説明

表皮材及びそれを用いた多層体

【課題】シリコーンのブリードを充分に抑制可能な表皮材を提供すること。
【解決手段】架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体又は未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメインと、シリコーン化合物とを、オレフィン系ポリマーからなるマトリックス中に含有する表皮材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材及びそれを用いた多層体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を成型した成型品に摺動性、付着防止、光沢改善等の機能を付与する方法として、樹脂中にブリード性物質を配合する方法がある。ブリード性物質を配合した樹脂を用いて成形した成形品においては、微量のブリード性物質が除々に成形品表面にブリードすることにより、所望の機能が発現する。例えば、摺動性、付着防止、光沢改善を目的とする場合、多くの高分子材料と非相溶であるシリコーンオイルがブリード性物質として広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ブリード性物質を配合した樹脂を用いた樹脂成形品においては、多くの場合、摺動性等の機能が必要とされる最外層(表皮層)部分をブリード性物質を配合した樹脂組成物によって形成し、内層部分はこれ以外の樹脂組成物で形成した多層構造とされる。そして、内層部分を構成する樹脂組成物中には、材料コストの削減、柔軟性の付与等のために、プロセス油等の液状物質が配合される場合がある。しかしながら、内層にプロセス油等の液状物質を含有している場合、最外層に含まれるブリード性物質が過剰に表面に噴き出す現象(ブリード、又はエグズデーション(exudation)といわれる。)が生じ、被接触物への粘着や吸着が起こり、摺動性等の機能が損なわれるばかりでなく、成形品の外観が損なわれるという問題がある。
【0004】
このようなブリード性物質のブリードを抑制する方法として、例えば、表皮層にプロセス油等の液状物質を含有させる方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−120134号公報
【特許文献2】特願2005−329326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂を成型した成型品を、自動車用スタテックシール用途、自動車用ダイナミックシール用途、自動車用内装材用途等に用いることが検討されている。これらの用途においては、成形品の可橈性や追従性を高めてシール性を向上させる観点、手や足で触れる部品のさわり心地を向上させる観点から、柔軟性のある成形品が求められている。
【0007】
成形品の柔軟性を高めるために、樹脂中のプロセス油含有量を高める方法が知られている。例えば、自動車用ダイナミックシールの場合、ショアーA(Shore A)硬度60〜20で樹脂中のプロセス油含有量が20〜70質量%の成型品、自動車用スタテックシールの場合、ショアーA硬度85〜60で樹脂中のプロセス油含有量が5〜50質量%の成形品が多く用いられている。
【0008】
このようにプロセス油含有量を高めたものを多層体に用いた場合、表皮層に含まれるブリード性物質のブリードがより一層激しくなる。これまで、このブリードを有効に抑制する方法はなかった。
【0009】
そこで、本発明は、シリコーンのブリードを充分に抑制可能な表皮材を提供することを目的とする。また、この表皮材を最外層に備える、柔軟性の高い多層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体又は未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメインと、シリコーン化合物とを、オレフィン系ポリマーからなるマトリックス中に含有する表皮材を提供する。本発明の表皮材は、上記構成を備えることにより、シリコーン化合物のブリードが充分に抑制される。したがって、シリコーン化合物による摺動性、付着防止、光沢改善等の機能を効果的に発現することができる。
【0011】
上記未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル60〜90質量%とエチレン10〜40質量%との共重合体であることが好ましい。酢酸ビニルとエチレンとの原料比がこの範囲内にあることにより、成形性にもより優れたものとなる。
【0012】
上記ドメインは、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体からなることが好ましい。これにより、上記表皮材は、シリコーン化合物のブリードが充分に抑制されるとともに、成形性にもより優れたものとなり、より優れた外観を有する成形品を得ることができる。また、耐熱性等の機械的特性、耐候性及び耐寒性にもより優れたものとなる。
【0013】
上記架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル30〜90質量%とエチレン10〜70質量%との共重合体を架橋したものであることが好ましい。これによりシリコーン化合物のブリード抑制効果がより一層高くなる。
【0014】
上記オレフィン系ポリマーはプロピレン系ポリマーであることが好ましい。プロピレン系ポリマーにすることにより、より優れた成形加工性を有する表皮材となる。
【0015】
上記表皮材はショアーA硬度が90以下であることが好ましい。ショアーA硬度がこのような範囲にあることにより、より柔軟性の高い成形品を得ることができる。
【0016】
本発明はまた、エラストマー及び鉱油を含有する基材層と、上記基材層に隣接し、最外層に位置する表皮層と、を少なくとも備え、上記表皮層が上記表皮材からなる多層体を提供する。本発明の多層体は、上記表皮材を表皮層に有していることから、基材層の鉱油含有量が高い場合でも、表皮層からのシリコーン化合物のブリードを充分に抑制することができる。これにより、柔軟性が高く、触感に優れ、シリコーン化合物による摺動性、付着防止、光沢改善等の機能を効果的に発現することのできる多層体を提供することが可能となる。
【0017】
上記鉱油の含有量は、上記基材層全量を基準として、20質量%以上であることが好ましい。これにより、多層体の柔軟性がより高いものとなる。
【0018】
上記エラストマーは、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー又はエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体加硫ゴムとすることができる。
【0019】
