表示体及び情報印刷物
【課題】従来のホログラムなどに代表されるセキュリティデバイスとは一線を画した、肉眼での真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止策を施した表示体及びそれを用いた情報印刷物を提供する。
【解決手段】表示体10は、光透過性の基材11と、基材11の一方の面に設けられた凹凸形成用の層12とを備え、凹凸形成用の層12の表面に回折光射出機能を有するレリーフ構造部13が形成され、レリーフ構造部13は、多角形の各辺を凹溝13aで成形してなる多角形状の回折用単位セル131が基材11の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することで構成される。そして、レリーフ構造部13の表面に当該表面を覆うように光反射層が設けられている。また、互いに隣接する回折用単位セル131の中心間の距離が、2〜50μmの範囲に設定されている。
【解決手段】表示体10は、光透過性の基材11と、基材11の一方の面に設けられた凹凸形成用の層12とを備え、凹凸形成用の層12の表面に回折光射出機能を有するレリーフ構造部13が形成され、レリーフ構造部13は、多角形の各辺を凹溝13aで成形してなる多角形状の回折用単位セル131が基材11の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することで構成される。そして、レリーフ構造部13の表面に当該表面を覆うように光反射層が設けられている。また、互いに隣接する回折用単位セル131の中心間の距離が、2〜50μmの範囲に設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な凹凸からなるレリーフ構造部を有する表示体及びそれを用いた情報印刷物に関し、特に肉眼での真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止策を施した表示体及びそれを用いた情報印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造を防止する手段としては、簡単に真似する事のできない微細構造や色調変化を施したり、または他の光学機能フィルムを判定子として、それとの組み合わせでのみ生じる光学的現象が観察されるような構成としたり、さらには専用の読取装置でのみ一定のパターン等が読み取れるような構成とするなど、様々な態様が技術の進歩とともに実用化されてきた。
その中でも、実際の運用上の簡便さから、最も利用されているものの一つとして、ホログラムや回折格子像が挙げられる。
ホログラムは、二光束干渉などの光学的撮影方法により、微細な凹凸パターンや、屈折率分布を設けることで作製される。一方、回折格子像は、微小なエリアに回折格子を配置したものを画素として作製される。
【0003】
上記ホログラムや回折格子像は、双方ともに偽造が困難であり、カラーコピー機等による複写も困難で、また意匠的にも優れることから、クレジットカードやIDカード、各種有価証券、証明書等に広く用いられている。
しかしながら、実際の運用上ではホログラムや回折格子像の真偽判定は人の目に委ねられるため、微視的には粗悪な偽造品であっても全ての人が肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことは容易でない。
このため、偽造の防止を図る上で有利であり、従来にない視覚効果を有する表示素子を提供することが求められている。
例えば、特許文献1には、互いに異なる領域に設けられた微細凹凸領域と、光吸収領域とを含んで構成された表示素子が記載されている。この表示素子は、観察者の観察角度により、部分的に固有の色変化を得られ、従来のホログラムなどとは異なる視覚効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−134586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような表示素子の光吸収領域では正面から観察した場合には、黒色を呈するため、従来の回折光のような明るい色での表示はできない。また、微細な凹凸パターンを用いるため、それらの微細なパターン構造を作製する方法や、複製工程で微細な構造を正確に複製するには、技術的な困難が数多くある。特に、微細な凹凸形状や、凹凸パターンの深さを正確に管理する必要がある。さらに、従来のホログラムなどの作製工程では、十分な性能を達成できないことがある。それゆえ、このような作製工程では、新たな設備投資が必要となる場合がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題を解決するためになされたもので、正面から観察しても明るい色での表示が可能であり、かつ従来のホログラムなどに代表されるセキュリティデバイスとは一線を画した視覚効果を得ることができ、しかも肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことが可能であり、さらに従来のホログラムなどの複製工程でも作製可能である表示体及びそれを用いた情報印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、偽造防止機能を有する表示体であって、光透過性の基材と、前記基材の一方の面に設けられた凹凸形成用の層とを備え、前記凹凸形成用の層の表面の少なくとも一部に回折光射出機能を有するレリーフ構造部が形成され、前記レリーフ構造部は、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルが前記基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することで構成され、前記レリーフ構造部の少なくとも一部の表面に当該表面を覆うように光反射層が設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の表示体において、互いに隣接する前記回折用単位セルの中心間の距離が2μm以上50μm以下であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2記載の表示体において、前記各回折用単位セル毎に、前記凹溝の深さまたは前記凸条の高さが異なることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体において、前記回折用単位セルは六角形を呈し、当該回折用単位セルの一辺の長さが2μm以上10μm以下であり、前記回折用単位セルを成形する前記凹溝の幅または前記凸条の幅が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体において、前記基材の一方の面と反対の面で前記光反射層を含む前記レリーフ構造部の表面の箇所及びこの表面の箇所に対向する前記反対の面の箇所に、それらを覆うように保護層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、情報印刷物であって、印刷物基材と、前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表示体及びそれを用いた情報印刷物においては、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルを基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することでレリーフ構造部を構成したので、表示体を正面から観察しても明るい色での表示が可能であり、点光源で照明した場合には、従来の回折格子や表面レリーフホログラムと同様な視覚効果をもち、また面光源で照明した場合には、体積位相反射ホログラム(リップマンホログラム)と同様な視覚効果をもち、従来のホログラムなどに代表されるセキュリティデバイスとは一線を画した視覚効果を得ることができる。
