表示体及び表示体付き物品
【課題】高い偽造防止効果を発揮する表示体及び表示体付き物品を提供する。
【解決手段】凹凸構造形成層の少なくとも一部は、整然配置された複数の第1の領域に分割されており、前記複数の第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部又は底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が複数配置されて構成されたセルを有し、前記セルは、前記複数の第1の領域の少なくとも一部に各々設けられており、各セル内に形成された複数の凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されており、隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離の平均値は1.0μm以上且つ3μm以下であり、前記凸部の高さ又は凹部の深さは0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする表示体。
【解決手段】凹凸構造形成層の少なくとも一部は、整然配置された複数の第1の領域に分割されており、前記複数の第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部又は底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が複数配置されて構成されたセルを有し、前記セルは、前記複数の第1の領域の少なくとも一部に各々設けられており、各セル内に形成された複数の凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されており、隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離の平均値は1.0μm以上且つ3μm以下であり、前記凸部の高さ又は凹部の深さは0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止用途などで用いられる、観察条件によって見え方が変化する表示体に関するものであり、特に、照明光の角度、観察方向などによって像の明るさや色が変化するような、表示体を提供することを目的としている
【背景技術】
【0002】
従来、カード、有価証券、ブランドプロテクトなどにおいて、目視で判別する偽造防止用の表示体が用いられている。このような偽造防止用の表示体の代表的なものとして、表面レリーフタイプのレインボウホログラムがある。
【0003】
レインボウホログラムは、普通の印刷物に比べて構造が複雑で、高い技術を持つ特定の業者でないと作製が困難であり、複製を行うときに大規模な複製装置を必要とするので、小規模な複製が行いにくいという特徴がある。このため、偽造品の作製が困難である。また、照明光を当てた時に、単波長に近い光で再生されるため虹の七色に対応した明るく鮮やかな色で観察でき、観察条件が変化したときに色や画像パターンが変化するという特徴的な見え方をする。このため、他の部材との違いが目視で容易に判別できる。これらのことから、レインボウホログラムは目視によるセキュリティ用途として優れており、偽造防止用の表示体として広く用いられてきている(非特許文献1、2)。
【0004】
しかし、レインボウホログラムは、観察条件の変化が僅かであっても再生像の色が大きく変化するので、画像の色の違いを識別するのが難しい。このため、異なる画像が記録されているレインボウホログラムであっても、観察者に類似した印象を与えやすく、ホログラム同士では記録されている画像の違いが判別し難い。また、観察条件によっては、原色に近い色で像が見えるので、うまくデザインされていないと、意匠性の低いイメージになり易いという欠点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ホログラフィの原理」、オプトロニクス社、P.ハリハラン 著、7章
【非特許文献2】「ホログラフィックディスプレイ」、産業図書、辻内順平 著、2章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の問題を解決したものであり、その目的は、高い偽造防止効果を発揮する表示体及び表示体付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述したような課題を解決するため、
第1の発明は、光透過性の基材と、前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層とを備えた積層構造から成る表示体であって、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部は、整然配置された複数の第1の領域に分割されており、前記複数の第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部又は底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が複数配置されて構成されたセルを有し、前記セルは、前記複数の第1の領域の少なくとも一部に各々設けられており、各セル内に形成された複数の凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されており、隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離の平均値は1.0μm以上且つ3μm以下であり、前記凸部の高さ又は凹部の深さは0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする表示体である。
また、第2の発明は、前記凸部と平坦部の高さ又は前記凹部と平坦部の深さが、前記セル内で略同一であることを特徴とする請求項1に記載の表示体である。
また、第3の発明は、隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離は、周期性が無く、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の表示体である。
また、第4の発明は、前記凸部又は前記凹部と、前記平坦部の短辺の幅が、略同一であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体である。
また、第5の発明は、前記第1の領域に対して垂直な方向から平行光で照明した場合に、特定方向に回折光を射出し、前記特定方向と垂直な方向には拡散回折光を射出しない請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体である。
また、第6の発明は、前記第1の領域の近傍に、第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域とは光学特性が異なる構造を備えており、回折格子、凹凸構造から成る反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体である。
また、第7の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体とこれを支持した物品とを具備した表示体付き物品である。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明を用いるとこの表示体から回折される光は、波長によってブロードな波長分布になるため、レインボウホログラムに比べて、おだやかな色で着色された像が観察できる。
また、ホログラムと同様に観察条件によって色やパターンが変化するが、レインボウホログラムよりも色変化がゆるやかである表示体を得られる。そして、通常の観察条件では、ほぼ同じ色に見えるような表示体を提供することが可能となる。
さらに、凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されていることによって、特定の方向のみで画像の色を視認することができる、指向性を持った表示体を提供することが可能となる。
このように、レインボウホログラムと比べて、画像の違いを判別し易く、またデザインし易い、高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第2の発明によると、表示体からの回折光の波長に対する分布がより顕著になるため明瞭な色で観察でき、観察条件で画像の色が変化するような表示体が得られ、高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第3の発明によると、通常のホログラムや回折格子などのように、回折される光の方向が波長によって大きく変わることが無く、ほぼ同じような方向に射出される。このため、各波長に対する回折光が重なって観察されることになり、回折光の強度の違いによる色が着くという効果を得られ、高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第4の発明によると明瞭な色で観察でき、特定の視域で画像の色が視認できるような高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第5の発明によると、回折光が一方向にのみ、広く拡がる光になるので、観察方向によって、像の明るさやパターンが変化することになるため、観察条件で画像の色が変化するとともに、像の明るさやパターンも変化するような高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第6の発明によると、前記第2の領域に、回折格子、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体、光散乱構造体のいずれかが形成されているか、何も形成されていないことで、異なる光学特性を発揮する複数の構造から成る表示体を実現することができ、表示体の意匠性が向上するとともに、偽造防止効果の向上が期待できる。従来の偽造防止を目的とした表示体に形成される回折格子による回折光は、第1の領域に形成された構造体の色が観察される観察範囲とは異なる方向に射出されるため、第1の領域による色表示は、第2の領域に形成された回折格子からの回折光が見えない条件下において観察される。また、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体は通常目視観察した場合、黒もしくは暗灰色等の無彩色として知覚される。そのため、第1の領域によって表示される色相を有する色とは異なる色である。光散乱構造体による散乱光はいわゆる磨りガラスのような白色もしくは白濁色のような無彩色を表示する。そのため、第1の領域によって表示される色相を有する色とは異なる色である。また、第2の領域に構造が形成されていない場合、第2の領域は反射層の素材、及び、基材の素材、及び、凹凸構造形成層の素材によって決定される色であり、通常、基材及び凹凸構造形成層は透明もしくは半透明であるので、反射層による色が知覚される。反射層として金属薄膜を利用した場合、金色や銀色などの金属光沢が知覚される。それは、第1の領域による表示色とは異なる色みとして観察者に知覚される。
