えることができる。特に、領域31では、距離のある平均粒径の大きな粒子要素41同士を、平均粒径の小さな粒子要素42が接着剤のようにして結合させるので、空隙6Aは、当然ながら大きくなりやすい。
【0128】
あるいは、平均粒径の大きな粒子要素41の周囲に平均粒径の小さな粒子要素42が結合することで、粒子要素41の周囲に複雑かつ多数の空隙6Bが生じやすくなる。空隙6A、空隙6Bのそれぞれは、粒子要素41、42の周囲で、複雑、多数かつ大きくなりやすい。この結果、固体部分である粒子4の周囲には、多くの空隙6が連続的に隣接することになる。この連続的な隣接によって、(メカニズム1)、(メカニズム2)が生じる。
【0129】
図5を用いて説明したように、複数の種類の粒子要素41、42が、結合体30を形成することで、(メカニズム1)、(メカニズム2)が生じやすい第2層3が形成される。
【0130】
なお、粒子4は、平均粒径の異なる粒子要素41、42を含むことは上述の通り好適であるが、一例として、粒子要素41は、10μm〜200μmの平均粒径を有し、粒子要素42は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有することが好ましい。
【0131】
粒子要素41、42のそれぞれが、下限より小さい場合には、形成される第2層3における結合体30の密度が高まりすぎて、第2層3は、空隙6を十分に含みにくくなるからである。一方、粒子要素41、42のそれぞれが、上限より大きい場合には、結合体30の密度が低くなりすぎて、第2層3が脆くなりすぎてしまうからである。
【0132】
また、粒子要素41の下限と粒子要素42の上限とが近すぎる場合には、図5に示すような、効果的な空隙6の形成が困難となるからである。
【0133】
以上のことから、粒子要素41は、10μm〜200μmの平均粒径を有し、粒子要素42は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有することが好ましい。
【0134】
(粒子要素の素材)
粒子要素41、42は、セラミックス粒子を含むことが好適である。このとき、粒子4が異なる種類の粒子要素41、42を含む場合でも、単一種類の粒子要素41を含む場合の区別が特段にされるわけではなく、それぞれの粒子要素41、42が、セラミックス粒子を含んでいれば良い。すなわち、粒子4が平均粒径の異なる複数の粒子要素41、42を含む場合には、粒子要素41、42のそれぞれは平均粒径の異なるセラミックス粒子より形成されれば良い。
【0135】
セラミックス粒子は、一例として、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物、金属元素の炭化物、金属元素のホウ化物およびこれらの固溶体の少なくとも一つを含む。このような素材で形成されるセラミックス粒子によって、相互に結合しつつも空隙6を残すことのできる第2層3が形成される。
【0136】
また、セラミックス粒子は、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化チタン、窒化珪素、ホウ化チタン、炭化チタン、イットリア−アルミナ−ガーネット(以下、「YAG」という)、酸化珪素、酸化ジルコニウム(完全安定化酸化ジルコニウムおよび部分安定化酸化ジルコニウムを含む)および立方晶窒化ホウ素の少なくとも一つを含む。このような素材で形成されるセラミックス粒子によって、相互に結合しつつも空隙6を残すことのできる第2層3が形成される。
【0137】
特に、ここに列挙された素材で形成されるセラミックス粒子は、その平均粒径を様々に持つことが可能である。あるいは、粒子要素41、42を簡単に形成できる。加えて、圧力や温度を加えることで、粒子要素41、42同士が確実に結合し、結合体30が容易に形成される。
【0138】
なお、ここに列挙したセラミックス粒子の結合による結合体30の形成は、公知技術である種々のセラミックス粒子によるセラミックス板の形成と同様の工程を用いる。すなわち、セラミックス粒子を集積した上で、圧力および熱を加えることで、セラミックス粒子同士が結合して、結合体30が形成される。
【0139】
(セラミックス粒子の被覆)
【0140】
また、結合体30は、セラミックス粒子そのものの結合だけでなく、セラミックス粒子の周囲が金属および有機物の少なくとも一つによって被覆されていることも好適である。
【0141】
被覆されていないセラミックス粒子同士が結合するには、集積されたセラミックス粒子に対して、圧力がかけられると共に熱が加えられる必要がある(すなわち、焼結工程を必要とする)。
【0142】
これに対して、セラミックス粒子の周囲が、金属および有機物の少なくとも一方で被覆されている場合には、この被覆セラミックス粒子同士の結合においては、焼結工程が不要となる。すなわち、セラミックス粒子(これは、上述の金属元素の酸化物や金属元素の炭化物から得られる)の周囲を金属で被覆した被覆セラミックス粒子同士は、型に充填した状態で100〜800℃程度の温度まで加熱することにより、表面の金属同士が結合し、一体化する。この際に圧力をかけるとより均一な組織にすることができる。同様に、セラミックス粒子の周囲を有機物で被覆した被覆セラミックス粒子同士は、圧力が加えた上で80〜150℃程度まで熱するだけで、有機物同士が融着して、一体化する。
【0143】
これらの処理は、通常のセラミックスを製造するような大掛かりで雰囲気を十分制御できる高価な焼結炉を必要とせず、充填型とヒーターを有する簡単な設備で設備的には十分である。また、焼結は処理(とくに昇温、降温)に時間がかかるが、前記作業は速ければ数分、遅くとも1時間程度あれば一体化するのに十分であり、生産性もきわめて高い。
【0144】
また、セラミックスのみで製造したもと比較して、高速の飛翔体に対する防御機能は劣らない。
【0145】
これらの処理は、通常のセラミックスを製造するような大掛かりで雰囲気を十分制御できる高価な焼結炉を必要とせず、充填型とヒーターを有する簡単な設備で設備的には十分である。また、焼結は処理(とくに昇温、降温)に時間がかかるが、前記作業は速ければ数分、遅くとも1時間程度あれば一体化するのに十分であり、生産性もきわめて高い。
【0146】
このように、セラミックス粒子の周囲が、金属および有機物の少なくとも一方で被覆された被覆セラミックス粒子が、粒子要素41、42(すなわち粒子4、5)として用いられることで、第2層3の製造コストが格段に低減できる。結果として、衝撃吸収部材1の製造コストが格段に低減できる。
【0147】
図6は、本発明の実施の形態1における被覆セラミックス粒子による第2層の部分拡大図である。図6は、通常のセラミックス粒子の周囲が、金属および有機物の少なくとも一方で被覆された被覆セラミックス粒子の結合状態を示している。
【0148】
第2層3は、結合体30を備えている。この結合体30は、被覆セラミックス粒子45の結合によって、形成される。ここで被覆セラミックス粒子45は、被覆されるセラミックス粒子46とその周囲を覆う被覆層47を備える。この被覆層47は、金属および有機物の少なくとも一方の素材を有する。
【0149】
被覆層47は、被覆層47の素材が金属である場合には、セラミックス粒子46の周囲がめっきされることで、形成される。めっきは、電解めっき、非電解めっきなどのいずれの手法でめっきされてもよい。あるいは、被覆層47が樹脂などの有機物を素材とする場合には、セラミックス粒子47の周囲がカップリングなどのコーティングを施されることで、被覆層47が形成される。このような被覆層47が形成された場合には、結合体30を形成するのは、被覆セラミックス粒子45となる。
【0150】
もちろん、めっきは一例であり、蒸着、溶剤塗装、電着、拡散被覆、ショットブラスト、スパッタリング、イオンプレーティング、粉体塗装などによって被覆層47が形成されても良い。これらの手段は、セラミックス粒子47の種類、粒径および流動性に合わせたコスト、被覆層47の膜厚などによって、適宜選択されればよい。
【0151】
ここで、被覆層47の厚みは、0.01μm〜10μmくらいが適当である。この被覆層47は、平均粒径の小さい粒子要素42が平均粒径の大きい粒子要素41同士を接着させる役割と同じように、被覆セラミックス粒子45同士を接着させる役割を発揮する。この接着の役割によって、被覆セラミックス粒子45同士は、結合する。
【0152】
なお、被覆セラミックス粒子45は、第2層3を形成する型に集積された上で、加温(樹脂が被覆層47となる場合には、〜150℃くらい、金属が被覆層47となる場合には、300℃〜900℃程度)された上で圧力が加わることで(焼結工程は含まない)、被覆層47同士が接着して、被覆セラミックス粒子45同士が結合する。このように、被覆層47の接着を介して、被覆セラミックス粒子45同士の結合が促され、結合体30が形成される。結合体30を形成する被覆セラミックス粒子45の周囲には、複数の空隙6が形成され、固体部分である被覆セラミックス粒子45と気体部分である空隙6とが連続的に隣接する。
【0153】
なお、被覆層47は、金属、合金、有機物であればよく、金属、合金、有機物の種類は様々に選択されればよい。有機物としては、樹脂も用いられる。
【0154】
(空隙)
次に、空隙6について説明する。
【0155】
第2層3は、粒子4、5同士の結合の残部となる複数の空隙6を有する。
【0156】
ここで、複数の空隙6「複数」とは、ある空隙と別の空隙とが連通しており一体化している場合でも、ある領域で区切ることで、空隙が複数と把握されることを含む。空隙6そのものは、結合している粒子4、5の周囲に渡って連通しているので、空隙6全体が完全に繋がっている場合には、空隙6は、単数の空隙6と見ることもできる。しかしながら、場合によっては、空隙6の一部が粒子4、5によって遮断される場合もあるので、空隙6は、複数であると見ることもできる。
【0157】
このように、空隙6は、仮に連通している場合でも、(1)単位領域で仮想的に分割すると複数である、(2)連通しているいずれかの場所で、粒子4、5によって遮断されていることで複数となる、のいずれかの視点によって、複数であるとみなされる。
【0158】
すなわち、複数の空隙6の「複数」とは、物理的に厳密な複数の区画に分かれていることを意味するのではなく、概念として把握する場合に複数の区画であるとみなすことで十分である。
【0159】
従来技術のセラミックス層は、固体部分の内部に、気泡が点在している状態である。これに対して、実施の形態1の第2層3は、粒子4、5と空隙6とが連続的に隣接すると共に、複数の粒子4、5は連続的に結合し、複数の空隙6は連通するという、相対関係を有する。この相対関係によって、固体部分である粒子4、5と気体部分である空隙6とが隣接して、(メカニズム1)、(メカニズム2)が作用するようになる。この結果、第2層3は、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0160】
また、複数の空隙6は、複数の粒子4、5と連続的に隣接することで、第2層3の衝撃に対する分散・吸収能力を発揮させる。このため、第2層3における複数の空隙6の占める割合が、適切に調整されることが好ましい。
【0161】
一例としては、第2層3に対する複数の空隙6の占める割合は、この第2層3全体に対して、20%〜50%であることが好ましい。20%未満であると、空隙6の占める割合が小さすぎて粒子4、5が密になりすぎるからである。このなると、固体部分である粒子4、5を連続的に衝撃が伝わってしまう上、破壊された粒子4、5は、隣接する固体部分である粒子4、5に連続的に衝突して、破壊を促進させる。一方、50%よりも大きい場合には、第2層3が粗くなりすぎて層としての強度が十分に保てなくなるからである。
【0162】
このように、第2層3全体に対する複数の空隙6の占める割合(空隙率)は、20%〜50%であることが好ましい。
【0163】
もちろん、この範囲は一例であって、粒子4、5の素材や製造工程などに依存して、異なる範囲が選択されることを排除するものではない。
【0164】
以上、実施の形態1の衝撃吸収部材1は、従来技術の考え方とは全く異なり、飛翔物の衝突による衝撃による固体部分の破壊を面方向に広げると共に、粒子4、5の周囲に存在する空隙6が、破壊で移動する固体部分を受け止めることで、飛翔物10の衝突による衝撃を、分散・吸収できる。
【0165】
また、第1層2は、第2層3で分散・吸収された衝撃を、最終的に受け止めることができるので、第1層2は、従来技術のように大きくは破壊されにくい。特に、飛翔物10が弾丸などの高速かつ破壊力の強い物体である場合には、第1層2の破壊が低減できることで、衝撃吸収部材1によって防御される対象物(例えば乗員)への被害が抑えられる。
【0166】
このような第1層2と第2層3との積層を備える衝撃吸収部材1は、弾丸や砲弾といった飛翔物10からの衝撃を吸収し、防御対象物を効果的に守ることができる。
【0167】
(実施の形態2)
【0168】
次に実施の形態2について説明する。
【0169】
実施の形態1で説明した衝撃吸収部材1は、飛翔物10の衝突および貫通により生じる破壊の形状や態様で、その特性を定義できる。例えば、飛翔物10が第2層3から入射して第2層3および第1層2を破壊する場合の、破壊開口面積で、衝撃吸収部材1の特性が定義できる。飛翔物10の入射面(第2層3)において飛翔物10の衝撃で破壊されて生じる開口面積をS1(mm2)とする。これに対して、飛翔物10の到達面において飛翔物10の破壊で生じる開口面積をS2(mm2)とする。また、第1層2および第2層3の合計の厚みをt1(mm2)とする。なお、開口面積S2は、飛翔物10の貫通によって生じてもよいし、貫通せずに飛翔物が止まった状態での破壊で生じてもよい。
【0170】
この場合には、開口面積S1と開口面積S2との間には、次の関係式が成立する。
【0171】
(関係式) S2 = (t1+a)2/a2 × S1
但し、50 ≧ a ≧ 1.44
【0172】
図7は、本発明の実施の形態2における衝撃吸収部材の破壊状態を示す側面図である。第1層2および第2層3(それぞれ実施の形態1で説明した通り)が積層されている衝撃吸収部材1において、図7は、第2層3に飛翔物10としての弾丸11が衝突している状態を示している。ここで、第1層2と第2層3との合計の厚みは、t1(mm2)である。
【0173】
弾丸11の衝突によって、衝撃吸収部材1は、第2層3の表面から第1層2の表面に至るまで破壊され、破壊領域50が生じる。図7では、模式的に台形状の破壊領域50を示しているが(側面図であるので二次元的に示しているが、破壊領域50は、本来的には円錐台に近いような三次元形状を有する)、概ねこのような形状に対応して衝撃吸収部材1は、破壊されると考えられる。
【0174】
このとき、弾丸11が入射する第2層3の表面における、弾丸11の衝撃で破壊されて生じる開口面積はS1で規定され、弾丸11が到達する第1層2の表面における、弾丸11で破壊されて生じる開口面積はS2である。これらS1、S2、t1とは、上述の関係式の関係を備えている。
【0175】
従来技術と異なり、S1に比較してS2が十分に広くなる。すなわち、弾丸11の衝撃は、衝撃吸収部材1の面方向に拡散されていることが分かる。従来技術においては、弾丸からの衝撃は、狭い範囲に連続的に伝播して非常に狭い開口面積を破壊した上で、弾丸が貫通していた。このため、貫通した弾丸は、その勢い・速度を落とすことなく衝撃吸収部材の内部に到達できていた。
