説明

表示板

【課題】成形性、接着性、タック性、更には前記透明アクリル板の曇り及びクラックの発生の防止の各要素において全てが良好である自動車メータなどの表示板を提供すること。
【解決手段】多官能ラジカル重合性オリゴマー以外にフェノキシエチルアクリレート、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個のモノマー、その余の全種類の単官能ラジカル重合性モノマーから選択された1個のモノマーの合計3個のモノマーの組み合わせを配合している紫外線硬化型インクジェットインクによって印刷皮膜を形成することによって、前記課題を達成することができる表示板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェットインクを用いて印刷された表示板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電飾看板、家電製品、測定機器等においては、その表示板に各種文字等を溶剤型インクあるいは紫外線硬化型インクでスクリーン印刷し、夜間でも視認性を良好にするべく背面にLED等の発光体を設置したものが実用化されている。
かかる表示板は、デザインが多様性で、一般に多層(一般には3から10層)の全面印刷や部分印刷が施されて機能性や意匠性が充足され、さらにその後、真空成形機や圧空成形機でフォーミング成形加工を実施し3次元立体成形された表示板が作成したりしている。
また、高温多湿、太陽光紫外線、粉塵等の汚れのより表示板の視認性が劣化する速度を緩和する目的で、表示面側を透明アクリル板などの透明樹脂板で閉鎖した略密閉状の箱体に構成されて、所定箇所に組み付けられたりしている。
【0003】
しかし、前記スクリーン印刷方式による表示板の作成においては、前記のように3〜10層を印刷するために、その都度当該各印刷層に対応する印刷用版の作成、及び各印刷層を印刷するという工程が必須であり、多大なる労力、コスト、時間を必要としている。
【0004】
そこで、一回の工程で多色デザイン印刷ができ、しかも。硬化速度が速く強靭な印刷皮膜が得られやすい紫外線硬化型インクジェットインクを用いてインクジェット印刷方式でかかる表示板を作成することが望まれていた。
【0005】
このようなインクジェット方式において採用されている紫外線硬化型インクジェット用インクは、低粘度であることが要求されることから、光重合反応性組成物として、単官能ラジカル重合性モノマーを不可欠な成分として採用している。
【0006】
しかしながら、当該単官能ラジカル重合性モノマーのみでは、硬化速度及び架橋密度が低いため、フォーミングなどの成形性に劣り、かつ表示板の印刷、成形用基材として一般に採用されるPC(ポリカーボネート)、処理PET(ポリエステル)シートなどへの接着性においても不十分な状態にあるものとされている。さらには、未反応当該単官能ラジカル重合性モノマーの存在によって、印刷皮膜にタックが残存し量産印刷作業性を損なったり、高温多湿環境下で印刷皮膜の剥離やフクレ等の劣化が発生したりして、表示板の視認性を損なうという基本的問題点を内包している。
【0007】
このような欠点を改善するため、通常、単官能ラジカル重合性モノマーに多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合することが行われているが、このような配合を行ったところで、前記の欠点を十分改善することはできない状況にある。
【0008】
特許文献1においては、多官能ラジカル重合性モノマーを光重合反応性組成物の主成分とし、かつα,β−不飽和エーテルモノマーの何れか一方を含有する構成を採用することによって、成形性(靭性)及び接着性の改善を行おうとしている。
【0009】
しかしながら、前記構成においては、架橋密度が過度に高く、しかも急速な硬化によって、変形し得るに充分な柔軟性が乏しいため、従前の単官能ラジカル重合性モノマーを主成分とする場合とは別の趣旨による成形上の不都合が生じていた。
特許文献2においては、前記特許文献1における前記不都合性を改善するため、単官能ラジカル重合性モノマーを光重合反応性組成物の主成分とし、α,β−不飽和エーテルモノマーの少なくとも1種を不可欠の成分とする構成が採用されている。
確かに、前記構成の場合においては、特許文献1による構成の場合よりも、変形性を向上させるための柔軟性を改善しているが、接着性において必ずしも十分ではなく、しかも紫外線硬化が行われた後のインク表面におけるタック性、即ちベタツキを少なくすることにおいても、必ずしも十分ではない。
【0010】
ましてや、紫外線硬化型インクジェットインクを採用した表示板において、表示板が高温多湿環境下で使用された場合の接着性劣化等による印刷皮膜の剥離やフクレの発生を防止して、表示板の視認性を充分に確保することに関する公知技術は存在しない。
【特許文献1】特表2004−526820号公報
【特許文献2】特表2005−532445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記背景技術からも明らかなように、紫外線硬化型インクジェット用インクにおいては、主成分として単官能ラジカル重合性モノマーを採用するも、その選択、更には組み合わせについて、十分な検討が行われていないが故に、柔軟性に富んだ良好な成形性、基材への接着性、基材上でのタック性、更には、高温多湿(例えば60℃、95〜99%湿度)環境下においての基材上での剥離やフクレの発生(以降、高温多湿劣化と記載する。)に関する改善を得るには至っていない。
【0012】
このような状況に鑑み、本発明においては、光重合反応性組成物として、特定の単官能ラジカル重合性モノマーをベースとしたうえで、必要に応じて他の単官能ラジカル重合性モノマー、更には多官能性ラジカル重合性オリゴマーと組み合わせること得られる紫外線硬化型インクジェットインクを採用し自動車メータなどの表示板に印刷皮膜を形成し、成形性、接着性、タック性、更には前記高温多湿劣化防止の各要素において全てが良好である計測器メータなどの表示板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、背面の少なくとも一部に発光体を配する表示板ユニットに設置される表示板であり、該表示板は紫外線硬化型インクジェットインクを透光性樹脂基板上に印刷し所定の紫外線硬化を行った表示板において、
当該紫外線硬化型インクジェットインクが、光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分とし、光重合反応性組成物が、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、フェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個のモノマーと、その余の全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマー、即ち芳香族単官能ラジカル重合性モノマー、脂肪族単官能ラジカル重合性モノマー、複素環式単官能ラジカル重合性モノマーの何れか(但し、フェノキシエチルアクリレート、及びフェノキシエチルアクリレートと共に配合された前記脂環式単官能性モノマーを除く)のうちから選択された1個のモノマーとによる合計3個のモノマーによる組み合わせであって、多官能ラジカル重合性オリゴマーとフェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーと、その余の全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマーとの重量比が、それぞれ0.05〜0.4:1:0.1〜0.7:0.1〜0.7の範囲内であることに基づく紫外線硬化型インクジェットインクによって印刷皮膜を形成して成ることに基づく表示板からなる。
【発明の効果】
【0014】
前記基本構成に基づく本発明においては、成形性、接着性、タック性が良好で、かつ高温多湿劣化の発生防止を可能とし、しかもデザイン性に富んだ視認性の高い表示板を速やかに生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
前記基本構成からも明らかなように、本発明の表示板は、紫外線硬化型インクジェットインクを透光性樹脂基板上に印刷し、紫外線硬化を行うことを前提としたうえで、当該紫外線硬化型インクジェットインクの光重合反応性組成物が、多官能ラジカル重合性オリゴマーだけでなく、単官能ラジカル重合性モノマーとして、フェノキシエチルアクリレート+脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個+その余の全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマーのうちから選択された1個のモノマーによる合計3個のモノマーの組み合わせを配合していることを基本的特徴としている。
【0016】
以下、前記基本構成が実施形態として優れていることを実験によって明らかにする。
【0017】
最初に、下記表1に示すBL1〜BL6のブラック色インク、表2に示すY1〜Y6のイエロー色インク、表3に示すM1〜M6のマゼンタ色インク、表4に示すC1〜C6のシアン色インクを作製した(尚、下記各表の数値による配合単位は、重量%であり、各色のインク1〜4は、前記基本構成の数値要件を充足しているのに対し、各色インク5、6は、前記数値要件を充足していない。)。
【0018】
【表1】



