説明

表情描画用絵本セット

【課題】 冊子形態であっても絵本全体の厚みを増すことなく安価に製造でき、形成した筆跡が不意な接触で容易に剥離することなく維持でき、誤記や不要時には加熱によって容易に消去できると共に、印刷像やその周辺を含むページ全体への自由な描画形成によって様々な表情の顔絵画を完成させてオリジナルの顔絵本を作製することができる、興趣に富み、創造性の高い表情描画用絵本セットを提供する。
【解決手段】 筆記具での描画が可能な紙面に、少なくとも顔の輪郭部3となる像が印刷されたページと前記輪郭部3を用いた顔の描画を促す指示部4が印刷されたページからなる描画用絵本2と、加熱により消色可能な筆跡を形成する筆記具7とからなり、前記指示部4の内容に従い、筆記具7で輪郭部3に顔パーツを描き込むことで絵画を完成させる表情描画用絵本セット1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表情描画用絵本セットに関する。詳細には、付属の筆記具での描画が可能な紙面で構成される絵本と、加熱により有色から無色に色変化する筆跡を与える筆記具とからなる表情描画用絵本セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホワイトボード用に加工した紙を用いることで、加工紙への落書きを可能とした幼児用絵本が開示されている(例えば、特許文献1参照)。前記絵本では、紙面に非浸透性加工が施されることで、剥離剤を含むインキを収容する筆記具によって自由に書き込みができ、筆跡を布帛等で擦過剥離して消去できるものである。
しかしながら、前記絵本では、筆跡を消去可能とするために紙面に特殊な処理が必要となり、製造コストが高くなる。また、汎用の浸透性用紙と比べてページ1枚が厚くなるため、冊子形態とした際、冊子全体の厚みの増加を抑えるためにページ数を少なくすることや、冊子全体の厚みを太くすることが必要であった。また、前記絵本は、筆記具による筆跡が擦過で容易に剥離してしまうため、絵本を閉じたり指等で触れることで消去され、保存性を有しないものであり、また、消去時に消しカスが発生して周囲を汚すものであった。
【0003】
また、従来、図柄と、該図柄に対応する文字からなる印刷像が形成され、どちらか一方が可逆熱変色層で隠蔽されると共に、前記隠蔽状態の像や文字を記入する箇所であり、付属の筆記具による筆跡形成が可能な被筆記部を備えた冊子形態の知育具と、加熱により消色可能なインキを収容する筆記具とからなる知育具セットが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
前記知育具は、印刷された図柄に関連する文字(名前や英語名等)を連想し、付属の筆記具で被筆記部に記入した後に隠蔽部分を透明化して確認するものであり、例えば、図柄が猫であり、「CAT」の文字が隠蔽されている場合、被筆記部に猫の図柄から連想される英単語を記入した後に、隠蔽部分を可視状態として前記英単語の正誤を確認するといった学習用途に適したものである。また、筆記具による筆跡は加熱することで容易に消去できるものであり、接触剥離等で不本意な消色が生じることなく、加熱消去した部分に対して繰り返し筆記できる学習効果に優れたものである。
そのため、前記知育具では、被筆記部への筆記は可能であるが、図柄等の印刷像やその周囲など、被筆記部以外への筆記はできないものである。また、前記知育具は、自由な描画を形成してオリジナルの絵本を作製することはできないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−41964号公報
【特許文献2】特開2008−281995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冊子形態であっても絵本全体の厚みを増すことなく安価に製造でき、形成した筆跡が不意な接触で容易に剥離することなく維持でき、誤記や不要時には加熱によって容易に消去できると共に、印刷像やその周辺を含むページ全体への自由な描画形成によって様々な表情の顔絵画を完成させてオリジナルの顔絵本を作製することができる、興趣に富み、創造性の高い表情描画用絵本セットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筆記具での描画が可能な紙面に、少なくとも顔の輪郭部となる像が印刷されたページと前記輪郭部を用いた顔の描画を促す指示部が印刷されたページからなる描画用絵本と、加熱により消色可能な筆跡を形成する筆記具とからなり、前記指示部の内容に従い、筆記具で輪郭部に顔パーツを描き込むことで絵画を完成させる表情描画用絵本セットを要件とする。
更に、前記輪郭部が形象物の写真又はイラストであること、前記絵本が熱変色性インキによる印刷像を有すること、顔パーツが印刷されたシールがセットされること、装飾用品が印刷されたシールがセットされること、前記シールが熱変色性インキによる印刷像を有することを要件とする。
更に、前記絵本が筆記具を収納する収納部を有すること、前記収納部に、筆記具による筆跡を摩擦消去する摩擦体を収納することを要件とする。
更には、前記筆記具が、(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物と、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とから少なくともなる可逆熱変色性組成物を内包した、加熱により有色から無色に色変化するマイクロカプセル顔料を含む筆記材を有すること、前記マイクロカプセル顔料が、色濃度−温度曲線の関係において、発色状態から温度が上昇する過程で消色開始温度(T)に達すると消色し始め、完全消色温度(T)以上では完全に消色し、消色状態から温度が下降する過程で発色開始温度(T)に達すると発色し始め、完全発色温度(T)以下では完全に発色するヒステリシス特性を示し、温度Tは−30〜10℃の範囲にあり、温度Tが30〜80℃の範囲にあること、前記筆記具が筆跡を消去する摩擦体を備えてなることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、顔の輪郭部となる像が印刷されたページへの付属の筆記具を用いた描画によって、ユーザーが様々な表情を描くことができ、オリジナルの顔絵本を完成できる興趣に富み、創造性の高い表情描画用絵本セットとなる。その際、絵本の各ページに汎用の浸透性用紙を適用できるため、冊子形態であっても全体の厚みを増すことなく安価に製造でき、描かれた筆跡は容易に剥離することがなく筆跡保存性に優れると共に、消去したい場合には加熱によって容易に消去できる利便性、再使用性に優れたものとなる。
また、輪郭部として人間や動物の輪郭以外に、色々な形象物の写真やイラストを顔の輪郭に見立てて描画を促す構成とすることで、より自由な発想での描画が可能となる。
更に、顔パーツや装飾用品のシールをセットとすることで、福笑いとしての遊びや描画とは異なる複雑な装飾が可能となるとともに、該シールによる装飾と筆記具による自由な描画とを組み合わせることで、より意匠性の高い絵画を形成できる。
また、絵本の印刷像や付属のシールを熱変色性インキを用いて形成することで、描画後の筆跡消去時における絵画の全消去、加熱による印刷像やシールの色相変化、隠蔽部分の透視化等、完成した絵本の装飾性や意外性を向上でき、玩具用途や教材用途としてより有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に用いられる可逆熱変色性組成物の色濃度−温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
【図2】本発明に用いられる筆記具の一例を示す縦断面説明図である。
【図3】本発明の表情描画用絵本の第一の実施形態の一例を示す外観図である。
【図4】図3の表情描画用絵本の収納部を示す外観図である。
【図5】本発明の表情描画用絵本の第二の実施形態の一例を示す外観図である。
