説明

表示装置

【課題】 光干渉効果を用いた有機EL素子と、レンズと、を備えた表示装置において、輝度特性が良好な表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 光干渉効果を用いた有機EL素子3と、レンズ30Gと、を備えた表示装置において、保護層40に放射された光のうち有機EL素子3から保護層40に放射された光の放射角度に対する光強度分布の極小値を示す角度よりも大きい角度の光が、レンズ30Gを通って表示装置の外部に出されないようにレンズ30Gの径が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を有する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一対の電極間に有機化合物層を備える有機EL素子を用いた表示装置が盛んに開発されている。この有機EL素子においては、特許文献1のように、光干渉効果を利用して発光色の色純度や発光効率が向上することが知られている。具体的には、電極間の光学距離Hは、有機EL素子が発する光の角度Θ(素子に正対して視認する場合を0度とする)、2つの電極それぞれで発光光が反射される際の位相シフトの和φ、0以上の整数mを用いて下記の式1で表される。この式1を満足するような波長λ(共振波長)の光が強められる。
2HcosΘ=(m+(φ/2π))×λ ・・・式1
一方、有機EL素子から発光される光を効率よく外部に取り出すために表示装置にレンズを設ける構成が知られている。特許文献2には、レンズと光吸収層となるバンクとを備えるレンズアレイを有機EL素子上に備えた有機EL装置について開示されており、コントラストを向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第01/039554号
【特許文献2】特開2004−317559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、光干渉効果を利用するように膜厚等を設定された有機EL素子と、レンズと、を備える表示装置においては、以下のような課題が生じる。
【0005】
すなわち、上記の構成では、レンズがない場合には表示装置の外部に取り出されなかったような大きな放射角度の光もレンズによって外部に取り出されることになる。一方、光干渉効果を用いる有機EL素子では、放射角度によって光路長(式1の左辺)が変化するため、輝度が放射角度に依存して変化する。具体的には、大きな放射角度で輝度が大きくなってしまう場合がある。このため、レンズによって大きな放射角度の光が取り出されると、その角度での輝度が高くなって輝度特性が不自然になる。
【0006】
そこで本発明は、光干渉効果を用いた有機EL素子と、レンズと、を備えた表示装置において、輝度特性が良好な表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1電極と発光層を含む有機化合物層と第2電極とを有し、前記第2電極から光を放射する有機EL素子と、前記有機EL素子の上に配置された保護層と、前記保護層の上に配置されたレンズと、を有する表示装置であって、前記第1電極にある反射面と前記発光層との間の光学距離Lが、前記有機EL素子の発する光のスペクトルの最大ピーク波長λ、前記反射面で光が反射する際の位相シフト量φ、正の整数mに対して
(λ/8)×(4m+2φ/π−1)<L<(λ/8)×(4m+2φ/π+1)
を満たし、前記有機EL素子から前記保護層に放射された光の放射角度に対する光強度分布が極小値を有し、前記保護層に放射された光のうち前記極小値を示す角度よりも大きい角度の光が、前記表示装置の外部に出されないように前記レンズの径が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光干渉効果を用いた有機EL素子と、レンズと、を備えた表示装置において、輝度特性が良好な表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態1に係る表示装置の一例を示す斜視模式図および断面模式図。
【図2】レンズを備えていない画素の断面模式図。
【図3】レンズを備えている画素の断面模式図。
【図4】干渉強度スペクトルとPLスペクトルとの重なりを示す図。
【図5】光干渉効果を用いた有機EL素子から保護層内に放射される光の放射強度分布の図。
【図6】本発明の実施形態1に係る表示装置の一例を示す断面模式図。
