説明

表示基板の欠陥修正方法

【課題】 異物によるリーク欠陥ならびにショート欠陥等の電気的欠陥を高い確率で修正することにある。
【解決手段】 透明基板11上に透明陽極12a、正孔輸送層12b、有機発光層12c、電子輸送層12dおよび陰極12eで構成された有機EL多層膜12と、有機EL多層膜12を封止するキャップ部材13とで構成され表示基板において、混入される導電性異物2の近傍にレーザー光を照射し,貫通穴14aを形成し導電性異物2を有機EL多層膜12の外に排出する表示基板の欠陥修正方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL装置の電気的欠陥を修正する表示基板の欠陥修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型ディスプレイとして着目される有機EL装置は,有機物質からなる発光層の両サイドに電極を配置し,一方の電極は正孔を注入する陽極、もう一方の電極は電子を注入する陰極とし、発光層に電荷を注入することで発光させている。このような電極は,発光した光を取り出すことから、一方が透明である必要がある。そのため、通常、陽極には透明金属酸化物を用い,陰極は金属電極とすることが多い。このように有機EL装置は化学的及び物理的物性の異なる数種の膜からなる多層構造体となっている。
【0003】
ところで、有機発光層や電極材料は非常にうすい薄膜であり,両電極間に異物が混入すると電気的欠陥が発生する。特に混入した異物が導電性である場合,ごく微小な異物でも両電極間の電位差が低くなるため,画素が発光しなくなることがある。異物の混入により発光しなくなった画素は不良画素となり、規定数を超えたときには結果として有機EL装置自体が不良となる。その結果、異物は有機EL装置の収率を落とす大きな要因になっている。
【0004】
通常、有機EL装置は、降下する異物に対してコントロールされたクリーンルーム内で製造されるが,どのような対策を講じても異物を全く無くすことは事実上不可能である。また、有機EL装置の製膜工程で入り込んだ異物を取り除くことも困難である。
【0005】
そこで、有機EL装置の製膜後、混入された異物に細工を施して不良画素を再点灯させる技術が提案されている。このような非点灯画素を再点灯させる技術は、修正技術もしくはリペア技術と呼ばれている。
【0006】
従来、異物に起因する不良画素の修正方法としては、点灯不良の原因となる異物に対して、当該異物を消滅させるだけのエネルギーを持つレーザー光を照射する技術が知られている。しかし、この修正方法は、最適な条件でレーザー光を照射しないと有機EL装置を構成する多種の膜に大きなダメージを与える可能性がある。
【0007】
そこで、有機EL装置に関して、幾つかの欠陥修正方法が確立されている。
その1つの欠陥修正方法は、レーザー光の照射による欠陥修正の際、修正対象となる画素の近傍正常画素にまでレーザー光によるダメージが及ばないような工夫を講じた有機EL装置が提案されている(特許文献1)。
【0008】
また、他の欠陥修正方法としては、異物に直接レーザー光を照射することによりピンホールが発生しないよう、異物周辺にレーザー光を照射して間接的に異物周辺領域を高抵抗化する技術が報告されている(特許文献2)。
【0009】
さらに、有機発光層の製作後、導電性物質が混入している欠陥領域を検出し、その欠陥領域に対して当該欠陥領域周辺の有機発光層が損傷を受けないような超短パルスレーザーを照射して異物を修正する有機発光素子ならびそのリペア装置を提供されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3188678号公報
【特許文献2】特許第4270891号公報
【特許文献3】特開2009−266917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1による欠陥修正技術は、異物混入の画素の近傍正常画素にまでレーザー光によるダメージが及ばないように有機EL装置の構造を決める結果、その有機EL装置の構造設計が制限を受けてしまう問題がある。
【0012】
また、特許文献2のよる欠陥修正技術は、異物周辺にレーザー光を照射することにより異物周辺を高抵抗化するものであるが、異物周辺を均等に高抵抗化することから何度かレーザー光を繰り返し照射したとき、異物の大きさよりも大きな非点灯部位が発生してしまい、また、異物が残存することによる修正成功率が大幅に低下してしまう懸念がある。
【0013】
そこで、以上のような問題を前提としつつ、特許文献3の欠陥修正技術では、超短パルスレーザー光を照射して異物周辺に存在する有機発光層にダメージを与えない技術が提案されている。
