説明

表示媒体用複合型粒子及びその製造方法

【課題】不確定要因(バラツキ等)の少ない、安定化かつ信頼性を向上させた表示媒体用複合型粒子、特に、表示媒体用粒子として使用した際における密集性に優れた複合型粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子であって、該複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)が15〜40%で、且つ粗さ曲線のスキューネスRskが0.15〜1.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示媒体用複合型粒子及び複合型粒子群に関し、特に、複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)及び粗さ曲線のスキューネスRskを指標として、複合型粒子の特性、中でも表示媒体用粒子として使用した際における密集性の一層の向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD;Liquid Crystal Display)に代わる情報表示装置として、帯電粒子を液体中で駆動させる方式(電気泳動方式)の情報表示装置や、帯電粒子を気体中で駆動させる方式(例えば電子粉流体方式)の情報表示装置が知られている。
【0003】
帯電粒子駆動方式の情報表示装置に用いる情報表示用パネルとしては、少なくとも一方が透明な対向する2枚の基板間の空間に、少なくとも1種類の粒子から構成される光学的反射率及び帯電性を有する少なくとも2種類の表示媒体を封入し、表示媒体に電界を付与することにより、表示媒体を移動させて画像等の情報を表示する方式の情報表示用パネルが知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
上述の情報表示用パネルに用いる表示媒体用の粒子としては、流動性を高めて表示媒体用粒子間の凝集力を低減したり、帯電性を向上させてパネル間の移動を容易にし、さらには電極や隔壁などの情報表示用パネル部材への付着力を低減させるために、熱可塑性樹脂ベースの母粒子の表面に、微小粒子(子粒子)を機械的な剪断力により埋め込んだ複合型粒子が提案されている(例えば特許文献2)。
このような複合型粒子において、流動性や帯電性などの主要な粒子特性は子粒子が担っているため、母粒子に対する子粒子の埋め込み状態は極めて重要となる。
【0005】
そこで、従来から、母粒子に対して子粒子を複合化するに際しては、材料的要因に関しては勿論のこと、機械的要因に関しても種々の検討がなされている。
例えば、材料的要因としては、子粒子については、その粒径や硬さ、表面強度などが、母粒子については、その円形度や比重、ガラス転移点などが挙げられる。一方、機械的要因としては、母粒子や子粒子の投入量、処理温度、処理時間などが挙げられる。
【0006】
また、母粒子に対する子粒子の埋め込み深さが浅いと子粒子が剥がれ易くなり、一方あまりに深いと、子粒子のカバーとしての機能が低下し、母粒子の影響が強くなって帯電性が劣化する等の不利が生じるため、埋め込み深さについては、子粒子の直径の50〜70%程度が適正とされている。
【0007】
ところで、従来、子粒子の埋め込み状態は、SEM画像を目視で評価して埋め込み深さを推定する、いわゆる官能評価で行っていた。しかしながら、目視観察では、埋め込み深さを正確に把握することが難しいだけでなく、表面に子粒子が密に配置された特徴的な形状が、埋め込み深さを正確に評価することをさらに困難にしていた。
そのため、測定者によって評価結果が異なり、十分に妥当性のある評価方法とは言い難かった。
また、子粒子が複合化の際に変形してしまう場合があるが、変形の程度は、SEM画像の目視観察では評価できないという点でも問題を残していた。
【0008】
上記の問題を解決するものとして、発明者らは先に、特許文献3において、「母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子における埋め込み状態を、粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)(JIS B 0601, 2001)及び粗さ曲線のスキューネスRsk(JIS B 0633, 2001)を用いて評価することを特徴とする表示媒体用複合型粒子の評価方法」を提案した。この技術により、母粒子に対する子粒子の埋め込み状態を的確に把握することができるようになった。
