説明

衣服

【課題】表面導通性及び制電性の洗濯耐久に優れた衣服及びそのための縫合方法を提供することにある。
【解決手段】 導電糸を経および緯に格子状の間隔配列で挿入してなる織物からなる衣服であって、少なくとも1つの縫い目において、捲縮糸または潜在捲縮糸をミシン上糸および/または下糸に用いて縫合するものであり、かつ縫合した織物をJISL0217(1995) 103法による洗濯処理実施した後にIEC(国際電気標準会議)61340−5−1規格に基づく測定法(23℃・25%RHの温調環境下、印加電圧10Vまたは100V)で、30cm離れた少なくとも縫い目を1つ挟む2点間の表面抵抗値(R)を測定した値がR≦1.0×1012Ωであることを特徴とする衣服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面導通性及び制電性についての洗濯耐久性に優れた衣服に関するものである。さらに詳しくは、繰り返し洗濯により衣服の表面導電性および制電性を大きく損なうことのない洗濯耐久性を有する縫合方法及び衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、導電性を有する衣服は静電気を障害とする部品・薬品を扱う作業場やクリーンルーム用の防塵衣として、静電気吸塵を防ぐために用いられてきた。導電性衣服はこれらの静電気対策のために導電糸が衣服内に織り込まれている。例えば、導電糸が一定間隔でストライプ状や格子状に織り込まれた衣服では、静電気をコロナ放電によって空気中に拡散することによって静電気吸塵を防止している。近年、静電気管理の規格としてIEC(国際電気標準会議)61340−5−1において導電性衣服の表面抵抗値の規格化がなされており、衣服全体にわたる表面導通性が要求されている。衣服全領域での導通性を達成するためには、織物の斜め方向における導通性は勿論のこと、縫い目を挟む2点間の導通性が必要とされる。この場合、導電糸を異方向間で接触させて格子状に織り込み、かつ生地の縫合部で導電糸を互いに接触させることが必要となる。しかし、従来の技術では、洗濯処理前の衣服全体の導通性は問題ないが、繰り返し洗濯を行うことによって生地間の導電糸接触性が悪化し、衣服全体の導通性が悪化する、または失われる問題があった。この問題を回避する手法として、縫い代に導電材を挟みこむ手法(特許文献1参照)があるが、この手法においては、導電材の耐久性のみではなく、導電材自体が高コストであるという問題が残る。また、特許文献2において、導電繊維を縫い糸の一部に使用する手法が開示されているが、縫い目を挟む2点間の導通性を満足に達成できるものではなく、さらに洗濯によるパッカリングが発生すると極端に導通性が低下するという問題が残る。
【特許文献1】実開昭58−160209号公報
【特許文献2】実開昭55−135014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み、表面導通性及び制電性の洗濯耐久性に優れた衣服を提供するものである。さらに詳しくは、縫合方法の工夫により織物間の導電糸の接触を強固にすることで、繰り返し洗濯による衣服の全領域において表面導電性および制電性を大きく損なうことのない、洗濯耐久性に優れた導電性を有する衣服を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前記した課題を解消するために、次の構成を有するものである。すなわち、
1.導電糸を経および緯に格子状の間隔配列で挿入してなる織物からなる衣服であって、少なくとも1つの縫い目において、捲縮糸または潜在捲縮糸をミシン上糸および/または下糸に用いて縫合するものであり、かつ縫合した織物をJISL0217(1995) 103法による洗濯処理を実施した後にIEC(国際電気標準会議)61340−5−1規格に基づく測定法(23℃・25%RHの温調環境下、印加電圧10Vまたは100V)で、30cm離れた少なくとも縫い目を1つ挟む2点間の表面抵抗値(R)を測定した値がR≦1.0×1012Ωであることを特徴とする衣服。
【0005】
2.縫い目における少なくとも1箇所の針間隔が5mm以下であり、かつ2本以上のステッチを有することを特徴とする前記1に記載の導電性衣服。
