説明

衝撃強度、表面特性および流動性に優れたエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物

【課題】高結晶性ホモポリプロピレン、エチレン−プロピレン弾性共重合体および核剤を含んでなる、衝撃強度、表面特性および流動性に優れ、大型成形品および薄膜製品の成形に応用可能なエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物の提供。
【解決手段】アイソタクチックペンタッド分率が96%以上の高結晶性ホモポリプロピレン70ないし85質量%、およびエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が0.30ないし0.50のエチレン−プロピレン弾性共重合体15ないし30質量%を含んでなり、エチレン−プロピレン弾性共重合体/高結晶性ホモポリプロピレンの絶対粘度の比率は1.5ないし2.5であり、前記エチレン−プロピレン弾性共重合体は水素/エチレンのモル比が0.05ないし0.20の条件で形成されるエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃強度、表面特性および流動性に優れたエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物に関し、より詳しくは、高結晶性ホモポリプロピレン、エチレン−プロピレン弾性共重合体および選択的な核剤を含んでなるポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンモノマーを重合して製造されたホモポリプロピレンは、衝撃強度が低いため、衝撃強度を補完するために、α−オレフィンモノマー、例えばエチレンモノマーとプロピレンモノマーとを共重合することにより、エチレン−プロピレンブロック共重合体が製造されている。このようなエチレン−プロピレンブロック共重合体は、優れた衝撃特性により自動車部品、家電器具、工業部品、日常生活用品等および包装容器などの射出成形品、包装用フィルムおよび包装用シートなどに広範囲にわたって使われている。
【0003】
エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂は、その中のエチレン−プロピレン弾性共重合体の含量が増加すると、樹脂の衝撃強度は増加するが、剛性は低下するという問題がある。よって、一定水準の剛性を保つとともに衝撃強度を向上させるための様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、韓国特許出願公開第1998−0009364号明細書には、インパクトポリプロピレンにエチレン−プロピレンゴムおよびエチレンα−オレフィン共重合体を溶融混合する技術が開示されている。
【0005】
韓国特許出願第1998−0010099号明細書には、ゴムなどの衝撃補強剤を使用することなく、ポリプロピレンにビニル系架橋剤および有機過酸化物を添加した後、反応押出を行って架橋度を向上させてポリプロピレン樹脂の衝撃強度および剛性を高める技術が開示されている。ところが、この技術は、反応押出などの追加工程を必要とし、物性も充分に改善されず、再循環も不可能であるというところに問題がある。
【0006】
韓国特許出願第1998−0063753号明細書には、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体と無機系核剤とを含むことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物が開示されているが、この技術には、樹脂組成物が流動性、衝撃強度および剛性などを有するための具体的な技術を提示していないという問題がある。
【0007】
韓国特許出願公開第2001−0109865号明細書には、溶融指数80ないし120g/10分の高結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物が開示されているが、この特許文献は、高溶融指数による剛性および衝撃強度の低下を防止するためのポリプロピレン樹脂組成物中のエチレン−プロピレン弾性共重合体の含有量の最適化条件を開示していない。また、ポリプロピレン樹脂組成物が高剛性および高衝撃強度を有することを可能にするためには、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン弾性共重合体の界面張力(interfacial tension)の調節とエチレン−プロピレン弾性共重合体分子量の調節などによって、エチレン−プロピレン共重合体の分散および大きさを制御してエチレン−プロピレン弾性共重合体が微細分布を持つようにすることが必要である。ところが、この特許文献には上述した事実に関連した内容が開示されていないという点において、技術的な限界を持っている。
国際公開第2007/060114号パンフレットには、ホモポリプロピレンおよび2
つのエチレン−プロピレン弾性共重合体を含む、衝撃強度に優れたポリオレフィン組成物が開示されている。ところが、この特許文献の場合、エチレン−プロピレン弾性共重合体の製造には2つの気相反応器が必要である点、およびエチレン−プロピレン弾性共重合の組成および分散に関連した内容が全く提示されていないという点において、技術的限界を持っている。
【0008】
また、欧州特許2075284号明細書には、流動性に優れた、溶融指数110ないし500dg/分のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂のマトリクスの固有粘度(Intrinsic Viscosity、IV)および分子量分布、並びにエチレン−プロピレン弾性共重合体の組成および固有粘度(IV)が開示されている。ところが、この特許文献にはプロピレン樹脂の狭い分子量分布によりプロピレン樹脂の流動性および剛性の増加が期待できず、そして共重合体内にプロピレンの含量が多いので、プロピレン樹脂の衝撃強度の劣勢が予想される。また、この特許文献では、衝撃強度、表面特性などの改善に重要な要素であるエチレン−プロピレン弾性共重合体の分散に関連した内容が開示されていないという点において、技術的限界を持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許出願公開第1998−0009364号明細書
