説明

衣料用織編物

【課題】吸水性および着用快適性に優れており、部屋干し臭や汗臭を防止し、洗濯後の乾燥性が高い衣料用織編地を提供する。
【解決手段】表面層と裏面層を含む2層以上の多層構造からなる、0.5〜1.2mmの厚みを有する織編物であって、織編物の表面層が0.1〜3.0dtexの単糸繊度を有する細繊度糸のマルチフィラメントから構成され、裏面層が0.6〜5.0dtexの単糸繊度を有する太繊度糸のマルチフィラメントである糸条Aと、扁平マルチフィラメントである糸条Bの少なくとも2種類の糸条を用いて構成され、表面層を構成するマルチフィラメントと裏面層を構成する糸条Aのマルチフィラメントの繊度差が1.5〜4.9dtexであることを特徴とする衣料用織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯脱水性と乾燥性に優れるとともに抗菌性も併せ持つ、発汗時に着用快適性の高い衣料用織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ衣料は一般に肌に接触するように着用される。そのためスポーツに使用される織編物としては、肌から激しく発汗する汗を長時間にわたり連続的に吸収すると共に、速やかに外気中に蒸散させる乾燥性を有していることが理想的とされている。一方、運動中大量の汗をかいた場合、洗濯又は水洗い後すぐに再着用する場面があるが、濡れた衣服を着るのは気持ち良いものではない。
【0003】
また、近年、ライフスタイルや住宅環境の変化を受けて、洗濯衣料を室内に干す場合が多くなってきている。しかしながら、洗濯衣料を室内に干した場合には、乾燥までの時間がかかり、湿った状態に置かれる時間が長くなって、衣料から「部屋干し臭」と言われる生乾きの臭いが発生する場合があり、着用時または使用時に不快感を覚えることがある。
【0004】
従来、吸水・透水性、蒸散・速乾性については様々なアプローチがされている。例えば、特許文献1では、多層構造編地において、表面層を構成する繊維として、裏面層を構成する繊維より単糸繊度の小さい繊維を配置することにより、汗を生地裏面層から表面層に移動拡散させ、速乾性を上げる方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、異型断面疎水性フィラメントの活用、異繊度フィラメントを組合せて毛細管現象を促進する方法として、単糸断面形状が周囲に4葉の突起部を有したX型断面であって、その1つの交差角度が95〜130度であり、空隙率が10〜35%であることを特徴とする高吸水・速乾性を有するポリエステルX型断面繊維が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3では、ポリエステルの疎水性を改善する例として、繊維表面に繊維軸方向に対して直角方向に延びる多数の微細溝を有する太細繊維に親水剤を付与する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの方法では、織編物の吸水性や濡れた織編物の乾燥速度を向上できるが、洗濯直後の織編物の含水率については考慮されておらず、洗濯直後の含水率が高いために、結局乾燥時間が長かった。
【0008】
一方、「部屋干し臭」の発生を抑制するため、界面活性剤や抗菌剤などを配合する提案がなされている。例えば特許文献4では、界面活性剤と紫外線吸収剤と抗菌剤を含有する衣料用洗浄剤組成物が提案されている。しかしながら、この方法では、洗濯耐久性がなく、洗濯毎に衣料用洗浄剤組成物を添加する必要があった。また、「部屋干し臭」は防止できても、「汗臭」を低減できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−316757号公報
【特許文献2】特開2000−282323号公報
【特許文献3】特開平08−013332号公報
