説明

表皮材用シ−ト

【課題】
本発明は、電子線架橋特性に優れ、耐熱性と、軟質性、耐傷つき摩耗性、耐油性、シボ保持性に優れる表皮材用シートを提供することである。
【解決手段】
特定の組成を有するクロス共重合体及びその樹脂組成物を提供する。これらはエネルギー線(電子線)架橋特性に極めて優れており、工業的に有利な低線量で十分な架橋度を得ることが出来る。また特定の条件で架橋したシ−トは、良好な耐熱性、力学特性、シボ保持性を有し、耐傷つき摩耗性、耐油性に優れるため、自動車内装用を含め広範な表皮用シ−トとして好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線架橋特性に優れ、耐熱性と、軟質性、耐傷つき摩耗性、耐油性、シボ保持性に優れる表皮材用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車をはじめとする各種自動車、家具や屋内内装、さらにはロボット等、硬質な各種機械と人間の間に位置する表皮材には、種々のレベルの軟質性に加え各種の機能性が求められる。例えば、自動車の内装表皮材としては、耐熱性、耐候性、耐寒性、成形加工時の熱履歴も含めたシボ保持性、人間の接触に対する耐傷つき摩耗性、人間に同伴する化学物質に対する耐油性、耐薬品性が求められる。
【0003】
従来、この様な分野には可塑剤を添加した軟質塩ビからなる表皮材が用いられてきた。軟質塩ビは軟質性と耐油性、耐傷つき性に優れ、価格的に有利な材料であるが、焼却時の管理の問題、近年大量に含まれる可塑剤によるVOCや、一部の可塑剤ではあるが環境ホルモンとしての懸念、含まれる重金属安定剤の点からより環境性に優れる材料が求められている。そこで、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)やTPS(スチレン系熱可塑性エラストマー)からなる表皮材が注目され、耐熱性と軟質性、リサイクル性、環境性が特徴であり、広く用いられるようになってきた。これら材料は軟質成分と耐熱成分からなるコンパウンドであるが、耐熱成分として用いられるPP(アイソタクティックポリプロピレン)成分により、耐傷つき摩耗性が十分ではないレベルまで低下してしまうという課題を有している。軟質成分として用いられる架橋エチレン−プロピレン系ゴム(TPO)や架橋または非架橋スチレン系水添ブロック共重合体(TPS)の耐油性が十分ではなく、上記過酷な環境下で膨潤、変形を起こす場合があり課題である。PPの添加量を減らすなどして耐傷つき摩耗性を向上させた場合、耐熱性、特にシ−ト成形時の表面シボ保持性が低下しシボが消失してしまう課題がある。また軟質成分及び/または硬質成分に対し架橋を行う場合、コストアップになり、また各種架橋材、助剤に由来する臭い等の課題もある。
【0004】
この様な課題に対処するため、我々は新しい軟質樹脂であるスチレン−エチレン系クロス共重合体を提案している(特許文献1、2、3)。本樹脂は、可塑剤なしで軟質〜半硬質までの幅広い硬度調節が可能な点と優れた耐傷つき摩耗性、耐油性が特徴である。しかし、本樹脂自体では上記用途に対する耐熱性は不足しており、表皮材としての使用時や成形加工時のシボ保持性の点で課題である。この様な背景から耐熱樹脂の配合による耐熱性向上が図られてきた。PPの添加ではTPOやTPSと同様、耐傷つき摩耗性が低下してしまう。そこでPPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂の添加(特許文献4)やTPEE(ポリエステル系軟質樹脂)の添加(特許文献5)により耐熱性向上が計られている。PPE添加の場合、耐傷つき摩耗性、耐油性がさらに向上するが、より高いレベルの耐熱性のためその配合量を増やすと硬度が上昇し、フロ−が低下し用途によっては成形加工性が低下してしまうという課題がある。TPEE添加の場合、より高いレベルの耐熱性のためその配合量を増やすと耐傷つき摩耗性が低下するといった課題を有している。そこで、本クロス共重合体の優れた耐傷つき摩耗性、耐油性及びカレンダ−や押し出し成形加工性を生かしつつ使用時や成形加工時に耐える十分な耐熱性、特にシボ保持性を付与する方法が求められてきた。
【0005】
一方、エチレン−スチレン共重合体の電子線架橋は公知である。例えば、特許文献6〜8には、エチレン−スチレン共重合体の電子線架橋体について記載してある。しかし、特許文献8、Table11に示されるように、特に工業的に有利な低線量域において、その電子線架橋性はエンゲ−ジ8100(エチレン−オクテン共重合体)と比較して低い。クロス共重合体の電子線架橋体、特にテ−プ基材や電線被覆材、発泡剤については特許文献1、2、3に記載がある。しかし、工業的に有利な低照射線量で、表皮材シ−トとして十分なシボ保持性や耐油性を与える組成の材料については知られていない。また、表皮材シ−トはシボ等の加飾を施した後に、基材や必要に応じて発泡シ−トへの貼り付け工程が必要で、その際に加熱され、シボが消失または薄れ、または光沢が出てしまうといった課題がある。本シボ保持性に関し、適切な電子線照射の条件については知られていない。
【特許文献1】再表00/037517号公報
【特許文献2】WO2007139116号公報
【特許文献3】特開2009−102515号公報
【特許文献4】WO2009−128444号公報
【特許文献5】特願2009−094556
【特許文献6】特公平3−60123号公報
【特許文献7】特開平8−73668号公報
【特許文献8】WO99−10395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電子線架橋特性に優れ、耐熱性、シボ保持性を有し、耐傷つき摩耗性、耐油性に優れる表皮用シ−トを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の(1)〜(3)の条件を満たすクロス共重合体30〜100質量%の範囲で含む熱可塑性樹脂組成物をエネルギ−線照射により架橋してなる表皮材用シ−トである。
(1)配位重合工程とクロス化工程からなる重合工程を含む製造方法であって、配位重合工程として、シングルサイト配位重合触媒を用いてオレフィンモノマー、芳香族ビニル化合物モノマーおよび芳香族ポリエンの共重合を行ってオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を合成し、次にクロス化工程として、このオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーの共存下、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いて重合することを特徴とする製造方法で得られるクロス共重合体。
(2)配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量である。
(3)クロス化工程で最終的に得られるクロス共重合体に対する配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の質量割合が50〜99質量%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂はエネルギー線架橋特性に優れ、エネルギー線照射により架橋したシ−トは、耐熱性、シボ保持性を有し、耐傷つき摩耗性、耐油性に優れる表皮用シ−トである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(3)の条件を満たすクロス共重合体30〜100質量%の範囲で含む熱可塑性樹脂組成物をエネルギ−線照射により架橋してなる表皮材用シ−トである。
(1)配位重合工程とクロス化工程からなる重合工程を含む製造方法であって、配位重合工程として、シングルサイト配位重合触媒を用いてオレフィンモノマー、芳香族ビニル化合物モノマーおよび芳香族ポリエンの共重合を行ってオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を合成し、次にクロス化工程として、このオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーの共存下、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いて重合することを特徴とする製造方法で得られるクロス共重合体。
(2)配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量である。
(3)クロス化工程で最終的に得られるクロス共重合体に対する配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の質量割合が50〜99質量%である。
【0010】
本方法で得られるクロス共重合体は、主鎖であるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体に、クロス鎖である芳香族ビニル化合物モノマ−から構成されるポリマ−鎖が、主鎖芳香族ポリエンユニットを介し結合している構造(クロス共重合構造、またはSegregated star copolymer構造)を含むと考えられる。本クロス共重合体の構造や含まれる割合は任意であるが、本発明のクロス共重合体は本発明の製造方法により得られる共重合体と規定される。
本発明のクロス共重合体の200℃、荷重98Nで測定したMFR値は、特に限定されないが、一般的には0.01g/10分以上、300g/10分以下である。
【0011】
本発明に用いられるクロス共重合体の製造において、その配位重合工程に用いられるオレフィンとしては、エチレン、炭素数3〜20のα−オレフィン、すなわちプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサンや環状オレフィン、すなわちシクロペンテン、ノルボルネンが挙げられる。好ましくは、エチレンまたはエチレンとα−オレフィンすなわちプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、または1−オクテン等の混合物が用いられ、更に好ましくは、エチレンが用いられる。
【0012】
配位重合工程に用いられる芳香族ビニル化合物モノマーは、スチレンおよび各種の置換スチレン、例えばp−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン等が挙げられる。工業的には好ましくはスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、特に好ましくはスチレンが用いられる。