【図7】本発明の実施形態1に係る表示装置のレンズの径を説明する図。
【図8】本発明の実施例に係る表示装置の製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されない。なお、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0011】
(実施形態1)
図1(a)は、本発明の実施形態1に係る表示装置を示す斜視模式図である。本実施形態の表示装置は、有機EL素子を備える画素1を複数有している。そして、複数の画素1はマトリックス状に配置され、表示領域2を形成している。なお、画素とは、1つの発光素子の発光領域に対応した領域を意味している。本実施形態の表示装置では、発光素子は、有機EL素子であり、画素1のそれぞれに1つの色の有機EL素子が配置された表示装置である。有機EL素子の発光色としては、赤色、緑色、青色が挙げられ、そのほかに黄色、シアンでもよい。また、本実施形態の表示装置には、発光色の異なる複数の画素(例えば赤色を発する画素、緑色を発する画素、及び青色を発する画素)からなる画素ユニットが複数配列されている。画素ユニットとは、各画素の混色によって所望の色の発光を可能とする最小の単位を示す。
【0012】
図1(b)は、図1(a)のA−B線における部分断面模式図である。1つの画素は、基板10上に、第1電極(陽極)11と、正孔輸送層12と、発光層13R,13G,13Bと、電子輸送層14と、第2電極(陰極)15と、を備える有機EL素子3を有している。本発明の有機EL素子3は第1電極11に発光層から放射されて第1電極11に向かう光を反射する反射面を有し、第2電極15から光を出す構成である。また、発光層13Rは赤色を発する発光層、発光層13Gは緑色を発する発光層、発光層13Bは青色を発する発光層である。発光層13R,13G,13Bはそれぞれ、赤色、緑色、青色を発する画素(有機EL素子3)に対応してパターン形成されている。また、第1電極11も、隣の画素(有機EL素子3)の第1電極11と分離されて形成されている。そして、正孔輸送層12と電子輸送層14と第2電極15は、隣の画素と共通で形成されていてもよいし、画素毎にパターン形成されていてもよい。なお、第1電極11と第2電極15とが異物によってショートするのを防ぐために、画素(より具体的には、第1電極11)間に絶縁層20が設けられている。
【0013】
さらに、本実施形態の表示装置では、レンズ部30が設けられている。なお、レンズ部30と各有機EL素子3の間には、水分や酸素から有機EL素子3を保護する保護層40が配置されている。レンズ部30には、表面に凸部を有する構成であり、各画素に対応する位置にレンズ30R,30G,30Bが配置されている。
【0014】
そして、本実施形態の表示装置では、本発明のレンズ30R,30G,30Bの径が、有機EL素子3の発光光の特定の角度の光が外部に出ないように設定されているので、表示装置は良好な輝度特性を有することができる。
【0015】
(レンズによる光取り出し効率向上の作用)
図2、図3を用いて、レンズによる光取り出し効率向上の作用について説明する。図2、図3は、ともに緑色を発する画素1G、つまり図1(b)の一点破線で囲まれた領域に対応する拡大模式図である。図2はレンズ部30が設けられていない画素構成を示し、図3はレンズ部30が設けられた画素構成を示している。図1と同じ部材には同じ符号が付されている。有機EL素子3の発光層13Gで発せられた光は保護層40に入射する際に屈折する。有機EL素子3内の発光層13Gから発せられた光の発光角度をΘ、有機EL素子3から保護層40内に放射された、保護層40内の光の放射角度をθとすると、Θとθは下記式2の関係にある。なお、Θとθはいずれも基板10に垂直な方向を基準とする。
nsinΘ=nsinθ ・・・式2
ここで、nは入射元の材料(有機EL素子3内の発光層13G)の屈折率であり、nは入射先の材料(保護層40)の屈折率である。
【0016】
まず、図2に示すように、画素1Gにレンズ30Gが設けられていない場合を考える。この場合、保護層40の方が空気よりも屈折率が高いので、有機EL素子3から保護層40内に放射された光のうちある角度(臨界角θ)以上の角度を持った光100aは、保護層40と空気との界面で全反射される。この全反射が生じる臨界角θは、入射元の材料(保護層40)の屈折率nと入射先の材料(空気)の屈折率nを用いて下記式3で表される。
θ=sin−1(n/n) ・・・式3
