説明

表示装置

【課題】異なる色を発する有機EL素子に共通に形成された発光層を有する表示装置において、電子阻止層を発光層間に設けずに、各有機EL素子を効率よく発光させる。
【解決手段】第1の有機EL素子3Bの第1の発光層13Bが第2の有機EL素子3Rに共通に形成され、第2の有機EL素子3Rの第2の発光層13Rが第1の発光層13Bに接して陰極15側に配置され、第1の発光層13Bが電子トラップ性の発光層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子を備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、陽極と、有機化合物を含む発光層と、陰極と、が積層されて構成されている。そして、赤色、緑色、青色の三色の有機EL素子を用いた表示装置では、各色の発光層が、各色の画素形状に合わせたパターニング用の金属マスクを用いて真空蒸着されている。
【0003】
近年、表示装置の高精細化に伴い、各色画素サイズは微小化し、その画素形状に合わせたパターニング用の金属マスクも高精細用になっているため、表示装置の製造コストに占める金属マスクの製造及び維持管理が困難になっている。
【0004】
特許文献1では、発光効率の低い青色発光層を画素領域全面に形成し、赤色発光層及び緑色発光層を青色発光層よりも取り出し電極側に積層する技術が述べられている。そして、発光効率の低い青色発光層を画素領域全面に形成し、青色の画素面積を大きくすることにより、パターニング用の金属マスクの使用を減らし、表示装置の寿命を改善することができるとしている。
【0005】
この構成では、赤色及び緑色発光の有機EL素子において、赤色及び緑色発光層それぞれは、青色発光層上に積層して形成されているため、赤色及び緑色発光層のみを発光させる必要がある。しかし、赤色発光層や緑色発光層の構成によっては、赤色発光層、緑色発光層内を電子が通り抜けて、青色発光層まで電子が漏れ、青色発光層が発光してしまい、赤色発光層及び緑色発光層を効率よく発光させることが困難な場合がある。
【0006】
また、特許文献1では、赤色発光層と青色発光層の間、及び緑色発光層と青色発光層の間に電子阻止層を設けてもよいことが開示されているが、この構成では素子の駆動電圧が上昇してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−66862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、異なる色を発する有機EL素子に共通に形成された発光層を有する表示装置において、電子阻止層を発光層間に設けずに、各有機EL素子を効率よく発光させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の色を発する第1の有機EL素子と、前記第1の色とは異なる第2の色を発する第2の有機EL素子と、を有し、前記有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間にある発光層とを備えている表示装置であって、前記第1の有機EL素子の第1の発光層は、前記第2の有機EL素子に共通に形成されており、前記第2の有機EL素子の第2の発光層は、前記第1の発光層に接し且つ、前記第1の発光層よりも前記陰極側に形成されており、前記第1の発光層は、ホスト材料と発光ドーパント材料とを含み、下記の式(1)及び(2)を満たすように構成されていることを特徴とする。
|LUMOD1|>|LUMOH1|・・・(1)
|LUMOD1|−|LUMOH1|>|HOMOH1|−|HOMOD1|・・・(2)
上記式中、LUMOH1、HOMOH1はそれぞれ、前記第1の発光層に含まれる前記ホスト材料のLUMO準位エネルギー、HOMO準位エネルギーを表し、LUMOD1、HOMOD1はそれぞれ、前記第1の発光層に含まれる前記発光ドーパント材料のLUMO準位エネルギー、HOMO準位エネルギーを表している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異なる色を発する有機EL素子に共通に形成された発光層を有する表示装置において、電子阻止層を発光層間に設けずに、各有機EL素子を効率よく発光させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の表示装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の表示装置の青色発光、赤色発光、緑色発光の各有機EL素子の代表的なエネルギーバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の表示装置について、実施形態を挙げて図面を参照して説明する。