表示体及び表示体付き物品
【課題】目的は表示要素に指向性散乱構造を用いた、インテグラルフォトグラフィ方式での立体視が可能な表示体を提供すること。また、複数の複数の異なる立体像を観察することが可能な、前記表示体付き物品を提供すること。
【解決手段】複数のレンズアレイを配した、レンズ形成層のレンズの焦点位置に、複数の異なる光散乱軸を持った指向性散乱構造によって、表示要素を形成した表示体を実現する。それにより、表示体の観察方向によって異なる立体再生像を観察可能な表示体を実現した。
【解決手段】複数のレンズアレイを配した、レンズ形成層のレンズの焦点位置に、複数の異なる光散乱軸を持った指向性散乱構造によって、表示要素を形成した表示体を実現する。それにより、表示体の観察方向によって異なる立体再生像を観察可能な表示体を実現した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体視が可能な表示体及び立体視が可能な表示体付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため従来から、そのような物品には、偽造・模造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なホログラムが貼り付けられている。
【0003】
ホログラムは、優れた意匠性を持ち、カラー複写機においても複製できない偽造・変造の困難性から数多く利用されてきた。しかし、近年では、ホログラムにも巧妙な偽造品が出現し、一見すると真偽の判定が困難な事例も見られるようになってきている。
【0004】
立体表示技術としては、ホログラフィのほかにも様々な方式が開発されている。2眼式立体画像表示方式では、左眼用画像と右目用画像との2枚の間の視差画像を使用し、偏光メガネまたは偏光切換シャッターを装着し、それぞれの眼に対応した画像を、それぞれ対応する眼に提示し、3次元画像を観察者に表示する方式である。
【0005】
この2眼式立体画像表示方式は、比較的少ない情報量で容易に3次元画像表示が可能であるという特徴を有するが、3次元画像を再生して表示した場合、観察者の両眼の眼球が移動あるいは回転し、視線の交差させる輻輳位置と、眼球のレンズが焦点を結ぶ焦点位置とが異なり、この位置の違いによる視覚疲労(例えば、3D酔い等)を引き起こすことが問題となっている。
【0006】
また、時間分割を用いずに、空間に3次元画像を再生する方式として、インテグラルフォトグラフィ(IP)方式がある。このIP方式は、図12に示すように微少なレンズアレイ1を介して、表示要素2を観察することで、観察者3は3次元の立体再生像4を観察することができる。
【0007】
IPの実現方法としては、微小な凸レンズを二次元的に並べた蝿の目レンズ(フライアイレンズ)を用いる方法と、凸レンズをピンホールで置き換えたピンホールアレイを用いた方法がある。ピンホールで凸レンズを代替できることは、ピンホールカメラの例からも明らかである。また、レンズの厚さが十分薄い場合、凸レンズの中心を通る光は、直進するとみなせるので、その点からも、凸レンズとピンホールは機能的には同等と言える。
【0008】
では、凸レンズアレイまたはピンホールアレイの後方に、レンズアレイの焦点距離の位置に、立体表示の元になる表示要素が置かれる。ひとつの表示要素は、多数の要素素子から構成され、1個のレンズに対し、1つの要素素子が対応する。要素素子は、アナログ画像であることも、液晶モニタのようなデジタル画像の場合もある。
【0009】
IP方式は、すでに述べた2眼式立体画像表示方式で用いる特殊なメガネを必要とせず、水平方向及び垂直方向の双方に視差がある。そして、このインテグラルフォトグラフィ方式は、空中像再生方式であるため、実物を観察しているのと同様な自然な3次元画像の表示が可能となっている。
【0010】
近年では、微細なレンズ構造を用いた、インテグラルフォトグラフィ方式を用いた、偽造防止用表示体が開発され、韓国紙幣などに実際に採用され、採用国は広がりを見せている。
【0011】
IP方式での立体視では、微小パターンの表示要素の拡大率を調整することにより奥行き感を生じさせることができる(例えば、特許文献1参照)。従来の製品は、微細パターンからなる表示要素を有する印刷層と、球面もしくは非球面のマイクロレンズを組み合わせた構成である。レンズのピッチは、微小パターンを配列するピッチによってもある程度制限され、レンズ機能とのバランスによっては、表示体が数十μm以上の厚みになることもある。印刷による微小パターンは、印刷技術の進歩により微細化が進んでいるが、未だ比較的単純な形状であることが多い。
【0012】
このような立体表示体は、シールであったり、紙にすきこんだりして、さまざまな物品に用いることもできる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−79308号公報
【特許文献2】特開2009−86041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の背景に基づきなされたもので、表示要素に指向性散乱構造を用いた、インテグラルフォトグラフィ方式での立体視が可能な表示体を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、複数の異なる立体像を観察することが可能な表示体付き物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願請求項1に係る発明は、規則的に配列した複数のレンズを一方の面に配したレンズ形成層と、前記レンズの焦点位置に前記レンズ毎に対応して設けられた、複数の表示要素を配列した表示層から成り、前記複数の表示要素から射出された光線が、対応する前記複数のレンズを介してなす光線群により立体的な像を表示する、インテグラルフォトグラフィ法に基づく表示体であって、前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、光反射層を配した複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱構造からなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、文字や記号、絵柄などを表現し、且つ、前記複数のレンズの配列ピッチと、前記複数の表示要素の配列ピッチが異なっていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記指向性散乱構造が複数の光散乱軸方向を持ち、前記光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造によって、各々異なる複数の像をなすよう、前記表示要素が配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3において、光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造を用いて、文字や記号、絵柄などを複数の異なる表示像をなすように前記表示要素が配置されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4において、前記複数の直線状の凸部および/または凹部が、ランダムに配置されていることを特徴とする。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5において、前記複数の表示要素は複数のセルで構成されていて、セルの一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6において、前記表示層の表示要素形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする。
【0023】
請求項8に係る発明は、前記表示層の非パターン形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする。
【0024】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8において、前記表示層と前記レンズ形成層の間に粘着層を設けることを特徴とする。
【0025】
請求項10に係る発明は、請求項1乃至9に記載される表示体を用いて表示体付き物品を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、指向性散乱構造を表示要素として用いた、IP方式に基づく表示体であって、前記表示要素に前記指向性散乱構造を用いることで、観察者は観察する方向によって異なる像を視認することが可能となり、且つ、複数の光散乱軸方向を持つ、前記指向性散乱構造によって、表示要素を構成することで、表示像のバリエーションを増やすことが可能となる。
【0027】
さらに、前記指向性散乱構造は、数ミクロン程度の厚みを持つ、表示層に形成することができるので、表示体としての厚みを薄くすることができ、前記表示体を具備する物品の厚みも薄くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態に係る表示体を示した斜視図である。
