衝撃緩和構造
【課題】クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも高い衝撃吸収性能を発揮することができる衝撃緩和構造を得る。
【解決手段】外側球状体16内で内側球状体18が移動可能に設けられている。そして、車両10に衝撃力が作用し内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除されると、慣性力によって内側球状体18が移動する。これにより、当該衝撃力による衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換され、衝撃エネルギが吸収される。また、外側球状体16及び内側球状体18は球状を成すため、車両10に衝撃力が作用すると、内側球状体18は外側球状体16の形状に沿って円運動する。このため、外側球状体16に作用する衝撃力による衝撃エネルギは、運動エネルギ及び位置エネルギに変換されることとなり、衝撃エネルギを効果的に吸収することができ、従来よりもさらに高い衝撃吸収性能を発揮することができる。
【解決手段】外側球状体16内で内側球状体18が移動可能に設けられている。そして、車両10に衝撃力が作用し内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除されると、慣性力によって内側球状体18が移動する。これにより、当該衝撃力による衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換され、衝撃エネルギが吸収される。また、外側球状体16及び内側球状体18は球状を成すため、車両10に衝撃力が作用すると、内側球状体18は外側球状体16の形状に沿って円運動する。このため、外側球状体16に作用する衝撃力による衝撃エネルギは、運動エネルギ及び位置エネルギに変換されることとなり、衝撃エネルギを効果的に吸収することができ、従来よりもさらに高い衝撃吸収性能を発揮することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受けた衝撃を緩和させる衝撃緩和構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車はクラッシャブルゾーンで衝撃を吸収する構造とされているが、自車より大きな車両との衝突では大きな衝撃を受けるおそれがある。これに対して、特許文献1に記載の発明には、車体を弾力物質で製造し車体の形状を真球状として衝撃を吸収する車体構造が開示されており、車体に反発性、圧力吸収性を持たせることで車体の衝撃吸収力を向上させるようにしている。
【0003】
一方、都市部では、渋滞、駐車場不足と駐車のし難さが問題となっている。このため、スモールカーが有効と思われるが、小型であるが故に大きな車との衝突に弱く、大型車との混在下での視界の悪さに問題がある。これに対して、特許文献2に記載の発明には、下部のプラットフォームが円形状を成し上部は半円球状のフレームで構成された球状の車体構造が開示されている。このような球状の車体では、小型であるので駐車もし易く場所も取らない上、重心が安定しロールオーバーを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−142509号公報
【特許文献2】米国特許第6796398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの車体構造では、自車よりも大きい車両との正面衝突又は側面衝突において、クラッシャブルゾーンを十分に確保できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも高い衝撃吸収性能を発揮することができる衝撃緩和構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の衝撃緩和構造は、外側部材と、前記外側部材内で移動可能に設けられ、当該外側部材に衝撃力が作用すると移動して、衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換される内側部材と、を有する。
【0008】
請求項1に記載の衝撃緩和構造では、外側部材及び内側部材の二重構造となっており、外側部材内で内側部材が移動可能に設けられている。そして、当該外側部材に衝撃力が作用すると内側部材が移動する。これにより、当該衝撃力による衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換され、内側部材への衝撃力が緩和される。つまり、内側部材の移動による摩擦抵抗によって内側部材への衝撃力が緩和される。なお、「内側部材」では、キャビンが構成されても良いし、収納庫が構成されても良い。
【0009】
請求項2に記載の衝撃緩和構造は、請求項1に記載の衝撃緩和構造において、前記外側部材が球状を成す外側球状体であり、前記内側部材が球状を成す内側球状体である。
【0010】
請求項2に記載の衝撃緩和構造では、外側球状体及び内側球状体が球状を成すため、外側球状体に衝撃力が作用すると内側球状体は外側球状体の内部で外側球状体の形状に沿って円運動する。この円運動が高さ方向に沿った移動の場合、外側球状体に作用する衝撃力による衝撃エネルギは、運動エネルギ及び位置エネルギに変換されることとなり、衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。
【0011】
つまり、あらゆる方向からの衝撃であっても、内側球状体が円運動することで内側部材への衝撃を緩和させることができる。また、内側球状体の円運動によって衝突ストロークを確保できるため、狭い空間内で衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。また、外側球状体が転倒などした場合、外側球状体は球状を成すため、当該外側球状体は回転するが、このとき地面との摩擦抵抗により外側球状体に作用する衝撃力を低減することができる。
【0012】
請求項3に記載の衝撃緩和構造は、請求項2に記載の衝撃緩和構造において、前記外側球状体と前記内側球状体とを結合すると共に、前記外側球状体に所定値以上の衝撃力が作用すると、結合状態を解除する結合部が設けられている。
【0013】
請求項3に記載の衝撃緩和構造では、外側球状体と内側球状体とを結合する結合部が設けられ、通常時においては、結合部を介して内側球状体が外側球状体に結合されている。そして、外側球状体に所定値以上の衝撃力が作用すると、当該結合部による外側球状体と内側球状体との結合状態が解除され、外側球状体に対して内側球状体が移動可能となる。このように、内側球状体が移動することによって、衝撃エネルギが、運動エネルギ及び位置エネルギに変換され、当該衝撃エネルギが効果的に吸収される。
【0014】
請求項4に記載の衝撃緩和構造は、請求項2又は3に記載の衝撃緩和構造において、少なくとも前記外側球状体が弾性体である。
【0015】
請求項4に記載の衝撃緩和構造では、少なくとも外側球状体が弾性体であるため、外側球状体に衝撃力が作用すると、外側球状体は弾性変形する。これによって、衝撃エネルギが吸収される。
【0016】
請求項5に記載の衝撃緩和構造は、請求項2〜4の何れか1項に記載の衝撃緩和構造において、前記外側球状体と前記内側球状体との間に粘性流体が設けられている。
【0017】
