説明

表示体及びラベル付き物品

【課題】偽造防止効果を発揮する表示体を提供する。
【解決手段】光透過性の基材と、前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層とを備えた表示体であって、前記凹凸構造形成層は、複数の凸部または凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された領域を少なくとも一つ備えており、前記複数の凸部または凹部は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ5μm以上且つ50μm以下であり、隣接する凸部または凹部の平均配置間隔は5μm以上且つ50μm以下であり、前記領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下、であることを特徴とする表示体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
回折格子により入射光(白色光)が虹色に輝く分光色に変化する原理については、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0004】
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版を母型として、そこから複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び特許文献2には、回折格子が虹色に輝く分光色を表示することを利用して、回折格子の格子角度や格子間隔(格子ピッチ)を適宜変化させて絵柄を表示させることが記載されている。格子角度や格子間隔が異なる複数の回折格子構造によって形成される表示体は、観察者の位置や光源の位置が変化することで、観察者の目に到達する回折光の波長が徐々に変化し、それにより、虹色に変化する画像を表現することができる。
また、これらの文献には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、非特許文献2には、二光束干渉を利用して回折格子を形成する方法が記載されている。レリーフ型回折格子の製造では、通常、このようにして得られた原版を用い、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。
【0005】
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルムやシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0006】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0007】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
【0008】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】辻内順平編著、「ホログラフィックディスプレイ」、産業図書株式会社
【非特許文献2】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述のような従来の問題を解決したものであり、その目的は、高い偽造防止効果を発揮する表示体及びラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明は、
光透過性の基材と、
前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層と
を備えた表示体であって、
前記凹凸構造形成層は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された領域を少なくとも一つ備えており、
前記複数の凸部または凹部は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ5μm以上且つ50μm以下であり、
隣接する凸部または凹部の平均配置間隔は5μm以上且つ50μm以下であり、
前記領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下であり、
前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下、
であることを特徴とする表示体
である。
また、第2の発明は、
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部の高さが、それぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体
である。
また、第3の発明は、
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部の形状及び面積が、同一であることを特徴とする請求項1記載の表示体
である。
また、第4の発明は、
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部が、任意の方向に一定間隔で整然配置されていることを特徴とする請求項1記載の表示体
である。
また、第5の発明は、
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部の高さ、または形状、または面積、または配置間隔のうち少なくとも一つが、凸部または凹部毎にそれぞれ異なっていることを特徴とする請求項1記載の表示体
である。
また、第6の発明は、
前記複数の凸部または凹部の高さが、領域毎に異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体
である。
また、第7の発明は、
前記凸部または凹部の形状が、円または5つ以上の頂点を有する多角形であることを特徴とする請求項1乃至6記載の表示体