【0006】
3.縫い代における少なくとも1箇所の生地の重ね合わせ枚数が5枚以上であることを特徴とする前記1または2に記載の導電性衣服。
4.導電糸の格子状間隔配列のピッチが経、緯ともに1〜20mmの範囲内であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の衣服。
5.導電糸が導電成分露出型導電繊維を含み、該導電成分露出型導電繊維が非導電性ベースポリマーおよびカーボンブラックを含有する複合ポリマーからなることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の衣服。
6.縫い代における縫合方法が巻き縫い、パイピング、折り伏せ縫いあるいは袋縫いをベースにしていることを特徴とする前記3〜5のいずれかに記載の衣服。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電性衣服の縫合部分において生地の接着圧を高める縫合方法により、織物を縫合しても衣服全体の表面導通性を大きく低下させることなく、かつ繰り返し洗濯後においても縫い目における導通性を大きく損なうことのない導電性衣服を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の導電性衣服は導電性織物からなり、該導電性織物は基本的に非導電糸と導電糸とからなり、非道電糸または制電糸から構成される織物に導電糸を含む糸条が挿入される形態である。
【0009】
本発明における導電性織物に使用される非導電糸としては、合成繊維や天然繊維、すなわち、ポリエステル、ナイロンなどのフィラメント糸や紡績糸、ポリエステルやナイロンなどのステープルとレーヨンステープル、綿繊維などとの混紡糸、さらに、親水性ポリマーをブレンドしたり、親水基を導入した制電性ポリエステルフィラメント糸や制電性ナイロン糸などが好ましく用いられる。
【0010】
本発明において、導電性織物に用いる導電糸とは、例えば金属被覆繊維の様な導電繊維が挙げられ、また、繊維基質となるポリエステルやポリアミド系の非導電性ベースポリマーの様な非導電成分にカーボンブラック、金属もしくは金属化合物などの導電微粒子を含有させたポリマーとを複合紡糸してなる導電繊維からなる糸またはこれらの導電繊維を含む糸のことである。本発明においては、酸やアルカリ環境下における耐久性や洗濯耐久性の面で、カーボンブラックを導電成分とする導電糸が好ましい。また、導電成分の非導電成分との複合手法としては芯鞘型・被覆型・表面露出型とする方法等が挙げられる。清浄度の高いクリーンルーム用防塵衣として使用する場合、導電成分が被覆した繊維や表面に一部露出した導電繊維は導電成分が発塵し、作業場の汚染に繋がることがあるので、導電成分を内包した芯鞘繊維が好適に用いられるが、さほどの高清浄度が必要とされない静電気に敏感な作業場においては、表面電気抵抗値のより低い導電成分露出型導電繊維を用いて布帛とするのが好ましい。さらにこれらの導電糸と公知の合成繊維若しくは天然繊維からなる糸とを合糸若しくは撚糸又は混繊してなる糸などを使用することが出来る。
【0011】
また、上記導電成分露出型導電繊維とは、導電物質や導電物質を含有する導電性ポリマーの少なくとも一部が表面に露出した状態にある複合紡糸繊維である。その断面形状等に制限はないが、単繊維断面の断面形状における凸部に導電成分が露出していることが好ましい。この状態では、導電繊維間において導電成分がその他の成分と接触する機会が多くなるため、電荷の受け渡しがスムーズになる。断面の凸部とは、平面ではなく断面の外周方向に湾曲した曲線上または角のことであり、円形断面の円周における凸部も含むものとする。導電成分が露出する箇所に制限は無いが、織物表面の導電成分露出率を含め導電繊維単繊維間の電荷の受け渡しをスムーズにする観点から、単繊維断面において3カ所以上露出していることが好ましい。さらに好ましくは、導電成分が単繊維全面において露出していることであり、この場合、糸強度や摩耗による剥離の点で問題が残るものの、導電繊維間で電荷の受け渡しを障害なく極めてスムーズに行うことができる。
【0012】
