説明

表示素子

【課題】広い視野角において十分な色再現範囲を維持することができる自発光型の表示素子を提供する。
【解決手段】反射膜と半透明反射層との間に、少なくとも発光層を有する有機層が挟持されるとともに、有機層が発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、発光層で発生した光が共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)を満たす範囲で光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、表示素子から取り出される光のスペクトルのピーク位置のシフト量が、0°〜60°の視野角範囲において30nm未満となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表示素子に関し、特に、有機エレクトロルミネッセンス素子のような自発光型の表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)を利用した素子(以下「有機EL素子」という。)は、第1電極と第2電極との間に、有機正孔輸送層や有機発光層を積層させてなる有機層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な自発光型の表示素子として注目されている。
【0003】
図1に、このような有機EL素子のうち、透過型の有機EL素子の要部断面図を示す。この図1に示す有機EL素子は、透明な基板1上に、透明電極2、有機バッファ層3、有機正孔輸送層4、有機発光層5及び金属電極6を下層から順に積層してなり、有機発光層5において発生した光hが基板1側から取り出される。
【0004】
しかし、この図1に示した有機EL素子では、各発光色を有する有機発光層5で発生して取り出される各色の光hのスペクトルが、図2に示すようにピーク幅が広く、特に赤色の光hに関してはピーク波長がより低波長よりである。このため、この有機EL素子を用いてカラー表示が可能な表示装置を構成した場合、例えばテレビ画像を表示させる程度に十分な色再現範囲を得ることができなかった。
【0005】
そこで、この問題を解決するために、基板1と透明電極2との間に誘電体ミラー層(図示せず)を設けることで、誘電体ミラー層、有機バッファ層3、有機正孔輸送層4、有機発光層5及び金属電極6からなる共振器構造を設けることが考えられた。この共振器構造を備えた有機EL素子では、有機発光層5で発生した光hが誘電体ミラー層と金属電極6との間を往復し、共振波長の光だけが増幅されて基板1側から取り出される。このため、ピーク強度が高く幅が狭いスペクトルを有する光hを取り出すことができ、この有機EL素子で構成される表示装置の色再現範囲を拡大することが可能になる。
【0006】
ところが、上述のような共振器構造を備えた有機EL素子のように、取り出される光hのスペクトルのピーク幅が狭くなると、発光面を斜め方向から見た場合に、光hの波長が大きくシフトしたり発光強度が低下する等、発光特性の視野角依存性が高くなる。このため、有機EL素子から取り出される光のスペクトルの幅は、狭くなりすぎないようにする必要がある。しかし、この有機EL素子においては、上述したような視野角依存性を考慮した設計がなされておらず、広い視野角において、十分な色再現範囲を維持することができなかった。
【0007】
また、このような有機EL素子においては、取り出そうとする各色の光h毎に、共振器構造を最適化する必要があり、手間がかかるという問題もあった。
さらに、図1に示した有機EL素子では、素子の外部から侵入した外光が金属電極6で反射されるため外光反射率が高く、外光下におけるコントラストが低くなる。これを防止する手法として、特開平9−127885号公報には、図3に示すように、表示面側に1/4波長板と直線偏光板とを組み合わせて配置した構成の有機EL表示装置が開示されている。すなわち、この有機EL表示装置は、図1を用いて説明したと同様の構成の有機EL素子における基板1側に、1/4波長板8と直線偏光板9とを組み合わせて配置することで、外光反射を防止するようにしている。また、反射面となる金属電極を透明電極に置き換えて、有機層と反対側の透明電極側に光吸収層を設け、この光吸収層で外光を吸収することによって外光反射を防止した構成も提案されている。ところが、これらの構成の表示装置においては、表示装置内において発生した発光光の取り出しや反射も妨げられるため、輝度が50%程度に低下する。
【0008】
さらに、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を透過するカラーフィルタを、同色の各発光画素上に配置した構成も提案されている。しかし、このような構成の表示素子では、発光色以外の外光反射を抑えることは可能であっても、各画素の発光色と同じ波長範囲の外光の反射を抑えることはできない。
【0009】
【特許文献1】特開平9−127885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、この発明の目的は、広い視野角において十分な色再現範囲を維持することができる自発光型の表示素子を提供することにある。
この発明の他の目的は、輝度の低下を招くことなく外光反射を低下させてコントラストの向上を図ることができる自発光型の表示素子を提供することにある。
この発明のさらに他の目的は、広い視野角において十分な色再現範囲を維持することができ、しかも輝度の低下を招くことなく外光反射を低下させてコントラストの向上を図ることができる自発光型の表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するためのこの発明は、光反射材料からなる第1電極と透明材料からなる第2電極との間に発光層が挟持され、第2電極及び発光層の少なくとも一方が共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、次のように共振部が構成されていることを特徴としている。
【0012】
第1の表示素子は、発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、共振部の光学的距離をL、発光層で発生した光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、下記の式(1)を満たす範囲で共振部の光学的距離Lが正の最小値となるように構成されている。