上記基材層のショアーA硬度は、85以下であることが好ましい。ショアーA硬度がこのような範囲にあることにより、より柔軟性の高い成形品を得ることができる。
【0020】
上記多層体は、摺動部材、内装部材、シール部材として好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコーンのブリードを充分に抑制することができる表皮材が提供される。また、本発明によれば、表皮表面でのシリコーンのブリードが充分に抑制された、柔軟性の高い多層体を提供することができる。
【0022】
本発明の多層体は、表皮表面でのシリコーンのブリードが充分に抑制されることから、一気にシリコーンが噴出することによる摺動性の低下が抑制されるため、摺動部材としても好適に使用することができる。また、耐摩耗性に優れることから、シール部材としても好適に使用することができる。さらに、表皮表面のべとつき感がなく、柔軟性が高いため、手触り感に優れており、内装部材としても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係る表皮材の斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】実施形態に係る多層体の断面図である。
【図4】摺動試験機の模式断面図である。
【図5】摺動抵抗係数と摺動回数との関係をプロットしたグラフである。
【図6】摺動抵抗係数と摺動回数との関係をプロットしたグラフである。
【図7】実施例1の共押出成形方向と平行方向の面のX線像である。
【図8】実施例1の共押出成形方向と垂直方向の面のX線像である。
【図9】実施例6の共押出成形方向と平行方向の面のX線像である。
【図10】実施例6の共押出成形方向と垂直方向の面のX線像である。
【図11】比較例1の共押出成形方向と平行方向の面のX線像である。
【図12】比較例1の共押出成形方向と垂直方向の面のX線像である。
【図13】シリコーン化合物の分散状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
〔表皮材〕
図1は、本実施形態に係る表皮材100の斜視図である。図2は、図1におけるII−II線断面図である。
【0026】
図2に示すように、表皮材100は、マトリックス30中にドメイン20及びシリコーン化合物10が分散されている。なお、シリコーン化合物10は、マトリックス30とドメイン20の界面に多く存在している。
【0027】
ドメイン20は、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体(以下「エチレン酢酸ビニル架橋体」又は単に「架橋体」ともいう。)、又は未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体からなる。ドメイン20は、これら1種単独からなるものであってもよく、2種の混合物からなるものであってもよい。
【0028】
架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体は、エチレン酢酸ビニル共重合体の架橋により得られるものである。エチレン酢酸ビニル共重合体を架橋する方法としては、エチレン酢酸ビニル共重合体を、有機過酸化物、電子線で架橋する方法、オルガノハイドロジェンポリシロキサンによるヒドロシリル化架橋する方法等を制限なく用いることができる。中でも、有機過酸化物で架橋する方法、又は有機過酸化物とヒドロシリル化とを併用して架橋する方法が好ましい。これにより、高い架橋効率が得られやすく、架橋反応の制御や架橋体の大きさを制御し易いことから、シリコーン化合物のブリードをより一層抑制できる。なお、架橋体の架橋度合いや架橋体の大きさは、エチレン酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル単位の含有量でも調整できる。酢酸ビニル含有量が高いほど、架橋反応性は高まり、架橋体の大きさを大きい方にもコントロールし易くなる。
【0029】
エチレン酢酸ビニル共重合体(以下「EVA」と略記することもある。)は、酢酸ビニルとエチレンとの共重合体であり、飽和メチレン骨格を主鎖とし、酢酸ビニルに由来するアセチルオキシ基を側鎖に有するポリマーである。
【0030】
架橋体をドメイン20に用いる場合、エチレン酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル30〜90質量%とエチレン10〜70質量%との共重合体であることが好ましく、酢酸ビニル40〜90質量%とエチレン10〜60質量%との共重合体であることがより好ましく、酢酸ビニル40〜80質量%とエチレン20〜60質量%との共重合体であることがさらに好ましい。酢酸ビニルとエチレンとの原料比がこの範囲内にあることにより、シリコーン化合物のブリードを抑制する効果がより一層発揮される。また、耐熱性等の機械的特性、耐候性及び耐寒性にもより優れたものとなる。
【0031】
未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体をドメイン20に用いる場合、エチレン酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル60〜90質量%とエチレン10〜40質量%との共重合体であることが好ましい。酢酸ビニルとエチレンとの原料比がこの範囲内にあることにより、シリコーン化合物のブリードを抑制する効果が発揮されるとともに、成形性に優れたものとなる。一方、酢酸ビニル(単量体)の含有量が60質量%未満であると、成形品としたときに、押出表面に陥没が発生し易く、陥没部分にシリコーン化合物の排他(ブリードではなく成形時の排他)が見られ易い。また、粘着力が強いため押出機のスクリュー等へ粘着し易く、吐出量が不安定になり易く、成形性に問題が生じやすい。
【0032】
エチレン酢酸ビニル共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体は、重合物、又はγ線や電子線で予備架橋してもよい。また、エチレン酢酸ビニル共重合体は、ムーニー粘度が3〜60であるものが好ましく、15〜50であるものがより好ましい。なお、本明細書において、エチレン酢酸ビニル共重合体のムーニー粘度とは、エチレン酢酸ビニル共重合体試料を100℃に加熱し、試料中で毎分2回転する円板にかかるトルクから求められ、予備加熱1分間の後、回転開始から4分経過後での値である。
【0033】
エチレン酢酸ビニル共重合体の重量平均分子量は、5,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜600,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定して得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0034】