【図6】図5の表情描画用絵本と筆記具をセットにした状態を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の表情描画用絵本セットは、加熱により消色可能な描線を形成する筆記具と、該筆記具により輪郭部に顔パーツが描画される絵本とで構成されるものであり、前記絵本の指示部に記載された情報を基に、輪郭部に対して付属の筆記具で顔パーツや装飾を自由に書き足すことで描画形成し、ユーザーが様々な表情の顔絵本(絵画)を作製できるオリジナル性の高いものである。そのため、完成した絵画を長期間保存できると共に、誤筆時には部分的に、再使用時には描画全体を消去して描き直すことができるものである。
【0010】
前記表情描画用絵本は、筆記具での描画が可能な紙面に、輪郭部が印刷されたページが複数形成された冊子であり、各ページには汎用の浸透性用紙(白色紙、着色紙、再生紙等)が適用される。尚、前記冊子とは、各ページを着脱可能としたものや、複数ページを綴じずに収容した集合体も含まれる。
また、絵本の少なくとも1箇所に、前記輪郭部に表情を描き込むことを説明する指示部が形成されている。
尚、各ページには浸透性用紙が適用されるが、表紙や裏表紙、指示部形成ページ、各ページ間等の非描画構成ページには非浸透性の補強用厚紙や塗装用紙等を用いることもできる。更に、前記絵本には、自由な描画ができるような輪郭部非印刷ページを設けることもできる。
【0011】
前記輪郭部は、各ページに印刷される印刷像であり、非熱変色インキによるモノクロ印刷やカラー印刷で形成される他、熱変色性インキを用いた印刷像とすることもできる。この場合、印刷物の消色温度を併用する筆記具のインキ消色温度と合わせることで、各ページへの描画によって完成した絵画全体(描線と熱変色印刷像)を加熱によって一括消去することができるため、意外性が有り興趣に富んだものとなる。尚、前記熱変色性印刷像に用いる熱変色性インキ中に非熱変色性着色剤を添加することで、加熱によって色変化を生じるタイプの印刷像を構成することもできる。
【0012】
更に、前記熱変色印刷像の一部を加熱により消色状態となる隠蔽層として構成し、紙面に印刷された非熱変色像上の全面又は一部に形成することもできる。前記隠蔽層は、先に形成した非熱変色性印刷像である顔パーツや他の絵柄や文字等の上面を被覆するように、熱変色性インキを用いた印刷やシール形態物の貼着によって形成され、ベタ状形態の他、像形態で設けることもできる。前記構成では、隠蔽や加熱による像変化を生じる印刷物を構成できるため、隠れたものを探すような教材的使用方法を得ることができる。
尚、前記隠蔽層となる熱変色印刷像の消色温度を併用する筆記具のインキ消色温度よりも低く、着色温度を高く設定する(即ち、ΔHを小さく設定する)ことで、容易な消色と着色(復元)が可能となるため、幼児用教材として適したものとなる。
【0013】
前記輪郭部となる像は、人間、動物、昆虫等の輪郭が写真やイラストで形成される他、通常顔を持たない葉っぱや果物等の植物、クッキーやドーナツ等の食物、ボール、月、湯飲み等の道具類、その他様々な形象物の写真やイラストを掲載し、顔の輪郭に見立てることができる。
【0014】
前記指示部は、ユーザーが各ページに顔パーツを描画することを促す内容の文章が印刷された部分であり、様々な輪郭部に対して、ユーザーが想像力を膨らませて、好みの色で好きな表情を描き足していく際のヒントとして用いられる。
前記指示部は、絵本の1箇所(1ページ)に形成される他、各ページに形成することもできる。尚、前記ページとしては、冊子形態の綴じ込みページの他、表紙や絵本カバー等の形態も含む。
指示部の内容としては、自由に顔を完成させることを促すものや、笑った顔、泣いた顔、怒った顔等、表情の種類を限定するものであってもよい。前記指示部の内容を基にユーザーが顔パーツを描画することで、オリジナルの顔絵画が掲載された絵本を完成できるものとなる。
更に、前記指示部やその近傍には、目、鼻、口等の顔パーツの例が印刷される説明図を設けることもでき、ユーザーが描画の参考にすることもできる。
【0015】
更に、各ページに貼着可能な顔パーツが印刷されたシールや、装飾用品が印刷されたシールをセットすることもできる。尚、前記顔パーツとしては、目、鼻、口、眉毛、髭、髪の毛等の写真やイラストであり、装飾用品としては、リボン、イヤリング、帽子、メガネ、髪飾り、角等の他、涙や鼻水の雫、花や葉等の植物、昆虫等、色々な像が形成される。
前記顔パーツのシールを用いることで、輪郭部への貼着により福笑いとしての遊びが可能となる。また、装飾用品が印刷されたシールを用いることで、描画への複雑な像やカラフルな像による装飾が可能となり、意匠性の高いものとなる。更に、前記シールと筆記具による自由な描画とを組み合わせることで、より装飾性の高い顔絵画を形成できる。
【0016】
また、前記シールを熱変色性インキによる印刷像で形成することもできる。この場合、貼着したシールが加熱によって色相変化を生じる構成や、像が変化する構成となるため、完成した絵本の装飾性や意外性を向上でき、玩具用途や教材用途としてより有用なものとなる。また、加熱により透視化する構成としたものは隠蔽用途にも適用できるため、より多様な遊び方ができるものとなる。
尚、前記シールは、汎用の非剥離型の他、着脱自在な再剥離再貼着型シールを適用することもできる。
【0017】
前記絵本には、付属する筆記具を収納する収納部を設けることができる。
前記収納部は、付属する筆記具の色数(本数)にあわせて溝部(凹部)を形成した樹脂や厚紙からなる収納ケースや、蓋体を有する袋状体、箱体等の形態で構成され、表紙や裏表紙、ページ間等に設けられる。尚、前記収納部は着脱可能に形成されるものであってもよい。
【0018】
更に、前記収納部には、筆記具と共に、該筆記具による筆跡(描線)を摩擦消去するための摩擦体を収納することもできる。
前記摩擦体としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好適であるが、プラスチック成形体、石材、木材、金属、布帛であってもよい。
前記摩擦体に適した弾性体の材質としては、弾性を有するゴムやエラストマーが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。特に、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)からなるものよりも、摩擦時に磨耗屑が生じない低摩耗性の弾性材料からなることが好ましい。また、硬度としては、JIS K6253Aにおけるショア硬度Aが55度以上のものがより好適である。更に、筆跡(紙面)との接触面積が大きくなるような形状とした場合には、大面積を消去でき、小さくなるような形状とした場合には、微細範囲の部分的消去が可能となるため、用途に応じて適した形状に形成される。
前記摩擦体は、前述の樹脂材料を単独で用いたものの他、筆跡と接触する以外の部分に硬質材料やカバー部材を適用して把持部を形成した形態であってもよい。
【0019】
尚、筆跡の消去には、摩擦体による消去以外にも加熱消去具による消去が可能であるため、この種の消去具を適用することができる。
前記消去具としては、例えば、抵抗発熱体を装備した通電加熱消去具、温水等を充填した加熱消去具、コピー機等の感熱機、ヘアドライヤー等が挙げられる。特にこれらの消去具は、再使用時の全体消去や大面積部分の消去に最適なものである。
【0020】
前記筆記具としては、加熱により消色可能な筆跡が形成できる筆記具が適用されるが、種類や外装構造等は限定されることなく、汎用形態のものが適用できる。
前記筆記具の種類としては、ボールペン、マーキングペン、万年筆、クレヨン、シャープペンシル、鉛筆、固形描画材等が適用でき、いずれも加熱消去型の筆記材(インキや筆記芯)が内蔵されている。
【0021】
前記加熱消去型の筆記材には、従来から使用される加熱消色材料を特に限定することなく配合できるが、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた顔料が着色剤として配合されたものが特に有用である。
前記可逆熱変色性組成物のうち、加熱により消色する組成物としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する組成物を例示できる。
