衝突エネルギー吸収装置
【課題】キャビン内の乗員を直接保護するための確実で精密なエネルギー吸収制御を可能にすることができる衝突エネルギー吸収装置を提供する。
【解決手段】筒状エネルギ吸収部材2の軸方向と方向を一致させてスロット部材5のスロット5aに前記スロット挿通片2bを挿通させて、その挿通方向の前方に天板4が位置する様に衝突エネルギー吸収装置1が組み付けられる結果、筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向に衝撃が加わり、筒状エネルギ吸収部材本体2aによるエネルギー吸収過程でスロット挿通片2bの先端は天板4にガイドされて外方に展開するようにスロット5aを通過する。筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2よりも、スロット5aの高さhが小なるようにすることによって、筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収能応力を大きくすることができる。
【解決手段】筒状エネルギ吸収部材2の軸方向と方向を一致させてスロット部材5のスロット5aに前記スロット挿通片2bを挿通させて、その挿通方向の前方に天板4が位置する様に衝突エネルギー吸収装置1が組み付けられる結果、筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向に衝撃が加わり、筒状エネルギ吸収部材本体2aによるエネルギー吸収過程でスロット挿通片2bの先端は天板4にガイドされて外方に展開するようにスロット5aを通過する。筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2よりも、スロット5aの高さhが小なるようにすることによって、筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収能応力を大きくすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等車両の衝突事故時における衝突エネルギー吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における衝突エネルギー吸収構造として知られ、軸方向に破壊されてエネルギー吸収を行うエネルギ吸収部材では、エネルギー吸収の態様は、構成材料の品質及びエネルギー吸収制御によって大きな影響を受ける。例えばアルミニウム合金からなる従来のエネルギ吸収部材は、一般的に、自動車のフロントバンパー部分の後部に一端をシャシーに固定し、他端をバンパーに固定して取り付けられる。
これによってバンパーの前面に垂直に生じる衝突力は、筒状のエネルギ吸収部材を軸方向に圧縮する。この特殊アルミニウム合金のような高度に展性のある金属は展性が低い構成材料より当然に高価である。
【0003】
特許文献1は軸方向荷重に対するエネルギー吸収のためのクラッシュチューブ吸収システムを実施するにあたっての問題を解決するエネルギー吸収システム及び方法を検討している。この特許文献1のエネルギー吸収システム及び方法ではクラッシュチューブがテーパ構成部分の整合穴に挿入され、テーパ構成部分及びフレア構成部分がクラッシュチューブ上に移動されると、テーパ構成部分はクラッシュチューブの直径を減少し、フレア構成部分はクラッシュチューブを複数の花弁に分割する。このクラッシュチューブの軸方向を衝撃が加えられる方向と平行にして取り付けることによって、テーパリング、フレアリング、摩擦によって衝突時の衝撃エネルギを吸収することができる。
【0004】
この特許文献1のエネルギー吸収システム及び方法では、図13に示すように、定常状態衝突荷重が従来の軸方向崩壊エネルギー吸収システムと比較して著しく高くテーパ構成部分の“前荷重”の後にクラッシュチューブ全長に亘る定常状態衝突荷重に達し、従来技術よりも単位当たりでより大きいエネルギーの吸収が可能であると記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,523,873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に開示されたエネルギー吸収システム及び方法は自動車のフロントバンパー部分の後部に一端をシャシーに固定し、他端をバンパーに固定して取り付けられて衝突時に自動車のキャビン全体を保護することを意図するものである。したがって、キャビン内の乗員や衝突の対象が歩行者である場合の人体を直接保護する目的のエネルギー吸収システムとしては検討されておらず、人体を直接保護する目的のエネルギー吸収システムとしての確実で精密なエネルギー吸収制御を行うことはできなかった。
【0007】
具体的には特許文献1に開示されたエネルギー吸収システム及び方法では衝突による負荷が加えられるとクラッシュチューブの末端を受けるために配位されているテーパ及びフレア構成部分がクラッシュチューブ上に滑り、チューブを先細にし、チューブの先細になった部分が複数の片に分割されることによってエネルギーが吸収される。
