説明

表皮材の製造方法、及び車両用内装材の製造方法

【課題】天然皮革からなる表皮材に対して、意匠性を低下させることなく、成形を行うことが可能な表皮材の製造方法を提供する。また、このような表皮材を備えた車両用内装材の製造方法を提供する。
【解決手段】天然皮革を有する表皮材20を加熱された押圧部材62によって押圧することで、表皮材20を立体的な形状に成形する熱プレス工程を含み、熱プレス工程においては、加熱された押圧部材62によって、表皮材20における非意匠面を押圧し、当該非意匠面が、表皮材20における非意匠面の周囲面よりも、押圧部材62による非意匠面の押圧方向側に配された形状となるように、表皮材20を成形することで、表皮材20に非意匠面の周端から周囲面に向かって立ち上がる立壁部を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材の製造方法、及び車両用内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用内装材の表面を覆い、所定の形状を有する表皮材を製造する方法としては、熱プレス型によって表皮材を熱プレスする方法が知られている(例えば、下記特許文献1)。特許文献1の方法では、凹凸形状を有する熱プレス成形型によって、表皮材を熱プレスすることで、熱プレス成形型の凹凸形状に対応した形状(立体形状)を表皮材に成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4557135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、天然皮革を有する表皮材に対して、上記特許文献のような熱プレスを行うと、表皮材が加熱されることで収縮する結果、しわが生じるおそれがある。また、熱プレスによって、表皮材が本来有している模様(例えば、シボ模様など)が消えてしまう事態も懸念される。これらのことから、天然皮革を有する表皮材に熱プレスを行うと意匠性が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、天然皮革からなる表皮材に対して、意匠性を低下させることなく、成形を行うことが可能な表皮材の製造方法を提供することを目的とする。また、このような表皮材を備えた車両用内装材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の表皮材の製造方法は、天然皮革を有する表皮材を加熱された押圧部材によって押圧することで、前記表皮材を立体的な形状に成形する熱プレス工程を含み、前記熱プレス工程においては、加熱された前記押圧部材によって、前記表皮材における非意匠面を押圧し、当該非意匠面が、前記表皮材における前記非意匠面の周囲面よりも、前記押圧部材による前記非意匠面の押圧方向側に配された形状となるように、前記表皮材を成形することで、前記表皮材に前記非意匠面の周端から前記周囲面に向かって立ち上がる立壁部を形成することに特徴を有する。
【0007】
本発明においては、押圧部材によって、表皮材における非意匠面を押圧することで、非意匠面の周端から立ち上がる立壁部を形成している。このような立壁部を形成することで、表皮材の立体的な形状を保持することができる。つまり、表皮材を立体的な形状に成形することができる。このように、本発明においては、表皮材を立体的な形状に成形する際に、意匠面を熱プレスすることがない。つまり、熱プレスによって、表皮材を成形可能としつつも、意匠性が低下する事態を抑制できる。
【0008】
また、前記押圧部材は、前記押圧方向と反対側に向かうにつれて細くなる形状をなしているものとすることができる。
【0009】
押圧部材を押圧方向と反対側に向かうにつれて細くなる形状とすることで、加熱された押圧部材を非意匠面に接触させた際に、押圧部材の側面(立壁部の表面と対向する面)が立壁部の表面に接触する事態を抑制できる。これにより、立壁部の表面において表皮材が本来有している模様を消してしまう事態を抑制できる。
【0010】
次に、上記課題を解決するために、本発明の車両用内装材の製造方法は、基材に対して、天然皮革からなる表皮材が覆われてなる車両用内装材の製造方法であって、加熱された押圧部材によって前記表皮材を押圧することで、前記表皮材を立体的な形状に成形する熱プレス工程と、前記熱プレス工程の後に行われ、前記基材を覆う形で前記表皮材を前記基材に取り付ける表皮材取付工程と、を含み、前記熱プレス工程においては、加熱された前記押圧部材によって、前記表皮材における非意匠面を押圧し、当該非意匠面が、前記表皮材における前記非意匠面の周囲面よりも、前記押圧部材による前記非意匠面の押圧方向側に配された形状となるように、前記表皮材を成形することで、前記表皮材に前記非意匠面の周端から前記周囲面に向かって立ち上がる立壁部を形成することに特徴を有する。
