説明

衣類

【課題】締付力の調整が容易であり、適正な締付力が容易に付与でき、しかも、ソフトな締付力で着用時のダメージを軽減しつつ穿き口部のズレ落ち防止機能を効果的に向上させ、さらに、編成中の編組織の変更作業工数や給糸切り替え作業工数を減少させ、外観体裁も向上させ得るようにした衣類を提供すること。
【解決手段】非弾性糸からなる表糸7と弾性糸からなる裏糸8とにより添え糸編み組織9で編成された衣類において、前記衣類の開口部1が、添え糸編み組織9中に、1〜複数コース分に亘って非弾性糸からなる表糸7を弾性糸7aに切り替えて前記裏糸8の弾性糸と共に編成された強い締付力部分10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下における穿き口部や、下肢用衣類の開口部或いは上肢用衣類の開口部のズレ防止及びフィット性を改良した衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、靴下の穿き口部(開口部)にはゴム糸を編み糸の編目ループを貫通するようにコース方向に横切って挿入してズレ落ち防止を図ったもの(以下、口ゴム方式の靴下と称する)が知られている。
上記口ゴム方式の靴下は、ゴム糸を穿き口部(開口部)の周方向に環状に挿入しているだけであって、編み糸のように編目ループを形成させて編み込んだものではないため、周長が編み糸よりも短い。
【0003】
また、上記ゴム糸は、60番手〜120番手、通常、90番手〜100番手のゴム番手のものが使用され、これは、例えば、403デニールのポリウレタン弾性糸を芯糸とし、これに75デニールのレーヨンもしくはポリエステルをダブルカバードしたDCY(ダブルカバードヤーン)に相当するもので、被覆後はほぼ227デニールであり、靴下の編み糸に使用されるDCYに比較して芯糸の太さが3〜4倍大きい。
【0004】
そのため、上記口ゴム方式の靴下は、ゴム糸による締付力が大きすぎる傾向があり、長時間着用すると、圧迫感による苦痛、血行阻害、跡形残存等の不具合があった。
上記不具合を改善するものとして、靴下の締付部に、ゴム糸を挿入せずに、表糸と裏糸の添え糸編組織に編成し、裏糸にスパンデックス糸を使用したもの、さらには、前記添え糸編組織をパール編みにして横畦を付与したものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、別に、靴下の穿き口部にゴム糸を挿入せず、靴下の穿き口部と脚部とを、編み糸(非弾性糸)と弾性糸とによって添え糸編み、又は、パイル編みを基本とし、これにスパイラルメッシュ編みを組み合わせ、穿き口部を二重に折り返した構成からなる靴下が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−64501号公報
【特許文献2】特開2004−190145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の靴下では、締付部を表糸(非弾性糸)と裏糸(スパンデックス糸:弾性糸)とで添え糸編み、又は、該添え糸編み部分をパール編みしているだけであるため、締付力が不十分で、ズレ落ち防止機能が不足する不具合があった。
一方、特許文献2の靴下では、スパイラルメッシュ編み部分が、編み糸(非弾性糸)と弾性糸とで編成されているため、この部分における弾性糸による締付力が編み糸(非弾性糸)によって削減(半減)され、ズレ落ち防止機能が不足する不具合があった。この締付力不足をカバーするため、この特許文献2では、スパイラルメッシュ編み部分を、穿き口部だけではなく、脚部にも形成させることが必要となり、そのため、編成中の編組織の変更作業を脚部でも行わせる必要があり、ループの長さが不安定となることから、横方向の伸びにばらつきが生じやすくなり、その結果、サイズ基準を満たすためにコストアップを招くのみならず、スパイラルメッシュ編み部分が穿き口部だけでなく脚部にも表れるため、外観体裁が悪化する不具合があった。
【0008】
また、上記特許文献2の靴下では、二重に折り返されている部分において、内側の編地と外側の編地との両方にスパイラルメッシュ編み部分が形成されることになるため、この部分においても、外観体裁が悪化する不具合があった。