【特許文献4】特開平7−118696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消するために創案されたものであり、その目的は、洗濯乾燥性が高く、かつ部屋干し臭や汗臭を防止した衣料用織編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため、洗濯作業で衣服が乾燥するまでの現象を検討したところ、まず、洗われた衣服が遠心脱水機等で絞られ衣服の含水量が減らされる脱水工程(I)と、その後の乾燥工程、即ち繊維外にある余剰水分が乾燥される乾燥工程前期(II)と繊維内部に収着した水分が乾燥される乾燥工程後期(III)に分けて考えることができることを見出した。
【0012】
乾燥工程前期(II)では、繊維外の余剰水分が乾燥されるときに衣服内に起こる現象として、外気と接している生地表面と、外気と接していない生地裏面に含まれる空気に湿度差ができるため、生地表面が早く乾燥される。このとき、生地表面と生地裏面の水分率に高低差ができるため、内層の水分が外層に移動する。移動できる余剰水分がなくなった後、乾燥工程後期(III)として繊維内の水分が乾燥していく。
【0013】
このことから洗濯乾燥性を上げるための方法を鋭意検討した結果、下記の3つの技術的方策を組み合わせることにより、洗濯乾燥時間を短縮することができることを見出し、本発明を完成するに至った:
(A)衣服を構成する生地を2層以上の多重構造とし、表面を細繊度糸とし、裏面を太繊度糸として水分の移動及び衣服表面での蒸散性を高めて肌面に保持する水分を低減することにより、生地の水分移動特性を良くして、乾燥工程前期(II)の乾燥速度を早める;
(B)この多重構造の裏面を構成するマルチフィラメントの少なくとも一部に特定の扁平マルチフィラメントを用いて、衣服の水切れ性を向上し、これにより脱水工程(I)の衣服の含水量を減らす;
(C)衣服を構成する繊維に、疎水性の高い合成繊維を用いることで、繊維内に水分を極力取り込まないようにして乾燥工程後期(III)での乾燥速度を速める。
【0014】
即ち、本発明は、表面層と裏面層を含む2層以上の多層構造からなる、0.5〜1.2mmの厚みを有する織編物であって、織編物の表面層が0.1〜3.0dtexの単糸繊度を有する細繊度糸のマルチフィラメントから構成され、裏面層が0.6〜5.0dtexの単糸繊度を有する太繊度糸のマルチフィラメントである糸条Aと、扁平マルチフィラメントである糸条Bの少なくとも2種類の糸条を用いて構成され、表面層を構成するマルチフィラメントと裏面層を構成する糸条Aのマルチフィラメントの繊度差が1.5〜4.9dtexであることを特徴とする衣料用織編物である。
【0015】
本発明の衣料用織編物の好ましい態様では、裏面層が5〜80重量%の扁平マルチフィラメントを含み、扁平マルチフィラメントが0.8〜1.8dtexの単糸繊度及び3〜6の扁平率を有する。
【0016】
また、本発明の衣料用織編物の好ましい態様では、織編物に抗菌剤を用いた抗菌加工が施され、抗菌剤が鉄、アルミニウム、及びカリウムの全てを含む触媒機能を有する金属組成物であり、脱水水分率が30%以下であり、脱水乾燥性が35分以下であり、ウイッキング吸水性が10秒以内であり、汗消臭性が80%以上であり、10洗後の菌数増減値差が2.2以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の衣料用織編物は、表面層に細繊度糸を用い、裏面層に太繊度糸を用い、さらに裏面層に扁平糸を用いているので、洗濯脱水後の水切れ性が良好で、吊り干しでの乾燥速度が早い。また、抗菌加工を施していても吸水性が良好であり、本発明の衣料用織編物は、特定の金属組成物による抗菌剤を用いることによって、繰り返しの洗濯後でも部屋干し臭がしない十分な抗菌耐久性を保持する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】メッシュリバースの組織図である。
【図2】シングルメッシュの組織図である。
【図3】フタツキメッシュの組織図である。
【図4】マイクロピケの組織図である。
