説明

衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置

【課題】衝突荷重センサのダイナミックレンジを拡大した自動車用バンパ装置の提供。
【解決手段】本発明の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置10は、バンパリインホースメント12とバンパカバー13との間に配置されたバンパアブソーバ11と、バンパリインホースメント12の前端面に配置された衝突検知センサ14とを備えている。衝突検知センサ14は荷重センサからなり、バンパアブソーバ11内には車両幅方向に延びるダイラタント特性を有するシート状部材20が配置されている。歩行者または相手車両との高速衝突時にはダイラタント特性シート状部材20が瞬時に硬化し、バンパアブソーバ11が所定変形量a以上の変形領域では荷重対変形特性Aがダイラタント特性シート状部材が無いアブソーバのみの場合の特性Rに比べて大きな勾配をもって立ち上がる。その結果、衝突検知センサ14のダイナミックレンジLpが拡大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置に関し、とくに歩行者衝突と車両衝突との識別が可能な衝突検知センサ具備自動車用バンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、バンパリインホースメントとバンパカバーとの間に配置されたバンパアブソーバと、バンパリインホースメントの前端面に配置された歩行者衝突検知用の衝突検知荷重センサとを有する、衝突検知センサを備えた自動車用フロントバンパ装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−281989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の衝突検知センサ具備自動車用バンパ装置にはつぎの課題がある。
すなわち、歩行者衝突検知用に設定したセンサにおいて、センサの識別可能荷重範囲(以下、「ダイナミックレンジ」という)が狭いので車両衝突と歩行者衝突の識別が困難である。そのため、実際は車両衝突時であっても歩行者保護デバイス、たとえば歩行者保護用エアバッグやポップアップフードを不要に作動させてしまう。
【0005】
本発明の目的は、衝突荷重センサのダイナミックレンジを拡大した衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明はつぎのとおりである。
(1) 本発明の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置は、バンパリインホースメントとバンパカバーとの間に配置されたバンパアブソーバと、バンパリインホースメントの前端面に配置された衝突検知センサとを備えている。衝突検知センサは衝突検知荷重センサからなり、バンパアブソーバ内には車両幅方向に延びるダイラタント特性を有するシート状部材が配置されており、ダイラタント特性シート状部材の少なくとも一部は衝突検知荷重センサの車両前後方向前方に配置されている。
上記(1)は後述する本発明の実施例1とその全ての変形例に適用される。
【0007】
(2) 上記(1)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置において、衝突検知荷重センサが歩行者衝突を判定する第1の荷重閾値と第1の荷重閾値より大きい車両衝突を判定する第2の荷重閾値を有する。第2の荷重閾値は、衝突検知荷重センサのダイナミックレンジのうちバンパアブソーバ内にダイラタント特性シート状部材を配置したことにより拡大された部分に設定されている。
上記(2)は後述する本発明の実施例1とその全ての変形例に適用される。
【0008】
(3) 上記(1)または(2)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置において、ダイラタント特性シート状部材は車両前後方向に互いに間隔をもたせて複数段配置されている。前側のダイラタント特性シート状部材の上下方向幅はそれより後側のダイラタント特性シート状部材の上下方向幅以下であり、正面視で前側のダイラタント特性シート状部材はそれより後側のダイラタント特性シート状部材にオーバラップしている。
上記(3)は後述する本発明の実施例1とその変形例1に適用される。
【0009】
(4) 上記(3)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置において、前側のダイラタント特性シート状部材は車両幅方向に複数個に分割されている。
