説明

衣類

【課題】装着者が所定の動作を行ないやすい衣類を提供する。
【解決手段】水着は、装着時に装着者の体に密着するように形成されたものであって、所定の伸縮性を有する上半身本体部10および下半身本体部40と、装着者の肋骨近傍に相当する領域(脇身頃部21)、および、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域(内股部22)に配置され、上半身本体部10および下半身本体部40よりも伸縮性の高い高伸張部分20とを備える。上半身本体部10および下半身本体部40と高伸張部分20とは、互いに異なる編物構造または織物構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類に関し、特に、装着時に装着者の体に密着するように形成された衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−120516号公報(特許文献1)には、装着者の鼠径部にゴム編み部を形成した下着が記載されている。特許文献1では、鼠径部および臀部における下着本体部の肌への密着度を向上できるとされている。
【0003】
また、特開2004−332144号公報(特許文献2)には、前脇パネル部を張りとコシを有する非伸縮性または難伸縮性の素材により構成した女性用衣類が記載されている。
【0004】
また、特開2003−293203号公報(特許文献3)には、人体の正面の鼠径部に沿った領域から、人体の側面の腸骨稜にあたる領域を通り、人体の背面の臀部下方部に至る領域の素材をスパッツ本体の素材よりも伸縮性が大きい高伸縮性素材を用いて構成した陸上競技用スパッツが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−120516号公報
【特許文献2】特開2004−332144号公報
【特許文献3】特開2003−293203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、装着者の肌に衣類を密着させることにより、装着者が所定の動作を行ないにくくなる場合がある。たとえば、特許文献2のように、前脇パネル部を非伸縮性または難伸縮性の素材により構成することで、装着者が腕をまわす動作が行ないにくくなることが懸念される。
【0007】
なお、特許文献3では、陸上競技用スパッツの所定の部位に伸縮性が大きい高伸縮性素材を設けることが記載されているが、特許文献3では、単に太ももを上げる際に最も大きく作動する大臀筋の下方領域の動きを妨げることがないとされているだけであり、特に開脚に関しての動きが考慮されておらず、必ずしも十分に装着者の動作に対する抵抗を低減できるとは限らない。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、装着者が所定の動作を行ないやすい衣類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る衣類は、1つの局面では、装着時に装着者の体に密着するように形成された衣類であって、所定の伸縮性を有する第1部分と、装着者の肋骨近傍に相当する領域、および、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域に配置され、第1部分よりも伸縮性の高い第2部分とを備え、第1部分および第2部分は、互いに異なる編物構造または織物構造を有する。
【0010】
好ましくは、上記衣類は、装着者の腕に相当する位置に設けられた袖部をさらに備え、第2部分は、袖部の付根近傍にまで伸びるように形成されている。
【0011】
1つの例として、上記衣類において、第1部分および第2部分は、互いに別部材で構成され、縫製または接着により一体化されている。
【0012】
他の例として、上記衣類において、第1部分および第2部分は、一体編成されている。
好ましくは、上記衣類において、第2部分の丈方向先端部は尖った形状を有し、該第2部分の丈方向中央部は、丈方向先端部に対して幅広に形成されている。
【0013】
本発明に係る衣類は、他の局面では、装着時に装着者の体に密着するように形成された衣類であって、所定の伸縮性を有する第1部分と、装着者の肋骨近傍に相当する領域に配置され、第1部分よりも伸縮性の高い第2部分とを備え、第1部分および第2部分は、互いに異なる編物構造または織物構造を有する。
【0014】