【0008】
しかし、衝突による負荷の方向は特定されるものではなく、したがって単にクラッシュチューブの末端を受けるために配位されているだけで特にはガイドされることのないテーパ及びフレア構成部分がクラッシュチューブ上に滑り、チューブを先細にし、チューブの先細になった部分が複数の片に分割されるというエネルギー吸収動作が確実に進行するという保証はなく、偶然にエネルギー吸収動作が進行することができる衝突による負荷であればエネルギー吸収動作が進行するという消極的機能に留まるという問題があった。
【0009】
これに対してキャビン内の乗員や衝突の対象が歩行者である場合の人体を直接保護する目的のエネルギー吸収システムでは衝突による負荷が生じた場合にはエネルギー吸収動作が確実に進行するという保証が可能な積極的機能を有するように構成されていいなければならない。しかも進行するエネルギー吸収動作はシートベルト等の他の安全装置の動きその他の諸般の要因も考慮して直接に人体を保護するために精密に最適化される必要がある。
【0010】
以上の従来技術における問題に鑑み、本発明の目的は、人体を直接保護するための確実で精密なエネルギー吸収制御を可能にすることができる衝突エネルギー吸収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の衝突エネルギー吸収装置は、筒状エネルギ吸収部材と、スロット部材とを有し、前記筒状エネルギ吸収部材は、筒状エネルギ吸収部材本体と、この筒状エネルギ吸収部材本体の一端に連続するスロット挿通片とよりなり、前記スロット部材のスロットに前記スロット挿通片を挿通させたことを特徴とする。
【0012】
筒状エネルギ吸収部材本体の板厚よりも、スロットの高さが小なるようにすることができる。また複数の前記スロットの少なくとも1以上が前記スロット挿通片の幅方向に向けて円弧を描く辺を有するようにしてもよい。
【0013】
前記筒状エネルギ吸収部材本体の横断面形状は、外側面及び内側面のうち少なくとも一方が多角形状であるようにすることができる。また前記筒状エネルギ吸収部材本体はスロット挿通片に連続する端部から反対側の端部に向けて板厚が異なる領域を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の衝突エネルギー吸収装置では、エネルギー吸収動作が確実に進行するという保証が可能な積極的機能を有して、人体を直接保護するための確実で精密なエネルギー吸収制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の斜視図である。
【図2】(a)図1に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分斜視図である。(b)図1に示すIIb−IIb断面図である。
【図3】図1に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の他の部分斜視図である。
【図4】図1に示すIV−IV断面図である。
【図5】(a)図1に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分拡大模式図である。(b)本発明の他の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分拡大模式図である。
【図6】図4上でVIで示す領域の断面図である。
【図7】(a)本発明のさらに他の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分斜視説明図である。(b)図7(a)に示すVIIb−VIIb断面図である。
【図8】図7に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置に関する応力−ストローク曲線である。
【図9】(a)本発明の別の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分斜視図である。 (b)図9(a)に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の別の部分斜視図である。(c)図9(a)(b)に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分断面図である。
【図10】本発明の衝突エネルギー吸収装置を搭載した自動車の部分透視図である。
【図11】図10に示す自動車の部分拡大斜視図である。
【図12】図10に示す自動車の他の部分拡大斜視図である。
【図13】従来の衝突エネルギー吸収装置に関する応力−ストローク曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための形態を説明する。
図1に示すように本発明の衝突エネルギー吸収装置1は、樹脂製の筒状エネルギ吸収部材2と、スロット部3とよりなり、スロット部3は車両(例えば図10に示す自動車)の所要位置に固定される天板4と、その天板4に装着されるスロット部材5とよりなる。
