説明

表示体、その製造方法及び読取方法、並びに判別方法

【課題】優れた偽造防止効果を達成する。
【解決手段】本発明によると、一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造が設けられた樹脂層11を具備し、前記樹脂層11は、表面に前記レリーフ構造の少なくとも一部が設けられた第1領域A1と、前記第1領域A1と面内方向に隣り合い且つ前記第1領域A1と比較してガラス転移点がより高い第2領域A2とを含んだことを特徴とする表示体10が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機密性を要する情報は、容易に観察され得ないようにする必要がある。そのため、このような情報が記録された物品、例えば、抽選券、スクラッチタイプのくじ及びプリペイドカードなどの物品には、上記情報を隠蔽するための被覆層を設けることが多い。ところが、このような被覆層を設けた場合であっても、これを剥離して情報を読み取った後、類似の視覚効果を有した被覆層を再度設けるという不正行為が後を絶たない。
【0003】
このような不正行為を抑止すべく、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ホログラムを含んだ被覆層を使用することが記載されている。ホログラムは、構造が比較的複雑であり且つ特殊な視覚効果を示すため、この被覆層を剥離した後に、これと類似した被覆層を設けることは困難である。それゆえ、この技術を適用することにより、上記の不正行為を、ある程度抑止することができる。
【特許文献1】特開平8−216577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような技術を適用した場合であっても、以下に例示するような不正行為が懸念される。
【0005】
(1)被覆層を剥離して情報を読み取った後、剥離した被覆層自体を貼り付けなおす行為。
(2)被覆層上から高強度の光線を照射して、情報を読み取る行為。
(3)情報を読み取った上で、その情報を書き換える行為。
即ち、上記のような技術を適用した場合であっても、優れた偽造防止効果を達成できない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、優れた偽造防止効果を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造が設けられた樹脂層を具備し、前記樹脂層は、表面に前記レリーフ構造の少なくとも一部が設けられた第1領域と、前記第1領域と面内方向に隣り合い且つ前記第1領域と比較してガラス転移点がより高い第2領域とを含んだことを特徴とする表示体が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、光硬化性樹脂を含み且つ一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造が設けられた樹脂層をパターン露光することにより、表面に前記レリーフ構造の少なくとも一部が設けられ、前記光硬化性樹脂を含んだ第1領域と、前記第1領域と面内方向に隣り合い且つ前記光硬化性樹脂の硬化物を含んだ第2領域とを形成することを具備したことを特徴とする表示体の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第3側面によると、第1側面に係る表示体に記録された情報を読み取るための読取方法であって、前記表示体を前記第1領域のガラス転移点以上且つ前記第2領域のガラス転移点より低い温度まで加熱して、前記第1領域の一方の主面に設けられたレリーフ構造の断面形状を変化させることと、前記加熱後の前記表示体に表示された像を読み取ることとを具備したことを特徴とする読取方法が提供される。
【0010】
本発明の第4側面によると、判別対象物を真正品と非真正品との間で判別するための判別方法であって、前記判別対象物を、第1側面に係る表示体の前記第1領域のガラス転移点以上且つ前記第2領域のガラス転移点より低い温度まで加熱した際に、前記加熱後の前記表示体に表示されるべき像が観察されなかった場合には非真正品であると判別することを具備したことを特徴とする判別方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、優れた偽造防止効果を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0014】