さらに発明者らは、上記の評価方法を利用して、特許文献4において、「母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子を製造するに際し、該複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)及び粗さ曲線のスキューネスRskを指標として製造条件を設定することを特徴とする表示媒体用複合型粒子の製造方法」を開発した。この製造方法により、流動性や帯電性、耐剥離性に優れた粒子を製造することが可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2003/050606号パンフレット
【特許文献2】特開2009−139736号公報
【特許文献3】特願2010−166298号
【特許文献4】特願2010−166343号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したとおり、複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)及び粗さ曲線のスキューネスRskを最適の範囲に調整することにより、流動性や帯電性、耐剥離性の全てに優れた複合型粒子が得られるようになった。
しかしながら、看板やタグ、広告POPや棚札等に用いる場合には、駆動電圧は多少高くなるとしても、特に、密集性に優れた表示媒体用粒子が要求される。すなわち、書き換え頻度が電子書籍等よりも比較的少なく、高い書き換え耐久性を必要としないが、用途上、視認性を重要視する場合においては、粉体特性の中でも、特に密集性に優れた粒子を用いることにより、複数の複合型粒子と表示パネル基板との間の付着力を向上させ、もって色濃度を高めることが求められるのである。
本発明は、上記要請に有利に応えるものであり、粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)及び粗さ曲線のスキューネスRskを前述した最適な範囲から、わざと範囲をずらすことにより、特に、密集性を一層向上させた表示媒体用複合型粒子を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の基本的技術について、複合型粒子における子粒子の埋め込み深さ及び子粒子の変形程度を数値化した、特許文献3に開示の評価方法及び特許文献4に開示の製造方法を参照して説明する。
【0012】
従来、子粒子の埋め込み深さは、目視で評価して、子粒子直径の50〜70%程度としていたが、見た目での評価では測定者によるバラツキが大きく、正しく評価することが難しかったことは、前述した通りである。
【0013】
この点、子粒子の埋め込み深さや子粒子の変形程度を的確に数値化することができれば、測定者によるバラツキをなくし、子粒子の埋め込み状態を正しく評価することができる。
そこで、発明者らは、複合型粒子における子粒子の埋め込み深さ及び表面粗さをパラメーターとして数値化することにより評価することを試みた。
装置としては、分解能が高く、球状の粒子でも測定可能な3D−SEM(電子線三次元粗さ解析装置)を用いた。
この装置を用いて、種々の粗さパラメーターと実際の埋め込み深さとの関係について検討したところ、子粒子の埋め込み深さに関する粗さパラメーターとしては、粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr(c);JIS B 0601、2001)が好適であることが判明した。
【0014】
このRmr(c)とは、切断レベルc(%,μm)における輪郭曲線要素の負荷長さMl(c)の評価長さlnに対する比率を表したもので、次式で示される。
【数1】



本発明では、図1(a)に示すように、切断レベルcを最高高さの50%とし、この切断レベルcよりも高い位置にある山の幅の和Ml(c)の評価長さlnに対する比率で示すものとする。
従って、図1(a)のように、埋め込み深さが浅い場合にはRmr(c)の値は大きくなるのに対し、図1(b)のように、埋め込み深さが深い場合にはRmr(c)の値は小さくなる。
なお、このRmr(c)では、子粒子と埋め込み深さが50%未満の場合には正確な評価をすることができないが、通常は埋め込み深さ:50%以上を目標としているので特に問題が生じることはない。また、かような場合にはSEM画像での判別が可能である。
【0015】
そこで、次に、見た目での官能評価とRmr(c)との関係について検討を行った。