例えば、保護層40を窒化ケイ素で形成した場合、その屈折率nは1.96であり、空気の屈折率nは1.00であるので、臨界角θは約31度となる。そのため、有機EL素子3から保護層40内に約31度以上の角度で放射された光は外部に取り出されない。
【0017】
次に、図3に示すように、画素1Gにレンズ30Gが設けられている場合を考える。例えば、レンズ部30がエポキシ樹脂である場合、その屈折率nは1.68である。よって、保護層40上のレンズ部30が形成された領域では、上記式3で表される臨界角θは約59度となる。
【0018】
つまり、レンズ30Gを設けることにより、レンズ30Gが設けられていない場合には取り出されなかった、有機EL素子3から保護層40内に放射角度約31度乃至約59度で放射された光101aが光102aとして外部に取り出される。このため、レンズ30Gによって光取り出し効率が向上する。
【0019】
(有機EL素子の光干渉効果)
続いて、有機EL素子3の光干渉効果について説明する。一般的に有機EL素子3を構成する有機化合物層などの各層の膜厚は、数十nm程度であり、各層の膜厚(d)と各層の屈折率(n)を掛け合わせた光学距離(nd積)は、可視光(λ=350nm以上780nm以下)波長の数分の1程度に相当する。そのため、有機EL素子3の内部では、可視光の干渉が顕著に現われる。この干渉によって強められる波長λは、第1電極11にある反射面と発光層13Gとの間の光学距離Lと、第1電極11の反射面で光が反射する際の位相シフトφと、0以上の整数mと、下記式4のような関係にある。
L=((m+(φ/2π))×(λ/2) ・・・式4
なお、反射面での位相シフトφは、反射面を構成する2つの材料のうち、光の入射元の材料と光の入射先の材料のそれぞれの光学定数を(n,k)、(n,k)とすると、下記式5で表すことができる。なお、これらの光学定数は、例えば分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
φ=tan−1(2n/(n−n−k)) ・・・式5
【0020】
本発明の有機EL素子3は、干渉によって強められる波長λが正面において有機EL素子の放射する光のスペクトルの最大ピーク波長λ近傍となるように、光学距離L、位相シフトφ、整数mが設定されている。つまり、光干渉効果によって強められる波長λは、光学干渉効果を用いた有機EL素子の放射する光のスペクトルの最大ピーク波長λとほぼ等しく、その差は10nm以下である。本発明では、光干渉効果によって強められる波長λを有機EL素子の放射する光のスペクトルの最大ピーク波長λとして、以下では説明する。また、有機EL素子の第1電極11と第2電極15の間の光干渉効果が強ければ強いほど、両者がより近くなる。また、上記式4でm=0とすると、光学距離Lが小さくなり、異物などの影響により第1電極11と第2電極15が短絡して、有機EL素子が発光しない恐れがあるため、本発明の有機EL素子3は、m≧1で構成されている。
【0021】
なお、有機化合物層の成膜時に生じる誤差や、発光層内の発光分布の影響によって式4を満たさない場合がある。しかし、光学距離Lが式4を満たす値から±λ/8ずれた値の範囲の中であれば、波長λが強められると考えてよい。
【0022】
つまり、本発明の有機EL素子3は、第1電極11にある反射面と発光層との間の光学距離Lが、有機EL素子3の放射する光のスペクトルの最大ピーク波長λ、反射面で光が反射する際の位相シフト量φ、正の整数mに対して、下記式6を満たしている。
(λ/8)×(4m+2φ/π−1)<L<(λ/8)×(4m+2φ/π+1) ・・・式6
さらには、光学距離Lが式4を満たす値から±λ/16ずれた値の範囲内にあれば好ましい。つまり、本発明の有機EL素子3は、下記式7を満たすことがより好ましい。
(λ/16)×(8m+4φ/π−1)≦L≦(λ/16)×(8m+4φ/π+1) ・・・式7
なお、上記の式4,6,7では、最も支配的である、発光層13Gから直接第2電極15に向かう光と第1電極11で1回反射した光との干渉を示したが、多層膜である有機EL素子では、多重干渉が起こるため、実際の光干渉効果にはその影響も含まれる。
【0023】
、図4(a)〜(d)には、長に対する強度分布で示される干渉強度スペクトル200が図示されている。ここで、201は、有機EL素子3の発光層の発光材料が発するPLスペクトルである。有機EL素子3が表示する色は、干渉強度のスペクトル200とPLスペクトル201との重なり合いで決まる。図4(a)では、図3のΘ=0の場合の、干渉強度のスペクトル200とPLスペクトル201との関係が示されている。なお、Θは、上述したように、有機EL素子3内の発光層13Gから発せられた光の発光角度である。