また、特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報、特開2005−1369号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8〜70℃)を示し、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、低温域での発色状態、又は、高温域での消色状態が、特定温度域で記憶保持できる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を用いることもできる。
【0022】
前記組成物の色濃度−温度曲線におけるヒステリシス特性について詳しく説明する。
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する最低温度T(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは完全発色状態を保持できる最高温度T(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは完全消色状態を保持できる最低温度T(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する最高温度T(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
変色温度域は前記TとT間の温度域であり、消色状態と発色状態(第1色相と第2色相の両相)が共存でき、色濃度の差の大きい領域であるTとTの間の温度域が実質変色温度域(二相保持温度域)である。
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が小さいと変色前後の両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しえない。前記ΔH値が大きいと変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0023】
前記した組成物のうち、色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を用いることにより、第1の状態(有色)から第2の状態(無色)に色彩を簡易に変色させることができ、常態と異なる色彩を互変的に視覚させることができる。
具体的には、完全発色温度Tを冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−30〜10℃、好ましくは−30〜0℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度Tを摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち30〜80℃、好ましくは50〜80℃、より好ましくは60〜80℃の範囲に特定し、ΔH値を40〜60℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
本発明で適用される筆記具は、有色状態の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料を含む筆記材(インキや筆記芯)が収容(保持)されてなり、前記筆記具により形成された筆跡が指触等では容易に消色されない構成であることが好ましく、しかも、消色した筆跡は日常の生活温度域で再び現出しないことが好ましい。従って、前述したTとTの温度設定は極めて重要な要件となる。
【0024】
前記各成分のうち、(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、従来公知のジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類等が挙げられる。
【0025】
(ロ)成分である電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群等がある。
活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0026】
前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類が挙げられる。
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度−温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点−曇点)を示すカルボン酸エステル化合物、例えば、分子中に置換芳香族環を含むカルボン酸エステル、無置換芳香族環を含むカルボン酸と炭素数10以上の脂肪族アルコールのエステル、分子中にシクロヘキシル基を含むカルボン酸エステル、炭素数6以上の脂肪酸と無置換芳香族アルコール又はフェノールのエステル、炭素数8以上の脂肪酸と分岐脂肪族アルコール又はエステル、ジカルボン酸と芳香族アルコール又は分岐脂肪族アルコールのエステル、ケイ皮酸ジベンジル、ステアリン酸ヘプチル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジミリスチル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジステアリル、トリラウリン、トリミリスチン、トリステアリン、ジミリスチン、ジステアリン等が用いられる。また、前記(ハ)成分としてより好適には、特開2006−137886号公報や、特開2006−188660号公報に記載される化合物が用いられる。
【0027】
前記可逆熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、コアセルベート法等の公知の手段が適用できるが、凝集や合一化が生じ難いことから界面重合法又は界面重縮合法の適用が効果的である。
尚、前述の筆記材に適用される可逆熱変色性組成物やそれを内包するマイクロカプセル顔料は、先に説明した熱変色性印刷物を形成する熱変色性インキにも適用される。
【0028】
本発明で適用される可逆熱変色性筆記材には、前記マイクロカプセル顔料をワックス等の樹脂成分中に分散保持するクレヨンや固形描画材、非焼成鉛筆芯(色鉛筆やカラーシャープペンシル用の芯)、水性インキ、油性インキ、エマルジョンインキ等のインキ組成物が筆記具の形態に合わせて適宜用いられるが、特に、浸透性紙面に対する筆跡定着性が高く、消去時の色残りが少ない点からインキ組成物が好適である。
前記インキ組成物は、有色状態を示すマイクロカプセル顔料をビヒクル中に分散させたインキが有効であり、前記ビヒクルとしては水性ビヒクルが好ましいが、油性ビヒクルやエマルジョンビヒクルであってもよい。
具体的な水性インキとしては、剪断減粘性付与剤を含む剪断減粘性インキや、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集性インキが挙げられる。更には、可逆熱変色性顔料とビヒクルと比重差を0.05以下になるよう調節したインキが挙げられる。
前記インキ組成物では、マイクロカプセル顔料がインキ組成物全量に対し、2〜50重量%(好ましくは3〜40重量%、更に好ましくは、4〜30重量%)配合することができる。2重量%未満では発色濃度が不充分であり、50重量%を越えるとインキ流出性が低下し、筆記性が阻害される虞がある。
【0029】
前記剪断減粘性付与剤はインキ中に添加することによって、マイクロカプセル顔料の凝集・沈降を抑制することができると共に、筆跡の滲みを抑制することができる。
更に、前記インキを充填する筆記具がボールペン形態の場合、不使用時のボールとチップの間隙からのインキ漏れだしを防止したり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止することができる。
尚、前記剪断減粘性付与剤を添加したインキの粘度は、20℃でのE型回転粘度計による3.84S−1の剪断速度におけるインキ粘度が20〜300mPa・sを示し、且つ、剪断減粘指数が0.1〜0.9を示すことが好ましい。前記した粘度範囲及び剪断減粘指数を示すことによって、更にインキ漏れだし、インキの逆流を防止することができる。
また、剪断減粘指数(n)は、剪断応力値(T)及び剪断速度値(j)の如き粘度計による流動学測定から得られる実験式T=Kj(Kは非ニュートン粘性係数)にあてはめることによって計算される値である。
