説明

表示体及び積層体

【課題】本発明の第一の課題は、より高度な視覚効果を備え、偽造困難な表示体を提供することである。本発明の第二の課題は、ヒトの視覚によっても、読取機械によっても特徴を把握し真贋判定が容易な表示体を提供することである。本発明の第三の課題は、従来の表示体では表現できなかった新規な視覚効果により、アイキャッチ効果の高い表示体を提供することである。
【解決手段】本願発明の第1の態様は、微細レリーフ構造を有する微細レリーフ領域を備えた表示体であって、微細レリーフ領域は、前記表示体の可視光反射率が低く、かつ、1次回折光を射出することを特徴とする表示体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体およびそれを備えた積層体に関し、特にセキュリティ用途に好適な表示体及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造を防止する手段としては、簡単に真似する事のできない微細構造や色調変化を施したり、または他の光学機能フィルムを判定子として、それとの組み合わせでのみある光学的現象が観察されるような構成としたり、さらには専用の読取装置でのみ一定のパターン等が読み取れるような構成とするなど、様々な態様が技術の進歩とともに実用化されてきた。
【0003】
その中でも、実際の運用上の簡便さから、最も利用されているものの一つとして、ホログラムや回折格子像が挙げられる。
ホログラムは、二光束干渉などの光学的撮影方法により、微細な凹凸パターンや、屈折率分布を設けることで作製される。一方、回折格子像は、微小なエリアに回折格子を配置したものを画素として作製される。
上記ホログラムや回折格子像は、双方ともに偽造困難で、カラーコピー機等による複写も困難で、また意匠的にも優れることから、クレジットカードやIDカード、各種有価証券、証明書等に広く用いられている。
しかしながら、実際の運用上ではホログラムや回折格子像の真偽判定は人の目に委ねられるため、微視的には粗悪な偽造品であっても全ての人が肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことは容易でない。
【0004】
また、上述のようなホログラムや回折格子像が流通、普及していく中で、偽造技術も進歩していくため、より偽造困難な表示体が求められているところである。
例えば、表面レリーフ構造のホログラムや回折格子は密着露光により複製される恐れがある。
偽造を防ぐため、例えば回折効果を持つ細かいパターンの配置に工夫を凝らすことが特許文献1に記載されている。このセキュリティデバイスでは、ヒトの目視では情報が読み取れないようにし、セキュリティ情報の有無を分かりにくくしている。したがって、真正品か否かの判断は目視では困難で、その判定には読み取り機械を使用することになる。
また、密着露光法で複製されたホログラムや回折格子は、オリジナルと比較すれば精度の低下を確認できるが、通常複製品は複製品のみで流通するため、専門家ではない一般の需要家では真正品か否かの判断が困難であるという問題があった。
【0005】
<先行技術>
微細な凹凸を設けた基材は、入射した光の反射を抑えることが知られている。例えば、ある種の反射防止フィルムは、フィルム基材表面に細かい凹凸のエンボス加工を施したり、フィルム形成樹脂そのものにフィラーを混ぜ込むことで、フィルムの屈折率に分布を持たせるとともに、フィルム表面に凹凸を形成する。近年では、この凹凸をさらに微細に、凸部の周期を光の波長以下とするとこで、光の反射を防ぎ入射光を制御できることが開示されている(例えば特許文献2参照)。この技術は、凸部の周期が光の波長以下、特に50から250nm程度とすることで、光の反射を抑制し、光制御シートに適用したというものである。しかし、本発明のように、微細な凸部を光の波長以下の中心間距離で設け、これに反射層を備えることで、回折光を制御し、回折光を観察可能な表示体とすることはまだ知られていない。
【特許文献1】特表2002−505774号公報
