表皮の解析方法
【課題】OCT計測のデータから、皮膚の層構造を正確に解析できるようにする。
【解決手段】皮膚の所定範囲を光干渉断層撮影法(OCT)で計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法であって、前記画像において、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域A5 、暗領域A6 及び明領域A7 が順次観察される場合に、皮膚表面A1 から暗領域A6 の手前までを表皮とする。
【解決手段】皮膚の所定範囲を光干渉断層撮影法(OCT)で計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法であって、前記画像において、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域A5 、暗領域A6 及び明領域A7 が順次観察される場合に、皮膚表面A1 から暗領域A6 の手前までを表皮とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低干渉光干渉計測法による表皮の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表面から順に表皮(約100〜200μm)、真皮(約2cm)および皮下組織からなる。このうち表皮は約20μm厚の角層を含み、外界の影響や病態によって形態や見え方が異なる。そのため、表皮の形態は、肌の評価の一指標として使用されており、正確に計測することが必要とされている。
【0003】
一方、生体や物体の内部構造を無侵襲に解析する手法の一つに、可視又は近赤外領域の低コヒーレンス光を使用して試料からの反射光や散乱光の干渉計測を行い、試料の内部構造を解析する低干渉光干渉計測法(low coherence reflectometry)を測定原理とする光干渉断層撮影法(optical coherence tomography,以下OCTと略する)があり、近年、生体あるいは物体の内部構造の新たな解析手法として注目され、皮膚の測定にも利用できるように改良が進められている(特許文献1)。
【0004】
図14は、OCTの測定原理の説明図である。このOCT計測装置1は、波長1300nm〜1550nmの低コヒーレンス光を発する低干渉性光源2から発せられた光を光ファイバー3で導光し、カプラー4で光量を1:1に分岐し、光ファイバー3の先端のプローブ5、6をそれぞれ試料Sと参照鏡7とに当接させ、光を入射させる。ここで、参照鏡7は、試料Sの深さ方向zに移動するようになっている。試料Sからの反射光と参照鏡7からの反射光とは、それぞれプローブ5、6で受光され、分析器8に送られ、それらを合わせた反射強度が測定される。ここで、試料Sからの反射光と参照鏡7からの反射光との光路差がゼロの場合、分析器8には双方の反射光の干渉により反射強度にピーク(干渉信号)が観測される。したがって、空気の屈折率をn* と表すと、試料S内には、干渉信号が観察されたときの参照鏡7の移動距離zに対応する光学的深さn*zの位置に反射界面が存在すること、即ち、試料Sは、この光学的深さn*zの位置を界面として光学的性質の異なる2つの層を有していることがわかる。このOCT計測によれば、試料表面から深さ20μm程度から深さ数100μmまでの広い領域が測定可能となる。
【0005】
また、OCT計測において、ある干渉信号が観察された場合に、その干渉信号の強度は、干渉信号が基づく層の光散乱強度に応じて、深さ方向zの増大に伴い、急激に減衰する。したがって、OCT計測によれば、干渉信号のピーク形状から、試料S内部の層の光散乱強度を知ることができる。即ち、分析器8で計測される干渉信号の光学厚みn*zと、その強度(反射率[dB])のプロファイルは、理論的には次式(1)で表される。
【0006】
【数1】
【0007】
(式中、Iz:後方散乱の強度
Ii:入射光の強度
σb:媒体固有の後方散乱係数
σt:媒体固有の減衰係数
n*Zs:光学厚み
k :計測条件で定まる比例定数)
【0008】
そこで、図15に示すように、光散乱強度の低い層S-1と光散乱強度の高い層S-2が積層している試料SをOCT計測すると、計測される干渉信号の光学厚みn*zと強度(反射率[dB])のプロファイルは、同図に模式的に示すように、2つのピークp1 、p2 を有するものとなる。ピークp1 は、プローブ5と光散乱強度の低い層S-1との界面反射により光学厚みn*z1 において観測されるピークであり、その光散乱強度は光の進行に伴い緩やかに減衰する。また、ピークp2 は、さらに光が深く進行した光学厚みn*z2 において、光散乱強度の低い層S-1と光散乱強度の高い層S-2との界面反射により観察されるピークであり、その光散乱強度は光の進行に伴い急激に減少する。
【0009】
図16は、実際にヒトの皮膚(45歳、女性、右上腕内側)をOCT計測することにより得られた干渉信号の光学厚みn*zと強度(反射率[dB])のプロファイルであり、図17は、被験者の皮膚(頬)上に複数の干渉計を列設することにより皮膚の所定範囲を同時に計測できるようにし、得られた干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化したOCT像であり、干渉信号が強い(反射率が高い)部位は明るく、干渉信号が弱い(反射率が低い)部位は暗く表されている。図18は手の平のOCT像である。
【0010】
図14で説明したように、互いに接する2つの層の屈折率あるいは光散乱強度が異なる場合にOCTの計測データにピークが現れるから、図16に観察される2つのピークのうち、光学厚み0μm程度で急激に立ち上がり、徐々に減衰しているピークには、センサー先端と皮膚表面との界面によるピークと、光学厚み20μm程度にある角層と顆粒層との境界によるピークが含まれ、ここに角層と顆粒層の境界があることは、組織解剖学的にもH/E染色により淡明層として確認されている。また、光学厚み100μm程度で立ち上がり、徐々に減衰しているピークは、表皮と真皮との境界によるものと考えられている。
【0011】
図16のピークは図17、図18の画像の明領域に対応するから、角層は、図18に示すように、明度が皮膚表面A1から中間明度領域A2 、暗領域A3 と単調減少した後、最初に高くなった明領域A4 の手前までであり、表皮は、図17に示すように、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域A5 、暗領域A6 、明領域A7 、暗領域A8が順次観察される場合に、明領域A7 の手前までであると考えられている。したがって、図17の暗領域A6 は表皮組織であると考えられている。なお、同図において、ラインL1 はプローブを構成するガラスであり、ラインL1 と皮膚表面A1との間は、計測時に皮膚表面に塗布したジェルである。