【0011】
本発明においては、表皮材を立体的な形状に成形する際に、意匠面を熱プレスすることがない。つまり、熱プレスによって、表皮材を成形可能としつつも、意匠性が低下する事態を抑制できる。また、表皮材を立体的な形状に成形した後に、基材に取り付けることで、基材に対して表皮材を容易に取り付けることができる。
【0012】
また、前記表皮材取付工程においては、前記基材と前記表皮材の間に発泡性樹脂材料を供給することで、前記発泡性樹脂材料を介して、前記基材に前記表皮材を取り付けるものとすることができる。
【0013】
このようにすれば、基材と表皮材との間に発泡性樹脂材料を介在させるのと同時に、基材に対して表皮材を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、天然皮革からなる表皮材に対して、意匠性を低下させることなく、成形を行うことが可能な表皮材の製造方法を提供することができる。また、このような表皮材を備えた車両用内装材の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態におけるインストルメントパネルを車両後方から見た図
【図2】本実施形態における表皮材を示す斜視図
【図3】本実施形態における熱プレス工程を示す断面図(図2のA−A線で切断した図に対応)
【図4】押圧部材によって表皮材を押圧した状態を示す断面図
【図5】本実施形態における表皮材取付工程を示す断面図
【図6】基材と表皮材の間に発泡性樹脂材料を射出した状態を示す断面図(図2のA−A線で切断した図に対応)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図1ないし図6によって説明する。本実施形態においては、車両用内装材としてインストルメントパネル10を例示する。図1は、車両のインストルメントパネル10を車両後方から見た図である。また、図6において、インストルメントパネル10の断面構成を図示してある。インストルメントパネル10は、図6に示すように、表皮材20、クッション材14、基材16が表面(意匠面)側(図6の下側)から裏面側に順に積層された構造となっている。なお、本実施形態では、インストルメントパネル10における車幅方向の中央部分を構成する基材16と、その基材16を覆う表皮材20を例示する。
【0017】
基材16としては、ポリプロピレン(PP)樹脂、あるいは、PP樹脂をタルク、マイカ又はガラス等で補強したフィラー入りPP樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等を使用することができる。また、クッション材14としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリオレフィン等の発泡性樹脂材料を使用することができる。
【0018】
次に、表皮材20の構成について、詳しく説明する。表皮材20は、天然皮革を有する表皮材(本革表皮材)である。このような表皮材20は、例えば、その表面側から順に、コーティング層と、銀面層と、繊維層とを備えている。表皮材20の表面には、本革特有の模様(例えば、シボ模様)が形成されている。銀面層は、本革の表面層を構成しており、銀面層と繊維層とによって本革が構成されている。本革は、表皮材20の裏面側から表面側に向かうにつれて目が細かくなっており、本革の内部には水分が含まれている。コーティング層は、本革の銀面層を保護する目的でコーティングされるものである。
【0019】
繊維層は、複数の繊維が交絡することによって構成されており、これらの繊維間には隙間が形成されている。繊維層の裏面(銀面層と反対側の面)には、熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂)が繊維の隙間に含浸され硬化されている。これにより、表皮材20は、柔軟性を有するとともに、一定の形状に保持される構成となっている。
【0020】