上記(4)は後述する本発明の実施例1とその変形例2に適用される。
【0010】
(5) 上記(3)または(4)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置において、前側のダイラタント特性シート状部材がそれより後側のダイラタント特性シート状部材より上下方向中心位置を上側にずらして配置されている。
上記(5)は後述する本発明の実施例1とその変形例3に適用される。
【0011】
(6) 上記(1)〜(5)の何れか1つの衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置において、衝突検知荷重センサがバンパリインホースメントの上半分に設置されており、ダイラタント特性シート状部材が衝突検知荷重センサの車両前後方向前方に配置されている。上記(6)は後述する本発明の実施例1とその変形例4に適用される。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置によれば、つぎの効果が得られる。
衝突検知センサが衝突検知荷重センサからなり、バンパアブソーバ内には車両幅方向に延びるダイラタント特性シート状部材が配置されているので、歩行者または相手車両との高速衝突時にはダイラタント特性シート状部材が瞬時に硬化し、バンパアブソーバが所定変形量以上の変形領域ではセンサ検出荷重対バンパアブソーバ変形特性がダイラタント特性シート状部材が無いアブソーバのみの場合の特性に比べて大きな勾配をもって立ち上がる。これによって、衝突検知荷重センサのダイナミックレンジが拡大される。
また、大きな勾配の荷重対バンパアブソーバ変形特性により、アブソーバのみの場合の荷重対バンパアブソーバ変形特性よりもバンパアブソーバの変形が小さいタイミングで同じ荷重閾値に達することができ、したがって衝突時の早いタイミングで、歩行者衝突のセンシング、および歩行者衝突か車両衝突かの判定が可能となる。
【0013】
上記(2)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置によれば、衝突検知荷重センサが車両衝突を判定する第2の荷重閾値を有し、第2の荷重閾値がダイラタント特性シート状部材の設置により拡大されたダイナミックレンジ部分に設定されているので、衝突時の早い段階で歩行者衝突か車両衝突かの判定が可能となり、車両衝突をセンシングした場合に歩行者保護デバイスの作動を止めることにより、不要な歩行者保護デバイスの作動がなくなる。
【0014】
上記(3)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置によれば、荷重対変形特性が多段に変化し変形が大きい領域ほど勾配が大きくなる特性となり、ダイラタント特性シート状部材が1段だけ設けられる場合に比べて、ダイナミックレンジをより拡大できる。
【0015】
上記(4)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置によれば、前側のダイラタント特性シート状部材が車両幅方向に複数個に分割されているので、衝突物の形状によりバンパアブソーバの一部しか押さない場合でも容易にセンシングが可能である。また、バンパアブソーバの反力も分割しない場合に比べて小さくなり、歩行者衝突の場合に歩行者に与える衝撃が小さくなる。
【0016】
上記(5)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置によれば、前側のダイラタント特性シート状部材が後側のダイラタント特性シート状部材より上側にずれているので、衝突した歩行者が自動車のフード上に倒れ込んだ時に、上側にずれていない場合より早く前側のダイラタント特性シート状部材が押され、歩行者衝突のセンシングが早まる。
【0017】
上記(6)の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置によれば、衝突検知荷重センサがバンパリインホースメントの上半分に設置されており、ダイラタント特性シート状部材が衝突検知荷重センサの車両前後方向前方に配置されているので、歩行者衝突のセンシングが早まる。また、ダイラタント特性シート状部材をバンパアブソーバの上下全域に配置する場合に比べてダイラタント特性シート状部材の使用量が低減し、コスト低減となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置の側面視方向断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る装置の、衝突時の各段階(i)〜(iv)におけるバンパアブソーバの変形とダイラタント特性シート状部材のアブソーバ内位置を示す、(イ) はバンパアブソーバの平面図、および(ロ)は(イ)のX−X断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置のセンサ検出荷重(L)対バンパアブソーバ変形(D)特性図である。