【図2】図1におけるX−X’線での断面を示した図である。
【図3】屈折球面における近軸結像を示した図である。
【図4】指向性散乱領域における、配向方向と光散乱軸を示した図である。
【図5】指向性散乱構造から射出される光を観察するときの概念図である。
【図6】本発明による表示体と立体再生像の関係を説明するために示した図である。
【図7(a)】本発明による表示体の観察形態の一例を示した図である。
【図7(b)】本発明による表示体の観察形態の他の一例を示した図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る表示体を断面して示した図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る表示体に基づく実施例1の要部を断面して示した図である。
【図10】図9の実施例1における指向性散乱構造の一例を示した図である。
【図11】図9の表示体の観察形態の一例を示した図である。
【図12】インテグラルフォトグラフィ方式による立体視の概念を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限ることはない。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態に係る表示体を示すもので、図2は、図1のX−X’線を断面して示す。即ち、レンズ形成層5には、複数のレンズ6が形成され、このレンズ形成層5下部の、複数のレンズ6の焦点距離Fの位置に、表示層7が配されている。この表示層7の一部には、複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱構造8が形成されている。そして、表示層7には、光反射層9が配されている。
【0031】
ここで、各層について詳しく説明する。
【0032】
前記レンズ形成層5としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂及びアクリル系/スチレン系共重合樹脂等の熱可塑性樹脂材料又は紫外線硬化樹脂を使用することができる。レンズ形成層5の材料として、樹脂を使用する代わりに、珪酸塩を含んだ無機系材料を使用してもよい。
【0033】
前記複数のレンズ6は、前記レンズ形成層5の一方の主面上で規則的に配列している。複数レンズ6は、例えば、正方格子、矩形格子及び三角格子などの格子状に配列させることができる。ここでは、一例として、複数のレンズ6は略正方格子状に配列していることとする。
【0034】
前記複数のレンズ6は、例えば球面レンズである。また、複数のレンズ6は、非球面レンズ又は矩形状レンズであってもよい。なお、球面レンズは、球面の一部分からなる面を持つレンズ6である。非球面レンズは、形状を若干ずらした球面の一部分からなる面を持つレンズ6である。
【0035】
また、矩形状レンズは、Z方向に平行な断面が矩形状又は正方形状のレンズであって、Z方向に平行な方向から観察した場合に、例えば格子状又は縞状のレンズアレイを構成する。
【0036】
前記複数のレンズ6が球面レンズ及び比球面レンズなどの凸レンズである場合、レンズ6の焦点から表示層7までの距離Fは、レンズ6の曲率半径Rと、屈折率n’から求めることができる。図3は、凸レンズ(屈折球面)での近軸結像を表した模式図である。
【0037】
観察者側の屈折率をn、凸レンズの屈折率をn’、凸レンズの頂点をA、頂点Aからレンズの曲率中心までの距離(曲率半径)をRとした時の、凸レンズの頂点Aから表示層7までの距離Fは、
【数1】
【0038】
の式により求めることができる。
【0039】
通常、観察者は、n=1.0の空気層に居るから、凸レンズの屈折率n’と曲率半径Rが決まれば、おのずと凸レンズの頂点Aから表示層7までの距離Fが決定されることとなる。
【0040】
前記複数のレンズ6は、例えば、複数の凹部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、複数のレンズ6は、レンズ形成層5の上にレンズ6に対応した形状の凹部が設けられた金型を、熱を印加しながら押し当てる方法、即ち、熱エンボス加工法により得られる。
【0041】
また、レンズ形成層5は、透明基材上に配されていても良く、透明基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。
【0042】
レンズ形成層5を前記透明基材の上に配した場合には、レンズ形成層5として、紫外線硬化樹脂などを塗布し、これに金型を押し当てながら紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、金型を取り除く方法により形成することも可能である。
【0043】
前記表示層7の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの可視光透過性を有する樹脂を使用することができる。その中でも、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、指向性散乱構造8が形成された原版を用いた転写により、一方の面上に指向性散乱構造8を備える表示層7を容易に作製することができる。
【0044】
表示層7は、可視光の少なくとも一部の波長について十分な透過率を有していればよく、特定の波長帯域を吸収する色素などを添加してもよい。その場合、表示層7を通して見える部分が着色して見える。
【0045】
また、表示層7は、何らかの基材の上に配されていてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。基材の材料としては、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。
【0046】
さらに、基材は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。さらには、反射防止処理、低反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理などの処理を施してもよい。
【0047】
次に、前記表示層7に形成される指向性散乱構造8に関して説明する。
【0048】
図4は、指向性散乱領域10の一例を概略的に示す平面図で、この指向性散乱領域10は、複数の指向性散乱構造8を含んでいる。これら複数の指向性散乱構造8は、各々が直線状であり、指向性散乱領域10内で方向が揃った複数の凸部および/または凹部である。すなわち、指向性散乱領域10において、指向性散乱構造8は、ほぼ平行に配列している。
【0049】
なお、指向性散乱領域10において、指向性散乱構造8は、完全に平行に配列していなくてもよい。指向性散乱領域10が十分な光散乱能異方性を有している限り、その指向性散乱領域10において、例えば、一部の指向性散乱構造8の長手方向と他の一部の指向性散乱構造8の長手方向とが交差していてもよい。以下、指向性散乱領域10の主面に平行な方向のうち、指向性散乱領域10が最小の光散乱能を示す方向を「配向方向」と呼び、指向性散乱領域10が最大の光散乱能を示す方向を「光散乱軸」と呼ぶ。
【0050】
図4に示す指向性散乱領域10では、矢印12bで示す方向は配向方向であり、矢印12aで示す方向が光散乱軸である。例えば、配向方向12bに垂直な斜め方向から指向性散乱領域10を照明光源14により照明して、指向性散乱領域10を正面から観察すると、指向性散乱領域10は、その高い光散乱能に起因して、比較的明るく見える。一方、光散乱軸12aに垂直な斜め方向から指向性散乱領域10を照明して、指向性散乱領域10を正面から観察すると、指向性散乱領域10は、その低い光散乱能に起因して、比較的暗く見える。
【0051】
これから明らかなように、例えば、指向性散乱領域10を斜め方向から照明して、これを正面から観察した場合、指向性散乱領域10をその法線方向の周りで回転させると、その明るさが変化する。
【0052】
ここで1例として、図5に示したような位置関係で、観察者3が指向性散乱領域10を観察した場合を説明する。指向性散乱領域10の光散乱軸12a、配向方向12bが図5のようになっている場合、観察者3は、光散乱軸12aの方向に最大の光散乱能を示す指向性散乱光13を観察することができる。
【0053】
ここで、指向性散乱領域10が文字や記号、マークなどのパターンで配置されているとした場合、観察者3は、指向性散乱領域10で形成された、文字や記号、マークなどを観察することができる。
【0054】
図5の位置関係のまま、観察者3が指向性散乱領域10の方向を90°回転させた場合、自ずと光散乱軸12aも90°回転するため、観察者3は指向性散乱光13を観察することができず、観察者3は、指向性散乱領域10で形成された、文字や記号、マークなどを観察することができない。
【0055】
すなわち、光散乱軸12aを異ならしめた複数の指向性散乱領域10を設けることで、それらの間に明るさの差を生じさせることができる。したがって、これにより像を表示することができる。特に、光散乱軸12aの角度差を十分(例えば直交するように)にとることにより、それぞれの領域で表示された像をそれぞれ別の観察条件で観察できる。
