説明

表皮の製造方法

【課題】トリムカット処理前の表皮を正確に位置決めした状態でトリムカット処理を行う。
【解決手段】真空成形工程では、凸部12が形成された真空成形型10を用いて、トリムカット処理前の表皮30が真空成形される。前記表皮30は、真空成形型10に形成された凸部12に対応した形状及び配置の凹部32を有している。そして、位置決め工程では、前記表皮30がトリムカット用型20上に配置された状態で、位置決め部材22の先端を前記表皮30の凹部32に向かって前進させることで、前記表皮30がトリムカット用型20上で位置決めされる。その後、トリムカット工程では、前記表皮30がトリムカット用型20上で位置決めされた状態で、トリム刃25で前記表皮に対するトリムカット処理が行われる。すると、製品形状の表皮40が作成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用内装部品等における表皮の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品であるインストルメントパネルには、その芯材の表面に表皮が一体化されていることが多い。まず、真空成形型(図6(a))を用いた真空成形により、シート状のTPO(サーモプラスチックオレフィン樹脂)等の比較的硬質な表皮から製品形状の部分を含むトリムカット処理前の表皮(図6(b))が作成される。そして、前記表皮はアルミや樹脂のトリムカット用型上に配置され、前記表皮を上から押さえたり(図6(c))、トリムカット用型側から真空で吸引する(図6(d))ことで、前記表皮の位置決めが行われる。その後、トリムカット用型上で位置決めされた前記表皮に対するトリムカット処理が行われることにより、製品形状の表皮(図6(e))が作成される。そして、製品形状の表皮が射出成形型に装填された状態で射出成形されることにより(図6(f))、芯材と表皮とが一体成形された内装部品が製造される。
【特許文献1】特開2002−225124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、トリムカット処理が行われる際に、前記表皮がトリムカット用型上で正確に位置決めされないと、製品形状の表皮の端末長さがばらつき、製品の表皮部が短くなったり(図7の部分A)、射出成形型が閉まる際に表皮を型に挟み込んでしまう(図7の部分B)という不具合が発生する。また、表皮が射出成形型の形状と一致していないと、射出成形樹脂の樹脂もれや表皮が樹脂圧に伸ばされて表面が白化するという不具合が発生する。
【0004】
そのため、上述したように、前記表皮を上から押さえたり、トリムカット用型側から真空で吸引することで、前記表皮の位置決めが行われるが、これらの方法にはそれぞれ問題がある。前記表皮を上から押さえる方法では、製品の意匠面を押さえることになり、強く押さえると傷や跡が表皮に付いてしまう。ここで、傷や跡が表皮に付くのを防止するために、押さえる力を小さくすると位置精度が悪くなってしまう。また、上記のいずれも方法でも、前記表皮をトリムカット用型上に配置した場合に、上下方向には位置決めすることができるが、左右方向及び前後方向には位置決めすることができない。
【0005】
そこで、本発明の主な目的は、トリムカット処理前の表皮を正確に位置決めした状態でトリムカット処理を行うことができる表皮の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明の表皮の製造方法は、真空成形型に形成された少なくとも2つの第1凸部に対応した形状及び配置の凹部を有するトリムカット処理前の表皮を真空成形する成形工程と、前記成形工程で成形された前記表皮の前記凹部を、トリムカット用型に形成された前記第1凸部に対応した形状及び配置の第2凸部に嵌合させることで、前記表皮を前記トリムカット用型上で位置決めする位置決め工程と、前記位置決め工程で前記トリムカット用型上で位置決めされた前記表皮に対するトリムカット処理を行うトリムカット工程とを備えていることを特徴としている。
【0007】
この構成によると、トリムカット処理前の表皮の真空成形が行われる際に用いられる真空成形型には少なくとも2つの第1凸部が形成されている。そのため、真空成形により成形されたトリムカット処理前の表皮には少なくとも2つの凹部が形成される。そして、前記表皮の前記凹部をトリムカット用型に形成された第2凸部に嵌合させることで、前記表皮がトリムカット用型上で正確に位置決めされる。従って、トリムカット処理前の表皮に対するトリムカット処理が正確に行われるので、製品形状の(トリムカット処理後の)表皮の端末長さのばらつきが発生しない。そのため、製品の表皮部が短くなったり、射出成形型が閉まる際に表皮を型に挟み込んでしまうという不具合が発生するのが防止される。また、従来のように、前記表皮を上から押さえたり、トリムカット用型側から真空で吸引することで前記表皮の位置決めが行われる場合に発生する不具合が防止される。
【0008】
本発明の表皮の製造方法では、前記トリムカット用型は、前記第2凸部となる先端を有し且つ前記トリムカット用型上に配置された前記表皮に対して進退可能な位置決め部材を備えており、前記位置決め工程では、前記表皮が前記トリムカット用型上に配置された後で前記位置決め部材の先端を前記表皮の前記凹部に向かって前進させることで、前記表皮を前記トリムカット用型上で位置決めしてもよい。
【0009】