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数) (1)
【0013】
このような構成の第1の表示素子では、共振部の光学的距離Lが式(1)を満たしていることから、この共振部において波長λ近傍の光が多重干渉を起こす。しかも、共振部の光学的距離Lが、式(1)を満たす範囲で正の最小値となるように構成されているため、取り出される光のスペクトルは、波長λの光が多重干渉する範囲で最も広い幅に保たれる。このため、この表示素子は、取り出される光のスペクトルがある程度の幅を保ちながらも、ピーク強度は多重干渉によって高められたものになる。したがって、この表示素子は、視野角がずれた場合であっても波長λのシフト量が小さく抑えられ、広い視野角の範囲で色純度の向上が図られたものとなる。
【0014】
また、第2の表示素子は、発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、共振部の光学的距離をL´、緑の光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、下記の式(2)を満たす整数mのうちLが正の最小値となる整数m1に対して4を加えた下記の式(3)を満たすように光学的距離L´が設定されている。
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数) (2)
(2L´)/λ+Φ/(2π)=m1+4 (3)
【0015】
このような構成の第2の表示素子では、赤(R)、緑(G)、青(B)に対応する各波長の光が、共振部において多重干渉する。このため、各色毎に共振部の光学的距離L´を設定することなく、各発光色のスペクトルのピーク強度を高くすることができる。したがって、各発光色に対応する各表示素子において、共振部の光学的距離L´を共通化することができる。
【0016】
第3の表示素子は、発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、共振部の光学的距離をL´、緑の光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、下記の式(4)を満たす整数mのうちLが正の最小値となる整数m1に対して10以上の整数qを加えた下記の式(5)を満たすように光学的距離L´が設定されている。
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数) (4)
(2L´)/λ+Φ/(2π)=m1+q (5)
【0017】
このような表示素子では、赤(R)、緑(G)、青(B)の各領域における多数の波長の光が、共振部において多重干渉する。このため、この表示素子を用いて構成されたカラー表示装置では、各発光色に対応する各表示素子において、共振部の光学的距離L´を共通化することができる。しかも、多重干渉して取り出された各発光色の光が複数のピークで構成されるようになるため、取り出された光hの全体的なスペクトル幅が見かけ上広くなる。したがって、この表示素子では、視野角がずれた場合であっても波長λのシフト量が小さく抑えられ、広い視野角の範囲で色純度の向上が図られたものになる。
【0018】
また、この発明の第4の表示素子は、前記第2電極の上方に、前記共振部で共振して当該第2電極から取り出される光を透過するカラーフィルタを設けたことを特徴としている。
このような構成の表示素子では、共振部で共振して当該第2電極から取り出される光の波長を目的波長とした場合、第2電極側から照射される外光のうち、目的波長を有する外光のみがカラーフィルタを透過して共振部に到達することになる。ここで、この共振部は、目的波長に対する共振器フィルタであるため、この目的波長範囲に対する透過率が非常に高い、すなわちこの目的波長範囲の光に対する反射率が非常に低いことになる。このため、この共振部においては、カラーフィルタを透過した目的波長と同一の波長範囲の外光光の反射が抑えられる。一方、目的波長範囲以外の外光はカラーフィルタによって素子内部への侵入が防止され、またこのカラーフィルタでの反射が抑えられる。この結果、目的波長範囲の発光光の第2電極側からの取り出しを妨げることなく、目的波長範囲の光を含む外光光の反射が防止される。
【0019】
また、第5〜第7の表示素子は、第4の表示素子と第1〜第3の表示素子をそれぞれ組み合わせた構成を特徴としている。
また、上記のような目的を達成するための他の発明は、第1電極と第2電極との間に発光層が挟持され、第1電極及び第2電極のうちの光が取り出される方のもの及び発光層の少なくとも一方が共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、第1〜第7の表示素子と同様に共振部が構成されていることを特徴としている。
【0020】
また、上記のような目的を達成するためのさらに他の発明は、基板上に光反射材料からなる第1電極、発光層及び透明材料からなる第2電極が順次積層され、第2電極及び発光層の少なくとも一方が共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、第1〜第7の表示素子と同様に共振部が構成されていることを特徴としている。
【0021】
また、上記のような目的を達成するためのさらに他の発明は、基板上に光反射材料からなる第1電極、発光層及び透明材料からなる第2電極が順次積層され、第2電極及び発光層の少なくとも一方が共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、第1〜第7の表示素子と同様に共振部が構成されていることを特徴としている。典型的には、発光層が共振器構造の共振部となるように構成され、あるいは、第2電極が共振器構造の共振部となるように構成される。
【0022】
