説明

表示装置用フェースプレートとその製造方法並びにそれらを用いた表示装置及び物品

【課題】加工時や廃棄時に環境負荷が少なく、かつ安価に製造できる表示装置用フェースプレートとその製造方法並びにそれらを用いた表示装置及び物品を提供する。
【解決手段】炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素官能基を有する物質2が、外側となる側の表面に露出した透明な基材3の表面の少なくとも一部を覆うように存在する表示装置用フェースプレート1、フェースプレートの外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する透明な基材3の外側となる側の表面を、フッ化炭素基を含むガス雰囲気中で低圧プラズマ処理する工程Aを含む表示装置用フェースプレート1の製造方法、並びにそれらを用いた表示装置及び物品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置用フェースプレートとその製造方法並びにそれらを用いた表示装置及び物品に関し、更に詳しくは、耐久性が高く、安価に製造することができ、人体及び環境に対する安全性が高く、指紋等の付着が少ない光学レンズや筐体を含めた表示装置用フェースプレートとその製造方法、並びにそれらを用いた表示装置及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活レベルの向上及び衛生意識の高揚に伴い、身の回りの物品の汚れ対策が要望されている。各種情報機器や操作端末に用いられている光学レンズや筐体を含めた表示装置についても、指紋等の付着を少なくすること、並びに視認性の向上、メンテナンスコストの低減、特にタッチパネルにおける公衆衛生上の要請等の理由から防汚性の向上が求められている。
【0003】
部材の表面の汚れを防止する手段として、部材の表面に表面エネルギーが小さな被膜を形成する方法や部材の表面そのものの表面エネルギーを小さくする表面処理方法があるが、それらの中でも、加工時の環境負荷が少ない技術、また、製品を廃棄する際の、環境破壊が少ない製造技術が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高耐久性の撥水撥油防汚被膜が形成されたガラス板であって、前記撥水撥油防汚性被膜が、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質(例えば、パーフルオロアルキルアルコキシシラン)とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜を少なくとも1層含んでいることを特徴とする撥水撥油防汚性ガラス板及びその製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、フッ素ガスを用いて部材の表面そのものを防汚処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−206447号公報
【特許文献2】特開2005−290118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の撥水撥油防汚性ガラス板の製造方法では、高価なフッ化炭素系のシラン化合物を用いるため、製造コストが高いという欠点がある。
一方、特許文献2に記載の方法では、防汚処理時に溶媒を必要としないが、処理により透明度が劣化するという問題や、反応に長時間(数時間)を必要とするので効率が悪いという問題を有している。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、加工時や廃棄時に環境負荷が少なく、かつ安価に製造できる指紋等の付着が少ない光学レンズや筐体を含めた表示装置用フェースプレートとその製造方法並びにそれらを用いた表示装置及び物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素官能基を有する透明な物質が、外側となる側の表面に露出した透明な基材の少なくとも一部を覆うように存在することを特徴とする表示装置用フェースプレートを提供することにより上記課題を解決するものである。
なお、本発明において「表示装置」には、表示機能と操作機能を併せ持つ機器操作用のタッチパネル及び携帯情報端末も含まれる。さらにまた、「物品」には、携帯電話、電子計算機、PDA(携帯情報端末)、GPS端末、テレビジョン受像器、キャッシュディスペンサー(CD)装置、現金自動預け払い機(ATM)等が含まれる。
【0010】
なお、「フェースプレート」とは、表示装置の表示面上の最も外側を覆う透明な部材をいい、表示面の保護及び入力機能を兼ね備えたタッチパネル、情報入力部材である携帯電話のカメラレンズ、入力部と筐体を兼ねた携帯情報端末のタッチパネル部等も本発明における「フェースプレート」に含まれる。また、「外側となる側の表面」とは、表示装置にフェースプレートとして組み込んだ際に外側となる表面をいい、以下「外側表面」と略称する場合がある。
【0011】
携帯電話に組み込まれているカメラレンズや筐体を含めた表示装置用フェースプレートの外側表面の少なくとも一部を、炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素官能基を有する物質で覆うことにより、基材の表面エネルギーを低下させ、高い撥水撥油性を付与できる。
【0012】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素官能基が、前記基材の前記外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する炭化水素基を有する物質を、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で低圧プラズマ処理することにより得られることが好ましい。
このようにして撥水撥油防汚性を有する含フッ素官能基を含む物質を得ることにより、高価なフッ化炭素系の膜化合物を使用した場合よりも低コストで撥水撥油防汚性を有する表示装置用フェースプレート等を製造できる。
【0013】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素官能基を有する物質が、直鎖状の前記含フッ素官能基を有する膜物質を含み、前記基材の前記外側となる側の表面に化学結合した有機薄膜を形成していてもよい。
基材の外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在している含フッ素官能基を有する物質が、ナノメートルレベルの膜厚を有する有機薄膜を形成しているため、基材の光学的特性等を損なうことなく撥水撥油性を付与できる。
【0014】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素官能基が、炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、及びエーテル基を有する炭化水素基のいずれかにおいて任意の1又は複数の水素原子がフッ素原子又はフッ化炭素基のいずれかで置換された官能基であってもよい。
【0015】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素官能基が、下記の式(I)〜(V)で表される官能基中の任意の1又は複数の水素原子がフッ素原子又はフッ化炭素基のいずれかで置換された官能基であってもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
なお、式(I)〜(V)において、m及びnは、それぞれ独立して0以上24以下の整数を表し、m≧nである。
【0018】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素有機薄膜が、前記基材の前記外側となる側の表面に化学結合した前記膜物質の単分子膜であってもよい。
含フッ素有機薄膜が単分子膜であると、基材の外観(色調、光沢等)及び光学的特性を損なうことがなく、光学材料や各種装置の筐体等にも好適に適用できる。また、含フッ素有機薄膜が基材の外側となる側の表面に化学結合しているため、耐久性にも優れ、長期間にわたって撥水撥油防汚性を発揮できる。
【0019】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素有機薄膜が、アルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンから形成されたポリシロキサン分子を含んでいてもよい。
また、この場合において、前記含フッ素炭化水素基を有する膜物質が、前記基材の前記外側となる側の表面に結合固定された前記ポリシロキサン分子の被膜を介して前記基材の該外側となる側の表面に結合固定されていてもよい。
【0020】
或いは、この場合において、前記ポリシロキサン分子の被膜がアルコキシシリル基と前記基材の前記外側となる側の表面に存在する表面官能基との反応により形成された結合を介して前記基材の該外側となる側の表面に固定され、前記含フッ素炭化水素基を有する膜物質のうち一部は前記基材の前記外側となる側の表面に直接結合し、残りは前記ポリシロキサン分子の被膜を介して前記基材の該外側となる側の表面に結合固定されていてもよい。