【特許文献2】韓国特許出願第1998−0010099号明細書
【特許文献3】韓国特許出願第1998−0063753号明細書
【特許文献4】韓国特許出願公開第2001−0109865号明細書
【特許文献5】国際特許公開WO2007/060114パンフレット
【特許文献6】欧州特許EP2075284明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため、本発明者らは、上述した問題点を解決するために鋭意努力した結果、エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物の物性に影響を及ぼす要素を調節することにより前記樹脂組成物の衝撃強度、表面特性および流動性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
そこで、本発明の目的は、高結晶性ホモポリプロピレン(A)、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)および選択的な核剤(C)を含んでなる、衝撃強度、表面特性および流動性に優れているので、実質的に大型成形品および薄膜製品の成形可能なエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様によれば、本発明は、アイソタクチックペンタッド分率が96%以上の高結晶性ホモポリプロピレン(A)70ないし85質量%、およびエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が0.30ないし0.50のエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)15ないし30質量%を含み、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)/高結晶性ホモポリプロピレン(A)の絶対粘度比が1.5ないし2.5である、エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【0013】
ここで、前記エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は5.0ないし10.0であり得る。
【0014】
さらに、前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)のガラス転移温度は−35℃以
下であり得る。
【0015】
また、前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)は、水素/エチレンのモル比が0.05ないし0.20の条件で形成される。
【0016】
さらにまた、前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)は0.5ないし2.0μmの大きさで前記樹脂組成物中に分散している。
【0017】
前記エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物は、前記高結晶性ホモポリプロピレン(A)および前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)100質量部に基いて、0.05ないし0.2質量部の核剤(C)をさらに含み、該核剤(C)は、ジベンジリデンソルビトール、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ジメチルベンジリデンソルビトール、アルキル安息香酸アルミニウム塩、有機リン金属塩、タルクおよびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0018】
さらに、前記樹脂組成物から成形され得られた試料をASTM D256に基いて23℃で測定されたアイゾット衝撃強度はノーブレーク(No−break)であり、ASTM D648に基いて測定された試料の引張強度は200kg/cm2以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物は、高結晶性ホモポリプロピレン(A)、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)および選択的な核剤(C)を含んでなる樹脂組成物であって、高結晶性ホモポリプロピレンおよびエチレン−プロピレン弾性共重合体の優れた特性により既存のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂に比べて衝撃強度が著しく優れるうえ、引張強度および流動性にも優れる。また、本発明の樹脂組成物は、そのポリプロピレン樹脂組成物を用いた成形製品の表面にゲル、フローマーク(flow mark)が生じず、および優れた特性を持っているので、自動車部品、家電器具、工業部品、日常生活用品、包装容器などの射出成形品および包装用フィルムおよびシート等の薄膜製品などの成形材料に適する。
【0020】
本発明の好ましい態様を例示を目的として開示されるが、添付した請求項に開示された本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者が理解できる様々な変更、追加および置換が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を示す電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】図2は、比較例1のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を示す電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図3は、比較例5のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を示す電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の好ましい態様を添付した図と参照して、詳細に説明する。