【0176】
これに対して、実施の形態1、2の衝撃吸収部材1は、上記の関係式および図7に示されるように、衝突した弾丸11の衝撃を面方向に拡散しながら、その衝撃を吸収できる。S2に示されるように、弾丸11が到達する場合に開口させる面積は、広がっており、弾丸11の勢いおよび速度は十分に低下させられている。弾丸11の進入角度も返らされてしまうからである。この結果、衝撃吸収部材1は、内部の防御対象物を確実に防御できるようになる。
【0177】
なお、ここで示した関係式は一例であり、飛翔物10の種類や速度、第1層2および第2層3の素材、形成工程、積層工程、それぞれの厚みの比率、合計の厚みなどのパラメータの変化によって、異なる関係式が成立することもありうる。
【0178】
以上のように実施の形態1、2の衝撃吸収部材1は、上述の関係式によって、その特性と機能を特定することができるものでもある。このため、上述の関係式によって特定される特性を有する第1層と第2層の積層を備える衝撃吸収部材は、本発明の衝撃吸収部材に含まれる。
【0179】
(実施の形態3)
【0180】
次に、実施の形態3について説明する。
【0181】
実施の形態1、2で説明した衝撃吸収部材1は、第1層2と第2層3との2層構造を有している。ここで、衝撃吸収部材1は、第2層3に更に積層される第3層を備えることも好適である。第3層が積層される場合には、第3層が飛翔物からの衝撃を最初にうける。
【0182】
図8は、本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の側面図である。図8に示される衝撃吸収部材1は、第2層3の上に第3層9を備えている。すなわち、複数の粒子4、5の結合による結合体30と複数の空隙6とを備える第2層3が、第1層2と第3層9とによってサンドイッチされている。このため、第3層9は、飛翔物10の衝突を受ける位置に存在することになる。
【0183】
第3層9は、第1層2と同じく、セラミックス、金属および合金の少なくとも一つで形成される層を有する。このため、第3層9は、第1層2の素材および製造工程と同様の素材と製造工程で形成される。特に、第3層9は、セラミックス、金属、合金、樹脂、硬質物質などの素材で形成された板部材を備えることが好適である。鋼板などでもよい。また、衝撃吸収部材1が輸送車両や航空機の装甲に適用される場合には、この輸送車両や航空機に予め備わっている外板が、この第3層9を兼ねることでもよい。
【0184】
第3層9は、所定の厚さを有していればよいが、衝撃吸収部材1の重さが重くなりすぎない程度の厚さを有していることが好適である。また、第2層3の厚みとのバランスを考慮することも好適である。例えば、第2層3の厚みが数mmである場合には、第3層9の厚みは、数mmであって、第2層3の厚みとの差分が大きくない程度が好ましい。
【0185】
あるいは、第2層3は、飛翔物10の衝撃を分散・吸収する必要があるので、所定の厚みを必要とするが、第3層9は、第2層3よりも薄くてもよい。これは、第3層9は、飛翔物10の衝突を最初に受ける層となるが、第3層9は、飛翔物10の勢い(速度、力、ベクトル)を減じさせることが目的であるからである。また、第3層9は、高い硬度を有している。
【0186】
なお、第1層2、第2層3、第3層9のそれぞれは、相互に接着されても良いし、熱接合されてもよいし、溶着されてもよい。このような製造工程によって、衝撃吸収部材1が製造される。
【0187】
ここで、第1層2〜第3層9の3層構造を有する衝撃吸収部材1の、衝撃吸収のメカニズムを説明する。ここでは、飛翔物10を弾丸11として説明する。
【0188】
(1)第3層9での飛翔物10の勢い低減
【0189】
弾丸11は、第3層9にまず衝突する。このとき、第3層9は、鋼板などの、セラミックス、金属、合金、樹脂、硬質物質などで形成された板部材を備えている。このため、弾丸11の衝突による衝撃を大きく受ける。この際に、第3層9は、弾丸11の速度や衝撃力を、直接的に減じることができる。
【0190】
加えて、弾丸11は、硬度の高い第3層9との衝突によってその先端がへこんで平坦になってしまう。弾丸11は、その貫通力を高めるために先端を尖らせていることがある。このような先端が尖った弾丸11は、第2層3や第1層2を強い勢いで貫通してしまう可能性を有する。これに対して、弾丸11が、最初に第3層9に衝突することで、その先端が平坦になってしまう。
【0191】
(2)第2層3での分散・吸収
【0192】
平坦な先端となった弾丸11は、第2層3および第1層2における、狭い範囲での貫通力を損なってしまう。このため、第2層3に突入した弾丸11は、第2層3の構造とも相まって、狭い領域を貫通しようとすることが困難になってしまう。このように貫通力の弱まった弾丸11は、第2層3の構造状の特徴(実施の形態1、2で説明したように)によって、その衝撃を第2層3の面方向に分散させてしまう。この分散によって、第2層3は、弾丸11の衝撃を分散・吸収できる。この場合の、第2層3における動作メカニズムは、実施の形態1で説明した通りである。
【0193】
(3)第1層2での最終的な衝撃吸収
【0194】
第2層3は、面方向に弾丸11の衝撃を分散・吸収する。この結果、第1層2に到達する弾丸11の勢いと衝撃は、非常に小さくなっている。このため、第1層2は、弾丸11を押し止めたり、貫通する弾丸の勢いを非常に弱めたりできる。また、実施の形態2で説明したように、入射面における破壊されて形成される開口面積S1と出射面における貫通されて形成される開口面積S2とは、実施の形態2での関係式を有している。この結果、第1層2で開口する面積は広がっており、それだけ、弾丸11の勢いは減少しており、第1層2の内部に存在する防御対象物へ、弾丸11の被害が到達しない。
【0195】
すなわち、第3層9で、弾丸11を変形させてその勢いをある程度低減し、第2層3で、弾丸11の衝撃を分散・吸収し、第1層2で、最終的に弾丸11の勢いを消失させる、という連続例のあるメカニズムによって、実施の形態3における衝撃吸収部材1は、防御対象物を防御する。
【0196】
このように、衝撃吸収部材1は、<1>実施の形態1で説明したように、複数の粒子の結合により形成される結合体とこれら粒子の周囲に連通する複数の空隙とを備える第2層による、衝撃の面方向における分散・吸収に加えて、<2>第2層の前後に板部材としての第1層や第3層が積層されること、の<1>と<2>との組み合わせを有することで、効率的に飛翔物からの衝撃を吸収し、防御対象物を防御できるようになる。
【0197】
なお、第3層9以外にも他の層が積層されても良い。あるいは、第2層3のような構造を有する複数の層が、第1層2と第3層9との間にまとめて/交互に、積層されることも良い。すなわち、板部材、粒子の結合体、板部材、粒子の結合体、などのように、第1層2(第3層9)と第2層3とが交互に積層されてもよい。これらは、防御対象物や衝撃吸収部材1が適用されるアプリケーションの特徴によって定まる。
【0198】
また、第3層9は、複数のユニットを並べた構造を有することも好適である。図9は、本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の模式図である。図9(A)は、衝撃吸収部材1の側面を示しており、図9(B)は、衝撃吸収部材1の正面であって、第3層9から見た状態を示している。
【0199】
第3層9は、複数のユニット91を備えている。複数のユニット91が並べられて第3層9全体を構成している。このような構造を有することで、飛翔物10からの衝撃をある程度分散させたり低減させたりすることができる。また、図9では、第3層9は、複数のユニット91が同一平面に1層分配置されているが、垂直方向に積層されてもよい。また、第1層2も、第3層9のように、複数のユニットが配列された構造を有しても良い。
【0200】
また、本明細書において、第1層、第2層、第3層における「第1」、「第2」、「第3」とは、積層されている複数の層のいずれかを特定する用語であり、積層の順番に対応しなければならないわけではない。すなわち、N層の積層を有する衝撃吸収部材である場合に、第1層や第2層は、このN層の中のどれかの層を示す用語である。第1層が、最外郭層でなければならないわけではなく、第1層と第2層とが隣接しなければならないわけでもない。
【0201】
以上、実施の形態3における衝撃吸収部材1は、層の積層による特徴によって、飛翔物10の衝撃を効果的に減少させて、防御対象物を防御できる。
【0202】
(実施の形態4)
【0203】
次に、実施の形態4について説明する。
【0204】
実施の形態4では、実施の形態1〜3で説明された衝撃吸収部材1が適用されるアプリケーション等について説明する。
【0205】
(防弾板)
【0206】
実施の形態1〜3で説明された衝撃吸収部材1は、飛翔物10が弾丸11である場合に対応できる、防弾板として適用できる。この場合に、衝撃吸収部材1が第3層9を備える場合には、第3層9が弾丸11と対向し、衝撃吸収部材1が第3層9を備えない場合には、第2層3が弾丸11と対向する。
【0207】
防弾板は、衝撃吸収部材1を備えることで、実施の形態1〜3で説明したように、(メカニズム1)、(メカニズム2)の作用によって、弾丸11から防御対象物を防御できる。特に、衝撃吸収部材1は、弾丸11の勢いを消失させることができるので、防弾板は、防弾板の内部に存在する防御対象物に、悪影響のある弾丸を到達させないか、到達しても被害の生じない程度に減ずることができる。これらの結果、紛争地域などにおける、ボランティア活動、軍事活動、民間活動、取材活動などに従事する従事者の安全が確保されるようになる。
【0208】
また、防弾板は、衝撃吸収部材1を備えるが、衝撃吸収部材1以外にも必要となる要素を更に備えても良い。例えば、防弾板の外見を、防弾板の適用箇所に合わせるために塗装されたコーティングを更に備えたりなどである。また、防弾板が、湾曲している必要がある場合には、湾曲させた衝撃吸収部材を用いて、防弾板が製造される必要がある。あるいは、防弾板が屈曲している必要がある場合には、複数の衝撃吸収部材を組み合わせて、防弾板が製造される必要がある。
【0209】
このように、防弾板は、衝撃吸収部材1に必要に応じた加工が施されることで、様々なアプリケーションに最適に適用されるようになる。
【0210】
また、防弾板は、要求される強度に応じて、衝撃吸収部材1の厚み、大きさ、第1層2や第2層3などの層の重ね方、などを、適宜変更して備えればよい。また、防弾板は、輸送機器の装甲や外壁、建造物の外壁などに適用されることもよいし、ボランティア活動、軍事活動、民間活動、取材活動に従事する人体に装着される防弾チョッキに適用されても良い。
【0211】
(輸送機器への適用)
【0212】
また、防弾板は、輸送機器の装甲(外壁)に適用される。
【0213】
図10は、本発明の実施の形態4における装甲車両の模式図である。装甲車両100は、輸送機器の一例として示されている。図10より明らかな通り、装甲車両100は、輸送機器として用いられる骨格103と、骨格103同士を接続して周囲を覆う装甲101と、装甲車両100を走行可能とする駆動手段(図示せず)を備えている。
【0214】
ここで、この装甲101は、防弾板102を備えている。防弾板102は、上述の通り、実施の形態1〜3で説明された衝撃吸収部材1を有している。すなわち、装甲101は、衝撃吸収部材1による弾丸11等からの衝撃を分散・吸収して、装甲車両100内部の乗員を保護できる。特に、弾丸11の衝突による衝撃は、面方向に分散されるので、装甲101内部の破壊は連鎖的に繋がりにくい。このことからも、装甲車両100の安全性が高く確保されることが分かる。
【0215】
また、図10では、装甲車両100を示したが、装甲車両100だけでなく、通常の車両、ワンボックスカー、オフロード車両などのような一般車両が、紛争地域では用いられることが多い。ボランティア活動、民間活動、取材活動などの、軍事作戦以外の民間活動においては、小回りが利くと共に低コストの輸送機器が求められるからである。
【0216】
このような一般車両やこれをベースとした輸送機器においては、軽量化および低コスト化が求められる。このような場合にも、防弾板102は、軽量かつ低コストであるので、最適に適用される。特に、衝撃吸収部材1の第2層3は、一定の空隙率を有しているので、防弾板102の重量を軽くする効果を発揮できる。
【0217】
軽量性や小回りが求められる輸送機器では、どのような軍事攻撃にも耐えられるような防御性能を優先して、そのコストや移動性能を犠牲にするよりも、防御性能、コストおよび移動性能のバランスを有することが求められる。実施の形態4における輸送機器は、非常に軽量となりえる防弾板102が、その装甲101に用いられるので、これらのバランスを実現しやすい。特に、防弾板102は、どのような弾丸や砲弾でも対応できるだけの強度を有しているわけではないが、通常の弾丸等の衝撃を、分散・吸収することによって、内部の乗員への被害を抑えることができる。一方で、輸送機器の移動性能を犠牲にしないので、輸送機器は、攻撃に耐えながら、即座に紛争地域を抜け出すことで、乗員の安全性を確保する。
【0218】
すなわち、紛争地域に留まって、様々な攻撃に耐えながら軍事活動を行う戦車などとは異なり、紛争地域での移動における軍事攻撃に耐えながら即座に移動できる輸送機器に、本発明の防弾板102(衝撃吸収部材1)は、用いられるのである。
【0219】
なお、輸送機器は、一般車両、軍用車両、軍用軽車両および航空機の少なくともいずれかを含む。このため、航空機の外壁に、防弾板102が用いられても良い。この場合には、紛争地域やテロ地域において、人員の輸送、物資の輸送などのボランティア活動や復旧活動に携る航空機は、弾丸や砲弾からの被害を、最小限に食い止めることができる。結果として、紛争地域やテロ地域における、民間活動や軍事活動が、円滑に進むことが期待される。
【0220】
(実施の形態5)
【0221】
次に、発明者が実際に製作した衝撃吸収部材の実施例について説明する。
【0222】
(実施例)
発明者は、セラミックス粒子として、炭化珪素を選択し、次の手順で第2層を製作した。
【0223】
原材料として、炭化珪素粉末であって、平均粒径が2μmのものと、平均粒径が30μmのものとの2種が用意される。これら2種類の炭化珪素粉末は、ボールミル装置によって混合される。この混合の際にはメチルアルコールが用いられる。このボールミル装置によって、2種類の炭化珪素粉末が、十分に混ざるまで攪拌・混合がなされる。
【0224】
ついで、混合された2種類の炭化珪素粉末は、スプレードライヤーによって、乾燥させられる。このとき、第2層としての形状(大きさ、厚みを有する、一定の形状)を得るために、成型用の有機バインダーを加えて乾燥させられる。この乾燥によって、粒子が形成されていく(造粒)。更に、圧力100MPaによって金型プレス機を用いて、造粒された所定の素材が成型される。この結果、第2層へつながる所定の形状の板材が得られる。
【0225】