図2は、表皮材20を示す斜視図である。表皮材20は、インストルメントパネル10の表面形状に倣うような立体的な形状で成形されている。具体的には、表皮材20は、開口部22(凹部25)を有する中央部21と、中央部21の左右両側の周端から車両前方に向かって、それぞれ延びる側壁部23と、各側壁部23から中央部21の延設方向とほぼ一致する形で延びる周壁部24とを有する立体形状をなしている。
【0021】
中央部21に形成された開口部22は、図1に示すように、例えば、オーディオ機器18などの各種機器をインストルメントパネル10に取り付けるために形成されるもので、例えば、正面視において、オーディオ機器18の形状に対応した方形状をなしている。
【0022】
表皮材20は、立体形状に成形される前には、例えば、シート状をなしており、後述する第1成形型50によって熱プレスすることで、上述した側壁部23、周壁部24を有する立体形状に成形される。また、表皮材20の開口部22は、第1成形型50によって、中央部21に凹部25(図2参照)を形成した後、凹部25の底部25Aを切り取ることで形成される。
【0023】
つまり、凹部25は、図2に示すように、底部25A及び、底部25Aの周囲4辺から、それぞれ立ち上がる各側壁部(凹部側壁部26)から構成されるものであって、開口部22は、凹部25から、底部25Aを取り除いたものである。
【0024】
そして、表皮材20において、底部25Aにおける表面25A1(表側の面)、及び周壁部24における表面24Aは、インストルメントパネル10に取り付けた状態において、非意匠面とされる。ここで言う非意匠面とは、車両に設置された状態(完成品の状態)の表皮材20において、乗客に目視されない面のことを言う。
【0025】
具体的に説明すると、表皮材20の底部25Aは、開口部22を形成する際に切り取られる箇所であるため、車両に設置された状態では、その表面25A1は、乗客に目視されない非意匠面となる。また、表皮材20の周壁部24の表面24Aは、図1に示すように、インストルメントパネル10を構成する各部品17によって、車室内側から覆われる構成となっており、その結果、乗客に目視されない非意匠面となる。なお、図1においては、インストルメントパネル10を構成する各部品17の裏側に配されている状態の周壁部24を破線で図示している。なお、インストルメントパネル10を構成する各部品17としては、例えば、パネル部材、メータ、グローボックスなどを例示することができるが、これらの部品に限定されるものではない。
【0026】
次に、表皮材20を立体形状(インストルメントパネル10の表面形状に対応した形状)に成形するために用いる第1成形型50の構成について、図3ないし図4の図面を参照しながら説明する。第1成形型50は、図3及び図4に示すように、下型51と、上型61を備えている。
【0027】
下型51における上面(上型61との対向面)は、表皮材20の裏面の形状に倣った形状をなしている。具体的には、図3に示すように、下型51における中央部52は、上型61に向かって突き出しており、その中央部52には、上方に向けて開口された凹部54が形成されている。この凹部54は、表皮材20における凹部25を成形するためのもので、平面視において、表皮材20の凹部25の形状に対応した方形状をなしている。
【0028】
下型51における周端部53の上面53Aは、中央部52の上面52Aに比して低い位置に配されている。周端部53の上面53Aと、中央部52の上面52Aとを連結する形で形成された側面53Bは、周端部53の上面53Aからほぼ垂直に立ち上がる形で形成されている。
【0029】
なお、中央部52の上面52Aは、表皮材20の中央部21を成形するための成形面とされ、周端部53の上面53Aは、表皮材20の周壁部24を成形するための成形面とされる。また、下型51の側面53Bは、表皮材20の側壁部23を成形するための成形面とされる。
【0030】
下型51には、複数の吸引孔55が設けられている。各吸引孔55の一端部は、図3に示すように、各成形面(上面52A、上面53A、側面53B)にそれぞれ開口されている。各吸引孔55の他端部側は、下型51に付設された真空ポンプPと接続されている。これにより、真空ポンプPを作動させることで、各吸引孔55を介して表皮材20に対して負圧を与えることができ、その結果、表皮材20を吸引することで、表皮材20を下型51の各成形面に密着させることが可能となっている。
【0031】
上型61は、下型51の上方に対向して配置されており、上昇及び下降(下型51に対して接近及び離間)が可能な構成とされる。上型61には、下型51に向かって突出される押圧部材62,65が形成されている。