【特許文献2】特開2007−48688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を目的としている。すなわち、本発明の第一の課題は、より高度な視覚効果を備え、偽造困難な表示体を提供することである。本発明の第二の課題は、ヒトの視覚によっても、読取機械によっても特徴を把握し真贋判定が容易な表示体を提供することである。本発明の第三の課題は、従来の表示体では表現できなかった新規な視覚効果により、アイキャッチ効果の高い表示体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の態様は、微細レリーフ構造を有する微細レリーフ領域を備えた表示体であって、微細レリーフ領域は、前記表示体の可視光反射率が低く、かつ、1次回折光を射出することを特徴とする表示体である。この構成とすることで、正面方向からの視認では金属光沢ではなく、光沢のない印刷面のように見え、回折光が確認できる光学素子であることは分からないので、偽造が困難な表示体となる。また、傾けると回折光を観察できることから、ヒトの目でも機械でも、真贋判定が容易である。また、正面方向から観察すると微細レリーフ領域は印刷面であるかのような、光沢がなく明度も彩度も低い黒色又は灰色を表現できるため、従来のセキュリティパターンとは異なるデザインが可能である。
【0008】
本発明の表示体は、上記構造に加えて、微細レリーフ構造は反射層を備えている。
さらに、前記反射層は膜厚(t)が下記の式を満たしている。
t> 1/α,
α=4πk/λmin
k:消光係数、α:吸収係数、λmin:可視光域の最短波長
さらに、前記反射層は金属であることを特徴とする。このような構成とすることで、光の透過を防ぎ、法線方向から観察した際により黒色に見えるようになる。また、回折光を強くすることができる。
上記構造に加えて、微細レリーフ領域の可視光反射率は10%以下である。このような構成とすることで、法線方向からの観察に対し黒色に近く見え、また、従来のセキュリティパターンとも区別しやすい。
【0009】
さらに、本発明の表示体は、上記構成に加えて、前記微細レリーフ領域から射出される1次回折光は、可視光波長範囲の一部のみを含むことを特徴とする。さらに、前記微細レリーフ領域から射出される1次回折光は、700nmより長い波長を含まないことを特徴とする。このような構成とすることで、従来のホログラムや回折格子に比べ、観察できる波長が異なり、従来とは異なる視覚効果を得ることができる。
【0010】
さらに本発明の表示体が、上記構成に加えて、微細レリーフ構造を有さない微細レリーフ非形成領域を備え、当該微細レリーフ非形成領域の可視光反射率は60%以上とする。
上記構成に加えて、回折格子構造を備えた回折格子領域を備え、当該回折格子領域の可視光反射率は60%以上、かつ、回折光を射出することを特徴とする表示体である。
可視光反射率の高い領域を同時に備える表示体とすることで、可視光反射率の違いを相対的に観察できるので、真性品の判断が容易になる。また、デザインの選択肢が多彩になるため装飾効果が大きく、人目を引くことができる。
【0011】
さらに、本願発明の第2の態様は、このような表示体と、当該表示体を配置した基材とを備えた積層体である。本願発明の積層体は、例えばIDカードや品質保証シールなど、様々な認証用途に用いることができる。また、カード、シール、書籍、商品包装など、意匠性を求められる用途にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より高度な視覚効果を備え、偽造困難な表示体及び積層体とすることができる。また、ヒトの視覚によっても、読取機械によっても特徴を把握し真贋判定が容易な表示体及び積層体とすることができる。さらに、従来のホログラムや回折格子では表現できなかった新規な視覚効果により、高い意匠性を備え、アイキャッチ効果の高い表示体及び積層体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を使いながら本発明を具体的に解説する。
図1乃至図6は、本発明の第1の態様を説明する図である。
図7及び図8は、本発明の第2の態様を説明する図である。
図1は、本発明の表示体の第1実施形態を概略的に示した断面図である。
本発明の第1実施形態では、表示体10は第一基材11、反射層12、第二基材18を備えている。また、表示体10は微細レリーフ領域13を備えている。微細レリーフ領域は微細レリーフ構造14を有している。微細レリーフ構造14は、第一基材11と第二基材18の界面に位置しており、微細なレリーフに沿った形状の反射層12を備えている。
【0014】
<第一基材/第二基材>