尚、本明細書で特に図示又は記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。また以下に説明する実施の形態は、発明の一つの実施形態であって、これらに限定されるものではない。
【0013】
特に、以下の実施形態では、第1の色、第2の色、第3の色をそれぞれ緑色、赤色、青色としている。また、第1の有機EL素子、第2の有機EL素子、第3の有機EL素子をそれぞれ、緑色の有機EL素子、赤色の有機EL素子、青色の有機EL素子としている。また、第1の発光層、第2の発光層、第3の発光層をそれぞれ緑色の発光層、赤色の発光層、青色の発光層としている。しかし、本発明は、この構成に限られるものではない。
【0014】
図1(a)は、本発明の表示装置の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。本発明の表示装置は、有機EL素子を備える画素1を複数有している。そして、複数の画素1はマトリックス状に配置され、表示領域2を形成している。尚、画素とは、1つの有機EL素子の発光領域に対応した領域を意味している。本発明の表示装置では、画素1のそれぞれに1つの色の有機EL素子が配置された表示装置である。各有機EL素子は、赤色、緑色、青色のいずれかを発光する。また、これら3色の有機EL素子以外に、さらに、黄色、シアン、白色のいずれかを発する有機EL素子を有していてもよい。尚、本実施形態の表示装置には、発光色の異なる複数の画素(例えば赤色を発する画素、緑色を発する画素、及び青色を発する画素)からなる画素ユニットが複数配列されている。画素ユニットとは、各画素の混色によって所望の色の発光を可能とする最小の単位を示す。
【0015】
図1(b)は、図1(a)のA−A’線における部分断面模式図である。各画素1は、基板10上に、陽極11と、正孔輸送層12と、有機化合物を含む発光層と、電子輸送層14と、陰極15と、を備える有機EL素子を有している。尚、3R,3G,3Bは、それぞれ赤色発光の有機EL素子、緑色発光の有機EL素子、青色発光の有機EL素子を表している。赤色、緑色、青色を発光する有機EL素子3R,3G,3Bは、それぞれ赤色発光層13R、緑色発光層13G、青色発光層13Bを有している。そして、青色発光層13Bは、赤色発光の有機EL素子3Rと緑色発光の有機EL素子3Gとにわたって形成されており、いわゆる青色発光層13Bはコモン発光層となっている。つまり、赤色発光の有機EL素子3Rと緑色発光の有機EL素子3Gそれぞれは、青色発光層13Bと同じ組成で且つ同じ膜厚の青色発光層13Bを有している。
【0016】
また、赤色発光層13Rは、青色発光層13Bの陰極15側に、青色発光層13Bと接して配置されている。また、緑色発光層13Gは、青色発光層13Bの陰極15側に、青色発光層13Bと接して配置されている。つまり、赤色発光層13Rと青色発光層13Bの間、緑色発光層13Gと青色発光層13Bの間には電子阻止層が配置されていない構成である。
【0017】
青色発光層13Bは、塗り分け用金属マスクを用いずに形成され、赤色発光層13R及び緑色発光層13Gは、塗り分け用金属マスクを用いて画素形状に形成される。このように、青色発光層13Bを塗り分け用金属マスクを用いずに形成することにより、全色で発光層を塗り分けるよりも、塗り分け用金属マスクの使用を減らすことができる。
【0018】
尚、陽極11は、隣り合う画素(有機EL素子)の陽極11と分離されて形成されており、陰極15との異物によるショートを防ぐために、画素(より具体的には、陽極11)間に画素分離層20が設けられている。また、正孔輸送層12と電子輸送層14と陰極15は、図1(b)のように隣り合う画素と共通で形成されていてもよいし、画素毎にパターン化されて形成されていてもよい。
【0019】
尚、本例においては、陽極11が反射電極であり、陰極15が透明な光出射側電極である。陽極11は、金属層と透明導電層の積層で用いてもよい。上記のような陽極11上には有機化合物からなる正孔輸送層を形成しても良い。また、電子輸送層14の上には、電子注入層を形成しても良い。