マトリックス30は、オレフィン系ポリマーからなる。オレフィン系ポリマーは、1種又は2種以上のオレフィンモノマーに由来するモノマー単位から実質的に構成されるポリマーである。オレフィン系ポリマーとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体の架橋に用いられる架橋剤との反応性が乏しいものを好ましく用いることができる。
【0035】
オレフィン系ポリマーとしては、例えば、α−オレフィン、シクロオレフィン、共役ジエン又は非共役ジエンを重合してなる炭化水素系ポリマーの少なくとも1種が挙げられる。オレフィン系ポリマーとしてはまた、α−オレフィン、シクロオレフィン、共役ジエン及び非共役ジエンからなる群より選ばれるモノマーの共重合体、当該群より選ばれるモノマーと当該群に属しない他のモノマー(以下「非オレフィン系モノマー」と呼ぶ場合がある。)との共重合体を用いてもよい。ここで、非オレフィン系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、ビニルアルコール(例えば、酢酸ビニルの鹸化物として導入されるもの)、不飽和カルボン酸(α,β−不飽和カルボン酸が含まれる)、ビニルエステル、スチレンが挙げられる。なお、上述したオレフィン系ポリマーは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
オレフィン系ポリマーとしては、表皮材100の柔軟性がより優れたものとなること、エチレン酢酸ビニル共重合体の架橋に用いられる架橋剤との反応性がより乏しいことから、プロピレン系ポリマーであることが好ましい。オレフィン系ポリマーとしてプロピレン系ポリマーを用いることにより、多層体を形成する際にオレフィン系の基材層との接着性が向上するという利点もある。
【0037】
ここで、プロピレン系ポリマーとは、プロピレン単独の重合体、又はプロピレンと炭化水素2〜20のα-オレフィンとのブロック共重合体若しくはランダム共重合体である。プロピレン系ポリマーは、プロピレンから導かれる単位を50モル%以上の量で含む。具体的には、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、リアクターTPOが挙げられる。そして結晶構造がアイソタクティックでもシンジオタクティックでも、またその混合でもよい。更に非結晶又は低結晶のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体や、結晶性のプロピレンポリマーと非結晶又は低結晶のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体との二段重合重合体であってもよい。
【0038】
プロピレン系ポリマーは、メルトフローレート(ASTM D 1238−65T、230℃、2.16kg荷重)が0.01〜100g/10分であることが好ましく、0.05〜80g/10分であることがより好ましい。
【0039】
シリコーン化合物10としては、シリコーンオイル又はシリコーンガム(ゴム)、及びシリコーン系共重合体とすることができる。特に、摺動性、好指触感を効果的に発現させる観点から、−30〜80℃で剪断を掛けたとき、固体ではなく液体(粘調でも構わない)の性質を持つシリコーン化合物が好ましい。
【0040】
シリコーンオイル又はシリコーンガム(ゴム)としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、及び5mol%以下のビニル基を有するそれらのシリコーン、ハイドロジェンポリシロキサン、アルキル変性、ポリエーテル変性、高級脂肪酸アミド変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性(フルオロシリコーン)等の変性シリコーンオイルや、熱可塑性樹脂内で縮合させたシリコーン反応物(シラノール基を有するオルガノシロキサンと、アミノ基又はアミド基を有するオルガノシロキサンとの縮合物)が挙げられる。特には、ビニル基含有量が1mol%未満で、数平均分子量が10〜6×10の鎖状ジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーンオイル、ガム又はゴム)、鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン、アルキレン基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンが、摺動性能の持続性や耐候性の点で優れているため好ましい。なお、本明細書において、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定して得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0041】
一方、上記シリコーン系共重合体は、シリコーンオイル又はシリコーンガム(ゴム)の所で述べた各種シリコーン化合物と他の樹脂を共重合させたものである。このシリコーン系共重合体は、市販の共重合体を用いてもよいし、反応物を作製してもよく、具体例としては、シリコーン・アクリル共重合体「シャリーヌ」(日信化学社製、商品名)、「X−22−8171」(信越化学社製、商品名)、シリコーン・オレフィン共重合体「SILGRAFT」(日本ユニカー社製、商品名)、「シリコーンコンセントレート」(東レ・ダウコーニング社製、商品名)、ビニル基の含有量が0〜1mol%含有のジメチル・ビニルポリシロキサンと、不飽和基の含有量が0〜5重量%のEPDM、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)との部分架橋物が挙げられる。
【0042】
表皮材100には、必須成分であるドメイン20、オレフィン系ポリマー、シリコーン化合物10以外に、各種添加成分を含有させることができる。このような添加成分としては、顔料、シリカ、カーボンブラック等の補強剤、酸化防止剤、耐候性向上剤、熱可塑性樹脂、エラストマー、防徽剤、抗菌剤、難燃剤、パラフィン系等の軟化剤、滑剤、フッ素系等の潤滑剤等が挙げられる。
【0043】
ドメイン20の含有量は、表皮材100全量に対して30〜90質量%とすることができ、40〜80質量%とすることが好ましく、55〜70質量%とすることがより好ましい。
【0044】
オレフィン系ポリマーの含有量は、表皮材100全量に対して5〜40質量%とすることができ、10〜35質量%とすることが好ましく、15〜30質量%とすることがより好ましい。
【0045】
シリコーン化合物10の含有量は、ドメイン20の含有量とオレフィン系ポリマーの含有量との合計100質量部に対して、例えば1〜25質量部(phr)とすることができる。本発明の表皮材のように硬度が低い場合、シリコーン化合物の摺動性能への役割は高く、特に異音の防止や耐摩耗性(Crock meter test)をより向上させる。シリコーン化合物は好ましくは5質量部(phr)以上含有するのが好ましい。