また、第7の発明によると、本発明の表示体を、印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または、組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示した平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図。
【図3】回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した概略図。
【図4】本発明の表示体が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した概略図。
【図5】本発明の表示体を観察する際の一例を示す概要図。
【図6】本発明の表示体の凸凹面での光路差を説明するための概要図。
【図7】本発明の表示体での深さの違いに対する色変化を示す概要図。
【図8】本発明の表示体での深さの違いに対する色変化を示す概要図。
【図9】本発明の表示体での深さの違いに対する色変化を示す概要図。
【図10】本発明の表示体での照明光角度の変化に対する色変化を示す概要図。
【図11】本発明の表示体での照明光角度の変化に対する色変化を示す概要図。
【図12】本発明の表示体の一例を示す概要図。
【図13】本発明の第2の領域に採用可能な構造である回折格子構造の一例を示す斜視図。
【図14】本発明の第2の領域に採用可能な構造である反射防止構造の一例を示す斜視図。
【図15】本発明の第2の領域に採用可能な構造である散乱構造の一例を示す斜視図。
【図16】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなる表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【図17】図20に示す表示体付き物品のIV−IV線に沿った断面図。
【図18】本発明の表示体の一実施例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図であり、本発明の正反射方向に近い方向に複数の波長の光から構成される色を表示する表示体の一例を示している。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。この例においては、光透過層11がレリーフ構造形成層である。図2に示す例では、光透過層11側を前面側(観察者側)とし、且つ、反射層13側を背面側としている。
【0012】
図1及び図2に示す表示体10は、凹凸構造形成層の表面には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された領域を少なくとも一つ備えている。本図において、第1の領域15は微小な凹凸が形成されたセルを有する領域であり、第2の領域25は第1の領域15とはその構造や光学的な性質が異なる領域であると定義する。第2の領域25は第1の領域15とは異なる凹凸構造が形成されている領域であってもよいし、構造が形成されていない平坦部から成る領域であってもよい。また、第1の領域15は表示体10に少なくとも1つ以上存在しているが、第2の領域25は表示体10に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。また、複数の領域を組み合わせて表示体としても良い。
【0013】
光透過層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸構造または凹構造が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸構造または凹構造が設けられた光透過層11を転写成形することができる。
【0014】
図2には、一例として、光透過性の基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性の基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルムまたはシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)などを用いることができる。光透過性樹脂層112は、光透過性の基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性の基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0015】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0016】
この表示体10は、接着剤層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凸構造または凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
また、樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層や、表示体の一部に設ける、光や熱によって硬化する樹脂インキから成る印刷層である。
【0017】
光透過層11側を背面側とし、且つ、反射層13側を前面側とする場合は、接着層は、光透過層11上に形成する。
【0018】
樹脂層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし、且つ、反射層13側を前面側とする場合、反射層13を樹脂層によって被覆することで、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸構造または凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0019】
(第1の領域の説明)
本発明に係る第1の領域について説明するにあたり、まず、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、照明光入射角及び回折光の射出角との関係について説明する。
【0020】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対応して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0021】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記の式1から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ) ・・・(式1)
【0022】
式(1)において、dは回折格子の格子定数(格子周期,ピッチ)を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0023】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0024】
ピッチdの回折格子に対する照明光入射角及び+1次回折光の射出角の関係を図3に示す。照明光が複数の波長成分を含む白色光である場合、回折光の射出角は波長によって異なる。それによって太陽や蛍光灯などの白色照明光源下で回折格子を観察すると、白色光が分光し、単一波長の光が別々の角度に射出され、観察する角度によって虹色に見える。図3では点光源LSから白色光IL(ここでは、白色光を構成する波長成分はR、G、Bの3波長であると仮定する)が入射し、回折格子GRによって波長成分Rの回折光DL_r、波長成分Gの回折光DL_g、波長成分Bの回折光DL_bに分光する様子を示している。このとき、波長成分Rの回折光の射出角β_rと、波長成分Rの回折光の射出角β_gと、波長成分Rの回折光の射出角β_bは、波長毎に異なる値を取る(図3では、DL_rの射出角のみβ_rとして記載している)。他の次数の回折光についても式(1)によって導出される角度に射出されるが図3への記載は省略する。
【0025】
次に、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0026】
ピッチdの回折格子に対してαの入射角で入射した照明光は、式1に基づいて角度βの方向に回折光を射出する。この際、波長λの光の射出強度、すなわち回折効率は、回折格子のピッチや高さ等によって変化し、式2によって導出される。
【数1】
【0027】
ここで、ηは回折効率(0〜1の値をとる)、rは回折格子の高さ、Lは回折格子の格子線幅、dは格子線のピッチ、θは照明光の入射角、λは入射光及び回折光の波長である。なお、この式は、凹凸構造から成る浅い矩形回折格子について成り立つものである。
【0028】
式2から明らかなように回折効率は回折格子の高さrや、格子線のピッチd、入射光の入射角θや波長λによって変化する。また、実際には回折効率は回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0029】
次に、図5に本発明の表示体を観察する際の一例を示す概要図を示す。本発明においては、図5の表示体の断面形状に示すとおり、凸凹の深さは、全体で一定の値となっている。一方、凸凹のピッチは、山谷ごとに異なっており、周期性を持たないようなランダムなものとなっている。
このような、表示体を観察した場合、光透過層11に作られた凸凹形状の上の反射層13で回折された光が目に入るが、この回折光に色が着くため、色のついた画像が観察されることになる。
【0030】
次に、このような表示体で、回折される光に色が着く原理について説明する。
矩形の凸凹形状がある場合、入射した光は、凸凹形状の部分で回折され、一部の光は正反射方向に進む光となり、別の一部は回折によって拡がる光となる。
表面の凸凹に関して、屈折率n、深さdp、波長λとしたときに、内部の角度θで入射する照明光の山部と谷部で反射される光の光路差は、図6に示すように2dpcosθとなる。そして、これらの光の位相差は、2π/λをかけた4πndpcosθ/λとなる。
この時に、位相差が2πの整数倍であれば、正反射方向の光の位相が揃うため、山部、谷部からの光の干渉によって正反射光が強くなり、回折されて拡がる光の強度は弱くなる。
位相差が2πの整数倍+πであれば、正反射方向の光の位相が反対になるので、干渉によって正反射方向の光が弱くなり、回折されて拡がる光の強度は強くなる。
【0031】
