説明

表示素子用導電性高分子薄膜及びその製造方法並びにそれを用いてなるエレクトロクロミック表示素子

【課題】導電性高分子の可溶化並びに分子レベルでの成膜化技術を同時に解決し、分子レベルで膜厚を制御した表示素子用導電性高分子薄膜を製造し、またかかる高分子薄膜を用いてなるエレクトロクロミック表示素子を提供する。
【解決手段】p型導電性高分子とアニオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成させ、又はn型導電性高分子とカチオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成させ、次いでかかる複合体の溶液を調製した後、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により分子レベルで膜厚を制御して、成膜することにより、表示素子用導電性高分子薄膜を製造する。また、この高分子薄膜を用いて、エレクトロクロミック表示素子が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子用導電性高分子薄膜及びその製造方法並びにそれを用いてなるエレクトロクロミック表示素子に係り、特に、分子レベルで膜厚を制御してなる導電性高分子薄膜の形成技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性高分子は、有機エレクトロルミネッセンス素子やエレクトロクロミック素子等の表示素子に利用されてきているが、これらは、導電性高分子のバルク材料としての性質を利用したものであり、その分子レベルでの特性を生かした表示素子の開発は、未だ為されていない。
【0003】
また、そのような導電性高分子は一般的に溶媒に不溶であるところから、その可溶化のための種々の試みが提案されている。そして、その一つに、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)等の界面活性剤とのイオン複合体を形成する手法が、知られている。
【0004】
例えば、特開平6-279584号公報(特許文献1)の請求項4、5においては、カチオン性のアニリンモノマーとアニオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムとのイオン複合体を、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により成膜した後、高分子化して、ポリアニリン超薄膜を形成する方法が開示されているのであるが、そこでは、成膜後に重合が行われることとなるために、ポリアニリンの高分子量体を得ることが困難であり、表示素子用の導電性高分子薄膜としては、最適化されたものではなかったのである。
【0005】
また、特開平6−192440号公報(特許文献2)においては、導電性部位を有するポリイオン複合体型のラングミュア−ブロジェット膜からなる導電性有機薄膜を形成させる方法が提案されてはいるものの、当該手法は、ラングミュア−ブロジェット膜化する際に、下部水槽に導電性高分子を溶解させておき、水面にカチオン性両親媒性化合物を滴下して複合体を形成させる手法であり、そのため、下部水層中には薄膜化されない導電性高分子が残ってしまうことや、複合体が100%形成されているかどうかが定かではなく、工業的な手法としては課題があったことに加えて、表示素子用の導電性高分子薄膜として用いるべく最適化された手法は開示されていなかった。
【0006】
さらに、特開2006−58617号公報(特許文献3)においては、透明電極とこの透明電極に対向する電極との間に、導電性高分子からなる発色層及び液状の電解質を含有する電解質層が設けられているエレクトロクロミック表示素子について、開示されているものの、この導電性高分子薄膜の製造法には、スピンコート法又はバーコート法等の手法しか開示されておらず、それは、あくまでもバルク材料としての性質を利用したに過ぎないものであって、その分子レベルでの特性が十分に活かされているとは言えないものであった。
【0007】
【特許文献1】特開平6−279584号公報
【特許文献2】特開平6−192440号公報
【特許文献3】特開2006−58617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、導電性高分子は、エレクトロルミネッセンス現象やエレクトロクロミック現象を示すことが知られており、表示素子材料として有望である一方、一般的に溶媒に不溶であるために、成膜が困難である。そのため、導電性高分子を可溶化し成膜するための様々な試みが、精力的に行われているのである。
【0009】
また、実際の表示素子としては、例えば、有機化合物を用いたエレクトロクロミック表示素子では、導電性高分子のバルク材料としての性質を利用しているため、駆動電圧を大きく取らざるを得ず、この過電圧に起因した素子寿命の短さや、発色層の膜厚制御不足に起因する応答速度の遅さ等の問題が挙げられる。
【0010】
さらに、導電性高分子の分子機能を生かすためには、導電性高分子膜を分子レベルで制御する必要があり、導電性高分子の可溶化並びに分子レベルでの成膜化技術を同時に解決する必要がある。
