説明

表皮シート素材

【課題】裏面の接着剤処理を行っても風合い、外観の変化が少なく、ボール用などに適した表皮シート素材を提供すること。
【解決手段】高分子弾性体(A)からなるコート層が、繊維と高分子弾性体(B)からなる基体層の表面側に存在する表皮シート素材であって、基体層の裏面側に高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層が有り、裏面樹脂層は厚さが15μm以下であるとともに、基体層に通じる空隙があり、各層を構成する高分子弾性体の100%モジュラスが高分子弾性体(A)≧高分子弾性体(B)>高分子弾性体(C)の順であることを特徴とする表皮シート素材。また、裏面樹脂層が、高分子弾性体(C)を含む樹脂溶液をグラビア塗布したものであることや、高分子弾性体(C)の100%モジュラスが10MPa以下であること、基体層を構成する高分子弾性体(B)が多孔質であることや、基体層の密度が0.40g/cm以下であること、コート層を構成する高分子弾性体(A)が多孔質であることや、コート層の厚さが0.08〜0.2mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表皮シート素材に関し、さらに詳しくは接着処理により風合い、外観を低下させることの多い、ボール用などに適した表皮シート素材に関する。
【背景技術】
【0002】
球技用ボールの表皮材としては、古くから天然皮革が用いられてきたが、近年取り扱いの容易さなどから繊維と高分子弾性体からなるいわゆる人工皮革が広く用いられるようになってきている。しかし、天然皮革と比べるとその衝撃吸収力は弱く、ボールの速度から来る衝撃が手などにそのまま伝わるという問題があった。
【0003】
そこで特許文献1などには、多孔質高分子弾性体を用い40%圧縮応力が規定されたボール用の表皮材が開示されている。しかしこのような表皮シート材をボールに加工するためには、表皮シート材の裏面側に織編物やEVA等のバッキング材を接着するが、その接着材が基体内部に入り込んで、せっかくの風合いを硬くするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−2533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、裏面の接着剤処理を行っても風合い、外観の変化が少なく、ボール用などに適した表皮シート素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表皮シート素材は高分子弾性体(A)からなるコート層が、繊維と高分子弾性体(B)からなる基体層の表面側に存在する表皮シート素材であって、基体層の裏面側に高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層が有り、裏面樹脂層は厚さが15μm以下であるとともに、基体層に通じる空隙があり、各層を構成する高分子弾性体の100%モジュラスが高分子弾性体(A)≧高分子弾性体(B)>高分子弾性体(C)の順であることを特徴とする。
【0007】
また、裏面樹脂層が、高分子弾性体(C)を含む樹脂溶液をグラビア塗布したものであることや、高分子弾性体(C)の100%モジュラスが10MPa以下であること、基体層を構成する高分子弾性体(B)が多孔質であることや、基体層の密度が0.40g/cm以下であること、コート層を構成する高分子弾性体(A)が多孔質であることや、コート層の厚さが0.08〜0.2mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、裏面の接着剤処理を行っても風合い、外観の変化が少なく、ボール用などに適した表皮シート素材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の表皮シート素材は、高分子弾性体(A)からなるコート層と、繊維と高分子弾性体(B)からなる基体層と、高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層により構成されるものである。そして、裏面樹脂層はその厚さが15μm以下であるとともに、基体層に通じる空隙があり、各層を構成する高分子弾性体の100%モジュラスが高分子弾性体(A)≧高分子弾性体(B)>高分子弾性体(C)の順であることを必須とする。
【0010】
