表示体
【課題】高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供する。
【解決手段】表示体1は、基材20と剥離層21と凹凸構造形成層である光透過層22と光反射層23と接着層24の積層体を含んで構成される。
【解決手段】表示体1は、基材20と剥離層21と凹凸構造形成層である光透過層22と光反射層23と接着層24の積層体を含んで構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙幣、商品券及び小切手などの有価証券類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
回折格子により入射光(白色光)が虹色に輝く分光色に変化する原理については、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0005】
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版を母型として、そこから複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び特許文献2には、回折格子が虹色に輝く分光色を表示することを利用して、回折格子の格子角度や格子間隔(格子ピッチ)を適宜変化させて絵柄を表示させることが記載されている。格子角度や格子間隔が異なる複数の回折格子構造によって形成される表示体は、観察者の位置や光源の位置が変化することで、観察者の目に到達する回折光の波長が徐々に変化し、それにより、虹色に変化する画像を表現することができる。
【0006】
また、これらの文献には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、非特許文献2には、二光束干渉を利用して回折格子を形成する方法が記載されている。レリーフ型回折格子の製造では、通常、このようにして得られた原版を用い、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。
【0007】
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルムやシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0008】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。
【0009】
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0010】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
【0011】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】辻内順平編著「ホログラフィックディスプレイ」 産業図書株式会社
【非特許文献2】辻内順平著「ホログラフィー」 丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述のような問題を解決したものであり、その目的は、高い偽造防止効果を発揮する表示体及びラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために第1の発明は、基材と、前記基材の一方の面側に設けられた光透過性の剥離層と、前記剥離層の基材と反対側の面上に設けられた光透過性の凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する光反射層と、前記光反射層の凹凸構造形成層が設けられた面と反対側に設けられた接着層を備えた表示体であって、前記凹凸構造形成層は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された第1の領域を少なくとも一つ備えており、前記複数の凸部または凹部は、前記第1の領域内に整然配置され、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下であり、前記第1の領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下、であることを特徴とする表示体である。
【0016】
また、第2の発明は、請求項1記載の表示体の接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体で、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする表示体である。
【0017】
また、第3の発明は、前記第1の領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上且つ10μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の表示体である。
【0018】
また、第4の発明は、請求項1記載の表示体の接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体で、前記被転写体が領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが0.02μmを超え且つ2.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であることを特徴とする表示体である。
【0019】
また、第5の発明は、構造や光学的な性質が前記第1の領域と異なる第2の領域に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つが形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成とすることによって、第1の発明によると、上面が基材面と略平行である複数の凸部、または底面が基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された第1の領域によって、照明光の入射に応じて複数の波長の光から構成される色を表示可能な表示体が得られる。この表示体はレリーフ型の回折格子パターンのように照明の位置や観察者の位置の変化に応じて虹色に色変化することがなく、従来の回折格子を利用した偽造防止媒体とは異なる視覚効果を実現できる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0021】
また、第2の発明によると、表面粗さが大きい被転写体で、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満とすることで、回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、通常の印刷物や回折格子パターンとは異なる視覚効果を実現することができる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0022】
また、第3の発明によると、第1の領域を二つ以上備えており、少なくとも一つの領域において、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上且つ10μm以下であり、その他の領域において、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満とし、これらの領域により表示画像として潜像パターンを形成することで、表面粗さが確認できる領域と確認できない領域により、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0023】
また、第4の発明によると、被転写体が領域を二つ以上備えそれら領域で異なる表面粗さとし、これらの領域により表示画像として潜像パターンを形成することで、表面粗さが確認できる領域と確認できない領域により、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0024】
また、第5の発明によると、表示体に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のいずれかから成る第2の領域を設けることで表示体の意匠性をさらに高めることができるとともに、さらに高い偽造防止効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る表示体を概略的に示した平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図。
【図3】図2の転写箔を被転写体に転写した構成例を示す拡大断面図。
【図4】ピッチが狭い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図。
【図5】ピッチが広い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図。
【図6】本発明の実施形態に係る表示体の第1の領域に採用可能な構造の一例を示す平面図。
【図7】図6のIII −III 線に沿う表示体の拡大断面図。
【図8】回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図。
【図9】第1の領域から射出される回折光の様子を示す図。
【図10】頂部および底部が平坦でない回折格子の一例を示す断面図。
【図11】頂部および底部が平坦でない回折格子の別の一例を示す断面図。
【図12】表面粗さの算術平均粗さRaを示す概略図。
【図13】表面粗さの凹凸の平均間隔Smを示す概略図。
【図14】本発明の表示体を被転写体に転写した一例を示す拡大断面図。
【図15】本発明の表示体を被転写体に転写した別の一例を示す拡大断面図。
【図16】本発明の表示体を被転写体に転写した別の一例を示す拡大断面図。
【図17】表示体の第2の領域に採用可能な構造である反射防止構造体の一例を示す斜視図。
【図18】表示体の第2の領域に採用可能な構造である光散乱構造体の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。表示体1は、基材20と剥離層21と光透過層22と光反射層23と接着層24の積層体を含んでいる。この例においては、光透過層22が凹凸構造形成層である。図2に示す例では、表示体1は被転写体に転写する前の転写箔の状態を示している。
【0028】
また、光反射層23は部分的に設けられていなくてもよく、領域13では反射層23は設けられていない。
【0029】
基材20は、例えば樹脂フィルム又はシートである。支持体12は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料からなる。基材20の剥離層21を支持している主面には、剥離層21の変わりに例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を含んだ離型層が設けられていてもよい。また、基材20は光透過性を有するものであってもよく、光を透過しないものであってもよい。
【0030】
剥離層21は、基材20上に形成されている。剥離層21は、光透過層22の凹凸構造形成層が基材20からの剥離を安定化する役割を果たす。剥離層21は、光透過性を有しており、典型的には透明である。剥離層21は、例えば熱可塑性樹脂からなる。
【0031】
光反射層23としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、光反射層23として、光透過層22とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層23として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。
【0032】
なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、光透過層22と接触しているものの屈折率は、光透過層22の屈折率とは異なっていることが望ましい。光反射層23は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0033】
この光反射層を部分的に設けないようにする方法としては、気相堆積法により光反射層を設けた後、薬品などにより特定の部分のみを溶解させたり、光反射層と光透過性樹脂層との密着力よりも強い接着力をもつ接着材料によって特定部分の光反射層を剥離する方法などがある。また、気相堆積法を行う前に光透過性樹脂層の前面に障壁を設け光反射層が形成されるのを防いだりする方法も用いられる。
