説明

表示体および印刷物

【課題】 偽造防止効果を持ち、かつ目視での分かりやすい真贋判定が可能な表示体を提供する。
【解決手段】 透明性基材に形成した指向性光散乱領域を有するレリーフ構造形成層を備え、レリーフ形成層の指向性散乱領域は複数の直線状の凸部および/または凹部が異なる空間周波数成分を持ち、その空間周波数を260本/mm〜2200本/mmの範囲に集中して分布させ、260本/mm未満および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量は260本/mm〜2200本/mmの範囲の前記空間周波数成分の10%以下であることを特徴とする表示体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示体および印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカードおよびパスポートなどの認証物品、商品券および株券などの有価証券は、偽造が困難であることが望まれる。このような物品には、従来から偽造または模造を困難にすると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では認証物品および有価証券以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品についても認証物品および有価証券と同様に上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
特許文献1には、光散乱パターンおよび回折格子パターンを備えるディスプレイが記載されている。このディスプレイは、表面の微細な凹凸により形成される光散乱パターンと回折格子パターンを画素毎に分割し、双方のパターンが白色に光って視覚されるようになっている。
【0005】
前記表示体は、回折光を利用して画像を表示するため、印刷技術や電子写真技術を利用した偽造は不可能である。したがって、この表示体を真偽判定用のラベルとして物品に取り付ければ、このラベルが表示する画像を見てその物品が真正品であることを確認することができる。その結果、このラベルを取り付けた物品は、このラベルを取り付けていない物品と比較して偽造され難い。
【0006】
しかしながら、特許文献1のディスプレイは回折格子特有の虹色の光が観察され、従来技術との差別化が困難となってきている。その上、近年の偽造技術の高度化などにより、微細な凹凸構造すらも複製されてしまう可能性がある。したがって、このような表示体の偽造防止効果は低下しつつある。
【0007】
なお、『偽造防止効果』とは偽造または模造が困難であること、偽造品や模造品との区別が容易であること意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−219551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、通常観察するような範囲で明るい白色表現を可能とした表示体およびこの表示体を備えた印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の第1側面によると透明性基材と、この透明性基材の少なくとも一方の面上に設けられ、前記基材と接する面と反対側の面に複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱領域を有するレリーフ構造成形層と、このレリーフ構造成形層の指向性散乱領域を有する面上に設けられた光反射層とを具備する表示体であって、
前記指向性散乱領域をなす複数の直線状の凸部および/または凹部は、260本/mm〜2200本/mmの範囲にある複数の異なる空間周波数成分を有し、260本/mm未満および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量は260本/mm〜2200本/mmの範囲の前記空間周波数成分の10%以下であることを特徴とする表示体が提供される。
【0011】
本発明の第2側面によると、前記複数の直線状の凸部および/または凹部は260本/mm〜2200本/mmの範囲で、空間周波数成分が均等に分布していることを特徴とする第1側面記載の表示体が提供される。
【0012】
本発明の第3側面によると、前記複数の直線状の凸部および/または凹部は260本/mm〜2200本/mmの範囲で、空間周波数成分にピーク値を有し、かつ前記空間周波数成分が前記ピーク値の1/2以上に分布していることを特徴とする第1側面または第2側面記載の表示体が提供される。
【0013】
本発明の第4側面によると、前記指向性散乱領域は複数のセルで構成され、各セルの一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする第1側面から第3側面いずれか記載の表示体が提供される。
【0014】
本発明の第5側面によると、前記複数のセルを画素とした像を表示することを特徴とする第4側面記載の表示体が提供される。
【0015】
本発明の第6側面によると、前記指向性散乱領域は前記複数の直線状の凸部および/または凹部が互いに直交する2つの指向性散乱領域を含むことを特徴とする第1側面から第5側面いずれか記載の表示体が提供される。