【0012】
【特許文献1】特許3414173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者は、OCT計測で得られた皮膚の観察結果を共焦点レーザー顕微鏡等で検証することにより、図17に観察される暗領域A6 には、真皮組織に存在する真皮乳頭があること、したがって、この暗領域A6 は表皮組織ではなく真皮組織であること、よって従来のOCT計測の解析手法では皮膚の表皮、真皮といった層構造を正確に解析できないことを見出した。
【0014】
なお、従来よりOCT計測による皮膚の層構造の解析結果と、ヒトから採取した皮膚組織の顕微鏡観察とを対応させることはなされていたが、観察されたヒトの皮膚組織の多くは、皮膚に病変部を有する患者の組織であるか、死亡した乳児や老人から採取した組織であり、さらに採取後ホルマリンに浸漬保存されていたものであったため、表皮は肥厚していたり、角層が折れ曲がったり、膨潤あるいは収縮している。したがって、これらの観察から生きた組織の正確なデータを得ることはできなかったと考えられる。
【0015】
これに対し、本発明は、OCT計測のデータから、皮膚の層構造、特に表皮厚を正確に解析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、OCT計測データの干渉信号を明度に変換することにより得た画像から皮膚の層構造を解析するにあたり、角層は、従来の解析方法と同様に、光学厚み20μm程度の皮膚表面近傍において明度が皮膚表面から中間明度領域、暗領域と単調減少した後、最初に高くなった場合に、その明領域の手前までとするが、表皮は、従来と異なる特定の解析方法をとることにより正確に求められること、より具体的には、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域、暗領域及び明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から暗領域の手前までを表皮とすると、共焦点レーザー顕微鏡を用いて健常な皮膚を無侵襲で計測した場合に得られる結果と整合することを見出した。
【0017】
即ち、本発明は、皮膚の所定範囲を光干渉断層撮影法(OCT)で計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法であって、
前記画像において、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域、暗領域及び明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から暗領域の手前までを表皮とする皮膚の層構造の解析方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、複数の健常人について、上述の解析方法で求めた表皮厚と年齢とを関係づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、上述の解析方法で表皮厚を求め、前記データベースに基づいて該被験者の表皮厚を評価する表皮厚の評価方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、被験者への所定の処置(UV照射、化粧品、剤、乾燥、湿潤剤等)の適用前及び適用後に該被験者の表皮厚を上述の解析方法で求め、前記処置が表皮厚に及ぼす影響を評価する方法を提供する。
【0020】
加えて、本発明は、複数人について、皮膚に所定の処置を適用した場合の、皮膚の表面性状の変化と上述の解析方法で求められる表皮厚の変化とを関連づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、皮膚の表面性状を観察すると共に表皮厚を上述の解析方法で求め、前記データベースに基づいて被験者の皮膚に望ましい処置を提案するスキンケアのアドバイス方法を提案する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の解析方法によれば、生体の皮膚の層構造における表皮の厚さ、形状、分布等を無侵襲にかつ正確に求めることができる。
【0022】
したがって、(1)測定部位による表皮厚の違い、(2)皮丘の面積や高さ、皮溝の分布や深さ、皮膚の色等の皮膚の表面性状とその内部にある表皮との関係、(3)表皮厚の加齢変化、(4)紫外線や化粧料が表皮に及ぼす影響、等も正確に調べることができる。よって、これらに関するデータを蓄積することにより、被験者の表皮厚から該被験者の肌年齢を評価することが可能となり、また、皮膚に適用する化粧料や薬剤の評価をすることが可能となり、被験者の皮膚に対して望ましいスキンケアアドバイスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または同等の構成要素を表している。
【0024】
本発明の解析方法は、皮膚の所定範囲をOCT計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法である。
【0025】
ここで、OCT計測自体は、例えば、特許文献1に記載されているように、市販の装置を使用して行うことができる。また、皮膚の所定範囲を走査するようにOCT計測を行い、得られた干渉信号を明度に変換し、計測データを画像化することも、干渉計を複数列設した市販の装置を使用し、計測データを画像処理ソフトで処理することにより行うことができる。
【0026】
ただし、OCT計測に使用する低コヒーレンス光の波長としては、500〜1700nmが好ましい。波長が短すぎると光が真皮まで達せず、反対に長すぎると分解能が低下し、厚さ20μm程度の角層の測定が困難となる。
【0027】
皮膚の所定範囲をOCT計測し、干渉信号を明度に変換し、画像化することにより、前述の図17、図18のような画像を得ることができるが、本発明では、このような画像から表皮の厚さ、形状、分布等を求めるにあたり、図1に示すように、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域A5 、暗領域A6 及び明領域A7 が順次観察される場合に、皮膚表面A1 から暗領域A6 の手前までを表皮とする。したがって、真皮は暗領域A6 から下の領域となる。これに対し、角層は、図18に示したように、皮膚表面近傍で深さ方向に中間明度領域A2 、暗領域A3 、明領域A4 が順次観察される場合に、皮膚表面から明領域A4 の手前までとする。
