説明

表皮一体射出成形品の成形方法

【課題】 表皮の成形ぐあいによらず、常に良好な一定の品質の表皮一体射出成形品を製造することができる成形方法を提供する。
【解決手段】 表皮4を射出成形金型1内にセットし、表皮4の裏面側に射出成形基材5を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法。成形品毎に表皮4の重量および/または肉厚を計測し、計測された表皮重量および/または肉厚に基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表皮一体射出成形品の成形方法に関する。さらに詳しくは、自動車内装品であるインストルメントパネル、グローブボックス、コンソールボックス、ドアトリム、ニープロテクターなどの成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、射出成形基材の表面にパウダースラッシュ成形など他の方法で形成された表皮を貼付してなる複層品が、射出成形された基材の強度と、パウダースラッシュ成形された表皮の美的外観を併せ持つという製品の優秀性から、自動車内装品などに好んで用いられている。
【0003】このような複層品の製造方法については、種々考案されているが、最近では、射出成形品と表皮を貼着する手間を省いた表皮一体射出成形品の製造方法が提案されている。この表皮一体射出成形品の製造方法は、図1に示されるように、金型1のキャビティ表面に表皮4をセットし、金型1、2を閉じ、金型2に形成されている導入管3から溶融樹脂材料を供給し、冷却、離型を行うものであり、図2に示されるように、表皮4が射出成形基材5に一体的に固着される。
【0004】ところで、一般に、単層の射出成形品を製造する場合には、1ショット、即ち1回の射出で注入される樹脂の量は、金型の形状、原料の種類、射出圧力、射出温度などによって決定されており、常に一定の量である。前述の表皮一体射出成形品の製造方法においても同様に、射出量は一定に設定されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、既に成形されている表皮の重量および肉厚は常に一定であるとは限らないので、一定の射出量で基材の成形を行うと不良品の発生率が高くなるという問題がある。例えば、射出量が多いと金型の接合部にバリ11(図4参照)が生じたり、型離れ不良などが起こり、反対に射出量が少ないとショートショットやひけにより凹み12(図5参照)や皺などが生じる。
【0006】とくに、パウダースラッシュ成形品は、成形後の重量および肉厚に少なからずバラツキが生じており、これを表皮として金型にセットしたばあいに、全ての成形品で同じ量の溶融樹脂を注入することは充填過多または充填不良を招きやすい。なかでも、図3に示されるように、発泡層6を含む複層スラッシュ成形表皮9においては、発泡度合によっては凹凸が発生する場合もある。
【0007】本発明は、前述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表皮の成形ぐあいによらず、常に良好な一定の品質の表皮一体射出成形品を製造することができる成形方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1にかかる発明は、表皮を射出成形金型内にセットし、表皮の裏面側に射出成形基材を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法であって、成形品毎に表皮重量を計測し、計測された表皮重量に基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする。
【0009】請求項2にかかる発明は、表皮を射出成形金型内にセットし、表皮の裏面側に射出成形基材を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法であって、成形品毎に表皮肉厚を計測し、計測された表皮肉厚に基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする。
【0010】請求項3にかかる発明は、表皮を射出成形金型内にセットし、表皮の裏面側に射出成形基材を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法であって、成形品毎に表皮重量および表皮肉厚を計測し、計測された表皮重量および表皮肉厚の組み合わせに基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする。
【0011】請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3に記載の発明に加えて、前記表皮がパウダースラッシュ成形表皮である。パウダースラッシュ成形品は肉厚および重量のバラツキが大きいが、成形毎に重量および/または肉厚を計測して、個々に射出量を決定するので、充填過多や充填不足などが起こらない。
【0012】請求項5にかかる発明は、請求項1乃至4に記載の発明に加えて、前記表皮が発泡層を有するものである。発泡層を含むものでは、発泡度合(肉厚/重量で表される関数)が、射出量の過不足による凸凹の形成を増幅させるなど、表皮毎の肉厚および重量の差が製品に与える影響が大であるので、重量および/または肉厚を成形毎に計測し、発泡層の射出成形による圧縮ぐあいも考慮に入れて、適当な射出量を設定することで均一な品質を確保することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を、図示例とともに説明する。図1は、表皮一体射出形成品の成形方法の概略説明図であり、図2および図3は表皮一体射出成形品の一例の説明図である。表皮一体射出成形品は、例えば、図2に示されるように、表皮4と射出成形された基材とが射出成形工程で一体化されてなるものである。
