表示体
【課題】正面からは白色パターンが認識されるが、傾けると分光を伴った回折光を射出するようになっていている、偽造防止効果に優れる表示体の提供。
【解決手段】光透過層の一方の主面に、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域を備えると共に、その凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆する反射層を具備しており、凹凸構造領域中の複数の凹部及び/又は凸部はそれらの最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、特定の周期性を有し、かつ凹部の深さ及び/又は凸部の高さは不均一であることを特徴とする表示体。
【解決手段】光透過層の一方の主面に、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域を備えると共に、その凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆する反射層を具備しており、凹凸構造領域中の複数の凹部及び/又は凸部はそれらの最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、特定の周期性を有し、かつ凹部の深さ及び/又は凸部の高さは不均一であることを特徴とする表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果に優れる表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子又はホログラムによって構成されるパターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有することから、装飾用途や偽造防止を目的としたセキュリティ商品に広く用いられている。
回折格子技術を用いた偽造防止技術の利点としては、他の偽造防止技術に比べて判別用の機器類を使わずに真偽判定が容易にできる目視判別機能(いわゆるオバート機能)を有すること、また、高価で高度な技術(EB描画装置やナノインプリント技術等)が必要であり他者が容易に製造できないこと、さらには、回折格子を備える媒体の総厚が薄く、回折光による独特の輝きがあり、意匠性に優れていること、などが挙げられる。
【0003】
しかし、最近は、従来の回折格子技術で製造されたものと近いものが複製できるようになり、悪用されることが多くなっている。
これに対して、特許文献1に示すような、回折格子の中でも高精細化したものが最近提案されている。この文献では通常の回折格子の2倍以上の細かさを有する2次元の回折格子を提案している。この高精細な回折格子は通常のホログラム製造工程よりもはるかに難しい工程で作製され、ナノインプリントの技法を取り入れなければ得ることができないものである。そして、この高精細な回折格子は、従来の回折格子とは全く異なり、正面方向(大部分の視域)では黒色を示し、対象物に対して水平方向に近い角度(法線方向に対し深い角度)で回折光が射出するという特徴を有している。
このように新しい光学特性を有するものはセキュリティデバイスとして有効であるが、最近ではよりセキュリティ性に優れるデバイスの提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−107470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような状況の下になされたものであり、その目的とするところは新規でより高い偽造防止効果を有する表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のような課題を達成すべくなされ、請求項1に記載の発明は、光透過層の一方の主面に、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域を備えると共に、その凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆する反射層を具備しており、凹凸構造領域中の複数の凹部及び/又は凸部はそれらの最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、特定の周期性を有し、かつ凹部の深さ及び/又は凸部の高さは不均一であることを特徴とする表示体である。
【0007】
又、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の表示体において、前記複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域には、ほぼ同一の深さ又は高さを有する凹部又は凸部が連続的に隣接して設けられている部分が、長さ10μm以上に渡ってその一部に設けられていることを特徴とする。
【0008】
さらに又、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の表示体において、前記凹凸構造領域の垂線方向に対して−60度を超えて+60度未満までの角度範囲では光を散乱して白色表示がなされ、表示体の垂線方向に対して−90度を超えて−60度以下及び+60度以上+90度未満までの角度範囲において光を入射した時には、前記凹凸構造領域における凹凸構造由来の回折光を射出することを特徴とする。
【0009】
さらに又、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体において、前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さは750nm以下であり、しかも前記凹部の最小深さ及び/又は前記凸部の最小高さは、前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さの半分以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに又、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体において、前記凹凸構造領域に設けられた複数の凹部及び/又は凸部のなす配置パターンは、ベナードセル由来のパターンであることを特徴とする。
【0011】
さらに又、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体において、前記光透過層の一方の主面に、前記凹凸構造領域を複数備えており、その中の少なくとも1つの凹凸構造領域においては、その中心間距離及び配置パターンが他の凹凸構造領域のものとは異なることを特徴とする。
【0012】
さらに又、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体において、前記光透過層の一方の主面に、1次元回折格子パターン領域を有し、その1次元回折格子パターン領域内の凹部及び/又は凸部の中心間距離は、前記凹凸構造領域の凹部及び/又は凸部の中心間距離に比べて大きく、1次元回折格子パターン領域の凹部の深さ及び/又は凸部の高さは、前記凹凸構造領域の凹部の最大深さ及び/又は凸部の最大高さに比べ小さいことを特徴とする。
【0013】
さらに又、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の表示体において、前記光透過層の一方の主面に、凹凸構造領域を複数備えており、少なくとも前記凹凸構造領域以外の凹凸構造領域内の複数の凹部及び/又は凸部の最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、その領域内の複数の凹部及び/又は凸部は特定の周期性を有し、かつそれら複数の凹部の深さ及び/又は凸部の高さはほぼ均一である順テーパ状凹凸構造を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表示体は、正面からは白色パターンが認識されるが、傾けると分光を伴った回折光を射出するようになっていて、優れた偽造防止効果を有し、高セキュリティデバイスの提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す表示体の第凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して 示す斜視図である。
【図4】図1及び図2に示す表示体の第2凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図5】図1及び図2に示す表示体の第3凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図6】図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図7】図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【図8】図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【図9】第1凹凸構造領域に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【図10】第1凹凸構造領域に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【図11】第4凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【図12】第1凹凸構造領域又は第2凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【図13】偽造防止用ストライプ転写箔を物品に支持させてなる商品券の一例を概略的に示す平面図である。
【図14】図15の表示体40のA−A線に沿った断面図である。
【図15】12aの散乱パターン(配置パターン)のイメージ図である。
【図16】実施例1の凹凸構造12aの平面SEM像である。
【図17】実施例1の凹凸構造12aの傾斜SEM像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本発明では「散乱」と「拡散」は同じ意味で使用している。
【0017】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0018】
この表示体10は、少なくとも光透過層11及び反射層13、接着層15を含んでいる。図2に示す例では、光透過層11側を前面側とし且つ接着層15側を背面側としている。光透過層11と反射層13との界面は、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域12a、12b、12c、12dと、平坦領域12eとを備えている。また、接着層15は、反射層13上に形成されている。
【0019】
光透過層11は、例えば、反射層13の下地としての役割を果たす。光透過層11は、表面の汚れや傷などから凹凸構造を保護し、これにより、表示体10の視覚効果を長期に亘って保つ効果を果たす。さらに、光透過層11は、凹凸構造を露出させないことにより、その複製を困難なものにしている。
【0020】
この光透過層11の構成材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。光透過性を有する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂やポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子線硬化性の、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのオリゴマー、アクリル基やメタクリル基などを有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂などの反応性ポリマーが使用可能である。
【0021】
光透過層11には、表面強度や凹凸構造の形成し易さなどを考慮して、2層以上の構成を採用しても良い。また、反射層13の構成材料として金属を使用した場合、それに由来
する金属光沢色を異なる色に変えるために、この光透過層11に染料や顔料などを混ぜ、この染料や顔料に特定の波長の光を吸収させるようにすることも可能である。
【0022】
一方、反射層13は、凹凸構造が設けられた界面の反射率を高める役割を果たす。この反射層13の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、銅、金及びそれらの合金などの金属材料を使用することができる。また、反射層13は、誘電体材料などの、光透過層11の構成材料とは屈折率が異なる材料からなるものであっても良い。反射層13は、単層に限られず、多層であってもよい。そして、この反射層13は金属及び酸化チタンや硫化亜鉛のような酸化物などを用い、真空製膜法を利用して形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが適用でき、厚みは、1〜100nm程度に制御できればよい。
【0023】
他方、接着層15は、表示体10を偽造防止対策を施したい物品に取り付けるために設けられているものである。この接着層15は、表示体10と偽造対策を施したい物品との間の接着強度や物品の接着面の平滑性などを考慮して、2層以上の構成であってもよい。
なお、図2には、光透過層11側から表示体10を観察する構成のものを描いているが、反射層13側から表示体10を観察する構成を採用することもできる。
【0024】
次に、光透過層11と反射層13との界面部に設けられている凹凸構造について説明する。第1界面部における第1凹凸構造領域12aと第2界面部における第2凹凸構造領域12bと第3界面部における第3凹凸構造領域12c、第4界面部における第4凹凸構造領域12dは、前述したように、凹構造及び/又は凸構造を有している。より具体的には、第1凹凸構造領域12aは散乱及び回折構造となっており、第2凹凸構造領域12bは光吸収及び回折構造となっており、第3凹凸構造領域12cは散乱構造となっており、さらに第4凹凸構造領域12dは回折構造となっている。
