説明

衝撃試験用固定治具

【課題】ターゲットを何ら加工することなく、ターゲットの取り付け/取り外しを簡易に行うことが可能で、且つ、従来のボルト締めによる固定と同等の試験精度を得られる衝撃試験用固定治具を提供する。
【解決手段】ターゲット4に弾丸2を衝突させてターゲット4の耐衝撃特性を試験すべく、ターゲット4を弾丸貫通部12が形成された支持部材6に固定するための衝撃試験用固定治具16において、支持部材6の弾丸貫通部12周りに固定された固定枠17と、ターゲット4を固定枠17に押さえ付ける押さえ枠18と、固定枠17と押さえ枠18に着脱自在に設けられ、固定枠17と押さえ枠18をクランプするクランプ治具19とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに弾丸を衝突させてターゲットの耐衝撃特性を試験すべく、ターゲットを固定するための衝撃試験用固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の耐衝撃特性を取得するための衝撃試験においては、試験対象の材料で形成されたターゲットに球形状や円筒形状の弾丸を衝突させることで、材料の耐衝撃特性を取得、評価している。
【0003】
ターゲットを固定する際には、ターゲットを支持するためにターゲットの前後に金属製の固定枠を配置して押さえ付ける構造を採っている。
【0004】
このとき、従来はターゲットと固定枠の外周とをボルトを介して固定していた。つまり、ターゲットの周囲の複数箇所に予めボルト締めのためのボルト穴を形成しておき、このボルト穴を通じて固定枠と共にボルト締めして、ターゲットを固定していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G.M. Zhang, R.C. Barta, J. Zhang、「Effect of frame size, frame type, and clamping pressure on the ballistic performance of soft body armor」、SienceDirect、Composites Part B: Engineering、Volume 39、Issue 3、April 2008、P.476-489
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ターゲットと固定枠の外周とをボルトを介して固定する方法では、ターゲットにボルト穴加工を施す手間が掛かり、また、ボルトの着脱を伴うターゲットの取り付け/取り外しに多大な人的コストを必要としていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ターゲットを何ら加工することなく、ターゲットの取り付け/取り外しを簡易に行うことが可能で、且つ、従来のボルト締めによる固定と同等の試験精度を得られる衝撃試験用固定治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために創案された本発明は、ターゲットに弾丸を衝突させて前記ターゲットの耐衝撃特性を試験すべく、前記ターゲットを弾丸貫通部が形成された支持部材に固定するための衝撃試験用固定治具において、前記支持部材の前記弾丸貫通部周りに固定された固定枠と、前記ターゲットを前記固定枠に押さえ付ける押さえ枠と、前記固定枠と前記押さえ枠に着脱自在に設けられ、前記固定枠と前記押さえ枠をクランプするクランプ治具とを備える衝撃試験用固定治具である。
【0009】
前記クランプ治具は、前記固定枠と前記押さえ枠に着脱自在に設けられ、前記固定枠と前記押さえ枠を挟み込むクランプ本体と、前記クランプ本体に螺合され、前記押さえ枠を前記固定枠側に押圧するクランピングボルトとからなると良い。
【0010】
前記クランピングボルトは、軸部の一部が切削されて形成された切削面を有し、前記切削面に歪みゲージが取り付けられると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ターゲットを何ら加工することなく、ターゲットの取り付け/取り外しを簡易に行うことが可能で、且つ、従来のボルト締めによる固定と同等の試験精度を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る衝撃試験用固定治具を備えた衝撃試験装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る衝撃試験用固定治具を示す図であり、(a)は全体の断面図、(b)はクランプ治具部分の断面図である。
【図3】クランピングボルトの一例を示す図である。
【図4】クランピングボルトの締め付けトルクと圧縮歪みの関係を示す図である。
【図5】クランピングボルトの締め付けトルクと固有振動数の関係を示す図である。
【図6】弾丸の衝突速度と残留速度の関係を示す図である。
【図7】弾丸の衝突エネルギと吸収エネルギの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
初めに、衝撃試験装置を説明する。
【0015】