第一基材11および/または第二基材18は微細レリーフ領域13を構成する微細レリーフ構造14を保持するための層である。第一基材11および第二基材18の材料としては、例えば熱可塑性または光硬化性の樹脂を挙げることができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹構造及び/又は凸構造が設けられた第一基材11または第二基材18を容易に形成することができる。第一基材11と第二基材18とは同じ材料を用いてもよい。光透過性の材料を用いることで、それぞれの基材を介して表示素子として観察することができる。第一基材11及び第二基材18はそれぞれ複数種類の樹脂の積層体であってもよい。また、第一基材11と第二基材18は、いずれか一方を省略することもできる。あるいは、本願発明の表示体を他の基材に配置し積層体として用いるために、いずれか一方を接着層とすることもできる。
【0015】
<微細レリーフ構造>
微細レリーフ構造14は、例えば、感光性樹脂材料に電子ビームによってパターンを描画する方法により形成することができる。あるいは、表面レリーフ型ホログラムの作製のように、微細凹凸に対応する微細な凹凸を備えた原版を例えばフィルム上に積層された熱可塑性樹脂に熱をかけながら押し当てる、いわゆる熱エンボス加工法により形成することができる。
【0016】
また、フィルム等の透明基材に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら、基材側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させた後原版を取り除くという手順によっても、微細レリーフ構造14を備えた第一基材11あるいは第二基材18を得ることができる。このとき、後に述べる回折格子構造17を、一緒に形成することもできる。
微細な凹凸を備えた原版は、例えば、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録した樹脂や、電子ビームによってパターンを描画した樹脂を母型とする方法、またはバイトによって金属を切削する方法により得られた母型の電鋳を行うことにより得られる。
ここで微細レリーフ領域13を形成する微細レリーフ構造14は、必ずしもそれぞれが同一の大きさ・形状である必要はなく、配列の規則性が維持されていればよい。またその断面形状に関しても、上述の可視光に対する反射率低減の効果を示すものであれば、特に限定されるものではない。
【0017】
図3は、微細レリーフ構造14として選択することができるパターンの一例を拡大して示す斜視図である。図3(a)は、凸部31として円錐が並んだ形状を取った場合を示している。また、図3(b)は図3(a)を裏側から見た場合を示す模式図であり、凸部31の裏返しとして、凹部32が並んでいる。
凸部の高さ(凹部の深さ)hは中心間距離の1/2以上であればよく、典型的には0.3μm以上0.5μm以下である。
【0018】
微細レリーフ構造として選択可能な凸部の形状には、角錐や円錐を含む錐体、角錐台や円錐台を含む錐台、の他、柱体、半球、半楕円体等を挙げることができる。基端部から頂部にかけてその断面積が連続的、あるいは段階的に減少していく形状であればよい。錐台形など、凸部頂部はとがっていなくても本発明の効果を得ることができる。凸部の形状は、水平方向の断面積が連続的に変化するため錐体または錐台であることが好ましい。
凸部の配列は、規則的であることが好ましい。例えば行列状に配置してもよく、特に好ましくは凸部基端部水平方向の断面形状にあわせてもっとも密に配置可能な並べ方を選択することができる。特に、凸部基端部は間隔を空けず、隣接する凸部と接して形成するのが好ましい。図4に、選択可能な配列をいくつか例示する。規則性を一部崩したものであっても、ある程度は、正反射を抑えかつ回折光を射出する本発明の表示体の構成を得ることができる。
微細レリーフ構造14が図3に示すような複数の凸部の集合である場合、その基端部側が観察者側となり、観察者側からは穴があいたような状態となるように表示体を構成すると、凸部頂部の変形や破損を防止することができ好ましい。
【0019】
<反射層>
反射層12としては、可視光を透過せず、可視光の反射率の高い物質、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属膜を使用することができる。この場合、微細レリーフ領域13を法線方向から観察すると、黒色あるいは灰色の無彩色に見える。
また、反射層12を金属膜とすることで、微細レリーフ領域13と、後述する微細レリーフ非形成領域15との反射率の違いが明確になるため、それぞれの領域を目視でも読み取り機械によっても認識しやすくなる。
【0020】
特に、前記金属反射膜の膜厚(t)を下記の式を満たすように設定することが望ましい。
t> 1/α,
α=4πk/λmin
k:消光係数、α:吸収係数、λmin:可視光域の最短波長