【0028】
このような表皮領域あるいは角層領域の区分けを、OCT計測で得られる干渉信号の光学厚みn*zとその強度(反射率[dB])のプロファイルに対応させると、図2に示すように、光学厚み0μm程度で急激に立ち上がり、徐々に減衰しているピークに、センサーと皮膚表面との界面によるピークと、光学厚み20μm程度には角層と顆粒層との境界によるピークが含まれ、光学厚み60〜90μm前後でフラットになっている部分が、真皮乳頭のある暗領域A6 となり、光学厚み100程度で立ち上がっているピークが、その下の結合組織との境界によるものとなる。
【0029】
図3は、表皮の干渉信号を得るため、ヒトから採取し、剥離した表皮のみの皮膚片をガラス板上に載置してOCT計測を行うことにより得たプロファイルである。同図から、皮膚表面のピークが光学厚み70μm程度まで単調に減衰し、その後フラットになっていることがわかる。したがって、最初のピークから単調に減衰している間が表皮であり、それに続くフラットな部分が真皮乳頭に対応することとなる。なお、光学厚み180μm程度にあるピークは、皮膚片とガラス板との界面によるものである。
【0030】
なお、図1の画像において、暗領域A6 が表皮ではなく、真皮であることは、後述の実施例で具体的に示すように、この領域の水平断面画像を共焦点レーザー顕微鏡を用いて、組織を侵襲することなく撮ると、表皮組織中に真皮乳頭の横断面が島状に観察されることから確認できる。
【0031】
図1の画像において、表皮と真皮との境界に明領域が観察されず、暗領域A6 が観察される理由は明らかではないが、真皮乳頭のある真皮領域には血管があり、血液で入射光が吸収されること、あるいは、真皮乳頭を形成する組織が光を吸収する性質を有すること等が考えられる。また、真皮乳頭のある暗領域A6 の下に明領域A7 が観察されるのは、この領域の結合組織は、その上の真皮乳頭のある領域に対して屈折率又は配向性が異なること、あるいは散乱性を有すること等が考えられる。
【0032】
本発明の解析方法において、OCT計測の干渉信号を明度に変換した画像から表皮厚を求める具体的手法としては、例えば、前述の図1において、中間明度領域A5 と暗領域A6 との境界(即ち、表皮と真皮との境界)を観察者がトレースし、このトレース線と皮膚表面との間隔を複数箇所で計測し、その平均を求めればよい。その場合、皮膚表面とトレース線との間隔は、皮膚の深さ方向の距離とするよりも、各計測点で皮膚表面に垂直な方向の距離(曲線幅)とすると、計測値のばらつきを小さくすることができる。
【0033】
このトレース線の形状と皮溝との関係から、内部構造から皮膚表面の状態(キメやシワ)を調べることができるが、この関係を求める具体的手法としては、例えば、図4に示すように、幅100μmの窓から観察される皮溝と、上述のトレース線の形状とのパターンをA、B、Cの3種に分類し、観察部位ごとに各パターンの出現率を求めればよい。
【0034】
本発明の解析方法によれば、生体の皮膚の表皮厚や表皮形状を無侵襲に正確に計測できるので、皮膚の色、きめ、皮丘の大きさ、皮溝の分布や深さ、毛穴の目立ち具合等の皮膚の表面性状と、表皮厚、表皮形状、皮膚の肥厚の進行度合い等との関係を正確に調べることができる。
【0035】
したがって、多数の健常人から、本発明の解析方法により、所定の部位の皮膚の表皮厚、角層厚、表皮形状等を得ると共に、年齢、性別等の情報を得、表皮に関するデータと年齢等を関係づけたデータベースを構築しておくと、任意の被験者について、本発明の解析方法により表皮厚等を計測することにより、その被験者の肌年齢を評価することができる。
【0036】
また、被験者の皮膚に、UV照射、乾燥、加湿、化粧品や薬剤の適用等の処置を行った前後で本発明の解析方法により表皮厚を計測すると、その処置が表皮厚に及ぼす影響を評価することができる。
【0037】
さらに、被験者が所定部位の表皮厚等を、本発明の解析方法で継続的に計測することにより、その被験者の皮膚の健康管理をすることができる。
【0038】
また、皮膚に対する所定の処置と、その処置を皮膚に行った場合の表皮厚の変化と、皮膚の色、きめ、皮丘の大きさ、皮溝の分布や深さ、毛穴の目立ち具合等の皮膚の表面性状の変化とを関連づけたデータベースを構築しておくと、任意の被験者について本発明の解析方法で表皮厚等を計測することにより、その被験者にスキンケアとしての望ましい処置を提案することができる。
【実施例】
【0039】
実施例1
マイケルソン干渉計を8個並べたOCT計測装置(SkinDex300、ISIS社)を用いて、被験者の前腕内側部位をOCT計測した(計測条件:照射波長1300nm)。この場合、表面の135μ幅を5μステップ移動し、画像を取得することで総数28枚の連続切片像を得、その中から任意に3枚抽出し、測定箇所の代表とした。次いで、画像計測ソフト(Image-Pro、Media Cybernetics社)を用いて、反射率を輝度に変換するイメージング処理を行った。こうして得た画像を図5に示す。
【0040】
図5から得られた画像を目視観察することにより、皮膚表面から深さ50〜70μmのあたりに暗領域のあることを確認した。
【0041】
一方、同じ測定部位を共焦点レーザー顕微鏡(Vivscope 1000、Lucid社)(レーザー波長830nm(ガリウム-ヒ素レーザ)、出力16mW、対物レンズ30倍、観察視野450μm×400μm、垂直解像度5μm)を用いて、測定深度を皮膚表面から6.7μm間隔で207μmまでとし、各測定深度の水平断面画像を取得した。これらの画像を対比することにより、測定深度50〜70μmで、表皮組織中に真皮乳頭の横断面が島状に観察された。図6に、測定深度60μmにおける真皮乳頭の横断面画像を示す。
【0042】
したがって、前述のイメージングにより得た画像中の暗領域は、真皮乳頭の存在する真皮であることが確認できた。
【0043】
実施例2
OCT計測装置(SkinDex300、ISIS社)を用い、実施例1と同様の測定条件で、成人男性5名、成人女性5名の前腕内側の同一部位をそれぞれ5回OCT計測し、画像計測ソフト(Image-Pro、Media Cybernetics社)を用いて、反射率を輝度に変換するイメージング処理を行った。
【0044】