また、本発明によれば、点光源と面光源を切り替えて照射できる照明装置を用いて照明することで、観察される色が大きく変化し、肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことが可能になる。さらに従来のホログラムなどの複製工程でも作製可能である表示体及びそれを用いた情報印刷物を提供することができなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るセキュリティ用表示体の一例を示す一部の概略斜視図である。
【図2】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成する回折用単位セルの形状の一例を示す概略斜視図である。
【図3】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成する回折用単位セルの形状の他の例を示す概略斜視図である。
【図4】図1のA−Aに沿う表示体の拡大断面図である。
【図5】一般的な回折格子の回折光の状態を示す説明図である。
【図6】一般的な回折格子の回折光の状態を示す説明図である。
【図7】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成するハニカム構造の回折用単位セルの格子線の繰り返し周期を示す説明用斜視図である。
【図8】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成するハニカム構造の回折用単位セルの格子線の繰り返し周期を示す説明用斜視図である。
【図9】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成するハニカム構造の回折用単位セル全体の格子線の繰り返し周期を示す説明用斜視図である。
【図10】一般的な回折格子を面積の大きい光源(面光源)で照明した場合の回折光の状態を示す説明図である。
【図11】本発明に係るハニカム構造の回折用単位セルからの面光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図12】本発明に係るハニカム構造の回折用単位からの面光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図13】本発明に係るハニカム構造の回折用単位セルからの点光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図14】本発明に係るハニカム構造の回折用単位セルからの点光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図15】本発明に係るセキュリティ用表示体を備えた情報印刷物の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図15を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(実施の形態1)
偽造防止機能を有する表示体10は、図1及び図4に示すように、一定厚さの平板状を呈する光透過性の基材11と、基材11の一方の面(観察側の表面)11aに設けられた凹凸形成層12を備える。
凹凸形成層12の一方の面11aと反対の面12aの全部または一部には、回折光射出機能を有するレリーフ構造部13が形成されている。
このレリーフ構造部13は、多角形、例えば正六角形の各辺を凹溝13aで成形してなる正六角形の回折用単位セル131を反対の面12aに沿い二次元方向に複数連続して配列することで構成される。これにより、レリーフ構造部13全体はハニカム構造となっている。このハニカム構造を構成する回折用単位セル131の互いに隣接する回折用単位セル131の中心間の距離はPとなっている。
ここで、回折用単位セル131の中心間の距離Pは、2μm以上50μm以下であることが好ましい。
また、正六角形状の回折用単位セル131一辺の長さLは2μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、回折用単位セル131を成形する凹溝13aの幅Wは0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
凹凸形成層12の一方の面11aと反対の面12aで、凹溝13aの内面を含むレリーフ構造部13の表面全域に当該表面を覆うように光反射層14が積層されている。さらに、光反射層14の凹凸形成層12と反対の面である表面14a上には光透過性の保護層15が積層されている。
【0015】
(実施の形態2)
図3は、回折用単位セル131を成形する正六角形の各辺を凸条13bで成形したものである。この場合も図1に示す場合と同様に、凸条13bからなる回折用単位セル131を二次元方向に複数連続して配列することでレリーフ構造部13が構成される。そして、凸条13bからなる回折用単位セル131の中心間の距離Pは、2μm以上50μm以下であることが好ましい。
また、正六角形状の回折用単位セル131一辺の長さLは2μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、回折用単位セル131を成形する凸条13bの幅Wは0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0016】
なお、本発明における回折用単位セル131は、凹溝13aまたは凸条13bで成形されるものに限定されず、凹溝13a及び凸条13bの何れか一方または両方で回折用単位セルを成形してもよい。
また、本発明における凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さは同一の値のものに限らず、これら深さ及び高さは互いに異なるものであってもよい。
さらに、本発明におけるレリーフ構造部13の表面全域が光反射層14で覆われる構成のものに限らず、回折用単位セル131を成形する凹溝13aまたは凸条13bの一部を光反射層14で部分的に覆う構成にすることもできる。
【0017】
図4において、凹凸形成層12の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、凹溝または凸条またはその両方が設けられたレリーフ構造部を容易に形成することができる。
