説明

表示体

【課題】 媒体表面に形成した微細な凹凸構造が表面の反射特性を変化させることにより、濃淡を持つ画像を表示可能とするとともに、凹凸構造の配列が隠蔽情報を形成するような表示体の提供を目的とする。
【解決手段】 光散乱要素13が配列された画素16により表示画像を形成する。各画素の光散乱要素13には粗密があり、これが濃淡として知覚されるため、表示画像15は階調画像とすることができる。また、光散乱要素13のうち、隠蔽情報を持つ光散乱要素X13xの配列を全ての画素に保持させることにより、何れの画素16からも隠蔽情報を取り出すことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑な基材の表面に形成した微小凹凸による光散乱要素を用い、同光散乱要素により階調画像を視認可能とする表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
精密加工により基材の平滑な表面に微細な凹凸構造を形成し、表面反射の特性を変化させることにより形状やパターンを表現する手法が知られている。
例えば特許文献1は、基材表面に形成した微細条溝パターンにより異方性反射現象と呼ぶ反射光の偏り生じさせ、これを利用して平面上の画像に立体感や動感を表現する技術を開示している。
また、特許文献2は、基材表面に微細な凹凸により形成した光散乱パターンと回折格子パターンとの組み合わせにより、観察条件に応じて情報を隠蔽あるいは表示するディスプレイに関する技術を開示している。この例では、光散乱パターンで形成した画像が白色を呈する視覚効果を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−248552号公報
【特許文献2】特開2007−219551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、基材表面の微細加工により様々な視覚効果を得ることができ、したがってその用途も、意匠性を目指すものから、情報の隠蔽などセキュリティ分野までと広範である。
そこで本発明は、上記微細加工のセキュリティ分野への適用のうち、さらに情報隠蔽効果を高めるべく、微細な凹凸により形成した光散乱要素からなる画素の集合により視認可能な画像情報を表示可能とするとともに、各画素の光散乱要素の配列が隠蔽情報を形成するような表示体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は、微小凹凸による光散乱要素が成す光の散乱により濃淡を表わす画素の集合により、所定の画像情報を視認可能な画像として形成する表示体において、前記各々の画素中に、視認可能な画像情報に対応する第1の光散乱要素の配列と、隠蔽情報に対応する第2の光散乱要素の配列を設けたことを特徴とする。
【0006】
また、前記第2の光散乱要素は、通常の状態では視認困難な密度で画素中に配列されていることを特徴とする。
さらに、前記画像情報を形成する前記第1の光散乱要素が設けられた画素に、前記第2の光散乱要素が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表示体によれば、表示される画像の画素中に通常の観察条件では視認不可能な隠蔽情報が含まれているため、同隠蔽情報を読取装置で読み取り隠蔽情報を解読することにより真偽判定が可能となる。また、表示体に表示される画像は、同画像を形成する画素が光散乱要素の粗密により濃淡を表現するため、階調を持つ画像とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の表示体の光散乱要素の構造を示す図
【図2】本発明の表示体の模式図
【図3】本発明の表示体の隠蔽情報の態様を示す図
【図4】本発明の表示体の隠蔽情報の解読の様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1〜3を用いて、本発明の表示体の詳細を説明する。
図1は、本発明の表示体を構成する光散乱要素の構造を示す図である。
光散乱要素とは、基材の平滑な表面に施す微小な凹状または凸状の立体構造であり、これを複数配列することにより様々な視覚効果を得ることができる。基材21の表面に凹状の光散乱要素25を形成した例を図1(A)に、また、凸状の光散乱要素26を形成した例を図1(B)に示す。
このような基材21に光が照射されると、光散乱要素25または26により光の乱反射が生じるため、目視した際には光沢や光量などが様々に変化して知覚される。
なお、図1では、各光散乱要素がランダムに配列されているが、これに限らず格子状に規則正しく配列されてもよい。
【0010】
図2は、本発明の表示体の模式図である。
表示体1には表示画像15が表示されており、11a〜11cに示す同画像の部分拡大像は、表示画像15が複数の画素の集合であることを表わす。表示画像15を構成する画素16には光散乱要素13が配列されており、その分布の様子を画素拡大像12a〜12cに示す。なお、図2の光散乱要素13は、図1の光散乱要素25(凹状)または26(凸状)の何れであってもよい。
【0011】
また、光散乱要素13は表示画像15の階調に応じた配列としており、図1の例では、12a→12b→12cの順に光散乱要素13の密度が高くなるよう構成されている。例えば、基材表面が金属光沢の鏡面であると、光散乱要素13が配列された部分は白濁(白色)として知覚され、光散乱要素13の密度が高くなるにつれ光の散乱度が増大し、より白く知覚される。すなわち、拡大図12a〜12cに示すように光散乱要素13の密度を変化させると画素16は階調を表現することが可能となる。
【0012】
光散乱要素13は、上記のように視認可能な表示画像15を形成するとともに、隠蔽画像も形成する。すなわち、画素拡大像12に示すように、各画素の光散乱要素13は、隠蔽情報を構成する光散乱要素X13xと、隠蔽情報にかかわらない光散乱要素Y13yとで構成され、画素拡大像12a〜12cのように光散乱要素13の密度が変化しても光散乱要素X13xの配列は保持される。