得られた画像を目視観察することにより、皮膚表面と真皮の境界をトレースし、表皮厚として、図7に示すように、トレース線L3 と皮膚表面との垂直幅HT及び曲線幅CTの2通りを、それぞれ各被験者について無作為に200箇所で自動計測し、各被験者の変動係数CV(=標準偏差/平均値)と全被験者についての変動係数CVを求めた。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から、前腕内側の表皮厚は、垂直幅HT61.7〜77.8μm又は曲線幅CT56.7〜70.4μmであり、従来、約100〜200μmであるとされていた表皮厚よりも低く計測されていることがわかる。
【0047】
また、垂直幅HTよりも曲線幅CTの方が、変動係数が低いことがわかる。したがって、以降の実施例では、表皮厚として曲線幅を測定した。
【0048】
実施例3:部位ごとの表皮厚の加齢変化
首都圏在住の10代〜60代の女性116名(各年代約20名)を被験者とし、実施例2と同様にOCT計測し、イメージング処理を行い、得られた画像における角層または表皮の曲線幅CTから各被験者の角層厚と表皮厚を求めた。この場合、測定部位は、図8の通り、額、頬、上腕内側、前腕内側、前腕外側、手の甲、腹部、背部、大腿内側、下腿内側、脛とし、全て本人の右側を計測した。なお、図8において、矢印は、イメージング処理により得た断層像の方向を示している。各測定部位について3回計測を行い、その平均を角層厚あるいは表皮厚とした。結果を表2、表3、図9、図10に示す。
【0049】
また、頬と上腕内側については、被験者の年齢と計測された表皮厚とをプロットした。結果を図11、図12に示す。
【0050】
【0051】
【表2】
【0052】
これらの結果から、本実施例によれば、従来、約100〜200μmであるとされていた表皮厚が約60〜100μmと、従来よりも低い値に計測されていることがわかる。
【0053】
また、手の甲・腹部・背部以外は、表皮厚と年齢に相関性のあることがわかる。
【0054】
実施例4:紫外線照射の表皮厚への影響
成人男性12名を被験者とし、紫外線(UV-B)を皮膚に照射した場合の照射後の日数と表皮厚との関係を調べた。
【0055】
この場合、照射部位は前腕外側、上腕内側、腹部、背部、大腿内側とし、照射面積は1箇所あたり10mm×0.5mmとした。照射エネルギーは20〜200mJの範囲で2MEDが得られるように調整した。
【0056】
照射後0日、1日、2日、3日、7日、10日、20日、30日、40日、50日に、実施例2と同様にOCT計測を行い、表皮厚と角層厚を求めた。
【0057】
その結果、紫外線照射後3〜4日で皮膚の赤みが消えた後も、図13に示すように、紫外線照射後5〜7日までは表皮厚は厚くなること、したがってこの方法で表皮厚を求めることにより、外見上わからない表皮の変化を追跡できることがわかる。
【0058】
なお、角層も紫外線照射により肥厚したが、部位によっては照射後3〜4日で剥離し、最終的に角層厚は照射前と同程度となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の評価方法は、皮膚の層構造の解析や、UV照射、乾燥、加湿、化粧品や薬剤の適用等が皮膚に及ぼす影響の評価等の分野で有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】OCT計測の干渉信号を明度に変換することにより得た画像から表皮領域を求める方法の説明図である。
【図2】干渉信号のプロファイルである。
【図3】干渉信号のプロファイルである。
【図4】表皮と真皮との境界をトレースした線の形状と皮溝とのパターンの説明図である。
【図5】OCT計測値のイメージングにより得た画像である(実施例1)。
【図6】共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮った、皮膚の水平断面の画像である(実施例1)。
【図7】皮膚の表皮厚(垂直幅、曲線幅)の計測方法の説明図である(実施例2)。
【図8】測定部位の説明図である(実施例3)。
【図9】各測定部の角層厚を示した図である(実施例3)。
【図10】各測定部の表皮厚を示した図である(実施例3)。
【図11】年齢と頬の表皮厚との関係図である(実施例3)。
【図12】年齢と上腕内側の表皮厚との関係図である(実施例3)。
【図13】紫外線照射後の表皮厚の経日変化を表した図である(実施例4)。
【図14】OCTの測定原理の説明図である。
【図15】干渉信号のプロファイルの説明図である。
【図16】OCT計測による、ヒトの皮膚の光学厚みと干渉信号の強度(反射率)のプロファイルである。
【図17】皮膚(頬)のOCT像である。
【図18】皮膚(手の平)のOCT像である。
【符号の説明】
【0061】
1 計測装置
2 低干渉性光源
3 光ファイバー
4 カプラー
5 プローブ
6 プローブ
7 参照鏡
8 分析器
A1 皮膚表面
A2 中間明度領域
A3 暗領域
A4 明領域
A5 中間明度領域
A6 暗領域
A7 明領域
A8 暗領域
S 試料
S-1 光散乱強度の低い層
S-2 光散乱強度の高い層
z 試料の深さ方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、低干渉光干渉計測法による表皮の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表面から順に表皮(約100〜200μm)、真皮(約2cm)および皮下組織からなる。このうち表皮は約20μm厚の角層を含み、外界の影響や病態によって形態や見え方が異なる。そのため、表皮の形態は、肌の評価の一指標として使用されており、正確に計測することが必要とされている。
【0003】
一方、生体や物体の内部構造を無侵襲に解析する手法の一つに、可視又は近赤外領域の低コヒーレンス光を使用して試料からの反射光や散乱光の干渉計測を行い、試料の内部構造を解析する低干渉光干渉計測法(low coherence reflectometry)を測定原理とする光干渉断層撮影法(optical coherence tomography,以下OCTと略する)があり、近年、生体あるいは物体の内部構造の新たな解析手法として注目され、皮膚の測定にも利用できるように改良が進められている(特許文献1)。
【0004】