原版を用いてレリーフ構造部13を形成する方法において、原版の作製方法としては、フォトレジストに電子線描画装置を用いて、回折用単位セルのパターンを描画し現像処理によりハニカム構造のレリーフ構造部を形成した原版を作製し、この原版に導電性膜を形成した後にNi電鋳を行うことによりNi電鋳版を作製する。
このNi電鋳版を凹凸形成層12に密着加圧し、熱可塑性樹脂の場合は加熱、光硬化性樹脂の場合は光照射を行うことで、凹凸形成層12にハニカム構造のレリーフ構造部を転写することができる。
このような作製方法は、従来のホログラムなどの複製工程でも行われている方法であるため、新たな設備投資を必要としない。
【0018】
次に、凹凸形成層12の少なくとも一部を被覆する光反射層14を設ける。光反射層14としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。または、光反射層14として、光透過性とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層14として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜、を使用してもよい。
但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち凹凸形成層12と接触しているものの屈折率は、凹凸形成層12の屈折率とは異なっている必要がある。さらに、凹凸形成層12の少なくともレリーフ構造部13を被覆するように保護層15を形成してもよい。
保護層15としては、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシ等の樹脂を使用することができる。こうすることで、凹凸形成領域43に異物が入り、本発明の機能を大きく損ねるようなことがなくなる。
【0019】
以下、本実施の形態におけるセキュリティ用表示体の達成可能な視覚効果について説明する。
図5に示す回折格子50は、複数の平行スリットが等間隔に配列することで構成されたものである。
このような回折格子50に光束51が格子面に垂直に入射されると、0次回折光52と、+1次回折光53と、−1次回折光54に射出する。ここで、回折格子50の格子間隔をD、入射する光の波長をλとすると、+1次回折光と0次回折光のなす角度の回折角θdは、式1で表すことができる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、回折角θdは、格子間隔Dが小さいほど、また、光の波長が長いほど大きくなる。したがって、回折格子50に白色光束が入射すると、プリズムと同様に光の分散が起こる。
ところで、図1に示すセキュリティ用の表示体のハニカム構造を構成する多角形の回折用単位セルは、凹溝または凸条で成形されるが、このような独立した多角形の回折用単位セル構造においても図5で説明したスリットと同様な回折現象が起き、回折用単位セルをハニカム状に配列することで同様な効果が得られる。
【0022】
図6において、回折格子60に白色光束61を入射すると、反射光62と、回折格子60で回折した青色光63、青色光64と、赤色光65に分散して射出する。
ここで、赤色光65は青色光64より波長が長いため、回折角度は大きくなる。また、赤色光65と青色光64の間にはその中間の波長の色が回折している。つまり入射した白色光はある空間上の特定範囲に色分散して配置されることになる。
【0023】
図7において、セキュリティ用の表示体10は、凹凸形成層12に形成されたハニカム構造のレリーフ構造部13を有し、このレリーフ構造部13は六角形状の回折用単位セル131を二次元方向に連続して配列することで構成されている。ここで、六角形状の回折用単位セル131の辺70に着目すると、この辺70の配置による繰り返し周期は構造全体として捕らえれば、格子線の周期71と考えることができる。ここで、格子線の周期71はその周期構造による回折光を射出する周期よりも大きい周期となっている。
【0024】
また、図8において、表示体10のレリーフ構造部13は、六角形状の回折用単位セル131を二次元方向に連続して配列することで構成されているため、六角形状の回折用単位セル131の辺80に着目すると、この辺80の配置による繰り返し周期は構造全体として捕らえれば、格子線の周期81となる。また、格子線の方向としては辺80と平行な方向に繰り返し配置されており、図7における辺70による格子線の周期71の方向とは異なる方向となる。
【0025】
また、図9において、図7に示す格子線の周期71と図8に示す格子線の周期81に、六角形の残りの辺の周期を加えたものが図9に示した格子線の周期90となり、ハニカム構造の繰り返し配置ごとの距離をPとすると、格子線の周期90はP/2となる。
また、3種の繰り返し格子線の方向は、六角形の各辺と平行となるため、各方向はそれぞれ60°の交差角となる。
【0026】
図10において、図6で示した回折格子60に、面積の大きい光源(面光源)、すなわち格子の溝方向(横方向)に拡がりをもった入射光100を入射すると回折光101として射出する。ここで、回折光範囲102の上下方向の広がりは、図6で説明したような色分散の拡がりで、横方向の拡がりは入射光の拡がりである。
また、図11において、ハニカム構造を構成する六角形状の回折用単位セル131を面光源で照明すると、回折用単位セル131の六角形の各辺から、図10で示したような回折光が空間に射出するため、各辺に対応した回折光範囲111が空間上に配置される。
【0027】
また、図12において、図11で示した回折光範囲111を、複数の六角形状の回折用単位セル131を集合させたハニカム構造120に対応させた場合に、回折光の射出する範囲としては回折光範囲121となる。
ここで、回折光範囲121は回折光範囲111が重なり合っているため、隣同士の色分散した領域が重なっている。このため、分光した色が重なって観察されるために、従来の回折格子や表面レリーフホログラムから射出する回折光とは異なった色で観察される。
また、この色はスペクトル分光した波長幅の狭い単色ではなく、ある程度の波長幅をもった体積位相反射ホログラム(リップマンホログラム)と同様な色味で観察される。
重なった色の混ざり具合は、それぞれの強度によっても変化する。このため、回折する強度を決定する要素として、凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さを変化させることで、観察される色が変化する。
このため、凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さが異なる領域を配置することで、異なる色を配置することが可能となる。
【0028】
ここで、ハニカム構造の回折用単位セル131を構成する凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さHを0.05μm以上2μm以下であり、凹溝13aの幅Wまたは凸条13bの幅Wを0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
また、回折光範囲121は空間上の特定範囲に拡がっているために、この範囲の中から観察する場合には、観察位置を変化しても色の変化は少なく、この点からも体積位相反射ホログラムと同様な視覚効果となる。