本発明に係る衣類は、さらに他の局面では、所定の伸縮性を有する第1部分と、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域に配置され、第1部分よりも伸縮性の高い第2部分とを備え、第1部分および第2部分は、互いに異なる編物構造または織物構造を有する。
【0015】
好ましくは、上記衣類において、第2部分は、装着者の体の中心に関して対称に、かつ、下側に向かって間隔が狭くなる略V字形状に設けられている。
【0016】
上記衣類において、装着者の肋骨近傍に相当する領域は、装着者の腋窩、大胸筋下部、肋骨弓および腸骨稜最高点に囲まれた領域である。
【0017】
上記衣類において、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域は、装着者の上前腸骨棘、縫工筋、鼠徑靭帯、腸腰筋、恥骨筋、長内転筋、大内転筋、および薄筋を略覆う領域である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、装着者が所定の動作を行ないやすい衣類を提供することができる。より具体的には、第1部分よりも伸縮性の高い第2部分を所定の位置に設けることにより、装着者が所定の動作を行ないやすくすることができる。ここで、第1部分および第2部分の編物構造または織物構造を同一のものとするのではなく、第1部分および第2部分の編物構造または織物構造を異ならせることにより第2部分の伸縮性を相対的に高くしているため、第2部分の身体への密着度を低下させることなく、第2部分の伸縮性を向上させることができる。
【0019】
特に、装着者の肋骨近傍に相当する領域に伸縮性の高い第2部分を設けることにより、水泳動作における腕をまわす動作を行ないやすくすることができる。また、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域に伸縮性の高い第2部分を設けることにより、水泳動作における足を動かす動作を行ないやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る水着を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る水着を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る水着を示す背面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る水着を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る水着を示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る水着を示す背面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る水着を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る水着を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る水着を示す背面図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る水着を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態4に係る水着を示す側面図である。
【図12】本発明の実施の形態4に係る水着を示す背面図である。
【図13】衣類設計支援装置の一例を示す図である。
【図14】図13に示す衣類設計支援装置で用いられるポリゴン座標の一例を示す図である。
【図15】図13に示す衣類設計支援装置で得られた出力データの一例を示す図である。
【図16】高伸張部分が設けられる位置と装着者の体との関係を示した図(その1)であり、(a)は装着者の上半身を前方から見た状態を示し、(b)は装着者の上半身を側方から見た状態を示す。
【図17】高伸張部分が設けられる位置と装着者の体との関係を示した図(その2)であり、(a)は装着者の脚の付根部を前方から見た状態を示し、(b)は装着者の脚の付根部を後方から見た状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0022】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0023】
まず最初に、後述する実施の形態1〜4に係る「衣類」としての水着の設計方法の一例について説明する。