金属およびその化合物はそれぞれ固有の光吸収を示すが、いずれにおいても上記の膜厚条件を満たせば、ほぼ可視光域全てにわたって高い反射率が得られる。たとえばアルミの場合、可視光域の最短波長を380nmとすれば消光係数kは約4.6であり、上式より6から7nm以上の膜厚とすればよい。
【0021】
ここで注意すべきは、前記金属反射膜の見かけ上の膜厚が視角により異なることである。特に微細レリーフ構造14へ前記金属反射膜を形成する場合、図4に示したとおり、本発明の表示体に対し法線方向から観察した場合の反射層12の膜厚(t)と、斜め方向から観察した場合の膜厚は異なる。充分な効果を得るためには、微細レリーフ構造を形成する外郭線の接線に対して垂直な方向の膜厚(tmin)が上式を満たすようにすることが望ましい。
【0022】
反射層は、例えば蒸着やスパッタリング等の薄膜の形成方法により形成することができる(図6(a))。反射層12は、微細レリーフ構造14の形状に沿ったものであれば、微細レリーフ構造14に対して観察者側であっても、裏面側であってもかまわない。
或いは、反射層12に加えて、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体,すなわち、誘電体多層膜,を設けてもよい。多層誘電体膜とすれば、微細レリーフ領域13に波長選択性を与えられるため、金属や単層の誘電体膜を反射層とした場合とは異なる視覚効果を得ることができる。
多層誘電体膜61は、例えば、微細レリーフ構造14を形成した第一基材11上に、硫化亜鉛などの高屈折率材料62とフッ化マグネシウムなどの低屈折率材料63とを交互に蒸着することによって得られる。このとき、金属膜65は、図6(b)及び(c)に示すように、第一基材11側でも、第二基材18側でもよい。
【0023】
微細レリーフ構造が備える反射層は、平滑面(微細レリーフ構造が形成されていない面)形成時において、可視光反射率が60%以上となるような反射層であることが好ましい。可視光反射率が60%以上であると、入射した光の透過を防ぎ、法線方向から観察した際により黒色に見えるようになる。また、強い回折光を観察することができるようになる。
本願発明の表示体が微細レリーフ非形成領域15を備えている際、微細レリーフ非形成領域にも反射層を設けることができる。このときの反射層も可視光反射率が60%以上となるような反射層であることが好ましく、より好ましくは微細レリーフ領域に設けられた反射層と同じものを同時に設けることができる。このような構成とすることで、本発明の表示体を法線方向から観察した場合、微細レリーフ領域13は光沢のない黒又は灰色に、微細レリーフ非形成領域15は強い反射光と金属光沢を観察することができ、それぞれの領域の違いが顕著になる。特に、微細レリーフ非形成領域15が、回折格子構造17を備えた回折格子領域16であった場合、正面に近い方向では正反射光に加え回折光も観察可能であるためこの効果はいっそう顕著であり、高い意匠性を得ることができる。
【0024】
本発明の表示素子は例えば、第一基材11に微細レリーフ構造14を設けた後、微細レリーフ構造14を被覆する反射層12を形成し、この上に第二基材18を形成して製造することができる。例えば、第一基材11として厚み100μmの光透過性フィルムに厚み1μmのエンボス層を設けた積層体を用い、このエンボス層に微細レリーフ構造14を設け、アルミ蒸着によって厚み100nmの反射層12を設ける。この後、反射層12上に接着剤を介して樹脂フィルムを張り合わせたものを第二基材18とすることができる。また、第二基材を接着性材料と剥離紙との積層体とすれば、本発明の表示体をシールとして用いることができる。
【0025】
<微細レリーフ非形成領域>
表示体10は、さらに微細レリーフ非形成領域15を備えている。図1では、微細レリーフ非形成領域15が回折格子構造17を有する回折格子領域16であった場合を示す。回折格子構造もまた、微細レリーフ構造と同じく反射層を備えている。
回折格子領域16を構成する回折格子構造17は、直線状または曲線状の突起あるいは溝を可視光の波長程度、またはそれ以上の間隔dで並列配置した集合体に反射層が備わったものであり、たとえば白色光を入射光とすると、主にその1次回折光が波長ごとに異なる角度で現れるため、観察位置によって虹色に変化して見える。また、回折格子領域16は、回折光を観察できない角度では、金属光沢を備えた銀白色の領域として視認される。
なお、回折格子領域16では、構成する回折格子構造の空間周波数や方位角、回折効率、深さあるいは高さ等を該領域内の微小区域毎に適宜設定することで、所望のカラー画像を得ることができる。あわせて反射層の材料や構成を適宜設定することで、波長選択性や下層の可視/不可視など、所望の視覚効果を得ることができる。