導電成分露出型導電繊維による導電糸としては、例えば単繊維繊度が1〜10dtex、総繊度が10〜150dtexのものが用いられる。導電成分露出型導電糸の電気抵抗値は、10Ω/cm以下、特に10Ω/cm以下が好ましい。
【0013】
本発明の導電性織物は、上記導電糸を経および緯に格子状の間隔配列で挿入してなる導電性織物である。導電糸の織り込み方法は特に限定されないが、導電糸の繊度を同方向の地糸繊度対比で同等あるいはそれ以上とすることにより、織物の表面に突出する導電糸面積が増加し、縫合時に生地間の導電糸を接触させることが容易となる。また、二重組織などを用いて導電糸を織物表面に浮糸、つまり地組織よりも突出した形態で露出させる手法も好適である。
【0014】
また、本発明における導電性織物は、導電糸が少なくともタテ・ヨコ方向それぞれに、好ましくは一定の間隔でストライプ状に挿入・配置されているものである。導電糸間のピッチとしては、狭い方が導電特性はよくなるが、導電特性と風合い、審美性・品位、及び、コスト等との兼ね合いを考慮すると、経、緯ともに1〜20mmのピッチで挿入・配置されるもの、より好ましくは1〜10mmのピッチで挿入・配置されるものが好ましく例示される。導電糸の配置のピッチが1mm未満では、導電糸の配置本数が多くなるため、風合いや、外観・品位、導電糸生産コストの点から好ましくない。また、配置のピッチが20mmを超えると、縫い目を挟む2点における表面抵抗を増加させないために縫い代幅を多くとる必要があり、織物の生産コスト上からも好ましくない。
【0015】
本発明の縫合方法の態様においては、捲縮糸をミシン糸として使用する方法を採っている。捲縮糸としては、仮撚加工糸またはコンジュゲート(複合)化した潜在捲縮糸が好適に用いられる。また、捲縮糸の種類としては、ナイロンまたはポリエステルを始めとする1種または多種の熱可塑性ポリマーからなるマルチフィラメント糸が挙げられる。ミシン糸を用いて上糸と下糸から構成される縫い目を形成する場合は、上糸、下糸の片方、両方いずれにも捲縮糸を用いることができるが、ミシンの構造上の問題で上糸に捲縮糸を用いると縫い目の形成が困難な場合がある。その場合は、下糸のみに捲縮糸を使用し、上糸には一般的なフィラメントまたはスパンのミシン糸を用いても何ら差し支えない。
【0016】
捲縮糸をミシン糸として使用する場合、通常、編み物などの伸縮性の高い生地に用いることが多く、縫い目における生地の接圧を高める目的で使用された公知例は見当たらない。捲縮糸を使用して形成された縫い目は、捲縮糸の強い収縮回復力による縫い目の接圧の高まりによって、生地間の導通性も高まる。また、捲縮糸の繊度は特に限定されるものではないが、100〜300デシテックスの捲縮ミシン糸を用いると充分な収縮回復力が得られ、縫い目を挟む2点における表面抵抗の洗濯耐久性は達成される。
【0017】
捲縮ミシン糸の繊度が100デシテックス未満では本来の収縮回復力が充分に発揮されないため、洗濯後の縫い目の接圧が小さくなり、表面抵抗値が比較的悪くなる。逆に、300デシテックスを超過すると、収縮回復力は充分に発揮されるが、縫い糸が太繊度のため洗濯によって縫い目の部分にツリが発生し、外観不良となることがある。
【0018】
なお、ミシンの糸調子による糸締めは、本来、織物の接着強度を高める効果があるので、縫い目を挟む2点における表面抵抗値を低下させることが可能であるが、縫い縮みやパッカリングの発生原因となるため好ましい方法とは言えない。
【0019】
本発明における第1の態様においては、縫い目におけるステッチは2本以上が好ましく、その針間隔は5mm以下とするのが好ましい。このようにすることで、縫い目における異なる織物間の導電糸接触の面積を増大させ、衣服の縫い目を挟む2点における表面抵抗をさらに低下させることが可能となる。針間隔が5mmを超えると、繰り返し洗濯による織物の揉み効果や収縮により、ステッチに挟まれる縫い代が波打ったような形態をとる傾向が出てくる。このような形態においては、縫い目において織物間で接触していた導電糸が引き離され、縫い目を挟む導通性が悪化する。従って、針間隔を短くすることで繰り返し洗濯による織物の揉み効果や収縮による導電糸の引き離れを防止することができる。より好ましくは、針間隔を3mm以下としたものが例示される。