説明

衣料用生地及び圧迫衣料

【課題】本発明は、着用に際して突っ張り感がなく皮膚の伸縮動作のストレスが小さい衣料用生地及び圧迫衣料の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の衣料用生地10を備えた圧迫衣料としてのサポーター1のその衣料用生地10は、編地からなる弾性を有する生地本体2と、前記生地本体2の全体に配設され前記生地本体2における互いに直交するX方向及びY方向とそれらの2方向の夫々に対して略45°をなすW方向との夫々の前記伸張力が同じになるように前記生地本体2の伸張力を調整するための伸張力調整部材3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用生地及び衣料用生地を有する圧迫衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性を有し身体に装着することにより身体の一部を圧迫できるようにした圧迫衣料は、広く知られている。圧迫衣料として、例えば特許文献1に、被覆装具が開示されている。この被覆装具は、伸縮性素材と非伸縮性素材又は伸縮性素材からなる本体と、本体を構成する伸縮性素材の所定箇所の伸縮性を処理剤の含浸処理により変えた部分とを有するものである。このようにして、含浸処理を施さない本体の部分は伸縮特性を持ち、含浸処理を施した部分は異なる伸縮特性を有するものとし、部分的に伸張力に変化をつけることで、人体装着部位に対する固定力、圧迫力等を適宜変化させ得るものとされている。
【0003】
又、例えば特許文献2には、装着者の膝部に装着可能で、複数の領域を有する生地部分と、前記生地部分の表面一部であって、前記複数の領域内に密着形成された樹脂パターンとを備え、樹脂パターンは、前記生地部分の表面における前記複数の領域に要求される機能に応じて特性を調整している膝用サポーターが開示されている。このように構成することにより、領域ごとに要求される身体の締め付け力を調整できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−70558号公報
【特許文献2】特開2010−111956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1における含浸処理を施した部分、或いは、特許文献2における樹脂パターンを有する領域は、例えば互いに直交する2方向と、それらの2方向の夫々と略45°をなす斜め方向との夫々の伸張力に大きな差が生じる場合が多い。このように、伸張力が3方向それぞれに大きな差が生じると、着用に際して突っ張り感が出て皮膚の伸縮動作のストレスが大きくなるおそれが生じる。
【0006】
本発明は、着用に際して突っ張り感がなく皮膚の伸縮動作のストレスが小さい衣料用生地及び圧迫衣料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、弾性を有する生地本体と、前記生地本体の一部又は全体に配設され前記生地本体における互いに直交するX方向及びY方向とそれらの2方向の夫々に対して略45°をなすW方向との夫々の前記伸張力が略同じになるように前記生地本体の伸張力を調整するための伸張力調整部材とを備えていることを特徴とする衣料用生地を提供することにより上記課題を解決する。
【0008】
この構成によれば、X方向、Y方向及びW方向の夫々の伸張力が略同じになるように構成されているため、身体に着用した場合に、その着用した部分の筋肉を、X方向、Y方向及びW方向にほぼ均等に引張ることができ、着用に際してつっぱり感等の違和感を軽減することができる。これにより、皮膚の伸縮動作のストレスを小さいものにして筋肉をサポートできる。
【0009】
又、この衣料用生地を用いて圧迫衣料を形成すれば、衣料用生地の伸張力の強弱の方向性が無いため、伸張力の強弱の方向性を考慮することなく圧迫衣料を形成でき、圧迫衣料の生産性の向上を図ることができる。
【0010】
他の一態様では、上記衣料用生地において、前記伸張力調整部材は、合成樹脂製の複数の小片状の調整部材片から構成され、前記調整部材片は、前記X方向に沿って列をなして並ぶように配設されているとともに、前記Y方向に沿って列をなして並ぶように配設されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、X方向、Y方向及びW方向の夫々の伸張力が略同じで伸張力の強弱の方向性が殆ど無い衣料用生地を、容易に形成できる。
【0012】
又、本発明は、上記衣料用生地を有することを特徴とする圧迫衣料を提供することにより上記課題を解決する。
【0013】
この構成によれば、伸張力の強弱の方向性が殆ど無い衣料用生地を用いることにより、伸張力の強弱の方向性を考慮することなく縫製等を行うことができ、生産性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、着用に際して突っ張り感がなく皮膚の伸縮動作のストレスが小さい衣料用生地及び圧迫衣料を提供し得たものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の衣料用生地を有する圧迫衣料としてのサポーターを裏返した状態の側面図である。
【図2】図1のサポーターの要部拡大断面図である。
【図3】図1のサポーターの要部拡大側面図である。
【図4】X方向、Y方向及びW方向の伸張力の測定データを表した図表である。