【0034】
図1、図2及び図3に示す表示体1は、光透過層22の表面には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された第1の領域を少なくとも一つ備えている。これらの図において、第1の領域14は微小な凹凸が形成された領域であり、第2の領域15は第1の領域14とはその構造や光学的な性質が異なる領域であると定義する。第2の領域15は第1の領域14とは異なる凹凸構造が形成されている領域であってもよいし、構造が形成されていない平坦面から成る領域であってもよい。また、第1の領域14は表示体1に少なくとも1つ以上存在しているが、第2の領域15は表示体1に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。また、構造の異なる複数の領域を組み合わせて表示体としても良い。
【0035】
光透過層22の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸部または凹部が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸部または凹部が設けられた光透過層22を転写成形することができる。
【0036】
図3は、図2示した転写箔を被転写体に転写した構成例を示す拡大断面図である。
【0037】
被転写体30と接着層24を密着し、基材20側から熱と圧力を加え接着する。その後、基材20を剥離層21との界面で剥離することで、表示体1が被転写体30に転写される。
【0038】
被転写体30の材料としては、例えば、紙、PET、ポリカーボネート(PC)である。
【0039】
被転写体30表面には、凹凸構造31を有している。凹凸構造31はごく一般的な紙がもともと持っている凹凸構造であってもよく、被転写体30がPET、ポリカーボネートなどの場合には、エンボス加工などにより、凹凸構造31を形成してもよい。
【0040】
(第1の領域の説明)
本発明に係る第1の領域について説明するにあたり、まず、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、照明光入射角及び回折光の射出角との関係について説明する。
【0041】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対応して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0042】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記の式1から算出することができる。
【数1】
【0043】
式1において、dは回折格子の格子定数(格子周期,ピッチ)を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0044】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0045】
ピッチdの回折格子に対する照明光入射角及び+1次回折光の射出角の関係を図4に示す。照明光が複数の波長成分を含む白色光である場合、回折光の射出角は波長によって異なる。それによって太陽や蛍光灯などの白色照明光源下で回折格子を観察すると、白色光が分光し、単一波長の光が別々の角度に射出され、観察する角度によって虹色に見える。
【0046】
図4では点光源LSから白色光IL(ここでは、白色光を構成する波長成分はR、G、Bの3波長であると仮定する)が入射し、回折格子GRによって波長成分Rの回折光DL_r、波長成分Gの回折光DL_g、波長成分Bの回折光DL_bに分光する様子を示している。このとき、波長成分Rの回折光の射出角β_rと、波長成分Gの回折光の射出角β_gと、波長成分Bの回折光の射出角β_bは、波長毎に異なる値を取る(図4では、DL_rの射出角のみβ_rとして記載している)。他の次数の回折光についても式1によって導出される角度に射出されるが図4への記載は省略する。
【0047】
図5は本発明の表示体が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図であり、図4と比較してより広いピッチの回折格子に白色光が入射した際に+1次回折光を射出する様子を概略的に示している。ピッチdが大きい場合、式1から明らかなように、狭いピッチの回折格子と比較して回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、また、分光した単一波長の光同士の射出角の差は小さくなる。式1から明らかなように回折格子が一定の屈折率分布をもつ媒質中(例えば空気中など)にある場合は回折光の射出角は入射する照明光の入射角、波長と、回折格子のピッチにより一意に定まる。
【0048】
次に、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0049】
ピッチdの回折格子に対してαの入射角で入射した照明光は、式1に基づいて角度βの方向に回折光を射出する。この際、波長λの光の射出強度、すなわち回折効率は、回折格子のピッチや高さ等によって変化し、式2によって導出される。
【数2】
【0050】
ここで、ηは回折効率(0〜1の値をとる)、rは回折格子の高さ、Lは回折格子の格子線幅、dは格子線のピッチ、θは照明光の入射角、λは入射光及び回折光の波長である。なお、この式2は、凹凸構造から成る浅い矩形回折格子について成り立つものである。
【0051】
式2から明らかなように回折効率は回折格子の高さrや格子線のピッチd、入射光の入射角θや波長λによって変化する。また、実際には回折効率は回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0052】
次に、第1の領域の構造と光学的性質について説明する。
【0053】
第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成されており、前記複数の凸部または凹部は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下であり、前記凸部または凹部は、整然配置または非整然配置され、前記領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下である。
【0054】
ここで、凸部または凹部のもっとも長い部分を長辺、もっとも短い部分を短辺と定義する。すわなち、凸部または凹部は0.3μm以上且つ10μm以下の辺を有する矩形に内包される形状である。例えば凸部が真円形状であった場合、長辺と短辺は同値となる。楕円や長方形の場合、長軸側が長辺、短軸側が短辺となる。
【0055】
図6は、本発明の表示体の第1の領域に採用可能な構造の一例を示す平面図であり、図1の表示体1上に設けられた第1の領域14を部分拡大した平面図である。図7は図6のIII−III線に沿った断面図である。円形の凸部16は第1の領域14内において所定の方向(一点鎖線で示したAやB、C)に対して整然配置されている。
【0056】
なお、上述の整然配置とは、凸部または凸部が均等な間隔、または規則性を持った配列をなしていることを指し、例えば、正方格子、矩形格子又は三角格子をなしている。これら凹部又は凸部の配列を制御することにより、迷光の少ない回折光が得られるという利点がある。
【0057】
凸部または凹部の形状の他の例としては、楕円形や八角形、星型、十字等の多角形を任意に採用することができる。また、第1の領域内に形状の異なる凸部または凹部が混在していてもよい。
【0058】
図8は、回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図である。図8に示したようなy軸に平行な方向に規則的に形成された複数の格子線から成る回折格子GRでは、照明光ILが入射した際に、y軸(格子線の長手方向)と直交する方向(x軸方向)に回折光DL_r、DL_g、DL_bが射出される。
【0059】
一方、図9は、本発明を採用した表示体から射出される回折光の様子を示す概略図であり、図6で示されるような構造に照明光が入射すると、第1の領域14に形成された複数の凸部16とその周囲の平坦部17による周期性を伴う凹凸構造によって、回折光を射出する。図6のように凸部16が第1の領域14内でお互いに離間して整然配置されている構造においては、x軸方向にとどまらずXY平面上の多くの方位角に対して回折光が射出される。ここで射出される回折光は、図8に示したような回折格子に垂直上方から光が入射した時と同様に、入射光に近い側に波長の長い回折光DL_rが射出され、入射光から遠ざかる方向にDL_g、さらに、DL_bが射出される。図9においては、光が第1の領域の1点に入射した状態を図示しているが、実際には、光は一点への入射ではなく、面状に第1の領域に入射する。
【0060】
複数の凸部16は互いに接触しないように第1の領域14内に整然配置されている。図6において凸部16の直径は約1μmとする。ここで、図6の一点鎖線Aや一点鎖線Bで示した方向について考えると、複数の凸部16によってピッチ約1.4μmの回折構造が形成されていると見なすことができる。ここで、白色照明光源が表示体の垂直上方に備えられているとし、表示体の表面に対して垂直(入射角α=0°)方向から白色照明光が入射しているとすると、例えば白色照明光のうちの波長630nmの光は式1によって角度β≒26.7°で+1次回折光として射出される。また、波長540nmの光は角度22.7°、波長460nmの光は角度19.2°となる。他の方向(例えば一点鎖線C)についても、複数の凸部16の周期性によって式1に基づいて回折光が射出される。また、通常、太陽や蛍光灯などの照明光源はある程度の面積をもっているので、回折構造に対して斜めの方向からも光が入射する。例えば白色照明光源からの光がα=1.0°の角度から回折構造に入射したとすると、+1次回折光はそれぞれ波長630nmの光を角度β≒25.7°、波長540nmの光を角度β≒21.6°、波長460nmの光を角度β≒18.2°の方向へと射出する。
【0061】
換言すると、実際には入射光となる照明光源は通常ある程度の面積をもっているので、定点において観察者が観察する光はある程度の範囲の波長の光が合わさったものとなり、その結果複数の波長の光による色が観察されることになる。
【0062】
このように照明光源からの光が表示体の表面に入射し、表示体の凹凸構造形成層によって入射光が回折し、観察者が目視によってその光を知覚できるような条件を「通常の照明条件下」と定義する。例えば、一般的な室内で蛍光灯等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が目視によって表示体を観察する条件や、室外で太陽光等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が表示体を観察するような条件が「通常の照明条件下」に相当する。ここで「通常照明光」は、室内における蛍光灯や屋外における太陽光等の照明光を指す。
【0063】
また「通常の照明条件以外の条件下」は観察者が回折光を知覚できないような条件を示す。例えば、照明光からの光が表示体の表面に略水平に、すなわち急な角度で入射し、表示体の凹凸構造形成層から回折光が射出しないような条件や、表示体の凹凸構造形成層から回折光が射出しても、その回折光が到達しないような角度から観察者が表示体を目視したような条件が「通常の照明条件下以外の条件下」に相当する。
【0064】
ここで、式2で示すとおり、回折構造から射出される回折光は波長に応じて光量、すなわち回折効率が変化する。特に、回折格子の格子線幅L及び、格子線のピッチdを一定と仮定すると、回折効率ηは回折格子の高さr(凸部の高さもしくは凹部の深さに相当する)と照明光の波長λによって一意に決定される。
【0065】
そのため、表示体(第1の領域)を定点から観察した場合において、可視光の波長成分が均等には目に届かず、第1の領域に設けられた凸部の高さ(または凹部の深さ)に応じて特定の波長の光の回折効率が低くなり、結果として観察者に届く光は、入射した白色照明光のうちの、特定の波長成分が弱くなった光となる。よって、観察者は第1の領域を観察した際に、光量に差がある複数の波長の光を知覚することになる。表示体上に設けられた複数の第1の領域ごとに、それぞれ凸部(または凹部)を異なる高さ(または深さ)で形成することでそれぞれの領域を観察した際に異なる色を表示することが可能になる。
【0066】