【図5】メッシュリバースの組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の衣料用織編物について詳細に説明する。
本発明の衣料用織編物は、表面層と裏面層を含む2層以上からなる多層構造からなるものである。本発明の織編物は、例えば、編物であれば、シングルジャージ、ダブルジャージ、シングルトリコット、ダブルトリコット、シングルラッセル、ダブルラッセル等で構成することができ、また織物であれば、一重織物、二重織物、ヨコ二重織物、タテ二重織物、タテ・ヨコ二重織物等で構成することができる。
【0020】
本発明の織編物に用いる繊維の素材としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレン等の従来から衣料用に使用されるものであればいずれも使用可能であるが、中でもポリエステルが特に好ましい。ポリエステル繊維は、運動用衣服とした場合の寸法安定性、強度、染色堅牢度等が他の繊維よりも特に優れている。
【0021】
また、これらの繊維は延伸糸、捲縮加工糸または他のフィラメント糸条との混繊糸であってもよいが、延伸糸又は捲縮加工糸を使用することが好ましい。また、捲縮加工糸としては、特に仮撚加工糸が好ましい。
【0022】
ポリエステル繊維を用いる場合は、その全構成単位の少なくとも80%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステルが好ましく、特にテレフタル酸又はその機能的誘導体とエチレングリコール又はエチレンオキサイドとから製造されたポリエチレンテレフタレートが好ましい。酸成分として、テレフタル酸又はその機能的誘導体の他に20モル%未満、好ましくは10モル%未満のイソフタル酸、アジピン酸、セパチン酸、アゼライン酸、ナフタ−ル酸、P−オキシ安息香酸、2.5−ジメチルテレフタル酸、ビス(P−カルボキシフエノキシ)エタン、2.6−ナフタレンジカルボン酸、3.5−ジ(カルボメトキシ)ベンゼンスルホン酸塩又はそれらの機能的誘導体を加えるか、またはグリコール成分として、エチレングリコールの他にジエチレングリコール、プロピレングリコール、1.4−ブタンジオール、1.4−ピロキシメチルシクロヘキサン等の2価アルコールを加えた共重合体であってもよい。また、例えば、難燃性を付与するために芳香族ポリホスホネ−トを加えた共重合体であってもよい。さらに、これらの重合体に酸化防止剤、艶消剤、着色剤、染色性向上剤、難燃性向上剤、制電剤等を添加しても差支えない。
【0023】
本発明の織編物では、表面層が細繊度糸のマルチフィラメントから構成され、裏面層が太繊度糸のマルチフィラメントと扁平マルチフィラメントを含む少なくとも2種類の糸条を用いて構成されていることを特徴とする。
【0024】
表面層を構成する細繊度糸のマルチフィラメントの単糸繊度は0.1〜3.0dtex、好ましくは0.2〜1.2dtexの範囲にあることが必要である。単糸繊度が上記範囲未満では、編地のピリング性及びスナッギング性が悪化したり、繊維表面積が高くなりすぎて見かけ色濃度が低下して濃色が得られにくくなる。一方、単糸繊度が上記範囲を越えると、風合が硬くなりすぎる。また、このマルチフィラメントの総繊度は特に限定はされないが、風合いの点で30〜200dtexの範囲にあるものが好ましい。
【0025】
また、裏面層を構成する太繊度糸のマルチフィラメントの単糸繊度は0.6〜5.0dtex、好ましくは0.8〜3.0dtexの範囲にあることが必要である。単糸繊度が上記範囲未満では、繊維比表面積が高くなり水分を保持しやすくなり、速乾性が低下する。一方、単糸繊度が上記範囲を越えると、風合いが硬くなりすぎる傾向がある。また、このマルチフィラメントの総繊度は特に限定されないが、スポーツ用衣料に好適な風合、厚みを得るために30〜200dtexの範囲にあるものが好ましい。
【0026】
裏面層を構成する扁平マルチフィラメントの含有量は、裏面層の5〜80重量%であることが好ましい。より好ましくは15〜50重量%である。含有量が上記範囲未満の場合、水切れ性や水分移動性が著しく悪くなり目標とする速乾効果が実現できなくなる。一方、上記範囲より大きい場合、表面への発現が多くなり、編地のピリング性及びスナッギング性が悪化する。