【0016】
本発明の第7側面によると、前記複数の直線状の凸部および/または凹部は凸部および/または凹部の間隔がランダムになるように配置されていることを特徴とする第1側面から第6側面いずれか記載の表示体が提供される。
【0017】
本発明の第8側面によると、第1側面から第7側面いずれか項記載の表示体と、前記表示体を支持し、印刷を施された基材とを備えたことを特徴とする印刷物が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の直線状の凸部および/または凹部が異なる空間周波数成分を持ち、その空間周波数を260本/mm〜2200本/mmの範囲に集中して分布させ、260本/mm未満、2200本/mmを超える空間周波数成分を少なく制限することによって、通常観察するような範囲で明るい白色表現を可能とし、偽造防止効果が高く、目視での分かりやすい真贋判定が可能な表示体を提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば偽造防止効果が高く、目視での分かりやすい真贋判定が可能な表示体を備えた印刷物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る表示体の一例を示す図である。
【図2】図1の表示体のX−X’線に沿う断面図である。
【図3】図1の表示体における指向性散乱領域を示す模式図である。
【図4】表示体と観察者の位置関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る表示体における空間周波数分布の例を示す図である。
【図6】260本/mm未満、2200本/mmを超える空間周波数成分の比率の違いによる入射角度αに対する相対散乱光強度を比較した図である。
【図7】260本/mm〜2200本/mmの範囲の空間周波数成分を持つ指向性散乱領域を成形したレリーフ構造成形層を有する実施形態に係る表示体、0本/mm〜5000本/mmの範囲の空間周波数成分を持つ指向性散乱領域を成形したレリーフ構造成形層を有する表示体の入射角度αに対する相対散乱光強度を比較した図である。
【図8】本発明の実施形態に係る表示体を備えた情報印刷物の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好適な実施形態を説明する。なお、以下に述べる実施形態は本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0022】
図1は、実施形態に係る表示体の一例を示す図である。図2は、図1に示す表示体のX−X’線に沿う断面図である。図3の(a)は、指向性散乱領域5の一例を概略的に示す平面図、図3の(b)は図3の(a)に対して90度回転して配置した指向性散乱領域5を概略的に示す平面図である。
【0023】
表示体1は、透明性基材2を備えている。レリーフ構造成形層3は、透明性基材2の一方の面上に設けられている。レリーフ構造成形層3は、透明性基材2と接する面と反対側の面上に方向の揃った複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱領域5を有する。光反射層4は、レリーフ構造成形層3の指向性散乱領域5を有する面上に設けられている。図2に示す例では光反射層4を背面側としている。
【0024】
図3に示す指向性散乱領域5は、複数の指向性散乱構造6を含んでいる。これら指向性散乱構造6は、各々が直線状であり、指向性散乱領域5内で方向が揃った複数の直線状の凸部および/または凹部である。すなわち、指向性散乱領域5において、指向性散乱構造6はほぼ平行に配列している。
【0025】
透明性基材2は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルムまたはシートなどが好適である。透明性基材2の材料は、ガラスなどの無機材料を使用することができる。
【0026】
透明性基材2は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。さらに、透明性基材2は反射防止処理、低反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理および防汚処理などの処理を施してもよい。
【0027】
レリーフ構造形成層3の材料は、例えば光透過性を有する樹脂を使用することができる。樹脂の例は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を含む。このような樹脂の使用によって、原版を用いた転写により一方の面(表面)上に複数の直線状の凹部または凸部からなる指向性散乱領域5を備えるレリーフ構造形成層3を容易に形成することができる。透明性基材2とレリーフ構造形成層3の材料は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0028】
光反射層4は、レリーフ構造形成層3の凹凸構造との界面において反射率を高める役割を果たす。光反射層4の材料は、例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)などの金属材料を用いることができる。光反射層4の材料は、金属材料の他に、誘電体材料のようにレリーフ構造成形層3と異なる屈折率を有する透明材料であってもよい。光反射層は、単層に限られず、多層膜であってもよい。