ポリシロキサン分子の被膜を形成することにより、最表面の膜物質の密度を向上でき、耐久性及び撥水撥油防汚性を向上できる。なお、前記ポリシロキサン分子の被膜は、ナノメートルレベルの膜厚なので熱伝導性を損なうことがない。そのため、放熱部材等にも好適に適用できる。
【0021】
含フッ素有機薄膜がポリシロキサン分子を含む本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記ポリシロキサン分子が、下記の式(VI)で表されるアルコキシシラン及び/又は式(VII)で表されるアルコキシポリシロキサンの縮合反応により形成されるものであってもよい。
SiH(OA)4−x (VI)
(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA) (VII)
なお、式(VI)及び(VII)において、
xは0、1、又は2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、又は2である。
【0022】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記含フッ素官能基を有する物質が前記含フッ素官能基を有する含フッ素有機高分子であってもよい。
基材の外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように含フッ素有機高分子が存在しているため、撥水撥油性を併せて具備し、外側表面への汚れの付着を防止できる。
【0023】
本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートにおいて、前記外側となる側の表面の表面粗さが10nm以上400nm以下であることが好ましい。
表示装置用フェースプレートの外側表面の表面粗さが可視光の最短波長である400nm以下であれば、透明な基材を用いた場合であっても、表示装置用フェースプレートの透明度及び光学的特性を損なうことなく高い撥水撥油防汚性を付与できる。
【0024】
本発明の第2の態様は、炭化水素基を有する透明な物質がフェースプレートの外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する透明な基材の該外側となる側の表面を、フッ化炭素基を含むガス雰囲気中で低圧プラズマ処理する工程Aを含むことを特徴とする表示装置用フェースプレートの製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0025】
工程Aにおいて、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、基材表面の炭化水素基を有する物質の表面を低圧プラズマ処理して、炭化水素基中の水素原子の一部又は全部をフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換することにより、撥水撥油性を付与する。そのため、高価なフッ化炭素系の膜化合物を使用した場合よりも低コストで撥水撥油防汚性を有する表示装置用フェースプレートを製造できる。
【0026】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記工程Aにおいて、前記フッ化炭素基を含む化合物のガスと酸素ガスの混合雰囲気中で前記基材の外側となる側の表面の前記炭化水素基を有する物質の表面を低圧プラズマ処理してもよい。
フッ化炭素基を含む化合物のガスと酸素ガスの混合雰囲気中で基材を低圧プラズマ処理すると、より効率よく、かつ耐久性の高い撥水撥油防汚性部材を提供できる。
【0027】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記工程Aの前に、前記基材の前記外側となる側の表面に表面粗さが10nm以上400nm以下である凸凹を形成する工程Bを更に有していてもよい。
この場合、平坦な表面の場合よりも撥水撥油性透明部材表面の見かけ上の表面エネルギーを大幅に低減でき、高い撥水撥油防汚性を付与できる。また、撥水撥油性透明部材の表面粗さが可視光の最短波長である400nm以下であるため、透明なレンズやフェースプレートに用いた場合であっても、レンズやフェースプレートの透明度を損なうことなく高い撥水撥油防汚性を付与できる。
【0028】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記基材の前記外側となる側の表面の少なくとも一部を覆う前記炭化水素基を含む物質の被膜を前記基材の前記外側となる側の表面に形成する工程Cを更に有していてもよい。
炭化水素基を含む物質の被膜を基材の外側となる側の表面に形成する工程Cを有することにより、外側となる側の表面に炭化水素基を有しない無機基材を用いて表示装置用フェースプレートを製造できる。
【0029】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記工程Cにおいて、炭化水素基を有する膜化合物を含む処理液を前記基材の前記外側となる側の表面に接触させ、前記膜化合物と前記基材の前記外側となる側の表面の表面官能基との反応により炭化水素基を含む有機薄膜を形成してもよい。
工程Cにおいて、基材の外側となる側の表面に形成される炭化水素基を有する物質の被膜が、ナノメートルレベルの膜厚を有する有機薄膜であるため、基材の光学的特性等を損なうことなく撥水撥油性を付与できる。
【0030】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記膜化合物が、炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、及びエーテル基を有する炭化水素基のいずれかを含んでいてもよい。
【0031】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記膜化合物が、下記の式(X)で表される膜化合物であってもよい。
Z−SiXp3-p (X)
なお、式(X)において、Zは炭素数25以下のアルキル基、アリール基、ビニル基及びシリコーン基のいずれかを含む置換基を表し、
Xは水素原子、又は前記Zより炭素数の少ないアルキル基、アリール基、ビニル基及びシリコーン基のいずれかを含む置換基を表し、
Yは、ハロゲン原子又はアルコキシル基を表し、
pは0、1又は2を表す。
【0032】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記炭化水素基を含む膜化合物が、下記の式(XI)〜(XV)のいずれかで表される膜化合物であってもよい。
CH(CHSi(OA) (XI)
[CH(CHSi(OA) (XII)
[CH(CHSi(OA) (XIII)
CH(CH−COO−(CHSi(OA) (XIV)
CH(CH−O−(CHSi(OA) (XV)
なお、式(XI)〜(XV)において、m及びnは、それぞれ独立して0以上24以下の整数を表し、m≧nであり、Aはアルキル基を表す。
【0033】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記処理液が、下記の式(VI)で表されるアルコキシシラン及び/又は式(VII)で表されるアルコキシポリシロキサンを含んでいてもよい。
SiH(OA)4−x (VI)
(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA) (VII)
なお、式(VI)及び(VII)において、
xは0、1、又は2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、又は2である。
【0034】
或いは、本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記工程Cにおいて、前記アルコキシシラン及び/又は前記アルコキシポリシロキサンを含む溶液で前記基材の前記外側となる側の表面を処理して、該表面にポリシロキサン分子の被膜を形成し、次いで前記処理液でポリシロキサン分子の被膜が形成された前記基材を処理して、前記ポリシロキサン分子の被膜上に前記有機薄膜を形成してもよい。
ポリシロキサン分子の被膜を形成することにより、最表面の膜物質の密度を向上でき、耐久性及び撥水撥油防汚性を向上できる。
【0035】
本発明の第2の態様に係る表示装置用フェースプレートの製造方法において、前記工程Cにおいて、有機高分子を含む被膜を前記基材として形成してもよい。
【0036】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る表示装置用フェースプレートを用いた表示装置を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0037】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様に係る表示装置を用いた物品を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0038】
本発明の第4の態様に係る物品が、携帯電話、電子計算機又は電子計算機用表示装置、携帯情報端末、GPS端末、テレビジョン受像器、キャッシュディスペンサー装置及び現金自動預け払い機のいずれかであってもよい。さらに、それらに用いられるレンズや筐体そのもので合っても良い。
