説明

表皮材

【課題】優れた消臭効果を発揮することができる表皮材を提供する。
【解決手段】目止め層12と目止め層12の一面側に積層された表皮層11とを備えた表皮材10であって、目止め層12は、アミン系物質が添着された第1添着活性炭122と、アルカリ金属の炭酸塩が添着された第2添着活性炭123と、を含み、第2添着活性炭122は、その全体を100質量%とした場合に、アルカリ金属の炭酸塩の割合が10〜25質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材に関し、更に詳しくは、消臭特性を有する表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車両内及び室内などの気密性の向上により、外気と内気との入れ替わりにより行われてきた消臭作用が得られ難くなる傾向にあり、臭気を自動車車両内や室内において消臭できることが望まれている。
この問題に対して、従来、目止め層に消臭作用や抗菌作用が付与されたタフティングカーペットが知られている(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、十分な消臭効果を得られ難い場合がある。即ち、例えば、消臭環境の温度が変化するような状況下では、従来のカーペットは常温において吸着した酢酸等のカルボン酸系物質が、高温、特に60℃以上の温度となると再放出されてしまうという問題がある。この問題は自動車等の室内温度の変化が激しい環境下では特に問題となる。
本発明は、従来の技術に鑑みてなされたものであり、従来に比べてより優れた消臭効果を発揮することができる表皮材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
〈1〉目止め層と該目止め層の一面側に積層された表皮層とを備えた表皮材であって、
前記目止め層は、第1添着活性炭と、第2添着活性炭と、を含み、
前記第1添着活性炭は、アミン系物質が活性炭に添着されており、
前記第2添着活性炭は、アルカリ金属の炭酸塩が活性炭に添着されており、
前記第2添着活性炭は、その全体を100質量%とした場合に、アルカリ金属の炭酸塩の割合が10〜25質量%であることを特徴とする表皮材。
〈2〉前記第1添着活性炭と前記第2添着活性炭との合計を100質量%とした場合に、前記第2添着活性炭は25〜75質量%含有される前記〈1〉に記載の表皮材。
〈3〉前記目止め層の他面側に、更に、バッキング層を備える前記〈1〉又は〈2〉に記載の表皮材。
〈4〉前記表皮層は、基布層と接着層と吸音層とをこの順に備えると共に、前記吸音層が前記目止め層の一面側に積層されている前記〈1〉乃至〈3〉のうちのいずれかに記載の表皮材。
〈5〉前記バッキング層は、複数層から構成される前記〈3〉に記載の表皮材。
【発明の効果】
【0006】
本発明の表皮材によれば、優れた消臭特性を得ることができる。特にカルボン酸系物質の高温環境下での再放出を抑制する特性に優れた消臭特性を得ることができる。
第1添着活性炭と第2添着活性炭との合計を100質量%とした場合に、第2添着活性炭が25〜75質量%含有される場合は、より優れた消臭特性を得ることができる。
目止め層の他面側に、更に、バッキング層を備える場合においても、本発明の表皮材によれば、優れた消臭効果を得ることができる。特にバッキング層が非通気性であっても、優れた消臭効果を発揮できる。
前記表皮層が、基布層と接着層と吸音層とをこの順に備えると共に、前記吸音層が前記目止め層の一面側に積層されている場合は、前記本発明による消臭特性を十分に得ながら、更に、吸音効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の表皮材の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の表皮材の他例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の表皮材の他例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の表皮材の他例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の表皮材10は、目止め層12と目止め層12の一面側に積層された表皮層11とを備えた表皮材であって、目止め層12は、第1添着活性炭122と、第2添着活性炭123と、を含み、第1添着活性炭122は、アミン系物質が活性炭に添着されており、第2添着活性炭123は、アルカリ金属の炭酸塩が活性炭に添着されており、第2添着活性炭123は、その全体を100質量%とした場合に、アルカリ金属の炭酸塩の割合が10〜25質量%であることを特徴とする。