【0030】
前記剪断減粘性付与剤としては、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する増粘多糖類、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アミド等のHLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキル又はジアルケニルスルホコハク酸の塩類。N−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤の混合物、ポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の混合物を例示できる。
【0031】
前記水溶性高分子凝集剤としては、非イオン性水溶性高分子化合物が好適に用いられる。
具体的にはポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類、非イオン性水溶性セルロース誘導体等が挙げられる。このうち水溶性多糖類の具体例としてはトラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリンが挙げられ、また非イオン性水溶性セルロース誘導体の具体例としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
本発明では、可逆熱変色性インキ中において顔料粒子間の緩い橋架け作用を示す水溶性高分子であればすべて適用することができるが、なかでも前記の非イオン性水溶性セルロース誘導体が最も有効に作用する。
【0032】
また、前記高分子凝集剤と共に、側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤及び有機窒素硫黄化合物を併用することにより、前記高分子凝集剤によるマイクロカプセル顔料のゆるい凝集体の分散性を向上させることができる。
前記側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤としては、側鎖に複数のカルボキシル基を有する櫛型高分子化合物であれば特に限定されるものではないが、側鎖に複数のカルボキシル基を有するアクリル高分子化合物が好適であり、前記化合物として日本ルーブリゾール社製の商品名:ソルスパース43000を例示できる。
前記有機窒素硫黄化合物は、インキ組成物を筆記具に充填して実用に供する際、振動によるマイクロカプセル顔料の沈降をいっそう抑制する。
これは、マイクロカプセル顔料のゆるい凝集体を側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤によって分散させる分散性をより向上させるものである。
前記有機窒素硫黄化合物としては、チアゾール系化合物、イソチアゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾイソチアゾール系化合物から選ばれる化合物が用いられる。具体的には、2−(4−チアゾイル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−(チオシアネートメチルチオ)−1,3−ベンゾチアゾール(TCMTB)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンから選ばれる一種又は二種以上の化合物が用いられ、好ましくは2−(4−チアゾイル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンから選ばれる一種又は二種以上の化合物が用いられる。
【0033】
インキ中に水と共に添加できる水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0034】
また、本発明のインキをボールペンに充填して用いる場合は、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等の潤滑剤を添加してボール受け座の摩耗防止効果を付与することが好ましい。
【0035】
その他、必要に応じてアクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の樹脂を添加して紙面への固着性や粘性を付与することもできる。
また、炭酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ノニオン系界面活性剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等のオリゴ糖類、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリンソルビット、マンニット、ピロリン酸ナトリム等の湿潤剤、消泡剤、分散剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系の界面活性剤を添加してもよい。
【0036】
前記インキは、マーキングペンチップやボールペンチップを筆記先端部に装着したマーキングペンやボールペン等の筆記具に充填して実用に供される。その際、描画の装飾性を高めるために複数色のインキ(筆記具)を使用することが好ましい。
ボールペンに充填する場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内に剪断減粘性インキを充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したチップに連通しており、更にインキの端面には、逆流防止用の液栓が密接しているボールペンを例示できる。
【0037】
前記ボールペンチップについて更に詳しく説明すると、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属又はプラスチック製チップ内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、或いは、前記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等の0.2〜3.0mm、好ましくは0.4〜1.5mm、より好ましくは0.5〜1.0mm径程度のものが適用できる。尚、前記筆記具は、ボールと同様の転動作用により筆跡を形成させる、転動機構を筆記先端部に備えたものを含む。
【0038】
前記インキを収容するインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体が用いられる。
更に、前記インキ収容管として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
前記インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記インキ収容管とチップを連結してもよい。
尚、前記インキ収容管はレフィルの形態として、前記レフィルを軸筒内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、前記軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0039】
前記インキ収容管に収容したインキの後端にはインキ逆流防止体が充填できる。
前記インキ逆流防止体組成物は不揮発性液体又は難揮発性液体からなる。
具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
【0040】
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物を例示できる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物と、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
【0041】