【0014】
しかし、超短パルスレーザー光の場合には有機EL装置の多層膜構造の一部を貫通するのみで、レーザー照射で残存する破壊された有機EL多層膜自身や、レーザー照射により消失する異物や多層膜の反応生成物が有機EL多層膜の外に排出されることがないので、修正後の残存物が再び電気的欠陥を引き起こす可能性があり、欠陥の修正による成功率の向上には至っていない。
【0015】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであって、表示基板の多層膜に混入する異物によるリーク欠陥ならびにショート欠陥等の電気的欠陥を高い確率で修正できる表示基板の欠陥修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する発明は、透明基板上に、少なくとも陽極、発光層及び陰極を積層してなる多層膜を、外部空間と遮蔽するように封止部材で封止した表示基板において、前記多層膜中に存在する異物の近傍領域にレーザー光を照射し、前記異物を消去することを特徴とする表示基板の欠陥修正方法である。
【0017】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する発明において、前記多層膜中に存在する異物の近傍領域にレーザー光を照射し、前記異物を含む近傍領域を構成する多層膜に貫通穴を生成することを特徴とする表示基板の欠陥修正方法である。
【0018】
また、請求項2に対応する発明は、請求項1又は請求項2に対応する発明において、前記多層膜中に存在する異物の近傍領域にレーザー光を照射し、前記異物を多層膜外に排出することを特徴とする表示基板の欠陥修正方法である。
【0019】
なお、前記貫通穴としては、前記発光層及び前記陰極に連なる空洞領域が形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、前記レーザー光としては、532nm以下の波長を有するレーザー光で照射し、貫通穴を形成することを特徴とする。
【0021】
さらに、前記封止部材としては、前記陰極と外部空間とを遮蔽するように少なくとも前記陰極を封止キャップで覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機EL装置等の表示基板を構成する多層膜に混入した異物によるリーク欠陥ならびにショート欠陥等の電気的欠陥を高い確率で修正することができる上、原因となる異物を完全に多層膜外に排出できる表示基板の欠陥修正方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る表示基板の欠陥修正方法を適用する有機EL装置の一例を示す断面図。
【図2】図1に示す有機EL装置を構成する多層膜に導電性異物が混入した状態を説明する図。
【図3】導電性異物を含む不良画素を上面からみた図。
【図4】本発明に係る表示基板の欠陥修正方法によって導電性異物が気化され、有機EL多層膜から排出された状態を示す図。
【図5】本発明に係る表示基板の欠陥修正方法によって導電性異物が破壊され、有機EL多層膜から排出された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る表示基板の欠陥修正方法を適用する有機EL装置1の一実施形態を示す断面図である。
【0025】
この有機EL装置1は、透明基板11の面部に、透明陽極12a、正孔輸送層12b、有機発光層12c、電子輸送層12d及び陰極12eの順序で積層構成された有機EL多層膜12が施されている。
【0026】
さらに、透明基板11の面部に積層された有機EL多層膜12を気密に覆うように封止部材13が施されている。封止部材13は、有機EL多層膜12を封止する断面逆凹状のキャップ型封止材13aと、このキャップ型封止材13の縁端面部を透明基板11の面部に貼り付ける接着剤13bとで構成される。
【0027】
そして、透明基板11と封止部材13とで囲まれた封止空間14には不活性ガスが充填されている。
【0028】
ところで、以上のような有機EL装置1である表示基板において、例えば有機EL多層膜12の製膜等の際に導電性異物が混入することがある。
【0029】
図2は有機EL多層膜12内に導電性異物2が混入されて不良画素101となった有機EL装置(表示基板)1の断面図である。
【0030】
すなわち、有機EL装置1においては、透明陽極12a上に導電性異物2は存在することから、透明陽極12a上に積層された正孔輸送層12b、有機発光層12c、電子輸送層12d及び陰極12eは正常な層構造となっていない。