【0046】
表皮材100は、ショアーA(Shore A)硬度が90以下の比較的低硬度なものであることが好ましく、88以下であることがより好ましく、85以下であることがさらに好ましい。例えば、表皮材100のショアーA硬度は40〜90とすることができる。なお、本明細書においてショアーA硬度とは、JIS K6253のデュロメータAタイプに準拠して測定した値を意味する。
【0047】
表皮材100のショアーA硬度は、オレフィン系ポリマーの種類、オレフィン系ポリマー及びドメイン20の含有量を適宜調整することにより調整することができる。また、表皮材100に、エチレン酢酸ビニル共重合体以外の架橋又は未架橋の低硬度のゴム(エラストマー)を添加して、ショアーA硬度を調節することができる。エチレン酢酸ビニル共重合体以外の架橋又は未架橋の低硬度のゴム(エラストマー)とは、ショアーA(10秒後)硬度が90以下になる低硬度な架橋又は未架橋の重合体である。エチレン酢酸ビニル共重合体以外の架橋又は未架橋の低硬度のゴムとしては、例えば、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなる共重合体、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなる共重合体の水素添加物、及びこれら共重合体の酸無水物変性体が挙げられる。さらにアクリルゴムも例示できる。
【0048】
エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体としては、α−オレフィンがプロピレン、1−ブテン、4−メチルペンテン、1−ヘキセン及び1−オクテンのものが、非共役ジエンが、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネンからなる市販品が好適に使用できる。ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体及びその水素添加物としては、共役ジエンは1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンからなり、芳香族ビニルモノマーがスチレンやα−メチルスチレンからなる市販品が好適に使用できる。アクリルゴムとしては、アクリル酸エチルゴム、エチレン・エチレン−酢酸ビニル共重合体・アクリル酸エチル、そしてモノクロル酢酸やエポキシなど架橋サイトが共重合体されているアクリルゴムが例示できる。これらエチレン酢酸ビニル共重合体以外の架橋又は未架橋の低硬度のゴムは、45質量%以下の比率で本発明の表皮材に添加できる。
【0049】
〔表皮材の製造方法〕
架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体は、エチレン酢酸ビニル共重合体を、有機過酸化物、ヒドロシリル化剤(及びヒドロシリル化触媒)、縮合化剤(アミン、カルボジイミド、ヒドロキシル)、アジリジン、等の架橋剤を用いて、電子線・紫外線照射、加熱、剪断等の処理を行うことにより得ることができる。
【0050】
有機過酸化物としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が好適である。具体的には、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエイト、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)へキサンが挙げられる。
【0051】
ヒドロシリル化剤としては、1分子中にヒドロシリル基(SiH基)を2〜200個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルハイドロジェンアルキルメチルポリシロキサン等の水素化ケイ素化合物が挙げられる。また、ヒドロシリル化触媒としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系触媒が挙げられる。例えば、ヘキサクロロ白金酸、塩化白金、酸化白金、白金錯体、これら錯体と、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体が挙げられる。また有機過酸化物もヒドロシリル化剤を活性化するため、ヒドロシリル化触媒として用いることができる。
【0052】
架橋反応は、オレフィン系ポリマー、エチレン酢酸ビニル共重合体及び架橋剤の存在下で、剪断を与える混練と同時に架橋を行うこと(動的架橋)が好ましい。動的架橋により、架橋したエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメイン20が、オレフィン系ポリマーからなるマトリックス30中により均一に分散した構造体を得ることができる。また、動的架橋により得た構造体を用いることにより、表皮材の耐熱性、機械的物性、耐候性がより一層向上する。
【0053】
ここで、架橋したエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメイン20の大きさは、エチレン酢酸ビニル共重合体と架橋剤の添加量で調整することができる。添加量は、架橋反応に用いるエチレン酢酸ビニル共重合体及び架橋剤の種類によって適宜決定すればよいが、例えば、架橋剤として有機過酸化物を用いる場合、エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、有機過酸化物を0.01〜10質量部とすることができる。
【0054】
架橋反応は、オレフィン系ポリマー、エチレン酢酸ビニル共重合体及び架橋剤を押出機(2軸押出機や1軸押出機)又はニーダー等の混練機で混練することにより行うことができる。この際、架橋したエチレン酢酸ビニル共重合体がオレフィン系ポリマー中により均一に分散した構造体が得られることから、オレフィン系ポリマー及びエチレン酢酸ビニル共重合体をまず混合した後、サイドフィーダー又は液注機から架橋剤を添加して、動的架橋することが好ましい。
【0055】
混練機で混練する際の温度、混練速度、押出速度等は、用いる原料の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、2軸押出機のシリンダー温度を120〜180℃とし、スクリューの回転速度150〜500rpmとし、スクリュー径によって適宜吐出量(押出速度)を調整する。押出速度は、これに限定されるものではないが、例えば、15〜25kg/時間とすることができる。得られる構造体は、例えば冷却して固化させた後、粉砕してペレットに近い大きさ(短辺5mm以下)の塊や粉末にしてもよいし、ペレタイザーを使って切断してもよい。
【0056】