この得られた板材は、脱脂炉を用いて脱脂される。さらには、焼結炉を用いて、焼結される。この焼結によって、有機バインダーによる粒子同士の接着が促されると共に有機バインダーは溶解して、炭化珪素粉末による粒子のみが残る。脱脂および焼結は、アルゴンガス雰囲気の中で行われる。また、脱脂における加熱温度は、600℃であり、焼結における加熱温度は、2100℃である。
【0226】
最後に、研削盤やマシニングセンタなどの加工機によって、第2層として所望の形状に加工される。衝撃吸収部材とされる場合には、第1層や第3層が、接着や溶着される。
【0227】
製作された第2層は、実施の形態1〜2で説明されたように、複数の粒子同士の結合によって形成される結合体と、この結合の残部である複数の空隙を含む。この複数の空隙は相互に連通しつつ、粒子と隣接する。この結果、製造される第2層は、粒子と空隙とが相互に隣接する状態を有し、飛翔物の衝突による衝撃に対して、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)が作用して、衝撃を分散・吸収できる。
【0228】
図11は、本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。図11は、実際に製作された第2層の8倍拡大で撮像された写真を示している。
【0229】
図11より明らかな通り、粒径が大きな粒子4Aと粒子4Aより粒径が小さい粒子5Aとが連続的に結合している。この結合が、結合体30を形成している。また、この結合体30(すなわち粒子4A、5A)の周囲に複数の空隙6が生じていることが分かる。また、複数の空隙6同士は、連通している。更には、粒子4A、5Aと空隙6とが連続的に隣接している。
【0230】
図12は、本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。図12は、図11で示される第2層の200倍拡大で撮像された写真を示している。図12に示される第2層も、図11に示される第2層と同様に、粒子4Aと粒子5Aとが結合して結合体30を形成する。ここで、粒径の小さい粒子5Aは、粒径の大きな粒子4A同士の接着剤として働いている。
【0231】
このような粒子4A、5Aと空隙6との連続的な隣接によって、固体部分である粒子4A、5Aは、受けた衝撃を気体部分である空隙6に伝えるため、物理的な衝撃の伝播が、低減されるようになる。また、衝撃によって破壊された粒子4A、5Aは、周囲に存在する空隙6に移動することになるので、破壊された粒子4A、5Aが他の粒子4A、5Aを連続的に破壊させにくくなる。すなわち、(メカニズム1)、(メカニズム2)が効率的に作用する。この結果、図11に示される第2層は、飛翔物の衝撃を分散・吸収(特に面方向に分散)できる。
【0232】
以上のように、実際に製作された第2層の拡大図からも、本発明の衝撃吸収部材は、飛翔物の衝突による衝撃を、効率的に分散・吸収できる。
【0233】
以上、実施の形態1〜5で説明された衝撃吸収部材、防弾板、輸送機器は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0234】
1 衝撃吸収部材
2 第1層
3 第2層
4、5 粒子
6 空隙
7 空間
9 第3層
91 ユニット
10 飛翔物
11 弾丸
45 被覆セラミックス粒子
46 セラミックス粒子
47 被覆層
100 装甲車両
101 装甲
102 防弾板
103 骨格
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾丸や砲弾などの飛翔物に対する防御および防弾を実現する衝撃吸収部材に関し、特に、セラミックスを用いることで、軽量化と防御性を両立させた衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
戦車や装甲車などの軍事用特殊車両の外板や装甲には、特殊な合金や素材を用いた防弾部材が用いられている。このような軍事特殊車両は、パワーも大きく走行能力も高いので、非常に厚みと重量のある特殊な防弾部材をその装甲に用いることができる。
【0003】
一方で、例えば兵員輸送のための軽車両や紛争地における一般車両(例えば、マスコミやボランティア要員を輸送する車両)も、銃弾や砲弾などの飛翔物の脅威にさらされている。しかしながら、これらの軽車両や一般車両は、軍事用特殊車両と異なり、パワーや走行能力に劣るので、厚くて重い特殊な防弾部材を、その外板に用いることが困難である。当然ながら、コスト面でもこのような厚くて重い特殊な防弾部材を用いることは困難である。
【0004】
このような中で、大型の戦争よりも内紛やテロの勃発の可能性が高くなっている近年では、紛争地における民間活動、ボランティア活動、行政活動の必要性はますます高まっている。民間活動、ボランティア活動、行政活動においては、機動性や現地住民との交流促進のために(もちろん、コスト面からも)、威圧感のある戦車や装甲車よりも、軽車両や一般車両が用いられることが好適である。とはいえ、当然ながらこのような軽車両や一般車両であっても、紛争地域であれば、銃弾や防弾に対する防御性や防弾性を必要とする。
【0005】
以上のことから、紛争地域において使用される軽車両や一般車両(当然に、特殊車両も含む。例えば、兵員輸送用バンなど)に使用可能であって、薄くて軽いながらも防御性能や防弾性能に優れた衝撃吸収部材や防弾部材の開発が望まれている。
【0006】
このような開発への要望環境下、種々の技術開発がなされているが、(1)異なる素材を複数の層に積層する技術、(2)積層される層にセラミックスを用いる技術、についての技術開発がなされている。
【0007】
異なる素材を複数の層に積層することで、飛翔物が衝突する層とこれに積層される層との相乗効果によって、飛翔物による破壊を低減する技術が提案されている。加えて、この積層される層の一部に、セラミックスを用いる技術も提案されており、上記の(1)、(2)のいずれかもしくは組み合わせによる衝撃吸収部材の技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、衝撃吸収部材の性能そのものを強化する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11−500809号公報
【特許文献2】特開平4−222398号公報
【特許文献3】特開2009−242834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、保護される表面を被覆する少なくとも一つの破砕材料の層を含み、この破砕材料の外側に外皮を備える防御性を有するコーティングを開示する。この外皮は、ブロック状に形成されており、外皮に衝突した弾丸などの衝撃は、外皮のブロック層で分散される。さらに、このブロック層の食い込みを破砕材料の破壊が吸収する。すなわち、特許文献1の図4、図4bに示されるように、外皮に衝突した弾丸などの衝撃は、互い違いの層となっているブロック層の広がるような破壊によって、面的に分散する。分散された衝撃は、破壊されたブロック層に押し出されて破壊される破砕材料によって吸収される。
【0010】
特許文献1は、この破砕材料の一例として、発泡材やセラミックス材料などを開示する。このような発泡材やセラミックス材は、押し出されるブロック層によって容易に破壊されることで、ブロック層で分散された衝撃を吸収する。
【0011】
このように特許文献1は、複数の層の積層であって、外皮による衝撃の分散およびこれに続くセラミックスなどの破砕材料の層での衝撃の吸収によるコーティングを開示する。
【0012】
また、特許文献2は、鋼板の間にセラミックス層を積層した防弾部材を開示する。特許文献2に開示される防弾部材は、鋼板で受けた弾丸の衝撃を、セラミックス層で分散・吸収することで、弾丸の衝撃を低減させる。
【0013】
特許文献3は、金属母材とセラミックス強化材とによる衝撃吸収部材を開示する。このような剛性を強化された衝撃吸収部材によって、弾丸等からの衝撃を軽減する技術を開示する。
【0014】
特許文献1、2に開示される衝撃吸収部材は、いずれも積層によって、衝撃の分散と吸収を実現しており、積層される部分にセラミックス層を用いることを特徴としている。
【0015】
しかしながら、特許文献1が開示する破砕材料の層に用いられるセラミックス層は、衝撃に弱く、外皮における衝撃の分散が不十分である場合には、想定以上に破壊されてしまう問題を有している。特に、互い違いに積層されているブロック層である外皮によって、弾丸の衝撃を分散することを企図しているが、弾丸の衝撃が非常に狭い領域に集中した場合には、破砕材料の層は、容易に破壊されてしまい、弾丸からの衝撃を止めることが困難となりうる。
【0016】
同様に、特許文献2に開示される防弾部材は、鋼板の間にセラミックス層を積層しているが、弾丸からの衝撃が強い場合や狭い領域に集中した場合には、セラミックス層での衝撃の分散が不十分となって、最終の鋼板の層も容易に破壊されてしまう可能性がある。このため、特許文献2に開示される防弾部材は、弾丸からの衝撃を十分に吸収して止めることができない問題を有している。
【0017】
また、特許文献1に開示される破砕材料は、多孔性のものであって、気泡をその内部に有する多孔質の材料を用いる。このような内部に気泡を有する多孔質セラミックス層は、弾丸やブロック層から伝達される衝撃に対して非常に脆い特性を有している。
【0018】
図13は、従来技術における多孔質セラミックス層での衝撃伝播を説明する説明図である。図13(a)にしめされるように、内部に気泡801を含有しているセラミックス層800では、衝突した弾丸802の衝撃がまず本体部分に伝わる。
【0019】
なお、図13では、部材の内部に、気泡が点々と存在する状態の部材を示しているが、内部に多くの気泡を有する部材であっても同様である。
【0020】
図13(a)に示す矢印Xは、セラミックス層800の表面803に衝突した弾丸802が、最初に伝達させる衝撃の伝達を示している。矢印Xに示されるように、セラミックス層800の表面803から、本体部分805に衝撃が伝わり始める。
【0021】
次に、図13(b)に示されるように、表面803ではじまった衝撃は、気泡801から隣接する気泡801に連続的に伝達される。矢印Yは、この気泡801から隣接する気泡801への衝撃の連続的な伝達を示している。矢印Yのように気泡801から気泡801に衝撃が連続的に伝達されることで、気泡801と隣接する気泡801との間に挟まれる本体部分805の領域が破壊される。このような領域は、両端を気泡801で挟まれた本体部分805であるので、衝撃によって簡単にクラックが入るからである。
【0022】
この矢印Yによる衝撃の連続的な伝達によって、セラミックス層800の領域810は、容易に破壊されてしまうことになる。結果的に、セラミックス層800は、弾丸800からの衝撃を吸収して防御することができなくなる。
【0023】
また、図13に示されるような、内部に気泡を有しているセラミックス層では衝撃によって破壊された本体部分805のセラミックスが、隣接する本体部分805に連続的に衝突して破壊する。すなわち、衝撃によって破壊された固体物が、周囲の固体物を連続的に破壊してしまう。このように、本体部分805が内部に気泡801を含むセラミックス層では、衝撃によって破壊された固体物の逃げ場がないことが、連続的な破壊を生じさせてしまうものと考えられる。
【0024】
このように、特許文献1、2のようなセラミックス層を含む多層構造の衝撃吸収部材は、セラミックス層の破壊の非容易性を利用することで、衝撃の分散や吸収を企図しているが、破壊力の強い弾丸や衝撃が集中しやすい弾丸などには対応できない問題を有している。ここで、内部に気泡を有する発泡性素材のセラミックス層が用いられるとしても、セラミックス層は、容易に破壊されてしまうので、弾丸等からの衝撃を吸収して防御することは困難である。もし、このような弾丸にも対応する場合には、金属層、外皮層、セラミックス層のいずれかもしくは全部の厚みを厚くする必要が生じる。しかしながら厚くすれば、衝撃吸収部材は、重くまた嵩張るものとなってしまい、軽車両や一般車両には、適用が難しくなる問題がある。
【0025】
また、特許文献3のように、金属の母材とセラミックス強化材による衝撃吸収材料は、製造コストを高める問題を有する。またセラミックス強化材のように、剛性のみが強化されても、衝撃が狭い領域に集中するような弾丸などでは、衝撃を分散することが困難となって、衝撃を十分に吸収できない問題も有している。
【0026】
以上のように、従来技術は、(1)軽量化、(2)薄型化、(3)低コスト化、(4)軽車両や一般車両などの装甲への適用の容易性、(5)衝撃の分散および吸収の効率化、(6)(5)に基づく、衝撃からの防御、といった問題を、全てバランスよく解決できない問題を有していた。
【0027】
本発明は、上記課題に鑑み、軽量化や低コスト化といった製造および適用面での容易性と、空隙の中における粒子同士の接続で構成されるセラミックス層が衝撃を空隙で低減させることで、衝撃の分散と吸収を効率化させることの実現とを、バランスよく解決できる衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題に鑑み、本発明の衝撃吸収部材は、所定の素材を有する第1層と、第1層に積層される第2層と、を備え、第2層は、結合体を形成する複数の粒子同士の連続的な結合と該粒子同士の結合の残部である複数の空隙とを含み、複数の空隙同士は、複数の粒子の周囲に渡って、連通する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の衝撃吸収部材は、本体部の中に生じる気泡を有するセラミックス部材(セラミックスの本体部が主であり気泡は従である)ではなく、空隙の中における粒子同士の接続によって、空隙と粒子とが連続的に存在するセラミックス部材によって(セラミックスの本体部となる粒子と空隙とのそれぞれが主である)、弾丸等の飛翔物からの衝撃を、広く分散することができる。加えて、本発明の衝撃吸収部材は、分散された衝撃を空隙部分が弱めることで(空隙は気体部分であるので、固体部分と異なり衝撃を容易に弱めてしまう)、衝撃を低減させることができる。
【0030】
結果として、衝撃吸収部材およびこれを適用した防弾部材は、弾丸等からの衝撃を防御することができる。特に、貫通を防止できるので、人命を守ることを容易に実現できる。
【0031】
また、空隙を備えるセラミックス層を用いることで、本発明の衝撃吸収部材および防弾部材は、薄くまた軽くできるので、軽車両や一般車両のような重量制限のある車両の装甲にも、容易に装着が可能である。特に、コストも低減できるので、民間活動やボランティア活動に必要となる軽車両や一般車両に、容易に防弾能力を持たせることができる。
【0032】
このような結果、紛争地域における民間活動、ボランティア活動、行政活動の安全性が保たれ、紛争地域での問題解決が早期に図られるメリットを生み出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における第2層3での衝撃の吸収を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。
【図5】本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。
【図6】本発明の実施の形態1における被覆セラミックス粒子による第2層の部分拡大図である。