【0032】
中央側の押圧部材62は、下型51の凹部54と対向する位置に設けられ、下型51の凹部54との間で表皮材20を熱プレスするための部材である。押圧部材62は、図3及び図4に示すように、略柱状をなしており、その先端部63が、下型51の凹部54に嵌合可能な形状、すなわち、平面視において、表皮材20における凹部25の形状に対応した平面視方形状をなしている。
【0033】
押圧部材62は、その先端部63に対して、基端部64が、図4における左右方向、及び紙面貫通方向の双方において細くなる形状をなしている。言い換えると、押圧部材62は、上方(押圧部材による非意匠面の押圧方向と反対側)に向かうにつれて細くなる形状をなしている。
【0034】
押圧部材65は、下型51における周端部53に対向する位置に設けられ、下型51における周端部53の上面53Aと、側面53Bとの間で表皮材20を熱プレスするための部材である。押圧部材65は、その先端部66が、下型51における上面53Aと側面53Bとからなる角部に対応した形状をなしている。押圧部材65は、その先端部66に対して、基端部67が図4の左右方向(幅方向)において、細くなる形状をなしている。言い換えると、押圧部材65は、上方(押圧部材による非意匠面の押圧方向と反対側)に向かうにつれて細くなる形状をなしている。
【0035】
また、上型61には、ヒータ(図示せず)が内蔵されており、ヒータを作動させることで、押圧部材62及び押圧部材65を加熱することが可能な構成となっている。
【0036】
次に、立体形状に成形された表皮材20を基材16に対して取り付ける(接合する)ために用いる第2成形型70の構成について、図5ないし図6の図面を参照しながら説明する。第2成形型70は、互いに開閉可能なように設けられた下型71及び上型81を備えている。
【0037】
下型71における上面71A(上型81との対向面)は、図5に示すように、成形後の表皮材20の表面(意匠面)形状に倣った形状をなしており、表皮材20が載置される載置面とされる。下型71には、複数の吸引孔75が設けられている。各吸引孔75の一端部は、図5に示すように、下型71における表皮材20との当接面にそれぞれ開口されている。各吸引孔75の他端部側は、下型71に付設された真空ポンプPと接続されている。これにより、真空ポンプPを作動させることで各吸引孔75を介して表皮材20に対して負圧を与えることで、表皮材20を吸引し、表皮材20を下型71の載置面に密着させることが可能となっている。
【0038】
上型81は、下型71の上方に対向して配置されており、下型71に対して接近及び離間が可能な構成とされる。上型81における下面81A(下型71との対向面)は、基材16の裏面形状に倣った形状をなしている。
【0039】
また、第2成形型70は、発泡剤供給装置(図示せず)を備えており、発泡剤供給装置から、発泡性樹脂材料(例えば、ポリウレタン材の原料であるポリオール剤及びイソシアネート剤など)を基材16に設けられた材料供給孔(図示せず)を通じて、基材16と表皮材20の間に射出することが可能な構成となっている。
【0040】
次に、本実施形態のインストルメントパネル10の製造方法、特に、インストルメントパネル10において、表皮材20が貼り付けられる部分の製造方法について、図3ないし図6の図面を参照しながら説明する。本実施形態におけるインストルメントパネル10の製造方法は、表皮材20を成形する熱プレス工程を含む表皮材製造工程と、製造された表皮材20を基材16に対して取り付ける表皮材取付工程と、を含んでいる。
【0041】
<表皮材製造工程>
まず、コーティング層、銀面層、繊維層からなる表皮材の母材に対して、例えば、ロールコーター方式の塗工機などを用いることで、繊維層側から、液状の熱可塑性樹脂を塗布する。これにより、繊維層内部に熱可塑性樹脂が含浸され、シート状をなす表皮材20(立体形状に成形される前の表皮材)が形成される。
【0042】
<熱プレス工程>
続いて、第1成形型50を用いて、表皮材20を立体形状に成形する。まず、下型51における上型61との対向面にシート状をなす表皮材20を載置した状態で、真空ポンプPを作動させる。これにより、表皮材20は、図3に示すように、各吸引孔55によって吸引(真空引き)され、下型51の各成形面に密着した状態となる。この結果、表皮材20は、下型51の成形面(上面52A、上面53A、側面53B)に倣った立体形状に変形した状態となる。