ただし、このような効果を発揮するには、ハニカム構造の繰り返し配置である、互いに隣接する回折用単位セル間の距離はある程度の範囲の中にする必要がある。これは、観察するときに瞳の中に空間上に拡がった色分散した光が入るため、回折光の拡がり角度が大きい場合には観察位置を変化した場合に色の変化を認知してしまう。
また、前記繰り返し配置ごとの距離があまり小さいと、構造による単純な回折光として観察され、回折用単位セル同士による色の混色が起こらなくなってしまう。このことから、互いに隣接する回折用単位セル間の距離は、2μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0029】
図13において、ハニカム構造を構成する六角形状の回折用単位セル131を点光源で照明すると、回折用単位セル131の六角形の各辺から、図6で示したような回折光が空間に射出するため、各辺に対応した回折光範囲135が空間上に配置される。
また、図14において、図13で示した回折光範囲135を、複数の六角形状の回折用単位セル131を集合させたハニカム構造120に対応させた場合に、回折光の射出する範囲としては回折光範囲141となる。
ここで、回折光範囲141は、面光源で照明した回折光範囲121と比較すると、色分散した領域が重なり合っている部分が少なく、従来の回折格子や表面レリーフホログラムから射出する回折光に近い色で観察される。
また、回折光範囲141は空間上の色分散が点在しているために、観察位置を変化すると色も変化するため、この点からも従来の回折格子や表面レリーフホログラムと同様な視覚効果となる。
【0030】
以上、説明したように、本実施の形態によると、点光源で照明した場合には、従来の回折格子や表面レリーフホログラムと同様な視覚効果をもち、面光源で照明した場合には、体積位相反射ホログラム(リップマンホログラム)と同様な視覚効果をもったセキュリティ表示素子を提供することができる。
このために、本実施の形態によるセキュリティ用の表示体を、点光源と面光源を切り替えて照射できる照明装置を用いて照明することで、観察される色が大きく変化し、肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことが可能となる。
また、本実施の形態によるセキュリティ用の表示体によれば、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルを基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続してハニカム状に配列することでレリーフ構造部を構成したので、これに加えて、凹凸により構成された通常の回折格子を設ければ、点光源と面光源を切り替えて観察した場合に、異なるパターンが現れるような配置とすることで、より確実な真偽判定を行うことが可能となる。
【0031】
(実施の形態2)
図15は、セキュリティ用の表示体を取り付けてなる情報印刷物の一例を示すもので、ラベル付き物品の一例として、情報印刷物20を描いている。この印刷物20は、IDカードである。
情報印刷物20は、印刷物基材210を含んでいる。印刷物基材210は、例えば、プラスチックからなる。印刷物基材210上には、印刷層220が形成されている。印刷物基材210の印刷層220が形成された面には、上述した表示体10が図示省略の粘着層を介して固定されている。
このように情報印刷物20は、表示体10を含んでいるため、情報印刷物の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この情報印刷物20は、表示体10に加えて、印刷層220を更に含んでいるため、これを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0032】
なお、図15には、表示体10を含んだ印刷物としてIDカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ情報印刷物は、磁気カード、無線カード及びICカードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ情報印刷物20は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ情報印刷物20は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ情報印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
これらの情報印刷物の製造には、例えば、粘着ラベル又は転写箔を利用することができる。
また、表示体を貼付する以外に、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体を紙に漉き込み、表示体に対応した位置で紙を開口させてもよい。
また、本発明における回折用単位セルの形状は正六角形に限らず、三角形、四角形や五角形等の多角形状のものでもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…表示体、11…基材、12…凹凸形成用の層、13…レリーフ構造部、13a…凹溝、13b…凸条、131…回折用単位セル、14…光反射層、15…保護層、50…回折格子、51…光束、52…0次回折光、53…+1次回折光、54…−1次回折光、60…回折格子、61…白色光束、62…反射光、63…青色光、64…中間色光、65…赤色光、70…辺、71…格子線の周期、80…辺、81…格子線の周期、90…格子線の周期、100…入射光、101…回折光、102…回折光範囲、111…回折光範囲、120…ハニカム構造、121…回折光範囲、131…回折光範囲、141…回折光範囲、20…情報印刷物、210…印刷物基材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な凹凸からなるレリーフ構造部を有する表示体及びそれを用いた情報印刷物に関し、特に肉眼での真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止策を施した表示体及びそれを用いた情報印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造を防止する手段としては、簡単に真似する事のできない微細構造や色調変化を施したり、または他の光学機能フィルムを判定子として、それとの組み合わせでのみ生じる光学的現象が観察されるような構成としたり、さらには専用の読取装置でのみ一定のパターン等が読み取れるような構成とするなど、様々な態様が技術の進歩とともに実用化されてきた。
その中でも、実際の運用上の簡便さから、最も利用されているものの一つとして、ホログラムや回折格子像が挙げられる。
ホログラムは、二光束干渉などの光学的撮影方法により、微細な凹凸パターンや、屈折率分布を設けることで作製される。一方、回折格子像は、微小なエリアに回折格子を配置したものを画素として作製される。
【0003】