これらの物品は、いずれも人体に接触することの多い物品に用いられるものであり、衛生上の観点から防汚性が強く求められており、本発明を好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によると、加工時や廃棄時に環境負荷が少なく、かつ安価に製造できるフェースプレートを有する表示装置用フェースプレートとその製造方法及びそれらを用いた表示装置及び物品が提供される。また、本発明の方法によると、外側表面に炭化水素基を有するフェースプレートの最表面にのみ、省資源、省エネルギー、かつ低コストで撥水撥油防汚機能を付与することが可能である。
【0040】
本発明に係る表示装置及びそれを用いた物品は、高い防汚性、耐久性、人体及び環境に対する安全性を併せ持ち、半永久的に防汚性を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の各実施の形態に係る表示装置用フェースプレートの断面構造の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレートの断面構造を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図3】同表示装置用フェースプレートの製造方法において、有機薄膜が形成された基材の断面構造を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る表示装置用フェースプレートの断面構造を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図5】同表示装置用フェースプレートの製造方法において、ポリシロキサン分子を含む有機薄膜が形成された基材の断面構造を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図6】同表示装置用フェースプレートの製造方法において、シラノール基を多数含む有機薄膜が形成された状態を示す説明図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る表示装置用フェースプレートの断面構造を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る撥水撥油防汚性部材の製造方法の説明図で、(a)及び(b)は、それぞれ、フッ化炭素基を有する化合物のガス雰囲気中での低圧プラズマ処理前及び処理後の基材の外側表面近傍を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0043】
図1に示すように、本発明の各実施の形態に係る表示装置用フェースプレート1(以下、個別に説明する第1〜第4の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10、20、30、40の総称)において、炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素官能基を有する透明な物質2(以下、個別に説明する第1〜第3の実施の形態に係る含フッ素有機薄膜11、21、31及び第4の実施の形態に係る含フッ素有機高分子41の総称)が、外側となる側の表面に露出した透明な基材3(以下、個別に説明する第1〜第4の実施の形態に係る基材12、22、32、42の総称)の外側表面の少なくとも一部(図1には、一例として基材3の全面を覆うように存在する場合について図示している。)を覆うように存在している。
【0044】
表示装置用フェースプレート(以下、「フェースプレート」と略称する場合がある。)1は、炭化水素基を有する物質が外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する基材3(の外側となる側の表面)を、フッ化炭素基を含むガス雰囲気中で低圧プラズマ処理する工程Aを含む方法により製造される(図2、4、7、8(b)参照)。この場合において、含フッ素官能基は、基材3の外側となる側の表面(の少なくとも一部を覆うように存在する炭化水素基を有する物質)を、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で低圧プラズマ処理することにより得られる。
【0045】
まず、工程Aについて説明する。
フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で高周波放電によりプラズマを発生させると、フッ素ラジカル(・F)や、トリフルオロメチルラジカル(・CF)等のフッ化炭素ラジカルが生成する。これらのラジカルが、基材3の外側となる側の表面の炭化水素基の水素原子をトリフルオロメチル基19、43(フッ素原子又はフッ化炭素基の一例)で置換する(図2、4、7、8(b))。或いは、テトラフルオロエチレン等の不飽和結合を有する化合物を含むガスを用いる場合には、プラズマ重合により炭素数の大きいパーフルオロアルキル基も生成しうる。
【0046】
低圧プラズマ処理には、プラズマ表面処理や低温灰化等に使用可能な任意のプラズマ処理装置を用いることができる。チャンバーの形態の具体例としては、流通管型、ベルジャー型等が挙げられ、講習は放電のための電極の形態としては、平行平板型、同軸円筒型、円筒、球等の曲面対向平板型、双曲面対向平板型、複数の細線対向平板型等の電極が挙げられる。高周波電流は、容量結合形式、外部電極を用いた誘導形式のいずれによっても印加可能である。高周波電源の出力は、基材の材質及び大きさ、用いられるフッ化炭素基を含む化合物の種類、添加されるガスの種類及び体積分率、チャンバーの容量及び圧力等によって適宜調節されるが、例えば10〜250Wである。
【0047】
なお、使用可能なことを確認できたフッ化炭素基を含む化合物としては、CF、C、C、CHF等がある。原理的には、CF基を含み常温常圧で液体である化合物であっても、低圧プラズマ処理条件下でガス化できれば使用可能である。なお、このとき、微量(0.1〜5体積%)のArやHe等を混合しておくと、放電を安定化させる効果がある。
【0048】
また、酸素を微量(0.1〜15体積%)含ませておくと、基材12の外側となる側の表面を酸化しながら炭化水素基の水素原子をフッ素原子やフッ化炭素基で置換することになり、処理効率を上げる効果がある。或いは、予め酸素ガス雰囲気中で低圧プラズマ処理を行い、外側表面の酸化エッチングを行った後にフッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で低圧プラズマ処理を行ってもよい。
【0049】
酸素ガス雰囲気中でのプラズマ処理は、基材12の外側表面をクリーニングする作用と、外側表面を粗面化する作用があり、高周波電源のパワーや処理時間を任意に制御することで、表面粗さを数ナノメートルから数百ミクロンの範囲で制御できる。
【0050】
表示装置用フェースプレート1の製造に用いられる基材3は、透明であり、かつ炭化水素基を有する物質が外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する必要があるものの、その材質、形状及び大きさについて特に制限はなく、任意の材質、形状及び大きさのものを用いることができる。外側となる側の表面に炭化水素基を有しない無機材料からなる基材3を用いる場合には、後述する工程Cにおいて、その外側表面の少なくとも一部を覆う炭化水素基を含む物質の被膜を基材3の外側表面に形成することができる。
基材3の材質の具体例としては、樹脂等の有機材料、ガラス等の無機材料が挙げられる。
【0051】
透明な樹脂の具体例としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリマーアロイ、ポリメチルペンテン、アイオノマー樹脂、アクリル樹脂、アセチルセルロース、アルキド樹脂、AS樹脂、液晶ポリマー、ABS樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、その他エンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
【0052】
また、透明な無機材料の具体例としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、クリスタルガラス、ガラスセラミックス等のガラス、酸化インジウム、酸化マグネシウム、ITO等の金属酸化物、塩化ナトリウム、フッ化物単結晶等の無機塩、ダイヤモンド、DLC等が挙げられる。基材3はバルク材料である必要はなく、蒸着膜、コーティング等の薄膜材料であってもよく、積層材等であってもよい。透明薄膜材料の具体例としては、透明樹脂板の表面を被覆するシリカを含むハードコート膜、ITO膜又は透明な金属酸化物(シリカ、アルミナ、ジルコニア等)のゾル−ゲル膜等が挙げられる。また、これらの薄膜材料は、表面保護膜、偏光フィルター、透明導電体層等の機能を有するものであってもよい。薄膜材料の形成には、気相成長法(PVD及びCVD)、コーティング剤の塗布、ナノ粒子等を用いた微粒子膜の形成、ゾル−ゲル法等の任意の公知の方法を用いることができる。
【0053】
フェースプレート1をタッチパネルとして用いる場合には、可撓性を有するように基材3の厚みを小さくし、裏面側にITO等の透明導電体層を有していてもよい。或いは、これらの樹脂が、ガラス等の透明基材の外側表面上に貼着されたものを基材3として用いてもよい。
【0054】