【0013】
配位重合工程に用いられる芳香族ポリエンは10以上30以下の炭素数を持ち、複数の二重結合(ビニル基)と単数または複数の芳香族基を有し配位重合可能な芳香族ポリエンであり、二重結合(ビニル基)の1つが配位重合に用いられて重合した状態において残された二重結合がアニオン重合またはラジカル重合可能な芳香族ポリエンである。好ましくは、オルトジビニルベンゼン、パラジビニルベンゼン及びメタジビニルベンゼンのいずれか1種または2種以上の混合物が好適に用いられる。
【0014】
配位重合工程で得られる、主鎖であるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量である条件を満たすことにより、高い軟質性で、高い力学物性を有するクロス共重合体を得ることが出来る。オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成は、公知の一般的方法により上記範囲に制御することが達成できるが、最も簡単にはモノマ−仕込み組成比を変更することにより達成できる。
【0015】
上記オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%未満の場合、オレフィン連鎖構造に由来する結晶構造、例えばエチレン連鎖やプロピレン連鎖に基づく結晶構造が一定以上存在し、最終的に得られる本発明の樹脂組成物の軟質性が損なわれてしまう場合があり、さらに成型加工時に結晶化による収縮等成型体の寸法安定性が損なわれてしまう場合がある。本発明により得られるクロス共重合体は、本オレフィン結晶性および他の結晶性も含めた総結晶融解熱としては100J/g以下、好ましくは50J/g以下である。総結晶融解熱はDSCにより50℃〜ほぼ200℃の範囲に観測される融点に由来するピ−クの面積の総和から求めることが出来る。
【0016】
上記オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量30モル%を超える場合には、その優れた電子線架橋特性が低下してしまう。さらに、配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が芳香族ビニル化合物含量5モル%以上、好ましくは10モル%以上25モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下残部がオレフィン含量である条件を満たすことにより、より優れた電子線架橋特性と高い軟質性で、高い力学物性を有するクロス共重合体を得ることが可能となる。
【0017】
さらに、軟質性、風合いに優れるクロス共重合体を得るためには、本製造方法の配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の重量割合がアニオン重合工程を経て最終的に得られるクロス共重合体重量の50質量%以上99質量%以下が好ましい。50質量%未満では硬質になり、また電子線架橋性も低下してしまう。特に好ましくは本製造方法の配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の重量割合がアニオン重合工程を経て最終的に得られるクロス共重合体重量の60質量%以上90質量%以下である場合である。この場合、特に軟質性に優れるクロス共重合体が得られ、ひいては耐衝撃性や軟質性に優れる樹脂組成物を得ることが出来る。さらに90質量%以下であることで、電子線架橋後の耐熱性、特にクリ−プ開始温度が150℃以上を示すことが可能で好ましい。本配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の、アニオン重合工程を経て最終的に得られるクロス共重合体重量に対する質量割合(質量%)については、配位重合終了時に重合液を一部サンプリングし分析して求めた主鎖ポリマ−生成質量とアニオン重合後の重合液を一部サンプリングし分析して求めたクロス共重合体生成質量から求めることが可能である。または、主鎖オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成と、得られたクロス共重合体の組成を比較することで求めることも可能である。
【0018】
さらに本製造方法の配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量は、一般的に100万以下3万以上、本発明の樹脂組成物の成型加工性を考慮すると、好ましくは30万以下、3万以上である。オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、一般的に1.5以上8以下、好ましくは1.5以上6以下、最も好ましくは1.5以上4以下である。分子量分布がこれらより高い値の場合、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体のポリエン部分の自己架橋が起こっている場合があり、成形加工性の悪化やゲル化が懸念される場合がある。
【0019】
さらに上記本製造方法の配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の芳香族ポリエン含量は0.01モル%以上0.3モル%以下、好ましくは0.01モル%以上0.1モル%以下である。上記範囲未満ではクロス共重合体としての特性が充分ではなく、上記範囲より高いと成形加工性が悪化してしまう場合がある。
【0020】
クロス鎖部分の長さ(分子量)は、クロス化されなかったホモポリマーの分子量から推定できるが、その長さは、重量平均分子量として、好ましくは5000以上15万以下、さらに好ましくは5000以上10万以下、特に好ましくは5000以上7万以下である。また、その分子量分布(Mw/Mn)は好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。
【0021】
本発明に用いられるクロス共重合体のクロス化工程において、芳香族ビニル化合物モノマ−がもちいられる。このような芳香族ビニル化合物モノマ−としては、スチレン、p−メチルスチレン、p−ターシャリ−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が例示でき、好ましくはスチレンである。配位重合工程に用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−とクロス化工程において用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−は同一であることが好ましい。最も好ましくは配位重合工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−がスチレンであり、かつクロス化工程において用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−がスチレンでありその一部または全部が配位重合工程における未反応スチレンである。
クロス化工程に於いては、芳香族ビニル化合物モノマ−に加えて、アニオン重合やラジカル重合可能なモノマ−を添加しても良い。その添加量は、用いる芳香族ビニル化合物モノマ−量に対して最大でも等モル量までである。
本発明のクロス工程では上記モノマ−以外に、配位重合工程で重合されずに重合液中に少量残存する芳香族ポリエンも重合されて良い。
【0022】
以下に、本発明の製造方法について詳細に説明する。
<配位重合工程>
本製造方法の配位重合工程においては、シングルサイト配位重合触媒が用いられる。好ましくは、下記の一般式(1)または(2)で表される遷移金属化合物と助触媒から構成されるシングルサイト配位重合触媒を用いる。
【0023】
【化1】



式中、A、Bは同一でも異なっていてもよく、非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換シクロペンタジエニル基、非置換もしくは置換インデニル基、または非置換もしくは置換フルオレニル基から選ばれる基である。
YはA、Bと結合を有し、他に置換基として水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基(1〜3個の窒素、酸素、硫黄、燐、珪素原子を含んでもよい)を有するメチレン基である。置換基は互いに異なっていても同一でもよい。また、Yは環状構造を有していてもよい。
Xは、水素、水酸基、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜4の炭化水素置換基を有するシリル基、または炭素数1〜20の炭化水素置換基を有するアミド基である。Xが複数の場合、X同士は結合を有しても良い。nは、1または2の整数である。
Mはジルコニウム、ハフニウム、またはチタンである。
好ましくは、A、Bは非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換インデニル基から選ばれる基である。
【0024】
かかる遷移金属化合物の好適な例としては、EP−0872492A2公報、特開平11−130808号公報、特開平9−309925号公報に具体的に例示した置換メチレン架橋構造を有する遷移金属化合物や、WO01/068719号公報に具体的に例示した硼素架橋構造を有する遷移金属化合物である。
【0025】
【化2】



式中、Cpは非置換もしくは置換シクロペンタフェナンスリル基、非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換シクロペンタジエニル基、非置換もしくは置換インデニル基、または非置換もしくは置換フルオレニル基から選ばれる基である。Y’は、Cp、Zと結合を有し、他に水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基を有するメチレン基、シリレン基、エチレン基、ゲルミレン基、硼素残基である。置換基は互いに異なっていても同一でもよい。また、Y’は環状構造を有していてもよい。Zは窒素、酸素またはイオウを含み、窒素、酸素またはイオウでM’に配位する配位子でY’と結合を有し、他に水素、炭素数1〜15の置換基を有する基である。
M’はジルコニウム、ハフニウム、またはチタンである。