上記ホログラムや回折格子像は、双方ともに偽造が困難であり、カラーコピー機等による複写も困難で、また意匠的にも優れることから、クレジットカードやIDカード、各種有価証券、証明書等に広く用いられている。
しかしながら、実際の運用上ではホログラムや回折格子像の真偽判定は人の目に委ねられるため、微視的には粗悪な偽造品であっても全ての人が肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことは容易でない。
このため、偽造の防止を図る上で有利であり、従来にない視覚効果を有する表示素子を提供することが求められている。
例えば、特許文献1には、互いに異なる領域に設けられた微細凹凸領域と、光吸収領域とを含んで構成された表示素子が記載されている。この表示素子は、観察者の観察角度により、部分的に固有の色変化を得られ、従来のホログラムなどとは異なる視覚効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−134586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような表示素子の光吸収領域では正面から観察した場合には、黒色を呈するため、従来の回折光のような明るい色での表示はできない。また、微細な凹凸パターンを用いるため、それらの微細なパターン構造を作製する方法や、複製工程で微細な構造を正確に複製するには、技術的な困難が数多くある。特に、微細な凹凸形状や、凹凸パターンの深さを正確に管理する必要がある。さらに、従来のホログラムなどの作製工程では、十分な性能を達成できないことがある。それゆえ、このような作製工程では、新たな設備投資が必要となる場合がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題を解決するためになされたもので、正面から観察しても明るい色での表示が可能であり、かつ従来のホログラムなどに代表されるセキュリティデバイスとは一線を画した視覚効果を得ることができ、しかも肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことが可能であり、さらに従来のホログラムなどの複製工程でも作製可能である表示体及びそれを用いた情報印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、偽造防止機能を有する表示体であって、光透過性の基材と、前記基材の一方の面に設けられた凹凸形成用の層とを備え、前記凹凸形成用の層の表面の少なくとも一部に回折光射出機能を有するレリーフ構造部が形成され、前記レリーフ構造部は、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルが前記基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することで構成され、前記レリーフ構造部の少なくとも一部の表面に当該表面を覆うように光反射層が設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の表示体において、互いに隣接する前記回折用単位セルの中心間の距離が2μm以上50μm以下であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2記載の表示体において、前記各回折用単位セル毎に、前記凹溝の深さまたは前記凸条の高さが異なることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体において、前記回折用単位セルは六角形を呈し、当該回折用単位セルの一辺の長さが2μm以上10μm以下であり、前記回折用単位セルを成形する前記凹溝の幅または前記凸条の幅が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体において、前記基材の一方の面と反対の面で前記光反射層を含む前記レリーフ構造部の表面の箇所及びこの表面の箇所に対向する前記反対の面の箇所に、それらを覆うように保護層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、情報印刷物であって、印刷物基材と、前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表示体及びそれを用いた情報印刷物においては、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルを基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することでレリーフ構造部を構成したので、表示体を正面から観察しても明るい色での表示が可能であり、点光源で照明した場合には、従来の回折格子や表面レリーフホログラムと同様な視覚効果をもち、また面光源で照明した場合には、体積位相反射ホログラム(リップマンホログラム)と同様な視覚効果をもち、従来のホログラムなどに代表されるセキュリティデバイスとは一線を画した視覚効果を得ることができる。
また、本発明によれば、点光源と面光源を切り替えて照射できる照明装置を用いて照明することで、観察される色が大きく変化し、肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことが可能になる。さらに従来のホログラムなどの複製工程でも作製可能である表示体及びそれを用いた情報印刷物を提供することができなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るセキュリティ用表示体の一例を示す一部の概略斜視図である。
【図2】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成する回折用単位セルの形状の一例を示す概略斜視図である。
【図3】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成する回折用単位セルの形状の他の例を示す概略斜視図である。
【図4】図1のA−Aに沿う表示体の拡大断面図である。
【図5】一般的な回折格子の回折光の状態を示す説明図である。
【図6】一般的な回折格子の回折光の状態を示す説明図である。
【図7】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成するハニカム構造の回折用単位セルの格子線の繰り返し周期を示す説明用斜視図である。
【図8】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成するハニカム構造の回折用単位セルの格子線の繰り返し周期を示す説明用斜視図である。
【図9】図1に示す表示体のレリーフ構造部を構成するハニカム構造の回折用単位セル全体の格子線の繰り返し周期を示す説明用斜視図である。
【図10】一般的な回折格子を面積の大きい光源(面光源)で照明した場合の回折光の状態を示す説明図である。