表示装置用フェースプレート1又は基材3の外側表面の表面粗さは、10nm以上400nm以下、好ましくは360nm以下、より好ましくは300nm以下である。表示装置用フェースプレート1の外側表面の凹凸の形状は、入射光の回折や乱反射等により基材3の光学的特性を損なわない限り特に制限されず、規則的な形状であっても、不規則な形状であってもよい。一般に表面粗さが前記範囲内であれば、基材3の表面特性を悪化させることなく、低圧プラズマ処理後の表面の疎水性を更に向上できると共に、基材3の透明度等の可視光に対する光学特性を損なうことがない。表面粗さは、表面粗さ計、3次元計測器等の任意の公知の方法を用いて測定することができる。また、凹凸の大きさについては、実体顕微鏡又は電子顕微鏡写真を用いた画像解析により測定することもできる。
【0055】
次いで、本発明の第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10及びその製造方法について説明する。
図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10において、基材12の外側表面には、デシル基(C1021:炭化水素基であるアルキル基の一例)中の末端のメチル基の水素原子がトリフルオロメチル基19で置換された膜物質(水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素炭化水素基を有する膜物質の一例)を含む含フッ素有機薄膜11が形成されている。本実施の形態において、含フッ素有機薄膜11は、基材12の外側表面に共有結合(化学結合の一例)した膜物質からなる単分子膜である。
【0056】
表示装置用フェースプレート10は、その基材12の外側となる側の表面に炭化水素基を有する膜化合物を含む処理液を接触させ、膜化合物と基材12の表面官能基との反応により生成した膜物質を含む有機薄膜(基材12の外側表面の少なくとも一部を覆うように存在する炭化水素基を有する物質の一例)18を形成する工程C(図3参照)と、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で有機薄膜18が形成された基材12の外側表面を低圧プラズマ処理することにより、有機薄膜18に含まれる炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素有機薄膜11を形成する工程Aとを有する方法により製造される。
【0057】
なお、工程Aの前に、基材12の外側表面を、上記範囲内の表面粗さ及び凹凸の大きさを有するように粗面化してもよい(工程B)。工程Bを実施する順序は、工程Cの前及び後のいずれであってもよい。すなわち、工程A〜Cは、(1)工程B→工程C→工程A(基材12の外側表面を粗面化した後有機薄膜18を形成する。)、及び(2)工程C→工程B→工程A(有機薄膜18が形成された基材12の外側表面を粗面化する。)のいずれの順序で実施してもよい。各工程の順序については、後述する第2及び第3の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート20及び30の製造方法についても同様である。
【0058】
次に工程Bについて説明する。
基材12の外側となる側の表面を粗面化する方法としては、サンドブラスト、機械研磨、及びクロム酸混液、リン酸、アルカリ等による化学処理等の任意の公知の方法を用いて予め粗面化しておいてもよいが、酸素ガス及び塩素ガスを含む雰囲気中で低圧プラズマ処理を行うことにより行うこともできる。所望の表面粗さ及び凹凸の大きさを有する表面が得られるようにプラズマ処理の条件を適宜調節してもよい。なお、低圧プラズマ処理に使用される装置及び処理条件等については工程Aの場合と同様であるので詳しい説明を省略する。
【0059】
次に工程Cについて説明する。
工程Cにおいて有機薄膜18の形成に使用する処理液は、膜化合物を溶媒中に分散させることにより調製される。ここで、「分散」とは、均一な溶液、懸濁液、及び乳濁液のいずれかを形成している状態を意味する。使用することができる膜化合物としては、鎖状の親油性の官能基を含み、基材12の外側表面に膜物質2からなる被膜を形成することができる任意の化合物が挙げられるが、基材12の外側表面の表面官能基との結合を介して基材12の外側表面に固定させるためには、表面結合基を末端に有していることが好ましい。好ましい表面官能基としては、多くの材料の表面に存在するヒドロキシル基と室温で比較的迅速に反応するアルコキシシリル基が挙げられる。また、単分子膜を形成するためには、親油性の官能基は、自己組織性を有する直鎖状の長鎖アルキル基等が好ましい。
【0060】
膜化合物としては、例えば、下記の一般式(X)で表されるシラン化合物を使用できる。
Z−SiXp3-p (X)
なお、式(X)において、Zは炭素数25以下のアルキル基、アリール基、ビニル基及びシリコーン基のいずれかを含む置換基を表し、
Xは水素原子、又は前記Zより炭素数の少ないアルキル基、アリール基、ビニル基及びシリコーン基のいずれかを含む置換基を表し、
Yは、ハロゲン原子又はアルコキシル基を表し、
pは0、1又は2を表す。
【0061】
好ましい膜化合物は、例えば、下記の式(XI)〜(XV)のいずれかで表されるアルコキシシラン化合物である。
CH(CHSi(OA) (XI)
[CH(CHSi(OA) (XII)
[CH(CHSi(OA) (XIII)
CH(CH−COO−(CHSi(OA) (XIV)
CH(CH−O−(CHSi(OA) (XV)
なお、式(XI)〜(XV)において、m及びnは、それぞれ独立して0以上24以下の整数(但し、m≧n)を表し、Aはアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基を表す。
【0062】
膜化合物の具体例としては、下記の(1)〜(19)に示す化合物が挙げられる。なお、Cはフェニレン基を表す。
(1) CHCHO(CH15Si(OCH
(2) CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(3) CH(CHSi(CH(CHSi(OCH
(4) CHCOO(CH15Si(OCH
(5) CH(CHSi(OCH
(6) CH(CHSi(OCH
(7) CH(CHSiCH
(8) CHCHO(CH15Si(OC
(9) CH(CHSi(CH15Si(OC
(10) CH(CHSi(CHSi(OC
(11) CHCOO(CH15Si(OC
(12) CH(CHSi(OC
(13) CH(CHSi(OCH
(14) CH(CHSi(OC
(15) [CH(CHSi(OCH
(16) [CH(CHSiOCH
(17) [CH(CHSi(OC
(18) [CH(CHSiOC
(19) CH(CHSiCH(OCH
【0063】
処理液に含まれる膜化合物の濃度は、好ましくは0.1mmol/L〜10mmol/Lである。膜化合物の濃度が0.1mmol/Lを下回ると、均一な有機薄膜18を形成することが困難であり、濃度が10mmol/Lを上回ると、ゲル化等が起こりやすくなり、保存安定性が低下する。
【0064】
溶媒としては、膜化合物を溶解又は安定に分散させることができる任意の液体を使用することができる。膜化合物は高い疎水性を有するため、溶解させるためには有機溶媒が使用される。しかし、表示装置用フェースプレート10の製造時における環境負荷の低減の観点からは、水の使用が好ましい。しかし、水をそのまま使用するだけでは、膜化合物を溶解させることも安定に分散させることも困難である。したがって、水を溶媒として使用する場合には、処理液は、水を主体とする溶媒に膜化合物を可溶化又は安定に分散可能にするために、界面活性剤及び/又はアルコールを含んでいる。
【0065】
界面活性剤としては、任意のものを用いることができるが、好ましくは、陽イオン性界面活性剤であるテトラアルキルアンモニウム塩、より具体的には下記の式(VIII)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩である。
【0066】
【化2】

【0067】
なお、式(VIII)において、
は炭素数1〜20、より好ましくは炭素数12〜16のアルキル基を表し、
、R、及びRはメチル基又はエチル基、より好ましくはメチル基を表し、
Xはハロゲンを表す。
【0068】
特に好ましいテトラアルキルアンモニウム塩は、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムCH(CH15N(CHBrである。
【0069】
テトラアルキルアンモニウム塩の濃度は、好ましくは0.1mmol/L〜10mmmol/L、より好ましくは0.5mmol/L〜5mmol/Lである。濃度が0.1mmol/Lを下回ると、膜化合物を十分に可溶化することができず、10mmol/Lを上回ると、処理液のpHが後述する最適範囲外となったり、泡を生じたりするおそれがある。
【0070】
また、アルコールとしては、膜化合物を水中に均一に分散することができる任意のアルコールを用いることができるが、水と相溶性を有し、揮発性の高い、エタノール、プロパノール(1−プロパノール及び2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール)、エチレングリコールが好ましい。これらのアルコールは単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0071】