この構成によると、前記表皮がトリムカット用型上に配置された際に、前記表皮がトリムカット用型から浮いていても、位置決め部材の先端が前進すると、前記表皮の前記凹部に干渉することにより前記表皮が引き込まれて、前記表皮の位置決めを正確に行うことができる。
【0010】
本発明の表皮の製造方法では、前記真空成形型に形成された前記第1凸部の形状は、円錐形状、三角錐形状、四角錐形状、及び、くさび形状のいずれかであってもよい。
【0011】
この構成によると、前記表皮の位置決めをより正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る表皮の製造方法に用いられる真空成形型の要部断面図であり、図2は、トリムカット用型の要部断面図である。
【0013】
真空成形型10は、アルミで形成されており、約140℃以上の温度まで加熱可能であり、トリムカット処理前の表皮を真空成形するために、セラミックヒータ加熱の真空成形機に用いられる。真空成形型10は、図1に示すように、真空成形により得られるトリムカット処理前の表皮の形状(製品の形状)に対応した外周面11を有している。そして、その外周面11の外側(製品範囲外)のフランジ部分のコーナー付近の4箇所には略円錐形状の凸部12がそれぞれ形成されている。ここでは、凸部12の直径は約8mmで、高さは約10mmであり、その円錐先端は表皮に刺さらないように、約2mmの長さを切り落とし、滑らかにしてある。図1では、作業者が取り出す側の2個の凸部12だけが図示されている。
【0014】
また、真空成形型10では、作業者が取り出す側の反対側の2箇所の凸部12は、図示しないが、エアーシリンダにより真空成形型10の表面に対して進退可能になっている。つまり、真空成形時には、4箇所の凸部12はいずれも真空成形型10の表面から突出しており、表皮を脱型する際には奥側の2箇所の凸部12が真空成形型10の表面より内側に後退し、脱型し易くなる。
【0015】
ここで、表皮としては、自動車内装部品であるインストルメントパネルに用いられる1層表皮や2層表皮がある。1層表皮の製品には、例えばTPO(サーモプラスチックオレフィン樹脂)で形成された1.0mmの表皮があり、2層表皮の製品には、TPOで形成された1.0mmの表皮と、PP(ポリプロピレン樹脂)で形成された1.0mmの表皮とが積層された表皮がある。また、本実施の形態では、表皮の大きさは、約600mm×約400mmの略長方形である。
【0016】
トリムカット用型20は、アルミで形成されており、真空成形された表皮に対するトリムカット処理を行うために用いられるものである。トリムカット用型20は、図2に示すように、真空成形型10の外周面11と同じ形状の外周面21を有している。そして、その外周面21の外側(製品範囲外)のフランジ部分のコーナー付近の4箇所には位置決め部材22がそれぞれ配置されている。位置決め部材22は、真空成形型10の凸部12と同じ略円錐形状の先端を有しており、トリムカット用型20の表面に対して進退可能になっている。つまり、4個の位置決め部材22は、エアーシリンダによりトリムカット用型20上に配置された表皮に対して進退可能になっている。図2では、作業者が取り出す側の2個の位置決め部材22だけが図示されている。また、図2では、位置決め部材22を進退させる機構は図示されていないが、どのような構成であってもよい。
【0017】
また、トリムカット用型20の上方には複数のトリム刃25が配置されている。トリム刃25は、トリムカット用型20の表面に対して進退可能になっている。そのため、トリム刃25をトリムカット用型20上に配置された表皮に向かって前進させることにより、表皮に対するトリムカット処理が行われる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態に係る表皮の製造方法の手順について、図3及び図4を参照して説明する。図3(a)〜図3(e)は、表皮の製造方法の手順を説明するための図である。図4(a)〜図4(c)は、位置決め部材の先端が表皮の凹部に向かって前進する際の様子を示す図である。
【0019】
真空成形工程では、図3(a)に示すように、4個の凸部12が形成された真空成形型10を用いて、トリムカット処理前の表皮30が真空成形される。図3(b)は、真空成形型10から脱型された前記表皮30を示している。前記表皮30は、真空成形型10に形成された4個の凸部12に対応した形状及び配置の4個の凹部32を有している。そして、位置決め工程では、前記表皮30は、図3(c)に示すように、トリムカット用型20上に配置される。ここで、前記表皮30がトリムカット用型20上に配置された状態(図4(a))で、4個の位置決め部材22の先端を前記表皮30の4個の凹部32に向かって前進させることで(図4(b))、前記表皮30がトリムカット用型20上で位置決めされる(図4(c))。その後、トリムカット工程では、前記表皮30がトリムカット用型20上で位置決めされた状態で、図3(d)に示すように、トリム刃25で前記表皮に対するトリムカット処理が行われる。すると、図3(e)に示すように、製品形状の表皮40が製造される。
【0020】