である。
また、第8の発明は、
前記領域内における複数の凸部または凹部の占有面積が略50%であることを特徴とする請求項1乃至7記載の表示体
である。
また、第9の発明は、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したラベル付き物品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成とすることによって、照明光の正反射方向に近い方向に複数の波長の光から構成される色を表示する表示体が得られる。この表示体はレリーフ型の回折格子パターンのように照明の位置や観察者の位置の変化に応じて虹色に色変化することがほとんどなく、従来の偽造防止を目的とした表示体とは異なる視覚効果を実現できる。その結果、アイキャッチ効果(人目をひく効果)が高く、且つ、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
また、第2の発明によると、例えば、構造の高さが異なる凹凸形状が不規則に複数配置された表示体に入射した光は、強弱の異なる複数の回折光が混ざり合わさった、所謂混色の表示が可能となり、構造の高さが一定の凹凸形状より、さらに再現が難しい色相の色を表現することができる。
また、第3の発明によると、形状が同一であることで回折光以外の光(散乱光などの迷光)の発生を抑えることができ、表示色の彩度の低下を防止することができるという効果をさらに得ることができる。
また、第4の発明によると、複数の凸部または凹部が任意の方向に対して一定間隔で整然配置されていると、構造の周期性により、迷光の少ない回折光が得られるという効果をさらに得ることができる。
また、第5の発明によると、複数の凸部で高さや形状または面積または配置間隔のうち少なくとも一つがそれぞれ異なっていることで、異なる形状の構造を互い違いに配置するなど、構造の配置に特定の意味を持たせることができる。そして、微小な凹凸形状が特殊な配列となっているため、目視で確認することは不可能である。そのため偽造するものは、見た目の類似性だけでなく、凹凸形状をすべて偽造する必要がでてくるため、偽造品の製造を牽制するのに非常に有効である。作成の難易度も向上させることが可能となる。
また、第6の発明によると、各第1の領域毎に凸部の高さ(または凹部の深さ)を変化させることで、領域毎に異なる色を表示することができる。即ち、複数の色の表示が可能な表示体を実現できる。
また、第7の発明によると、円や多くの頂点を有する多角形は表示体表面の方位角方向に対してほぼ均等な光学効果を発揮する。そのため、これらの形状を第1の領域に形成することで、表示体を観察する方向や光源の位置が変化した場合でも、比較的安定して同一の表示色が得られやすいという効果がある。
また、第8の発明によると、式(2)から、凸部または凹部の幅(式(2)の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分であるときに回折効率が最も高くなる。よって、凸部または凹部の占有面積は50%程度のときが最も明るい表示画像が得られるという顕著な効果を得ることができる。
また、第9の発明によると、本発明の表示体を、印刷物やカード、その他の物品に貼り合わせたり、組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示した平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図。
【図3】回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図。
【図4】本発明の表示体が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図。
【図5】本発明の表示体の第1の領域に採用可能な構造の一例を示す平面図。
【図6】図5のIII−III線に沿う表示体の拡大断面図。
【図7】第1の領域に採用可能な構造の別の例を示す平面図。
【図8】第1の領域に採用可能な構造の別の例を示す平面図。
【図9】第1の領域に採用可能な構造の別の例を示す平面図。
【図10】第1の領域に採用可能な構造の別の例を示す平面図。
【図11】回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図。
【図12】本発明の表示体から射出される回折光の様子を示す概略図。
【図13】図1及び図2に示す表示体の第1の領域に採用可能な形状や面積が異なる複数の凸部から成る構造の一例を示す平面図。
【図14】図1及び図2に示す表示体の第2の領域に採用可能な構造である反射防止構造の一例を示す斜視図。
【図15】図1及び図2に示す表示体の第2の領域に採用可能な構造である光散乱構造の一例を示す斜視図。
【図16】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【図17】図16に示すラベル付き物品のIV−IV線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図であり、本発明の正反射方向に近い方向に複数の波長の光から構成される色を表示する表示体の一例を示している。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。この例においては、光透過層11がレリーフ構造形成層である。図2に示す例では、光透過層11側を前面側(観察者側)とし、且つ、反射層13側を背面側としている。
【0017】