例えば、ある高さの凸部が設けられた第1の領域を観察した際に、青(波長460nm)の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が赤(波長630nm)及び緑(波長540nm)であったとすると、観察される色は黄色であり、別の高さの凸部が設けられた別の第1の領域を観察した際に、赤の波長成分の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が緑及び青であったとすると、観察される色はシアン(うすい水色)となる。
【0067】
これらの色は回折光が到達しないような位置に観察者がいる場合は観察することができない。それにより通常の印刷物とは異なり、照明光源や観察者の位置によって表示色が知覚できる状態とできない状態の2つの状態を実現することができる。これが、多くの範囲でほぼ同じ色が知覚できる通常の印刷物とは異なる点である。
【0068】
従来の偽造防止を目的とした回折格子による表示体では、回折格子の加工精度が十分でなく、図2や図3、図7に示したような理想的な矩形の断面形状になっておらず、図10の断面図のように正弦波状の断面形状であったり、図11の断面図のように、凸部構造の頂部や平坦部がでこぼこになってしまっているのが一般的である。そのため、式2で示したような波長ごとに構造の高さ(深さ)に応じて回折効率が変化する作用がおきにくくなる。すなわち、各波長の回折効率の差が少なくなるため、観察者がいる定点に到達する光は白色照明光源から射出されるあらゆる波長の光が、強弱がつかずに到達してしまい、観察者が知覚できる色は白色に近い色となり彩度の高い色の表示が難しくなる。いわゆる磨りガラスのような高さや形状が揃っていない微小な凹凸構造に白色の照明光が入射すると、光が散乱し白色に知覚されるのがその一例である。
【0069】
一方、本発明の第1の領域に採用される構造は、1つの第1の領域内において、凸部の高さ(または凹部の深さ)が略同一で、且つ、基材面と略平行であるので、特定の波長の光の回折効率の低下を防ぎ、別の特定の波長の光の回折効率を低下させる効果があるため、彩度の高い色を表示させることが可能になる。
【0070】
また、本発明の第1の領域に採用される構造は、図9で示したようにXY平面上の多くの方位角に対して回折光を射出するので、光源の位置や観察する向きが多少変化しても、複数の波長から構成される色を観察可能である。このため、従来の回折格子のように表示色が虹色に変化してしまう現象を回避または低減することができる。
【0071】
図12は、表面粗さの算術平均粗さRaを示す概略図である。被転写体30の凹凸構造31の高さ方向のパラメータで、JIS B0601−1994によると、Raは、基準長さlrにおけるZ(x)の絶対値の平均であり、式3によって算出される。
【数3】
【0072】
図13は、表面粗さの凹凸の平均間隔Smを示す概略図である。被転写体30の凹凸構造31の横方向のパラメータで、JIS B0601−1994によると、Smは、基準長さlrにおける輪郭曲線要素の長さXsの平均で、式4によって算出される。
【数4】
【0073】
次に、図14は、本発明の表示体を被転写体に転写した一例を示す拡大断面図である。
凹凸構造31は被転写体30の表面形状を拡大して表示している。ここでは被転写体30に、接着層24、光反射層23、光透過層22、剥離層21が積層されている。つまり、接着層24によって表示体1が転写された状態である。
【0074】
ここで、被転写体30の凹凸構造31の、JIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、3.3μm、凹凸の平均間隔Smは、390μmとなっている。また、光透過層22には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成されており、ここでは、前記複数の凸部または凹部からなる凹凸構造32は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ1μmである。
【0075】
ところで、回折光の射出に寄与する光反射層23と、光透過層22の凹凸構造32を設けた面は、転写によって被転写体30の凹凸構造31の影響により、平面ではなく凹凸構造31に沿った形状となってしまう。光反射層23については膜厚が非常に薄いため、光透過層22の形状とほぼ等しいものとなる。ここで、凹凸構造31の表面粗さが小さい場合には、影響は小さく、光透過層22の凹凸構造32を設けた面は、平面に近い形状となる。
【0076】
ここで、凹凸構造32の長辺及び短辺の長さが、十分に小さい場合には、凹凸構造32が被転写体30の凹凸構造31の影響を受けても、回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、凹凸構造32の長辺及び短辺の長さが、大きい場合には、凹凸構造32の回折光を観察したときに表面の粗さを確認し易くなる。
【0077】
被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく、算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、凹凸の平均間隔Smが130μmを超え1300μm以下である場合に、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上1.5μm未満である場合に、回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上10μm以下である場合に、回折光を観察したときに表面の粗さを確認し易くなる。
【0078】
図14に示した条件では、凹凸構造32の回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、被転写体30の凹凸構造31の影響を受けにくく、通常の印刷物や回折格子パターンとは異なる視覚効果を実現することができる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0079】
ところで、上面が基材面と略平行である複数の凸部または底面が基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された構造で、複数の波長の光から成る色を観察できるようにするためには、整然配置された構造の場合は1.5〜10μm程度のやや大きめの構造とするほうがよい。大きな構造の場合は、式1から明らかなように各波長に対する回折光の射出角の差が小さいため、照明光源や観察者の位置が変化しても、表示色がいわゆる虹色に変化せず複数波長の光による色が安定して観察できる。しかし、被転写体の表面粗さの影響は大きくなる。
【0080】
一方で、凸部または凹部を0.3〜1.5μm程度のやや小さめの構造として、小さな構造が小さな配置間隔で形成されている場合、式1から明らかなように回折光の射出角が大きくなる。そのため、虹色に色変化しやすくなるが、観察者のいる定点に複数の波長の光が到達しやすくできる。また、複数の光による表示色が広い範囲で観察できるという利点がある。このため、被転写体の表面粗さの影響も受けにくくなる。
【0081】
また、第1の領域の一辺の長さは300μm以下とすると良い。一辺の長さが300μm以下の第1の領域を整然配置することで、表示体を肉眼で観察した際に、各々の第1の領域の形状が認識されるのを防ぐことができ、解像度が高く高精細な画像を表現することが可能になる。ここで、第1の領域の一辺とは、第1の領域の最大の長さの辺を示すものとする。
【0082】
第1の領域に採用可能な凸部または凹部の長辺及び短辺の長さはそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下である。この範囲の大きさの構造であれば可視光を十分に回折することができる。0.3μmより小さい場合、加工が困難になるとともに可視光を射出しにくくなり反射防止構造体として機能しやすくなる。また、10μmより大きい場合、回折しにくくなるのと同時に、照明光の入射した方向の近くに回折光が射出されるため、複数の波長の光による色を観察しにくくなる。
【0083】
また、第1の領域内における凸部または凹部の占有面積は20%以上且つ80%以下であることが好ましい。式2から、凸部または凹部の幅(式2の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分であるときに回折効率ηが最も高くなる。よって、凸部または凹部の占有面積は50%程度のときが最も明るい表示画像が得られもっとも望ましく、20%以上且つ80%以下程度であれば、50%から離れるにしたがって回折効率が低下し表示画像が暗くなっていくものの、十分に複数の波長の光から成る表示画像を視認することができる。なお、占有面積が20%及び80%のときの回折効率は、式2より、50%のものの約3割程度の明るさとなる。
【0084】
凸部または凹部の占有面積が20%より小さい、もしくは80%より大きい場合には、十分な明るさが得られず、十分なアイキャッチ効果を得ることが難しくなる。
【0085】
また、凸部の高さ、または凹部の深さは0.1μm以上且つ0.5μm以下の範囲であることが好ましい。式2において、ピッチd、格子線幅Lを一定と仮定した場合、可視光の範囲の波長の光が入射角θ(0°より大きく90°未満の範囲)で入射すると、回折効率が最も高くなる凸部の高さ、または凹部の深さの値は前記0.1μm以上且つ0.5μm以下の範囲内にある。なお、式2から、回折効率が最も高くなる条件は、それよりも大きい値であっても繰り返し訪れるが、製造上、凸部の高さまたは凹部の深さは極力浅い方が作製が容易であるのでより浅い値で高い回折効率が得られる0.1μm以上且つ0.5μm以下の条件が望ましい。
【0086】
なお、凸部の高さ、または凹部の深さが0.1μmより浅い場合は製造時の外的要因(機械や環境のコンディションの変動や材料組成のわずかな変化等)により安定して同じ品質のものを作製するのが難しくなり、0.5μmより深い場合は、細かく深い構造を精密に転写成形するのが難しくなる。
【0087】
次に、図15は、本発明の表示体を被転写体に転写した別の一例を示す拡大断面図である。
図14と同様に被転写体30に、接着層24、光反射層23、光透過層22、剥離層21が積層されている。ここで、被転写体30の凹凸構造31の、JIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、3.3μm、凹凸の平均間隔Smは、390μmとなっている。また、光透過層22は領域35と領域36に分かれ、それぞれの領域での凹凸構造33と凹凸構造34は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ異なり、凹凸構造33は1μmで、凹凸構造34は2μmである。
【0088】
このため、図15で示した表示体1の領域35にあたる凹凸構造33の回折光を観察したときには表面の粗さが確認しにくくなり、領域36にあたる凹凸構造34の回折光を観察したときには表面の粗さを確認することができる。
【0089】
ここで、領域35と領域36を用いて文字や記号などを構成し、表示画像として潜像パターンを形成することで、通常の状態で回折光が再生されないときには確認することができず、回折光が再生される照明光源で観察する場合に、文字や記号などを確認することができる。これにより、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0090】
次に、図16は、本発明の表示体を被転写体に転写したさらに別の一例を示す拡大断面図である。
図15と同様に被転写体30に、接着層24、光反射層23、光透過層22、剥離層21が積層されている。ここで、被転写体30の凹凸構造31は領域38と領域39に分かれ、領域38でのJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、3.3μm、凹凸の平均間隔Smは、390μmであり、領域39でのJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、0.5μm、凹凸の平均間隔Smは、70μmとなっている。また、光透過層22の凹凸構造37の、長辺及び短辺の長さが2μmである。
【0091】
このため、図16で示した表示体1では、領域39の凹凸構造37からの回折光を観察したときには表面の粗さが確認しにくくなり、領域38の凹凸構造37からの回折光を観察したときには表面の粗さを確認することができる。
【0092】
ここで、領域38と領域39を用いて文字や記号などを構成し、表示画像として潜像パターンを形成することで、通常の状態で回折光が再生されないときには確認することができず、回折光が再生される照明光源で観察する場合に、文字や記号などを確認することができる。これにより、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0093】