【0009】
前記「表皮層(11)」は、本表皮材の表皮部を構成する層であり、通常、その表面に起毛状態を形成できる繊維層である。この表皮層の構成は特に限定されないが、例えば、タフト布(図1及び図3の符合11参照)、不織布(図2及び図4の符合11参照)、織物及び編物等を用いることができる。
【0010】
このうちタフト布は、図1に例示されるように、基布(基布層)111にパイル糸112をタフティングしてなる布(カーペット)である。また、図3に例示されるように、基布111及び他層にパイル糸112をタフティングしてなる布(カーペット)であってもよい。前記他層としては、吸音層、断熱層、クッション層等が挙げられる。これらの層は1層のみを用いてもよく2層以上を併用してもよい。また、これらの層は層間を接着するために接着層を介在することができる。
【0011】
前記タフト布を構成する基布111の種類は特に限定されず、各種不織布及び各種織布を用いることができるが、不織布が好ましく、更には、スパンボンドが好ましい。更に、その材質も特に限定されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられるが、ポリエステルが好ましい。即ち、基布111としては、ポリエステル製スパンボンド不織布が好ましい。基布111がスパンボンドである場合の目付は特に限定されないが、50〜150g/mが好ましく、更には80〜120g/mが好ましい。
【0012】
一方、パイル糸としては、先端がループ状のループパイル、先端が切断されたカットパイル等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、このパイル糸の反表皮側の先端部は、図1及び図3に例示されるように、目止め層側にU字状に突出していることが好ましい。これにより、目止め層によって確実に目止めされてパイル糸の脱落を効果的に防止できる。また、パイル糸の材質は特に限定されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられるが、ポリアミドが好ましい。
【0013】
更に、前記表皮層11(表皮層11が複数層から構成される場合においては基布111)を不織布で構成する場合(図2及び図4参照)、その不織布はどのような不織布を用いてもよい。また、不織布をニードルでパンチングすることでより効果的な起毛状態(例えば、ベロア調等)を形成して用いることができる。更に、その材質も特に限定されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられるが、ポリエステルが好ましい。即ち、ポリエステル製ニードルパンチ不織布が好ましい。更に、二枚の不織布を積層してニードルパンチを施したツインニードルパンチ不織布等を用いることもできる。布基布111が不織布である場合、この不織布の構成繊維の繊度は特に限定されないが、2.2〜17デシテックス(特に、6.6〜11デシテックス)であることが好ましい。
更にその他、フックカーペット、段通カーペット等を用いることもできる。
【0014】
また、図4に例示されるように、基布111として不織布(パイル糸を有さない不織布)を用いつつ、複数層から表皮層11を構成する場合にあっては、基布111以外の他層として、吸音層、断熱層、クッション層等を用いることができる。これらの層は1層のみを用いてもよく2層以上を併用してもよい。更に、これらの層は層間を接着するために接着層を介在することができる。
【0015】
この表皮層11の一部として用いることができる吸音層113(図3及び図4参照)は、音を吸収するための層である。この吸音層の構成は吸音特性を発揮できればよく特に限定されないが、例えば、ニードルパンチ処理を施したポリエステル製の不織布を用いることができる。特に吸音特性を発揮させるために、不織布の繊維の繊度は、2.2〜17dtex、特に6.6〜11dtexであることが好ましい。
また、前記接着層は、2つの層の層間に介在して、これら2つの層を接着するための層である。この接着層としては、接着剤のみからなる層、通気性フィルムに接着剤が塗布されてなる層、更には、熱融着層(加熱によって2つの層間で溶融された熱可塑性樹脂などからなる層)などが挙げられる。これらの層は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、前記接着層は、タフティングにより孔が開けられ、通気可能となるため、非通気性フィルムに接着剤が塗布されたものであってもよい。