【0027】
裏面層を構成する扁平マルチフィラメントの単糸繊度は、好ましくは0.8〜1.8dtex、より好ましくは0.9〜1.5dtexの範囲にある。単糸繊度が上記範囲未満であると、乾燥時に裏面層から表面層に生地水分が移動する動きを妨げてしまう。一方、単糸繊度が上記範囲を越えると、水切れ性に悪い影響がある。この扁平マルチフィラメントの総繊度は特に限定されないが、スポーツ用衣料に好適な風合、厚みを得るために30〜200dtexの範囲にあるものが好ましい。
【0028】
本発明の織編物では、表面層を構成するマルチフィラメントと裏面層を構成する糸条Aのマルチフィラメントの繊度差は1.5〜4.9dtex、好ましくは2.0〜4.0dtexの範囲である。繊度差が上記範囲未満になると、繊度差が少なすぎるため、表裏間での毛細管効果が働きにくく、水分移動を促進することができなくなり、目標とする速乾効果が実現できなくなる。一方、上記範囲を越えると表面の繊度が著しく細くなるため、編地のピリング性及びスナッギング性が悪化したり、繊維表面積が高くなりすぎて見かけ色濃度が低下して濃色が得られにくくなる。
【0029】
表面層を構成するマルチフィラメントと裏面層を構成する糸条Aのマルチフィラメントの単繊維の断面形状はいかなるものも採用することができ、例えば通常の丸断面の他、多角断面、多葉断面、扁平断面、中空断面、その他特殊異形断面などが挙げられる。裏面層の少なくとも一部を構成する扁平マルチフィラメントの単繊維は3〜6の扁平率を有することが好ましい。扁平率が上記範囲から逸脱すると水切れ性が低下してしまう。
【0030】
本発明の織編物は0.5〜1.2mmの厚みを有することが重要である。好ましくは、厚みは0.8〜1.0mmである。厚みが上記範囲未満の場合、生地は著しく薄くなり、表裏2層を構造化することが困難になり、更に透け感が高まり、着用するのに望ましくない。一方、上記範囲を越えると、生地の内部に水分を抱え込みやすく、水分移動が悪くなり、目標とする速乾効果が実現できなくなる。
【0031】
本発明の織編物の染色加工の方法としては、衣料用の編地や織物に一般的に用いられる染色加工設備を使用すればよく、特に限定しない。本発明の目的から、吸水速乾性を高めるための親水加工が好適に用いられる。
【0032】
上記のようにして構成された本発明の織編物は、30%以下の脱水水分率、及び35分以下の脱水乾燥性を達成することができ、従来にない洗濯後の速乾性を期待することができる。
【0033】
さらに、本発明の織編物は、「部屋干し臭」及び「汗臭」を効果的に防ぐために、吸水性を阻害しない抗菌加工を施すことが好適である。抗菌加工は、吸水性を低下させずに抗菌防臭性と消臭性が得られる加工であれば特に限定しないが、洗濯耐久性が優れたものとして、例えば抗菌剤が鉄,アルミニウム,カリウムを含む触媒機能を有する金属組成物を用いる抗菌加工が好適に用いられる。また、その他の各種機能加工が単独または併用して施されていても良く、SR加工などの防汚加工、UVカット加工、摩擦溶融加工、静電加工、スキンケア加工などのあらゆる加工を施しても良い。
【0034】
上記のようにして構成された本発明の織編物は、10秒以内のウイッキング吸水性、80%以上の汗消臭性、及び2.2以上の10洗後の菌数増減値差を達成することができ、上記の洗濯後の優れた速乾性に加えて、優れた吸水性、及び従来にない抗菌防臭・消臭性とその繰り返し洗濯に対する耐久性を期待することができる。なお、本明細書で言及する10洗後とは、以下の実施例の洗濯試験の欄で規定する条件で10回繰返し洗濯を行ったものをいう。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、本発明で用いられる特性の測定は以下の方法で行った。
【0036】
(1)厚み
JIS−L−1018−1998−6.5に準じて織編地の厚みを測定した。