【0029】
金属または誘電体からなる光反射層4は、例えば蒸着やスパッタリング等の薄膜形成技術により形成することができる。さらに、光反射層4の存在する領域を空間的に分布させ、この分布状態から図柄を表現することもできる。
【0030】
このような図1および図3に示す複数の指向性散乱構造6を含む指向性散乱領域5を備える表示体1の観察については、後に詳述する。
【0031】
次に、指向性散乱領域5をなす複数の直線状の凸部および/または凹部に関して図面を参照して詳述する。
【0032】
図4は、表示体1と観察者8の位置関係を示す図である。図4のように表示体1を観察する場合、照明光7の角度や観察位置などの観察条件が異なっても、広い視域で安定した白色の表示が可能であることが要求される。
【0033】
しかしながら、実際には照明光7付近に射出される光は極端に傾いた観察条件においてのみ観察されることがなく、正反射光付近に射出される光の成分は正反射光の強い光で、観察者8がまぶしいために観察には適していない。
【0034】
実施形態に係る表示体は、複数の直線状の凸部および/または凹部の持つ、空間周波数成分を最適化することによって、前述の観察に適さない光を制限し、通常の観察に適した範囲に観察光を集中的に射出させることが可能となる。
【0035】
複数の直線状の凸部および/または凹部は複数の異なる空間周波数成分を持ち、各々の空間周波数成分によって、射出される光の波長、回折光の射出角度を制御することができる。表示体1が白色を表現するためにはR、G、Bの3つの波長に対応する、少なくとも3種類以上の空間周波数成分を持つ、指向性散乱領域5が必要となる。
【0036】
複数の直線状の凸部および/または凹部に、白色光を図4に示すように法線11に対し入射角度αで入射させたとき、波長λの光を角度βの方向には射出させるための、空間周波数dは次式により計算できる。
【0037】
d=(sinα−sinβ)/λ
例えば、表示体1に入射角度α=0度で白色光を入射させたとき、R(λ=650nm)、G(λ=550nm)、B(λ=450nm)それぞれの波長の光が射出角度β=80度の方向に射出させるための、空間周波数dを計算する。Rを射出させる空間周波数dは、1515本/mm、Gを射出させる空間周波数dは1792本/mm、Bを射出させる空間周波数dは2192本/mmとなり、R、G、Bの3つの波長を射出させ、白色を表現するためには異なる空間周波数成分が必要になることが分かる。
【0038】
前記考察によれば、2200本/mmを超える空間周波数成分では入射角度α=0度で白色光を入射させたとき、R(λ=650nm)、G(λ=550nm)、B(λ=450nm)それぞれの波長の光は法線から±80度以上の急な角度範囲に射出することになる。そのような光を観察しようとすると、表示体1を極端に傾けることになり、像が見えにくくなる。
【0039】
また、260本/mm未満の空間周波数成分では入射角度α=0度で白色光を入射させたとき、R(λ=650nm)、G(λ=550nm)、B(λ=450nm)それぞれの波長の光は法線から±10度以内の範囲に射出することになる。その結果、表示体1を観察した際に、正反射光成分の明るさが強いため、像が判別し難くなり観察に適さない。
【0040】
実施形態に係る表示体に形成される指向性散乱領域は、260本/mm〜2200本/mmの範囲にある異なる空間周波数成分を含むことによって、入射角度α=0度(表示体の法線方向)で白色光を入射させた際に法線から±80度の範囲でR、G、Bそれぞれの波長の光を同時に観察することができる。
【0041】
入射光の強さが一定であれば、観察に適した角度範囲で光を射出することにより、観察者はより明るい像を観察することが可能となる。
【0042】
前述したように260本/mm未満の空間周波数成分および2200本/mmを超える空間周波数成分は表示体を観察した際に、像が見え難くなってしまい、観察に支障となる成分である。このため、指向性散乱領域においてそのような空間周波数成分を少なくすることが適切である。
【0043】
実施形態に係る表示体において、260本/mm未満の空間周波数成分および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量を260本/mm〜2200本/mmの空間周波数成分の10%以下にし、さらに260本/mm〜2200本/mmの空間周波数成分の範囲内での、成分分布を均等にすることによって、観察者は常にR、G、Bのそれぞれの波長の光を安定して観察することが可能になり、観察条件の若干の変化に対しても安定した白色表現を実現することが可能となる。
【0044】
例えば、図5の(a)の例に示すような分布であれば、観察者は前述した図4に示すように射出光範囲γの範囲において、色変化の少ない安定した白色光の観察が可能となる。
【0045】
また、図5の(b)に示したような分布であれば、観察者は前述した図4に示す射出光範囲γ内で、十分に安定した白色光の観察が可能となる。
【0046】