図1(a)に示すように、衝撃試験装置1は、弾丸2を射出する射出機(図示せず)と、弾丸2の弾道を固定するガイドレール3と、ガイドレール3の射出方向先端を収容すると共に、弾丸2を衝突させるターゲット4が収容されたチャンバ5と、チャンバ5内に設けられ、ターゲット4を固定するための支持部材6と、ターゲット4を打ち抜いた弾丸2を回収するための回収材7とを主に備える。
【0016】
弾丸2は、例えば、球形状や円筒形状に形成された鋼等からなる。ガイドレール3は、弾丸2が決められた弾道で射出されるように、また、弾丸2が異形状の場合にその姿勢を維持したまま射出されるように、弾丸2を拘束するものである。試験対象であるターゲット4は、耐衝撃特性を取得すべき材料で、例えば板状に形成される。
【0017】
チャンバ5は、衝撃試験時にターゲット4の破片や弾丸2が外部に飛び散らないようにするためのものである。チャンバ5内には、ガイドレール3の射出方向先端側で弾丸2の速度を計測するためのレーザ速度計8が設けられており、衝突前の弾丸2の速度(衝突速度)を測定できるようになっている。
【0018】
また、チャンバ5外には、衝突現象を捉えるための高速度カメラ9が配置される。チャンバ5外の複数箇所(図1では3箇所)には、高速度カメラ9による撮影のためのストロボ10が設けられると共に、チャンバ5内には、ターゲット4の貫通側の面の映像を高速度カメラ9に反射するための鏡11が設けられる。
【0019】
この高速度カメラ9は、衝突現象の撮影の他、ターゲット4を通過した後の弾丸2の速度(残留速度)の計測に用いられる。残留速度は、高速度カメラ9によって撮影された連続写真に基づいて計算する。
【0020】
支持部材6には、弾丸2を通過させるための孔状の弾丸貫通部12が形成され、ターゲット4は、その中心が支持部材6の弾丸貫通部12に位置するように支持部材6に固定されることが好ましい。
【0021】
支持部材6は、両側を補強板13にて補強され、弾丸2がターゲット4に打ち込まれたときの衝撃に耐えられるようになっている。補強板13には、観察用の観察孔14が形成されている。
【0022】
回収材7の貫通側の面には鉄板15が配置され、弾丸2が回収材7を貫通してそれよりも後方に打ち込まれないようになっている。
【0023】
次に、衝撃試験用固定治具の構成を説明する。
【0024】
図1(b)に示すように、衝撃試験用固定治具16は、ターゲット4に弾丸2を衝突させてターゲット4の耐衝撃特性を試験すべく、ターゲット4を弾丸貫通部12が形成された支持部材6の貫通側に固定するためのものである。
【0025】
具体的には、支持部材6の弾丸貫通部12周りに固定された衝突側の固定枠17と、ターゲット4を固定枠17に押さえ付ける貫通側の押さえ枠18と、固定枠17と押さえ枠18の四隅に着脱自在に設けられ、固定枠17と押さえ枠18をクランプするクランプ治具19とを備える。
【0026】
クランプ治具19は、固定枠17と押さえ枠18の四隅に着脱自在に設けられ、固定枠17と押さえ枠18を挟み込むクランプ本体20と、クランプ本体20に螺合され、押さえ枠18を固定枠17側に押圧するクランピングボルト21とからなる。
【0027】
図2(a),(b)に示すように、固定枠17は、支持部材6にボルト22により固定される。このとき、ボルト22の軸部23は円筒状のスペーサ24に挿入され、支持部材6と固定枠17との距離が一定となるように固定される。
【0028】
クランプ本体20は、断面が略コ字状に形成されており、固定枠17と押さえ枠18を挟み込むと共に、固定枠17、ターゲット4、押さえ枠18のそれぞれを位置決めして保持するようになっている。
【0029】
図3に示すように、クランピングボルト21は、軸部25の一部が切削されて形成された螺合方向に平行な切削面26を有し、切削面26に歪みゲージ27が取り付けられる。この歪みゲージ27は、衝突試験時にターゲット4の反力を計測するためのものである。
【0030】
クランピングボルト21は、軸部25の先端に球座28が形成されており、この球座28にボール29等が取り付けられており、所定の角度範囲で対象をクランプできるように構成されたものである。
【0031】
次に、衝撃試験用固定治具16の作用を説明する。
【0032】
この衝撃試験用固定治具16を用いてターゲット4を固定する際には、ターゲット4を押さえ枠18により固定枠17に押さえ付け、その状態で固定枠17と押さえ枠18の四隅をクランプ本体20で挟み込み、しかる後、クランピングボルト21で所定の締め付けトルクにて押さえ枠18を固定枠17側に押圧して、ターゲット4を支持部材6に固定する。
【0033】
試験後のターゲット4の交換は、クランピングボルト21を緩めると共に、上側の2つのクランプ本体20を取り外し、ターゲット4を交換後、再び上側の2つのクランプ本体20を取り付けると共に、クランピングボルト21を締め付けることで行う。
【0034】
このように、本実施の形態に係る衝撃試験用固定治具16では、4本のクランピングボルト21を締め付けるだけで、支持部材6にターゲット4を固定できる。つまり、衝撃試験用固定治具16では、ターゲット4を何ら加工することなく、ターゲット4の取り付け/取り外しを簡易に行うことが可能である。また、ターゲット4の締結力をクランピングボルト21の締め付けトルクにより管理することができる。
【0035】