【0024】
図4(a)では、干渉強度スペクトル200は、波長に対して複数の極大値を有している。中央の極大値を示す波長λは、式6で正の整数mをある正の整数M(m=M)としたときに干渉によって最も強められる波長であり、上述したλである。また、それよりも波長が大きい方にある極大値を示す波長λは、Mより一つ小さい整数、つまりm=M−1としたときに干渉によって最も強められる波長である。さらに、それよりも波長が小さい方にある極大値を示す波長λは、Mより一つ大きい整数、つまりm=M+1としたときに干渉によって最も強められる波長である。本発明の有機EL素子では、Θ=0の場合において、発光層13Gの発光材料が発するPLスペクトル201と干渉強度のスペクトル200の中央の極大値を有する山とが大きく重なるように、光学距離Lが調整されている。
【0025】
式1から分かるように、有機EL素子3が発する光の発光角度Θが大きくなると、干渉によって強められる波長λは小さくなる。このため、図4(b)に示すように、発光角度Θ度の場合には、干渉強度スペクトル200の各極大値および山が短波長側にシフトして、干渉強度スペクトル200とPLスペクトル201との重なりが小さくなる。
【0026】
図4(c)では、さらに発光角度が大きくなり、干渉強度スペクトル200とPLスペクトル201との重なりが最も小さくなる場合を表している。その場合の発光角度をΘでとし、後述するように放射強度としては極小値をとる。
【0027】
また、Θよりも発光角度が大きくなると、式6において正の整数Mより一つ小さい整数M−1としたときの山とPLスペクトル201との重なりが無視できないくらいに大きくなる。つまり、式6において正の整数Mとしたときの山とPLスペクトル201との重なる面積に対して、式6において正の整数M−1としたときの山とPLスペクトル201との重なる面積が無視できない程度に大きくなる。図4(d)では、式6において正の整数Mとしたときの山とPLスペクトル201との重なる面積と、式6において正の整数M−1としたときの山とPLスペクトル201との重なる面積とが等しくなる場合を表している。この場合の発光角度をΘ度とする。
【0028】
上記のような式6を満たす有機EL素子3から保護層40内に放射された光の放射角度θに対する放射強度分布、つまり、干渉強度スペクトル200とPLスペクトル201との重なりから得られる強度分布は図5で示される。図中、放射角度θ、θ、θは、上述した発光角度Θ、Θ、Θに対応し、式2で関係づけられる。
【0029】
図5では、放射角度0度から放射強度は弱くなり、干渉強度スペクトル200とPLスペクトル201との重なりが最も小さくなる発光角度Θに対応した角度θで極小値を持つ。そして、放射角度がθより大きくなると再び放射強度が強くなり極大値を持つようになる。この放射強度分布のθより大きい角度にある極大値は、上述したように、式6における正の整数Mよりひとつ小さい整数M−1の山がPLスペクトル201と無視できない程度に重なっているためである。
【0030】
なお、θ(またはΘB)、θ(またはΘ)は、保護層40の材料、発光材料、それらの膜厚等の条件によって変化する。つまり、θ(またはΘ)はθ(またはΘ)よりも大きい場合もあれば同じ場合もある。また、放射角度0度の場合の干渉強度スペクトル200の最大ピーク波長がPLスペクトル201の最大ピーク波長よりも長波側にある場合、放射角度0度から一度強度が強くなり、そこから強度が弱くなり極小値をとることもある。
【0031】
(光干渉効果を用いた有機EL素子とレンズとを備える表示装置)
上述した通り、レンズを設けた構成では、レンズを設けない構成よりも、保護層40内に放射された光のうち放射角度がより大きい光も取り出すことができる。このため、有機EL素子として式6を満たす有機EL素子を用いた場合には、図5で示されるθよりも大きい角度の光までも取り出されることになる。つまり、レンズを設けない構成ではほとんど取り出されなかったθよりも大きい角度の光がレンズによって取り出されるようになる。このため、正面から斜めにするにつれ暗くなり、再度明るくなるといった不自然な輝度特性を持った表示装置になってしまう。
【0032】
なお、θよりも大きい放射角度になると、式5において正の整数M−1としたときの山とPLスペクトル201との重なる面積が、式5において正の整数Mとしたときの山とPLスペクトル201との重なる面積よりも大きくなるので、色度が大きくずれてしまう。