【0056】
指向性散乱領域10の明るさは、他の方法で制御することもできる。例えば、指向性散乱構造8の幅が大きいほど、光散乱軸12aの方向についての光散乱能が小さくなる。一方、指向性散乱構造8を長くすると、配向方向12bについての光散乱能が小さくなる。
【0057】
指向性散乱構造8の形状は、1つの指向性散乱領域10おいて全て同じであってもよい。或いは、1つの指向性散乱領域10は、形状の異なる複数の凸部および/または凹部を含んでいてもよい。
【0058】
同一形状の指向性散乱構造8のみを含んだ指向性散乱領域10は、光散乱能の設計が容易である。また、そのような指向性散乱領域10は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いることで、高精度にかつ容易に形成することができる。一方、形状の異なる指向性散乱構造11を含んだ指向性散乱領域10によると、広い角度範囲に亘ってなだらかな光強度分布をもった散乱光が得られる。それゆえ、観察位置による明暗の変化が小さく、安定した白色を表示させることが可能となる。
【0059】
本発明における指向性散乱構造は、直線状の方向が揃った複数の凸部および/または凹部からなり、凸部と凸部または凹部と凹部の間隔は1μm以下であって、その間隔はランダムな値をとるようになっている。
【0060】
また、凸部の頂点から凹部の底までの距離を、指向性散乱構造の深さをHとした時、深さHは1μm以下でランダムな値を取る。
【0061】
ランダムなピッチと深さHを持つ指向性散乱構造は、乱数を用いて作成したパターンとすることにより、コンピュータを用いて簡便に光を散乱するパターンを作成することが可能となる。
【0062】
作成したパターンを元に、電子ビーム露光装置やイオンビーム露光装置等の微細加工能力のある装置を用いて、直接描画することによって指向性散乱構造を作成することが可能となる。電子ビーム露光装置などを用いた場合、電子ビームのエネルギー量を変えることで、深さHをコントロールすることも容易となる。
【0063】
本発明においては、複数の直線状の凸部および/または凹部は異なる複数の空間周波数成分を持っており、入射してきた白色光を複数の可視波長が同時に観察されるよう、白色光を回析させる機能により、指向性を持った散乱光を実現している。
【0064】
表示体を観察する場合、照明光源の角度や観察位置などの観察条件が異なっても、広い視域で安定した白色の表現が可能であることが必要である。
【0065】
しかし、実際には照明光源付近に射出される光は、極端に傾いた観察条件においてしか観察されることが無く、正反射光付近に射出される光の成分は、正反射光の強い光がまぶしいため、観察には適していない。
【0066】
本発明の指向性散乱構造では、複数の直線状の凸部および/または凹部の持つ、空間周波数成分を最適化することで、上記で述べたような観察に適さない光を制御し、通常の観察に適した範囲に、観察光を集中的に射出させることが可能となる。
【0067】
主に、入射光の強さが一定であれば、観察に適した角度範囲において、選択的に射出光を出すことにより、観察者はより明るい像を観察することが可能となる。
【0068】
本発明の指向性散乱構造においては、入射角度0度(表示体の法線方向)で白色光を入射させた際に、法線から±10度以内の範囲に光を射出させる空間周波数成分と、法線から±80度以上の範囲に光を射出させる空間周波数成分を制限しており、通常の観察に適した範囲にのみ射出光が射出するようにしている。空間周波数を制限することで、指向性散乱光の強度を強くすることができ、より効果的な画像表現が可能となる。
【0069】
また、指向性散乱構造8の配向秩序度が高いほど、指向性散乱領域10の光散乱能異方性は大きくなる。
【0070】
指向性散乱領域10において、指向性散乱構造8は、ある程度規則的に配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。例えば、指向性散乱構造8の光散乱軸12aに平行な方向の間隔をランダムにすると、配向方向12bに垂直な方向に関する散乱光の光強度分布がなだらかになる。したがって、観察角度に応じた白さや明るさの変化が抑制される。
【0071】
また、光散乱軸12aに平行な方向について、指向性散乱構造8の間隔を小さくすると、入射光のより多くを散乱させることができるため、光散乱能異方性を劣化させることなしに、散乱光の強度を強くすることができる。例えば、光散乱軸12aに平行な方向についての指向性散乱構造8の平均間隔が10μm以下であれば、視認性の良い表示を実現するのに十分な光散乱強度を得ることができる。
【0072】
なお、この平均間隔を十分に小さくすると、指向性散乱領域10が複数のセルで構成されている場合、セルの大きさを145μm程度とすることは十分に可能である。この場合、通常の観察条件における人間の目の分解能以下の細かさで像を表示することができる。すなわち、十分に高精細な像を表示できる。
【0073】
指向性散乱領域10が微細な複数のセルで構成されていることで、文字や記号、マークなどを微細なセルの集まりとして構成することも可能である。
【0074】
本発明における指向性散乱領域10は、方向が揃った複数の凸部および/または凹部からなる光散乱構造からなるため、通常の照明条件下において、白色光を散乱する機能を有するため、白色もしくは薄灰色の明度及び彩度の高い色として観察される。
【0075】
次に、表示層7の上に配される、光反射層9に関して説明する。
【0076】
光反射層9は、指向性散乱構造8が設けられた表示層7の界面の反射率を高める役割を果たす。光反射層9の材料としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金など反射率の高い金属材料を使用することができる。本発明の表示体は光反射層9を指向性散乱構造8の少なくとも一部を被覆するように設けているが、光反射層9に被覆されていない指向性散乱構造8は、屈折率の近い樹脂などで被覆されてしまうことで、凹凸構造がないものとして、光学的な作用を及ぼさなくなる。
【0077】
本発明の表示体が物品などに貼付されるものとして用いる場合、接着層などで指向性散乱構造8は被覆される。従って、光反射層9によって被覆された部分のみが光学的な作用を及ぼし、光反射層9によって被覆されていない部分は、表示層7の高い光透過性により透明な領域となるため、光反射層9の被覆領域の外形によって絵柄が表現でき、また光反射層9の被覆領域内にある、指向性散乱領域10や非指向性散乱領域の配置によって更に多彩な表示が可能となる。
【0078】
金属材料を用いて光反射層9を作製する方法としては、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。表示層7を部分的に被覆した光反射層9は、例えば、気相堆積法により薄膜を形成し、その一部を薬品などに溶解させること、又は、この薄膜と表示層7との密着力よりも強い接着力を先の薄膜に対して示す接着材料によって、上記薄膜の一部を剥離することによって得られる。表示層7の一方の主面を部分的に被覆した光反射層9は、マスクを用いた気相堆積法によって形成することも可能である。
【0079】
ここで、本発明における表示体20の見え方に関して詳しく説明する。
【0080】
図6は、本発明による表示体20を観察する際の、イメージを示した図であり、簡略化した図である為、本来密着している、レンズ形成層5と表示層7の隙間を空けている。
【0081】
ここで、観察者3は、照明光源14によって照明された、表示体20を観察する際、表示層7に配列された表示要素2から射出され、レンズ6を介した光が中空に形成する実像を観察することができる。
【0082】
これは、光の性質から、レンズ6の焦点面(点光源)の1点から出る光は、点光源の位置とレンズ6の中心を直線で結ぶ方向にレンズ6の大きさで平行光として進むことによる。この原理で、3次元空間の1点に何本かの平行光線で光を集め、その光線群が1点に集まった後に進む方向から光を観察すれば、観察者3にとっては光線群が集まった1点から光が発しているように見える。
【0083】
上記の原理を用いて、点を面上に繋げれば3次元空間に立体像を投影できることになる。その際の解像度(画素)は、レンズ6の直径の大きさとなる。
【0084】
通常、表示層7の表示要素2としては、印刷によってインキなどで形成された絵や文字などのパターンが用いられることが多い。
【0085】
本発明においては、表示要素2に指向性散乱構造11からなる指向性散乱領域10を配することによって、観察できる立体再生像4に指向性を持たせている。
【0086】
図7(a)には、指向性散乱構造8の一部分に着目した図を示す。図7(a)において、指向性散乱構造8から射出された光は、レンズ6を通過した後も、その指向性を維持したまま観察者の目に届く。ここで、先に述べたように、表示要素2から射出された光が、レンズ6を介して中空に実像を形成するよう、指向性散乱構造8を配置しておけば、観察者3は、立体再生像4を観察することが可能となる。
【0087】
