衝撃軽減装置
【課題】必要な剛性を保ったまま、確実に衝撃を軽減・吸収し、軽量・コンパクト化に寄与し、状況に応じて瞬時に衝撃吸収・軽減特性を制御し、部材の飛散などを防止することが可能な衝撃軽減装置を提供する。
【解決手段】振動子1を衝撃による力が加わる物体2に接触させ、振動を印加することにより物体2の変形抵抗を低減させる、あるいは振動子1と物体2との摩擦抵抗を低減させる、あるいは振動子1が物体2を動かし、衝突物の相対速度を低減する、あるいは衝突物4との摩擦抵抗を低減させて、衝突物4の運動方向を変える。さらに、印加する振動を調整する。
【解決手段】振動子1を衝撃による力が加わる物体2に接触させ、振動を印加することにより物体2の変形抵抗を低減させる、あるいは振動子1と物体2との摩擦抵抗を低減させる、あるいは振動子1が物体2を動かし、衝突物の相対速度を低減する、あるいは衝突物4との摩擦抵抗を低減させて、衝突物4の運動方向を変える。さらに、印加する振動を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃軽減装置に関し、特に自動車、列車、航空機、宇宙船、船舶、索道、エレベータなどの乗り物やガードレール、電柱、道路分岐部分、道路屈曲部分、滑走路、ヘリポートなどに設置されて衝突時に乗員や機材を保護することができる衝撃軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの衝突時に乗員や機材を保護するために、衝撃吸収装置が設けられる。従来の衝撃吸収装置はその構造や材質によって衝撃吸収するものであり、構成する材料の特性が変化するものではない。また、瞬時にその衝撃吸収性能を調整することはできない。
【0003】
従来の衝撃吸収装置には、塑性変形を利用したタイプ(例えば、特許文献1、2参照)や摩擦を利用したタイプ(例えば、特許文献3参照)がある。しかし、十分に衝撃を吸収できない、十分な剛性が得られない、重量・容積が大きくなる、状況に応じて瞬時に塑性変形する部材の変形量やエネルギ吸収量を制御することはできない、部材が破断しやすいため周囲へ大きな衝撃が加わったり、周囲の部材を飛散させたりすることがある、などの問題点がある。
【0004】
また、クラッシャブルゾーンをモノコック構造で形成する技術は多くの車両に採用されているが、上述と衝撃吸収装置と同様な問題点がある。例えば、必要な強度や剛性を確保するために、衝撃吸収をある程度犠牲にせざるを得ない。更に高い強度や剛性を確保するために、部分的な骨格を追加することも多く、十分に衝撃を吸収できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特公昭59−9775号広報(第1図)
【特許文献2】 特開2005−225397号広報(第1図)
【特許文献3】 特開平5−141465号広報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり従来技術のものは、十分に衝撃を吸収できない、十分な剛性が得られない、重量・容積が大きくなる、状況に応じて瞬時に愬性変形する部材の変形量やエネルギ吸収量を制御することはできない、部材が破断しやすいため周囲へ大きな衝撃が加わったり、周囲の部材を飛散させたりすることがある、などの問題点がある。
【0007】
本発明はこれらのような問題点を解決すべく案出されたものであり、必要な剛性を保ったまま、確実に衝撃を軽減・吸収し、さらに軽量・コンパクト化に寄与し、状況に応じて瞬時に衝撃吸収・軽減特性を制御し、部材の飛散などを防止することが可能な衝撃軽減装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の衝撃軽減装置は、物体に振動子を接触させ振動を印加することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、例えば超音波領域の振動を印加することにより、金属などの物体の変形抵抗を低減するものである。超音波の印加によって変形抵抗が低下する現象はBlaha効果として知られている。請求項2記載の発明は主にこのBlaha効果を利用した衝撃吸収装置である。
【0010】
請求項3記載の発明は、例えば超音波領域の振動を印加することにより、摩擦抵抗を低減するものである。通常時、振動子は金属などの物体に摩擦抵抗が大きい状態で押しつけられているが、衝撃を受けた瞬間には摩擦抵抗が減少し、振動子と物体が互いにスライドし、そのときの摩擦力によって衝撃を吸収する。振動子を円筒に圧入する構造にしてもよい。
【0011】
請求項4記載の発明は、振動子よって接触させた物体を動かすことができることを特徴とする。例えば超音波モータのように複合振動を励振させて物体を移動させ、衝突物の相対速度を変化させることができる。相対速度を低下させると、より衝撃を低減できる。また、振動エネルギによる駆動力も利用して衝突物の動きを止めることができる。
【0012】
