説明

表示体及び印刷物

【課題】容易に製造が可能であり、目視の観察のみで真贋判定が可能な、偽造防止効果の高い表示体及び印刷物を提供する。
【解決手段】表示体10は、透明光反射層4がコーティングされた指向性散乱領域3を備えたレリーフ構造成形層2と印刷層5に形成された濃淡パターン11によって構成する。そして、上記指向性散乱領域3及び印刷層5の濃淡パターンにより各々文字や記号、マークなどを形成し、指向性散乱光が観察できる範囲では濃淡パターン11を潜像化し、指向性散乱光が観察できない範囲で印刷層5の濃淡パターン11を観察できるように構成することで真贋判定機能を持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認証物品や有価証券等における偽造・模造を抑止する表示体及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため従来から、そのような物品には、偽造・模造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なホログラムが貼り付けられている。
【0003】
ホログラムは優れた意匠性を持ち、カラー複写機においても複製できない偽造・変造の困難性から数多く利用されてきた。しかし、近年ではホログラムにも巧妙な偽造品が出現し、一見すると真偽の判定が困難な事例も見られるようになってきた。
【0004】
そこで、七色に光る効果を持つホログラムとの差別化を図るため、光の散乱効果を応用した種々の提案がなされている。例えば特許文献1には、微小プリズムの側面に光散乱層を形成し、観察面を変化させることで、真偽判定が可能な真偽判定体が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、透明性基材に微細な孔を設けることで光を散乱させることを特徴とする偽造防止媒体が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、光散乱構造射出される白色光と、空間周波数の異なる回折格子を組み合わせることで、白色回折光を射出させることを特徴とする表示体が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1では微小プリズムを多数成形し、プリズム面の一方の面だけに光散乱層を設けることなど複雑な構成になっており、実際の製造工程も複雑化し、コスト面も高くなってしまうと考えられる。
【0008】
特許文献2では、微細な孔に水のような透明な液体を塗布し、光散乱性を消失させることで、偽造防止判定を行なうとされており、容易な偽造防止判定が実現されているとは言い難い。
【0009】
また、特許文献3では回折格子の組み合わせで白色表現を行なっているが、回折格子の繰り返しパターンが影響し、白色回折光の射出範囲が狭い。その為傾けて観察した際に白色以外の色味を知覚してしまうことが、意匠性を損ねてしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4508563号公報
【特許文献2】特開2004−340992号公報
【特許文献3】特開2008−83599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述の背景に基づきなされてものであり、容易に製造が可能であり、目視で白色光を観察するだけで真贋判定が可能な、偽造防止効果の高い表示体、及び印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の問題を解決する手段として、請求項1の発明は、光透過性基材の少なくとも一方の面上に、指向性散乱領域からなるレリーフ構造成形層を備え、前記レリーフ構造成形層の面上に透明光反射層を配していて、前記光透過性基材の観察方向から遠い面側に文字や記号、マークなどのパターンが形成されている印刷層を具備している表示体であって、前記指向性散乱領域は予め決められた角度範囲にのみ強く散乱光を射出する機能を有していることを特徴とする表示体。
【0013】
また、請求項2の発明は、前記指向性散乱領域で予め決められた角度範囲外では、前記透明光反射層の可視波長領域における透過率が約60%以上、反射率が約5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【0014】
また、請求項3の発明は、前記指向性散乱領域で予め決められた角度範囲外では、前記印刷層界面での反射光強度が前記散乱光の光強度よりも強いことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【0015】
また、請求項4の発明は、一定の照明光源下において、前記指向性散乱領域から射出される光は、前記予め決められた範囲においてのみ、標準白色板の輝度に対して2倍以上の輝度を示すことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