ところで、可視光の波長は380〜780nmのある程度広い範囲に分布している。通常の回折表示体で用いられているような、0.10μm程度の深さ(波長の半分程度の光路差)以下の場合には、波長による違いは小さく大きな違いはでない。
しかし、凸凹の深さがある程度深くなると、ある波長では位相差が2πの整数倍+πとなって回折して拡がる光が強くなり、別のある波長では位相差が2πの整数倍となって回折する光が弱くなる。このため、波長によって回折される光の強度が大きく違ってくることになる。
【0032】
また、本発明の表示体では、凸凹構造がランダムであり、周期性を持っていない。このため、ホログラムや回折格子などのように、回折される光の方向が波長によって大きく変わることが無く、ほぼ同じような方向に射出される。
このため、各波長に対する回折光が重なって観察されることになり、回折光の強度の違いによる色が着くことになる。
【0033】
さて、このような原理で回折光に色がつくようにするには、ピッチや深さなどを適切な値とする必要がある。ピッチに関して、まず回折される光が、波長によって異なった方向になることがないようにする必要がある。レインボウホログラムや回折格子などのように凸凹構造が周期性を持つと、波長によって異なる方向に回折するので、なるべく周期性がなくランダムになるようにする。
【0034】
ただ、現実的には、全体のピッチが完全にランダムになるようにするのは難しいので、若干の周期性が残る場合も多い。この際に、周期構造による回折光の方向の違いが、照明光の大きさによる照明角度の違いよりも小さくなるようにする必要がある。
【0035】
電球などの比較的小さい光源を考えた場合、5cmくらいの光源で2m程度の距離はなれて照明すると考えられるので、通常1.5°程度の拡がりとなる。
可視光の波長範囲内で波長による回折光の角度の違いがこの範囲に収まるようにすれば良いため、20μm以上のピッチに対する周期であれば問題はない。
このため、20μm以上の範囲がランダムなピッチとなるように設定してあれば問題はない。
【0036】
次に、回折光の拡がりの面からピッチの条件について検討する。
回折される光と正反射方向の光が分離して観察できるように、回折される光は正反射方向から、十分離れた方向まで広く拡がることが必要である。
回折光の拡がりは、凸凹を構成している各要素の大きさに依存しており、大きさが小さいほど広い範囲に拡がる。
要素の大きさに対する、回折光の拡がりは、近似的には開口からの回折と考えることができるので、回折光の方向Φに対する強度は矩形開口の場合と同様に考え、波長をλ、要素の大きさをaとして
{sinc(π/λ×(sinΦ)×a)}2 ・・・(式3)
の式3で表すことができる。
この分布は、無限に拡がる形になるが、通例、最初に強度が0となる角度π/λ×(sinΦ)×aがπとなる角度を拡がり角としており、sinΦ=λ/aに対応する角度Φだけ拡がると考えられる。
通常、照明光の正反射方向近傍では、表面の反射光が目に入って観察し辛いため、照明光と観察角度は20°程度以上違いがある。このため、回折光は空気中で20°程度の角度拡がる必要がある。
この場合に樹脂の屈折率の影響は表面の屈折によってキャンセルされるので、空気中の波長と角度で考えればよく、sinΦの値が1/3以上になるようにする必要がある。
可視光の波長は幅があるものの大体500nm前後であるため、λ/aは要素の大きさaは、1.5μm程度以下となる。
このため、回折する光が十分な拡がりを持つためには、平均的な要素の大きさを1.5μm以下にする必要があり、山と谷を合わせたピッチとしてみれば3μm以下にしておく必要がある。
【0037】
次に、深さの面について検討を行う。
凸凹の形状が矩形波の場合に、凸凹で回折されて拡がる光の強度は、樹脂内での照明光の角度θ、屈折率n、深さdp、波長λとして、近似的に
{sin(2πndpcosθ/λ)}2 ・・・(式4)
の式4に比例する値となる。
このため、各波長に対する等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)を用いて
X=∫x(λ){sin(2πndpcosθ/λ)}2dpλ ・・・(式5)
の式5からXを計算し、同様にY、Zを計算していくことで、回折光の色を近似計算することができる。
【0038】
θ=30°、n=1.5として、この計算法により、深さが0.10μmから0.30μmまで変化したときの回折光の色を‘0.01μmごとに求め、u’v’座標としてプロットしたグラフを図7に示す。
0.10μm程度では、ほとんど白色であるが、0.15μmくらいで黄色系の色になり、その後、白を中心に回転するような形で色相が変化している。
このことから、色を出すために深さは0.15μm以上にする必要があると考えられる。
0.30μmまでの変化でほぼ1週し、一応の色彩表現は可能であるが緑系の色はかなり弱い。
【0039】
次に、深さが0.30μmから0.50μmまでの変化したときの回折光の色の推移を図8に示す。
この場合、図7と同じように、色相が変化しているが、この場合には、緑も表現されているため、より良い色表現が可能となっている。
【0040】
さらに、深さが0.50μmから0.70μmまでの変化したときの回折光の色の推移を図9に示す。
この場合、緑と紫は表現できているが、他の色の表現は乏しくなっている。
深さが、深くなると成形が難しくなるなどの問題も生じるため、0.50μm以上の深さにすることは、ほとんどメリットがない。
これらのことから深さは0.15μm〜0.50μmにしておくのが好ましく、更に好ましくは、0.15μm〜0.30μmにしておくのが良いと考えられる。
【0041】
ところで、ピッチ、深さは単体の要素のみで考えるのではなく、そのアスペクト比(ピッチに対する深さの割合)についても考えておく必要がある。
凸凹構造はアスペクト比が高いほど、成形し辛くなるという点がある。
また、アスペクト比が高いと、凸凹の底部に光が届き難くなるため、色が出難くなる場合や、像が暗くなるということも生じる。
このためアスペクト比があまり高くなりすぎないようにする必要があり、1以下程度に抑えたほうが良い。前述したように、0.50μmまでの深さを用いることを考慮すると、山谷の各要素の大きさは0.50μm以上にしておくほうが良く、平均的なピッチを1.0μm以上にするのが良いと考えられる。
【0042】
以上、矩形の凸凹形状の上に反射層を設け、透明な樹脂で埋めた構成であり、深さが0.15〜0.50μmの一定の値で、平均的なピッチが1.0〜3μmでランダムな構造にしたときに回折される光に色がついて見えることを説明してきたが、ただ色がついて見えるだけでは、偽造防止媒体としての効果は小さい。
【0043】
次に、このような構成の表示体で、照明光の入射角度が変化したときに、回折される光の色が変化することについて説明する。
【0044】
前述したように、凸凹形状に入射した光で、山部と谷部の光路差は、屈折率n、深さdp、波長λ、樹脂内部での角度θとして、2ndpcosθとなるため、深さdpが変化する場合のみでなく、照明光の入射角度が変化した場合も変化する。
回折する光の色は、山部と谷部の光路差の違いによって、生じるので、この場合にも深さが違ったときと同様な色変化が生じる。
スネルの法則から、照明光角度が変わったときの樹脂内部での光の角度θを求めて、前述した深さに対する色変化と同様な計算を行うことにより、照明光の角度変化に対する、色の変化を求めることができる。
【0045】
このような計算により、n=1.5、d=0.30μmとして、照明光の角度が0°から90°まで変化したときの色変化を求めた結果を図10に示す。
照明光角度の変化によって、再生される色は、オレンジ系の色からシアン系の色まで変化しており、十分に違いが認識できるだけの色変化が生じている。
このことから、照明光を大きく変化させた場合に、色の変化があることを容易に判別できるため、偽造防止用の部材として用いることが可能である。
【0046】
一方、通常観察する場合に生じるような、20°〜40°程度の小さな角度変化に対する色の変化を、図11に示す。
この場合には、色の変化はあるものの、ほぼ黄色と見なせる程度の範囲に収まっている。
このことから、普通に観察する範囲では、ほぼ一定の色で見えるので、画像としての色表現が十分可能であり、異なる色で記録された画像に対し、十分な識別が可能である。
これらのことから、本発明のような構成により、色のついた画像が表現でき、さらに、照明光の角度の違いにより、レインボウホログラムなどより、ずっとゆるやかであるが、十分に判別可能な色変化が生じるような表示体が得られることがわかる。また、本発明は、観察者の観察角度による視認性の依存度が低く抑えられる。
【0047】
ところで、ここまで凸凹の断面形状に関しては、矩形として説明をしてきているが、かならずしも矩形でなくとも、凸凹形状が適切なピッチと深さであれば、波長によって回折光強度が変化するため、色をだすことができる。
ただし、形状が良くないと、深さが深くなるに従って、正反射光の強度が低下し、また回折される光の範囲も変化するため、色の違いが出し難くなる。そのため、色の面からはなるべく矩形に近い形状が良い。
特に、山部、谷部からの光の干渉によって色がでていることから、山部、谷部の形状の影響は大きく、できるだけ山部、谷部が平面と見なせるようにするのが良い。
また、干渉によって、強めあうときと打ち消しあうときとの差が大きくなるほうが、色がでやすいことから、山部と谷部の広さが同じ程度になっているほうが良い。
【0048】
図12は、本発明の表示体の一実施例を示した概要図である。
図12(a)は、表示体の形状の一例を示した立体図である。この図で、ひとつの方向に対してのみ凸凹構造が記録されており、それと垂直な方向には、ほぼ平らな構成となっている。このような構成にすると、凸凹構造によって回折される光は、一方向にのみ拡がり、垂直な方向にはほとんど拡がらないものとなる。
このため、観察する方向によって、回折光が観察できたり、できなかったりするので、このような表示体を並べて画像パターンを形成すると、見る方向によって画像パターンが変化するようなものを作成することができる。
この場合には、照明光の角度によって色変化するとともに、観察の条件によってパターンも変化することになるので、より視認性が高まり、偽造防止効果の高い表示体を提供することが可能となる。
また、光の拡がる方向が一方向に絞られることから、光の強度が強くなり、明るい画像を観察できるという利点もある。
さらに、一方向のみの凸凹で、パターンがシンプルであることから、作成や複製を行い易いという利点もある。
【0049】