【0024】
図13は、衣類設計支援装置の一例を示す図である。図13を参照して、本実施の形態に係る衣類設計支援装置は、身体形状データ入力部100と、ポリゴンデータ算出部200と、身体動作情報入力部300と、ポリゴンデータ変位算出部400と、表示部500とを含む。
【0025】
身体形状データ入力部100には、身体形状データが三次元座標として入力される。これにより、身体形状データ入力部100には、ポリゴンデータ生成のための基礎データが入力される。ポリゴンデータ算出部200は、身体形状データ入力部100で入力された身体形状データに基づいて、衣服の設計対象である身体形状を表す三次元ポリゴンデータを生成する。身体動作情報入力部300には、身体形状の動きを示す身体動作情報が、時系列データとして入力される。ポリゴンデータ変位算出部400は、ポリゴンデータ算出部200において算出されたポリゴンデータが、身体動作情報入力部300に入力された身体動作情報に応じて、時系列にどのように変位するのか(たとえば図14に示す状態)を算出する。
【0026】
表示部500は、ポリゴンデータ変位算出部400により算出されたデータに基づいて、たとえば、装着者の体のどの部分に大きな伸長が生じているかを表示することが可能である。大きな伸長が生じている部分には、伸びやすい素材を設けることにより、上記特定の身体動作が行ないやすくなる。
【0027】
図15は、水泳動作を行なう際に生じる伸長を、図13に示す衣類設計支援装置により算出した結果を示す図である。なお、図15に示す結果は、身体動作情報として四泳法(自由形、平泳ぎ、背泳、バタフライ)の情報を入力して得られた計算結果の合計を示したものである。
【0028】
図15では、特に大きな伸長が生じている部分にハッチングを付して示している。なお、図15(a)は、身体を前方から見た状態を示し、図15(b)は、身体を後方から見た状態を示す。
【0029】
本願発明者らは、図15に示す結果において、特に、装着者の大胸筋の下部(A部)および内股部(B部)において、大きな伸長が生じていることに着目した。より具体的には、後述する実施の形態1〜4では、装着者の肋骨近傍(図16に明示する腋窩100A、大胸筋下部100B、肋骨弓100Cおよび腸骨稜最高点100Dに囲まれた領域)、および、装着者の鼠径部から大腿部内側付近(図17に明示する上前腸骨棘100E、縫工筋100F、鼠徑靭帯100G、腸腰筋100H、恥骨筋100I、長内転筋100J、大内転筋100K、および薄筋100Lを略覆う領域)において、伸びやすい素材で水着を構成し、装着者の動きを阻害しないようにしている。すなわち、上記伸びやすい素材は、上半身と下半身とに分かれて設けられる。上半身に設けられる素材の輪郭は、図16に示すように、腋窩100Aから大胸筋下部100Bにまで延び、その後、肋骨弓100Cに略沿いながら、腸骨稜最高点100Dに達し、腋窩100Aに戻る。また、下半身に設けられる素材の輪郭は、図17に示すように、上前腸骨棘100Eから鼠徑靭帯100Gに沿って、腸腰筋100H、恥骨筋100I、長内転筋100J、および薄筋100L上を通過し、大内転筋100K上にまで回り込む。そして、縫工筋100Fの下縁に沿って上前腸骨棘100Eにまで戻る。
【0030】
なお、上記伸びやすい素材の輪郭の少なくとも一部は、曲線状に形成される。このようにすることで、隣接する素材との縫合線を曲線状にすることができるので、生地の伸びやすさを最大限に生かすことが可能となる。
【0031】
従来の水着においても、脇の下に伸びやすい素材を用いることは行なわれてきた。これにより、装着者が腕を上げる動作が行ないやすくなる。しかし、たとえば、自由形やバタフライなどの泳法では、腕を上げる前に肩を上げる動作を行なうため、単に脇下部を伸びやすくするだけでは、腕を上げる動作を行ないやすくすることはできない。
【0032】
これに対し、後述する実施の形態1〜4に係る水着では、装着者の肋骨付近に他の部分よりも伸びやすい高伸張部分を設けることにより、腕を上げる前の肩を上げる動作が行ないやすくなり、特に水泳動作における腕をまわす動作が行ないやすくなる。この結果、泳ぎやすい水着が提供される。
【0033】
(実施の形態1)
図1〜図3は、実施の形態1に係る水着を示す図である。なお、図1は、水着1の斜視図であり、図2は、水着1の側面図であり、図3は、水着1の背面図である。
【0034】