【0013】
そこで、専用読み取り装置で画素16を読み取り、光散乱要素X13xを抽出すれば、隠蔽情報が解析できる。表示画像15の何れの画素にも光散乱要素X13xが含まれているため、何れの画素を読み取っても隠蔽情報が取得できる。これを真偽判定に用いれば、表示体1の真正性の判別が可能となり、表示体1は偽造防止媒体としての利用が可能となる。
【0014】
図3は、本発明の表示体の隠蔽情報の態様を示す図であり、図3(A)は、画素中に光散乱要素がランダムに配列された態様を、また、図3(B)は光散乱要素が格子状に配列された態様を表わす。
画素16に含まれる光散乱要素13は、隠蔽情報を持つ光散乱要素X13xと、隠蔽情報を持たない光散乱要素Y13yとで構成されるため、上記のように専用読み取り装置で画素16を読み取り光散乱要素X13xのみを抽出し、その配列を解析することにより隠蔽情報が解読できる。隠蔽情報は光散乱要素X13xのみに含まれるため、光散乱要素Y13yの数や密度が変化しても隠蔽情報の解読は可能であり、したがって、図2の拡大像11に示すように、表示画像15の階調に応じて画素16中の光散乱要素13の密度を変化させることが可能となる。これにより、表示画像15は階調を持つ画像とすることができ、また、何れの画素を取り出しても、そこに含まれる隠蔽情報を抽出することが可能となる。
なお図2および図3では、光散乱要素X13xと光散乱要素Y13yとの差異を明示するために、それぞれ異なるハッチングを施し区別している。
【0015】
上記のように、光散乱要素X13xに隠蔽情報が含まれるため、光散乱要素13を読み取り、続いて光散乱要素X13xを抽出してその配列から隠蔽情報を解読することになるが、解読にあたっては、解析の手法として、個々の光散乱要素X13xの位置情報(座標)を用いるもの、光散乱要素X13x相互の距離情報を用いるもの、など種々のものがある。ここでは位置情報を用いる例で以下に説明を加える。
【0016】
図4は、隠蔽情報の解読の様子を示す図である。
画素16を読み取る専用読み取り装置は、光散乱要素X13xを抽出するための検出パターン15(検出すべき位置情報の集合)を予め保持しており、読み取った光散乱要素13と検出パターン15とを付き合わせることにより、光散乱要素Y13yを除外した抽出パターン17を得る。抽出パターン17には、光散乱要素X13xと光散乱要素を含まない空要素Z13zが含まれているが、空要素Z13zはパターンとなる実像がないため光散乱要素X13xのみが残る(抽出結果18)。
【0017】
光散乱要素X13xの配列のパターンから隠蔽されている元の情報を復元することができる。すなわち、例えば、抽出結果18に含まれる光散乱要素X13xの配列のパターンを予めID(識別要素)として登録されているパターンと照合することにより、同IDに対応して紐付けされている情報を引き出すことができる。
なお、抽出パターン17と光散乱要素Y13yの配列は、同じ位置で重ならぬよう配列することが好ましい。
また、図4の説明では光散乱要素が格子状に配列された例を用いたが、図3(A)のように、画素中に光散乱要素がランダムに配列された場合も同様である。
【0018】
以上説明したように、本発明の表示体は、階調を持つ画像を表示するとともに、表示する画像の画素中に隠蔽情報を含むため、単なる表示体ではなく秘密情報を併せ持つ表示体とすることができる。
さらに、本発明に表示体は、光散乱要素の加工のみで階調画像と隠蔽情報とを形成するため、単一の工程での製造が可能であり、光散乱要素と回折格子を併用するような表示体に比べ製造コストの低減が可能となる。
【0019】
本発明の光散乱要素をなす微細な凹凸構造は、例えばフォトリソグラフィ技術を利用して形成することができる。すなわち、原画像から光散乱要素の元となるパターンを生成し、これを原版として平滑な金属板上にエッチングにより光散乱要素となる凹凸構造を形成することができる。これを型とし熱プレス等により樹脂シートに転写することにより、図1に示すような光散乱要素25が得られる。さらに、光散乱要素25が形成された表面にアルミ蒸着等により光反射層を設けることで、視覚効果はより向上する。
また、電子線加工やレーザー加工を用いれば、金属や樹脂の表面に光散乱要素の凹凸構造を直接形成することも可能である。
【0020】
発明者の試行によれば、光散乱要素の1辺を0.4〜1.4μmとして表示体を作成したところ良好な表示画像を得た。
また、基材21としては、種々の素材の樹脂シートが利用でき、例えばポリ塩化ビニール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネ−ト樹脂、ポリ乳酸樹脂などがある。
【符号の説明】
【0021】
1 表示体
11 拡大像
12 画素拡大像
13 光散乱要素
15 検出パターン
16 画素
17 抽出パターン
18 抽出結果
21 基材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小凹凸による光散乱要素を階調に応じて配列した画素の集合により所定の画像情報を視認可能な画像として表わす表示体において、
前記各々の画素中に、視認可能な画像情報に対応する第1の光散乱要素の配列と、隠蔽情報に対応する第2の光散乱要素の配列を設けたことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記第2の光散乱要素は、通常の状態では視認困難な密度で画素中に配列されていることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記画像情報を形成する前記第1の光散乱要素が設けられた画素に、前記第2の光散乱要素が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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