本発明の一様態は、エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を提供することであり、該樹脂組成物は、アイソタクチックペンタッド分率が96%以上の高結晶性ホモポリプロピレン(A)70ないし85質量%、およびエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が0.30ないし0.50のエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)15ないし30質量%を含み、そしてエチレン−プロピレン弾性共重合
体(B)/高結晶性ホモポリプロピレン(A)の絶対粘度の比率が1.5ないし2.5である。
【0023】
前記エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂は、マトリクスとして高結晶性ホモポリプロピレン(A)を、ドメインとしてエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)を含む。エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)は、非結晶性のエチレン−プロピレン共重合体(ラバー)と半結晶性のエチレン共重合体を含む。
【0024】
本発明のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂に高剛性を与えるために、前記ホモポリプロピレン(A)は高立体規則性を有するものでなければならない。すなわち、核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance)における立体規則度指数であるアイソタクチックペンタッド分率が96%以上のホモポリプロピレン(A)が要求される。
【0025】
エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の含量、分子量、組成、ガラス転移温度、粒子サイズおよび分布は、ポリプロピレン樹脂組成物の物性に影響を及ぼす主要要素である。
エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の含量が多くなると、衝撃強度は増加するが、一方、引張強度などの剛性は低下する。本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物において、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の含量が15質量%未満であれば、衝撃強度が低下するという問題があり、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の含量が30質量%を超えれば、剛性が低下する。
【0026】
エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の分子量は、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)を重合する気相反応器に注入される組成中の水素比率(水素/エチレン)によって決定され、絶対粘度で測定される。エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の分子量が小さければ、ドメインとしてのエチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさが小さくなる。本発明の使用に適した分子量を有するエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)を生成するために水素濃度は、水素/エチレンのモル比で0.05ないし0.20であり得る。水素/エチレンのモル比が0.20を超える場合、エチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさが小さく、それ故に衝撃を吸収するには十分ではない。また、水素/エチレンのモル比が0.05未満であれば、エチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさが大きくなり、組成物中にエチレン−プロピレン弾性共重合体が均一に分散されないため、衝撃強度が低下するおそれがある。
【0027】
ところが、エチレン−プロピレン弾性共重合体の分子量のみでエチレン−プロピレン弾性共重合体のサイズおよび分布を制御することには困難がある。よって、優れた衝撃強度および剛性を得るために、エチレン−プロピレン弾性共重合体の分子量およびホモポリプロピレン(A)の絶対粘度に対するエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の絶対粘度の比率を調節しなければならない。
【0028】
ホモポリプロピレン(A)に対するエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の絶対粘度の比率はマトリクスとしての役割を果たすホモポリプロピレン(A)と衝撃吸収剤の役割を果たすエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)間の相溶性に連関する変数である。各成分の絶対粘度の比率(Bの絶対粘度/Aの絶対粘度)は、好ましくは1.5ないし2.5であり、より好ましくは1.8ないし2.5である。各成分の絶対粘度の比率が1.5未満または2.5を超えるの場合、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)がホモポリプロピレン(A)内で凝集しているか或いは不均一に分散しており、衝撃強度および表面特性に優れたエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂を製造することができなくなる。