【0014】まず、図1に基づいて、本発明の表皮一体射出成形品の形成手順を説明する。本発明では、■表皮4の重量および/または肉厚を測定し、■表皮4を半割金型の一方1に、吸引などの方法により固定し、■両金型1、2を閉じて締結し、■1ショット分の溶融樹脂を導入管3からキャビティ内に導入し、■冷却し、■離型することによって表皮一体射出成形品を形成する。
【0015】金型1には、図示しないが真空ポンプに連結される吸引管が複数形成されており、表皮を吸引固定することができる。固定具など表皮4を機械的に固定する道具などを設けてもよい。導入管3は、表皮4が固定されない側の金型2に形成されており、射出シリンダと連結されて、射出シリンダから射出される1ショット分の樹脂を成形毎にキャビティ内に導く。本発明では、この1ショット分の樹脂量(射出量)を成形毎に設定している。射出量の設定には、成形毎に測定される表皮の重量および/または肉厚の値が用いられる。
【0016】表皮4としては、細かな細工が可能であり、美的外観や触感に優れているという観点からパウダースラッシュ成形表皮が最も好ましいが、真空成形表皮などでも可能である。また、一部分にのみ表皮を設けてもよい。例えば、自動車内装品などでは、目や指に触れる部分のみに表皮を設けるようにして、コストダウンを図ることもできる。表皮4は、図2に示されるように、単層品でもよいが、ソフトな触感を持たせたいばあいには、図3に示されるように、表面層7の裏に発泡層6が設けられた2層のもの、さらにその裏に裏面層8が設けられた3層のものなどが好適に利用される。表皮4、9の材料としては、PVC、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等がある。
【0017】次に、図3に基づいて、3層からなるパウダースラッシュ成形表皮9を説明する。この表皮9は、表面層7、発泡層6、および裏面層8からなる。表面層7はソリッド層で、電鋳型等を用いてその表面に、革しぼ、布目調しぼ、ステッチ、艶消しなどの細かい加工を施すことができ、美的外観と触感に優れている。表面層7の裏面に形成される発泡層6は、クッション性を付与するためのものであり触感を向上させる。裏面層8はソリッド層であり、基材と相溶性を持たせることにより接着性をよくする目的を有し、また、射出成形基材5を射出成形する時などに発泡層6が圧縮などの変形を受けないように保護する役目も有するが、場合によっては省いてもよい。
【0018】各層6、7、8の材料は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどの中から選ばれるが、リサイクルの観点よりオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いることが好ましい。また、表面層7と発泡層6には、層間の接着性の良さなどを考慮して前述の熱可塑性エラストマーの中から同系統のものが選ばれることが好ましいが、裏面層8には、強度を考慮してポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、変性ポリフェニレンオキサイド(PPO)、およびそれとタルク、ガラス繊維などの補強用充填材を含んだ材料および各々の混合材料なども好ましい。各層6、7、8の厚さは、材料の種類、ソフト感の設定により種々あるが、おおよそ、表面層7が、0.2〜1.0mm、発泡層6が、1.5〜8.0mm、裏面層8が、0.4〜1.2mmである。
【0019】射出成形基材5の樹脂材料としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、ABS樹脂、ノリル樹脂等の熱可塑性樹脂、もしくは、ポリプロピレン樹脂をタルク、マイカまたはガラス等で補強したフィラー入りポリプロピレン樹脂(PPC)、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)などが用いられる。
【0020】重量の計測は、型への「表皮セット装置」(XYZロボット作動)にロードセルなどの重量計を設置し、表皮をその装置にセットした直後に自動計測を行うという方法が考えられるが、この方法に限定されることはなく、重量計測装置を併設するなど適宜な方法を採用することができる。
【0021】肉厚の計測は、重量の計測と同様の「表皮セット装置」にレーザー光などの照射による膜厚測定器を設置し、表皮をそのセット装置にセットした直後に自動計測を行い射出成形機へ信号を送る仕組みにしておく方法が考えられるが、この方法に限定されることはなく、適宜な方法を採用することができる。
【0022】次に、■単層品の表皮4、あるいは、■発泡層6を含む3層品の表皮9を用いた場合の射出量の演算方法について説明する。
【0023】
【実施例1】■ソリッド単層品の表皮4を用いた場合適性な樹脂の射出量(z)は、z=ax+b (x:表皮肉厚)
または、z=cy+d (y:表皮重量)
で表される。
【0024】ソリッド単層品の場合は、射出成形によって変形を受ける割合を無視できるので、成形毎に表皮の肉厚または重量を計測して、上記式より射出量(z)を設定することに均一な肉厚の表皮一体射出成形品、または均一な重量の表皮一体射出成形品を得ることができ、不良品の発生が非常に少なく、均一な品質の製品を大量に提供することができる。
【0025】成形にあたっては、予め射出成形機の制御部分に前述の式を入力しておく。表皮肉厚または表皮重量は制御部分と連結した所定の装置によって成形毎に自動的に計測され、表皮肉厚(x)または表皮重量(y)は、制御部分に自動的に取り込まれ、前記式に基づいて射出量(z)は演算され、射出成形機に出力される。射出機は、演算値に基づいて成形毎に射出量を変動させ、最適な量の樹脂を金型内に導入する。