次に、図7(b)に示すように、図7(a)とは90°異なる光散乱軸を持つ、指向性散乱構造8によって表示要素2が形成されているとする。
【0088】
図7(b)においては、指向性散乱構造8は図7(a)の場合と比較して、散乱方向が90°異なる光を射出し、図7(a)の場合と同様にレンズ6を通過した後も、その指向性を維持したままである。
【0089】
ここで、観察者3が図7(a)と同じ位置に居る場合、観察者3は指向性散乱構造3から射出された光は目に届かない。つまり、指向性散乱光14によって形成される立体再生像を観察することができない。
【0090】
以上のように、異なる光散乱軸12aを持つ、指向性散乱構造によって各々異なる立体再生像4を結像するように、表示要素2を配置しておけば、観察者3は観察する方向によって異なる立体再生像4を観察することが可能となる。
【0091】
このとき、光散乱軸12aが2つ以上あっても良く、複数の光散乱軸12a方向でそれぞれ異なる立体再生像4を観察することも可能となる。
【0092】
表示層7に形成される、指向性散乱構造11からなる指向性散乱領域10は、観察者3が自然な立体感を認識できる、立体再生像4を投影するよう配置されていればよい。所謂、視差画像の役割を果たすように、配置されている。
【0093】
若しくは、表示要素2が指向性散乱領域10によって文字や記号、絵柄などを表現されていてもよい。その際、複数のレンズ6の配列ピッチと、表示要素2の配列ピッチの差によって、立体再生像4の結像位置が決まる。
【0094】
図6に示したように、レンズ6の配列ピッチをΔX,表示要素2の配列ピッチをΔP,レンズ6の頂点Aから表示要素2までの距離、すなわち焦点距離をF,表示要素2から立体再生像4までの距離をSとした時、
【数2】
【0095】
に示す関係を有する。この関係は、例えば吉田達哉、苗村健、原島博:『インテグラルフォトグラフィを用いた3次元C G の合成』映像情報メディア学会誌VoL.55,NO.3 ,P.474〜478,2011に開示されている。
【0096】
この数2の式を用いれば、像が飛び出す距離、すなわち結像距離Sを決めてやり、レンズ6の配列ピッチΔXと焦点距離Fを設定すれば、おのずと表示要素の配列ピッチΔPが求まる。
【0097】
この数2の式を実際に計算してみると、結像距離Sが長いほど、ΔPとΔXの差を小さくする必要があることが分かる。
【0098】
先にも述べたように、本発明の表示体は、レンズ6の直径がひとつの画素の大きさになるので、レンズ6の配列ピッチΔXが小さい方がより細かい立体再生像4を得ることが可能となる。
【0099】
表示層7とレンズ形成層5の配置は、図2に示したように、表示層7の表示要素2形成面と、レンズ形成層5の非レンズ形成面が向き合って配置されても、図8に示したように、表示層7の非パターン形成面と、レンズ形成層5の非レンズ形成面が向き合って配置されてもよい。
【0100】
前述したように、レンズ6の曲率半径Rを変えることで、焦点距離Fを調節することができる。図2のような構成では、焦点距離Fを短くすることができるため、表示体としての薄さを確保することができ、表示体を具備した表示体付き物品を提供する際にも、取り扱いが用意で都合が良いことが多い。
【0101】
また、本発明の表示体は、粘着層などを介して転写箔やステッカーなどの形態にして、物品に貼り付け圧着させて使用に供される。
【0102】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、これらは、例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0103】
図9は、本発明の実施例1を示す表示体の断面を示した図である。即ち、実施例1においては、レンズ形成層5としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、レンズ6は紫外線硬化型樹脂によって成形した。
【0104】
また、表示層7は、透明基材15の上にコーティングされた紫外線硬化型樹脂からなる。透明基材15には、PETフィルムを用いた。
【0105】
指向性散乱構造8としては、数100nmオーダーのピッチPと深さHを持つ構造を形成している。
【0106】
指向性散乱構造8は、個々のレンズ6に対応して、視差画像をなすように配置されていても、指向性散乱構造8自体で任意の形状をしていても良い。本実施例で示すようにハート型をした構成などにしても良い(図10参照)。その際、レンズ6の配列ピッチΔXと表示要素2の配列ピッチΔPは僅かにずらしている。
【0107】
指向性散乱構造3の形成方法としては、レーザ露光干渉系などを用いてもよいし、電子線描画などによって形成してもよい。
【0108】
また、透明基材15とレンズ形成層5は、粘着層16により貼り合わされている、
光反射層9としては、アルミ蒸着層を真空蒸着法により製膜した。光反射層9の厚みは50nm程度である。
【0109】
レンズ6の曲率半径は、20μm程度の細かさであり、焦点距離Fは、40μm程度の距離である。表示体全体の厚みも50μm程度の厚みである。もちろん、本寸法以外にも、曲率半径などは、変更可能である。
【0110】
ここで、図11は、実施例1の表示体20を観察した際のイメージ図を示しており、表示体に照明光源14を照射すると、表示層7に形成された指向性散乱構造8からなる表示要素2から光が射出される。
【0111】
射出される光は、指向性散乱構造8の光散乱軸方向にのみ光を射出する。本例では、指向性散乱構造8はハート型にパターンニングされて配置されているので、観察者3はハートの形を認識することができる。
【0112】
また、指向性散乱光13が射出されない方向から、観察者3が表示体20を観察しても、指向性散乱光13を見ることができないため、何も認識することはできない。
【符号の説明】
【0113】
1 … レンズアレイ
2 … 表示要素
3 … 観察者
4 … 立体再生像
5 … レンズ形成層
6 … レンズ
7 … 表示層
8 … 指向性散乱構造
9 … 光反射層
10 … 指向性散乱領域
12a … 光散乱軸
12b … 配向方向
13 … 指向性散乱光
14 … 照明光源
15 … 透明基材
16 … 粘着層
20 … 表示体
F … 焦点距離
R … 曲率半径
n … 観察者側の屈折率
n’ … レンズの屈折率
A … レンズの頂点
ΔX … レンズのピッチ
ΔP … 表示要素のピッチ
S … 結像距離
H … 深さ、高さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体視が可能な表示体及び立体視が可能な表示体付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため従来から、そのような物品には、偽造・模造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なホログラムが貼り付けられている。
【0003】
ホログラムは、優れた意匠性を持ち、カラー複写機においても複製できない偽造・変造の困難性から数多く利用されてきた。しかし、近年では、ホログラムにも巧妙な偽造品が出現し、一見すると真偽の判定が困難な事例も見られるようになってきている。
【0004】
立体表示技術としては、ホログラフィのほかにも様々な方式が開発されている。2眼式立体画像表示方式では、左眼用画像と右目用画像との2枚の間の視差画像を使用し、偏光メガネまたは偏光切換シャッターを装着し、それぞれの眼に対応した画像を、それぞれ対応する眼に提示し、3次元画像を観察者に表示する方式である。
【0005】
この2眼式立体画像表示方式は、比較的少ない情報量で容易に3次元画像表示が可能であるという特徴を有するが、3次元画像を再生して表示した場合、観察者の両眼の眼球が移動あるいは回転し、視線の交差させる輻輳位置と、眼球のレンズが焦点を結ぶ焦点位置とが異なり、この位置の違いによる視覚疲労(例えば、3D酔い等)を引き起こすことが問題となっている。
【0006】
また、時間分割を用いずに、空間に3次元画像を再生する方式として、インテグラルフォトグラフィ(IP)方式がある。このIP方式は、図12に示すように微少なレンズアレイ1を介して、表示要素2を観察することで、観察者3は3次元の立体再生像4を観察することができる。
【0007】
IPの実現方法としては、微小な凸レンズを二次元的に並べた蝿の目レンズ(フライアイレンズ)を用いる方法と、凸レンズをピンホールで置き換えたピンホールアレイを用いた方法がある。ピンホールで凸レンズを代替できることは、ピンホールカメラの例からも明らかである。また、レンズの厚さが十分薄い場合、凸レンズの中心を通る光は、直進するとみなせるので、その点からも、凸レンズとピンホールは機能的には同等と言える。
【0008】
では、凸レンズアレイまたはピンホールアレイの後方に、レンズアレイの焦点距離の位置に、立体表示の元になる表示要素が置かれる。ひとつの表示要素は、多数の要素素子から構成され、1個のレンズに対し、1つの要素素子が対応する。要素素子は、アナログ画像であることも、液晶モニタのようなデジタル画像の場合もある。
【0009】