また、上記のような目的を達成するためのさらに他の発明は、光反射材料からなる第1電極と透明材料からなる第2電極との間に発光層が挟持され、第2電極及び発光層の少なくとも一方が共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、共振部の光学的距離をLとした場合、視野角が変化したときに取り出される光のスペクトルのピーク波長と、内部発光スペクトル(例えば、後述の実施形態における有機発光層13cで発光させた光を多重干渉させずに取り出した光のスペクトル)のピーク波長との差が、内部発光スペクトルの半値幅(FWHM)の半分以内であるように、光学的距離Lが設定される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、この発明における請求の範囲1の表示素子によれば、発光光のうちから取り出される光のスペクトルをある程度の幅に保ちながらも、この光のピーク波長λの強度が多重干渉によって高められるように、共振器構造が最適化される。したがって、広い視野角の範囲において、取り出される光の波長λのシフト量を小さく抑えて色純度の向上が図られた表示素子を得ることができる。この結果、この表示素子を用いた表示装置の色再現範囲を、広い視野角範囲において広げることが可能になる。
【0024】
また、請求の範囲2の表示素子によれば、赤(R)、緑(G)、青(B)に対応する各波長の発光光を同一の共振部において共振させることが可能になる。このため、各発光色毎に表示素子の共振部の光学的距離Lを設定する必要はなく、共振部の光学的距離Lを共通化することができる。
【0025】
さらに、請求の範囲3の表示素子によれば、赤(R)、緑(G)、青(B)の各領域における多数のピーク波長の発光光を同一の共振部において多重干渉させることが可能になる。このため、各発光色毎に表示素子の共振部の光学的距離Lを設定する必要はなく、共振部の光学的距離Lを共通化することができる。しかも、取り出された各色の光に複数の細かいピークを持たせることができるため、各光の全体的なスペクトル幅を広くすることが可能になる。したがって、広い視野角の範囲において、取り出される光の波長λのシフト量を小さく抑えて色純度の向上が図られた表示素子を得ることができる。この結果、この表示素子を用いた表示装置の色再現範囲を、広い視野角範囲において広げることが可能になる。
【0026】
また、請求の範囲4の表示素子によれば、共振器構造とカラーフィルタとを組み合わせて配置したことで、発光光のうちの取り出したい波長の光の放出を妨げることなく、かつ、これと一致する波長の光を含む全ての波長範囲の外光光の反射を防止することが可能になる。したがって、発光光の輝度を確保しつつ外光下におけるコントラストを大幅に向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、この発明を有機EL素子に適用した表示素子の実施形態を説明する。
図4はこの発明の第1実施形態による有機EL素子を示す。この図4に示す有機EL素子は、いわゆる上面発光型の有機EL素子であり、基板11上に、下層から順に第1電極12、有機層13、半透明反射層14及び第2電極15が順次積層された構成になっている。
基板11は、例えば、透明ガラス基板や半導体基板等で構成され、フレキシブルなものであってもよい。
【0028】
第1電極12は、反射層を兼ねたアノード電極として用いられるもので、例えば白金(Pt)、金(Au)、クロム(Cr)、またはタングステン(W)等の光反射材料で構成されている。また、この第1電極12は、膜厚が100nm〜300nmの範囲に設定されていることが好ましい。
【0029】
有機層13は、例えば、バッファ層13a、正孔輸送層13b及び電子輸送層を兼ねた有機発光層13cを下層から順次積層してなる。なお、電子輸送層は有機発光層13cとは別の層として設けてもよい。バッファ層13aは、リークを防止するための層であり、例えばm−MTDATA〔4,4',4"-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine 〕、2−TNATA〔4,4',4"-tris(2-naphtylphenylamino)triphenylamine〕等で構成される。なお、バッファ層13aは、リークが支障のないレベルであれば省略してもよい。また、正孔輸送層13bは、例えばα−NPD〔N,N'-di(1-naphthyl)-N,N'-diphenyl-〔1,1'-biphenyl 〕-4,4'-diamine 〕で構成される。そして、有機発光層13cは、赤(R)、緑(G)、青(B)それぞれの発光色を有する各発光材料で構成され、例えばGの発光色を有する発光材料としてはAlq3(トリスキノリノールアルミニウム錯体)を用いる。
【0030】
有機層13を構成するこれらの各層は、バッファ層13aが15nm〜300nm、正孔輸送層13bが15nm〜100nm、有機発光層13cが15nm〜100nmの範囲に設定されることが好ましい。ただし、有機層13及びこれを構成する各層の膜厚は、その光学的膜厚が後に説明する値になるように設定される。
【0031】
そして、半透明反射層14は、カソード電極を構成するもので、例えば、マグネシウム(Mg)や銀(Ag)、それらの合金等で構成されている。この半透明反射層14は、膜厚が5nm〜50nmの範囲に設定されていることが好ましい。
【0032】
さらに、第2電極15は、例えば酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide: ITO)やインジウムと亜鉛の酸化物等、一般的に透明電極として用いられている材料で構成される。この第2電極15は、膜厚が30nm〜1000nmの範囲であることとする。また、この第2電極15上には、透明誘電体からなるパッシベーション膜(図示せず)が設けられている。この透明誘電体は、好ましくは第2電極15を構成する材料と同程度の屈折率を有することとする。このような材料として、酸化シリコン(SiO2 )、窒化シリコン(SiN)等を用いることができ、例えば500nm〜10000nmの膜厚で成膜される。
【0033】
この有機EL素子では、光反射材料からなる第1電極12と有機層13と半透明反射層14とで共振器構造が構成されており、有機層13が共振部となっている。このため、第1電極12と半透明反射層14との間の光学的距離L、すなわち有機層13からなる共振部の光学的膜厚は下記の式(6)を満たすように設定され、その中でも特に正の最小値となる光学的距離Lmin が採用されている。ただし、有機発光層13cで発生した光hが第1電極12及び半透明反射層14で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、有機発光層13cで発光する光hのうちの取り出したい光hのスペクトルのピーク波長をλとする。