X’は、水素、ハロゲン、炭素数1−15のアルキル基、炭素数6−10のアリール基、炭素数8−12のアルキルアリール基、炭素数1−4の炭化水素置換基を有するシリル基、炭素数1−10のアルコキシ基、または炭素数1−6のアルキル置換基を有するジアルキルアミド基である。
nは、1または2の整数である。
【0026】
本製造方法の配位重合工程においては、さらに好ましくは、上記の一般式(1)で表されるシングルサイト配位重合触媒と助触媒から構成される重合触媒が用いられる。
本製造方法の配位重合工程で用いる助触媒としては、従来遷移金属化合物と組み合わせて用いられている公知の助触媒を使用することができるが、そのような助触媒として、メチルアルミノキサン(またはメチルアルモキサンまたはMAOと記す)等のアルモキサンまたは硼素化合物が好適に用いられる。用いられる助触媒の例としては、EP−0872492A2号公報、特開平11−130808号公報、特開平9−309925号公報、WO00/20426号公報、EP0985689A2号公報、特開平6−184179号公報に記載されている助触媒やアルキルアルミニウム化合物が挙げられる。
アルモキサン等の助触媒は、遷移金属化合物の金属に対し、アルミニウム原子/遷移金属原子比で0.1〜100000、好ましくは10〜10000の比で用いられる。0.1より小さいと有効に遷移金属化合物を活性化出来ず、100000を超えると経済的に不利となる。
【0027】
助触媒として硼素化合物を用いる場合には、硼素原子/遷移金属原子比で0.01〜100の比で用いられるが、好ましくは0.1〜10、特に好ましくは1で用いられる。0.01より小さいと有効に遷移金属化合物を活性化出来ず、100を超えると経済的に不利となる。遷移金属化合物と助触媒は、重合設備外で混合、調製しても、重合時に設備内で混合してもよい。
【0028】
本発明の配位重合工程でオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を製造するにあたっては、上記に例示した各モノマー、遷移金属化合物および助触媒を接触させるが、接触の順番、接触方法は任意の公知の方法を用いることができる。
以上の共重合の方法としては溶媒を用いずに液状モノマー中で重合させる方法、あるいはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロ置換ベンゼン、クロロ置換トルエン、塩化メチレン、クロロホルム等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素またはハロゲン化炭化水素の単独または混合溶媒を用いる方法がある。好ましくは混合アルカン系溶媒やシクロヘキサンやトルエン、エチルベンゼンを用いる。重合形態は溶液重合、スラリ−重合いずれでもよい。また、必要に応じ、バッチ重合、連続重合、予備重合、多段式重合等の公知の方法を用いることが出来る。
単数や連結された複数のタンク式重合缶やリニアやル−プの単数、連結された複数のパイプ重合設備を用いることも可能である。パイプ状の重合缶には、動的、あるいは静的な混合機や除熱を兼ねた静的混合機等の公知の各種混合機、除熱用の細管を備えた冷却器等の公知の各種冷却器を有しても良い。また、バッチタイプの予備重合缶を有していても良い。さらには気相重合等の方法を用いることができる。
重合温度は、−78℃から200℃が適当である。−78℃より低い重合温度は工業的に不利であり、200℃を超えると遷移金属化合物の分解が起こるので適当ではない。さらに工業的に好ましくは、0℃〜160℃、特に好ましくは30℃〜160℃である。
重合時の圧力は、0.1気圧〜100気圧が適当であり、好ましくは1〜30気圧、特に工業的に特に好ましくは、1〜10気圧である。
【0029】
さらに用いられるシングルサイト配位重合触媒の遷移金属化合物が一般式(1)で示される構造を有し、かつA、Bは非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換インデニル基から選ばれる基であり、YはA、Bと結合を有し、他に置換基として水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基(1〜3個の窒素、酸素、硫黄、燐、珪素原子を含んでもよい)を有するメチレン基または硼素基であり、かつ本遷移金属化合物はラセミ体である場合、得られる本組成範囲のオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体は、オレフィン−芳香族ビニル化合物の交互構造、好ましくはエチレン−芳香族ビニル化合物交互構造にアイソタクティックの立体規則性を有し、そのため本発明のクロス共重合体は本交互構造に由来する微結晶性を有することが出来る。そのため、本オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体は、立体規則性がない場合と比較し交互構造の微結晶性に基づく良好な力学物性や耐油性を与えることができ、この特徴は最終的に本発明のクロス共重合体にも受け継ぐことが出来る。
【0030】
オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の交互構造の微結晶性による結晶融点は概ね50℃〜120℃の範囲にありDSCによるその結晶融解熱は1〜30J/g以下であるので、本発明のクロス共重合体は総体として、50J/g以下、好ましくは30J/g以下の結晶融解熱を有することができる。本範囲の結晶融解熱の結晶性は、本クロス共重合体の軟質性、成型加工性に悪影響は与えず、むしろ優れた力学物性や耐油性の面で有益である。
配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体(エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)においては、好ましくはTUS/DOU値は1.1より高い値をとり、概ね1.2以上10以下、好ましくは1.2以上5以下の値をとる。TUS/DOU値がより大きい場合、芳香族ポリエンユニット含量が少なすぎ、本発明のクロス共重合体としての機能が失われてしまう場合がある。また、TUS/DOU値が1.1以下の場合、芳香族ポリエンユニット含量が多すぎて主鎖に由来する機能が失われやすくなり、またクロス共重合体の成形加工性が悪化してしまったり、クロス共重合体中にゲル分が生成してしまう恐れがある。ここで、TUSは、共重合体に含まれるト−タルのビニル基含量で、芳香族ポリエン(ジビニルベンゼン)ユニットに由来するビニル基とポリマ−末端のビニル基の含量の総和であり、1H−NMR測定により求められる。またDOU値は主鎖エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に含まれるジビニルベンゼンユニット含量である。本TUS/DOU値の意味、求め方については、米国特許US6414102、US6265493、US6096849にも記載してある。
【0031】
<クロス化工程>
本発明の製造方法のクロス化工程では、配位重合工程で得られたオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーの共存下、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いてアニオン重合またはラジカル重合を行う。
【0032】
本発明のクロス化工程で、アニオン重合が採用される場合には、公知のアニオン重合開始剤を用いることができる。好ましくは、アルキルリチウム化合物やビフェニル、ナフタレン、ピレン等のリチウム塩あるいはナトリウム塩、特に好ましくは、sec−ブチルリチウム、n(ノルマル)−ブチルリチウムが用いられる。また、多官能性開始剤、ジリチウム化合物、トリリチウム化合物を用いても良い。さらに必要に応じて公知のアニオン重合末端カップリング剤を用いてもよい。
溶媒は、連鎖移動等の不都合を生じない混合アルカン系溶媒やシクロヘキサンやベンゼン等の溶媒が特に好ましいが、重合温度が150℃以下であれば、トルエン、エチルベンゼン等の他の溶媒も用いることが可能である。
【0033】
本発明のクロス化工程でラジカル重合が採用される場合には、芳香族ビニル化合物の重合や共重合に使用できる公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。そのような例として過酸化物系(パ−オキサイド)、アゾ系重合開始剤等必要に応じて当業者は自由に選択することが出来る。
そのような例は、日本油脂カタログ有機過酸化物organic peroxides第10版(http://www.nof.co.jp/business/chemical/pdf/product01/Catalog_all.pdfからダウンロ−ド可能)、和光純薬カタログ等に記載されておりこれらの会社より入手することが出来る。
重合開始剤の使用量に特に制限はないが一般的にはモノマ−100質量部に対し、0.001〜5質量部用いる。過酸化物系(パ−オキサイド)、アゾ系重合開始剤等の開始剤、硬化剤を用いる場合には、その半減期を考慮し、適切な温度、時間で硬化処理を行う。この場合の条件は、開始剤、硬化剤に合わせて任意であるが、一般的には50℃から150℃程度の温度範囲が適当である。本発明のラジカル重合工程には、クロス鎖の分子量制御を主な目的として公知の連鎖移動剤を用いることが出来る。そのような連鎖移動剤の例としては、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン誘導体、α−スチレンダイマー等が挙げられる。
【0034】
溶媒は、アルカン系溶媒やシクロヘキサンやベンゼン等の溶媒が特に好ましいが、トルエン、エチルベンゼン等の他の溶媒も用いることが可能である。
本発明のクロス化工程では、芳香族ビニル化合物モノマ−の重合転換率が高いほど好ましい力学物性や光学物性のクロス共重合体が得られる。そのため、比較的短い時間で容易に芳香族ビニル化合物モノマ−の高重合転換率が達成可能なアニオン重合が好ましく採用される。
【0035】
本発明のクロス化工程は、上記の配位重合工程の後に実施される。この際、配位重合工程で得られた共重合体を、クラムフォーミング法、スチームストリッピング法、脱揮槽、脱揮押出し機等を用いた直接脱溶媒法等、任意のポリマー回収法を用いて、重合液から分離、精製してクロス化工程に用いても良い。しかし、配位重合後の重合液から、残留オレフィンを放圧後、あるいは放圧せずに、次のクロス化工程に用いるのが、経済的に好ましい。重合体を重合液から分離せずに、重合体を含んだ重合溶液をクロス化工程に用いることができることが本発明の特徴の1つである。