図1及び図2に示す表示体10は、凹凸構造形成層の表面には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された領域を少なくとも一つ備えている。本図において、第1の領域15は微小な凹凸が形成された領域であり、第2の領域25は第1の領域15とはその構造や光学的な性質が異なる領域であると定義する。第2の領域25は第1の領域15とは異なる凹凸構造が形成されている領域であってもよいし、構造が形成されていない平坦部から成る領域であってもよい。また、第1の領域15は表示体10に少なくとも1つ以上存在しているが、第2の領域25は表示体10に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。また、複数の領域を組み合わせて表示体としても良い。
【0018】
光透過層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸構造又は凹構造が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸構造または凹構造が設けられた光透過層11を転写成形することができる。
【0019】
図2には、一例として、光透過性の基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性の基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)などを用いることができる。光透過性樹脂層112は、光透過性の基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性の基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0020】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0021】
表示体10は、接着剤層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凸構造または凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。また、樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層や、表示体の一部に設ける、光や熱によって硬化する樹脂インキから成る印刷層である。
【0022】
光透過層11側を背面側とし、且つ、反射層13側を前面側とする場合、接着層は、光透過層11上に形成する。
【0023】
樹脂層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし、且つ、反射層13側を前面側とする場合、反射層13を樹脂層によって被覆することで、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸構造または凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0024】
(第1の領域の説明)
本発明に係る第1の領域について説明するにあたり、まず、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、照明光入射角及び回折光の射出角との関係について説明する。
【0025】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対応して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0026】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、式1から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ) (式1)
式1において、dは回折格子の格子定数(格子周期,ピッチ)を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0027】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0028】
図3は、回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図であり、ピッチdの回折格子に対する照明光入射角及び+1次回折光の射出角の関係を示している。照明光が複数の波長成分を含む白色光である場合、回折光の射出角は波長によって異なる。それによって太陽や蛍光灯などの白色照明光源下で回折格子を観察すると、白色光が分光し、単一波長の光が別々の角度に射出され、観察する角度によって虹色に見える。図3では点光源LSから白色光IL(ここでは、白色光を構成する波長成分はR、G、Bの3波長であると仮定する)が入射し、回折格子GRによって波長成分Rの回折光DL_r、波長成分Gの回折光DL_g、波長成分Bの回折光DL_bに分光する様子を示している。このとき、波長成分Rの回折光の射出角β_rと、波長成分Rの回折光の射出角β_gと、波長成分Rの回折光の射出角β_bは、波長毎に異なる値を取る(図3では、DL_rの射出角のみβ_rとして記載している)。他の次数の回折光についても式1によって導出される角度に射出されるが図3への記載は省略する。
【0029】
図4は本発明の表示体が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図であり、図3と比較してより広いピッチの回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示している。図3よりもピッチdが大きい回折格子に白色光が入射した様子を示している。ピッチdが大きい場合、式1から明らかなように、狭いピッチの回折格子と比較して回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、また、分光した単一波長の光同士の射出角の差は小さくなる。
【0030】
次に、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0031】