水とアルコールの混合比は特に制限されないが、水とアルコールの体積比が、80:20〜95:5であることが好ましい。
【0072】
処理液には、pHを調整するために、酸又は塩基を加えてもよい。好ましいpHの範囲は、5〜12である。pHが5を下回ると、密度の高い有機薄膜18が形成されなくなると共に、処理液の保存安定性が低下する。また、pHが12を上回ると、シロキサン結合のアルカリ加水分解により、形成された有機薄膜18が破壊されるおそれがある。
【0073】
処理液は、膜化合物と溶媒(好ましくは、界面活性剤及び/又はアルコールとを含む水)を、混合して分散させる工程を有する方法により調製される。まず、これらの成分を、所望の組成比となるよう秤量したものを混合する。各成分を添加する順番については特に制限されない。次いで、超音波分散機又はホモジナイザーを用いて混合物を処理すると、アルコキシシリル基の一部が加水分解によりシラノール基に変換され、均一かつ透明な処理液が得られる。処理温度及び時間に制限はないが、超音波分散機を用いる場合には、例えば、室温で10分間処理を行う。
【0074】
上述のようにして得られる処理液を用いた有機薄膜18の形成は、例えば、下記の方法を用いて行うことができる。まず、基材12の外側表面に処理液を塗布し、溶媒の大部分が揮発するまで(例えば、大気中、室温で1時間)放置する。基材12の外側表面のヒドロキシル基(図示しない)とアルコキシシリル基との縮合反応により形成された共有結合(シロキサン結合)を介して、膜化合物が基材12の外側表面に結合し、有機薄膜(単分子膜)18が形成される(図3参照)。
【0075】
なお、この場合において、処理液の濃度によっては余分な膜化合物が基材12の外側表面に残ってしまう場合があるが、そのような場合には、溶剤で洗浄除去すればよい。余分な膜化合物が少量であれば、未洗浄のまま放置しておいても、空気中の水分によるアルコキシル基の加水分解により生成したシラノール基により縮合反応が起こり、膜物質が形成されるので問題はない。
【0076】
アルコキシシリル基と基材12の外側表面のヒドロキシル基との縮合反応を促進するために、縮合触媒を添加してもよい。縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0077】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0078】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0079】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレートの具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0080】
或いは、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間を更に短縮できる。
【0081】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズジアセテートの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用いることができる。
【0082】
或いは、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズジアセテートとの混合物(混合比は1:1)を用いてもよい。
【0083】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0084】
また、用いることができる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0085】
或いは、上記の化合物(1)〜(19)においてアルコキシシリル基の代わりにハロシリル基(クロロシリル基又はブロモシリル基)を有するハロシラン化合物を膜化合物として用いてもよい。この場合には、シラノール縮合触媒及び助触媒が不要であるが、ハロシリル基は水(空気中の水分も含む)やアルコールと速やかに反応するため、溶媒として水やアルコールを含む溶媒が使用できず、基材12の外側表面への処理液の塗布及び反応を乾燥条件下(相対湿度45%以下)で行う必要がある。
【0086】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート20について説明する。図4に示すように、表示装置用フェースプレート20において、含フッ素有機薄膜21は、アルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンから形成されたポリシロキサン分子24を含んでいる。より具体的には、図4に示すように、ポリシロキサン分子24は、基材22の外側表面のヒドロキシル基(表面官能基の一例)との結合を介して基材22の外側表面に固定され、その表面を網目状に被覆するポリシロキサン分子の被膜27と、基材12の外側表面及びポリシロキサン分子13上に形成された、デシル基(C1021:炭化水素基であるアルキル基の一例)中の末端のメチル基の水素原子がトリフルオロメチル基で置換された膜物質(水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素炭化水素基を有する膜物質の一例)とからなる被膜で被覆されている。膜物質は、膜化合物の末端のアルコキシシリル基(反応性基の一例)と、基材22の外側表面のヒドロキシル基(表面官能基の一例)又はポリシロキサン分子24上のシラノール基との反応により形成された結合(Si−O−結合)を介して基材22の外側表面及び網目状に基材22の外側表面を被覆するポリシロキサン分子24に固定されている。
【0087】
表示装置用フェースプレート20は、基材22の外側表面に炭化水素基を有する膜化合物並びにアルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンを溶媒中に混合分散させた処理液を接触させ、膜化合物と基材22の表面官能基との反応により生成した膜物質と網目状のポリシロキサン分子24とを含む有機薄膜18を形成する工程C(図5参照)と、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で有機薄膜28が形成された基材22の外側表面を低圧プラズマ処理することにより、有機薄膜28に含まれる炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素有機薄膜21を形成する工程Aと、必要に応じて工程Aの前に基材22の外側表面を、上記範囲内の表面粗さ及び凹凸の大きさを有するように粗面化する工程Bとを有する方法により製造される。
以下、表示装置用フェースプレート20の製造方法について説明する。
【0088】
基材22として使用することができる材料については、第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10の製造に使用することができる基材12の場合と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0089】
工程Cにおいて用いられる処理液は、膜化合物及びアルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンを溶媒中に混合分散させることにより調製される。膜化合物として使用することができる化合物の具体例、使用することができる溶媒及び界面活性剤については、表示装置用フェースプレート10の製造方法と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0090】
表示装置用フェースプレート20の製造に使用される処理液は、得られる表示装置用フェースプレート20の耐久性を向上させるために、アルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンを含んでいる。アルコキシシランは、式SiH(OA)4−x(式(VI))で表される化合物であり、アルコキシポリシロキサンは、式(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)(式(VII))で表される化合物である。なお、これらの式において、xは0、1、又は2であり、Aは、アルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基を表し、nは、0、1、又は2である。
【0091】
上記の式(VI)で表されるアルコキシシラン及び上記の式(VII)で表されるアルコキシポリシロキサンの具体例としては、以下に示す化合物(21)〜(28)が挙げられる。
(21)Si(OCH
(22)SiH(OCH
(23)SiH(OCH
(24)(CHO)SiOSi(OCH
(25)Si(OC
(26)SiH(OC
(27)SiH(OC
(28)(HO)SiOSi(OC
【0092】
これらは単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。撥水撥油防汚性が長期間にわたって維持される好適な表示装置用フェースプレート20を得るためには、膜化合物と、アルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンとの組成比(ケイ素原子数の比をいう)が1:10〜1:0であることが好ましく、1:3〜3:1であることがより好ましい。