【0011】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、導電性高分子の可溶化並びに分子レベルでの成膜化技術を同時に解決して、分子レベルで膜厚を制御した表示素子用導電性高分子薄膜を提供することにあり、またそのような表示素子用導電性高分子薄膜の有効な製造方法や、そのような導電性高分子薄膜を用いた有用なエレクトロクロミック表示素子をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明は、かかる課題の解決のために、p型導電性高分子とアニオン性の両親媒性化合物とから形成される複合体、又はn型導電性高分子とカチオン性の両親媒性化合物とから形成される複合体を用いて、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により分子レベルで膜厚を制御して、成膜されていることを特徴とする表示素子用導電性高分子薄膜を、その要旨としている。
【0013】
すなわち、かかる本発明においては、溶媒に不溶なp型導電性高分子はカチオン性であるところから、アニオン性の両親媒性化合物とイオン複合体を形成させて、有機溶媒に可溶なp型導電性高分子/アニオン性の両親媒性化合物複合体が調製されるのである。また、溶媒に不溶なn型導電性高分子はアニオン性であるところから、カチオン性の両親媒性化合物とイオン複合体を形成させて、有機溶媒に可溶なn型導電性高分子/カチオン性の両親媒性化合物複合体が調製されることとなる。そして、それらを分子レベルで超薄膜の作製が可能であるラングミュア−ブロジェット法によって成膜することで、分子レベルで膜厚が制御された有効な導電性高分子薄膜を実現し得るに至ったのである。
【0014】
しかも、ラングミュア−ブロジェット(LB)法を採用することで、液面上に導電性高分子の単分子膜を安定に形成することが出来ること、また、その単分子膜を固体基板上に写し取ることが出来ること、更には、その写し取った高分子薄膜(LB膜)が優れた導電性を示すことを明らかにすることが出来たのである。
【0015】
また、本発明は、p型導電性高分子とアニオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成させ、又はn型導電性高分子とカチオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成させ、次いでかかる複合体の溶液を調製した後、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により基板(S)上に分子レベルで膜厚を制御し、成膜することを特徴とする表示素子用導電性高分子薄膜の製造方法をも、その要旨としている。
【0016】
このような本発明に従う製造方法によれば、前述した特許文献1の方法における固体重合に比べ、予め重合された導電性高分子を用いるものであるために、高分子量体が得られ、導電性に優れた導電性高分子薄膜を有利に得ることが出来る特徴がある。
【0017】
また、本発明は、可溶化並びに分子レベルでの成膜化技術を同時に解決することが出来るようになるため、前述した特許文献2の方法に比べて工業的に優れており、また表示素子用に最適化された導電性高分子薄膜を成膜することが出来るようになるために、表示素子の長寿命化、高機能化という点で、特許文献2の方法に比べて優れている。
【0018】
さらに、本発明は、透明電極(S−1)上、及び/又は透明電極に対向する電極(S−2)上に、前記した導電性高分子薄膜の層が設けられていることを特徴とするエレクトロクロミック表示素子をも、その要旨としているものである。
【0019】
このように、分子レベルで膜厚を制御した表示素子用導電性高分子薄膜を、特にエレクトロクロミック表示素子に最適化し、透明電極上、及び/又は透明電極に対向する電極上に設けることで、表示素子の低駆動電圧化、並びに応答速度の向上を図ることが出来るという点で、特許文献3の方法に比べて優れた利点を発揮することとなる。
【0020】
なお、かかる本発明に従うエレクトロクロミック表示素子の望ましい態様の一つによれば、前記透明電極(S−1)上及び前記透明電極に対向する電極(S−2)上にそれぞれ設けられている前記導電性高分子薄膜の層は、互いに異種の導電性高分子から構成されており、また別の望ましい態様の一つによれば、前記透明電極に対向する電極(S−2)上に設けられている前記導電性高分子からなる薄膜の層は、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体を含む組成物で構成されている。
【0021】
このようなエレクトロクロミック(EC)表示素子においては、表示電極である透明電極上に、又は透明電極に対向する電極上に、分子レベルで膜厚が制御された導電性高分子薄膜層が設けられることによって、膜抵抗を小さくし、過電圧を抑制することにより、駆動電圧の低減化、並びに素子の長寿命化が有利に実現され得たのであり、また、透明電極に対向する電極上に、ポリアニリン(PANI)超薄膜を設けることによって、かかるPANIがエメラルディン塩となることで、対極反応として、酸化反応も還元反応も起こすことが出来、以て表示極に種々の呈色を示す導電性高分子薄膜層が適用可能となり、EC表示素子のフルカラー化に有益となるのである。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明によれば、工業的に実現可能な分子レベルでの、膜の均一性及び超薄膜化を達成することが出来ると共に、表示素子用に最適化された導電性高分子薄膜を成膜することが出来る特徴があり、更には、特にエレクトロクロミック表示素子においては、表示素子の長寿命化、高機能化を図ることが出来る等の優れた特徴を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の構成について更に具体的に説明することとするが、本発明に従う表示素子用導電性高分子薄膜及びその製造法、更にはそのような薄膜を用いたエレクトロクロミック表示素子は、以下の具体的説明に何等限定されるものではないことが、理解されるべきである。