【0020】
正孔輸送層にはアリールアミン類など、従来から知られた材料を用いることができ、正孔注入層材料などの異なる材料を積層して正孔輸送層を形成しても良く、光り取り出し効率を高めるために色ごとに膜厚を塗り分けて、光学干渉を合わせても良い。
【0021】
青色発光層13Bよりも反射電極である陽極11側に赤色発光層13R及び緑色発光層13Gを積層しても、塗り分け用金属マスクの使用を減らすことができるが、光学干渉を合わせる上で好ましくない。よって、本発明においては、赤色発光層13R及び緑色発光層13Gは青色発光層13Bよりも光出射側電極である陰極15側に設ける。
【0022】
尚、正孔輸送層12、発光層13R,13B,13G、電子輸送層14、さらに必要に応じて用いられる正孔注入層、電子注入層を合わせた積層体を有機化合物層という。
【0023】
上述のように本発明は、陽極11、発光層13R,13G,13Bを含む有機化合物層、陰極15の順に積層した赤色、緑色、青色の三色の有機EL素子3R,3G,3Bからなる表示装置である。そして青色発光層13Bは画素領域全面に形成され、赤色及び緑色発光層13R,13Gは青色発光層13Bに接して陰極15側に形成される。
【0024】
そして、積層された2つの発光層13の間には電子阻止層が配置されていない構成でも、赤色の有機EL素子3R、青色の有機EL素子3Bを効率よく発光させるために、青色発光層13Bの構成を工夫している。つまり、青色発光層13Bはホスト材料と発光ドーパント材料とを含み、下記の式(1)及び(2)を満たすように構成されている。
|LUMOD1|>|LUMOH1|・・・(1)
|LUMOD1|−|LUMOH1|>|HOMOH1|−|HOMOD1|・・・(2)
【0025】
ここで、LUMOH1、HOMOH1はそれぞれ、青色発光層13Bに含まれるホスト材料のLUMO(最低空軌道)準位エネルギー、HOMO(最高被占軌道)準位エネルギーを表している。また、LUMOD1、HOMOD1はそれぞれ、青色発光層13Bに含まれる発光ドーパント材料のLUMO準位エネルギー、HOMO準位エネルギーを表している。
【0026】
一般に青色発光層に含まれる発光ドーパント材料は10質量%以上となると、濃度消光と呼ばれる発光効率の低下が起きるため、本発明では青色発光層13Bの発光ドーパントは10質量%以下で含有される。
【0027】
図2(a)に青色発光の有機EL素子3Rのエネルギーバンド図を示すが、式(1)及び(2)を満たす青色発光層13Bに電子が注入された場合には、電子は発光ドーパント材料のLUMO準位にトラップされる。発光ドーパント材料は青色発光層13Bの全質量の10%以下であるため、電子は伝導しにくくなる。
【0028】
また、正孔が注入された場合には、正孔はホスト材料のHOMO準位に注入され、ホスト材料は青色発光層13Bの体積の最も多くの部分を占めるため、この準位を伝導する。このため、青色発光層13Bは電子よりも正孔が伝導しやすい正孔輸送性(電子トラップ性)となる。
【0029】
尚、上記式(2)は、|HOMOH1|>|HOMOD1|の関係でもよいことを含んでおり、この場合、正孔は発光ドーパント材料のHOMO準位にトラップされやすくなる。しかし、上記式(2)は、発光ドーパント材料が電子をトラップする強さを表すエネルギー差|LUMOD1|−|LUMOH1|の方が正孔をトラップする強さを表すエネルギー差|HOMOH1|−|HOMOD1|よりも大きいことを表している。このため、青色発光層13B内では、電子は伝導しにくく正孔が移動しやすくなり、正孔輸送性(電子トラップ性)なる。また、青色発光層13Bは、|HOMOD1|>|HOMOH1|を満たすように構成されることが望ましく、この構成であればより正孔が伝導しやすくなる。つまり、下記の式(3)を満たすことがより好ましい。
|HOMOD1|>|HOMOH1|>|LUMOD1|>|LUMOH1|・・・(3)
【0030】
青色発光層13Bのホスト材料としては、ピレン誘導体等が好適に用いられ、発光ドーパント材料としてはフルオランテン誘導体等が好適に用いられる。
【0031】
図2(b)、(c)に赤色発光、緑色発光のそれぞれの有機EL素子3R,3Gの代表的なエネルギーバンド図を示す。図2(b)、(c)は好ましいエネルギーバンド構造であるが、赤色及び緑色発光層13R,13Gのエネルギーバンド構造は必ずしも限定されるものではない。