【0019】
【表2】






















【0020】
【表3】





















【0021】
【表4】

【0022】
前記表1〜表4による紫外線硬化型インクジェットインクを、厚み0.5mmのポリカーボネート樹脂シートの片面に繰り返し印刷(一回の印刷で10μm膜厚)し、メタルハライドランプを用いて一回の硬化に関して400mJ/cmの紫外線照射を行うことによって、前記樹脂シートに密着した厚み10μm部分〜厚み50μm部分までを有する硬化し当該インク層を設けた印刷シートを得た。
【0023】
前記印刷シートを形成した前記表1〜表4に示したインクについて、印刷し硬化した塗膜が積層された印刷シートの成形性、接着性、タック性、高温多湿劣化性について、以下の基準による試験を行った。
【0024】
成形試験 :成形試験:直径2.5cm、幅1cmの円板を用いて180℃30秒の条件で真空成形を行ったうえで、塗膜の割れ状況を評価した。
○ 塗膜の割れが見当たらない状態を示す。
△ 肉眼によって辛うじて確認し得る程度の微細な割れが少なくとも部分
的に生じている状態を示す。
× 印刷物全体に割れが生じている状態を示す。

接着試験 :カッターナイフにより、塗膜に幅1mmのマス目を縦方向に5個、及び横方向に5個の合計25個を設け、当該マス目部分にセロハンテープを貼着して角度90°にて剥がした段階における剥離したマス目の程度を評価した。
○ 塗膜の剥離が生じない状態を示す。
△ 基本的に塗膜の剥離は生じないが、マス目の周辺において若干剥離が 生ずる状態を示す。
× 塗膜の剥離が目立つ状態を示す。