【0024】
先ず、本発明において用いられるp型導電性高分子としては、公知の各種のものを対象とすることが出来、その具体例として、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリナフチレンビニレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリオキサジアゾール、ポリチアジル、ポリアセン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリアミノピレン、及びこれらの誘導体等を挙げることが出来る。
【0025】
また、n型導電性高分子としては、その具体例として、主鎖の一部がホウ素で置換されたπ電子系共役高分子化合物、芳香環の一部の炭素が窒素に置換されたπ電子系共役高分子化合物、モノマーユニット中にピリジン構造を有するπ電子系共役高分子化合物、モノマーユニット中にピリミジン構造を有するπ電子系共役高分子化合物、モノマーユニット中にベンゾトリアゾール構造を有するπ電子系共役高分子化合物、モノマーユニット中にフルオレン構造を有するπ電子系共役高分子化合物、及びこれらの誘導体等を挙げることが出来る。
【0026】
本発明においては、これらp型導電性高分子やn型導電性高分子として、成膜操作に先立って、予め重合によって得られたものが、用いられるのである。なお、そのような重合には、酸化重合法、ミセル重合法、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の、公知の各種の手法が適宜に採用されることとなる。
【0027】
そして、本発明に従い、上記p型導電性高分子との間で複合体を形成するアニオン性の両親媒性化合物としては、例えば、スルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、アルキルリン酸エステル塩型等を用いることが出来る。より具体的には、かかるスルホン酸塩型のものとしては、例えば、N−アシルアミノスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスルホコハク酸塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、N−ココイルメチルタウリンナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。また、前記硫酸エステル塩型のものとしては、例えば、高級アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。更に、前記アルキルリン酸エステル塩型のものとしては、例えば、モノラウリルリン酸トリエタノールアミン、モノラウリルリン酸ジカリウム等が挙げられる。
【0028】
一方、本発明に従い、上記n型導電性高分子との間で複合体を形成するカチオン性の両親媒性化合物としては、四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、両性界面活性剤又は高分子カチオン化合物からなるプロトン性可塑剤からなる群より少なくとも1つ選択されて用いられることとなる。
【0029】
なお、かかる本発明において用いることの出来る四級アンモニウム塩は、特に限定されるものではないが、以下の様に分類されたものが適宜に用いられることとなる。
【0030】
ベンジルアンモニウム塩:ベンジル部位には、アルキル基、エステル基、エーテル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、ケトン基、アミド基、アミノ基のうちから選択される官能基の少なくとも一つを有していてもよく、例えば、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0031】
脂肪族四級アンモニウム塩:炭素数が1〜30で構成される脂肪族であればよく、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、オレイルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ジラウリルジメチルアンモニウム塩、トリメチル(テトラオキサドコシル)アンモニウム塩等が挙げられる。
【0032】
トリメチルフェニルアンモニウム塩:フェニル部位を形成するベンゼン環は、アルキル基、エステル基、エーテル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、ケトン基、アミド基、アミノ基のうちから選択される官能基の少なくとも一つを有していてもよく、例えば、トリメチルフェニルアンモニウム塩、トリエチルフェニルアンモニウム塩、トリブチルフェニルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0033】