【0037】
(2)編地密度及び織物密度
編地密度は、JIS−L1018−1998に準じて編地のコース密度(個/inch)、ウェール密度(個/inch)を測定した。
織物密度は、JIS−L1096 6.6に準じて織物の経密度(本/inch)、緯密度(本/inch)を測定した。
【0038】
(3)生地目付
JIS−L1096法に準じて測定した。
【0039】
(4)扁平率
扁平率は、以下の式にて繊維の単糸横断面の外接長方形の長辺Aと短辺Bの比により求めた。
扁平率=長辺A/短辺B
【0040】
(5)扁平マルチフィラメントの混用率
裏面層100gに含まれる扁平マルチフィラメントの重量を百分率で示した。
【0041】
(6)ウイッキング吸水性
JIS−L1096法に準じて滴下吸水時間を測定した。
【0042】
(7)吸水拡散面積
織編物を直径15cmの刺繍用丸枠に取り付け、織編物表面に水溶性青染料溶液(C.I.アシッドブルー62を0.005wt%含有)を0.1ml滴下し、3分後に濡れ拡がった吸水拡散面積を以下の式より求めた。測定値はサンプル毎に5回行った測定の平均値とした。
吸水拡散面積(cm)=[縦の直径(cm)×横の直径(cm)]×π÷4
【0043】
(8)脱水水分率
織編物(10cm角)を水で十分に濡らし、家庭用二層式洗濯機の脱水機にて1分間脱水した後、水に濡らす前の織編物の質量aと脱水直後の織編物の質量bを測定した。以下の式にて脱水水分率を求めた。測定値はサンプル毎に3回行った測定の平均値とした。
脱水水分率(%)=((b−a)/a)×100
【0044】
(9)脱水乾燥性
織編物(10cm角)を水で十分に濡らし、家庭用二層式洗濯機の脱水機にて1分間脱水した後、織編物の重量を測定し、水分量を算出し、温度20℃で相対湿度65%の環境下で、織編物の水分量が2%(乾いたと感じる水分量)となるまでの時間(分)を測定した。
【0045】
(10)洗濯試験
JIS−L−0217、103号に準拠して行った。洗剤は市販の中性洗剤(P&G製、商品名:モノゲンユニ)を使用した。乾燥方法はつり干しで行った。
【0046】
(11)10洗後の菌数増減値差
JIS−L1902(繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)による評価結果に基づいて行った。試験菌体は黄色ぶどう球菌を用い、生菌数の測定は菌液吸収法のコロニー法(混釈平板培養法)を用いた。抗菌性の判定はlog(B/A)>1.5の条件下、log(B/C)を菌数増減値差とし、2.2以上を合格レベルとした。ただし、Aは無加工品の接種直後分散回収した菌数、Bは無加工品の18時間培養後分散回収した菌数、Cは加工品の18時間培養後分散回収した菌数を示す。
【0047】
(実施例1)
酸化チタンを0.5重量%含有する、固有粘度〔η〕=0.635のポリエチレンテレフタレートを、紡糸温度275℃、引取り速度3100m/分で溶融紡糸して、丸断面の125dtex,72フィラメントの高配向未延伸糸であるポリエステルマルチフィラメントを得た。また、同様にして丸断面の125dtex,36フィラメントの高配向未延伸糸のポリエステルマルチフィラメントも作製した。
【0048】
さらに、前二糸と同じポリエチレンテレフタレートレジンを扁平用紡糸口金を用いて紡糸温度280℃で押出し、引取りロール速度3000m/minで引取り、さらにゴデットローラで熱セットを行って捲取り速度5200m/minで高速紡糸し、扁平率4.0の100dtex,72フィラメントのポリエステルマルチフィラメント延伸糸を得た。
【0049】
次に、スピンドル仮撚機(三菱重工製、LS−6)を用いて、上述の高配向未延伸糸に延伸仮撚加工した。仮撚条件は、糸速度122m/min、延伸倍率1.58倍、加撚ヒーター温度190℃、仮撚方向Z撚でスピンドル回転数403800rpm、解撚ヒーター温度200℃とした。また、そのときのスピンドル前後の張力T1及びT2は26g/56gであった。
【0050】