この表示体10は、樹脂層11と反射層13との積層体を含んでいる。図2に示す例では、樹脂層11側を前面側とし且つ反射層13側を背面側としている。樹脂層11と反射層13との界面の少なくとも一部には、レリーフ構造、即ち凹構造及び/又は凸構造が設けられている。そして、樹脂層11と反射層13との積層体は、接着層15を介して、支持体16に支持されている。
【0015】
樹脂層11の材料としては、典型的には、光透過性を有する樹脂を使用する。例えば、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹構造及び/又は凸構造が設けられた樹脂層11を容易に形成することができる。
【0016】
典型的には、樹脂層11の材料として、無色且つ透明の光硬化性樹脂を使用する。例えば、樹脂層11の材料として、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリプロピレンなどを使用することができる。但し、樹脂層11の材料として使用する樹脂は、その硬化物のガラス転移点が比較的高いものであることが望ましい。
【0017】
樹脂層11は、光透過性基材と樹脂を含んだ層との積層体であってもよい。樹脂層11の厚みは、例えば、0.5μm乃至100μmとする。
【0018】
樹脂層11は、一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造を備えている。図1及び図2には、一例として、樹脂層11の反射層13と接する側の主面の全体にレリーフ構造が設けられている場合を描いている。
【0019】
このレリーフ構造は、表示体10の視覚効果に影響する。即ち、このレリーフ構造は、典型的には、光学素子を構成している。例えば、このレリーフ構造は、回折格子又はホログラムを構成している。或いは、このレリーフ構造は、光散乱体を構成していてもよい。或いは、このレリーフ構造は、レンズ又はプリズムを構成していてもよい。例えば、レリーフ構造が回折格子又はホログラムを構成している場合、表示体10は、観察方向に応じて、異なる色を表示する。このような構造は、複製又は偽造することが比較的困難である。それゆえ、表示体10は、このようなレリーフ構造が設けられていない場合と比較して、優れた偽造防止効果を発揮する。
【0020】
樹脂層11は、表面に上記レリーフ構造の少なくとも一部が設けられた第1領域A1と、第1領域A1と面内方向に隣り合った第2領域A2とを含んでいる。典型的には、第1領域A1の表面には上記レリーフ構造の一部が設けられ、第2領域A2の表面には上記レリーフ構造の他の一部が設けられている。図1及び図2には、一例として、樹脂層11の一方の主面の全体にレリーフ構造が設けられており、樹脂層11が第1領域A1及び第2領域A2のみからなる場合を描いている。
【0021】
第1領域A1又は第2領域A2は、例えば、くじの抽選番号などの機密にすべき情報に対応したパターンを構成している。このパターンは、文字、記号、図形及び絵柄などの任意の形状とすることができる。図1及び図2には、一例として、第2領域A2が「TP」なる文字情報に対応したパターンを構成している場合を描いている。
【0022】
第1領域A1と第2領域A2とは、ガラス転移点が互いに異なっている。以下、第2領域A2のガラス転移点T2は、第1領域A1のガラス転移点T1と比較してより高いものとする。即ち、T1<T2の関係が成り立つとする。なお、第1領域A1と第2領域A2との間に、表面にレリーフ構造が設けられておらず且つ第1領域A1とガラス転移点が等しい第3領域が存在していてもよい。
【0023】
典型的には、第1領域A1は、光硬化性樹脂を含んでいる。そして、第2領域A2は、その硬化物を含んでいる。この場合、表示体10のうち第1領域A1に対応した第1部分P1と第2領域A2に対応した第2部分P2とは、極めて類似した光学特性を示す。従って、この場合、第1部分P1と第2部分P2とは、樹脂層11の上記主面に垂直な方向から肉眼で観察した際に、互いに識別不可能である。即ち、第1部分P1又は第2部分P2は、潜像を形成している。なお、一般に、未硬化の光硬化性樹脂のガラス転移点は、上記光硬化性樹脂の硬化物のガラス転移点と比較してより低い。従って、この場合、T1<T2の関係が成立する。
【0024】
第1領域A1及び第2領域A2は、ガラス転移点が互いに異なる別種の樹脂を含んでいてもよい。即ち、第1領域A1が第1樹脂を含み、第2領域A2が上記第1樹脂と比較してガラス転移点がより高い第2樹脂を含んだ構成を採用してもよい。但し、この場合、第1部分P1及び第2部分P2の光学特性が互いに類似するように、第1及び第2樹脂を選択することが望ましい。即ち、第1部分P1と第2部分P2とが、樹脂層11の上記主面に垂直な方向から肉眼で観察した際に、互いに識別不可能となるようにすることが望ましい。