【0036】
重合形態は、ラジカルまたはアニオン重合に用いられる任意の公知の方法を用いることができる。重合温度は、−78℃から200℃が適当である。−78℃より低い重合温度は工業的に不利であり、150℃を超えると連鎖移動等が起こるので適当ではない。さらに工業的に好ましくは、0℃〜200℃、特に好ましくは30℃〜150℃である。
重合時の圧力は、0.1気圧〜100気圧が適当であり、好ましくは1〜30気圧、特に工業的に特に好ましくは、1〜10気圧である。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、他に、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、通常の樹脂に用いられる添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐候剤、耐光剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、滑剤、防曇剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤等を添加しても良い。
【0038】
<エネルギ−線架橋>
本発明のクロス共重合体及びその熱可塑性樹脂組成物は、各種エネルギ−線を用いて架橋することが出来る。配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体において芳香族ポリエン含量を30モル%以下、特に25モル%以下でエネルギー線架橋性が向上し、低線量においても十分な架橋度(ゲル分、耐熱性)が得られる特徴がある。本特徴は、工業的に見た場合、架橋シートの生産性が高いことを意味し極めて有用である。エネルギ−線を用いての架橋は、成形後に架橋できる点がメリットであり、例えばシボ付きシ−ト成形後に、シボを保持したまま架橋させることができるため、自動車内装用シ−トや高級レザ−シ−トの作成に適している。ここで用いられるエネルギー線としては、粒子線、電磁波、およびこれらの組み合わせが挙げられる。粒子線としては電子線(EB)、α線、電磁波としては紫外線(UV)、可視光線、赤外線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも、電子線(EB)が好ましい。
【0039】
これらの活性エネルギー線は、公知の装置を用いて照射することができる。電子線(EB)の場合の加速電圧としては0.1〜10MeV、照射線量としては10〜500kGyの範囲が適当である。本加速電圧は、シ−トの厚さにより適切に制御する。表面から1回の照射でシ−ト全体を架橋しようとする場合、シ−ト裏面まで十分に電子線が透過し架橋が進行する必要があり、シ−ト厚さ0.25mmでは概ね加速電圧250kV以上、シ−ト厚さ0.5mmでは概ね500kV以上、シ−ト厚さ1.0mmでは概ね1000kV以上の加速電圧を用いる。シ−ト両面から電子線を照射する場合には、それぞれこれらの半分の加速電圧以上で行うのが適当である。特に下記に示す光重合開始剤や架橋助剤を用いずに架橋を行う場合は、コストや残留するこれら薬剤に対する配慮が必要ない点で好ましい。その際に、本発明の組成範囲のクロス共重合体を用いることで、低照射線量で架橋を行うことが可能となり生産性向上の観点から好ましい。具体的には、表面から1回の照射でシ−ト裏面を含む全体を架橋しようとする場合、上記の加速電圧を満たした条件で、50kGy以上、200kGy以下、好ましくは50kGy以上、150kGy以下程度の低照射線量で架橋を行うことができる。これ以上の照射線量で架橋を行った場合、架橋が進行しすぎることにより、伸びの低下や基材や他のシートへの接着性の低下を引き起こす場合があり好ましくない。
【0040】
紫外線(UV)の場合、その線源として放射波長が200nm〜450nmのランプを好適に用いることができる。本発明のクロス共重合体及びその熱可塑性樹脂組成物には必要に応じて、特にエネルギー線として紫外線(UV)を用いる場合、光重合開始剤をさらに配合することができる。使用できる光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α−メチロールベンゾイン、α−メチロールベンゾインメチルエーテル、α−メトキシベンゾインメチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、α−t−ブチルベンゾインなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。光重合開始剤を配合する場合、樹脂成分の合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0041】
本発明のクロス共重合体及びその熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて架橋助剤をさらに配合することができる。使用できる架橋助剤にはトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの架橋助剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。架橋助剤を配合する場合、その含有量に特に制限はないが、通常、合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、他に、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、通常の樹脂に用いられる添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐候剤、耐光剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、滑剤、防曇剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤等を添加しても良い。これらの一部については下記に例示する。
【0043】
本発明のクロス共重合体またはこれを含む樹脂組成物からなるシ−トのエネルギー線架橋物(以下電子線架橋物と記す)は、クロス共重合体が本来有する耐傷つき性、耐摩耗性を維持しつつ、改善された耐熱性を有することが出来る。具体的には電子線架橋物は架橋前と比較し、より高いゲル分を有し、好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上、70質量%以下のゲル分を有する。これ未満のゲル分では耐熱性が発現せず、より高いゲル分は、架橋体の伸びを低下させ加工性を悪化させてしまう。また、より高いゲル分は、リサイクル適性を低下させてしまい、例えばリサイクル材の肌荒れ等を引き起こす恐れがある。また粘弾性スペクトル測定において貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに低下する温度を、架橋前と比較し10℃以上上昇させることが可能である。好ましくは、上記貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに減少する温度が120℃以上、好ましくは130℃以上を示すことができる。本明細書で規定するクリ−プ開始温度は、130℃以上、特に好ましくは150℃以上を示すことができる。本発明のクロス共重合体またはこれを含む樹脂組成物からなるシ−トの電子線架橋物は、表皮材としての軟質性と良好な力学物性を有し、一般には23℃の引張試験における初期弾性率は1〜50MPa、破断点伸びは200〜1500%、破断点強度は10〜50MPaの範囲である。
【0044】
さらに、所定の測定法による耐油性、耐傷つき性、耐摩耗性、シボ保持性も優れた値を示すことが出来る。
対傷つき性については後述するスクラッチ試験での傷高低差が10ミクロン以下、好ましくは8ミクロン以下の良好な対傷つき性を示すことが出来る。
耐摩耗性については、JISK7204に準拠し、H−22摩耗輪を用いた試験で、120mg以下の優れた耐摩耗性を示すことが出来る。
シボ保持性については、シ−トの光沢をJIS K7105に従い、角度60°受光角60°で測定し評価する。本発明のエネルギ−線架橋シ−トは、120℃120時間加熱処理した後でもその光沢は初期値+10%以下、好ましくは初期値+5%以下に保持されるという特徴を有する。
【0045】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明のクロス共重合体は、以下に挙げる「オレフィン系ポリマ−」、「芳香族系ポリマー」、及び/または「ポリエステル系ポリマー」との樹脂組成物として、さらに必要に応じて「可塑剤」「無機質充填材(フィラ−)」「難燃材」及び/または「耐候剤」を配合し、上記エネルギ−線による架橋に供することが出来る。この場合、本発明のクロス共重合体は熱可塑性樹脂組成物全体質量に対し30〜100質量%、好ましくは50〜100質量%の範囲で用いることが出来る。本発明のクロス共重合体はこれらの樹脂に対し比較的良好な親和性や相溶性を示すため、得られる熱可塑性樹脂組成物の架橋体は比較的軟質であり、耐傷つき摩耗性、耐熱性、耐油性に優れる特徴がある。
【0046】
さらに本発明のクロス共重合体は、「芳香族系ポリマー」の範疇に含まれる「ブロック共重合体系ポリマ−」との組成物として用いた場合、軟質性、力学物性を損なわずに耐油性、耐寒性を付与することが出来る。
【0047】
「オレフィン系ポリマ−」
炭素数2〜20までのオレフィンモノマ−からなるオレフィン単独重合体または共重合体であり、例えば高密度ポリエチレン(LDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリオレフィンエラストマ−(POE)、アイソタクティックポリプロピレン(i−PP、ホモPP、ランダムPP、ブロックPPを含む)、シンジオタクティックポリプロピレン(s−PP)、アタクティックポリプロピレン(a−PP)、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体が挙げられる。必要に応じてブタジエンやα−ωジエン等のジエン類を共重合した共重合体でも良い。このような例としてはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体等が挙げられる。以上のオレフィン系ポリマ−は、その実用樹脂としての物性、成形加工性を発現するために、ポリスチレン換算重量平均分子量として、1万以上、好ましくは3万以上50万以下、好ましくは30万以下が必要である。