請求項5に記載の衝撃緩和構造では、外側球状体と内側球状体との間に粘性流体が設けられることで、内側球状体が移動するとき、当該内側球状体には粘性流体による粘性抵抗が作用することとなる。これにより、内側球状体への衝撃を緩和させることができる。
【0018】
請求項6に記載の衝撃緩和構造は、請求項1〜5の何れか1項に記載の外側部材及び内側部材によって構成された衝撃緩和ユニットが複数組み合わされて構成されている。
【0019】
請求項6に記載の衝撃緩和構造では、外側部材と、外側部材内で移動可能に設けられ、当該外側部材に衝撃力が作用すると移動して、衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換される内側部材と、によって構成された衝撃緩和ユニットが複数組み合わされて構成されている。これにより、高い衝撃吸収性能を発揮しつつ、衝撃緩和構造によって形成されたスペースを拡大することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、請求項1に記載の衝撃緩和構造は、クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも高い衝撃吸収性能を発揮することができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項2に記載の衝撃緩和構造は、内側部材の円運動による衝撃緩和によって、狭い空間内で衝撃エネルギを効果的に吸収することができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項3に記載の衝撃緩和構造は、エネルギの変換によって衝撃エネルギを吸収することができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項4に記載の衝撃緩和構造は、外側球状体の弾性変形によって衝撃エネルギを吸収することができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項5に記載の衝撃緩和構造は、粘性流体による粘性抵抗によって衝撃エネルギを吸収することができるという優れた効果を有する。
【0025】
請求項6に記載の衝撃緩和構造は、クラッシャブルゾーンを拡大してさらに高い衝撃吸収性能を発揮することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る衝撃緩和構造が適用された車両を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示される車体構造の平面図である。
【図3】(A)〜(D)は、図1に示される車両造が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図4】(A)、(B)は、図1に示される車両が前面衝突した際の作用を説明する平面図である。
【図5】(A)〜(D)は、図1に示される車両が側面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図6】外側球状体と内側球状体との結合部の構成を説明するブロック図である。
【図7】外側球状体と内側球状体とが一体に設けられた一体型の車両を模式的に示す側面図である。
【図8】一体型の車両と分離型の車両において、車両衝突における内側球状体の合成加速度と時間との関係を示すグラフである。
【図9】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(1)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図10】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(2)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図11】(A)、(B)は、図10に示される車両の平面図である。
【図12】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(2)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図13】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(3)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図14】(A)、(B)は、図13に示される車体構造の平面図である。
【図15】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(3)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図16】(A)、(B)は、図15に示される車体構造の平面図である。
【図17】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(4)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図18】(A)、(B)は、図17に示される車両の平面図である。
【図19】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(4)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図20】(A)、(B)は、図19に示される車両の平面図である。
【図21】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(4)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図22】(A)、(B)は、図21に示される車両の平面図である。
【図23】本発明の一実施形態に係る車両の変形例(5)を示す模式的な斜視図である。
【図24】本発明の一実施形態に係る車両の変形例(5)の他の例を示す模式的な斜視図である。
【図25】本発明の一実施形態に係る車両造の変形例(5)の他の例を示す模式的な斜視図である。
【図26】本発明の一実施形態に係る車両の変形例(6)を示す模式的な側面図である。
【図27】図26に示される車両の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
なお、各図において示される矢印UP、矢印FR、矢印RHは、車両上下方向上側、車両前後方向前側、車両幅方向右側をそれぞれ示している。
【0028】
(衝撃緩和構造の構成)
図1及び図2には、本発明の一実施形態に係る衝撃緩和構造が適用された車両10の模式図が示されている。図1には、当該車両10の側面図が示され、図2には、車両10の平面図が示されている。なお、これ以外の図面においても車両については模式図が示されている。
【0029】
図1及び図2に示されるように、この車両10は、角部にタイヤ12が取付けられた略平板状のシャーシ14と、当該シャーシ14上に設けられた、外側部材としての略球状の外側球状体16と、この外側球状体16の内部に設けられ当該外側球状体16の外形よりも小さい、内側部材としての略球状の内側球状体18と、を含んで構成されている。
【0030】