【0016】
また、請求項5の発明は、前記印刷層と前記レリーフ構造成形層の指向性散乱領域は、各々で異なる文字、記号、マークなどのパターンが形成され、該パターンの大きさが約2mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示体。
【0017】
また、請求項6の発明は、前記印刷層と前記レリーフ構造成形層の指向性散乱領域は、各々で異なる文字、記号、マークなどのパターンを形成していて、その大きさの比が0.8〜1.2の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示体。
【0018】
また、請求項7の発明は、前記印刷層の少なくとも一部が、観察角度に応じて発色の異なる機能性インキにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【0019】
また、請求項8の発明は、前記レリーフ構造成形層において、光散乱軸方向が互いに直交するように、異なる指向性散乱領域が成形されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の表示体。
【0020】
また、請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の表示体と、前記表示体を支持する印刷が施された基材とを備えたことを特徴とする印刷物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、指向性散乱領域を備えたレリーフ構造成形層と、その面上に配している透明光反射層と濃淡パターンからなる印刷層を具備した表示体を提供することで、前記指向性散乱領域が散乱光を射出する角度範囲において、前記印刷層の文字や記号、マークなどは観察することができず、前記指散乱光が射出される角度範囲外のみにおいて、前記濃淡パターンを潜像として観察することが可能な表示体を実現している。
【0022】
さらに、前記レリーフ構造成形層の指向性散乱領域が予め定められた角度範囲にのみ散乱光を射出する機能がある為、強い散乱光強度を持った光を射出することが可能となる。そのため、一定の照明光源下において前記指向性散乱領域は通常の散乱光と比較してより明るい散乱光を確認することができ、前記印刷層の文字や記号、マークなどを潜像化する効果を高めることが可能となる。
【0023】
また、前記指向性散乱領域の面上に透明光反射層を具備していることで、前記散乱光が射出される角度範囲外では、その下部に配された前記印刷層の文字や記号、パターンを観察することが可能となる。
【0024】
以上の様な構成にすることで、表示体に目視による真贋判定機能を持たせることができ、別の機器などを必要としない容易な真贋判定が可能な表示体を実現できる。
【0025】
さらに、指向性散乱領域は数nmオーダーの微細構造で形成されており、偽造・模造のためには特殊な機材を必要とするため、構造の複製は極めて困難であり、高いセキュリティ性を持つ表示体と言える。
【0026】
また、前記レリーフ構造の指向性散乱領域と前記印刷層の濃淡パターンが各々で異なる文字、記号、マークなどを形成し、その大きさが約2mm以下であることにより、前記指向性散乱領域がなす前記マークなどと、前記濃淡パターンがなす前記マークなどが組み合わされた場合、各々の前記マーク同士が細かなサイズで混在することができる。それにより観察できるパターンは複雑化し、前記指向性散乱領域と前記印刷層領域の境界が判別しにくくなり、セキュリティ性の向上が期待できる。
【0027】
前記指向性散乱領域の光散乱軸が互いに直交させることも可能であり、そのようにする事で指向性散乱領域毎に異なる画像を表示させることができ、意匠性、セキュリティ性の更なる向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る表示体の構成例を示す断面図である。
【図2】同実施形態に係る表示体の見え方の1例を示す図である。
【図3】同実施形態に係る表示体の見え方の1例を示す図である。
【図4】同実施形態に係る表示体における指向性散乱領域の例を示す図である。
【図5】同実施形態に係る表示体を観察した際における表示体と観察者の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例に示す表示体の指向性散乱領域と印刷層の輝度を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0030】
図1は本実施形態に係る表示体10の構成例を示す断面図、図2及び図3は上記表示体10における見え方の1例を示す図である。
【0031】