図1〜図3を参照して、本実施の形態に係る水着1は、装着者の体に密着する水着であり、上半身本体部10と、高伸張部分20と、袖部30と、下半身本体部40と、ファスナ50とを含む。
【0035】
上半身本体部10は、前身頃部11と、後身頃部12とを含む。また、高伸張部分20は、脇身頃部21と、内股部22とを含む。また、下半身本体部40は、前パンツ部41と、後パンツ部42とを含む。
【0036】
高伸張部分20は、上半身本体部10および下半身本体部40に対して伸びやすい、すなわち、伸縮性の高い素材で構成されている。換言すれば、上半身本体部10および下半身本体部40は、緊締力の強い強緊締素材で構成され、高伸張部分20は、緊締力の弱い弱緊締素材で構成されている。
【0037】
高伸張部20のうち、脇身頃部21は、装着者の大胸筋の下部、すなわち、肋骨近傍に相当する領域に設けられている。前身頃部11に対する脇身頃部21の境界線は、装着者の体の中央側に凸な曲線形状を有している。
【0038】
また、高伸張部20のうち、内股部22は、装着者の体の中心に関して対称に、かつ、下側に向かって間隔が狭くなる略V字形状に設けられている。内股部22は、装着者の体の丈方向に長い細長形状を有している。
【0039】
脇身頃部21および内股部22は、いずれも、その丈方向の両先端部が尖った形状を有している。また、脇身頃部21および内股部22は、いずれも、その丈方向中央部が丈方向先端部に対して幅広に形成されている。脇身頃部21および内股部22の丈方向先端部を尖った形状とすることで、高伸張部20と上半身本体部10および下半身本体部40との境界部分で弛みが生じることを抑制することができる。他方、脇身頃部21および内股部22の丈方向中央部を幅広に形成することで、高伸張部20の高い伸張性を確保することができる。
【0040】
弱緊締素材からなる脇身頃部21と内股部22との間は、強緊締素材からなる上半身本体部10により隔てられている。また、脇身頃部21および内股部22は、それぞれ左右2片の弱緊締素材片で構成されている。すなわち、高伸張部分20は、2×2=4箇所に分かれて形成されている。
【0041】
装着者の身体の幅方向に見れば、内股部22は、脇身頃部21に対して身体の中央側に設けられている。また、装着者の身体の身長方向に見れば、脇身頃部21の下端と内股部22の上端とが略同じ高さに位置している。
【0042】
典型的な例では、上半身本体部10および下半身本体部40(強緊締素材)と高伸張部分20(弱緊締素材)とは、縫製によって一体化されている。しかし、緯編物の場合は、後に説明するように、強緊締素材と弱緊締素材とを一体編成することもできる。
【0043】
本実施の形態において、強緊締素材(上半身本体部10および下半身本体部40)および弱緊締素材(高伸張部分20)は、ストレッチ素材である。上述のように、弱緊締素材は、強緊締素材に対してストレッチ性が高い(すなわち、小さい力で伸びやすい)性質を有している。
【0044】
強緊締素材および弱緊締素材の上記のようなストレッチ特性を出すためには、たとえば、弾性糸を編物または織物の構成糸に用いた場合、一例として次のような手法を採ることが考えられる。
(1)強緊締素材では、弱緊締素材と比べて、弾性糸の構成比率を高くする。
(2)強緊締素材では、弱緊締素材と比べて、弾性糸の繊度を太くする。
(3)強緊締素材では、弱緊締素材と比べて、織物の場合は経糸および/または緯糸密度
を高くし、編み物の場合は編み密度を高くする。
(4)強緊締素材では、弱緊締素材と比べて、弾性糸の張力を高くして織物または編物を製造する。
(5)強緊締素材では、弱緊締素材と比べて、生地の厚さを厚くして織物または編物を製造する。
【0045】
上述した強緊締素材および弱緊締素材を構成するストレッチ素材は、経方向及び緯方向に伸縮する2ウェイストレッチ編物および2ウェイストレッチ織物から選ばれる少なくとも一つの布帛(ふはく)であることが好ましい。
【0046】
上記の2ウェイストレッチ編物または織物は、ポリエステル繊維糸と弾性糸とを主成分構成糸とするか、または、ナイロン繊維糸と弾性糸とを主成分構成糸としてもよい。別の構成としては、コットン(木綿)と弾性糸とを主成分構成糸としてもよい。ここで、主成分構成糸とは、合計すると80重量%以上になることをいう。ポリエステル繊維糸を用いた場合は、汗をかいても乾き易い。ナイロン繊維糸を用いた場合は、軟らかなタッチの布帛となる。
【0047】
