説明

衝突緩衝装置

【課題】車両衝突時に反発力をなくして衝突エネルギーを効率良く吸収し、衝突した車両の乗員へのダメージを軽減する。
【解決手段】フェノール樹脂に非吸水性促進剤として両性界面活性剤を配合して発泡硬化させた独立気泡型で非吸水性のフェノール樹脂発泡体3を保護ケース5に収容して衝突緩衝装置1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両衝突時の衝突エネルギーを吸収して衝撃を緩衝する衝突緩衝装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
路面清掃車、散水車、高圧洗浄車及び標識車等の各種作業車の後部には、車両衝突時に乗員の安全を確保する観点から衝突緩衝装置が装備されている。また、高速道路の分岐部にも、同じ観点から衝突緩衝装置が設置されている。
【0003】
その一例として、特許文献1に開示されている衝突緩衝装置は、作業車に適用されるタイプであり、ガラス繊維等の補強材を配合したポリプロピレン等の熱可塑性樹脂で中空に形成された衝撃吸収体と、該衝撃吸収体に嵌合された断面十文字状のゴム等からなる発泡体や弾性体とで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−277654号公報(段落0016欄、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1では、衝撃吸収体はボックス形状の中空体であるため、車両衝突時の衝撃で変形することで衝撃エネルギーを吸収できるとは言っても、その吸収効率はブロックのような厚肉の弾性体の変形に比べて極めて悪い。また、この衝撃吸収体に組み合わされる発泡体(弾性体)は、弾性変形による反発力があるため、その分だけ衝突エネルギーの吸収が阻害され、衝突した車両の乗員にダメージを与えるおそれがある。
【0006】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両衝突時に反発力をなくして衝突エネルギーを効率良く吸収して、衝突した車両の乗員へのダメージを軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、この発明は、衝撃吸収材料として特殊な樹脂を採用したことを特徴とする。
【0008】
具体的には、この発明は、車両衝突時の衝突エネルギーを吸収して衝撃を緩衝する衝突緩衝装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明は、フェノール樹脂に非吸水性促進剤として両性界面活性剤を配合して発泡硬化させた独立気泡型で非吸水性のフェノール樹脂発泡体を保護ケースに収容して構成されたことを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記フェノール樹脂発泡体の密度は、20kg/m〜60kg/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、独立気泡型で非吸収性のフェノール樹脂発泡体は、反発力がなく、圧縮荷重を加えると容易に塑性変形して元の形状に復元しない性質を有し、この性質を有するフェノール樹脂発泡体を緩衝材として用いることで、車両衝突時の衝撃でフェノール樹脂発泡体が塑性変形して反発力が生じず、衝突エネルギーの吸収が阻害されずに効率良く吸収されて、衝突した車両の乗員へのダメージが軽減される。
【0012】
また、フェノール樹脂発泡体は独立気泡型であるため、連続気泡型のものに比べて強度的に強く、車両衝突時の大きな衝撃力が作用する緩衝材として好適である。
【0013】
さらに、フェノール樹脂発泡体は非吸収性であるため、万が一、保護ケース内に水が浸入しても、浸入水はフェノール樹脂発泡体に含浸せず、衝突緩衝装置の品質及び機能が保証される。
【0014】
第2の発明によれば、密度が20kg/m〜60kg/mであるフェノール樹脂発泡体を緩衝材として採用することで、優れた衝突エネルギー吸収効果により、衝突した車両の乗員へのダメージ軽減が確実に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】衝突緩衝装置を装備した作業車に一般車両が迫った追突直前の状態を示す説明図である。
【図2】衝突緩衝装置の分解斜視図である。
【図3】衝突緩衝装置の断面図である。
