説明

衣料用防虫剤

【課題】ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って増強された殺虫効果及び防虫効果を発揮し続けることが可能な芳香性を備えた衣料用防虫剤を提供する。
【解決手段】衣料用防虫剤は、(a)防虫香料成分として、CH−COO−R(R:炭素数が6〜12のアルコール残基)で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分とを含み、さらに(c)第二防虫香料成分として、テルペン化合物を含み、さらに(d)前記防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンス、引き出し、クローゼット、衣料収納箱等において使用される衣料用防虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イガ類、カツオブシムシ類、シミ類等の衣料害虫から繊維製品を保護するため、様々な防虫剤が実用化されている。防虫剤の有効成分として、古くはp−ジクロロベンゼン、ナフタレン等の昇華性殺虫成分が使用されていたが、近年ではエムペントリン、プロフルトリン等の常温で揮散性を有する常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分(以後、単に「ピレスロイド系殺虫成分」と称する)が多く使用されている。また、最近は消費者のニーズが多様化し、無臭よりも幾分芳香性を有する防虫剤を使用することで、処理空間や衣類に積極的に賦香する傾向も見られる。殺虫成分に香料成分を組み合わせて使用する場合、刺激性が少ないピレスロイド系殺虫成分は好都合である。
【0003】
ピレスロイド系殺虫成分は、衣料害虫に対して微量で高い殺虫効果を奏するとともに、人体への安全性に優れているという利点を有する。一方、ピレスロイド系殺虫成分は、処理空間に充満するまである程度の時間を要するため、状況によっては使用初期段階において十分な殺虫効果が得られない場合がある。
【0004】
防虫剤に関して、従来、ピレスロイド系殺虫成分と香料成分とを併用する提案が幾つかなされている。例えば、異なる二種類の高蒸気圧の害虫防除成分の混合物を有効成分として含有する害虫防除用組成物が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、第一の高蒸気圧の害虫防除成分として殺虫成分であるピレスロイド系化合物を含有するとともに、第二の高蒸気圧の害虫防除成分として香料成分であるテルペン類を含有する害虫防除用組成物が示されている。
【0005】
また、テルペン系化合物を有効成分とする衣類害虫の増殖阻害剤も知られている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2では、テルペン系化合物とピレスロイド系化合物とを併用することにより、優れた殺虫効果が発揮されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−44305号公報
【特許文献2】特開平11−269009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エムペントリン等のピレスロイド系殺虫成分は、使用を開始すると徐々に揮散し、通常の使用では6〜12ヵ月程度に亘って殺虫効果が持続する。一方、香料成分として使用されるテルペン系化合物は、ピレスロイド系殺虫成分に比べて使用開始時からの揮散性が高い。このため、特許文献1及び2のように、ピレスロイド系殺虫成分とテルペン系化合物とを併用した場合、ピレスロイド系殺虫成分は十分な殺虫効果を発揮するまでにしばらく時間を要するのに対し、テルペン系化合物は使用初期段階から揮散するため時間の経過とともに防虫効果が低下する。その結果、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って増強された殺虫効果及び防虫効果(ピレスロイド系殺虫成分とテルペン系化合物との相乗効果)を発揮し続けることは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って増強された殺虫効果及び防虫効果を発揮し続けることが可能な芳香性を備えた衣料用防虫剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る衣料用防虫剤の特徴構成は、
(a)防虫香料成分として、以下の式(I):
CH−COO−R ・・・ (I)
(R:炭素数が6〜12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、
(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分と、
を含むことにある。
【0010】
本発明において、前記防虫香料成分は、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテートからなる群から選択される少なくとも一種の酢酸エステル化合物であることが好ましく、特に、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、及びエチルリナリルアセテートからなる群から選択される少なくとも一種の酢酸エステル化合物であることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記ピレスロイド系殺虫成分は、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンからなる群から選択される少なくとも一種のピレスロイド系化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記防虫香料成分と前記ピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))は、重量比で0.02:1〜0.4:1であることが好ましい。