なお、ここでは内側球状体18の内部がキャビンとなる。そして、この内側球状体18及び外側球状体16は、剛性及び強度が高い略透明の強化樹脂で形成されており、図示はしないが、内側球状体18及び外側球状体16にはそれぞれドアが設けられ、当該ドアを通じて当該キャビンへの進入が可能となる。
【0031】
シャーシ14の車両前後端部には、エネルギ吸収部材20、22がそれぞれ設けられており、当該エネルギ吸収部材20、22によって車両10へ作用する衝撃力による衝撃エネルギが吸収される。なお、このエネルギ吸収部材20、22は必須の構成ではない。
【0032】
一方、図2に示されるように、内側球状体18は外側球状体16の車両前後方向及び車幅方向の中央部に配置されており、内側球状体18の下部と外側球状体16の下部は結合部24によって結合されている。そして、この結合部24では所定値以上の衝撃力が外側球状体16に作用すると、内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除されるように設定されている。なお、結合部24については、別途説明を行う。
【0033】
図3(A)〜(D)及び図4(A)、(B)には、車両10が前面衝突した場合の内側球状体18の動きが示されており、図3(A)〜(D)は、当該車両10の側面図、図4(A)、(B)は、車両10の平面図が示されている。
【0034】
図3(A)、(B)及び図4(A)に示されるように、車両10が被衝撃部材26に前面衝突し、外側球状体16に作用する衝撃力が所定値以上だった場合、内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除される。このため、内側球状体18は慣性力によって、図3(B)〜(D)及び図4(B)に示されるように、外側球状体16内で外側球状体16の形状に沿って円運動を行う。なお、図3(A)〜(D)で示す内側球状体18内の一点鎖線が、図3(A)で示す内側球状体18の初期位置における水平線である。
【0035】
また、図5(A)〜(D)には、車両10が側面衝突した場合の外側球状体16の動きが示されている。なお、図5(A)〜(D)で示す外側球状体16内の一点鎖線が、図5(A)で示す外側球状体16の初期位置における水平線である。図5(A)、(B)に示されるように、車両10が側面衝突により横転した場合、外側球状体16は略球状を成しているため、図5(B)〜(D)に示されるように、外側球状体16自体が回転することとなる。
【0036】
ここで、外側球状体16に作用する衝撃力が所定値以上か否かについては、車両10に設けられた荷重センサなどの検出装置28(図6参照)によって衝撃力が検出される。図6に示す検出装置28によって検出されたデータは制御部30へ送信される。そして、外側球状体16に作用する衝撃力が所定値以上の場合は、結合部24による結合状態が解除されるように設定されている。
【0037】
(衝撃緩和構造の作用・効果)
図1に示されるように、本実施形態では、車両10を構成するシャーシ14の上に設けられた外側球状体16の内部に内側球状体18が設けられている。つまり、外側球状体16と内側球状体18の二重構造となっており、外側球状体16内で内側球状体18が移動可能に設けられている。そして、図3(A)〜(D)に示されるように、車両10に衝撃力が作用し内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除されると、慣性力によって内側球状体18が移動する。
【0038】
これにより、当該衝撃力による衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換され、衝撃エネルギが吸収される。つまり、外側球状体16内で内側球状体18が移動することによる摩擦抵抗によって当該衝撃エネルギが吸収される。さらに、外側球状体16及び内側球状体18は球状を成すため、車両10に衝撃力が作用すると、内側球状体18は外側球状体16内で外側球状体16の形状に沿って円運動する。このため、外側球状体16に作用する衝撃力による衝撃エネルギは、運動エネルギ及び位置エネルギに変換されることとなり、衝撃エネルギを効果的に吸収することができ、従来よりもさらに高い衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0039】
また、図5(A)〜(D)に示されるように、外側球状体16が転倒などした場合、外側球状体16が回転しながら地面との摩擦抵抗により、外側球状体16に作用する衝撃力を低減することができる。つまり、車両10に対してあらゆる方向からの衝撃であっても、外側球状体16の回転及び内側球状体18の円運動によってその衝撃を緩和させることができる。
【0040】
また、内側球状体18の円運動によって衝突ストロークを確保できるため、狭い空間内で衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。さらに、内側球状体18及び外側球状体16は、強化樹脂で形成されているため、高い衝撃吸収性能を発揮しつつ、車両10を軽量化することができる。
【0041】
ここで、図7には、外側球状体16と内側球状体18が一体的に設けられた一体型(分離不能)の車両100が示されている。図8には、図7で示す一体型の車両100及び、図1で示す外側球状体16と内側球状体18とが分離可能な分離型の車両10において、車両衝突における内側球状体18の合成加速度と時間との関係が示されている。なお、ここでの「合成加速度」とは内側球状体18の3軸の加速度の2乗和平方根である。
【0042】
これによると、図7で示す一体型の車両100が衝突荷重を受けた場合、外側球状体102が受けた衝撃は内側球状体104にも同じように伝達されるため、図8に示されるように、衝撃を受けた直後、内側球状体104には大きな加速度が発生することとなる。
【0043】
一方、図1で示す分離型の車両10が衝突荷重を受けた場合、図3(A)〜(D)に示されるように、外側球状体16に対して内側球状体18が円運動を行う。つまり、分離型の車両10の場合、内側球状体18の合成加速度は断続的となり当該合成加速度は分散され、一体型の車両100に比べて小さい加速度しか発生しないことが判る。
【0044】
つまり、クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも、内側球状体18が狭い範囲内で外側球状体16の形状に沿って円運動することで、衝撃力が緩和されることとなる。また、内側球状体18は外側球状体16内で円運動をしながら外側球状体16との間ですべりを発生させることで、内側球状体18は自転しない状態で外側球状体16に対して公転することが可能となる。
【0045】
(その他の実施形態)
(1)図3(A)〜(D)に示されるように、本実施形態では、外側球状体16の内部には、当該外側球状体16の外形よりも小さい内側球状体18が設けられており、外側球状体16と内側球状体18の間には空間32が設けられているが、この空間32内に、図9(A)、(B)に示されるように、粘性流体34を充填させても良い。
【0046】
これによると、内側球状体18が移動するとき、当該内側球状体18には粘性流体34による粘性抵抗が作用することとなる。このため、粘性流体34による粘性抵抗によっても衝撃エネルギを吸収することができる。なお、外側球状体16に設けられたドア(図示省略)と内側球状体18に設けられたドア(図示省略)とを繋ぐ空間には、粘性流体34は充填されない。