図14は、OCTの測定原理の説明図である。このOCT計測装置1は、波長1300nm〜1550nmの低コヒーレンス光を発する低干渉性光源2から発せられた光を光ファイバー3で導光し、カプラー4で光量を1:1に分岐し、光ファイバー3の先端のプローブ5、6をそれぞれ試料Sと参照鏡7とに当接させ、光を入射させる。ここで、参照鏡7は、試料Sの深さ方向zに移動するようになっている。試料Sからの反射光と参照鏡7からの反射光とは、それぞれプローブ5、6で受光され、分析器8に送られ、それらを合わせた反射強度が測定される。ここで、試料Sからの反射光と参照鏡7からの反射光との光路差がゼロの場合、分析器8には双方の反射光の干渉により反射強度にピーク(干渉信号)が観測される。したがって、空気の屈折率をn* と表すと、試料S内には、干渉信号が観察されたときの参照鏡7の移動距離zに対応する光学的深さn*zの位置に反射界面が存在すること、即ち、試料Sは、この光学的深さn*zの位置を界面として光学的性質の異なる2つの層を有していることがわかる。このOCT計測によれば、試料表面から深さ20μm程度から深さ数100μmまでの広い領域が測定可能となる。
【0005】
また、OCT計測において、ある干渉信号が観察された場合に、その干渉信号の強度は、干渉信号が基づく層の光散乱強度に応じて、深さ方向zの増大に伴い、急激に減衰する。したがって、OCT計測によれば、干渉信号のピーク形状から、試料S内部の層の光散乱強度を知ることができる。即ち、分析器8で計測される干渉信号の光学厚みn*zと、その強度(反射率[dB])のプロファイルは、理論的には次式(1)で表される。
【0006】
【数1】
【0007】
(式中、Iz:後方散乱の強度
Ii:入射光の強度
σb:媒体固有の後方散乱係数
σt:媒体固有の減衰係数
n*Zs:光学厚み
k :計測条件で定まる比例定数)
【0008】
そこで、図15に示すように、光散乱強度の低い層S-1と光散乱強度の高い層S-2が積層している試料SをOCT計測すると、計測される干渉信号の光学厚みn*zと強度(反射率[dB])のプロファイルは、同図に模式的に示すように、2つのピークp1 、p2 を有するものとなる。ピークp1 は、プローブ5と光散乱強度の低い層S-1との界面反射により光学厚みn*z1 において観測されるピークであり、その光散乱強度は光の進行に伴い緩やかに減衰する。また、ピークp2 は、さらに光が深く進行した光学厚みn*z2 において、光散乱強度の低い層S-1と光散乱強度の高い層S-2との界面反射により観察されるピークであり、その光散乱強度は光の進行に伴い急激に減少する。
【0009】
図16は、実際にヒトの皮膚(45歳、女性、右上腕内側)をOCT計測することにより得られた干渉信号の光学厚みn*zと強度(反射率[dB])のプロファイルであり、図17は、被験者の皮膚(頬)上に複数の干渉計を列設することにより皮膚の所定範囲を同時に計測できるようにし、得られた干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化したOCT像であり、干渉信号が強い(反射率が高い)部位は明るく、干渉信号が弱い(反射率が低い)部位は暗く表されている。図18は手の平のOCT像である。
【0010】
図14で説明したように、互いに接する2つの層の屈折率あるいは光散乱強度が異なる場合にOCTの計測データにピークが現れるから、図16に観察される2つのピークのうち、光学厚み0μm程度で急激に立ち上がり、徐々に減衰しているピークには、センサー先端と皮膚表面との界面によるピークと、光学厚み20μm程度にある角層と顆粒層との境界によるピークが含まれ、ここに角層と顆粒層の境界があることは、組織解剖学的にもH/E染色により淡明層として確認されている。また、光学厚み100μm程度で立ち上がり、徐々に減衰しているピークは、表皮と真皮との境界によるものと考えられている。
【0011】
図16のピークは図17、図18の画像の明領域に対応するから、角層は、図18に示すように、明度が皮膚表面A1から中間明度領域A2 、暗領域A3 と単調減少した後、最初に高くなった明領域A4 の手前までであり、表皮は、図17に示すように、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域A5 、暗領域A6 、明領域A7 、暗領域A8が順次観察される場合に、明領域A7 の手前までであると考えられている。したがって、図17の暗領域A6 は表皮組織であると考えられている。なお、同図において、ラインL1 はプローブを構成するガラスであり、ラインL1 と皮膚表面A1との間は、計測時に皮膚表面に塗布したジェルである。
【0012】
【特許文献1】特許3414173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者は、OCT計測で得られた皮膚の観察結果を共焦点レーザー顕微鏡等で検証することにより、図17に観察される暗領域A6 には、真皮組織に存在する真皮乳頭があること、したがって、この暗領域A6 は表皮組織ではなく真皮組織であること、よって従来のOCT計測の解析手法では皮膚の表皮、真皮といった層構造を正確に解析できないことを見出した。
【0014】
なお、従来よりOCT計測による皮膚の層構造の解析結果と、ヒトから採取した皮膚組織の顕微鏡観察とを対応させることはなされていたが、観察されたヒトの皮膚組織の多くは、皮膚に病変部を有する患者の組織であるか、死亡した乳児や老人から採取した組織であり、さらに採取後ホルマリンに浸漬保存されていたものであったため、表皮は肥厚していたり、角層が折れ曲がったり、膨潤あるいは収縮している。したがって、これらの観察から生きた組織の正確なデータを得ることはできなかったと考えられる。
【0015】
これに対し、本発明は、OCT計測のデータから、皮膚の層構造、特に表皮厚を正確に解析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、OCT計測データの干渉信号を明度に変換することにより得た画像から皮膚の層構造を解析するにあたり、角層は、従来の解析方法と同様に、光学厚み20μm程度の皮膚表面近傍において明度が皮膚表面から中間明度領域、暗領域と単調減少した後、最初に高くなった場合に、その明領域の手前までとするが、表皮は、従来と異なる特定の解析方法をとることにより正確に求められること、より具体的には、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域、暗領域及び明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から暗領域の手前までを表皮とすると、共焦点レーザー顕微鏡を用いて健常な皮膚を無侵襲で計測した場合に得られる結果と整合することを見出した。
【0017】