ピッチdの回折格子に対してαの入射角で入射した照明光は、式1に基づいて角度βの方向に回折光を射出する。この際、波長λの光の射出強度、すなわち回折効率は、回折格子のピッチや高さ等によって変化し、式2によって導出される。
【数1】

【0032】
ここで、ηは回折効率(0〜1の値をとる)、rは回折格子の高さ、Lは回折格子の格子線幅、dは格子線のピッチ、θは照明光の入射角、λは入射光及び回折光の波長である。なお、この式は、凹凸構造から成る浅い矩形回折格子について成り立つものである。
【0033】
式2から明らかなように回折効率は回折格子の高さrや、格子線のピッチd、入射光の入射角θや波長λによって変化する。また、実際には回折効率は回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0034】
次に、第1の領域の構造と光学的性質について説明する。
【0035】
第1の領域には、基材面と略並行な平坦部を有し、複数の凸部または凹部が互いに間隔をあけて形成されており、前記複数の凸部または凹部は長辺及び短辺の長さがそれぞれ5μm以上且つ50μm以下であり、複数の凸部または凹部の隣接するもの同士の平均配置間隔は5μm以上且つ50μm以下である。第1の領域内における凸部または凹部の占有面積は20%以上且つ80%以下である。また、凸部の高さ、または凹部の深さは0.1μm以上且つ0.5μm以下となっている。
【0036】
図5は、本発明の表示体の第1の領域に採用可能な構造の一例を示す平面図であり、図1の表示体10上に設けられた第1の領域15を部分拡大した平面図である。図6は図5のIII−III線に沿った断面図である。図5において凸部16は円形を呈している。
【0037】
なお、上述の整然配置とは、凸部又は凸部が均等な間隔、又は規則性を持った配列をなしていることを指し、例えば、正方格子、矩形格子又は三角格子をなしている。これら凹部又は凸部の配列を制御することにより、迷光の少ない回折光が得られるという利点がある。
【0038】
図7乃至図10は、第1の領域に採用可能な構造の別の例を示す平面図である。凸部または凹部の他の例としては、楕円形(図7)や8角形(図8)、星型(図9)、十字(図10)等の多角形を任意に採用することができる。
【0039】
また、第1の領域に採用可能な凸部または凹部の構造は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ5μm以上且つ50μm以下であり、長辺及び短辺はそれぞれ図7に示したように、凸部または凹部のもっとも長い部分を長辺28、もっとも短い部分を短辺と定義する。すわなち、凸部または凹部は5μm以上且つ50μm以下の辺を有する矩形に内包される形状である。
【0040】
図11は、回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図である。図11に示したようなy軸に平行な複数の格子線によって形成される回折格子GRでは、照明光ILが入射した際に、y軸(格子線の長手方向)と直交する方向(x軸方向)に回折光DL_r、DL_g、DL_bが射出される。
【0041】
一方、図12は、本発明を採用した表示体から射出される回折光の様子を示す概略図であり、図5及び図6で示されるような構造に照明光が入射すると、第1の領域15に形成された複数の凸部16とその周囲の平坦部17の周期性によって、回折光を射出する。本発明の構造とすることによって凸部16が第1の領域内15でお互いに離間して配置されている構造においては、x軸方向にとどまらずXY平面上の多くの方位角に対して回折光が射出される。ここで射出される回折光は、図11に示したような回折格子に垂直上方から光が入射した時と同様に、入射光に近い側に波長の長い回折光DL_rが射出され、入射光から遠ざかる方向にDL_g、さらに、DL_bが射出される。図12においては、光が第1領域の1点に入射した状態を図示しているが、実際には、光は一点への入射ではなく、面状に第1領域に入射する。
【0042】
このように、ピッチが5〜50μm程度と大きく、回折光の射出角が入射光の正反射角と近い場合、回折光の次数毎の射出角の差もそれほど大きくなく、表示体を至近距離で目視観察する場合、複数の次数の回折光が一緒に目に入る。また、各次数の回折光は複数の波長の光より構成されるが、この複数の波長成分もそれぞれ射出角の差が小さいので、観察者は、複数の次数の、且つ、複数の波長の光を同時に知覚することができる。例えば、観察者の目に到達する回折光の波長成分が赤(波長630nm)及び緑(波長540nm)であったとすると、観察される色は黄色であり、緑及び青(波長460nm)であったとすると、観察される色はシアン(うすい水色)である。
【0043】
さらに、通常、我々が太陽や蛍光灯等の照明下で表示体を観察する場合、図3等に示したような理想的な点光源ではなく、光源自体がある程度の面積をもっているし、空気中の微粒子や地面、壁などで反射した光が表示体に到達するため、表示体に入射する照明光は様々な方向成分から構成される。そのため、表示体の垂直上方に光源があった場合でも、定点において表示体を観察した際には、第1の領域から射出される回折光は単一の波長の光ではなく、複数の角度から入射した光によって観察者の目には複数の波長成分が混ざり合わさった光が到達する。
【0044】
ここで、式2で示すとおり、回折構造から射出される回折光は波長に応じて光量、すなわち回折効率が変化する。そのため、表示体(第1の領域)を定点から観察した場合においても、可視光の波長成分が均等には目に届かず、第1の領域に設けられた凸部の高さに応じて特定の波長の光の回折効率が低くなり、結果として観察者に届く光は、入射した白色照明光のうちの、特性の波長成分が弱くなった光となる。よって、観察者は第1の領域を観察した際に入射光の正反射方向に近い角度において、光量に差がある複数の波長の光を知覚することができる。
【0045】