【0016】
前記「目止め層」は、表皮層を構成する繊維を目止めする層であると共に、第1添着活性炭122及び第2添着活性炭123(以下、単に「添着活性炭」ともいう)を含む層である。この目止め層は添着活性炭を含み且つ表皮層の目止めを行うことができればよくその構成は特に限定されないが、これらの両方の特性を発揮するために、通常、有機高分子成分121を含む。
有機高分子成分121は特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の樹脂、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)MBR(メチルメタクリレ−ト−ブタジエンゴム)、天然ゴム等のゴム成分が挙げられる。これらのなかでは、アクリル樹脂が好ましい。これらの有機高分子成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
更に、この有機高分子成分121は、どのような形態で目止め層内に含まれていてもよいが、目止め層に含まれる添着活性炭の吸着特性をより効果的に発揮させるために、適度な通気性(多孔性)を有することが好ましい。この通気性はどのように付与されていてもよいが、例えば、発泡状態とすることにより連泡構造が得られ、表皮層を構成する繊維に対する目止め機能を十分に発揮しながら、添着活性炭に対する通気を得ることができ、目止め層内に含まれる添着活性炭をより効果的に機能させることができる。
【0018】
前記目止め層の形成方法は特に限定されないが、通常、有機高分子成分121と添着活性炭122及び123とが分散媒に分散含有された分散体を各種塗布方法を用いて、表皮層の裏面側に塗布し、その後、分散媒を除去(乾燥)して形成される。また、この分散体には、必要に応じて分散質の分散状態をより良くするためのpH調整を施すことができる。更に、分散体内において添着活性炭が沈降することを抑制するための沈降防止剤を配合することができる。前記塗布方法は特に限定されず、ロールコーター、バーコーター、スプレー塗布及びディッピング等の各種方法で形成することができる。
また、塗布量(塗工量)も特に限定されないが、分散体のうちの固形分のみによる換算で、5〜200g/mが好ましく、50〜100g/mがより好ましい。
尚、前記分散体の分散媒の種類は特に限定されず、有機分散媒を用いてもよいが、水系分散媒を用いることが好ましく、特に水が好ましい。
【0019】
更に、前述のように、本発明のおける目止め層は通気性を有することが好ましいことから、有機高分子成分と添着活性炭とを含む分散体を発泡させて(ムース状にして)塗布することが好ましい。これにより、多孔質な目止め層が形成されて、通気性が得られることにより、目止め層の内部に配置された添着活性炭をより有効に機能させることができる。発泡させる場合の発泡倍率は特に限定されないが、通常、2倍以上が好ましく、4〜9倍がより好ましい。尚、発泡倍率とは、発泡前の分散質(分散体から分散媒を除いた部分)の比重をDとし、目止め層の比重をDとした場合におけるD/Dの値である。
【0020】
前記「第1添着活性炭」は、アミン系物質が添着された活性炭である。このアミン系物質とは、分子中に−NH−構造を有する成分である。アミン系物質としては、ヒドロキシルアミン、クロルアミン、アンモニア、メタノールアミン、エタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、プロリン、ヒドロキシプロリン、ジシアノジアミド、エチレンイミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、テトラメチレンジアミン、炭酸グアニジン、グリシン、アラニン、ザルコシン、グルタミン酸、ヘキサメチレンジアミン、メラミン、モルホリン、2−アミノ−4,5−ジシアノイミダゾール、3−アザヘキサン−1,6−ジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、α−アミノ−ε−カプロラクタム、アセトグアナミン、グアニン、アセトアルデヒドアンモニア、4,7−ジアザデカン- 