【0013】
本発明において、(c)第二防虫香料成分として、テルペン化合物を含むことが好ましい。
【0014】
本発明において、(d)前記防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分として、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、及びオレンジャークリスタルからなる群から選択される少なくとも一種の香料を含むことが好ましい。
【0015】
本発明において、前記持続性香料成分と前記ピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))は、重量比で0.02:1〜0.4:1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の衣料用防虫剤は、防虫香料成分として特定の酢酸エステル化合物と常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分とを組み合わせることにより、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って防虫香料成分を作用させることができる。その結果、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果により、増強された効果を長期に亘って発揮し続けることが可能となる。また、防虫香料成分を配合することで、長期に亘って芳香性が付与された衣料用防虫剤として商品の付加価値が高まる。また、第二防虫香料成分としてテルペン化合物を配合することで、芳香性がさらに高まるとともに、特に使用初期段階の防虫効果が増強される。さらに、持続性香料成分を配合することで、増強された防虫効果及び芳香性をさらに長続きさせることが可能となる。ピレスロイド系殺虫成分と組み合わせる酢酸エステル化合物、テルペン化合物、及び持続性香料成分は、人畜に対する安全性が高いため、本発明の衣料用防虫剤は家庭用等に好適であり、実用性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の衣料用防虫剤について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されることを意図しない。
【0018】
初めに、本明細書では、衣料害虫を排除する効果として、主に殺虫成分に由来する効果を「殺虫効果」、主に香料成分に由来する効果を「防虫効果」と表している。また、本明細書における「殺虫効果」及び「防虫効果」は、衣料害虫の幼虫や成虫を殺虫する効果の他、衣料害虫を寄せ付けない忌避効果、衣類等への侵入防止効果、衣類等の食害防止効果等を包摂する総合的な効果を意味する。
【0019】
本発明者らによる鋭意研究の結果、常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分を含有する衣料用防虫剤において、使用初期段階から殺虫効果及び防虫効果を増強させるためには、防虫香料成分として酢酸エステル化合物を含有させることが有効であることが判明した。ここで、「常温で揮散性を有する」とは、25℃において、0.001Pa以上の蒸気圧を示すことを意味し、揮散量として、0.005mg/Hr以上であれば、常温で揮散性を有するとみなすことができる。
【0020】
本発明の衣料用防虫剤は、(a)防虫香料成分として、以下の式(I):
CH−COO−R ・・・ (I)
(R:炭素数が6〜12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分とを含むように調製される。さらに、本発明の衣料用防虫剤は、防虫香料成分及びピレスロイド系殺虫成分に加えて、(c)第二防虫香料成分、及び(d)防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分を含むように調製され得る。以下、各成分について説明する。
【0021】
(a)防虫香料成分
防虫香料成分として使用する前記式(I)で表される特定の酢酸エステル化合物は、後述のピレスロイド系殺虫成分と化学構造的に類似のエステル化合物である。酢酸エステル化合物の揮散性は、後述の第二防虫香料成分として添加し得るテルペン化合物の揮散性と概して同等程度であり、且つピレスロイド系殺虫成分の揮散性より大きいという特性を有する。このため、酢酸エステル化合物は、ピレスロイド系殺虫成分と協同して、使用初期段階から数ヵ月以上の長期に亘って相乗効果による増強された防虫効果を発揮することが可能となる。また、衣料用防虫剤の持続期間中は、酢酸エステル化合物によって芳香性が高められる。従って、防虫香料成分を配合することで、長期に亘って芳香性が付与された衣料用防虫剤として商品の付加価値が高まる。
【0022】
前記式(I)で表される酢酸エステル化合物中のアルコール残基(R)としては、炭素数が1〜5のアルキル基で置換可能なシクロアルキル基、炭素数が1〜3であるフェニルアルキル基(フェニル基とエステル基との間の炭素数が1〜3のもの)、テルペンアルコール残基などが挙げられる。すなわち、酢酸エステル化合物として、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテートなどが挙げられる。これらのうち、好適な酢酸エステル化合物は、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、及びエチルリナリルアセテートである。これらの酢酸エステル化合物は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。
【0023】
(b)ピレスロイド系殺虫成分