本実施形態に係る表示体10は、図1に示すように光透過性基材1の少なくとも一方の面上に、指向性散乱領域3からなるレリーフ構造成形層2を備え、前記レリーフ構造成形層2の面上に透明光反射層4を配し、また、前記光透過性基材1の観察方向から遠い面側に文字や記号、マークなどの濃淡パターン11が形成されている印刷層5を設けている。前記指向性散乱領域3は、予め決められた角度範囲にのみ強く散乱光を射出する機能を有している。
【0032】
上記のように光透過性基材1の観察方向から遠い面側に、印刷層5に配した濃淡パターン11とレリーフ構造成形層2に備えられた指向性散乱領域3の組み合わせにより、印刷層5に形成された濃淡パターン11によって規定される潜像と、指向性散乱領域3が構成するパターン12によって規定される散乱光により、表示される像が決定される。
【0033】
光透過性基材1としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。光透過性基材1の材料としては、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。
【0034】
また、光透過性基材1は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。さらには、反射防止処理、低反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理などの処理を施してもよい。
【0035】
レリーフ構造成形層2の材料としては、光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の面上に指向性散乱領域3を備えるレリーフ構造成形層2を容易に形成することができる。また、光透過性基材1とレリーフ構造成形層2の材料は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0036】
透明光反射層4は、レリーフ構造成形層2が設けられた界面の反射率を高める役割を有し、材料としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)などの材料を用いることができる。また、透明光反射層4の材料は、誘電体材料などレリーフ構造成形層2とは屈折率が異なる透明材料であればよい。また、透明光反射層4は、単層に限られず、多層膜であってもよい。
【0037】
透明光反射層4は、蒸着やスパッタリング等の薄膜形成技術により形成することができる。さらに、透明光反射層4の存在する領域を空間的に分布させることにより、この透明光反射層4の分布を用いて、図柄を表現することもできる。
【0038】
印刷層5は、絵柄、文字、記号等の画像を表示するものであり、印刷層5の印刷方式に応じてオフセットインキ、活版インキ、グラビアインキ等様々なインキなどを用いることができる。印刷に用いられるインキは、樹脂タイプインキ、油性インキ、水性インキ等、組成による分類や、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキ、紫外線硬化型インキ等乾燥方式による分類ができ、基材の種類や印刷方式に応じて適宜選択される。また、帯電性を持ったプラスチック粒子に黒鉛・顔料等の色粒子を付着させたトナーの静電気を利用して紙等の基材に転写させ、加熱し定着させることで印刷層5を形成する技術も一般的である。
【0039】
また、印刷層5に用いるインキは、観察角度に応じて発色が異なる機能性インキでもよく、機能性インキを用いることで、潜像として印刷層5に形成された濃淡パターン11が観察できる位置で、僅かに観察角度を変化させるだけで異なる発色を観察することができ、さらにセキュリティ性、意匠性を向上させることが可能となる。
【0040】
さらに、印刷層5に形成された濃淡パターン11の大きさは2mm以下の大きさであることが好適である。後に説明する、指向性散乱領域3が構成するパターン12の大きさも2mm以下のサイズとすることで、表示体10を観察した際に印刷層5に形成された濃淡パターン11が構成する画像と、指向性散乱領域3が構成する画像が適当に混在させることが可能であり、違和感のない観察画像を得ることができる。
【0041】
パターン12のサイズが2mm以下であれば、印刷層5に形成された濃淡パターン11を潜像として隠蔽する効果も向上させることができる。また、印刷層5の濃淡パターン11は、2mm以上の大きさであっても、指向性散乱領域3が構成するパターン12と同程度であればよく、特に大きさの比が約0.8〜1.2であることが好適である。その範囲であれば、指向性散乱領域3が構成する画像と印刷層5に形成された濃淡パターン11が構成する画像が混在していても違和感がなく、印刷層5に形成された濃淡パターン11の隠蔽効果を十分に発揮させることが可能となる。
【0042】