被転写体30に領域を設けて、凹凸形状を変化させる方法としては、金属の板に凸部分をパターニングした板を作成し、被転写体である紙などに加熱、加圧して凸部分の形状で紙の表面を平坦化する方法などがある。
【0094】
また、その他の方法としては、被転写体の紙に樹脂をスクリーン印刷法などを用い、パターニングして塗工し、紙に含浸させて凹凸構造を埋めるようにし、そこの部分を平坦化するような方法などがある。
【0095】
(第2の領域の説明)
次に、第2の領域について説明する。
第2の領域15は第1の領域14とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2の領域15は第1の領域14とは異なる凹凸構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。また、第2の領域15は表示体1に複数存在していてもよい。
【0096】
第2の領域15に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は、典型的には図8の斜視図に示したような線状の凹凸構造(格子線)が繰り返し形成されたものであり、ピッチ0.5〜1μm程度、構造の高さ0.1〜0.5μm程度が典型的な仕様である。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。
【0097】
また、第2の領域15に採用可能な別の構造として、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体が挙げられる。反射防止構造体は、図17の斜視図に示したような円錐状の構造である反射防止構造体18や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高いほうがより反射防止機能が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0098】
また、第2の領域15に採用可能な構造として、光散乱構造体が挙げられる。光散乱構造体は、図18の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状である光散乱構造体19が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光の回折や吸収が起きにくく、光を散乱する効果が得られる。
【0099】
また、第2の領域15は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。第2の領域15を平坦面とすると、第2の領域15は光反射層23によって鏡面のように見える。
【0100】
第2の領域15と第1の領域14を組み合わせることによって表示体の意匠性を向上させることができ、また偽造防止効果のさらなる向上を図ることができる。第2の領域には、第1の領域とは異なる光学特性を発揮する前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0101】
(表示体の原版の作製方法)
次に、本発明の表示体の原版の作製方法を説明する。
本発明の表示体の原版は、従来のレリーフ型回折格子の作製プロセスと同様に、フォトリソグラフィの工程を利用して作製することができる。電子線やレーザー等の荷電粒子ビームによって平面状の基板(ガラス基板が一般的に用いられる)に略均一に塗布された感光性レジストを露光し、現像することで所望の凹凸形状を得る。感光性レジストがポジ型レジストと呼ばれるものであれば、荷電粒子ビームが照射された部分が現像後溶解し、ネガ型レジストと呼ばれるもので有れば、荷電粒子ビームが照射された部分が現像後に残り、照射されていない部分が溶解する。基板は、高精度に位置調整が可能なXYステージ上に載置され、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら荷電粒子ビームが照射される位置が決定される。
【0102】
このようにして得られた基板は、感光性レジストによる凹凸構造は脆く、量産用のスタンパとしては適さないので、この基板を原版として、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。電鋳とは、電鋳の対象物を所定の水溶液中に浸し、通電することで電子の還元力により、金属皮膜を形成する表面処理技術の一種であり、このような方法を用いることで、原版の表面に設けられた微細な凹凸構造を精度良く金属版として転写成形することができる。電鋳の対象物の表面は通電可能である必要があり、一般に感光性レジストは電気を通さないので、電鋳を行う前にスパッタリングや真空蒸着等の気相堆積法により、構造の表面に金属薄膜があらかじめ設けられる。
【0103】
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、凹凸構造を複製する。即ち、まず、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルからなる透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、凹凸構造を複製することができる。
【0104】
一般に、基材や形成用の樹脂材料は透明である。従って、通常、凹凸構造を設けた樹脂層(凹凸構造形成層)上には、蒸着等によりアルミニウム等の金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0105】
また、原版の作製方法としては、フォトリソグラフィの工程だけでなく、先端が微細なダイヤモンドバイト等の切削機器による加工や、エッチングによって金属等の表面を腐食させる工程等も採用することができる。このような方法を用いると、直接金属板の表面を加工することも可能であり、その場合、電鋳等の方法による金属製スタンパの作成を行うことなく、直接金属スタンパを得ることができる。
【0106】
荷電粒子ビームを基板上に塗布された感光性レジストに照射して凹凸形状を加工する方法では、近接効果と呼ばれる現象が発生する。近接効果とは、加工される凹凸形状の大きさや、単位面積当たりのビームが照射される面積の割合によって、形状の寸法や深さが狙いとする寸法や深さからわずかに変動してしまう現象のことである。例えば、あるエネルギー量で1mm角の面積で深さが0.1mmの凹構造が加工できる条件で、0.5mm角の面積を加工しても、0.1mmの深さは得られず、それよりやや浅い凹構造になってしまう。これは、荷電粒子ビームがレジスト内で散乱する現象が影響している。この現象には大きく分けて前方散乱と呼ばれる現象と、後方散乱と呼ばれる現象がある。前方散乱は、荷電粒子ビームがレジスト内に侵入する際に起こるもので、荷電粒子ビームが広がり、照射された面積より広い領域に荷電粒子ビームの影響を与えるものである。一方、後方散乱は、感光性レジストを通過し、感光性レジストの下面にある基板の表面もしくは裏面などで反射した荷電粒子ビームにより、感光性レジストに影響を与えるものである。これらの散乱したビームの影響はビームのエネルギー量や加工されるパターンの形状、深さによってその大小は様々である。また、この近接効果の影響は使用する感光性レジストの材料組成や塗工された膜厚によっても変化する。
【0107】
そのため、第1の領域に設けられる凸部または凹部を原版に形成する際には、領域の面積や凸部または凹部の大きさ、配置密度などによって近接効果の影響度が変化し、狙いとする高さ(深さ)の構造が得られないおそれがある。第1の領域は、その内部に設けられた凸部(または凹部)の高さ(または深さ)によって通常の照明条件下における表示色が決定されるので近接効果が与える影響を考慮した上で精度よく構造を加工する必要がある。
【0108】
逆に、第三者が高精度な荷電粒子ビームを用いた加工機を用いたとしても、完全に同一な形状が形成された原版を偽造することは極めて難しく、同一の表示色を得るのは困難であり、偽造防止効果は非常に高い。
【0109】
荷電粒子ビームを用いた加工機としては、電子線描画装置、またはレーザー直接描画装置が望ましい。これらの装置は、加工速度が速く、XYステージの位置精度等も高いため、高精度に所望の凹凸パターンを作成することが可能である。また、近接効果の影響を軽減するよう、実験結果をもとに補正をかける機能が備わっているものもある。第1の領域に採用される構造は所望の表示色を得るためには高さ(深さ)の制御を厳密に行うことが必要であり、これらの装置はその要求を満たすことができる。近年の電子線描画装置やレーザー直接描画装置は装置の高性能化が進み、照射される荷電粒子ビームの安定性も高くエネルギー照射量やエネルギー密度は同一設定で略同一の値となるが、装置の使用環境(温度や湿度など)のわずかな変化や装置コンディション(長時間動作時など)の影響により変動する可能性はある。しかし、その変動量はわずかであり、同一のパターンを加工する場合、加工されるパターンの形状や深さにはほとんど変化を与えない。
【0110】
一方、切削機器による加工やエッチングを用いる方法でも本特許の表示体の原版を作製することは可能であるが、その場合、高い加工精度が要求され、且つ、適切な材料の選定が重要となる。また、切削機器による加工やエッチングは、第1の領域の構造の作製に加え、第2の領域に形成可能な回折格子、微細凹凸構造による反射防止構造体、光散乱構造体などの作製も困難である。
【符号の説明】
【0111】
1…表示体、13、14、15…領域、16…凸部、17…平坦部、18…反射防止構造体、19…光散乱構造体、20…基材、21…剥離層、22…光透過層、23…光反射層、24…接着層、30…被転写体、31、32、33、37…凹凸構造、35、36、38、39…領域、d…回折格子のピッチ、DL…+1次回折光、DL_r…+1次回折光(赤)、DL_g…+1次回折光(緑)、DL_b…+1次回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β…射出角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角、Ra…算術平均粗さ、Sm…凹凸の平均間隔、lr…基準長さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙幣、商品券及び小切手などの有価証券類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
回折格子により入射光(白色光)が虹色に輝く分光色に変化する原理については、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0005】
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版を母型として、そこから複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び特許文献2には、回折格子が虹色に輝く分光色を表示することを利用して、回折格子の格子角度や格子間隔(格子ピッチ)を適宜変化させて絵柄を表示させることが記載されている。格子角度や格子間隔が異なる複数の回折格子構造によって形成される表示体は、観察者の位置や光源の位置が変化することで、観察者の目に到達する回折光の波長が徐々に変化し、それにより、虹色に変化する画像を表現することができる。
【0006】
また、これらの文献には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、非特許文献2には、二光束干渉を利用して回折格子を形成する方法が記載されている。レリーフ型回折格子の製造では、通常、このようにして得られた原版を用い、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。
【0007】
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルムやシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0008】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。
【0009】
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0010】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
【0011】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】辻内順平編著「ホログラフィックディスプレイ」 産業図書株式会社