【0031】
その結果、導電性異物2が透明陽極12aと陰極12eとがリークないしショートして電位差のない状態となり、不良画素101は非点灯状態となる。
【0032】
図3は図2の導電性異物2を含む不良画素101を上面からみた図である。同図において、3は導電性異物2の近傍領域である。
【0033】
次に、本発明に係る表示基板の欠陥修正方法について説明する。
(1) 先ず、導電性異物2の位置を検出する。導電性異物2の位置検出は、自動欠陥検出装置を用いて検出するか、あるいは顕微鏡を用いた目視検査によって検出してもよい。
【0034】
(2) 次に、導電性異物2の近傍領域3にレーザー光を照射する。これにより、導電性異物2の近傍領域3を構成する有機EL多層膜12がレーザー光のエネルギーを受けて気化あるいは破裂し、貫通穴14aが形成される(図4,図5参照)。
【0035】
このとき、導電性異物2は、図4及び図5に示すように、近傍領域3の貫通と同時に気化あるいは破裂し、完全に有機EL多層膜12から排出され、陰極12e上もしくは封止空間14にとどまる。
【0036】
ここで、レーザー光を導電性異物2に直接照射せずに近傍領域3に照射する理由は、導電性異物2は金属であることが多く、1回のレーザー照射で瞬時に気化あるいは破裂されることが困難であり、貫通穴14aを形成することが難しいからである。よって、正常に製膜されている近傍領域3に貫通穴14aを形成し、近傍領域3を構成する有機EL多層膜12が気化もしくは破壊すると同時に導電性異物2自体も有機EL多層膜12の外に排出する為である。
【0037】
なお、照射するレーザー光は、532nm以下の波長が好ましく、これ以上の波長でレーザー光を照射すると熱エネルギーにより予め設定される照射径を超えた過大な貫通穴14aが形成されてしまう。532nm以下の波長でレーザー光を照射するためには、例えばYAGレーザーの第2階調波以上を用いる。
【0038】
また、通常混入される導電性異物2の径が数μm程度であることから、照射レーザー光の径は1〜10μm程度が望ましい。レーザー光を照射する位置は、照射するレーザー径の中心と導電性異物2の径の距離1〜10μmであることが望ましい。
【0039】
レーザー光の照射は、貫通穴14aが形成されれば、陽極12a側から照射してもよいし、陰極12e側から照射してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明に係る表示基板の修正方法に関する実施例について説明する。
先ず、透明ガラス基板11上に、ITO(Indium Tin Oxide)透明電極12a、正孔輸送層12b、有機発光層12c、電子輸送層12d及びアルミ陰極12eの順序で積層することにより有機EL多層膜12を形成した後、この有機EL多層膜12を囲むようにキャップ型封止ガラス13a及び当該キャップ型封止ガラス13aを透明基板11に貼り付けるエポキシ系接着剤13bよりなる封止部材13により、有機EL多層膜12を透明ガラス基板11上に気密に封止し、有機EL装置を製作する。
【0041】
以上のようにして製作された有機EL装置を駆動し、画素の点灯状態を目視にて観察した。このとき、封止空間14には窒素が充填されている。
【0042】
引き続き、有機EL装置1の非点灯画素が存在するか否かに関し、顕微鏡で観察したところ、約1μmの異物2を確認した。
【0043】
そこで、波長が532nmで、かつ4μm径の円形のレーザー光を、異物2の中心から2μm離れた近傍位置が中心となるように陽極側から照射した。
【0044】
その後、有機EL装置1を駆動し、非点灯画素である不良画素101を顕微鏡にて観察すると、不良画素101が点灯することを確認した。
【0045】
以上のような異物2を持った有機EL装置1について、同一条件のもとに合計10回繰り返したところ、100%の成功率が得られた。
【比較例1】
【0046】
実施例1と同様に,先ず,透明明ガラス基板11上に、ITO(Indium Tin Oxide)透明電極12a、正孔輸送層12b、有機発光層12c、電子輸送層12d及びアルミ陰極12eの順序で積層することにより有機EL多層膜12を形成した後、この有機EL多層膜12を囲むようにキャップ型封止ガラス13a及び当該キャップ型封止ガラス13aを透明基板11に貼り付けるエポキシ系接着剤13bよりなる封止部材13により、有機EL多層膜12を透明ガラス基板11上に気密に封止し、有機EL装置を製作した。
【0047】
しかる後、製作された有機EL装置を駆動し、画素の点灯状態を目視にて観察した。このとき、封止空間14には窒素が充填されている。