【図5】伸張力調整部材の他の実施形態に係り、(a)は、調整部材片を×形状に形成して配列した説明図、(b)は、調整部材片を正六角形状に形成して配列した説明図、(c)は、調整部材片を+形状に形成して配列した説明図、(d)は、調整部材片を正三角形状に形成して配列した説明図、(e)は、調整部材片を菱形状に形成して配列した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の衣料用生地を有する圧迫衣料としてのサポーターを裏返した状態の側面図、図2は、図1のサポーターの要部拡大断面図、図3は、図1のサポーターの要部拡大側面図である。
【0017】
この実施形態の衣料用生地を有する圧迫衣料は、サポーター1から構成されている。このサポーター1を構成する衣料用生地10は、編地からなる生地本体2と、生地本体の全体に配設された伸張力調整部材3とを備えている。
【0018】
生地本体2は、この実施形態では、弾性糸をトリコット編(たて編)によって編み編成されている。このように構成された生地本体2は、弾性を有するとともに、編み編成されているため、図1のX方向の伸張力と図1のY方向の伸張力が異なる。この実施形態では、X方向の伸張力とY方向の伸張力とは、1:1.50〜1.60とされている。
【0019】
伸張力調整部材3は、生地本体2における互いに直交する上記X方向及び上記Y方向とそれらの2方向の夫々に対して略45°をなすW方向との夫々の伸張力が略同じになるように伸張力を調整するもので、複数の調整部材片31から構成されている。
【0020】
この実施形態の調整部材片31は、夫々、熱可塑性樹脂、架橋反応樹脂等の合成樹脂から構成されている。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)等を挙げることができる。ただし、これらは例示であり、これに限定されず、他の熱可塑性樹脂を使用できる。
【0021】
又、架橋反応樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。ただし、これらも例示であり、これに限定されず、他の架橋反応樹脂を使用できる。
【0022】
好ましくは、弾性を有するポリウレタン樹脂(エーテル系若しくはカーボネート結合を有するもの)を用いる。
【0023】
又、調整部材片31の夫々は、この実施形態では、直径2mmの大きさの円形状のものから構成されている。そして、調整部材片31は、サポーター1の内面側(裏面側)となる生地本体2の一面2aに、X方向、Y方向及びW方向夫々の伸張力が略同じになるように配設されている。尚、調整部材片31の大きさは、直径2mmのものに限らず、適宜変更できる。
【0024】
この実施形態では、調整部材片31は、X方向に沿って互いに所定の距離を持って列をなして並ぶように配設されているとともに、X方向と直交するY方向に沿って互いに所定の距離を持って列をなして並んでおり、生地本体2に対して45〜55%の面積比になるように配設されている。
【0025】
より詳しくは、図3に示すようにX方向に並ぶ調整部材片31の列(以下、X方向列)を少なくとも1つ含む幅L1(Y方向の長さ)でX方向に引っ張った際のX方向伸張力と、Y方向に並ぶ調整部材片31の列(Y方向列)を少なくとも1つ含み上記幅L1と同じ幅L2(X方向の長さ)でY方向に引っ張った際のY方向伸張力と、上記幅L1と同じ幅L3(X方向と45°をなす方向の長さ)でW方向に引っ張った際のW方向伸張力とが、略同じようになるように配設されている。
【0026】
ここで、略同じとは、X方向伸張力とY方向伸張力とW方向伸張力との何れか1つを基準にして、その基準伸張力Paに対して他の伸張力Pbが0.70Pa≦Pb≦1.30Paになる場合をいう。好ましくは、0.80Pa≦Pb≦1.20Paになる場合である。
【0027】
また、調整部材片31の生地本体2に対する配設量は、上記範囲のものに限らず、例えば生地本体2に対して20〜70%の面積比になるように配設するのが好ましい。20%よりも少なくなると、X方向、Y方向及びW方向夫々の伸張力を略同じにし難くなり、一方、70%を超えると生地本体2の伸張率が小さくなるととともに、通気性も悪くなるおそれがあるからである。
【0028】
次に、この実施形態の圧迫衣料の製造方法について説明する。まず、生地本体2をトリコット編みで編成する。そして、必要に応じて染色した後、図2に示すようにその生地本体2の一面2aに、複数の調整部材片31を上記所定位置に配設するようにプリントする。これにより、調整部材片31夫々の一部が生地本体2に含侵した衣料用生地10を得ることができる。
【0029】
その後、衣料用生地10を所定の大きさに裁断し、生地本体2の一面2aを内面側になるようにして筒状に縫製する。これにより、図1に示すように、上端及び下端に開口を備え、その周方向に沿って調整部材片31が列をなして並ぶように配設されているとともに、その軸方向(Y方向)に沿って調整部材片31が列をなして並ぶように配設された筒状のサポーター1を製造できる。
【0030】
次に、このようにして製造したサポーター1を構成した衣料用生地10のX方向、Y方向及びW方向の引張試験を行なったので、以下に説明する。
【0031】
この引張試験は、X方向に引張試験を行なう試験片1、Y方向に引張試験を行なう試験片2、及びW方向に引張試験を行なう試験片3を製作して行なった。試験片1は、上記衣料用生地10から、上記幅L1が25mm(X方向列を7〜8を含む程度)、長さ(掴み間隔)が100mmで引張試験を行なえる程度の大きさに裁断して製作した。
【0032】
試験片2は、上記衣料用生地10から、上記幅L2が25mm(Y方向列を7〜8を含む程度)、長さ(掴み間隔)が100mmで引張試験を行なえる程度の大きさに裁断して製作した。又、試験片3は、上記衣料用生地10から、上記幅L3が25mm、長さ(掴み間隔)が100mmで引張試験を行なえる程度の大きさに裁断して製作した。