上記の2ウェイストレッチ編物または織物の組織は、どのようなものであってもよい。織物としては一般的に良く知られている平織、斜文織、朱子織の3原組織の他、変化織であってもよい。また、編物として一般的に良く知られているラッセル経編機によって編成される編物、トリコット経編機によって編成される編物及びニット横編み機によって編成される編物などであってもよい。2ウェイストレッチ編物として採用可能なものとして、たとえば、トリコット経編機によって編成されるハーフ組織の編物やラッセル経編機によって編成されるパワーネット組織の編物などを挙げることができる。ニット緯編物としては、例えば平編(天竺編)、ゴム編、パール編、スムース編(両面編)など、どのような組織でもよい。また、ニット横編み機によって編成される編物は、丸編機又は横編機によって編成される編物であってもよい。なお、緯編ニットの場合は、縫製を必要としないで、弱緊締素材と強緊締素材とを一体化編成することも可能である。たとえば、横編の無縫製機(島精機製作所製)の“FIRST−X”という装置があり、これを用いて身生地部と袖部とを同時に編成し、無縫製ニット製品を製造できる。
【0048】
さらに、イタリアのサントニ(SANTONI)社製のフルコンピュータ制御の“シームレス・ボディ・インナー編み機”と呼ばれる装置により、強緊締素材および弱緊締素材の組み合わせをシームレスで筒状に編成し、身生地部と袖部とすることも可能である。
【0049】
上記の織物または編物としては、ポリウレタン糸などの伸縮性を有する弾性糸を少なくとも一部に使用したものであることが好ましい。
【0050】
上記の弾性糸は、ポリウレタン系弾性糸およびポリエステル系弾性糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの素材は、ストレッチ性が高く、スポーツ衣料に適しているからである。この弾性糸は、ベアヤーン(裸糸)又は表面にポリエステル繊維もしくはナイロン繊維が被覆されたカバードヤーンのどちらでもよい。
【0051】
高捲縮仮撚加工を施して伸縮性を持たせたポリエステル、ナイロンなどの高捲縮仮撚加工糸を生地の少なくとも一部あるいは全部に使用した生地も使用可能である。また、単純に上記の伸縮性のあるニットを複数枚数重ねて使用することも可能である。さらに、上記の伸縮性のあるニット生地どうしをラミネート加工して二層にした二層ラミネート生地、伸縮性のあるポリウレタンシートを上記の伸縮性のあるニット生地ではさみ込みラミネート加工して三層にした三層ラミネート生地も使用可能である。
【0052】
生地素材に「強弱」の緊締力を持たせ、強緊締素材および弱緊締素材とする方法としては、ポリウレタン糸、高捲縮仮撚加工糸(以下、伸縮糸とする。)の混率の「大小」でそれぞれ生地素材に「強弱」の緊締力を持たせることが考えられる。混率に変化を与える方法としては、伸縮糸の太さを「太細」と変えることで混率の「大小」を出す方法、伸縮糸の太さは同じで生地中に配する割合を「多少」と変えることで混率の「大小」を出す方法がある。伸縮糸の混率が一定の場合に、編密度を「密疎」と変えることによっても、生地素材に「強弱」の緊締力を持たせることが可能である。さらに、伸縮糸の種類を変えた生地を使用するか、ラミネート加工した生地とラミネート加工していない生地を用いるか、または同一の生地の重ねる枚数を変えることによっても、生地に「強弱」の緊締力を持たせることが可能である。
【0053】
上述のように、強緊締素材および弱緊締素材における「強弱」の緊締力は、一定加重時の生地の伸長率の大小で確認することができる。すなわち、緊締力の強い生地は伸長率が小さく、弱い生地は伸長率が大きい。すなわち、本明細書において、緊締力とは、伸長に対する素材の抵抗力のことである。
【0054】
ストレッチ性及び緊締力を表す伸長率の測定には、TENSILON万能型引張試験機(UTM−III−200、東洋ボールドウイン社製)を用いた。ここで、引張強度は20cm/分とし、試料生地の大きさは、巾5cm、長さ30cmとし、つかみ間隔は20cmとした。また、緊締力を測定する際の加重は、4.9N(500gf)、ストレッチ性を測定する際の加重は、17.7N(1800gf)とし、生地素材の経緯方向について測定した。
【0055】
弱緊締素材の伸長率(丈方向)は、素材の5cm幅に対して4.9N(500gf)加重した時の伸張量が、強緊締素材のそれに対して2倍以上の範囲であることが好ましい。また、弱緊締素材の伸長率(丈方向)は、素材の5cm幅に対して17.7N(1800gf)加重した時の伸張量が、強緊締素材のそれに対して1.3倍以上の範囲であることが好ましい。ここで、丈方向とは、生地の経緯方向に関わらず、水着1の出来上がり製品における丈方向を意味する。