図2(a)に示すように筒状エネルギ吸収部材2は、内部が空洞にされた筒状エネルギ吸収部材本体2aと、この筒状エネルギ吸収部材本体2aに一体なスロット挿通片2bとよりなる。スロット挿通片2bは筒状エネルギ吸収部材本体2aの一端部に、筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向、すなわちエネルギ吸収方向を回転中心とする円対称位置に6片設けられる。また図2(b)に示すように筒状エネルギ吸収部材本体2aはその軸方向と垂直な方向における断面形状、すなわち横断面形状が、本実施の形態では内外側面共に6角形状とされる。また内側面の断面6角形の各頂角部分が薄肉部2cとされている。また各頂角部分は、軸方向に沿って部分的に切り欠き2dを有する。
【0017】
一方、図3に示すようにスロット部3の天板4に装着されたスロット部材5のスロット5aは筒状エネルギ吸収部材2の6片のスロット挿通片2bに一対一に対応する位置関係で6箇所設けられる。
図4に示すように筒状エネルギ吸収部材2の軸方向と方向を一致させてスロット部材5のスロット5aにスロット挿通片2bを挿通させて、その挿通方向の前方に天板4が位置する様に衝突エネルギー吸収装置1が組み付けられる。
【0018】
図5はスロット5aの平面視における外形形状を示す。本実施の形態では複数の各スロット5aは図5(a)に示す様にその外形形状が高さhと幅wの長方形に形成される。
図6に示すように板状のスロット挿通片2bの板厚t1はスロット5aの高さhよりも小なる様にされており、一方、筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2は、スロット5aの高さhよりも大なる関係とされる。
【0019】
以上の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置1によれば、筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向に衝撃が加わると、スロット挿通片2bの先端はスロット5aを通過して天板4にガイドされて外方に展開する。またそれに続いて筒状エネルギ吸収部材本体2aの薄肉部2cで切り裂かれた6個の切り裂き片(図示せず)がスロット5aを通過する。その過程で筒状エネルギ吸収部材本体2aによって衝突エネルギー吸収が行われる。
図4上矢印Aは筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向に衝撃が加わった際のエネルギー吸収方向を示す。
【0020】
すなわち以上の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置1によれば、スロット部材5のスロット5aにスロット挿通片2bを挿通させて衝突エネルギー吸収装置1が組み付けられる結果、スロット5aを通過するスロット挿通片2bによってガイドされて車両衝突時の図4上矢印A方向に直接人体に加わる衝撃エネルギーが吸収緩和される動作の確実性が保証される。さらにスロット挿通片2bの通過方向の前方に天板4が位置してスロット挿通片2b及び筒状エネルギ吸収部材本体2aの切り裂き片は天板4にガイドされて外方に展開するので筒状エネルギ吸収部材本体2aの切り裂き片も確実にスロット5aを通過していき、その全長で十分な衝撃エネルギーの吸収緩和動作が行われる。
【0021】
また本実施の形態では板状のスロット挿通片2bの板厚t1はスロット挿通片2bの板厚方向のスロット5aの高さhより小なる様にされているのでスロット部材5のスロット5aにスロット挿通片2bを挿通させて衝突エネルギー吸収装置1を組み付けることによるスロット挿通片2bによるガイド動作の確実性が保証され、かつその組み付け工程の効率を向上することができる。一方、筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2が、スロット5aの高さhよりも大なるようにして、筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収応力が増大される。
【0022】
しかも、筒状エネルギ吸収部材本体2aは横断面形状が内外側面共に6角形状とされており、6個の切り裂き片の板厚、すなわち筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚を調整することによって衝突エネルギー吸収の際の応力調整を精密にかつ簡易に行うことができる。また6角形状とされる結果、角部で衝突エネルギー吸収方向へのガイドを行うと同時に切断することが可能となる。
【0023】
図5(b)は本発明の衝突エネルギー吸収装置1の他の実施の形態を示し、スロット5aの幅w方向に伸びる2辺がスロット5aの高さh方向に湾曲してスロット挿通片2bの幅w方向に円弧を描く辺5b1及び/又は辺5b2を複数の各スロット5aの少なくとも1以上が有するようにすることができる。これによって筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収能応力を大きくすることができ、エネルギー吸収性能の精密制御が可能となる。