また、マーキングペンに充填する場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内に繊維集束体からなるインキ吸蔵体を内蔵し、毛細間隙が形成された繊維加工体からなるペン先を直接或いは中継部材を介して軸筒に装着してなり、前記インキ吸蔵体とペン先が連結されてなるマーキングペンの前記インキ吸蔵体に凝集性インキを含浸させたマーキングペンや、ペン先の押圧により開放する弁体を介してペン先とインキ収容管とを配置し、該インキ収容管内にインキを直接収容させたマーキングペン等を例示できる。
【0042】
前記ペン先は、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来汎用の気孔率が概ね30〜70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材であり、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
前記チゼル形状のペン体にあっては、筆記面への当接位置を変えることにより細書き用、或いは太書き用として、更には一定線幅のマークを形成できる多用途性を有し、多様な熱変色性の筆跡を形成できる利便性に優れた筆記具を構成できる。
前記インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させたものであり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40〜90%の範囲に調整して構成される。
また、前記弁体は、従来汎用のポンピング式形態が使用できるが、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0043】
更に、前記ボールペンやマーキングペンの形態は前述したものに限らず、相異なる形態のペン先を装着させたり、相異なる色調のインキを導出させるペン先を装着させた複合筆記具(両頭式やペン先繰り出し式等)であってもよい。
【0044】
更に、鉛筆、シャープペンシル、クレヨン、繰出式固形描画材等に適用される固形筆記体も好適に用いられる。
前記固形筆記体には、前述の可逆熱変色性組成物、或いは、該可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を賦形性ワックス中に分散して固めたものが適用でき、前記賦形剤は汎用されているワックス類が有効である。
前記賦形剤として具体的には、融点40〜120℃のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム、酸化パラフィンワックス、酸化ペトロラクタム等の石油系ワックス、酸化ポリエチレンワックス、モンタン酸ワックス、エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、エチレンアクリル共重合ワックス、ビニールエーテルワックス等の合成ワックス、セラック、カルナバワックス、カスターワックス、牛脂硬化油等の動植物系ワックス、ベヘン酸ベヘニル、ベベン酸ステアリル、パルミチン酸ステアリル、ミリスチン酸ステアリル、ラウリン酸ステアリル、ステアリン酸ステアリル、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ステアロン、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、リグノモリン酸、セロチン酸等のエステル類、高級アルコール類、ケトン類、脂肪酸類、パーム油、流動パラフィン、ポリブテン、ポリブタジエン、スチレンオリゴマー等の油脂脂肪酸、液状炭化水素類が挙げられる。
尚、鉛筆芯やシャープペンシル用芯等の鉛芯の場合は、タルク、マイカ、カオリン、クレー、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、チタン酸カリウムウィスカー等の体質材を強度の向上や書き味を調整する目的で配合される。
前記固形筆記体は、必要に応じて鉛筆外装、シャープペンシル外装、繰出式やキャップ式の筆記具外装に収容されて所望の筆記具を構成する。
【0045】
前記した筆記具には、筆記時の誤記やはみ出した箇所の筆跡(描線)を消去するために、前述の摩擦体を紙面と接触可能な外装部に固着し、筆記具と一体とすることもできる。尚、前記固着方法としては、別部材の接合や二色成形が用いられる。
前記摩擦体を固着する箇所は、キャップ先端部(頂部)、或いは、軸筒先端部(筆記先端部を設けていない部分)等が挙げられる。更に、キャップの一部、或いは軸筒の一部に任意形象の小突部を設けて摩擦体とすることもできる。
【0046】
本発明の表情描画用絵本セットは、前記形態の絵本と筆記具とから構成されるものであり、具体的な使用方法としては、指示部の内容を基に、印刷された輪郭部の適宜箇所に所望の色で顔パーツを描画していく際、間違えた部分等の修正したい箇所を加熱することにより消去し、再び所望の色や形に描いていくことで様々な表情の絵画を完成させる他、完成後に描画部全体を加熱して消去することで、再度同ページへの描画を楽しむことができるものである。
また、非熱変色性インキを収容する筆記具を組み合わせることもでき、消去したくない箇所(例えば顔パーツの輪郭線等)のみを該筆記具で筆記して、他の箇所を熱変色性インキで描く等の使い方もできる。
このようにして完成した顔にそれぞれ好みの名前を付けて遊ぶこともできるため、多様な使用が可能な絵本セットとなる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施形態(実施例)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中の部は重量部である。
<第一の実施形態>
可逆熱変色性筆記具の作製
実施例1
可逆熱変色性青色インキの調製
(イ)成分として4,5,6,7−テトラクロロ−3−[4−(ジメチルアミノ)−2−メチルフェニル]−3−(1−エチル−2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1(3H)−イソベンゾフラノン2.0部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:2.5μm、完全消色温度:55℃、完全発色温度:−20℃、温度変化により青色から無色に変色する)20.0部(予め−20℃以下に冷却して青色に発色させたもの)、ヒドロキシエチルセルロース0.5部、櫛型高分子分散剤〔日本ルーブリゾール(株)製、商品名:ソルスパース43000〕0.2部、有機窒素硫黄化合物〔北興化学工業(株)製、商品名:ホクサイドR−150、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物〕1.0部、ポリビニルアルコール0.5部、グリセリン25.0部、消泡剤0.02部、水52.78部を混合して可逆熱変色性水性青色インキ組成物を得た。
【0048】
前記インキ組成物による筆跡は、室温(25℃)で青色を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元の青色に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
【0049】
実施例2
可逆熱変色性ピンク色インキの調製
(イ)成分として2−(ジブチルアミノ)−8−(ジペンチルアミノ)−4−メチル−スピロ[5H−[1]ベンゾピラノ[2,3−g]ピリミジン−5,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3−オン1.0部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:2.3μm、完全消色温度:58℃、完全発色温度:−20℃、温度変化によりピンク色から無色に変色する)20.0部(予め−20℃以下に冷却してピンク色に発色させたもの)、ヒドロキシエチルセルロース0.5部、櫛型高分子分散剤〔日本ルーブリゾール(株)製、商品名:ソルスパース43000〕0.2部、有機窒素硫黄化合物〔北興化学工業(株)製、商品名:ホクサイド369〕1.0部、ポリビニルアルコール0.5部、グリセリン25.0部、消泡剤0.02部、水52.78部を混合して可逆熱変色性水性ピンク色インキ組成物を得た。
【0050】