【0056】
上半身本体部10および下半身本体部40(強緊締素材)と高伸張部分20(弱緊締素材)とを別部材として形成し、縫着によって一体化する場合、縫着方法としては、たとえば、本縫い、環縫い、1本針オーバーロック、2本針オーバーロック、フラットシーマなどの縫目を形成するミシンで縫着する方法が挙げられる。1本針オーバーロック、2本針オーバーロック、フラットシーマを採用した場合は、縫目のストレッチ性も高くなり、着用時の違和感が抑制される。しかし、縫目の種類は特にこれらに限定されるものではない。
【0057】
上半身本体部10および下半身本体部40(強緊締素材)と高伸張部分20(弱緊締素材)とを別部材として形成し、接着によって一体化する場合、接着方法としては、たとえば、熱圧着法が挙げられる。この場合、一体化したい二種類の生地(部材)にのりしろを設け、熱によって融解し、冷却後生地に浸透して凝固するポリウレタン、またはシリコンなどの樹脂製熱融解性のシームテープをのりしろの生地の間にはさみ、熱プレスすることで生地を接着する。なお、接着の場合も、縫着の場合と同様に、のりしろにストレッチ性をもたせ、着用時の違和感をなくすことが望ましい。
【0058】
本実施の形態によれば、上半身本体部10および下半身本体部40よりも伸縮性の高い高伸張部分20を所定の位置に設けることにより、水泳動作における腕をまわしたり、足を動かしたりする動作が行ないやすい水着を提供することができる。ここで、上半身本体部10および下半身本体部40と高伸張部分20との編物構造または織物構造を同一のも
のとするのではなく、それらの編物構造または織物構造を互いに異ならせることによって、高伸張部分20の伸縮性を相対的に高くしているため、高伸張部分20の身体への密着度を低下させることなく、高伸張部分20の伸縮性を向上させることができる。
【0059】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る水着は、装着時に装着者の体に密着するように形成されたものであって、所定の伸縮性を有する「第1部分」としての上半身本体部10および下半身本体部40と、装着者の肋骨近傍に相当する領域(脇身頃部21)、および、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域(内股部22)に配置され、上半身本体部10および下半身本体部40よりも伸縮性の高い「第2部分」としての高伸張部分20とを備える。上半身本体部10および下半身本体部40と高伸張部分20とは、互いに異なる編物構造または織物構造を有する。
【0060】
水泳動作は、他の運動に比べて、より全身を使う全身運動であり、様々な運動を含んでいるため、水泳動作の一部に近い動作は、他の運動でも実現され得る。なお、本実施の形態では、「衣類」の一例として、競泳用の水着の例について説明したが、本発明の範囲は、水着に限定されるものではなく、たとえば、レオタードや陸上競技用スパッツなど、その他の「衣類」に本発明の思想を適用することも可能である。
【0061】
(実施の形態2)
図4〜図6は、実施の形態2に係る水着を示す図である。なお、図4は、水着2の斜視図であり、図5は、水着2の側面図であり、図6は、水着2の背面図である。
【0062】
図4〜図6を参照して、本実施の形態に係る水着2は、実施の形態1に係る水着1の変形例であって、袖部を有しないことを特徴とするものである。
【0063】
なお、上記以外の事項については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0064】
(実施の形態3)
図7〜図9は、実施の形態3に係る水着を示す図である。なお、図7は、水着3の斜視図であり、図8は、水着3の側面図であり、図9は、水着3の背面図である。
【0065】
図7〜図9を参照して、本実施の形態に係る水着3は、実施の形態1,2に係る水着1,2の変形例であって、上衣3Aと下衣3Bとの2ピース構造としたことを特徴とするものである。上衣3Aは、前身頃部10と後身頃部11とを含む。下衣3Bは、前パンツ部41と、後パンツ部42と、前パンツ中央部43とを含む。高伸張部20における脇身頃部21は、上衣3Aに設けられる。また、内股部22は、下衣3Bに設けられる。
【0066】
なお、上記以外の事項については、実施の形態1,2と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0067】
(実施の形態4)
