説明

表示装置

【課題】有機EL素子を用いた表示装置において、従来の製造工程数を増やすことなく、発光した光が発散し視野角特性が良好となる表示装置を提供する。
【解決手段】複数の有機EL素子を互いに隔壁13で分離し、該隔壁13の開口部の開口径L、該隔壁13の膜厚D、該隔壁13のテーパー部の幅A、封止保護膜16の膜厚Tが、0.1<(T×D)/(L×A)<1の関係を満たすように隔壁13及び封止保護膜16を形成することにより、封止保護膜16表面に形成された凹面形状によって、発光の発散効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL素子を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイとして、自発光型デバイスである有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を用いた表示装置が注目されている。一般に有機EL素子は共振器構造を有し、光取り出し効率の向上が図られてきた。この共振器構造は通常パネル正面から見た場合に効果が最大となるように設計されているので、斜めからパネルを見た場合、共振器効果が弱まり輝度が低減してしまっていた。その結果、正面からパネルを見ると明るいが、斜めから見ると暗くなるという問題が発生していた。
【0003】
この問題を解決するため、発光光を凹レンズに通過させることで光を発散させる方法が特許文献1に開示されている。特許文献1では発光素子上方のカラーフィルタの各画素を凹面形状に形成する方法、及び有機EL素子の発光層自体を凹面形状に形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−58710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に示された方法を有機EL素子を用いた表示装置に適用するには、以下のような問題が発生する。先ず凹面形状を有するカラーフィルタを用いる場合、もともとR,G,B各色に発光可能な有機EL素子を用いた表示装置にとってはカラーフィルタ自体が不要である。そのため、新たにカラーフィルタもしくは凹面形状を有する構造物を形成すると、製造工程が増えてコストの増加につながる。また発光層自体を凹面形状に形成した場合は、画素内の発光層の膜厚が中央と周辺部で異なり、電子と正孔の結合効率や共振器構造による干渉効果が一画素内で不均一になるため、光取り出し効率の最大化を図ることは困難となる。
【0006】
本件では有機EL素子を用いた表示装置において、従来の製造工程数を増やすことなく、発光した光が発散し視野角特性が良好となる表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表示装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、を有する有機EL素子が複数配置されてなり、前記複数の有機EL素子が隔壁によって分離され、前記有機EL素子及び前記隔壁上に封止保護膜が形成されており、
前記隔壁の開口部の開口径をL、前記隔壁の膜厚をD、前記封止保護膜の膜厚をT、前記隔壁のテーパー部の幅をAとした時、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とする。
【0008】
0.1<(T×D)/(L×A)<1 (1)
【0009】
上記構成にすることにより、各画素上の封止保護膜が凹面形状となり封止保護膜表面において発光光が発散する。その結果、表示装置の視野角分布を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、表示装置を斜めから見た場合でも正面から見た場合と比べて輝度の低減が少なく、視野角特性に優れた表示装置が作製可能となる。また新たな構成やプロセスを追加することなく、簡易な変更により本発明を適用できるため、製造コストを増やすことなく表示装置の特性向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の表示装置の1画素の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の比較例の表示装置の1画素の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る(1)式の説明図である。
【図4】本発明の表示装置の視野角改善効果を示す図である。