【0048】
「芳香族系ポリマー」
スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物の単独重合体またはこれらの共重合体及びポリフェニレンエーテル(PPE)系の重合体または共重合体を含む概念である。ここで芳香族ビニル化合物と共重合可能なモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、その他の共役ジエン類、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのアミド誘導体やエステル誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸及びその誘導体が挙げられる。芳香族ビニル化合物系重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は、3万から50万の範囲である。また、これらの樹脂をポリブタジエン等のゴムで補強したいわゆるハイインパクトポリスチレン(HIPS)でも良い。アニオン重合またはその他の重合方法によるリビング重合により得られるジブロック、トリブロック、マルチブロック、スタ−ブロックあるいはテ−パ−ドブロック構造を有するブロック共重合体もこの範疇に含まれる。この様な例として、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIS)やこれらの水添物(SEBSやSIPS)が挙げられる。以上のブロック共重合体系ポリマ−は、その実用樹脂としての物性、成形加工性を発現するために、ポリスチレン換算重量平均分子量として、5000以上、好ましくは1万以上、50万以下、好ましくは30万以下が必要である。
ポリフェニレンエーテル系樹脂との組成物化は、高温時の弾性率低下防止、耐傷つき摩耗性や高温耐油性の更なる向上に効果がある。用いられる「ポリフェニレンエーテル系樹脂」は、例えば特開昭53−71158号、特開昭54−88960号、特開昭59−100159号、EP0,209,874B1号公報、特開平11−181272号公報、特表2002−533478号公報、特開2000−178388号公報、特開2000−198918号公報、特公平8−3001号公報に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂が挙げられる。
【0049】
「ポリエステル系ポリマー」
ポリエステル系樹脂は、少なくとも1種の2官能性カルボン酸成分と少なくとも1種のグリコール成分またはオキシカルボン酸成分の重縮合により得られる熱可塑性ポリエステルである。原料の2官能性カルボン酸成分の具体例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p,p−ジフェニルジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。エステル形成性誘導体としては、メチルエステルなどの低級エステルが挙げられる。2官能性カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が好ましく、特にはテレフタル酸またはテレフタル酸ジエステルが好ましい。
グリコール成分の具体例としては一般式HO(CHOH(sは2〜20の整数)で表されるα,ω−アルキレングリコール類、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、またはこれらのエステル形成性誘導体等を挙げることができ、中でも1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のα,ω−アルキレングリコールが好ましく、特に好ましくは、1,4−ブタンジオールである。
本発明に用いるポリエステル系樹脂の中で、最も好ましいのは熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)である。本熱可塑性ポリエステルエラストマーは、A硬度95以下50以上であることが好ましく、さらにA硬度75〜95までの範囲が軟質熱可塑性エラストマーとしては好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマーは一般には東レ・デュポン株式会社より商品名ハイトレルとして、三菱化学株式会社より、商品名プリマロイとして、あるいは、株式会社東洋紡から商品名ペルプレンとして入手することができる。
この様な熱可塑性ポリエステルエラストマーは、例えば2000−344997号公報、2001−002943号公報、H08−277358号公報等に記載してある。
熱可塑性ポリエステルエラストマーの最も好ましい高融点結晶性重合体セグメント(a)の例はテレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートである。本熱可塑性ポリエステルエラストマーの軟質重合体セグメント(b)は、脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルであり、脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルのなかで得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性からポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペートなどが好ましい。
【0050】
本熱可塑性ポリエステルエラストマーの軟質重合体セグメント(b)の共重合量は、好ましくは、10〜90重量%、更に好ましくは15〜75重量%である。特に10重量%以下では柔軟性やゴム弾性が不足し、90重量%以上では、結晶性が低く成形性が悪くなる。本発明に用いるポリエステル系樹脂の分子量は、特に限定されることはないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算重量平均分子量で2,000〜300,000で、成形加工性を考慮した場合、その好ましい範囲は約5,000〜100,000である。また、そのMFR値(200℃、荷重98Nで測定した値)は、特に限定されないが、クロス共重合体の流動性改善という見地からは、好ましくは、20g/10分以上、特に好ましくは50g/10分以上である。
【0051】
<可塑剤>
本発明のクロス共重合体またはその熱可塑性樹脂組成物には従来塩ビや他の樹脂に用いられる公知の任意の可塑剤を配合することが出来る。用いられる可塑剤は炭化水素系可塑剤、または含酸素または含窒素系可塑剤である。炭化水素系可塑剤(オイル)の例としては、脂肪族炭化水素系可塑剤、芳香族炭化水素系可塑剤やナフテン系可塑剤が例示でき、含酸素または含窒素系可塑剤としてはエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エ−テル系可塑剤、またはアミド系可塑剤が例示できる。
これらの可塑剤は、本発明のクロス共重合体の硬度、あるいは流動性(成形加工性)の調整に用いることができる。またガラス転移温度を低下させ、脆化温度を下げる効果がある。
【0052】
本発明に好適に用いることができるエステル系可塑剤の例としては、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、アジピン酸エステル、セバチン酸エステル、アゼレ−ト系エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、グルタミン酸エステル、コハク酸エステル、酢酸エステル等のモノ脂肪酸エステル、リン酸エステルやこれらのポリエステルである。
本発明に好適に用いることができるエポキシ系可塑剤の例としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
本発明に好適に用いることができるエ−テル系可塑剤の例としては、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、これらの共重合物、混合物が挙げられる。
本発明に好適に用いることができるアミド系可塑剤の例としては、スルホン酸アミドが挙げられる。これら可塑剤は単独で用いても、複数を用いてもよい。
【0053】
本発明に特に好ましく用いられるのはエステル系可塑剤である。これらの可塑剤は、クロス共重合体との相溶性に優れ、可塑化効果に優れ(ガラス転移温度低下度が高い)、ブリ−ドが少ないという利点がある。一般的には可塑剤の配合量は、本発明のクロス共重合体またはその熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、可塑剤1質量部以上25質量部以下、好ましくは1質量部以上15質量部以下である。1質量部未満では上記効果が不足し、25質量部より高いとブリ−ドや、過度の軟化、それによる過度のべたつきの発現等の原因となる場合がある。
【0054】
<無機質充填剤(フィラ−)>
以下、本発明に用いることができる無機質充填剤について示す。
無機質充填剤は、本発明のクロス共重合体またはその熱可塑性樹脂組成物に難燃性を付与するためにも用いられる。無機質充填剤の体積平均粒子径は、好ましくは50μm以下、好ましくは10μm以下の範囲である。体積平均粒子径が、0.5μm未満であったり50μmを超えるとフィルム化したときの力学物性(引張強度、破断伸度等)の低下が生じるとともに柔軟性の低下やピンホールの発生を引き起こしてしまうことがある。体積平均粒子径は、レーザ回析法で測定した体積平均粒子径である。
【0055】
無機質充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、トリフェニルホスフィート、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、酸化ジリコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化モリブデン、リン酸グアニジン、ハイドロタルサイト、スネークタイト、硼酸亜鉛、無水硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、赤燐、タルク、アルミナ、シリカ、ベーマイト、ベントナイト、珪酸ソーダ、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムであり、これらから選ばれる1種又は2種以上の化合物が使用される。特に、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いるのが難燃性の付与効果に優れ、経済的に有利である。