IP方式は、すでに述べた2眼式立体画像表示方式で用いる特殊なメガネを必要とせず、水平方向及び垂直方向の双方に視差がある。そして、このインテグラルフォトグラフィ方式は、空中像再生方式であるため、実物を観察しているのと同様な自然な3次元画像の表示が可能となっている。
【0010】
近年では、微細なレンズ構造を用いた、インテグラルフォトグラフィ方式を用いた、偽造防止用表示体が開発され、韓国紙幣などに実際に採用され、採用国は広がりを見せている。
【0011】
IP方式での立体視では、微小パターンの表示要素の拡大率を調整することにより奥行き感を生じさせることができる(例えば、特許文献1参照)。従来の製品は、微細パターンからなる表示要素を有する印刷層と、球面もしくは非球面のマイクロレンズを組み合わせた構成である。レンズのピッチは、微小パターンを配列するピッチによってもある程度制限され、レンズ機能とのバランスによっては、表示体が数十μm以上の厚みになることもある。印刷による微小パターンは、印刷技術の進歩により微細化が進んでいるが、未だ比較的単純な形状であることが多い。
【0012】
このような立体表示体は、シールであったり、紙にすきこんだりして、さまざまな物品に用いることもできる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−79308号公報
【特許文献2】特開2009−86041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の背景に基づきなされたもので、表示要素に指向性散乱構造を用いた、インテグラルフォトグラフィ方式での立体視が可能な表示体を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、複数の異なる立体像を観察することが可能な表示体付き物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願請求項1に係る発明は、規則的に配列した複数のレンズを一方の面に配したレンズ形成層と、前記レンズの焦点位置に前記レンズ毎に対応して設けられた、複数の表示要素を配列した表示層から成り、前記複数の表示要素から射出された光線が、対応する前記複数のレンズを介してなす光線群により立体的な像を表示する、インテグラルフォトグラフィ法に基づく表示体であって、前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、光反射層を配した複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱構造からなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、文字や記号、絵柄などを表現し、且つ、前記複数のレンズの配列ピッチと、前記複数の表示要素の配列ピッチが異なっていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記指向性散乱構造が複数の光散乱軸方向を持ち、前記光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造によって、各々異なる複数の像をなすよう、前記表示要素が配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3において、光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造を用いて、文字や記号、絵柄などを複数の異なる表示像をなすように前記表示要素が配置されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4において、前記複数の直線状の凸部および/または凹部が、ランダムに配置されていることを特徴とする。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5において、前記複数の表示要素は複数のセルで構成されていて、セルの一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6において、前記表示層の表示要素形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする。
【0023】
請求項8に係る発明は、前記表示層の非パターン形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする。
【0024】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8において、前記表示層と前記レンズ形成層の間に粘着層を設けることを特徴とする。
【0025】
請求項10に係る発明は、請求項1乃至9に記載される表示体を用いて表示体付き物品を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、指向性散乱構造を表示要素として用いた、IP方式に基づく表示体であって、前記表示要素に前記指向性散乱構造を用いることで、観察者は観察する方向によって異なる像を視認することが可能となり、且つ、複数の光散乱軸方向を持つ、前記指向性散乱構造によって、表示要素を構成することで、表示像のバリエーションを増やすことが可能となる。
【0027】
さらに、前記指向性散乱構造は、数ミクロン程度の厚みを持つ、表示層に形成することができるので、表示体としての厚みを薄くすることができ、前記表示体を具備する物品の厚みも薄くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態に係る表示体を示した斜視図である。
【図2】図1におけるX−X’線での断面を示した図である。
【図3】屈折球面における近軸結像を示した図である。
【図4】指向性散乱領域における、配向方向と光散乱軸を示した図である。
【図5】指向性散乱構造から射出される光を観察するときの概念図である。
【図6】本発明による表示体と立体再生像の関係を説明するために示した図である。
【図7(a)】本発明による表示体の観察形態の一例を示した図である。
【図7(b)】本発明による表示体の観察形態の他の一例を示した図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る表示体を断面して示した図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る表示体に基づく実施例1の要部を断面して示した図である。
【図10】図9の実施例1における指向性散乱構造の一例を示した図である。
【図11】図9の表示体の観察形態の一例を示した図である。
【図12】インテグラルフォトグラフィ方式による立体視の概念を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限ることはない。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態に係る表示体を示すもので、図2は、図1のX−X’線を断面して示す。即ち、レンズ形成層5には、複数のレンズ6が形成され、このレンズ形成層5下部の、複数のレンズ6の焦点距離Fの位置に、表示層7が配されている。この表示層7の一部には、複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱構造8が形成されている。そして、表示層7には、光反射層9が配されている。
【0031】
ここで、各層について詳しく説明する。
【0032】
前記レンズ形成層5としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂及びアクリル系/スチレン系共重合樹脂等の熱可塑性樹脂材料又は紫外線硬化樹脂を使用することができる。レンズ形成層5の材料として、樹脂を使用する代わりに、珪酸塩を含んだ無機系材料を使用してもよい。
【0033】
前記複数のレンズ6は、前記レンズ形成層5の一方の主面上で規則的に配列している。複数レンズ6は、例えば、正方格子、矩形格子及び三角格子などの格子状に配列させることができる。ここでは、一例として、複数のレンズ6は略正方格子状に配列していることとする。
【0034】
前記複数のレンズ6は、例えば球面レンズである。また、複数のレンズ6は、非球面レンズ又は矩形状レンズであってもよい。なお、球面レンズは、球面の一部分からなる面を持つレンズ6である。非球面レンズは、形状を若干ずらした球面の一部分からなる面を持つレンズ6である。
【0035】
また、矩形状レンズは、Z方向に平行な断面が矩形状又は正方形状のレンズであって、Z方向に平行な方向から観察した場合に、例えば格子状又は縞状のレンズアレイを構成する。
【0036】
前記複数のレンズ6が球面レンズ及び比球面レンズなどの凸レンズである場合、レンズ6の焦点から表示層7までの距離Fは、レンズ6の曲率半径Rと、屈折率n’から求めることができる。図3は、凸レンズ(屈折球面)での近軸結像を表した模式図である。
【0037】
観察者側の屈折率をn、凸レンズの屈折率をn’、凸レンズの頂点をA、頂点Aからレンズの曲率中心までの距離(曲率半径)をRとした時の、凸レンズの頂点Aから表示層7までの距離Fは、