前記インキ組成物による筆跡は、室温(25℃)でピンク色を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元のピンク色に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
【0051】
実施例3
可逆熱変色性黒色インキの調製
(イ)成分として2−(2−クロロアミノ)−6−ジブチルアミノフルオラン4.5部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:2.4μm、完全消色温度:56℃、完全発色温度:−20℃、温度変化により黒色から無色に変色する)25.0部(予め−20℃以下に冷却して黒色に発色させたもの)、ヒドロキシエチルセルロース0.5部、櫛型高分子分散剤〔日本ルーブリゾール(株)製、商品名:ソルスパース43000〕0.2部、有機窒素硫黄化合物〔2−(4−チアゾイル)−ベンズイミダゾール、北興化学工業(株)製、商品名:ホクスターHP、2−(4−チアゾイル)−ベンズイミダゾール〕1.0部、ポリビニルアルコール0.5部、グリセリン25.0部、消泡剤0.02部、水47.78部を混合して可逆熱変色性黒色水性インキ組成物を得た。
【0052】
前記インキ組成物による筆跡は、室温(25℃)で黒色を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元の黒色に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
【0053】
実施例4
可逆熱変色性黄色インキの調製
(イ)成分として4−[2,6−ビス(2−エトキシフェニル)−4−ピリジニル]−N,N−ジメチルベンゼンアミン3.0部、(ロ)成分として、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン10.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:2.1μm、完全消色温度:59℃、完全発色温度:−20℃、温度変化により黄色から無色に変色する)25.0部(予め−20℃以下に冷却して黄色に発色させたもの)、ヒドロキシエチルセルロース0.5部、櫛型高分子分散剤〔日本ルーブリゾール(株)製、商品名:ソルスパース43000〕0.2部、有機窒素硫黄化合物〔北興化学工業(株)製、商品名:ホクスターHP〕1.0部、ポリビニルアルコール0.5部、グリセリン25.0部、消泡剤0.02部、水47.78部を混合して可逆熱変色性水性黄色インキ組成物を得た。
【0054】
前記インキ組成物による筆跡は、室温(25℃)で黄色を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元の黄色に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
【0055】
実施例5
可逆熱変色性橙色インキの調製
(イ)成分として1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン3.0部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:2.5μm、完全消色温度:60℃、完全発色温度:−20℃、温度変化により橙色から無色に変色する)20.0部(予め−20℃以下に冷却して橙色に発色させたもの)、ヒドロキシエチルセルロース0.5部、櫛型高分子分散剤〔日本ルーブリゾール(株)製、商品名:ソルスパース43000〕0.2部、有機窒素硫黄化合物〔北興化学工業(株)製、商品名:ホクサイドR−150、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物〕1.0部、ポリビニルアルコール0.5部、グリセリン25.0部、消泡剤0.02部、水52.78部を混合して可逆熱変色性橙色水性インキ組成物を得た。
【0056】
前記インキ組成物による筆跡は、室温(25℃)で橙色を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元の橙色に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
【0057】
中詰式筆記具の作製(図2参照)
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆したインキ吸蔵体76内に、前記実施例1乃至5で作製した各インキ組成物を含浸させ、ポリプロピレン樹脂からなる軸筒71(前軸72及び後軸73により形成される)内に収容し、ホルダー74を介して軸筒先端部にポリエステル繊維の樹脂加工ペン体75(砲弾型)を接続状態に組み立て、内キャップ78を内設するキャップ77を装着することで五色の中詰式筆記具7(マーキングペン)を得た。尚、前記キャップ7の先端部には、摩擦体8としてSEBS樹脂を嵌着してなる。
【0058】
表情描画用絵本の作製(図3,4参照)
前記筆記具7での描画が可能な浸透性用紙に、指示部4を説明図41とともにカラー印刷したページと、複数種類の輪郭部3を1ページに1つカラー印刷した複数の描画用ページ5を形成し、これらを表紙材(厚紙)と共に製本することで表情描画用絵本2(約22cm×約18cm)を得た。尚、前記表紙材の裏表紙内面には、樹脂成形により形成された筆記具収納ケース6(開閉蓋61を備える)が貼着されている(図4参照)。
図3に示す本実施形態では、表紙の裏面(見開きページの左)に指示部4及び説明図41が、右ページには顔のない女の子の印刷像が輪郭部3として印刷されている。
【0059】
前記指示部4には、ユーザーが各描画ページ5に描画するためのヒント(ガイド)となる内容の文章が印刷されており、ここでは、「ふぞくのペンでかおをかんせいさせよう」との文章が印刷されている。また、「かいたかおはふぞくのけしぐでこすってけせるよ」との文章も印刷されている。更に、詳細なヒントを記載することもでき、例えば、「怒っている顔」、「笑った顔」、「泣いた顔」、「変な顔」、「自分の顔」、「友達の顔」等、描いてほしい表情についてのコメントを記載してもよい。
更に、描いた顔をドライヤーであたためて消せることを説明する文章を掲載することもできる。
【0060】
前記輪郭部3は、顔パーツのない女の子の輪郭像がカラー印刷されており、幼児等のユーザーが好みの表情となる顔パーツを描き足してオリジナルの顔絵画を完成させるための一部を成している。
輪郭部3には、人の顔を描くことを促す指示部4を参考に口、目、鼻、眉毛等の顔パーツを好みの表情(形状)で描く他、髪型を変えるために髪の毛を描き足したり、帽子、リボン、ピアス等の装飾品や化粧等を描き加えることができる。更に空白部分には、自由な絵を描くことができる他、輪郭部3を彩色することもできる。
【0061】
表情描画用絵本セットの作製(図4参照)
前記表情描画用絵本2と共に、先に作製した五本の筆記具7と、曲面状端部と平面状端部を両端に設けた摩擦体8(中心近傍がカバー部材で被覆される)をセットにして表情描画用絵本セット1を得た。
図4の形態では、絵本裏表紙内側に収納ケース6が形成されており、非使用時には筆記具7と摩擦体8が収納できる構成となっている。
前記収納ケース6には、筆記具収納部62と摩擦体収納部63となる二つの窪みが形成されると共に、前記収納部62,63を被覆する開閉蓋61が設けられている。前記開閉蓋61は被覆時に収納ケース表面と面一となるように形成されており、収納ケース6が下敷となる右ページに描画する際、窪み状の収納部62,63によって描画用ページ5が破れない構造となっている。
【0062】
また、前記収納ケース6と見開きになる左ページは、描画用ページ5として機能しており、輪郭部3となるお皿のイラストがカラー印刷されている。そのため、ユーザーが好みの表情となる顔パーツを描き足して絵画を完成できる構成となっている。更に、空白部分に自由な絵を描くことや、輪郭部3を彩色することもできる。
【0063】
前記表情描画用絵本セット1では、付属の筆記具7を用いて各描画用ページ5に対して、指示部4を参考に、輪郭部3を用いた顔絵画を描画することで、絵本を完成できる。