1,10−ジアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、アミノ安息香酸塩、チオ尿素、メチル尿素、エチル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、エチレン尿素、アセチル尿素、グアニル尿素、グアニルチオ尿素、アゾジカルボンアミド、グリコリルウレア、アセチルウレア、ホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、オキサミド、ピロリドン、ピロリドンカルボン酸、オキサミン酸、コハク酸アミド、ジシアンジアミド、オキサゾリドン、マロンアミド、スクシンイミド、フタルイミド、マレイミド、コハク酸イミド、ヒダントイン、バルビツール酸、1−メチロール−5,5−ジメチルヒダントイン、イソシアヌル酸、アニリンなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、アミノ基を有するアミン系物質が好ましく、更には、エタノールアミン(モノエタノールアミン)、モルホリン、アニリン、エチレン尿素及びピペラジンをアミン系物質として含有することが特に好ましい。
【0021】
一方、第1添着活性炭における添着基材としての活性炭は特に限定されず、種々のものを用いることができる。即ち、例えば、椰子殻、おが屑、石炭、木炭、樹脂などを原料として公知の方法により賦活された活性炭を用いることができる。これらのなかでは、比表面積が大きく且つ口径2nm以下の細孔分布量が大きい(細孔直径分布が好ましい)という観点から椰子殻に由来する活性炭が好ましい。その形態も特に限定されず、粉末状、破砕状、繊維状等の活性炭を用いることができるが、より表面積が大きく、小さいことが好ましいため、粉末状の活性炭が好ましい。
更に、活性炭の粒径は特に限定されないが、1〜300μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。この範囲では、目止め層において、有機高分子成分により被覆され難く且つ添着活性炭の脱落を十分に抑制でき、添着活性炭をより効果的に機能させることができる。尚、添着活性炭の好ましい粒径は、前記添着基材としての活性炭の好ましい粒径と同じである。
【0022】
この第1添着活性炭におけるアミン系物質の割合は特に限定されないが、第1添着活性炭全体を100質量%とした場合に、アミン系物質は1〜50質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることが特に好ましい。
この第1添着活性炭の吸着に適した成分としては、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド系物質が挙げられる。尚、第1添着活性炭は、添着基材としての活性炭が元来適正を有している吸着成分に対しての吸着性能も維持している。この吸着成分としては、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の炭化水素系物質が挙げられる。
【0023】
前記「第2添着活性炭」は、アルカリ金属の炭酸塩が添着された活性炭である。添着基材としての活性炭は、アルカリ金属の炭酸塩が添着されていなくともカルボン酸系物質に対する吸着特性を有しているが、このアルカリ金属の炭酸塩が添着されていることにより、高温下におけるカルボン酸物質の再放出を抑制することができ、特にこの添着量を本発明の範囲内とすることにより、カルボン酸系物質の再放出をとりわけ顕著に抑制できる。
このアルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等が挙げられる。これらのなかでは、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムの炭酸塩が好ましく、更には、炭酸カリウムがより好ましい。
【0024】
一方、第2添着活性炭における添着基材としての活性炭は特に限定されず、種々のものを用いることができ、前記第1添着活性炭における添着基材としての活性炭をそのまま適用できる。但し、第1添着活性炭における活性炭と第2添着活性炭における活性炭とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
この第2添着活性炭におけるアルカリ金属の炭酸塩の割合(以下、「添着量」ともいう)は、第2添着活性炭全体を100質量%とした場合に、アルカリ金属の炭酸塩は10〜25質量%である。添着量が10質量%未満となると高温下におけるカルボン酸系物質の再放出を抑制できなくなるため好ましくない。一方、この添着量が25質量%を越えると添着基材としての活性炭が有するカルボン酸系物質以外の他の有機成分に対する吸着特性を低下させることとなるため好ましくない。この添着量は10〜20質量%であることがより好ましい。この範囲では、カルボン酸系物質の再放出を抑制しながら、他の有機成分に対する吸着特性を更に向上させることができる。また、この添着量は10〜15質量%であることが特に好ましい。この範囲では、カルボン酸系物質の再放出を抑制しながら、他の有機成分に対する吸着特性の変動を効果的に抑制して、アルカリ金属の炭酸塩が添着されていない場合と同等の他の有機成分に対する吸着性を得ることができる。