【0043】
なお、この状態では、表皮材20は、真空ポンプPの吸引力によって、一時的に立体形状に変形しているだけであって、表皮材20の立体形状は保持されていない。表皮材20の立体形状を保持するためには、次に説明するように押圧部材62,65によって、表皮材20を熱プレスする必要がある。
【0044】
続いて、上型61に内蔵されているヒータ(図示せず)を作動させ、押圧部材62,65をそれぞれ加熱する。なお、このときの押圧部材62,65の加熱温度は、例えば、表皮材20に含侵された熱可塑性樹脂が軟化する程度の温度(例えば、80℃〜130℃)とされる。
【0045】
続いて、上型61を下降させ、加熱された各押圧部材62,65によって、表皮材20における非意匠面(底部25Aの表面25A1及び周壁部24の表面24A)をそれぞれ押圧する。
【0046】
具体的に説明すると、押圧部材62と凹部54の内面によって、表皮材20の底部25A(及び凹部側壁部26の下部)が熱プレスされる。この結果、底部25Aの表面25A1(非意匠面)が、中央部21の表面21A(非意匠面の周囲面)よりも、下方(押圧部材による非意匠面の押圧方向側)に配された形で表皮材20が成形される。この結果、表皮材20には、底部25Aの周端から中央部21の表面21Aに向かって立ち上がる形で凹部側壁部26(立壁部)が形成される。これにより、表皮材20における凹部25の形状が保持される。
【0047】
また、押圧部材65と周端部53の上面53A及び側面53Bによって、表皮材20における周壁部24及び側壁部23の下部(側壁部23と周壁部24との角部)が熱プレスされる。これにより、周壁部24の表面24A(非意匠面)が、中央部21の表面21A(非意匠面の周囲面)よりも、下方(押圧部材による非意匠面の押圧方向側)に配された形で表皮材20が成形される。その結果、表皮材20には、周壁部24の周端から中央部21の表面21Aに向かって立ち上がる形で側壁部23(立壁部)が形成される。以上のことから、押圧部材62,65による熱プレスによって、表皮材20が立体的な形状に成形され、表皮材20が完成する。
【0048】
なお、ここで言う「表皮材20が成形される」とは、表皮材20の立体的な形状が保持される状態のことを言う。つまり、真空ポンプPによる真空引きを解除しても、その立体形状が保持される状態のことを言う。また、「立壁部が形成される」とは、立壁部が非意匠面の周端から立ち上がった形状で保持される状態のことを言う。なお、熱プレス時には、表皮材20に含まれる熱可塑性樹脂が熱によって軟化することで、表皮材20の成形がより容易となる。
【0049】
<表皮材取付工程>
次に、熱プレス工程によって成形された表皮材20を、第2成形型70を用いて、基材16に対して取り付ける。まず、図5に示すように、立体的な形状に成形された表皮材20を、その裏面が上方を向く形で、第2成形型70の下型71における上面71Aに載置する。次に、真空ポンプPを駆動させることで、表皮材20は、各吸引孔75によって吸引(真空引き)され、下型71の上面71Aに密着した状態となる。表皮材20が真空引きされた状態で、後述する基材16の取付作業を行うことで、表皮材20の形状をより確実に保持したまま作業を行うことができる。
【0050】
次に、基材16を、その表側の面が表皮材20の裏面と対向する形で表皮材20の上側に載置する。なお、基材16は、表皮材20の形状に対応して、その中央部16Bが表側(表皮材20側)に突出された形状をなしている。基材16が表皮材20の上側に載置された状態では、図6に示すように、基材16の周端部16Cと表皮材20の周壁部24とが隙間なく接触するとともに、基材16と表皮材20の中央部21及び各側壁部23の間に空間Sが形成される。また、表皮材20の底部25Aは、基材16の中央部16Bに形成された貫通孔16Aに挿通された状態となる。
【0051】
次に、図6に示すように、上型81を下降させ、第2成形型70を型閉じすることで、上型81及び下型71で、基材16及び表皮材20の双方をプレスした状態とする。そして、基材16と表皮材20との間の空間Sに、発泡性樹脂材料(例えば、ポリウレタン材の原料であるポリオール剤及びイソシアネート剤など)を供給し、発泡性樹脂材料を発泡させて空間S内に充填させる。なお、発泡性樹脂材料はポリウレタン材に限定されず適宜変更可能である。
【0052】