図12(b)、(c)は、図12(a)の表示体を垂直方向から観察した時の平面図である。凸部または凹部にあたる矩形が不規則なピッチで平行に配列されている。なお、凸部または凹部の平面形状19はこれに限定するものではなく、凹凸の平面形状は方向性を持っていれば良く、図12(b)のように長方形や複数の長方形が同一直線状に複数配列されていても良い。また、それぞれの角は直角である必要はなく、図12(c)のように曲線状でも良い。また、短辺と長辺を有している。それぞれの辺は曲線でも良い。好ましくは直線であると指向性の優れた表示体を得ることができる。
【0050】
(第2の領域)
次に、第2の領域について説明する。
第2の領域25は第1の領域15とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2の領域25は第1の領域15とは異なる凹凸構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。また、第2の領域25は表示体10に複数存在していてもよい。
【0051】
第2の領域25に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は、図1
3の斜視図に示したような線状の凹凸構造(格子線)が繰り返し形成されたものであり、ピッチ0.5〜1μm程度、構造の高さ0.1〜0.5μm程度が典型的な仕様である。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。
【0052】
また、第2の領域25に採用可能な別の構造として、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体が挙げられる。反射防止構造体は、図14の斜視図に示したような円錐状の構造27や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高いほうがより反射防止機能が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0053】
また、第2の領域25に採用可能な構造として、光散乱構造体が挙げられる。光散乱構造体は、図15の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状28が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光の回折や吸収が起きにくく、光を散乱する効果が得られる。
【0054】
また、第2の領域25は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。第2の領域25を平坦面とすると、第2の領域25は光反射層13によって鏡面のように見える。
【0055】
第2の領域25と第1の領域15を組み合わせることによって表示体の意匠性を向上させることができる。第2の領域には、第1の領域とは異なる光学特性を発揮する前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0056】
(表示体の使用方法)
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその外の物品に貼り付けて使用することができる。表示体10は微細な凹凸構造により表示体の正面方向に複数の波長による色を表示することができ、構造の高さを変えることでその色が変化することから偽造は困難である。このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこの表示体付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0057】
図16は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなる表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図17は、図16に示す表示体付き物品のIV−IV線に沿った断面図である。
【0058】
図16及び図17には、表示体付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0059】
この印刷物100は、微細な凹凸構造から成る表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0060】
なお、図16及び図17には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0061】
また、図16及び図17に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0062】
また、表示体付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0063】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【実施例1】
【0064】
本発明で用いる表示体は、例えば、次のようにして作成することができる。
まず、乾板上にEBレジストを塗布する。
このときに、レジストの粘度や、スピンコーターの回転するのを整えて、レジストの厚みが、本発明で用いるような深さを描画できるように、例えば0.50μm程度になるようにする。
このようにして作成したレジスト乾板に、EB描画装置を用いて、適切な露光幅、例えば、1μm程度で、適当な間隔をあけながら露光を行う。デザインは「TOP」の反転パターンとなるようにした。
「T」と「P」の文字をX方向が長手方向となるような縞パターンで、「O」の文字をY方向が長手方向となるような縞パターンとなるようにして、文字ごとにそれぞれ異なる露光量で描画を行った。
この際に、ピッチが周期的にならないように、間隔をランダムに変化させる。ただし、平均の間隔は1μm程度になるようにする。
このようにして、一方向の凸凹パターンを記録した乾板を現像して、露光した部分が凹むようにする。露光と現像の条件を調整して、「T」の文字部の深さが約0.3μm、「O」の文字部の深さが約0.25μm、「P」の文字部の深さが約0.2μmとなるようにした。
なお、この際に、凸凹の形状が若干はなまるものの、なるべく矩形に近くなるように現像条件を調整する。
このようにして作成した乾板に、蒸着によって導電層をつけて、これから電鋳することによって、乾板に記録された凸凹を金型として複製する。
透明なフィルム上にUV樹脂をたらして、作成金型を密着させてフィルム面からUV光を照射することによって、金型上の凸凹をフィルム上に複製する。
このようにして作成したフィルム上の凸凹面の上にアルミを蒸着する。
このようにして図18(a)に示すような、凹凸部の長手方向が「T」と「P」ではX方向に、「O」ではY方向となるような複数の凹凸部によって「TOP」がデザインされた表示体が作成された。
本実施例の表示体を図18(b)のように表示体を配置して観察すると、「T」の文字を黄色で、「P」の文字を紫色の画像として観察することができた。
また、照明光の角度を大きくしてやると、色が変化し、「T」の文字が青緑色に「P」の文字が橙色の画像として観察することができた。
また、図18(c)のように表示体を配置してY軸方向から観察すると、「O」の文字を青色の画像として観察することができた。
また、照明光の角度を大きくしてやると、色が変化し、「O」の文字が紫色の画像として観察することができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上、述べてきたように本発明の方法を用いることで、ホログラムと同様に観察条件によって色やパターンが変化するが、レインボウホログラムよりも色変化がゆるやかであり、通常の観察条件では、ほぼ同じ色に見えるような表示体を提供することができる。
このため、レインボウホログラムと比べて、画像の違いを判別し易く、またデザインし易い表示体となるため偽造防止用の表示体として利用できる可能性がある。
【0066】
3…樹脂層、4…照明光、5…正反射光、6…回折光、7…観察者、8…山部で反射された光、9…谷部で反射された光、10…表示体、11…光透過層、13…反射層、15…第1の領域、16…セル、17…凸部、18…平坦部、19…凹部または凸部の平面形状、25…第2の領域、26…回折格子、27…反射防止構造体、28…光散乱構造体、28…長辺、29…短辺、30…ICチップ、40…印刷層、50…基材、100…印刷物、111…光透過性の基材、112…光透過性樹脂層、151…第1の領域(面積大)、152…第1の領域(面積小)、161…セル(面積大)、162…セル(面積小)、171…凸部(深い構造)、172…凸部(浅い構造)、d…回折格子のピッチ、DL…+1次回折光、DL_r…+1次回折光(赤)、DL_g…+1次回折光(緑)、DL_b…+1次回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β…射出角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止用途などで用いられる、観察条件によって見え方が変化する表示体に関するものであり、特に、照明光の角度、観察方向などによって像の明るさや色が変化するような、表示体を提供することを目的としている
【背景技術】
【0002】
従来、カード、有価証券、ブランドプロテクトなどにおいて、目視で判別する偽造防止用の表示体が用いられている。このような偽造防止用の表示体の代表的なものとして、表面レリーフタイプのレインボウホログラムがある。
【0003】
レインボウホログラムは、普通の印刷物に比べて構造が複雑で、高い技術を持つ特定の業者でないと作製が困難であり、複製を行うときに大規模な複製装置を必要とするので、小規模な複製が行いにくいという特徴がある。このため、偽造品の作製が困難である。また、照明光を当てた時に、単波長に近い光で再生されるため虹の七色に対応した明るく鮮やかな色で観察でき、観察条件が変化したときに色や画像パターンが変化するという特徴的な見え方をする。このため、他の部材との違いが目視で容易に判別できる。これらのことから、レインボウホログラムは目視によるセキュリティ用途として優れており、偽造防止用の表示体として広く用いられてきている(非特許文献1、2)。
【0004】
しかし、レインボウホログラムは、観察条件の変化が僅かであっても再生像の色が大きく変化するので、画像の色の違いを識別するのが難しい。このため、異なる画像が記録されているレインボウホログラムであっても、観察者に類似した印象を与えやすく、ホログラム同士では記録されている画像の違いが判別し難い。また、観察条件によっては、原色に近い色で像が見えるので、うまくデザインされていないと、意匠性の低いイメージになり易いという欠点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ホログラフィの原理」、オプトロニクス社、P.ハリハラン 著、7章