【0025】
第1領域A1のガラス転移点T1と第2領域A2のガラス転移点T2との差(T2−T1)は、例えば70℃以上、典型的には100℃以上とする。この温度差が大きい程、後述する像の読み取り等がより容易となる。
【0026】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、樹脂層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち誘電体多層膜を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち樹脂層11と接触しているものの屈折率は、樹脂層11の屈折率とは異なっている必要がある。
【0027】
反射層13の厚みは、例えば5nm乃至60nmの範囲内、典型的には40nm乃至60nmの範囲内とする。反射層13の厚みが40nm以上である場合、表示体10の反射率が面内方向で均一となり易い。
【0028】
反射層13は、樹脂層11の主面の一部のみに設けてもよい。例えば、反射層13は、樹脂層11の主面のうちレリーフ構造が設けられた領域のみに設けてもよい。或いは、反射層13は、省略してもよい。但し、表示体10が反射層13を含んでいる場合、反射層13を含んでいない場合と比較して、上記レリーフ構造の損傷を生じ難く、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。なお、反射層13の存在する領域を空間的に分布させることにより、この反射層の分布を用いて、特にはこの反射層の存在する領域の輪郭を用いて、図柄等を表現することもできる。
【0029】
表示体10は、反射層13を被覆した接着層15を更に含んでいる。接着層15を設けると、反射層13の表面が露出しないようにできるため、上記レリーフ構造の複製が更に困難となる。樹脂層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、接着層15は、樹脂層11上に形成する。接着層15は、省略してもよい。
【0030】
また、表示体10では、樹脂層11と反射層13との積層体は、接着層15を介して、支持体16に支持されている。支持体16は、例えば、抽選券などを構成する紙である。或いは、支持体16は、プリペイドカードなどのカードの基材であってもよい。或いは、支持体16は、樹脂層11と反射層13と接着層15とからなるステッカの台紙であってもよい。この場合、上記ステッカは、例えば、偽造を防止すべき物品の所望の箇所に貼付して使用する。支持体16は、省略してもよい。
【0031】
次に、表示体10に記録された情報の読取方法について説明する。
上述したように、第1部分P1又は第2部分P2は、典型的には、潜像を形成している。そこで、以下では、一例として、この潜像を可視化する方法について説明する。
【0032】
図3は、表示体に読取可能な像が表示された状態の一例を示す平面図である。
この読取方法では、表示体10を、第1領域A1のガラス転移点T1以上であり且つ第2領域A2のガラス転移点T2より低い温度Tまで加熱する。即ち、表示体10を、T1≦T<T2を満足する温度Tまで加熱する。こうすると、第1領域A1を構成している樹脂の流動性が向上する。これに起因して、第1領域A1の一方の主面に設けられていたレリーフ構造の断面形状が変化する。例えば、第1領域A1の一方の主面に設けられていたレリーフ構造の高さ又は深さが小さくなる。典型的には、第1領域A1の一方の主面に設けられていたレリーフ構造が平坦化される。或いは、第1領域A1の一方の主面に設けられていたレリーフ構造の配列の規則性が低下する。例えば、このレリーフ構造は、無秩序な凹凸構造となる。
【0033】
従って、上記の加熱により、当該レリーフ構造を備えた第1部分P1の光学特性及び視覚効果が変化する。例えば、第1領域A1の一方の主面に回折格子が設けられていた場合、第1部分P1から特定の方向に射出される回折光の強度が変化するか、又は、第1部分P1から回折光が射出されなくなる。或いは、第1領域A1の一方の主面に設けられていたレリーフ構造の配列の規則性が低下する場合には、第1部分P1は、散乱光を射出するようになる。この場合、第1部分P1は、加熱前と比較してより白色に近い領域として視認される。
【0034】
これに対し、第2領域A2では、このような流動性の変化は生じない。従って、上記の加熱を行った場合でも、第2部分P2の光学特性及び視覚効果は変化しない。
【0035】