【0026】
<表示体の視覚効果>
この表示体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、通常の回折格子である回折格子構造17に起因した視覚効果について説明する。
【0027】
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0028】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光,すなわち、透過光又は正反射光,の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0029】
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0030】
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。
一例として、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
【0031】
d=λ/sinαN …(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|αN|と格子定数dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|αN|を45°とする。そして、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mm乃至1800本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子をその法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0032】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが形成し易い。そのため、通常の表示体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mm乃至1600本/mmの回折格子である。
【0033】
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(又は空間周波数)で制御することができる。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
【0034】
次に、微細レリーフ構造14に起因した視覚効果について説明する。
図2(a)は、回折格子構造が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図2(b)は、微細レリーフ構造が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図2(a)及び(b)において、21a及び21bは照明光を示し、22a及び22bは正反射光又は0次回折光を示し、23a及び23bは1次回折光を示している。
【0035】
上記の通り、微細レリーフ構造14に設けられた複数の凹部32又は凸部31は、回折格子構造が備える溝の最小中心間距離,すなわち回折格子の格子定数,と比較してより小さい中心間距離wで二次元的に配置されている。そのため、凹部32又は凸部31が規則的に配列し、微細レリーフ構造14が回折光23bを射出したとしても、観察者は、この回折光23bと、これと同じ波長を有する回折格子構造17からの回折光23aとを同時に知覚することはない。そして、回折格子の格子定数dと凹部又は凸部の中心間距離wとの差が十分に大きければ、波長の如何に拘らず、観察者は、回折格子構造17からの回折光23aと微細レリーフ構造14からの回折光23bとを同時に知覚することはない。すなわち、この場合、観察者は、回折格子構造17からの回折光23aを視認可能な観察角度範囲で、微細レリーフ構造14からの回折光23bを視認することはない。
【0036】
また、各凹部32又は凸部31は、順テーパ形状を有している。そのため、どの角度から観察しても、微細レリーフ構造14の正反射光の反射率は小さい。
【0037】