その際、間違えて描いた箇所や、はみ出した箇所等の描線上を摩擦体8(単独のもの又はキャップ77先端のもの)を用いて擦ると、擦過した箇所が消色して視認されなくなる。この状態は室温で維持することができるので、擦過消去した箇所を非着色状態のままで維持したり、擦過消去した箇所に再び描画することで顔絵画全体を完成できた。
また、前記絵画を完成させた後、ヘアドライヤーを用いて描画部分全体を加熱することにより、全ての描線が消色して視認できなくなった。この状態は室温で維持されるので、前記描画用ページ5が描画前の印刷物に戻ったように視覚される。そのため、間違えて描いた箇所の訂正や、再度使用する状態に戻すことが容易にできる、利便性に優れた表情描画用絵本セット1が得られる。
【0064】
<第二の実施形態>
表情描画用絵本セットの作製
前記第一の実施形態の表情描画用絵本セット1に、複数種類の目、鼻、口、髭、髪等の顔パーツのイラストや写真が印刷された再剥離再貼着型の顔シールを付属するとともに、複数種類の帽子、リボン、イヤリング、角等の装飾用品のイラストや写真が印刷された再剥離再貼着型の装飾シールをセットすることでシール付表情描画用絵本セット1を得た。
【0065】
前記顔シールを用いることで、輪郭部3への貼着により福笑いとしての遊びが可能となり、付属の筆記具との併用によってより多彩な表情を描くことができる。また、装飾シールを用いることで、描画への複雑な像やカラフルな像による装飾が可能となり、意匠性の高いものとなる。
本実施形態では、第一実施形態と同様の描画ができることはもちろん、前記二種類のシールと、筆記具による自由な描画とを組み合わせることで、より装飾性が高く、多彩な表情の顔絵画を形成できるものとなる。
【0066】
<第三の実施形態>
表情描画用絵本セットの作製(図4参照)
前記第一の実施形態の収納ケース6と見開きになる左ページ(描画用ページ5)にカラー印刷されるお皿のイラストの星柄部を、二色の可逆熱変色性インキを用いて印刷することで輪郭部3を形成した以外は、第一の実施形態と同様にして表情描画用絵本セット1を得た。
本実施形態では、前記可逆熱変色性インキとして、(イ)成分として4−[2,6−ビス(2−エトキシフェニル)−4−ピリジニル]−N,N−ジメチルベンゼンアミン4.0部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:1.8μm、完全消色温度:56℃、完全発色温度:−20℃、温度変化により黄色から無色に変色する)を着色剤とする(予め−20℃以下に冷却して黄色に発色させたもの)オフセット印刷用黄色インキと、(イ)成分として4,5,6,7−テトラクロロ−3−[4−(ジメチルアミノ)−2−メチルフェニル]−3−(1−エチル−2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1(3H)−イソベンゾフラノン3.0部、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン3.0部、1,1−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−n−デカン3.0部、(ハ)成分としてカプリン酸ステアリル45部、ラウリン酸ステアリル5部からなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:2.0μm、完全消色温度:33℃、完全発色温度:27℃、温度変化により青色から無色に変色する)を着色剤とする(予め27℃以下に冷却して青色に発色させたもの)オフセット印刷用青色インキとを用いて、紙面に二種類の星柄のオフセット印刷を施した。
【0067】
熱変色部を形成する場合、前記輪郭部3と同ページ、または、使用方法を説明する支持部4と説明図41が掲載されているページに、「ほしをあたためよう」や、「ほしをこすろう」等の指示文章を記載することが好ましく、本実施形態では同ページに「ほしをこすろう」の文章が記載される(図示せず)。
【0068】
本実施形態では、第一実施形態と同様の描画ができることはもちろん、星柄を温めることで皿の様相が変化する意外性を備えたものとなる。その際、青色の星柄は低温(体温程度)で色変化し、黄色の星柄は付属の摩擦体で擦過することで色変化するため、より意外性が高く興趣に富んだものとなる。
尚、前記熱変色性印刷像に用いる熱変色性インキ中に非熱変色性着色剤を添加することで、加熱によって色変化を生じるタイプの印刷像を構成することもでき、色相変化による装飾性の向上を図ることもできる。
【0069】
<第四の実施形態>
表情描画用絵本の作製(図5参照)
前記第一の実施形態で作製した筆記具7での描画が可能な浸透性用紙に、輪郭部3となるイラストや写真をカラー印刷することで複数の描画用ページ5を形成し、これらを表紙材(厚紙)と共に製本することで表情描画用絵本2(約20cm×約18cm)を得た。
図5に示す本実施形態では、見開きページの左右ページに各1つの像が印刷されている。また、表紙には厚紙製絵本カバーが設けられており、該カバーの表紙裏面(表紙見開きページの左)となる部分には、指示部4及び説明図41が印刷されている(図示せず)。
【0070】
前記指示部4には、ユーザーが各描画ページ5に描画するためのヒント(ガイド)となる内容の文章が印刷されており、ここでは、「ふぞくのペンでかおをかんせいさせよう」、「おこったかお、わらったかお、ないたかお、へんなかお、じぶんのかお、ともだちのかお、いろんなかおをかいてみよう」との文章が印刷されている。また、「かいたかおはふぞくのけしぐでこすってけせるよ」との文章も印刷されている。
また、指示部4の下側には、目、鼻、口からなるイラスト形態の説明図41が掲載されており、記載するパーツをより分かり易く説明している。
【0071】
前記輪郭部3として、左ページには富士山のイラストが、右ページにはドーナツの写真がカラー印刷されており、更にドーナツの写真には、目のイラスト(顔パーツ部31)が印刷されている。各輪郭部3は、幼児等のユーザーが好みの表情となる顔パーツを描き足してオリジナルの顔絵画を完成させるための一部を成している。
輪郭部3には、人の顔を描くことを促す指示部4を参考に口、目、鼻、眉毛等の顔パーツを好みの表情(形状)で描く他、髪型を変えるために髪の毛を描き足したり、帽子、リボン、ピアス等の装飾品や化粧等を描き加えることができる。更に空白部分には、自由な絵を描くことができる他、輪郭部3を彩色することもできる。
【0072】
表情描画用絵本セットの作製(図6参照)
前記描画用絵本2の表紙上に、第一の実施形態の実施例1,2,3で作製したインキを内蔵する三本の中詰式筆記具7を載置した後、絵本2及び筆記具7を包装材9である熱収縮性の袋状シュリンク樹脂フィルムで包装することで表情描画用絵本セット1を得た。
【0073】
前記表情描画用絵本セット1では、包装材9を開放して絵本2と筆記具7を取り出した後、付属の筆記具7を用いて各描画用ページ5に対して、指示部4を参考に輪郭部3が絵画の一部となるように顔を描画することで絵本を完成させることができる。
その際、間違えて描いた箇所やはみ出した箇所の描線上を、キャップ77先端の摩擦体8で擦ると、擦過した箇所が消色して視認されなくなる。この状態は室温で維持することができるので、擦過消去した箇所を非着色状態のままで維持したり、擦過消去した箇所に再び描画することで絵画全体を完成できた。
また、前記絵画を完成させた後、ヘアドライヤーを用いて描画部分全体を加熱することにより、全ての描線が消色して視認されなくなった。この状態は室温で維持されるので、前記描画用ページ5が描画前の印刷物に戻ったように視覚された。
前記様相変化を用いることで、間違えて描いた箇所の訂正や、再度使用する状態に戻すことが容易にできる、利便性に優れた表情描画用絵本セット1が得られた。
【0074】
<第五の実施形態>
表情描画用絵本セットの作製
前記第四の実施形態で作製した表情描画用絵本セット1に、複数種類の目、鼻、口、髭、髪等の顔パーツのイラストや写真が印刷された再剥離型顔シールを付属するとともに、複数種類の帽子、リボン、イヤリング、角等の装飾用品のイラストや写真が印刷された再剥離型装飾シールをセットすることでシール付表情描画用絵本セット1を得た。
尚、前記シールの一部には、33℃以上に加温すると消色又は色変化する熱変色シールが含まれており、その説明文章がシールの枠部に記載されている。