【図4】本発明の実施例1に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置の制御ルーチン図である。
【図5】本発明の実施例1の変形例1に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置の、(イ)は平面図、および(ロ)は(イ)のX−X断面図である。
【図6】本発明の実施例1の変形例2に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置の、(イ)は平面図、および(ロ)は(イ)のX−X断面図である。
【図7】本発明の実施例1の変形例3に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置の、(イ)は平面図、および(ロ)は(イ)のX−X断面図である。
【図8】本発明の実施例1の変形例4に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置の側面視方向断面図である。
【図9】本発明の実施例1とその変形例1〜4に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置のセンサ検出荷重対バンパアブソーバ変形特性図A〜Dである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例1とその変形例1〜4に係る衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置を、図1〜図9を参照して説明する。
本発明の実施例1とその変形例1〜4にわたって共通する構造部分には、本発明の実施例1とその変形例1〜4にわたって互いに同じ符号を付してある。
図中、FRは車両前後方向後方を示し、UPは上方を示す。
【0020】
〔実施例1〕
本発明の実施例1の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置10は、図1に示すように、バンパリインホースメント12とバンパカバー13との間に配置されたバンパアブソーバ11と、バンパリインホースメント12の前端面に配置された衝突検知センサ14と、衝突検知センサ14に電気的に接続された車両搭載コンピュータ(ECU)15と、を備えている。衝突検知センサ14は荷重センサからなる。また、バンパアブソーバ11内には車両幅方向に延びるダイラタント特性を有するシート状部材20が配置されている。ダイラタント特性を有するシート状部材20の少なくとも一部は衝突検知センサ14の車両前後方向前方に配置されている。衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置10を、以下自動車用バンパ装置10といい、ダイラタント特性を有するシート状部材20を、以下ダイラタント特性シート状部材20という。
【0021】
バンパリインホースメント12は、アルミ合金の押し出し材からなり、車両幅方向に直線状に延び両端部が車両後方に斜めに曲げられた形状を有し、車両幅方向両端部で車両のサイドメンバに溶接等により固定されている。
バンパアブソーバ11は発泡ウレタンからなり、衝突時に衝突荷重と変形の積から求まる衝突エネルギの一部を吸収する。
バンパカバー13は樹脂製であり、衝突時にバンパアブソーバ11側に変形する。
【0022】
衝突検知荷重センサ14は、衝突荷重を検知して検知した荷重に対応する電気信号をコンピュータ15に送る。衝突検知荷重センサ14は従来公知であり、光ファイバを用いたタイプのセンサであっても、圧電タイプのセンサであっても、あるいはその他の公知の荷重センサであってもよい。
【0023】
図3に示すように、衝突検知荷重センサ14とバンパアブソーバ11のアッセンブリが描く荷重対アブソーバ変形特性Aは、バンパアブソーバ11内にダイラタント特性シート状部材20が配置されていることにより、ダイラタント特性シート状部材20が配置されていないバンパアブソーバのみの場合の荷重対アブソーバ変形特性RのダイナミックレンジLcに比べて拡大されたダイナミックレンジLpを有し、歩行者衝突および車両衝突の早期センシングを可能にし、歩行者衝突か車両衝突かの識別を容易にしている。
【0024】