従来の回折格子では、光源の位置や観察する向きに応じて、観察者の目に到達する回折光の波長が変わり見える色が変化するが、本発明の第1の領域に採用される構造は、図12で示したようにXY平面上の多くの方位角に対して回折光を射出するので、光源の位置や観察する向きが多少変化しても、複数の波長から構成される色を観察可能である。このため、従来の回折格子のように表示色が虹色に変化してしまう現象を回避または低減することができる。第1の領域に設けた凸部または凹部の長辺及び短辺の長さが同じ値に近いほうがより、光源の位置や観察する向きに依らず安定して同じ色を見ることができる。
【0046】
また、凸部の高さを変えることで回折効率が低くなる波長が変わることから、異なる色を表示させる場合には、第1の領域に設けられた凸部の高さ(または凹部の深さ)を変化させればよい。
【0047】
(第1の領域に採用可能な構造とその効果)
第1の領域に採用可能な構造としては、複数の凸部または凹部の、長辺及び短辺の長さがそれぞれ5μm以上且つ50μm以下であり、隣接するもの同士の配置間隔(ピッチ)は、5μm以上且つ50μm以下である。このようなピッチを有する周期性を伴う凹凸構造からは白色照明光の入射に対して正反射光の約±8°の範囲内に回折光を射出する。このような狭範囲に照明光が分光すれば、分光による広がりが少なく、観察者は複数の波長の光による色を知覚しやすい。
ここで、凸部または凹部のピッチが5μmより小さい値である場合、分光した各波長の光の射出角の差が大きくなるため、従来の回折格子と同様に虹色に見えてしまう可能性が高くなる。そのため、凸部または凹部のピッチは5μm以上とするのがよい。また、凸部または凹部のピッチが50μmより大きい値である場合、回折現象そのものが発生しない、もしくは弱くなるため、複数の波長成分が混ざり合わさった光を表示することが難しくなる。
【0048】
また、第1の領域内における凸部または凹部の占有面積は20%以上且つ80%以下であることが好ましい。式2から、凸部または凹部の幅(式2の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分であるときに回折効率が最も高くなる。よって、凸部または凹部の占有面積は50%程度のときが最も明るい表示画像が得られもっとも望ましく、20%以上且つ80%以下程度であれば、50%から離れるにしたがって回折効率が低下し表示画像が暗くなっていくものの、十分に複数の波長の光から成る表示画像を視認することができる。なお、占有面積が20%及び80%のときの回折効率は、式2より、50%のものの約3割程度の明るさとなる。
凸部または凹部の占有面積が20%より小さい、もしくは80%より大きい場合には、十分な明るさが得られず、十分なアイキャッチ効果を得ることが難しくなる。
【0049】
また、凸部の高さ、または凹部の深さの最適な値は0.1μm以上且つ0.5μm以下の範囲であることが好ましい。式2において、ピッチd、格子線幅Lを一定と仮定した場合、可視光の範囲の波長の光が入射角θ(0°より大きく90°未満の範囲)で入射すると、回折効率が最も高くなる凸部の高さ、または凹部の深さの値は前記0.1μm以上且つ0.5μm以下の範囲内にある。なお、式2から、回折効率が最も高くなる条件は、それよりも大きい値であっても繰り返し訪れるが、製造上、凸部の高さまたは凹部の深さは極力浅い方が作製が容易であるのでより浅い値で高い回折効率が得られる0.1μm以上且つ0.5μm以下の条件が望ましい。
【0050】
なお、凸部の高さ、または凹部の深さが0.1μmより浅い場合は製造時の外的要因(機械や環境のコンディションの変動や材料組成のわずかな変化等)により安定して同じ品質のものを作製するのが難しくなり、0.5μmより深い場合は、細かく深い構造を精密に転写成形するのが難しくなる。
【0051】
また、第1の領域内に配置される複数の凸部または凹部は、その形状及び面積が各々同一であると、以下のような利点がある。
【0052】
第1に、複数の凸部または凹部が同一形状であると、凹凸構造の加工が容易になる。第1の領域に設けられる複数の凸部または凹部が形成される原版は、従来のレリーフ型回折格子の作製プロセスと同様に、フォトリソグラフィの工程を利用して作製することができる。電子ビームやレーザー等の荷電粒子ビームによって平面上の基板に塗布された感光性レジストを露光し、現像することで所望の凹凸形状を加工する。このような工程で凹凸形状を加工する際には、荷電粒子ビームの強度や照射時間を調整して構造の高さ(深さ)を制御する。その際、凹凸形状の形状や面積が各々異なっていると、荷電粒子ビームの強度や照射時間を調整しても、均一な高さ(深さ)の構造を得ることが難しくなる。複数の凸部または凹部が同一形状であれば、同一の加工条件で均一な高さ(深さ)の凸部または凹部が得られる。また、フォトリソグラフィの工程だけでなく、先端が微細なダイヤモンドバイト等の切削機器による加工や、エッチングによって金属等の表面を腐食させる工程等によっても実現可能である。
【0053】
第2に、複数の凸部または凹部が同一形状であると、設計を容易にし、第1の領域の光学特性を安定させることができる。複数の凸部または凹部が同一形状であることで、光学設計や光学シミュレーションをより正確に行うことができるし、安定して高品質な原版を作製できるので、設計と実物との光学性能の差(ずれ)を最小限にとどめることができる。特に、形状が同一であることで回折光以外の光(散乱光などの迷光)の発生を抑えることができ、表示色の彩度の低下を防止することができる。
【0054】
また、複数の凸部または凹部が任意の方向に対して一定間隔で整然配置されていても、構造の周期性により、迷光の少ない回折光が得られるという利点がある。
【0055】
複数の凸部または凹部が同一形状であり、且つ、任意の方向に対して一定間隔で整然配置されていると、より彩度の高い色を得ることができる。
【0056】
一方で、第1の領域内に配置される複数の凸部または凹部の、形状または面積または配置間隔が異なっていることで以下のような利点がある。
【0057】