続いて、架橋反応により得られる上記構造体とシリコーン化合物10とを混練することにより、表皮材を得ることができる。この際、上述した各種添加成分を添加する場合は、この段階で一緒に混練することが好ましい。混練する方法としては、架橋反応と同様の押出機(2軸押出機や1軸押出機)又はニーダー等の混練機で混練する方法が挙げられる。
【0057】
未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体をドメイン20として用いる場合、例えば、オレフィン系ポリマーと、未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体と、シリコーン化合物10とを混練することにより、表皮材を得ることができる。
【0058】
未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体と、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体の混合物をドメイン20として用いる場合、例えば、架橋反応により得られる上記構造体と、未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体と、シリコーン化合物10とを混練することにより、表皮材を得ることができる。
【0059】
〔多層体〕
図3は、本実施形態に係る多層体200の断面図である。図3の多層体200は、特に二層体の場合を示しており、基材層110の上に表皮材100から形成された表皮層120を備える。多層体200は、表皮層120が最外層に位置するように成形されていればよい。例えば、基材層110が複数の層からなっていてもよく、基材層110の表皮層120とは反対側に任意の層(例えば、樹脂層、表皮層120等)を含んでいてもよい。
【0060】
基材層110は、鉱油とエラストマーを含有する。基材層110に含まれるエラストマーは、一般に用いられる原料、すなわち、オレフィン系ポリマー中にEP、EPDM又はこれらの架橋体が分散してなるポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO、TPV−O)、オレフィン系ポリマー中にSEP、SEBS、SEPS、SEEPS等のスチレン系エラストマーが未架橋又は架橋して分散しているスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS、TPV−S)等の各種熱可塑性エラストマーで構成すればよい。また、熱硬化型のエラストマーでもよい。熱硬化型のエラストマーとしては、EPDM、EPDMとスチレンブタジエンゴム(SBR)、EPDMとイソプレンゴム(IR)等の混合材が挙げられる。
【0061】
具体的には、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、EPDMに代表されるエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体加硫ゴムが挙げられる。これら熱可塑性エラストマーや加硫ゴムはソリッド(発泡無し)又は発泡させて基材層110に成形する。
【0062】
基材層110を低硬度エラストマーとするために、鉱油の含有量を高くすることが好ましい。具体的には、鉱油の含有量を、基材層110全量を基準として、20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上とすることがより好ましく、40質量%以上とすることがさらに好ましく、50質量%以上とすることが特に好ましい。また、鉱油含有量の上限は、基材層110の形状を保つことができれば特に制限はないが、例えば、85質量%以下とすることができる。
【0063】
基材層110は、ショアーA硬度が85以下であることが好ましく、75以下であることがより好ましく、65以下であることがさらに好ましい。ショアーA硬度が低い程、低硬度のエラストマーであり、多層体200の柔軟性を高くすることができる。なお、用途によっては45以下であってもよく、自動硬度計で測定できないほど柔らかくてもよい。測定できないほど柔らかいとは、異音や振動が発生して測定を中止せざる得ない状況になることを意味する。
【0064】
基材層110に含まれる鉱油としては、エキステンダ油、プロセス油等のゴム材料を軟化させ加工しやすくするために配合されるゴム配合油として用いられるものが好ましく、プロセス油がより好ましい。ゴム配合油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油若しくは芳香族系鉱油又はこれら2種以上の混合油が挙げられる。プロセス油としては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW(出光興産株式会社、商品名)、PW90、PW380、フッコールプロセスオイルP(富士興産、商品名)、ルーカント(三井化学、商品名)、モレスコホワイト(MORESCO 流動パラフィン、商品名)が挙げられる。
【0065】
表皮層120は、上述した表皮材100から形成されるため、基材層110の鉱油含有量が高くても、表皮層120からのシリコーン化合物10のブリードを充分に抑制することができる。したがって、多層体200は、柔軟性が高く、触感に優れ、シリコーン化合物による摺動性、付着防止、光沢改善等の機能を効果的に発現することができる。これにより、例えば、シール部材として用いられた場合には、追従性が高いことからシール性が著しく向上したものとなり、内装部材として用いられた場合には、手や足で触れたときに、べとつくことがなく、さわり心地(触感)が極めて優れたものとなる。また、多層体200は、シリコーン化合物のブリードが抑制されているため、摺動性にも優れており、例えば、摺動部材としても好適に用いられる。
【0066】
本発明の多層体が上述のような効果を発揮する機構について、本発明者らは以下のように推察している。シリコーン化合物のブリードは、基材層から表皮層へと鉱油が移行することによりシリコーン化合物が多層体表面に押出されることによるものであると考えられ、本発明の多層体は、表皮層に鉱油吸油性の小さい(耐油性の高い)架橋したエチレン酢酸ビニル共重合体、又は高含有量の未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体が含有されていることにより、この基材層から表皮層への鉱油の移行を遮断するため、シリコーン化合物のブリードが抑制されると考えられる。また、本発明の表皮層は、表皮材に含有されるシリコーン化合物のブリードを起させないだけでなく、鉱油のブロック膜としても働いているものと考えられる。基材層のみでは基材層に含有される鉱油量が多すぎてブリードしてしまう基材組成でも、本発明の表皮材でコーティングすれば、鉱油が表面にブリードアウトしなくなる現象が、この推察を支持している。さらに、本発明の表皮材中のドメインは、鉱油だけでなく、シリコーン化合物をドメイン内部に染み込み込ませず(含浸や溶解がし難い)、ドメインはシリコーン化合物が移動する媒介にならないものと考えられる。オレフィン系ポリマーの結晶部分へシリコーン化合物が染み込むことも難しく、シリコーン化合物は、ドメインやオレフィン系ポリマーの結晶を避けるように分散配置され、配置された空間から溶解や拡散といった媒介を使った移動現象を基に移動することはできないと考えられる。このことは、本発明の表皮材にX線でSi元素マッピングをすると、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体架橋体のSi元素マッピングよりも、濃淡の強い画像すなわちシリコーン化合物がより局在している画像が撮れることが支持していると考えられる。