ここで、本発明の表皮シート素材の中心となる繊維と高分子弾性体(B)とからなる基体層は、例えば、繊維から構成された繊維質基材に高分子弾性体(B)を含浸・凝固して得ることができる。そして基体層を構成する繊維質基材に用いられる繊維としては、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維、あるいは天然繊維などの単独または混合した繊維を挙げることができる。さらに好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド繊維や、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維を挙げることができる。
【0011】
そしてこの繊維質基材は、このような繊維をカード、ウェバー、レーヤー、ニードルパンチングなどの公知の手段で作成した絡合繊維不織布であることが好ましく、特に0.2dtex以下の極細繊維から成るものが好ましい。そのような極細繊維を得る方法としては、例えば溶剤溶解性の異なる2成分以上の繊維形成性高分子重合体からなる複合繊維または混合紡糸繊維を作成し、絡合繊維不織布を作成し、1成分を抽出除去して極細繊維絡合繊維質基材とすることができる。
【0012】
このとき繊維質基材とともに基体層に用いられる高分子弾性体(B)としては、100%伸長応力は8〜15MPaの範囲の高分子弾性体のであることが好ましく、特にはポリウレタンであることが好ましい。好ましいポリウレタン樹脂の具体例としては、分子量800〜4000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等の単独又は混合ジオ−ルと、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネートを主とする有機ジイソシアネート、及び低分子ジオール、ジアミン、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体などからなる鎖伸長剤とを反応させて得られるものが挙げられる。また高分子弾性体(B)は多孔質であることが好ましく、繊維と高分子弾性体が非接合であることも好ましい。このような多孔質や非接合状態であることにより、基体層をより柔軟にすることができる。
【0013】
このような繊維と高分子弾性体からなる基体層を得る方法としては、特に高分子弾性体を多孔質とする場合には、例えば繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤の溶液を含浸した後に、高分子弾性体の非溶剤中に浸漬し高分子弾性体を凝固させる湿式凝固法や、あるいは高分子弾性体の有機溶剤溶液に、高分子弾性体の非溶剤を混合した乳濁液を作成し、その後溶剤を蒸発除去する特殊乾式凝固方法などを挙げることができる。また、基体層中の高分子弾性体(B)の繊維質基材中の繊維に対する比率は、高分子弾性体/繊維(以下R/Fとする)が20/100〜40/100の範囲であることが好ましい。
【0014】
また、基体層の密度としては0.40g/cm以下であることが好ましい。最適値は使用される用途によっても異なるが、例えばボール用途において基体層に繊維と多孔質高分子弾性体を用いた場合は、基体層の密度としては、0.2〜0.4g/cm程度のものが好ましい。よりソフトな素材が望まれる場合においては、0.2〜0.3g/cmを基体層の密度とすることが好ましい。一般にはソフトな基材にするために、このように基体層の密度を低くすると、ボール作成時等のバッキング材処理における接着剤の浸透が多くなり、基体層の密度を下げた効果以上に接着剤の浸透効果により硬くなることが多い。また基体層が低密度の場合には、接着剤の一部のみが斑状に基体層の浸透し、その部分のみの弾性特性が変わることにより、表皮シート素材の表面平滑性が悪化する問題がでてくる傾向にある。しかし本発明では、後に述べるようにその基体層の裏面側に高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層が存在し、そのような接着剤の過度の浸透を防いでいる。そのため基体層密度が低い場合でも、高品質な表皮シート素材とすることが可能である。
【0015】
ちなみに後に述べるコート層により基体層のコート層側の密度は高くなる傾向にあるため、ここで言う基体層の密度は、その影響の無い裏面側の密度で代表される。基体層の表面側は表皮層と一体となっているために、ここで規定する基体層の密度としては妥当ではないのである。より具体的には、本発明の基体層の密度とは、基体層の厚みに対して、裏面側から1/2、より好ましく1/3の厚さにシートをスライスし、その裏面側の密度を測定することで求められるものである。この裏面側の密度が低いほど、本発明の裏面樹脂層の存在効果がより発揮される。
【0016】
本発明の表皮シート素材は、上記のような基体層の表面側に高分子弾性体(A)からなるコート層が存在するものである。さらにはコート層を構成する高分子弾性体(A)は多孔質であることが好ましい。