【0024】
図7(a)(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示し、この実施の形態では筒状エネルギ吸収部材本体2aにはその外側面に凸部2eが形成されて、スロット挿通片2bに連続する端部から反対側の端部までの領域間で板厚が変化して異なる領域Pが設定される。この凸部2eは図7(b)に示すように断面6角形状の筒状エネルギ吸収部材本体2aの各外側面に環状に形成することによって、筒状エネルギ吸収部材本体2a全体に均一にエネルギー吸収負荷が印加されるようにする。
【0025】
図8は筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程における応力−ストローク曲線であり、凸部2eを有することによって応力が高くなる領域が示されている。この様にシートベルト等の他の安全装備の動きとの関係で筒状エネルギ吸収部材本体2aによるエネルギー吸収が実質的に均等となるように精密制御を行うことが可能となる。
【0026】
図9(a)〜(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示し、この実施の形態では天板4に固定されるスロット部材5には各スロット5aに別途装着されるスロット部品6及び筒状エネルギ吸収部材2の内側位置でスロット部材5に固定されるナイフエッジ部材7が組み付けられる。ナイフエッジ部材7はナイフエッジ7aを有し、斯かるナイフエッジ7aが筒状エネルギ吸収部材本体2aの内側面の断面6角形状の各頂角部分の薄肉部2cに接触する配置関係でナイフエッジ部材7はスロット部材5に固定される。
【0027】
スロット部品6はスロット挿通片2bを挿通するスロット孔6aを有し、別途一つの単一の構成部分として製造される。そのため筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2との関係でスロット孔6aの高さhによって筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収能応力の設定を精密に行うことができる。図に示すようにスロット挿通片2bを挿通するスロット孔6aの挿通入り側高さを大きくし、出側が小となる形状をスロット孔6aの形状として採用することによって、スロット孔6aにスロット挿通片2bを挿通させて組み付けることによって得られるガイド動作の確実性が保証され、かつその組み付け工程の効率を向上することができる。また同時に筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット孔6aを通過する過程でのエネルギー吸収性能を大きくすることができる。
【0028】
またナイフエッジ部材7のナイフエッジ7aが筒状エネルギ吸収部材本体2aの内側面の断面6角形の各頂角部分の薄肉部2cに接触し、薄肉部2cがスムーズに切り裂かれてスロット孔6aに挿通され、切り裂かれた筒状エネルギ吸収部材本体2aの各片がスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収が円滑に進行する。
【0029】
図10に示すように、以上の各実施の形態の衝突エネルギー吸収装置1の何れかを歩行者保護用にバンパー8、乗員下肢衝撃吸収ニーボルスター9、乗員腰部衝撃吸収ぺルヴィスボルスター10、乗員頭部衝撃吸収のためのルーフパッド11のうちの少なくとも一に装着した乗員保護性能の高い自動車12とすることができる。
【0030】
図11は本発明の衝突エネルギー吸収装置1によって下肢衝撃吸収ニーボルスター9を構成する実施の形態を示す。天板4を自動車車体(図示せず)の構造部13に固定して衝突エネルギー吸収装置1を自動車キャビンのインパネ若しくはアンダーカバー14の裏面側に配置してなる。これによって自動車衝突時の乗員の膝へのダメージを緩和する。
【0031】
図12は本発明の衝突エネルギー吸収装置1によって乗員腰部衝撃吸収ぺルヴィスボルスター10を構成する実施の形態を示す。衝突エネルギー吸収装置1を自動車ドア15内側の裏面側に配置する。これによって自動車側面側からの衝撃による乗員の腰へのダメージを緩和する。
【符号の説明】
【0032】
2・・・筒状エネルギ吸収部材、5・・・スロット部材、2a・・・筒状エネルギ吸収部材本体、5a・・・スロット、2b・・・スロット挿通片、4・・・天板、1・・・衝突エネルギー吸収装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等車両の衝突事故時における衝突エネルギー吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における衝突エネルギー吸収構造として知られ、軸方向に破壊されてエネルギー吸収を行うエネルギ吸収部材では、エネルギー吸収の態様は、構成材料の品質及びエネルギー吸収制御によって大きな影響を受ける。例えばアルミニウム合金からなる従来のエネルギ吸収部材は、一般的に、自動車のフロントバンパー部分の後部に一端をシャシーに固定し、他端をバンパーに固定して取り付けられる。