【非特許文献2】辻内順平著「ホログラフィー」 丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述のような問題を解決したものであり、その目的は、高い偽造防止効果を発揮する表示体及びラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために第1の発明は、基材と、前記基材の一方の面側に設けられた光透過性の剥離層と、前記剥離層の基材と反対側の面上に設けられた光透過性の凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する光反射層と、前記光反射層の凹凸構造形成層が設けられた面と反対側に設けられた接着層を備えた表示体であって、前記凹凸構造形成層は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された第1の領域を少なくとも一つ備えており、前記複数の凸部または凹部は、前記第1の領域内に整然配置され、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下であり、前記第1の領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下、であることを特徴とする表示体である。
【0016】
また、第2の発明は、請求項1記載の表示体の接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体で、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする表示体である。
【0017】
また、第3の発明は、前記第1の領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上且つ10μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の表示体である。
【0018】
また、第4の発明は、請求項1記載の表示体の接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体で、前記被転写体が領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが0.02μmを超え且つ2.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であることを特徴とする表示体である。
【0019】
また、第5の発明は、構造や光学的な性質が前記第1の領域と異なる第2の領域に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つが形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成とすることによって、第1の発明によると、上面が基材面と略平行である複数の凸部、または底面が基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された第1の領域によって、照明光の入射に応じて複数の波長の光から構成される色を表示可能な表示体が得られる。この表示体はレリーフ型の回折格子パターンのように照明の位置や観察者の位置の変化に応じて虹色に色変化することがなく、従来の回折格子を利用した偽造防止媒体とは異なる視覚効果を実現できる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0021】
また、第2の発明によると、表面粗さが大きい被転写体で、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満とすることで、回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、通常の印刷物や回折格子パターンとは異なる視覚効果を実現することができる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0022】
また、第3の発明によると、第1の領域を二つ以上備えており、少なくとも一つの領域において、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上且つ10μm以下であり、その他の領域において、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満とし、これらの領域により表示画像として潜像パターンを形成することで、表面粗さが確認できる領域と確認できない領域により、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0023】
また、第4の発明によると、被転写体が領域を二つ以上備えそれら領域で異なる表面粗さとし、これらの領域により表示画像として潜像パターンを形成することで、表面粗さが確認できる領域と確認できない領域により、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0024】
また、第5の発明によると、表示体に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のいずれかから成る第2の領域を設けることで表示体の意匠性をさらに高めることができるとともに、さらに高い偽造防止効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る表示体を概略的に示した平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図。
【図3】図2の転写箔を被転写体に転写した構成例を示す拡大断面図。
【図4】ピッチが狭い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図。
【図5】ピッチが広い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図。
【図6】本発明の実施形態に係る表示体の第1の領域に採用可能な構造の一例を示す平面図。
【図7】図6のIII −III 線に沿う表示体の拡大断面図。
【図8】回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図。
【図9】第1の領域から射出される回折光の様子を示す図。
【図10】頂部および底部が平坦でない回折格子の一例を示す断面図。
【図11】頂部および底部が平坦でない回折格子の別の一例を示す断面図。
【図12】表面粗さの算術平均粗さRaを示す概略図。
【図13】表面粗さの凹凸の平均間隔Smを示す概略図。
【図14】本発明の表示体を被転写体に転写した一例を示す拡大断面図。
【図15】本発明の表示体を被転写体に転写した別の一例を示す拡大断面図。
【図16】本発明の表示体を被転写体に転写した別の一例を示す拡大断面図。
【図17】表示体の第2の領域に採用可能な構造である反射防止構造体の一例を示す斜視図。
【図18】表示体の第2の領域に採用可能な構造である光散乱構造体の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。表示体1は、基材20と剥離層21と光透過層22と光反射層23と接着層24の積層体を含んでいる。この例においては、光透過層22が凹凸構造形成層である。図2に示す例では、表示体1は被転写体に転写する前の転写箔の状態を示している。
【0028】
また、光反射層23は部分的に設けられていなくてもよく、領域13では反射層23は設けられていない。
【0029】
基材20は、例えば樹脂フィルム又はシートである。支持体12は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料からなる。基材20の剥離層21を支持している主面には、剥離層21の変わりに例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を含んだ離型層が設けられていてもよい。また、基材20は光透過性を有するものであってもよく、光を透過しないものであってもよい。
【0030】
剥離層21は、基材20上に形成されている。剥離層21は、光透過層22の凹凸構造形成層が基材20からの剥離を安定化する役割を果たす。剥離層21は、光透過性を有しており、典型的には透明である。剥離層21は、例えば熱可塑性樹脂からなる。
【0031】
光反射層23としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、光反射層23として、光透過層22とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層23として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。
【0032】
なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、光透過層22と接触しているものの屈折率は、光透過層22の屈折率とは異なっていることが望ましい。光反射層23は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0033】
この光反射層を部分的に設けないようにする方法としては、気相堆積法により光反射層を設けた後、薬品などにより特定の部分のみを溶解させたり、光反射層と光透過性樹脂層との密着力よりも強い接着力をもつ接着材料によって特定部分の光反射層を剥離する方法などがある。また、気相堆積法を行う前に光透過性樹脂層の前面に障壁を設け光反射層が形成されるのを防いだりする方法も用いられる。
【0034】
図1、図2及び図3に示す表示体1は、光透過層22の表面には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略並行な平坦部が配置されて構成された第1の領域を少なくとも一つ備えている。これらの図において、第1の領域14は微小な凹凸が形成された領域であり、第2の領域15は第1の領域14とはその構造や光学的な性質が異なる領域であると定義する。第2の領域15は第1の領域14とは異なる凹凸構造が形成されている領域であってもよいし、構造が形成されていない平坦面から成る領域であってもよい。また、第1の領域14は表示体1に少なくとも1つ以上存在しているが、第2の領域15は表示体1に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。また、構造の異なる複数の領域を組み合わせて表示体としても良い。
【0035】
光透過層22の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸部または凹部が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸部または凹部が設けられた光透過層22を転写成形することができる。
【0036】
図3は、図2示した転写箔を被転写体に転写した構成例を示す拡大断面図である。
【0037】
被転写体30と接着層24を密着し、基材20側から熱と圧力を加え接着する。その後、基材20を剥離層21との界面で剥離することで、表示体1が被転写体30に転写される。
【0038】
被転写体30の材料としては、例えば、紙、PET、ポリカーボネート(PC)である。
【0039】
被転写体30表面には、凹凸構造31を有している。凹凸構造31はごく一般的な紙がもともと持っている凹凸構造であってもよく、被転写体30がPET、ポリカーボネートなどの場合には、エンボス加工などにより、凹凸構造31を形成してもよい。
【0040】
(第1の領域の説明)
本発明に係る第1の領域について説明するにあたり、まず、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、照明光入射角及び回折光の射出角との関係について説明する。
【0041】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対応して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0042】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記の式1から算出することができる。
【数1】
【0043】
式1において、dは回折格子の格子定数(格子周期,ピッチ)を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0044】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0045】