請求項5記載の発明は、例えば超音波領域の振動の印加により衝突物との摩擦抵抗を低減させ、衝突物の運動方向を変えることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、振動調整機能を付加して所望する衝撃軽減性能を得ることを特徴とする。つまり、衝撃の大きさなどそのときの状況に応じて、振動振幅・周波数・波形など調整し、前記物体の変形量や摩擦抵抗を制御する。
【発明の効果】
【0014】
上述のように本発明は、金属などの物体に例えば超音波領域の振動の印加するようにしたものであり、請求項2記載の発明によれば、通常時は剛性の高い構造を保ち、衝撃を受けた瞬間には前記物体を曲がりやすくすることで確実に衝撃を吸収できる。剛性の高い材料を用いて車体などを構成することができるため、少ない部材で剛性の高い構造を実現でき、全体として軽量、コンパクト化することができる。また、高い剛性が必要な重量車両、悪路走行車両、災害用車両、高速車両、宇宙船などにも利用できる。また、振動の印加によって物体を破断させずに曲げることができるため、次段への被害を低減し、破断に伴う部材の飛散などの二次被害を防ぐことができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、衝撃を受けた瞬間に振動子と物体が互いにスライドし、そのときの摩擦力によって衝撃を吸収できる。請求項2記載の発明とは手段が異なるため、効果の大きさに違いがあるものの同様な効果が得られる。部材の変形を利用したものではないため、破断に伴う部材の飛散などの二次被害はさらに少なくできる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、衝突物の相対速度を変化させることができる。相対速度を低下させると、より衝撃を低減できる。また、振動エネルギによる駆動力も利用して衝突物の動きを止めることができる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、衝撃を受けた瞬間には振動の印加により衝突物との摩擦抵抗を低減させ、衝突物の運動方向を変えることができる。例えば船首などに適用すれば、衝突物が船首にめり込むことを防ぎ、被害の大きさを小さくできる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、状況に応じて瞬時に衝撃吸収・軽減特性を制御できるため、例えば車両が電柱などに衝突し、乗員のいるスペースが破壊される程大きな衝撃の場合はある程度の剛性を保つが、車両が人などに衝突した場合などは剛性をより低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例1の外観図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例2の外観図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例3の外観図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例4の外観図である。
【図10】本発明の第1および第5の実施の形態を共に利用した、衝撃軽減装置の実施例5の外観図である。
【図11】本発明の第1の実施形態について実証試験した結果を示す実測グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の第1の実施の形態である。ボルト締めランジュバン型振動子等の振動子1と、振動子1を接触させたアルミニウム合金や鉄鋼などの物体2から概略構成される。振動子1は超音波領域の周波数で駆動することが好適である。物体2は棒状のものでも板状のものでもよい。振動子1と物体2はボルトによるねじ止め、溶着、接着、圧着、一体加工などの他、完全には固定せず互いに押しつけた状態でもよい。振動子1が例えば軸方向振動分布3のように振動すると、物体2の変形抵抗が低下し、衝突物4が物体2に衝突したとき、物体2は点線で示すように変形し、衝撃を吸収する。
【0022】
図2は本発明の第2の実施の形態である。衝突物4に物体2の機能を持たせ、衝突前は振動子1と物体2が分離している。振動子1に衝突物4が衝突すると、振動によって物体2の変形抵抗が低下し、物体2は点線で示すように変形し、衝撃を吸収する。
【0023】
図3は本発明の第3の実施の形態である。第1の実施の形態と同じく、振動子1と、振動子1を接触させた物体2から概略構成されるが、振動子1と物体2は互いにスライド可能な構造になっている。振動の印加により、摩擦抵抗が減少し、振動子1と物体2が互いにスライドし、そのときの摩擦力によって衝撃を吸収する。なお、物体2を円筒状にして振動子1を圧入する構造でもよい。
【0024】
図4は本発明の第4の実施の形態である。複合振動子5と、複合振動子5を接触させた物体2から概略構成される。複合振動子5と物体2は互いにスライド可能な構造であり、複合振動の印加により、物体2を両方向に移動させることができる。物体2を移動させることで、衝突物の相対速度を変化させ、より衝撃を低減することができる。また、物体2の駆動力も利用して衝突物の動きを止めることができる。