また、本発明において用いることの出来るピリジニウム塩にあっても、特に限定されるものではなく、それは、アルキル基、エステル基、エーテル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、ケトン基、アミド基、アミノ基のうちから選択される官能基の少なくとも一つを有していてもよく、好ましくは、アルキルピリジニウム塩がよい。特に、アルキル基が炭素数1〜30で構成されているものであればよく、例えば、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、プロピルピリジニウム塩、イソプロピルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、ペンチルピリジニウム塩、ヘキシルピリジニウム塩、ヘプチルピリジニウム塩、オクチルピリジニウム塩、ノニルピリジニウム塩、デシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ラウリルピコリニウム塩等が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明においてカチオン性の両親媒性化合物として用いられ得るイミダゾリニウム塩は、特に限定されるものではなく、具体的には、イミダゾリニウム型カチオンの例として、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウム、1−メチル−2,3,4−トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム、4−シアノ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−シアノメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、2−シアノメチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、4−アセチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−アセチルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−メチルカルボキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−メチルカルボキシメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−メトキシ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−メトキシメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−ホルミル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−ホルミルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3−ヒドロキシエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−ヒドロキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム等を挙げることが出来る。
【0035】
更にまた、本発明において用いることの出来る両性界面活性剤は、特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩型、イミダゾリニウムベタイン型、アルキルアミンオキシド型等に分類されるものの中から、適宜に選択されることとなる。
【0036】
加えて、本発明において用いられ得る高分子カチオン化合物にあっても、特に限定されるものではなく、一般に、高分子鎖末端、若しくは鎖中に少なくとも一つのカチオン性部位を有していればよく、例えば、ポリジメチルジアリルアンモニウム塩、ジメチルジアリルアンモニウム塩とアクリルアミドの共重合体、ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム塩等のポリオキシアルキレンアンモニウム塩等を挙げることが出来る。
【0037】
また、かかるp型導電性高分子やn型導電性高分子とアニオン性やカチオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成するには、例えば、そのような導電性高分子を与える導電性モノマーと所定の両親媒性化合物とを添加した系で溶液重合、ミセル重合、乳化重合、懸濁重合等を行う方法や、そのような導電性モノマーだけで溶液重合した後に、両親媒性化合物を添加して、複合体を生成せしめる方法等が採用される。なお、かかる複合体は、一般に分散液の形態において生成せしめられることとなる。
【0038】
そして、本発明にあっては、そのような導電性高分子と両親媒性化合物とから形成される複合体を用いて、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により、分子レベルで膜厚を制御し、成膜することによって、表示素子用の導電性高分子薄膜を有利に得るものであるが、そこで採用されるLB法としては、公知の各種の手法が、適宜に採用されることとなる。例えば、上記で得られる複合体を、適当な溶媒に溶解せしめた後、その溶液を用いて、水面上に単分子膜を形成せしめ、そして、垂直浸漬法や水平付着法に従って、所定の基板の表面に写し取るようにすることによって、目的とする導電性高分子複合体からなる、少なくとも一層の単分子膜を形成することが出来るのである。なお、そのような単分子膜は、更に同様な操作を繰り返すことによって、多数の単分子膜が累積された、所定厚さの導電性高分子膜(積層膜)が形成される。また、そのような単分子膜が写し取られる固体の基板としては、金属、セラミックス、ガラス、合成樹脂等の各種の材料からなる板状体が適宜に採用され、中でも、平滑な基板が、有利に用いられることとなる。
【0039】