これによってバンパーの前面に垂直に生じる衝突力は、筒状のエネルギ吸収部材を軸方向に圧縮する。この特殊アルミニウム合金のような高度に展性のある金属は展性が低い構成材料より当然に高価である。
【0003】
特許文献1は軸方向荷重に対するエネルギー吸収のためのクラッシュチューブ吸収システムを実施するにあたっての問題を解決するエネルギー吸収システム及び方法を検討している。この特許文献1のエネルギー吸収システム及び方法ではクラッシュチューブがテーパ構成部分の整合穴に挿入され、テーパ構成部分及びフレア構成部分がクラッシュチューブ上に移動されると、テーパ構成部分はクラッシュチューブの直径を減少し、フレア構成部分はクラッシュチューブを複数の花弁に分割する。このクラッシュチューブの軸方向を衝撃が加えられる方向と平行にして取り付けることによって、テーパリング、フレアリング、摩擦によって衝突時の衝撃エネルギを吸収することができる。
【0004】
この特許文献1のエネルギー吸収システム及び方法では、図13に示すように、定常状態衝突荷重が従来の軸方向崩壊エネルギー吸収システムと比較して著しく高くテーパ構成部分の“前荷重”の後にクラッシュチューブ全長に亘る定常状態衝突荷重に達し、従来技術よりも単位当たりでより大きいエネルギーの吸収が可能であると記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,523,873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に開示されたエネルギー吸収システム及び方法は自動車のフロントバンパー部分の後部に一端をシャシーに固定し、他端をバンパーに固定して取り付けられて衝突時に自動車のキャビン全体を保護することを意図するものである。したがって、キャビン内の乗員や衝突の対象が歩行者である場合の人体を直接保護する目的のエネルギー吸収システムとしては検討されておらず、人体を直接保護する目的のエネルギー吸収システムとしての確実で精密なエネルギー吸収制御を行うことはできなかった。
【0007】
具体的には特許文献1に開示されたエネルギー吸収システム及び方法では衝突による負荷が加えられるとクラッシュチューブの末端を受けるために配位されているテーパ及びフレア構成部分がクラッシュチューブ上に滑り、チューブを先細にし、チューブの先細になった部分が複数の片に分割されることによってエネルギーが吸収される。
【0008】
しかし、衝突による負荷の方向は特定されるものではなく、したがって単にクラッシュチューブの末端を受けるために配位されているだけで特にはガイドされることのないテーパ及びフレア構成部分がクラッシュチューブ上に滑り、チューブを先細にし、チューブの先細になった部分が複数の片に分割されるというエネルギー吸収動作が確実に進行するという保証はなく、偶然にエネルギー吸収動作が進行することができる衝突による負荷であればエネルギー吸収動作が進行するという消極的機能に留まるという問題があった。
【0009】
これに対してキャビン内の乗員や衝突の対象が歩行者である場合の人体を直接保護する目的のエネルギー吸収システムでは衝突による負荷が生じた場合にはエネルギー吸収動作が確実に進行するという保証が可能な積極的機能を有するように構成されていいなければならない。しかも進行するエネルギー吸収動作はシートベルト等の他の安全装置の動きその他の諸般の要因も考慮して直接に人体を保護するために精密に最適化される必要がある。
【0010】
以上の従来技術における問題に鑑み、本発明の目的は、人体を直接保護するための確実で精密なエネルギー吸収制御を可能にすることができる衝突エネルギー吸収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の衝突エネルギー吸収装置は、筒状エネルギ吸収部材と、スロット部材とを有し、前記筒状エネルギ吸収部材は、筒状エネルギ吸収部材本体と、この筒状エネルギ吸収部材本体の一端に連続するスロット挿通片とよりなり、前記スロット部材のスロットに前記スロット挿通片を挿通させたことを特徴とする。
【0012】
筒状エネルギ吸収部材本体の板厚よりも、スロットの高さが小なるようにすることができる。また複数の前記スロットの少なくとも1以上が前記スロット挿通片の幅方向に向けて円弧を描く辺を有するようにしてもよい。
【0013】
前記筒状エネルギ吸収部材本体の横断面形状は、外側面及び内側面のうち少なくとも一方が多角形状であるようにすることができる。また前記筒状エネルギ吸収部材本体はスロット挿通片に連続する端部から反対側の端部に向けて板厚が異なる領域を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の衝突エネルギー吸収装置では、エネルギー吸収動作が確実に進行するという保証が可能な積極的機能を有して、人体を直接保護するための確実で精密なエネルギー吸収制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の斜視図である。