【数1】
【0038】
の式により求めることができる。
【0039】
通常、観察者は、n=1.0の空気層に居るから、凸レンズの屈折率n’と曲率半径Rが決まれば、おのずと凸レンズの頂点Aから表示層7までの距離Fが決定されることとなる。
【0040】
前記複数のレンズ6は、例えば、複数の凹部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、複数のレンズ6は、レンズ形成層5の上にレンズ6に対応した形状の凹部が設けられた金型を、熱を印加しながら押し当てる方法、即ち、熱エンボス加工法により得られる。
【0041】
また、レンズ形成層5は、透明基材上に配されていても良く、透明基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。
【0042】
レンズ形成層5を前記透明基材の上に配した場合には、レンズ形成層5として、紫外線硬化樹脂などを塗布し、これに金型を押し当てながら紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、金型を取り除く方法により形成することも可能である。
【0043】
前記表示層7の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの可視光透過性を有する樹脂を使用することができる。その中でも、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、指向性散乱構造8が形成された原版を用いた転写により、一方の面上に指向性散乱構造8を備える表示層7を容易に作製することができる。
【0044】
表示層7は、可視光の少なくとも一部の波長について十分な透過率を有していればよく、特定の波長帯域を吸収する色素などを添加してもよい。その場合、表示層7を通して見える部分が着色して見える。
【0045】
また、表示層7は、何らかの基材の上に配されていてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。基材の材料としては、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。
【0046】
さらに、基材は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。さらには、反射防止処理、低反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理などの処理を施してもよい。
【0047】
次に、前記表示層7に形成される指向性散乱構造8に関して説明する。
【0048】
図4は、指向性散乱領域10の一例を概略的に示す平面図で、この指向性散乱領域10は、複数の指向性散乱構造8を含んでいる。これら複数の指向性散乱構造8は、各々が直線状であり、指向性散乱領域10内で方向が揃った複数の凸部および/または凹部である。すなわち、指向性散乱領域10において、指向性散乱構造8は、ほぼ平行に配列している。
【0049】
なお、指向性散乱領域10において、指向性散乱構造8は、完全に平行に配列していなくてもよい。指向性散乱領域10が十分な光散乱能異方性を有している限り、その指向性散乱領域10において、例えば、一部の指向性散乱構造8の長手方向と他の一部の指向性散乱構造8の長手方向とが交差していてもよい。以下、指向性散乱領域10の主面に平行な方向のうち、指向性散乱領域10が最小の光散乱能を示す方向を「配向方向」と呼び、指向性散乱領域10が最大の光散乱能を示す方向を「光散乱軸」と呼ぶ。
【0050】
図4に示す指向性散乱領域10では、矢印12bで示す方向は配向方向であり、矢印12aで示す方向が光散乱軸である。例えば、配向方向12bに垂直な斜め方向から指向性散乱領域10を照明光源14により照明して、指向性散乱領域10を正面から観察すると、指向性散乱領域10は、その高い光散乱能に起因して、比較的明るく見える。一方、光散乱軸12aに垂直な斜め方向から指向性散乱領域10を照明して、指向性散乱領域10を正面から観察すると、指向性散乱領域10は、その低い光散乱能に起因して、比較的暗く見える。
【0051】
これから明らかなように、例えば、指向性散乱領域10を斜め方向から照明して、これを正面から観察した場合、指向性散乱領域10をその法線方向の周りで回転させると、その明るさが変化する。
【0052】
ここで1例として、図5に示したような位置関係で、観察者3が指向性散乱領域10を観察した場合を説明する。指向性散乱領域10の光散乱軸12a、配向方向12bが図5のようになっている場合、観察者3は、光散乱軸12aの方向に最大の光散乱能を示す指向性散乱光13を観察することができる。
【0053】
ここで、指向性散乱領域10が文字や記号、マークなどのパターンで配置されているとした場合、観察者3は、指向性散乱領域10で形成された、文字や記号、マークなどを観察することができる。
【0054】
図5の位置関係のまま、観察者3が指向性散乱領域10の方向を90°回転させた場合、自ずと光散乱軸12aも90°回転するため、観察者3は指向性散乱光13を観察することができず、観察者3は、指向性散乱領域10で形成された、文字や記号、マークなどを観察することができない。
【0055】
すなわち、光散乱軸12aを異ならしめた複数の指向性散乱領域10を設けることで、それらの間に明るさの差を生じさせることができる。したがって、これにより像を表示することができる。特に、光散乱軸12aの角度差を十分(例えば直交するように)にとることにより、それぞれの領域で表示された像をそれぞれ別の観察条件で観察できる。
【0056】
指向性散乱領域10の明るさは、他の方法で制御することもできる。例えば、指向性散乱構造8の幅が大きいほど、光散乱軸12aの方向についての光散乱能が小さくなる。一方、指向性散乱構造8を長くすると、配向方向12bについての光散乱能が小さくなる。
【0057】
指向性散乱構造8の形状は、1つの指向性散乱領域10おいて全て同じであってもよい。或いは、1つの指向性散乱領域10は、形状の異なる複数の凸部および/または凹部を含んでいてもよい。
【0058】
同一形状の指向性散乱構造8のみを含んだ指向性散乱領域10は、光散乱能の設計が容易である。また、そのような指向性散乱領域10は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いることで、高精度にかつ容易に形成することができる。一方、形状の異なる指向性散乱構造11を含んだ指向性散乱領域10によると、広い角度範囲に亘ってなだらかな光強度分布をもった散乱光が得られる。それゆえ、観察位置による明暗の変化が小さく、安定した白色を表示させることが可能となる。
【0059】
本発明における指向性散乱構造は、直線状の方向が揃った複数の凸部および/または凹部からなり、凸部と凸部または凹部と凹部の間隔は1μm以下であって、その間隔はランダムな値をとるようになっている。
【0060】
また、凸部の頂点から凹部の底までの距離を、指向性散乱構造の深さをHとした時、深さHは1μm以下でランダムな値を取る。
【0061】
ランダムなピッチと深さHを持つ指向性散乱構造は、乱数を用いて作成したパターンとすることにより、コンピュータを用いて簡便に光を散乱するパターンを作成することが可能となる。
【0062】
作成したパターンを元に、電子ビーム露光装置やイオンビーム露光装置等の微細加工能力のある装置を用いて、直接描画することによって指向性散乱構造を作成することが可能となる。電子ビーム露光装置などを用いた場合、電子ビームのエネルギー量を変えることで、深さHをコントロールすることも容易となる。
【0063】
本発明においては、複数の直線状の凸部および/または凹部は異なる複数の空間周波数成分を持っており、入射してきた白色光を複数の可視波長が同時に観察されるよう、白色光を回析させる機能により、指向性を持った散乱光を実現している。
【0064】
表示体を観察する場合、照明光源の角度や観察位置などの観察条件が異なっても、広い視域で安定した白色の表現が可能であることが必要である。
【0065】
しかし、実際には照明光源付近に射出される光は、極端に傾いた観察条件においてしか観察されることが無く、正反射光付近に射出される光の成分は、正反射光の強い光がまぶしいため、観察には適していない。
【0066】
本発明の指向性散乱構造では、複数の直線状の凸部および/または凹部の持つ、空間周波数成分を最適化することで、上記で述べたような観察に適さない光を制御し、通常の観察に適した範囲に、観察光を集中的に射出させることが可能となる。
【0067】
主に、入射光の強さが一定であれば、観察に適した角度範囲において、選択的に射出光を出すことにより、観察者はより明るい像を観察することが可能となる。
【0068】
本発明の指向性散乱構造においては、入射角度0度(表示体の法線方向)で白色光を入射させた際に、法線から±10度以内の範囲に光を射出させる空間周波数成分と、法線から±80度以上の範囲に光を射出させる空間周波数成分を制限しており、通常の観察に適した範囲にのみ射出光が射出するようにしている。空間周波数を制限することで、指向性散乱光の強度を強くすることができ、より効果的な画像表現が可能となる。