その後、発泡性樹脂材料が固化することで、クッション材14(発泡性樹脂材料)が基材16及び表皮材20と一体的に成形される。つまり、クッション材14が基材16及び表皮材20に対して接合されることで、クッション材14を介して、基材16に表皮材20が取り付けられた状態となる。
【0053】
以上の工程によって、基材16に対して、表皮材20が覆われた状態のインストルメントパネル10が形成される。なお、基材16に表皮材20が取り付けられた後、表皮材20の凹部25における底部25Aを切り取ることで、開口部22が形成される。
【0054】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、押圧部材62,65によって、表皮材20における非意匠面(底部25Aの表面25A1及び周壁部24の表面24A)を押圧することで、非意匠面の周端から立ち上がる立壁部(凹部側壁部26,側壁部23)を形成している。このような立壁部を形成することで、表皮材20の立体的な形状を保持することができる。つまり、表皮材20を立体的な形状に成形することができる。このように、本実施形態においては、表皮材20を立体的な形状に成形する際に、意匠面を熱プレスすることがない。つまり、熱プレスによって、表皮材20を成形可能としつつも、意匠性が低下する事態を抑制できる。
【0055】
また、押圧部材62,65は、上方(押圧方向と反対側)に向かうにつれて細くなる形状をなしている。
【0056】
押圧部材62,65をその押圧方向と反対側に向かうにつれて細くなる形状とすることで、加熱された押圧部材62,65を非意匠面(底部25Aの表面25A1及び周壁部24の表面24A)に接触させた際に、押圧部材62,65の側面(立壁部の表面と対向する面)が立壁部(凹部側壁部26,側壁部23)の表面に接触する事態を抑制できる。これにより、立壁部(凹部側壁部26,側壁部23)の表面において表皮材20が本来有している模様を消してしまう事態を抑制できる。
【0057】
また、表皮材20は、複数の非意匠面(本実施形態では、底部25Aの表面25A1及び周壁部24の表面24A)を有するものであって、熱プレス工程においては、複数の押圧部材62,65によって、表皮材20における非意匠面の各々をそれぞれ押圧している。
【0058】
複数の非意匠面を各押圧部材62,65によってそれぞれ押圧することで、立壁部(凹部側壁部26,側壁部23)が、非意匠面の各々に対応して、それぞれ形成される。これにより、立壁部を一つのみ形成する構成と比較して、表皮材20の立体的な形状を、より一層保持しやすくなる。
【0059】
また、本実施形態においては、表皮材20を立体的な形状に成形した後に、基材16に取り付けることとしてあるため、基材16に対して表皮材20を容易に取り付けることができる。
【0060】
また、表皮材取付工程においては、基材16と表皮材20の間に発泡性樹脂材料を供給することで、発泡性樹脂材料(クッション材14)を介して、基材16に表皮材20を取り付けている。
【0061】
このようにすれば、基材16と表皮材20との間に発泡性樹脂材料を介在させる(クッション材14を成形する)のと同時に、基材16に対して表皮材20を取り付けることができる。
【0062】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
(1)上記実施形態では、車両用内装材として、インストルメントパネル10を例示したが、これに限定されない。車両用内装材としては、センターコンソールの蓋部や、ドアトリムなどを例示することができる。
【0064】
(2)成形後の表皮材20の立体形状は、上記実施形態で例示したものに限定されず適宜変更可能である。また、表皮材20における非意匠面の形成数及び、これに対応した押圧部材の設置数も適宜変更可能である。
【0065】
(3)表皮材20の構成は、上記実施形態のものに限定されず、適宜変更可能である。例えば、表皮材20に熱可塑性樹脂が含侵されていない構成であってもよい。本発明は、天然皮革を有し、熱プレスによって成形が可能な表皮材に対して適用可能である。
【0066】
(4)クッション材14及び基材16の材料は、上記実施形態で例示したものに限定されず適宜変更可能である。
【0067】
(5)上記実施形態では、表皮材20の開口部22にオーディオ機器18が収容される構成を例示したが、これに限定されない。開口部22には、例えば、エアコンの吹出口などが設けられていてもよい。また、開口部22の形状は正面視方形状に限定されず、適宜変更可能である。