また、従来、下肢用衣類のウエスト部の開口部、裾口の開口部、上肢用衣類の袖口の開口部、裾口の開口部などに口ゴムが使用されているものがあるが、これらについては、ゴム糸による締付力が大きすぎる傾向があり、長時間着用すると、圧迫感による苦痛、血行
阻害、跡形残存等の不具合があった。
【0009】
本発明は、従来の靴下や下肢用衣類或いは上肢用衣類等の上記不具合点に鑑みて、開発されたもので、その目的とするところは、締付力の調整が容易であり、適正な締付力が容易に付与でき、しかも、ソフトな締付力で着用時のダメージを軽減しつつ開口部のズレ落ち防止機能を効果的に向上させ、さらに、編成中の編組織の変更作業工数や給糸切り替え作業工数を減少させ、外観体裁も向上させ得るようにした衣類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、非弾性糸からなる表糸と弾性糸からなる裏糸とにより添え糸編み組織で編成された衣類において、前記衣類の開口部が、添え糸編み組織中に、1〜複数コース分に亘って非弾性糸からなる表糸を弾性糸に切り替えて前記裏糸の弾性糸と共に編成された強い締付力部分を備えていることを特徴としている。
この構成によれば、強い締付力部分は、表糸と裏糸とを両方ともに弾性糸で編成しているため、非弾性糸と弾性糸とで編成された他の部分よりも締付力を大きくすることができ、その結果、衣類の開口部のズレ落ち防止機能を向上させることができる。この強い締付力部分は、衣類の開口部の編地中に1〜複数コース分に亘って形成するものであるから、締付力の調整が容易であり、適正な締付力が容易に付与できる。また、強い締付力部分は、衣類の開口部だけに形成するものであり、他の部分には形成しないため、編成中の給糸切り替え作業等を開口部についてだけ行わせればよく、作業工数を減少させることができる。さらに、糸の伸縮度が、表糸>裏糸である場合に、表糸(非弾性糸)を弾性糸に切り替えて添え糸編みした強い締付力部分は、ゴロつかず、伸びがよく、キックバックがよい。
【0011】
前記衣類の開口部は、二重に折り返されて袋状に編成され、前記強い締付力部分が前記袋状の内側の編地にだけ形成されていることが望ましい。
この構成によれば、強い締付力部分を衣類の開口部の内側(肌に接する側)の編地にだけ形成させておくものであるから、必要な締付力を肌に接する側の編地から直接効果的に付与させることができ、しかも、外側の編地には表れないため、外観体裁を向上させることができると共に、開口部を二重に折り返して袋状としてあることによって、開口部の形態安定性が向上し、ズレ落ち防止機能を増進させることができる。
【0012】
前記強い締付力部分が、スパイラル編み組織で編成されていてもよい。この構成によれば、弾性糸の一方がコース方向に1目〜複数目ごとに編目ループを形成せずに浮かせて編み込まれているため、強い締付力部分の締付力をさらに大きくすることができる。
前記強い締付力部分が、衣類の開口部の編地の複数コース置きに複数段に亘って形成されているのが望ましい。この構成によれば、表糸と裏糸とを両方とも弾性糸で編成した強い締付力部分と、表糸が非弾性糸で裏糸が弾性糸からなる弱い締付力部分とが交互に複数段に亘って形成されていることになり、強い締付力部分を多段に分散させて配置することができてソフトな締付力を付与することができるようになり、それと共に、ズレ落ち防止機能を多段に具備させることもできるため、ズレ落ち防止機能をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、締付力の調整が容易であり、適正な締付力が容易に付与でき、しかも、ソフトな締付力で着用時のダメージを軽減しつつ衣類の開口部のズレ落ち防止機能を効果的に向上させ、さらに、編成中の編組織の変更作業工数や給糸切り替え作業工数を減少させ、外観体裁も向上させ得るようにした衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を靴下に適用した場合の全体を示す概略側面図である。
【図2】本発明に係る衣類の開口部の概略構成を示す縦断側面図である。
【図3】本発明に係る衣類の開口部の編組織の一例を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る衣類の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明を靴下に適用した実施形態を示しており、この実施形態における衣類の