【図5】本発明の表示装置の効果を示す視野角特性分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の表示装置の実施形態について図面を参照して説明する。尚、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。また以下に説明する実施形態は、発明の一つの実施形態であって、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明の表示装置は、基板上に有機EL素子を複数配置してなり、有機EL素子はそれぞれ隔壁によって分離されている。また、有機EL素子は、第1電極と、第2電極と、これら電極間に挟持された有機化合物層からなり、該有機化合物層には少なくとも発光層が含まれている。有機EL素子及び隔壁上には全面にわたって封止保護膜が形成されているが、該封止保護膜は、隔壁によって形成された表面凹凸を反映した表面形状を有するため、画素上に凹面形状を形成している。本発明においては、係る凹面形状により、発光層で発光した光を正面方向だけでなく、斜め方向にも出射させることで、輝度分布の向上を図っていることに特徴を有する。
【0014】
図1は、本発明の表示装置の一実施形態の1画素の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態は、基板11とは反対側、即ち封止保護膜側から光を取り出すトップエミッション型である。
【0015】
図1において、基板11には複数の下部電極(第1電極)12のスイッチとなる複数の薄膜トランジスタや、該薄膜トランジスタを駆動するための駆動回路、配線が形成されている。下部電極12は光反射性の金属膜から構成される。
【0016】
さらに、基板11には隔壁13が形成されている。隔壁13は、例えば、ポリイミド樹脂をスピンコートにより塗布した後、フォトリソグラフィを行うことでパターン形成される。スピンコート時の回転速度、回転時間等により隔壁厚を調整できる。テーパー形状は露光条件や現像後のリフロー等により変更可能である。隔壁13は他の有機材料から形成してもよいし、無機材料から形成してもよいし、無機材料層及びその上に設けられた有機材料層から構成してもよい。隔壁13は、それぞれの下部電極12の少なくとも一部を囲むように開口部が設けられている。この隔壁13の開口部に下部電極12が露出した領域が1画素の画素領域となる。隔壁13の開口部の形状は特に限定されず、円形であっても、矩形であってもよい。
【0017】
下部電極12の上方には、低分子有機材料からなる有機化合物層14が形成されている。有機化合物層14は少なくとも発光層を備え、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を含んでも良く、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色それぞれに対応した発光層をマスク蒸着により成膜している。有機化合物層14の膜厚は50nm乃至300nm程度が良く、好ましくは50nm乃至150nm程度である。
【0018】
有機化合物層14の上方には上部電極(第2電極)15が形成されている。上部電極15は光透過性を有する材料で構成され、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などの透明導電膜や5nm乃至20nm程度に薄膜化したMgAgなどの合金材料等を用いることができる。
【0019】
上部電極15の上には封止保護膜16が形成されている。封止保護膜16としては、窒化シリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコンなどの透明性且つ防湿性に優れた材料であれば用いることが可能であり、熱CVD法或いはプラズマCVD法によって隔壁13の形状にならって成膜される。
【0020】
本発明においては、隔壁13を配置したことから、各画素上における封止保護膜16の表面が隔壁13によって形成された凹面に沿った凹面形状を成し、有機化合物層14で発光した光は発散するように外部へ出射される。これは画素領域の中で隔壁13近傍で発光した光が封止保護膜16表面に対して斜め方向に入射することで図1に示すような光屈折を起こすためであり、本来正面に向かうはずだった光を斜め方向にシフトさせている。
【0021】
一方、封止保護膜16を薄く形成した場合を図2に示す。このように、封止保護膜16が薄すぎる場合には、有機化合物層14で発光した光が封止保護膜16表面において発散されないので、正面方向に取り出される光の割合が多くなる。
【0022】
本発明において、図1のように、封止保護膜16の凹面形状を利用して斜め方向に光を出射させ、斜め方向と正面方向とに出射光を分散させる効果を得るための条件は以下の通りである。即ち、隔壁13の開口部の開口径をL、隔壁13の膜厚をD、封止保護膜16の膜厚をT、隔壁13のテーパー部の幅をAとした時、下記(1)式の関係を満たす。