一般的な無機質充填剤の配合量は、本発明のクロス共重合体またはその熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し1〜1000質量部、好ましくは5〜200質量部の範囲である。無機質充填剤が1質量部未満では、難燃性が劣る場合がある。一方で、無機質充填剤が1000質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の成形性及び強度等の機械的物性が劣る場合がある。無機質充填剤を非ハロゲン系難燃剤として配合した場合は、チャー(炭化層)の形成を図り、フィルム等の難燃性を向上させることもできる。
【0056】
<難燃剤>
以下、本発明に用いることができる難燃剤について示す。有機難燃剤としてはペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンなどの臭素化合物、トリフェニルホスフェートなどの芳香族のリン酸エステル、赤リン、ハロゲンを含むリン酸エステル等のリン化合物、1,3,5−トリアジン誘導体等の含窒素化合物、塩素化パラフィン、臭素化パラフィン等のハロゲン含有化合物が例示できる。
無機難燃剤としては上記無機質充填材でもあるアンチモン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が例示できる。これら難燃剤は、用途に応じ、適切な添加量で用いることが出来る。これらは公知の適当な難燃助剤と共に用いても良い。難燃剤の例は例えば、特開平11−199724、特表2002−533478号公報等にも記載してある。
【0057】
<耐光剤>
本発明に用いられる耐光剤は、公知の耐光剤である。一般的には耐光剤は、光エネルギーを無害な熱エネルギーに変換する紫外線吸収剤と光酸化で生成するラジカルを捕捉するヒンダードアミン系光安定剤から構成される。紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量比は1:100〜100:1の範囲で、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量の合計量を耐光剤質量とし、その使用量は、本発明のクロス共重合体またはその熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、0.05〜5質量部の範囲である。
【0058】
本発明の樹脂組成物、可塑剤組成物、フィラ−組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の適当なブレンド法を用いることができる。例えば、単軸、二軸のスクリュー押出機、バンバリー型ミキサー、プラストミル、コニーダー、加熱ロールなどで溶融混合を行うことができる。溶融混合を行う前に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、タンブラーなどで各原料を均一に混合しておくこともよい。溶融混合温度はとくに制限はないが、一般的には150〜300℃、好ましくは200〜250℃である。
【0059】
<シ−ト>
本発明の樹脂組成物からなる表皮材用シートの厚みに特に制限はないが、一般に3μm〜3mm、好ましくは10μm〜1mmである。
本発明の樹脂組成物からなる表皮材用シート、シ−トを製造するには、インフレーション成形、Tダイ成形、カレンダ−成形、ロ−ル成形などの成形法を採用することができる。本発明の表皮材用シートは、物性の改善を目的として、他の適当な表皮材用シート、例えば、アイソタクティックまたはシンジオタクティックのポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE、またはLLDPE)、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の表皮材用シートと多層化することができる。
【0060】
本発明の表皮材用シートの具体的用途は、特に限定されないが、その優れた力学物性、風合い、耐油性、耐傷つき摩耗性、耐熱性から、様々な表皮材として有用である。例えば合成皮革、特に自動車内装用の合成皮革に好適に用いることができる。
自動車用内装材としては、例えばインパネ、ドアトリム、シ−トの表皮、天井材、床材の表皮、ハンドル、ブレーキ、レバー、グリップ等の表皮が例示できる。また、フロアーマット材としても好適に使用できる。これらの用途の場合、ポリオレフィン系またはポリウレタン系の発泡シートと共に多層化して用いてもよく、それ自体を発泡させて用いることも出来る。必要に応じて各種コート剤をその表面に塗布しても良い。
【0061】
本発明の表皮材用シートは必要に応じて、コロナ、オゾン、プラズマ等の表面処理、防曇剤塗布、滑剤塗布、印刷等を実施することができる。本発明の表皮材用シートは、必要に応じて1軸または2軸等の延伸配向を行った延伸表皮材用シートとして作製することが出来る。本発明の表皮材用シートは必要に応じて、熱、超音波、高周波等の手法による融着、溶剤等による接着等の手法により表皮材用シート同士、あるいは他の熱可塑性樹脂等の材料と接合することができる。
更に、本発明の表皮材用シートは、例えば100μm以上の厚みを有する場合、真空成形、圧縮成形、圧空成形等の熱成形等の手法により食品、電気製品等の包装用トレーを成形することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0063】
実施例で得られた共重合体の分析は以下の手段によって実施した。
13C−NMRスペクトルは、日本電子社製α−500を使用し、重クロロホルム溶媒または重1,1,2,2−テトラクロロエタン溶媒を用い、TMSを基準として測定した。ここでいうTMSを基準とした測定は以下のような測定である。先ずTMSを基準として重1,1,2,2−テトラクロロエタンの3重線13C−NMRピークの中心ピークのシフト値を決めた。次いで共重合体を重1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解して13C−NMRを測定し、各ピークシフト値を、重1,1,2,2−テトラクロロエタンの3重線中心ピークを基準として算出した。重1,1,2,2−テトラクロロエタンの3重線中心ピークのシフト値は73.89ppmであった。測定は、これら溶媒に対し、ポリマーを3質量/体積%溶解して行った。
ピーク面積の定量を行う13C−NMRスペクトル測定は、NOEを消去させたプロトンゲートデカップリング法により、パルス幅は45°パルスを用い、繰り返し時間5秒を標準として行った。
【0064】
共重合体中のスチレン含量の決定は、1H−NMRで行い、機器は日本電子社製α−500及びBRUCKER社製AC−250を用いた。重1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解し、測定は、80〜100℃で行った。TMSを基準としてフェニル基プロトン由来のピーク(6.5〜7.5ppm)とアルキル基由来のプロトンピーク(0.8〜3ppm)の面積強度比較で行った。
【0065】
分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。測定は以下の条件で行った。
カラム:TSK−GEL MultiporeHXL-M φ7.8×300mm(東ソ−社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:1.0ml/min.
【0066】
DSC測定は、セイコー電子社製DSC200を用い、窒素気流下で行った。すなわち樹脂組成物10mgを用い、昇温速度10℃/分で−50℃から240℃までDSC測定を行い、融点、結晶融解熱及びガラス転移点を求めた。1回目の測定後液体窒素で急冷した後に行う2度目の測定は行わなかった。
【0067】
<サンプルシ−ト作成>
電子線照射用の試料は加熱プレス法(温度250℃、時間5分間、圧力50kg/cm2)により成形した厚さ0.25mmのシ−トを用いた。引っ張り試験等、各種試験、粘弾性スペクトル測定用のサンプルは、同条件で得た厚さ0.25mmのシ−トから切り出すことで得た。
【0068】
<電子線架橋>
岩崎電気EB装置TYPE:CB250/15/180Lを用い、加速電圧250kVで所定の照射線量(kGy)の照射を1回実施した。
【0069】
<ゲル分>
シ−トを1mm幅長さ3mmに細断し、25℃のトルエン中24時間浸漬し、さらに70℃1h加温処理した後に不溶分を100メッシュ金属網フィルタ−で濾別し、その乾燥重量から、トルエン不溶ゲル分を、質量%として算出した。
【0070】
<引張試験>
JIS K−6251に準拠し、シートを2号1/2号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、引張速度500mm/minにて測定した。
【0071】
<粘弾性スペクトル>
上記加熱プレス法により得た厚み約0.25mmの表皮材用シートから測定用サンプル(3mm×40mm)を切り出し、動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社RSA−III)を使用し、周波数1Hz、温度領域−50℃〜+250℃の範囲で測定した。
サンプルの残留伸び(δL)測定に関わるその他測定パラメ−タ−は以下の通り
測定周波数1Hz
昇温速度4℃/分
サンプル測定長10mm
Initial Static Force 5.0g
Auto Tension Sensitivity 1.0g
Max Auto Tension Rate 0.033mm/s
Max Applied Strain 1.5%
Min Allowed Force 1.0g
【0072】
<ジビニルベンゼン>
ジビニルベンゼンは、アルドリッチ社製(ジビニルベンゼンとしての純度80%、メタ体、パラ体混合物、メタ体:パラ体質量比70:30)である。
【0073】
<触媒(遷移金属化合物)>