開口部に相当するのは穿き口部1である。靴下自体は、図1に示すように、穿き口部1、脚部2、踵部3、足甲部4、底部5、爪先部6を有し、これら各部は、図3に示すように、非弾性糸からなる表糸7と弾性糸からなる裏糸8とにより添え糸編み組織9で編成されている。
【0016】
添え糸編み組織9は、表糸7と裏糸8とを引き揃えて編機の給糸口に給糸して、表糸7を表側に、裏糸8を裏側に出して編み込まれる組織である。
表糸7としては、綿糸、綿アクリル混紡糸、毛糸、毛アクリル混紡糸、絹糸、絹アクリル混紡糸等、靴下に採用される非弾性糸が使用される。
裏糸8としては、ポリウレタン弾性糸を芯糸とし、ナイロン糸を巻き付けたSCY(シングルカバリングヤーン)、DCY(ダブルカバリングヤーン)その他の弾性糸(例えば、ポリウレタン弾性糸の裸糸等)が使用される。
【0017】
そして、穿き口部1は、添え糸編み組織9中に、1〜複数コース分(図3は2コース分の場合を例示している)に亘って非弾性糸からなる表糸7を弾性糸7aに切り替えて前記裏糸8の弾性糸と共に編成された強い締付力部分10を備えている。
表糸7に切り替えて使用される弾性糸7aとしては、ポリウレタン弾性糸を芯糸とし、ナイロン糸を巻き付けたSCY(シングルカバリングヤーン)、DCY(ダブルカバリングヤーン)その他の弾性糸(例えば、ポリウレタン弾性糸の裸糸等)が使用される。
【0018】
前記穿き口部1は、図2に示すように、内側の編地1aと外側の編地1bとの二重に折り返されて袋状に編成され、前記強い締付力部分10が前記袋状の内側の編地1aにだけ形成されている。
前記強い締付力部分10は、図3に示すように、スパイラル編み組織11で編成されている。スパイラル編み組織11は、一方の弾性糸7aをコース方向に1目〜複数目ごとに編目ループを形成させずに浮かせて編む組織であって、図3は、1×1(1目ごとに編目ループを形成させずに浮かせて編む組織)とした場合を例示しているが、2×1、その他の組織としてもよい。
【0019】
前記強い締付力部分10は、図1、図2に示すように、穿き口部1の内側の編地1aの複数コース置き(例えば、2コース置きや3コース置き等)に複数段(図1、図2では4段とした場合を例示している)に亘って形成されている。
本実施形態では、穿き口部1を袋状に編み込む編機(K式)が使用され、表糸7には、ウール糸1/34(34番手のウール糸1本)が使用され、裏糸8には、40デニールのポリウレタン弾性糸を芯糸とし、これに70デニールのナイロン糸を巻き付けた40/70のSCYが使用され、また、表糸7と切り替えられる弾性糸7aとして、140デニールのポリウレタン弾性糸を芯糸とし、これに70デニールのナイロン糸を巻き付けた140/70のSCYが使用される。
【0020】
そして、図2に示す編み始め部分12は、70デニールのナイロン糸だけで平編みされ、その後、前記した表糸7と裏糸8とで添え糸編みで平編みされて、穿き口部1から脚部2、踵部3、足甲部4、底部5、爪先部6が形成される。なお、穿き口部1の内側の編地1aの編成中、所定コース(例えば、3コース)置きに表糸7を弾性糸7aに切り替えて強い締付力部分10が複数段(例えば、4段)に亘って編成され、その際、強い締付力部分10をスパイラル編み組織11に変更して編成される。
【0021】
本発明を靴下に適用した実施形態は、以上の構成からなるもので、次に、その作用効果を説明する。
本発明を適用した靴下は、穿き口部1に強い締付力部分10を備えている。この強い締付力部分10は、表糸7と裏糸8とを両方ともに弾性糸で編成しているため、非弾性糸と弾性糸とで編成された他の部分よりも締付力を大きくすることができ、その結果、穿き口部1のズレ落ち防止機能を向上させることができる。
【0022】
この強い締付力部分10は、穿き口部1の添え糸編み組織9中に1〜複数コース分に亘って形成(コース数を増やすほど締付力が増加する)するものであるから、締付力の調整が容易であり、適正な締付力が容易に付与できる。
また、強い締付力部分10は、穿き口部1だけに形成するものであり、脚部2や他の部
分には形成しないため、編成中の給糸切り替え作業等を穿き口部1についてだけ行わせればよく、作業工数を減少させることができる。
【0023】