【0093】
更にまた、膜化合物並びにアルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンの総濃度は、好ましくは0.1mmol/L〜50mmol/L、より好ましくは0.1mmol/L〜10mmol/Lである。総濃度が0.1mmol/Lを下回ると、均一な親油性の被膜17を形成することが困難であり、総濃度が50mmol/Lを上回ると、ゲル化等が起こりやすくなり、保存安定性が低下する。特に、総濃度が10mmol/L〜0.1mmol/Lである場合には、処理液のゲル化を防止でき、寿命を1ヶ月程度まで確保できる。
【0094】
表示装置用フェースプレート20の製造に使用される処理液は、膜化合物並びにアルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンと、溶媒(好ましくは、界面活性剤及び/又はアルコールとを含む水)とからなる混合物を、混合して分散させる工程を有する方法により調製される。まず、これらの成分を、所望の組成比となるよう秤量したものを混合する。各成分を添加する順番については特に制限されない。次いで、超音波分散機又はホモジナイザーを用いて混合物を処理すると、アルコキシシリル基の一部が加水分解によりシラノール基に変換され、均一かつ透明な処理液が得られる。処理温度及び時間については、上述の表示装置用フェースプレート10の製造に使用する処理液の場合と同様である。また、このようにして得られる処理液による基材22の処理条件についても、第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10の製造の場合と同様であるが、このようにして得られる被膜は、図6に示すように、未反応のシラノール基(25)を有するポリシロキサン分子(24a)の被膜27aを含む有機薄膜26である。このままでも次の工程Bに供することも可能であるが、撥水撥油防汚性及び最終的に得られる含フッ素有機薄膜21の耐久性を向上させるために、加熱処理を行ってもよい。加熱処理は、例えば、120℃〜300℃で、15分間〜1時間程度行うことが好ましい。加熱処理により、未反応のシラノール基25が脱水反応を起こし、膜物質及び網目状のポリシロキサン分子24を含む有機薄膜28が形成される(図5参照)。
【0095】
次いで、工程Aにおいてフッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で有機薄膜28が形成された基材22の外側表面を低圧プラズマ処理することにより、有機薄膜28に含まれる炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素有機薄膜21を形成し、表示装置用フェースプレート20が得られるが、工程Aについては、第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10の製造方法と同様であるため、詳しい説明を省略する。同様に、工程Bについても詳しい説明を省略する。
【0096】
このようにして得られる表示装置用フェースプレート20は、第1の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10と同様に使用することができる。
【0097】
次いで、図7を参照しながら本発明の第3の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート30について説明する。表示装置用フェースプレート30において、含フッ素有機薄膜31は、基材32のヒドロキシル基(表面官能基の一例)との結合を介して基材32の外側表面に固定されたポリシロキサン分子(34)の被膜37と、その上に形成されたデシル基(C1021:炭化水素基であるアルキル基の一例)中の末端のメチル基の水素原子がトリフルオロメチル基で置換された膜物質(水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素炭化水素基を有する膜物質の一例)の被膜とからなる2層構造の被膜である。膜物質は、膜化合物の末端のアルコキシシリル基(反応性基の一例)と、ポリシロキサン分子34上の図示しないシラノール基(Si−OH)との反応により形成された結合(Si−O−結合)を介して基材32の外側表面を被覆するポリシロキサン分子(34)の被膜37に固定されている(図7参照)。
【0098】
本実施の形態において、表示装置用フェースプレート30は、まずアルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンを含む処理液を基材32の外側表面と接触させ、基材32の外側表面にポリシロキサン分子の被膜37を形成し、次いで外側表面にポリシロキサン分子の被膜26が形成された基材32の表面に膜化合物を含む処理液を接触させ、ポリシロキサン分子の被膜37の上に膜物質の被膜を形成し、有機薄膜38が形成された基材32を得る工程Aと、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で有機薄膜38が形成された基材32の外側表面を低圧プラズマ処理することにより、有機薄膜28に含まれる炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素有機薄膜31を形成する工程Cと、必要に応じて工程Aの前に基材32の外側表面を、上記範囲内の表面粗さ及び凹凸の大きさを有するように粗面化する工程Bとを有する方法により製造することができる。各溶液の調製条件(溶媒、濃度等)、基材32の外側表面へのポリシロキサン分子(34)の被膜37及び膜物質の被膜の条件(処理条件)については、上述の第1及び第2の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10、20の製造方法と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0099】
次いで、図8(a)、(b)を参照しながら本発明の第4の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート40について説明する。本発明の第4の実施の形態に係る撥水撥油防汚性部材40において、基材42の外側表面の少なくとも一部を覆うように含フッ素有機高分子(含フッ素官能基を有する物質の一例)41が存在している。
撥水撥油防汚性部材40の製造に用いられる基材42は、図8(a)に示すように、外側表面が炭化水素基43で被われている。工程Aにおいて低圧プラズマ処理した後の撥水撥油防汚性部材40の外側表面において、図8(b)に示すように、低圧プラズマ処理前の基材42の外側表面を被う炭化水素基43の水素原子の一部が、フッ化炭素基の一例であるトリフルオロメチル基44で置換されている。
【0100】
撥水撥油防汚性部材40は、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、基材42を低圧プラズマ処理する工程Aと、必要に応じて工程Aの前に基材42の外側表面を、上記範囲内の表面粗さ及び凹凸の大きさを有するように粗面化する工程Bとを有する方法により製造される。
フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で高周波放電によりプラズマを発生させると、フッ素ラジカル(・F)や、トリフルオロメチルラジカル(・CF)等のフッ化炭素ラジカルが生成する。これらのラジカルが、アクリル基材42の外側表面の炭化水素基の水素原子をトリフルオロメチル基43で置換する(図8(b))。
【0101】
少なくとも外側表面近傍に炭化水素基を有する基材42については、そのまま、工程Bにより所定の表面粗さ及び凹凸の大きさを有するように粗面化したした後に、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で低圧プラズマ処理する(工程A)ことにより表示装置用フェースプレート40が得られるが、無機材料からなる物品又はその部材について本実施の形態に係る表示装置用フェースプレートの製造方法を適用する場合には、工程Cを実施し、その外側表面に基材42として有機高分子を含む被膜を形成する。被膜の形成に用いられる有機高分子の種類及び分子量等については特に制限はなく、主鎖及び側鎖中に炭化水素基を有し、工程Aにおいてその水素原子の一部又は全部をフッ素原子及び/又はフッ化炭素基で置換可能である限りにおいて任意の有機高分子を用いることができる。被膜の形成には、有機高分子を含む溶液を用いたスプレーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、キャスト法等の成膜法を用いてもよく、プラズマ重合等により無機材料の表面で重合反応を起こさせて有機高分子を生成させてもよい。
【0102】
なお、工程Bにおいて用いられる基材42の外側表面の粗面化方法及び工程A〜Cを実施する順序については、上述の第1〜第3の実施の形態に係る表示装置用フェースプレート10、20、30の製造方法と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0103】