【0026】
【実施例2】■発泡層を含む3層品の表皮9を用いた場合適性な樹脂の射出量(z)は、z=ax+bx/y+c(ただし、発泡度合:r=b′x/yのとき)
または、z=ax+b(x−d)/(y−e)+c(ただし、発泡度合:r=b′(x−d)/(y−e)のとき)(それぞれ、x:表皮肉厚 y:表皮重量)で表される。
【0027】発泡層は、射出成形によって変形を受けやすく、変形を受ける割合は発泡度合によって異なる。前記式のa、b、c(d、e)は、凹凸評価(合格評価)に対する表皮肉厚、発泡度合、射出量などの重回帰分析および表皮材、芯材の比重、成形品のボリュームに基づいて決定される定数項である。凹凸評価(合格評価)とは、凹凸の度合いを官能評価した指数m(例えば、m=1級:悪い〜5級:良い)で表したものである。
【0028】従来では、成形品毎に射出量を変動させるという成形方法はない。そこで、説明変数を「凹凸の度合 R 」目的変数を「表皮肉厚 x 」「発泡度合 r 」「射出量 z 」とし、目的変数を各種パターンにて成形実施し、凹凸の度合(R)をそれぞれ評価した。その結果を重回帰分析すると、高い寄与率で後述の重回帰式が与えられることが判明した。
凹凸の度合:R=px+qr+rz+s(r=b′x/y、または、r=b′(x−d)/(y−e))(ただし、射出量および冷却時間は一定)である。
【0029】つまり、凹凸の度合は、x,y,zで表される関数R=f(x,y,z) (ただし、R≧4.5)
であり、Rに目標とする評価指数の値(例えば4.5級)を与え、表皮肉厚(x)および表皮重量(y)の変動に伴い、それに見合った最適な射出量(z)を演算し、実行することで一定の凹凸の合格品が100%製造可能であるということである。換言すれば、本発明では、充填不良による不良品の発生を0にすることも可能である。
【0030】以上より、前述の式が導き出せる。
z=ax+bx/y+c(ただし、r=b′x/yのとき)
z=ax+b(x−d)/(y−e)+c(ただし、r=b′(x−d)/(y−e)のとき)
x:表皮肉厚 y:表皮重量 z:射出量 r:発泡度合定数a、b、c(d、e)は、凹凸評価(合格評価)として決定される。
【0031】
【発明の効果】以上のように請求項1に記載の発明では、成形毎に表皮重量を測定し、射出量を演算・実行しているので、表皮重量がばらついても常に一定の品質および重量の成形品を得ることができる。
【0032】請求項2に記載の発明では、成形毎に表皮肉厚を測定し、射出量を演算・実行しているので、表皮肉厚がばらついても常に一定の品質および肉厚の成形品を得ることができる。
【0033】請求項3に記載の発明では、成形毎に表皮重量および表皮肉厚を測定し、その都度適正な射出量を演算・実行しているので、表皮重量および表皮肉厚がばらついても常に一定の品質の成形品を得ることができる。
【0034】請求項4に記載の発明では、表皮としてパウダースラッシュ成形品を用いているので、表面に施された革しぼ、布目調しぼ、ステッチ、艶消しなどの細かな模様が高級感を漂わせる品質のよい自動車内装品などを得ることができる。
【0035】請求項5に記載の発明では、表皮として発泡層を有するものを用いているのでソフトな触感を有する自動車内装品などを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】表皮一体射出成形の成形方法の概略説明図である。
【図2】表皮一体射出成品の一例の断面説明図である。
【図3】表皮一体射出成品の他の例の断面説明図である。
【図4】ショートショットの説明図である。
【図5】バリの説明図である。
【符号の説明】
1、2 金型
3 注入口
4、9 表皮
5 射出成形基材
6 発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表皮を射出成形金型内にセットし、表皮の裏面側に射出成形基材を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法であって、成形品毎に表皮重量を計測し、計測された表皮重量に基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする表皮一体射出成形品の成形方法。
【請求項2】 表皮を射出成形金型内にセットし、表皮の裏面側に射出成形基材を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法であって、成形品毎に表皮肉厚を計測し、計測された表皮肉厚に基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする表皮一体射出成形品の成形方法。
【請求項3】 表皮を射出成形金型内にセットし、表皮の裏面側に射出成形基材を一体的に形成する表皮一体射出成形品の成形方法であって、成形品毎に表皮重量および表皮肉厚を計測し、計測された表皮重量および表皮肉厚の組み合わせに基づいて樹脂の射出量を個々に設定することを特徴とする表皮一体射出成形品の成形方法。
【請求項4】 前記表皮がパウダースラッシュ成形表皮である請求項1、2または3記載の表皮一体射出成形品の成形方法。
【請求項5】 前記表皮が発泡層を有するものである請求項1、2、3または4記載の表皮一体射出成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平11−138583
【公開日】平成11年(1999)5月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−313076
【出願日】平成9年(1997)11月14日
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)