【0029】
エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の組成は、エチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比の調節によって調節される。その比率が高ければ、エチレン共重合体が生成され、その比率が低ければ、プロピレンランダム共重合体が生成される。エチレン−プロピレン弾性共重合体中のプロピレン含量が増加すると、高結晶性ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン弾性共重合体間の界面張力が弱くなってエチレン−プロピレン弾性共重合体の分散が良好になるので、優れた衝撃強度および剛性を持つエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂が得られる。エチレン−プロピレン弾性共重合体において、エチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が0.30より小さければ、エチレン−プロピレン弾性共重合体は容易に分散し、常温および低温でのプロピレン樹脂の衝撃強度は低くなる。逆に、エチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が0.50より大きければ、半結晶性のエチレン共重合体が生成し、および高結晶性ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン弾性共重合体間の界面張力が弱まり、プロピレン樹脂組成物の衝撃強度が低くなる。
【0030】
また、最大の衝撃強度を得るためには、エチレン−プロピレン弾性共重合体のガラス転移温度も重要な要素である。ガラス転移温度が低いほど、衝撃強度が優れる。よって、エチレン−プロピレン弾性共重合体のガラス転移温度が−35℃以下を満足しなければならず、そのガラス転移温度が−35℃をより高ければ、衝撃強度が低くなる。
【0031】
前記の要素に加えて、エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂の分子量分布も流動性および製品の機械的物性に影響を与える。一般に、分子量分布が広ければ、流動性および機械的物性が向上するが、一方、これによる衝撃強度は低下する。それ故、分子量分布を広くするためには、最適の触媒システムの使用しなければならず、およびホモポリマーを生産する2つの反応器で反応条件を異にするバイモーダル作動(bimodal operation)を適用しなければならない。エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が5以下であれば、流動性および剛性の増加を期待することができず、分子量分布が10以上であれば、衝撃強度が大きく低下する。
【0032】
また、本発明において、優れた衝撃強度および表面特性を有するエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂を得ることに重要な要素であるエチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさは0.5ないし2.0μmであることが好ましい。エチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさが0.5μmより小さい或いは2.0μmより大きい場合には、衝撃を吸収することができないため、衝撃強度が低くなり、エチレン−プロピレン弾性共重合体の分散が不十分になって魚の目(fish−eye)またはゲル形態の表面不良およびフローマーク(flow mark)が発生する。
【0033】
完成品の機械的強度を補完するために、本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は核剤(C)を更に含む。核剤(C)は、ジベンジリデンソルビトール、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ジメチルベンジリデンソルビトール、アルキル安息香酸アルミニウム塩、有機リン金属塩、タルクおよびこれらの混合物から選択され得る。好ましくはアルキル安息香酸アルミニウム塩が選択される。また、好ましい核剤(C)の含量は、高結晶性ホモポリプロピレン(A)およびエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)100質量部に基いて、0.05ないし0.2質量部である。核剤が0.05質量部未満であれば、十分な剛性および耐熱性を確保することができず、核剤が0.2質量部を超えれば、それ以上の物性向上を得ることができない。
【0034】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物には、酸化防止剤、中和剤、安定剤などの一般に使用される添加剤がさらに含まれ得る。酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、
リン系酸化防止剤、チオジプロピオネート相乗剤などが使用でき、中和剤としてはステアリン酸カルシウム、酸化亜鉛などが使用できる。
【0035】
ポリプロピレン樹脂が自動車用部品など産業用の製造に使用されるためには、ノーブレーク(No−Break)のアイゾット衝撃強度と200kg/cm2以上の引張強度が