【0067】
〔多層体の製造方法〕
多層体200は、基材層110と表皮層120とを、押出成形(共押出)、射出成形(インサート成形)、ブロー成形(共押出)することにより製造することができる。例えば、押出成形の場合、上述した表皮材100の混練物(ペレット等)、基材層110に含まれる各原料の混練物(ペレット等)を用意し、例えば、平ベルト用のダイスに、二台の押出機を接続して、一方には表皮材100の混練物を、もう一方には基材層110の混練物を投入し、それぞれを押出して平ベルト形状の多層体を製造することができる。押出機のシリンダー、ダイスの温度、押出し速度等は原料の種類、成形品の形状等により適宜設定することができるが、例えば、シリンダー温度140〜220℃、ダイス温度170〜220℃、押出し速度0.1〜50kg/時間等とすることができる。基材層をエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体加硫ゴムとする場合は、シリンダー温度70〜140℃、ダイス温度を100〜220℃等で成形する。
【0068】
〔シール部材、内層部材、摺動部材〕
本発明の多層体は、柔軟性が高く、触感に優れ、摺動性に優れ、付着防止、光沢改善、耐熱性に優れていることから、シール部材、内層部材、摺動部材等に好適に用いることができる。例えば、自動車用ダイナミックシール、自動車用スタテックシール等のシール部材、自動車用内装材等の内装部材、二層マット、二層チューブ等の摺動部材が挙げられる。
【0069】
自動車用ダイナミックシールとしては、例えば、ドアシール、トランクリッド、フードシール、ウインドウクリーナー、シルシール、スプリットフェンダー、スプリットラインシール、セカンダリーシールが挙げられる。
【0070】
自動車用スタテックシールとしては、例えば、ウエザーストリップ、ガラスラン、水切りモールが挙げられる。
【0071】
自動車用内装材としては、例えば、インパネ、コンソールボックス、ステアリングカバー、シフトレバーノブ、ブレーキパッド、アクセルパッド、フットブレーキカバー、サイドブレーキカバーが挙げられる。
【0072】
多層体は摺動性に優れていることから、例えば、二層マット、二層チューブにも好適に用いられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
〔材料〕
以下の実施例、比較例及び参考例には、表1に示す材料を用いた。
【表1】

【0075】
〔第一混練〕
φ41の高速同方向二軸押出機(TEM41SS,東芝機械)を用いて、TPV1〜TPV6を調製した。表2に示したF1組成物及びF2組成物を別々にブレンダーで混合し、F1組成物を押出機に付設した重量フィーダーから押出機にフィードし、F2組成物をサイドフィーダーからフィードした。押出機のシリンダーは120〜180℃に設定し、スクリューはニーディングディスクからなるゾーンを数箇所設けて200rpmの回転数とし、吐出速度をF1組成物とF2組成物との総量で20kg/時間となるように設定した。ただし、TPV5、TPV6は、EVAを粉砕して200Vで打扮してから(粘着防止)、ブレンダーに投入しF1組成物とした。またTPV2のF1組成物のうち、PW−90はブレンダーで混合せず液注機を使って押出機に注入した。またTPV3のF1組成物はブレンダーに代えてバンバリーミキサーに投入して樹脂温度が205℃になるまで混練した。混練物をストランドダイ付きのフィーダールーダー(森山製作所)に通してペレタイザーでペレット化した。そしてペレットをF1組成量の200Vで打粉した。
【0076】
TPV1、TPV2及びTPV4の調製では、押出機のヘッドは開放し、放出される混練物を水槽で受けて強制的に沈ませて冷却し、冷却した塊を粉砕した。パンチ穴φ5を通過した粉砕物をそれぞれTPV1、TPV2及びTPV4として第二混練に用いた。TPV3の調製では、押出機のヘッドにダイスを取り付け、押出したストランドを水槽で冷却してこれをカット(ペレタイジング)した。ダイスは200℃とした。φ3h3程度のペレットをTPV3として第二混練に用いた。TPV5、TPV6の調整では、押出機のヘッドは開放し、放出される小塊や粉末状の混練物を振動式冷却機で冷却し、冷却した混練物を粉砕して第二混練に用いた。なお、TPV4は架橋したエチレン酢酸ビニル共重合体の大きさをTPV1よりも大きく調製したものである。
TPV1において、架橋したエチレン酢酸ビニル共重合体はドメイン径1〜35μmで存在し、ドメイン同士が融着したり、ドメインを被覆するオレフィン系ポリマーが別のドメインと融着したり、被覆するオレフィン系ポリマー同士が融着していた。TPV2のドメイン径は2〜75μmで、TPV1より大きいドメインが存在していた。
【0077】
【表2】

【0078】
〔第二混練〕
表3〜5に記載の配合比率で各材料を配合し、ブレンダーを使って混合した。第一混練と同じφ41の高速同方向二軸押出機を用い、混合物を重量フィーダーからフィードして混練した。サイドフィーダーは使用しなかった。押出機のシリンダー温度は150〜190℃、ダイスの温度は200℃として、スクリュー回転速度400rpm、吐出速度40kg/時間で吐出して、実施例1〜9、比較例1〜6及び参考例1〜2のペレット(表皮材)を製造した。
【0079】
表3〜5中、「phr」は、TPV1,TPV2,TPV3,TPV4,TPV5,TPV6,表1に示すオレフィン系ポリマー,及び表1に示すエラストマーの合計量100質量部に対する質量部を意味する。
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
〔評価試験片の作成〕
実施例1〜9、比較例1〜6及び参考例1〜2のペレット(表皮材)及び下記基材ペレットを用い、表皮層と基材層からなる二層体(平ベルト)を押出し成形した。平ベルト用のダイスに、二台の押出機を接続して、一方には下記基材ペレットを、もう一方には実施例1〜9、比較例1〜6及び参考例1〜2のペレット(表皮材)を投入し、それぞれを押出して二層からなる平ベルトを製造した。二台の押出機のシリンダーとダイス温度は170〜220℃の範囲で成形性の良い条件を選定して行った。表皮層の厚みは0.3mm、基材層は2mmとした。