【0047】
(2)また、図3(A)〜(D)に示されるように、本実施形態では、内側球状体18と外側球状体16とを結合させる結合部24の結合状態が解除されると、内側球状体18は外側球状体16の形状に沿って円運動を行い、この円運動はあらゆる方向に対して移動可能となっているが、内側球状体18の円運動の方向を特定するように設定しても良い。
【0048】
例えば、図10(A)に示されるように、外側球状体16の内周面には、車両前後方向に沿って外側球状体16の同心円上に環状のレール36が設けられており、当該レール36にはローラ38が係合されている。このローラ38がレール36に沿って移動可能となっている。一方、内側球状体18には、ローラ38と供回りするローラ39が設けられており、結合部40によってローラ39とローラ38とが互いに結合されている。そして、図10(A)、(B)及び図11(A)、(B)に示されるように、このローラ38を介して内側球状体18がレール36に沿って移動可能となる。
【0049】
つまり、内側球状体18は外側球状体16内で車両前後方向に沿って円運動を行う。ここでは、ローラ38はレール36に対して容易に取り外せないように係合されている。このため、例えば、図10(B)に示されるように、内側球状体18が外側球状体16の上部に移動したときに内側球状体18の円運動が停止した場合でも、内側球状体18はローラ39、ローラ38及びレール36を介して、外側球状体16の下部へ移動することができる。つまり、内側球状体18が外側球状体16の上部から落下するということはない。
【0050】
なお、図10(A)では、内側球状体18の初期位置が外側球状体16の下部に配置されているが、図12(A)に示されるように、内側球状体18の初期位置が外側球状体16の上部に配置されるように設定しても良い。これによると、車両10が落下衝撃を受けた場合でも、図12(B)に示されるように、内側球状体18はローラ39、ローラ38及びレール36を介して、外側球状体16の下部へ移動することができるため、内側球状体18への落下衝撃が緩和される。
【0051】
また、外側球状体16と内側球状体18との接合方法は上記に限るものではない。例えば、図示はしないが、ローラ38の代わりにレール36と係合するスライダを用いても良い。この場合、レール36とスライダとの摩擦係数を低くするため、レール36とスライダの摺動面には潤滑剤を塗った方が良い。また、レール36に代えてボールベアリングを外側球状体16の内周面に埋設しても良い。
【0052】
(3)さらに、図1に示されるように、本実施形態では、外側部材及び内側部材が球状体を成す、外側球状体16及び内側球状体18としたが、これに限るものではない。例えば、図13(A)及び図14(A)に示されるように、外側部材及び内側部材が円筒体を成す、外側円筒体42及び内側円筒体44であっても良い。
【0053】
この場合、外側円筒体42の軸芯が車両10の車幅方向に沿うように当該外側円筒体42が配置され、当該外側円筒体42の内部に、内側円筒体44の軸芯が車両10の車幅方向に沿うように当該内側円筒体44が配置される。これにより、図13(B)及び図14(B)に示されるように、内側円筒体44が外側円筒体42の周方向に沿って車両前後方向で円運動可能となる。なお、図15(A)、(B)及び図16(A)、(B)に示されるように、外側部材が円筒体(外側円筒体42)で内側部材が球状体(内側球状体18)であっても良い。
【0054】
(4)また、図17(A)及び図18(A)に示されるように、外側部材及び内側部材が円筒体を成す、外側円筒体50及び内側円筒体52であり、外側円筒体50の軸芯が車両10の高さ方向に沿うように当該外側円筒体50が配置され、当該外側円筒体50の内部に、内側円筒体52の軸芯が車両10の高さ方向に沿うように当該内側円筒体52が配置されるようにしても良い。これにより、図17(A)、(B)及び図18(A)、(B)に示されるように、内側円筒体52が外側円筒体50の周方向に沿って車幅方向及び車両前後方向で円運動可能となる。
【0055】
さらにまた、図19(A)、(B)及び図20(A)、(B)に示されるように、外側部材が円筒体(外側円筒体50)で内側部材が球状体(内側球状体18)であっても良いし、図21(A)、(B)及び図22(A)、(B)に示されるように、外側部材が球状体(外側球状体16)で内側部材が円筒体(内側円筒体52)であっても良い。
【0056】
(5)図1〜図22では、外側部材16、42、50又は内側部材18、44、52が球状体又は円筒体を成しているが、これ以外にも、少なくとも外側部材及び内側部材の一方が、スチール又はアルミニウム製の環状フレームによって略球状体が形成される構成でも良い。
【0057】
例えば、図23に示されるように、外側部材54が複数の環状フレーム56の結合によって略球状に形成され、当該外側部材54の内部に内側球状体18が設けられた構成でも良い。環状フレーム56で構成された外側部材54は、弾性領域内において弾性変形が可能であるため、当該外側部材54に衝撃力が作用すると、外側部材54は弾性変形し、これによって、衝撃エネルギが吸収される。
【0058】
また、図24に示されるように、外側球状体16の内部に設けられた内側部材60が複数の環状フレーム62の結合によって略球状に形成されても良い。この場合、環状フレーム62で構成された内側部材60は、弾性領域内において弾性変形が可能であるため、内側部材60に衝撃力が作用すると、当該内側部材60は弾性変形し、これによって、衝撃エネルギが吸収される。
【0059】
なお、図25に示されるように、環状フレーム56で構成された外側部材54の内部に環状フレーム62で構成された内側部材60が設けられるようにしても良い。この場合、外側部材54及び内側部材60が、弾性領域内において弾性変形が可能であるため、外側部材54に衝撃力が作用すると、外側部材54及び内側部材60の弾性変形によって、衝撃エネルギが吸収される。
【0060】
(6)また、図1〜図22では、車両10が、外側球状体16及び内側球状体18を有する1つの車体ユニット64で構成されているが、図26及び図27に示されるように、車両66が、当該車体ユニット64が複数組み合わされた構成であっても良い。これによると、高い衝撃吸収性能を発揮しつつ、衝撃緩和構造によって形成されたスペースを拡大することができる。
【0061】
なお、外側部材及び内側部材の形状について、内側部材が円運動できればよいため、球状及び円筒状においては楕円状も含まれる。また、本実施形態では、内側球状体18の内部をキャビンとしたが、内側球状体18の内部が収納庫であっても良い。また、本発明は、車両に限らない。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
10 車両
16 外側球状体(外側部材)
18 内側球状体(内側部材)
24 結合部
34 粘性流体
42 外側円筒体(外側部材)
44 内側円筒体(内側部材)
50 外側円筒体(外側部材)
52 内側円筒体(内側部材)
54 外側部材
60 内側部材
64 車体ユニット
66 車両
【技術分野】
【0001】