即ち、本発明は、皮膚の所定範囲を光干渉断層撮影法(OCT)で計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法であって、
前記画像において、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域、暗領域及び明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から暗領域の手前までを表皮とする皮膚の層構造の解析方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、複数の健常人について、上述の解析方法で求めた表皮厚と年齢とを関係づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、上述の解析方法で表皮厚を求め、前記データベースに基づいて該被験者の表皮厚を評価する表皮厚の評価方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、被験者への所定の処置(UV照射、化粧品、剤、乾燥、湿潤剤等)の適用前及び適用後に該被験者の表皮厚を上述の解析方法で求め、前記処置が表皮厚に及ぼす影響を評価する方法を提供する。
【0020】
加えて、本発明は、複数人について、皮膚に所定の処置を適用した場合の、皮膚の表面性状の変化と上述の解析方法で求められる表皮厚の変化とを関連づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、皮膚の表面性状を観察すると共に表皮厚を上述の解析方法で求め、前記データベースに基づいて被験者の皮膚に望ましい処置を提案するスキンケアのアドバイス方法を提案する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の解析方法によれば、生体の皮膚の層構造における表皮の厚さ、形状、分布等を無侵襲にかつ正確に求めることができる。
【0022】
したがって、(1)測定部位による表皮厚の違い、(2)皮丘の面積や高さ、皮溝の分布や深さ、皮膚の色等の皮膚の表面性状とその内部にある表皮との関係、(3)表皮厚の加齢変化、(4)紫外線や化粧料が表皮に及ぼす影響、等も正確に調べることができる。よって、これらに関するデータを蓄積することにより、被験者の表皮厚から該被験者の肌年齢を評価することが可能となり、また、皮膚に適用する化粧料や薬剤の評価をすることが可能となり、被験者の皮膚に対して望ましいスキンケアアドバイスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または同等の構成要素を表している。
【0024】
本発明の解析方法は、皮膚の所定範囲をOCT計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法である。
【0025】
ここで、OCT計測自体は、例えば、特許文献1に記載されているように、市販の装置を使用して行うことができる。また、皮膚の所定範囲を走査するようにOCT計測を行い、得られた干渉信号を明度に変換し、計測データを画像化することも、干渉計を複数列設した市販の装置を使用し、計測データを画像処理ソフトで処理することにより行うことができる。
【0026】
ただし、OCT計測に使用する低コヒーレンス光の波長としては、500〜1700nmが好ましい。波長が短すぎると光が真皮まで達せず、反対に長すぎると分解能が低下し、厚さ20μm程度の角層の測定が困難となる。
【0027】
皮膚の所定範囲をOCT計測し、干渉信号を明度に変換し、画像化することにより、前述の図17、図18のような画像を得ることができるが、本発明では、このような画像から表皮の厚さ、形状、分布等を求めるにあたり、図1に示すように、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域A5 、暗領域A6 及び明領域A7 が順次観察される場合に、皮膚表面A1 から暗領域A6 の手前までを表皮とする。したがって、真皮は暗領域A6 から下の領域となる。これに対し、角層は、図18に示したように、皮膚表面近傍で深さ方向に中間明度領域A2 、暗領域A3 、明領域A4 が順次観察される場合に、皮膚表面から明領域A4 の手前までとする。
【0028】
このような表皮領域あるいは角層領域の区分けを、OCT計測で得られる干渉信号の光学厚みn*zとその強度(反射率[dB])のプロファイルに対応させると、図2に示すように、光学厚み0μm程度で急激に立ち上がり、徐々に減衰しているピークに、センサーと皮膚表面との界面によるピークと、光学厚み20μm程度には角層と顆粒層との境界によるピークが含まれ、光学厚み60〜90μm前後でフラットになっている部分が、真皮乳頭のある暗領域A6 となり、光学厚み100程度で立ち上がっているピークが、その下の結合組織との境界によるものとなる。
【0029】
図3は、表皮の干渉信号を得るため、ヒトから採取し、剥離した表皮のみの皮膚片をガラス板上に載置してOCT計測を行うことにより得たプロファイルである。同図から、皮膚表面のピークが光学厚み70μm程度まで単調に減衰し、その後フラットになっていることがわかる。したがって、最初のピークから単調に減衰している間が表皮であり、それに続くフラットな部分が真皮乳頭に対応することとなる。なお、光学厚み180μm程度にあるピークは、皮膚片とガラス板との界面によるものである。
【0030】
なお、図1の画像において、暗領域A6 が表皮ではなく、真皮であることは、後述の実施例で具体的に示すように、この領域の水平断面画像を共焦点レーザー顕微鏡を用いて、組織を侵襲することなく撮ると、表皮組織中に真皮乳頭の横断面が島状に観察されることから確認できる。
【0031】
図1の画像において、表皮と真皮との境界に明領域が観察されず、暗領域A6 が観察される理由は明らかではないが、真皮乳頭のある真皮領域には血管があり、血液で入射光が吸収されること、あるいは、真皮乳頭を形成する組織が光を吸収する性質を有すること等が考えられる。また、真皮乳頭のある暗領域A6 の下に明領域A7 が観察されるのは、この領域の結合組織は、その上の真皮乳頭のある領域に対して屈折率又は配向性が異なること、あるいは散乱性を有すること等が考えられる。
【0032】