図10〜図12は、実施の形態4に係る水着を示す図である。なお、図10は、水着4の斜視図であり、図11は、水着4の側面図であり、図12は、水着4の背面図である。
【0068】
図10〜図12を参照して、本実施の形態に係る水着4は、実施の形態1〜3に係る水着4の変形例であって、肩および背中部分を紐状に形成していることを特徴とするものである。
【0069】
なお、上記以外の事項については、実施の形態1〜3と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0070】
(効果の確認)
本願発明者らは、上述した各実施の形態の効果を確認するため、後述の実施例に示す縫着方法と各素材を用いて、上述した各実施の形態に示した水着(実施の形態2、実施の形態3の下衣3B、実施の形態4)を作製した上で、下記のアンケート調査を行なった。
【0071】
ここでは、実施の形態3の下衣3Bを男子競泳選手8名に着用させるとともに、実施の形態2および実施の形態4の水着を各々女子選手4名に着用させ、実際に水泳動作を行なわせた上で、表1に示すアンケート調査を行なう。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すように、アンケートは、『動かしやすい・問題ない』または『動かしにくい』の2段階評価であり、比較対象は、従来、各選手が着用している水着とした。実施形態によっては、着用したことがない選手がいる場合がある。その場合は、主観的に判断させた。アンケート結果は表2および表3に示すとおりである。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
表2および表3に示す結果から明らかなとおり、男子では、実施の形態3の下衣3Bを着用した結果、脚が開きやすいまたは問題ないという意見が、全体の75%を占めた。また、女子では、実施の形態2の水着を着用した結果、腕が動かしやすいまたは問題ないという意見が、全体の75%を占め、脚が開きやすいまたは問題ないという意見が、全ての被験者から得られた。さらに、実施の形態4の水着を着用した結果、腕が動かしやすいまたは問題ないという意見、および、脚が開きやすいまたは問題ないという意見が、いずれも、全ての被験者から得られた。いずれの実施形態においても、過半数以上の選手がその効果を体感できた。
【0077】
以上の結果から、上述した各実施の形態に係る水着は、水泳動作時において腕が動かしやすい、脚が開きやすいという効果を奏することが確認できた。
【実施例】
【0078】
以下、本発明に係る衣服の1つの実施例について説明する。本実施例に係る衣服(運動用衣服)は、上述した実施の形態1に係る水着1(図1〜図3)の一例である。
【0079】
本実施例では、各部材は相互に縫製により一体化される。この縫製においては、フラットシーマミシンを用い、針糸にポリエステルスパンライクフィラメント糸、上かがり糸と下かがり糸にウーリーナイロン糸を用いてフラットシーマの縫目で縫着した。なお、図1〜図3に記載の各部材は、一つの部材を複数のパーツで形成することも可能であし、複数の部材を一つのパーツにまとめて形成することも可能である。
【0080】
上半身本体部10および下半身本体部40を構成する強緊締素材としては、繊度が33デシテックス(dtex)のポリエステルフィラメント糸と、繊度が56デシテックス(dtex)のポリウレタン弾性糸の交編ハーフトリコット組織で、混率はポリエステル69重量%、ポリウレタン31重量%、トリコット機のゲージ数40Gのものを用いた。緊締力を表す4.9N(500gf)加重時の伸長率は経方向で67%、緯方向で43%である。また、ストレッチ性を表わす17.7N(1800gf)加重時の伸長率は経方向で162%、緯方向で113%であった。単位面積当たりの重量(目付)は、225g/m2であった。
【0081】
高伸張部分20を構成する弱緊締素材としては、繊度が33デシテックス(dtex)のポリエステルフィラメント糸と、繊度が33デシテックス(dtex)のポリウレタン弾性糸の交編ハーフトリコット組織で、混率はポリエステル80重量%、ポリウレタン20重量%、トリコット機のゲージ数32Gのものを用いた。緊締力を表す4.9N(500gf)加重時の伸長率は経方向で131%、緯方向で171%であった。また、ストレッチ性を表わす17.7N(1800gf)加重時の伸長率は経方向で132%、緯方向で196%であった。単位面積当たりの重量(目付)は、180g/m2であった。
【0082】