本発明は、受けた衝撃を緩和させる衝撃緩和構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車はクラッシャブルゾーンで衝撃を吸収する構造とされているが、自車より大きな車両との衝突では大きな衝撃を受けるおそれがある。これに対して、特許文献1に記載の発明には、車体を弾力物質で製造し車体の形状を真球状として衝撃を吸収する車体構造が開示されており、車体に反発性、圧力吸収性を持たせることで車体の衝撃吸収力を向上させるようにしている。
【0003】
一方、都市部では、渋滞、駐車場不足と駐車のし難さが問題となっている。このため、スモールカーが有効と思われるが、小型であるが故に大きな車との衝突に弱く、大型車との混在下での視界の悪さに問題がある。これに対して、特許文献2に記載の発明には、下部のプラットフォームが円形状を成し上部は半円球状のフレームで構成された球状の車体構造が開示されている。このような球状の車体では、小型であるので駐車もし易く場所も取らない上、重心が安定しロールオーバーを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−142509号公報
【特許文献2】米国特許第6796398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの車体構造では、自車よりも大きい車両との正面衝突又は側面衝突において、クラッシャブルゾーンを十分に確保できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも高い衝撃吸収性能を発揮することができる衝撃緩和構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の衝撃緩和構造は、外側部材と、前記外側部材内で移動可能に設けられ、当該外側部材に衝撃力が作用すると移動して、衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換される内側部材と、を有する。
【0008】
請求項1に記載の衝撃緩和構造では、外側部材及び内側部材の二重構造となっており、外側部材内で内側部材が移動可能に設けられている。そして、当該外側部材に衝撃力が作用すると内側部材が移動する。これにより、当該衝撃力による衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換され、内側部材への衝撃力が緩和される。つまり、内側部材の移動による摩擦抵抗によって内側部材への衝撃力が緩和される。なお、「内側部材」では、キャビンが構成されても良いし、収納庫が構成されても良い。
【0009】
請求項2に記載の衝撃緩和構造は、請求項1に記載の衝撃緩和構造において、前記外側部材が球状を成す外側球状体であり、前記内側部材が球状を成す内側球状体である。
【0010】
請求項2に記載の衝撃緩和構造では、外側球状体及び内側球状体が球状を成すため、外側球状体に衝撃力が作用すると内側球状体は外側球状体の内部で外側球状体の形状に沿って円運動する。この円運動が高さ方向に沿った移動の場合、外側球状体に作用する衝撃力による衝撃エネルギは、運動エネルギ及び位置エネルギに変換されることとなり、衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。
【0011】
つまり、あらゆる方向からの衝撃であっても、内側球状体が円運動することで内側部材への衝撃を緩和させることができる。また、内側球状体の円運動によって衝突ストロークを確保できるため、狭い空間内で衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。また、外側球状体が転倒などした場合、外側球状体は球状を成すため、当該外側球状体は回転するが、このとき地面との摩擦抵抗により外側球状体に作用する衝撃力を低減することができる。
【0012】
請求項3に記載の衝撃緩和構造は、請求項2に記載の衝撃緩和構造において、前記外側球状体と前記内側球状体とを結合すると共に、前記外側球状体に所定値以上の衝撃力が作用すると、結合状態を解除する結合部が設けられている。
【0013】
請求項3に記載の衝撃緩和構造では、外側球状体と内側球状体とを結合する結合部が設けられ、通常時においては、結合部を介して内側球状体が外側球状体に結合されている。そして、外側球状体に所定値以上の衝撃力が作用すると、当該結合部による外側球状体と内側球状体との結合状態が解除され、外側球状体に対して内側球状体が移動可能となる。このように、内側球状体が移動することによって、衝撃エネルギが、運動エネルギ及び位置エネルギに変換され、当該衝撃エネルギが効果的に吸収される。
【0014】
請求項4に記載の衝撃緩和構造は、請求項2又は3に記載の衝撃緩和構造において、少なくとも前記外側球状体が弾性体である。
【0015】
請求項4に記載の衝撃緩和構造では、少なくとも外側球状体が弾性体であるため、外側球状体に衝撃力が作用すると、外側球状体は弾性変形する。これによって、衝撃エネルギが吸収される。
【0016】
請求項5に記載の衝撃緩和構造は、請求項2〜4の何れか1項に記載の衝撃緩和構造において、前記外側球状体と前記内側球状体との間に粘性流体が設けられている。
【0017】
請求項5に記載の衝撃緩和構造では、外側球状体と内側球状体との間に粘性流体が設けられることで、内側球状体が移動するとき、当該内側球状体には粘性流体による粘性抵抗が作用することとなる。これにより、内側球状体への衝撃を緩和させることができる。
【0018】
請求項6に記載の衝撃緩和構造は、請求項1〜5の何れか1項に記載の外側部材及び内側部材によって構成された衝撃緩和ユニットが複数組み合わされて構成されている。
【0019】
請求項6に記載の衝撃緩和構造では、外側部材と、外側部材内で移動可能に設けられ、当該外側部材に衝撃力が作用すると移動して、衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換される内側部材と、によって構成された衝撃緩和ユニットが複数組み合わされて構成されている。これにより、高い衝撃吸収性能を発揮しつつ、衝撃緩和構造によって形成されたスペースを拡大することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、請求項1に記載の衝撃緩和構造は、クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも高い衝撃吸収性能を発揮することができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項2に記載の衝撃緩和構造は、内側部材の円運動による衝撃緩和によって、狭い空間内で衝撃エネルギを効果的に吸収することができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項3に記載の衝撃緩和構造は、エネルギの変換によって衝撃エネルギを吸収することができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項4に記載の衝撃緩和構造は、外側球状体の弾性変形によって衝撃エネルギを吸収することができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項5に記載の衝撃緩和構造は、粘性流体による粘性抵抗によって衝撃エネルギを吸収することができるという優れた効果を有する。
【0025】