実験は、3D−SEM(株式会社エリオニクス社製;ERA-8900FE)を用い、加速電圧:5kV,ワーキングディスタンス:15mmの条件で行った。観察倍率は4万倍である。また、母粒子としてはポリシクロオレフィン樹脂粒子(粒径:10μm)を用い、子粒子としては、変形のないシリカ粒子(粒径:300nm)及び複合化条件によっては変形するベンゾグアナミン粒子(粒径:300nm)の2種類を用いた。
ここに、変形の難易については、圧縮変形率による評価を行い、この圧縮変形率が40%未満の場合には変形し難い粒子と、一方、圧縮変形率が40%以上70%未満の場合は変形し易い粒子と判断する。圧縮変形率が70%以上は特に変形し易い粒子である。
【0016】
圧縮変形率は、子粒子の変形性の程度の指標として、以下のようにして測定した。
具体的には、フローテスター(CFT−500D:島津製作所製)の試料充填室の底を封じて、試料:1.0gを投入し、試料を175℃に加熱した状態で、その試料に300kg/cm2(2.94×107Pa)の荷重を加え、次式(1)にて圧縮変形率を算出した。
圧縮変形率(%)={〔最密充填高さ(mm)−加重後の高さ(mm)〕/最密充填高さ(mm)}×100 ・・・(1)
なお、最密充填高さとは、前記試料を投入して子粒子が変形せずに球状に保ったまま、最密充填した時の高さであり、次式(2)から算出される。
最密充填高さ(cm)=投入した子粒子重量(g)/子粒子の比重(g/cm3)/フローテスター充填室の底面積(cm2) ・・・ (2)
【0017】
その結果を、図2に示す。
同図に示したとおり、変形のない粒子の場合には、官能評価で50〜70%の埋め込み状態は、Rmr(c)で40〜50%に相当することが判明した。
一方、子粒子が変形する粒子の場合には、変形のない粒子の場合に比べると、官能評価は同じでも、Rmr(c)値は大きくなる傾向にあり、Rmr(c)で45〜60%程度となることが判明した。
【0018】
このように、子粒子の変形の有無さらには変形の程度によって、官能評価では同じ埋め込み深さと判断される場合でもRmr(c)値は大きく変動する。また、子粒子の変形の程度に応じて、流動性や帯電性すなわち粒子特性が変化する。従って、子粒子の変形の程度に対応した数値化を行う必要がある。
【0019】
そこで、さらに、子粒子の変形の程度の数値化を試みたところ、粗さパラメーターとしてはRskが好適であることが判明した。
このRskは、基準長さlrにけるZ(x)の三乗平均を二乗平均平方根Rqの三乗で割ったもので、次式で示される。
【数2】



このRskは、山と谷の偏り度を示すもので、図3に示すように、谷の偏りが大きい場合にはRskはプラスに、一方山の偏りが大きい場合にはRskはマイナスとなり、このRskを用いることにより、変形の程度を正確に評価することができる。
すなわち、このRskで評価した場合、変形がない場合はRsk≒0であるが、変形が生じて山の偏りが大きくなるとRsk<0となり、変形が進むにつれてその絶対値は大きくなる。
【0020】
上述したように、Rmr(c)とRskという2つのパラメーターを用いることにより、子粒子の埋め込み深さと変形程度の両者を同時に把握できることが見出された。
すなわち、例えば図4に示すように、埋め込み深さのパラメーターであるRmr(c)を横軸、一方変形程度を示すパラメーターであるRskを縦軸とした場合、Rmr(c)が小さくかつRskが大きくなると埋め込み深さが過剰であると、またRmr(c)が大きくなると埋め込み深さが浅いと、さらにRmr(c)が大きくかつRskが小さくなると変形が進んでいると、それぞれ判定することができる。この傾向は、種々の母粒子と子粒子の組み合わせにおいても、同様の傾向を示すと考えられる。
従って、種々の複合型粒子において、Rmr(c)とRskを測定することにより、子粒子の埋め込み深さ及び変形程度すなわち粒子形状を正確に把握することができ、ひいては粒子特性を適正に評価することが可能になる。
【0021】
このように、上記の評価方法を用いれば、種々の複合型粒子について、子粒子の適正な埋め込み深さ及び変形程度をRmr(c)とRskで数値化することができる。従って、各種の複合型粒子に応じた適正なRmr(c)及びRskの範囲を予め定めておき、製造後の複合型粒子がこのRmr(c)及びRskの適正範囲を満足するように製造条件を設定してやれば、母粒子に対する子粒子の埋め込み状態が適切な複合型粒子を安定して得ることができる。
【0022】