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数) (6)
【0034】
そして、有機層13を構成する各層の膜厚は、これを満たすように設定されている。ここで、共振部の光学的距離Lは、有機層13を構成する各層(この第1実施形態においてはバッファ層13a、正孔輸送層13b及び有機発光層13c)の各屈折率n1,n2,…,nkと膜厚d1,d2,…,dkとから、下記の式(7)のように求められる。
L=n1×d1+n2×d2+…+nk×dk (7)
【0035】
Lの計算例を挙げると、バッファ層13aが2−TNATA、正孔輸送層13bがα−NPD、有機発光層13cがAlq3からなり、それらの厚さがそれぞれd1=32nm、d2=30nm、d3=50nmであり、λ=535nmとすると、n1=1.9、n2=1.8、n3=1.7であるから、
L=1.9×32+1.8×30+1.7×50=200nm
となる。
【0036】
また、Φは次のようにして導出される。すなわち、まず、基板(例えば、Si基板)上に反射層(Cr等)または半透明反射層(Mg、Ag、Mg−Ag合金等)を200nm以上の膜厚に成膜し、分光エリプソメトリー測定装置(例えば、SOPRA社製のもの等)を用いてこれらの反射層または半透明反射層の屈折率n及び吸収係数kを求める。
【0037】
反射層側の位相シフトは、そのn、kと、この反射層と接している有機層の屈折率nとを用いて計算することができる(例えば、Principles of Optics, Max Born and Emil Wolf,1974(PERGAMON PRESS) 等参照)。
また、半透明反射層側の位相シフトも同様に、そのn、kと、この半透明反射層と接している有機層の屈折率n、半透明反射層の膜厚、その上方の各透明膜の屈折率及び膜厚とを用いて計算することができる。なお、有機層、各透明膜の屈折率も分光エリプソメトリー測定装置を用いて測定可能である。
上記の2つの位相シフトの和がΦである。
Φの値の一例を挙げると、λ=535nmに対してΦ=−4.7ラジアンである。
【0038】
このように構成された有機EL素子では、反射層である第1電極12と有機層13と半透明反射層14とで共振器構造が構成され、共振部である有機層13が狭帯域フィルタとなり、取り出したいスペクトルのピーク波長λ近傍の光hだけが多重干渉によって増強されて第2電極15側から取り出される。このため、ピーク強度の高いスペクトルを有する光hが取り出されることになる。しかも、有機層13の膜厚(共振部の光学的距離L)は、第1電極12と有機層13と半透明反射層14とで共振器構造が構成される値のうちの正の最小値に設定されていることから、取り出される光hのスペクトルは、波長λの光が多重干渉する範囲で最も広い幅に保たれる。
【0039】
図5に、このようにして設計された(ここでは式(6)におけるm=0)各発光色を有する有機EL素子から取り出された各光のスペクトルのシミュレーション例を示す。また、第1電極12にはクロム、半透明反射層14には銀−マグネシウム合金を用いた。図6は、同様に設計された各有機層13の単体フィルタとしての特性を示すスペクトルのシミュレーション例であり、この図のスペクトルと有機発光層13cで発光させた光を多重干渉させずに取り出した光のスペクトル、すなわち図7に示す内部発光スペクトルとを掛け合わせることで、図5に示すスペクトルが得られる。
【0040】
また比較例として、図8に、式(6)式を満たすが光学的距離Lが正の最小値にならない(ここではm=1)有機EL素子から取り出された光の各スペクトルのシミュレーション例を示す。なお、この比較例の有機EL素子は、共振部の光学的距離L以外は、第1の有機EL素子と同様に構成され、赤(R)領域の光を発光する有機EL素子はバッファ層13aを240nmとし、緑(G)領域の光を発光する有機EL素子はバッファ層13aを190nmとし、青(B)領域の光を発光する有機EL素子はバッファ層13aを150nmとすることで、各有機層13の膜厚を調整した。図9は、この比較例と同様に設計された各有機層の単体のフィルタとしての特性を示すスペクトルのシミュレーション例であり、この図のスペクトルと有機発光層13cで発光させた光を多重干渉させずに取り出した光のスペクトル、すなわち図7に示す内部発光スペクトルとを掛け合わせることで、図8に示すスペクトルが得られる。
【0041】
これらの図を比較してわかるように、第1実施形態のようにして有機層13の膜厚を設定することで、有機EL素子から取り出される光hを多重干渉させながらもそのスペクトルの幅をある程度の広さに保つことが可能になる。このため、第1実施形態の有機EL素子では、視野角がずれた場合であっても波長λのシフト量が小さく抑えられ、広い視野角の範囲で色純度の向上を図ることができる。
【0042】
図10は、第1実施形態による有機EL素子(m=0)の視野角依存性を示し、表示面に対して0°(正面)、30°、60°の角度で測定された緑(G)の波長の光のスペクトルである。また、図11は、比較例の有機EL素子(m=1)の視野角依存性を示すグラフである。
【0043】
図10及び図11を比較して分かるように、第1実施形態による有機EL素子では、視野角が30°ずれてもスペクトルのピークはほとんどシフトしておらず、60°ずれた場合であってもスペクトルのピークは10nm程度のシフトに収まっている。これに対して比較例の有機EL素子では、図11に示すように、視野角が60°ずれた場合のスペクトルのピークが30nm程度も短波長側にシフトし、色が変わってしまっていることが分かる。このことから、第1実施形態による有機EL素子では、視野角が大きくなっても、取り出された光hのスペクトルのピーク位置がシフトする量が、比較例による有機EL素子よりも小さく抑えられることが確認された。
【0044】
これは次のような理由による。すなわち、発光面に対して斜め方向θラジアンから見た場合、式(6)は、下記の式(8)のように書き換えられる。
(2L)/λ´×cosθ+Φ/(2π)=m(mは整数)(8)
ここで、λ´=λ+Δλ(λは、発光面を正面から見た場合のフィルタ特性のスペクトルのピーク波長)とすると、式(8)からΔλ=(1−cosθ)λとなり、共振器構造を構成するための有機層の膜厚を規定する整数mによらず、フィルタ特性のスペクトルのピークのシフト量Δλは視野角にのみ依存することがわかる。
【0045】