【図2】(a)図1に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分斜視図である。(b)図1に示すIIb−IIb断面図である。
【図3】図1に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の他の部分斜視図である。
【図4】図1に示すIV−IV断面図である。
【図5】(a)図1に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分拡大模式図である。(b)本発明の他の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分拡大模式図である。
【図6】図4上でVIで示す領域の断面図である。
【図7】(a)本発明のさらに他の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分斜視説明図である。(b)図7(a)に示すVIIb−VIIb断面図である。
【図8】図7に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置に関する応力−ストローク曲線である。
【図9】(a)本発明の別の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分斜視図である。 (b)図9(a)に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の別の部分斜視図である。(c)図9(a)(b)に示す実施の形態の衝突エネルギー吸収装置の部分断面図である。
【図10】本発明の衝突エネルギー吸収装置を搭載した自動車の部分透視図である。
【図11】図10に示す自動車の部分拡大斜視図である。
【図12】図10に示す自動車の他の部分拡大斜視図である。
【図13】従来の衝突エネルギー吸収装置に関する応力−ストローク曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための形態を説明する。
図1に示すように本発明の衝突エネルギー吸収装置1は、樹脂製の筒状エネルギ吸収部材2と、スロット部3とよりなり、スロット部3は車両(例えば図10に示す自動車)の所要位置に固定される天板4と、その天板4に装着されるスロット部材5とよりなる。
図2(a)に示すように筒状エネルギ吸収部材2は、内部が空洞にされた筒状エネルギ吸収部材本体2aと、この筒状エネルギ吸収部材本体2aに一体なスロット挿通片2bとよりなる。スロット挿通片2bは筒状エネルギ吸収部材本体2aの一端部に、筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向、すなわちエネルギ吸収方向を回転中心とする円対称位置に6片設けられる。また図2(b)に示すように筒状エネルギ吸収部材本体2aはその軸方向と垂直な方向における断面形状、すなわち横断面形状が、本実施の形態では内外側面共に6角形状とされる。また内側面の断面6角形の各頂角部分が薄肉部2cとされている。また各頂角部分は、軸方向に沿って部分的に切り欠き2dを有する。
【0017】
一方、図3に示すようにスロット部3の天板4に装着されたスロット部材5のスロット5aは筒状エネルギ吸収部材2の6片のスロット挿通片2bに一対一に対応する位置関係で6箇所設けられる。
図4に示すように筒状エネルギ吸収部材2の軸方向と方向を一致させてスロット部材5のスロット5aにスロット挿通片2bを挿通させて、その挿通方向の前方に天板4が位置する様に衝突エネルギー吸収装置1が組み付けられる。
【0018】
図5はスロット5aの平面視における外形形状を示す。本実施の形態では複数の各スロット5aは図5(a)に示す様にその外形形状が高さhと幅wの長方形に形成される。
図6に示すように板状のスロット挿通片2bの板厚t1はスロット5aの高さhよりも小なる様にされており、一方、筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2は、スロット5aの高さhよりも大なる関係とされる。
【0019】
以上の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置1によれば、筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向に衝撃が加わると、スロット挿通片2bの先端はスロット5aを通過して天板4にガイドされて外方に展開する。またそれに続いて筒状エネルギ吸収部材本体2aの薄肉部2cで切り裂かれた6個の切り裂き片(図示せず)がスロット5aを通過する。その過程で筒状エネルギ吸収部材本体2aによって衝突エネルギー吸収が行われる。
図4上矢印Aは筒状エネルギ吸収部材本体2aの軸方向に衝撃が加わった際のエネルギー吸収方向を示す。
【0020】