また、本発明は、上述の如き導電性高分子薄膜の層を、透明電極上に、及び/又は該透明電極に対向する電極上に設けて、エレクトロクロミック表示素子を構成することが可能である。そして、そのような本発明に従うエレクトロクロミック表示素子は、例えば、図1に示されるように、透明基板4の透明電極6上に導電性高分子薄膜層12が設けられた構成の電極構造体と、対向電極10上に導電性高分子薄膜層14が設けられた構成の対向電極構造体とが、電解質層16を介して、それら導電性高分子薄膜層12,14が電解質層16に接するように、対向配置された構成を有している。なお、図1において、8は基板、18はシール材、20はスペーサ、22,24はリード線、26は電源である。
【0040】
そこにおいて、透明電極6は、所定の透明基板4上に透明電極層が積層されてなるものである。また、そこで、かかる透明電極層の形成用材料としては、例えば、In23 とSnO2 との混合物、所謂ITO膜や、SnO2 又はIn23 をコーティングした膜等を挙げることが出来る。更に、上記ITO膜や、SnO2 又はIn23 をコーティングした膜に、Sn、Sb、F等をドーピングしても良く、その他、MgOやZnO等も適用可能である。
【0041】
また、透明基板4としては、耐熱性に優れ、且つ平面方向の寸法安定性の高い材料が好適に用いられ得るものであり、具体的には、ガラス材料、透明性樹脂が採用出来るが、これに何等限定されるものではない。そこで、透明性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ノルボルネン系重合体等を用いることが出来る。
【0042】
さらに、エレクトロクロミック表示素子に用いられる電解質層16は、溶媒に支持電解質が溶解された構成を有していてもよく、またその支持電解質としては、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4 、LiClO4 、LiPF6 、LiCF3 SO3 等のリチウム塩や、例えば、KCl、KI、KBr等のカリウム塩や、例えば、NaCl、NaI、NaBr等のナトリウム塩や、例えば、ほうフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ほうフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライド等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。なお、溶媒としては、支持電解質を溶解し、導電性高分子薄膜を溶解しないものが選択され、例えば、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等から、適宜に選定されることとなる。
【0043】
更にまた、そのような電解質層16には、所謂マトリックス材を適用してもよい。このマトリックス材は、目的に応じて適宜選択することが出来、例えば、骨格ユニットが、それぞれ、−(C−C−O)n−、−(CC(CH3 )−O)n−、−(C−C−N)n−、若しくは−(C−C−S)n−で表されるポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。なお、これらを主鎖構造として、適宜枝分かれ構造を有していてもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等も好適である。
【0044】
加えて、かかる電解質層16は、高分子固体電解質層にて構成しても何等差支えない。なお、この場合、マトリックス材のポリマーに所定の可塑剤を添加することが好ましい。その可塑剤としては、マトリックスポリマーが親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合物が好適であり、疎水性の場合には、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン、及びこれらの混合物が好適である。
【0045】
なお、かかる図1に示される如きエレクトロクロミック表示素子において、透明電極6上や対向電極10上にそれぞれ形成される、導電性高分子薄膜層12,14は、何れも、前記したラングミュア−ブロジェット(LB)法によって、それぞれの電極上に容易に形成され得るものであるが、特に、それら二つの導電性高分子薄膜層12,14は、エレクトロクロミック表示素子の場合において、互いに異種の導電性高分子から構成され、中でも、表示極である透明電極6上に形成される導電性高分子薄膜層12としては、フルカラー化を図る上において、RGBの各色を与える薄膜層を用意する一方、その対極となる対向電極10上に形成される導電性高分子薄膜層14としては、ポリアニリン、又はポリアニリン誘導体を、導電性高分子として含む組成物から形成されることが推奨されるのである。また、図1においては、透明電極6及び対向電極10の何れにも導電性高分子薄膜層12,14が形成されているが、勿論、その何れか一方にのみ本発明に従う導電性高分子薄膜層を設けることが可能であることは言うまでもないところである。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明は、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでない。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【0047】
−導電性高分子の調製法(A)−