【0083】
基材ペレット
・ミラストマーC700BM(商品名):EPDM,三井化学株式会社,ショアーA硬度(10秒後)70,エーテル抽出量(主成分パラフィン油)38質量%。
・サーリンク4155N(商品名):EPDM,DSM社,ショアーA硬度(10秒後)55,エーテル抽出量(主成分パラフィン油)47質量%。
・Tefabloc CTN(商品名):スチレン系エラストマー,CTS−Compound Technology Serrices社,ショアーA硬度(10秒後)58,エーテル抽出量(主成分パラフィン油)33質量%。
・Tefabloc SVH(商品名):スチレン系エラストマーとポリフェニレンエーテルの混合物,CTS−Compound Technology Serrices社,ショアーA硬度(10秒後)25,エーテル抽出量(主成分パラフィン油)33質量%。
【0084】
〔表皮層の硬度評価〕
JIS K6253に準拠して、ショアーA硬度を測定した。具体的には、デュロメータAの加圧板を試験片に接触させた後10秒後に測定値を読み取り、ショアーA硬度(10秒後)とした。その結果を表6〜8に示した。
【0085】
〔エグズデーション評価〕
評価試験片(二層成形品)を室温に放置して、経時のシリコーン化合物噴出し量(ブリード量)を目視で観察し、下記基準で評価した。その結果を表6〜8に示した。
A.噴出しが全くない
B.うっすらと噴出しているように見えるが噴出しているとは判定できない(AとCの中間)
C.うっすらと噴出している
D.部分的に(滴状や帯状)に噴出している
E.ひどい噴出しで全体にべとべと付いている
【0086】
〔摺動性の評価〕
図4は、摺動性の評価に用いた摺動試験機の模式断面図である。図4に示す摺動試験機4は、二層成形品32を保持する治具3を長手方向に固定するための支持板51と、支持板51上に備えられたモータ52と、モータ52の回転運動を平行する2本のロッド56に沿った直線運動に変換するアーム54と、ベアリングを介して往復直線運動するガラス保持部材58及びロードセル固定部材60と、二層成形品32を摺動するガラス板57と、摺動による抵抗を検出するロードセル59と、を備えている。
【0087】
表皮層をコートした二層部分が可橈するように、得られた二層成形品32(試料)を治具3で固定し、摺動試験機4に固定した。試料に7Nの荷重を掛けて、モータ52を駆動させガラス板57(長さ50mm)を水平運動させて(平均150mm/秒)、二層成形品32(試料)を摺動し、摺動性を評価した。
【0088】
初期摺動として、100回摺動した後、以下に示す条件で摺動試験を行った。
摺動回数1〜3600回目:以下の(A)→(B)→(C)→(D)を1セットとし、これを3セット繰り返した。
(A)泥水を付けて500回(250サイクル)摺動。
(B)泥水を付け直して500回摺動。
(C)試料上の泥水をガーゼで拭きとり、水を付けて100回摺動。
(D)試料上の水をガーゼで拭きとり100回摺動。
摺動回数3601〜5000回目:以下の(a)→(b)→(c)→(d)→(e)→(f)→(g)を1セットとし、これを2セット繰り返した。
(a)泥水を付けて100回摺動。
(b)試料上の泥水をガーゼで拭きとり、水を付けて100回摺動。
(c)試料上の水をガーゼで拭きとり100回摺動。
(d)水を付けて100回摺動。
(e)試料上の水をガーゼで拭きとり100回摺動。
(f)泥水を付けて100回摺動。
(g)試料上の泥水をガーゼで拭きとり100回摺動。
【0089】
その際、ロードセル59で水平方向の荷重の測定と、耳で異音発生の有無及び回数を測定した。ロードセル59で測定した荷重から摺動抵抗係数を求めた。図5及び6は、摺動抵抗係数と摺動回数との関係をプロットした図である。また、摺動試験全体を通じて最大となった摺動抵抗係数を、最大摺動抵抗係数として表6〜8に記載した。異音が発生した回数を表6〜8に記載した。
【0090】
【表6】

【0091】
【表7】

【0092】
【表8】

【0093】
なお、摺動試験において、実施例2の二層成形品は2セット目の(d)、すなわち4601スライド目付近で計2回異音が発生し、実施例3は2セット目の(c)、(d)、(e)及び(f)、すなわち4510スライド目付近から異音の発生が始まり(計6回)、実施例5は、2セット目の(d)、(e)及び(f)、すなわち4910スライド目付近から異音の発生が始まった(計6回)。また、参考例1は初期摺動のときに計8回異音が発生した。
【0094】
実施例1〜8の結果より、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体を含む表皮材からなる表皮層を供える二層成形品は、シリコーン化合物の表皮層からのブリードを充分に抑制できることが確認された。
【0095】
実施例9及び参考例2の結果より、未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体を含む表皮材からなる表皮層を供える二層成形品においてもシリコーン化合物の表皮層からのブリードを抑制できることが確認された。しかしながら、酢酸ビニル単位の含有量が40質量%である未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体を用いた参考例2では、単軸押出機の送り性が悪く吐出量が安定しない現象が発生するため安定した形状が得られず、成形性に問題があった。このため参考例2では、楕円形や線状の陥没が表面に発生し易く、成形直後からシリコーン化合物が陥没部に存在(点在)していた。一方、酢酸ビニル単位の含有量が80質量%である未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体を用いた実施例9では、実施例1〜8の二層成形品よりは劣るものの、充分なレベルの外観を示した。また、成形直後も1週間経過後も表面に目立った液状物は存在せず、シリコーン化合物のブリードが充分に抑えられていた。
【0096】
〔ミクロ構造の分析〕
実施例1及び6、並びに比較例1の二層成形品中のミクロ構造を、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)JXA−8100(日本電子(株)製)を用いて、Si元素、C元素又はO元素のX線像を作製することにより観測した。なお、二層成形品の共押出成形方向と平行方向(流れ方向)の面及び共押出成形方向と垂直方向(垂直方向)の面についてX線像を観測した。
【0097】