上記表示体10は、印刷層5の光透過性基材1と接する面とは反対側の面上に、粘着層(接着層)を設けても良い。粘着層を設けると、セキュリティ用ラベルとして偽造防止を施したい物に容易に貼り付けることができるようになる。
【0043】
次に指向性散乱領域3に詳しく説明する。
【0044】
図4は、上記指向性散乱領域3の一例を概略的に示す平面図である。図4に示す指向性散乱領域3は、複数の指向性散乱構造14を含んでいる。これら指向性散乱構造14は、各々が直線状であり、指向性散乱領域3内で方向が揃った複数の凸部および/または凹部である。すなわち、指向性散乱領域3において、指向性散乱構造14はほぼ平行に配列している。
【0045】
なお、指向性散乱領域3において、指向性散乱構造14は完全に平行に配列していなくてもよい。指向性散乱領域3が十分な光散乱能異方性を有している限り、その指向性散乱領域3において、例えば、一部の指向性散乱構造14の長手方向と他の一部の指向性散乱構造14の長手方向とが交差していてもよい。以下、指向性散乱領域3の主面に平行な方向のうち、指向性散乱領域3が最小の光散乱能を示す方向を「配向方向」と呼び、指向性散乱領域3が最大の光散乱能を示す方向を「光散乱軸」と呼ぶ。
【0046】
図4に示す指向性散乱領域3では、矢印9bで示す方向は配向方向であり、矢印9aで示す方向が光散乱軸である。例えば、配向方向9bに垂直な斜め方向から指向性散乱領域3を照明して、指向性散乱領域3を正面から観察すると、指向性散乱領域3は、その高い光散乱能に起因して比較的明るく見える。一方、光散乱軸9aに垂直な斜め方向から指向性散乱領域3を照明して、指向性散乱領域3を正面から観察すると、指向性散乱領域3は、その低い光散乱能に起因して比較的暗く見える。
【0047】
これから明らかなように、例えば、指向性散乱領域3を斜め方向から照明して、これを正面から観察した場合、指向性散乱領域3をその法線方向の周りで回転させると、その明るさが変化する。
【0048】
ここで1例として、図5に示したような位置関係で、照明光源(白色光源)6により表示体10を照明して観察者7が観察した場合を説明する。指向性散乱領域3の光散乱軸9a、配向方向9bが図5のようになっている場合、観察者7は光散乱軸9aの方向に最大の光散乱能を示す指向性散乱光13を観察することができる。
【0049】
このとき観察者7は、図2に示したように指向性散乱領域3で構成された文字や記号、マークなどのパターン12を観察することができ、印刷層5に配された濃淡パターン11はその強い指向性散乱光13によって隠蔽される。すなわち、潜像化されることになる。
【0050】
図5の位置関係のまま、観察者7が表示体の方向を90°回転させた場合、自ずと光散乱軸も90°回転するため、観察者7は指向性散乱光13を観察することができず、図3に示したように印刷層5に形成された濃淡パターン11を観察することができるようになる。
【0051】
そのため、透明光反射層4は印刷層5に形成された濃淡パターン11を観察できる程度に、透過率を持っていることが望ましい。従って、透明光反射層4は、60%以上の透過率が好ましく、例えばZnS(屈折率:2.3)を用いた場合、光源を垂直入射させたとき空気(屈折率1.0)界面での透過率は84%程度と計算でき、同様に反射率は15%程度と計算できる。
【0052】
さらに、ITO(屈折率1.9)を透明光反射層4として用いた場合では、光源を垂直入射させたとき空気(屈折率1.0)界面での透過率は90%程度、反射率は9%程度と計算できる。
【0053】
上記のように、実用的な構成を考えた場合、透明光反射層4の透過率は80%程度、反射率は10%程度ということになる。
【0054】
すなわち、光散乱軸9aを異ならしめた複数の指向性散乱領域3を設けることで、それらの間に明るさの差を生じさせることができる。したがって、これにより指向性散乱領域3にて像を表示することができる。特に、光散乱軸9aの角度差を十分にとる(例えば直交するように)ことにより、それぞれの領域で表示された像をそれぞれ別の観察条件で観察できる。
【0055】
指向性散乱領域3の明るさは、他の方法で制御することもできる。例えば、指向性散乱構造14の幅が大きいほど、光散乱軸9aの方向についての光散乱能が小さくなる。一方、指向性散乱構造14を長くすると、配向方向9bについての光散乱能が小さくなる。
【0056】
指向性散乱構造14の形状は、1つの指向性散乱領域3おいて全て同じであってもよい。或いは、1つの指向性散乱領域3は、形状の異なる複数の凸部および/または凹部を含んでいてもよい。
【0057】
同一形状の指向性散乱構造14のみを含んだ指向性散乱領域3は、光散乱能の設計が容易である。また、そのような指向性散乱領域3は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いることで、高精度にかつ容易に形成することができる。一方、形状の異なる指向性散乱構造14を含んだ指向性散乱領域3によると、広い角度範囲に亘ってなだらかな光強度分布をもった散乱光が得られる。それゆえ、観察位置による明暗の変化が小さく、安定した白色を表示させることが可能となる。