したがって、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、微細レリーフ領域13は、回折格子構造17を備えた回折格子領域16と比較してより暗く見える。そして、この場合、典型的には、微細レリーフ領域13は黒色に見える。なお、ここで、「黒色」は、後述する可視光反射率の測定方法に基づき、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、微細レリーフ領域13は、例えば図1に示す表示体において、あたかも回折格子の一部と重なり合うように形成された黒色印刷層の如く見える。
【0038】
また、微細レリーフ構造14からの1次回折光23bの射出角が−90°より大きければ、表示体10の法線方向と観察方向とが為す角度を適宜設定することにより、観察者は、微細レリーフ構造14からの1次回折光23bを知覚することができる。それゆえ、この場合、微細レリーフ構造14が黒色印刷層とは異なることを、目視により確認することができる。
【0039】
この構成を採用する場合、ある凸部の中心と、これに最も近い凸部の中心との距離(中心間距離)wは、可視光波長以下であることが好ましく、400nm以下、より好ましくは350nm以下である。このような場合、上記等式(2)から明らかなように、微細レリーフ構造14は、入射光の入射角αを変えても可視光の回折光のうち、長波長域(例えば赤色〜黄色)の回折光は理論上表示素子平面よりも下に射出する。すなわち赤色付近の長波長域に対応した波長を有する回折光を射出しない。一方、短波長域(例えば紫色〜緑色)の回折光だけを前記平面より上に射出させることが可能となる。したがって、通常のミクロンオーダーのホログラムや回折格子像の視認角度よりも傾いた、表示素子が成す平面と平行に近い角度からの観察で、狭い波長範囲の回折光を観察することができる。
また、上記式(1)から明らかであるように、本発明の表示体が備える微細レリーフ領域13への、一定の入射光の角度に対する、ある波長領域(例えば波長520乃至570nmの緑色域)の回折光の射出角度範囲は、理論上、通常のホログラムや回折格子像のそれよりも広くなるため、単一色調に近い回折光を観察することができる。
【0040】
また、中心間距離wは200nm以上であることが好ましい。この範囲より小さいと、可視領域の回折光が全て表示素子平面よりも下側である90度以上の射出角となってしまい、いわゆる可視光が射出せず、裸眼による目視では回折光を確認できなくなってしまう。裸眼で良好に確認するために、250nmより大きいことが好ましい。機械読み取りであれば、CCDなどの受光素子が検知できる範囲で可視領域以下の波長の光線も確認することができるため、目的に応じてさらに中心間距離を小さく設定することができる。
【0041】
他方、回折格子構造17は、空間周波数が大きくても1600本/mmであるため、式(1)から明らかなように、入射光の入射角αが約20度を越えると赤色に対応した波長を含む、可視領域の全波長の回折光を射出する。そのため、この場合、回折格子構造17が赤色に対応した波長を有する回折光を射出する場合と比較して、表示体10が真正品であることの確認がより容易になる。
【0042】
なお、微細レリーフ構造14が複数の画素を配列してなる場合、それら画素の一部と他の一部とで、凹部32又は凸部31の形状、深さ又は高さ、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つを異ならしめると、それら画素からの回折光の現れ方を異ならしめることができる。それゆえ、これを利用することにより、微細レリーフ構造14で階調表示を行うことができる。
【0043】
本発明の第2の態様の一例として、図7に、正面観察時に黒色として観察される微細レリーフ領域13と、回折格子領域16を備えた微細レリーフ非形成領域15とを備えた本発明の表示体70が、基材(図示せず)に積層されて積層体75を構成している上面図を示す。表示体70は基材上面を全て覆ってはおらず、空隙には印刷による光吸収領域72が形成されている。積層体75では、正面観察時に黒色を背景にしたグレーティングイメージ(回折格子による画像)、および光吸収領域72で形成される画像の2種類が観察される。ここで、グレーティングイメージの背景は微細レリーフ領域13である。もちろん、光吸収領域72の印刷を、微細レリーフ領域13の正面観察時の色と同じく黒色を呈するような構成とした場合には、微細レリーフ領域13と光吸収領域72が人間の目に対してほぼ等しく知覚され、グレーティングイメージのみが観察されることになる。
【0044】
一方、斜め観察時には、主に微細レリーフ領域13での光の回折に起因する色が観察される。このときの条件では観察角度が大きすぎるため、回折格子領域16では回折光を観察することはできない。
すなわち、図7に例示したような本発明にかかる積層体75では、観察角度によって異なる3種の固有の色変化を同一面内で同時に実現することができる。