以上のようにして得られる表示装置用フェースプレート1が用いられる表示装置としては、CRT(陰極線管、ブラウン管)、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機及び無機EL表示装置等が挙げられる。
フェースプレート1を組み込んだ表示装置が用いられる物品としては、携帯電話、電子卓上計算機、電子計算機又は電子計算機用ディスプレイ、PDA(携帯情報端末)、携帯用ゲーム機、携帯GPS端末、カーナビゲーションシステム、テレビジョン受像器、携帯用DVDプレーヤ、デジタルカメラ、ビデオ録画装置、キャッシュディスペンサー(CD)装置、現金自動預け払い機(ATM)、自動券売機等が挙げられる。
【実施例】
【0104】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。なお、以下の実施例においては、とくに記載していない限り分子組成比はモル比を意味する。また、%は重量%を意味する。
【0105】
実施例1
オクタデシルトリメトキシシランCH3(CH217Si(OCH3(膜化合物)とテトラメトキシシランSi(OCHとをモル比で3:1になるように秤量し、エタノールに0.01mol/Lとなるように混合して、ホモジナイザーで10分間程度処理すると、エタノール中に含まれる水分により、それぞれのメトキシシリル基(−Si(OCH))の一部が加水分解され、−Si(OH)3基、=Si(OH)基、或いは≡SiOH基(シラノール基)に変換された物質を含む処理液を調製した。
【0106】
次に、無機基材としてよく乾燥したガラス製フェースプレート基材を用意し、上で調製した処理液を空気中で(相対湿度57%〜70%)外側表面に塗布した後、さらに空気中で1時間程度放置した。この間、処理液中のエタノールの大部分は空気中に蒸発すると共に、アルコキシシリル基の加水分解により生成したシラノール基(Si−OH)にとの脱水反応により、表面全面に亘り、表面に化学結合(シラノール結合)を介して固定された網目状のポリシロキサン分子と、フェースプレート基材の表面又はポリシロキサン分子上に固定されたオクタデシルシリル基とからなる被膜が形成された。
【0107】
被膜が完全に硬化してしまう前に、水−エタノール混合溶媒で未反応の余分なオクタデシルトリメトキシシラン及びテトラメトキシシランを洗浄除去(塗布量と、液濃度を適正に調合すれば、必ずしもこの工程の洗浄は行わなくても、ほぼ同様の結果が得られた。)すると、略5nm程度の厚みの、ポリシロキサン分子と、フェースプレートの外側表面又はポリシロキサン分子上に固定されたオクタデシルシリル基とからなる被膜がフェースプレート基材の外側表面に化学結合した状態で形成できた(図6)。
【0108】
その後、空気中で120〜300℃の温度で30分程度加熱処理を行い、未反応のシラノール基(−SiOH)が完全に脱水反応して、ポリシロキサン結合を形成した有機薄膜を形成した(図5)。
【0109】
次いで、有機薄膜が形成されたフェースプレート基材の外側表面を、表1に示す条件の下で、酸素を含むテトラフルオロメタン(CF)雰囲気中でプラズマ処理を行った。なお、表1において流量の単位として用いているsccmは非SI単位であり、1sccm=1.69×10−4Pa・m/secである。
【0110】
【表1】

【0111】
このようにして得られたフェースプレートの水滴接触角を測定した。測定は、同一サンプル上の異なる5点(I〜V)で行った。測定結果は下記の表2に示すとおりである。なお、表2において、「C.A.」は接触角(contact angle)を意味し、「Avg.」及び「S.D.」はそれぞれ、平均値及び標準偏差を意味する。
【0112】
【表2】

【0113】
全てのサンプルについて水滴接触角の著しい増大が観測された。これは、図2に示した様に、有機薄膜中の炭化水素基が、プラズマ中で発生した・CFラジカルと反応して、水素原子が−CF基と置換され、表面に多数のCF基が結合したことにより、表面の撥水性が向上したことによると考えられる。
【0114】
CF以外にも、C、C、CHF等のCF基又はCF基を含む化合物が同様に使用できた。
【0115】
実施例2
処理液がテトラメトキシシランを含まない以外は実施例1と同様の条件下でフェースプレートを製造した。この場合、外側表面に形成された含フッ素有機薄膜は、ポリシロキサン分子を含まない単分子膜となった。水滴接触角については、実施例1の場合と同様な結果が得られた。ただし、含フッ素有機薄膜の耐摩耗性は、実施例1において得られたものに比べ劣っていた。
【0116】
実施例3
まず、表3に示す条件の下でガラス製フェースプレート基材の表面を低圧プラズマ処理し、表面を粗面化処理した。
【0117】
【表3】

【0118】
このプラズマ粗面化処理により、フェースプレート基材の表面に数十〜数百nmの微細な凸凹を形成できた。
その後、実施例1と同様の条件で、有機薄膜の形成及びテトラフルオロメタンガス雰囲気中での低圧プラズマ処理を行った。
【0119】
このようにして得られたフェースプレートの水滴接触角の測定結果を表4に示す。
【0120】
【表4】

【0121】
プラズマ粗面化処理を行うことにより、得られたフェースプレートにおける水滴接触角が大幅に増大していることがわかる。また、本実施例で得られたフェースプレートにおいて、光透過性の低下、干渉縞及びヘイズの発生等は観測されなかった。
【0122】
実施例4:透明アクリル樹脂基板を基材とする撥水撥油防汚性部材の製造
まず、基材である透明アクリル樹脂基板をエタノールで洗浄後、下記の表5に示す条件の下で、酸素ガス雰囲気中での低圧プラズマ処理(Oプラズマ処理)を行った。次いで、表6に示す条件の下で、酸素を含むテトラフルオロメタン(CF)雰囲気中でプラズマ処理を行った。
【0123】
【表5】

【0124】
【表6】

【0125】
このようにして得られた撥水撥油防汚性部材の水滴接触角を測定した。測定は、同一サンプル上の異なる5点(I〜V)で行った。測定結果は下記の表7に示すとおりである。なお、処理前のアクリル樹脂基板の水滴接触角は75.0度であった。
【0126】
【表7】

【0127】
全てのサンプルについて水滴接触角の著しい増大が観測された。これは、図2(b)に示した様に、アクリル樹脂基板表面の炭化水素基が、プラズマ中で発生した・CFラジカルと反応して、水素原子が−CF基と置換され、表面に多数のCF基が結合したことにより、表面の撥水性が向上したことによると考えられる。
【0128】
なお、ここで、Oプラズマ処理は、アクリル樹脂基板表面をクリーニングする作用と、部材表面を粗面化する作用があり、高周波電源のパワーや処理時間を任意に制御することで、表面粗さを数ナノメートルから数百ミクロンの範囲で制御でき、それによっても最終の水滴接触角を165〜100度程度まで制御できた。特に、水滴接触角を150度以上になる様に制御しておけば、極めて表面エネルギーが低く、高性能な撥油防汚性部材を製造できた。また、表面粗さを、可視光の波長以下(例えば、400nm)にしておくと、基材として用いたアクリル樹脂基板の透明度を損なうことはなかった。
【0129】
また、CF以外にも、C、C、CHF等のCF基又はCF基を含む化合物が同様に使用できた。
【0130】
使用可能な部材は、炭化水素基を含む任意の材質のものであり、合成樹脂、合成皮革、合成繊維等の人工素材に加え、木質材料、紙、羊毛等の天然素材に対しても同様に処理できた。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明を適用できる物品は、表示装置であれば、どのような形態の物でもよい。具体的には、携帯電話、電子計算機、PDA、GPS、テレビジョン受像器、キャッシュディスペンサー(CD)装置、ATM装置のいずれかに設置されている表示装置、又はそれらに使用される部材に使用できる。さらに、それら機器に用いられる、光学レンズや筐体そのものへも応用可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 表示装置用フェースプレート
2 含フッ素官能基を有する透明な物質
3 基材
10、20、30 表示装置用フェースプレート
11 含フッ素官能基を有する物質
11a、21、31 含フッ素有機薄膜
12、22、32、42 基材
13、23、33 炭化水素基を有する膜物質
24、34 ポリシロキサン分子
24a シラノール基を有するポリシロキサン分子
25 シラノール基
26 シラノール基を有する有機薄膜
27、37 ポリシロキサン分子の被膜
27a シラノール基を有するポリシロキサン分子の被膜
18、28、38 有機薄膜
19、44 トリフルオロメチル基
41 含フッ素有機高分子
43 炭化水素基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された含フッ素官能基を有する透明な物質が、外側となる側の表面に露出した透明な基材の少なくとも一部を覆うように存在することを特徴とする表示装置用フェースプレート。
【請求項2】
前記含フッ素官能基が、前記基材の前記外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する炭化水素基を有する物質を、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で低圧プラズマ処理することにより得られることを特徴とする請求項1記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項3】