まず、二層成形品の分析面をカミソリで切り、分析面の幅が約5mmになるように試料を切り出した。専用試料台(真鍮製10mmの立方ブロック)に導電テープを貼り、導電テープの上に試料を接着した。また、分析面の周囲と側面にカーボンドータイトを塗布した。分析は、ステージスキャンで行い、加速電圧15kV、照射電流10nA、ピクセルサイズ1μm×1μm、ピクセル数300×300、1ピクセルあたりの測定時間40ms、測定範囲は300μm×300μm、測定元素はSi,C,Oとした。
【0098】
Si元素の場合、「50超」、「50〜43」、「43〜37」、「37〜31」、「31〜25」、「25〜18」、「18〜12」、「12〜6」、「6〜0」、又は「0未満」の濃度レベルを有する領域に分割し、それぞれの領域ごとに色分けして発色させた。Si元素及びO元素の濃度が高い領域が、シリコーン化合物が多く分布している領域である。
【0099】
図7〜図12は、流れ方向又は垂直方向の二層成形品断面のX線像である。各図の実施例との対応関係を下記に示す。図7〜12において、(a)、(b)、(c)及び(d)は同一の領域のX線像であり、(a)は元素濃度によるマッピングを施していない像であり、(b)はSi元素濃度、(c)はC元素、(d)はO元素の濃度でそれぞれマッピングされた像である。各図において、各元素濃度が高いほど発色が薄くなるように描画されている。
図7:実施例1、流れ方向断面
図8:実施例1、垂直方向断面
図9:実施例6、流れ方向断面
図10:実施例6、垂直方向断面
図11:比較例1、流れ方向断面
図12:比較例1、垂直方向断面
【0100】
Si元素濃度によるマッピング像とC元素濃度によるマッピング像との比較から、いずれの実施例においても、C元素濃度が高い領域の周囲にSi元素が多く分布する傾向が認められた。O元素濃度によるマッピング像においても同様に、C元素濃度が高い領域の周囲にO元素が多く分布する傾向が認められた。これは、C元素濃度が高い架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする相の間にシリコーン化合物を主成分とする相が形成されていることを示していると考えられる。
【0101】
実施例1、実施例6及び比較例1のシリコーン化合物濃度はそれぞれ9.5,9.1,9.5質量%と同等である。Si元素濃度によるマッピング像に着目すると、実施例1及び実施例6は比較例1よりも「シリコーン化合物濃度が高い部分(発色が薄い部分)がより発色が薄く、かつシリコーン化合物濃度が低い部分(発色が濃い部分)がより発色が濃い」という特徴が観察された(図7〜12)。
【0102】
図13は、Si発色度合い(濃さ)に対する頻度(Area%)をプロットしたグラフである。比較例1は、実施例1及び6と比較して、Si発色度合いが9〜20の頻度が高く(図13)、X線像の観察結果を支持している。
【0103】
X線像の観察結果より、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメイン(実施例1及び6)は、シリコーン化合物を外周に撥く性質が強いと考えられる。このため、軟質のドメイン内に基材層の鉱油が移行してきても、そこにシリコーン化合物がほとんど存在しないため、シリコーン化合物が表皮層表面に過剰に移行することがなく、ブリードが抑制されるものと考えられる。
【符号の説明】
【0104】
3…治具、4…摺動試験機、10…シリコーン化合物、20…ドメイン、30…マトリックス、32…二層成形品、51…支持板、52…モータ、54…アーム、56…ロッド、57…ガラス板、58…ガラス保持部材、59…ロードセル、60…ロードセル固定部材、100…表皮材、110…基材層、120…表皮層、200…多層体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体又は未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメインと、シリコーン化合物とを、オレフィン系ポリマーからなるマトリックス中に含有する表皮材。
【請求項2】
前記未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル60〜90質量%とエチレン10〜40質量%との共重合体である、請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記ドメインが、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体からなる、請求項1又は2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル30〜90質量%とエチレン10〜70質量%との共重合体を架橋したものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項5】
前記オレフィン系ポリマーがプロピレン系ポリマーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項6】
ショアーA硬度が90以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項7】
エラストマー及び鉱油を含有する基材層と、
該基材層に隣接し、最外層に位置する表皮層と、を少なくとも備え、
前記表皮層が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の表皮材からなる、多層体。
【請求項8】
前記鉱油の含有量が、前記基材層全量を基準として、20質量%以上である、請求項7に記載の多層体。
【請求項9】
前記エラストマーが、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー又はエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体加硫ゴムである、請求項7又は8に記載の多層体。
【請求項10】
前記基材層のショアーA硬度が85以下である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の多層体からなる摺動部材。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の多層体からなる内装部材。
【請求項13】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の多層体からなるシール部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図13】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−188623(P2012−188623A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55473(P2011−55473)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】