上記防虫香料成分と組み合わせて使用されるピレスロイド系殺虫成分としては、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンなどが挙げられる。これらのピレスロイド系殺虫成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。また、これらのピレスロイド系殺虫成分には、不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらを単独又は任意の混合物として使用することも可能である。
【0024】
(c)第二防虫香料成分
本発明の衣料用防虫剤は、使用初期段階における防虫効果をさらに増強するために、第二防虫香料成分として、テルペン化合物を含有し得る。上述の防虫香料成分にテルペン化合物を併用すると、使用初期段階の防虫効果が長時間持続することが本発明者らによって確認された。また、テルペン化合物は調香剤としての機能も有しており、このため、より長期に亘って芳香性を高めることができる。テルペン化合物としては、テルピネオール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール等のテルペン系アルコール、シトロネラール、シトラール、ジメチルオクタナール等のテルペン系アルデヒド、カルボン、ジヒドロカルボン、プレゴン、メントン等のテルペン系ケトンなどが挙げられる。これらのテルペン化合物は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。テルペン化合物は、テルペン化合物を含有する植物精油の形態であっても構わない。植物精油としては、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油、グレープフルーツ油、シダーウッド油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、ハッカ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油などが挙げられる。
【0025】
(d)持続性香料成分
本発明の衣料用防虫剤は、防虫効果及び芳香の持続性をさらに高めるために、持続性香料成分を含有し得る。上述の防虫香料成分及び第二防虫香料成分に加えて、持続性香料成分を使用すると、使用後期段階における防虫効果の減退が少なくなり、6〜およそ12ヵ月の長期の使用にも耐え得る衣料用防虫剤を実現することができる。持続性香料成分としては、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、オレンジャークリスタルなどが挙げられる。これらの持続性香料成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。
【0026】
〔衣料用防虫剤の組成〕
防虫香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))は、重量比で0.02:1〜0.4:1とするのが好ましい。この範囲であれば、防虫香料成分によって衣料用防虫剤の使用初期段階における防虫効果を増強しつつ、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って防虫香料成分を作用させることができる。その結果、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果により、増強された効果及び芳香性を長期に亘って発揮し続けることが可能となる。防虫香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))が上記範囲を上回っても、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果は頭打ちになり、それ以上の効果の向上はあまり望めない。防虫香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))が上記範囲を下回ると、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果が十分に得られない場合がある。
【0027】
持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))は、重量比で0.02:1〜0.4:1とするのが好ましい。この範囲であれば、上記防虫香料成分に加え、持続性香料成分によって衣料用防虫剤の使用期間を延長しつつ、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って持続性香料成分を作用させることができる。その結果、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分及び持続性香料成分による防虫効果との相乗効果により、さらに増強された効果及び芳香性をより長期に亘って発揮し続けることが可能となる。持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))が上記範囲を上回ると、ピレスロイド系殺虫成分の揮散量が抑制され、使用期間中に亘って十分な殺虫効果が得られない場合がある。持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))が上記範囲を下回ると、持続性香料成分による衣料用防虫剤の使用期間の延長が十分に達成されない場合がある。
【0028】
本発明の衣料用防虫剤は、上記各成分の他に、各種添加剤を含有し得る。例えば、防黴剤(2−フェニルフェノール(OPP)、4−イソプロピル−3−メチルフェノール(IPMP)、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノール、オルソフェニールフェノール等)、抗菌剤(ヒノキチオール、オイゲノール、アリルイソチオシアネート等)、芳香剤(リモネン、α−ピネン、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、ベンジルアセテート等)、除菌成分、BHT等の安定化剤、pH調整剤、着色剤、炭化水素系化合物(ヘキサン、パラフィン等)、各種石油系溶剤等を適宜含有し得る。また、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等の香料を適宜含有し得る。衣料用防虫剤に緑の香りを添加することにより、衣類の収納容器を開封したときに使用者に対してリラックス効果を付与することができる。