例えば図5は、母粒子がポリシクロオレフィン樹脂粒子(Tg:137℃、粒径:10μm)、子粒子が正帯電粒子であるベンゾグアナミン粒子(粒径:300nm)の複合型粒子について、帯電量、流動性及び耐剥離性の観点から、Rmr(c)とRskの好適範囲について調査した結果を示したものである。この組み合わせにおいては、Rmr(c):45〜60%、Rsk:-0.3〜0.15が好適範囲であり、この範囲を満足すれば、複合型粒子の帯電性や流動性、耐剥離性は良好であることを示している。
【0023】
従って、上記のような母粒子及び子粒子の組み合わせになる複合型粒子を、その粒子のRmr(c)が45〜60%かつRsk値が-0.3〜0.15の範囲となるように複合化条件を定めて製造すれば、高ロバスト性の“目標形状”となる複合型粒子を製造することが可能になるのである。
【0024】
上述したとおり、Rmr(c)とRskという2つのパラメーターを用いて粒子形状を数値化することにより、母粒子と子粒子の組み合わせに応じた適正な子粒子の埋め込み深さ及び変形程度、すなわち適正な埋め込み状態を把握することができる。これにより、粒子特性を正確に評価することができるので、かかるパラメーターを利用することにより、複合化の条件を的確に設定することが可能となる。
その結果、図6に示すような、複合化条件と粒子形状と粒子特性の関係を示す、複合化マップを作成することが可能となる。
【0025】
ところで表示パネルを作製した場合、複合型粒子は、2枚の電極基板間に表示媒体として配置され、この基板間を移動してパネル基板上に位置することで情報を表示する。従って、パネル基板上では、高い密度で複合型粒子が集結する領域ほど、高い色濃度を表示することができる。このように、パネル基板上に高い色濃度で明確な情報を表示させるためには、パネル基板上に、複合型粒子を高密度に配置することが重要である。
【0026】
しかしながら、母粒子に対して子粒子の一部が埋め込まれて構成される複合型粒子の表面には、子粒子による凹凸があるため、このような複合型粒子を粒子群とした場合、各複合型粒子の凹凸が相互に障害となって、粒子同士が近付き難くなる場合がある。このため、複合型粒子をパネル基板上に高い密度で配置させ、表示の色濃度を向上させようとしても、複合型粒子を効率的に配置することは難しい。
【0027】
この点に関し、発明者は、図4に示すRmr(c)−Rsk図において、子粒子が母粒子に対して埋め込み過剰となる領域、すなわちRmr(c)が小さく且つRskが大きい領域に着目し、かかる領域のRmr(c)及びRskを満足する複合型粒子を用いた場合における粉体特性について検討した。
その結果、Rmr(c)及びRskが上記の領域を満足する複合型粒子を用いた場合には、駆動電圧は若干高くなるものの、従来よりも高い色濃度を実現できることが分かった。この理由は、子粒子の母粒子に対する埋め込み深度を深くすることにより複合型粒子表面の凹凸が減少して、複合型粒子が略球形状に近付く結果、複合型粒子同士の密集性が格段に向上すること、さらに、この密集性の向上した複合型粒子とパネル基板との間の付着力が格段に向上することによるものと考えられる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0028】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子であって、該複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)が15〜40%で、且つ粗さ曲線のスキューネスRskが0.15〜1.5であることを特徴とする複合型粒子。
【0029】
2.母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子を製造するに際し、該複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)が15〜40%で、且つ粗さ曲線のスキューネスRskが0.15〜1.5となるように、製造時におけるローター回転数及び処理温度、処理時間を設定することを特徴とする複合型粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)及び粗さ曲線のスキューネスRskを指標として複合型粒子の特性の安定化を図ることにより、特に、表示媒体用粒子として使用した際における密集性に優れた複合型粒子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)の説明図である。
【図2】埋め込み官能評価とRmr(c)値との関係を示した図である。
【図3】粗さ曲線のスキューネスRskの説明図である。
【図4】横軸をRmr(c)、縦軸をRskとしたときの、子粒子の埋め込み深さ程度および変形程度を示した図である。