【0032】
式(1)及び(2)、さらには式(3)を満たす正孔輸送性の青色発光層13Bに接し、陰極15側に赤色もしくは緑色発光層13R、13Gを積層した場合、正孔が青色発光層13Bを通り抜けやすくなる。そのため、赤色発光及び緑色発光の有機EL素子3R,3Gの電圧を上げずに、青色発光層13Bの発光を抑え、赤色及び緑色発光層13R,13Gのみを発光させることができる。
【0033】
また、赤色及び緑色発光の有機EL素子3R,3Gにおいて青色発光層13Bの発光を抑えることができるため、電子阻止層を用いる必要がなく、青色発光の有機EL素子3Bにおいても、電子注入が抑えられず、電圧の上昇を招かない。また、青色発光層13Bへの電子注入を阻止しないため、青色発光層13Bでの再結合確率が向上し、正孔が青色発光層13Bを通り抜けて効率が低下する問題も発生しない。
【0034】
さらに、赤色発光層13RのHOMO準位エネルギーHOMO2と前記HOMOH1
|HOMO2|<|HOMOH1|・・・(4)
を満たし、緑色発光層13GのHOMO準位エネルギーHOMO3と前記HOMOH1
|HOMO3|<|HOMOH1|・・・(5)
を満たすように、赤色発光層13R、緑色発光層13Gが構成されていることが好ましい。
【0035】
ここで、上記HOMO2(HOMO3)は、赤色発光層13R(緑色発光層13G)のHOMO準位エネルギーとは、赤色発光層13R(緑色発光層13G)が発光材料のみからなる場合は、その発光材料のHOMO準位エネルギーのことである。また、赤色発光層13R(緑色発光層13G)がホスト材料と発光ドーパント材料とを含む場合は、上記HOMO2(HOMO3)はホスト材料、発光ドーパント材料のいずれのHOMO準位エネルギーでも良い。これらが青色発光層13Bのホスト材料のHOMO準位よりも浅い準位であることにより、青色発光層13Bを通り抜けた正孔は、赤色及び緑色発光層13R,13Gに注入されやすくなる。
【0036】
上記式(4)及び式(5)を満たすことにより、青色発光層13Bを通り抜けた正孔は、赤色及び緑色発光層13R,13Gに注入されやすくなる。よって、より青色発光層13Bの発光を抑え、赤色及び緑色発光層13R,13Gのみを発光させる効果があり好ましい。
【0037】
さらに、赤色及び緑色の有機EL素子3R,3Gに関しては、赤色及び緑色発光層13R,13Gから青色発光層13Bに電子が注入されにくい構成であることがより好ましい。例えば、赤色及び緑色発光層13R,13Gと青色発光層13Bとの間に電子注入障壁が形成されるように各発光層を構成することが望ましい。
【0038】
上記に述べた構成により、本発明は、塗り分け用マスクの使用を減らすため青色発光層13Bを画素領域全面に形成した場合でも、有機EL素子への印加電圧を上げずに、青色発光の有機EL素子の発光効率が良い表示装置を提供することができる。
【0039】
尚、本発明で定義するHOMOは最高被占軌道のことであり、その準位エネルギーは大気中光電子分光法(AC−2、理研機器製)を用いて測定した。また、LUMOは最低空軌道であり、LUMO準位エネルギーは、上記の方法で測定したHOMO準位エネルギーの値から紫外・可視分光法(UV/VIS V−560、日本分光製)を用いて測定した吸収スペクトルの吸収端から求めたバンドギャップを引いて算出した。
【0040】
また、前記式(1)乃至(5)に示したように、各式におけるHOMO、LUMOの準位エネルギーの大小関係は、その絶対値によって規定する。
【0041】
本実施形態では、コモン発光層(第1発光層)として青色発光層13B、第2発光層として赤色発光層13Rを例に挙げたが、特にこれに限定されるものではない。コモン発光層として、緑色発光層13Gや赤色発光層13Rなどの他の色の発光層を適用することもできる。
【0042】
本実施形態は、基板10側から陽極11、正孔輸送層12、発光層、電子輸送層14、陰極15の順で積層されているが、逆の構成、つまり、基板10側から陰極15、電子輸送層14、発光層、正孔輸送層12、陽極11の順で積層されていてもよい。
【0043】
また、本発明の表示装置は、基板10側から有機EL素子の光が出射されるボトムエミッション型の表示装置でもいいし、基板10とは反対側から有機EL素子の光が出射されるトップエミッション型の表示装置であってもよい。