【0029】
衣料用防虫剤中の防虫香料成分及びピレスロイド系殺虫成分の配合量は、一個の衣料用防虫剤につき、防虫香料成分が0.004〜0.4g程度、ピレスロイド系殺虫成分が0.02〜1.0g程度とすることが好ましい。防虫香料成分及びピレスロイド系殺虫成分の配合量は、衣料用防虫剤の剤形に応じて適宜調整され得る。防虫香料成分及びピレスロイド系殺虫成分の配合量が上記範囲より少ない場合、十分な殺虫効果及び防虫効果が得られないことがある。防虫香料成分及びピレスロイド系殺虫成分の配合量が上記範囲を超えた場合、ベタつき感等の現象により使い勝手が悪くなり、実用性が低下する。
【0030】
〔衣料用防虫剤の剤形〕
本発明の衣料用防虫剤の剤形は、液状物、ゲル状物、固形状物など、使用場面に応じて、種々の状態が選択され得る。
【0031】
液状物を調製する場合は、溶媒として、水、アルコール系溶剤(エタノール、イソプロパノール等)、グリコール系溶剤(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングルコール等)、グリコールエーテル系溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)、脂肪族炭化水素系溶剤、界面活性剤(可溶化剤)などが適宜使用され得る。このうち、界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等)、高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤(ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等)などが挙げられる。
【0032】
ゲル状物を調製する場合は、ゲル化剤として、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、ゼラチン、オクチル酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸などが適宜使用され得る。
【0033】
固形状物を調製する場合は、固形担体に液状物又はゲル状物として調製した衣料用防虫剤を含浸又は保持させる。固形担体から衣料用防虫剤の有効成分が揮散することで、殺虫効果及び防虫効果が発揮される。固形担体としては、繊維質担体(パルプ、リンター、レーヨン等)、セルロール又は再生セルロール製のビーズ及び発泡体、無機多孔質担体(ケイ酸塩、シリカ、ゼオライト等)、昇華性担体(トリオキサン、アダマンタン等)が挙げられる。繊維質担体を使用する場合、厚さ1〜3mm程度のマット状又はシート状のものが好ましい。セルロース製のビーズを使用する場合、これに炭等の多孔質材料を配合することにより、衣料用防虫剤に消臭効果を付与することができる。
【0034】
〔衣料用防虫剤の使用形態〕
本発明の衣料用防虫剤は、通気性袋、通気性ケース等の容器に収容した状態にして製品化される。例えば、固形担体に衣料用防虫剤を含浸させて製造したペレットやビーズを通気性袋に封入し、袋入り衣料用防虫剤を構成する。この袋入り衣料用防虫剤を、タンス、クローゼット、引き出し、衣類収納箱等に設置し、通気性袋を介して、衣料用防虫剤に含まれる揮散成分を周囲に揮散させる。衣料用防虫剤の使用個数は、設置環境によっても異なるが、通常の使用では1箇所につき1〜3個程度で十分である。袋入り衣料用防虫剤に使用する通気性袋としては、不織布袋、織布袋、綿袋、紙袋、ネットケース等が挙げられ、これらのうち特に不織布袋が好ましい。不織布袋の材質は、ポリエステル(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ乳酸(PL)、レーヨンなどが挙げられる。不織布袋を構成する繊維は、単一繊維であるか混紡品であるかは問わない。また、繊維シートに多孔質性シート(例えば、紙、多孔質樹脂シート等)を積層した積層品で不織布袋を構成しても構わない。このような積層品であれば、衣料用防虫剤の揮散成分が不織布袋を通過する際に多孔質性シートに一部吸着され、その結果、揮散成分の揮散量を二次的に調整することが可能となる。
【0035】
衣料用防虫剤を通気性ケースに入れて使用する場合は、衣料用防虫剤をそのままの状態で、又は上記の通気性袋に封入した状態で通気性ケースに収納する。通気性ケースには、揮散成分が通過可能な通気孔を複数形成しておく。通気性ケースは、例えば、熱可塑性樹脂を成形して作製することができる。樹脂成形を行う場合、通気性ケースは一体物として成形され得るが、複数のパーツを樹脂成形し、これらを組み合わせて通気性ケースを構成しても構わない。通気性ケースには、クローゼットのハンガーパイプ等に掛けるためのフックを同時に形成しておくことも可能である。通気性ケースの成形法としては、熱板圧空成形、射出成形、ブロー成形、モールド成形、インサート成形等が挙げられる。成形に使用する熱可塑性樹脂としては、ポリエステル(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ乳酸(PL)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられる。
【0036】