ところが、後述の理由により、mが小さい方が、フィルタ特性のスペクトルがなだらかで幅広く、すなわちブロードになるため、取り出される光のスペクトルのピークのシフト量が小さくなる。このため、第1実施形態による有機EL素子では、広い視野角の範囲で色純度の向上が図られる。この結果、この有機EL素子を用いて構成された直視型のカラー表示装置では、広い視野角において十分な色再現範囲を確保することができる。
【0046】
上述のようにmが小さい方がフィルタ特性のスペクトルがブロードになるのは、次のような理由による。アノード電極、すなわち第1電極12とカソード電極、すなわち半透明反射層14とで生じる反射光の位相シフトの和をΦラジアン、有機層13の光学的距離をL、光の波長をλとするとき、多重干渉の1回分の位相遅れ量をδとすると、
δ=2π・2L/λ+Φ (9)
である。ここで、
δ=2π・m(mは整数) (10)
が成り立つλが狭帯域フィルターのピーク波長となる。これをλmax とすると、式(9)、(10)から、
2L/λmax +Φ/2π=m(mは整数) (11)
を得る。式(9)で有機層13の光学的距離Lが小さくなると、λの変化量に対するδの変化量が減少することから理解できるように、mの小さい方が狭帯域フィルターのスペクトルの幅がブロードになる。
【0047】
図12に、色彩光度計(トプコン社製BM−7)により実測した第1実施形態による有機EL素子から取り出される光の色度座標(本発明)を示す。また比較例として、CRT(cathode-ray tube)の色度座標(CRT)及び図1を用いて説明した従来の有機EL素子から取り出される光のスペクトルに相当する色度座標(従来)を示す。ここで、図12中、一番外側の線の曲線部はスペクトル軌跡(spectrum locus)、直線部は純紫軌跡(purple boundary)を示す。これらの色度座標を比較して分かるように、第1実施形態による有機EL素子の色度座標は、従来のものと比較して大幅に色再現範囲が拡大しており、CRTとほぼ同じ色再現範囲が確保されることが確認された。
【0048】
図13は、この発明の第2の実施形態による有機EL素子を示す。この図13に示す有機EL素子は、図4に示す第1実施形態による有機EL素子において、半透明反射層14と第2電極15と、第2電極15の上端界面(例えば、大気層との界面)とで共振器構造を構成したものである。第2電極15の端面と大気層との界面での反射率は10%程度と大きく、ここでは、透明材料からなる第2電極15を共振部とした共振器の効果を利用する。
【0049】
このため、大気層と半透明反射層14との間の距離、すなわち第2電極15からなる共振部の光学的距離L(ここでは、第1実施形態と区別してL2 とする)は、下記の式(12)を満たすmのうち、特にL1 が正の最小値になるm(そのmをm1と書く)に対して4を加えた下記の式(13)を満たすような光学的距離L2 が採用されている。ただし、有機発光層13cで発生した光hが共振部(第2電極15)の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、光のスペクトルのピーク波長をλとする。なお、第2電極15上に、この第2電極15と同等の屈折率を有する透明誘電体からなるパッシベーション膜が設けられている場合には、このパッシベーション膜と第2電極15とが共振部となる。
(2L1 )/λ+Φ/(2π)=m(mは整数) (12)
(2L2 )/λ+Φ/(2π)=m1+4 (13)
【0050】
このように設計された共振部(すなわち第2電極15)は、図14に示すように、赤(R)、緑(G)、青(B)の各領域に対応する各波長の光を多重干渉させるものになる。このため、各色毎に、共振部の光学的距離L2 を設定する必要はなく、各発光色に対応する各有機EL素子において、第2電極15からなる共振部の光学的距離L2 を共通化することができる。
【0051】
図15は、この発明の第3の実施形態による有機EL素子を示す。この図15に示す有機EL素子は、図4に示す第1実施形態による有機EL素子において、半透明反射層14と第2電極15と、第2電極15の上端界面(例えば大気層)とで共振器構造を構成したものである。
【0052】
この有機EL素子の、大気層と半透明反射層14との間の距離、すなわち第2電極15からなる共振部の光学的距離L(ここでは第1実施形態及び第2実施形態と区別してL3 とする)は、下記の式(14)を満たすmのうち、特にL1 が正の最小値になるm(そのmをm1と書く)に対して10以上の整数q、好ましくは18以上の整数q1を加えた式(15)を満たすような光学的距離L3 が採用されている。ただし、有機発光層13cで発生した光hが共振部(第2電極15)の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、光のスペクトルのピーク波長をλとする。なお、第2電極15上に、この第2電極15と同等の屈折率を有する透明誘電体からなるパッシベーション膜が設けられている場合には、このパッシベーション膜と第2電極15とが共振部となる。
(2L1 )/λ+Φ/(2π)=m(mは整数) (14)
(2L3 )/λ+Φ/(2π)=m1+q (15)
【0053】
このように設計された共振部(すなわち第2電極15)は、図16に示すように、赤(R)、緑(G)、青(B)の各領域における多数の波長の光を多重干渉させるものになる。このため、第2実施形態と同様に、各色毎に共振部の光学的距離L3 を設定する必要がなく、各発光色に対応する各有機EL素子において、共振部の光学的距離L3 を共通化することができる。しかも、図17に示すように、多重干渉して取り出された光h(図17においては緑(G)領域の光)が複数の細かいピークを持つようになるため、取り出された光hの全体的なスペクトル幅が実質的に広くなる。このため、第1実施形態による有機EL素子と同様に、広い視野角の範囲で色純度の向上を図ることができる。この結果、この有機EL素子を用いて構成された直視型のカラー表示装置は、広い視野角において十分な色再現性を示すものになる。
【0054】
なお、第2実施形態及び第3実施形態は、第1実施形態と組み合わせてまたは単独で適用することが可能である。また、第2実施形態及び第3実施形態で説明した共振部の構成は、有機層13からなる共振部にも適用可能である。しかし、第2実施形態及び第3実施形態で説明した共振部は、その膜厚が比較的厚くなることを考慮すると、膜厚が厚くなる方向への自由度が比較的高い第2電極15を共振部とする構成に好適である。また、第1実施形態で説明した共振部の構造は、第2電極15(及びその上部のパッシベーション膜)からなる共振部にも適用可能である。