【0048】
引き続き、有機EL装置1の非点灯画素が存在するか否かに関し、顕微鏡で観察したところ、約1μmの異物2を確認した。
【0049】
そこで、波長が532nmで、かつ4μm径の円形のレーザー光を、異物2の中心と同じ位置が中心となるように陽極側から照射した。このとき、非点灯画素である不良画素101が点灯することを確認した。
【0050】
さらに、異物2を持つ有機EL装置1について、同様に合計10回繰り返し、その成功率を確認したところ、40%の成功率であった。
【比較例2】
【0051】
同じく実施例1と同様の工程にて有機EL装置を製作した後、この製作された有機EL装置を駆動し、画素の点灯状態を目視にて観察した。このとき、封止空間14には窒素が充填されている。
【0052】
引き続き、有機EL装置1の非点灯画素が存在するか否かに関し、顕微鏡で観察したところ、約1μmの異物2を確認した。
【0053】
そこで、波長が1064nmで、かつ4μm径の円形のレーザー光を、異物2の中心から2μm離れた近傍位置が中心となるように陽極側から照射した。このとき、非点灯画素である不良画素101が点灯することを確認した。
【0054】
さらに、異物2を持つ有機EL装置1について、同様に合計10回繰り返し、その成功率を確認したところ、90%の成功率であった。しかし、貫通穴14aは4μmを大きく上回って10μmとなった。
【0055】
以上説明した実施例1と比較例1とから明らかなように、同一条件でレーザー光の照射位置を異物2の近傍領域3とすることにより、修正の成功率が上がっていることが確認できた。また、比較例2においては、成功率が90%と比較的高いものの、貫通穴14aが実施例1に比べて大きくなることが確認された。
【0056】
従って、以上のような実施形態によれば、有機EL装置等の表示基板を構成する多層膜に混入した異物によるリーク欠陥ならびにショート欠陥等の電気的欠陥を高い確率で修正することができ、また、貫通穴14aを予め設定された径に抑えることが出来た。
【0057】
なお、上記実施の形態では、表示基板として、有機EL装置について説明したが、例えば表示画像を構成する多層膜に異物が混入することにより、不良画素となる全ての表示基板に適用できることは言うまでもない。
【0058】
また、上記実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…有機EL装置、2…導電性異物、3…近傍領域、11…透明基板、12…有機EL多層膜、12a…透明陽極,12b…正孔輸送層,12c…有機発光層,12d…電子輸送層,12e…陰極,13…封止部材、13a…キャップ型封止材、13b…接着剤、14…封止空間、14a…貫通穴、101…不良画素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、少なくとも陽極、発光層及び陰極を積層してなる多層膜を、外部空間と遮蔽するように封止部材で封止した表示基板において、
前記多層膜中に存在する異物の近傍領域にレーザー光を照射し、前記異物を消去することを特徴とする表示基板の欠陥修正方法。
【請求項2】
前記多層膜中に存在する異物の近傍領域にレーザー光を照射し、前記異物を含む当該近傍領域を構成する多層膜に貫通穴を生成することを特徴とする請求項1に記載の表示基板の欠陥修正方法。
【請求項3】
前記多層膜中に存在する異物の近傍領域にレーザー光を照射し、前記異物を多層膜外に排出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の表示基板の欠陥修正方法。
【請求項4】
前記貫通穴としては、前記発光層及び前記陰極に連なる空洞領域が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の表示基板の欠陥修正方法。
【請求項5】
前記レーザー光は、532nm以下の波長を有するレーザー光で照射し、貫通穴を形成することを特徴とする請求項2に記載の表示基板の欠陥修正方法。
【請求項6】
前記封止部材としては、前記陰極と外部空間とを遮蔽するように少なくとも前記陰極を封止キャップで覆うことを特徴とする請求項1に記載の表示基板の欠陥修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−204105(P2012−204105A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66670(P2011−66670)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】