ダイラタント特性シート状部材20はバンパアブソーバ11内に車両前後方向に少なくとも1段配置されている。望ましくは、ダイラタント特性シート状部材20はバンパアブソーバ11内に車両前後方向に互いに間隔をもたせて複数段配置されている。図1は2段配置を示している。複数段配置の場合は、前側のダイラタント特性シート状部材20Fの上下方向幅はそれより後側のダイラタント特性シート状部材20Rの上下方向幅以下であり、正面視で前側のダイラタント特性シート状部材20Fはそれより後側のダイラタント特性シート状部材20Rにオーバラップしている。
【0025】
ダイラタント特性シート状部材20は、直接バンパアブソーバ11内に埋設されてもよいし、あるいは樹脂製または布製または樹脂コーティングされた布製等からなる袋状で可撓性を有する包囲体で包んでまたは包囲体の中に充填した状態でバンパアブソーバ11内に埋設されてもよい。包囲体自体はダイラタント特性を有しない。
【0026】
ダイラタント特性とは、衝撃時以外では可撓性を有し、たとえばゲル状で、衝撃がかかった時には瞬時に粘性を増して固体状となり、休止状態で再び元の可撓性、たとえばゲル状を取り戻す特性をいう。ダイラタント特性シート状部材20は、力が低速で加わるか力が加わらない休止状態の下では可撓性を有し、たとえばゲル状であり、高速で力が加わるすなわち衝撃力が加わると瞬時に剛性が増して固体エラストマとして振る舞い、衝撃エネルギを吸収し消散させる。
【0027】
ダイラタント特性シート状部材20の一部分に衝撃力が加わった場合でも、その衝撃力が加わった部分のみならず、その衝撃力が伝達された部分および急激に変形する部分も瞬時に剛性が増して固体エラストマとして振る舞う。ダイラタント特性シート状部材20が長手方向の一部に衝撃力を受けても、その衝撃がその段のダイラタント特性シート状部材20のほぼ全域に伝わるので、その段のダイラタント特性シート状部状部材20のほぼ全域が瞬時に硬化し固体エラストマとなる。
【0028】
ダイラタント特性シート状部材20には、たとえば英国のd3oTMlab社が製造し、市販されている、公知のd3oTM材を使用することができる。「d3o」は登録商標でディースリーオーと呼ぶ。d3oTMは樹脂を主成分とする。図示例ではダイラタント特性シート状部材20がd3oTM材のシートからなる場合を示している。d3oTM材は、受ける衝撃の強さで分子の結束が変化する。強い衝撃を受けると瞬時に分子同士が結束して固体状となり、衝撃が吸収、消散され、エネルギの多くが熱に変換される。衝撃力がかからなくなると分子の結束が解かれ元の柔軟な状態に戻る。d3oTM材からなるダイラタント特性シート状部材20はオレンジ色の粘度状物で垂直姿勢をとってもシート形状を維持できるので、ダイラタント特性シート状部材20を可撓性包囲体で包囲することなく直接、バンパアブソーバ11内に埋設することができる。ただし、d3oTM材シートを袋状の可撓性包囲体で包囲してバンパアブソーバ11内に埋設してもよい。
【0029】
ダイラタント特性シート状部材20の厚さは、d3oTM材シートの場合、約3mm〜7mmあれば前突時の衝突物の衝撃を受けてシート状部材20全域が硬化し、硬化した直線状のシート状部材20でそれより後方のバンパアブソーバ11を全面積で後方に押すことができる。シート状部材20が7mm厚であってもバンパアブソーバ11の容積はほとんど減少せず、バンパアブソーバ11の衝撃吸収能力をほとんど減少させない。
また、ダイラタント特性シート状部材20を構成するd3oTM材シートは1枚のシートから構成されてもよいし、数枚のシートを重ねたものから構成されてもよい。数枚のシートを重ねて構成する場合、総計の厚さが約3mm〜7mmあればよい。d3oTM材シートのバンパアブソーバ大きさへの切断は、d3oTM材シートが硬化していない状態で行う。
【0030】
ダイラタント特性シート状部材20は、d3oTM材シートに代えて、樹脂シート、樹脂フィルム、樹脂コーティング布などからなる袋状の包囲体とその中に充填されたダイラタント特性を有する材料から構成されてもよい。その場合、ダイラタント特性を有する材料を中に充填した包囲体は全体として見ればほぼ一定厚さをもつシート状部材である。ダイラタント特性を有する材料を挟んで対向する包囲体の2面は複数箇所で熱融着などにより互いに結合されており、それによってダイラタント特性シート状部材20は一定厚を保持する。
【0031】
包囲体に充填されるダイラタント特性を有する材料は、荷重がかかっていない状態でゲル状であり、ダイラタント特性を示すポリマ組成物、および潤滑剤と充填剤を含む。