【0058】
また、指向性散乱構造14の配向秩序度が高いほど、指向性散乱領域3の光散乱能異方性は大きくなる。
【0059】
指向性散乱領域3において、指向性散乱構造14はある程度規則的に配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。例えば、指向性散乱構造14の光散乱軸9aに平行な方向の間隔をランダムにすると、配向方向9bに垂直な方向に関する散乱光の光強度分布がなだらかになる。したがって、観察角度に応じた白さや明るさの変化が抑制される。
【0060】
また、光散乱軸9aに平行な方向について、指向性散乱構造14の間隔を小さくすると、入射光のより多くを散乱させることができるため、光散乱能異方性を劣化させることなしに、散乱光の強度を強くすることができる。例えば、光散乱軸9aに平行な方向についての指向性散乱構造14の平均間隔が10μm以下であれば、視認性の良い表示を実現するのに十分な光散乱強度を得ることができる。
【0061】
なお、この平均間隔を十分に小さくすると、指向性散乱領域3が複数のセルで構成されている場合、セルの大きさを100μm程度とすることは十分に可能である。この場合、通常の観察条件における人間の目の分解能以下の細かさで像を表示することができる。すなわち、十分に高精細な像を表示できる。
【0062】
指向性散乱領域3が微細な複数のセルで構成されていることで、文字や記号、マークなどのパターン12を微細なセルの集まりとして構成することも可能である。前記パターン12の大きさは2mm以下が好適であり、2mm以下の大きさであれば、先に述べた印刷層5に形成された濃淡パターン11と違和感なく混在することができ、印刷層5に配された濃淡パターン11を潜像化させる効果も向上させることができる。
【0063】
また、上記指向性散乱領域3に構成するパターン12は、2mm以上の大きさであっても、印刷層5に配された濃淡パターン11が構成する画像の大きさと同程度であればよく、特に大きさの比が0.8〜1.2であることが好適である。その範囲であれば、指向性散乱領域3が構成するパターン12による画像と印刷層5に形成された濃淡パターン11が構成する画像が混在していても違和感がなく、印刷層5に配された濃淡パターン11を潜像化させる効果を十分に発揮させることが可能となる。
【0064】
本発明における指向性散乱領域3は、方向が揃った複数の凸部および/または凹部からなる光散乱構造からなるため、通常の照明条件下において、白色光を散乱する機能を有するため、白色もしくは薄灰色の明度及び彩度の高い色として観察される。
【0065】
指向性散乱領域3の明るさを示す指標は、輝度などを用いればよい。明るさの評価方法として、例えば指向性散乱領域3のR,G,Bの階調値をCCDカメラ画像などで計測し、それらの値から輝度Lを計算することができる。RGB階調値からグレースケール画像への変換でよく使用されるものにYIQ表色系がある。YIQ表色系は、NTSC(National Television Standard Committee)に用いられているもので、人間の視覚特性に近い特徴を持っている。下式(1)を用いれば、YIQ表色系での輝度を計算することができる。
【0066】
輝度=(0.3×R)+(0.59×G)+(0.11×B)・・・(1)
本発明における指向性散乱領域3の特徴として、強い散乱光を射出する効果がある。実際には標準白色板の輝度値の2倍から3倍程度の輝度があれば、印刷層5に配された濃淡パターン11を十分に潜像化することが可能である。
【0067】
指向性散乱領域3を輝度及び彩度が高い白色の指向性散乱光13とすることで、印刷層5に配された濃淡パターン11を隠蔽し、潜像化する効果を高めることができる。
【0068】
さらに、指向性散乱光13が観察できない位置では、印刷層5の濃淡パターン11をはっきりと確認することができ、偽造防止対策の容易な真贋判定機能として用いることが可能となる。
【0069】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0070】
図1に示した表示体10において、光透過性基材1としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、レリーフ構造成形層2として紫外線硬化型樹脂、指向性散乱領域3としては深さ数100nmオーダーの深さ、ランダムなピッチで形成された指向性散乱構造14を形成している。また、透明光反射層4として硫化亜鉛(ZnS)層をスパッタリング法により50nm程度コーティングした。印刷層5としては白色紙を用いて、その面上にインクジェットプリンタにより、図2及び図3に示したように大きさが2mmの濃淡パターン11を形成した。