前述の図5の(a)の例に示すような分布について詳述する。図5(a)において、f(x)を空間周波数の分布としたとき、260本/mm〜2200本/mmの空間周波数成分とは、その範囲の空間周波数成分の積分値を意味し、次式(1)で表わすことができる。
【数1】

【0047】
同様に0本〜<260本/mmの空間周波数成分は次式(2)、>2200本/mmの空間周波数成分は次式(3)、で表わされる。
【数2】

【0048】
【数3】

【0049】
実施形態において、「260本/mm未満および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量が260本/mm〜2200本/mmの範囲の空間周波数成分の10%以下である」とは[Fβ(x)+Fγ(x)]/Fα(x)の値が0.1以下(パーセント表示で10%以下)であることを意味する。
【0050】
[Fβ(x)+Fγ(x)]/Fα(x)の値が増加していくと、正反射光付近または法線から80度以上の観察に支障となる角度に射出する光が増加し、通常の観察範囲に射出される光が減少し、暗い像になる。
【0051】
図6は、60本/mm未満、2220本/mmを超える範囲の空間周波数成分の比率が異なる、例えば260本/mm未満および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量が10%のサンプル(図6中の特性線A)および同総量が15%のサンプル(図6中の特性線B)の散乱光強度を比較した結果を示す。散乱光強度は、前述した図4に示す配置で、照明光7には白色面光源を使用し、サンプルの法線方向から入射角度αを変化させたときの観察者8の位置での散乱光強度を標準白色板との相対比である、相対散乱光強度で示した。
【0052】
図6から明らかなように前記空間周波数成分の総量が15%の場合には、入射角度が0度〜20度の正反射光成分に近い場所での散乱光強度が前記空間周波数成分の総量が10%の場合に比較して増加していることが分かる。また、前記空間周波数成分の総量が15%の場合には、前記空間周波数成分の総量が10%の場合に比較して80度以上の急な角度に射出する散乱光も増加していることが分かる。
【0053】
このような事実から、260本/mm未満および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量が10%を超えて増加すると、通常観察するような角度(20度〜70度程度)に射出される散乱光が減少し、観察される像が暗くなる。
【0054】
実際には、260本/mm〜2200本/mmの空間周波数範囲での、成分分布がピーク値の1/2以上の範囲にあれば、十分にR、G、Bのそれぞれの波長の光を安定して射出させることが可能であり、観察者は安定した白色を視覚することが可能となる。
【0055】
次に、前述した図1および図3に示す複数の指向性散乱構造6を含む指向性散乱領域5を備える表示体1の観察について、詳述する。指向性散乱領域5において、指向性散乱構造6は完全に平行に配列していなくてもよい。指向性散乱領域5が十分な光散乱能異方性を有している限り、その指向性散乱領域5において、例えば一部の指向性散乱構造6の長手方向と他の一部の指向性散乱構造6の長手方向とが交差していてもよい。以下、指向性散乱領域5の主面に平行な方向のうち、指向性散乱領域5が最小の光散乱能を示す方向を「配向方向」と呼び、指向性散乱領域5が最大の光散乱能を示す方向を「光散乱軸」と呼ぶ。
【0056】
図3に示す指向性散乱領域5では、矢印10で示す方向は配向方向であり、矢印9で示す方向が光散乱軸である。例えば、配向方向10に垂直な斜め方向から指向性散乱領域5を照明して、指向性散乱領域5を正面から観察すると、指向性散乱領域5はその高い光散乱能に起因して比較的明るく見える。一方、光散乱軸9に垂直な斜め方向から指向性散乱領域5を照明して指向性散乱領域5を正面から観察すると、指向性散乱領域5はその低い光散乱能に起因して比較的暗く見える。
【0057】
このようなことから、例えば指向性散乱領域5を斜め方向から照明して、これを正面から観察した場合、指向性散乱領域5をその法線方向の周りで回転させると、その明るさが変化する。したがって、例えば図1に示す指向性散乱領域1aと指向性散乱領域1bとに同一の構造を採用し、それら領域1aおよび1b間で光散乱軸の方向のみを異ならせた場合、領域1aが最も明るく見えるときには領域1bは暗く見え、領域1aが最も暗く見えるときには1bは明るく見える。また、領域1bが最も明るく見えるときには領域1aは暗く見え、領域1bが最も暗く見えるときには領域1aは明るく見える。
【0058】
すなわち、領域1aと領域1bとで光散乱軸9を異ならせることにより、それらの間に明るさの差を生じさせることができる。これにより、像を表示することができる。特に、領域1aと領域1bの光散乱軸9を直交させる、またはそれぞれの光散乱異方性を十分大きくする、ことによりそれぞれの領域で表示された像をそれぞれ別の観察条件で観察できる。
【0059】
図1に示す表示体1は、「TOP」の文字部分が図3の(a)に示す領域1a、文字部分の外側が図3の(b)に示す領域1b、で構成され、光散乱軸9がほぼ直交している。その結果、ある観察位置では「TOP」の文字が明るく見え、文字の外側部分は暗く見える。