【図11】本発明に係るハニカム構造の回折用単位セルからの面光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図12】本発明に係るハニカム構造の回折用単位からの面光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図13】本発明に係るハニカム構造の回折用単位セルからの点光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図14】本発明に係るハニカム構造の回折用単位セルからの点光源による回折光の状態を示す説明図である。
【図15】本発明に係るセキュリティ用表示体を備えた情報印刷物の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図15を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(実施の形態1)
偽造防止機能を有する表示体10は、図1及び図4に示すように、一定厚さの平板状を呈する光透過性の基材11と、基材11の一方の面(観察側の表面)11aに設けられた凹凸形成層12を備える。
凹凸形成層12の一方の面11aと反対の面12aの全部または一部には、回折光射出機能を有するレリーフ構造部13が形成されている。
このレリーフ構造部13は、多角形、例えば正六角形の各辺を凹溝13aで成形してなる正六角形の回折用単位セル131を反対の面12aに沿い二次元方向に複数連続して配列することで構成される。これにより、レリーフ構造部13全体はハニカム構造となっている。このハニカム構造を構成する回折用単位セル131の互いに隣接する回折用単位セル131の中心間の距離はPとなっている。
ここで、回折用単位セル131の中心間の距離Pは、2μm以上50μm以下であることが好ましい。
また、正六角形状の回折用単位セル131一辺の長さLは2μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、回折用単位セル131を成形する凹溝13aの幅Wは0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
凹凸形成層12の一方の面11aと反対の面12aで、凹溝13aの内面を含むレリーフ構造部13の表面全域に当該表面を覆うように光反射層14が積層されている。さらに、光反射層14の凹凸形成層12と反対の面である表面14a上には光透過性の保護層15が積層されている。
【0015】
(実施の形態2)
図3は、回折用単位セル131を成形する正六角形の各辺を凸条13bで成形したものである。この場合も図1に示す場合と同様に、凸条13bからなる回折用単位セル131を二次元方向に複数連続して配列することでレリーフ構造部13が構成される。そして、凸条13bからなる回折用単位セル131の中心間の距離Pは、2μm以上50μm以下であることが好ましい。
また、正六角形状の回折用単位セル131一辺の長さLは2μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、回折用単位セル131を成形する凸条13bの幅Wは0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0016】
なお、本発明における回折用単位セル131は、凹溝13aまたは凸条13bで成形されるものに限定されず、凹溝13a及び凸条13bの何れか一方または両方で回折用単位セルを成形してもよい。
また、本発明における凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さは同一の値のものに限らず、これら深さ及び高さは互いに異なるものであってもよい。
さらに、本発明におけるレリーフ構造部13の表面全域が光反射層14で覆われる構成のものに限らず、回折用単位セル131を成形する凹溝13aまたは凸条13bの一部を光反射層14で部分的に覆う構成にすることもできる。
【0017】
図4において、凹凸形成層12の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、凹溝または凸条またはその両方が設けられたレリーフ構造部を容易に形成することができる。
原版を用いてレリーフ構造部13を形成する方法において、原版の作製方法としては、フォトレジストに電子線描画装置を用いて、回折用単位セルのパターンを描画し現像処理によりハニカム構造のレリーフ構造部を形成した原版を作製し、この原版に導電性膜を形成した後にNi電鋳を行うことによりNi電鋳版を作製する。
このNi電鋳版を凹凸形成層12に密着加圧し、熱可塑性樹脂の場合は加熱、光硬化性樹脂の場合は光照射を行うことで、凹凸形成層12にハニカム構造のレリーフ構造部を転写することができる。
このような作製方法は、従来のホログラムなどの複製工程でも行われている方法であるため、新たな設備投資を必要としない。
【0018】
次に、凹凸形成層12の少なくとも一部を被覆する光反射層14を設ける。光反射層14としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。または、光反射層14として、光透過性とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層14として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜、を使用してもよい。
但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち凹凸形成層12と接触しているものの屈折率は、凹凸形成層12の屈折率とは異なっている必要がある。さらに、凹凸形成層12の少なくともレリーフ構造部13を被覆するように保護層15を形成してもよい。
保護層15としては、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシ等の樹脂を使用することができる。こうすることで、凹凸形成領域43に異物が入り、本発明の機能を大きく損ねるようなことがなくなる。
【0019】
以下、本実施の形態におけるセキュリティ用表示体の達成可能な視覚効果について説明する。
図5に示す回折格子50は、複数の平行スリットが等間隔に配列することで構成されたものである。
このような回折格子50に光束51が格子面に垂直に入射されると、0次回折光52と、+1次回折光53と、−1次回折光54に射出する。ここで、回折格子50の格子間隔をD、入射する光の波長をλとすると、+1次回折光と0次回折光のなす角度の回折角θdは、式1で表すことができる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、回折角θdは、格子間隔Dが小さいほど、また、光の波長が長いほど大きくなる。したがって、回折格子50に白色光束が入射すると、プリズムと同様に光の分散が起こる。
ところで、図1に示すセキュリティ用の表示体のハニカム構造を構成する多角形の回折用単位セルは、凹溝または凸条で成形されるが、このような独立した多角形の回折用単位セル構造においても図5で説明したスリットと同様な回折現象が起き、回折用単位セルをハニカム状に配列することで同様な効果が得られる。
【0022】
図6において、回折格子60に白色光束61を入射すると、反射光62と、回折格子60で回折した青色光63、青色光64と、赤色光65に分散して射出する。