【0055】
さらに、上記各実施形態は、図4に示したような上面発光型の有機EL素子への適用に限定されるものではない。例えば、アノード電極は、高仕事関数の金属膜からなる第1電極12で構成したが、アノード電極は、誘電体多層膜やアルミニウム(Al)等の反射膜の上部に透明導電膜を重ねた2層構造にしてもよい。この場合、この反射膜がこの発明における第1電極となる。そして、透明導電膜は、共振部の一部を構成するものとなる。
【0056】
また、図18に示すように、第1電極12を光反射材料からなるカソード電極とし、第2電極15を透明電極からなるアノード電極とし、第1電極12側から順次有機発光層13c、正孔輸送層13b及びバッファ層13cを積層してなる構成にも適用可能である。この場合、有機層13と第2電極15とを合わせて一つの共振部とし、有機発光層13cで発生した光を有機層13の下端(第1電極12との境界面)と第2電極14の上端(大気層との境界面)とで反射させる。また、このような構成において、Pt、Au、Cr等の高仕事関数を有する材料からなる半透明反射層(図示せず)を、有機層13と第2電極15との間に設けられた構成のものにも適用することができる。この場合は、共振部の構造は、第1実施形態から第3実施形態と同様になる。
【0057】
さらに、図面を用いての説明は省略したが、この発明は、上面発光型の有機EL素子に限定されることはなく、透明な基板11を用いた透過型の有機EL素子にも適用可能である。また、基板11上の薄膜トランジスタに接続された有機EL素子にも適用可能である。
【0058】
図19は、この発明の第4実施形態による有機EL素子を示す要部断面図である。この図19に示す有機EL素子は、図4に示す第1実施形態による上面発光型の有機EL素子に、さらにカラーフィルタを設けた構成を有する。すなわち、有機層13を共振部として、第1電極12からなる反射層と有機層13と半透明反射層14とで共振器構造が構成され、この半透明反射層14上に、第2電極(透明電極)15及びパッシベーション膜16を介してカラーフィルタ20が配置されている。
【0059】
特に、このカラーフィルタ20は、この有機EL素子から取り出したいスペクトルのピーク波長λ近傍の光hのみを透過するものであることとする。つまり、赤(R)領域の光を発光する素子には赤(R)領域の光のみを透過するカラーフィルタ20Rが設けられ、緑(G)領域の光を発光する素子には緑(B)領域の光のみを透過するカラーフィルタ20Gが設けられ、青(B)領域の光を発光する素子には青(B)領域の光のみを透過するカラーフィルタ20Bが設けられている。
【0060】
そして、有機層13からなる共振部の光学的距離Lは、第1実施形態で説明したように、取り出される光のスペクトルのピーク波長λ近傍の光hが多重干渉する範囲で最も広い幅に保たれるように設計されている。またさらに、各カラーフィルタ20における透過率の高い波長範囲に対して、各有機層13から取り出したい光hの波長範囲を一致させることが望ましい。
【0061】
このような構成の有機EL素子では、表示面側(すなわちカラーフィルタ20側)から照射される外光Hのうち、この有機EL素子から取り出したいスペクトルのピーク波長λ近傍の光H1 のみがカラーフィルタ20を透過して共振部(ここでは有機層13)に達し、その他の波長の外光がカラーフィルタ20よりも素子の内部側に侵入することが防止される。
【0062】
ここで、この共振部(すなわち有機層13)は、取り出したいピーク波長λ近傍の光を透過させる狭帯域フィルタであるため、このピーク波長λ近傍の外光H1 に対する透過率が非常に高い、すなわち外光H1 に対する反射率が非常に低い。したがって、カラーフィルタ20から侵入した上記ピーク波長λ近傍の外光H1 は、有機層13においてその反射が抑えられ、再度カラーフィルタ20を透過して外部に放出されることが防止される。
【0063】
図20に、カラーフィルタを配置していない構造の有機EL素子(すなわち図4に示した有機EL素子)の外光反射率のシミュレーション結果を示す。図20中、Bは青(B)色発光の有機EL素子の外光反射を示し、Gは緑(G)色発光の有機EL素子の外光反射を示し、Rは赤(G)色発光の有機EL素子の外光反射を示す。図20に示すように、各有機EL素子とも、各発光色のピーク波長λ付近における外光反射率が低く抑えられていることがわかる。すなわち、青色発光の有機EL素子においては、青(B)領域の外光反射が低く抑えられており、赤色発光及び緑色発光の有機EL素子においても、同様にその表示目的とする波長領域の外光反射が抑えられている。
【0064】
また、図21に、各有機EL素子に配置したカラーフィルタ(20R、20G、20B)の透過特性を示す。図21中、Bは青(B)色発光の有機EL素子に配置されるカラーフィルタの透過特性を示し、Gは緑(G)色発光の有機EL素子に配置されるカラーフィルタの透過特性を示し、Rは赤(R)色発光の有機EL素子に配置されるカラーフィルタの透過特性を示す。図21に示すように、各カラーフィルタとも、各発光色のピーク波長λ付近の透過率が高い。
【0065】
ここで、カラーフィルタが配置されていない図4に示す有機EL素子の外光反射率をR(λ)とし、カラーフィルタの透過率をT(λ)とした場合、カラーフィルタが設けられている図19に示す有機EL素子の外光反射率Rt(λ)は、下記の式(16)のように表される。
Rt(λ)=T(λ)×R(λ)×T(λ) (16)
【0066】
図22に、図19に示した有機EL素子の外光反射率として、式(16)式に基づいて、図20及び図21のグラフを合成したシミュレーション結果を示す。図22中、Bは青(B)色発光の有機EL素子の外光反射を示し、Gは緑(G)色発光の有機EL素子の外光反射を示し、Rは赤(G)色発光の有機EL素子の外光反射を示している。図22に示すように、各有機EL素子とも、各発光色のピーク波長λを含む広い波長領域における外光反射率が低く抑えられることがわかる。
【0067】
一方、有機層13内で発生した発光光のうち、取り出したいピーク波長λ近傍の光hは、そのまま狭帯域フィルタ(有機層13)を透過し、さらにカラーフィルタ20を透過して表示光として取り出される。このため、有機EL素子内で発生した発光光の輝度は、カラーフィルタの透過率のみによって規制される。しかし、各有機EL素子には、その有機EL素子で発生する発光光のうちの取り出したいピーク波長λ近傍の光の透過率が高いカラーフィルタが設けられている。このため、カラーフィルタを配置したことによる発光光の取り出し効率の低下は低く抑えられ、輝度の低下を最小限に抑えることができる。