3mm以下とすれば洗濯後の縫い目を挟む2点における表面抵抗値の悪化が発生しづらい。しかし、針間隔が2mm未満になると表面抵抗値の悪化は防がれるものの、縫合作業上の負荷は大きくなる。なお、下記する本発明の縫合方法の第2の態様を用いることにより、針間隔が5mmを超えても目的とする表面抵抗値R≦1.0×1012Ωを達成することは可能である。しかしながら、この場合でも、針間隔が大きくなるほど導通性は悪化してゆくことに違いはない。また、本発明のミシン糸にウーリー糸を用いることにより、針間隔が5mmを超えても目的とする表面抵抗値R≦1.0×1012Ωを達成することは充分可能であるが、この場合でも、針間隔が狭いほど繰り返し洗濯時の導通性は向上してゆくことに変わりはない。
【0020】
ここでいう針間隔とは、縫い代で並行する2本の縫い目の垂線方向の距離であるが、縫い目の表面に現れるステッチ距離に関わらず、縫い合わされる2枚の生地で導電糸が接触している面同士における縫い目の垂線方向の距離のことである。縫い目方向にランダムに選出した5箇所の間隔を0.5mmの精度で測定可能な定規を用い、相加平均で算出した平均値の小数点第一位を四捨五入した値である。相加平均とは、測定した全ての値を加算し、データの個数(n数)で除して算出される値のことである。なお、縫い目が真っ直ぐな線でない場合、縫い目の縫い方向を示す中心軸線を仮想し、その中心軸線から引いた垂線が他方の中心軸線と交わるまでの距離が針間隔となる。例えばジグザグ模様を形成する場合は、その幅の中央を通る線が中心軸線となる。
【0021】
また、本発明の第2の態様においては、縫い代における生地の重ね合わせ枚数を5枚以上とすることを特徴とする。導電性織物の縫い代における生地の重ね合わせ枚数は、洗濯後の縫い目を挟んだ表面抵抗値の測定に影響を及ぼし、生地の重ね合わせ枚数が多いほど縫い目を挟む表面抵抗値は小さくなる。縫い代の重ね合わせ枚数が5枚に満たない縫合では、洗濯による揉み効果で縫い目の締め付けが充分ではなかったり、織物の収縮によるパッカリングが発生する可能性が出てくる。このため、導電糸接触の引き離れが発生し、縫い目を挟む表面抵抗値の増加の原因となる。本発明のミシン糸にウーリー糸を用いることにより、縫い代の重ね合わせ枚数が5枚に満たなくても目的とする表面抵抗値R≦1.0×1012Ωを達成することは充分可能であるが、この場合でも重ね合わせ枚数が少ないほど繰り返し洗濯時の導通性は悪化してゆく。反対に、縫い代における生地の重ね合わせ枚数が8枚を超える縫合方法では、導電糸接触が強固で充分な導通性が保たれるが、特殊な縫製仕様となることから作業負荷が大きくなってしまう。また、強固に縫合された縫い目が肌に接触して着用時に不快感を与えることがあるので、縫い代における生地の重ね合わせ枚数は8枚以下であることが好ましい。なお、ここでいう重ね合わせ枚数とは、縫い目で針が貫通する生地の枚数のことであり、例えば縫い目にパイピングテープを使用した場合においてもテープの枚数は数えるものとする。
【0022】
縫い目における生地の重ね方は、特に限定されるものではない。重ね方からみた場合、強度および縫合負荷の観点から図5に示す三巻き縫いの縫合方法が好ましい。その他の巻き縫いおよびパイピング、または折り伏せ縫いや袋縫い等をベースとする変化縫合法であっても、重ね合わせ枚数を5枚以上とすることで表面抵抗の洗濯耐久性は達成されるものである。
【0023】
縫い代幅は、導電性織物の導電糸間隔配列のピッチによって決定するのがよい。好ましくは、縫い目方向と並行する導電糸を両織物の縫い代にそれぞれ2本以上入れ、かつ縫い代幅を5mm以上とするものが例示される。縫い代幅は長くとるほど表面抵抗の悪化を防ぐことができるが、それだけ織物の製造コストが増加するため、縫い代の導電糸本数はそれぞれ2〜5本にするのがより好ましい。一方、縫い代幅が5mm未満になると縫製の作業負荷や縫い目強度の観点から好ましくない。
【0024】