ピッチdの回折格子に対する照明光入射角及び+1次回折光の射出角の関係を図4に示す。照明光が複数の波長成分を含む白色光である場合、回折光の射出角は波長によって異なる。それによって太陽や蛍光灯などの白色照明光源下で回折格子を観察すると、白色光が分光し、単一波長の光が別々の角度に射出され、観察する角度によって虹色に見える。
【0046】
図4では点光源LSから白色光IL(ここでは、白色光を構成する波長成分はR、G、Bの3波長であると仮定する)が入射し、回折格子GRによって波長成分Rの回折光DL_r、波長成分Gの回折光DL_g、波長成分Bの回折光DL_bに分光する様子を示している。このとき、波長成分Rの回折光の射出角β_rと、波長成分Gの回折光の射出角β_gと、波長成分Bの回折光の射出角β_bは、波長毎に異なる値を取る(図4では、DL_rの射出角のみβ_rとして記載している)。他の次数の回折光についても式1によって導出される角度に射出されるが図4への記載は省略する。
【0047】
図5は本発明の表示体が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図であり、図4と比較してより広いピッチの回折格子に白色光が入射した際に+1次回折光を射出する様子を概略的に示している。ピッチdが大きい場合、式1から明らかなように、狭いピッチの回折格子と比較して回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、また、分光した単一波長の光同士の射出角の差は小さくなる。式1から明らかなように回折格子が一定の屈折率分布をもつ媒質中(例えば空気中など)にある場合は回折光の射出角は入射する照明光の入射角、波長と、回折格子のピッチにより一意に定まる。
【0048】
次に、回折格子のピッチ及び照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0049】
ピッチdの回折格子に対してαの入射角で入射した照明光は、式1に基づいて角度βの方向に回折光を射出する。この際、波長λの光の射出強度、すなわち回折効率は、回折格子のピッチや高さ等によって変化し、式2によって導出される。
【数2】
【0050】
ここで、ηは回折効率(0〜1の値をとる)、rは回折格子の高さ、Lは回折格子の格子線幅、dは格子線のピッチ、θは照明光の入射角、λは入射光及び回折光の波長である。なお、この式2は、凹凸構造から成る浅い矩形回折格子について成り立つものである。
【0051】
式2から明らかなように回折効率は回折格子の高さrや格子線のピッチd、入射光の入射角θや波長λによって変化する。また、実際には回折効率は回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0052】
次に、第1の領域の構造と光学的性質について説明する。
【0053】
第1の領域は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成されており、前記複数の凸部または凹部は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下であり、前記凸部または凹部は、整然配置または非整然配置され、前記領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下である。
【0054】
ここで、凸部または凹部のもっとも長い部分を長辺、もっとも短い部分を短辺と定義する。すわなち、凸部または凹部は0.3μm以上且つ10μm以下の辺を有する矩形に内包される形状である。例えば凸部が真円形状であった場合、長辺と短辺は同値となる。楕円や長方形の場合、長軸側が長辺、短軸側が短辺となる。
【0055】
図6は、本発明の表示体の第1の領域に採用可能な構造の一例を示す平面図であり、図1の表示体1上に設けられた第1の領域14を部分拡大した平面図である。図7は図6のIII−III線に沿った断面図である。円形の凸部16は第1の領域14内において所定の方向(一点鎖線で示したAやB、C)に対して整然配置されている。
【0056】
なお、上述の整然配置とは、凸部または凸部が均等な間隔、または規則性を持った配列をなしていることを指し、例えば、正方格子、矩形格子又は三角格子をなしている。これら凹部又は凸部の配列を制御することにより、迷光の少ない回折光が得られるという利点がある。
【0057】
凸部または凹部の形状の他の例としては、楕円形や八角形、星型、十字等の多角形を任意に採用することができる。また、第1の領域内に形状の異なる凸部または凹部が混在していてもよい。
【0058】
図8は、回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図である。図8に示したようなy軸に平行な方向に規則的に形成された複数の格子線から成る回折格子GRでは、照明光ILが入射した際に、y軸(格子線の長手方向)と直交する方向(x軸方向)に回折光DL_r、DL_g、DL_bが射出される。
【0059】
一方、図9は、本発明を採用した表示体から射出される回折光の様子を示す概略図であり、図6で示されるような構造に照明光が入射すると、第1の領域14に形成された複数の凸部16とその周囲の平坦部17による周期性を伴う凹凸構造によって、回折光を射出する。図6のように凸部16が第1の領域14内でお互いに離間して整然配置されている構造においては、x軸方向にとどまらずXY平面上の多くの方位角に対して回折光が射出される。ここで射出される回折光は、図8に示したような回折格子に垂直上方から光が入射した時と同様に、入射光に近い側に波長の長い回折光DL_rが射出され、入射光から遠ざかる方向にDL_g、さらに、DL_bが射出される。図9においては、光が第1の領域の1点に入射した状態を図示しているが、実際には、光は一点への入射ではなく、面状に第1の領域に入射する。
【0060】
複数の凸部16は互いに接触しないように第1の領域14内に整然配置されている。図6において凸部16の直径は約1μmとする。ここで、図6の一点鎖線Aや一点鎖線Bで示した方向について考えると、複数の凸部16によってピッチ約1.4μmの回折構造が形成されていると見なすことができる。ここで、白色照明光源が表示体の垂直上方に備えられているとし、表示体の表面に対して垂直(入射角α=0°)方向から白色照明光が入射しているとすると、例えば白色照明光のうちの波長630nmの光は式1によって角度β≒26.7°で+1次回折光として射出される。また、波長540nmの光は角度22.7°、波長460nmの光は角度19.2°となる。他の方向(例えば一点鎖線C)についても、複数の凸部16の周期性によって式1に基づいて回折光が射出される。また、通常、太陽や蛍光灯などの照明光源はある程度の面積をもっているので、回折構造に対して斜めの方向からも光が入射する。例えば白色照明光源からの光がα=1.0°の角度から回折構造に入射したとすると、+1次回折光はそれぞれ波長630nmの光を角度β≒25.7°、波長540nmの光を角度β≒21.6°、波長460nmの光を角度β≒18.2°の方向へと射出する。
【0061】
換言すると、実際には入射光となる照明光源は通常ある程度の面積をもっているので、定点において観察者が観察する光はある程度の範囲の波長の光が合わさったものとなり、その結果複数の波長の光による色が観察されることになる。
【0062】
このように照明光源からの光が表示体の表面に入射し、表示体の凹凸構造形成層によって入射光が回折し、観察者が目視によってその光を知覚できるような条件を「通常の照明条件下」と定義する。例えば、一般的な室内で蛍光灯等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が目視によって表示体を観察する条件や、室外で太陽光等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が表示体を観察するような条件が「通常の照明条件下」に相当する。ここで「通常照明光」は、室内における蛍光灯や屋外における太陽光等の照明光を指す。
【0063】
また「通常の照明条件以外の条件下」は観察者が回折光を知覚できないような条件を示す。例えば、照明光からの光が表示体の表面に略水平に、すなわち急な角度で入射し、表示体の凹凸構造形成層から回折光が射出しないような条件や、表示体の凹凸構造形成層から回折光が射出しても、その回折光が到達しないような角度から観察者が表示体を目視したような条件が「通常の照明条件下以外の条件下」に相当する。
【0064】
ここで、式2で示すとおり、回折構造から射出される回折光は波長に応じて光量、すなわち回折効率が変化する。特に、回折格子の格子線幅L及び、格子線のピッチdを一定と仮定すると、回折効率ηは回折格子の高さr(凸部の高さもしくは凹部の深さに相当する)と照明光の波長λによって一意に決定される。
【0065】
そのため、表示体(第1の領域)を定点から観察した場合において、可視光の波長成分が均等には目に届かず、第1の領域に設けられた凸部の高さ(または凹部の深さ)に応じて特定の波長の光の回折効率が低くなり、結果として観察者に届く光は、入射した白色照明光のうちの、特定の波長成分が弱くなった光となる。よって、観察者は第1の領域を観察した際に、光量に差がある複数の波長の光を知覚することになる。表示体上に設けられた複数の第1の領域ごとに、それぞれ凸部(または凹部)を異なる高さ(または深さ)で形成することでそれぞれの領域を観察した際に異なる色を表示することが可能になる。
【0066】
例えば、ある高さの凸部が設けられた第1の領域を観察した際に、青(波長460nm)の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が赤(波長630nm)及び緑(波長540nm)であったとすると、観察される色は黄色であり、別の高さの凸部が設けられた別の第1の領域を観察した際に、赤の波長成分の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が緑及び青であったとすると、観察される色はシアン(うすい水色)となる。
【0067】
これらの色は回折光が到達しないような位置に観察者がいる場合は観察することができない。それにより通常の印刷物とは異なり、照明光源や観察者の位置によって表示色が知覚できる状態とできない状態の2つの状態を実現することができる。これが、多くの範囲でほぼ同じ色が知覚できる通常の印刷物とは異なる点である。
【0068】
従来の偽造防止を目的とした回折格子による表示体では、回折格子の加工精度が十分でなく、図2や図3、図7に示したような理想的な矩形の断面形状になっておらず、図10の断面図のように正弦波状の断面形状であったり、図11の断面図のように、凸部構造の頂部や平坦部がでこぼこになってしまっているのが一般的である。そのため、式2で示したような波長ごとに構造の高さ(深さ)に応じて回折効率が変化する作用がおきにくくなる。すなわち、各波長の回折効率の差が少なくなるため、観察者がいる定点に到達する光は白色照明光源から射出されるあらゆる波長の光が、強弱がつかずに到達してしまい、観察者が知覚できる色は白色に近い色となり彩度の高い色の表示が難しくなる。いわゆる磨りガラスのような高さや形状が揃っていない微小な凹凸構造に白色の照明光が入射すると、光が散乱し白色に知覚されるのがその一例である。
【0069】
一方、本発明の第1の領域に採用される構造は、1つの第1の領域内において、凸部の高さ(または凹部の深さ)が略同一で、且つ、基材面と略平行であるので、特定の波長の光の回折効率の低下を防ぎ、別の特定の波長の光の回折効率を低下させる効果があるため、彩度の高い色を表示させることが可能になる。
【0070】
また、本発明の第1の領域に採用される構造は、図9で示したようにXY平面上の多くの方位角に対して回折光を射出するので、光源の位置や観察する向きが多少変化しても、複数の波長から構成される色を観察可能である。このため、従来の回折格子のように表示色が虹色に変化してしまう現象を回避または低減することができる。
【0071】
図12は、表面粗さの算術平均粗さRaを示す概略図である。被転写体30の凹凸構造31の高さ方向のパラメータで、JIS B0601−1994によると、Raは、基準長さlrにおけるZ(x)の絶対値の平均であり、式3によって算出される。
【数3】
【0072】
図13は、表面粗さの凹凸の平均間隔Smを示す概略図である。被転写体30の凹凸構造31の横方向のパラメータで、JIS B0601−1994によると、Smは、基準長さlrにおける輪郭曲線要素の長さXsの平均で、式4によって算出される。