前記含フッ素官能基を有する物質が、直鎖状の前記含フッ素官能基を有する膜物質を含み、前記基材の前記外側となる側の表面に化学結合した含フッ素有機薄膜を形成していることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項4】
前記含フッ素官能基が、炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、及びエーテル基を有する炭化水素基のいずれかにおいて任意の1又は複数の水素原子がフッ素原子又はフッ化炭素基のいずれかで置換された官能基であることを特徴とする請求項3記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項5】
前記含フッ素官能基が、下記の式(I)〜(V)で表される官能基中の任意の1又は複数の水素原子がフッ素原子又はフッ化炭素基のいずれかで置換された官能基であることを特徴とする請求項3及び4のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
【化1】

なお、式(I)〜(V)において、m及びnは、それぞれ独立して0以上24以下の整数を表し、m≧nである。
【請求項6】
前記含フッ素有機薄膜が、前記基材の前記外側となる側の表面に化学結合した前記膜物質の単分子膜であることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項7】
前記含フッ素有機薄膜が、アルコキシシラン及び/又はアルコキシポリシロキサンから形成されたポリシロキサン分子を含んでいることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項8】
前記含フッ素有機薄膜が、前記基材の前記外側となる側の表面に結合固定された前記ポリシロキサン分子の被膜を介して前記基材の前記外側となる側の表面に結合固定されていることを特徴とする請求項7記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項9】
前記ポリシロキサン分子の被膜がアルコキシシリル基と前記基材の前記外側となる側の表面に存在する表面官能基との反応により形成された結合を介して前記基材の該外側となる側の表面に固定され、前記含フッ素炭化水素基を有する膜物質のうち一部は前記基材の前記外側となる側の表面に直接結合し、残りは前記ポリシロキサン分子の被膜を介して前記基材の該外側となる側の表面に結合固定されていることを特徴とする請求項6記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項10】
前記ポリシロキサン分子が、下記の式(VI)で表されるアルコキシシラン及び/又は式(VII)で表されるアルコキシポリシロキサンの縮合反応により形成されるものであることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
SiH(OA)4−x (VI)
(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA) (VII)
なお、式(VI)及び(VII)において、
xは0、1、又は2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、又は2である。
【請求項11】
前記含フッ素官能基を有する物質が前記含フッ素官能基を有する含フッ素有機高分子であることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項12】
前記外側となる側の表面の表面粗さが10nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレート。
【請求項13】
炭化水素基を有する透明な物質がフェースプレートの外側となる側の表面の少なくとも一部を覆うように存在する透明な基材の該外側となる側の表面を、フッ化炭素基を含むガス雰囲気中で低圧プラズマ処理する工程Aを含むことを特徴とする表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項14】
前記工程Aにおいて、前記フッ化炭素基を含む化合物のガスと酸素ガスの混合雰囲気中で前記基材の外側となる側の表面を低圧プラズマ処理することを特徴とする請求項13記載の撥水撥油防汚性部材の製造方法。
【請求項15】
前記工程Aの前に、前記外側となる側の表面に表面粗さが10nm以上400nm以下である凸凹を形成する工程Bを更に有することを特徴とする請求項13及び14のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項16】
前記工程Aの前に、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、前記基材の外側となる側の表面の前記炭化水素基を有する物質の表面を低圧プラズマ処理することを特徴とする請求項13から15のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項17】
前記工程Cにおいて、炭化水素基を有する膜化合物を含む処理液を前記基材の前記外側となる側の表面に接触させ、前記膜化合物と前記基材の前記外側となる側の表面の表面官能基との反応により炭化水素基を含む有機薄膜を形成することを特徴とする請求項16記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項18】
前記膜化合物が、炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、及びエーテル基を有する炭化水素基のいずれかを含むことを特徴とする請求項17記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項19】
前記膜化合物が、下記の式(X)で表される膜化合物であることを特徴とする請求項17及び18のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
Z−SiXp3-p (X)
なお、式(X)において、Zは炭素数25以下のアルキル基、アリール基、ビニル基及びシリコーン基のいずれかを含む置換基を表し、
Xは水素原子、又は前記Zより炭素数の少ないアルキル基、アリール基、ビニル基及びシリコーン基のいずれかを含む置換基を表し、
Yは、ハロゲン原子又はアルコキシル基を表し、
pは0、1又は2を表す。
【請求項20】
前記膜化合物が、下記の式(XI)〜(XV)のいずれかで表される膜化合物であることを特徴とする請求項17から19のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
CH(CHSi(OA) (XI)
[CH(CHSi(OA) (XII)
[CH(CHSi(OA) (XIII)
CH(CH−COO−(CHSi(OA) (XIV)
CH(CH−O−(CHSi(OA) (XV)
なお、式(XI)〜(XV)において、m及びnは、それぞれ独立して0以上24以下の整数を表し、m≧nであり、Aはアルキル基を表す。
【請求項21】
前記処理液が、下記の式(VI)で表されるアルコキシシラン及び/又は式(VII)で表されるアルコキシポリシロキサンを含んでいることを特徴とする請求項17から20のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
SiH(OA)4−x (VI)
(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA) (VII)
なお、式(VI)及び(VII)において、
xは0、1、又は2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、又は2である。
【請求項22】
前記工程Cにおいて、前記アルコキシシラン及び/又は前記アルコキシポリシロキサンを含む溶液で前記基材の前記外側となる側の表面を処理して、該表面にポリシロキサン分子の被膜を形成し、次いで前記処理液でポリシロキサン分子の被膜が形成された前記基材を処理して、前記ポリシロキサン分子の被膜上に前記有機薄膜を形成することを特徴とする請求項17から20のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項23】
前記工程Cにおいて、有機高分子を含む被膜を前記基材として形成することを特徴とする請求項16記載の表示装置用フェースプレートの製造方法。
【請求項24】
請求項1から12のいずれか1項記載の表示装置用フェースプレートを用いた表示装置。
【請求項25】
請求項24記載の表示装置を用いた物品。
【請求項26】
前記物品が、携帯電話、電子計算機又は電子計算機用表示装置、携帯情報端末、GPS端末、テレビジョン受像器、キャッシュディスペンサー装置及び現金自動預け払い機のいずれかであることを特徴とする請求項25記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−249852(P2010−249852A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95768(P2009−95768)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】