説明

衣類害虫の卵の殺卵剤及び衣類害虫の卵の殺卵方法

【課題】衣類害虫の卵に対して優れた殺卵効果を奏する殺卵剤、殺卵方法及び吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤を提供すること。
【解決手段】プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールエーテル類を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類害虫の卵を殺すための殺卵剤、衣類害虫の卵の殺卵方法及び吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から害虫の卵を殺すための手段については様々なものが検討されている。その中には衣類害虫の殺卵、孵化抑制を目的としたものがあり、例えば、d−リモネンを害虫の卵に接触させることで殺卵又は孵化の抑制をすること、d−エンペンスリン、ジクロルホス、パラジクロルベンゼンが衣類害虫の孵化を抑制すること(Soap Cosmetics Chemical Specialties,DECEMBER,1983)、テルペン系化合物が衣類害虫の増殖行為を阻害すること(例えば、特許文献1参照。)等が知られている。
これらの衣類害虫に対する殺卵効果は必ずしも満足できるものばかりではなく、優れた殺卵効果を奏するものが望まれており検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−269009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、衣類害虫の卵に対して優れた殺卵効果を奏する殺卵剤及び殺卵方法並びに前記殺卵剤を用いた吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のグリコールエーテル類が衣類害虫の卵を殺す効果(卵が孵化しない)に優れており、蒸散させることで衣類害虫の卵を殺すことができることを見出し本発明に至った。すなわち本発明は、以下の構成により達成されるものである。
(1)プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールエーテル類を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵剤。
(2)ジエチレングリコールジブチルエーテルを有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵剤。
(3)(1)又は(2)に記載の衣類害虫の卵の殺卵剤を蒸散させることを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵方法。
(4)害虫防除剤と、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールエーテル類とを有効成分とし、さらに水を含有させてなる、衣類害虫の卵の殺卵性を有することを特徴とする、吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明の殺卵剤、殺卵方法は、イガ等の衣類害虫の卵に対して優れた殺卵効果(卵が孵化しない)を奏するものである。これによって衣類害虫の増殖、被害を抑制することができる。また、衣類害虫の卵の殺卵性を有する吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の殺卵剤の有効成分であるグリコールエーテル類としては、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0008】
本発明の殺卵方法は、衣類害虫の卵が存在する領域(空間)に本発明のグリコールエーテル類を蒸散(自然蒸散、送風機(ファン)による蒸散、加熱蒸散、超音波霧化等)させることで達成されるものであり、殺卵の有効量としては、0.5g/m3以上、1〜30g/m3とするのが好ましい。また短時間に有効量を放出できるという点から、トータルリリース剤(全量噴射型エアゾール剤等)とすることも有用である。
【0009】
本発明のグリコールエーテル類を蒸散させるためには、適切な担体、装置等を用いて、自然蒸散剤(マット、シート等)、ファン製剤(ファンによる気流を用いて蒸散するもの)、加熱蒸散剤(燻蒸剤、燻煙剤、線香、マット製剤、錠剤、ブロック剤、吸液芯用製剤、ゲル剤、ゾル剤等)、超音波霧化用製剤(液剤、ゲル剤、ゾル剤等)等として、目的とする領域に処理すればよい。例えば、タンス、衣類ケース等の密閉領域であれば、自然蒸散剤からの蒸散レベルでよく、部屋等の開放領域であれば、加熱蒸散剤として蒸散レベルを高めたものとするのがよい。
【0010】
前記の製剤における本発明の殺卵剤の適用について、具体例を挙げて以下に説明する。
自然蒸散剤としては、殺卵剤5〜200mg/cm2となるように、パルプシート等に含浸又は塗布する。
ファン製剤としては、殺卵剤10〜500mg/cm2となるように、ネット状担体又はハニカム状担体等に含浸又は塗布する。
吸液式加熱蒸散用製剤としては、薬液中に殺卵剤10〜90重量%となるように含有させる。
超音波霧化用製剤としては、薬液中に殺卵剤10〜90重量%となるように含有させる。
【0011】
前記の担体としては、水、アルコール類、ペンタン類、グリコール類等の液体担体;無機粉体、有機粉体等の固体担体;液化ガス、ジメチルエーテル、圧縮ガス等の噴射剤;酸化カルシウム、塩化マグネシウム、鉄粉と酸化剤との混合物、硫化ソーダと炭化鉄との混合物等の発熱剤;アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤;非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、BHT、BHA等の酸化防止剤、増粘剤、結合剤、皮膜形成剤等の添加剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
【0012】
また必要に応じて、ピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤、オキサジアゾール系殺虫剤、ピラゾール系殺虫剤、スルホンアミド系殺虫剤、精油類、四級アンモニウム塩、サリチル酸ベンジル、フッ素化合物(商品名;バートレルXF、三井・デュポンフロロケミカル社製)等の殺虫剤;ジエチルメタトルアミド、ジ−n−ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール等の忌避剤;PCMX、IPBC等の殺菌剤;ラウリルメタクリレート、ゲラニルクロトネート、カテキン等の消臭剤;バラ油、ラベンダー油等の精油;ピネン、リモネン、リナロール、メントール、オイゲノール等の香料等の1種又は2種以上を混合したものを併用することができる。
【0013】
本発明の対象としては、イガ、コイガ、カツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣類害虫に適用することができる。
【0014】
また、本発明においては、害虫防除剤と、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールエーテル類とを有効成分とすることで、これらのグリコールエーテル類が親水性有機化合物であるために溶剤の役割を兼ね、わざわざ水性有機溶剤等を入れなくても、さらに水を含有させるだけで、衣類害虫の卵の殺卵性を有する吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤を得ることができる。この場合、害虫防除剤は0.5〜1w/v%、グリコールエーテル類は10〜90v%、水は90〜10v%とすればよい(wは重量、vは容量を意味する)。つまり、衣類害虫の卵に対する殺卵効果はもとより各種害虫に対する殺虫効果をも有するものを容易に得ることができる。
【0015】
ここで、害虫防除剤としては、前記の殺虫剤、忌避剤等が挙げられ、具体的には、トランスフルトリン、メトフルトリン、d,d−T80−プラレトリン、ペルメトリン、d−T80−シフェノトリン、ニテンピラム、アセタミプリド、ジノテフラン、アミドフルメット、プロポクスル、メトキサジアゾン等;ペパーミントオイル、クローブオイル、d−リモネン、アニスオイル、ゲラニオール、ヒツコリースモークオイル、ベチパーオイル、パチョウリオイル、シナモンオイル、ピメンタオイル、シナモンフリーオイル、ヒノキオイル、シトロネラオイル、シソオイル、ティーツリーオイル、タイムオイル、ヒソップオイル、ゼラニウムオイル、ガーリックオイル、エミューオイル、オレンジオイル、カシアオイル、グレープフルーツオイル、シダーウッドオイル、ベルガモットオイル、ジャスモノイド、シトロネラール、n−オクチルアルコール、2−ヒドロキシメチル−メントール、ベンジルフェニルエーテル、2−ヒドロキシベンゾフェノン、β−ヨノン、ネラール、ゲラニオール、イソピペリテノン、1,8−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、ケイ皮アルデヒド、α−ヘキシルケイ皮アルデヒド、タデ科植物、いちょう葉、さとうきび、カヤツリグサ科植物、モクセイ科植物、ニーム、ヒノキ科植物、アスナロ、よもぎ、どくだみ等の植物抽出物等の害虫忌避剤;また、α−ピネン、スペアミントオイル、ユーカリオイル、キュベバオイル、ハッカオイル、レモングラスオイル、ローズマリーオイル、ラベンダーオイル等の衣類害虫の侵入防止、追い出し効果をもつ天然精油等を用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(1)イガの卵に対する殺卵試験
容量860ml(逆円錐台形状)のプラスチック容器内の側面に、袋状のナイロンメッシュの中にイガの卵30個と羊毛布(3×3cm)を入れたものを貼り付けた。次に前記容器の蓋内面に表1記載のグリコールエーテル類を20mg又は70mg含浸させた直径50mmの濾紙を貼り付け、前記容器の開口に蓋をして25℃、50%RH条件下に置いて2週間放置し、ナイロンメッシュを取り出しイガの卵の殺卵数を調べた。試験は2反復行い、殺卵数から殺卵率(%)を求め、その結果を表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1のとおり、本発明の殺卵剤であるNo.1〜10では20mg及び70mgのいずれにおいてもイガの卵に対して優れた殺卵効果が得られた。特に70mgでは80%〜100%の高い殺虫効果であった。一方、No.11〜14ではこのような効果はみられず0%であった。本試験は、イガの卵とグリコールエーテル類とが直接接触しない条件で実施されていることから、自然蒸散したグリコールエーテル類によりイガの卵が死滅したことが明らかとなった。
【0020】
表1記載のグリコールエーテル類のうち20mgで効果の良かったものについてはさらに低い濃度においても試験を行い、同様の2mg又は7mg含浸させた場合の効果を確認した。
その結果は表2に示したとおり良好な抑制効果が得られた。
【0021】
【表2】