【図4】フェノール樹脂発泡体の供試体による荷重と変位量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は路面清掃車、散水車及び高圧洗浄車等の作業車V1に一般車両V2が迫った追突直前の状態を示す。この作業車V1の後部には、この実施形態に係る衝突緩衝装置1が装備され、上記一般車両V2が衝突した時の衝突エネルギーを上記衝突緩衝装置1で吸収して衝撃を緩衝し、乗員の安全を確保するようになっている。この衝突緩衝装置1は、上述の作業車V1以外に標識車であってもよく、また、作業車V1以外に高速道路の分岐部等にも適用可能である。
【0018】
この実施形態では、上記衝突緩衝装置1は、図2及び図3に示すように、直方体形状の6個のフェノール樹脂発泡体3を1個の保護ケース5に3個ずつ2列に衝撃が加わる方向(車両前後方向)に並べて収容して構成されているが、フェノール樹脂発泡体3の数や大きさは、特に限定されず、要は、車両衝突時の衝突エネルギーを効率良く吸収する観点から、用途目的に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
上記保護ケース5としても、特に限定されないが、この実施形態では、板厚が1.5mmのステンレス製のものを採用した。なお、その材質は他の金属や強化プラスチック(FRP)等であってもよく、板厚も材質や用途目的に応じて適宜選定すればよい。この保護ケース5は、高さが短く車幅方向に長い横長の直方体形状で車両前方側が開放していて、内部に2つの収容スペース5aが仕切板7により区画されて車幅方向に並んでいる。そして、6個のフェノール樹脂発泡体3を、例えばポリエチレン製の梱包材9でそれぞれ包んで衝撃が加わる方向に並べ、かつ両側面にポリスチロール製のクッション材11をあてがって、上記1個の保護ケース5の各収容スペース5aに3個ずつ隙間なく収容して、実施形態に係る衝突緩衝装置1が構成されている。そして、この衝突緩衝装置1は、取付ブラケット13に取り付けられて作業車V1の後部に装備される。
【0020】
上記フェノール樹脂発泡体3は、主剤であるフェノール樹脂に非吸水性促進剤として副剤の1つである両性界面活性剤を配合して発泡硬化させたものであり、独立気泡型で非吸水性である。
【0021】
上記フェノール樹脂は、ノボラック型かレゾール型かは問わないが、比較的低温で硬化できるレゾール型フェノール樹脂が価格面及び量産性の観点から好ましい。
【0022】
上記両性界面活性剤は、陰イオン界面活性剤が連続気泡を作るために用いられるのに対し、独立気泡を作るために用いられる。例えば、アミン系(アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等)、ベタイン系(アルキルベタイン等)、アミンオキシド系(アルキルアミンオキシド等)の両性界面活性剤である。
【0023】
副剤としては、上記両性界面活性剤以外に、石油エーテル、トリクロルエタン、ペンタン、ヘキサン等の公知慣用の発泡剤や、有機酸であるパラトルエンスルホン酸、無機酸であるリン酸等の公知慣用の硬化剤が用いられる。
【0024】
上記フェノール樹脂発泡体3としては、密度が20kg/m〜60kg/mのものを用いる。その理由は、フェノール樹脂発泡体3の密度が20kg/m未満になると、機械的強度が低下して衝撃力に対して弱くなり過ぎ、衝撃エネルギーの吸収効率が低下するからであり、一方、60kg/mを超えると、剛性が高くなり過ぎて潰れ難くなって衝撃エネルギーを効率良く吸収できなくなるからである。
【0025】
このように構成された衝突緩衝装置1では、フェノール樹脂発泡体3が独立気泡型で非吸収性であるので、反発力がなく、圧縮荷重を加えると容易に塑性変形して元の形状に復元しない性質を有して緩衝材として最適である。したがって、車両衝突時の衝撃でフェノール樹脂発泡体3が塑性変形して反発力が生じず、衝突エネルギーをその吸収を阻害することなく効率良く吸収して、衝突した車両の乗員へのダメージを軽減することができる。
【0026】
また、独立気泡型であるフェノール樹脂発泡体3は、連続気泡型のものに比べて強度的に強く、車両衝突時の大きな衝撃力が作用する緩衝材として好適に用いることができる。
【0027】
さらに、非吸収性であるフェノール樹脂発泡体3は、保護ケース5内に浸入した水がフェノール樹脂発泡体3に含浸することはなく、衝突緩衝装置の品質及び機能を保証することができる。
【0028】
さらにまた、フェノール樹脂発泡体3の密度が20kg/m〜60kg/mであるので、優れた衝突エネルギー吸収効果により、衝突した車両の乗員へのダメージ軽減を確実に実現することができる。
【0029】
次に、フェノール樹脂発泡体3の供試体を圧縮機にセットして500mm/minの速度で荷重をかけ、このときの荷重と供試体の変位量との関係を下記の表1及び図4にまとめた。
【0030】