以上の通り、表示体10をT1≦T<T2を満足する温度Tまで加熱すると、第1部分P1と第2部分P2との光学特性及び視覚効果に差異が生じる。従って、第1領域A1と第2領域A2とを、互いに識別することが可能となる。即ち、加熱後の表示体10に表示された像を読み取ることにより、第1領域A1又は第2領域A2が形成していた潜像を可視化することが可能となる。
【0036】
なお、上記の加熱は、例えば、熱板、熱ロール若しくはサーマルヘッドを備えた装置、又はオーブンを用いて行う。或いは、一般家庭で行う場合には、アイロン及び電子レンジなどを用いて行うこともできる。
【0037】
上述した通り、表示体10には、機密にすべき情報が、典型的には潜像として記録されている。この場合、その上に被覆層を形成しなくても、機密にすべき情報を隠蔽することができる。それゆえ、被覆層を剥離して情報を読み取った後、剥離した被覆層自体を貼り付けなおすという不正行為を抑止することができる。
【0038】
また、この場合、第1領域A1と第2領域A2との光学特性は、ほぼ同一であるか又は互いに類似している。そのため、高強度の光線を照射しても、情報を読み取ることはできない。よって、このような不正な読み取りを抑止することができる。
【0039】
加えて、上記の方法により情報を読み取った場合、表示体10を読み取り前の状態に戻すことは困難である。特に、加熱によりレリーフ構造の少なくとも一部が平坦化した場合、加熱前のもとの状態を再現することは不可能であるか又は極めて困難である。従って、情報を読み取った後、読み取り前の状態に戻す不正行為を抑止することができる。また、情報を読み取った上で、その情報を書き換える行為は、更に困難である。従って、このような不正行為も抑止することができる。
【0040】
以上の通り、表示体10は、優れた偽造防止効果を達成することができる。
【0041】
この読取方法は、真正品と非真正品との判別に応用することができる。即ち、表示体10を備えた真正品と、表示体10を備えていない非真正品とを、以下のようにして判別することができる。
【0042】
具体的には、真正品であるか非真正品であるかが不明な判別対象物を、表示体10の第1領域A1のガラス転移点T1以上である且つ第2領域A2のガラス転移点T2より低い温度Tまで加熱する。即ち、判別対象物を、T1≦T<T2を満足する温度Tまで加熱する。そして、加熱後の表示体10に表示されるべき像が観察されなかった場合には、当該判別対象物は非真正品であると判別する。加熱後に判別対象物に表示された像と加熱後の表示体10に表示されるべき像とが一致するか否かの判断は、例えば、加熱後の真正品を別途準備して、判別対象物に表示された像とこれに表示された像とを比較することにより行うことができる。
【0043】
或いは、上記加熱により、判別対象物が表示する像の形状及び/又は色の変化が生じなかった場合には非真正品であると判別してもよい。或いは、上記加熱により、判別対象物が表示する像の形状及び/又は色の変化が生ぜず且つ変化後の像が加熱後の表示体10に表示されるべき像と一致しない場合には当該判別対象物は非真正品であると判別してもよい。
【0044】
この表示体10は、例えば、以下のようにして製造する。ここでは、一例として、第1領域A1が光硬化性樹脂を含み且つ第2領域A2が上記光硬化性樹脂の硬化物を含んだ表示体10の製造方法について説明する。
【0045】
まず、光硬化性樹脂を含み且つ一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造が設けられた樹脂層11を準備する。この樹脂層11は、例えば、光透過性基材上に光硬化性樹脂を含んだ層を形成した後、この層にエンボス加工を施すことにより得られる。このエンボス加工は、典型的には、光硬化性樹脂からなる層を当該樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱しながら行う。
【0046】
次に、この樹脂層11をパターン露光する。例えば、樹脂層11に、マスクを介して光を照射する。図4は、表示体を製造するための光照射工程の一例を示す概略図である。図4には、一例として、マスク20を用いて、図1に示すような潜像を形成するための工程を描いている。なお、このパターン露光は、電子線描画などを用いて行うこともできる。この場合、マスクは不要である。
【0047】
マスク20としては、第1領域A1に対応する領域M1が光遮蔽性であり、第2領域A2に対応する領域M2が光透過性であるようなものを使用する。即ち、マスク20は、樹脂層11の第1領域A1には光Lが入射せず、第2領域A2には光Lが入射するような形状とする。こうすると、第1領域A1では、光硬化性樹脂の硬化反応が生じない。他方、第2領域A2では、光硬化性樹脂の硬化反応が生じる。従って、これにより、上記光硬化性樹脂を含んだ第1領域A1と、第1領域A1と面内方向に隣り合い且つ上記光硬化性樹脂の硬化物を含んだ第2領域A2とを形成することができる。