【0022】
表2のとおり、本発明の殺卵剤であるNo.2、4及び7では20mg未満でもイガの卵に対して優れた殺卵効果が得られた。特にNo.7では殺卵効果がとりわけ顕著で、臭いも少なく衣類害虫の卵の殺卵に用いる衣類用防虫剤等として有用である。
【0023】
以下、本発明の処方例を示す。
【0024】
処方1;吸液式加熱蒸散用製剤
ジノテフラン 1.0w/v%
エチレングリコールモノイソブチルエーテル 40.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0025】
処方2;吸液式加熱蒸散用製剤
トランスフルトリン 0.5w/v%
ジエチレングリコールジブチルエーテル 70.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0026】
処方3;吸液式加熱蒸散用製剤
メトフルトリン 0.5w/v%
プロピレングリコールモノプロピルエーテル 50.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0027】
処方4;吸液式加熱蒸散用製剤
ディート 1.0w/v%
ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル 60.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0028】
処方5;吸液式加熱蒸散用製剤
アミドフルメット 1.0w/v%
ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル 80.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0029】
処方6;吸液式加熱蒸散用製剤
ラベンダーオイル 1.0w/v%
ジエチレングリコールジブチルエーテル 90.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0030】
処方7;超音波霧化用製剤
ジノテフラン 2.0w/v%
エチレングリコールモノイソブチルエーテル 50.0v%
精製水 適量
合計 100.0v%
【0031】
処方8;ファン用製剤
トランスフルトリン 500mg
ジエチレングリコールジメチルエーテル 1500mg


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールエーテル類を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵剤。
【請求項2】
ジエチレングリコールジブチルエーテルを有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の衣類害虫の卵の殺卵剤を蒸散させることを特徴とする衣類害虫の卵の殺卵方法。
【請求項4】
害虫防除剤と、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールエーテル類とを有効成分とし、さらに水を含有させてなる、衣類害虫の卵の殺卵性を有することを特徴とする、吸液式加熱蒸散用水性殺虫剤。


【公開番号】特開2013−10788(P2013−10788A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221992(P2012−221992)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2003−193458(P2003−193458)の分割
【原出願日】平成15年7月8日(2003.7.8)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】