ダイラタント特性を示すポリマ組成物は、ポリボロシロキサン、キサンタンガム、ガーゴムおよびポリビニルアルコール四ホウ酸ナトリウムよりなる群から選択された1種以上のポリマである。これらのポリマ組成物、たとえばポリボロシロキサンは、低速で力が印加されると容易に変形し、高速で力が加わると瞬時に粘性が増加して固体ポリマとなり衝撃エネルギを吸収する。固体ポリマを休止状態にするとゲル状にゆるやかに復帰する。
潤滑剤は、たとえば炭化水素系グリースまたは流体であり、充填剤は、微小粒または粉末のプラスチック、セラミック、金属または繊維材料である。
【0032】
ダイラタント特性を示すポリマ組成物、潤滑剤、充填剤の混合割合は、重量百分率で、上記ポリマを90%乃至20%未満、上記潤滑剤を20%未満(たとえば、10%)乃至60%以上(たとえば、80%)、上記充填剤を0%乃至90%を含む。それらの混合割合を調整することによりダイラタント特性性状を調整できる。高速衝突時に硬化し低速衝突時に良好な可撓性を示す混合割合の一例を挙げると、70%のポリボロシロキサン、20%の潤滑剤および10%の充填剤である。
以上では、ダイラタント特性を示す材料として、d3oTMと、上記ポリマ組成物を示したが、これらと同様の構成、作用をもつものであれば、使用可能である。
【0033】
ダイラタント特性シート状部材20が車両前後方向に多段に配置されたバンパアブソーバ11における、バンパアブソーバ11の変形とダイラタント特性シート状部材20の硬化、変位は、図2に示すようになる。また、その時の衝突検知荷重センサ14の検知荷重L対アブソーバ変形Dの特性は図3に示すようになる。
【0034】
詳しくは、図2の(i)は衝突直前でバンパアブソーバ11が変形しておらず、ダイラタント特性シート状部材20が硬化していない状態を示す。この状態は図3ではグラフの原点O上にある。
図2の(ii)は、衝突初期でバンパアブソーバ11が衝突物の外形に倣って局部的に変形し、変形の先端が前側のダイラタント特性シート状部材20Fの直前位置に達する迄を示す。この時はダイラタント特性シート状部材20はまだ硬化前の段階にある。この状態は、図3では原点Oと第1屈曲点aとの間にある。ここまではダイラタント特性シート状部材20がないバンパアブソーバのみの場合の特性Rの対応部分と同じである。
【0035】
図2の(ii)で、衝突物がさらにバンパアブソーバ11内に突っ込み、バンパアブソーバ11の変形の先端が前側のダイラタント特性シート状部材20Fに、またはその直前に達すると、その衝撃を受けて前側のダイラタント特性シート状部材20Fが瞬時にその全体が硬化する。その時は、図3で第1屈曲点a上にある。
【0036】
図2の(iii )は、さらに衝突物がバンパアブソーバ11内に突っ込んで前側のダイラタント特性シート状部材20Fを後方に押している状態を示す。前側のダイラタント特性シート状部材20Fは全長にわたって硬化して直線状の剛体板となっており、全面で後方のバンパアブソーバ11部分を押すので、局部的に押す場合よりも同じ量変形させるのに要する荷重が大きくなり、荷重対変形特性Aにおける第1屈曲点a以上の領域での勾配が、ダイラタント特性シート状部材20がないアブソーバのみの場合の荷重対変形特性Rにおける勾配に比べて急になる。この状態は図3で第1屈曲点aと第2屈曲点bとの間にある。
【0037】
図2の(iii )で、衝突物がさらにバンパアブソーバ11内に突っ込み、前側のダイラタント特性シート状部材20Fが後側のダイラタント特性シート状部材20Rの近くまで変位すると、前側のダイラタント特性シート状部材20Fの急速な変位の影響を受けて後側のダイラタント特性シート状部材20Rが全長にわたって瞬時に硬化する。その時は、図3で第2屈曲点b上にある。
【0038】
図2の(iv)では、さらに衝突物がバンパアブソーバ11内に突っ込んで前側のダイラタント特性シート状部材20Fと後側のダイラタント特性シート状部材20Rを共に後方に押す。後側のダイラタント特性シート状部材20Rは全長にわたって硬化しており、全面で後方のバンパアブソーバ11部分を押すので、局部的に押す場合に比べて同じ量変形させるのに要する荷重が大きくなり、図3の荷重対変形特性Aにおける勾配が、a〜b間よりさらに急になるとともに、ダイラタント特性シート状部材20がないアブソーバのみの場合における勾配に比べて急になる。この状態は図3で第2屈曲点bと第3屈曲点cとの間にある。
【0039】
図2の(iv)で、衝突物がさらにバンパアブソーバ11内に突っ込み、後側のダイラタント特性シート状部材20がリインホースメント12の前面近傍まで近づくと、後側のダイラタント特性シート状部材20とリインホースメント12の前面との間のアブソーバ材がつぶれてそれ以上には変形できず、急激に荷重が増大する。すなわち、図3の荷重対変形特性Aにおいて第3屈曲点cを越えるとリインホースメント12に底付きの状態になり、変形が無く荷重が急激に上がる状態となる。