縫い代の縫合は、本縫い、単環縫い、二重環縫い、縁かがり縫い、および偏平縫いからなる群から選ばれる縫合方法で実施する。「本縫い」は、一般的にミシンを利用して作られる縫い目で、縫い目の構成が一縫い毎に独立し、表裏の縫い目が同じであり、ほどけにくいという特徴がある縫い方である。「単環縫い」とは、縫い目が針糸一本だけで作られ、裏面は針糸のループが互いに連続して鎖目状となって続く縫い方である。「二重環縫い」は、上に斜糸、下にはルーパー糸があり、このルーパー糸が斜糸とを互いに交錯させる縫い方である。この縫合方法は、糸が切れた場合でも縫い終わりの方から逆の方向に解かない限りほどけ難いという特徴があり、縫い目の強度も高く、伸縮性にも富む縫い方である。「縁かがり縫い」とは、布地の端を包むようにして縫う方法で、伸縮性に富むという特徴がある縫い方である。「偏平縫い」とは、通常フラットシーム縫いと呼ばれ、上の針糸、下のルーパー糸、および被せ糸という3種類の糸で縫い目が構成され、伸縮性に富み、強度に優れた確実な縫い目を作ることのできる縫い方である。これらの縫合方法は、良く知られた縫い方の代表でありこれらに限定されるものではなく、千鳥縫いなどの変化縫いに対しても効果は変わらない。
【0025】
針振り幅は5mm以下が好ましく、5mmを超えると洗濯後の生地の波打ちの発生原因となり織物間の導通性の悪化に繋がる。より好ましくは3mmであり、1mm未満になると表面抵抗値の悪化は防がれるが作業上の負荷がより大きくなる。
【0026】
本発明の縫合方法としては、上記第1の態様と第2の態様を合わせて用いることが好ましい。すなわち、導電糸を経および緯に格子状の間隔配列で挿入してなる織物の縫合するにあたって、縫い目において針間隔を5mm以下として2本以上のステッチを施し、かつ、縫い代において生地の重ね合わせ枚数を5枚以上として縫合することが好ましい。
【0027】
本発明の縫合方法によれば、静電気管理の準国際規格であるIEC(国際電気標準会議)61340−5−1規格を満たすものとなる。静電気管理の準国際規格であるIEC(国際電気標準会議)61340−5−1規格は、「23℃・25%RH温調環境下で衣服の少なくとも縫い目を1つ挟む2点間の印加電圧10Vまたは100Vにおける表面抵抗値を測定し、その表面抵抗値Rが1.0×1012Ω以下である」を満たすというものである。
【0028】
この規格を達成するためには、本発明では、布帛の表面抵抗値が縫い目を挟まない上記測定法において、
R≦1.0×1012Ω (R:IEC規格に基づく表面抵抗値)
であることが好ましいが、本発明においては静電気拡散性を考慮すると1.0×1010Ω以下であることがより好ましい。さらにより好ましくは1.0×10Ω〜1.0×10Ωで、この範囲であれば効率よく素早く静電気を拡散させ、かつ帯電体からのスパーク感電を防ぐことができ、制電作業着や防塵衣用途として好適に用いることが可能となる。
【0029】
本発明の導電性衣服は洗濯耐久性に優れるため、繰り返し洗濯後のいかなる部分に静電気が発生しても、織物、衣服全体が安定的に導通しているので、導電糸からのコロナ放電またはアースが積極的に行われ、ユニフォーム、帽子、防塵衣などその他の防帯電用途に好適に利用できる。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、本発明における各種測定法は下記の通りである。
[縫い目の針間隔]
衣服の縫い目における並行する2本のステッチの垂線方向の距離について、縫い目方向にランダムに抽出した5箇所(n=5)を0.5mmの精度で測定可能なJIS一級金尺定規を用い、相加平均で算出した平均値の小数点第一位を四捨五入した値を縫い目の針間隔とした。相加平均とは、測定した全ての値を加算し、データの個数(n数)で除して算出される値のことである。
[縫合部表面抵抗値]
IEC(国際電気標準会議)61340−5−1規格に基づき、下記の通り測定した。
環境温室度が23℃、25%RHの試験室でタテ45cm、ヨコ45cmの二枚の試験片を生地間の導電糸軸を重ねないように、ミシンで所定の縫合を行う。表面抵抗値測定器(トレック・ジャパン株式会社 Model152AP−5P)を使用して、30cmの間隔をあけて、かつ間に縫い目を挟むようにして測定プローブをのせ、二点間の印加電圧100Vにおける表面電気抵抗値を測定する。織物試料の同軸の導電糸を含まないように斜め方向を3点ずつ測定し、その相加平均とした。図3に縫製後の概略図、図4に表面電気抵抗値測定の概略図を示す。
【0031】
(実施例1)