ここで、赤色光65は青色光64より波長が長いため、回折角度は大きくなる。また、赤色光65と青色光64の間にはその中間の波長の色が回折している。つまり入射した白色光はある空間上の特定範囲に色分散して配置されることになる。
【0023】
図7において、セキュリティ用の表示体10は、凹凸形成層12に形成されたハニカム構造のレリーフ構造部13を有し、このレリーフ構造部13は六角形状の回折用単位セル131を二次元方向に連続して配列することで構成されている。ここで、六角形状の回折用単位セル131の辺70に着目すると、この辺70の配置による繰り返し周期は構造全体として捕らえれば、格子線の周期71と考えることができる。ここで、格子線の周期71はその周期構造による回折光を射出する周期よりも大きい周期となっている。
【0024】
また、図8において、表示体10のレリーフ構造部13は、六角形状の回折用単位セル131を二次元方向に連続して配列することで構成されているため、六角形状の回折用単位セル131の辺80に着目すると、この辺80の配置による繰り返し周期は構造全体として捕らえれば、格子線の周期81となる。また、格子線の方向としては辺80と平行な方向に繰り返し配置されており、図7における辺70による格子線の周期71の方向とは異なる方向となる。
【0025】
また、図9において、図7に示す格子線の周期71と図8に示す格子線の周期81に、六角形の残りの辺の周期を加えたものが図9に示した格子線の周期90となり、ハニカム構造の繰り返し配置ごとの距離をPとすると、格子線の周期90はP/2となる。
また、3種の繰り返し格子線の方向は、六角形の各辺と平行となるため、各方向はそれぞれ60°の交差角となる。
【0026】
図10において、図6で示した回折格子60に、面積の大きい光源(面光源)、すなわち格子の溝方向(横方向)に拡がりをもった入射光100を入射すると回折光101として射出する。ここで、回折光範囲102の上下方向の広がりは、図6で説明したような色分散の拡がりで、横方向の拡がりは入射光の拡がりである。
また、図11において、ハニカム構造を構成する六角形状の回折用単位セル131を面光源で照明すると、回折用単位セル131の六角形の各辺から、図10で示したような回折光が空間に射出するため、各辺に対応した回折光範囲111が空間上に配置される。
【0027】
また、図12において、図11で示した回折光範囲111を、複数の六角形状の回折用単位セル131を集合させたハニカム構造120に対応させた場合に、回折光の射出する範囲としては回折光範囲121となる。
ここで、回折光範囲121は回折光範囲111が重なり合っているため、隣同士の色分散した領域が重なっている。このため、分光した色が重なって観察されるために、従来の回折格子や表面レリーフホログラムから射出する回折光とは異なった色で観察される。
また、この色はスペクトル分光した波長幅の狭い単色ではなく、ある程度の波長幅をもった体積位相反射ホログラム(リップマンホログラム)と同様な色味で観察される。
重なった色の混ざり具合は、それぞれの強度によっても変化する。このため、回折する強度を決定する要素として、凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さを変化させることで、観察される色が変化する。
このため、凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さが異なる領域を配置することで、異なる色を配置することが可能となる。
【0028】
ここで、ハニカム構造の回折用単位セル131を構成する凹溝13aの深さまたは凸条13bの高さHを0.05μm以上2μm以下であり、凹溝13aの幅Wまたは凸条13bの幅Wを0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
また、回折光範囲121は空間上の特定範囲に拡がっているために、この範囲の中から観察する場合には、観察位置を変化しても色の変化は少なく、この点からも体積位相反射ホログラムと同様な視覚効果となる。
ただし、このような効果を発揮するには、ハニカム構造の繰り返し配置である、互いに隣接する回折用単位セル間の距離はある程度の範囲の中にする必要がある。これは、観察するときに瞳の中に空間上に拡がった色分散した光が入るため、回折光の拡がり角度が大きい場合には観察位置を変化した場合に色の変化を認知してしまう。
また、前記繰り返し配置ごとの距離があまり小さいと、構造による単純な回折光として観察され、回折用単位セル同士による色の混色が起こらなくなってしまう。このことから、互いに隣接する回折用単位セル間の距離は、2μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0029】
図13において、ハニカム構造を構成する六角形状の回折用単位セル131を点光源で照明すると、回折用単位セル131の六角形の各辺から、図6で示したような回折光が空間に射出するため、各辺に対応した回折光範囲135が空間上に配置される。
また、図14において、図13で示した回折光範囲135を、複数の六角形状の回折用単位セル131を集合させたハニカム構造120に対応させた場合に、回折光の射出する範囲としては回折光範囲141となる。
ここで、回折光範囲141は、面光源で照明した回折光範囲121と比較すると、色分散した領域が重なり合っている部分が少なく、従来の回折格子や表面レリーフホログラムから射出する回折光に近い色で観察される。
また、回折光範囲141は空間上の色分散が点在しているために、観察位置を変化すると色も変化するため、この点からも従来の回折格子や表面レリーフホログラムと同様な視覚効果となる。
【0030】
以上、説明したように、本実施の形態によると、点光源で照明した場合には、従来の回折格子や表面レリーフホログラムと同様な視覚効果をもち、面光源で照明した場合には、体積位相反射ホログラム(リップマンホログラム)と同様な視覚効果をもったセキュリティ表示素子を提供することができる。
このために、本実施の形態によるセキュリティ用の表示体を、点光源と面光源を切り替えて照射できる照明装置を用いて照明することで、観察される色が大きく変化し、肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことが可能となる。
また、本実施の形態によるセキュリティ用の表示体によれば、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルを基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続してハニカム状に配列することでレリーフ構造部を構成したので、これに加えて、凹凸により構成された通常の回折格子を設ければ、点光源と面光源を切り替えて観察した場合に、異なるパターンが現れるような配置とすることで、より確実な真偽判定を行うことが可能となる。
【0031】
(実施の形態2)
図15は、セキュリティ用の表示体を取り付けてなる情報印刷物の一例を示すもので、ラベル付き物品の一例として、情報印刷物20を描いている。この印刷物20は、IDカードである。