【0026】
この第2添着活性炭が吸着できる成分としては、各種の酸性ガスが挙げられる。酸性ガスとしては、酢酸、硫化水素、メルカプタン及び酪酸等が挙げられる。尚、第2添着活性炭は、添着基材としての活性炭が元来適正を有している吸着成分に対しての吸着性能も維持している。この吸着成分としては、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の炭化水素系物質が挙げられる。
【0027】
前記第1添着活性炭と第2添着活性炭との配合割合は特に限定されないが、第1添着活性炭及び第2添着活性炭の合計を100質量%とし、第2添着活性炭の割合(以下、「第2添着活性炭の含有量」という)は25〜75質量%が好ましく、25〜50質量%がより好ましい。この範囲では、第1添着活性炭及び第2添着活性炭の両方の特性を効果的に得ることができる。即ち、アルデヒド系物質及びカルボン酸系物質の両方に対する高い吸着性能を得つつ、高温時のカルボン酸系物質の再放出を抑制し、更に、炭化水素系物質に対しても高い吸着特性を発揮させることができる。
【0028】
また、特に前記添着量との相関において、第2添着活性炭の添着量が15質量%を越えて25質量%以下である場合には、第2添着活性炭の含有量は30質量%以下とすることが好ましく、25〜30質量%が好ましい。この範囲では、無添着活性炭を併用することで、第1添着活性炭及び第2添着活性炭の両方の特性を更に効果的に発揮させつつ、炭化水素系物質に対する吸着特性を向上させることができる。
【0029】
一方、第2添着活性炭の添着量が10質量%以上且つ15質量%以下である場合には、第2添着活性炭の含有量は30質量%を越えることが好ましく、35〜50質量%が好ましい。この範囲では、無添着活性炭を併用せずとも(実質的に含有されなくとも)、第1添着活性炭及び第2添着活性炭の併用だけによって、アルデヒド系物質及びカルボン酸系物質の両方に対する高い吸着性能を得つつ、高温時のカルボン酸系物質の再放出を抑制し、更に、炭化水素系物質に対しても高い吸着特性を発揮させることができる。この場合には、2種の添着活性炭を混合し、表皮材に配合すればよく、混合作業が簡便であると共に、製造設備も簡素化でき、作業性にも優れる。
【0030】
尚、第1添着活性炭及び第2添着活性炭以外の他の添着活性炭(前記無添着活性炭及び後述する他の添着活性炭等)を併用する場合は、第1添着活性炭、第2添着活性炭及びその他の添着活性炭の合計を100質量%とし、他の添着活性炭の割合は30質量%以下とすることが好ましく、1〜30質量%がより好ましく、1〜25質量%が特に好ましい。
【0031】
前記無添着活性炭とは、添着活性炭における添着基材となる活性炭である。即ち、例えば、椰子殻、おが屑、石炭、木炭、樹脂などを原料として公知の方法により賦活された活性炭を用いることができる。これらのなかでは、比表面積が大きく且つ口径2nm以下の細孔分布量が大きい(細孔直径分布が好ましい)という観点から椰子殻に由来する活性炭が好ましい。その形態も特に限定されず、粉末状、破砕状、繊維状等の活性炭を用いることができるが、より表面積が大きく、小さいことが好ましいため、粉末状の活性炭が好ましい。更に、その好ましい粒径は添着活性炭におけると同様である。
【0032】
また、前記第1添着活性炭及び前記第2添着活性炭にはその目的を阻害しない範囲で、前記第1添着活性炭についてはアミン系物質以外、また、前記第2添着活性炭については前記アルカリ金属の炭酸塩以外、の他の添着成分が添着されていてもよい。他の添着成分としては、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ金属の炭酸塩を除く他の塩が挙げられる。このアルカリ金属としては、Na、K及びLiが挙げられる。前記ハロゲン化物を構成するハロゲンとしては、臭素及びヨウ素等が挙げられる。前記塩としては、水酸化物等が挙げられる。これらの成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
更に、これらの添着成分は、前記第1添着活性炭及び前記第2添着活性炭以外に、他の添着活性炭(以下、単に「第3添着活性炭」という)として配合されてもよい。