【0033】
又、引張スピード300mm/minの条件で行い、50%伸張力を測定することにより行なった。その結果は、図4に示すようにX方向、Y方向及びW方向の50%伸張力は、ほぼ同じであった。
【0034】
このようにX方向、Y方向及びW方向の伸張力を、ほぼ同じにすることにより、身体に着用した場合に、その着用した身体の筋肉を、X方向、Y方向及びW方向に均等に引張ることができ、着用に際してつっぱり感等の違和感を軽減することができる。これにより、皮膚の伸縮動作のストレスが小さいものにして筋肉をサポートできる。
【0035】
又、この衣料用生地を用いてサポーターを形成すれば、衣料用生地の伸張力の強弱の方向性が無いため、伸張力の強弱の方向性を考慮することなく形成でき、圧迫衣料の生産性の向上を図ることができる。
【0036】
尚、上記実施形態では、伸張力調整部材3は生地本体2の全体に配設されているが、この形態のものに限らず、例えば、伸張力調整部材3は生地本体2の一部に配設される形態でもよく、適宜変更できる。
【0037】
又、上記実施形態では、X方向を周方向に沿う方向とし、Y方向を軸方向に沿う方向とし、伸張力調整部材3を、それらのX方向及びY方向に沿って列をなすように並べたが、この形態のものに限らず、適宜変更できる。例えばX方向を周方向(軸方向)と45°をなす方向とし、Y方向をそのX方向と90°をなす方向とし、伸張力調整部材3を、それらのX方向及びY方向に沿って列をなすように並べるようにしても良い。
【0038】
又、上記実施形態では、伸張力調整部材3を、生地本体2の全体に、周方向に沿うX方向と、軸方向に沿うY方向とに列をなすように並べたが、例えば伸張力調整部材3を、生地本体2の一部に、周方向に沿うX方向と、軸方向に沿うY方向とに列をなすように並べるとともに、生地本体2の他の一部に、周方向(軸方向)と45°をなす方向と、その方向と45°をなす方向とに列をなすように伸張力調整部材3を並べるようにしても良い。
【0039】
又、上記実施形態では、伸張力調整部材3を、円形状の調整部材片31から構成したがこの形態のものに限らず、適宜変更できる。例えば図5(a)に示すように、調整部材片31aを×形状に形成し、互いに直交するX方向及びY方向に列をなすように並べてX方向とY方向とW方向との夫々の伸張力が略同じになるようにする。
【0040】
或いは、例えば図5(b)に示すように、調整部材片31bを正六角形状に形成し、互いに直交するX方向及びY方向に列をなすように並べてX方向とY方向とW方向との夫々の伸張力が略同じになるようにする。
【0041】
又、例えば図5(c)に示すように、調整部材片31cを十字形状に形成し、互いに直交するX方向及びY方向に列をなすように並べてX方向とY方向とW方向との夫々の伸張力が略同じになるようにする。
【0042】
さらには、例えば図5(d)に示すように、調整部材片31dを三角形状に形成し、互いに直交するX方向及びY方向に列をなすように並べてX方向とY方向とW方向との夫々の伸張力が略同じになるようにする。
【0043】
又、例えば図5(e)に示すように、調整部材片31eを菱形状に形成し、互いに直交するX方向及びY方向に列をなすように並べてX方向とY方向とW方向との夫々の伸張力が略同じになるようにする。
【0044】
又、上記実施形態では、弾性糸だけを用いて衣料用生地を形成したが、例えば弾性糸と非弾性糸とを用いて衣料用生地を形成してもよく、適宜変更できる。
【0045】
又、上記実施形態では、衣料用生地を編成した編地から構成したが、この形態のものに限らず、例えば弾性糸と非弾性糸とを用いて織った織地から構成してもよく、適宜変更できる。
【0046】
又、本発明の衣料用生地を有する圧迫衣料は、サポーターから構成されるものに限らず、例えばインナー、ソックス、スポーツウエア等にして、適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0047】
1 サポーター(圧迫衣料)
2 生地本体
3 伸張力調整部材
10 衣料用生地
31、31a〜31e 調整部材片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する生地本体と、前記生地本体の一部又は全体に配設され前記生地本体における互いに直交するX方向及びY方向とそれらの2方向の夫々に対して略45°をなすW方向との夫々の前記伸張力が略同じになるように前記生地本体の伸張力を調整するための伸張力調整部材とを備えていることを特徴とする衣料用生地。
【請求項2】
前記伸張力調整部材は、合成樹脂製の複数の小片状の調整部材片から構成され、
前記複数の調整部材片は、前記X方向に沿って列をなして並ぶように配設されているとともに、前記Y方向に沿って列をなして並ぶように配設されていることを特徴とする衣料用生地。
【請求項3】
請求項1又は2記載の衣料用生地を有することを特徴とする圧迫衣料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97361(P2012−97361A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243223(P2010−243223)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000112299)ピップ株式会社 (46)
【出願人】(000138554)株式会社ユタックス (18)
【Fターム(参考)】