よって、衝撃試験用固定治具16によれば、ターゲット4の締結力を管理できるという要求性能は保ちつつも、ターゲット4の加工コスト/ターゲット4の着脱時の人的コストを大幅に削減することができる。
【0036】
また、衝撃試験用固定治具16を備えた衝撃試験装置1を用いて衝撃試験を行う際には、先ず、前述したように、衝撃試験用固定治具16を用いてターゲット4を支持部材6に固定する。その後、射出機から弾丸2を射出してターゲット4に衝突させる。
【0037】
このとき、衝撃試験用固定治具16を用いることで、従来の弾丸2の衝突速度と残留速度に加えて、弾丸2の衝突時に生じるターゲット4の反力を計測することができる。
【0038】
つまり、本実施の形態に係る衝撃試験用固定治具16によれば、試験面では、クランピングボルト21に取り付けた歪みゲージ27によって、ターゲット4の反力を計測することができるため、従来インプット(弾丸2の衝突速度)とアウトプット(弾丸2の残留速度)で評価していた材料の耐衝撃特性を、インプットとアウトプットに加えてターゲット4の反力を用いて評価することができる。
【0039】
そのため、衝撃が加わる過程について様々な解析を行うことができ、より発展的な試験を行うことが可能となる。
【実施例】
【0040】
先ず、クランピングボルトの締め付けトルクを変化させたときのターゲットの圧縮歪みを測定した。その結果、図4に示すように、締め付けトルクと圧縮歪みの関係が線形となった。つまり、本発明の衝撃試験用固定治具では片当たり等の問題は生じていないことが分かる。
【0041】
次いで、クランピングボルトの締め付けトルクを変化させたときのターゲットの固有振動数を計測した。その結果、図5に示すように、締め付けトルクが変化しても固有振動数は略一定であった。つまり、本発明の衝撃試験用固定治具では締め付けトルクの変化による衝撃試験への影響がほとんどないことが分かる。
【0042】
最後に、従来のボルト締めと本発明の衝撃試験用固定治具を用いてターゲットを固定したときの試験結果の比較を行った。その結果、図6,7に示すように、従来と本発明で同等の結果を得ることができた。つまり、本発明の衝撃試験用固定治具を用いても従来と同等の試験精度を得られていることが分かる。
【0043】
以上要するに、本発明によれば、ターゲット4を何ら加工することなく、ターゲット4の取り付け/取り外しを簡易に行うことが可能で、且つ、従来のボルト締めによる固定と同等の試験精度を得られる。
【0044】
なお、本実施の形態においては、ターゲット4を支持部材6の貫通側に固定する場合を例に説明したが、ターゲット4を支持部材6の衝突側に固定するようにしても良い。この場合は、固定枠17を支持部材6の貫通側に固定し、ターゲット4を押さえ枠18で衝突側から押さえるようにする。つまり、固定枠17と押さえ枠18は、どちらが衝突側、貫通側に配置されても構わない。
【0045】
また、本実施の形態においては、クランプ本体20が固定枠17と押さえ枠18の四隅に着脱自在に設けられる構造としたが、固定枠17と押さえ枠18を挟み込んで固定できれば、クランプ本体20を四隅に設ける構造に限定されない。例えば、クランプ本体20で固定枠17と押さえ枠18の対角線上の二箇所のみを挟み込むようにしても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 衝撃試験装置
2 弾丸
3 ガイドレール
4 ターゲット
5 チャンバ
6 支持部材
7 回収材
8 レーザ速度計
9 高速度カメラ
10 ストロボ
11 鏡
12 弾丸貫通部
13 補強板
14 観察孔
15 鉄板
16 衝撃試験用固定治具
17 固定枠
18 押さえ枠
19 クランプ治具
20 クランプ本体
21 クランピングボルト
22 ボルト
23 軸部
24 スペーサ
25 軸部
26 切削面
27 歪みゲージ
28 球座
29 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに弾丸を衝突させて前記ターゲットの耐衝撃特性を試験すべく、前記ターゲットを弾丸貫通部が形成された支持部材に固定するための衝撃試験用固定治具において、 前記支持部材の前記弾丸貫通部周りに固定された固定枠と、前記ターゲットを前記固定枠に押さえ付ける押さえ枠と、前記固定枠と前記押さえ枠に着脱自在に設けられ、前記固定枠と前記押さえ枠をクランプするクランプ治具とを備えることを特徴とする衝撃試験用固定治具。
【請求項2】
前記クランプ治具は、前記固定枠と前記押さえ枠に着脱自在に設けられ、前記固定枠と前記押さえ枠を挟み込むクランプ本体と、前記クランプ本体に螺合され、前記押さえ枠を前記固定枠側に押圧するクランピングボルトとからなる請求項1に記載の衝撃試験用固定治具。
【請求項3】
前記クランピングボルトは、軸部の一部が切削されて形成された切削面を有し、前記切削面に歪みゲージが取り付けられる請求項2に記載の衝撃試験用固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37322(P2012−37322A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176318(P2010−176318)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)