【0033】
つまり、放射角度θより大きな角度の光が取り出されると不自然な輝度特性を生じ、放射角度θよりも大きい角度の光が取り出されると色度のずれが大きくなる。
【0034】
従って、良好な輝度特性を有する表示装置を得たい場合は、放射角度θよりも大きい角度の光を吸収し、色ずれの少ない表示装置を得たい場合は、放射角度θよりも大きい角度の光を吸収するようにすればよい。さらに、輝度特性も色ずれも良好な表示装置を得たい場合は、θとθで小さい角度の方よりも大きい放射角度の光を吸収すればよい。
【0035】
(レンズの径)
本実施形態では、良好な輝度特性を有する表示装置を得るために、図6のようにレンズの径が規定されている。つまり、本発明のレンズの径は、θよりも大きい放射角度の光が表示装置の外部に出されないように設定されている。つまり、θよりも大きい放射角度の光がレンズ部30に入射しないように、レンズ30Gの径が設定されている。言い換えると、レンズの径が、θ以下の放射角度の光のみがレンズ部30を介して外部に出るように配置されている。
【0036】
本発明のレンズの径を、図7を用いてより具体的に説明する。図7は、本実施形態の表示装置の断面模式図である。ただし、保護層40に対して有機EL素子3の厚みは十分小さいとし、有機EL素子3の各構成要素は省略した。図7のそれぞれのパラメータは、下記のとおりである。
r:レンズ30Gの径
:有機EL素子3の発光領域の幅
D:保護層40の膜厚値
なお、レンズ30Gの中心軸と発光領域の中心軸とは一致している。これらのパラメータによって、本発明のレンズ30Gの径は以下の式8を満たせばよい。この式8を満たすと発光領域のすべての位置から発光した、発光角度Θ、すなわち放射角度θ以上の光が光吸収層50によって吸収される。
r≦2Dtan(θ)−r ・・・式8
θは、色ずれの少ない表示装置を得たい場合には、θに置き換えればよい。また、本発明のレンズ径rは式8で等号の場合が最適である。また、光取り出し効率の効果の観点から、レンズ径rは、有機EL素子3の発光領域以上であることが望ましい。つまり、r≧rが望ましい。
【0037】
また、保護層が、単層ではなくて異なる屈折率の材料からなる2層の積層構成である場合には、本発明のレンズ30Gの径rは以下の式9を満たせばよい。
r≦2Dtan(θ)+2Dtan(θ)−r ・・・式8
ここで、Dは有機EL素子3側の保護層(第1保護層)の膜厚値、Dはレンズ部30側の保護層(第2保護層)の膜厚値である。また、θは、第1保護層の中での発光角度Θに対応する放射角度、θは、第2保護層の中での発光角度Θに対応する放射角度である。
【0038】
また、図1のような、異なる2色以上の有機EL素子3を有する表示装置の場合、有機EL素子3の発光層のPLスペクトルの形が色ごとで異なるため、θ(またはΘ)が色ごとで異なる。そのため、異なる色を発する画素でレンズ径を変えてもよい。また、θ(またはΘ)の最も小さい色の画素に合わせるように、共通のレンズ径を有するレンズが各有機EL素子に対応して配置されていてもよい。つまり、赤色を発する画素と緑色を発する画素と青色を発する画素とを備える画素ユニットを有する表示装置で、青色を発する画素のθが他の色の画素のそれよりも小さいとすると、式8のθが青色を発する画素のレンズ径と同じ径で他の色の画素のレンズを設定すればよい。
【0039】
(表示装置の部材)
基板10は、TFTやMIM等のスイッチング素子(不図示)が形成された絶縁性の基板であり、ガラス、プラスチック等からなる。また、基板10は、スイッチング素子と第1電極11とを電気的に接続するためのコンタクトホールが形成された層間絶縁膜を有していてもよい。さらに、基板10には、スイッチング素子の凹凸を平坦化するための平坦化膜を有していてもよい。
【0040】
第1電極11は、Al、Cr、Agなどの金属単体やそれらの合金からなる金属層を用いることができる。さらに、酸化インジウムと酸化錫の化合物層や酸化インジウムと酸化亜鉛の化合物層などの透明酸化物導電層を金属層の上に積層する構成を採ることもできる。第1電極11の膜厚は、50nm以上200nm以下が好ましい。なお、透明とは、可視光域(波長400nm乃至780nm)において40%以上の光透過率を有することをいう。
【0041】
第1電極11にある反射面は、第1電極11が金属層のみからなる場合には金属層と有機化合物層との界面であり、第1電極11が金属層と透明酸化物導電層との積層構成である場合には金属層と透明酸化物導電層との界面である。