【0025】
図5は本発明の第5の実施の形態である。第1〜4の実施の形態と同じく、振動子1と、振動子1を接触させた物体2から概略構成されるが、第1〜4の実施の形態とは異なり、物体2と衝突物4との摩擦抵抗を低減させて、衝突物4の運動方向を変える。
【実施例1】
【0026】
図6は、第1の実施の形態を利用した実施例1である。車体などのフレーム6に複数の振動子1を設置し、振動させると、各部が変形しやすくなり衝撃を吸収する。図6(a)は衝突前、図6(b)は衝突後の様子である。振動子1の先端部はフレーム6が曲がることを考慮して丸みをもたせるのも好適である。
【実施例2】
【0027】
図7は、第1の実施の形態を利用した実施例2である。例えば図7のような六角形のフレーム6に複数の振動子1を設置する。図7はフレーム6が形成する面に垂直な方向に振動子1を設置した例であるが、図6と同じようにフレーム6が形成する面内に設置してもよい。図7(a)は振動子1をフレーム6の側面の片側にのみ設置した場合、図7(b)はフレーム6の側面の両側に設置した場合である。本実施例を複数組み合わせたハニカム構造の衝撃吸収装置も実現できる。
【実施例3】
【0028】
図8は、第1の実施の形態を利用した実施例3である。スライド可能な衝突部7に振動子1をフランジ8で固定し、物体2に振動子1を押しつけた構成になっている。物体2は台9に設置され、衝突部7に衝撃が印加されると曲がって衝撃を吸収する。衝突部7は、例えばシャフト10とリニアブッシュ11を利用してスライドさせる。
【実施例4】
【0029】
図9は、第4の実施の形態を利用した実施例4である。同図に示す本実施例の衝撃軽減装置は、複合振動子5、複合振動子5を接触させた物体2、物体2を設置したスライドガイド12、衝突部7、圧力印加用ばね13、圧力印加用ばね固定具14、筐体15から概略構成される。複合振動の印加により、スライドガイド12を任意の方向に移動させる。
【実施例5】
【0030】
図10は、第1および第5の実施の形態を同時に利用した実施例5である。同図に示す本実施例の衝撃軽減装置はヘリコプタのスキッド16に適用した例である。着地点との摩擦の減少およびスキッド16の変形によって衝撃を軽減する。
【実施例6】
【0031】
実証試験
図11は第1の実施形態について実証試験をした結果である。直径56mmの共振周波数約17kHzのボルト締めランジュバン型振動子にウェッジ型ホーン(先端部の幅15mm)を取り付けて、衝撃吸収装置を構成した。衝撃印加用の重錘を衝撃吸収装置の天板上に落下させ、ホーン先端に押し当てたアルミニウム合金板(JISA6063)を曲げることで衝撃を吸収する。使用したアルミニウム合金板は幅20mm、長さ200mm、厚さ2mmである。衝撃印加用の重錘が衝突する中心位置から105mm離した位置(天板上)に衝撃センサをボルトで固定し、出力を測定した。超音波振動の印加により、衝撃が吸収できていることが確認できた。
【0032】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は例えば自動車、列車、航空機、宇宙船、船舶、索道、エレベータなどの乗り物やガードレール、電柱、道路分岐部分、道路屈曲部分、滑走路、ヘリポートなどに利用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 振動子
2 物体
3 軸方向振動分布
4 衝突物
5 複合振動子
6 フレーム
7 衝突部
8 フランジ
9 台
10 シャフト
11 リニアブッシュ
12 スライドガイド
13 圧力印加用ばね
14 圧力印加用ばね固定具
15 筐体
16 スキッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃軽減装置に関し、特に自動車、列車、航空機、宇宙船、船舶、索道、エレベータなどの乗り物やガードレール、電柱、道路分岐部分、道路屈曲部分、滑走路、ヘリポートなどに設置されて衝突時に乗員や機材を保護することができる衝撃軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの衝突時に乗員や機材を保護するために、衝撃吸収装置が設けられる。従来の衝撃吸収装置はその構造や材質によって衝撃吸収するものであり、構成する材料の特性が変化するものではない。また、瞬時にその衝撃吸収性能を調整することはできない。
【0003】
従来の衝撃吸収装置には、塑性変形を利用したタイプ(例えば、特許文献1、2参照)や摩擦を利用したタイプ(例えば、特許文献3参照)がある。しかし、十分に衝撃を吸収できない、十分な剛性が得られない、重量・容積が大きくなる、状況に応じて瞬時に塑性変形する部材の変形量やエネルギ吸収量を制御することはできない、部材が破断しやすいため周囲へ大きな衝撃が加わったり、周囲の部材を飛散させたりすることがある、などの問題点がある。