【0023】
0.1<(T×D)/(L×A)<1 (1)
【0024】
尚、隔壁13の開口部の開口径Lは、互いに向かい合う画素端辺を直交する線分の中で、最も短い長さで示される。具体的には、例えば開口部の形状が円形であればその直径であり、楕円形であれば短径であり、長方形であれば短辺の長さである。また、隔壁13のテーパー部の幅Aは、隔壁13の平均膜厚が10%から90%まで変化するのに要する距離である。
【0025】
(1)式の物理的意味について以下に図3を参照して説明する。尚、図3においては、便宜上、下部電極12、有機化合物層14、上部電極15を省略する。下部電極12は発光層よりも下方にあること、有機化合物層14と上部電極15とは合わせても100乃至200nm程度であることから、それぞれ影響がほとんどないためである。また、図3中の13aは隔壁13のテーパー部である。
【0026】
先ず画素上に凹レンズがあることによる発散効果は凹レンズ領域41の幅R/画素径(隔壁13の開口部の開口径)Lに比例する。ここで凹レンズ領域41の幅Rは、隔壁13のテーパー角をθとするとR=T×tan(θ/2)と計算される。さらに近似式によりtan(θ/2)≒(1/2)×tanθ=(1/2)×(D/A)と表わされ、R=T×(1/2)×(D/A)であり、R/L=(1/2)×(T×D)/(L×A)である。以上より、発散効果は(T×D)/(L×A)に比例すると言える。
【0027】
次にさまざまなT,D,L,Aの値に対して発光光の発散効果、つまりは視野角分布の改善効果を光学シミュレーションにより計算したところ、図4のような結果が得られた。グラフの縦軸はパネルを斜め(50°方向)から見た時の輝度に対する正面輝度の比である。この正面輝度/斜方輝度の値は通常凹レンズ効果がない場合3.5乃至4程度であるが、0.1<(T×D)/(L×A)の範囲では正面輝度/斜方輝度が低減することが確認され、視野角分布に大きな改善効果が見られた。但し(T×D)/(L×A)≧1の範囲になると正面輝度よりも斜方輝度の方が大きくなり、ディスプレイとしての用途に適さないものとなってしまうため、(T×D)/(L×A)<1である必要がある。以上より、凹レンズ効果を用いて視野角分布を改善するためには(1)式を満たすことが必要条件であると言える。
【0028】
本発明において、凹レンズ効果が得られる凹面形状を作製できるのは封止保護膜16を熱CVD法やプラズマCVD法といった化学気相成長(CVD)法により成膜した場合であり、係る成長法における膜成長の方向性に起因する。CVD法によって封止保護膜16を成膜すると、被成膜物の表面形状に対して法線方向に膜が成長形成されるため、封止保護膜16が厚くなるほど図1で示される点P(封止保護膜16の水平面と傾斜面の交点)は画素中央方向へシフトする。この結果、隔壁13の開口部の開口径Lに対する凹レンズ領域41の幅Rが拡がり、発光光の発散効果が強く表れる。
【0029】
本発明においては、封止保護膜16の膜厚Tを厚膜化することで、(1)式の条件を満たすことができるが、それ以外でも下記の方法で(1)式の条件を満たして凹レンズ効果を発現させることが可能である。
【0030】
隔壁13の膜厚Dを厚膜化することで、隔壁13のテーパー部13aの角度が大きくなり、テーパー部13aにおける封止保護膜16の成長方向がより画素中央方向に向くこととなる。その結果、封止保護膜16の膜厚Tが同じでも凹レンズ領域41の幅Rは広くなり、画素から発せられた光を発散することが可能となる。
【0031】
隔壁13の開口部の開口径Lを小さくすることで、TとDとAにより決定される凹レンズ領域41の幅Rに対して開口径Lが小さくなるので、全体的に凹レンズ領域41の幅Rの占める割合が増加し、凹レンズによる発散効果が強調されることとなる。
【0032】
隔壁13のテーパー部13aの幅Aを狭くすることにより隔壁13のテーパー部13aの角度が大きくなり、テーパー部13aにおける封止保護膜16の成長方向がより画素中央方向に向くこととなる。その結果、封止保護膜16の膜厚Tが同じでも凹レンズ領域41の幅Rは広くなり、画素から発せられた光は発散することが可能となる。
【0033】
尚、ここでは封止保護膜16の膜厚T、隔壁13の膜厚D、開口径L、テーパー部13aの幅Aの各パラメータごとに変化させることで(1)式を満たすようにしていた。しかしながら、当然ながらこれら4つのパラメータをそれぞれ変化させて(1)式を満たすように各値を選択しても良い。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図1の構成の表示装置を形成した。従来と同様の工程により、基板11上に下部電極12を形成した後、膜厚が1μm、テーパー部13aの幅Aが2μm、開口部が7μm×15μmの長方形である隔壁13を形成した。隔壁13は、ポリイミド樹脂をスピンコートにより塗布した後、フォトリソグラフィを行うことでパターン形成した。次に、従来と同様の工程により、有機化合物層14、上部電極15を形成した後、封止保護膜16を形成した。具体的には、プラズマCVD法を用い、成膜チャンバー内にモノシランガス、窒素ガス、水素ガスをフローし、反応空間圧力を100Paに制御し、60MHz高周波電力を高周波電極に供給し、膜厚が5μmの窒化シリコン膜を堆積形成した。