【図7】本発明の実施の形態2における衝撃吸収部材の破壊状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の側面図である。
【図9】本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の模式図である。
【図10】本発明の実施の形態4における装甲車両の模式図である。
【図11】本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。
【図12】本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。
【図13】従来技術における多孔質セラミックス層での衝撃伝播を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の発明に係る衝撃吸収部材は、所定の素材を有する第1層と、第1層に積層される第2層と、を備え、第2層は、結合体を形成する複数の粒子同士の連続的な結合と該粒子同士の結合の残部である複数の空隙とを含み、複数の空隙同士は、複数の粒子の周囲に渡って、連通する。
【0035】
この構成により、衝撃吸収部材は、飛翔物の衝突によって生じる衝撃を、面方向に分散すると共に吸収できる。
【0036】
本発明の第2の発明に係る衝撃吸収部材では、第1の発明に加えて、第2層は、飛翔物からの衝撃を分散、吸収し、第1層は、飛翔物からの防御対象物への直接的な衝突を防御する。
【0037】
この構成により、衝撃吸収部材は、第1層と第2層の異なる役割を発揮することで、飛翔物の衝突による衝撃を吸収できる。
【0038】
本発明の第3の発明に係る衝撃吸収部材では、第1又は第2の発明に加えて、第1層は、防御対象物に、直接的もしくは間接的に対向し、第2層は、飛翔物に、直接的もしくは間接的に対向する。
【0039】
この構成により、衝撃吸収部材は、まず第2層によって飛翔物の衝突による衝撃を分散・吸収し、第1層によって最終的な衝撃を低減させる。
【0040】
本発明の第4の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第2層は、該第2層を形成する空間に、結合体を形成する複数の粒子が充填・結合されて形成され、空間における粒子の結合で生じる隙間が、複数の空隙を形成する。
【0041】
この構成により、第2層は、飛翔物の衝突による衝撃を、固体部分に連鎖的に伝播させること無く、破壊された固体部分を空隙に収納させることができる。結果として、第2層は、衝撃を面方向に分散させると共に吸収できる。
【0042】
本発明の第5の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、第2層は、結合体を形成する複数の粒子と複数の空隙とが連続して隣接することで形成される。
【0043】
この構成により、第2層は、飛翔物の衝突による衝撃を、固体部分に連鎖的に伝播させること無く、破壊された固体部分を空隙に収納させることができる。結果として、第2層は、衝撃を面方向に分散させると共に吸収できる。
【0044】
本発明の第6の発明に係る衝撃吸収部材では、第5の発明に加えて、第2層は、結合体を形成する複数の粒子と複数の空隙との連続的な隣接に加えて、複数の粒子同士の連続的な結合と複数の空隙同士の連通とによって形成される。
【0045】
この構成により、第2層は、飛翔物の衝突による衝撃を、固体部分に連鎖的に伝播させること無く、破壊された固体部分を空隙に収納させることができる。特に、ほとんどの状態において、空隙が粒子の周囲に存在することで、衝撃の伝播を弱めることができる。
【0046】
本発明の第7の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、複数の粒子の結合による骨格によって、複数の空隙が形成され、複数の空隙は、骨格の周囲に渡って連通する。
【0047】
この構成により、第2層は、固体部分における衝撃の伝播を低減させ、破壊された粒子の収納を空隙に行わせることができる。結果として、衝撃を分散・吸収できる。
【0048】
本発明の第8の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、粒子は、平均粒径、構造および素材の少なくとも一つを基準とする複数の種類の粒子要素を含む。
【0049】
この構成により、第2層は、周囲に空隙を容易に作ることができる結合体を形成できる。
【0050】
本発明の第9の発明に係る衝撃吸収部材では、第8の発明に加えて、複数の粒子要素は、平均粒径の異なる第1粒子要素および第2粒子要素を含み、第1粒子要素は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有し、第2粒子要素は、10μm〜200μmの平均粒径を有する。
【0051】
この構成により、粒子同士が結合しやすくなると共に、粒子と空隙とが容易に結合できるようになる。結果として、衝撃を分散・吸収させやすい第2層が形成される。
【0052】
本発明の第10の発明に係る衝撃吸収部材では、第8又は第9の発明に加えて、粒子要素は、セラミックス粒子を含み、セラミックス粒子は、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物、金属元素の炭化物、金属元素のホウ化物およびこれらの固溶体の少なくとも一つを含む。
【0053】
この構成により、結合体が容易かつ低コストに製造される。
【0054】
本発明の第11の発明に係る衝撃吸収部材では、第8から第10のいずれかの発明に加えて、セラミックス粒子は、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化チタン、窒化珪素、ホウ化チタン、炭化チタン、イットリア−アルミナ−ガーネット(以下、「YAG」という)、酸化珪素、酸化ジルコニウム(完全安定化酸化ジルコニウムおよび部分安定化酸化ジルコニウムを含む)および立方晶窒化ホウ素の少なくとも一つを含む。
【0055】
この構成により、結合体が容易かつ低コストに製造される。
【0056】
本発明の第12の発明に係る衝撃吸収部材では、第7から第11のいずれかの発明に加えて、粒子要素は、セラミックス粒子および周囲を金属および有機物の少なくとも一つによって被覆されたセラミックス粒子の少なくとも一つを含む。
【0057】
この構成により、通常のセラミックス粒子の場合に比較して、より低コストに結合体(第2層)が製造できる。
【0058】
本発明の第13の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、飛翔物が、第1層および第2層を破壊する場合に、飛翔物の入射面における飛翔物の衝撃で破壊されて生じる開口面積S1(mm2)と、飛翔物の到達面における飛翔物による破壊で生じる開口面積S2(mm2)とは、第1層および第2層の合計の厚みをt1(mm)として
(関係式) S2 = (t1+a)2/a2 × S1
但し、50 ≧ a ≧ 1.44
で示される関係を有する。
この構成により、第2層は、飛翔物からの衝撃を分散・吸収できる。結果として、衝撃吸収部材は、飛翔物からの被害を最小限に食い止める。
【0059】
本発明の第14の発明に係る衝撃吸収部材では、第1から第13のいずれかの発明に加えて、第2層に積層される第3層を更に備え、第2層および第3層の少なくとも一方は、飛翔物の衝突を受ける。
【0060】
この構成により、衝撃吸収部材は、まず飛翔物の速度と勢いを落とし、次いで衝撃を分散・吸収し、最後に衝撃による被害を食い止めることができる。
【0061】
本発明の第15の発明に係る衝撃吸収部材では、第14の発明に加えて、第1層および第3層の少なくとも一方は、セラミックス、金属および合金の少なくとも一つで形成される層を有する。
【0062】
この構成により、第3層は、飛翔物の衝突時において、飛翔物の速度と勢いを低減できる。あるいは、飛翔物の先端をつぶすことができる。
【0063】
本発明の第16の発明に係る衝撃吸収部材では、第2層における複数の空隙の占める割合は、第2層全体に対して、20%〜50%である。
【0064】
この構成により、第2層は、その層としての強度を確保しつつも、衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0065】
以下、図面を用いながら実施の形態について説明する。
【0066】
(実施の形態1)
【0067】
実施の形態1について説明する。
【0068】
(全体概要)
図1を用いて、実施の形態1における衝撃吸収部材の全体概要を説明する。図1は、本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の側面図である。図1は、衝撃吸収部材1の側面の内部断面を示している。
【0069】
衝撃吸収部材1は、飛翔物10からの防御対象物と、直接的もしくは間接的に対向する第1層2と、第1層2に積層される第2層3と、を備える。ここで防御対象物は、図1の第1層2の内側(図1では下側)に存在する。例えば、衝撃吸収部材1が車両の装甲に用いられる場合には、第1層2の内側には、乗員がいることになる。もちろん、第1層2に更に積層される別の層が存在する場合には、第1層2は、間接的に、防御対象物(例としては乗員)と対向する。
【0070】
同様に、第2層3は、飛翔物10に、直接的もしくは間接的に対向する。衝撃吸収部材1が車両の装甲に用いられ、第2層3が最外郭である場合には、第2層3は、飛翔物10に、直接的に対向する。あるいは、第2層3の外側に別の層が積層される場合には、第2層3は、飛翔物10に間接的に対向する。
【0071】
いずれにしても、第2層3は、飛翔物10からの衝撃を受けてこの衝撃を分散・吸収し、第1層2は、この分散・吸収された衝撃を、最終的に押しとどめる。
【0072】
第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合により形成される結合体と、この複数の粒子4、5同士の結合の残部である複数の空隙6と、を含む。図1では、第2層3内部の黒色の領域は、粒子4、5を示しており、白色の領域は、空隙6を示している。また、図1に示されるとおり、複数の空隙6は、複数の粒子4、5の周囲に渡って連通する。
【0073】
すなわち、第2層3は、従来技術のように、セラミックス層の内部に、気泡が存在する多孔質ではなく、第2層3は、ある空間内部で複数の粒子4、5同士が結合し、この空間内部の残部が、複数の空隙6となる。このため、粒子4、5と空隙6とは相互に隣接する状態となり、粒子4、5の周囲は、粒子4、5同士の結合部分を除いて、空隙6に囲まれる。すなわち、固体部分の中に気体部分が生じるのではなく、気体部分の中に固体部分である粒子4、5が存在する状態である。
【0074】
第1層2は、第2層3に積層されるが、第2層3が飛翔物10の衝撃を吸収することで、飛翔物10の貫通を防止もしくは貫通してもその勢いを低減させることで、防御対象物を守る。
【0075】
(衝撃吸収のメカニズム)
【0076】
例えば、飛翔物10が、弾丸である場合には、この弾丸が第2層3の表面に衝突する。弾丸は、所定のスピードで第2層3の表面に衝突するので、第2層3に衝撃を与える。図12を用いて説明したように、従来技術のセラミックスを用いた衝撃吸収部材では、固体部分のみもしくは気泡のある固体部分において、衝突した弾丸の衝撃が、容易に伝播してしまい、セラミックス層は、簡単に破壊される。特に、衝撃が直線的に伝播するので、非常に狭い断面積において、簡単に破壊されてしまう。これに対して、実施の形態1における衝撃吸収部材1の第2層3は、この衝撃を効率的に吸収する。一般的には、弾丸の衝撃は、固体部分を伝播することで、固体部分を破壊する。この破壊によって、衝撃吸収部材は破壊される。
【0077】
一方で、実施の形態1の衝撃吸収部材1の第2層3は、固体部分である粒子4、5は、かならず気体部分である空隙6と隣接している。すなわち、固体部分である粒子4、5と気体部分である空隙6とが、連続的に隣接しながら、固体部分の周囲の一定範囲を気体部分が覆っている。加えて複数の空隙6同士も連通している。このため、第2層3の表面に衝突した弾丸の衝撃は、高速かつ連続的には、第2層3内部を伝播しない。つまり、第2層3は、衝突した弾丸の衝撃を、広く分散させることができ、この分散によって、第1層2に対して、集中的かつ強い衝撃を与えないようにできる。
【0078】
図2は、本発明の実施の形態1における第2層3での衝撃の吸収を説明する模式図である。
【0079】
弾丸11は、第2層3の表面に衝突する。この衝突によって衝撃が発生する。この衝撃は、気体部分である空隙6でも伝播するが、気体部分における伝播力は弱い。そもそも、空隙6は、結合体を形成していないので、破壊されるという概念になじまない。
【0080】
このため、弾丸11の衝撃は、固体部分である粒子4、5を伝播しやすくなる。矢印A、矢印Bは、弾丸11の衝撃が伝わる伝播経路を模式的に示している。弾丸11が衝突した第2層3の表面の位置から、まず固体部分である近接する粒子4、5に、衝撃は伝播する。次いで、衝撃が到達したこの粒子4、5から、この粒子4、5に近接する他の粒子4、5に衝撃は伝播する。このとき、最初の粒子4、5から近接する次の粒子4、5までの空間には、空隙6が存在している。この空隙6の存在により、(1)次の粒子へ伝播する衝撃が減衰する、(2)次の粒子への伝播に距離が生じるので、衝撃は分散されやすくなる、(3)分散されることで、衝撃も減衰しやすくなる、(4)分散されることにより、第1層2における単位面積に対する衝撃の強さも低くなる、との効果が生じる。
【0081】
矢印A、Bに示されるように、弾丸11が衝突した部位から、衝撃は、第2層3の平面方向に拡散するように分散される。この分散によって、第2層3の表面から第1層2との接合面にまで到達する衝撃は、広い範囲に渡って到達するようになる。図2は、衝撃が到達する衝撃到達領域を示している。従来技術の場合を示す図12と比較すればわかる通り、第2層3を伝播する衝撃は、広い範囲に渡って分散されていることが分かる。
【0082】
衝撃到達領域が広いことで、第1層2に到達する衝撃は、広い面積に分散されることになる。すなわち、第1層2の単位面積当たりの衝撃の強さは、小さくなる。第1層2は、金属、合金、樹脂、硬質部材などで形成される板部材を有するので、第1層2は、この衝撃に対応できる。すなわち、第1層2は、破壊されないか、破壊されるとしても、弾丸11の勢いを減衰させるので、防御対象物を弾丸11から守ることができる。
【0083】
また、図3に示されるように、第2層3は、複数の空隙6を相互に結合する粒子4、5の周囲に有している。図3は、本発明の実施の形態1における衝撃吸収部材の断面図である。弾丸11が第2層3の表面に衝撃することによって、生じる破壊によって、固体部分である粒子4、5が移動する。このとき、粒子4、5は、従来技術のセラミックス層と異なり、その周囲に複数の空隙6を有している(従来技術のセラミックス層は、固体部分の内部に、点在する気泡を有しており、固体部分が主であって気泡は従である)。このため、破壊されて他の粒子4、5との結合が失われた粒子4、5は、その周囲の空隙6に移動できる。すなわち、破壊された粒子4、5の周囲に存在する空隙6は、破壊された粒子4、5の逃げ場として活用されることになる。