【0060】
さらに表示体1を90度回転させると、「TOP」の文字は暗く見え、文字の外側部分が明るく見えるため、観察者は表示体1を回転させることでネガポジ画像が反転した画像を観察することができる。
【0061】
実施形態に係る表示体1は、指向性散乱領域5の指向性散乱構造(複数の直線状の凸部および/または凹部からなる)が260本/mm〜2200本/mmの範囲の空間周波数成分を多く含む(90%を超える)ため、通常の観察角度範囲においては明るい像を観察できるため、ネガポジ画像のコントラスト高く、表示体1をセキュリティ媒体として用いた際の、真贋判定の確実さを向上できる。
【0062】
実施形態に係る表示体1は、指向性散乱領域5をなす複数の直線状の凸部および/または凹部が適切な異なる複数の空間周波数成分を有することから、入射する白色光を複数の可視波長が同時に観察されるように、白色光を回折させる機能により、指向性を持った散乱光を実現している。実施形態に係る表示体1において、指向性散乱領域5を有するレリーフ構造成形層3の散乱強度を図7を参照して具体的に説明する。
【0063】
図7は、異なる範囲の空間周波数成分を含む指向性散乱領域が成形されたレリーフ構造成形層への入射角度(α)と観察された相対散乱光強度との関係を示す。図7において、260本/mm〜2200本/mmの空間周波数成分含む指向性散乱領域が成形されたレリーフ構造成形層から観察された相対散乱光強度の変化を特性線Aとして示す。比較のために、0本/mm〜5000本/mmの空間周波数成分を含む指向性散乱領域が成形されたレリーフ構造成形層から観察された相対散乱光強度の変化を特性線Bとして示す。
【0064】
相対散乱光強度は、図4に示す配置で、照明光7には白色面光源を使用し、表示体1の法線方向から入射角度αを変化させたときの観察者8の位置での散乱光強度を標準白色板との相対比である。
【0065】
すなわち、図4に示す表示体1に入射角度αで照明光7を照射した時のレリーフ構造成形層3の散乱光強度をIAα、標準白色板からの散乱光強度をIRαとした時、入射角度αにおけるレリーフ構造成形層3の相対散乱光強度RAαは次式から求めることができる。
【0066】
RAα=IAα/IRα
図7に示す実施形態に係る表示体のように260本/mm〜2200本/mmの空間周波数成分を含む指向性散乱領域が成形されたレリーフ構造成形層3の相対散乱光強度(特性線A)によると、入射角度αが急になるに従って相対散乱光強度が低下していくものの、入射角度80度の急な角度においても、相対散乱光強度は高い値を示す。すなわち、レリーフ構造成形層3の相対散乱光強度は、入射角度αが10度以上80度以下の範囲において0本/mm〜5000本/mmの空間周波数成分を含む指向性散乱領域が成形されたレリーフ構造成形層の相対散乱光強度(特性線B)に比較して相対散乱光強度が2.5以上の高い値を示すことが分かる。標準白色板は可視波長域全域で90%以上の輝度率を有することから、実施形態に係る表示体のようにレリーフ構造成形層3の相対散乱光強度が2.5以上あれば、観察者は十分に輝度の高い明るい散乱光を観察できるため、明るい表示体を得ることができる。
【0067】
なお、前述した図1では光散乱軸が直交する2つの指向性散乱領域1aおよび1bを配置しているが、光散乱軸が異なる3つ以上の指向性散乱領域を配置してもよい。
【0068】
このように光散乱軸が異なる3つ以上の光散乱領域を配置すると、例えば階調表示を行うこと、または表示体1の方位を変化させることに伴って像の変化をより複雑にすることが可能になる。例えば、表示体1の方位を変化させることによりアニメーション的に像を変化させることも可能である。
【0069】
指向性散乱構造6の幅は大きいほど、光散乱軸9の方向についての光散乱能が小さくなる。一方、指向性散乱構造6を長くすると、配向方向10についての光散乱能が小さくなる。
【0070】
指向性散乱構造6の形状は、1つの指向性散乱領域5において全て同じであってもよい。また、1つの指向性散乱領域5は形状の異なる複数の凸部および/または凹部を含んでいてもよい。
【0071】
同一形状の指向性散乱構造6のみを含んだ指向性散乱領域5は、光散乱能の設計が容易である。このような指向性散乱領域5は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いて、高精度かつ容易に形成することができる。
【0072】
一方、形状の異なる指向性散乱構造6を含んだ指向性散乱領域5によると、広い角度範囲に亘ってなだらかな光強度分布をもった散乱光が得られる。したがって、観察位置による明暗の変化が小さく、安定した白色を表示させることが可能となる。
【0073】
また、指向性散乱構造6の配向秩序度が高いほど、指向性散乱領域5の光散乱能異方性は大きくなる。
【0074】
指向性散乱領域5において、複数の直線状の凸部および/または凹部の間隔はある程度規則的に配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。例えば、複数の直線状の凸部および/または凹部において光散乱軸9に平行な方向の間隔(空間周波数d)をランダムにすると、配向方向10に垂直な方向について関する散乱光の光強度分布がなだらかになる。したがって、観察角度に応じた白さや明るさの変化が抑制される。