情報印刷物20は、印刷物基材210を含んでいる。印刷物基材210は、例えば、プラスチックからなる。印刷物基材210上には、印刷層220が形成されている。印刷物基材210の印刷層220が形成された面には、上述した表示体10が図示省略の粘着層を介して固定されている。
このように情報印刷物20は、表示体10を含んでいるため、情報印刷物の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この情報印刷物20は、表示体10に加えて、印刷層220を更に含んでいるため、これを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0032】
なお、図15には、表示体10を含んだ印刷物としてIDカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ情報印刷物は、磁気カード、無線カード及びICカードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ情報印刷物20は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ情報印刷物20は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ情報印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
これらの情報印刷物の製造には、例えば、粘着ラベル又は転写箔を利用することができる。
また、表示体を貼付する以外に、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体を紙に漉き込み、表示体に対応した位置で紙を開口させてもよい。
また、本発明における回折用単位セルの形状は正六角形に限らず、三角形、四角形や五角形等の多角形状のものでもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…表示体、11…基材、12…凹凸形成用の層、13…レリーフ構造部、13a…凹溝、13b…凸条、131…回折用単位セル、14…光反射層、15…保護層、50…回折格子、51…光束、52…0次回折光、53…+1次回折光、54…−1次回折光、60…回折格子、61…白色光束、62…反射光、63…青色光、64…中間色光、65…赤色光、70…辺、71…格子線の周期、80…辺、81…格子線の周期、90…格子線の周期、100…入射光、101…回折光、102…回折光範囲、111…回折光範囲、120…ハニカム構造、121…回折光範囲、131…回折光範囲、141…回折光範囲、20…情報印刷物、210…印刷物基材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材と、
前記基材の一方の面に設けられた凹凸形成用の層とを備え、
前記凹凸形成用の層の表面の少なくとも一部に回折光射出機能を有するレリーフ構造部が形成され、
前記レリーフ構造部は、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルが前記基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することで構成され、
前記レリーフ構造部の少なくとも一部の表面に当該表面を覆うように光反射層が設けられている、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
互いに隣接する前記回折用単位セルの中心間の距離が2μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記各回折用単位セル毎に、前記凹溝の深さまたは前記凸条の高さが異なることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
前記回折用単位セルは六角形を呈し、当該回折用単位セルの一辺の長さが2μm以上10μm以下であり、前記回折用単位セルを成形する前記凹溝の幅または前記凸条の幅が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体。
【請求項5】
前記基材の一方の面と反対の面で前記光反射層を含む前記レリーフ構造部の表面の箇所及びこの表面の箇所に対向する前記反対の面の箇所に、それらを覆うように保護層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体。
【請求項6】
印刷物基材と、
前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体を備える、
ことを特徴とする情報印刷物。
【請求項1】
光透過性の基材と、
前記基材の一方の面に設けられた凹凸形成用の層とを備え、
前記凹凸形成用の層の表面の少なくとも一部に回折光射出機能を有するレリーフ構造部が形成され、
前記レリーフ構造部は、多角形の各辺を凹溝及び凸条の何れか一方または両方で成形してなる多角形状の回折用単位セルが前記基材の一方の面と反対の面に平行する面上で二次元方向に複数連続して配列することで構成され、
前記レリーフ構造部の少なくとも一部の表面に当該表面を覆うように光反射層が設けられている、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
互いに隣接する前記回折用単位セルの中心間の距離が2μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記各回折用単位セル毎に、前記凹溝の深さまたは前記凸条の高さが異なることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
前記回折用単位セルは六角形を呈し、当該回折用単位セルの一辺の長さが2μm以上10μm以下であり、前記回折用単位セルを成形する前記凹溝の幅または前記凸条の幅が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体。
【請求項5】
前記基材の一方の面と反対の面で前記光反射層を含む前記レリーフ構造部の表面の箇所及びこの表面の箇所に対向する前記反対の面の箇所に、それらを覆うように保護層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体。
【請求項6】
印刷物基材と、
前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体を備える、
ことを特徴とする情報印刷物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−276692(P2010−276692A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126577(P2009−126577)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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