【非特許文献2】「ホログラフィックディスプレイ」、産業図書、辻内順平 著、2章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の問題を解決したものであり、その目的は、高い偽造防止効果を発揮する表示体及び表示体付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述したような課題を解決するため、
第1の発明は、光透過性の基材と、前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層とを備えた積層構造から成る表示体であって、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部は、整然配置された複数の第1の領域に分割されており、前記複数の第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部又は底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が複数配置されて構成されたセルを有し、前記セルは、前記複数の第1の領域の少なくとも一部に各々設けられており、各セル内に形成された複数の凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されており、隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離の平均値は1.0μm以上且つ3μm以下であり、前記凸部の高さ又は凹部の深さは0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする表示体である。
また、第2の発明は、前記凸部と平坦部の高さ又は前記凹部と平坦部の深さが、前記セル内で略同一であることを特徴とする請求項1に記載の表示体である。
また、第3の発明は、隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離は、周期性が無く、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の表示体である。
また、第4の発明は、前記凸部又は前記凹部と、前記平坦部の短辺の幅が、略同一であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体である。
また、第5の発明は、前記第1の領域に対して垂直な方向から平行光で照明した場合に、特定方向に回折光を射出し、前記特定方向と垂直な方向には拡散回折光を射出しない請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体である。
また、第6の発明は、前記第1の領域の近傍に、第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域とは光学特性が異なる構造を備えており、回折格子、凹凸構造から成る反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体である。
また、第7の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体とこれを支持した物品とを具備した表示体付き物品である。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明を用いるとこの表示体から回折される光は、波長によってブロードな波長分布になるため、レインボウホログラムに比べて、おだやかな色で着色された像が観察できる。
また、ホログラムと同様に観察条件によって色やパターンが変化するが、レインボウホログラムよりも色変化がゆるやかである表示体を得られる。そして、通常の観察条件では、ほぼ同じ色に見えるような表示体を提供することが可能となる。
さらに、凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されていることによって、特定の方向のみで画像の色を視認することができる、指向性を持った表示体を提供することが可能となる。
このように、レインボウホログラムと比べて、画像の違いを判別し易く、またデザインし易い、高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第2の発明によると、表示体からの回折光の波長に対する分布がより顕著になるため明瞭な色で観察でき、観察条件で画像の色が変化するような表示体が得られ、高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第3の発明によると、通常のホログラムや回折格子などのように、回折される光の方向が波長によって大きく変わることが無く、ほぼ同じような方向に射出される。このため、各波長に対する回折光が重なって観察されることになり、回折光の強度の違いによる色が着くという効果を得られ、高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第4の発明によると明瞭な色で観察でき、特定の視域で画像の色が視認できるような高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第5の発明によると、回折光が一方向にのみ、広く拡がる光になるので、観察方向によって、像の明るさやパターンが変化することになるため、観察条件で画像の色が変化するとともに、像の明るさやパターンも変化するような高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供することができる。
また、第6の発明によると、前記第2の領域に、回折格子、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体、光散乱構造体のいずれかが形成されているか、何も形成されていないことで、異なる光学特性を発揮する複数の構造から成る表示体を実現することができ、表示体の意匠性が向上するとともに、偽造防止効果の向上が期待できる。従来の偽造防止を目的とした表示体に形成される回折格子による回折光は、第1の領域に形成された構造体の色が観察される観察範囲とは異なる方向に射出されるため、第1の領域による色表示は、第2の領域に形成された回折格子からの回折光が見えない条件下において観察される。また、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体は通常目視観察した場合、黒もしくは暗灰色等の無彩色として知覚される。そのため、第1の領域によって表示される色相を有する色とは異なる色である。光散乱構造体による散乱光はいわゆる磨りガラスのような白色もしくは白濁色のような無彩色を表示する。そのため、第1の領域によって表示される色相を有する色とは異なる色である。また、第2の領域に構造が形成されていない場合、第2の領域は反射層の素材、及び、基材の素材、及び、凹凸構造形成層の素材によって決定される色であり、通常、基材及び凹凸構造形成層は透明もしくは半透明であるので、反射層による色が知覚される。反射層として金属薄膜を利用した場合、金色や銀色などの金属光沢が知覚される。それは、第1の領域による表示色とは異なる色みとして観察者に知覚される。
また、第7の発明によると、本発明の表示体を、印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または、組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示した平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図。
【図3】回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した概略図。
【図4】本発明の表示体が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した概略図。
【図5】本発明の表示体を観察する際の一例を示す概要図。
【図6】本発明の表示体の凸凹面での光路差を説明するための概要図。
【図7】本発明の表示体での深さの違いに対する色変化を示す概要図。
【図8】本発明の表示体での深さの違いに対する色変化を示す概要図。
【図9】本発明の表示体での深さの違いに対する色変化を示す概要図。
【図10】本発明の表示体での照明光角度の変化に対する色変化を示す概要図。
【図11】本発明の表示体での照明光角度の変化に対する色変化を示す概要図。
【図12】本発明の表示体の一例を示す概要図。
【図13】本発明の第2の領域に採用可能な構造である回折格子構造の一例を示す斜視図。
【図14】本発明の第2の領域に採用可能な構造である反射防止構造の一例を示す斜視図。
【図15】本発明の第2の領域に採用可能な構造である散乱構造の一例を示す斜視図。
【図16】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなる表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【図17】図20に示す表示体付き物品のIV−IV線に沿った断面図。
【図18】本発明の表示体の一実施例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図であり、本発明の正反射方向に近い方向に複数の波長の光から構成される色を表示する表示体の一例を示している。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。この例においては、光透過層11がレリーフ構造形成層である。図2に示す例では、光透過層11側を前面側(観察者側)とし、且つ、反射層13側を背面側としている。
【0012】
図1及び図2に示す表示体10は、凹凸構造形成層の表面には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された領域を少なくとも一つ備えている。本図において、第1の領域15は微小な凹凸が形成されたセルを有する領域であり、第2の領域25は第1の領域15とはその構造や光学的な性質が異なる領域であると定義する。第2の領域25は第1の領域15とは異なる凹凸構造が形成されている領域であってもよいし、構造が形成されていない平坦部から成る領域であってもよい。また、第1の領域15は表示体10に少なくとも1つ以上存在しているが、第2の領域25は表示体10に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。また、複数の領域を組み合わせて表示体としても良い。
【0013】