地組織を形成する経糸にポリエステル糸84デシテックス−36フィラメントの2本双糸、緯糸にポリエステル仮撚加工糸334デシテックス−96フィラメントを用い、経糸導電糸および緯糸導電糸として図2の表面露出型繊維からなる84デシテックス−9フィラメントの導電糸を使用した。地組織を平織として、経糸導電糸をドビー織りで地経糸24本に1本の間隔(5mm)配列として、表2本の裏1本とばしで図1のような組織とする。また、緯糸導電糸は緯二重組織で地緯糸11本に1本の間隔(5mm)配列で地緯糸の上に配置させ、表3本の裏1本とばしで図1のような組織体の経密度が141本/2.54cm、緯密度が57本/2.54cmの生機を作製した。この生機を常法に従い精練、染色、仕上げを行い、仕上経密度が153本/2.54cm、緯密度が62本/2.54cmの織物を得た。得られた織物の縫い代幅を15mmとし、二重環縫いミシンを用いて、縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸に220デシテックスの捲縮糸を使用して、針間隔を4mmとして折り伏せ縫い(図4のH参照)を施し、ステッチ(縫い目)3本による縫合を行った。JISL0217(1995) 103法による洗濯処理を1回および20回実施した後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0032】
(実施例2)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を15mmとし、本縫いミシンを用いて、縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸に220デシテックスの捲縮糸を使用して、針間隔を4mmとして折り伏せ縫い(図4のH参照)を施し、ステッチ(縫い目)3本による縫合を行った。実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0033】
(実施例3)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を15mmとし、本縫いミシンを用いて、縫い糸を60番手フィラメントとして三巻き縫い(図5のJ参照)および針間隔いずれも3mmとしてステッチ(縫い目)2本による縫合を行った。実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0034】
(実施例4)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を15mmとし、インターロックおよびコバ縫い(図5のL参照)で縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸にも60番手フィラメントを使用して、針間隔を3mmとしてステッチ(縫い目)3本による縫合を行い、実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0035】
(比較例1)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を15mmとし、二重環縫いミシンを用いて、縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸にも60番手フィラメントを使用して、針間隔を5mmとして折り伏せ縫い(図4のH参照)を施し、ステッチ(縫い目)3本による縫合を行った。実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0036】
(比較例2)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を15mmとし、インターロックおよびコバ縫い(図5のL参照)で縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸にも60番手フィラメントを使用して、針間隔を3mmとしてステッチ(縫い目)3本による縫合を行い、実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0037】