【0084】
図3では、灰色の円形で示された粒子4、5が、弾丸11の衝撃によって破壊されて周囲の空隙6に受け止められた状態を示している。すなわち、破壊された粒子4,5は、粒子の形状を維持したもの、破壊されたことで砕かれた粒子の粉体などが、周囲の空隙6に高速に弾き飛ばされて、空隙6に受け止められた(収容された)状態である。言い換えると、破壊された粒子4,5は、周囲の空隙6に受け止められる(叩き込まれるような受け止められ方である)。このように、破壊された粒子4、5が逃げる場所としての空隙6が備わっていることで、固体である粒子4、5の移動がもたらす新たな破壊が生じないメリットがある。なお、図3中の灰色で示された菱形は、破壊されて砕かれた粒子4,5の粉体(カス)を示している。このように、周囲の空隙6には、灰色の円形で示される粒子4,5の形状を維持したものと、破壊された粉体とが混在して受け止められている。
【0085】
このように、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合と、粒子4、5同士の結合の残部である複数の空隙6を含む第2層3は、弾丸11などの飛翔物10からの衝撃を、分散、吸収する。また、第1層2は、この衝撃の分散、吸収に基づいて、飛翔物10からの防御対象物への直接的な衝突を防御できる。
【0086】
すなわち、第2層3は、粒子4、5と空隙6との連続的な結合による結合体を備えることで、飛翔物10からの衝撃を分散、吸収する役割を担い、第1層3は、分散された衝撃を、最終的に押しとどめる役割を担う。この第1層2と第2層3との異なる役割の組み合わせによって、衝撃吸収部材1は、飛翔物10から防御対象物を防御できる。
【0087】
特に、セラミックス粒子による結合体は、ユゴニオ弾性形限界が高いという特徴を有している。これは、セラミックス粒子は、主として共有結合による結合により結晶を形成しているからである。これに対して、共有結合よりも結合力の低い金属結合からなる金属材料よりも飛翔体の衝撃に対して格段に液状になりにくい。ユゴニオ弾性限界が高いことは、液状になりにくいという特徴を生じさせるので、実施の形態1における第2層3は、衝撃を分散・吸収しやすくなる。
【0088】
すなわち、実施の形態1における第2層3は、ユゴニオ弾性形限界が、所定値以上である結合体を有していればよい。第2層3は、このユニゴオ弾性形限界の値によっても定義することができる。
【0089】
以上のように、衝撃吸収部材1は、弾丸や砲弾などの飛翔物10からの被害を、防御対象物に与えない。
【0090】
次に、各部の詳細について説明する。
【0091】
(第1層)
第1層2は、第2層3と積層される。特に、第1層2は、防御対象物と対向する可能性の高い層である。すなわち、第1層2が、飛翔物10からの防御の最終ラインになる。図1では、第1層2は、第2層3の下に積層されているように示されているが、第1層2と第2層3とは、物理的な上下関係を有する必要はない。防御対象物に対向するのが第1層2であり、第1層2の外側(防御対象物を基準として)に第2層3が積層されればよい。例えば、衝撃吸収部材1が車両の装甲に用いられる場合には、防御対象物は車内の装備や搭乗者である。
【0092】
もちろん、第1層2が防御対象物と対向せずに、第2層3が防御対象物と対向するような層構造を、衝撃吸収部材1が備えていても良い。層構造によって、衝撃吸収部材1の作用は変化しうるが、防御対象物の特性、衝撃吸収部材1の適用アプリケーションの特徴に応じて、層構造(第1層2および第2層3のいずれが防御対象物と対向するか)が、定められれば良い。
【0093】
第1層2は、第2層3によって分散・吸収された衝撃を、最終的に受け止める最終層になるので、所定の素材で形成された板部材を備えることが好適である。例えば、第1層2は、セラミック、金属、合金、樹脂、硬質物質などの素材で形成された板部材を備えれば良い。例えば、第1層2は、鋼板を備えることでも良い。
【0094】
第1層2は、所定の厚さを有していればよいが、衝撃吸収部材1の重さが重くなりすぎない程度の厚さを有していることが好適である。また、第2層3の厚みとのバランスを考慮することも好適である。例えば、第2層3の厚みが数mmである場合には、第1層2の厚みは、数mmであって、第2層3の厚みとの差分が大きくない程度が好ましい。あるいは、第2層3は、飛翔物10の衝撃を分散・吸収する必要があるので、所定の厚みを必要とするが、第1層2は、この第2層3に続く層であるので、第2層3よりも厚みが薄くても良いこともある。
【0095】
なお、第1層2と第2層3とは、接着されても良いし、熱接合されてもよいし、溶着されてもよい。あるいは、第1層2と第2層3とは、両面テープで接着されて固定されても良い。
【0096】
(第2層)
第2層3は、第1層2に積層され、飛翔物10の衝突により生じる衝撃を分散、吸収する。上述の通り、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5同士の連続的な結合と、この複数の粒子4、5同士の結合の残部である、複数の空隙6を含む。更に、この複数の空隙6同士は、複数の粒子4、5の周囲に渡って相互に連通する。すなわち、第2層3は、従来技術のような固体部分内部に相互に連通しない気泡を有するセラミックス層ではなく、ある所定空間内部に結合体を形成する複数の粒子4、5が結合しつつ充填されることで得られる結合体と空隙6との混合層である。すなわち、気体部分である空隙6と粒子4、5とが連続的に隣接している状態であり、いずれが主や従ということではない。
【0097】
このため、固体部分となる複数の粒子4、5の周囲は、粒子4、5同士の結合部分を除いて、複数の空隙6で囲まれることになる。第2層3は、空隙6の連通を有しており、粒子4、5は、空隙6を介して他の粒子4、5とつながっていくことになる。
【0098】
(第2層3の構造)
第2層3は、第2層3が形成される空間7に、結合体を形成する複数の粒子4、5が充填・結合されることで形成されても良い。第2層3は、予め所定の厚みや面積を有することが求められる。このため、第2層3が形成される空間7は、衝撃吸収部材1の用途に応じて、その体積が定まる。すなわち、第2層3が形成される空間7は、仮定の下で定まる。
【0099】
この想定される空間7に、結合体を形成する複数の粒子4、5が充填される。結合体を形成する複数の粒子4、5は、セラミックス粒子や周囲を金属や有機物で覆われたセラミックス粒子を含む。これら複数の粒子4、5が充填された後に、圧力および温度が付与されて結合体が形成される。
【0100】
この圧力および温度の付与によって、複数の粒子4、5は結合するが、結合の際に空間7に含まれる粒子4、5の数(充填率)をある程度にしておけば、結合体が形成された後でも、結合した粒子4、5の周囲に、複数の空隙6が残る。この複数の空隙6は、結合している粒子4、5の周囲において連通することになるので、第2層3は、結合する複数の粒子4、5の周囲が連通する複数の空隙6となる構造を有する。
【0101】
このため、従来技術のように、固体部分を形成する粒子同士の密な結合の内部に、点在する気泡が生じる構造とは異なる。
【0102】
なお、第2層3を形成すると想定される空間7に、複数の粒子4、5を充填して結合させる製造工程は、セラミックスを製造する種々の公知の製造技術を用いればよい。
【0103】
(複数の粒子と複数の空隙との連続した隣接)
また、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5と複数の空隙6とが、連続して隣接している状態とも言える。
【0104】
図1、図2から明らかな通り、複数の粒子4、5は、それぞれが結合することで、結合体を形成する。結合体は、複数の粒子4、5同士の結合を有する。このとき、複数の粒子4、5のそれぞれの周囲には、空隙6が生じる。これは、結合体を形成する複数の粒子4、5の第2層3に対する密度を調整した結果である。
【0105】
また、ある位置における複数の粒子4、5においては、この複数の粒子4、5と複数の空隙6とが隣接し、他の位置における複数の粒子4、5においても、この複数の粒子4、5と複数の空隙6とが隣接する。すなわち、第2層3全体で見ると、複数の粒子4、5と複数の空隙6とが連続して隣接する状態となる。
【0106】
このように、複数の粒子4、5と複数の空隙6とが、連続して隣接する状態であることで、固体部分となる複数の粒子4、5は、その周囲に必ず空隙6を有することになる。この結果、第2層3に飛翔物10が衝突する場合には、次のメカニズムが生じる。
【0107】
(メカニズム1)固体部分となる粒子4、5に連続的に衝撃が伝わりにくい(粒子4、5の周囲に存在する空隙6によって衝撃が低減される)。メカニズム1は、図2に示される。
【0108】
(メカニズム2)衝撃によって破壊された固体部分である粒子4、5は、粒子の状態を維持した状態および破壊された粉体となった状態とを混在させて、周囲に存在する空隙6に高速に弾き飛ばされて、受け止められる。この結果、破壊された粒子4、5は、周囲の粒子4、5を連鎖的に破壊することが少なくなる。これは図3に示されるとおりである。
【0109】
この(メカニズム1)、(メカニズム2)の組み合わせによって、第2層3は、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0110】
(粒子同士の連続的な結合と空隙同士の連通)
【0111】
また、第2層3は、結合体を形成する複数の粒子4、5と複数の空隙6との連続的な隣接に加えて、複数の粒子4、5同士の連続的な結合と、複数の空隙6同士の連通とによって、形成される。
【0112】
すなわち、第2層3においては、次の<1>〜<3>の全てが組み合わされて生じている。
【0113】
<1>複数の粒子4、5同士は、それぞれにおいて連続的に結合する。
<2>複数の粒子4、5が結合していない残部である複数の空隙同士は、連通する。
<3>複数の粒子4、5と複数の空隙6とが、連続的に隣接する。
【0114】
このような<1>〜<3>の全ての組み合わせによって、第2層3は、従来技術のような固体部分内部に散在する気泡を有する層とは異なり、固体部分となる粒子4、5同士の結合は、その周囲の一部が、必ず連通する複数の空隙6で囲まれる状態となる。この結果、第2層3は、飛翔物10の衝撃に対して、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)を発揮することで、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0115】
(粒子の結合による骨格)
また、第2層3では、複数の粒子4、5の結合による骨格によって、複数の空隙6を形成している状態といえる。
【0116】
複数の粒子4、5は、結合体を形成する際にそれぞれ結合する。この結合によって、複数の粒子4、5は、骨格のように繋がっていく。結合している複数の粒子4、5があたかも骨格を形成することになるからである。骨格が生じるということは、骨格以外の部分は、空隙6となる。
【0117】
このため、複数の粒子4、5が結合して形成される骨格と、骨格以外の空隙6とが連続的に隣接することとなって、固体部分である骨格の周囲は、空隙6を備えることとなる。この場合も、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)を生じさせて、第2層3は、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0118】
なお、ここで骨格を形成する複数の粒子4、5は、複数の種類の粒子要素を含み、複数の種類の粒子要素のそれぞれは、素材、平均粒径および構造の少なくとも一つが異なる。このようなある観点で相違する異なる種類の粒子要素が結合することで、形成される骨格は、より複雑な骨格となるので、固体部分と気体部分とが、それぞれ連続的に隣接できるようになる。結果として、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)が発揮されやすい構造を、第2層3は有することができるようになる。
【0119】
(粒子)
次に、粒子の詳細について説明する。
【0120】
粒子は、図1〜図3に示される粒子4、5のように、第2層3に含まれる結合体を形成する。ここで、粒子は、単一の種類の粒子要素を含んでも良いし、複数の種類の粒子要素を含んでも良い。種類は、素材、平均粒径および構造の少なくとも一つを、その基準として含む。
【0121】
結合体は、単一の種類の粒子要素の結合で形成されても良い。図4は、本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。図4は、単一の種類の粒子要素41のみで結合体30を形成した状態を示している。粒子要素41は、素材および平均粒径が単一種類のものであって、概ね同様の大きさの粒子要素41が結合することで、結合体30を形成している。
【0122】
単一の種類の粒子要素41の結合によって結合体が形成される場合でも、図4に示されるとおり、粒子要素41の結合の残部によって、複数の空隙6が生じている。粒子要素41同士の結合によって結合体が形成されるので、粒子要素41の周囲には、粒子要素41同士の結合部分以外では必ず空隙6が生じることになる。この結果、複数の粒子要素41同士の結合、複数の空隙6同士の連通(但し、全てが連通するとは限らず、部位によっては連通せずに寸断されている場合もある)および粒子要素41と空隙6との隣接が生じる。
【0123】
但し、結合体30が、単一種類の粒子要素41で形成される場合には、粒子要素41同士の結合において、空隙6が形成されにくかったり、形成されても小さくなったりする可能性がある。特に、平均粒径が同様である単一粒子41同士の結合で、結合体30が形成される場合には、粒子要素41同士が広い結合面積および近い距離で結合するので、空隙6が小さくなりがちである。このように空隙6が小さくなりすぎてしまうと、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)の効果が低減してしまうこともある。
【0124】
このため、粒子は、複数の種類の粒子要素を含んで、この複数の粒子要素の結合によって結合体30が形成されることも好適である。
【0125】
図5は、本発明の実施の形態1における結合体の部分拡大図である。図5は、複数の種類の粒子要素41、42で結合体30を形成した状態を示している。特に図5は、平均粒径の異なる二つの種類の粒子要素41、42で形成された結合体30を示している。粒子要素41は、平均粒径が大きく、粒子要素42は、粒子要素41よりも平均粒径が小さい。このように、平均粒径の大きな粒子要素41と平均粒径の小さな粒子要素42とが結合する場合には、次の3種類の領域が生じやすくなる。
【0126】
(領域31)平均粒径の大きな粒子要素41同士を、平均粒径の小さな粒子要素42が接続するように、複数の粒子要素41、42が結合している領域。
(領域32)平均粒径の小さな粒子要素42が主として結合している領域。
(領域33)平均粒径の大きな粒子要素41が主として結合している領域。
【0127】