光透過層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸構造または凹構造が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸構造または凹構造が設けられた光透過層11を転写成形することができる。
【0014】
図2には、一例として、光透過性の基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性の基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルムまたはシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)などを用いることができる。光透過性樹脂層112は、光透過性の基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性の基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0015】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0016】
この表示体10は、接着剤層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凸構造または凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
また、樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層や、表示体の一部に設ける、光や熱によって硬化する樹脂インキから成る印刷層である。
【0017】
光透過層11側を背面側とし、且つ、反射層13側を前面側とする場合は、接着層は、光透過層11上に形成する。
【0018】
樹脂層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし、且つ、反射層13側を前面側とする場合、反射層13を樹脂層によって被覆することで、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸構造または凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0019】
(第1の領域の説明)
本発明に係る第1の領域について説明するにあたり、まず、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、照明光入射角及び回折光の射出角との関係について説明する。
【0020】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対応して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0021】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記の式1から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ) ・・・(式1)
【0022】
式(1)において、dは回折格子の格子定数(格子周期,ピッチ)を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0023】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0024】
ピッチdの回折格子に対する照明光入射角及び+1次回折光の射出角の関係を図3に示す。照明光が複数の波長成分を含む白色光である場合、回折光の射出角は波長によって異なる。それによって太陽や蛍光灯などの白色照明光源下で回折格子を観察すると、白色光が分光し、単一波長の光が別々の角度に射出され、観察する角度によって虹色に見える。図3では点光源LSから白色光IL(ここでは、白色光を構成する波長成分はR、G、Bの3波長であると仮定する)が入射し、回折格子GRによって波長成分Rの回折光DL_r、波長成分Gの回折光DL_g、波長成分Bの回折光DL_bに分光する様子を示している。このとき、波長成分Rの回折光の射出角β_rと、波長成分Rの回折光の射出角β_gと、波長成分Rの回折光の射出角β_bは、波長毎に異なる値を取る(図3では、DL_rの射出角のみβ_rとして記載している)。他の次数の回折光についても式(1)によって導出される角度に射出されるが図3への記載は省略する。
【0025】
次に、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0026】
ピッチdの回折格子に対してαの入射角で入射した照明光は、式1に基づいて角度βの方向に回折光を射出する。この際、波長λの光の射出強度、すなわち回折効率は、回折格子のピッチや高さ等によって変化し、式2によって導出される。
【数1】
【0027】
ここで、ηは回折効率(0〜1の値をとる)、rは回折格子の高さ、Lは回折格子の格子線幅、dは格子線のピッチ、θは照明光の入射角、λは入射光及び回折光の波長である。なお、この式は、凹凸構造から成る浅い矩形回折格子について成り立つものである。
【0028】
式2から明らかなように回折効率は回折格子の高さrや、格子線のピッチd、入射光の入射角θや波長λによって変化する。また、実際には回折効率は回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0029】
次に、図5に本発明の表示体を観察する際の一例を示す概要図を示す。本発明においては、図5の表示体の断面形状に示すとおり、凸凹の深さは、全体で一定の値となっている。一方、凸凹のピッチは、山谷ごとに異なっており、周期性を持たないようなランダムなものとなっている。
このような、表示体を観察した場合、光透過層11に作られた凸凹形状の上の反射層13で回折された光が目に入るが、この回折光に色が着くため、色のついた画像が観察されることになる。
【0030】
次に、このような表示体で、回折される光に色が着く原理について説明する。
矩形の凸凹形状がある場合、入射した光は、凸凹形状の部分で回折され、一部の光は正反射方向に進む光となり、別の一部は回折によって拡がる光となる。
表面の凸凹に関して、屈折率n、深さdp、波長λとしたときに、内部の角度θで入射する照明光の山部と谷部で反射される光の光路差は、図6に示すように2dpcosθとなる。そして、これらの光の位相差は、2π/λをかけた4πndpcosθ/λとなる。
この時に、位相差が2πの整数倍であれば、正反射方向の光の位相が揃うため、山部、谷部からの光の干渉によって正反射光が強くなり、回折されて拡がる光の強度は弱くなる。
位相差が2πの整数倍+πであれば、正反射方向の光の位相が反対になるので、干渉によって正反射方向の光が弱くなり、回折されて拡がる光の強度は強くなる。
【0031】
ところで、可視光の波長は380〜780nmのある程度広い範囲に分布している。通常の回折表示体で用いられているような、0.10μm程度の深さ(波長の半分程度の光路差)以下の場合には、波長による違いは小さく大きな違いはでない。
しかし、凸凹の深さがある程度深くなると、ある波長では位相差が2πの整数倍+πとなって回折して拡がる光が強くなり、別のある波長では位相差が2πの整数倍となって回折する光が弱くなる。このため、波長によって回折される光の強度が大きく違ってくることになる。
【0032】
また、本発明の表示体では、凸凹構造がランダムであり、周期性を持っていない。このため、ホログラムや回折格子などのように、回折される光の方向が波長によって大きく変わることが無く、ほぼ同じような方向に射出される。
このため、各波長に対する回折光が重なって観察されることになり、回折光の強度の違いによる色が着くことになる。
【0033】
さて、このような原理で回折光に色がつくようにするには、ピッチや深さなどを適切な値とする必要がある。ピッチに関して、まず回折される光が、波長によって異なった方向になることがないようにする必要がある。レインボウホログラムや回折格子などのように凸凹構造が周期性を持つと、波長によって異なる方向に回折するので、なるべく周期性がなくランダムになるようにする。
【0034】
ただ、現実的には、全体のピッチが完全にランダムになるようにするのは難しいので、若干の周期性が残る場合も多い。この際に、周期構造による回折光の方向の違いが、照明光の大きさによる照明角度の違いよりも小さくなるようにする必要がある。
【0035】
電球などの比較的小さい光源を考えた場合、5cmくらいの光源で2m程度の距離はなれて照明すると考えられるので、通常1.5°程度の拡がりとなる。
可視光の波長範囲内で波長による回折光の角度の違いがこの範囲に収まるようにすれば良いため、20μm以上のピッチに対する周期であれば問題はない。
このため、20μm以上の範囲がランダムなピッチとなるように設定してあれば問題はない。
【0036】
次に、回折光の拡がりの面からピッチの条件について検討する。
回折される光と正反射方向の光が分離して観察できるように、回折される光は正反射方向から、十分離れた方向まで広く拡がることが必要である。
回折光の拡がりは、凸凹を構成している各要素の大きさに依存しており、大きさが小さいほど広い範囲に拡がる。
要素の大きさに対する、回折光の拡がりは、近似的には開口からの回折と考えることができるので、回折光の方向Φに対する強度は矩形開口の場合と同様に考え、波長をλ、要素の大きさをaとして
{sinc(π/λ×(sinΦ)×a)}2 ・・・(式3)
の式3で表すことができる。
この分布は、無限に拡がる形になるが、通例、最初に強度が0となる角度π/λ×(sinΦ)×aがπとなる角度を拡がり角としており、sinΦ=λ/aに対応する角度Φだけ拡がると考えられる。
通常、照明光の正反射方向近傍では、表面の反射光が目に入って観察し辛いため、照明光と観察角度は20°程度以上違いがある。このため、回折光は空気中で20°程度の角度拡がる必要がある。
この場合に樹脂の屈折率の影響は表面の屈折によってキャンセルされるので、空気中の波長と角度で考えればよく、sinΦの値が1/3以上になるようにする必要がある。
可視光の波長は幅があるものの大体500nm前後であるため、λ/aは要素の大きさaは、1.5μm程度以下となる。
このため、回折する光が十分な拡がりを持つためには、平均的な要素の大きさを1.5μm以下にする必要があり、山と谷を合わせたピッチとしてみれば3μm以下にしておく必要がある。
【0037】
次に、深さの面について検討を行う。
凸凹の形状が矩形波の場合に、凸凹で回折されて拡がる光の強度は、樹脂内での照明光の角度θ、屈折率n、深さdp、波長λとして、近似的に
{sin(2πndpcosθ/λ)}2 ・・・(式4)
の式4に比例する値となる。
このため、各波長に対する等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)を用いて