以下の実施例1〜11では、触媒(遷移金属化合物)として、rac−ジメチルメチレンビス(4,5−ベンゾ−1−インデニル)ジルコニウムジクロライド(化3)を用いた。
【0074】
【化3】



【0075】
(合成例1)
<クロス共重合体の製造>
触媒としてrac−ジメチルメチレンビス(4,5−ベンゾ−1−インデニル)ジルコニウムジクロライドを用い、以下のように実施した。
容量50L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のオートクレーブを用いて重合を行った。シクロヘキサン21.8kg、スチレン1.7kg及び新日鐵化学社製ジビニルベンゼン(メタ、パラ混合品、純度81質量%、ジビニルベンゼン分として64mmol)を仕込み、内温60℃に調整し攪拌(220rpm)した。乾燥窒素ガスを10L/分の流量で約30分、液中にバブリングして系内及び重合液の水分をパージした。次いで、トリイソブチルアルミニウム50mmol、メチルアルモキサン(東ソーアクゾ社製、MMAO−3A/ヘキサン溶液)をAl基準で100mmol(表中ではMAOと記載)加え、ただちにエチレンで系内をパ−ジした。十分にパ−ジした後、内温を85℃に昇温してエチレンを導入し、圧力0.58MPa(4.8kg/cmG)で安定した後に、オートクレーブ上に設置した触媒タンクから、rac−ジメチルメチレンビス(4,5−ベンゾ−1−インデニル)ジルコニウムジクロライドを100μmol、トリイソブチルアルミニウム1mmolを溶かしたトルエン溶液約50mlをオートクレーブ中に加えた。さらに、流量制御弁を介しエチレンを補給し、内温を90℃、圧力を0.58MPaに維持しながら重合を実施した。エチレンの流速、積算流量から重合進行状況をモニタ−した。所定のエチレン流量に達した後、エチレンの供給を停止し、放圧すると共に内温を70℃まで冷却した(以上配位重合工程)。分析用重合液を数十ml採取した。n−ブチルリチウム280mmolを触媒タンクから窒素ガスに同伴させて重合缶内に導入した(クロス化工程)。直ちにアニオン重合が開始し、内温は70℃から一時80℃まで上昇した。そのまま30分間温度を70℃に維持し攪拌を継続し重合を続けた。約百mlのメタノ−ルを重合缶に加え、アニオン重合を停止した。得られたポリマー液を分散剤(プルロニック)とカリミョウバンを含む激しく攪拌した加熱水中にギアポンプにて少しずつ投入し、溶媒を除去し、加熱水中に分散したポリマ−クラム(大きさ約1cm)を得た。このポリマークラムを、遠心脱水し、室温で1昼夜風乾した後に60℃、真空中、質量変化が認められなくなるまで乾燥した。
【0076】
(合成例2〜4)
合成例1と同様に、表1に示す仕込み、重合条件で重合を実施した。
(比較合成例1)
合成例1と同様に、表1に示す仕込み、重合条件で重合を実施した。
(比較合成例2)
合成例1と同様に、ただしジビニルベンゼンを用いず、配位重合工程のみ、表1に示す仕込み、重合条件で重合を実施した。この場合、得られた共重合体はエチレン−スチレン共重合体である。
【0077】
表1に重合条件を、表2〜3に得られたクロス共重合体、エチレン−スチレン共重合体の組成分析値を示す。
配位重合工程で得られたポリマ−の分析値(配位重合工程でのポリマ−収量、組成、分子量等)は、配位重合工程終了時にサンプリングした少量(数十ml)の重合液をメタノールに混合してポリマ−を析出させて回収し、分析を行うことで求めた。配位重合工程で得られたポリマ−のジビニルベンゼンユニット含量は、ガスクロマトグラフィ分析により求めた重合液中の未反応ジビニルベンゼン量と重合に用いたジビニルベンゼン量の差から求めた。
【0078】
また、表中の配位重合行程で得られた共重合体の、クロス共重合体に対する割合(質量%)は、配位重合工程で得られたエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の組成(スチレン含量及びエチレン含量)と、アニオン重合工程を経て得られたクロス共重合体の組成(スチレン含量及びエチレン含量)から、各組成の変化分がアニオン重合によるクロス鎖ポリスチレンの質量によるとして求めた。また、別法として配位重合終了時に重合液を一部サンプリングし分析して求めた主鎖ポリマ−生成質量とアニオン重合後の重合液を一部サンプリングし分析して求めたクロス共重合体生成質量の比較からも本割合を求めたが、両値は実質的に一致した値であった。
【0079】
さらに、表中にUS6096849号公報に従って、本実施例配位重合工程で得られた主鎖エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のTUS/DOU値を示した。ここで、TUSは、共重合体に含まれるト−タルのビニル基含量で、芳香族ポリエン(ジビニルベンゼン)ユニットに由来するビニル基とポリマ−末端のビニル基の含量の総和であり、1H−NMR測定により求めた。またDOU値は主鎖エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に含まれるジビニルベンゼンユニット含量である。
本発明の配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体(エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)においては、TUS/DOU値は1.1より高い値をとり、概ね1.2以上10以下、好ましくは1.2以上5以下の値をとる。TUS/DOU値がより大きい場合、芳香族ポリエンユニット含量が少なすぎ、本発明のクロス共重合体としての機能が失われてしまう場合がある。また、TUS/DOU値が1.1以下の場合、芳香族ポリエンユニット含量が多すぎて主鎖に由来する機能が失われやすくなり、またクロス共重合体の成形加工性が悪化してしまったり、クロス共重合体中にゲル分が生成してしまう恐れがある。
【0080】
【表1】



【0081】
【表2】



【0082】
【表3】



【0083】
(実施例1〜8)
以下のようにして、熱可塑性樹脂組成物を得た。
ブラベンダ−プラスチコ−ダ−(ブラベンダ−社製PL2000型)を使用し、本合成例1〜4で得られたクロス共重合体に酸化防止剤イルガノックス1076(チバスペシャリティケミカルズ社製):0.1質量部、耐光剤LA36(紫外線吸収剤)0.2質量部、LA77Y(ヒンダードアミン系光安定剤)0.2質量部(共に株式会社ADEKA社製)を添加し、100rpmにて180℃、5分間混練を行った。
得られた組成物から上記加熱プレス法により成形した厚さ0.25mmのシ−トを用い、上記条件で電子線照射を行った。得られた照射シ−トを用い、引っ張り試験、耐熱変形試験、粘弾性スペクトル測定を実施した。結果を表4に示す。
【0084】
(実施例9、10)
実施例1〜8と同様に、合成例4で得られたクロス共重合体90質量部、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製YPX−100L)10質量部、酸化防止剤イルガノックス1076:0.1質量部、耐光剤LA36(紫外線吸収剤)0.2質量部、LA77Y(ヒンダードアミン系光安定剤)0.2質量部を添加し、100rpmにて180℃、5分間混練を行った。
得られた組成物から上記加熱プレス法により成形した厚さ0.25mmのシ−トを用い、上記条件で電子線照射を行った。得られた照射シ−トを用い、引っ張り試験、耐熱変形試験、粘弾性スペクトル測定を実施した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】



【0086】
(比較例1〜4)
実施例と同様に合成例1〜4で得たポリマ−に酸化防止剤、耐光剤(紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤)を添加し、実施例と同じ条件で混練し、成形した厚さ0.25mmのシ−トを、電子線照射を行わずに評価を行った。結果を表4に示す。
(比較例5)
実施例9、10と同様に合成例4で得たポリマ−にポリフェニレンエ−テル樹脂、酸化防止剤、耐光剤(紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤)を添加し、実施例と同じ条件で混練し、成形した厚さ0.25mmのシ−トを、電子線照射を行わずに評価を行った。結果を表4に示す。
(比較例6、7)
比較合成例1で得られたポリマ−を用い、上記実施例と同様にしてシ−トサンプルを作成し、電子線照射を行い、または行わずに評価を行った。結果を表5に示す。
(比較例8,9、10)
比較合成例2で得られたポリマ−を用い、上記実施例と同様にしてシ−トサンプルを作成し、電子線照射を行い、または行わずに評価を行った。結果を表5に示す。
(比較例11〜22)
市販のSEBS(水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体)、SBR(水素化スチレン−ブタジエンランダム共重合体)、SEPS(水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体)のコンパウンド1,2、PP/EPR(エチレン−プロピレンゴム)コンパウンド、
エンゲ−ジ8100(エチレン−1−オクテン共重合体)の0.25mm厚さシートを上記同様にプレス成形により作成し、電子線照射を行い、または行わずに評価を行った。以上の結果も表5に示す。
【0087】
【表5】



【0088】
実施例1〜8と比較例1〜4を比較すると、70kGy以上の電子線照射により、ゲル分が40%以上に達し、また粘弾性スペクトル測定による耐熱性(E’が3×10Paに低下する温度)も、電子線照射により大幅に向上し、130℃以上に達していることが解る。力学物性も電子線照射により低下することなく、むしろ照射により破断点強度が増加する傾向が読み取れる。
一方、比較例5,6で示されるように、組成が外れると、70kGyにおける架橋度(ゲル分率)が著しく低下し、耐熱性の発現がみられないことが解る。
さらに、比較合成例2で得られたエチレン−スチレン共重合体は、70、100kGyの照射によっても架橋が進行しない。本エチレン−スチレン共重合体のスチレン含量及び分子量は、合成例2のクロス共重合体の主鎖の組成とほぼ同じであり、また共重合体全体の全スチレン含量は合成例1のクロス共重合体とほぼ同じであるが、得られた電子線架橋性の違いは、本発明のクロス共重合体の特徴を示している。