【数4】
【0073】
次に、図14は、本発明の表示体を被転写体に転写した一例を示す拡大断面図である。
凹凸構造31は被転写体30の表面形状を拡大して表示している。ここでは被転写体30に、接着層24、光反射層23、光透過層22、剥離層21が積層されている。つまり、接着層24によって表示体1が転写された状態である。
【0074】
ここで、被転写体30の凹凸構造31の、JIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、3.3μm、凹凸の平均間隔Smは、390μmとなっている。また、光透過層22には、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成されており、ここでは、前記複数の凸部または凹部からなる凹凸構造32は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ1μmである。
【0075】
ところで、回折光の射出に寄与する光反射層23と、光透過層22の凹凸構造32を設けた面は、転写によって被転写体30の凹凸構造31の影響により、平面ではなく凹凸構造31に沿った形状となってしまう。光反射層23については膜厚が非常に薄いため、光透過層22の形状とほぼ等しいものとなる。ここで、凹凸構造31の表面粗さが小さい場合には、影響は小さく、光透過層22の凹凸構造32を設けた面は、平面に近い形状となる。
【0076】
ここで、凹凸構造32の長辺及び短辺の長さが、十分に小さい場合には、凹凸構造32が被転写体30の凹凸構造31の影響を受けても、回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、凹凸構造32の長辺及び短辺の長さが、大きい場合には、凹凸構造32の回折光を観察したときに表面の粗さを確認し易くなる。
【0077】
被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく、算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、凹凸の平均間隔Smが130μmを超え1300μm以下である場合に、凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上1.5μm未満である場合に、回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上10μm以下である場合に、回折光を観察したときに表面の粗さを確認し易くなる。
【0078】
図14に示した条件では、凹凸構造32の回折光を観察したときに表面の粗さが確認しにくくなり、被転写体30の凹凸構造31の影響を受けにくく、通常の印刷物や回折格子パターンとは異なる視覚効果を実現することができる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0079】
ところで、上面が基材面と略平行である複数の凸部または底面が基材面と略平行である複数の凹部と、基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された構造で、複数の波長の光から成る色を観察できるようにするためには、整然配置された構造の場合は1.5〜10μm程度のやや大きめの構造とするほうがよい。大きな構造の場合は、式1から明らかなように各波長に対する回折光の射出角の差が小さいため、照明光源や観察者の位置が変化しても、表示色がいわゆる虹色に変化せず複数波長の光による色が安定して観察できる。しかし、被転写体の表面粗さの影響は大きくなる。
【0080】
一方で、凸部または凹部を0.3〜1.5μm程度のやや小さめの構造として、小さな構造が小さな配置間隔で形成されている場合、式1から明らかなように回折光の射出角が大きくなる。そのため、虹色に色変化しやすくなるが、観察者のいる定点に複数の波長の光が到達しやすくできる。また、複数の光による表示色が広い範囲で観察できるという利点がある。このため、被転写体の表面粗さの影響も受けにくくなる。
【0081】
また、第1の領域の一辺の長さは300μm以下とすると良い。一辺の長さが300μm以下の第1の領域を整然配置することで、表示体を肉眼で観察した際に、各々の第1の領域の形状が認識されるのを防ぐことができ、解像度が高く高精細な画像を表現することが可能になる。ここで、第1の領域の一辺とは、第1の領域の最大の長さの辺を示すものとする。
【0082】
第1の領域に採用可能な凸部または凹部の長辺及び短辺の長さはそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下である。この範囲の大きさの構造であれば可視光を十分に回折することができる。0.3μmより小さい場合、加工が困難になるとともに可視光を射出しにくくなり反射防止構造体として機能しやすくなる。また、10μmより大きい場合、回折しにくくなるのと同時に、照明光の入射した方向の近くに回折光が射出されるため、複数の波長の光による色を観察しにくくなる。
【0083】
また、第1の領域内における凸部または凹部の占有面積は20%以上且つ80%以下であることが好ましい。式2から、凸部または凹部の幅(式2の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分であるときに回折効率ηが最も高くなる。よって、凸部または凹部の占有面積は50%程度のときが最も明るい表示画像が得られもっとも望ましく、20%以上且つ80%以下程度であれば、50%から離れるにしたがって回折効率が低下し表示画像が暗くなっていくものの、十分に複数の波長の光から成る表示画像を視認することができる。なお、占有面積が20%及び80%のときの回折効率は、式2より、50%のものの約3割程度の明るさとなる。
【0084】
凸部または凹部の占有面積が20%より小さい、もしくは80%より大きい場合には、十分な明るさが得られず、十分なアイキャッチ効果を得ることが難しくなる。
【0085】
また、凸部の高さ、または凹部の深さは0.1μm以上且つ0.5μm以下の範囲であることが好ましい。式2において、ピッチd、格子線幅Lを一定と仮定した場合、可視光の範囲の波長の光が入射角θ(0°より大きく90°未満の範囲)で入射すると、回折効率が最も高くなる凸部の高さ、または凹部の深さの値は前記0.1μm以上且つ0.5μm以下の範囲内にある。なお、式2から、回折効率が最も高くなる条件は、それよりも大きい値であっても繰り返し訪れるが、製造上、凸部の高さまたは凹部の深さは極力浅い方が作製が容易であるのでより浅い値で高い回折効率が得られる0.1μm以上且つ0.5μm以下の条件が望ましい。
【0086】
なお、凸部の高さ、または凹部の深さが0.1μmより浅い場合は製造時の外的要因(機械や環境のコンディションの変動や材料組成のわずかな変化等)により安定して同じ品質のものを作製するのが難しくなり、0.5μmより深い場合は、細かく深い構造を精密に転写成形するのが難しくなる。
【0087】
次に、図15は、本発明の表示体を被転写体に転写した別の一例を示す拡大断面図である。
図14と同様に被転写体30に、接着層24、光反射層23、光透過層22、剥離層21が積層されている。ここで、被転写体30の凹凸構造31の、JIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、3.3μm、凹凸の平均間隔Smは、390μmとなっている。また、光透過層22は領域35と領域36に分かれ、それぞれの領域での凹凸構造33と凹凸構造34は、長辺及び短辺の長さがそれぞれ異なり、凹凸構造33は1μmで、凹凸構造34は2μmである。
【0088】
このため、図15で示した表示体1の領域35にあたる凹凸構造33の回折光を観察したときには表面の粗さが確認しにくくなり、領域36にあたる凹凸構造34の回折光を観察したときには表面の粗さを確認することができる。
【0089】
ここで、領域35と領域36を用いて文字や記号などを構成し、表示画像として潜像パターンを形成することで、通常の状態で回折光が再生されないときには確認することができず、回折光が再生される照明光源で観察する場合に、文字や記号などを確認することができる。これにより、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0090】
次に、図16は、本発明の表示体を被転写体に転写したさらに別の一例を示す拡大断面図である。
図15と同様に被転写体30に、接着層24、光反射層23、光透過層22、剥離層21が積層されている。ここで、被転写体30の凹凸構造31は領域38と領域39に分かれ、領域38でのJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、3.3μm、凹凸の平均間隔Smは、390μmであり、領域39でのJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaは、0.5μm、凹凸の平均間隔Smは、70μmとなっている。また、光透過層22の凹凸構造37の、長辺及び短辺の長さが2μmである。
【0091】
このため、図16で示した表示体1では、領域39の凹凸構造37からの回折光を観察したときには表面の粗さが確認しにくくなり、領域38の凹凸構造37からの回折光を観察したときには表面の粗さを確認することができる。
【0092】
ここで、領域38と領域39を用いて文字や記号などを構成し、表示画像として潜像パターンを形成することで、通常の状態で回折光が再生されないときには確認することができず、回折光が再生される照明光源で観察する場合に、文字や記号などを確認することができる。これにより、特定の照明条件下では潜像パターンが知覚される表示体が得られる。
【0093】
被転写体30に領域を設けて、凹凸形状を変化させる方法としては、金属の板に凸部分をパターニングした板を作成し、被転写体である紙などに加熱、加圧して凸部分の形状で紙の表面を平坦化する方法などがある。
【0094】
また、その他の方法としては、被転写体の紙に樹脂をスクリーン印刷法などを用い、パターニングして塗工し、紙に含浸させて凹凸構造を埋めるようにし、そこの部分を平坦化するような方法などがある。
【0095】
(第2の領域の説明)
次に、第2の領域について説明する。
第2の領域15は第1の領域14とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2の領域15は第1の領域14とは異なる凹凸構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。また、第2の領域15は表示体1に複数存在していてもよい。
【0096】
第2の領域15に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は、典型的には図8の斜視図に示したような線状の凹凸構造(格子線)が繰り返し形成されたものであり、ピッチ0.5〜1μm程度、構造の高さ0.1〜0.5μm程度が典型的な仕様である。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。
【0097】
また、第2の領域15に採用可能な別の構造として、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体が挙げられる。反射防止構造体は、図17の斜視図に示したような円錐状の構造である反射防止構造体18や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高いほうがより反射防止機能が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0098】
また、第2の領域15に採用可能な構造として、光散乱構造体が挙げられる。光散乱構造体は、図18の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状である光散乱構造体19が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光の回折や吸収が起きにくく、光を散乱する効果が得られる。
【0099】
また、第2の領域15は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。第2の領域15を平坦面とすると、第2の領域15は光反射層23によって鏡面のように見える。
【0100】
第2の領域15と第1の領域14を組み合わせることによって表示体の意匠性を向上させることができ、また偽造防止効果のさらなる向上を図ることができる。第2の領域には、第1の領域とは異なる光学特性を発揮する前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0101】