X=∫x(λ){sin(2πndpcosθ/λ)}2dpλ ・・・(式5)
の式5からXを計算し、同様にY、Zを計算していくことで、回折光の色を近似計算することができる。
【0038】
θ=30°、n=1.5として、この計算法により、深さが0.10μmから0.30μmまで変化したときの回折光の色を‘0.01μmごとに求め、u’v’座標としてプロットしたグラフを図7に示す。
0.10μm程度では、ほとんど白色であるが、0.15μmくらいで黄色系の色になり、その後、白を中心に回転するような形で色相が変化している。
このことから、色を出すために深さは0.15μm以上にする必要があると考えられる。
0.30μmまでの変化でほぼ1週し、一応の色彩表現は可能であるが緑系の色はかなり弱い。
【0039】
次に、深さが0.30μmから0.50μmまでの変化したときの回折光の色の推移を図8に示す。
この場合、図7と同じように、色相が変化しているが、この場合には、緑も表現されているため、より良い色表現が可能となっている。
【0040】
さらに、深さが0.50μmから0.70μmまでの変化したときの回折光の色の推移を図9に示す。
この場合、緑と紫は表現できているが、他の色の表現は乏しくなっている。
深さが、深くなると成形が難しくなるなどの問題も生じるため、0.50μm以上の深さにすることは、ほとんどメリットがない。
これらのことから深さは0.15μm〜0.50μmにしておくのが好ましく、更に好ましくは、0.15μm〜0.30μmにしておくのが良いと考えられる。
【0041】
ところで、ピッチ、深さは単体の要素のみで考えるのではなく、そのアスペクト比(ピッチに対する深さの割合)についても考えておく必要がある。
凸凹構造はアスペクト比が高いほど、成形し辛くなるという点がある。
また、アスペクト比が高いと、凸凹の底部に光が届き難くなるため、色が出難くなる場合や、像が暗くなるということも生じる。
このためアスペクト比があまり高くなりすぎないようにする必要があり、1以下程度に抑えたほうが良い。前述したように、0.50μmまでの深さを用いることを考慮すると、山谷の各要素の大きさは0.50μm以上にしておくほうが良く、平均的なピッチを1.0μm以上にするのが良いと考えられる。
【0042】
以上、矩形の凸凹形状の上に反射層を設け、透明な樹脂で埋めた構成であり、深さが0.15〜0.50μmの一定の値で、平均的なピッチが1.0〜3μmでランダムな構造にしたときに回折される光に色がついて見えることを説明してきたが、ただ色がついて見えるだけでは、偽造防止媒体としての効果は小さい。
【0043】
次に、このような構成の表示体で、照明光の入射角度が変化したときに、回折される光の色が変化することについて説明する。
【0044】
前述したように、凸凹形状に入射した光で、山部と谷部の光路差は、屈折率n、深さdp、波長λ、樹脂内部での角度θとして、2ndpcosθとなるため、深さdpが変化する場合のみでなく、照明光の入射角度が変化した場合も変化する。
回折する光の色は、山部と谷部の光路差の違いによって、生じるので、この場合にも深さが違ったときと同様な色変化が生じる。
スネルの法則から、照明光角度が変わったときの樹脂内部での光の角度θを求めて、前述した深さに対する色変化と同様な計算を行うことにより、照明光の角度変化に対する、色の変化を求めることができる。
【0045】
このような計算により、n=1.5、d=0.30μmとして、照明光の角度が0°から90°まで変化したときの色変化を求めた結果を図10に示す。
照明光角度の変化によって、再生される色は、オレンジ系の色からシアン系の色まで変化しており、十分に違いが認識できるだけの色変化が生じている。
このことから、照明光を大きく変化させた場合に、色の変化があることを容易に判別できるため、偽造防止用の部材として用いることが可能である。
【0046】
一方、通常観察する場合に生じるような、20°〜40°程度の小さな角度変化に対する色の変化を、図11に示す。
この場合には、色の変化はあるものの、ほぼ黄色と見なせる程度の範囲に収まっている。
このことから、普通に観察する範囲では、ほぼ一定の色で見えるので、画像としての色表現が十分可能であり、異なる色で記録された画像に対し、十分な識別が可能である。
これらのことから、本発明のような構成により、色のついた画像が表現でき、さらに、照明光の角度の違いにより、レインボウホログラムなどより、ずっとゆるやかであるが、十分に判別可能な色変化が生じるような表示体が得られることがわかる。また、本発明は、観察者の観察角度による視認性の依存度が低く抑えられる。
【0047】
ところで、ここまで凸凹の断面形状に関しては、矩形として説明をしてきているが、かならずしも矩形でなくとも、凸凹形状が適切なピッチと深さであれば、波長によって回折光強度が変化するため、色をだすことができる。
ただし、形状が良くないと、深さが深くなるに従って、正反射光の強度が低下し、また回折される光の範囲も変化するため、色の違いが出し難くなる。そのため、色の面からはなるべく矩形に近い形状が良い。
特に、山部、谷部からの光の干渉によって色がでていることから、山部、谷部の形状の影響は大きく、できるだけ山部、谷部が平面と見なせるようにするのが良い。
また、干渉によって、強めあうときと打ち消しあうときとの差が大きくなるほうが、色がでやすいことから、山部と谷部の広さが同じ程度になっているほうが良い。
【0048】
図12は、本発明の表示体の一実施例を示した概要図である。
図12(a)は、表示体の形状の一例を示した立体図である。この図で、ひとつの方向に対してのみ凸凹構造が記録されており、それと垂直な方向には、ほぼ平らな構成となっている。このような構成にすると、凸凹構造によって回折される光は、一方向にのみ拡がり、垂直な方向にはほとんど拡がらないものとなる。
このため、観察する方向によって、回折光が観察できたり、できなかったりするので、このような表示体を並べて画像パターンを形成すると、見る方向によって画像パターンが変化するようなものを作成することができる。
この場合には、照明光の角度によって色変化するとともに、観察の条件によってパターンも変化することになるので、より視認性が高まり、偽造防止効果の高い表示体を提供することが可能となる。
また、光の拡がる方向が一方向に絞られることから、光の強度が強くなり、明るい画像を観察できるという利点もある。
さらに、一方向のみの凸凹で、パターンがシンプルであることから、作成や複製を行い易いという利点もある。
【0049】
図12(b)、(c)は、図12(a)の表示体を垂直方向から観察した時の平面図である。凸部または凹部にあたる矩形が不規則なピッチで平行に配列されている。なお、凸部または凹部の平面形状19はこれに限定するものではなく、凹凸の平面形状は方向性を持っていれば良く、図12(b)のように長方形や複数の長方形が同一直線状に複数配列されていても良い。また、それぞれの角は直角である必要はなく、図12(c)のように曲線状でも良い。また、短辺と長辺を有している。それぞれの辺は曲線でも良い。好ましくは直線であると指向性の優れた表示体を得ることができる。
【0050】
(第2の領域)
次に、第2の領域について説明する。
第2の領域25は第1の領域15とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2の領域25は第1の領域15とは異なる凹凸構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。また、第2の領域25は表示体10に複数存在していてもよい。
【0051】
第2の領域25に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は、図1
3の斜視図に示したような線状の凹凸構造(格子線)が繰り返し形成されたものであり、ピッチ0.5〜1μm程度、構造の高さ0.1〜0.5μm程度が典型的な仕様である。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。
【0052】
また、第2の領域25に採用可能な別の構造として、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体が挙げられる。反射防止構造体は、図14の斜視図に示したような円錐状の構造27や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高いほうがより反射防止機能が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0053】
また、第2の領域25に採用可能な構造として、光散乱構造体が挙げられる。光散乱構造体は、図15の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状28が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光の回折や吸収が起きにくく、光を散乱する効果が得られる。
【0054】
また、第2の領域25は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。第2の領域25を平坦面とすると、第2の領域25は光反射層13によって鏡面のように見える。
【0055】
第2の領域25と第1の領域15を組み合わせることによって表示体の意匠性を向上させることができる。第2の領域には、第1の領域とは異なる光学特性を発揮する前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0056】
(表示体の使用方法)
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその外の物品に貼り付けて使用することができる。表示体10は微細な凹凸構造により表示体の正面方向に複数の波長による色を表示することができ、構造の高さを変えることでその色が変化することから偽造は困難である。このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこの表示体付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0057】
図16は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなる表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図17は、図16に示す表示体付き物品のIV−IV線に沿った断面図である。
【0058】
図16及び図17には、表示体付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0059】