【0040】
図3において、衝突検知荷重センサ14のダイナミックレンジLpは、荷重対変形特性Aの第3屈曲点cの荷重値として定義される。また、ダイラタント特性シート状部材20がないアブソーバのみの場合の荷重対変形特性Rにおける衝突検知荷重センサのダイナミックレンジLcは、突っ込む衝突車両とリインホースメント12の前面との間のアブソーバ材がつぶれてそれ以上には変形できない点gの荷重値として定義される。図3に示すように、アブソーバのみの場合の荷重対変形特性Rにおける衝突検知荷重センサのダイナミックレンジLcは、本発明では、ダイラタント特性シート状部材20がバンパアブソーバ11内に埋設されることにより、Lpに拡大される。
【0041】
本発明において、歩行者衝突検知荷重である第1の閾値L1は、アブソーバのみの場合の荷重対変形特性Rにおける衝突検知荷重センサのダイナミックレンジLcより小で、かつ荷重対変形特性Aの第1の屈曲点aの荷重値より大きい領域に設定される。これにより、同じ大きさの第1の閾値L1に対し、ダイラタント特性シート状部材20がバンパアブソーバ11内に埋設された場合のアブソーバ変形Pp(L1を通る横軸に平行な線と特性Aとの交点dの横座標値)は、ダイラタント特性シート状部材20がないアブソーバのみの場合のアブソーバ変形Pc(L1を通る横軸に平行な線と特性Rとの交点fの横座標値)に比べて小さい。したがって、ダイラタント特性シート状部材20がバンパアブソーバ11内に埋設された場合は、アブソーバのみの場合に比べて、荷重が早く第1の閾値L1に到達し、衝突後早いタイミングで歩行者衝突が検知される。
【0042】
同様に、車両衝突検知荷重である第2の閾値L2は、アブソーバのみの場合の荷重対変形特性Rにおける衝突検知荷重センサのダイナミックレンジLcより大で、図3の拡大されたダイナミックレンジLpより小の領域に設定される。第2の閾値L2は、望ましくは、荷重対変形特性Aの第2の屈曲点bの荷重値と第3の屈曲点cの荷重値との間に設定される。また、図3で荷重対変形特性Aと第2の閾値L2を通る横軸に平行な線との交点eのアブソーバ変形Cpが、上記アブソーバ変形Pcより小となるように、第2の閾値L2が設定されることが望ましい。これにより、車両衝突か否かを、衝突後のアブソーバ変形Dがアブソーバのみの場合のアブソーバ変形Pcに比べて小さい。したがってアブソーバのみの場合の歩行者衝突検知タイミングより早いタイミングで検知でき、車両衝突の場合はPcより早いタイミングCpで歩行者保護デバイスの不要な作動を止めることができる。
【0043】
コンピュータ15は、歩行者衝突時には歩行者保護デバイスを作動させ、車両衝突時には歩行者保護デバイスの作動を止める制御ルーチンを、ROMまたはRAMに記憶している。その制御は、たとえば図4に示すルーチンにより行うことができる。ただし、図4に示すルーチンに限る必要はない。
【0044】
図4において、衝突検知荷重センサ14から送信された電気信号である荷重Lが予め設定した歩行者衝突検知荷重である第1の閾値L1との大小を判定し、歩行者衝突と判定すると、歩行者保護デバイスを微小時間T0遅れてONとする信号を、歩行者保護デバイスに発する。ついで、コンピュータ15は、荷重Lが予め設定した車両衝突検知荷重である第2の閾値L2との大小を判定し、車両衝突と判定すると歩行者保護デバイスOFFの信号を歩行者保護デバイスに発し、歩行者保護デバイスが作動するのをT0前に止める。
【0045】
より詳しくは、図4のルーチンに所定時間間隔毎に割り込む。ステップ101でセンサ検知荷重Lを読み込み、ステップ102で荷重Lが第1の閾値L1以上か否かを判定し、否ならエンドに進み、L1以上であればステップ103に進んで歩行者保護デバイスを所定時間T0経過後にONする指令を出す。ONする指令を所定時間T0経過後に出す理由は、歩行者保護デバイスが歩行者保護エアバッグのような場合、後のステップ105でOFFの指令を出してもその前にエアバッグが展開してしまっているとOFFできないからである。ついでステップ104に進み、荷重Lが第2の閾値L2以上か否かを判定し、否ならエンドに進み、L2以上であればステップ105に進んで歩行者保護デバイスをOFFする指令を出す。
【0046】
ステップ103はステップ103−1〜103−4によって置き換えられてもよい。ステップ103−1はLが第1の閾値L1以上となった時からの経過時間Tを演算する。1回のルーチンへの割り込み毎にΔTだけ時間Tが増加していく。ステップ103−2で経過時間Tが上記微小時間T0以上になったか否かを判定し、否ならステップ104へと進む。Tが上記微小時間T0以上になるとステップ103−3に進み即座に歩行者保護デバイスをONする指令信号を歩行者保護デバイスに発し、ついで経過時間Tを0にリセットしてステップ104へと進む。