【0048】
その後、任意に、反射層13、接着層15及び支持体層16などを形成する。このようにして、図1及び図2に示すような表示体10を得る。
【実施例】
【0049】
以下のようにして、表示体10を製造した。
まず、紫外線硬化性のウレタンアクリレートを、メチルエチルケトン(MEK)とトルエンとの1:1混合溶剤で希釈した。そして、得られた希釈液を、グラビアロールコータを用いて、25μmの厚みを有したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製ルミラー)上に塗布した。このようにして、PETフィルム上に、2μmの厚みを有したウレタンアクリレート樹脂からなる層を形成した。
【0050】
このウレタンアクリレート樹脂のガラス転移点は、80℃であった。また、この樹脂の硬化物のガラス転移点は、180℃であった。なお、これらガラス転移点は、日本工業規格JIS C6481「5.17 ガラス転移温度Tg」に準拠した測定値である。
【0051】
次に、ウレタンアクリレート樹脂からなる層に、エンボス加工を施した。具体的には、まず、200nmの深さを有した凹部が1μmのピッチで規則的に配置された金属製の型を準備した。そして、この型をロールエンボス装置に設置し、ロール型を95℃まで昇温度させてから、この型をウレタンアクリレート樹脂からなる層に押し当てた。その後、型を剥離して、当該層の一方の主面に、200nmの高さを有した凸部が1μmのピッチで規則的に配列したレリーフ構造を形成した。
【0052】
続いて、図4を参照しながら説明した方法により、レリーフ構造が設けられた層に、マスクを介して紫外線照射を行った。即ち、樹脂層11の第2領域A2となるべき領域にのみ紫外線を照射し、この領域において、ウレタンアクリレート樹脂を硬化させた。そして、それ以外の領域には紫外線を照射せず、ウレタンアクリレート樹脂を未硬化のままとした。以上のようにして、樹脂層11を得た。
【0053】
その後、樹脂層11のレリーフ構造が設けられた主面上に、真空蒸着機を用いて、40nmの厚みを有したアルミニウム薄膜を形成した。このようにして、反射層13を得た。次いで、反射層13上に、グラビア塗工機を用いて接着層15を塗布した。そして、接着層15上に、プラスチックシートをラミネートして、支持体層16とした。以上のようにして、表示体10を得た。
【0054】
この表示体10を白色光のもとで観察したところ、第1部分P1及び第2部分P2は、光の回折に基づく色を表示した。即ち、第1部分P1及び第2部分P2は、観察方向に応じて、異なる色を表示した。そして、第1部分P1と第2部分P2とは、互いに識別不可能であった。従って、この状態では、第2部分P2に記録された情報を読み取ることができなかった。
【0055】
この表示体10を、樹脂層11の側から、家庭用のアイロンを用いて、100℃で2分間に亘り加熱した。その結果、表示体10の第1部分P1が白く濁った。他方、第2部分P2については、このような変化は生じなかった。従って、第1部分P1と第2部分P2とを互いに識別することができるようになった。即ち、第2部分P2が形成していた潜像を可視化することができた。
【0056】
次に、別途準備した上記の表示体10を、先に述べたのと同様にして、70℃で2分間に亘り加熱した。その結果、第1部分P1及び第2部分P2の両方において、光学特性及び視覚効果の変化は生じなかった。よって、この場合、第2部分P2が形成していた潜像を可視化することはできなかった。
【0057】
次いで、別途準備した上記の表示体10を、先に述べたのと同様にして、200℃で2分間に亘り加熱した。その結果、第1部分P1及び第2部分P2の両方が白く濁った。それゆえ、加熱後においても、第1部分P1と第2部分P2とを互いに識別することはできなかった。即ち、この場合、第2部分P2が形成していた潜像を可視化することはできなかった。
【0058】
以上の結果から、表示体10を、第1領域A1のガラス転移点T1(例えば80℃)以上且つ第2領域A2のガラス転移点T2(例えば180℃)より低い温度T(例えば100℃)まで加熱することにより、第1部分P1又は第2部分P2が形成している潜像を可視化できることが示唆された。
【0059】
次に、別途表示体10を準備し、これに、ハロゲンランプを用いて光を照射した。しかしながら、この方法によっては、第1部分P1又は第2部分P2が形成している潜像を可視化することはできなかった。即ち、このような方法による情報の不正な読み取りは、不可能であることが分かった。