第1に、複数の凸部で形状または面積または配置間隔がそれぞれ異なっていることで、異なる形状の構造を互い違いに配置するなど、構造の配置に特定の意味を持たせることができる。凸部または凹部は各々5μm以上且つ50μm以下と微小な大きさであるが、光学顕微鏡等を用いて拡大観察した際には、その構造の配置の様子を見ることができる。その際に、正規品を製造した当事者だけが把握している特徴的な形状やその配置が第1の領域内に設けられていれば、その部分を読み取ることで、偽造品との真偽判定をより厳密に行うことができる。偽造する者は見た目の類似性だけでなく、凹凸形状をすべて偽造する必要がでてくるため、偽造品の製造を牽制するのに有効である。
【0058】
第2に、複数の凸部で形状または面積または配置間隔がそれぞれ異なっていることで作製の難易度は上がるものの、同時に、偽造も難しくなる。
【0059】
このように、複数の凸部または凹部の形状または面積または配置間隔が異なっていることで、表示体や表示体が貼付された物品の偽造防止効果をさらに高めることができる。なお、図13は、形状および面積および配置間隔が異なる複数の凸部が形成されている第1の領域の一例である。
【0060】
表示体10内に複数の第1の領域がある場合には、各第1の領域毎に凸部の高さ(または凹部の深さ)を変化させることで、領域毎に異なる色を表示することができる。即ち、複数の色の表示が可能な表示体を実現できる。
【0061】
一方で、1つの第1の領域内において、異なる高さの凸部(または異なる深さの凹部)を複数設けることで、高さ(または深さ)が一定の構造から成る第1の領域では実現が困難で、より再現することの難しい色を実現することができ、表示体の偽造防止効果を一層向上させることができる。
【0062】
第1の領域に採用可能な凸部または凹部の形状としては、円や、5つ以上の頂点を有する多角形がより望ましい。円や多くの頂点を有する多角形は表示体表面の方位角方向に対してほぼ均等な光学効果を発揮する。そのため、これらの形状を第1の領域に形成することで、表示体を観察する方向や光源の位置が変化した場合でも、比較的安定して同一の表示色が得られやすい。
【0063】
また、第1の領域内において、凸部または凹部の占有面積は50%程度であることが望ましい。式2から、凸部または凹部の幅(式2の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分であるときに回折効率が最も高くなる。よって、凸部または凹部の占有面積は50%程度のときが最も明るい表示画像が得られる。
【0064】
(第2の領域の説明)
次に、第2の領域について説明する。
第2の領域25は第1の領域15とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2の領域25は第1の領域15とは異なる凹凸構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。また、第2の領域25は表示体10に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。
【0065】
第2の領域25に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は、図11の斜視図に示したような線状の凹凸構造(格子線)が繰り返し形成されたものであり、ピッチ0.5〜3μm程度、構造の高さ0.1〜0.5μm程度が典型的な仕様である。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。
【0066】
また、第2の領域25に採用可能な別の構造として、反射防止構造体が挙げられる。反射防止構造体は、図14の斜視図に示したような円錐状の構造26や、角錐状の構造27が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高いほうがより反射防止機能が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等に見える。
【0067】
また、第2の領域25に採用可能な構造として、光散乱構造体が挙げられる。光散乱構造体は、図15の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状27が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。
【0068】
また、第2の領域25は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。第2の領域25を平坦面とすると、第2の領域25は光反射層13によって鏡面のように見える。
【0069】
第2の領域25と第1の領域15を組み合わせることによって目視観察することが可能な画像や意匠を表示することができる。第2の領域には、前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0070】
(表示体の使用方法)
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその外の物品に貼り付けて使用することができる。表示体10は微細な凹凸構造により表示体の正面方向に複数の波長による色を表示することができ、構造の高さを変えることでその色が変化することから偽造は困難である。このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0071】
図16は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図17は、図16に示すラベル付き物品のIV−IV線に沿った断面図である。
【0072】
図16及び図17には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0073】