本実施例においては、強弱緊締素材の緯方向を出来上がり製品の丈方向に配置するようにしたので、素材の5cm幅における4.9N(500gf)加重時の弱緊締素材の伸長率は、同条件下の強緊締素材の伸張率に対して、丈方向で約3倍となった。また、素材の5cm幅における17.7N(1800gf)加重時の弱緊締素材の伸長率は、同条件下の強緊締素材の伸張率に対して、丈方向で約1.7倍となった。
【0083】
以上、本発明の実施の形態および実施例について説明したが、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1,2,3,4 水着、3A 上衣部、3B 下衣部、10 上半身本体部、11 前身頃部、12 後身頃部、20 高伸張部分、21 脇身頃部、22 内股部、30 袖部、40 下半身本体部、41 前パンツ部、42 後パンツ部、43 前パンツ中央部、50 ファスナ、100 身体形状データ入力部、200 ポリゴンデータ算出部、300 身体動作情報入力部、400 ポリゴンデータ変位算出部、500 表示部、100A 腋窩、100B 大胸筋下部、100C 肋骨弓、100D 腸骨稜最高点、100E 上前腸骨棘、100F 縫工筋、100G 鼠徑靭帯、100H 腸腰筋、100I 恥骨筋、100J 長内転筋、100K 大内転筋、100L 薄筋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着時に装着者の体に密着するように形成された衣類であって、
所定の伸縮性を有する第1部分と、
装着者の肋骨近傍に相当する領域、および、装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域に配置され、前記第1部分よりも伸縮性の高い第2部分とを備え、
前記第1部分および前記第2部分は、互いに異なる編物構造または織物構造を有する、衣類。
【請求項2】
装着者の腕に相当する位置に設けられた袖部をさらに備え、
前記第2部分は、袖部の付根近傍にまで伸びるように形成されている、請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記第1部分および前記第2部分は、互いに別部材で構成され、縫製または接着により一体化されている、請求項1または請求項2に記載の衣類。
【請求項4】
前記第1部分および前記第2部分は、一体編成されている、請求項1または請求項2に記載の衣類。
【請求項5】
前記第2部分の丈方向先端部は尖った形状を有し、該第2部分の丈方向中央部は、前記丈方向先端部に対して幅広に形成されている、請求項1から請求項4のいずれかに記載の衣類。
【請求項6】
装着時に装着者の体に密着するように形成された衣類であって、
所定の伸縮性を有する第1部分と、
装着者の肋骨近傍に相当する領域に配置され、前記第1部分よりも伸縮性の高い第2部分とを備え、
前記第1部分および前記第2部分は、互いに異なる編物構造または織物構造を有する、衣類。
【請求項7】
所定の伸縮性を有する第1部分と、
装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域に配置され、前記第1部分よりも伸縮性の高い第2部分とを備え、
前記第1部分および前記第2部分は、互いに異なる編物構造または織物構造を有する、衣類。
【請求項8】
前記第2部分は、装着者の体の中心に関して対称に、かつ、下側に向かって間隔が狭くなる略V字形状に設けられている、請求項7に記載の衣類。
【請求項9】
前記装着者の肋骨近傍に相当する領域は、前記装着者の腋窩、大胸筋下部、肋骨弓および腸骨稜最高点に囲まれた領域である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の衣類。
【請求項10】
前記装着者の鼠径部から大腿部内側付近に相当する領域は、前記装着者の上前腸骨棘、縫工筋、鼠徑靭帯、腸腰筋、恥骨筋、長内転筋、大内転筋、および薄筋を略覆う領域である、請求項1から請求項5、請求項7、および請求項8のいずれかに記載の衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−263841(P2009−263841A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46408(P2009−46408)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】