上記のように構成した衣料用防虫剤は、衣料害虫(イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミ類等)、屋内塵性ダニ類(コナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ、ツメダニ等)、各種害虫(チャタテムシ、ツバンムシ、ゴキブリ、アリ類、蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類等)に対し、使用初期段階から使用末期段階までの3〜およそ12ヵ月の長期間に亘って実用的な程度で殺虫効果及び防虫効果を発揮することができる。また、芳香性についても、防虫香料成分、第二防虫香料成分、及び持続性香料成分の作用により、使用初期段階における高い芳香性がそのまま長期間持続するので、本発明の衣料用防虫剤は家庭用等に適しており、その実用性は高い。
【実施例】
【0037】
本発明の衣料用防虫剤の効果を確認するため、液状物として調製した衣料用防虫剤を面積11cm、厚さ1mmのパルプ紙に含浸させて防虫マットを作製した。この防虫マットを使用し、以下の食害防止効力試験、及び芳香の持続性試験を実施した。
【0038】
〔食害防止効力試験〕
容量50Lの衣装箱を準備し、その内部に供試用の防虫マットを載置し、衣装箱を蓋で密封した。この衣装箱を、温度27℃、湿度65%の室内で保管し、食害防止効力試験に供した。試験では、開始直後、1ヶ月後、3ヶ月後の各時点において衣装箱の蓋を開け、防虫マットの10cm上方に、30日令で体重30〜35mg/頭のイガ幼虫20頭と羊毛試験布(2cm×2cm,40〜45mg)とを入れたカゴを設置し、7日間放置した後、カゴから羊毛試験布を回収し、食害率(食害量/元の重量×100)を測定するとともに、死虫率を求めた。
【0039】
〔芳香の持続試験〕
食害防止効力試験において衣装箱の蓋を開けた際に、試験開始時の防虫マットに相当する標準サンプルからの芳香の変化を、モニター10人による官能試験により評価した。評価基準は、8人以上が芳香の変化を感じない場合を「○」、3〜5人が芳香の変化を感じる場合を「△」、6人以上がはっきりと芳香の変化を感じる場合を「×」とした。
【0040】
<実施例1〜8>
実施例1〜8として、本発明に従い、(a)防虫香料成分としての前記式(I)で表される酢酸エステル化合物、及び(b)ピレスロイド系殺虫成分を含有した衣料用防虫剤を調製した。これらのうち、実施例1〜6及び8については、(c)第二防虫香料成分としてのテルペン化合物、及び/又は他成分をさらに含有するものとして調製した。また、比較のため、本発明の範囲外の組成を有する衣料用防虫剤を調製し(比較例1〜4)、実施例と同様の試験に供した。実施例1〜8、及び比較例1〜4で使用した衣料用防虫剤の組成を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜8、及び比較例1〜4の衣料用防虫剤による食害防止効力試験、及び芳香の持続性試験の各結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例1〜8の結果より、本発明の衣料用防虫剤は、試験開始直後から3ヵ月後まで、高い食害防止効果が見られるとともに、死虫率も最終的に100%に達していた。つまり、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果により、増強された効果を長期に亘って発揮し続けることが確認された。また、芳香の持続性についても、試験開始直後から3ヵ月後まで、顕著な減退は見られなかった。さらに、本発明の衣料用防虫剤は、使用初期段階における防虫効果及び芳香性が増強されることが確認された。実施例1〜8では、防虫香料成分である酢酸エステル化合物とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))が重量比で0.02:1〜0.4:1の範囲において、実用的な効果が見られた。
【0045】
これに対し、酢酸エステル化合物を含有しない衣料用防虫剤(比較例1)では、使用初期段階における防虫効果が劣っていた。ピレスロイド系殺虫成分を含有しない衣料用防虫剤(比較例2)では、実用的な程度まで殺虫効果及び防虫効果を発揮できなかった。ピレスロイド系殺虫成分と本発明の範囲外にある揮散性が高い酢酸エステル化合物とを含有する衣料用防虫剤(比較例3)では、両者の相乗効果が十分ではなく、使用初期段階における防虫効果及び芳香性を持続させることが出来なかった。ピレスロイド系殺虫成分と本発明の範囲外にある揮散性が乏しい酢酸エステル化合物とを含有する衣料用防虫剤(比較例4)では、ピレスロイド系殺虫成分の揮散性が抑制され、防虫効果の低下を招くことが確認された。
【0046】
<実施例9>
(a)防虫香料成分である酢酸エステル化合物としてp−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート10mg、(b)ピレスロイド系殺虫成分としてプロフルトリン70mg、(c)テルペン化合物としてテルピネオール8mg、防黴剤としてIPMP6mg、プロピレングリコール20mgを含む混合液を、平均粒径3mmの炭配合セルロース製ビーズ(炭の配合量:50重量%)約4gに含浸させ、このビーズを両面が通気性の紙積層ポリエステル不織布からなる袋(6cm×9cm)に収納し、実施例9の衣料用防虫剤を作製した。この衣料用防虫剤を引き出し中の衣類の上に載置し、食害防止効果試験及び芳香の持続試験に供した。その結果、使用開始から約6ヵ月に亘って、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣料害虫を寄せ付けない防虫効果が確認された。また、当該期間中において、初期の芳香が変化することなく持続した。
【0047】
<実施例10〜17>