以上の工程により最終表面を構成するマルチフィラメントとして、84dtex,72フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を得た。また同様の工程で裏面を構成するマルチフィラメントとして、84dtex,36フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を得た。
【0051】
次に、34インチ×28ゲージ両面丸編機を用い、図1に示す一完全組織No.1からNo.12の12口給糸からなるメッシュリバース編組織を編成した。
表面編組織用の給糸口No.1、4、7、10からは、糸条a、bとして、84デニール、72フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を配した。また、裏面編組織用の給糸口No.3、6、9、12からは、糸条cとして、84dtex、36フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を配し、給糸口No.2、5、8、11からは、糸条dとして、100dtex、72フィラメントの扁平延伸糸をそれぞれ配した。扁平延伸糸の混用率は44%であった。
【0052】
その後、得られた生機を以下の条件で精練した。
液流染色機(日阪製作所製、NSタイプ)を用いて、浴比1:15、95℃×30分、下記精練処方で処理して湯洗3回・水洗を行った後、染色機から編地を取出して遠心脱水した後、シュリンクサーファードライヤー(ヒラノテクシード製)を用いて乾燥(120℃×3分)を行なった。
(精練処方)
・里田加工製ノニゾールN,1g/l
・日華化学製ネオクリスタルCG1000,0.5g/l
・ソーダ灰、0.5g/l
【0053】
日阪製作所製液流染色機NSタイプを用いて浴比1:15、95℃×30分、下記精練処方で処理して湯洗3回・水洗を行った後、染色機から編地を取出して遠心脱水した後、ヒラノテクシード製シュリンクサーファードライヤーを用いて拡布にて乾燥(120℃×3分)を行った。
(精練処方)
・里田加工製ノニゾールN,1g/l
・日華化学製ネオクリスタルCG1000,0.5g/l
・ソーダ灰、0.5g/l
【0054】
その後、チャンバー温度180℃、処理時間30秒の条件でヒラノテクシード製ピンテンターを用いて中間セットを行った。その際、テンター幅は編地を引っ張り過ぎないように働き幅を設定し、経方向にも十分オーバーフィードを掛けて編地が伸びないように注意した。
【0055】
次に、以下の条件で染色した。
日阪製作所製液流染色機NSタイプ、浴比1:15,130℃×45分、湯洗3回・水洗して取り出した。染色処方:酢酸0.2g/l,pH=4、明成化学製ディスパーN700,0.5g/l、日華化学製ネオクリスタルGC1000,0.5g/l、蛍光染料0.25%owf(on the weight of fiber)で染色後、遠心脱水、乾燥(120℃×3分)を行い、以下の条件で仕上げ剤を付与した。仕上げ剤のピックアップは100%であった。
液付け後乾燥温度120℃×2分、高松油脂製SR1800,1.5%soln.、明成化学製HP600,0.5%soln.
【0056】
その後、最終セットをピンテンター160℃×2分の条件で行った。得られた仕上生地は目付150g/mで厚み0.95mmであった。実施例1で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
表面層に用いる糸を84dtex,72フィラメントから110dtex,144フィラメントに変更した以外は実施例1と同様に行った。実施例2で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例1の染色・乾燥(120℃×3分)後に以下の条件で抗菌・消臭加工を行い、仕上げ剤を付与した。仕上げ剤のピックアップは100%であった。
液付け後乾燥温度120℃×2分、ニチリンケミカル製セルフィール(鉄、アルミニウム、及びカリウムの全てを含む触媒機能を有する金属組成物からなる抗菌剤)0.5%soln.