1.0MのHCl溶液に、アニリン及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(DBSNa)を加えて、アニリンを取り込んだドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)ミセルを形成せしめた後、酸化剤の過硫酸アンモニウムを用いて、重合を行い、その後クロロホルムで抽出することにより、ポリアニリン(PANI)/DBSA複合体のクロロホルム溶液を調製した。
【0048】
−導電性高分子の調製法(B)−
3−ヘキシルチオフェンの1当量に対して約3当量の割合の塩化第二鉄(Fe:3価)(MERCK社製)を用い、窒素雰囲気下、かかる塩化第二鉄をクロロホルムに溶解させ、更にこれに、窒素雰囲気下で、前記割合の3−ヘキシルチオフェン(東京化成工業株式会社製)をゆっくりと滴下した。そして、その滴下終了直後から、氷浴にて冷却しつつ、一昼夜撹拌した。このようにして得られた反応溶液をメタノール溶液に注ぎ込み、黒色の沈殿物を得た。この沈殿物をメタノールで洗浄して、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(PHT)を得た。次いで、この得られたPHTの1mMクロロホルム溶液と、ポリ−N−ドデシルアクリルアミド(分子量Mn:20800、Mw:32900、分子量分布Mw/Mn:1.58)(PDDA)の1mMクロロホルム溶液とを、1:1のモル比で混合し、均一に撹拌して、PHT/PDDA複合体のクロロホルム溶液を得た。
【0049】
−導電性高分子薄膜の成膜法−
図2に示される成膜法に従い、先ず、LBトラフ(SSS FS−1、USIシステム社製)を用いて、下部水相を20℃に保ち、そして所定の導電性高分子複合体のクロロホルム溶液を所定量滴下した後、一定の圧縮速度(26cm2 /min)で25mN/mまで圧縮して、導電性高分子複合体の単分子膜を水面上に形成した。次いで、25mN/mの定圧に保ちながら、昇降速度10mm/minで、ITOガラス(25mm×33mm、10Ω/□、甲子光学工業株式会社製又は日本曹達株式会社製)上に、垂直浸漬法により、単分子膜を所定層数転写した。
【0050】
−サイクリックボルタンメトリー(CV)測定法−
ポテンショスタット(HA−301、北斗電工株式会社製)を用いて、所定の三極セルで、表1に示される所定の支持電解質溶液中において電流−電位測定を行った。
【0051】
−エレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定法−
ポテンショスタット(HA−301、北斗電工株式会社製)を用いて、所定の二極セルで、表1に示される所定の支持電解質溶液中において電流−電圧測定を行った。
【0052】
−エレクトロクロミック(EC)表示素子の吸収スペクトル測定法−
吸光光度計(日立計測器サービス株式会社製)を用いて、上記のEC素子の電流−電圧測定法に従う電流−電圧測定を、吸収スペクトル測定用石英セル(10mm×10mm×45mm)内で行い、電圧に対する吸光度スペクトル及び応答速度を測定した。
【0053】
[実施例1]
前記導電性高分子の調製法(A)に記載の手法を用いて、PANI/DBSA複合体のクロロホルム溶液を調製した。この調製されたPANI/DBSA複合体は、クロロホルムに可溶であった。また、この調製したPANI/DBSA複合体を、溶液状態のまま保管した。そして、前記導電性高分子薄膜の成膜法に記載の手法を用いて、単分子膜を1層転写した。累積比は約1.0となった。
【0054】
図3に、PANI/DBSA複合体の表面圧−面積等温線を示すが、それより明らかな如く、PANI/DBSA複合体の表面圧は、0.3nm2 /repeat unit から徐々に立ち上がり始め、DBSAのアルキル鎖の断面積に相当する0.15nm2 /repeat unit 辺りで、急激な表面圧の上昇が見られることが認められる。そして、35mN/m付近に変曲点が見られ、単分子膜の崩壊現象を確認することが出来た。即ち、35mN/m以下の表面圧では、水面上においてPANI/DBSA複合体単分子膜が形成していることが示唆される。
【0055】
また、得られた単分子膜に対して、前記サイクリックボルタンメトリー(CV)測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。図4に、単層のPANI/DBSA複合体LB膜ITO電極のサイクリックボルタモグラムを示すが、この図4より明らかな如く、0.75V vs SCE付近にほぼ対称な表面吸着波と、−0.1V vs SCEを中心として準可逆な表面吸着波が、観測されている。また、多層膜で呈色を確認すると、−0.1V以下では薄黄緑色、−0.1V〜0.75Vでは緑色、0.75V以上では紺色となった。これらのことから、前者の吸着波は、ルコエメラルディン/エメラルディン塩、後者はエメラルディン塩/ペルニグルアニリンの酸化還元対に対応していることが判る。
【0056】
[実施例2]
前記導電性高分子の調製法(A)に記載の手法を用いて、PANI/DBSA複合体のクロロホルム溶液を調製し、前記導電性高分子薄膜の成膜法に記載の手法を用いて、単分子膜を20層転写した。各層の累積比は約1.0であった。
【0057】
そして、その得られた単分子膜に対して、前記サイクリックボルタンメトリー(CV)測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。また、その呈色を確認すると、−0.1V以下では薄黄緑色、−0.1V〜0.75Vでは緑色、0.75V以上では紺色となった。これらのことから、前者の吸着波は、ルコエメラルディン/エメラルディン塩、後者はエメラルディン塩/ペルニグルアニリンの酸化還元対に対応していることが認められる。また、ポリアニリンLB膜電極の静止電位は、0.56V vs SCEであった。