【0069】
また、指向性散乱構造8の配向秩序度が高いほど、指向性散乱領域10の光散乱能異方性は大きくなる。
【0070】
指向性散乱領域10において、指向性散乱構造8は、ある程度規則的に配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。例えば、指向性散乱構造8の光散乱軸12aに平行な方向の間隔をランダムにすると、配向方向12bに垂直な方向に関する散乱光の光強度分布がなだらかになる。したがって、観察角度に応じた白さや明るさの変化が抑制される。
【0071】
また、光散乱軸12aに平行な方向について、指向性散乱構造8の間隔を小さくすると、入射光のより多くを散乱させることができるため、光散乱能異方性を劣化させることなしに、散乱光の強度を強くすることができる。例えば、光散乱軸12aに平行な方向についての指向性散乱構造8の平均間隔が10μm以下であれば、視認性の良い表示を実現するのに十分な光散乱強度を得ることができる。
【0072】
なお、この平均間隔を十分に小さくすると、指向性散乱領域10が複数のセルで構成されている場合、セルの大きさを145μm程度とすることは十分に可能である。この場合、通常の観察条件における人間の目の分解能以下の細かさで像を表示することができる。すなわち、十分に高精細な像を表示できる。
【0073】
指向性散乱領域10が微細な複数のセルで構成されていることで、文字や記号、マークなどを微細なセルの集まりとして構成することも可能である。
【0074】
本発明における指向性散乱領域10は、方向が揃った複数の凸部および/または凹部からなる光散乱構造からなるため、通常の照明条件下において、白色光を散乱する機能を有するため、白色もしくは薄灰色の明度及び彩度の高い色として観察される。
【0075】
次に、表示層7の上に配される、光反射層9に関して説明する。
【0076】
光反射層9は、指向性散乱構造8が設けられた表示層7の界面の反射率を高める役割を果たす。光反射層9の材料としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金など反射率の高い金属材料を使用することができる。本発明の表示体は光反射層9を指向性散乱構造8の少なくとも一部を被覆するように設けているが、光反射層9に被覆されていない指向性散乱構造8は、屈折率の近い樹脂などで被覆されてしまうことで、凹凸構造がないものとして、光学的な作用を及ぼさなくなる。
【0077】
本発明の表示体が物品などに貼付されるものとして用いる場合、接着層などで指向性散乱構造8は被覆される。従って、光反射層9によって被覆された部分のみが光学的な作用を及ぼし、光反射層9によって被覆されていない部分は、表示層7の高い光透過性により透明な領域となるため、光反射層9の被覆領域の外形によって絵柄が表現でき、また光反射層9の被覆領域内にある、指向性散乱領域10や非指向性散乱領域の配置によって更に多彩な表示が可能となる。
【0078】
金属材料を用いて光反射層9を作製する方法としては、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。表示層7を部分的に被覆した光反射層9は、例えば、気相堆積法により薄膜を形成し、その一部を薬品などに溶解させること、又は、この薄膜と表示層7との密着力よりも強い接着力を先の薄膜に対して示す接着材料によって、上記薄膜の一部を剥離することによって得られる。表示層7の一方の主面を部分的に被覆した光反射層9は、マスクを用いた気相堆積法によって形成することも可能である。
【0079】
ここで、本発明における表示体20の見え方に関して詳しく説明する。
【0080】
図6は、本発明による表示体20を観察する際の、イメージを示した図であり、簡略化した図である為、本来密着している、レンズ形成層5と表示層7の隙間を空けている。
【0081】
ここで、観察者3は、照明光源14によって照明された、表示体20を観察する際、表示層7に配列された表示要素2から射出され、レンズ6を介した光が中空に形成する実像を観察することができる。
【0082】
これは、光の性質から、レンズ6の焦点面(点光源)の1点から出る光は、点光源の位置とレンズ6の中心を直線で結ぶ方向にレンズ6の大きさで平行光として進むことによる。この原理で、3次元空間の1点に何本かの平行光線で光を集め、その光線群が1点に集まった後に進む方向から光を観察すれば、観察者3にとっては光線群が集まった1点から光が発しているように見える。
【0083】
上記の原理を用いて、点を面上に繋げれば3次元空間に立体像を投影できることになる。その際の解像度(画素)は、レンズ6の直径の大きさとなる。
【0084】
通常、表示層7の表示要素2としては、印刷によってインキなどで形成された絵や文字などのパターンが用いられることが多い。
【0085】
本発明においては、表示要素2に指向性散乱構造11からなる指向性散乱領域10を配することによって、観察できる立体再生像4に指向性を持たせている。
【0086】
図7(a)には、指向性散乱構造8の一部分に着目した図を示す。図7(a)において、指向性散乱構造8から射出された光は、レンズ6を通過した後も、その指向性を維持したまま観察者の目に届く。ここで、先に述べたように、表示要素2から射出された光が、レンズ6を介して中空に実像を形成するよう、指向性散乱構造8を配置しておけば、観察者3は、立体再生像4を観察することが可能となる。
【0087】
次に、図7(b)に示すように、図7(a)とは90°異なる光散乱軸を持つ、指向性散乱構造8によって表示要素2が形成されているとする。
【0088】
図7(b)においては、指向性散乱構造8は図7(a)の場合と比較して、散乱方向が90°異なる光を射出し、図7(a)の場合と同様にレンズ6を通過した後も、その指向性を維持したままである。
【0089】
ここで、観察者3が図7(a)と同じ位置に居る場合、観察者3は指向性散乱構造3から射出された光は目に届かない。つまり、指向性散乱光14によって形成される立体再生像を観察することができない。
【0090】
以上のように、異なる光散乱軸12aを持つ、指向性散乱構造によって各々異なる立体再生像4を結像するように、表示要素2を配置しておけば、観察者3は観察する方向によって異なる立体再生像4を観察することが可能となる。
【0091】
このとき、光散乱軸12aが2つ以上あっても良く、複数の光散乱軸12a方向でそれぞれ異なる立体再生像4を観察することも可能となる。
【0092】
表示層7に形成される、指向性散乱構造11からなる指向性散乱領域10は、観察者3が自然な立体感を認識できる、立体再生像4を投影するよう配置されていればよい。所謂、視差画像の役割を果たすように、配置されている。
【0093】
若しくは、表示要素2が指向性散乱領域10によって文字や記号、絵柄などを表現されていてもよい。その際、複数のレンズ6の配列ピッチと、表示要素2の配列ピッチの差によって、立体再生像4の結像位置が決まる。
【0094】
図6に示したように、レンズ6の配列ピッチをΔX,表示要素2の配列ピッチをΔP,レンズ6の頂点Aから表示要素2までの距離、すなわち焦点距離をF,表示要素2から立体再生像4までの距離をSとした時、
【数2】
【0095】
に示す関係を有する。この関係は、例えば吉田達哉、苗村健、原島博:『インテグラルフォトグラフィを用いた3次元C G の合成』映像情報メディア学会誌VoL.55,NO.3 ,P.474〜478,2011に開示されている。
【0096】
この数2の式を用いれば、像が飛び出す距離、すなわち結像距離Sを決めてやり、レンズ6の配列ピッチΔXと焦点距離Fを設定すれば、おのずと表示要素の配列ピッチΔPが求まる。
【0097】
この数2の式を実際に計算してみると、結像距離Sが長いほど、ΔPとΔXの差を小さくする必要があることが分かる。
【0098】
先にも述べたように、本発明の表示体は、レンズ6の直径がひとつの画素の大きさになるので、レンズ6の配列ピッチΔXが小さい方がより細かい立体再生像4を得ることが可能となる。
【0099】
表示層7とレンズ形成層5の配置は、図2に示したように、表示層7の表示要素2形成面と、レンズ形成層5の非レンズ形成面が向き合って配置されても、図8に示したように、表示層7の非パターン形成面と、レンズ形成層5の非レンズ形成面が向き合って配置されてもよい。
【0100】
前述したように、レンズ6の曲率半径Rを変えることで、焦点距離Fを調節することができる。図2のような構成では、焦点距離Fを短くすることができるため、表示体としての薄さを確保することができ、表示体を具備した表示体付き物品を提供する際にも、取り扱いが用意で都合が良いことが多い。
【0101】
また、本発明の表示体は、粘着層などを介して転写箔やステッカーなどの形態にして、物品に貼り付け圧着させて使用に供される。
【0102】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、これらは、例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0103】