【0035】
以上のようにして作製した表示装置における開口径Lと隔壁13の膜厚Dと封止保護膜16の膜厚Tとテーパー部13aの幅Aの関係は、L=7μm、D=1μm、T=5μm、A=2μmから(T×D)/(L×A)=0.36であり(1)式を満している。
【0036】
一方、比較例として図2の構成の表示装置を作製した。比較例は層構成や使用している材料などは上記実施例1と同様であるが、封止保護膜16の膜厚Tを1μmと薄くした。その結果、L=7μm、D=1μm、T=1μm、A=2μmより、(T×D)/(L×A)=0.07となり(1)式を満たさない。このような表示装置においては発光層14で発生した光が封止保護膜16表面において発散されないので、正面方向に取り出される光の割合が多くなる。
【0037】
図5に実施例1と比較例の視野角特性分布のグラフを示す。正面輝度の値を1として規格化し、各視野角における相対輝度分布を比較した。その結果、本実施例の表示装置の方が斜め方向から見た際の輝度低減が抑えられていることが確認された。
【0038】
(実施例2)
隔壁13の膜厚Dを3μmと厚くし、封止保護膜16の膜厚Tを1μmと薄くした以外は実施例1と同様にして表示装置を作製した。本例では、L=7μm、D=3μm、T=1μm、A=2μmであり、(T×D)/(L×A)=0.21となり(1)式を満たしている。よって、本例の表示装置においても、実施例1と同様の良好な相対輝度分布が得られた。
【0039】
(実施例3)
隔壁13の開口部の開口径Lを3μmと小さくし、封止保護膜16の膜厚Tを1μmと薄くした以外は実施例1と同様にして表示装置を作製した。本例では、L=3μm、D=1μm、T=1μm、A=2μmとした場合、(T×D)/(L×A)=0.17となり(1)式を満たしている。よって、本例の表示装置においても、実施例1と同様の良好な相対輝度分布が得られた。
【0040】
(実施例4)
封止保護膜16の膜厚Tを1μmと薄くし、隔壁13のテーパー部13aの幅Aを1μmと短くした以外は実施例1と同様にして表示装置を作製した。本例では、L=7μm、D=1μm、T=1μm、A=1μmとした場合、(T×D)/(L×A)=0.14となり(1)式を満たしている。よって、本例の表示装置においても、実施例1と同様の良好な相対輝度分布が得られた。
【符号の説明】
【0041】
11:基板、12:下部電極、13:隔壁、13a:テーパー部、14:有機化合物層、15上部電極、16:封止保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、を有する有機EL素子が複数配置されてなり、前記複数の有機EL素子が隔壁によって分離され、前記有機EL素子及び前記隔壁上に封止保護膜が形成されており、
前記隔壁の開口部の開口径をL、前記隔壁の膜厚をD、前記封止保護膜の膜厚をT、前記隔壁のテーパー部の幅をAとした時、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とする表示装置。
0.1<(T×D)/(L×A)<1 (1)
【請求項2】
前記発光層において発生した光は前記封止保護膜側から取り出されることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記封止保護膜は前記隔壁の形状にならって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記開口径は、互いに向かい合う画素端辺を直交する線分の中で、最も短い長さであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
前記隔壁のテーパー部の幅は前記隔壁の平均膜厚が10%から90%まで変化するのに要する距離であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114774(P2013−114774A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257210(P2011−257210)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】