すなわち以上の実施の形態の衝突エネルギー吸収装置1によれば、スロット部材5のスロット5aにスロット挿通片2bを挿通させて衝突エネルギー吸収装置1が組み付けられる結果、スロット5aを通過するスロット挿通片2bによってガイドされて車両衝突時の図4上矢印A方向に直接人体に加わる衝撃エネルギーが吸収緩和される動作の確実性が保証される。さらにスロット挿通片2bの通過方向の前方に天板4が位置してスロット挿通片2b及び筒状エネルギ吸収部材本体2aの切り裂き片は天板4にガイドされて外方に展開するので筒状エネルギ吸収部材本体2aの切り裂き片も確実にスロット5aを通過していき、その全長で十分な衝撃エネルギーの吸収緩和動作が行われる。
【0021】
また本実施の形態では板状のスロット挿通片2bの板厚t1はスロット挿通片2bの板厚方向のスロット5aの高さhより小なる様にされているのでスロット部材5のスロット5aにスロット挿通片2bを挿通させて衝突エネルギー吸収装置1を組み付けることによるスロット挿通片2bによるガイド動作の確実性が保証され、かつその組み付け工程の効率を向上することができる。一方、筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2が、スロット5aの高さhよりも大なるようにして、筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収応力が増大される。
【0022】
しかも、筒状エネルギ吸収部材本体2aは横断面形状が内外側面共に6角形状とされており、6個の切り裂き片の板厚、すなわち筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚を調整することによって衝突エネルギー吸収の際の応力調整を精密にかつ簡易に行うことができる。また6角形状とされる結果、角部で衝突エネルギー吸収方向へのガイドを行うと同時に切断することが可能となる。
【0023】
図5(b)は本発明の衝突エネルギー吸収装置1の他の実施の形態を示し、スロット5aの幅w方向に伸びる2辺がスロット5aの高さh方向に湾曲してスロット挿通片2bの幅w方向に円弧を描く辺5b1及び/又は辺5b2を複数の各スロット5aの少なくとも1以上が有するようにすることができる。これによって筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収能応力を大きくすることができ、エネルギー吸収性能の精密制御が可能となる。
【0024】
図7(a)(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示し、この実施の形態では筒状エネルギ吸収部材本体2aにはその外側面に凸部2eが形成されて、スロット挿通片2bに連続する端部から反対側の端部までの領域間で板厚が変化して異なる領域Pが設定される。この凸部2eは図7(b)に示すように断面6角形状の筒状エネルギ吸収部材本体2aの各外側面に環状に形成することによって、筒状エネルギ吸収部材本体2a全体に均一にエネルギー吸収負荷が印加されるようにする。
【0025】
図8は筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程における応力−ストローク曲線であり、凸部2eを有することによって応力が高くなる領域が示されている。この様にシートベルト等の他の安全装備の動きとの関係で筒状エネルギ吸収部材本体2aによるエネルギー吸収が実質的に均等となるように精密制御を行うことが可能となる。
【0026】
図9(a)〜(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示し、この実施の形態では天板4に固定されるスロット部材5には各スロット5aに別途装着されるスロット部品6及び筒状エネルギ吸収部材2の内側位置でスロット部材5に固定されるナイフエッジ部材7が組み付けられる。ナイフエッジ部材7はナイフエッジ7aを有し、斯かるナイフエッジ7aが筒状エネルギ吸収部材本体2aの内側面の断面6角形状の各頂角部分の薄肉部2cに接触する配置関係でナイフエッジ部材7はスロット部材5に固定される。
【0027】
スロット部品6はスロット挿通片2bを挿通するスロット孔6aを有し、別途一つの単一の構成部分として製造される。そのため筒状エネルギ吸収部材本体2aの板厚t2との関係でスロット孔6aの高さhによって筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収能応力の設定を精密に行うことができる。図に示すようにスロット挿通片2bを挿通するスロット孔6aの挿通入り側高さを大きくし、出側が小となる形状をスロット孔6aの形状として採用することによって、スロット孔6aにスロット挿通片2bを挿通させて組み付けることによって得られるガイド動作の確実性が保証され、かつその組み付け工程の効率を向上することができる。また同時に筒状エネルギ吸収部材本体2aがスロット孔6aを通過する過程でのエネルギー吸収性能を大きくすることができる。
【0028】