【0042】
正孔輸送層12は、正孔注入性、正孔輸送性を備える有機化合物の単層又は複数の層からなる。一方、電子輸送層14は、電子注入性、電子輸送性を備える有機化合物の単層又は複数の層からなる。また、必要に応じて、正孔輸送層12として、発光層から陽極側に電子が移動するのを抑制するために、電子ブロッキング層を設けることもできる。また、電子輸送層14として、正孔ブロッキング層を設けることもできる。また、正孔輸送層12、電子輸送層14として、発光層で発生した励起子の拡散を抑制するための励起子ブロッキング層を設けることもできる。
【0043】
赤色を発する発光層13R、緑色を発する発光層13G、青色を発する発光層13Bとしては、特に制限はなく公知の材料を適用することが可能である。例えば、発光性とキャリア輸送性を兼ね備える材料の単一層や、蛍光材料、燐光材料等の発光性材料をキャリア輸送性のホスト材料の混合層を適用することができる。
【0044】
各発光層13R,13G,13B、正孔輸送層12、電子輸送層14には、公知の材料が使用することができ、成膜手法も蒸着や転写等公知の成膜手法を用いることができる。また、各層の膜厚は、各色の有機EL素子の発光効率を上げるために最適な膜厚にすることが望ましく、それぞれ5nm以上100nm以下の膜厚であることが望ましい。
【0045】
第2電極15は、Al、Cr、Agなどの金属単体やそれらの合金からなる金属薄膜を使用することができる。特にAgを含む金属薄膜は吸収率が低く、比抵抗も低いため、第2電極15として好ましい。第2電極15の膜厚が5nm以上30nm以下であることが好ましい。また、第2電極15は上述した金属薄膜と酸化インジウムと酸化錫の化合物層や酸化インジウムと酸化亜鉛の化合物層などの透明酸化物導電層とが積層され構成であってもよいし、透明酸化物導電層のみで構成されていてもよい。
【0046】
保護層40は、材料や成膜手法は公知のものを使用することができる。一例としては、窒化シリコン(SiN)や酸化窒化シリコン(SiON)をCVD装置で成膜する方法が挙げられる。保護層40の膜厚は、保護性能を有するために0.5μm乃至10μmであることが好ましい。
【0047】
レンズ部30は、水分含有が少ない熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化型樹脂を用いることができる。レンズ部30の膜厚は、10μm乃至100μmが好ましい。熱硬化型樹脂と光硬化型樹脂を用いた場合、成膜方法としては、スピンコート法、ディスペンス法などを用いることが可能である。また、保護層40上に、膜厚10μm乃至100μm程度の熱可塑性樹脂のフィルムを真空下にて貼りつける方法も用いることができる。具体的な樹脂材料としては、エポキシ樹脂、ブチル樹脂が好適に用いられる。
【0048】
レンズ30R,30G,30Bの製造方法は、以下の方法が挙げられる。
(1)レンズの型を用意し、その型を樹脂層に対して押圧してレンズ形状に形成する方法。
(2)フォトリソなどによってパターニングされた樹脂層を熱処理し、リフローによって樹脂層をレンズ形状に変形させる方法。
(3)均一の厚さに形成された光硬化型樹脂層を、面内方向に分布を持った光で露光し、この樹脂層を現像することによってレンズを形成する方法。
(4)イオンビームあるいは電子ビーム、レーザー等を用いて、均一の厚さに形成された樹脂材料の表面をレンズ形状に加工する方法。
(5)各画素に適量の樹脂を滴下して自己整合的にレンズを形成する方法。
(6)有機EL素子が形成された基板とは別個に、レンズが予め形成された樹脂シートを用意し、両者をアライメントした後、貼り合せることによりレンズを形成する方法。
これ以外でもレンズ形成可能な方法であればどの方法でもよい。
【0049】
またレンズ部30の材料としてSiNやSiOといった無機物を用いてもよい。その場合は、まずCVD法にてSiN層やSiO層を形成し、その上に樹脂にてレンズ形状の構造物を作成する。これらをドライエッチングすることでSiN層やSiO層にレンズ形状が転写される。
【0050】
なお、レンズ30R,30G,30Bは、集光特性を有していれば凸形状でも凹形状でもよい。「集光特性」とは、レンズがない平坦な取り出し表面での光線の放射特性に比べて正面方向の強度が大きくなる特性のことである。レンズの集光特性は、有機EL素子の発光面積、レンズの曲率、発光面からレンズまでの距離、レンズの材料の屈折率などに依存し、これらをパラメータとして、所望の集光特性が得られるようにレンズを設計することが好ましい。