【0017】
このようなコート層は、主に高分子弾性体(A)からなるものであり、基体層を構成する高分子弾性体と同じモジュラスか、より高モジュラスであることが必要である。またこの高分子弾性体(A)としては、基体層で用いられるものと同じくポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来るが、中でもポリウレタン系エラストマーであることが好ましい。そしてコート層を構成する高分子弾性体の100%伸長応力としては、5〜50MPaであることが好ましい。
【0018】
特にこのような本発明のコート層にて用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン系のエラストマーであることが好ましい。その具体例としては、例えば分子量800〜4000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等の単独又は混合ジオ−ルと、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネートを主とする有機ジイソシアネート、及び低分子ジオール、ジアミン、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体などからなる鎖伸長剤とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0019】
また、コート層の厚みとしては0.08〜0.2mmであることが好ましく、より好ましくは、0.15〜0.2mmであることが好ましい。そして本発明のボール用表皮材はその表面に凹凸模様があっても良い。コート層表面に付与する凹凸模様は、ボールとして使用するスポーツにあった凹凸模様を使用することができる。このような凹凸模様は、例えばエンボス処理等により付与することができる。
【0020】
また、コート層の表面には、着色またグリップのために高分子弾性体での仕上げ処理を行うことが好ましい。一般にこのような仕上げ処理はメッシュの入ったグラビアロール処理により行うことができる。このような仕上げ処理により外観の変化に加え、表皮シート素材の表面耐磨耗性等をも向上させることができる。
【0021】
本発明の表皮シート素材は、上記のようなコート層と基体層の裏面側、すなわち基体層のコート層との反対側に、高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層があり、その高分子弾性体(C)の100%モジュラスが基体層を構成する高分子弾性体(B)のモジュラスよりも小さいことを特徴とするものである。そして裏面樹脂層は厚さが15μm以下であるとともに、基体層に通じる空隙があることを必須とする。
【0022】
この基体層の裏面側に設ける樹脂層としては、基体層の内部の高分子弾性体(B)と同様のものを使用することができるが、特にはポリウレタン樹脂が好ましい。ただし、裏面樹脂層の高分子弾性体(C)のモジュラスは、基体層の内部の高分子弾性体(B)のモジュラスよりも100%モジュラスが低いことが必要であるが、特には2〜10MPaの範囲であることが好ましい。また基体層の内部の高分子弾性体(B)のモジュラスも、コート層の高分子弾性体(A)のモジュラス以下であることが必要であるため、結局のところ各層を構成する高分子弾性体の100%モジュラスは、高分子弾性体(A)≧高分子弾性体(B)>高分子弾性体(C)の順であることが必要である。さらには、基体層の内部の高分子弾性体(B)のモジュラスは、コート層の高分子弾性体(A)のモジュラスより低いことが好ましい。
【0023】
裏面樹脂層の100%モジュラスが高い場合には、本発明の表皮シート素材を貼り付けるバッキング材が曲面になっている場合などに、表皮材全体に対して裏面の樹脂層の圧縮に対する弾性が強くなるために、密度の低い表面側の基体層やコート層部分に歪みが生じて、表面の面状態の悪化が生じる。また、そのように裏面樹脂層のモジュラスが高い場合には、表皮シート素材のバッキング材との接着において充分な接着強度が得られなくなる傾向もある。反対に裏面樹脂層を構成する高分子弾性体(C)の100%モジュラスが低すぎる場合、裏面樹脂の粘着感によるタックが生じて、工程通過性が悪化する傾向にある。
【0024】
さらに、この裏面樹脂層の厚さは15μm以下である必要がある。さらには4〜12μmの範囲であることが好ましい。さらにこの裏面樹脂層は、基体層に通じる空隙が存在することが必要である。全面を被膜した場合や、厚さを15μmより厚くした場合には、上述の硬いモジュラスの弾性体を使用した場合同様に、裏面側の圧縮に対する弾性が強くなるために、バッキング材との接着において、表面の面状態が悪化する。また、基体層に生じる空隙がある方が、全面被膜状態よりもボール等を成形するときの接着処理後の剥離強力は強くなる傾向にある。接着剤が裏面樹脂層の空隙を通過して、基体層を構成する繊維と直接的に絡み一体化することにより、高い接着強度を保つからである。