【0071】
また、指向性散乱領域3を電子線描画により数μオーダーのセル単位で形成することで、大きさが2mmのパターン12を形成した。
【0072】
作製した表示体10に白色光源を照明し観察すると、図2に示したように指向性散乱領域3で形成されたパターン12が、光散乱軸9aの方向に強い指向性を持った光として観察できることを確認した。この時、印刷層5に形成された濃淡パターン11は、指向性散乱領域3からの光で潜像化されており、観察不可能であることを確認した。
【0073】
次に表示体10を90°回転させて観察すると、指向性散乱領域3からの光が観察できないため、図3に示すように印刷層5に形成された濃淡パターン11を確認することができた。
【0074】
図6は、上記実施例1の表示体10において、観察角度を変化させたときの指向性散乱領域3から射出される散乱光の輝度変化と、印刷層5に形成された濃淡パターン11の輝度変化を比較して示したもので、横軸に観察角度[°]をとり、縦軸に相対輝度(標準白色基準に対する相対値)をとって示した。
【0075】
上記図6から明らかなように、表示体10に対する観察角度を変化させた場合、指向性散乱領域3から射出される散乱光の輝度変化は、印刷層5に形成された濃淡パターン11の輝度変化に比較して非常に大きい。
【符号の説明】
【0076】
1…光透過性基材、2…レリーフ構造成形層、3…指向性散乱領域、4…透明光反射層
5…印刷層、6…照明光源、7…観察者、8…法線、9a…光散乱軸、9b…配向方向、10…表示体、11…印刷層に形成された濃淡パターン、12…指向性散乱領域で形成されたパターン、13…指向性散乱光、14…指向性散乱構造、θ…観察角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材の少なくとも一方の面上に、指向性散乱領域からなるレリーフ構造成形層を備え、前記レリーフ構造成形層の面上に透明光反射層を配していて、前記光透過性基材の観察方向から遠い面側に文字や記号、マークなどのパターンが形成されている印刷層を具備している表示体であって、前記指向性散乱領域は予め決められた角度範囲にのみ強く散乱光を射出する機能を有していることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記指向性散乱領域で予め決められた角度範囲外では、前記透明光反射層の可視波長領域における透過率が約60%以上、反射率が約5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記指向性散乱領域で予め決められた角度範囲外では、前記印刷層界面での反射光強度が前記散乱光の光強度よりも強いことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
一定の照明光源下において、前記指向性散乱領域から射出される光は、前記予め決められた範囲においてのみ、標準白色板の輝度に対して2倍以上の輝度を示すことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
【請求項5】
前記印刷層と前記レリーフ構造成形層の指向性散乱領域は、各々で異なる文字、記号、マークなどのパターンが形成され、該パターンの大きさが約2mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
前記印刷層と前記レリーフ構造成形層の指向性散乱領域は、各々で異なる文字、記号、マークなどのパターンを形成していて、その大きさの比が0.8〜1.2の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示体。
【請求項7】
前記印刷層の少なくとも一部が、観察角度に応じて発色の異なる機能性インキにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項8】
前記レリーフ構造成形層において、光散乱軸方向が互いに直交するように、異なる指向性散乱領域が成形されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の表示体。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の表示体と、前記表示体を支持する印刷が施された基材とを備えたことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−163610(P2012−163610A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21763(P2011−21763)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】