タック試験:塗膜に指によって接触し、ベタツキ感を評価した。
○ 指触によって全くベタツキ(タック)を感じない状態を示す。
△ 指触に際し、多少ベタツキが生ずるが、指触の痕跡が残らない状態を 示す。
× 硬化状態が完成せずに、指触した場合に痕跡が残る状態を示す。

高温多湿劣化性試験:前期成形試験で作製した印刷シート成形物を、60℃99%湿度 の湿潤試験機に48時間投入した後、印刷シート成形物における印刷皮膜 の剥離やフクレの発生状態を目視で評価した。
○ 剥離やフクレの発生がないものを指す。
△ 50倍拡大鏡で確認できる程度の微細なフクレが部分的に発生しているものを指す。
× 目視で確認できる剥離やフクレが発生している状態のものを指す。
【0025】
前記の基準による成形性、接着性、タック性、高温多湿劣化性の程度の結果は、前記表1〜表4に示すとおりである。
【0026】
前記実験結果からも明らかなように、前記基本構成を充足している各色インク1〜4の実施形態による表示板においては、前記各特性について良好な結果を得ることができる。
【0027】
これに対し、前記基本構成の数値要件を充足していない各色インク5、6の場合には必ずしも前記各特性において良好な結果を得ることができない。
【0028】
本発明においては、表示方向に透明性アクリルカバーが配され、裏面方向にLEDを含む電子回路が配されたことによる実施形態、更には表示板の表示が視認可能な透明性又は半透明性アクリルカバーによって表示されることによる実施形態を好適に採用することができる。
【実施例】
【0029】
実験例各色1〜6に記載の紫外線硬化型インクジェットインクのうち、各色1〜4を用いて作成した時計表示板印刷物について、再び前記の方法で成形性、接着性、タック性、高温多湿劣化性を評価したところ、表5記載のように、いずれも良好な結果を得た。
そして、当該時計表示板を用いて作製した時計を、毎日使用される浴室に1年間設置して、表示板の視認性に異常がないかを確認したが、全く問題のない状態であった。







【0030】
【表5】

〔比較例〕
【0031】
これに対し、実施例における紫外線硬化型インクケットインクを、実験例各色5〜6のインクを用いて、実施例に記載と同様な評価を行ったところ、前記表5に記載のように、成形性、接着性、タック性、高温多湿劣化性の全ての要素が良好であるような結果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、紫外線硬化型インクジェットインクによって印刷皮膜を形成することによる表示板を利用する全産業分野において利用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面に透明PMMA樹脂板、背面の少なくとも一部に発光体を配する略密閉環境下に設置される表紙板であり、該表示板は紫外線硬化型インクジェットインクを透光性樹脂基板上に印刷し所定の紫外線硬化を行った表示板において、
当該紫外線硬化型インクジェットインクが、光反応開始剤、及び光重合反応性組成物を必須の成分とし、光重合反応性組成物が、多官能ラジカル重合性オリゴマーを配合したうえで、フェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーのうちの1個のモノマーと、その余の全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマー、即ち芳香族単官能ラジカル重合性モノマー、脂肪族単官能ラジカル重合性モノマー、複素環式単官能ラジカル重合性モノマーの何れか(但し、フェノキシエチルアクリレート、及びフェノキシエチルアクリレートと共に配合された前記脂環式単官能性モノマーを除く)のうちから選択された1個のモノマーとによる合計3個のモノマーによる組み合わせであって、多官能ラジカル重合性オリゴマーとフェノキシエチルアクリレートと、脂環式単官能ラジカル重合性モノマーと、その余の全種類に属する単官能ラジカル重合性モノマーとの重量比が、それぞれ0.05〜0.4:1:0.1〜0.7:0.1〜0.7の範囲内であることに基づく紫外線硬化型インクジェットインクによって印刷皮膜を形成して成ることに基づく表示板。
【請求項2】
脂環式単官能ラジカル重合性モノマーがイソボルニルアクリレートであることを特徴とする請求項1記載の表示板。
【請求項3】
表示方向に透明性アクリルカバーが配され、裏面方向にLEDを含む電子回路が配されたことを特徴とする請求項1又は2記載の表示板。
【請求項4】
表示板の表示が視認可能な透明性又は半透明性アクリルカバーによって表示されることを特徴とする請求項1又は2又は3記載の表示板。



【公開番号】特開2008−50430(P2008−50430A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226360(P2006−226360)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(591017250)帝国インキ製造株式会社 (15)
【Fターム(参考)】