【0025】
このように裏面側に設ける高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層を、基体層の内部に通じる孔を残した状態で設けるには、非連続状態にて高分子弾性体(C)を塗布すればよい。具体的な方法としては、例えばグラビアロールによって、メッシュ状の転写しない部分を有しながらドット状に転写する方法や、スプレー法等による塗布方法を用いることができる。特にはグラビアロール法を用いることが好ましい。基材層内部にまで高分子弾性体(C)が進入せず、その処理表面だけに選択的に塗布できるため、風合いへの影響が少ないからである。このようにグラビアロールを用いた場合には、グラビアロールでの塗布を1回から複数回重ねることで、基体層の裏面の繊維と高分子弾性体の空隙部分を橋渡しする形状で樹脂層が広がり、かつ全面を覆わず、内部に通じる孔を残した状態で、塗布量を調整することが容易となる。例えば基体層の裏面側の密度が、0.20〜0.30g/cmの範囲の場合、塗布量は1〜10g/mの範囲が好ましく、接着強度を重視する場合には充分な空隙が裏面樹脂層に存在するように、1〜5g/mの範囲で塗布することが好ましい。グラビアロールとしては#110メッシュ程度のロールを使用することが好ましい。
【0026】
このようにして得られる本発明の表皮シート素材は、基体層の裏面側に存在する裏面樹脂層の存在形態により、裏面の接着剤処理を行っても風合い、外観の変化が少なく、ボール用途に適した表皮シート素材となる。特にボール用のバッキング材との接着において、充分に接着強度を保ちながら、接着剤が基体層の内部に過度に浸透することなく、元の表皮シート素材のソフトな風合い、スムースな外観を保つのである。この本発明の表皮シート素材は、高分子弾性体裏面樹脂層が薄く空隙が存在するために、この裏面樹脂層の硬さによる悪影響は少なく、また接着処理時に過剰な接着剤が基体層の内部に浸透することによる斑状の表面形態の悪化も生じさせないので、ソフトかつ表面外観の良好なボールを作成することができる。
【実施例】
【0027】
本発明をより具体的に説明するために実施例を以下に記す。なお、下記の濃度は特に断りの無い限り「重量%」である。
【0028】
[実施例1]
ナイロン6と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルダーで溶融、混合し290℃で混合紡糸し、延伸、油剤を処理しカットし5.5dtex、51mmの繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダーの工程を通し、重さ570g/m、厚さ2.4mm、見掛け密度0.24g/cmの絡合繊維質基材を得た。
【0029】
得られた絡合繊維質基材に、100%モジュラスが10MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタンの8%濃度のジメチルホルムアミド(以下DMFと略称する)溶液に白系顔料1部、凝固調節剤としてポリオキシエチレン変性シリコン、及び低分子ポリブデンを添加したものを含浸し、基材厚さの90%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に、100%モジュラスが10MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタンの20%濃度のDMF溶液に、白系顔料5部、及び同上の凝固調節剤を添加したものを、目付け1200g/mとなるように塗布し、10%のジメチルホルムアミドを含有する40℃の水中で高分子弾性体を湿式凝固させ、水洗、乾燥を行った。
【0030】
乾燥後、得られたシートを90℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、0.003dtexの極細繊維と多孔質高分子弾性体(B)からなる基体層と、多孔質高分子弾性体(A)からなるコート層を有するシート状物を得た。さらにコート層の表面側に、白の顔料を含むポリカーボネート系ポリウレタン溶液で着色し、エンボス機によってバレーボール用シボの型押しを行うことで表皮シート素材の表面仕上げを行った。
【0031】