本発明の解析方法において、OCT計測の干渉信号を明度に変換した画像から表皮厚を求める具体的手法としては、例えば、前述の図1において、中間明度領域A5 と暗領域A6 との境界(即ち、表皮と真皮との境界)を観察者がトレースし、このトレース線と皮膚表面との間隔を複数箇所で計測し、その平均を求めればよい。その場合、皮膚表面とトレース線との間隔は、皮膚の深さ方向の距離とするよりも、各計測点で皮膚表面に垂直な方向の距離(曲線幅)とすると、計測値のばらつきを小さくすることができる。
【0033】
このトレース線の形状と皮溝との関係から、内部構造から皮膚表面の状態(キメやシワ)を調べることができるが、この関係を求める具体的手法としては、例えば、図4に示すように、幅100μmの窓から観察される皮溝と、上述のトレース線の形状とのパターンをA、B、Cの3種に分類し、観察部位ごとに各パターンの出現率を求めればよい。
【0034】
本発明の解析方法によれば、生体の皮膚の表皮厚や表皮形状を無侵襲に正確に計測できるので、皮膚の色、きめ、皮丘の大きさ、皮溝の分布や深さ、毛穴の目立ち具合等の皮膚の表面性状と、表皮厚、表皮形状、皮膚の肥厚の進行度合い等との関係を正確に調べることができる。
【0035】
したがって、多数の健常人から、本発明の解析方法により、所定の部位の皮膚の表皮厚、角層厚、表皮形状等を得ると共に、年齢、性別等の情報を得、表皮に関するデータと年齢等を関係づけたデータベースを構築しておくと、任意の被験者について、本発明の解析方法により表皮厚等を計測することにより、その被験者の肌年齢を評価することができる。
【0036】
また、被験者の皮膚に、UV照射、乾燥、加湿、化粧品や薬剤の適用等の処置を行った前後で本発明の解析方法により表皮厚を計測すると、その処置が表皮厚に及ぼす影響を評価することができる。
【0037】
さらに、被験者が所定部位の表皮厚等を、本発明の解析方法で継続的に計測することにより、その被験者の皮膚の健康管理をすることができる。
【0038】
また、皮膚に対する所定の処置と、その処置を皮膚に行った場合の表皮厚の変化と、皮膚の色、きめ、皮丘の大きさ、皮溝の分布や深さ、毛穴の目立ち具合等の皮膚の表面性状の変化とを関連づけたデータベースを構築しておくと、任意の被験者について本発明の解析方法で表皮厚等を計測することにより、その被験者にスキンケアとしての望ましい処置を提案することができる。
【実施例】
【0039】
実施例1
マイケルソン干渉計を8個並べたOCT計測装置(SkinDex300、ISIS社)を用いて、被験者の前腕内側部位をOCT計測した(計測条件:照射波長1300nm)。この場合、表面の135μ幅を5μステップ移動し、画像を取得することで総数28枚の連続切片像を得、その中から任意に3枚抽出し、測定箇所の代表とした。次いで、画像計測ソフト(Image-Pro、Media Cybernetics社)を用いて、反射率を輝度に変換するイメージング処理を行った。こうして得た画像を図5に示す。
【0040】
図5から得られた画像を目視観察することにより、皮膚表面から深さ50〜70μmのあたりに暗領域のあることを確認した。
【0041】
一方、同じ測定部位を共焦点レーザー顕微鏡(Vivscope 1000、Lucid社)(レーザー波長830nm(ガリウム-ヒ素レーザ)、出力16mW、対物レンズ30倍、観察視野450μm×400μm、垂直解像度5μm)を用いて、測定深度を皮膚表面から6.7μm間隔で207μmまでとし、各測定深度の水平断面画像を取得した。これらの画像を対比することにより、測定深度50〜70μmで、表皮組織中に真皮乳頭の横断面が島状に観察された。図6に、測定深度60μmにおける真皮乳頭の横断面画像を示す。
【0042】
したがって、前述のイメージングにより得た画像中の暗領域は、真皮乳頭の存在する真皮であることが確認できた。
【0043】
実施例2
OCT計測装置(SkinDex300、ISIS社)を用い、実施例1と同様の測定条件で、成人男性5名、成人女性5名の前腕内側の同一部位をそれぞれ5回OCT計測し、画像計測ソフト(Image-Pro、Media Cybernetics社)を用いて、反射率を輝度に変換するイメージング処理を行った。
【0044】
得られた画像を目視観察することにより、皮膚表面と真皮の境界をトレースし、表皮厚として、図7に示すように、トレース線L3 と皮膚表面との垂直幅HT及び曲線幅CTの2通りを、それぞれ各被験者について無作為に200箇所で自動計測し、各被験者の変動係数CV(=標準偏差/平均値)と全被験者についての変動係数CVを求めた。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から、前腕内側の表皮厚は、垂直幅HT61.7〜77.8μm又は曲線幅CT56.7〜70.4μmであり、従来、約100〜200μmであるとされていた表皮厚よりも低く計測されていることがわかる。
【0047】
また、垂直幅HTよりも曲線幅CTの方が、変動係数が低いことがわかる。したがって、以降の実施例では、表皮厚として曲線幅を測定した。
【0048】
実施例3:部位ごとの表皮厚の加齢変化
首都圏在住の10代〜60代の女性116名(各年代約20名)を被験者とし、実施例2と同様にOCT計測し、イメージング処理を行い、得られた画像における角層または表皮の曲線幅CTから各被験者の角層厚と表皮厚を求めた。この場合、測定部位は、図8の通り、額、頬、上腕内側、前腕内側、前腕外側、手の甲、腹部、背部、大腿内側、下腿内側、脛とし、全て本人の右側を計測した。なお、図8において、矢印は、イメージング処理により得た断層像の方向を示している。各測定部位について3回計測を行い、その平均を角層厚あるいは表皮厚とした。結果を表2、表3、図9、図10に示す。
【0049】
また、頬と上腕内側については、被験者の年齢と計測された表皮厚とをプロットした。結果を図11、図12に示す。
【0050】
【0051】
【表2】
【0052】
これらの結果から、本実施例によれば、従来、約100〜200μmであるとされていた表皮厚が約60〜100μmと、従来よりも低い値に計測されていることがわかる。
【0053】
また、手の甲・腹部・背部以外は、表皮厚と年齢に相関性のあることがわかる。
【0054】
実施例4:紫外線照射の表皮厚への影響
成人男性12名を被験者とし、紫外線(UV-B)を皮膚に照射した場合の照射後の日数と表皮厚との関係を調べた。
【0055】
この場合、照射部位は前腕外側、上腕内側、腹部、背部、大腿内側とし、照射面積は1箇所あたり10mm×0.5mmとした。照射エネルギーは20〜200mJの範囲で2MEDが得られるように調整した。
【0056】
照射後0日、1日、2日、3日、7日、10日、20日、30日、40日、50日に、実施例2と同様にOCT計測を行い、表皮厚と角層厚を求めた。