またナイフエッジ部材7のナイフエッジ7aが筒状エネルギ吸収部材本体2aの内側面の断面6角形の各頂角部分の薄肉部2cに接触し、薄肉部2cがスムーズに切り裂かれてスロット孔6aに挿通され、切り裂かれた筒状エネルギ吸収部材本体2aの各片がスロット5aを通過する過程でのエネルギー吸収が円滑に進行する。
【0029】
図10に示すように、以上の各実施の形態の衝突エネルギー吸収装置1の何れかを歩行者保護用にバンパー8、乗員下肢衝撃吸収ニーボルスター9、乗員腰部衝撃吸収ぺルヴィスボルスター10、乗員頭部衝撃吸収のためのルーフパッド11のうちの少なくとも一に装着した乗員保護性能の高い自動車12とすることができる。
【0030】
図11は本発明の衝突エネルギー吸収装置1によって下肢衝撃吸収ニーボルスター9を構成する実施の形態を示す。天板4を自動車車体(図示せず)の構造部13に固定して衝突エネルギー吸収装置1を自動車キャビンのインパネ若しくはアンダーカバー14の裏面側に配置してなる。これによって自動車衝突時の乗員の膝へのダメージを緩和する。
【0031】
図12は本発明の衝突エネルギー吸収装置1によって乗員腰部衝撃吸収ぺルヴィスボルスター10を構成する実施の形態を示す。衝突エネルギー吸収装置1を自動車ドア15内側の裏面側に配置する。これによって自動車側面側からの衝撃による乗員の腰へのダメージを緩和する。
【符号の説明】
【0032】
2・・・筒状エネルギ吸収部材、5・・・スロット部材、2a・・・筒状エネルギ吸収部材本体、5a・・・スロット、2b・・・スロット挿通片、4・・・天板、1・・・衝突エネルギー吸収装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状エネルギ吸収部材と、スロット部材とを有し、前記筒状エネルギ吸収部材は、筒状エネルギ吸収部材本体と、この筒状エネルギ吸収部材本体の一端に連続するスロット挿通片とよりなり、前記スロット部材のスロットに前記スロット挿通片を挿通させたことを特徴とする衝突エネルギー吸収装置
【請求項2】
筒状エネルギ吸収部材本体の板厚よりも、スロットの高さが小なることを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項3】
複数の前記スロットの少なくとも1以上が前記スロット挿通片の幅方向に向けて円弧を描く辺を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項4】
前記筒状エネルギ吸収部材本体の横断面形状は、外側面及び内側面のうち少なくとも一方が多角形状であることを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項5】
前記筒状エネルギ吸収部材本体はスロット挿通片に連続する端部から反対側の端部に向けて板厚が異なる領域を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項1】
筒状エネルギ吸収部材と、スロット部材とを有し、前記筒状エネルギ吸収部材は、筒状エネルギ吸収部材本体と、この筒状エネルギ吸収部材本体の一端に連続するスロット挿通片とよりなり、前記スロット部材のスロットに前記スロット挿通片を挿通させたことを特徴とする衝突エネルギー吸収装置
【請求項2】
筒状エネルギ吸収部材本体の板厚よりも、スロットの高さが小なることを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項3】
複数の前記スロットの少なくとも1以上が前記スロット挿通片の幅方向に向けて円弧を描く辺を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項4】
前記筒状エネルギ吸収部材本体の横断面形状は、外側面及び内側面のうち少なくとも一方が多角形状であることを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【請求項5】
前記筒状エネルギ吸収部材本体はスロット挿通片に連続する端部から反対側の端部に向けて板厚が異なる領域を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突エネルギー吸収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−196534(P2011−196534A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67308(P2010−67308)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(391006083)三光合成株式会社 (67)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(391006083)三光合成株式会社 (67)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
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