請求項6に記載の衝撃緩和構造は、クラッシャブルゾーンを拡大してさらに高い衝撃吸収性能を発揮することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る衝撃緩和構造が適用された車両を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示される車体構造の平面図である。
【図3】(A)〜(D)は、図1に示される車両造が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図4】(A)、(B)は、図1に示される車両が前面衝突した際の作用を説明する平面図である。
【図5】(A)〜(D)は、図1に示される車両が側面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図6】外側球状体と内側球状体との結合部の構成を説明するブロック図である。
【図7】外側球状体と内側球状体とが一体に設けられた一体型の車両を模式的に示す側面図である。
【図8】一体型の車両と分離型の車両において、車両衝突における内側球状体の合成加速度と時間との関係を示すグラフである。
【図9】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(1)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図10】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(2)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図11】(A)、(B)は、図10に示される車両の平面図である。
【図12】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(2)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図13】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(3)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図14】(A)、(B)は、図13に示される車体構造の平面図である。
【図15】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(3)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図16】(A)、(B)は、図15に示される車体構造の平面図である。
【図17】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(4)を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図18】(A)、(B)は、図17に示される車両の平面図である。
【図19】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(4)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図20】(A)、(B)は、図19に示される車両の平面図である。
【図21】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両の変形例(4)の他の例を示す、車両が前面衝突した際の作用を説明する側面図である。
【図22】(A)、(B)は、図21に示される車両の平面図である。
【図23】本発明の一実施形態に係る車両の変形例(5)を示す模式的な斜視図である。
【図24】本発明の一実施形態に係る車両の変形例(5)の他の例を示す模式的な斜視図である。
【図25】本発明の一実施形態に係る車両造の変形例(5)の他の例を示す模式的な斜視図である。
【図26】本発明の一実施形態に係る車両の変形例(6)を示す模式的な側面図である。
【図27】図26に示される車両の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
なお、各図において示される矢印UP、矢印FR、矢印RHは、車両上下方向上側、車両前後方向前側、車両幅方向右側をそれぞれ示している。
【0028】
(衝撃緩和構造の構成)
図1及び図2には、本発明の一実施形態に係る衝撃緩和構造が適用された車両10の模式図が示されている。図1には、当該車両10の側面図が示され、図2には、車両10の平面図が示されている。なお、これ以外の図面においても車両については模式図が示されている。
【0029】
図1及び図2に示されるように、この車両10は、角部にタイヤ12が取付けられた略平板状のシャーシ14と、当該シャーシ14上に設けられた、外側部材としての略球状の外側球状体16と、この外側球状体16の内部に設けられ当該外側球状体16の外形よりも小さい、内側部材としての略球状の内側球状体18と、を含んで構成されている。
【0030】
なお、ここでは内側球状体18の内部がキャビンとなる。そして、この内側球状体18及び外側球状体16は、剛性及び強度が高い略透明の強化樹脂で形成されており、図示はしないが、内側球状体18及び外側球状体16にはそれぞれドアが設けられ、当該ドアを通じて当該キャビンへの進入が可能となる。
【0031】
シャーシ14の車両前後端部には、エネルギ吸収部材20、22がそれぞれ設けられており、当該エネルギ吸収部材20、22によって車両10へ作用する衝撃力による衝撃エネルギが吸収される。なお、このエネルギ吸収部材20、22は必須の構成ではない。
【0032】
一方、図2に示されるように、内側球状体18は外側球状体16の車両前後方向及び車幅方向の中央部に配置されており、内側球状体18の下部と外側球状体16の下部は結合部24によって結合されている。そして、この結合部24では所定値以上の衝撃力が外側球状体16に作用すると、内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除されるように設定されている。なお、結合部24については、別途説明を行う。
【0033】
図3(A)〜(D)及び図4(A)、(B)には、車両10が前面衝突した場合の内側球状体18の動きが示されており、図3(A)〜(D)は、当該車両10の側面図、図4(A)、(B)は、車両10の平面図が示されている。
【0034】
図3(A)、(B)及び図4(A)に示されるように、車両10が被衝撃部材26に前面衝突し、外側球状体16に作用する衝撃力が所定値以上だった場合、内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除される。このため、内側球状体18は慣性力によって、図3(B)〜(D)及び図4(B)に示されるように、外側球状体16内で外側球状体16の形状に沿って円運動を行う。なお、図3(A)〜(D)で示す内側球状体18内の一点鎖線が、図3(A)で示す内側球状体18の初期位置における水平線である。
【0035】
また、図5(A)〜(D)には、車両10が側面衝突した場合の外側球状体16の動きが示されている。なお、図5(A)〜(D)で示す外側球状体16内の一点鎖線が、図5(A)で示す外側球状体16の初期位置における水平線である。図5(A)、(B)に示されるように、車両10が側面衝突により横転した場合、外側球状体16は略球状を成しているため、図5(B)〜(D)に示されるように、外側球状体16自体が回転することとなる。