【図5】母粒子としてポリシクロオレフィン樹脂を、また子粒子としてベンゾグアナミン製の正帯電粒子を用いた場合のRmr(c)とRskの適正範囲を示した図である。
【図6】複合化条件と粒子形状と粒子特性との関係からなる複合化マップの作成要領を示した図である。
【図7】複合化装置の説明図である。
【図8】子粒子の複合化処理における処理温度及び投入エネルギーが粒子形状(Rmr(c)、Rsk)に及ぼす影響を示した図である。
【図9】OM法を説明するための図であって、(a)は子粒子仮固着工程後の母粒子と子粒子との状態、(b)は子粒子本固着工程後の母粒子と子粒子との状態を示した図である。
【図10】(a)は比較例の複合型粒子のSEM写真、(b)は発明例の複合型粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明では、複合型粒子の埋め込み状態を、複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)、粗さ曲線のスキューネスRskで評価し、これらの値をRmr(c):15〜40%かつRsk:0.15〜1.5の範囲とする必要がある。
その理由は、Rmr(c)が40%超かつRskが0.15未満であると、母粒子に対する子粒子の埋め込み深さが本発明で所期した程深くないので、複合型粒子表面の凹凸が障害となって、粒子同士の密集が難しくなるからである。一方、Rmr(c)が15%未満かつRskが1.5超であると、母粒子に対して子粒子が深く埋め込まれ過ぎて、処理装置内における複合型粒子の攪拌時に、表面に露出した母粒子が相互に接触して樹脂が凝固し、複合型粒子を適切に製造できないおそれが生じるからである。
【0033】
上記範囲において、さらに高い密集性を得るためには、Rsk:0.3〜0.8,Rmr(c):20〜35%の範囲とすることが好ましい。一方、低駆動電圧も考慮に入れる場合には、Rsk:0.3〜0.5,Rmr(c):35〜40%とすることが好ましい。
【0034】
複合化条件における主な機械的要因としては、母粒子や子粒子の投入量、ローターの回転数、処理温度及び処理時間が挙げられる。従って、所望の複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)値及びRsk値を得るためには、これらの条件を調整してやれば良い。
一例として、母粒子としてポリシクロオレフィン樹脂粒子(Tg:137℃,粒径:10μm)を、また子粒子としては正帯電粒子であるシリカ粒子(変形率:40%未満,粒径:300nm)を用いた場合における好適複合化条件の設定要領について述べる。なお、圧縮変形率は、下式(1)により求められる。
圧縮変形率(%)={最密充填高さ(mm)−加重後の高さ(mm)}/最密充填高さ(mm)×100
・・・(1)
(但し、上記圧縮変形率は30MPa加重後における値とする)
【0035】
具体的に、複合化条件の機械的要因の実験は、図7に示すような温調機能付きのドラム型複合化装置(有効処理容積:500cm3)を用いて行った。図中、符号1は温調機能付きの処理槽、2はローター、3はローター2のブレード部である。
【0036】
実験は、母粒子および子粒子の合計投入量は有効処理容積の80〜100%、母粒子に対する子粒子の配合量は母粒子表面を最密充填構造で1層覆うのに必要な子粒子量を100%とした際に80〜120%の値にすると共に、投入エネルギーを2.4〜7.2MJ、また処理温度を90,95,100,105℃に変化させて行った。
得られた結果を、整理して図8に示す。
同図中、○で示した条件が、一般的に埋め込み状態(Rmr(c)、Rsk)が良好と言われる条件である。
これに対し、△で示した条件は埋め込み不足が生じた場合、☆で示した条件は埋め込みが過剰であった場合である。
【0037】
従って、図8の結果から、母粒子:ポリシクロオレフィン樹脂、子粒子:シリカ粒子の組み合わせにおいては、図中、☆で示される実線で囲った条件で複合化を行えば、本発明で所望した粒子形状ひいては粒子特性を持つ複合型粒子が得られることになるが分かる。
このようにして、母粒子と子粒子の組み合わせに応じた適正な複合化条件を設定することができるのである。
【0038】
以上より、本発明の複合化処理条件においては、加熱温度を比較的高温とすること、及び、投入エネルギーを高くすることが好適な条件であると言える。
加熱温度を高温とすることで、従来よりも母粒子の硬度が低い状態で子粒子を母粒子に固着させることになるため、母粒子に対して子粒子を埋め込み易くすることが可能となる。また、投入エネルギーを高くすると、大きなエネルギーが子粒子に対して付与されるので、子粒子を、母粒子に対して深く埋め込むことが可能となる。