この印刷物100は、微細な凹凸構造から成る表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0074】
なお、図16及び図17には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0075】
また、図16及び図17に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0076】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0077】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【実施例1】
【0078】
複数の凸部16は互いに接触しないように第1の領域15内に整然配置されている。図5において凸部の直径は約10μmとする。また、凸部16の第1の領域15内における占有面積は約50%であり、第1の領域15内の平坦部17が残りの約50%となっている。凸部16の高さは0.2μmとする。
【0079】
ここで、図5の点線Aや点線Bで示した方向について考えると、複数の凸部16によってピッチ約14μmの回折構造が形成されていると見なすことができる。表示体の表面に対して垂直に白色照明光が入射しているとすると、例えば波長630nmの光は式1によって角度β≒2.58°で+1次回折光として射出される。また、波長540nmの光は角度2.21°、波長460nmの光は角度1.88°となる。他の方向(例えば点線C)についても、複数の凸部16の周期性によって式1に基づいて回折光が射出される。このように、入射光の波長と比較して十分に大きいピッチの回折構造からは、入射光の正反射光の射出角(この例の場合0°)と近い値をとる。
【0080】
また、+2次回折光についても同様に式1を用いることで、各波長の回折角はそれぞれ波長630nmの時、回折光は5.16°、540nmの時は4.42°、460nmの時は3.77°となる。これらの値も入射光の正反射光の射出角(この例の場合0°)と近い値をとる。
【0081】
その結果、本実施例の表示体を観察すると、複数の波長成分が混ざり合わさった光が観察できることが確認された。
【符号の説明】
【0082】
10…表示体、11…光透過層、13…反射層、15…第1の領域、16…凸部、17…平坦部、25…第2の領域、26…反射防止構造体、27…光散乱構造体、28…長辺、29…短辺、30…ICチップ、40…印刷層、50…基材、100…印刷物、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、d…回折格子のピッチ、DL…+1次回折光、DL_r…+1次回折光(赤)、DL_g…+1次回折光(緑)、DL_b…+1次回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β…射出角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材と、
前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層と
を備えた表示体であって、
前記凹凸構造形成層は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された領域を少なくとも一つ備えており、
前記複数の凸部または凹部は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ5μm以上且つ50μm以下であり、
隣接する凸部または凹部の平均配置間隔は5μm以上且つ50μm以下であり、
前記領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下であり、
前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下、
であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部の高さが、それぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部の形状及び面積が、同一であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項4】
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部が、任意の方向に一定間隔で整然配置されていることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項5】
前記領域内に配置された複数の凸部または凹部の高さ、または形状、または面積、または配置間隔のうち少なくとも一つが、凸部または凹部毎にそれぞれ異なっていることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項6】
前記複数の凸部または凹部の高さが、領域毎に異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項7】
前記凸部または凹部の形状が、円または5つ以上の頂点を有する多角形であることを特徴とする請求項1乃至6記載の表示体。
【請求項8】
前記領域内における複数の凸部または凹部の占有面積が略50%であることを特徴とする請求項1乃至7記載の表示体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したラベル付き物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−118035(P2011−118035A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273406(P2009−273406)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】