さらに、糸の伸縮度が、表糸>裏糸である場合に、表糸(非弾性糸)を弾性糸に切り替えて添え糸編みした強い締付力部分10は、ゴロつかず、伸びがよく、キックバックがよい。
また、穿き口部1は、二重に折り返されて袋状に編成され、強い締付力部分10が袋状の内側の編地1aにだけ形成されているため、必要な締付力を肌に接する側の編地1aから直接効果的に付与させることができ、しかも、外側の編地1bには表れないため、外観体裁を向上させることができると共に、穿き口部1を二重に折り返して袋状としてあることによって、穿き口部1の形態安定性が向上し、ズレ落ち防止機能を増進させることができる。
【0024】
また、強い締付力部分10は、スパイラル編み組織11で編成されているため、強い締付力部分10の締付力をさらに大きくすることができる。
さらに、強い締付力部分10が、穿き口部の編地の複数コース置きに複数段に亘って形成されているため、強い締付力部分10を多段に分散させて配置することができてソフトな締付力を付与することができるようになり、それと共に、ズレ落ち防止機能を多段に具備させることもできるため、ズレ落ち防止機能をさらに向上させることができる。
【0025】
本発明を靴下に適用した実施形態について説明したが、本発明は、靴下以外の衣類の開口部にも適用することができ、例えば、パンツ類などの下肢用衣類のウエスト部の開口部、裾口の開口部、シャツ類などの上肢用衣類の袖口の開口部、裾口の開口部等、開口部を有する各種衣類の開口部に適用することができ、その際、特許請求の範囲に記載された範囲内で、適宜、変更して実施することができる。例えば、袋状に編んだ穿き口部(開口部)1の場合を例示しているが、これに制約されず、1重の穿き口部(開口部)にも適用可能である。また、各部の編み組織は、平編みに限らず、パイル編み、メッシュ編み、あぜ編み、その他、靴下や下肢用衣類、上肢用衣類に採用される各種の編み組織で編成することができる。また、使用する糸は、各種衣類に採用される各種の編み糸を用いることができる。さらに、強い締付力部分10におけるスパイラル編み組織11は省略して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、短ソックス、ハイソックス、その他、各種の靴下、パンツ類などの下肢用衣類、シャツ類、アームカバー、腹巻などの上肢用衣類にも適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 穿き口部(開口部)
1a 内側の編地
1b 外側の編地
2 脚部
3 踵部
4 足甲部
5 底部
6 爪先部
7 表糸
7a 弾性糸
8 裏糸
9 添え糸編み組織
10 強い締付力部分
11 スパイラル編み組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性糸からなる表糸と弾性糸からなる裏糸とにより添え糸編み組織で編成された衣類において、前記衣類の開口部が、添え糸編み組織中に、1〜複数コース分に亘って非弾性糸からなる表糸を弾性糸に切り替えて前記裏糸の弾性糸と共に編成された強い締付力部分を備えていることを特徴とする衣類。
【請求項2】
前記衣類の開口部は、二重に折り返されて袋状に編成され、前記強い締付力部分が前記袋状の内側の編地にだけ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記強い締付力部分が、スパイラル編み組織で編成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の衣類。
【請求項4】
前記強い締付力部分が、衣類の開口部の編地の複数コース置きに複数段に亘って形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−74524(P2011−74524A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226883(P2009−226883)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(502181078)吉谷靴下株式会社 (10)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】