【0025】
図3は、図1及び図2に示す表示体10の第4凹凸構造領域12dの回折構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。図4は、図1及び図2に示す表示体10の第2凹凸構造領域12bの光吸収及び回折構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。図5は、第3凹凸構造領域12cの散乱構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。そして図6は、第1凹凸構造領域12aの散乱及び回折構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。
【0026】
第4凹凸構造領域12dには、図にも示すように、複数の溝14dを配置してなるレリーフ型回折格子が設けられている。この溝14dの中心間距離は、例えば、0.5μm乃至2μmの範囲内にある。また、溝14dの深さは、例えば0.1μm乃至1μmの範囲内にあり、典型的には0.1μm乃至0.3μmの範囲内にある。
【0027】
なお、用語「回折格子」は、自然光などの照明光を照射することにより回折波を生じる構造を意味し、複数の溝14dを平行且つ等間隔に配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。また、溝14d又は溝14dに挟まれた部分を「格子線」と呼ぶこととする。
【0028】
第2凹凸構造領域12bには、図にも示すように、複数の凹部又は凸部14bが設けられている。これら凹部又凸部14bは、前述した溝14dの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。各凹部又は凸部14bは、順テーパ形状を有している。凹部又は凸部14bの深さ又は高さは、通常は前述した溝14dの深さよりも大きく、典型的には0.3μm乃至0.5μmの範囲内にある。
【0029】
第3凹凸構造領域12cには、図にも示すように、散乱性を有する複数の凹部又は凸部
14cが設けられている。これら凹部又は凸部14cは、ランダムに配置され、大きさもランダムになっている。各凹凸構造の大きさは、例えば1μm乃至100μmの範囲にあり、典型的には1μm乃至10μmの範囲にある。また、単なる等方性散乱でなく、異方性散乱を呈するようにする場合は、平面方向のいずれかの方向(1軸もしくは多軸)において配置もしくは形状を偏るようにしてもよい。
【0030】
第1凹凸構造領域12aには、図にも示すように、複数の凹部又は凸部14aが設けられている。これらの凹部又凸部14aは、前述した溝14dの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。これら複数の凹部及び/又は凸部の最小中心間距離は200nm乃至500nmの範囲内にあり、同一の凹凸構造領域内では前記複数の凹部及び/又は凸部は特定の周期性を有し、かつ複数の凹部の深さ及び/又は凸部の高さが不均一となっている。
【0031】
従来より、種々の凹凸構造を表示体中に配置させ、白色表示と回折光を混在させようとする試みがあったが、回折格子やホログラムなどの回折構造は、点光源では綺麗に分光して輝くが、拡散光源では回折効果が半減し、拡散板越しに観察するとほとんど効果がわからなくなる(存在すらわからないことが多い)。そのため、従来、回折格子パターンと散乱構造パターンは領域分けされ、それぞれ単独で文字、画像の一部として使われることが多い。また、複数色(R、G、B)の光を、同一角度で射出するように複数の異なる空間周波数の回折格子を配置して、ある特定角度で白く見せる技法もあるが光沢ある白であり、いわゆるマット感ある白(いわゆるペーパーホワイト)とは異なる。領域分けをすると散乱構造領域(面積)も限定されるため白くなくなったり、回折構造領域(面積)も限定されるため、回折光の強度が弱くなり、結果として光学効果に乏しい表示体になってしまう。また、多重露光で回折格子やホログラムなどに回折構造を重ねて描いた場合、従来の空間周波数の回折格子では、入射光又は/及び射出光が散乱角度域に入っており、回折による光学効果が乏しくなってしまう。
【0032】
回折による光学効果が乏しくならないようにするには、回折構造も入射光又は/及び射出光がその散乱角度域に入らないようにしなければいけないが、散乱構造に一定の方向性を持たせることで指向性を持たせることが可能となる。つまり、レンチキュラーシートや複数プリズムレンズが並んでいるシートなど、また、1から10μm程度のランダムな大きさによる散乱構造でも、いずれかの方向に構造的方向性(軸)を持たせることで、光学的にも異方性散乱(つまり、何れかの方向で多く散乱し、いずれかの方向では散乱性が少なくなる)を実現でき、回折による光学効果の低減を防ぐことができるようになる。好ましくは、ほぼ同一である深さ又は高さを有する凹部又は凸部が連続的に隣接して設けられている部分を、長さを10μm以上に渡ってその一部に設けるようにすることで異方性を有する散乱とすることができる。特に、正面方向(表示体に対して垂線方向)ではよく散乱し、深い角度方向(表示体の水平に近い方向)では散乱が少ない異方性散乱要素を組み込み、かつ深い角度方向(表示体の水平に近い方向)で再帰方向へ回折光が射出するように設計することが好ましい。ゆえに回折格子の中心間距離を、200nm乃至500nmの範囲とし、従来の回折格子に比べ、超微細な構造とすることが好ましい。また、望ましくは拡散板によるスペックル干渉パターン又は、塗工時の乾燥工程の面不良に起因して発生するベナードセル形状とし、正面方向で散乱性(白さ)が優れるようにする。
【0033】
これらの凹凸構造を光透過層11と反射層13との界面部に設けるに当たっては、ニッケル電鋳法などでニッケル原版を作製し、それを用いて所定フィルム上に微細回折格子を形成した後に散乱パターンをエンボスするか、微細回折格子形成前に散乱パターンをエンボスし、再度、所定の微細回折格子パターンをエンボスするか、もしくは、拡散板によるスペックル干渉パターン又はベナードセル形状の画像と微細回折格子パターンとが合成された画像をEB描画装置で描画し、従来のホログラムエンボス工程における1回のエンボ
スによって施すようにすればよい。ベナードセル形状由来の散乱成分に限り、フィルム上にエンボス層を塗工する際、エンボス層をベナードセル形状の面とすることで複数回のエンボス工程を通さずに可散乱及び回折構造を設けることが可能となる。
【0034】
ここで拡散板によるスペックル干渉パターンについて説明する。
拡散板によるスペックル干渉パターンとはコヒーレント性の良い光が粗面で散乱反射または透過した時に生ずる明暗の斑点模様であり、粗面の微小な凹凸で散乱した光が不規則な位相関係で干渉することによって生じるものである。
このようなパターンを有するフィルムの作製方法としては以下のような方法を挙げることができる。
すなわち、まず、拡散板にコヒーレントな光を当て、その結果出来たスペックルパターンをフォトレジストに記録し、しかる後にその記録面上にニッケルなどの導電膜を蒸着法などで形成し、ニッケル電鋳することにより、ニッケル製原版を作製する。次に、このニッケル製原版に紫外線硬化樹脂を流し込み、紫外線で硬化させた後、剥離して異方性散乱フィルムを作製したり、熱可塑性樹脂に加熱したニッケル製原版を押し当ててパターンを賦型して異方性散乱フィルムを作製すればよい。
【0035】
続いてベナードセルについて説明する。
塗料やインキの塗膜の乾燥が急激である場合や、粒子の分散が不十分な状態である場合、さらには、相溶性が悪い樹脂の混合物の場合に、塗膜内部と表面との間での熱的対流によって、表面状態が亀の甲羅のような紋様や不定形の区画状になる現象である。インキ中の溶媒の沸点の+30度以上の乾燥温度で、乾燥路の風量を大きくし、急激に乾燥させることでベナードセルが形成できる。図15にベナードセル由来の散乱パターンのイメージ図の一例を示す。
【0036】
一方、第5界面部は、平坦領域部12eである。本発明においては、場合によっては、第1凹凸構造領域12a以外の、上述したような第2凹凸構造領域12b及び第3凹凸構造領域12c、第4凹凸構造領域12d、平坦領域12eは、省略することができる。
【0037】
要するに、本発明に係る表示体10は、複数の凹部又は凸部14aが設けられた第1凹凸構造領域12aを少なくとも含んでいる。上記の通り、凹部又は凸部14aは、回折格子を形成している溝14dの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。すなわち、この表示体10は、回折格子を形成している溝14dと比較して、より微細な構造を含んでいる。
【0038】
このような構成になる表示体10からは、上述したような構成の微細構造を正確に解析することは困難である。そして、たとえ、このような表示体10から前述のような微細構造を解析できたとしても、この微細構造を含んだ表示体の偽造又は模造は難しい。回折格子の場合、レーザ光などを利用した光学的複製方法によって干渉縞として構造をコピーされることがあるが、第1凹凸構造領域12aの微細構造は複製不可能である。
【0039】
また、この表示体10は、極めて特殊な視覚効果を有している。すなわち、第4凹凸構造領域12dは、波長分散を伴う回折光を生じ、視点位置により七色にカラーシフトして見え、回折格子が形成された通常の界面として認識される。一方、表示体に対する垂線方向周辺の通常の観察領域では、第1凹凸構造領域12a及び第3凹凸構造領域12cは白色表示され、第2凹凸構造領域12bでは黒色表示される。一見するとそれゆえ、偽造又は模造を試みる者は、第1凹凸構造領域12aに先の微細構造が存在していること自体を認識することが難しい。
【0040】
また、深い角度での回折光の表現は、従来の第2凹凸構造領域12bだけでなく、新規
構造物である第1凹凸構造領域12aでも可能となり、垂線方向からのデザイン表現だけでなく、深い角度からのデザイン表現ができるようになり、さらに構造が複雑となっていて、偽造団にとっても構造を推測することが非常に困難になる。
【0041】
したがって、この表示体10を偽造防止媒体として使用すると、高い偽造防止効果を奏することができる。
【0042】
この表示体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、第4凹凸構造領域12dの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0043】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、すなわち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0044】
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0045】
また、ある観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。
例えば、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとし、このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
【0046】
d=λ/sinαN …(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|αN|と格子定数dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|αN|を45°とし、さらに、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mm乃至1800本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子をその法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0047】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが形成し易い。そのため、通常の表示体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mm乃至1600本/mmの回折格子とする。
【0048】
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(又は空間周波数)で制御することができる。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
【0049】
上記の説明では、光が格子線に垂直な面内で進行することを仮定している。この状態から回折格子をその法線の周りで回転させると、一定の観察方向に対して、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。逆に言えば、格子線の方位のみが異なる複数の回折格子を配置した場合、それらの回折格子に異なる色を表示させることができる。また、回転角度が十分に大きくなると、一定の観察方向からは回折光が認識できなくなり、回折格子が無い場合と同様に認識される。
【0050】
また、回折格子を構成している溝14dの深さを大きくすると、回折効率が変化する(照明光の波長などにも依存)。そして、後で説明する画素に対する回折格子の面積比を大きくすると、回折光の強度はより大きくなる。
【0051】