【0045】
本発明の表示体を構成する微細レリーフ領域13が備える微細レリーフ構造14は反射層12を備えているにもかかわらず、可視光の正反射を低く抑え、かつ、可視光の散乱も低く抑える。したがって、微細レリーフ領域に白色光を照射し表示体の法線方向から観察すると、反射も散乱も抑えられ、光沢のない、明度も彩度も低い黒色または灰色の領域として観察される。そして、微細レリーフ領域13及び微細レリーフ非形成領域15は、その可視光反射率と回折光の有無、回折光の視認角度領域及び波長について、それぞれ異なる組み合わせを備えている。そこで、これらの差異に基づき肉眼または機械読み取り装置等で認識できるようなパターンになっていれば、その偽造品があっても即座に判別することができるようになる。
【0046】
一般的な回折格子やホログラム画像が備える格子パターンのサイズはミクロンオーダーであるのに対し、本発明の表示体が備える微細レリーフ構造は非常に細かく、したがって従来の技術に比べて複製も難しいといえる。
【0047】
<可視光反射率>
本発明で述べる可視光とは、JIS Z 8113(1998)で定義される可視放射と同様であり、人の目に入って、直後に、視感覚を起こすことができる放射を指す。
本発明で述べる可視光反射率、或いは単に反射率とは、20度鏡面光沢を測定したものであり、可視光波長全帯域において、正反射光束の入射光束に対する比の最大値を百分率で示したものである。本明細書では、可視光波長領域を400nm〜700nmとし、島津製作所製 UV−3101PC型を用いて測定を行い算出した20度鏡面光沢について、最大値となった波長の値を用いている。
【0048】
本発明の表示体が備える微細レリーフ領域では、微細レリーフ構造が反射層を備えているにもかかわらず、可視光反射率は10%以下と、非常に低く抑えられている。したがって通常のサイズの格子パターンで作製されたホログラム等と大きく異なることが一目で確認できる。このとき、観察面側に設けられた第一基材11が一般的な透明材料(例えばアクリル樹脂であった場合)であっても、これによる反射率もまた数%であるため、可視光反射率の測定ではほぼ無視して差し支えない。また、光散乱も少ない。したがって、本願発明の表示体に白色光を照射し、微細レリーフ領域を表示体の法線方向から観察すると、明度が低く、無彩色である黒または灰色に見える。
【0049】
このように、本願発明の表示体は、通常のホログラムや回折格子に比べてかなり傾いた方向から観察しないと回折光を確認できないように設定できるため、詳しい知識を持たないものは微細レリーフ領域の存在に気がつかず、偽造が困難である。一方、本願発明の表示体の性質についての知識を備えたものにとっては、目視でも、読み取り機械であっても容易に判別できる。
【0050】
また、本発明の表示体が備える微細レリーフ領域の有する微細レリーフ構造はその凹部または凸部の中心間距離が可視波長領域よりも小さく、また、そのレリーフ形状やパターン密度によって回折光の射出角度と共に、入射光の反射及び散乱を抑えるように調節されている。したがって、本願発明の表示体であることに気づいたものがコピーしようとしても、原版を用いない複写(密着露光法)では光の散乱が生じ、正面方向からの目視に際し白っぽくなる。ヒトの視覚は、回折光よりも無彩色の明度について感度が高いため、真正品でない場合に異常に気づきやすく容易に真贋の判定が可能である。読み取り機械を用いれば、真正品と具体的な明度の比較が可能であるため、より容易に真贋判定が可能である。
【0051】
さらに、本発明の表示体は、当該表示体が備える微細レリーフ領域が、回折光を確認できない角度、特に正面方向では、印刷面であるかのような、光沢がなく明度も彩度も低い黒色又は灰色を表現できるため、単独でも、従来のホログラムや回折格子など他の表示体にはなかった視覚効果とデザインを得ることができる。さらに、従来のホログラムや回折格子など公知の光学効果を備えた光学表示体と組み合わせることで、より人間の目に留まりやすく、印象に残る(アイキャッチ力の高い)表示体とすることができる。
【0052】