その後、最終セットをピンテンター160℃×2分の条件で行なった。実施例3で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
編組織をシングルメッシュとした以外は実施例1と同様に行った。シングルメッシュの編立て条件を以下に示す。
34インチ×28ゲージのシングル丸編機を用い、図2に示す一完全組織NO.1からNO.8の8口給糸からなるシングルメッシュ編組織において、それぞれ表面編組織用の給糸口NO.2、3、6、7の糸条a、bの糸に、84デニール、72フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を、また裏面編組織用の給糸口NO.4、8の糸条c、の糸に84dtex,36フィラメントの丸型断面のポリエステル仮撚加工糸、給糸口NO.1、5の糸条dの糸に、100dtex,72フィラメントの扁平延伸糸をそれぞれ配して編成した。扁平延伸糸の混用率は20%であった。実施例4で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
編組織をフタツキメッシュとした以外は実施例1と同様に行った。フタツキメッシュの編立て条件を以下に示す。
オサ密度28ゲージのトリコット編機を用い、図3に示す3枚筬使いの一完全組織でL1からL3に3種類の糸の整経ビームを用いるフタツキメッシュ編組織において、L3の整経ビームに56dtex,72フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を、またL2の整経ビームに56dtex,24フィラメントの丸型断面のポリエステル仮撚加工糸を、L1の整経ビームに50dtex,36フィラメントの扁平延伸糸をそれぞれ配して編成した。扁平延伸糸の混用率は27%であった。実施例5で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例6)
実施例1で用いた84デニール、72フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を経糸に、扁平率4.0の100dtex,72フィラメントのポリエステルマルチフィラメント延伸糸を緯糸Aに、また84dtex,36フィラメントの丸型断面のポリエステル仮撚加工糸を緯糸Bとして、図4のマイクロピケ組織の織物を作成した。
【0062】
まず、経糸は村田機械(株)製309型ダブルツイスターを用いてS撚り方向に撚数200T/Mで撚糸を行った。次いで、(株)ヤマダ製の一本糊付機YS−6型にて速度150M/分、乾燥温度80℃、糊液温度60℃、付着量を5.0重量%に設定し糊付けを行った。糊剤はポリエステル用にアクリル糊を主体とした一般的なものを使用した。次いで、得られた糊付糸を(有)スズキワーパー製NAS SUPER−130W型を用いて筬入巾130cmで整経を行った。差し入れの後、(株)石川製作所製レピア織機2001Sタイプにビームを仕掛けた後、緯糸A,Bを打ち込んでマイクロピッケを製織した。
【0063】
得られた生機の密度は経120本/inch、緯90本/inchであり,扁平延伸糸の混用率は21%であった.この生機を日阪製作所製液流染色機NSタイプを用いて浴比 1:15、110℃×30分、下記処方で糊抜き・精練・リラックスを一度に行って湯洗3回・水洗行った後、染色機から編地を取出して遠心脱水・拡布乾燥(120℃×2分)を行なった。
精練処方:里田加工製ノニゾールN,1g/l、日華化学製ネオクリスタルCG1000,0.5g/l、苛性ソーダ1.0g/l。
その後190℃×30秒でプレセットを行った。これ以降は実施例1と同じ条件で染色、仕上げ処理をおこなった。仕上生地の密度は経128本/inch、緯105本/inchであった。実施例6で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例7)
メッシュリバースの編立て条件を若干変更した以外は実施例1と同様に行った。実施例7で採用したメッシュリバースの編立て条件を以下に示す。
34インチ×28ゲージ両面丸編機を用い、図5に示す一完全組織NO.1からNO.10の10口給糸からなるメッシュリバース編組織において、それぞれ表面編組織用の給糸口NO.1、3、4、6、8、9の糸条a、bの糸に、84デニール、72フィラメントの丸断面のポリエステル仮撚加工糸を、また裏面編組織用の給糸口NO.2、7の糸条c、の糸に84dtex,36フィラメントの丸型断面のポリエステル仮撚加工糸、給糸口NO.5、10の糸条dの糸に、50dtex,36フィラメントの扁平延伸糸をそれぞれ配して編成した。扁平延伸糸の混用率は8%であった。実施例7で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例8)