また、これらの3種類の領域においては、それぞれ空隙6が生じる。ここで、単一種類の粒子要素41のみで結合体30が形成される場合に比較して、領域31〜33のように、バリエーション豊かな結合状態が生じることで、図5の結合体30は、様々な大きさや形状の空隙6を備えることができる。特に、領域31では、距離のある平均粒径の大きな粒子要素41同士を、平均粒径の小さな粒子要素42が接着剤のようにして結合させるので、空隙6Aは、当然ながら大きくなりやすい。
【0128】
あるいは、平均粒径の大きな粒子要素41の周囲に平均粒径の小さな粒子要素42が結合することで、粒子要素41の周囲に複雑かつ多数の空隙6Bが生じやすくなる。空隙6A、空隙6Bのそれぞれは、粒子要素41、42の周囲で、複雑、多数かつ大きくなりやすい。この結果、固体部分である粒子4の周囲には、多くの空隙6が連続的に隣接することになる。この連続的な隣接によって、(メカニズム1)、(メカニズム2)が生じる。
【0129】
図5を用いて説明したように、複数の種類の粒子要素41、42が、結合体30を形成することで、(メカニズム1)、(メカニズム2)が生じやすい第2層3が形成される。
【0130】
なお、粒子4は、平均粒径の異なる粒子要素41、42を含むことは上述の通り好適であるが、一例として、粒子要素41は、10μm〜200μmの平均粒径を有し、粒子要素42は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有することが好ましい。
【0131】
粒子要素41、42のそれぞれが、下限より小さい場合には、形成される第2層3における結合体30の密度が高まりすぎて、第2層3は、空隙6を十分に含みにくくなるからである。一方、粒子要素41、42のそれぞれが、上限より大きい場合には、結合体30の密度が低くなりすぎて、第2層3が脆くなりすぎてしまうからである。
【0132】
また、粒子要素41の下限と粒子要素42の上限とが近すぎる場合には、図5に示すような、効果的な空隙6の形成が困難となるからである。
【0133】
以上のことから、粒子要素41は、10μm〜200μmの平均粒径を有し、粒子要素42は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有することが好ましい。
【0134】
(粒子要素の素材)
粒子要素41、42は、セラミックス粒子を含むことが好適である。このとき、粒子4が異なる種類の粒子要素41、42を含む場合でも、単一種類の粒子要素41を含む場合の区別が特段にされるわけではなく、それぞれの粒子要素41、42が、セラミックス粒子を含んでいれば良い。すなわち、粒子4が平均粒径の異なる複数の粒子要素41、42を含む場合には、粒子要素41、42のそれぞれは平均粒径の異なるセラミックス粒子より形成されれば良い。
【0135】
セラミックス粒子は、一例として、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物、金属元素の炭化物、金属元素のホウ化物およびこれらの固溶体の少なくとも一つを含む。このような素材で形成されるセラミックス粒子によって、相互に結合しつつも空隙6を残すことのできる第2層3が形成される。
【0136】
また、セラミックス粒子は、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化チタン、窒化珪素、ホウ化チタン、炭化チタン、イットリア−アルミナ−ガーネット(以下、「YAG」という)、酸化珪素、酸化ジルコニウム(完全安定化酸化ジルコニウムおよび部分安定化酸化ジルコニウムを含む)および立方晶窒化ホウ素の少なくとも一つを含む。このような素材で形成されるセラミックス粒子によって、相互に結合しつつも空隙6を残すことのできる第2層3が形成される。
【0137】
特に、ここに列挙された素材で形成されるセラミックス粒子は、その平均粒径を様々に持つことが可能である。あるいは、粒子要素41、42を簡単に形成できる。加えて、圧力や温度を加えることで、粒子要素41、42同士が確実に結合し、結合体30が容易に形成される。
【0138】
なお、ここに列挙したセラミックス粒子の結合による結合体30の形成は、公知技術である種々のセラミックス粒子によるセラミックス板の形成と同様の工程を用いる。すなわち、セラミックス粒子を集積した上で、圧力および熱を加えることで、セラミックス粒子同士が結合して、結合体30が形成される。
【0139】
(セラミックス粒子の被覆)
【0140】
また、結合体30は、セラミックス粒子そのものの結合だけでなく、セラミックス粒子の周囲が金属および有機物の少なくとも一つによって被覆されていることも好適である。
【0141】
被覆されていないセラミックス粒子同士が結合するには、集積されたセラミックス粒子に対して、圧力がかけられると共に熱が加えられる必要がある(すなわち、焼結工程を必要とする)。
【0142】
これに対して、セラミックス粒子の周囲が、金属および有機物の少なくとも一方で被覆されている場合には、この被覆セラミックス粒子同士の結合においては、焼結工程が不要となる。すなわち、セラミックス粒子(これは、上述の金属元素の酸化物や金属元素の炭化物から得られる)の周囲を金属で被覆した被覆セラミックス粒子同士は、型に充填した状態で100〜800℃程度の温度まで加熱することにより、表面の金属同士が結合し、一体化する。この際に圧力をかけるとより均一な組織にすることができる。同様に、セラミックス粒子の周囲を有機物で被覆した被覆セラミックス粒子同士は、圧力が加えた上で80〜150℃程度まで熱するだけで、有機物同士が融着して、一体化する。
【0143】
これらの処理は、通常のセラミックスを製造するような大掛かりで雰囲気を十分制御できる高価な焼結炉を必要とせず、充填型とヒーターを有する簡単な設備で設備的には十分である。また、焼結は処理(とくに昇温、降温)に時間がかかるが、前記作業は速ければ数分、遅くとも1時間程度あれば一体化するのに十分であり、生産性もきわめて高い。
【0144】
また、セラミックスのみで製造したもと比較して、高速の飛翔体に対する防御機能は劣らない。
【0145】
これらの処理は、通常のセラミックスを製造するような大掛かりで雰囲気を十分制御できる高価な焼結炉を必要とせず、充填型とヒーターを有する簡単な設備で設備的には十分である。また、焼結は処理(とくに昇温、降温)に時間がかかるが、前記作業は速ければ数分、遅くとも1時間程度あれば一体化するのに十分であり、生産性もきわめて高い。
【0146】
このように、セラミックス粒子の周囲が、金属および有機物の少なくとも一方で被覆された被覆セラミックス粒子が、粒子要素41、42(すなわち粒子4、5)として用いられることで、第2層3の製造コストが格段に低減できる。結果として、衝撃吸収部材1の製造コストが格段に低減できる。
【0147】
図6は、本発明の実施の形態1における被覆セラミックス粒子による第2層の部分拡大図である。図6は、通常のセラミックス粒子の周囲が、金属および有機物の少なくとも一方で被覆された被覆セラミックス粒子の結合状態を示している。
【0148】
第2層3は、結合体30を備えている。この結合体30は、被覆セラミックス粒子45の結合によって、形成される。ここで被覆セラミックス粒子45は、被覆されるセラミックス粒子46とその周囲を覆う被覆層47を備える。この被覆層47は、金属および有機物の少なくとも一方の素材を有する。
【0149】
被覆層47は、被覆層47の素材が金属である場合には、セラミックス粒子46の周囲がめっきされることで、形成される。めっきは、電解めっき、非電解めっきなどのいずれの手法でめっきされてもよい。あるいは、被覆層47が樹脂などの有機物を素材とする場合には、セラミックス粒子47の周囲がカップリングなどのコーティングを施されることで、被覆層47が形成される。このような被覆層47が形成された場合には、結合体30を形成するのは、被覆セラミックス粒子45となる。
【0150】
もちろん、めっきは一例であり、蒸着、溶剤塗装、電着、拡散被覆、ショットブラスト、スパッタリング、イオンプレーティング、粉体塗装などによって被覆層47が形成されても良い。これらの手段は、セラミックス粒子47の種類、粒径および流動性に合わせたコスト、被覆層47の膜厚などによって、適宜選択されればよい。
【0151】
ここで、被覆層47の厚みは、0.01μm〜10μmくらいが適当である。この被覆層47は、平均粒径の小さい粒子要素42が平均粒径の大きい粒子要素41同士を接着させる役割と同じように、被覆セラミックス粒子45同士を接着させる役割を発揮する。この接着の役割によって、被覆セラミックス粒子45同士は、結合する。
【0152】
なお、被覆セラミックス粒子45は、第2層3を形成する型に集積された上で、加温(樹脂が被覆層47となる場合には、〜150℃くらい、金属が被覆層47となる場合には、300℃〜900℃程度)された上で圧力が加わることで(焼結工程は含まない)、被覆層47同士が接着して、被覆セラミックス粒子45同士が結合する。このように、被覆層47の接着を介して、被覆セラミックス粒子45同士の結合が促され、結合体30が形成される。結合体30を形成する被覆セラミックス粒子45の周囲には、複数の空隙6が形成され、固体部分である被覆セラミックス粒子45と気体部分である空隙6とが連続的に隣接する。
【0153】
なお、被覆層47は、金属、合金、有機物であればよく、金属、合金、有機物の種類は様々に選択されればよい。有機物としては、樹脂も用いられる。
【0154】
(空隙)
次に、空隙6について説明する。
【0155】
第2層3は、粒子4、5同士の結合の残部となる複数の空隙6を有する。
【0156】
ここで、複数の空隙6「複数」とは、ある空隙と別の空隙とが連通しており一体化している場合でも、ある領域で区切ることで、空隙が複数と把握されることを含む。空隙6そのものは、結合している粒子4、5の周囲に渡って連通しているので、空隙6全体が完全に繋がっている場合には、空隙6は、単数の空隙6と見ることもできる。しかしながら、場合によっては、空隙6の一部が粒子4、5によって遮断される場合もあるので、空隙6は、複数であると見ることもできる。
【0157】
このように、空隙6は、仮に連通している場合でも、(1)単位領域で仮想的に分割すると複数である、(2)連通しているいずれかの場所で、粒子4、5によって遮断されていることで複数となる、のいずれかの視点によって、複数であるとみなされる。
【0158】
すなわち、複数の空隙6の「複数」とは、物理的に厳密な複数の区画に分かれていることを意味するのではなく、概念として把握する場合に複数の区画であるとみなすことで十分である。
【0159】
従来技術のセラミックス層は、固体部分の内部に、気泡が点在している状態である。これに対して、実施の形態1の第2層3は、粒子4、5と空隙6とが連続的に隣接すると共に、複数の粒子4、5は連続的に結合し、複数の空隙6は連通するという、相対関係を有する。この相対関係によって、固体部分である粒子4、5と気体部分である空隙6とが隣接して、(メカニズム1)、(メカニズム2)が作用するようになる。この結果、第2層3は、飛翔物10の衝突による衝撃を分散・吸収できる。
【0160】
また、複数の空隙6は、複数の粒子4、5と連続的に隣接することで、第2層3の衝撃に対する分散・吸収能力を発揮させる。このため、第2層3における複数の空隙6の占める割合が、適切に調整されることが好ましい。
【0161】
一例としては、第2層3に対する複数の空隙6の占める割合は、この第2層3全体に対して、20%〜50%であることが好ましい。20%未満であると、空隙6の占める割合が小さすぎて粒子4、5が密になりすぎるからである。このなると、固体部分である粒子4、5を連続的に衝撃が伝わってしまう上、破壊された粒子4、5は、隣接する固体部分である粒子4、5に連続的に衝突して、破壊を促進させる。一方、50%よりも大きい場合には、第2層3が粗くなりすぎて層としての強度が十分に保てなくなるからである。
【0162】
このように、第2層3全体に対する複数の空隙6の占める割合(空隙率)は、20%〜50%であることが好ましい。
【0163】
もちろん、この範囲は一例であって、粒子4、5の素材や製造工程などに依存して、異なる範囲が選択されることを排除するものではない。
【0164】
以上、実施の形態1の衝撃吸収部材1は、従来技術の考え方とは全く異なり、飛翔物の衝突による衝撃による固体部分の破壊を面方向に広げると共に、粒子4、5の周囲に存在する空隙6が、破壊で移動する固体部分を受け止めることで、飛翔物10の衝突による衝撃を、分散・吸収できる。
【0165】
また、第1層2は、第2層3で分散・吸収された衝撃を、最終的に受け止めることができるので、第1層2は、従来技術のように大きくは破壊されにくい。特に、飛翔物10が弾丸などの高速かつ破壊力の強い物体である場合には、第1層2の破壊が低減できることで、衝撃吸収部材1によって防御される対象物(例えば乗員)への被害が抑えられる。
【0166】
このような第1層2と第2層3との積層を備える衝撃吸収部材1は、弾丸や砲弾といった飛翔物10からの衝撃を吸収し、防御対象物を効果的に守ることができる。
【0167】
(実施の形態2)
【0168】
次に実施の形態2について説明する。
【0169】
実施の形態1で説明した衝撃吸収部材1は、飛翔物10の衝突および貫通により生じる破壊の形状や態様で、その特性を定義できる。例えば、飛翔物10が第2層3から入射して第2層3および第1層2を破壊する場合の、破壊開口面積で、衝撃吸収部材1の特性が定義できる。飛翔物10の入射面(第2層3)において飛翔物10の衝撃で破壊されて生じる開口面積をS1(mm2)とする。これに対して、飛翔物10の到達面において飛翔物10の破壊で生じる開口面積をS2(mm2)とする。また、第1層2および第2層3の合計の厚みをt1(mm2)とする。なお、開口面積S2は、飛翔物10の貫通によって生じてもよいし、貫通せずに飛翔物が止まった状態での破壊で生じてもよい。
【0170】
この場合には、開口面積S1と開口面積S2との間には、次の関係式が成立する。
【0171】
(関係式) S2 = (t1+a)2/a2 × S1
但し、50 ≧ a ≧ 1.44
【0172】
図7は、本発明の実施の形態2における衝撃吸収部材の破壊状態を示す側面図である。第1層2および第2層3(それぞれ実施の形態1で説明した通り)が積層されている衝撃吸収部材1において、図7は、第2層3に飛翔物10としての弾丸11が衝突している状態を示している。ここで、第1層2と第2層3との合計の厚みは、t1(mm2)である。
【0173】
弾丸11の衝突によって、衝撃吸収部材1は、第2層3の表面から第1層2の表面に至るまで破壊され、破壊領域50が生じる。図7では、模式的に台形状の破壊領域50を示しているが(側面図であるので二次元的に示しているが、破壊領域50は、本来的には円錐台に近いような三次元形状を有する)、概ねこのような形状に対応して衝撃吸収部材1は、破壊されると考えられる。
【0174】
このとき、弾丸11が入射する第2層3の表面における、弾丸11の衝撃で破壊されて生じる開口面積はS1で規定され、弾丸11が到達する第1層2の表面における、弾丸11で破壊されて生じる開口面積はS2である。これらS1、S2、t1とは、上述の関係式の関係を備えている。
【0175】