【0058】
[実施例3]
前記導電性高分子の調製法(B)に記載の手法を用いて、PHT/PDDA複合体のクロロホルム溶液を調製し、前記導電性高分子薄膜の成膜法に記載の手法を用いて、単分子膜を20層転写した。各層の累積比は約1.0であった。
【0059】
そして、その得られた単分子膜に対して、前記サイクリックボルタンメトリー(CV)測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。PHT/PDDA複合体LB膜の開路電位は、0.3V vs Ag/Ag+ であり、還元体である。CV測定からPHT/PDDA複合体LB膜は、0.5Vから酸化電流が流れ始め、1.2V付近までに多段階的な電流ピークを持つ可逆なレドックス系であることが認められる。PHT/PDDA複合体LB膜の色彩は、還元体ではチオフェン環由来のπ−π* 遷移に基づく吸収(558nm)から赤紫色であるが、酸化すると、π−π* 遷移が消え、新たにポーラロンに基づく近赤外吸収の出現により、薄青色に変化することが認められた。
【0060】
[実施例4]
前記導電性高分子の調製法(A)に記載の手法を用いて、PANI/DBSA複合体のクロロホルム溶液を調製し、前記導電性高分子薄膜の成膜法に記載の手法を用いて、単分子膜を60層転写した。各層の累積比は約1.0であった。
【0061】
この得られた単分子膜を用いて、EC表示素子を作製し、前記エレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定法及びエレクトロクロミック(EC)素子の吸収スペクトル測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。その結果を図5に示す。なお、電圧を印加しない状態では、両電極の膜はエメラルディン塩(ES)であり、半透明な黄緑色を呈している。電圧を0.5V印加すると、陽極では酸化反応によりペルニグルアニリン体(PS)が増え、濃い緑色に変化した。その結果を、図6に示す。一方、陰極では還元反応が起こっているが、完全な脱ドープ状態、即ちルコエメラルディン塩(LES)までは還元されず、エメラルディン塩のままのため、呈色変化は起こらなかった。これらの呈色反応は、走査速度50mV/sで、±0.5Vの電位範囲で繰り返しても、可逆であった。
【0062】
[実施例5]
前記導電性高分子の調製法(A)及び導電性高分子の調製法(B)に記載の手法を用いて、PANI/DBSA複合体及びPHT/PDDA複合体のそれぞれのクロロホルム溶液を調製し、前記導電性高分子薄膜の成膜法に記載の手法を用いて、単分子膜を20層転写した。各層の累積比は約1.0であった。そして、PHT/PDDA複合体LB膜(正極)/PANI/DBSA複合体LB膜(負極)からなる異種導電性高分子を用いたEC表示素子を作製した。
【0063】
次いで、この得られたEC表示素子について、前記エレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定法及びエレクトロクロミック(EC)素子の吸収スペクトル測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。初期電圧は、PANI電極を基準とすると、各電極の開路電位から−0.2Vの電圧を印加する必要がある。電圧を1.2Vまで印加すると、0.7Vまでは正極のPHTの酸化反応及び負極のエメラルディン塩の還元反応に対応する擬似容量電流が流れている。0.7V以上の電圧を印加すると、電流は流れなくなる。これは、PHTの完全酸化された状態又はエメラルディン塩の完全還元によるルコエメラルディン塩のどちらか又は両者が生成され、膜が絶縁性になったためと考えられる。また、繰り返し電圧を印加しても、波形に変化は無く、可逆であった。色彩については、−0.2Vの開始電位では、正極が赤紫色で、負極が緑色である。0.7Vの電圧を印加すると、正極は薄青色となり、負極の色変化は小さかった。これらのEC特性から、−0.2V〜0.7Vの電圧範囲において、EC表示素子として機能することが分かった。また、−0.2Vと0.7Vの矩形電圧を印加して、最大吸収変化が現れる529nm波長の透過率(T)測定をしたところ、−0.2Vで、T=15%となり、0.7Vで、T=60%となった。
【0064】
[比較例1]
前記導電性高分子の調製法(A)に記載の手法において、DBSNaを用いずに溶液重合を行ったところ、クロロホルムに溶解しないPANIが得られた。このPANIは、溶媒に可溶化されていなかったため、前記導電性高分子薄膜の成膜法に記載の手法を用いて単分子膜を成膜することは出来なかった。
【0065】
[比較例2]
前記導電性高分子の調製法(A)に記載の手法で調製したPANI/DBSA複合体クロロホルム溶液を用いて、ITO基板上に、溶媒キャスト法により、クロロホルムを蒸発させて、膜を形成した。膜厚は、およそ1μmであった。この得られたキャスト膜を用いて、前記エレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定法及びエレクトロクロミック(EC)素子の吸収スペクトル測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。電圧を0.5V印加しても、呈色変化が見られなかった。これは、膜厚が厚く、且つ分子レベルで膜制御が出来ていないため、膜抵抗が大きくなり、±0.5Vの駆動電圧では、表示素子として機能しなかったものと考えられる。