実施例10〜17として、本発明に従い、(a)防虫香料成分としての前記式(I)で表される酢酸エステル化合物、(b)ピレスロイド系殺虫成分、及び(d)持続性香料成分を含有した衣料用防虫剤を調製した。これらのうち、実施例10及び13〜16については、(c)第二防虫香料成分としてのテルペン化合物、及び/又は他成分をさらに含有するものとして調製した。また、比較のため、本発明の範囲外の組成を有する衣料用防虫剤を調製し(比較例5〜8)、実施例と同様の試験に供した。なお、比較例5〜8は、比較例1〜4と同じ試験である。実施例10〜17、及び比較例5〜8で使用した衣料用防虫剤の組成を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例10〜17、及び比較例5〜8の衣料用防虫剤による食害防止効力試験、及び芳香の持続性試験の各結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例10〜17の結果より、本発明の衣料用防虫剤は、試験開始直後から8ヵ月後まで、高い食害防止効果が見られるとともに、死虫率も最終的に100%に達していた。つまり、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果に加え、持続性香料成分による持続効果も重なって、増強された効果をより長期に亘って発揮し続けることが確認された。また、芳香の持続性についても、試験開始直後から8ヵ月後まで、顕著な減退は見られなかった。さらに、本発明の衣料用防虫剤は、使用初期段階における防虫効果及び芳香性が増強されることが確認された。実施例10〜17では、防虫香料成分である酢酸エステル化合物とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))が重量比で0.02:1〜0.4:1の範囲において、持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))が重量比で0.02:1〜0.4:1の範囲において、実用的な効果が見られた。
【0052】
これに対し、酢酸エステル化合物を含有しない衣料用防虫剤(比較例5)では、使用初期段階における防虫効果が劣っていた。ピレスロイド系殺虫成分を含有しない衣料用防虫剤(比較例6)では、実用的な程度まで殺虫効果及び防虫効果を発揮できなかった。ピレスロイド系殺虫成分と本発明の範囲外にある揮散性が高い酢酸エステル化合物とを含有する衣料用防虫剤(比較例7)では、両者の相乗効果が十分ではなく、使用初期段階における防虫効果及び芳香性を持続させることが出来なかった。ピレスロイド系殺虫成分と本発明の範囲外にある揮散性が乏しい酢酸エステル化合物とを含有する衣料用防虫剤(比較例8)では、ピレスロイド系殺虫成分の揮散性が抑制され、防虫効果の低下を招くことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の衣料用防虫剤は、衣料害虫だけでなく、例えば、飛翔害虫等の種々の害虫に対して防虫効果及び殺虫効果を発揮し得るものであり、広範な害虫忌避分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)防虫香料成分として、以下の式(I):
CH−COO−R ・・・ (I)
(R:炭素数が6〜12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、
(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分と、
を含む衣料用防虫剤。
【請求項2】
前記防虫香料成分は、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテートからなる群から選択される少なくとも一種の酢酸エステル化合物である請求項1に記載の衣料用防虫剤。
【請求項3】
前記防虫香料成分は、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、及びエチルリナリルアセテートからなる群から選択される少なくとも一種の酢酸エステル化合物である請求項1に記載の衣料用防虫剤。
【請求項4】
前記ピレスロイド系殺虫成分は、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンからなる群から選択される少なくとも一種のピレスロイド系化合物である請求項1〜3の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。
【請求項5】
前記防虫香料成分と前記ピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))は、重量比で0.02:1〜0.4:1である請求項1〜4の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。
【請求項6】
(c)第二防虫香料成分として、テルペン化合物を含む請求項1〜5の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。
【請求項7】
(d)前記防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分として、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、及びオレンジャークリスタルからなる群から選択される少なくとも一種の香料を含む請求項1〜6の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。
【請求項8】
前記持続性香料成分と前記ピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))は、重量比で0.02:1〜0.4:1である請求項7に記載の衣料用防虫剤。

【公開番号】特開2013−14574(P2013−14574A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96700(P2012−96700)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】