したがって、第4凹凸構造領域12dにおいて、凹部又は凸部14dが所定の配列パターンで配列されてなる画素の複数個が配置されている場合、それらの画素の一部と他の一部とで、溝14dの空間周波数及び/又は方位を異ならしめると、それらの画素に異なる色を表示させることができ、また、観察可能な条件を設定することができる。そして、第4凹凸構造領域12dを構成している画素の一部と他の一部とで、溝14dの深さ及び/又は画素に対する回折格子の面積比の少なくとも1つを異ならしめると、それらの画素の輝度を異ならしめることができる。それゆえ、これらを利用することにより、第4凹凸構造領域12dに、フルカラー像及び立体像などの像を表示させることができる。
【0052】
なお、ここで言う「像」は、色及び/又は輝度の空間的分布として観察できるものを意味する。「像」は、写真、図形、絵、文字、記号などを包含している。
【0053】
次に、第2凹凸構造領域12bの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
図11は、第4凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図12は、第2凹凸構造領域12bが回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図11及び図12において、31a及び31bは照明光を示し、32a及び32bは正反射光又は0次回折光を示し、33a及び33bは1次回折光を示している。
【0054】
上記の通り、第2凹凸構造領域12bに設けられた複数の凹部又は凸部14bは、第4凹凸構造領域12dに設けられた溝14dの最小中心間距離、すなわち回折格子の格子定数と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。そのため、凹部又は凸部14bが規則的に配列し、第2凹凸構造領域12bが回折光33bを射出したとしても、観察者は、この回折光33bと、これと同じ波長を有する第4凹凸構造領域12dからの回折光33aとを同時に知覚することはない。そして、回折格子の格子定数と凹部又は凸部14bの中心間距離との差が十分に大きければ、波長の如何に拘らず、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aと第2凹凸構造領域12bからの回折光33bとを同時に知覚することはない。すなわち、この場合、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aを視認可能な観察角度範囲で、第2凹凸構造領域12bからの回折光33bを視認することはない。
【0055】
また、各凹部又は凸部14bは、順テーパ形状を有している。そのため、どの角度から観察しても、第2凹凸構造領域12bの正反射光の反射率は小さい。しかし、前記各凹部又は凸部14bの複数の溝の最小中心間距離と高さのアスペクト比(高さ/最少中心間距離)が0.5未満の場合、黒さが不十分で、灰色に近い色になってしまう。一方、アスペクト比が1.5を超えると黒さは十分であるが回折効率が極端に悪くなってしまい、回折光の視認性が落ちるので良くない。
【0056】
したがって、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、第2凹凸構造領域12bは、第4凹凸構造領域12dと比較してより暗く見える。そして、この場合、典型
的には、第2凹凸構造領域12bは黒色に見える。なお、ここで、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。
【0057】
また、第2凹凸構造領域12bからの1次回折光33bの射出角が−90°より大きければ、表示体10の法線方向と観察方向とがなす角度を適宜設定することにより、観察者は、第2凹凸構造領域12bからの1次回折光33bを知覚することができる。それゆえ、この場合、第2凹凸構造領域12bが単なる黒色印刷層とは異なることを、目視により確認することができる。
【0058】
この構成を採用する場合、凹部又は凸部14bの中心間距離は、例えば、200nm乃至500nmの範囲内とするのが最適である。なぜなら、200nm未満では、回折光が射出しないため、単なる黒印刷との差別化が難しく、500nmを超えると黒くすることが難しくなる。そして、回折光が正面方向の範囲にも射出しやすくなる。
また、この構成を採用する場合、凹部又は凸部14bの中心間距離は、例えば、200nm乃至350nmの範囲内としてもよい。こうすると、上記等式(2)から明らかなように、第2凹凸構造領域12bは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出せず、青色に対応した波長を有する回折光を射出する。他方、第4凹凸構造領域12dは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出する。そのため、この場合、第4凹凸構造領域12dが赤色に対応した波長を有する回折光を射出する場合と比較して、表示体10が真正品であることの確認がより容易になる。
【0059】
なお、第2凹凸構造領域12bにおいて、凹部又は凸部14bが所定の配列パターンで配列されてなる画素の複数個が配置されている場合、それら画素の一部と他の一部とで、凹部又は凸部14bの形状、深さ又は高さ、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つを異ならしめると、後で詳述するように、それら画素の反射率などを異ならしめることができる。それゆえ、これを利用することにより、第2凹凸構造領域12bで階調を表現することができる。
【0060】
次に、第3凹凸構造領域12cの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。図5には表示体10の第3凹凸構造領域12cに採用可能な凹凸構造の一例を斜視図にして拡大して示している。凹部又は凸部14cに示すような表面レリーフによる散乱構造にすることで正面方向で散乱し、白色となる。
【0061】
散乱構造の作製方法としては、(1)薬品等によって表面エッチングする方法、(2)粒子をぶつけるサンドブラスト方式 、(3)彫刻や電子ビーム(EB)、レーザなどで作製した金属版を使用し、熱や紫外線などで凹凸を転写する方法などがある。再現性や精度から考慮すると(3)の凹凸転写方式が最も好ましい。中でもEB描画装置を使用した方式では、微小領域に形成する凹部及び/または凸部の密度や形状を任意に制御することができ、異方性散乱などの特殊な散乱性を設計することが可能である。第2凹凸構造領域12bの凹凸構造が黒色を示すので、対比として第3凹凸構造領域12cのような白色表現部が配置されると互いにコントラストが向上し、好ましい。
【0062】
次に、第1凹凸構造領域12aの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
第1凹凸構造領域12aにおける回折光についての効果は、第2凹凸構造領域12bと同じように作用するので、図12を用いて説明する。
【0063】
上記の通り、第1凹凸構造領域12aに設けられた複数の凹部又は凸部14aは、第4凹凸構造領域12dの溝14dの最小中心間距離、すなわち回折格子の格子定数、と比較
してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。そのため、凹部又は凸部14aが規則的に配列され、第1凹凸構造領域12aが回折光33bを射出したとしても、観察者は、この回折光33bと、これと同じ波長を有する第4凹凸構造領域12dからの回折光33aとを同時に知覚することはない。そして、回折格子の格子定数と凹部又は凸部14bの中心間距離との差が十分に大きければ、波長の如何に拘らず、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aと第2凹凸構造領域12bからの回折光33bとを同時に知覚することはない。すなわち、この場合、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aを視認可能な観察角度範囲で、第1凹凸構造領域12aからの回折光33bを視認することはない。
【0064】
また、各凹部又は凸部14aは、散乱構造を有している。そのため、ほとんどの角度から観察しても、第1凹凸構造領域12aは白色表示として認識される。しかし、前記各凹部又は凸部14aの複数の高さの高低差で散乱性がきまるので、最大高さは従来の回折格子に比べ高く設定することが好ましい。一方、凸部の高さが750nmを超えると白ではなく、反射率が低下していき、灰色なってしまい、回折効率が極端に悪くなってしまって回折光の視認性が落ちるので良くない。この例では凸部の高さで説明したが、凹部の深さについても同様のことが言える。
【0065】
したがって、例えば、表示体10にその法線方向から観察した場合、第1凹凸構造領域12aは、第3凹凸構造領域12cと同様に散乱して白色表示として認識される。
【0066】
また、第1界面部12aからの1次回折光33bの射出角が−90°より大きければ、表示体10の法線方向と観察方向とがなす角度を適宜設定することにより、観察者は、第1界面部12aからの1次回折光33bを知覚することができる。それゆえ、この場合、第1界面部12aが単なる散乱構造体とは異なることを、目視により確認することができる。
【0067】
この構成を採用する場合、凹部又は凸部14aの中心間距離は、例えば、200nm乃至500nmの範囲内とする。なぜなら、200nm未満では、回折光が射出しないため、単なる散乱構造との差別化が難しく、500nmを超えると入射光又は射出光は散乱構造による影響で極端に回折光が悪くなってしまうからである。
【0068】
また、この構成を採用する場合、凹部又は凸部14aの中心間距離は、例えば、200nm乃至350nmの範囲内としてもよい。こうすると、上記等式(2)から明らかなように、第1凹凸構造領域12aは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出せず、青色に対応した波長を有する回折光を射出する。他方、第4凹凸構造領域12dは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出する。そのため、この場合、第4凹凸構造領域12dが赤色に対応した波長を有する回折光を射出する場合と比較して、表示体10が真正品であることの確認がより容易になる。
【0069】
なお、第1凹凸構造領域12aにおいて、凹部又は凸部14aが所定の配列パターンで配列されてなる画素の複数個が配置されている場合、それら画素の一部と他の一部とで、凹部又は凸部14aの形状、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つを異ならしめると、後で詳述するように、それら画素の散乱成分(ヘイズ)などを異ならしめることができる。それゆえ、これを利用することにより、第1凹凸構造領域12aで階調を表示することができる。
【0070】
また、この表示体10において、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12b、第3凹凸構造領域12c、第4凹凸構造領域12dは同一面内にある。それゆえ、例えば、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12b、第3凹凸構造領域12c、第4凹
凸構造領域12dとに対応した凸構造及び/又は凹構造を1枚の原版に形成し、この凸構造及び/又は凹構造を光透過層11に転写することにより、夫々の凸構造及び/又は凹構造を同時に形成することができる。したがって、原版に凸構造及び/又は凹構造を高精度に形成しておけば、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12b、第3凹凸構造領域12c、第4凹凸構造領域12dの各々との位置ずれの問題が生じ得ない。また、微細な凹凸構造と高精度の特徴は、高精細な像表示を可能とし、他の方法によって作られたものとの区別が容易となる。真正品が極めて高精度に安定して製造できるという事実は、偽造品や模造品との区別を一層容易にする。
【0071】
反射層を金属材料からなるものとする場合、以下に示すような部分的に金属除去する方法を採用することでさらなる偽造防止効果向上を図ることが可能となる。
次にこの部分金属除去方法について説明する。
【0072】
第1の方法は、水洗インキを基材上にネガパターンで印刷しておき、その上から蒸着やスパッタリングを用いて全面に金属反射層を形成した後、印刷されている部分を水で洗い流すことにより、その上の金属反射層を取り除くことによりパターンを形成する水洗シーライト加工である。
【0073】
第2の方法は、金属反射層上にマスク剤をポジパターンで印刷し、マスク剤で印刷されていない部分を腐食剤で腐食させることによりパターンを形成するエッチング加工である。
【0074】
第3の方法は、金属反射層の内、除去したい部分に強いレーザを当てて金属反射層を選択的に破壊することによりパターンを形成するレーザ加工である。
【0075】
一方、 図9、図10は、第1凹凸構造領域12aに採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【0076】
図9では、凹部又は凸部14aは、正方格子状に配列した例を示している。このような配置は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いた製造によって比較的容易であり、凹部又は凸部14bの中心間距離などの高精度な制御も比較的容易である。
【0077】
図9の凹部又は凸部14aは、規則的に配列している。したがって、凹部又は凸部14bの中心間距離を比較的長く設定した場合には、第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させることができる。この場合、第1凹凸構造領域12aが散乱構造物とは異なることを、目視により確認することができる。また、凹部又は凸部14aの中心間距離を比較的短く設定した場合、例えば200nm以下に設定した場合には、第1凹凸構造領域12aから回折光が射出しなくなる。この場合、観察に際して、第1凹凸構造領域12aが散乱構造物とは異なることが分かり難くなる。