【0044】
本発明の表示装置としては、テレビ受像機、パーソナルコンピュータの表示部に用いられる。他には、デジタルカメラやデジタルビデオカメラなどの撮像装置の表示部や電子ビューファインダに用いられてもよい。撮像装置は、撮像するための撮像光学系やCMOSセンサなどの撮像素子をさらに有している。
【0045】
また、本実施形態の表示装置は、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等に用いられてもよいし、さらには、携帯音楽再生装置の表示部、携帯情報端末(PDA)の表示部、カーナビゲーションシステムの表示部に用いられてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について説明するが、実施例に用いた材料や素子構成は、好ましい例であって、これに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
図1(b)に示す構成にさらに、電子輸送層14と陰極15との間に電子注入層を設けた構成の表示装置を作製した。
【0048】
ガラス基板上に、低温ポリシリコンTFTで画素回路を形成し、その上にSiNからなる層間絶縁膜とアクリル樹脂からなる平坦化膜を、この順番で形成して、図1(b)に示す基板10を作製した。次に、基板10上に、金属層として銀(膜厚200nm)、透明導電層としてIZO(膜厚20nm)を積層した陽極11を形成し、UV/オゾン洗浄を施した。
【0049】
続いて、上記電極付の基板を真空蒸着装置(アルバック社製)に取り付け、1.33×10-4Paまで排気した。その後、陽極11上に塗り分け用金属マスクを用いずにN,N’−α−ジナフチルベンジジンを厚さ20nmで成膜し、正孔輸送層12を形成した。
【0050】
次に青色発光層13Bのホスト材料として下記構造式(I)で示されるピレン誘導体を、発光ドーパント材料として下記構造式(II)で示されるフルオランテン誘導体を用い、厚さ20nmの青色発光層13Bを形成した。発光ドーパント材料は2体積%の割合で含有させた。
【0051】
上記ピレン誘導体は|LUMOH1|=2.67eV、|HOMOH1|=5.61eVであり、フルオランテン誘導体は|LUMOD1|=3.06eV、|HOMOD1|=5.85eVで、本発明に係る前記式(1)乃至(3)の関係を満たしている。
【0052】
【化1】

【0053】
次に、青色発光層13Bの上に、塗り分け用金属マスクを用いて、赤色発光の有機EL素子に該当する領域のみ、厚さ50nmの赤色発光層13Rを形成した。赤色発光層13Rのホスト材料としては、下記構造式(III)で示されるフルオレン誘導体を、発光ドーパント材料として下記構造式(IV)で示されるIr錯体を用い、発光ドーパント材料を10体積%の割合で含有させた。
【0054】
上記発光ドーパント材料として用いたIr錯体は、|LUMO|=2.47eV、|HOMO|=5.13eVであり、ホスト材料として用いたフルオレン誘導体は、|LUMO|=2.75eV、|HOMO|=5.77eVである。つまり、|HOMO2|は発光ドーパント材料のHOMO準位エネルギーである5.13eVである。よって、発光ドーパント材料のIr錯体と、青色発光層13Bのホスト材料として用いたピレン誘導体とは、本発明に係る式(4)の関係を満たしている。
【0055】
【化2】

【0056】
次に、青色発光層13Bの上に、塗り分け用金属マスクを用いて、緑色発光の有機EL素子に該当する領域のみ、厚さ20nmの緑色発光層13Gを形成した。緑色発光層13Gのホスト材料としては、下記構造式(V)で示されるピレン誘導体を、発光ドーパント材料としては、下記構造式(VI)で示されるアリールアミン誘導体を用い、発光ドーパント材料は10体積%の割合で含有させた。
【0057】
上記発光ドーパント材料として用いたアリールアミン誘導体は、|LUMO|=3.01eV、|HOMO|=5.51eVであり、ホスト材料として用いたピレン誘導体は、|LUMO|=2.78eV、|HOMO|=5.72eVである。つまり、|HOMO3|は発光ドーパント材料のHOMO準位エネルギーである5.51eVである。よって、発光ドーパント材料のアリールアミン誘導体と、青色発光層13Bのホスト材料として用いたピレン誘導体とは、本発明に係る式(3)の関係を満たしている。
【0058】
【化3】

【0059】