【0057】
その結果、紫外線照射後3〜4日で皮膚の赤みが消えた後も、図13に示すように、紫外線照射後5〜7日までは表皮厚は厚くなること、したがってこの方法で表皮厚を求めることにより、外見上わからない表皮の変化を追跡できることがわかる。
【0058】
なお、角層も紫外線照射により肥厚したが、部位によっては照射後3〜4日で剥離し、最終的に角層厚は照射前と同程度となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の評価方法は、皮膚の層構造の解析や、UV照射、乾燥、加湿、化粧品や薬剤の適用等が皮膚に及ぼす影響の評価等の分野で有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】OCT計測の干渉信号を明度に変換することにより得た画像から表皮領域を求める方法の説明図である。
【図2】干渉信号のプロファイルである。
【図3】干渉信号のプロファイルである。
【図4】表皮と真皮との境界をトレースした線の形状と皮溝とのパターンの説明図である。
【図5】OCT計測値のイメージングにより得た画像である(実施例1)。
【図6】共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮った、皮膚の水平断面の画像である(実施例1)。
【図7】皮膚の表皮厚(垂直幅、曲線幅)の計測方法の説明図である(実施例2)。
【図8】測定部位の説明図である(実施例3)。
【図9】各測定部の角層厚を示した図である(実施例3)。
【図10】各測定部の表皮厚を示した図である(実施例3)。
【図11】年齢と頬の表皮厚との関係図である(実施例3)。
【図12】年齢と上腕内側の表皮厚との関係図である(実施例3)。
【図13】紫外線照射後の表皮厚の経日変化を表した図である(実施例4)。
【図14】OCTの測定原理の説明図である。
【図15】干渉信号のプロファイルの説明図である。
【図16】OCT計測による、ヒトの皮膚の光学厚みと干渉信号の強度(反射率)のプロファイルである。
【図17】皮膚(頬)のOCT像である。
【図18】皮膚(手の平)のOCT像である。
【符号の説明】
【0061】
1 計測装置
2 低干渉性光源
3 光ファイバー
4 カプラー
5 プローブ
6 プローブ
7 参照鏡
8 分析器
A1 皮膚表面
A2 中間明度領域
A3 暗領域
A4 明領域
A5 中間明度領域
A6 暗領域
A7 明領域
A8 暗領域
S 試料
S-1 光散乱強度の低い層
S-2 光散乱強度の高い層
z 試料の深さ方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の所定範囲を光干渉断層撮影法で計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法であって、
前記画像において、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域、暗領域及び明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から暗領域の手前までを表皮とする皮膚の層構造の解析方法。
【請求項2】
皮膚表面近傍で深さ方向に中間明度領域、暗領域、明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から明領域の手前までを角層とする請求項1記載の解析方法。
【請求項3】
複数の健常人について、請求項1記載の解析方法で求めた表皮厚と年齢とを関係づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、請求項1記載の解析方法で表皮厚を求め、前記データベースに基づいて該被験者の表皮厚を評価する表皮厚の評価方法。
【請求項4】
被験者への所定の処置の適用前及び適用後に該被験者の表皮厚を請求項1記載の解析方法で求め、前記処置が表皮厚に及ぼす影響を評価する方法。
【請求項5】
複数人について、皮膚に所定の処置を適用した場合の、皮膚の表面性状の変化と請求項1記載の解析方法で求められる表皮厚の変化とを関連づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、皮膚の表面性状を観察すると共に表皮厚を請求項1記載の解析方法で求め、前記データベースに基づいて被験者の皮膚に望ましい処置を提案するスキンケアのアドバイス方法。
【請求項1】
皮膚の所定範囲を光干渉断層撮影法で計測し、その干渉信号を明度に変換することにより計測データを画像化し、得られた画像から皮膚の層構造を解析する方法であって、
前記画像において、角層よりも深部領域で深さ方向に中間明度領域、暗領域及び明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から暗領域の手前までを表皮とする皮膚の層構造の解析方法。
【請求項2】
皮膚表面近傍で深さ方向に中間明度領域、暗領域、明領域が順次観察される場合に、皮膚表面から明領域の手前までを角層とする請求項1記載の解析方法。
【請求項3】
複数の健常人について、請求項1記載の解析方法で求めた表皮厚と年齢とを関係づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、請求項1記載の解析方法で表皮厚を求め、前記データベースに基づいて該被験者の表皮厚を評価する表皮厚の評価方法。
【請求項4】
被験者への所定の処置の適用前及び適用後に該被験者の表皮厚を請求項1記載の解析方法で求め、前記処置が表皮厚に及ぼす影響を評価する方法。
【請求項5】
複数人について、皮膚に所定の処置を適用した場合の、皮膚の表面性状の変化と請求項1記載の解析方法で求められる表皮厚の変化とを関連づけたデータベースを構築し、任意の被験者について、皮膚の表面性状を観察すると共に表皮厚を請求項1記載の解析方法で求め、前記データベースに基づいて被験者の皮膚に望ましい処置を提案するスキンケアのアドバイス方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−385(P2006−385A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179813(P2004−179813)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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