【0039】
ここに、本発明で目的とする、粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)が15〜40%、且つ粗さ曲線のスキューネスRskが0.15〜1.5の複合型粒子を得るためには、具体的には、製造時における、母粒子および子粒子の合計投入量:有効処理容積の80〜100%、母粒子に対する子粒子の配合割合:表面積比で80〜120%、投入エネルギー6〜8MJ、処理温度105℃〜115℃の範囲から選択して製造条件を設定することが好ましい。
【0040】
なお、上記において、有効処理容積とは、複合化処理に用いる複合化装置の有効処理容積を意味する。
また、表面積比とは、子粒子が最密構造で母粒子の表面を覆うのに必要な量を100としたとき、この量に対する比率を意味する。
さらに、投入エネルギーとは、複合化装置内において複合化のためにローターを回転させるのに必要なモーターの消費電力(試料が入っていない空運転時に消費される電力を基準として、試料を処理する際に消費される電力から差し引いて算出している)と処理時間から、次式(3)に基づいてエネルギーに換算した値であり、試料の処理を行うために投入されるエネルギーのことである。
投入エネルギー=消費電力(kW/h)×時間(h)×換算値(W→Jに換算)・・・(3)
【0041】
また、本発明の複合型粒子を粒子群として用いる場合、上記の数値範囲を満足するRmr(c)及びRskを有する複合型粒子の配合割合が高いほど、密集性が高く、より均質な複合型粒子群を得ることができる。このように、所定の数値範囲を満たす複合型粒子の配合割合を高めるためには、複合型粒子の製造に際し、以下に述べるOM法(ordered mixture)を用いることが有利である。
【0042】
ここに、OM法とは、母粒子表面を浅く若干窪ませる程度となるようにして子粒子を配置する一段階目の子粒子仮固着工程を行い、その後、子粒子を母粒子上にさらに深く埋設して固定する二段階目の子粒子本固着工程を行う複合化処理法のことである。
【0043】
図9は、本発明の表示媒体用複合型粒子の様子を模式的に示した図であり、(a)は子粒子仮固着工程後の母粒子と子粒子との状態、(b)は子粒子本固着工程後の母粒子と子粒子との状態を示した図である。
図9(a)で示すように、子粒子仮固着工程では、子粒子5によって、母粒子4に対して比較的浅い窪みである第1の埋め込み部Cr−1が形成される。第1の埋め込み部Cr−1の深度D−1は、子粒子の平均粒子直径Srの5%〜20%となるように形成される。この埋め込み部の深度に基づいて、母粒子に対する子粒子の接触面積を調整することが可能となる。なお、ここでの深度D−1は、母粒子4の表面位置から埋め込み部Cr−1の最深部までの長さである。
その後、図9(b)で示すように、子粒子本固着工程では、子粒子5によって、母粒子4に対してさらに深い窪みである第2の埋め込み部Cr−2が形成される。第2の埋め込み部Cr−2の深度D−2は、子粒子5の平均粒子直径Srの50〜80%となるように形成される。
【0044】
上記の子粒子仮固着工程及び、その後の子粒子本固着工程は、複合化処理装置(例えば「メカノフュージョンシステム」(ホソカワミクロン(株)製)、「ノビルタ」(ホソカワミクロン(株)製)などの圧縮剪断式乾式粉体複合化装置など)で設定できる処理条件、例えば処理温度、撹拌羽根の回転速度などを調整して母粒子と子粒子との接触圧などを適宜に調整して、実行できる。
上記のように、二段階の処理を経て母粒子表面に子粒子を固着させると、一回の処理で一気に複合化させた場合に子粒子が不均一になり易いのと比較して、子粒子を均一に一層配置できる。これは、子粒子仮固着工程により、子粒子の解砕を促進しつつ、母粒子表面への均一な一層配置、そして母粒子上での子粒子保持(仮固着)の状態が形成されるのが理由と考えられる。
【0045】
上記子粒子仮固着工程では、樹脂ベースで形成した場合のように凝集傾向の強い子粒子を用いた場合でも、適度な機械的エネルギーを付与することで、子粒子の解砕を促しながら、母粒子表面への付着を進行させることができる。そして、母粒子表面と直に接した子粒子は若干の埋め込み部が形成される程度に押し込められ、接触面積が増加するので仮固着(仮止め)状態となり、容易には母粒子表面から脱落しない。その一方で、母粒子との接触機会のなかった子粒子(例えば、仮固着された子粒子上に乗った、二層目の子粒子)は、脱落する。このような経緯を経て、子粒子仮固着工程後に母粒子表面に均一に一層、子粒子が母粒子上に仮固着された、製造途中である第1の表示媒体用粒子が形成される。この第1の表示媒体用粒子を、その後に処理温度、機械エネルギーを高めた子粒子本固着工程で処理することにより、所望の位置まで子粒子が埋め込まれた、第2の表示媒体用粒子を得ることができるのである。