従来技術と異なり、S1に比較してS2が十分に広くなる。すなわち、弾丸11の衝撃は、衝撃吸収部材1の面方向に拡散されていることが分かる。従来技術においては、弾丸からの衝撃は、狭い範囲に連続的に伝播して非常に狭い開口面積を破壊した上で、弾丸が貫通していた。このため、貫通した弾丸は、その勢い・速度を落とすことなく衝撃吸収部材の内部に到達できていた。
【0176】
これに対して、実施の形態1、2の衝撃吸収部材1は、上記の関係式および図7に示されるように、衝突した弾丸11の衝撃を面方向に拡散しながら、その衝撃を吸収できる。S2に示されるように、弾丸11が到達する場合に開口させる面積は、広がっており、弾丸11の勢いおよび速度は十分に低下させられている。弾丸11の進入角度も返らされてしまうからである。この結果、衝撃吸収部材1は、内部の防御対象物を確実に防御できるようになる。
【0177】
なお、ここで示した関係式は一例であり、飛翔物10の種類や速度、第1層2および第2層3の素材、形成工程、積層工程、それぞれの厚みの比率、合計の厚みなどのパラメータの変化によって、異なる関係式が成立することもありうる。
【0178】
以上のように実施の形態1、2の衝撃吸収部材1は、上述の関係式によって、その特性と機能を特定することができるものでもある。このため、上述の関係式によって特定される特性を有する第1層と第2層の積層を備える衝撃吸収部材は、本発明の衝撃吸収部材に含まれる。
【0179】
(実施の形態3)
【0180】
次に、実施の形態3について説明する。
【0181】
実施の形態1、2で説明した衝撃吸収部材1は、第1層2と第2層3との2層構造を有している。ここで、衝撃吸収部材1は、第2層3に更に積層される第3層を備えることも好適である。第3層が積層される場合には、第3層が飛翔物からの衝撃を最初にうける。
【0182】
図8は、本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の側面図である。図8に示される衝撃吸収部材1は、第2層3の上に第3層9を備えている。すなわち、複数の粒子4、5の結合による結合体30と複数の空隙6とを備える第2層3が、第1層2と第3層9とによってサンドイッチされている。このため、第3層9は、飛翔物10の衝突を受ける位置に存在することになる。
【0183】
第3層9は、第1層2と同じく、セラミックス、金属および合金の少なくとも一つで形成される層を有する。このため、第3層9は、第1層2の素材および製造工程と同様の素材と製造工程で形成される。特に、第3層9は、セラミックス、金属、合金、樹脂、硬質物質などの素材で形成された板部材を備えることが好適である。鋼板などでもよい。また、衝撃吸収部材1が輸送車両や航空機の装甲に適用される場合には、この輸送車両や航空機に予め備わっている外板が、この第3層9を兼ねることでもよい。
【0184】
第3層9は、所定の厚さを有していればよいが、衝撃吸収部材1の重さが重くなりすぎない程度の厚さを有していることが好適である。また、第2層3の厚みとのバランスを考慮することも好適である。例えば、第2層3の厚みが数mmである場合には、第3層9の厚みは、数mmであって、第2層3の厚みとの差分が大きくない程度が好ましい。
【0185】
あるいは、第2層3は、飛翔物10の衝撃を分散・吸収する必要があるので、所定の厚みを必要とするが、第3層9は、第2層3よりも薄くてもよい。これは、第3層9は、飛翔物10の衝突を最初に受ける層となるが、第3層9は、飛翔物10の勢い(速度、力、ベクトル)を減じさせることが目的であるからである。また、第3層9は、高い硬度を有している。
【0186】
なお、第1層2、第2層3、第3層9のそれぞれは、相互に接着されても良いし、熱接合されてもよいし、溶着されてもよい。このような製造工程によって、衝撃吸収部材1が製造される。
【0187】
ここで、第1層2〜第3層9の3層構造を有する衝撃吸収部材1の、衝撃吸収のメカニズムを説明する。ここでは、飛翔物10を弾丸11として説明する。
【0188】
(1)第3層9での飛翔物10の勢い低減
【0189】
弾丸11は、第3層9にまず衝突する。このとき、第3層9は、鋼板などの、セラミックス、金属、合金、樹脂、硬質物質などで形成された板部材を備えている。このため、弾丸11の衝突による衝撃を大きく受ける。この際に、第3層9は、弾丸11の速度や衝撃力を、直接的に減じることができる。
【0190】
加えて、弾丸11は、硬度の高い第3層9との衝突によってその先端がへこんで平坦になってしまう。弾丸11は、その貫通力を高めるために先端を尖らせていることがある。このような先端が尖った弾丸11は、第2層3や第1層2を強い勢いで貫通してしまう可能性を有する。これに対して、弾丸11が、最初に第3層9に衝突することで、その先端が平坦になってしまう。
【0191】
(2)第2層3での分散・吸収
【0192】
平坦な先端となった弾丸11は、第2層3および第1層2における、狭い範囲での貫通力を損なってしまう。このため、第2層3に突入した弾丸11は、第2層3の構造とも相まって、狭い領域を貫通しようとすることが困難になってしまう。このように貫通力の弱まった弾丸11は、第2層3の構造状の特徴(実施の形態1、2で説明したように)によって、その衝撃を第2層3の面方向に分散させてしまう。この分散によって、第2層3は、弾丸11の衝撃を分散・吸収できる。この場合の、第2層3における動作メカニズムは、実施の形態1で説明した通りである。
【0193】
(3)第1層2での最終的な衝撃吸収
【0194】
第2層3は、面方向に弾丸11の衝撃を分散・吸収する。この結果、第1層2に到達する弾丸11の勢いと衝撃は、非常に小さくなっている。このため、第1層2は、弾丸11を押し止めたり、貫通する弾丸の勢いを非常に弱めたりできる。また、実施の形態2で説明したように、入射面における破壊されて形成される開口面積S1と出射面における貫通されて形成される開口面積S2とは、実施の形態2での関係式を有している。この結果、第1層2で開口する面積は広がっており、それだけ、弾丸11の勢いは減少しており、第1層2の内部に存在する防御対象物へ、弾丸11の被害が到達しない。
【0195】
すなわち、第3層9で、弾丸11を変形させてその勢いをある程度低減し、第2層3で、弾丸11の衝撃を分散・吸収し、第1層2で、最終的に弾丸11の勢いを消失させる、という連続例のあるメカニズムによって、実施の形態3における衝撃吸収部材1は、防御対象物を防御する。
【0196】
このように、衝撃吸収部材1は、<1>実施の形態1で説明したように、複数の粒子の結合により形成される結合体とこれら粒子の周囲に連通する複数の空隙とを備える第2層による、衝撃の面方向における分散・吸収に加えて、<2>第2層の前後に板部材としての第1層や第3層が積層されること、の<1>と<2>との組み合わせを有することで、効率的に飛翔物からの衝撃を吸収し、防御対象物を防御できるようになる。
【0197】
なお、第3層9以外にも他の層が積層されても良い。あるいは、第2層3のような構造を有する複数の層が、第1層2と第3層9との間にまとめて/交互に、積層されることも良い。すなわち、板部材、粒子の結合体、板部材、粒子の結合体、などのように、第1層2(第3層9)と第2層3とが交互に積層されてもよい。これらは、防御対象物や衝撃吸収部材1が適用されるアプリケーションの特徴によって定まる。
【0198】
また、第3層9は、複数のユニットを並べた構造を有することも好適である。図9は、本発明の実施の形態3における衝撃吸収部材の模式図である。図9(A)は、衝撃吸収部材1の側面を示しており、図9(B)は、衝撃吸収部材1の正面であって、第3層9から見た状態を示している。
【0199】
第3層9は、複数のユニット91を備えている。複数のユニット91が並べられて第3層9全体を構成している。このような構造を有することで、飛翔物10からの衝撃をある程度分散させたり低減させたりすることができる。また、図9では、第3層9は、複数のユニット91が同一平面に1層分配置されているが、垂直方向に積層されてもよい。また、第1層2も、第3層9のように、複数のユニットが配列された構造を有しても良い。
【0200】
また、本明細書において、第1層、第2層、第3層における「第1」、「第2」、「第3」とは、積層されている複数の層のいずれかを特定する用語であり、積層の順番に対応しなければならないわけではない。すなわち、N層の積層を有する衝撃吸収部材である場合に、第1層や第2層は、このN層の中のどれかの層を示す用語である。第1層が、最外郭層でなければならないわけではなく、第1層と第2層とが隣接しなければならないわけでもない。
【0201】
以上、実施の形態3における衝撃吸収部材1は、層の積層による特徴によって、飛翔物10の衝撃を効果的に減少させて、防御対象物を防御できる。
【0202】
(実施の形態4)
【0203】
次に、実施の形態4について説明する。
【0204】
実施の形態4では、実施の形態1〜3で説明された衝撃吸収部材1が適用されるアプリケーション等について説明する。
【0205】
(防弾板)
【0206】
実施の形態1〜3で説明された衝撃吸収部材1は、飛翔物10が弾丸11である場合に対応できる、防弾板として適用できる。この場合に、衝撃吸収部材1が第3層9を備える場合には、第3層9が弾丸11と対向し、衝撃吸収部材1が第3層9を備えない場合には、第2層3が弾丸11と対向する。
【0207】
防弾板は、衝撃吸収部材1を備えることで、実施の形態1〜3で説明したように、(メカニズム1)、(メカニズム2)の作用によって、弾丸11から防御対象物を防御できる。特に、衝撃吸収部材1は、弾丸11の勢いを消失させることができるので、防弾板は、防弾板の内部に存在する防御対象物に、悪影響のある弾丸を到達させないか、到達しても被害の生じない程度に減ずることができる。これらの結果、紛争地域などにおける、ボランティア活動、軍事活動、民間活動、取材活動などに従事する従事者の安全が確保されるようになる。
【0208】
また、防弾板は、衝撃吸収部材1を備えるが、衝撃吸収部材1以外にも必要となる要素を更に備えても良い。例えば、防弾板の外見を、防弾板の適用箇所に合わせるために塗装されたコーティングを更に備えたりなどである。また、防弾板が、湾曲している必要がある場合には、湾曲させた衝撃吸収部材を用いて、防弾板が製造される必要がある。あるいは、防弾板が屈曲している必要がある場合には、複数の衝撃吸収部材を組み合わせて、防弾板が製造される必要がある。
【0209】
このように、防弾板は、衝撃吸収部材1に必要に応じた加工が施されることで、様々なアプリケーションに最適に適用されるようになる。
【0210】
また、防弾板は、要求される強度に応じて、衝撃吸収部材1の厚み、大きさ、第1層2や第2層3などの層の重ね方、などを、適宜変更して備えればよい。また、防弾板は、輸送機器の装甲や外壁、建造物の外壁などに適用されることもよいし、ボランティア活動、軍事活動、民間活動、取材活動に従事する人体に装着される防弾チョッキに適用されても良い。
【0211】
(輸送機器への適用)
【0212】
また、防弾板は、輸送機器の装甲(外壁)に適用される。
【0213】
図10は、本発明の実施の形態4における装甲車両の模式図である。装甲車両100は、輸送機器の一例として示されている。図10より明らかな通り、装甲車両100は、輸送機器として用いられる骨格103と、骨格103同士を接続して周囲を覆う装甲101と、装甲車両100を走行可能とする駆動手段(図示せず)を備えている。
【0214】
ここで、この装甲101は、防弾板102を備えている。防弾板102は、上述の通り、実施の形態1〜3で説明された衝撃吸収部材1を有している。すなわち、装甲101は、衝撃吸収部材1による弾丸11等からの衝撃を分散・吸収して、装甲車両100内部の乗員を保護できる。特に、弾丸11の衝突による衝撃は、面方向に分散されるので、装甲101内部の破壊は連鎖的に繋がりにくい。このことからも、装甲車両100の安全性が高く確保されることが分かる。
【0215】
また、図10では、装甲車両100を示したが、装甲車両100だけでなく、通常の車両、ワンボックスカー、オフロード車両などのような一般車両が、紛争地域では用いられることが多い。ボランティア活動、民間活動、取材活動などの、軍事作戦以外の民間活動においては、小回りが利くと共に低コストの輸送機器が求められるからである。
【0216】
このような一般車両やこれをベースとした輸送機器においては、軽量化および低コスト化が求められる。このような場合にも、防弾板102は、軽量かつ低コストであるので、最適に適用される。特に、衝撃吸収部材1の第2層3は、一定の空隙率を有しているので、防弾板102の重量を軽くする効果を発揮できる。
【0217】
軽量性や小回りが求められる輸送機器では、どのような軍事攻撃にも耐えられるような防御性能を優先して、そのコストや移動性能を犠牲にするよりも、防御性能、コストおよび移動性能のバランスを有することが求められる。実施の形態4における輸送機器は、非常に軽量となりえる防弾板102が、その装甲101に用いられるので、これらのバランスを実現しやすい。特に、防弾板102は、どのような弾丸や砲弾でも対応できるだけの強度を有しているわけではないが、通常の弾丸等の衝撃を、分散・吸収することによって、内部の乗員への被害を抑えることができる。一方で、輸送機器の移動性能を犠牲にしないので、輸送機器は、攻撃に耐えながら、即座に紛争地域を抜け出すことで、乗員の安全性を確保する。
【0218】
すなわち、紛争地域に留まって、様々な攻撃に耐えながら軍事活動を行う戦車などとは異なり、紛争地域での移動における軍事攻撃に耐えながら即座に移動できる輸送機器に、本発明の防弾板102(衝撃吸収部材1)は、用いられるのである。
【0219】
なお、輸送機器は、一般車両、軍用車両、軍用軽車両および航空機の少なくともいずれかを含む。このため、航空機の外壁に、防弾板102が用いられても良い。この場合には、紛争地域やテロ地域において、人員の輸送、物資の輸送などのボランティア活動や復旧活動に携る航空機は、弾丸や砲弾からの被害を、最小限に食い止めることができる。結果として、紛争地域やテロ地域における、民間活動や軍事活動が、円滑に進むことが期待される。
【0220】
(実施の形態5)
【0221】
次に、発明者が実際に製作した衝撃吸収部材の実施例について説明する。
【0222】
(実施例)
発明者は、セラミックス粒子として、炭化珪素を選択し、次の手順で第2層を製作した。
【0223】
原材料として、炭化珪素粉末であって、平均粒径が2μmのものと、平均粒径が30μmのものとの2種が用意される。これら2種類の炭化珪素粉末は、ボールミル装置によって混合される。この混合の際にはメチルアルコールが用いられる。このボールミル装置によって、2種類の炭化珪素粉末が、十分に混ざるまで攪拌・混合がなされる。
【0224】
ついで、混合された2種類の炭化珪素粉末は、スプレードライヤーによって、乾燥させられる。このとき、第2層としての形状(大きさ、厚みを有する、一定の形状)を得るために、成型用の有機バインダーを加えて乾燥させられる。この乾燥によって、粒子が形成されていく(造粒)。更に、圧力100MPaによって金型プレス機を用いて、造粒された所定の素材が成型される。この結果、第2層へつながる所定の形状の板材が得られる。
【0225】