図9は、本発明の実施例1を示す表示体の断面を示した図である。即ち、実施例1においては、レンズ形成層5としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、レンズ6は紫外線硬化型樹脂によって成形した。
【0104】
また、表示層7は、透明基材15の上にコーティングされた紫外線硬化型樹脂からなる。透明基材15には、PETフィルムを用いた。
【0105】
指向性散乱構造8としては、数100nmオーダーのピッチPと深さHを持つ構造を形成している。
【0106】
指向性散乱構造8は、個々のレンズ6に対応して、視差画像をなすように配置されていても、指向性散乱構造8自体で任意の形状をしていても良い。本実施例で示すようにハート型をした構成などにしても良い(図10参照)。その際、レンズ6の配列ピッチΔXと表示要素2の配列ピッチΔPは僅かにずらしている。
【0107】
指向性散乱構造3の形成方法としては、レーザ露光干渉系などを用いてもよいし、電子線描画などによって形成してもよい。
【0108】
また、透明基材15とレンズ形成層5は、粘着層16により貼り合わされている、
光反射層9としては、アルミ蒸着層を真空蒸着法により製膜した。光反射層9の厚みは50nm程度である。
【0109】
レンズ6の曲率半径は、20μm程度の細かさであり、焦点距離Fは、40μm程度の距離である。表示体全体の厚みも50μm程度の厚みである。もちろん、本寸法以外にも、曲率半径などは、変更可能である。
【0110】
ここで、図11は、実施例1の表示体20を観察した際のイメージ図を示しており、表示体に照明光源14を照射すると、表示層7に形成された指向性散乱構造8からなる表示要素2から光が射出される。
【0111】
射出される光は、指向性散乱構造8の光散乱軸方向にのみ光を射出する。本例では、指向性散乱構造8はハート型にパターンニングされて配置されているので、観察者3はハートの形を認識することができる。
【0112】
また、指向性散乱光13が射出されない方向から、観察者3が表示体20を観察しても、指向性散乱光13を見ることができないため、何も認識することはできない。
【符号の説明】
【0113】
1 … レンズアレイ
2 … 表示要素
3 … 観察者
4 … 立体再生像
5 … レンズ形成層
6 … レンズ
7 … 表示層
8 … 指向性散乱構造
9 … 光反射層
10 … 指向性散乱領域
12a … 光散乱軸
12b … 配向方向
13 … 指向性散乱光
14 … 照明光源
15 … 透明基材
16 … 粘着層
20 … 表示体
F … 焦点距離
R … 曲率半径
n … 観察者側の屈折率
n’ … レンズの屈折率
A … レンズの頂点
ΔX … レンズのピッチ
ΔP … 表示要素のピッチ
S … 結像距離
H … 深さ、高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的に配列した複数のレンズを一方の面に配したレンズ形成層と、前記レンズの焦点位置に前記レンズ毎に対応して設けられた、複数の表示要素を配列した表示層から成り、
前記複数の表示要素から射出された光線が、対応する前記複数のレンズを介してなす光線群により立体的な像を表示する、インテグラルフォトグラフィ法に基づく表示体であって、
前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、光反射層を配した複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱構造からなることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、文字や記号、絵柄などを表現し、且つ、前記複数のレンズの配列ピッチと、前記複数の表示要素の配列ピッチが異なっていることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記指向性散乱構造が複数の光散乱軸方向を持ち、前記光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造によって、各々異なる複数の像をなすように前記表示要素が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造を用いて、文字や記号、絵柄などを複数の異なる表示像をなすよう、前記表示要素が配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載の表示体。
【請求項5】
前記複数の直線状の凸部および/または凹部が、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載の表示体。
【請求項6】
前記複数の表示要素は複数のセルで構成されていて、セルの一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか記載の表示体。
【請求項7】
前記表示層の表示要素形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする請求項1から6何れか1項記載の表示体。
【請求項8】
前記表示層の非パターン形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか記載の表示体。
【請求項9】
前記表示層と前記レンズ形成層の間に粘着層を設けることを特徴とする請求項1乃至8の何れか記載の表示体。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載の表示体を具備することを特徴とする表示体付き物品。
【請求項1】
規則的に配列した複数のレンズを一方の面に配したレンズ形成層と、前記レンズの焦点位置に前記レンズ毎に対応して設けられた、複数の表示要素を配列した表示層から成り、
前記複数の表示要素から射出された光線が、対応する前記複数のレンズを介してなす光線群により立体的な像を表示する、インテグラルフォトグラフィ法に基づく表示体であって、
前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、光反射層を配した複数の直線状の凸部および/または凹部からなる指向性散乱構造からなることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記表示要素の少なくとも一部、または全ては、文字や記号、絵柄などを表現し、且つ、前記複数のレンズの配列ピッチと、前記複数の表示要素の配列ピッチが異なっていることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記指向性散乱構造が複数の光散乱軸方向を持ち、前記光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造によって、各々異なる複数の像をなすように前記表示要素が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
光散乱軸方向が同一の前記指向性散乱構造を用いて、文字や記号、絵柄などを複数の異なる表示像をなすよう、前記表示要素が配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載の表示体。
【請求項5】
前記複数の直線状の凸部および/または凹部が、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載の表示体。
【請求項6】
前記複数の表示要素は複数のセルで構成されていて、セルの一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか記載の表示体。
【請求項7】
前記表示層の表示要素形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする請求項1から6何れか1項記載の表示体。
【請求項8】
前記表示層の非パターン形成面と、前記レンズ形成層の非レンズ形成面が向き合って配置されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか記載の表示体。
【請求項9】
前記表示層と前記レンズ形成層の間に粘着層を設けることを特徴とする請求項1乃至8の何れか記載の表示体。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載の表示体を具備することを特徴とする表示体付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−44771(P2013−44771A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180268(P2011−180268)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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