また、前記第1添着活性炭、前記第2添着活性炭及び第3添着活性炭以外に、塩基性ガスを吸着させるための第4添着活性炭を含有できる。第4添着活性炭の構成は特に限定されないが、酸性物質が添着された添着活性炭が好ましい。この酸性物質としては、水溶性酸成分(水に溶解して酸性を示す成分、リン酸及び硫酸等)が挙げられる。これらの成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。第4添着活性炭の吸着成分(塩基性ガス)としては、アンモニア、トリメチルアミン及びピリジン等が挙げられる。
【0034】
前述のように、目止め層は好適には、有機高分子成分と添着活性炭とを含む分散体から形成される。分散体の分散状体はpHにより維持されている場合があり、このような場合には、pHの変動が少ない添着活性炭を配合して用いることで、前記分散体の分散状態をより良好に維持できる。この観点から、活性炭のみによるpHは6〜9が好ましい。第1添着活性炭及び第2添着活性炭は、分散体に混合した際に、pHを6〜9に維持しやすく、分散体の分散状態をより維持できるために好ましい。
【0035】
また、前記添着活性炭の配合によりpHが変動する場合には、pH調整を施すことができる。pH調整としては、酸性側へpH調整を行う場合には、クエン酸、リン酸、硫酸、塩酸等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。一方、塩基性側へpH調整を行う場合には、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
その他、前記分散体の分散性を向上させるために、界面活性剤を配合できる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更には、分散体の粘度を調整するために、増粘剤を配合することもできる。この分散体の粘度を調整することで表皮層への浸透具合を調整することができる。更に、前述のように、分散体内において添着活性炭が沈降することを抑制するための沈降防止剤を配合することができる。
【0036】
更に、前記有機高分子成分{特に分散体(ラテックス)中の固形分}と添着活性炭との配合割合は特に限定されないが、添着活性炭は10〜90質量%とすることができ、20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましく、30〜50質量%が特に好ましい。前記好ましい範囲では、添着活性炭の表面が有機高分子成分で被覆される割合を小さくしつつも、十分に添着活性炭を目止め層内に固定することができ効果的に添着活性炭を機能させることができる。特に前記より好ましい範囲及び特に好ましい範囲では、その効果は顕著に得られる。
【0037】
本発明の表皮材は、前記表皮層及び前記目止め層以外にも他の構成を備えることができる。他の構成としては、バッキング層(図1〜図4の符合13)が挙げられる。バッキング層は、目止め層の前記他面側(裏面側)に配置される層であり、前記他面側からの音を遮音する遮音層として機能、更には、保形性を向上させたりすることができる。更に、このバッキング層は1層のみからなってもよく、複数層からなってもよい。多層化されたバッキング層は何層から構成されてもよいが、通常、2〜5層であり、2〜3層がより好ましい。複数層からなる場合にあっては、各層が異なる機能を有することができる。
【0038】
このバッキング層の材質は特に限定されないが、樹脂、エラストマー及びゴム等により形成できる。これにより、遮音性に優れた表皮材とすることができる。前記樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでもポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレンがより好ましく、低密度ポリエチレンが特に好ましい。十分な強度及び柔軟性並びに加工性を有しつつ、優れた遮音性を発揮できる。また、前記エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、前記ゴムとしては、ブダジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム及びクロロプレンゴム等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0039】