ポリプロピレン樹脂に要求される。ところが、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、一般に使用されるタルクのような無機添加物の添加のみでは前記水準の衝撃強度および引張強度を同時に達成することができない。よって、本発明に開示されているように、ホモポリプロピレンの立体規則性、エチレン−プロピレン弾性共重合体の分子量、組成、ガラス転移温度、大きさ、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン弾性共重合体間の界面張力、各成分の含量および絶対粘度の比率などを総合的に制御してエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂を製造しなければならない。
【0036】
以下では、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。但し、これらの実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0037】
物性評価方法
本発明の実施例および比較例で製造されたポリプロピレンの組成物の物性を評価した方法は、次のとおりである。
1)溶融指数:ポリプロピレン樹脂組成物の溶融指数は、ASTM D1238に基いて230℃で2.16kgの荷重で測定した。
2)立体規則度:ポリプロピレン樹脂組成物の立体規則度は、13C−NMRを用いたホモポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位のアイソスタチック分率を測定して評価した。
3)引張強度:ASTM D648に基いてしてポリプロピレン樹脂組成物から成形された試験片を用いて引張強度を測定した。
4)アイゾット衝撃強度:ポリプロピレン樹脂組成物から成形された試料を3.2mmの厚さにした後、ASTM D256に基いて23℃でアイゾット衝撃強度を測定した。
5)キシレン溶融分:重合実験で得られた一定量の試料と一定量のキシレンとを丸底フラスコに入れ、沸点まで加熱して約1時間溶かして溶融混合物とした。それを常温まで徐冷して再結晶し、試料を抽出するためにキシレンを蒸発させた。残った試料の百分率を測定して、この百分率からエチレン−プロピレン弾性共重合体の含量を測定した。
6)ガラス転移温度:ASTM D7426に基いて、エチレン−プロピレン弾性共重合体のガラス転移を特定した。
7)絶対粘度:エチレン−プロピレン弾性共重合体を135℃でデカリンに溶かした後、粘度計で絶対粘度を測定した。
8)分子量分布:質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率をゲル透過クロマトグラフィー(GPC)法で測定した。
9)スパイラルフロー:150トンの射出成形機によって温度210℃でスパイラル金型に射出し、形成された試片の長さを測定した。
10)電子顕微鏡の撮影:試片を液体窒素に浸して冷却した後、マイクロトームで切断した。その切断片をシクロヘキサン溶液内に入れて超音波洗浄器で1時間放置させて試料内のエチレン−プロピレン弾性体を溶出した後、金で蒸着させた。次いで、ZEOL社の電子顕微鏡で試料内のエチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさおよび分散を観察した。
【0038】
1.ホモポリプロピレン(A)の製造
重合反応器に水素およびプロピレンを順次注入し、次いで60ないし80℃で35ないし40気圧下にスラリーバルク重合を行った。その溶融指数は水素の量を変えることによって調節した。ホモポリマーの分子量分布は2つの反応器の水素注入量によって調節した

【0039】
2.エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の製造
ホモポリプロピレン(A)の重合が完了した後、未反応プロピレンを除去し、圧力を常圧まで下げた後、70ないし80℃で10ないし15気圧下で反応容器にモノマーとしてエチレンとプロピレンを注入し、次いで反応容器に溶融指数調節剤として水素を注入して気体相で重合を連続的に行うことにより、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)を得た。この方法において、エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)内のエチレンおよびプロピレンの組成比は下記表1に示したエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比で調節した。その絶対粘度は水素/エチレンのモル比で調節した。
【0040】
3.ペレットおよび試験試片の製造
得られた樹脂組成物に1次酸化防止剤であるヒンダードフェノール系酸化防止剤としてペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−第三−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)−プロピオネート]0.05質量部、2次酸化防止剤であるリン系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−第三−ブチルフェニル)ホスフェート)0.10質量部、中和剤としてのカルシウムステアレート0.05質量部、および選択的な核剤としてのアルキル安息香酸アルミニウム塩0.10質量部を混合し、この混合物を二軸押出機でペレット化した後、DONGSHIN油圧社製の150トンの射出成形機でASTM規格の試験片にペレットを形成し、次いでその物性を測定した。下記表1および図1ないし3にその結果を示した。
【0041】
【表1】

ガス比a:C2/(C2+C3)(但し、C2:エチレン、C3:プロピレン)
絶対粘度の比率b:Bの絶対粘度/Aの絶対粘度
表面特性c:肉眼で評価したゲルおよびフローマークなどの状態
NBd:ノーブレーク(No−Break)
【0042】