【0075】
前記顔シールを用いることで、輪郭部3への貼着により福笑いとしての遊びが可能となり、付属の筆記具との併用によってより多彩な表情を描くことができる。また、装飾シールを用いることで、描画への複雑な像やカラフルな像による装飾が可能となり、意匠性の高いものとなる。尚、熱変色シールを用いることで、更なる意外性を付与できる。
本実施形態では、第四実施形態と同様の描画ができることはもちろん、前記二種類のシールと、筆記具による自由な描画とを組み合わせることで、より装飾性が高く、多彩な表情の顔絵画を形成できるものとなる。
【0076】
<第六の実施形態>
可逆熱変色性固形筆記体の作製
実施例1乃至5で作成した色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(いずれも予め−20℃以下に冷却して各色に発色させたもの)を用いて以下の固形筆記体を作成した。
【0077】
可逆熱変色性クレヨンの作製
パラフィンワックス140F(融点61℃)〔日本精蝋(株)製〕11.0部からなるワックス中に前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料2.0部を加えて、加熱混合溶融し、クレヨン成形金型に流し込み冷却させて五本(五色)の可逆熱変色性クレヨンを得た。得られたクレヨンを−20℃以下に冷却して完全発色させたものは、紙面上に筆記すると、発色性の高い筆跡を形成することができた。前記筆跡は、室温(25℃)で各マイクロカプセル顔料に応じた色相を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元の色相に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
尚、前記各クレヨンにプラスチック製円筒状容器をセットして固形描画材を構成できる。その際、容器の後端部にSEBS樹脂からなる摩擦体が設けられる。
【0078】
可逆熱変色性色鉛筆、回転繰出式固形描画材の作製
ポリエチレンワックス(軟化点107℃)〔三洋化成(株)製〕100部、エチレン酢酸ビニル共重合ワックス13.0部からなる賦形性ワックス中に、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料13.0部を加えて加熱混合溶融させ、押出成形により、成形・冷却・乾燥させて、五本(五色)の可逆熱変色性鉛筆芯を得た。得られた鉛筆芯を−20℃以下に冷却して完全発色させたものは、紙面上に筆記すると、発色性の高い筆跡を形成することができた。前記筆跡は、室温(25℃)で各マイクロカプセル顔料に応じた色相を呈しており、摩擦体等で摩擦加熱すると、該筆跡は消色して無色となる。この状態は、室温下では保持されており、−20℃以下に冷却することで元の色相に復色する。前記変色挙動は繰り返し再現された。
更に、前記可逆熱変色性鉛筆芯を木軸内に内蔵することで五色の可逆熱変色性色鉛筆を得た。前記鉛筆の後端部にSEBS樹脂からなる摩擦体を設けることもできる。
また、前記可逆熱変色性鉛筆芯を樹脂製回転繰出式容器に収容することで回転繰出式固形描画材を構成した。前記容器の後端部にSEBS樹脂からなる摩擦体が設けられる。
【0079】
表情描画用絵本セットの作製
前記各五色の可逆熱変色性クレヨン、可逆熱変色性色鉛筆、回転繰出式固形描画材の少なくとも一種類の可逆熱変色性筆記具と共に、第一の実施形態で作成した表情描画用絵本と摩擦体と、第二の実施形態で作成した再剥離再貼着型シールをセットにして表情描画用絵本セットを得た。
前記絵本セットでは、別体の蓋付樹脂製収納ケースに各筆記具と摩擦体が収容されており、該収納ケースを絵本の上に載置した後、絵本及び収納ケースを包装材である熱収縮性の袋状シュリンク樹脂フィルムで包装することで表情描画用絵本セットとしている。
【0080】
前記表情描画用絵本セットは、包装材を開放して絵本と収納ケースを取り出した後、ケース内の筆記具を用いて絵本の各描画用ページに対して、指示部を参考に輪郭部内に顔パーツを描画したり、装飾を施すことで顔絵本を完成させることができる。更に、前記シールを用いることで、輪郭部への貼着により福笑いとしての遊びや、複雑な像やカラフルな像による装飾が可能となり、付属の筆記具との併用によってより多彩な表情や意匠性の高い絵画を描くことができる。
その際、間違えて描いた箇所やはみ出した箇所の描線上を、筆記具に付属される、又はケースに収容される別体の摩擦体で擦ると、擦過した箇所が消色して視認されなくなる。この状態は室温で維持することができるので、擦過消去した箇所を非着色状態のままで維持したり、擦過消去した箇所に再び描画することで顔絵画全体を完成できた。
また、前記絵画を完成させた後、ヘアドライヤーを用いて描画部分全体を加熱することにより、全ての描線が消色して視認できなくなった。この状態は室温で維持されるので、前記描画用ページが描画前の印刷物に戻ったように視覚される。そのため、間違えて描いた箇所の訂正や、再度使用する状態に戻すことが容易にできる、利便性に優れた表情描画用絵本セットが得られた。
【符号の説明】
【0081】
1 表情描画用絵本セット
2 表情描画用絵本
3 輪郭部
31 顔パーツ部
4 指示部
41 説明図
5 描画用ページ
6 収納ケース
61 開閉蓋
62 筆記具収納部
63 摩擦体収納部
7 筆記具
71 軸筒
72 前軸
73 後軸
74 ホルダー
75 ペン体
76 インキ吸蔵体
77 キャップ
7 摩擦部材
8 摩擦体
9 包装材
完全発色温度
発色開始温度
消色開始温度
完全消色温度
ΔH ヒステリシス幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具での描画が可能な紙面に、少なくとも顔の輪郭部となる像が印刷されたページと前記輪郭部を用いた顔の描画を促す指示部が印刷されたページからなる描画用絵本と、加熱により消色可能な筆跡を形成する筆記具とからなり、前記指示部の内容に従い、筆記具で輪郭部に顔パーツを描き込むことで絵画を完成させる表情描画用絵本セット。
【請求項2】
前記輪郭部が形象物の写真又はイラストである請求項1記載の表情描画用絵本セット。
【請求項3】
前記絵本が熱変色性インキによる印刷像を有する請求項1又は2に記載の表情描画用絵本セット。
【請求項4】
顔パーツが印刷されたシールがセットされる請求項1乃至3のいずれかに記載の表情描画用絵本セット。
【請求項5】
装飾用品が印刷されたシールがセットされる請求項1乃至4のいずれかに記載の表情描画用絵本セット。
【請求項6】
前記シールが熱変色性インキによる印刷像を有する請求項4又は5に記載の表情描画用絵本セット。
【請求項7】
前記絵本が筆記具を収納する収納部を有する請求項1乃至6のいずれかに記載の表情描画用絵本セット。
【請求項8】
前記収納部に、筆記具による筆跡を摩擦消去する摩擦体を収納する請求項7記載の表情描画用絵本セット。
【請求項9】
前記筆記具が、(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物と、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とから少なくともなる可逆熱変色性組成物を内包した、加熱により有色から無色に色変化するマイクロカプセル顔料を含む筆記材を有する請求項1乃至8のいずれかに記載の表情描画用絵本セット。
【請求項10】
前記マイクロカプセル顔料が、色濃度−温度曲線の関係において、発色状態から温度が上昇する過程で消色開始温度(T)に達すると消色し始め、完全消色温度(T)以上では完全に消色し、消色状態から温度が下降する過程で発色開始温度(T)に達すると発色し始め、完全発色温度(T)以下では完全に発色するヒステリシス特性を示し、温度Tは−30〜10℃の範囲にあり、温度Tが30〜80℃の範囲にある請求項9記載の表情描画用絵本セット。
【請求項11】
前記筆記具が筆跡を消去する摩擦体を備えてなる請求項1乃至10のいずれかに記載の表情描画用絵本セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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