【0078】
図9の例では、凹部又は凸部14aの中心間距離をX方向とY方向とで等しくしているが、凹部又は凸部14aの中心間距離はX方向とY方向とで異ならしめるようにしてもよい。すなわち、凹部又は凸部14aの配列は、矩形格子をなすようにしてもよい。
【0079】
凹部又は凸部14aの中心間距離をX方向及びY方向の双方で比較的長く設定すると、Y方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合とX方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合との双方において第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させることができ、且つ、前者と後者とで回折光の波長を異ならしめることができる。凹部又は凸部14aの中心間距離をX方向及びY方向の双方で比較的短く設定すると、照明方向に拘らず、第1界面部12bからの回折光の射出を防止できる。凹部又は凸部14aの中心間距離
を、X方向及びY方向の一方で比較的長く設定し、他方で比較的短く設定すると、Y方向及びX方向の一方に垂直な方向から表示体10を照明した場合には第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させ、Y方向及びX方向の他方に垂直な方向から表示体10を照明した場合には第1凹凸構造領域12aからの回折光の射出を防止できる。
【0080】
図10の例では、凹部又は凸部14aの配列は、三角格子を形成している。この構造を採用した場合、図9の構造を採用した場合と同様、凹部又は凸部14aの中心間距離を比較的長く設定すれば、第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させることができ、凹部又は凸部14aの中心間距離を比較的短く設定すれば、第1凹凸構造領域12aからの回折光の射出を防止できる。
【0081】
また、図10の構造を採用した場合、凹部又は凸部14aの中心間距離を適宜設定すれば、例えば、A方向から表示体10を照明したときには第1凹凸構造領域12aからの回折光の射出を防止し、B方向及びC方向から表示体10を照明したときには第1界面部12aから回折光を射出させることができる。すなわち、より複雑な視覚効果が得られる。
【0082】
図7又は図8に例示したように、凹部又は凸部14aの配置パターンには、様々な変形が可能である。そして、各配置パターンは、それに固有の視覚効果などを有している。それゆえ、凹部又は凸部14aの配置パターンが異なる複数の画素で第1界面部12aを構成すると、より複雑な視覚効果を得ることができる。
【0083】
図7又は図8は、図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【0084】
図7に示す構造は、図6に示す構造の変形例である。図7又は図8に示す凹部又は凸部14aは何れも、高さが不均一であるが周期性を有している。
図7に示す構造では、凹部又は凸部14aは、四角柱形状を有している。凹部又は凸部14aは、三角柱形状などの四角柱形状以外の角柱形状を有していてもよい。
【0085】
図8に示す構造は、凹部及び凸部を有する構造である。このように凹部と凸部を有する構造とすることで非常に変化に富んだ表示が可能となる。例えば、凸部を第1凹凸構造領域12aの構造とし、凹部を第2凹凸構造領域12bの構造とする。すると、一方の面(表面)の正面(垂直方向)から観察する時には白く見え、表示体を傾けた際に回折光が見える。他方の面(裏面)の正面から観察する時には、白く見えていた場所は黒く表示され、表示体を傾けた際に回折光が見える。
【0086】
上述したような構成に係る表示体10は、例えば、偽造防止効果を有するシールラベル、スレッド、ストライプ転写箔、スポット転写箔などとして使用することができる。この表示体10は偽造又は模造が困難であるため、この表示体10を物品に支持させた場合、偽造又は模造も困難である。また、この表示体10は上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0087】
図13は、偽造防止用ストライプ転写箔を物品に支持させてなる商品券の一例を概略的に示す平面図である。ストライプ転写箔付き物品の一例として、印刷物40を描いている。
【0088】
この印刷物40は、紙基材44を含んでおり、紙基材44上には、印刷層41が形成されている。さらに、印刷物40には、表示体43が偽造防止用ストライプ転写箔として貼りつけられている。なお、この表示体43は、1次元のレリーフ型回折格子が形成されている領域46c、領域46cよりも細かな複数の溝で最小中心間距離は200nm乃至5
00nmで凹凸構造の高さが不均一である2次元レリーフ型回折格子が形成されている領域46a及び領域46b、鏡面である領域46dを含んでいる。領域46aは溝の最小中心間距離は約300nmで形成され、領域46bは溝の最小中心間距離は約400nmで形成されている。
【0089】
図14は、図13に示す表示体のA−A線に沿った断面図である。この表示体43は、表面保護層兼剥離層42及び光透過エンボス層49、アルミニウム反射層48、接着層45、紙基材44が積層されてなる積層体である。図14に示す例では、表面保護層兼剥離層42側を前面側とし且つ紙基材44側を背面側としている。光透過エンボス層49とアルミニウム反射層48との界面は、前記2次元レリーフ型回折格子領域46aと前記2次元レリーフ型回折格子領域46bと鏡面領域46dとを含んでいる。
【0090】
この印刷物40は、表示体43を含んでいる。それゆえ、印刷物40の垂線方向付近で観察した場合、領域46a及び領域46bは散乱して白色に見える。しかし、印刷物40の垂線方向付近で観察した場合では、領域46a及び領域46bからなるデザインは確認できない。これは、印刷物40の垂線方向付近の光に対しては、領域46a及び領域46bの凹凸は光散乱層の役目を果たし、その差がほとんど無いためである。つづいて、印刷物40の垂直方向に対して60〜70度の方向から白色光を入射し、印刷物40の垂直方向に対して60〜70度の方向で観察すると、領域46aでは緑色光が射出し、領域46bでは赤色光が射出する。よって、領域46a及び領域46bからなるデザインは確認できるようになり、真偽判定ができるので、偽造防止効果は非常に高い。
【0091】
上記の通り、この印刷物40の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物40は、表示体43を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物40は、表示体43に加えて、印刷層41をさらに含んでいるため、印刷層41の見え方と表示体の見え方とを対比することが容易である。それゆえ、印刷物40が印刷層41を含んでいない場合と比較して、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することがより容易である。
【実施例】
【0092】
以下本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。
【0093】
まず、厚み12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(PETフィルム)(東洋紡績製
E5100)上に、下記組成の塗液の薄膜をグラビア法により塗布した後、乾燥させ、厚み1μmの剥離層を得た。
【0094】
アクリル樹脂(BR60 三菱レイヨン製) 100重量部
ポリエチレンワックス(添加剤180 東洋インキ製) 5重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 1000重量部
【0095】
続いて、剥離層上に下記組成のインキの薄膜をグラビア法により厚み2μmで塗布した後、乾燥させ、さらに40℃で3日間のエージングを施し、光透過層を有するフィルムを得た。
【0096】
2液硬化性ウレタンインキ(K448 東洋インキ製造製) 100重量部
イソシアネート硬化剤(UR100B 東洋インキ製造製) 10重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 10重量部
【0097】
次にEB描画装置で、図6に示すような凹凸構造に係る凹凸パターンを描画した後、ニッケル電鋳法でニッケル製原版を得た。次に、加熱シリンダーロールにこの原版を貼り付
けたロールにて、前記工程で得られた積層フィルムの光透過層に連続的に熱圧エンボスすることで微細凹凸レリーフフィルムを得た。
ここで使用した凹凸構造領域の凹凸パターンは周期を360nmピッチとし、凸部は円柱状で散乱成分はベナードセルを元にした配置パターンを使用した。
【0098】
次いで、微細凹凸レリーフフィルムのレリーフ面へ真空蒸着法によって光反射層として厚さ500Åのアルミニウム蒸着層を積層した。
このときの電子線顕微鏡による平面写真を図16に、傾斜写真を図17にそれぞれ示した。
【0099】
そして、下記組成の接着剤の薄膜をマイクログラビア印刷により厚みが約10μmとなるように光反射層上に塗工した。
【0100】
ポリエステル樹脂(バイロン200 東洋紡績製) 60重量部
エポキシ樹脂(EP1100L ジャパンエポキシレジン製) 40重量部
粉末シリカ(サイロホービック♯100 富士シリシア製) 10重量部
溶剤(トルエン) 100重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 100重量部
【0101】
このようにして、得られたホログラム転写箔フィルムを商品券用紙に、160℃、10秒で熱圧着した後、基材のPETフィルムを剥離したところ、偽造防止転写箔を有する商品券ができた。
このようにしてできた偽造防止転写箔は、正面からは散乱して白く表示され、傾けると回折光特有の分光を呈する輝く表示体であった。
【符号の説明】
【0102】
10…表示体、11…光透過層、13…反射層、12a…第1凹凸構造領域、12b…第2凹凸構造領域、12c…第3凹凸構造領域、12d…第4凹凸構造領域、12e…平坦領域、14a…凹部又は凸部、14b…凹部又は凸部、14c…凹部又は凸部、14d…凹部又は凸部、15…接着層、16a…凸部配列、16b…凹部配列、31a…照明光、31b…照明光、32a…正反射光又は0次回折光、32b…正反射光又は0次回折光、33a…1次回折光、33b…1次回折光、40…表示体、41…印刷層、42…保護層兼剥離層、43…転写箔、44…紙基材、45…接着層、46a…第1界面部、46b…第1界面部、46c…第4界面部、46d…平坦部、48…反射層、49…光透過層
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果に優れる表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子又はホログラムによって構成されるパターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有することから、装飾用途や偽造防止を目的としたセキュリティ商品に広く用いられている。
回折格子技術を用いた偽造防止技術の利点としては、他の偽造防止技術に比べて判別用の機器類を使わずに真偽判定が容易にできる目視判別機能(いわゆるオバート機能)を有すること、また、高価で高度な技術(EB描画装置やナノインプリント技術等)が必要であり他者が容易に製造できないこと、さらには、回折格子を備える媒体の総厚が薄く、回折光による独特の輝きがあり、意匠性に優れていること、などが挙げられる。
【0003】
しかし、最近は、従来の回折格子技術で製造されたものと近いものが複製できるようになり、悪用されることが多くなっている。
これに対して、特許文献1に示すような、回折格子の中でも高精細化したものが最近提案されている。この文献では通常の回折格子の2倍以上の細かさを有する2次元の回折格子を提案している。この高精細な回折格子は通常のホログラム製造工程よりもはるかに難しい工程で作製され、ナノインプリントの技法を取り入れなければ得ることができないものである。そして、この高精細な回折格子は、従来の回折格子とは全く異なり、正面方向(大部分の視域)では黒色を示し、対象物に対して水平方向に近い角度(法線方向に対し深い角度)で回折光が射出するという特徴を有している。
このように新しい光学特性を有するものはセキュリティデバイスとして有効であるが、最近ではよりセキュリティ性に優れるデバイスの提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−107470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような状況の下になされたものであり、その目的とするところは新規でより高い偽造防止効果を有する表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のような課題を達成すべくなされ、請求項1に記載の発明は、光透過層の一方の主面に、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域を備えると共に、その凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆する反射層を具備しており、凹凸構造領域中の複数の凹部及び/又は凸部はそれらの最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、特定の周期性を有し、かつ凹部の深さ及び/又は凸部の高さは不均一であることを特徴とする表示体である。
【0007】