【0075】
空間周波数を260本/mm〜2200本/mmの範囲にすると、指向性散乱領域5を複数のセルで構成する場合、ひとつのセルの大きさを145μm程度にすることが可能である。
【0076】
このようにセルのサイズを145μm以下にすることによって、視力1.0の観察者が50cm離れた距離から表示体1を観察した場合、そのサイズを見分けることができない、すなわち人間の目の分解能以下の細かさで、像を表示することができる。その結果、十分高精細な像を表示できる
前述した実施形態に係る表示体1は、印刷物等の物品に取り付けて、偽造防止媒体として使用することもできる。図8は、表示体を支持した物品の一例を概略的に示す平面図である。
【0077】
図8に示す物品21は、磁気カードである。この物品21は、印刷が施された基材22と、基材22に支持された表示体1とを備える。この物品21を構成する表示体1は、先に説明した表示体である。
【0078】
図8に示す物品21は、回折格子領域による視覚効果と、複数の光散乱領域による視覚効果とをもつ表示体1の像、およびカードに施された印刷による像という、光学特性の異なる複数の要素からなる表示像が目視確認できるため、非真正品との区別が容易である。表示体1の偽造および模造は、上で説明したように困難であるため、物品に対する偽造防止効果が期待できる。
【0079】
図8に示す物品21は、実施形態に係る表示体1の適用例の1つの形態であって、表示体1の適用形態は図8の形態に限定されない。例えば、実施形態に係る表示体を印刷物のような物品に適用する場合、スレッド(ストリップ、フィラメント、糸状物、安全帯片などとも称される)と呼ばれる形態で、紙にすき込んでもよい。また、実施形態に係る表示体1は、粘着層を含むことができるので、様々な物品に容易に貼り付けて適用することができる
【符号の説明】
【0080】
1…表示体、2…透明性基材、3…レリーフ構造成形層、4…光反射層、5…指向性散乱領域、6…指向性散乱構造、7…照明光、8…観察者、9…光散乱軸、10…配向軸、11…法線、12…正反射光成分、21…物品、22…基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性基材と、この透明性基材の少なくとも一方の面上に設けられ、前記基材と接する面と反対側の面に複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱領域を有するレリーフ構造成形層と、このレリーフ構造成形層の指向性散乱領域を有する面上に設けられた光反射層とを具備する表示体であって、
前記指向性散乱領域をなす複数の直線状の凸部および/または凹部は、260本/mm〜2200本/mmの範囲にある複数の異なる空間周波数成分を有し、260本/mm未満および2200本/mmを超える空間周波数成分の総量は260本/mm〜2200本/mmの範囲の前記空間周波数成分の10%以下であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記複数の直線状の凸部および/または凹部は、260本/mm〜2200本/mmの範囲で、空間周波数成分が均等に分布していることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記複数の直線状の凸部および/または凹部は、260本/mm〜2200本/mmの範囲で、空間周波数成分にピーク値を有し、かつ前記空間周波数成分が前記ピーク値の1/2以上に分布していることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
前記指向性散乱領域は複数のセルで構成されて、各セルの一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の表示体。
【請求項5】
前記複数のセルを画素とした像を表示することを特徴とする請求項4記載の表示体。
【請求項6】
前記指向性散乱領域は、前記複数の直線状の凸部および/または凹部が互いに直交する2つの指向性散乱領域を含むことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の表示体。
【請求項7】
前記複数の直線状の凸部および/または凹部は、凸部および/または凹部の間隔がランダムになるように配置されていることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の表示体。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載の表示体と、前記表示体を支持し、印刷を施された基材とを備えたことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−185368(P2012−185368A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49092(P2011−49092)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】