ゲル分、耐熱性の結果から市販のSEBS、SBR、SEPSコンパウンド、PP/EPRコンパウンドはいずれも70kGyの照射条件では架橋は進行しなかった。ここで、SEPSコンパウンド、PP/EPRコンパウンドはその成分として溶媒不溶のアイソタクティックポリプロピレンを含むので、ゲル分算出に置いては、照射無しサンプルの不要分=ポリプロピレン成分量として、照射後の不溶分質量から差し引き、ゲル分を求めた。
エンゲ−ジ8100(ダウケミカル社製エチレン−オクテン共重合体)は、70kGyの照射量に於いても、実施例クロス共重合体と同レベルの架橋を示した。
【0089】
以上の結果を、WO99−10395号公報のTable11と比較する。本特許文献は、エチレン−スチレン共重合体の電子線架橋性を検討しており、その結果をエンゲ−ジ8100と比較している。照射量10Mrad(本願における100kGyに相当)以下ではいずれのエチレン−スチレン共重合体もゲル分が数%以下と実質的に架橋が進行しないことが示されている。ゲル分が40%以上の架橋度を与えるためには15Mrad(本願における150kGyに相当)以上の照射が必要である。一方、エンゲ−ジ8100は、10Mradでも70%を越えるゲル分を示し、エチレン−スチレン共重合体より際だって高い電子線架橋性を有する。これら文献の結果は、本願比較例7,8,9(エチレン−スチレン共重合体)及び比較例20、21(エンゲ−ジ8100)の結果と一致する。
そして本願実施例に示される特定の組成のクロス共重合体は、70kGyの低線量照射においてもエンゲ−ジと同等の高い電子線架橋性を示すことが解る。
実施例9、10に示されるように、クロス共重合体とポリフェニレンエーテル樹脂からなる組成物も、ゲル分と粘弾性スペクトル測定の結果より同様に良好な電子線架橋性を有することが解る。また電子線架橋後も良好な力学物性を維持した。
【0090】
実施例、比較例で得られたシ−トを用い、以下のようにしてクリ−プ開始温度を測定した。
<クリ−プ開始温度>
JIS2号小型1/2ダンベルを所定のオ−ブン内に吊し、100℃から170℃までの範囲で10℃毎、所定の温度で1時間加熱処理し、処理前とダンベル縦方向、幅方向で長さを測定し、以下の式により伸び/収縮変形率を求めた。本伸び/収縮変形率が縦方向±2%以内に収まる最高温度を耐熱変形温度(クリ−プ開始温度)とした。
伸び変形率=100×(試験後の長さ−試験前の長さ)/試験前の長さ
収縮変形率=100×(試験前の長さ−試験後の長さ)/試験前の長さ
結果を表6に示す。
【0091】
【表6】



【0092】
実施例の架橋シ−トは、比較例にくらべてクリープ開始温度が高く、耐熱性が大幅に向上している。さらに、配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の重量割合がアニオン重合工程を経て最終的に得られるクロス共重合体重量の90質量%以下である場合、電子線架橋後の耐熱性、特にクリ−プ開始温度が150℃以上を示すことができる。
【0093】
(実施例11〜12)
上記実施例1、2と同様に混練し、加熱プレス法により成形し厚さ0.5mmのシ−トを作成した。加速電圧250kVの電子線照射では到達深さは0.25mm程度であるので、本サンプルについては線量70kGyで両面から計2回照射した。
(実施例13)
上記実施例9、10と同様にポリフェニレンエーテル樹脂と混練し、加熱プレス法により成形し厚さ0.5mmのシ−トを作成した。加速電圧250kVの電子線照射では到達深さは0.25mm程度であるので、本サンプルについては線量100kGyで両面から計2回照射した。
本サンプルを用いテ−バ−摩耗試験とスクラッチ試験を実施した。
市販の軟質塩ビ(A硬度70)、TPO(架橋EPDM−ポリプロピレン系コンパウンド、A硬度約70)、TPS(架橋SEBS−ポリプロピレン系コンパウンド、A硬度約70)について同様の評価試験を実施し、表7にその結果を示す。
【0094】
【表7】



【0095】
<テ−バ−摩耗試験>
テ−バ−摩耗試験はJISK7204に準拠し、東洋精機製テ−バ−磨耗試験機を用い、以下の試験条件下で実施し、摩耗量を測定した。
摩耗輪:H−22
円盤の回転速度:1rpm荷重:1kg (回転数1000回転:JIS)
電子線照射後の厚さ0.5mm、一辺約100mmの正方形試験片を厚さ1.5mmのポリプロピレン板に両面テープで台に固定して測定した。
摩耗量120mg以下を合格○印とした。
摩耗量120mgより多い場合×印とした。
【0096】
<耐傷つき性試験>
電子線照射を行った0.5mm、一辺100mmの正方形試験片を厚さ1.5mmのポリプロピレン板に接着し、下記スクラッチテスタ−、下記条件にてスクラッチ後、表面粗さ測定器にて評価を行った。また、傷の形状をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。
スクラッチ
装置) スクラッチテスタ− : テ−バ−式スクラッチテスタ−(東洋精機社製)
条件) 荷重 : 1N
針 : サファイヤ針
スクラッチ速度 : 0.67mm/s
傷測定
装置) 表面粗さ測定機 サ−フテストSJ−400(Mitutoyo社製)
条件) 測定速度 : 0.5mm/s
評価項目 : 傷の最深部と最高部の差(高低差)を測定した。
測定は場所を変えて6回行い、最大値と最小値を除いた後、4回の平均を求めた。
傷高低差が10ミクロン以下を合格:○印とした。傷高低差が10ミクロンより大きい場合、不合格:×印とした。
【0097】
(実施例14〜16)
上記実施例11〜13で得られた厚さ0.5mmのシ−トにそれぞれ同じ条件で電子線照射を行った。本サンプルを用い耐油試験を実施した。
市販の軟質塩ビ(A硬度70)、TPO(架橋EPDM−ポリプロピレン系コンパウンド、A硬度約70)、TPS(架橋SEBS−ポリプロピレン系コンパウンド、A硬度約70)について同様の評価試験を実施し、表8にその結果を示す。
【0098】
【表8】



【0099】
<耐油性試験>
厚さ0.5mmシ−ト上に直径20mm、高さ20mmのパイプをシリコーン系接着剤で接着し、中にパラフィンオイル(ハイコールK−350:カネダ株式会社)を2ml入れ、80℃、24時間加温処理を行った。試験後、オイル、パイプ、接着剤を除去した後に、シ−ト表面上の観察を行った。
オイル接触面の膨潤による変形、膨らみ、波打ちまたは破壊が起こったサンプルを×とした。オイル接触面と非接触面の境界に膨潤による段差が見られる場合は○、段差が全く見えない場合は◎とした。
【0100】
本発明の電子線架橋シートは、市販TPOやTPS、軟質塩ビと比較し、総合的に良好な耐傷つき性、耐摩耗性と耐油性を示すことが解る。
【0101】
(実施例17〜19、比較例23〜24)
実施例1、2、実施例8、9と同様にして、ただし、シボ型を用い上記加熱プレス法により厚さ約0.3mmのシボ付きシ−トを作成した。実施例17〜19では電子線を線量100kGy照射しサンプルを得た。比較例23〜24では電子線を線量30kGyで照射した。
これらのサンプルを120℃のオ−ブンに入れ大気中120時間加熱処理した後に、光沢度をJIS 7105に従い、入射角60°受光角60°で測定した。また、190℃のオーブンに入れ大気中10分加熱処理した後に同様にして光沢度を測定した。結果を表9に示す。
光沢は、加熱処理前の初期値に対し+10%より大きい場合は×、初期値+10%以下+5%より大きい場合は○、初期値+5%以下は◎とした。
比較例ではシボ流れにより光沢が増加しているのに対し、本発明の範囲の電子線照射品では光沢が実質的に増加せず、シボによるつや消しが維持されている。
【0102】
【表9】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(3)の条件を満たすクロス共重合体30〜100質量%の範囲で含む熱可塑性樹脂組成物をエネルギ−線照射により架橋してなる表皮材用シ−ト。
(1)配位重合工程とクロス化工程からなる重合工程を含む製造方法であって、配位重合工程として、シングルサイト配位重合触媒を用いてオレフィンモノマー、芳香族ビニル化合物モノマーおよび芳香族ポリエンの共重合を行ってオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を合成し、次にクロス化工程として、このオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーの共存下、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いて重合することを特徴とする製造方法で得られるクロス共重合体。
(2)配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量である。
(3)クロス化工程で最終的に得られるクロス共重合体に対する配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の質量割合が50〜99質量%である。
【請求項2】
エネルギ−線照射が電子線照射であることを特徴とする請求項1記載の表皮材用シ−ト。
【請求項3】
表面から1回の照射でシ−ト裏面を含む全体の架橋が可能な加速電圧以上の条件で、50kGy以上、150kGy未満の照射電子線線量で架橋を行うことを特徴とする請求項2記載の表皮材用シ−ト。
【請求項4】
ゲル分が20質量%以上、70質量%以下であることを特徴とする請求項2記載の表皮材用シ−ト。
【請求項5】
粘弾性スペクトル測定による貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに低下する温度が、架橋前と比較し10℃以上上昇していることを特徴とする請求項2記載の表皮材用シ−ト。
【請求項6】
粘弾性スペクトル測定による貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに低下する温度が、120℃以上であることを特徴とする請求項2記載の表皮材用シ−ト。
【請求項7】
120℃120時間加熱処理した後の光沢値が加熱処理前の初期値+10%以下に保持されることを特徴とする請求項2記載の表皮材用シ−ト。


【公開番号】特開2011−207936(P2011−207936A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74615(P2010−74615)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】