【0036】
ここで、外側球状体16に作用する衝撃力が所定値以上か否かについては、車両10に設けられた荷重センサなどの検出装置28(図6参照)によって衝撃力が検出される。図6に示す検出装置28によって検出されたデータは制御部30へ送信される。そして、外側球状体16に作用する衝撃力が所定値以上の場合は、結合部24による結合状態が解除されるように設定されている。
【0037】
(衝撃緩和構造の作用・効果)
図1に示されるように、本実施形態では、車両10を構成するシャーシ14の上に設けられた外側球状体16の内部に内側球状体18が設けられている。つまり、外側球状体16と内側球状体18の二重構造となっており、外側球状体16内で内側球状体18が移動可能に設けられている。そして、図3(A)〜(D)に示されるように、車両10に衝撃力が作用し内側球状体18と外側球状体16との結合状態が解除されると、慣性力によって内側球状体18が移動する。
【0038】
これにより、当該衝撃力による衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換され、衝撃エネルギが吸収される。つまり、外側球状体16内で内側球状体18が移動することによる摩擦抵抗によって当該衝撃エネルギが吸収される。さらに、外側球状体16及び内側球状体18は球状を成すため、車両10に衝撃力が作用すると、内側球状体18は外側球状体16内で外側球状体16の形状に沿って円運動する。このため、外側球状体16に作用する衝撃力による衝撃エネルギは、運動エネルギ及び位置エネルギに変換されることとなり、衝撃エネルギを効果的に吸収することができ、従来よりもさらに高い衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0039】
また、図5(A)〜(D)に示されるように、外側球状体16が転倒などした場合、外側球状体16が回転しながら地面との摩擦抵抗により、外側球状体16に作用する衝撃力を低減することができる。つまり、車両10に対してあらゆる方向からの衝撃であっても、外側球状体16の回転及び内側球状体18の円運動によってその衝撃を緩和させることができる。
【0040】
また、内側球状体18の円運動によって衝突ストロークを確保できるため、狭い空間内で衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。さらに、内側球状体18及び外側球状体16は、強化樹脂で形成されているため、高い衝撃吸収性能を発揮しつつ、車両10を軽量化することができる。
【0041】
ここで、図7には、外側球状体16と内側球状体18が一体的に設けられた一体型(分離不能)の車両100が示されている。図8には、図7で示す一体型の車両100及び、図1で示す外側球状体16と内側球状体18とが分離可能な分離型の車両10において、車両衝突における内側球状体18の合成加速度と時間との関係が示されている。なお、ここでの「合成加速度」とは内側球状体18の3軸の加速度の2乗和平方根である。
【0042】
これによると、図7で示す一体型の車両100が衝突荷重を受けた場合、外側球状体102が受けた衝撃は内側球状体104にも同じように伝達されるため、図8に示されるように、衝撃を受けた直後、内側球状体104には大きな加速度が発生することとなる。
【0043】
一方、図1で示す分離型の車両10が衝突荷重を受けた場合、図3(A)〜(D)に示されるように、外側球状体16に対して内側球状体18が円運動を行う。つまり、分離型の車両10の場合、内側球状体18の合成加速度は断続的となり当該合成加速度は分散され、一体型の車両100に比べて小さい加速度しか発生しないことが判る。
【0044】
つまり、クラッシャブルゾーンが十分に確保できない場合でも、内側球状体18が狭い範囲内で外側球状体16の形状に沿って円運動することで、衝撃力が緩和されることとなる。また、内側球状体18は外側球状体16内で円運動をしながら外側球状体16との間ですべりを発生させることで、内側球状体18は自転しない状態で外側球状体16に対して公転することが可能となる。
【0045】
(その他の実施形態)
(1)図3(A)〜(D)に示されるように、本実施形態では、外側球状体16の内部には、当該外側球状体16の外形よりも小さい内側球状体18が設けられており、外側球状体16と内側球状体18の間には空間32が設けられているが、この空間32内に、図9(A)、(B)に示されるように、粘性流体34を充填させても良い。
【0046】
これによると、内側球状体18が移動するとき、当該内側球状体18には粘性流体34による粘性抵抗が作用することとなる。このため、粘性流体34による粘性抵抗によっても衝撃エネルギを吸収することができる。なお、外側球状体16に設けられたドア(図示省略)と内側球状体18に設けられたドア(図示省略)とを繋ぐ空間には、粘性流体34は充填されない。
【0047】
(2)また、図3(A)〜(D)に示されるように、本実施形態では、内側球状体18と外側球状体16とを結合させる結合部24の結合状態が解除されると、内側球状体18は外側球状体16の形状に沿って円運動を行い、この円運動はあらゆる方向に対して移動可能となっているが、内側球状体18の円運動の方向を特定するように設定しても良い。
【0048】
例えば、図10(A)に示されるように、外側球状体16の内周面には、車両前後方向に沿って外側球状体16の同心円上に環状のレール36が設けられており、当該レール36にはローラ38が係合されている。このローラ38がレール36に沿って移動可能となっている。一方、内側球状体18には、ローラ38と供回りするローラ39が設けられており、結合部40によってローラ39とローラ38とが互いに結合されている。そして、図10(A)、(B)及び図11(A)、(B)に示されるように、このローラ38を介して内側球状体18がレール36に沿って移動可能となる。
【0049】
つまり、内側球状体18は外側球状体16内で車両前後方向に沿って円運動を行う。ここでは、ローラ38はレール36に対して容易に取り外せないように係合されている。このため、例えば、図10(B)に示されるように、内側球状体18が外側球状体16の上部に移動したときに内側球状体18の円運動が停止した場合でも、内側球状体18はローラ39、ローラ38及びレール36を介して、外側球状体16の下部へ移動することができる。つまり、内側球状体18が外側球状体16の上部から落下するということはない。
【0050】
なお、図10(A)では、内側球状体18の初期位置が外側球状体16の下部に配置されているが、図12(A)に示されるように、内側球状体18の初期位置が外側球状体16の上部に配置されるように設定しても良い。これによると、車両10が落下衝撃を受けた場合でも、図12(B)に示されるように、内側球状体18はローラ39、ローラ38及びレール36を介して、外側球状体16の下部へ移動することができるため、内側球状体18への落下衝撃が緩和される。
【0051】
また、外側球状体16と内側球状体18との接合方法は上記に限るものではない。例えば、図示はしないが、ローラ38の代わりにレール36と係合するスライダを用いても良い。この場合、レール36とスライダとの摩擦係数を低くするため、レール36とスライダの摺動面には潤滑剤を塗った方が良い。また、レール36に代えてボールベアリングを外側球状体16の内周面に埋設しても良い。