又、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の表示体において、前記複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域には、ほぼ同一の深さ又は高さを有する凹部又は凸部が連続的に隣接して設けられている部分が、長さ10μm以上に渡ってその一部に設けられていることを特徴とする。
【0008】
さらに又、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の表示体において、前記凹凸構造領域の垂線方向に対して−60度を超えて+60度未満までの角度範囲では光を散乱して白色表示がなされ、表示体の垂線方向に対して−90度を超えて−60度以下及び+60度以上+90度未満までの角度範囲において光を入射した時には、前記凹凸構造領域における凹凸構造由来の回折光を射出することを特徴とする。
【0009】
さらに又、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体において、前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さは750nm以下であり、しかも前記凹部の最小深さ及び/又は前記凸部の最小高さは、前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さの半分以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに又、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体において、前記凹凸構造領域に設けられた複数の凹部及び/又は凸部のなす配置パターンは、ベナードセル由来のパターンであることを特徴とする。
【0011】
さらに又、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体において、前記光透過層の一方の主面に、前記凹凸構造領域を複数備えており、その中の少なくとも1つの凹凸構造領域においては、その中心間距離及び配置パターンが他の凹凸構造領域のものとは異なることを特徴とする。
【0012】
さらに又、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体において、前記光透過層の一方の主面に、1次元回折格子パターン領域を有し、その1次元回折格子パターン領域内の凹部及び/又は凸部の中心間距離は、前記凹凸構造領域の凹部及び/又は凸部の中心間距離に比べて大きく、1次元回折格子パターン領域の凹部の深さ及び/又は凸部の高さは、前記凹凸構造領域の凹部の最大深さ及び/又は凸部の最大高さに比べ小さいことを特徴とする。
【0013】
さらに又、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の表示体において、前記光透過層の一方の主面に、凹凸構造領域を複数備えており、少なくとも前記凹凸構造領域以外の凹凸構造領域内の複数の凹部及び/又は凸部の最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、その領域内の複数の凹部及び/又は凸部は特定の周期性を有し、かつそれら複数の凹部の深さ及び/又は凸部の高さはほぼ均一である順テーパ状凹凸構造を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表示体は、正面からは白色パターンが認識されるが、傾けると分光を伴った回折光を射出するようになっていて、優れた偽造防止効果を有し、高セキュリティデバイスの提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す表示体の第凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して 示す斜視図である。
【図4】図1及び図2に示す表示体の第2凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図5】図1及び図2に示す表示体の第3凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図6】図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【図7】図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【図8】図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【図9】第1凹凸構造領域に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【図10】第1凹凸構造領域に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【図11】第4凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【図12】第1凹凸構造領域又は第2凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【図13】偽造防止用ストライプ転写箔を物品に支持させてなる商品券の一例を概略的に示す平面図である。
【図14】図15の表示体40のA−A線に沿った断面図である。
【図15】12aの散乱パターン(配置パターン)のイメージ図である。
【図16】実施例1の凹凸構造12aの平面SEM像である。
【図17】実施例1の凹凸構造12aの傾斜SEM像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本発明では「散乱」と「拡散」は同じ意味で使用している。
【0017】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0018】
この表示体10は、少なくとも光透過層11及び反射層13、接着層15を含んでいる。図2に示す例では、光透過層11側を前面側とし且つ接着層15側を背面側としている。光透過層11と反射層13との界面は、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域12a、12b、12c、12dと、平坦領域12eとを備えている。また、接着層15は、反射層13上に形成されている。
【0019】
光透過層11は、例えば、反射層13の下地としての役割を果たす。光透過層11は、表面の汚れや傷などから凹凸構造を保護し、これにより、表示体10の視覚効果を長期に亘って保つ効果を果たす。さらに、光透過層11は、凹凸構造を露出させないことにより、その複製を困難なものにしている。
【0020】
この光透過層11の構成材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。光透過性を有する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂やポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子線硬化性の、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのオリゴマー、アクリル基やメタクリル基などを有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂などの反応性ポリマーが使用可能である。
【0021】
光透過層11には、表面強度や凹凸構造の形成し易さなどを考慮して、2層以上の構成を採用しても良い。また、反射層13の構成材料として金属を使用した場合、それに由来
する金属光沢色を異なる色に変えるために、この光透過層11に染料や顔料などを混ぜ、この染料や顔料に特定の波長の光を吸収させるようにすることも可能である。
【0022】
一方、反射層13は、凹凸構造が設けられた界面の反射率を高める役割を果たす。この反射層13の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、銅、金及びそれらの合金などの金属材料を使用することができる。また、反射層13は、誘電体材料などの、光透過層11の構成材料とは屈折率が異なる材料からなるものであっても良い。反射層13は、単層に限られず、多層であってもよい。そして、この反射層13は金属及び酸化チタンや硫化亜鉛のような酸化物などを用い、真空製膜法を利用して形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが適用でき、厚みは、1〜100nm程度に制御できればよい。
【0023】
他方、接着層15は、表示体10を偽造防止対策を施したい物品に取り付けるために設けられているものである。この接着層15は、表示体10と偽造対策を施したい物品との間の接着強度や物品の接着面の平滑性などを考慮して、2層以上の構成であってもよい。
なお、図2には、光透過層11側から表示体10を観察する構成のものを描いているが、反射層13側から表示体10を観察する構成を採用することもできる。
【0024】
次に、光透過層11と反射層13との界面部に設けられている凹凸構造について説明する。第1界面部における第1凹凸構造領域12aと第2界面部における第2凹凸構造領域12bと第3界面部における第3凹凸構造領域12c、第4界面部における第4凹凸構造領域12dは、前述したように、凹構造及び/又は凸構造を有している。より具体的には、第1凹凸構造領域12aは散乱及び回折構造となっており、第2凹凸構造領域12bは光吸収及び回折構造となっており、第3凹凸構造領域12cは散乱構造となっており、さらに第4凹凸構造領域12dは回折構造となっている。
【0025】
図3は、図1及び図2に示す表示体10の第4凹凸構造領域12dの回折構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。図4は、図1及び図2に示す表示体10の第2凹凸構造領域12bの光吸収及び回折構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。図5は、第3凹凸構造領域12cの散乱構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。そして図6は、第1凹凸構造領域12aの散乱及び回折構造として採用可能な構造の一例を拡大して示している。
【0026】
第4凹凸構造領域12dには、図にも示すように、複数の溝14dを配置してなるレリーフ型回折格子が設けられている。この溝14dの中心間距離は、例えば、0.5μm乃至2μmの範囲内にある。また、溝14dの深さは、例えば0.1μm乃至1μmの範囲内にあり、典型的には0.1μm乃至0.3μmの範囲内にある。
【0027】
なお、用語「回折格子」は、自然光などの照明光を照射することにより回折波を生じる構造を意味し、複数の溝14dを平行且つ等間隔に配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。また、溝14d又は溝14dに挟まれた部分を「格子線」と呼ぶこととする。
【0028】
第2凹凸構造領域12bには、図にも示すように、複数の凹部又は凸部14bが設けられている。これら凹部又凸部14bは、前述した溝14dの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。各凹部又は凸部14bは、順テーパ形状を有している。凹部又は凸部14bの深さ又は高さは、通常は前述した溝14dの深さよりも大きく、典型的には0.3μm乃至0.5μmの範囲内にある。
【0029】
第3凹凸構造領域12cには、図にも示すように、散乱性を有する複数の凹部又は凸部
14cが設けられている。これら凹部又は凸部14cは、ランダムに配置され、大きさもランダムになっている。各凹凸構造の大きさは、例えば1μm乃至100μmの範囲にあり、典型的には1μm乃至10μmの範囲にある。また、単なる等方性散乱でなく、異方性散乱を呈するようにする場合は、平面方向のいずれかの方向(1軸もしくは多軸)において配置もしくは形状を偏るようにしてもよい。
【0030】
第1凹凸構造領域12aには、図にも示すように、複数の凹部又は凸部14aが設けられている。これらの凹部又凸部14aは、前述した溝14dの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。これら複数の凹部及び/又は凸部の最小中心間距離は200nm乃至500nmの範囲内にあり、同一の凹凸構造領域内では前記複数の凹部及び/又は凸部は特定の周期性を有し、かつ複数の凹部の深さ及び/又は凸部の高さが不均一となっている。
【0031】
従来より、種々の凹凸構造を表示体中に配置させ、白色表示と回折光を混在させようとする試みがあったが、回折格子やホログラムなどの回折構造は、点光源では綺麗に分光して輝くが、拡散光源では回折効果が半減し、拡散板越しに観察するとほとんど効果がわからなくなる(存在すらわからないことが多い)。そのため、従来、回折格子パターンと散乱構造パターンは領域分けされ、それぞれ単独で文字、画像の一部として使われることが多い。また、複数色(R、G、B)の光を、同一角度で射出するように複数の異なる空間周波数の回折格子を配置して、ある特定角度で白く見せる技法もあるが光沢ある白であり、いわゆるマット感ある白(いわゆるペーパーホワイト)とは異なる。領域分けをすると散乱構造領域(面積)も限定されるため白くなくなったり、回折構造領域(面積)も限定されるため、回折光の強度が弱くなり、結果として光学効果に乏しい表示体になってしまう。また、多重露光で回折格子やホログラムなどに回折構造を重ねて描いた場合、従来の空間周波数の回折格子では、入射光又は/及び射出光が散乱角度域に入っており、回折による光学効果が乏しくなってしまう。
【0032】