このバッキング層は、通気性を有してもよいが、通気性を有さない層とすることが好ましい。これにより、前記優れた遮音特性に加えて、防水特性を得ることができ、防錆効果を発揮させることができる。また、バッキング層が複数層から構成される場合には、少なくとも1層が前記非通気性の層であることが好ましい。更に、バッキング層が複数層から構成される場合には、このうちの少なくとも1層以上を不織布などで形成することができる。
【実施例】
【0040】
(1)混合活性炭の調製
表1に示す配合(活性炭の全量が100質量%)となるように、各活性炭を混合して混合活性炭AC1〜AC11を得た。
【表1】

【0041】
前記各活性炭としては、以下の製品を用いた。
第1添着活性炭 (1);日本エンバイロケミカルズ株式会社製、品名「白鷺GAA」
第2添着活性炭(21);添着量5質量%の炭酸カリウム添着活性炭
第2添着活性炭(22);添着量10質量%の炭酸カリウム添着活性炭
第2添着活性炭(23);添着量15質量%の炭酸カリウム添着活性炭
第2添着活性炭(24);添着量20質量%の炭酸カリウム添着活性炭
第2添着活性炭(25);添着量25質量%の炭酸カリウム添着活性炭
無添着活性炭 (3);日本エンバイロケミカルズ株式会社製、品名「白鷺G2c」
尚、前記第2添着活性炭(21)〜(25)の添着基材の活性炭は、いずれも無添着活性炭(3)と同じ。
【0042】
(2)ラテックスの調製
前記混合活性炭AC1〜AC11の各々を、ラテックス(アクリル樹脂水系エマルジョン、固形分濃度50質量%、pH8.5)に添加して混合して、混合活性炭とラテックスとを含む水分散体を調製した。各混合活性炭とラテックスとの配合は、混合活性炭とラテックスの固形分との合計量を100質量%として、混合活性炭が40質量%、ラテックスの固形分が60質量%、となるようにした。
【0043】
(3)試験用の表皮材の製造
(3−1)試験用の表皮材CP1〜CP11
目付350g/mのニーパン不織布(ニードルパンチで表面を起毛させた)を表皮層とした。この表皮層の裏面(起毛させていない側)に、先に調製した各ラテックス(アクリル樹脂水系エマルジョン、固形分濃度50質量%)を発泡させた発泡ラテックスをロールコーターで、固形分質量換算100g/mの塗工量で塗工した。その後、温度170℃で5分間乾燥させて目止め層を形成して、表皮層の裏面側に目止め層が積層された積層物を得た。この積層物の目止め層側に、Tダイ溶融押出機を用いてオレフィン系樹脂(ポリエチレン)をフィルム状に直接、押し出してロール圧着した。更に、その後、成形加熱を180℃で2分間行い、冷却して、非通気性のバッキング層を有する表皮材CP1〜CP11(各表皮材における混合活性炭の合計含有量は40g/mである)を得た。
【0044】
(3−2)試験用の表皮材CP12
前記基布層111にパイル糸112をタフティング(植毛)してなる表皮層11の裏面に、先に調製した混合活性炭AC7を含むラテックス(アクリル樹脂水系エマルジョン、固形分濃度50質量%)を発泡させた発泡ラテックスをロールコーターで、固形分質量換算60g/m(即ち、ラテックス固形分が30g/m、混合活性炭AC7が30g/mで塗工されている換算となる)で塗工した。その後、温度170℃で5分間乾燥させて目止め層12を形成して、表皮層11の裏面側に目止め層12が積層された積層物を得た。この積層物の目止め層12側に前記(3−1)と同様に非通気性の第1バッキング層131を形成した。更に、この第1バッキング層131の裏面側に第2バッキング層132を積層して、バッキング層13を形成して、本発明の表皮材CP12(表裏通気がない、混合活性炭の合計含有量は30g/mである)を得た。
【0045】
尚、表皮材CP12において、基布層111は目付け100g/mの不織布である。また、パイル糸112は目付け450g/mで基布層111に植毛されている。前記第1バッキング層131はポリエチレンから構成され、目付け350g/mである。更に、第2バッキング層132は不織布から構成され、目付け15g/mである。
【0046】
(3−3)試験用の表皮材CP13
基布層111と吸音層114とを接着層113を介して接着した積層物にパイル糸112を植毛してなる表皮層11の裏面に、先に調製した混合活性炭AC7を含むラテックス(アクリル樹脂水系エマルジョン、固形分濃度50質量%)を発泡させた発泡ラテックスをロールコーターで、固形分質量換算60g/mの塗工量(即ち、ラテックス固形分が30g/m、混合活性炭AC7が30g/mで塗工されている換算となる)で塗工した。その後、温度170℃で5分間乾燥させて目止め層12を形成して、表皮層11の裏面側に目止め層12が積層された積層物を得た。この積層物の目止め層12側に前記(3−1)と同様に非通気性の第1バッキング層131を形成した。更に、この第1バッキング層131の裏面側に第2バッキング層132を積層して、バッキング層13を形成して、本発明の表皮材CP13(表裏通気がない、混合活性炭の合計含有量は30g/mである)を得た。