【0004】
また、クラッシャブルゾーンをモノコック構造で形成する技術は多くの車両に採用されているが、上述と衝撃吸収装置と同様な問題点がある。例えば、必要な強度や剛性を確保するために、衝撃吸収をある程度犠牲にせざるを得ない。更に高い強度や剛性を確保するために、部分的な骨格を追加することも多く、十分に衝撃を吸収できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特公昭59−9775号広報(第1図)
【特許文献2】 特開2005−225397号広報(第1図)
【特許文献3】 特開平5−141465号広報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり従来技術のものは、十分に衝撃を吸収できない、十分な剛性が得られない、重量・容積が大きくなる、状況に応じて瞬時に愬性変形する部材の変形量やエネルギ吸収量を制御することはできない、部材が破断しやすいため周囲へ大きな衝撃が加わったり、周囲の部材を飛散させたりすることがある、などの問題点がある。
【0007】
本発明はこれらのような問題点を解決すべく案出されたものであり、必要な剛性を保ったまま、確実に衝撃を軽減・吸収し、さらに軽量・コンパクト化に寄与し、状況に応じて瞬時に衝撃吸収・軽減特性を制御し、部材の飛散などを防止することが可能な衝撃軽減装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の衝撃軽減装置は、物体に振動子を接触させ振動を印加することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、例えば超音波領域の振動を印加することにより、金属などの物体の変形抵抗を低減するものである。超音波の印加によって変形抵抗が低下する現象はBlaha効果として知られている。請求項2記載の発明は主にこのBlaha効果を利用した衝撃吸収装置である。
【0010】
請求項3記載の発明は、例えば超音波領域の振動を印加することにより、摩擦抵抗を低減するものである。通常時、振動子は金属などの物体に摩擦抵抗が大きい状態で押しつけられているが、衝撃を受けた瞬間には摩擦抵抗が減少し、振動子と物体が互いにスライドし、そのときの摩擦力によって衝撃を吸収する。振動子を円筒に圧入する構造にしてもよい。
【0011】
請求項4記載の発明は、振動子よって接触させた物体を動かすことができることを特徴とする。例えば超音波モータのように複合振動を励振させて物体を移動させ、衝突物の相対速度を変化させることができる。相対速度を低下させると、より衝撃を低減できる。また、振動エネルギによる駆動力も利用して衝突物の動きを止めることができる。
【0012】
請求項5記載の発明は、例えば超音波領域の振動の印加により衝突物との摩擦抵抗を低減させ、衝突物の運動方向を変えることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、振動調整機能を付加して所望する衝撃軽減性能を得ることを特徴とする。つまり、衝撃の大きさなどそのときの状況に応じて、振動振幅・周波数・波形など調整し、前記物体の変形量や摩擦抵抗を制御する。
【発明の効果】
【0014】
上述のように本発明は、金属などの物体に例えば超音波領域の振動の印加するようにしたものであり、請求項2記載の発明によれば、通常時は剛性の高い構造を保ち、衝撃を受けた瞬間には前記物体を曲がりやすくすることで確実に衝撃を吸収できる。剛性の高い材料を用いて車体などを構成することができるため、少ない部材で剛性の高い構造を実現でき、全体として軽量、コンパクト化することができる。また、高い剛性が必要な重量車両、悪路走行車両、災害用車両、高速車両、宇宙船などにも利用できる。また、振動の印加によって物体を破断させずに曲げることができるため、次段への被害を低減し、破断に伴う部材の飛散などの二次被害を防ぐことができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、衝撃を受けた瞬間に振動子と物体が互いにスライドし、そのときの摩擦力によって衝撃を吸収できる。請求項2記載の発明とは手段が異なるため、効果の大きさに違いがあるものの同様な効果が得られる。部材の変形を利用したものではないため、破断に伴う部材の飛散などの二次被害はさらに少なくできる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、衝突物の相対速度を変化させることができる。相対速度を低下させると、より衝撃を低減できる。また、振動エネルギによる駆動力も利用して衝突物の動きを止めることができる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、衝撃を受けた瞬間には振動の印加により衝突物との摩擦抵抗を低減させ、衝突物の運動方向を変えることができる。