【0047】
つぎに、本発明の実施例1の作用、効果を説明する。
バンパアブソーバ11内には車両幅方向に延びるダイラタント特性シート状部材20が配置されているので、歩行者衝突か車両衝突かにかかわらず、高速衝突時にダイラタント特性シート状部材20が瞬時に硬化し、バンパアブソーバ11が第1屈曲点aに対応する変形以上の変形では、センサ検出荷重対バンパアブソーバ変形特性Aがアブソーバのみの場合の特性Rに比べて大きな勾配をもって立ち上がる。その結果、特性Aにおける衝突検知荷重センサ14のダイナミックレンジLpが拡大される。
また、ダイナミックレンジが拡大されたことにより、荷重対変形特性Aの勾配が大きくなる。その結果、同じ閾値L1に対してアブソーバのみの場合のアブソーバ変形Pcより小さいアブソーバ変形Ppのタイミングで、したがって衝突時の早いタイミングで、歩行者衝突のセンシングができる。同様に、アブソーバ変形がPcより小さいCpのタイミングで閾値L2に到達でき、したがって従来の歩行者センシングより早いタイミングで、歩行者衝突か車両衝突かの判定が可能となる。
【0048】
衝突検知荷重センサ14が歩行者衝突か車両衝突かを判定する第2の荷重閾値L2を有し、第2の荷重閾値L2がダイラタント特性シート状部材20の設置により拡大されたダイナミックレンジ部分Lpに設定されているので、歩行者衝突か車両衝突かの判定が可能となり、車両衝突をセンシングした場合に歩行者保護デバイスの作動を止めることにより、不要な歩行者保護デバイスの作動がなくなる。
【0049】
図3上で説明すると、従来(特性R)はダイナミックレンジLcが小さいので、歩行者衝突か車両衝突かの荷重閾値(本発明のL2に対応する閾値)をダイナミックレンジLc内に設けること(図3の点fと点gとの間に点eを設けること)が困難であった。従来、たとえ点fと点gとの間に点eを設けても、変形が点fと点eにほとんど同時に到達して歩行者衝突か車両衝突かを識別することが困難であった。これに対し、本発明では拡大されたダイナミックレンジLpに第2の閾値L2を第1の閾値L1から離して容易に設定でき、従来できなかった歩行者衝突か車両衝突かの判定をすることが可能になる。
【0050】
ダイラタント特性シート状部材20が車両前後方向に複数段、たとえば2段設けられた場合は、荷重対変形特性が多段に変化し変形が大きい領域ほど勾配が大きくなる特性となり、ダイラタント特性シート状部材20が1段だけ設けられた場合に比べて、ダイナミックレンジLpをより拡大できる。ただし、本発明はダイラタント特性シート状部材20が1段だけ設けられた場合を含む。
【0051】
上記本発明の実施例1は以下の変形例1〜4をとることができる。上記の説明は、本発明の何れの変形例にも適用できる。
〔変形例1〕
変形例1では、図5に示すように、ダイラタント特性シート状部材20がバンパアブソーバ11内に前後方向に互いに間隔をもたせて3段以上に配置されている。これによって、荷重対変形特性が図9のBのようになり、屈曲点が2段の場合に比べて多くなり、かつ、荷重対変形特性Bが2段の場合の荷重対変形特性Aに比べて荷重大側に移動する。
その効果として、実施例1の衝突検知荷重センサ14のダイナミックレンジLpに比べて、変形例1の衝突検知荷重センサ14のダイナミックレンジはさらに拡大される。
【0052】
〔変形例2〕
変形例2では、図6に示すように、ダイラタント特性シート状部材20がバンパアブソーバ11内に前後方向に互いに間隔をもたせて複数段に、図6では2段に、配置されている。最前側のダイラタント特性シート状部材20Fは車両幅方向に複数に分割されている。
これによって、荷重対変形特性が図9のCのようになる。衝突物によって分割されたダイラタント特性シート状部材20の一部が押された場合、分割されないダイラタント特性シート状部材20の全部が全長にわたって後方に押される場合より軽い力で後方に変位するので、車両幅方向に分割されていない実施例1の場合Aに比べて、前段のダイラタント特性シート状部材20Fが分割されている場合は荷重対変形特性Cの立ち上がりの勾配が小さくなる。
変形例2の効果は、衝突物の形状により車両幅方向にアブソーバの一部しか押さない場合でも、実施例1の場合に似た特性で荷重を変化させることができる。
【0053】
〔変形例3〕