【0047】
尚、表皮材CP13において、基布層111は目付け80g/mの不織布である。また、パイル糸112は目付け550g/mで基布層111に植毛されている。更に、吸音層113は目付け300g/mの不織布であり、接着層114はポリエチレンフィルムから構成され、目付け18g/mである。前記第1バッキング層131はポリエチレンから構成され、目付け350g/mである。更に、第2バッキング層132は不織布から構成され、目付け15g/mである。
【0048】
(4)消臭試験1(1時間経過後の残留濃度の測定)
前記(1)〜(3)で得られた各表皮材を100mm×80mmに裁断して試験片とした。次いで、容積10リットルのガスバック(ジーエルサイエンス株式会社)内に前記各試験片を投入し、更に、表2に示す試験ガス{酢酸、トルエン、アセトアルデヒド}100ppmを各々4リットル(温度35℃)ずつ注入して、各試験ガスが各々含まれた環境を形成した。そして、注入してから1時間経過後の濃度の各試験ガスの濃度を検知管式測定器(株式会社ガステック製)を用いて測定した。各試験ガスの測定には表2に記載した各試験ガスに対応する検知管を用いた。この結果を表2に示した。
【0049】
(5)消臭試験2(加熱による再放出濃度の測定)
前記(4)の消臭試験1の後、ガスバック内の全ての気体を抜いた後、4リットルの窒素ガスを注入した。ついで、80℃で2時間維持した後、各試験ガスの濃度を検知管式測定器(株式会社ガステック製)を用いて測定した。各試験ガスの測定には表2に記載した各試験ガスに対応する検知管を用いた。この結果を表2に示した。
【0050】
【表2】

【0051】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の表皮材は、自動車、鉄道車両、船舶、航空機、屋内等における各種装備品及び内装品などの表皮材として好適に用いられる。このうち自動車用途としては車両用カーペットとして好適に利用される。即ち、例えば、フロアカーペット及び用品カーペット等として広く利用でき、これらのうちでも、フロアカーペットとして好適である。更に、その他、屋内カーペット、椅子の表皮材、畳、カーテン等が挙げられる。
【符号の説明】
【0053】
10;表皮材、
11;表皮層、111;基布(基布層)、112;パイル糸、113;接着層、114;吸音層、
12;目止め層、121;有機高分子成分、122;第1添着活性炭、123;第2添着活性炭、
13;バッキング層、131;第1バッキング層、132;第2バッキング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目止め層と該目止め層の一面側に積層された表皮層とを備えた表皮材であって、
前記目止め層は、第1添着活性炭と、第2添着活性炭と、を含み、
前記第1添着活性炭は、アミン系物質が活性炭に添着されており、
前記第2添着活性炭は、アルカリ金属の炭酸塩が活性炭に添着されており、
前記第2添着活性炭は、その全体を100質量%とした場合に、アルカリ金属の炭酸塩の割合が10〜25質量%であることを特徴とする表皮材。
【請求項2】
前記第1添着活性炭と前記第2添着活性炭との合計を100質量%とした場合に、前記第2添着活性炭は25〜75質量%含有される請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記目止め層の他面側に、更に、バッキング層を備える請求項1又は2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記表皮層は、基布層と接着層と吸音層とをこの順に備えると共に、前記吸音層が前記目止め層の一面側に積層されている請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の表皮材。
【請求項5】
前記バッキング層は、複数層から構成される請求項3に記載の表皮材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−98188(P2011−98188A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61523(P2010−61523)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】