【0051】
本発明の表示装置の用途として、高輝度による視認性の向上が重要なモバイル用途、例えばデジタルカメラの背面モニタ、携帯電話用ディスプレイなどが挙げられる。また、同じ輝度でも低消費電力が期待されるので、屋内で使用する用途にも有用である。
【0052】
本発明は、上述した趣旨を逸脱しない限り、以上説明した構成に限られることはなく、種々の応用・変形が可能である。
【実施例】
【0053】
本実施例では、実施形態1に係る表示装置の製造方法を図8を用いて説明する。
【0054】
ガラス基板上に、低温ポリシリコンTFTで画素回路(不図示)を形成し、その上にSiNからなる層間絶縁膜とアクリル樹脂からなる平坦化膜を、この順番で形成して図8(a)に示す基板10を作成した。この基板10上にITO膜/AlNd膜をスパッタリング法にて40nm/100nmの厚さで形成した。続いて、ITO膜/AlNd膜を画素毎にパターニングし、第1電極11を形成した。なお、第1電極11にある反射面は、ITO膜とAlNd膜との界面であり、その界面での光が反射する際の位相シフトは620nm、520nm、460nmの波長でそれぞれ2.42[rad]、2.15[rad]、1.81[rad]であった。
【0055】
この上にアクリル樹脂をスピンコートした。厚さは1.0μmであった。次に、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極11が形成された部分に開口(この開口部が画素に相当)が形成されるようにパターニングして絶縁層20を形成した。各画素のピッチを20μm、開口による第1電極11の露出部の大きさ、つまり発光領域の幅を5.0μmとした。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄してから有機化合物層を真空蒸着法により成膜した。
【0056】
有機化合物層としては、始めに、第1の正孔輸送層12をすべての画素に共通で100nmの厚さで成膜した。次に、シャドーマスクを用いて、赤色、緑色を発する画素に、それぞれ膜厚95nm、45nmの第2の正孔輸送層(不図示)を成膜した。次に、シャドーマスクを用いて、赤色発光層13R、緑色発光層13G、青色発光層13Bをそれぞれ厚さ30nm、40nm、25nmで成膜した。続いて、すべての画素に共通の電子輸送層14を50nmの厚さで成膜した。
【0057】
次に、有機化合物層を成膜した基板10を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、第2電極15としてAgおよび透明電極層としてそれぞれ10nm及び50nmの厚さで順に成膜した。透明電極層の材料としては、酸化インジウムと酸化亜鉛の混合物を用いた。
【0058】
なお、赤色を発する画素の赤色発光層13R、緑色を発する画素の緑色発光層13G、青色を発する画素の青色発光層13Bそれぞれから第1電極11にある反射面までのそれぞれの光学距離L,L,Lは以下のとおりであった。ここで、赤色、緑色、青色を発する画素の有機EL素子から発せられる最大ピーク波長λは、それぞれ620nm、520nm、460nmであった。また、波長620nm、520nm、460nmにおけるITO膜の屈折率は、それぞれ2.01、2.07、2.12であった。さらに、波長620nm、520nm、460nmにおける正孔輸送層の屈折率は、それぞれ1.74、1.80、1.88であった。
=40×2.01+(100+95)×1.79=419.70nm
=40×2.07+(100+45)×1.82=343.80nm
=40×2.12+100×1.87=272.80nm
よって、赤色、緑色、青色を発する画素それぞれの有機EL素子において、下記のようにm=1で式6を満たしていた。
351.90nm<L=419.70nm<506.90nm
283.97nm<L=343.80nm<413.97nm
238.75nm<L=272.80nm<353.75nm
【0059】
次に、図8(a)に示すように、窒化珪素からなる保護層40を、SiHガス、Nガス、Hガスを用いたプラズマCVD法にて、10μmの厚さで成膜した。保護層40の屈折率は1.96であった。
【0060】
なお、保護層40に放射された光の放射角度に対する光強度分布の極小値を示すθは、赤色、緑色、青色を発する画素で、それぞれ45度、40度、35度であった。レンズ径は、赤色、緑色、青色を発する画素で共通で、青色を発する画素のθ=35度よりも大きい角度の光が表示装置の外部に出ないように決められる。具体的には、式8で、保護層の膜厚D=10μm、θ=35度、発光領域の幅r=5.0μmを代入して、r≦9.0μmとなるようにレンズ径rを調整する。