例えば船首などに適用すれば、衝突物が船首にめり込むことを防ぎ、被害の大きさを小さくできる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、状況に応じて瞬時に衝撃吸収・軽減特性を制御できるため、例えば車両が電柱などに衝突し、乗員のいるスペースが破壊される程大きな衝撃の場合はある程度の剛性を保つが、車両が人などに衝突した場合などは剛性をより低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係わる衝撃軽減装置の概念図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例1の外観図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例2の外観図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例3の外観図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態を利用した、衝撃軽減装置の実施例4の外観図である。
【図10】本発明の第1および第5の実施の形態を共に利用した、衝撃軽減装置の実施例5の外観図である。
【図11】本発明の第1の実施形態について実証試験した結果を示す実測グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の第1の実施の形態である。ボルト締めランジュバン型振動子等の振動子1と、振動子1を接触させたアルミニウム合金や鉄鋼などの物体2から概略構成される。振動子1は超音波領域の周波数で駆動することが好適である。物体2は棒状のものでも板状のものでもよい。振動子1と物体2はボルトによるねじ止め、溶着、接着、圧着、一体加工などの他、完全には固定せず互いに押しつけた状態でもよい。振動子1が例えば軸方向振動分布3のように振動すると、物体2の変形抵抗が低下し、衝突物4が物体2に衝突したとき、物体2は点線で示すように変形し、衝撃を吸収する。
【0022】
図2は本発明の第2の実施の形態である。衝突物4に物体2の機能を持たせ、衝突前は振動子1と物体2が分離している。振動子1に衝突物4が衝突すると、振動によって物体2の変形抵抗が低下し、物体2は点線で示すように変形し、衝撃を吸収する。
【0023】
図3は本発明の第3の実施の形態である。第1の実施の形態と同じく、振動子1と、振動子1を接触させた物体2から概略構成されるが、振動子1と物体2は互いにスライド可能な構造になっている。振動の印加により、摩擦抵抗が減少し、振動子1と物体2が互いにスライドし、そのときの摩擦力によって衝撃を吸収する。なお、物体2を円筒状にして振動子1を圧入する構造でもよい。
【0024】
図4は本発明の第4の実施の形態である。複合振動子5と、複合振動子5を接触させた物体2から概略構成される。複合振動子5と物体2は互いにスライド可能な構造であり、複合振動の印加により、物体2を両方向に移動させることができる。物体2を移動させることで、衝突物の相対速度を変化させ、より衝撃を低減することができる。また、物体2の駆動力も利用して衝突物の動きを止めることができる。
【0025】
図5は本発明の第5の実施の形態である。第1〜4の実施の形態と同じく、振動子1と、振動子1を接触させた物体2から概略構成されるが、第1〜4の実施の形態とは異なり、物体2と衝突物4との摩擦抵抗を低減させて、衝突物4の運動方向を変える。
【実施例1】
【0026】
図6は、第1の実施の形態を利用した実施例1である。車体などのフレーム6に複数の振動子1を設置し、振動させると、各部が変形しやすくなり衝撃を吸収する。図6(a)は衝突前、図6(b)は衝突後の様子である。振動子1の先端部はフレーム6が曲がることを考慮して丸みをもたせるのも好適である。
【実施例2】
【0027】
図7は、第1の実施の形態を利用した実施例2である。例えば図7のような六角形のフレーム6に複数の振動子1を設置する。図7はフレーム6が形成する面に垂直な方向に振動子1を設置した例であるが、図6と同じようにフレーム6が形成する面内に設置してもよい。図7(a)は振動子1をフレーム6の側面の片側にのみ設置した場合、図7(b)はフレーム6の側面の両側に設置した場合である。本実施例を複数組み合わせたハニカム構造の衝撃吸収装置も実現できる。
【実施例3】
【0028】
図8は、第1の実施の形態を利用した実施例3である。スライド可能な衝突部7に振動子1をフランジ8で固定し、物体2に振動子1を押しつけた構成になっている。物体2は台9に設置され、衝突部7に衝撃が印加されると曲がって衝撃を吸収する。衝突部7は、例えばシャフト10とリニアブッシュ11を利用してスライドさせる。
【実施例4】
【0029】
図9は、第4の実施の形態を利用した実施例4である。同図に示す本実施例の衝撃軽減装置は、複合振動子5、複合振動子5を接触させた物体2、物体2を設置したスライドガイド12、衝突部7、圧力印加用ばね13、圧力印加用ばね固定具14、筐体15から概略構成される。複合振動の印加により、スライドガイド12を任意の方向に移動させる。