この得られた板材は、脱脂炉を用いて脱脂される。さらには、焼結炉を用いて、焼結される。この焼結によって、有機バインダーによる粒子同士の接着が促されると共に有機バインダーは溶解して、炭化珪素粉末による粒子のみが残る。脱脂および焼結は、アルゴンガス雰囲気の中で行われる。また、脱脂における加熱温度は、600℃であり、焼結における加熱温度は、2100℃である。
【0226】
最後に、研削盤やマシニングセンタなどの加工機によって、第2層として所望の形状に加工される。衝撃吸収部材とされる場合には、第1層や第3層が、接着や溶着される。
【0227】
製作された第2層は、実施の形態1〜2で説明されたように、複数の粒子同士の結合によって形成される結合体と、この結合の残部である複数の空隙を含む。この複数の空隙は相互に連通しつつ、粒子と隣接する。この結果、製造される第2層は、粒子と空隙とが相互に隣接する状態を有し、飛翔物の衝突による衝撃に対して、上述の(メカニズム1)、(メカニズム2)が作用して、衝撃を分散・吸収できる。
【0228】
図11は、本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。図11は、実際に製作された第2層の8倍拡大で撮像された写真を示している。
【0229】
図11より明らかな通り、粒径が大きな粒子4Aと粒子4Aより粒径が小さい粒子5Aとが連続的に結合している。この結合が、結合体30を形成している。また、この結合体30(すなわち粒子4A、5A)の周囲に複数の空隙6が生じていることが分かる。また、複数の空隙6同士は、連通している。更には、粒子4A、5Aと空隙6とが連続的に隣接している。
【0230】
図12は、本発明の実施の形態5における製作された第2層の顕微鏡写真である。図12は、図11で示される第2層の200倍拡大で撮像された写真を示している。図12に示される第2層も、図11に示される第2層と同様に、粒子4Aと粒子5Aとが結合して結合体30を形成する。ここで、粒径の小さい粒子5Aは、粒径の大きな粒子4A同士の接着剤として働いている。
【0231】
このような粒子4A、5Aと空隙6との連続的な隣接によって、固体部分である粒子4A、5Aは、受けた衝撃を気体部分である空隙6に伝えるため、物理的な衝撃の伝播が、低減されるようになる。また、衝撃によって破壊された粒子4A、5Aは、周囲に存在する空隙6に移動することになるので、破壊された粒子4A、5Aが他の粒子4A、5Aを連続的に破壊させにくくなる。すなわち、(メカニズム1)、(メカニズム2)が効率的に作用する。この結果、図11に示される第2層は、飛翔物の衝撃を分散・吸収(特に面方向に分散)できる。
【0232】
以上のように、実際に製作された第2層の拡大図からも、本発明の衝撃吸収部材は、飛翔物の衝突による衝撃を、効率的に分散・吸収できる。
【0233】
以上、実施の形態1〜5で説明された衝撃吸収部材、防弾板、輸送機器は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0234】
1 衝撃吸収部材
2 第1層
3 第2層
4、5 粒子
6 空隙
7 空間
9 第3層
91 ユニット
10 飛翔物
11 弾丸
45 被覆セラミックス粒子
46 セラミックス粒子
47 被覆層
100 装甲車両
101 装甲
102 防弾板
103 骨格
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の素材を有する第1層と、
前記第1層に積層される第2層と、を備え、
前記第2層は、結合体を形成する複数の粒子同士の連続的な結合と該粒子同士の結合の残部である複数の空隙とを含み、
前記複数の空隙同士は、前記複数の粒子の周囲に渡って、連通する衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記第2層は、前記飛翔物からの衝撃を分散、吸収し、
前記第1層は、前記飛翔物からの防御対象物への直接的な衝突を防御する、請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記第1層は、前記防御対象物に、直接的もしくは間接的に対向し、
前記第2層は、前記飛翔物に、直接的もしくは間接的に対向する、請求項1又は2記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記第2層は、該第2層を形成する空間に、結合体を形成する複数の粒子が充填・結合されて形成され、
前記空間における前記粒子の結合で生じる隙間が、前記複数の空隙を形成する、請求項1から3のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記第2層は、結合体を形成する前記複数の粒子と前記複数の空隙とが連続して隣接することで形成される、請求項1から4のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記第2層は、結合体を形成する前記複数の粒子と前記複数の空隙との連続的な隣接に加えて、前記複数の粒子同士の連続的な結合と前記複数の空隙同士の連通とによって形成される、請求項5記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記複数の粒子の結合による骨格によって、前記複数の空隙が形成され、前記複数の空隙は、前記骨格の周囲に渡って連通する、請求項1から6のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記粒子は、平均粒径、構造および素材の少なくとも一つを基準とする複数の種類の粒子要素を含む、請求項1から7のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項9】
前記複数の粒子要素は、平均粒径の異なる第1粒子要素および第2粒子要素を含み、前記第1粒子要素は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有し、前記第2粒子要素は、10μm〜200μmの平均粒径を有する、請求項8記載の衝撃吸収部材。
【請求項10】
前記粒子要素は、セラミックス粒子を含み、前記セラミックス粒子は、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物、金属元素の炭化物、金属元素のホウ化物およびこれらの固溶体の少なくとも一つを含む、請求項8又は9記載の衝撃吸収部材。
【請求項11】
前記セラミックス粒子は、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化チタン、窒化珪素、ホウ化チタン、炭化チタン、イットリア−アルミナ−ガーネット(以下、「YAG」という)、酸化珪素、酸化ジルコニウム(完全安定化酸化ジルコニウムおよび部分安定化酸化ジルコニウムを含む)および立方晶窒化ホウ素の少なくとも一つを含む、請求項8から10のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項12】
前記粒子要素は、セラミックス粒子および周囲を金属および有機物の少なくとも一つによって被覆されたセラミックス粒子の少なくとも一つを含む、請求項7から11のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項13】
前記飛翔物が、前記第1層および前記第2層を破壊する場合に、前記飛翔物の入射面における前記飛翔物の衝撃で破壊されて生じる開口面積S1(mm2)と、前記飛翔物の到達面における前記飛翔物による破壊で生じる開口面積S2(mm2)とは、前記第1層および前記第2層の合計の厚みをt1(mm)として
(関係式) S2 = (t1+a)2/a2 × S1
但し、50 ≧ a ≧ 1.44
で示される関係を有する、請求項1から12のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項14】
前記第2層に積層される第3層を更に備え、前記第2層および前記第3層の少なくとも一方は、前記飛翔物の衝突を受ける、請求項1から13のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項15】
前記第1層および前記第3層の少なくとも一方は、セラミックス、金属および合金の少なくとも一つで形成される層を有する、請求項14記載の衝撃吸収部材。
【請求項16】
前記第2層における前記複数の空隙の占める割合は、前記第2層全体に対して、20%〜50%である、請求項1から15のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項17】
前記飛翔物は、弾丸であって、
請求項1から16のいずれか記載の衝撃吸収部材を備え、
前記第3層および前記第2層の少なくとも一方は、前記弾丸の衝突を受ける防弾板。
【請求項18】
輸送機器としての骨格と、
前記骨格同士を接続して周囲を覆う装甲と、
前記輸送機器の走行もしくは飛行を可能とする駆動手段と、を備え、
前記装甲は、請求項17記載の防弾板を備える輸送機器。
【請求項19】
前記輸送機器は、一般車両、軍用車両、軍用軽車両および航空機の少なくとも一つを含む、請求項18記載の輸送機器。
【請求項1】
所定の素材を有する第1層と、
前記第1層に積層される第2層と、を備え、
前記第2層は、結合体を形成する複数の粒子同士の連続的な結合と該粒子同士の結合の残部である複数の空隙とを含み、
前記複数の空隙同士は、前記複数の粒子の周囲に渡って、連通する衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記第2層は、前記飛翔物からの衝撃を分散、吸収し、
前記第1層は、前記飛翔物からの防御対象物への直接的な衝突を防御する、請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記第1層は、前記防御対象物に、直接的もしくは間接的に対向し、
前記第2層は、前記飛翔物に、直接的もしくは間接的に対向する、請求項1又は2記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記第2層は、該第2層を形成する空間に、結合体を形成する複数の粒子が充填・結合されて形成され、
前記空間における前記粒子の結合で生じる隙間が、前記複数の空隙を形成する、請求項1から3のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記第2層は、結合体を形成する前記複数の粒子と前記複数の空隙とが連続して隣接することで形成される、請求項1から4のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記第2層は、結合体を形成する前記複数の粒子と前記複数の空隙との連続的な隣接に加えて、前記複数の粒子同士の連続的な結合と前記複数の空隙同士の連通とによって形成される、請求項5記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記複数の粒子の結合による骨格によって、前記複数の空隙が形成され、前記複数の空隙は、前記骨格の周囲に渡って連通する、請求項1から6のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記粒子は、平均粒径、構造および素材の少なくとも一つを基準とする複数の種類の粒子要素を含む、請求項1から7のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項9】
前記複数の粒子要素は、平均粒径の異なる第1粒子要素および第2粒子要素を含み、前記第1粒子要素は、0.2μm〜5μmの平均粒径を有し、前記第2粒子要素は、10μm〜200μmの平均粒径を有する、請求項8記載の衝撃吸収部材。
【請求項10】
前記粒子要素は、セラミックス粒子を含み、前記セラミックス粒子は、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物、金属元素の炭化物、金属元素のホウ化物およびこれらの固溶体の少なくとも一つを含む、請求項8又は9記載の衝撃吸収部材。
【請求項11】
前記セラミックス粒子は、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化チタン、窒化珪素、ホウ化チタン、炭化チタン、イットリア−アルミナ−ガーネット(以下、「YAG」という)、酸化珪素、酸化ジルコニウム(完全安定化酸化ジルコニウムおよび部分安定化酸化ジルコニウムを含む)および立方晶窒化ホウ素の少なくとも一つを含む、請求項8から10のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項12】
前記粒子要素は、セラミックス粒子および周囲を金属および有機物の少なくとも一つによって被覆されたセラミックス粒子の少なくとも一つを含む、請求項7から11のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項13】
前記飛翔物が、前記第1層および前記第2層を破壊する場合に、前記飛翔物の入射面における前記飛翔物の衝撃で破壊されて生じる開口面積S1(mm2)と、前記飛翔物の到達面における前記飛翔物による破壊で生じる開口面積S2(mm2)とは、前記第1層および前記第2層の合計の厚みをt1(mm)として
(関係式) S2 = (t1+a)2/a2 × S1
但し、50 ≧ a ≧ 1.44
で示される関係を有する、請求項1から12のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項14】
前記第2層に積層される第3層を更に備え、前記第2層および前記第3層の少なくとも一方は、前記飛翔物の衝突を受ける、請求項1から13のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項15】
前記第1層および前記第3層の少なくとも一方は、セラミックス、金属および合金の少なくとも一つで形成される層を有する、請求項14記載の衝撃吸収部材。
【請求項16】
前記第2層における前記複数の空隙の占める割合は、前記第2層全体に対して、20%〜50%である、請求項1から15のいずれか記載の衝撃吸収部材。
【請求項17】
前記飛翔物は、弾丸であって、
請求項1から16のいずれか記載の衝撃吸収部材を備え、
前記第3層および前記第2層の少なくとも一方は、前記弾丸の衝突を受ける防弾板。
【請求項18】
輸送機器としての骨格と、
前記骨格同士を接続して周囲を覆う装甲と、
前記輸送機器の走行もしくは飛行を可能とする駆動手段と、を備え、
前記装甲は、請求項17記載の防弾板を備える輸送機器。
【請求項19】
前記輸送機器は、一般車両、軍用車両、軍用軽車両および航空機の少なくとも一つを含む、請求項18記載の輸送機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−117705(P2012−117705A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265822(P2010−265822)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】
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