【0068】
以上の結果、この有機EL素子においては、発光色のうちの取り出したいピーク波長λ近傍の光hの取り出しを妨げることなく、かつ、このピーク波長λ近傍の光を含む外光光Hの反射が防止される。したがって、発光光の輝度を確保しつつ外光下におけるコントラストを大幅に向上させることが可能になる。
【0069】
しかも、この有機EL素子においては、各カラーフィルタ20における透過率の高い波長範囲に対して、この有機層13で共振して取り出される波長範囲を一致させているため、カラーフィルタ20を透過した波長範囲の外光H1 の反射を、有機層13において効果的に抑えることができる。
しかも、第1実施形態と同様に、有機EL素子から取り出される光hを多重干渉させながらも、そのスペクトルの幅をある程度の広さに保つことが可能になるため、広い視野角の範囲で色純度の向上を図ることもできる。
【0070】
なお、この第4実施形態においては、図4に示す第1実施形態による上面発光型の有機EL素子に対して、さらにカラーフィルタを設けた構成の有機EL素子について説明を行った。しかし、この発明はこれに限定されることはなく、第1実施形態、第2実施形態または第3実施形態において説明した各構成の有機EL素子にカラーフィルタを設けた構成とすることができる。ただし、各有機EL素子に配置されるカラーフィルタは、上述したような透過率特性を有するものであることとする。
【0071】
そして、第2実施形態で説明した各構成に対してカラーフィルタを設けた構成の有機EL素子においては、上述したと同様に発光光の輝度を確保しつつ外光下におけるコントラストを大幅に向上させることが可能になるとともに、第2実施形態と同様の効果、すなわち各発光色に対応する共振部の光学的距離Lを共通化することができるといった効果を得ることができる。
【0072】
また、第3実施形態で説明した各構成に対してカラーフィルタを設けた構成の有機EL素子においては、上述したと同様に発光光の輝度を確保しつつ外光下におけるコントラストを大幅に向上させることが可能になるとともに、第3実施形態と同様の効果、すなわち広い視野角の範囲で色純度の向上を図ることができると言った効果を得ることができる。
【0073】
なお、第4実施形態による有機EL素子を、基板側から発光光を取り出す構造の有機EL素子にも適用する場合には、例えば図23に示すように、透明基板31側から順に、透明材料からなる第2電極32、アノード電極を兼ねる半透明反射層33、バッファ層34a、正孔輸送層34b及び有機発光層34cからなる有機層34、反射層を兼ねるカソード電極である第1電極35を積層させ、透明基板31を挟んでこれらの層と反対側に、適宜選択されたカラーフィルタ20を組み合わせて配置する。なお、カラーフィルタ20は、透明基板31と第2電極32との間に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】従来の有機EL素子の構成を示す要部断面図である。
【図2】従来の有機EL素子から取り出された各色のスペクトルを示す略線図である。
【図3】外光反射の防止を目的とした従来の表示素子の構成例を示す略線図である。
【図4】この発明の第1実施形態による有機EL素子を示す要部断面図である。
【図5】この発明の第1実施形態による有機EL素子から取り出された各光のスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図6】この発明の第1実施形態による有機EL素子における有機層単体のフィルタ特性を示すスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図7】この発明の第1実施形態による有機EL素子における内部発光スペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図8】従来の有機EL素子から取り出された各光のスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図9】従来の有機EL素子における有機層単体のフィルタ特性を示すスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図10】この発明の第1実施形態による有機EL素子(G発光)の視野角依存性を示す略線図である。
【図11】従来の有機EL素子(G発光)の視野角依存性を示す略線図である。
【図12】この発明の第1実施形態による有機EL素子及びその比較例の色度座標を示す略線図である。
【図13】この発明の第2実施形態による有機EL素子を示す要部断面図である。
【図14】この発明の第2実施形態による有機EL素子における有機層単体のフィルタ特性を示すスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図15】この発明の第3実施形態による有機EL素子を示す要部断面図である。
【図16】この発明の第3実施形態による有機EL素子における有機層単体のフィルタ特性を示すスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図17】この発明の第3実施形態による有機EL素子(G発光)から取り出された光のスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図18】この発明が適用される他の有機EL素子を示す要部断面図である。
【図19】この発明の第4実施形態による有機EL素子を示す要部断面図である。
【図20】この発明の第4実施形態による有機EL素子においてカラーフィルタなしの場合の外光反射特性を示すスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図21】この発明の第4実施形態による有機EL素子に設けた各カラーフィルタの透過特性を示すスペクトルを示す略線図である。
【図22】この発明の第4の実施形態による有機EL素子における外光反射特性を示すスペクトルのシミュレーション例を示す略線図である。
【図23】この発明の第4実施形態による有機EL素子の他の構成例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0075】