以上説明したように、本実施の形態の表皮の製造方法では、表皮の真空成形が行われる際に用いられる真空成形型10には4個の凸部12が形成されている。そのため、真空成形により成形されたトリムカット処理前の表皮30には4個の凹部32が形成される。そして、前記表皮30の凹部32をトリムカット用型20に形成された凸部22に嵌合させることで、前記表皮30がトリムカット用型20上で正確に位置決めされる。従って、トリムカット処理後の表皮40の端末長さのばらつきが発生しないように、トリムカット処理前の表皮30に対するトリムカット処理が正確に行われる。そのため、製品の表皮部が短くなったり、射出成形型が閉まる際に表皮を型に挟み込んでしまうという不具合が発生するのが防止される。また、従来のように、前記表皮30を上から押さえたり、トリムカット用型20側から真空で吸引することで、前記表皮30の位置決めが行われる場合に発生する不具合が防止される。
【0021】
また、4個の位置決め部材22の先端を前記表皮30の4個の凹部32に向かって前進させることで、前記表皮30がトリムカット用型20上で位置決めされるので、前記表皮30がトリムカット用型20上に配置された際に、前記表皮30がトリムカット用型20から浮いていても、位置決め部材22の先端が前進すると、前記表皮30の凹部32に干渉することにより前記表皮30が引き込まれて、前記表皮30の位置決めを正確に行うことができる。
【0022】
ここで、本実施の形態では、従来の表面押さえの場合と比べ、製品形状の表皮の端末のトリム位置精度が向上した。また、製品形状の表皮の端末長さのバラツキは従来±0.8mmであったのに対し、本発明では±0.3mmまで小さくすることができた。
【0023】
以上、本発明の好適な一実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、上述の実施の形態では、トリムカット用型20は、略円錐形状の先端を有し且つトリムカット用型20上に配置された前記表皮30に対して進退可能な位置決め部材22を備えているが、その外周面21の外側のフランジ部分のコーナー付近の4箇所に略円錐形状の凸部が形成されていてもよい。
【0024】
また、上述の実施の形態では、真空成形型10の凸部12の形状は、略円錐形状に限定されず、図5に示すように、例えば略三角錐形状、略四角錐形状、略くさび形状のいずれかでもよい。また、真空成形型10の凸部12の数は変更できる。ここで、トリムカット処理前の表皮30の凹部32及びトリムカット用型20の位置決め部材22の先端の形状、配置及び数は、真空成形型10の凸部12の形状、配置及び数に対応する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る表皮の製造方法に用いられる真空成形型の要部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る表皮の製造方法に用いられるトリムカット用型の要部断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る表皮の製造方法の手順を説明するための図である。
【図4】位置決め部材の先端が表皮の凹部に向かって前進する際の様子を示す図である。
【図5】真空成形型の凸部の形状の変形例を示す図である。
【図6】従来の表皮の製造方法の手順を説明するための図である。
【図7】従来の表皮の製造方法における課題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
10 真空成形型
12 凸部(第1凸部)
20 トリムカット用型
22 位置決め部材(第2凸部)
30 トリムカット処理前の表皮
32 凹部
40 製品形状の表皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成形型に形成された少なくとも2つの第1凸部に対応した形状及び配置の凹部を有するトリムカット処理前の表皮を真空成形する成形工程と、
前記成形工程で成形された前記表皮の前記凹部を、トリムカット用型に形成された前記第1凸部に対応した形状及び配置の第2凸部に嵌合させることで、前記表皮を前記トリムカット用型上で位置決めする位置決め工程と、
前記位置決め工程で前記トリムカット用型上で位置決めされた前記表皮に対するトリムカット処理を行うトリムカット工程とを備えていることを特徴とする表皮の製造方法。
【請求項2】
前記トリムカット用型は、前記第2凸部となる先端を有し且つ前記トリムカット用型上に配置された前記表皮に対して進退可能な位置決め部材を備えており、
前記位置決め工程では、前記表皮が前記トリムカット用型上に配置された後で前記位置決め部材の先端を前記表皮の前記凹部に向かって前進させることで、前記表皮を前記トリムカット用型上で位置決めすることを特徴とする請求項1に記載の表皮の製造方法。
【請求項3】
前記真空成形型に形成された前記第1凸部の形状は、円錐形状、三角錐形状、四角錐形状、及び、くさび形状のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の表皮の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−296656(P2007−296656A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124296(P2006−124296)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(304053957)三ツ星化成品株式会社 (46)
【Fターム(参考)】