【0066】
[比較例3]
前記[実施例5]に記載のPHT/PDDA複合体LB膜(正極)の代わりに、前記導電性高分子の調製法(A)に記載の手法で調製したPANI/DBSA複合体クロロホルム溶液を用いてITO基板上に溶媒キャスト法によりクロロホルムを蒸発させて膜を形成したものを用い、前記[実施例5]に記載のPANI/DBSA複合体LB膜(負極)を用いない以外は、前記[実施例5]と同様の手法で、EC表示素子を作製した。
【0067】
そして、この得られたEC表示素子について、前記エレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定法及びエレクトロクロミック(EC)素子の吸収スペクトル測定法に記載の手法を用いて、それぞれ電流−電圧測定を実施した。電圧を印加すると、0.7Vまでは正極のPHTの酸化反応に対応する擬似容量電流が流れたが、0.7V以上の電圧を印加すると、電流は流れなくなった。これは、PHTの完全酸化された状態が生成され、膜が絶縁性になったためと考えられる。また、繰り返し電圧を印加しても電流は流れず、不可逆であった。
【0068】
[比較例4]
前記[実施例5]に記載のPHT/PDDA複合体LB膜(正極)、並びにPANI/DBSA複合体LB膜(負極)の代わりに、前記導電性高分子の調製法(B)に記載の手法で調製したPHT/PDDA複合体のクロロホルム溶液を用いて、ITO基板上に溶媒キャスト法によりクロロホルムを蒸発させて、膜を形成したものを用いた以外は、前記[実施例5]と同様の手法で、EC表示素子を作製した。
【0069】
次いで、前記エレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定法及びエレクトロクロミック(EC)素子の吸収スペクトル測定法に記載の手法を用いて、電流−電圧測定を実施した。電圧を印加すると、0.7Vまでは正極のPHTの酸化反応に対応する擬似容量電流が流れたが、0.7V以上の電圧を印加すると、電流は流れなくなった。これは、PHTの完全酸化された状態が生成され、膜が絶縁性になったためと考えられる。また、繰り返し電圧を印加しても電流は流れず、不可逆であった。
【0070】
以上の実施例及び比較例の条件一覧を、下記表1に示した。
【0071】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】エレクトロクロミック表示素子の模式的な基本的構成の一例を示す説明図である。
【図2】LB膜の成膜法の一例を示す説明図である。
【図3】実施例1で得られたPANI/DBSAのπ−A等温線を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られたPANI/DBSALB膜のサイクリックボルタンメトリー測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例4で得られたエレクトロクロミック(EC)素子の電流−電圧測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例4で得られたエレクトロクロミック(EC)素子の吸収スペクトル測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型導電性高分子とアニオン性の両親媒性化合物とから形成される複合体、又はn型導電性高分子とカチオン性の両親媒性化合物とから形成される複合体を用いて、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により分子レベルで膜厚を制御して、成膜されていることを特徴とする表示素子用導電性高分子薄膜。
【請求項2】
p型導電性高分子とアニオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成させ、又はn型導電性高分子とカチオン性の両親媒性化合物とから複合体を形成させ、次いでかかる複合体の溶液を調製した後、ラングミュア−ブロジェット(LB)法により基板(S)上に分子レベルで膜厚を制御し、成膜することを特徴とする表示素子用導電性高分子薄膜の製造方法。
【請求項3】
透明電極(S−1)上、及び/又は透明電極に対向する電極(S−2)上に、請求項1に記載の導電性高分子薄膜の層が設けられていることを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【請求項4】
前記透明電極(S−1)上及び前記透明電極に対向する電極(S−2)上にそれぞれ設けられている前記導電性高分子薄膜の層が、互いに異種の導電性高分子から構成されていることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項5】
前記透明電極に対向する電極(S−2)上に設けられている前記導電性高分子からなる薄膜の層が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体を含む組成物で構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のエレクトロクロミック表示素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−270146(P2007−270146A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60455(P2007−60455)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】