【0068】
(6)上記熱プレス工程における押圧部材62,65の加熱温度は、上記実施形態で例示した値に限定されず、適宜変更可能である。
【0069】
(7)上記熱プレス工程においては、真空引きを行った状態で熱プレスを行ったが、真空引きを行わずに熱プレスを行ってもよい。
【0070】
(8)上記実施形態では、押圧部材62,65の押圧方向を下方としたが、これに限定されない。例えば、押圧部材62,65の押圧方向を水平方向としてもよい。
【0071】
(9)上記実施形態の表皮材取付工程においては、基材16と表皮材20の間に発泡性樹脂材料を射出する方法を例示したが、これに限定されない。例えば、発泡性樹脂材料を表皮材20の裏面側に供給した後、発泡性樹脂材料を覆う形で基材16を配置してもよい。
【0072】
(10)上記実施形態においては、クッション材14を備えていない構成であってもよい。つまり、表皮材取付工程において、発泡性樹脂材料を供給する工程を備えていなくてもよい。表皮材取付工程としては、例えば、成形後の表皮材20を成形型にセットした後、基材16を構成する溶融樹脂を成形型内に射出することで、基材16の成形と同時に、基材16に対して表皮材20を取り付ける工程などを例示することができる。また、表皮材取付工程としては、基材16を覆う形で表皮材20を基材16に取り付ける工程であればよく、表皮材20を基材16に貼り付ける工程などを例示することもできる。
【0073】
(11)上記表皮材取付工程においては、基材16を上型81にセットした状態で、第2成形型70の型閉じを行ってもよい。
【符号の説明】
【0074】
10…インストルメントパネル(車両用内装材)、14…クッション材(発泡性樹脂材料)、16…基材、20…表皮材、21A…中央部の表面(表皮材における非意匠面の周囲面)、23…側壁部(立壁部)、24A…周壁部の表面(表皮材における非意匠面)、25A1…底部の表面(表皮材における非意匠面)、26…凹部側壁部(立壁部)、62,65…押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然皮革を有する表皮材を加熱された押圧部材によって押圧することで、前記表皮材を立体的な形状に成形する熱プレス工程を含み、
前記熱プレス工程においては、
加熱された前記押圧部材によって、前記表皮材における非意匠面を押圧し、当該非意匠面が、前記表皮材における前記非意匠面の周囲面よりも、前記押圧部材による前記非意匠面の押圧方向側に配された形状となるように、前記表皮材を成形することで、前記表皮材に前記非意匠面の周端から前記周囲面に向かって立ち上がる立壁部を形成することを特徴とする表皮材の製造方法。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記押圧方向と反対側に向かうにつれて細くなる形状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の表皮材の製造方法。
【請求項3】
基材に対して、天然皮革からなる表皮材が覆われてなる車両用内装材の製造方法であって、
加熱された押圧部材によって前記表皮材を押圧することで、前記表皮材を立体的な形状に成形する熱プレス工程と、
前記熱プレス工程の後に行われ、前記基材を覆う形で前記表皮材を前記基材に取り付ける表皮材取付工程と、を含み、
前記熱プレス工程においては、
加熱された前記押圧部材によって、前記表皮材における非意匠面を押圧し、当該非意匠面が、前記表皮材における前記非意匠面の周囲面よりも、前記押圧部材による前記非意匠面の押圧方向側に配された形状となるように、前記表皮材を成形することで、前記表皮材に前記非意匠面の周端から前記周囲面に向かって立ち上がる立壁部を形成することを特徴とする車両用内装材の製造方法。
【請求項4】
前記表皮材取付工程においては、
前記基材と前記表皮材の間に発泡性樹脂材料を供給することで、前記発泡性樹脂材料を介して、前記基材に前記表皮材を取り付けることを特徴とする請求項3に記載の車両用内装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−228814(P2012−228814A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98207(P2011−98207)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】