回折による光学効果が乏しくならないようにするには、回折構造も入射光又は/及び射出光がその散乱角度域に入らないようにしなければいけないが、散乱構造に一定の方向性を持たせることで指向性を持たせることが可能となる。つまり、レンチキュラーシートや複数プリズムレンズが並んでいるシートなど、また、1から10μm程度のランダムな大きさによる散乱構造でも、いずれかの方向に構造的方向性(軸)を持たせることで、光学的にも異方性散乱(つまり、何れかの方向で多く散乱し、いずれかの方向では散乱性が少なくなる)を実現でき、回折による光学効果の低減を防ぐことができるようになる。好ましくは、ほぼ同一である深さ又は高さを有する凹部又は凸部が連続的に隣接して設けられている部分を、長さを10μm以上に渡ってその一部に設けるようにすることで異方性を有する散乱とすることができる。特に、正面方向(表示体に対して垂線方向)ではよく散乱し、深い角度方向(表示体の水平に近い方向)では散乱が少ない異方性散乱要素を組み込み、かつ深い角度方向(表示体の水平に近い方向)で再帰方向へ回折光が射出するように設計することが好ましい。ゆえに回折格子の中心間距離を、200nm乃至500nmの範囲とし、従来の回折格子に比べ、超微細な構造とすることが好ましい。また、望ましくは拡散板によるスペックル干渉パターン又は、塗工時の乾燥工程の面不良に起因して発生するベナードセル形状とし、正面方向で散乱性(白さ)が優れるようにする。
【0033】
これらの凹凸構造を光透過層11と反射層13との界面部に設けるに当たっては、ニッケル電鋳法などでニッケル原版を作製し、それを用いて所定フィルム上に微細回折格子を形成した後に散乱パターンをエンボスするか、微細回折格子形成前に散乱パターンをエンボスし、再度、所定の微細回折格子パターンをエンボスするか、もしくは、拡散板によるスペックル干渉パターン又はベナードセル形状の画像と微細回折格子パターンとが合成された画像をEB描画装置で描画し、従来のホログラムエンボス工程における1回のエンボ
スによって施すようにすればよい。ベナードセル形状由来の散乱成分に限り、フィルム上にエンボス層を塗工する際、エンボス層をベナードセル形状の面とすることで複数回のエンボス工程を通さずに可散乱及び回折構造を設けることが可能となる。
【0034】
ここで拡散板によるスペックル干渉パターンについて説明する。
拡散板によるスペックル干渉パターンとはコヒーレント性の良い光が粗面で散乱反射または透過した時に生ずる明暗の斑点模様であり、粗面の微小な凹凸で散乱した光が不規則な位相関係で干渉することによって生じるものである。
このようなパターンを有するフィルムの作製方法としては以下のような方法を挙げることができる。
すなわち、まず、拡散板にコヒーレントな光を当て、その結果出来たスペックルパターンをフォトレジストに記録し、しかる後にその記録面上にニッケルなどの導電膜を蒸着法などで形成し、ニッケル電鋳することにより、ニッケル製原版を作製する。次に、このニッケル製原版に紫外線硬化樹脂を流し込み、紫外線で硬化させた後、剥離して異方性散乱フィルムを作製したり、熱可塑性樹脂に加熱したニッケル製原版を押し当ててパターンを賦型して異方性散乱フィルムを作製すればよい。
【0035】
続いてベナードセルについて説明する。
塗料やインキの塗膜の乾燥が急激である場合や、粒子の分散が不十分な状態である場合、さらには、相溶性が悪い樹脂の混合物の場合に、塗膜内部と表面との間での熱的対流によって、表面状態が亀の甲羅のような紋様や不定形の区画状になる現象である。インキ中の溶媒の沸点の+30度以上の乾燥温度で、乾燥路の風量を大きくし、急激に乾燥させることでベナードセルが形成できる。図15にベナードセル由来の散乱パターンのイメージ図の一例を示す。
【0036】
一方、第5界面部は、平坦領域部12eである。本発明においては、場合によっては、第1凹凸構造領域12a以外の、上述したような第2凹凸構造領域12b及び第3凹凸構造領域12c、第4凹凸構造領域12d、平坦領域12eは、省略することができる。
【0037】
要するに、本発明に係る表示体10は、複数の凹部又は凸部14aが設けられた第1凹凸構造領域12aを少なくとも含んでいる。上記の通り、凹部又は凸部14aは、回折格子を形成している溝14dの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。すなわち、この表示体10は、回折格子を形成している溝14dと比較して、より微細な構造を含んでいる。
【0038】
このような構成になる表示体10からは、上述したような構成の微細構造を正確に解析することは困難である。そして、たとえ、このような表示体10から前述のような微細構造を解析できたとしても、この微細構造を含んだ表示体の偽造又は模造は難しい。回折格子の場合、レーザ光などを利用した光学的複製方法によって干渉縞として構造をコピーされることがあるが、第1凹凸構造領域12aの微細構造は複製不可能である。
【0039】
また、この表示体10は、極めて特殊な視覚効果を有している。すなわち、第4凹凸構造領域12dは、波長分散を伴う回折光を生じ、視点位置により七色にカラーシフトして見え、回折格子が形成された通常の界面として認識される。一方、表示体に対する垂線方向周辺の通常の観察領域では、第1凹凸構造領域12a及び第3凹凸構造領域12cは白色表示され、第2凹凸構造領域12bでは黒色表示される。一見するとそれゆえ、偽造又は模造を試みる者は、第1凹凸構造領域12aに先の微細構造が存在していること自体を認識することが難しい。
【0040】
また、深い角度での回折光の表現は、従来の第2凹凸構造領域12bだけでなく、新規
構造物である第1凹凸構造領域12aでも可能となり、垂線方向からのデザイン表現だけでなく、深い角度からのデザイン表現ができるようになり、さらに構造が複雑となっていて、偽造団にとっても構造を推測することが非常に困難になる。
【0041】
したがって、この表示体10を偽造防止媒体として使用すると、高い偽造防止効果を奏することができる。
【0042】
この表示体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、第4凹凸構造領域12dの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0043】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、すなわち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0044】
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0045】
また、ある観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。
例えば、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとし、このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
【0046】
d=λ/sinαN …(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|αN|と格子定数dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|αN|を45°とし、さらに、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mm乃至1800本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子をその法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0047】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが形成し易い。そのため、通常の表示体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mm乃至1600本/mmの回折格子とする。
【0048】
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(又は空間周波数)で制御することができる。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
【0049】
上記の説明では、光が格子線に垂直な面内で進行することを仮定している。この状態から回折格子をその法線の周りで回転させると、一定の観察方向に対して、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。逆に言えば、格子線の方位のみが異なる複数の回折格子を配置した場合、それらの回折格子に異なる色を表示させることができる。また、回転角度が十分に大きくなると、一定の観察方向からは回折光が認識できなくなり、回折格子が無い場合と同様に認識される。
【0050】
また、回折格子を構成している溝14dの深さを大きくすると、回折効率が変化する(照明光の波長などにも依存)。そして、後で説明する画素に対する回折格子の面積比を大きくすると、回折光の強度はより大きくなる。
【0051】
したがって、第4凹凸構造領域12dにおいて、凹部又は凸部14dが所定の配列パターンで配列されてなる画素の複数個が配置されている場合、それらの画素の一部と他の一部とで、溝14dの空間周波数及び/又は方位を異ならしめると、それらの画素に異なる色を表示させることができ、また、観察可能な条件を設定することができる。そして、第4凹凸構造領域12dを構成している画素の一部と他の一部とで、溝14dの深さ及び/又は画素に対する回折格子の面積比の少なくとも1つを異ならしめると、それらの画素の輝度を異ならしめることができる。それゆえ、これらを利用することにより、第4凹凸構造領域12dに、フルカラー像及び立体像などの像を表示させることができる。
【0052】
なお、ここで言う「像」は、色及び/又は輝度の空間的分布として観察できるものを意味する。「像」は、写真、図形、絵、文字、記号などを包含している。
【0053】
次に、第2凹凸構造領域12bの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
図11は、第4凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図12は、第2凹凸構造領域12bが回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図11及び図12において、31a及び31bは照明光を示し、32a及び32bは正反射光又は0次回折光を示し、33a及び33bは1次回折光を示している。
【0054】
上記の通り、第2凹凸構造領域12bに設けられた複数の凹部又は凸部14bは、第4凹凸構造領域12dに設けられた溝14dの最小中心間距離、すなわち回折格子の格子定数と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。そのため、凹部又は凸部14bが規則的に配列し、第2凹凸構造領域12bが回折光33bを射出したとしても、観察者は、この回折光33bと、これと同じ波長を有する第4凹凸構造領域12dからの回折光33aとを同時に知覚することはない。そして、回折格子の格子定数と凹部又は凸部14bの中心間距離との差が十分に大きければ、波長の如何に拘らず、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aと第2凹凸構造領域12bからの回折光33bとを同時に知覚することはない。すなわち、この場合、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aを視認可能な観察角度範囲で、第2凹凸構造領域12bからの回折光33bを視認することはない。
【0055】
また、各凹部又は凸部14bは、順テーパ形状を有している。そのため、どの角度から観察しても、第2凹凸構造領域12bの正反射光の反射率は小さい。しかし、前記各凹部又は凸部14bの複数の溝の最小中心間距離と高さのアスペクト比(高さ/最少中心間距離)が0.5未満の場合、黒さが不十分で、灰色に近い色になってしまう。一方、アスペクト比が1.5を超えると黒さは十分であるが回折効率が極端に悪くなってしまい、回折光の視認性が落ちるので良くない。
【0056】
したがって、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、第2凹凸構造領域12bは、第4凹凸構造領域12dと比較してより暗く見える。そして、この場合、典型
的には、第2凹凸構造領域12bは黒色に見える。なお、ここで、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。
【0057】
また、第2凹凸構造領域12bからの1次回折光33bの射出角が−90°より大きければ、表示体10の法線方向と観察方向とがなす角度を適宜設定することにより、観察者は、第2凹凸構造領域12bからの1次回折光33bを知覚することができる。それゆえ、この場合、第2凹凸構造領域12bが単なる黒色印刷層とは異なることを、目視により確認することができる。
【0058】
この構成を採用する場合、凹部又は凸部14bの中心間距離は、例えば、200nm乃至500nmの範囲内とするのが最適である。なぜなら、200nm未満では、回折光が射出しないため、単なる黒印刷との差別化が難しく、500nmを超えると黒くすることが難しくなる。そして、回折光が正面方向の範囲にも射出しやすくなる。
