説明

表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを有効成分とする定着阻害剤

【課題】黄色ブドウ球菌は、皮膚膿瘍や重篤な感染症である肺炎や敗血症を起こす医学的に重要な細菌であり、約30%のヒトの鼻腔に定着している。また、抗菌剤等では耐性菌の出現が問題となり、抗菌剤等を多く使用すること自体が問題視されている。本発明では、黄色ブドウ球菌の定着を阻害し、耐性菌を出現させることがないと期待される定着阻害剤を提供する。
【解決手段】表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌の定着を阻害する薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌は、皮膚膿瘍や重篤な感染症である肺炎や敗血症を起こす医学的に重要な細菌であり、約30%のヒトの鼻腔に定着している。この定着している黄色ブドウ球菌によって敗血症などの内因性の感染症が引き起こされることが知られている。それ故、この黄色ブドウ球菌を様々な物質や薬剤を用いて除去する試みがなされてきた。抗菌物質としては、ユーカリオイル(特許文献1)やヒノキチオール(特許文献2)が知られている。これらの天然に存在する抗菌物質には副作用が少ないが、黄色ブドウ球菌の定着阻害には、その効果は、十分ではない。そこで、医薬品であるペニシリンやムピロシンが黄色ブドウ球菌の定着を阻害するために用いられるが、これらの薬剤を用いる場合には、副作用を伴うことが問題とされている。このようなことから、副作用が少ない薬剤の開発が進められており、天然物由来の物質の開発が進められている。菌の定着阻害剤としては、ヘリコバクター・ピロリに関する定着阻害剤がある(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特許公開2007−1869
【特許文献2】特許公開2005−112791
【特許文献3】特許公開2001−31576
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、黄色ブドウ球菌の定着阻害に対して有効な、天然物由来の黄色ブドウ球菌の定着を阻害する定着阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究し、酵素のひとつである表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼおよびその産生細菌を用いて、黄色ブドウ球菌の定着阻害作用をin vitroにて確認したところ、高い効果を示し、さらに実際に黄色ブドウ球菌が定着しているヒトの鼻腔にこれらを塗布したところ、黄色ブドウ球菌の定着を明確に低減、除去することを見出して、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを成分として含有することを特徴とする黄色ブドウ球菌の定着阻害剤を提供でき、耐性菌を出現させることなく感染症を予防できると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の対象である表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを取得するために用いられる細菌としては、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)がある。この表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを集めて、本発明の定着阻害剤の対象物質とする。
【0008】
表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの分子量は27kDaである。表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼは耐熱性のタンパク質であり、100度10分の加熱においても失活しない。この表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを粗精製もしくは精製したものを適当な溶媒に溶解した上で、定着阻害剤として用いることができる。
【0009】
以下に、本発明の内容を実施例により詳細に説明する。実施例1において、本発明の表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの精製方法を示す。本発明の表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを薬剤として用いた効果については、実施例2及び実施例3において、黄色ブドウ球菌が定着したヒト鼻腔における黄色ブドウ球菌の減少試験を行うことによって確認した。
【実施例1】
【0010】
表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを単離するため、表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを分泌する表皮ブドウ球菌の培養上清を65%の硫酸アンモニウムで塩析し、ゲルろ過を行う。得られた活性画分を陽・陰イオン交換カラムを用いてさらに分画、その後Native−PAGEを行い、活性を示すバンドを切り出し精製する。このバンドが表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼであるかどうを確認するために、この精製したタンパク質をプロテインシーケンサーにかけ、N末端を決定し、データベースを用いて同定を行う。
【0011】
表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの作用を得るためには少なくとも0.01ng/mL濃度以上が必要であり、好ましい濃度は0.1から10ng/mLである。
【実施例2】
【0012】
実施例1によって得られた表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの作用を確認するため、黄色ブドウ球菌の定着しているヒト鼻腔に表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを塗布することにより確認した。表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを1.0ng/mLになるよう生理的食塩水に溶解したもの0.5mLを鼻腔に日に3回塗布した。試験は3人で行った。コントロールとして生理的食塩水のみを塗布した。試験期間は5日間である。図1は実施例2におけるヒト鼻腔に定着した黄色ブドウ球菌に対する表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの定着阻害試験の結果を示した図である。3つの折れ線は3人の被試験者のそれぞれの結果である。表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの塗布は明白に黄色ブドウ球菌の定着量を減少させていることが確認された。
【実施例3】
【0013】
表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌のヒト鼻腔に定着した黄色ブドウ球菌への作用を確認するため、黄色ブドウ球菌の定着しているヒト鼻腔に表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌を塗布することにより確認した。表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌を1010/mLになるよう生理的食塩水に懸濁したもの0.1mLを鼻腔に日に1回塗布した。試験期間は10日間である。図2は実施例3におけるヒト鼻腔に定着した黄色ブドウ球菌に対する表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌の作用を確認するための試験の結果を示した図である。矢印をした時点で投与を開始した。表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌の塗布は、明白に黄色ブドウ球菌の定着量を減少させていることが確認された。
【0014】
以下に、処方例の一例を示す。本発明はこれに限定されるものではないことは言うまでもない。ローション状薬剤の処方例としては、エタノール 15.0(重量%)、ヒドロキシエチルセルロース 0.1(重量%)、パラオキシ安息香酸メチル 0.1(重量%)、表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼ 0.0000001(重量%)、精製水 84.8(重量%)がある。
【0015】
乳状薬剤の処方例としては、ステアリン酸 0.2(重量%)、セタノール 1.5(重量%)、ワセリン 3.0(重量%)、流動パラフイン 7.0(重量%)、モノオレイン酸エステル 1.5(重量%)、酢酸トコフェローロ 0.2(重量%)、グリセリン 5.0(重量%)、パラオキシ安息香酸メチル 0.1(重量%)、トリエタノールアミン 0.1(重量%)、表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼ 0.0000001(重量%)、精製水 81.4(重量%)がある。
【0016】
ゲル状薬剤の処方例としては、ジプロピレングリコール 10.0(重量%)、カルボキシビニルポリマー 0.5(重量%)、水酸化カリウム 0.1(重量%)、パラオキシ安息香酸メチル 0.1(重量%)、表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼ 0.0000001、(重量%)精製水 89.3(重量%)がある。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明による表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを成分として含有する定着阻害剤は、黄色ブドウ球菌の定着を阻害する剤として有用である。また本発明は、耐性菌を出現させることなく感染症を予防できる薬剤として利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヒト鼻腔に定着した黄色ブドウ球菌に対する表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼの定着阻害試験の結果を示した図である。
【図2】ヒト鼻腔に定着した黄色ブドウ球菌に対する表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌の作用を確認するための試験の結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を主成分とする黄色ブドウ球菌の定着阻害剤
【請求項2】
表皮ブドウ球菌セリンプロテアーゼを産生する表皮ブドウ球菌を用いた黄色ブドウ球菌の定着阻害剤

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1533(P2009−1533A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165930(P2007−165930)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(507212540)
【出願人】(592178772)
【Fターム(参考)】