次いで、基体層の裏面樹脂層の処理用に、100%モジュラスが8MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタン(固形分濃度25%)/メチルエチルケトン/ジメチルホルムアミドを100/40/160の割合にて混合し塗布溶液を作成した。この塗布溶液を基体層の裏面に、#110のグラビアロールを使用し、塗布間隙(クリアランス)をシートの厚さの80%に調整し、3回の塗布を行った。その際の合計塗布量は、固形分で4g/mであった。この塗布面の表面を電子顕微鏡で観察したところ、基体層の裏面の繊維と高分子弾性体の上、および繊維と高分子弾性体に橋渡しする形状で樹脂層が塗布されており、かつ内部に通じる孔は残存していた。さらにがまだ残されており、また、断面を観察したところ、樹脂層の厚みはもっとも厚い部分でも8μmであった。
【0032】
そして得られた表皮シート素材は、基体層が1.5mm、その上部のコート層および仕上げ層が0.1mm、全体の目付けは530g/mであった。また、裏面側の基体層の密度を測定するために、裏面側から、0.8mmのところでスライスを行い、密度を測定したところ、0.24g/cmであった。また、風合いは、表面から押した場合、ボール用途に適した、非常にソフトで良好なものであった。
【0033】
この表皮シート素材を、ボール工場においてボールの内部から順にゴム部分、繊維からなるバッキング材部分、接着剤、本発明の上記表皮シート素材の順に積層し、バレーボールを作成した。評価のために通常の接着剤量よりも多く使用したにもかかわらず、接着してできあがったバレーボールは、元の表皮シート素材のソフト感がそのままあり、かつ表面の外観も良好なものであった。
【0034】
[比較例1]
実施例1の表皮シート素材に代えて、基体層の裏面に樹脂層が存在しないものをシート素材として用い、ボール工場において、実施例1と同様にバレーボールを作成した。できあがったバレーボールは、実施例1のものに比べて、表面のソフト感が劣っていた。またその表面外観も、実施例1に比べ、面の一部に凹みが感じられ、質感に劣るものであった。さらに断面を観察したところ、裏面の樹脂層が存在しないために、接着剤が実施例1よりも内部にまで浸透しているばかりではなく、部分的に浸透度合いが異なる部分が見られた。
【0035】
[比較例2]
実施例1の表皮シート素材に代えて、基体層の裏面の樹脂層の処理を、実施例1と同じ塗布溶液は用いるものの、#110のグラビアロールを#70のグラビアロールに変更し塗布間隙をシートの厚さの80%に調整して、5回の塗布を行った。その際の合計塗布量は、固形分で11g/mであった。このシート素材のグラビア塗布面を電子顕微鏡で観察したところ、基体層の裏面は全面を樹脂層が被膜している状態であり、さらに断面を観察すると、樹脂層の厚みは厚い部分では17μmあった。
このシート素材を用い、実施例1と同様の方法でバレーボールを作成した。できあがったバレーボールは、平滑性に劣り、特に曲面の部分において表面に凹みが存在した。全体的にも実施例1に比べ外観の劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子弾性体(A)からなるコート層が、繊維と高分子弾性体(B)からなる基体層の表面側に存在する表皮シート素材であって、基体層の裏面側に高分子弾性体(C)からなる裏面樹脂層が有り、裏面樹脂層は厚さが15μm以下であるとともに、基体層に通じる空隙があり、各層を構成する高分子弾性体の100%モジュラスが高分子弾性体(A)≧高分子弾性体(B)>高分子弾性体(C)の順であることを特徴とする表皮シート素材。
【請求項2】
裏面樹脂層が、高分子弾性体(C)を含む樹脂溶液をグラビア塗布したものである請求項1記載の表皮シート素材。
【請求項3】
高分子弾性体(C)の100%モジュラスが10MPa以下である請求項1または2記載の表皮シート素材。
【請求項4】
基体層を構成する高分子弾性体(B)が多孔質である請求項1〜3のいずれか1項記載の表皮シート素材。
【請求項5】
基体層の密度が0.40g/cm以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の表皮シート素材。
【請求項6】
コート層を構成する高分子弾性体(A)が多孔質である請求項1〜5のいずれか1項記載の表皮シート素材。
【請求項7】
コート層の厚さが0.08〜0.2mmである請求項1〜6のいずれか1項記載の表皮シート素材。

【公開番号】特開2011−241511(P2011−241511A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116337(P2010−116337)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】