また、この構成を採用する場合、凹部又は凸部14bの中心間距離は、例えば、200nm乃至350nmの範囲内としてもよい。こうすると、上記等式(2)から明らかなように、第2凹凸構造領域12bは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出せず、青色に対応した波長を有する回折光を射出する。他方、第4凹凸構造領域12dは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出する。そのため、この場合、第4凹凸構造領域12dが赤色に対応した波長を有する回折光を射出する場合と比較して、表示体10が真正品であることの確認がより容易になる。
【0059】
なお、第2凹凸構造領域12bにおいて、凹部又は凸部14bが所定の配列パターンで配列されてなる画素の複数個が配置されている場合、それら画素の一部と他の一部とで、凹部又は凸部14bの形状、深さ又は高さ、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つを異ならしめると、後で詳述するように、それら画素の反射率などを異ならしめることができる。それゆえ、これを利用することにより、第2凹凸構造領域12bで階調を表現することができる。
【0060】
次に、第3凹凸構造領域12cの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。図5には表示体10の第3凹凸構造領域12cに採用可能な凹凸構造の一例を斜視図にして拡大して示している。凹部又は凸部14cに示すような表面レリーフによる散乱構造にすることで正面方向で散乱し、白色となる。
【0061】
散乱構造の作製方法としては、(1)薬品等によって表面エッチングする方法、(2)粒子をぶつけるサンドブラスト方式 、(3)彫刻や電子ビーム(EB)、レーザなどで作製した金属版を使用し、熱や紫外線などで凹凸を転写する方法などがある。再現性や精度から考慮すると(3)の凹凸転写方式が最も好ましい。中でもEB描画装置を使用した方式では、微小領域に形成する凹部及び/または凸部の密度や形状を任意に制御することができ、異方性散乱などの特殊な散乱性を設計することが可能である。第2凹凸構造領域12bの凹凸構造が黒色を示すので、対比として第3凹凸構造領域12cのような白色表現部が配置されると互いにコントラストが向上し、好ましい。
【0062】
次に、第1凹凸構造領域12aの凹凸構造に起因した視覚効果について説明する。
第1凹凸構造領域12aにおける回折光についての効果は、第2凹凸構造領域12bと同じように作用するので、図12を用いて説明する。
【0063】
上記の通り、第1凹凸構造領域12aに設けられた複数の凹部又は凸部14aは、第4凹凸構造領域12dの溝14dの最小中心間距離、すなわち回折格子の格子定数、と比較
してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。そのため、凹部又は凸部14aが規則的に配列され、第1凹凸構造領域12aが回折光33bを射出したとしても、観察者は、この回折光33bと、これと同じ波長を有する第4凹凸構造領域12dからの回折光33aとを同時に知覚することはない。そして、回折格子の格子定数と凹部又は凸部14bの中心間距離との差が十分に大きければ、波長の如何に拘らず、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aと第2凹凸構造領域12bからの回折光33bとを同時に知覚することはない。すなわち、この場合、観察者は、第4凹凸構造領域12dからの回折光33aを視認可能な観察角度範囲で、第1凹凸構造領域12aからの回折光33bを視認することはない。
【0064】
また、各凹部又は凸部14aは、散乱構造を有している。そのため、ほとんどの角度から観察しても、第1凹凸構造領域12aは白色表示として認識される。しかし、前記各凹部又は凸部14aの複数の高さの高低差で散乱性がきまるので、最大高さは従来の回折格子に比べ高く設定することが好ましい。一方、凸部の高さが750nmを超えると白ではなく、反射率が低下していき、灰色なってしまい、回折効率が極端に悪くなってしまって回折光の視認性が落ちるので良くない。この例では凸部の高さで説明したが、凹部の深さについても同様のことが言える。
【0065】
したがって、例えば、表示体10にその法線方向から観察した場合、第1凹凸構造領域12aは、第3凹凸構造領域12cと同様に散乱して白色表示として認識される。
【0066】
また、第1界面部12aからの1次回折光33bの射出角が−90°より大きければ、表示体10の法線方向と観察方向とがなす角度を適宜設定することにより、観察者は、第1界面部12aからの1次回折光33bを知覚することができる。それゆえ、この場合、第1界面部12aが単なる散乱構造体とは異なることを、目視により確認することができる。
【0067】
この構成を採用する場合、凹部又は凸部14aの中心間距離は、例えば、200nm乃至500nmの範囲内とする。なぜなら、200nm未満では、回折光が射出しないため、単なる散乱構造との差別化が難しく、500nmを超えると入射光又は射出光は散乱構造による影響で極端に回折光が悪くなってしまうからである。
【0068】
また、この構成を採用する場合、凹部又は凸部14aの中心間距離は、例えば、200nm乃至350nmの範囲内としてもよい。こうすると、上記等式(2)から明らかなように、第1凹凸構造領域12aは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出せず、青色に対応した波長を有する回折光を射出する。他方、第4凹凸構造領域12dは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出する。そのため、この場合、第4凹凸構造領域12dが赤色に対応した波長を有する回折光を射出する場合と比較して、表示体10が真正品であることの確認がより容易になる。
【0069】
なお、第1凹凸構造領域12aにおいて、凹部又は凸部14aが所定の配列パターンで配列されてなる画素の複数個が配置されている場合、それら画素の一部と他の一部とで、凹部又は凸部14aの形状、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つを異ならしめると、後で詳述するように、それら画素の散乱成分(ヘイズ)などを異ならしめることができる。それゆえ、これを利用することにより、第1凹凸構造領域12aで階調を表示することができる。
【0070】
また、この表示体10において、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12b、第3凹凸構造領域12c、第4凹凸構造領域12dは同一面内にある。それゆえ、例えば、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12b、第3凹凸構造領域12c、第4凹
凸構造領域12dとに対応した凸構造及び/又は凹構造を1枚の原版に形成し、この凸構造及び/又は凹構造を光透過層11に転写することにより、夫々の凸構造及び/又は凹構造を同時に形成することができる。したがって、原版に凸構造及び/又は凹構造を高精度に形成しておけば、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12b、第3凹凸構造領域12c、第4凹凸構造領域12dの各々との位置ずれの問題が生じ得ない。また、微細な凹凸構造と高精度の特徴は、高精細な像表示を可能とし、他の方法によって作られたものとの区別が容易となる。真正品が極めて高精度に安定して製造できるという事実は、偽造品や模造品との区別を一層容易にする。
【0071】
反射層を金属材料からなるものとする場合、以下に示すような部分的に金属除去する方法を採用することでさらなる偽造防止効果向上を図ることが可能となる。
次にこの部分金属除去方法について説明する。
【0072】
第1の方法は、水洗インキを基材上にネガパターンで印刷しておき、その上から蒸着やスパッタリングを用いて全面に金属反射層を形成した後、印刷されている部分を水で洗い流すことにより、その上の金属反射層を取り除くことによりパターンを形成する水洗シーライト加工である。
【0073】
第2の方法は、金属反射層上にマスク剤をポジパターンで印刷し、マスク剤で印刷されていない部分を腐食剤で腐食させることによりパターンを形成するエッチング加工である。
【0074】
第3の方法は、金属反射層の内、除去したい部分に強いレーザを当てて金属反射層を選択的に破壊することによりパターンを形成するレーザ加工である。
【0075】
一方、 図9、図10は、第1凹凸構造領域12aに採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【0076】
図9では、凹部又は凸部14aは、正方格子状に配列した例を示している。このような配置は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いた製造によって比較的容易であり、凹部又は凸部14bの中心間距離などの高精度な制御も比較的容易である。
【0077】
図9の凹部又は凸部14aは、規則的に配列している。したがって、凹部又は凸部14bの中心間距離を比較的長く設定した場合には、第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させることができる。この場合、第1凹凸構造領域12aが散乱構造物とは異なることを、目視により確認することができる。また、凹部又は凸部14aの中心間距離を比較的短く設定した場合、例えば200nm以下に設定した場合には、第1凹凸構造領域12aから回折光が射出しなくなる。この場合、観察に際して、第1凹凸構造領域12aが散乱構造物とは異なることが分かり難くなる。
【0078】
図9の例では、凹部又は凸部14aの中心間距離をX方向とY方向とで等しくしているが、凹部又は凸部14aの中心間距離はX方向とY方向とで異ならしめるようにしてもよい。すなわち、凹部又は凸部14aの配列は、矩形格子をなすようにしてもよい。
【0079】
凹部又は凸部14aの中心間距離をX方向及びY方向の双方で比較的長く設定すると、Y方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合とX方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合との双方において第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させることができ、且つ、前者と後者とで回折光の波長を異ならしめることができる。凹部又は凸部14aの中心間距離をX方向及びY方向の双方で比較的短く設定すると、照明方向に拘らず、第1界面部12bからの回折光の射出を防止できる。凹部又は凸部14aの中心間距離
を、X方向及びY方向の一方で比較的長く設定し、他方で比較的短く設定すると、Y方向及びX方向の一方に垂直な方向から表示体10を照明した場合には第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させ、Y方向及びX方向の他方に垂直な方向から表示体10を照明した場合には第1凹凸構造領域12aからの回折光の射出を防止できる。
【0080】
図10の例では、凹部又は凸部14aの配列は、三角格子を形成している。この構造を採用した場合、図9の構造を採用した場合と同様、凹部又は凸部14aの中心間距離を比較的長く設定すれば、第1凹凸構造領域12aから回折光を射出させることができ、凹部又は凸部14aの中心間距離を比較的短く設定すれば、第1凹凸構造領域12aからの回折光の射出を防止できる。
【0081】
また、図10の構造を採用した場合、凹部又は凸部14aの中心間距離を適宜設定すれば、例えば、A方向から表示体10を照明したときには第1凹凸構造領域12aからの回折光の射出を防止し、B方向及びC方向から表示体10を照明したときには第1界面部12aから回折光を射出させることができる。すなわち、より複雑な視覚効果が得られる。
【0082】
図7又は図8に例示したように、凹部又は凸部14aの配置パターンには、様々な変形が可能である。そして、各配置パターンは、それに固有の視覚効果などを有している。それゆえ、凹部又は凸部14aの配置パターンが異なる複数の画素で第1界面部12aを構成すると、より複雑な視覚効果を得ることができる。
【0083】
図7又は図8は、図1及び図2に示す表示体の第1凹凸構造領域に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【0084】
図7に示す構造は、図6に示す構造の変形例である。図7又は図8に示す凹部又は凸部14aは何れも、高さが不均一であるが周期性を有している。
図7に示す構造では、凹部又は凸部14aは、四角柱形状を有している。凹部又は凸部14aは、三角柱形状などの四角柱形状以外の角柱形状を有していてもよい。
【0085】
図8に示す構造は、凹部及び凸部を有する構造である。このように凹部と凸部を有する構造とすることで非常に変化に富んだ表示が可能となる。例えば、凸部を第1凹凸構造領域12aの構造とし、凹部を第2凹凸構造領域12bの構造とする。すると、一方の面(表面)の正面(垂直方向)から観察する時には白く見え、表示体を傾けた際に回折光が見える。他方の面(裏面)の正面から観察する時には、白く見えていた場所は黒く表示され、表示体を傾けた際に回折光が見える。
【0086】
上述したような構成に係る表示体10は、例えば、偽造防止効果を有するシールラベル、スレッド、ストライプ転写箔、スポット転写箔などとして使用することができる。この表示体10は偽造又は模造が困難であるため、この表示体10を物品に支持させた場合、偽造又は模造も困難である。また、この表示体10は上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0087】
図13は、偽造防止用ストライプ転写箔を物品に支持させてなる商品券の一例を概略的に示す平面図である。ストライプ転写箔付き物品の一例として、印刷物40を描いている。
【0088】