(比較例3)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を15mmとし、本縫いミシンを用いて、縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸にも60番手フィラメントを使用して、針間隔を7mmとして折り伏せ縫い(図4のH参照)を施し、ステッチ(縫い目)2本による縫合を行った。実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0038】
(比較例4)
実施例1で得られた織物の縫い代幅を20mmとし、本縫いミシンを用いて、縫い糸の上糸に60番手フィラメント、下糸に220デシテックスの捲縮糸を使用して、針間隔を8mmとして折り伏せ縫い(図4のH参照)を施し、ステッチ(縫い目)2本による縫合を行った。実施例1と同条件で洗濯処理を行った後に、縫合部表面抵抗値を測定した。各種データを表1に記す。
【0039】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1及び5の織物組織図である。(ただし、導電糸間の地糸本数は便宜上の理由で一致しない)
【図2】本発明に使用した表面露出型導電糸の断面図
【図3】二枚の織物を縫合する際の織物の重ね合わせ方の例
【図4】縫い目を挟む表面抵抗値の測定例
【図5】代表的な縫合の概略図(ベースとなる縫合方法および名称であり、これらが縫合方法の全てではない)および各所説明
【符号の説明】
【0041】
A.二重組織で組み込んだ導電糸
B.ドビーで挿入した導電糸
C.非導電成分のベースポリマー
D.表面の一部にカーボンブラックを含むマトリックスが露出したポリマー部
E.本縫いミシンによる縫合の目(ステッチ)
F.織物の重ね合わせ部
G.測定プローブ(プローブ間直線距離:30cm)
H.折り伏せ縫い
I.表面抵抗値検出器
J.三巻縫い
K.パイピング
L.インターロックおよびコバ縫い
M.袋縫い
N.針間隔
O.ミシン針の方向
P.ミシンの縫い目(ステッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電糸を経および緯に格子状の間隔配列で挿入してなる織物からなる衣服であって、少なくとも1つの縫い目において、捲縮糸または潜在捲縮糸をミシン上糸および/または下糸に用いて縫合するものであり、かつ縫合した織物をJISL0217(1995) 103法による洗濯処理を実施した後にIEC(国際電気標準会議)61340−5−1規格に基づく測定法(23℃・25%RHの温調環境下、印加電圧10Vまたは100V)で、30cm離れた少なくとも縫い目を1つ挟む2点間の表面抵抗値(R)を測定した値がR≦1.0×1012Ωであることを特徴とする衣服。
【請求項2】
縫い目における少なくとも1箇所の針間隔が5mm以下であり、かつ2本以上のステッチを有することを特徴とする請求項1に記載の導電性衣服。
【請求項3】
縫い代における少なくとも1箇所の生地の重ね合わせ枚数が5枚以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性衣服。
【請求項4】
導電糸の格子状間隔配列のピッチが経、緯ともに1〜20mmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の衣服。
【請求項5】
導電糸が導電成分露出型導電繊維を含み、該導電成分露出型導電繊維が非導電性ベースポリマーおよびカーボンブラックを含有する複合ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の衣服。
【請求項6】
縫い代における縫合方法が巻き縫い、パイピング、折り伏せ縫いあるいは袋縫いをベースにしていることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−47847(P2010−47847A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210342(P2008−210342)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】