【0046】
次に、本発明の表示媒体用複合型粒子を形成する母粒子及び子粒子の各素材について説明する。
母粒子の素材については、特に制限はなく、従来から公知のいずれもが適合する。
例えば、複合型粒子の母粒子として好適な素材をとしては、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、チオウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルチオウレタン樹脂、アクリルウレタンシリコーン樹脂、アクリルウレタンフッ素樹脂、アクリルフッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、スチレンブタジエンアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、メチルペンチル樹脂、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。これらを2種類以上混合して使用してもよい。また、予め重合した樹脂を粉砕処理したものを使用してもよいし、懸濁重合で形成したものを使用してもよい。荷電制御剤、着色剤、その他添加剤を混練りした後、粉砕することにより作製される場合には、母粒子の主成分は熱可塑性を有すると共に、粉砕しやすいことも必要である。この観点から、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル樹脂、アクリルフッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、メチルペンチル樹脂、ポリスチレン系樹脂の各水素添加物等が挙げられる。なお、懸濁重合の場合、その容易さからアクリル樹脂、アクリルフッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂の各水素添加物等が好適である。
かかる母粒子のガラス転移温度Tgは130〜140℃程度とするのが好ましく、また粒径は1〜20μm程度とするのが好適である。
【0047】
また、複合型粒子の子粒子として好適な素材としては、例えば、シリカや酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ジルコニア微粒子などが挙げられる。これらの粒子の粒径は、いずれも100〜300nm程度とするのが好ましい。より好ましくは200〜300nmの範囲である。
【実施例】
【0048】
上述した製造方法に従い、下記の母粒子と子粒子とを用いて複合化を行い、複合型粒子の埋め込み状態がRmr(c):15〜40%かつRsk:0.15〜1.5の範囲を満たす本発明に従う複合型粒子(以下、発明例と言う)と、複合型粒子の埋め込み状態がRmr(c):45〜60%かつRsk:-0.3〜0.15の範囲を満たす特許文献3に記載の複合型粒子(以下、比較例と言う)の、2種類の複合型粒子を作製した。
その後、作製した発明例及び比較例の複合型粒子に対し、以下に示すように、付着密集性を評価した。図10(a)は比較例の複合型粒子のSEM写真画像、図10(b)は発明例の複合型粒子のSEM写真画像である。
【0049】
<複合化条件>
母粒子の材料 エチレン−シクロオレフィンコポリマー球状粒子:直径10μm
子粒子の材料 シリカ粒子:直径0.3μm
複合化装置
ホソカワミクロン社製 NOB−130(ノビルタミル):
加熱可能な容器中に回転可能な撹拌羽根が設けられており、撹拌羽根と容器内面との間に母粒子および子粒子が圧密され、その間に存在する母粒子及び子粒子に剪断力を与える構成。
<複合化装置条件>
本発明例及び比較例の複合化装置条件を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、2種類の複合型粒子に対しては、外添剤として、アモルファスシリカ(粒子径は8nm、アスペクト比は<0.75、旭化成ワッカーシリコーン社製HDK H3004)を添加した。表示媒体用粒子に外添剤を添加するにあたっては、カーボンミキサー(エスエムテー社)装置を用い、複合型粒子に対して所定の割合で混合した混合粉体(嵩体積=みかけの体積200cm3)を、製造条件:25℃、4000rpm×15分で処理する、微粒子付着処理方法を適用した。