【0052】
(3)さらに、図1に示されるように、本実施形態では、外側部材及び内側部材が球状体を成す、外側球状体16及び内側球状体18としたが、これに限るものではない。例えば、図13(A)及び図14(A)に示されるように、外側部材及び内側部材が円筒体を成す、外側円筒体42及び内側円筒体44であっても良い。
【0053】
この場合、外側円筒体42の軸芯が車両10の車幅方向に沿うように当該外側円筒体42が配置され、当該外側円筒体42の内部に、内側円筒体44の軸芯が車両10の車幅方向に沿うように当該内側円筒体44が配置される。これにより、図13(B)及び図14(B)に示されるように、内側円筒体44が外側円筒体42の周方向に沿って車両前後方向で円運動可能となる。なお、図15(A)、(B)及び図16(A)、(B)に示されるように、外側部材が円筒体(外側円筒体42)で内側部材が球状体(内側球状体18)であっても良い。
【0054】
(4)また、図17(A)及び図18(A)に示されるように、外側部材及び内側部材が円筒体を成す、外側円筒体50及び内側円筒体52であり、外側円筒体50の軸芯が車両10の高さ方向に沿うように当該外側円筒体50が配置され、当該外側円筒体50の内部に、内側円筒体52の軸芯が車両10の高さ方向に沿うように当該内側円筒体52が配置されるようにしても良い。これにより、図17(A)、(B)及び図18(A)、(B)に示されるように、内側円筒体52が外側円筒体50の周方向に沿って車幅方向及び車両前後方向で円運動可能となる。
【0055】
さらにまた、図19(A)、(B)及び図20(A)、(B)に示されるように、外側部材が円筒体(外側円筒体50)で内側部材が球状体(内側球状体18)であっても良いし、図21(A)、(B)及び図22(A)、(B)に示されるように、外側部材が球状体(外側球状体16)で内側部材が円筒体(内側円筒体52)であっても良い。
【0056】
(5)図1〜図22では、外側部材16、42、50又は内側部材18、44、52が球状体又は円筒体を成しているが、これ以外にも、少なくとも外側部材及び内側部材の一方が、スチール又はアルミニウム製の環状フレームによって略球状体が形成される構成でも良い。
【0057】
例えば、図23に示されるように、外側部材54が複数の環状フレーム56の結合によって略球状に形成され、当該外側部材54の内部に内側球状体18が設けられた構成でも良い。環状フレーム56で構成された外側部材54は、弾性領域内において弾性変形が可能であるため、当該外側部材54に衝撃力が作用すると、外側部材54は弾性変形し、これによって、衝撃エネルギが吸収される。
【0058】
また、図24に示されるように、外側球状体16の内部に設けられた内側部材60が複数の環状フレーム62の結合によって略球状に形成されても良い。この場合、環状フレーム62で構成された内側部材60は、弾性領域内において弾性変形が可能であるため、内側部材60に衝撃力が作用すると、当該内側部材60は弾性変形し、これによって、衝撃エネルギが吸収される。
【0059】
なお、図25に示されるように、環状フレーム56で構成された外側部材54の内部に環状フレーム62で構成された内側部材60が設けられるようにしても良い。この場合、外側部材54及び内側部材60が、弾性領域内において弾性変形が可能であるため、外側部材54に衝撃力が作用すると、外側部材54及び内側部材60の弾性変形によって、衝撃エネルギが吸収される。
【0060】
(6)また、図1〜図22では、車両10が、外側球状体16及び内側球状体18を有する1つの車体ユニット64で構成されているが、図26及び図27に示されるように、車両66が、当該車体ユニット64が複数組み合わされた構成であっても良い。これによると、高い衝撃吸収性能を発揮しつつ、衝撃緩和構造によって形成されたスペースを拡大することができる。
【0061】
なお、外側部材及び内側部材の形状について、内側部材が円運動できればよいため、球状及び円筒状においては楕円状も含まれる。また、本実施形態では、内側球状体18の内部をキャビンとしたが、内側球状体18の内部が収納庫であっても良い。また、本発明は、車両に限らない。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
10 車両
16 外側球状体(外側部材)
18 内側球状体(内側部材)
24 結合部
34 粘性流体
42 外側円筒体(外側部材)
44 内側円筒体(内側部材)
50 外側円筒体(外側部材)
52 内側円筒体(内側部材)
54 外側部材
60 内側部材
64 車体ユニット
66 車両
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材と、
前記外側部材内で移動可能に設けられ、当該外側部材に衝撃力が作用すると移動して、衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換される内側部材と、
を有する衝撃緩和構造。
【請求項2】
前記外側部材が球状を成す外側球状体であり、前記内側部材が球状を成す内側球状体である請求項1に記載の衝撃緩和構造。
【請求項3】
前記外側球状体と前記内側球状体とを結合すると共に、前記外側球状体に所定値以上の衝撃力が作用すると、結合状態を解除する結合部が設けられた請求項2に記載の衝撃緩和構造。
【請求項4】
少なくとも前記外側球状体が弾性体である請求項2又は3に記載の衝撃緩和構造。
【請求項5】
前記外側球状体と前記内側球状体との間に粘性流体が設けられた請求項2〜4の何れか1項に記載の衝撃緩和構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の外側部材及び内側部材によって構成された衝撃緩和ユニットが複数組み合わされて構成された衝撃緩和構造。
【請求項1】
外側部材と、
前記外側部材内で移動可能に設けられ、当該外側部材に衝撃力が作用すると移動して、衝撃エネルギが少なくとも運動エネルギに変換される内側部材と、
を有する衝撃緩和構造。
【請求項2】
前記外側部材が球状を成す外側球状体であり、前記内側部材が球状を成す内側球状体である請求項1に記載の衝撃緩和構造。
【請求項3】
前記外側球状体と前記内側球状体とを結合すると共に、前記外側球状体に所定値以上の衝撃力が作用すると、結合状態を解除する結合部が設けられた請求項2に記載の衝撃緩和構造。
【請求項4】
少なくとも前記外側球状体が弾性体である請求項2又は3に記載の衝撃緩和構造。
【請求項5】
前記外側球状体と前記内側球状体との間に粘性流体が設けられた請求項2〜4の何れか1項に記載の衝撃緩和構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の外側部材及び内側部材によって構成された衝撃緩和ユニットが複数組み合わされて構成された衝撃緩和構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−122600(P2012−122600A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276258(P2010−276258)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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