本発明の第2の態様の他の実施形態として、本発明の表示体82をプラスチックの基材81上に配置して積層体80とした例を図8に示す。表示体82としては、第1実施形態から第4実施形態を選択できることはもちろん、これ以外の組み合わせで表示体としたものを自由に選択することができる。基材81としては、表示体を保持することができればよく、積層体の用途に応じて紙やプラスチックカード、フィルム等を選択することができる。例えば、粘着剤や接着剤を接合層として表示体側、あるいは基材側に設け、これを介して表示体を基材上の任意の位置に配置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、従来にない視覚効果を備え、偽造が困難であることから、偽造防止、証明等のセキュリティ用途の他、意匠性が高いため装飾用途として、遊戯用カード、はがき、商品包装、書籍等の印刷物とあわせて用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る表示体の断面の一部を概略的に示したものである。
【図2】本発明に係る表示体に入射した光の挙動を示す説明図である。(a)回折格子構造が回折光を射出する様子を概略的に示す断面図である。(b)微細レリーフ構造が回折光を射出する様子を概略的に示す断面図である。
【図3】本発明の表示体が備える微細レリーフ構造の一例を拡大して示す斜視図である。(a)凸部側から見た斜視図である。(b)凹部側から見た斜視図である。
【図4】本発明の表示体が備えることのできる微細レリーフ構造の配列を例示する説明図である。
【図5】本発明に係る表示体のレリーフ構造形成領域の断面を一部拡大して、概略的に示したものである。
【図6】本発明に係る表示体の断面の一部を概略的に示したものである。
【図7】本発明に係る積層体の一形態を概略的に示したものである。
【図8】本発明に係る積層体の他の形態を概略的に示したものである。
【符号の説明】
【0055】
10、70、82:表示体
11:第一基材 12:反射層 13:微細レリーフ領域 14:微細レリーフ構造
15:微細レリーフ非形成領域 16:回折格子領域 17:回折格子構造
18:第二基材
21a、21b:照明光 22a:正反射光 22b:0次回折光
23a、23b:1次回折光
31:凸部 32:凹部
61:多層誘電体膜 62:高屈折率材料 63:低屈折率材料 65:金属膜
72:光吸収領域
75、80:積層体
81:基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細レリーフ構造を有する微細レリーフ領域を備えた表示体であって、微細レリーフ領域は、前記表示体の可視光反射率が低く、かつ、1次回折光を射出することを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記微細レリーフ構造は反射層を備えていることを特徴とする請求子1記載の表示体。
【請求項3】
前記反射層は膜厚(t)が下記の式を満たすことを特徴とする請求項2記載の表示体。
t> 1/α,
α=4πk/λmin
k:消光係数、α:吸収係数、λmin:可視光域の最短波長
【請求項4】
前記反射層は金属であることを特徴とする請求項2または3記載の表示体。
【請求項5】
前記微細レリーフ領域の可視光反射率は10%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記微細レリーフ領域から射出される1次回折光は、可視光波長範囲の一部のみを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
前記微細レリーフ領域から射出される1次回折光は、700nmより長い波長を含まないことを特徴とする請求項6記載の表示体。
【請求項8】
前記微細レリーフ領域に加え、微細レリーフ構造を有さない微細レリーフ非形成領域を備え、当該微細レリーフ非形成領域の可視光反射率は60%以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の表示体。
【請求項9】
前記微細レリーフ領域に加え、回折格子構造を備えた回折格子領域を備え、当該回折格子領域の可視光反射率は60%以上、かつ、1次回折光を射出することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の表示体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の表示体と、当該表示体が配置された基材とを備えたことを特徴とする積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−275740(P2008−275740A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116775(P2007−116775)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】