実施例1の染色・乾燥(120℃×3分)後に以下の条件で抗菌・消臭加工を行った。このときの加工液のピックアップ率は100%であった。
液付け後乾燥温度120℃×2分、日華化学(株)製ニッカノンRB(第四級アンモニウム系抗菌剤)2.0%soln.BASF製ヘリザリンフィキシングエージェントLF(メラミン樹脂)2.0soln.大日本インキ(株)製キャタリストACX(有機アミン系触媒)0.5%soln.その後、最終セットをピンテンター160℃×2分の条件で行なった。実施例8で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
メッシュリバースの裏面に用いる糸全てに84デニール36フィラメントの仮撚糸を用いて扁平延伸糸は用いなかった以外は、実施例2と同様に行った。比較例1で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
表糸に84dtex、フィラメント数36のセミダル丸断面ポリエステルフィラメントを用い、扁平糸を用いずにスムース編みとした以外は、実施例1と同様に行った。比較例2で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例3)
表糸及び裏糸に220dtex、フィラメント数72のセミダル丸断面ポリエステルフィラメントを用い、扁平糸を用いずに34インチ×34ゲージのシングル丸編機を用いて天竺編みとした以外は、実施例1と同様に行った。比較例3で得られた織編物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1からわかるように、実施例1〜8は洗濯脱水後の水切れ性が良好で、吊り干しでの乾燥速度も速いので乾燥時間が短いものであったが、比較例1〜3は扁平延伸糸が混用されていないので脱水水分率が高く、結果的に乾燥時間が長くなった。また、実施例3は抗菌加工をしているにもかかわらず吸水性が良好であり、着用−洗濯を繰り返しても「部屋干し臭」がしないだけの十分な抗菌性耐久性を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の織編物は、洗濯脱水後の水切れ性が良好で、吊り干しでの乾燥速度が早いとともに、抗菌加工を施しても吸水性が良好で十分な抗菌耐久性を持つ。従って、本発明の織編物は様々な衣料に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層と裏面層を含む2層以上の多層構造からなる、0.5〜1.2mmの厚みを有する織編物であって、織編物の表面層が0.1〜3.0dtexの単糸繊度を有する細繊度糸のマルチフィラメントから構成され、裏面層が0.6〜5.0dtexの単糸繊度を有する太繊度糸のマルチフィラメントである糸条Aと、扁平マルチフィラメントである糸条Bの少なくとも2種類の糸条を用いて構成され、表面層を構成するマルチフィラメントと裏面層を構成する糸条Aのマルチフィラメントの繊度差が1.5〜4.9dtexであることを特徴とする衣料用織編物。
【請求項2】
裏面層が5〜80重量%の扁平マルチフィラメントを含むことを特徴とする請求項1に記載の衣料用織編物。
【請求項3】
扁平マルチフィラメントが0.8〜1.8dtexの単糸繊度及び3〜6の扁平率を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の衣料用織編物。
【請求項4】
織編物に抗菌剤を用いた抗菌加工が施され、抗菌剤が鉄、アルミニウム、及びカリウムの全てを含む触媒機能を有する金属組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の衣料用織編物。
【請求項5】
脱水水分率が30%以下であり、脱水乾燥性が35分以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の衣料用織編物。
【請求項6】
ウイッキング吸水性が10秒以内であり、汗消臭性が80%以上であり、10洗後の菌数増減値差が2.2以上であることを特徴とする請求項4に記載の衣料用織編物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−163710(P2010−163710A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6238(P2009−6238)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(508179545)東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社 (51)
【Fターム(参考)】