【0061】
次に、図8(b)に示すように、露点温度60℃の窒素雰囲気下で、粘度3000mPa・s、屈折率1.60の熱硬化性の樹脂材料(エポキシ樹脂)31を精密描画が可能なディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、製品名SHOT MINI SL)を用いて塗布した。
【0062】
樹脂材料31を熱硬化する前に、図8(c)のように、別途用意したレンズを成形するための型70を、樹脂材料31の表面に押し当てた。押し当てる際、型70に形成してあるアライメントマークと基板10に形成してあるアライメントマークをあわせる事により位置決めを行なった。型70は、画素ピッチと同じピッチで凹状に窪みが形成されており、その窪みの表面に離形剤としてテフロン(登録商標)系の樹脂をコートした。窪みの形状、すなわちレンズ30R,30G,30Bの形状は、レンズ径8.7μm、曲率半径6.0μmで形成した。画素ピッチ20μmであるので、樹脂材料31の高さは3.6μm程度になった。
【0063】
上記のように型70を押し当てた状態で、真空環境下で100℃の温度で15分間加熱し、樹脂材料(エポキシ樹脂)31を硬化させた。その後、樹脂から型70を離して、図8(d)のように、画素に合わせてレンズ30R,30G,30Bを有するレンズ部30を形成した。
【0064】
レンズ30R,30G,30Bの径は、8.7μmであり、9.0μmより小さく、発光領域の幅5.0μmよりも大きかった。
【0065】
上記のような、レンズ径を有するレンズを設けることにより、輝度特性の良好な表示装置を得ることができた。
【符号の説明】
【0066】
11 第1電極
13R 赤発光層
13G 緑発光層
13B 青発光層
14 第2電極
30R,30G,30B レンズ
40 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と発光層を含む有機化合物層と第2電極とを有し、前記第2電極から光を放射する有機EL素子と、
前記有機EL素子の上に配置された保護層と、
前記保護層の上に配置されたレンズと、を有する表示装置であって、
前記第1電極にある反射面と前記発光層との間の光学距離Lが、前記有機EL素子の発する光のスペクトルの最大ピーク波長λ、前記反射面で光が反射する際の位相シフト量φ、正の整数mに対して
(λ/8)×(4m+2φ/π−1)<L<(λ/8)×(4m+2φ/π+1)
を満たし、
前記有機EL素子から前記保護層に放射された光の放射角度に対する光強度分布が極小値を有し、
前記保護層に放射された光のうち前記極小値を示す角度よりも大きい角度の光が、前記表示装置の外部に出されないように前記レンズの径が設定されていることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記レンズの径rは、前記極小値を示す角度θ、前記有機EL素子の発光領域の幅r、前記保護層の膜厚Dに対して、
≦r≦2Dtan(θ)−r
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表示装置において、前記有機EL素子は、赤色を発する有機EL素子と、緑色を発する有機EL素子と、青色を発する有機EL素子と、を含み、
前記レンズは、赤色を発する有機EL素子と緑色を発する有機EL素子と青色を発する有機EL素子に対応する位置にそれぞれ設けられ、
前記レンズの径は、赤色を発する有機EL素子と緑色を発する有機EL素子と青色を発する有機EL素子それぞれに対応するレンズで共通であり、
共通のレンズの径は、赤色を発する有機EL素子と緑色を発する有機EL素子と青色を発する有機EL素子から前記保護層に放射された光のそれぞれの放射角度に対する光強度分布の極小値を示す角度のうち最も小さい角度よりも大きい角度の光が前記表示装置の外部に出されないようにレンズの径であることを特徴とする表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−16271(P2013−16271A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146514(P2011−146514)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】