12,35…第1電極、13,34…有機層、13c,34c…有機発光層、14,33…半透明反射層、15,32…第2電極、20…カラーフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射膜と半透明反射層との間に、少なくとも発光層を有する有機層が挟持されるとともに、前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、前記表示素子から取り出される光のスペクトルのピーク位置のシフト量が、0°〜60°の視野角範囲において30nm未満となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項2】
反射膜と半透明反射層との間に、少なくとも発光層を有する有機層が挟持されるとともに、前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記半透明反射層の上方に、前記共振部で共振して当該半透明反射層側から取り出される光を透過するカラーフィルタが設けられるとともに、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、前記表示素子から取り出される光のスペクトルのピーク位置のシフト量が、0°〜60°の視野角範囲において30nm未満となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項3】
基板上に光反射材料からなる第1電極、透明導電膜、少なくとも発光層を有する有機層及び第2電極が順次積層され、前記第2電極側から光が取り出されるとともに、前記透明導電膜及び前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、前記表示素子から取り出される光のスペクトルのピーク位置のシフト量が、0°〜60°の視野角範囲において30nm未満となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項4】
基板上に光反射材料からなる第1電極、透明導電膜、少なくとも発光層を有する有機層及び第2電極が順次積層され、前記第2電極側から光が取り出されるとともに、前記透明導電膜及び前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記第2電極の上方に、前記共振部で共振して当該第2電極側から取り出される光を透過するカラーフィルタが設けられるとともに、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、前記表示素子から取り出される光のスペクトルのピーク位置のシフト量が、0°〜60°の視野角範囲において30nm未満となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項5】
反射膜と半透明反射層との間に、少なくとも発光層を有する有機層が挟持されるとともに、前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、0°〜60°の視野角範囲における発光強度が、0°における発光強度の50%以上となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項6】
反射膜と半透明反射層との間に、少なくとも発光層を有する有機層が挟持されるとともに、前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記半透明反射層の上方に、前記共振部で共振して当該半透明反射層側から取り出される光を透過するカラーフィルタが設けられるとともに、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、0°〜60°の視野角範囲における発光強度が、0°における発光強度の50%以上となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項7】
基板上に光反射材料からなる第1電極、透明導電膜、少なくとも発光層を有する有機層及び第2電極が順次積層され、前記第2電極側から光が取り出されるとともに、前記透明導電膜及び前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、0°〜60°の視野角範囲における発光強度が、0°における発光強度の50%以上となるようにした
ことを特徴とする表示素子。
【請求項8】
基板上に光反射材料からなる第1電極、透明導電膜、少なくとも発光層を有する有機層及び第2電極が順次積層され、前記第2電極側から光が取り出されるとともに、前記透明導電膜及び前記有機層が前記発光層で発光した光を共振させる共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、
前記第2電極の上方に、前記共振部で共振して当該第2電極側から取り出される光を透過するカラーフィルタが設けられるとともに、
前記発光層で発生した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアン、前記共振部の光学的距離をL、前記光のうちの取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合、式
(2L)/λ+Φ/(2π)=m(mは整数)
を満たす範囲で前記光学的距離Lが正の最小値となるように構成することで、0°〜60°の視野角範囲における発光強度が、0°における発光強度の50%以上となるようにした
ことを特徴とする表示素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2006−147598(P2006−147598A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48614(P2006−48614)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【分割の表示】特願2001−540568(P2001−540568)の分割
【原出願日】平成12年11月22日(2000.11.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】