【実施例5】
【0030】
図10は、第1および第5の実施の形態を同時に利用した実施例5である。同図に示す本実施例の衝撃軽減装置はヘリコプタのスキッド16に適用した例である。着地点との摩擦の減少およびスキッド16の変形によって衝撃を軽減する。
【実施例6】
【0031】
実証試験
図11は第1の実施形態について実証試験をした結果である。直径56mmの共振周波数約17kHzのボルト締めランジュバン型振動子にウェッジ型ホーン(先端部の幅15mm)を取り付けて、衝撃吸収装置を構成した。衝撃印加用の重錘を衝撃吸収装置の天板上に落下させ、ホーン先端に押し当てたアルミニウム合金板(JISA6063)を曲げることで衝撃を吸収する。使用したアルミニウム合金板は幅20mm、長さ200mm、厚さ2mmである。衝撃印加用の重錘が衝突する中心位置から105mm離した位置(天板上)に衝撃センサをボルトで固定し、出力を測定した。超音波振動の印加により、衝撃が吸収できていることが確認できた。
【0032】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は例えば自動車、列車、航空機、宇宙船、船舶、索道、エレベータなどの乗り物やガードレール、電柱、道路分岐部分、道路屈曲部分、滑走路、ヘリポートなどに利用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 振動子
2 物体
3 軸方向振動分布
4 衝突物
5 複合振動子
6 フレーム
7 衝突部
8 フランジ
9 台
10 シャフト
11 リニアブッシュ
12 スライドガイド
13 圧力印加用ばね
14 圧力印加用ばね固定具
15 筐体
16 スキッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子を衝撃による力が加わる物体に接触させた衝撃軽減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃軽減装置において、振動の印加により前記物体の変形抵抗を低減させることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衝撃軽減装置において、前記物体と前記振動子を互いにスライド可能な構造とし、振動の印加により前記振動子と前記物体との摩擦抵抗を低減させることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衝撃軽減装置において、振動子によって前記物体を動かすことができることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項5】
請求項1に記載の衝撃軽減装置において、振動の印加により衝突物との摩擦抵抗を低減させ、衝突物の運動方向を変えることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の衝撃軽減装置において、振動調整機能を付加して所望する衝撃軽減性能を得る衝撃軽減装置。
【請求項1】
振動子を衝撃による力が加わる物体に接触させた衝撃軽減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃軽減装置において、振動の印加により前記物体の変形抵抗を低減させることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衝撃軽減装置において、前記物体と前記振動子を互いにスライド可能な構造とし、振動の印加により前記振動子と前記物体との摩擦抵抗を低減させることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衝撃軽減装置において、振動子によって前記物体を動かすことができることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項5】
請求項1に記載の衝撃軽減装置において、振動の印加により衝突物との摩擦抵抗を低減させ、衝突物の運動方向を変えることを特徴とする衝撃軽減装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の衝撃軽減装置において、振動調整機能を付加して所望する衝撃軽減性能を得る衝撃軽減装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−180926(P2012−180926A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59867(P2011−59867)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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