この印刷物100は、微細な凹凸構造から成る表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0060】
なお、図16及び図17には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0061】
また、図16及び図17に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0062】
また、表示体付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0063】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【実施例1】
【0064】
本発明で用いる表示体は、例えば、次のようにして作成することができる。
まず、乾板上にEBレジストを塗布する。
このときに、レジストの粘度や、スピンコーターの回転するのを整えて、レジストの厚みが、本発明で用いるような深さを描画できるように、例えば0.50μm程度になるようにする。
このようにして作成したレジスト乾板に、EB描画装置を用いて、適切な露光幅、例えば、1μm程度で、適当な間隔をあけながら露光を行う。デザインは「TOP」の反転パターンとなるようにした。
「T」と「P」の文字をX方向が長手方向となるような縞パターンで、「O」の文字をY方向が長手方向となるような縞パターンとなるようにして、文字ごとにそれぞれ異なる露光量で描画を行った。
この際に、ピッチが周期的にならないように、間隔をランダムに変化させる。ただし、平均の間隔は1μm程度になるようにする。
このようにして、一方向の凸凹パターンを記録した乾板を現像して、露光した部分が凹むようにする。露光と現像の条件を調整して、「T」の文字部の深さが約0.3μm、「O」の文字部の深さが約0.25μm、「P」の文字部の深さが約0.2μmとなるようにした。
なお、この際に、凸凹の形状が若干はなまるものの、なるべく矩形に近くなるように現像条件を調整する。
このようにして作成した乾板に、蒸着によって導電層をつけて、これから電鋳することによって、乾板に記録された凸凹を金型として複製する。
透明なフィルム上にUV樹脂をたらして、作成金型を密着させてフィルム面からUV光を照射することによって、金型上の凸凹をフィルム上に複製する。
このようにして作成したフィルム上の凸凹面の上にアルミを蒸着する。
このようにして図18(a)に示すような、凹凸部の長手方向が「T」と「P」ではX方向に、「O」ではY方向となるような複数の凹凸部によって「TOP」がデザインされた表示体が作成された。
本実施例の表示体を図18(b)のように表示体を配置して観察すると、「T」の文字を黄色で、「P」の文字を紫色の画像として観察することができた。
また、照明光の角度を大きくしてやると、色が変化し、「T」の文字が青緑色に「P」の文字が橙色の画像として観察することができた。
また、図18(c)のように表示体を配置してY軸方向から観察すると、「O」の文字を青色の画像として観察することができた。
また、照明光の角度を大きくしてやると、色が変化し、「O」の文字が紫色の画像として観察することができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上、述べてきたように本発明の方法を用いることで、ホログラムと同様に観察条件によって色やパターンが変化するが、レインボウホログラムよりも色変化がゆるやかであり、通常の観察条件では、ほぼ同じ色に見えるような表示体を提供することができる。
このため、レインボウホログラムと比べて、画像の違いを判別し易く、またデザインし易い表示体となるため偽造防止用の表示体として利用できる可能性がある。
【0066】
3…樹脂層、4…照明光、5…正反射光、6…回折光、7…観察者、8…山部で反射された光、9…谷部で反射された光、10…表示体、11…光透過層、13…反射層、15…第1の領域、16…セル、17…凸部、18…平坦部、19…凹部または凸部の平面形状、25…第2の領域、26…回折格子、27…反射防止構造体、28…光散乱構造体、28…長辺、29…短辺、30…ICチップ、40…印刷層、50…基材、100…印刷物、111…光透過性の基材、112…光透過性樹脂層、151…第1の領域(面積大)、152…第1の領域(面積小)、161…セル(面積大)、162…セル(面積小)、171…凸部(深い構造)、172…凸部(浅い構造)、d…回折格子のピッチ、DL…+1次回折光、DL_r…+1次回折光(赤)、DL_g…+1次回折光(緑)、DL_b…+1次回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β…射出角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材と、
前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層と
を備えた積層構造から成る表示体であって、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部は、整然配置された複数の第1の領域に分割されており、
前記複数の第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部又は底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が複数配置されて構成されたセルを有し、
前記セルは、前記複数の第1の領域の少なくとも一部に各々設けられており、
各セル内に形成された複数の凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されており、
隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離の平均値は1.0μm以上且つ3μm以下であり、
前記凸部の高さ又は凹部の深さは0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凸部と平坦部の高さ又は前記凹部と平坦部の深さが、前記セル内で略同一であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離は、周期性が無く、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の表示体。
【請求項4】
前記凸部又は前記凹部と、前記平坦部の短辺の幅が、略同一であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体。
【請求項5】
前記第1の領域に対して垂直な方向から平行光で照明した場合に、特定方向に回折光を射出し、前記特定方向と垂直な方向には回折光を射出しない請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記第1の領域の近傍に、第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域とは光学特性が異なる構造を備えており、回折格子、凹凸構造から成る反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体とこれを支持した物品とを具備した表示体付き物品。
【請求項1】
光透過性の基材と、
前記基材の一方の面側に設けられた凹凸構造形成層と、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層と
を備えた積層構造から成る表示体であって、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部は、整然配置された複数の第1の領域に分割されており、
前記複数の第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部又は底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略並行な平坦部が複数配置されて構成されたセルを有し、
前記セルは、前記複数の第1の領域の少なくとも一部に各々設けられており、
各セル内に形成された複数の凸部又は凹部、及び平坦部は、同じ方向に繰り返し配列されており、
隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離の平均値は1.0μm以上且つ3μm以下であり、
前記凸部の高さ又は凹部の深さは0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凸部と平坦部の高さ又は前記凹部と平坦部の深さが、前記セル内で略同一であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
隣接する凸部又は凹部と平坦部の中心間距離は、周期性が無く、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の表示体。
【請求項4】
前記凸部又は前記凹部と、前記平坦部の短辺の幅が、略同一であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体。
【請求項5】
前記第1の領域に対して垂直な方向から平行光で照明した場合に、特定方向に回折光を射出し、前記特定方向と垂直な方向には回折光を射出しない請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記第1の領域の近傍に、第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域とは光学特性が異なる構造を備えており、回折格子、凹凸構造から成る反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体とこれを支持した物品とを具備した表示体付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
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【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−209376(P2011−209376A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74744(P2010−74744)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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