(表示体の原版の作製方法)
次に、本発明の表示体の原版の作製方法を説明する。
本発明の表示体の原版は、従来のレリーフ型回折格子の作製プロセスと同様に、フォトリソグラフィの工程を利用して作製することができる。電子線やレーザー等の荷電粒子ビームによって平面状の基板(ガラス基板が一般的に用いられる)に略均一に塗布された感光性レジストを露光し、現像することで所望の凹凸形状を得る。感光性レジストがポジ型レジストと呼ばれるものであれば、荷電粒子ビームが照射された部分が現像後溶解し、ネガ型レジストと呼ばれるもので有れば、荷電粒子ビームが照射された部分が現像後に残り、照射されていない部分が溶解する。基板は、高精度に位置調整が可能なXYステージ上に載置され、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら荷電粒子ビームが照射される位置が決定される。
【0102】
このようにして得られた基板は、感光性レジストによる凹凸構造は脆く、量産用のスタンパとしては適さないので、この基板を原版として、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。電鋳とは、電鋳の対象物を所定の水溶液中に浸し、通電することで電子の還元力により、金属皮膜を形成する表面処理技術の一種であり、このような方法を用いることで、原版の表面に設けられた微細な凹凸構造を精度良く金属版として転写成形することができる。電鋳の対象物の表面は通電可能である必要があり、一般に感光性レジストは電気を通さないので、電鋳を行う前にスパッタリングや真空蒸着等の気相堆積法により、構造の表面に金属薄膜があらかじめ設けられる。
【0103】
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、凹凸構造を複製する。即ち、まず、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルからなる透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、凹凸構造を複製することができる。
【0104】
一般に、基材や形成用の樹脂材料は透明である。従って、通常、凹凸構造を設けた樹脂層(凹凸構造形成層)上には、蒸着等によりアルミニウム等の金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0105】
また、原版の作製方法としては、フォトリソグラフィの工程だけでなく、先端が微細なダイヤモンドバイト等の切削機器による加工や、エッチングによって金属等の表面を腐食させる工程等も採用することができる。このような方法を用いると、直接金属板の表面を加工することも可能であり、その場合、電鋳等の方法による金属製スタンパの作成を行うことなく、直接金属スタンパを得ることができる。
【0106】
荷電粒子ビームを基板上に塗布された感光性レジストに照射して凹凸形状を加工する方法では、近接効果と呼ばれる現象が発生する。近接効果とは、加工される凹凸形状の大きさや、単位面積当たりのビームが照射される面積の割合によって、形状の寸法や深さが狙いとする寸法や深さからわずかに変動してしまう現象のことである。例えば、あるエネルギー量で1mm角の面積で深さが0.1mmの凹構造が加工できる条件で、0.5mm角の面積を加工しても、0.1mmの深さは得られず、それよりやや浅い凹構造になってしまう。これは、荷電粒子ビームがレジスト内で散乱する現象が影響している。この現象には大きく分けて前方散乱と呼ばれる現象と、後方散乱と呼ばれる現象がある。前方散乱は、荷電粒子ビームがレジスト内に侵入する際に起こるもので、荷電粒子ビームが広がり、照射された面積より広い領域に荷電粒子ビームの影響を与えるものである。一方、後方散乱は、感光性レジストを通過し、感光性レジストの下面にある基板の表面もしくは裏面などで反射した荷電粒子ビームにより、感光性レジストに影響を与えるものである。これらの散乱したビームの影響はビームのエネルギー量や加工されるパターンの形状、深さによってその大小は様々である。また、この近接効果の影響は使用する感光性レジストの材料組成や塗工された膜厚によっても変化する。
【0107】
そのため、第1の領域に設けられる凸部または凹部を原版に形成する際には、領域の面積や凸部または凹部の大きさ、配置密度などによって近接効果の影響度が変化し、狙いとする高さ(深さ)の構造が得られないおそれがある。第1の領域は、その内部に設けられた凸部(または凹部)の高さ(または深さ)によって通常の照明条件下における表示色が決定されるので近接効果が与える影響を考慮した上で精度よく構造を加工する必要がある。
【0108】
逆に、第三者が高精度な荷電粒子ビームを用いた加工機を用いたとしても、完全に同一な形状が形成された原版を偽造することは極めて難しく、同一の表示色を得るのは困難であり、偽造防止効果は非常に高い。
【0109】
荷電粒子ビームを用いた加工機としては、電子線描画装置、またはレーザー直接描画装置が望ましい。これらの装置は、加工速度が速く、XYステージの位置精度等も高いため、高精度に所望の凹凸パターンを作成することが可能である。また、近接効果の影響を軽減するよう、実験結果をもとに補正をかける機能が備わっているものもある。第1の領域に採用される構造は所望の表示色を得るためには高さ(深さ)の制御を厳密に行うことが必要であり、これらの装置はその要求を満たすことができる。近年の電子線描画装置やレーザー直接描画装置は装置の高性能化が進み、照射される荷電粒子ビームの安定性も高くエネルギー照射量やエネルギー密度は同一設定で略同一の値となるが、装置の使用環境(温度や湿度など)のわずかな変化や装置コンディション(長時間動作時など)の影響により変動する可能性はある。しかし、その変動量はわずかであり、同一のパターンを加工する場合、加工されるパターンの形状や深さにはほとんど変化を与えない。
【0110】
一方、切削機器による加工やエッチングを用いる方法でも本特許の表示体の原版を作製することは可能であるが、その場合、高い加工精度が要求され、且つ、適切な材料の選定が重要となる。また、切削機器による加工やエッチングは、第1の領域の構造の作製に加え、第2の領域に形成可能な回折格子、微細凹凸構造による反射防止構造体、光散乱構造体などの作製も困難である。
【符号の説明】
【0111】
1…表示体、13、14、15…領域、16…凸部、17…平坦部、18…反射防止構造体、19…光散乱構造体、20…基材、21…剥離層、22…光透過層、23…光反射層、24…接着層、30…被転写体、31、32、33、37…凹凸構造、35、36、38、39…領域、d…回折格子のピッチ、DL…+1次回折光、DL_r…+1次回折光(赤)、DL_g…+1次回折光(緑)、DL_b…+1次回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β…射出角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角、Ra…算術平均粗さ、Sm…凹凸の平均間隔、lr…基準長さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面側に設けられた光透過性の剥離層と、
前記剥離層の基材と反対側の面上に設けられた光透過性の凹凸構造形成層と、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する光反射層と、
前記光反射層の凹凸構造形成層が設けられた面と反対側に設けられた接着層と
を備えた表示体であって、
前記凹凸構造形成層は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された第1の領域を少なくとも一つ備えており、
前記複数の凸部または凹部は、前記第1の領域内に整然配置され、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下であり、前記第1の領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下、であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体であって、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1の領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上且つ10μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体であって、前記被転写体が領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが0.02μmを超え且つ2.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項5】
前記第1の領域と構造や光学的な性質が異なる第2の領域に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つが形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面側に設けられた光透過性の剥離層と、
前記剥離層の基材と反対側の面上に設けられた光透過性の凹凸構造形成層と、
前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する光反射層と、
前記光反射層の凹凸構造形成層が設けられた面と反対側に設けられた接着層と
を備えた表示体であって、
前記凹凸構造形成層は、上面が前記基材面と略平行である複数の凸部、または底面が前記基材面と略平行である複数の凹部と、前記基材面と略平行な平坦部が配置されて構成された第1の領域を少なくとも一つ備えており、
前記複数の凸部または凹部は、前記第1の領域内に整然配置され、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ10μm以下であり、前記凸部または凹部の高さは、0.1μm以上且つ0.5μm以下であり、前記第1の領域内における凸部または凹部の占有面積が20%以上且つ80%以下、であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体であって、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1の領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ1.5μm以上且つ10μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記凸部または凹部の長辺及び短辺の長さがそれぞれ0.3μm以上且つ1.5μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記接着層を、被転写体に接触させ、加熱加圧することで熱転写し、前記基材と前記剥離層との界面で前記基材を剥離する表示体であって、前記被転写体が領域を二つ以上備えており、前記二つ以上の領域のうち少なくとも一つの領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが2.0μmを超え且つ10.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であり、且つ、その他の領域において、前記被転写体の表面のJIS B0601−1994に基づく算術平均粗さRaが0.02μmを超え且つ2.0μm以下であり、且つ、JIS B0601−1994に基づく凹凸の平均間隔Smが130μmを超え且つ1300μm以下であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項5】
前記第1の領域と構造や光学的な性質が異なる第2の領域に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦部のうち少なくとも一つが形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−198431(P2012−198431A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63165(P2011−63165)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]