変形例3では、図7に示すように、ダイラタント特性シート状部材20がバンパアブソーバ11内に前後方向に互いに間隔をもたせて複数段に、図示例では2段に、配置されている。最前側のダイラタント特性シート状部材20Fはそれより後側のダイラタント特性シート状部材20Rよりもシート状部材20の上下方向中心位置を上側にずらして配置されている。
これによって、荷重対変形特性が図9のDのようになる。歩行者との衝突時、歩行者がフード側に倒れるので、荷重対変形特性Dの前段のダイラタント特性シート状部材20Fの立ち上がりのタイミングが実施例1の場合Aのタイミング(点aの横座標値)に比べて早くなる。
変形例3の効果は、特性Aに比べて、早めに第1の閾値L1および第2の閾値L2に到達することができ、検知が早くなり、歩行者衝突か車両衝突かの判定も早くなる。
【0054】
〔変形例4〕
変形例4では、図8に示すように、衝突検知センサ14がバンパリインホースメント12の上半分の前面に設置されており、ダイラタント特性シート状部材20が衝突検知荷重センサ14の車両前後方向前方に配置されている。荷重対変形特性は図9の変形例3の特性Dとほぼ同じになる。
その効果は、変形例3と同様に、歩行者との衝突時、歩行者がフード側に倒れるので、荷重対変形特性Dの前段のダイラタント特性シート状部材20Fの立ち上がりのタイミングが実施例1の場合Aのタイミング(点aの横座標値)に比べて早くなる。
また、変形例3に比べて、ダイラタント特性シート状部材20がバンパリインホースメント12の下半分の前方には配置されていないので、ダイラタント特性シート状部材20の使用量が低減され、変形例3に比べてコストを低減できる。
【符号の説明】
【0055】
10 衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置
11 バンパアブソーバ
12 バンパリインホースメント
13 バンパカバー
14 衝突検知センサ
20 ダイラタント特性シート状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパリインホースメントとバンパカバーとの間に配置されたバンパアブソーバと、バンパリインホースメントの前端面に配置された衝突検知センサとを備えた自動車用バンパ装置であって、前記衝突検知センサが衝突検知荷重センサからなり、前記バンパアブソーバ内には車両幅方向に延びるダイラタント特性を有するシート状部材が配置されており、該ダイラタント特性シート状部材の少なくとも一部は前記衝突検知荷重センサの車両前後方向前方に配置されている、衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置。
【請求項2】
前記衝突検知荷重センサが歩行者衝突を判定する第1の荷重閾値と第1の荷重閾値より大きい車両衝突を判定する第2の荷重閾値を有し、該第2の荷重閾値が、前記衝突検知荷重センサのダイナミックレンジのうちバンパアブソーバ内にダイラタント特性シート状部材を配置したことにより拡大された部分に設定されている請求項1記載の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置。
【請求項3】
前記ダイラタント特性シート状部材は車両前後方向に互いに間隔をもたせて複数段配置されており、前側のダイラタント特性シート状部材の上下方向幅はそれより後側のダイラタント特性シート状部材の上下方向幅以下であり、正面視で前側のダイラタント特性シート状部材はそれより後側のダイラタント特性シート状部材にオーバラップしている請求項1または請求項2記載の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置。
【請求項4】
前記前側のダイラタント特性シート状部材は車両幅方向に複数個に分割されている請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置。
【請求項5】
前記前側のダイラタント特性シート状部材がそれより後側のダイラタント特性シート状部材より上下方向中心位置を上側にずらして配置されている請求項3または請求項4記載の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置。
【請求項6】
前記衝突検知荷重センサがバンパリインホースメントの上半分に設置されており、前記ダイラタント特性シート状部材が前記衝突検知荷重センサの車両前後方向前方に配置されている請求項1〜請求項5記載の衝突検知センサを備えた自動車用バンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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