供試体は、100mm(縦)×100mm(横)×100mm(高さ)の直方体であり、密度が40kg/m、50kg/mと異なるものを用意した。表1及び図4において、No.1〜3の供試体は、例えば標識車等の2トン車を対象としたもので密度40kg/mであり、No.4〜6の供試体は、標識車よりも大きい路面清掃車、散水車及び高圧洗浄車等の大型車を対象としたもので密度50kg/mである。このように密度を異ならせているのは、オーバーハングの違いによるものであり、路面清掃車等の大型車よりもオーバーハングを長く取れる標識車等の2トン車では、衝突緩衝装置1の車体からの突出量を大型車よりも多くできる関係から、フェノール樹脂発泡体3の密度を大型車よりも低く設定しても衝撃エネルギー吸収に支障を来さないからである。これに対し、路面清掃車等の大型車は、標識車等の2トン車に比べてオーバーハングを長く取れず、衝突緩衝装置1の車体からの突出量を2トン車よりも少なくしなければならない関係から、衝撃エネルギー吸収に支障を来さないようにフェノール樹脂発泡体3の密度を2トン車よりも高く設定する必要があるからである。
【0031】
【表1】

【0032】
表1及び図4に示すように、密度40kg/mのNo.1の供試体では、変位量が10mmでは荷重が1462.6N、変位量が30mmでは荷重が1445.6N、変位量が50mmでは荷重が1555.6N、変位量が70mmでは荷重が1786.7N、変位量が80mmでは荷重が3538.2Nであり、荷重は変位量が10mm〜70mmまではそれほど変化しておらず、変位量が70mmを過ぎて80mmに至る過程で急激に加わっている。そして、荷重が2500Nを超えると、変位量は79.107mmとほぼ横這い状態となった。他のNo.2及びNo.3の供試体でも同様の傾向であった。
【0033】
また、密度50kg/mのNo.4の供試体では、変位量が10mmでは荷重が2256.1N、変位量が30mmでは荷重が2349.2N、変位量が50mmでは荷重が2390.7N、変位量が70mmでは荷重が2264.2N、変位量が80mmでは荷重が5849.5Nであり、荷重は変位量が10mm〜70mmまではそれほど変化しておらず、変位量が70mmを過ぎて80mmに至る過程で急激に加わっていることは、上記の密度40kg/mのNo.1〜3の供試体と同じである。そして、荷重が2500Nを超えると、変位量は74.593mmとほぼ横這い状態となった。他のNo.5及びNo.6の供試体でも同様の傾向であった。このことは、車両衝突時の初期荷重がほぼそのままフェノール樹脂発泡体3全体に行き渡ることを意味する。
【0034】
したがって、このようなフェノール樹脂発泡体3を衝突緩衝装置1として用いることで、車両衝突時の衝撃がフェノール樹脂発泡体3に伝わって、衝突エネルギーを効率良く吸収して優れた衝撃緩衝作用を発揮させることができるものと推量できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、車両衝突時の衝突エネルギーを吸収して衝撃を緩衝する衝突緩衝装置であり、路面清掃車、散水車及び標識車等の各種作業車や、高速道路の分岐部等に適用される。
【符号の説明】
【0036】
1 衝突緩衝装置
3 フェノール樹脂発泡体
5 保護ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両衝突時の衝突エネルギーを吸収して衝撃を緩衝する衝突緩衝装置であって、
フェノール樹脂に非吸水性促進剤として両性界面活性剤を配合して発泡硬化させた独立気泡型で非吸水性のフェノール樹脂発泡体を保護ケースに収容して構成されたことを特徴とする衝突緩衝装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝突緩衝装置において、
上記フェノール樹脂発泡体の密度は、20kg/m〜60kg/mであることを特徴とする衝突緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95264(P2013−95264A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239879(P2011−239879)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【特許番号】特許第5039851号(P5039851)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(598153021)株式会社近江テック (5)
【出願人】(501352653)株式会社アイコム (4)
【Fターム(参考)】