前記表1から分かるように、実施例1ないし4と比較例1ないし4および6の絶対粘度の比率は1.5ないし2.5の範囲であるが、これに対し、比較例5の絶対粘度の比率は1.5ないし2.5の範囲を外れたものであり、比較例4はエチレン−プロピレン弾性共重合体の重合条件とガラス転移温度が実施例のそれらとは異なる。比較例1は実施例1と類似しているが、成分Bの含量が14質量%と低い点で差異がある。比較例2は、実施例1と類似しているが、ペンタッド分率は実施例1と差異がある。比較例3は、実施例2と類似しているが、分子量分布の差異がある。比較例5は絶対粘度の比率で実施例と差異があり、比較例6はエチレン−プロピレン弾性共重合体の重合条件で実施例と差異がある。
【0043】
前記実施例1ないし4および比較例1ないし6を比較した結果、高結晶性ホモポリプロピレン(A)およびエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の含量、高結晶性ホモポリプロピレン(A)のアイソタクチックペンタッド分率、絶対粘度の比率などの要素が前記ポリプロピレン樹脂組成物の衝撃強度、表面特性および流動性などの物性に影響を及ぼすことが分かる。また、前記の要素に加えて、分子量分布、ガラス転移温度、エチレン−プロピレン弾性共重合体の重合条件などもポリプロピレン樹脂組成物の物性に影響を及ぼす重要な要素であることが分かる。前記表1は、適切な条件下に製造されたエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物が衝撃強度、表面特性および流動性の項目で優れることを示す。
【0044】
また、前記実施例または比較例によって製造されたエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物を電子顕微鏡によって観察すると、実施例1(図1参照)の場合、エチレン−プロピレン弾性共重合体が0.5ないし2.0μmの大きさで均一に分散していることが分かる。一方、比較例1(図2参照)は、エチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさは適切であるが、エチレン−プロピレン弾性共重合体の量が少ないことが分かる。これは優れた衝撃強度のためにエチレン−プロピレン弾性共重合体の含量が重要であることを示す。また、比較例5(図3)は、エチレン−プロピレン弾性共重合体の量は適切であるが、エチレン−プロピレン弾性共重合体の大きさが3.0μm以上であることが分かる。これは優れた衝撃強度および表面特性の改善のために適切な大きさのエチレン−プロピレン弾性共重合体が樹脂組成物中に均一に分散していることが重要であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソタクチックペンタッド分率が96%以上の高結晶性ホモポリプロピレン(A)70ないし85質量%、およびエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が0.30ないし0.50のエチレン−プロピレン弾性共重合体(B)15ないし30質量%を含んでなり、
該エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)/該高結晶性ホモポリプロピレン(A)の絶対粘度の比率は1.5ないし2.5であることを特徴とする、
エチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は5.0ないし10.0であることを特徴とする、請求項1に記載のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)は、−35℃以下のガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項1に記載のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)は水素/エチレンのモル比が0.05ないし0.20の条件で形成されることを特徴とする、請求項1に記載のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)は、0.5ないし2.0μmの大きさで前記樹脂組成物中に分散していることを特徴とする、請求項1に記載のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、前記高結晶性ホモポリプロピレン(A)および前記エチレン−プロピレン弾性共重合体(B)の100質量部に基いて、0.05ないし0.2質量部の核剤(C)をさらに含み、
該核剤(C)は、ジベンジリデンソルビトール、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ジメチルベンジリデンソルビトール、アルキル安息香酸アルミニウム塩、有機リン金属塩、タルクおよびこれらの混合物の中から少なくとも1種選択されることを特徴とする、請求項1に記載のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物を成形して得られた試料の、ASTM D256に基いて23℃で測定されたアイゾット衝撃強度はノーブレーク(No−Break)であり、およびASTM
D648に基いて測定された該試料の引張強度は200kg/cm2以上であることを
特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のエチレン−プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−127118(P2011−127118A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283704(P2010−283704)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(507268341)エスケー イノベーション カンパニー リミテッド (57)
【Fターム(参考)】