この印刷物40は、紙基材44を含んでおり、紙基材44上には、印刷層41が形成されている。さらに、印刷物40には、表示体43が偽造防止用ストライプ転写箔として貼りつけられている。なお、この表示体43は、1次元のレリーフ型回折格子が形成されている領域46c、領域46cよりも細かな複数の溝で最小中心間距離は200nm乃至5
00nmで凹凸構造の高さが不均一である2次元レリーフ型回折格子が形成されている領域46a及び領域46b、鏡面である領域46dを含んでいる。領域46aは溝の最小中心間距離は約300nmで形成され、領域46bは溝の最小中心間距離は約400nmで形成されている。
【0089】
図14は、図13に示す表示体のA−A線に沿った断面図である。この表示体43は、表面保護層兼剥離層42及び光透過エンボス層49、アルミニウム反射層48、接着層45、紙基材44が積層されてなる積層体である。図14に示す例では、表面保護層兼剥離層42側を前面側とし且つ紙基材44側を背面側としている。光透過エンボス層49とアルミニウム反射層48との界面は、前記2次元レリーフ型回折格子領域46aと前記2次元レリーフ型回折格子領域46bと鏡面領域46dとを含んでいる。
【0090】
この印刷物40は、表示体43を含んでいる。それゆえ、印刷物40の垂線方向付近で観察した場合、領域46a及び領域46bは散乱して白色に見える。しかし、印刷物40の垂線方向付近で観察した場合では、領域46a及び領域46bからなるデザインは確認できない。これは、印刷物40の垂線方向付近の光に対しては、領域46a及び領域46bの凹凸は光散乱層の役目を果たし、その差がほとんど無いためである。つづいて、印刷物40の垂直方向に対して60〜70度の方向から白色光を入射し、印刷物40の垂直方向に対して60〜70度の方向で観察すると、領域46aでは緑色光が射出し、領域46bでは赤色光が射出する。よって、領域46a及び領域46bからなるデザインは確認できるようになり、真偽判定ができるので、偽造防止効果は非常に高い。
【0091】
上記の通り、この印刷物40の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物40は、表示体43を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物40は、表示体43に加えて、印刷層41をさらに含んでいるため、印刷層41の見え方と表示体の見え方とを対比することが容易である。それゆえ、印刷物40が印刷層41を含んでいない場合と比較して、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することがより容易である。
【実施例】
【0092】
以下本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。
【0093】
まず、厚み12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(PETフィルム)(東洋紡績製
E5100)上に、下記組成の塗液の薄膜をグラビア法により塗布した後、乾燥させ、厚み1μmの剥離層を得た。
【0094】
アクリル樹脂(BR60 三菱レイヨン製) 100重量部
ポリエチレンワックス(添加剤180 東洋インキ製) 5重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 1000重量部
【0095】
続いて、剥離層上に下記組成のインキの薄膜をグラビア法により厚み2μmで塗布した後、乾燥させ、さらに40℃で3日間のエージングを施し、光透過層を有するフィルムを得た。
【0096】
2液硬化性ウレタンインキ(K448 東洋インキ製造製) 100重量部
イソシアネート硬化剤(UR100B 東洋インキ製造製) 10重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 10重量部
【0097】
次にEB描画装置で、図6に示すような凹凸構造に係る凹凸パターンを描画した後、ニッケル電鋳法でニッケル製原版を得た。次に、加熱シリンダーロールにこの原版を貼り付
けたロールにて、前記工程で得られた積層フィルムの光透過層に連続的に熱圧エンボスすることで微細凹凸レリーフフィルムを得た。
ここで使用した凹凸構造領域の凹凸パターンは周期を360nmピッチとし、凸部は円柱状で散乱成分はベナードセルを元にした配置パターンを使用した。
【0098】
次いで、微細凹凸レリーフフィルムのレリーフ面へ真空蒸着法によって光反射層として厚さ500Åのアルミニウム蒸着層を積層した。
このときの電子線顕微鏡による平面写真を図16に、傾斜写真を図17にそれぞれ示した。
【0099】
そして、下記組成の接着剤の薄膜をマイクログラビア印刷により厚みが約10μmとなるように光反射層上に塗工した。
【0100】
ポリエステル樹脂(バイロン200 東洋紡績製) 60重量部
エポキシ樹脂(EP1100L ジャパンエポキシレジン製) 40重量部
粉末シリカ(サイロホービック♯100 富士シリシア製) 10重量部
溶剤(トルエン) 100重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 100重量部
【0101】
このようにして、得られたホログラム転写箔フィルムを商品券用紙に、160℃、10秒で熱圧着した後、基材のPETフィルムを剥離したところ、偽造防止転写箔を有する商品券ができた。
このようにしてできた偽造防止転写箔は、正面からは散乱して白く表示され、傾けると回折光特有の分光を呈する輝く表示体であった。
【符号の説明】
【0102】
10…表示体、11…光透過層、13…反射層、12a…第1凹凸構造領域、12b…第2凹凸構造領域、12c…第3凹凸構造領域、12d…第4凹凸構造領域、12e…平坦領域、14a…凹部又は凸部、14b…凹部又は凸部、14c…凹部又は凸部、14d…凹部又は凸部、15…接着層、16a…凸部配列、16b…凹部配列、31a…照明光、31b…照明光、32a…正反射光又は0次回折光、32b…正反射光又は0次回折光、33a…1次回折光、33b…1次回折光、40…表示体、41…印刷層、42…保護層兼剥離層、43…転写箔、44…紙基材、45…接着層、46a…第1界面部、46b…第1界面部、46c…第4界面部、46d…平坦部、48…反射層、49…光透過層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過層の一方の主面に、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域を備えると共に、その凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆する反射層を具備しており、凹凸構造領域中の複数の凹部及び/又は凸部はそれらの最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、特定の周期性を有し、かつ凹部の深さ及び/又は凸部の高さは不均一であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域には、ほぼ同一の深さ又は高さを有する凹部又は凸部が連続的に隣接して設けられている部分が、長さ10μm以上に渡ってその一部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記凹凸構造領域の垂線方向に対して−60度を超えて+60度未満までの角度範囲では光を散乱して白色表示がなされ、表示体の垂線方向に対して−90度を超えて−60度以下及び+60度以上+90度未満までの角度範囲において光を入射した時には、前記凹凸構造領域における凹凸構造由来の回折光を射出することを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さは750nm以下であり、しかも前記凹部の最小深さ及び/又は前記凸部の最小高さは、前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さの半分以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体。
【請求項5】
前記凹凸構造領域に設けられた複数の凹部及び/又は凸部のなす配置パターンは、ベナードセル由来のパターンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記光透過層の一方の主面に、前記凹凸構造領域を複数備えており、その中の少なくとも1つの凹凸構造領域においては、その中心間距離及び配置パターンが他の凹凸構造領域のものとは異なることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
前記光透過層の一方の主面に、1次元回折格子パターン領域を有し、その1次元回折格子パターン領域内の凹部及び/又は凸部の中心間距離は、前記凹凸構造領域の凹部及び/又は凸部の中心間距離に比べて大きく、1次元回折格子パターン領域の凹部の深さ及び/又は凸部の高さは、前記凹凸構造領域の凹部の最大深さ及び/又は凸部の最大高さに比べ小さいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体。
【請求項8】
前記光透過層の一方の主面に、凹凸構造領域を複数備えており、少なくとも前記凹凸構造領域以外の凹凸構造領域内の複数の凹部及び/又は凸部の最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、その領域内の複数の凹部及び/又は凸部は特定の周期性を有し、かつそれら複数の凹部の深さ及び/又は凸部の高さはほぼ均一である順テーパ状凹凸構造を有していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の表示体。
【請求項1】
光透過層の一方の主面に、二次元的に配列した複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域を備えると共に、その凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆する反射層を具備しており、凹凸構造領域中の複数の凹部及び/又は凸部はそれらの最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、特定の周期性を有し、かつ凹部の深さ及び/又は凸部の高さは不均一であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記複数の凹部及び/又は凸部が設けられた凹凸構造領域には、ほぼ同一の深さ又は高さを有する凹部又は凸部が連続的に隣接して設けられている部分が、長さ10μm以上に渡ってその一部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記凹凸構造領域の垂線方向に対して−60度を超えて+60度未満までの角度範囲では光を散乱して白色表示がなされ、表示体の垂線方向に対して−90度を超えて−60度以下及び+60度以上+90度未満までの角度範囲において光を入射した時には、前記凹凸構造領域における凹凸構造由来の回折光を射出することを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さは750nm以下であり、しかも前記凹部の最小深さ及び/又は前記凸部の最小高さは、前記凹部の最大深さ及び/又は前記凸部の最大高さの半分以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体。
【請求項5】
前記凹凸構造領域に設けられた複数の凹部及び/又は凸部のなす配置パターンは、ベナードセル由来のパターンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記光透過層の一方の主面に、前記凹凸構造領域を複数備えており、その中の少なくとも1つの凹凸構造領域においては、その中心間距離及び配置パターンが他の凹凸構造領域のものとは異なることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
前記光透過層の一方の主面に、1次元回折格子パターン領域を有し、その1次元回折格子パターン領域内の凹部及び/又は凸部の中心間距離は、前記凹凸構造領域の凹部及び/又は凸部の中心間距離に比べて大きく、1次元回折格子パターン領域の凹部の深さ及び/又は凸部の高さは、前記凹凸構造領域の凹部の最大深さ及び/又は凸部の最大高さに比べ小さいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体。
【請求項8】
前記光透過層の一方の主面に、凹凸構造領域を複数備えており、少なくとも前記凹凸構造領域以外の凹凸構造領域内の複数の凹部及び/又は凸部の最小中心間距離が200nm乃至500nmの範囲内にあると共に、その領域内の複数の凹部及び/又は凸部は特定の周期性を有し、かつそれら複数の凹部の深さ及び/又は凸部の高さはほぼ均一である順テーパ状凹凸構造を有していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の表示体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図13】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図13】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−95465(P2011−95465A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248686(P2009−248686)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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