次に電子輸送層14として、下記構造式(VII)で示される、フェナントロリン誘導体を10nmの膜厚で成膜した。さらに、該電子輸送層14の上に、炭酸セシウム(3体積%)と、上記フェナントロリン誘導体の共蒸着膜を40nmの膜厚で成膜し、電子注入層(不図示)とした。
【0060】
【化4】

【0061】
続いて、電子注入層まで成膜した基板を、スパッタ装置(アルバック社製)へ真空中を搬送し、前記電子注入層上にインジウム錫酸化物をスパッタ法にて厚さ30nmで成膜し、陰極15を形成した。
【0062】
その後、基板をグローブボックスに移し、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたガラスキャップ(不図示)により封止し、表示装置を作製した。
【0063】
上記手順で得られた表示装置の各色の発光を評価したところ、各色とも低電圧で充分な発光が得られ、また、赤色発光、緑色発光において青色発光は見られなかった。
【0064】
(比較例1)
実施例1の青色発光層13Bのホスト材料として用いたピレン誘導体に、発光ドーパント材料として下記構造式(VIII)で示される、アリールアミン誘導体を2体積%の割合で含有させ、厚さ20nmの青色発光層13Bを形成した。これ以外は実施例1と同様の方法で表示装置を作製した。この場合、係るアリールアミン誘導体は、|LUMOD1|=2.42eV、|HOMOD1|=5.29eVであり、ピレン誘導体とアリールアミン誘導体とは本発明に係る前記式(1)の関係を満たさない。
【0065】
【化5】

【0066】
本例の表示装置の赤色及び緑色発光を評価したところ、青色の発光が見られ、実施例1の表示装置の赤色及び緑色発光に比較して効率の低い素子となった。これは、本例の表示装置が、本発明に係る前記式(1)の関係を満たさないため、青色発光層13Bの正孔輸送性が低く、赤色発光層13R及び緑色発光層13Gへの正孔注入が十分でなかったためと考えられる。
【符号の説明】
【0067】
3R,3G,3B:有機EL素子、11:陽極、13R,13G,13B:発光層、15:陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の色を発する第1の有機EL素子と、前記第1の色とは異なる第2の色を発する第2の有機EL素子と、を有し、前記有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間にある発光層とを備えている表示装置であって、
前記第1の有機EL素子の第1の発光層は、前記第2の有機EL素子に共通に形成されており、
前記第2の有機EL素子の第2の発光層は、前記第1の発光層に接し且つ、前記第1の発光層よりも前記陰極側に形成されており、
前記第1の発光層は、ホスト材料と発光ドーパント材料とを含み、下記の式(1)及び(2)を満たすように構成されていることを特徴とする表示装置。
|LUMOD1|>|LUMOH1|・・・(1)
|LUMOD1|−|LUMOH1|>|HOMOH1|−|HOMOD1|・・・(2)
〔上記式中、LUMOH1、HOMOH1はそれぞれ、前記第1の発光層に含まれる前記ホスト材料のLUMO準位エネルギー、HOMO準位エネルギーを表し、LUMOD1、HOMOD1はそれぞれ、前記第1の発光層に含まれる前記発光ドーパント材料のLUMO準位エネルギー、HOMO準位エネルギーを表している。〕
【請求項2】
前記第1の発光層は、下記の式(3)を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
|HOMOD1|>|HOMOH1|・・・(3)
【請求項3】
前記第2発光層は、前記第2発光層のHOMO準位エネルギーHOMO2と前記HOMOH1が下記の式(4)を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示装置。
|HOMO2|<|HOMOH1|・・・(4)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−51098(P2013−51098A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188099(P2011−188099)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】