【0052】
<情報表示用パネルとしての評価>
次に、上記特性を有する発明例及び比較例の複合型粒子で表示媒体を構成し、この表示媒体を2枚の電極基板間に挟んだ構成のテスト用表示パネルを作製し、色濃度について評価した。
【0053】
発明例の複合型粒子を用いた正帯電黒色表示媒体用粒子と負帯電白色表示媒体用粒子、及び、比較例の複合型粒子を用いた粒子構造の正帯電黒色表示媒体用粒子と負帯電白色表示媒体用粒子、を準備した。発明例及び比較例のそれぞれに対し、正帯電黒色表示媒体用粒子と負帯電白色表示媒体用粒子とを、当量混合撹拌して摩擦帯電を行い、100μmのスペーサーを介して配置された、一方が内側ITO処理され電源に接続されたガラス基板と、もう一方が銅基板であるセル中に体積占有率50%で充填し、発明例及び比較例のテスト用パネルを得た。
【0054】
ITOガラス基板、銅基板それぞれを電源に接続し、ITOガラス基板を低電位に、銅基板を高電位となる様に直流電圧をかけると、正帯電黒色表示媒体用粒子は低電位極側に、負帯電白色表示媒体用粒子は高電位極側に、それぞれ移動する。ここで、ガラス基板を通して黒色の表示状態が観察される。ITOガラス基板、銅基板それぞれを電源に接続し、ITOガラス基板を低電位に、銅基板を高電位となる様に直流電圧をかけると、正帯電黒色表示媒体用粒子は低電位極側に、負帯電白色表示媒体用粒子は高電位極側に、それぞれ移動する。ここで、ガラス基板を通して黒色の表示状態が観察される。印加電圧を−200(V)〜+200(V)まで10(V)ごとに変化させ、それぞれの電圧で表示されたベタ画像において反射率を測定し、同絶対値の電圧印加時の白表示時反射率と黒表示時反射率との比をその電圧におけるコントラスト比とし、±200(V)印加時のコントラスト比をコントラスト比C200として表示媒体用粒子の鮮明表示性の指標とした。また、C200の0.5倍のコントラストを与える電圧をV50(V)として表示媒体用粒子の駆動に必要な印加電圧の指標とした。さらに、このテスト用パネルに電圧±200(V)、周波数1(kHz)で10万回交互に電圧を印加して2色2種類の表示媒体用粒子を反転移動させた後に、上記と同様に印加電圧におけるコントラスト比を測定した。結果を以下の表2に示す。表示機能の評価は、コントラスト比と白色表示時の反射濃度とについて行い、いずれも10万回繰り返し後を、反射画像濃度計を用いて測定した。ここで、コントラスト比とは、コントラスト比=黒色表示時反射濃度/白色表示時反射濃度とした。
結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用複合型粒子において、子粒子の埋め込み深さ及び変形程度の両者を数値化して、子粒子の埋め込み状態を客観的に正確に把握することができる。従って、不確定要因(バラツキ等)の少ない、安定化かつ信頼性を向上させた表示媒体用複合型粒子、すなわちロバスト性の高い表示媒体用複合型粒子を得ることができ、特に、表示媒体用粒子として使用した際における密集性が一層向上した複合型粒子を得ることができる。これにより、複合型粒子を表示媒体として用いた際、表示媒体を高密度で配置し、より高い色濃度で情報等を表示することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 処理槽
2 ローター
3 ブレード部
4 母粒子
5 子粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子であって、該複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)が15〜40%で、且つ粗さ曲線のスキューネスRskが0.15〜1.5であることを特徴とする複合型粒子。
【請求項2】
母粒子の表面に子粒子を埋め込んだ表示媒体用の複合型粒子を製造するに際し、該複合型粒子の粗さ曲線の負荷長さ率Rmr(c)が15〜40%で、且つ粗さ曲線のスキューネスRskが0.15〜1.5となるように、製造時におけるローター回転数及び処理温度、処理時間を設定することを特徴とする複合型粒子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−113885(P2013−113885A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257410(P2011−257410)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】