【0060】
次いで、この表示体10の樹脂層11を引き剥がすことにより、表示体10に記録された情報を読み取ることを試みた。しかしながら、第1部分P1と第2部分P2とは面内方向で隣接しており且つほぼ同一の光学特性及び視覚効果を示すため、第1部分P1又は第2部分P2が形成している潜像を可視化することはできなかった。即ち、このような方法による情報の不正な読み取りは、不可能であることが分かった。
【0061】
また、引き剥がした樹脂層11に有機溶剤を適用して、樹脂層11のうち第1領域A1のみを溶解することを試みた。しかしながら、この場合、第2領域A2の主面に設けられたレリーフ構造も崩れてしまうため、第1部分P1又は第2部分P2が形成している潜像を可視化することはできなかった。即ち、このような方法による情報の不正な読み取りも、不可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】表示体に読取可能な像が表示された状態の一例を示す平面図。
【図4】表示体を製造するための光照射工程の一例を示す概略図。
【符号の説明】
【0063】
10…表示体、11…樹脂層、13…反射層、15…接着層、16…支持体層、20…マスク、A1…第1領域、A2…第2領域、L…光、M1…光遮蔽性の領域、M2…光透過性の領域、P1…第1部分、P2…第2部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造が設けられた樹脂層を具備し、前記樹脂層は、表面に前記レリーフ構造の少なくとも一部が設けられた第1領域と、前記第1領域と面内方向に隣り合い且つ前記第1領域と比較してガラス転移点がより高い第2領域とを含んだことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記第1領域の前記表面には前記レリーフ構造の一部が設けられ、前記第2領域の表面には前記レリーフ構造の他の一部が設けられ、前記表示体のうち前記第1領域に対応した第1部分と前記第2領域に対応した第2部分とは、前記主面に垂直な方向から肉眼で観察した際に互いに識別不可能であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1領域は光硬化性樹脂を含み、前記第2領域は前記光硬化性樹脂の硬化物を含んだことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
前記主面上に反射層を更に具備したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
【請求項5】
前記レリーフ構造は光学素子を構成していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
光硬化性樹脂を含み且つ一方の主面の少なくとも一部にレリーフ構造が設けられた樹脂層をパターン露光することにより、表面に前記レリーフ構造の少なくとも一部が設けられ、前記光硬化性樹脂を含んだ第1領域と、前記第1領域と面内方向に隣り合い且つ前記光硬化性樹脂の硬化物を含んだ第2領域とを形成することを具備したことを特徴とする表示体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示体に記録された情報を読み取るための読取方法であって、前記表示体を前記第1領域のガラス転移点以上且つ前記第2領域のガラス転移点より低い温度まで加熱して、前記第1領域の一方の主面に設けられたレリーフ構造の断面形状を変化させることと、前記加熱後の前記表示体に表示された像を読み取ることとを具備したことを特徴とする読取方法。
【請求項8】
判別対象物を真正品と非真正品との間で判別するための判別方法であって、前記判別対象物を、請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示体の前記第1領域のガラス転移点以上且つ前記第2領域のガラス転移点より低い温度まで加熱した際に、前記加熱後の前記表示体に表示されるべき像が観察されなかった場合には非真正品であると判別することを具備したことを特徴とする判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−115880(P2010−115880A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291372(P2008−291372)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】