表示装置
【課題】2層構造の走査線を、絶縁膜を介して映像信号線が乗り越える際の、映像信号線の断線を防止する。
【解決手段】映像信号線が絶縁膜を介して走査線を乗り越える構成となっている。走査線10はAlCu合金を下層11とし、MoCr合金を上層12とする2層構造である。上層/下層の膜厚比を、0.4以上、1.0以下とすることによって、走査線10の断面において、電池作用によって上層12のエッチング速度が遅くなって、上層12の庇部が形成されることを防止する。これによって、走査線10に生じた庇部に起因して、映像信号線が走査線10との交差部において断線することを防止する。
【解決手段】映像信号線が絶縁膜を介して走査線を乗り越える構成となっている。走査線10はAlCu合金を下層11とし、MoCr合金を上層12とする2層構造である。上層/下層の膜厚比を、0.4以上、1.0以下とすることによって、走査線10の断面において、電池作用によって上層12のエッチング速度が遅くなって、上層12の庇部が形成されることを防止する。これによって、走査線10に生じた庇部に起因して、映像信号線が走査線10との交差部において断線することを防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に係り、特に走査線の断面形状に起因する映像信号線の断線を防止できる構成を与える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置、例えば、液晶表示装置では画素電極および薄膜トランジスタ(TFT)等がマトリクス状に形成されたTFT基板と、TFT基板に対向して、TFT基板の画素電極と対応する場所にカラーフィルタ等が形成された対向基板が設置され、TFT基板と対向基板の間に液晶が挟持されている。そして液晶分子による光の透過率を画素毎に制御することによって画像を形成している。
【0003】
液晶表示装置はフラットで軽量であることから、TV等の大型表示装置から、携帯電話やDSC(Digital Still Camera)等、色々な分野で用途が広がっている。また、液晶表示装置は、画面を視る角度によって画像が異なるという視野角が問題となるが、この視野角については、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示装置が優れた特性を有している。
【0004】
液晶表示装置では、走査線が第1の方向に延在して第2の方向に配列し、映像信号線が第2の方向に延在して第1の方向に配列している。走査線と映像信号線とで囲まれた領域に画素が形成されている。また、映像信号線が絶縁層を介して走査線の上を乗り越えて延在している。
【0005】
走査線の断面形状における側部が急峻であったり、逆テーパが形成されていたりすると、走査線を覆う絶縁層が不規則になり、その結果、絶縁層の上に形成される映像信号線が断線をする現象を生ずる。「特許文献1」には、TFTのチャンネル部を覆うチャネル保護層を絶縁物の2層構造とし、上側のエッチング速度を速くすることによって、チャネル保護層を順テーパとすることによって、チャネル保護層を覆う絶縁層が破壊することを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−85257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表示装置における走査線は電気抵抗を小さくするためにAl合金が使用される。使用されるAl合金としては、AlNdあるいはAlCu等が使用される。AlCuのほうが抵抗が小さい。一方、Alはヒロックが生じやすく、このヒロックが絶縁膜を突き破って絶縁破壊を生ずることを防止するために、キャップ層としてMoCr等の高融点金属が使用される。以後Al合金層を下層、キャップ層を上層という。
【0008】
走査線は、上層と下層をスパッタリング等で形成したあと、フォトリソグラフィを用いてパターニングを行う。フォトリソグラフィ工程において、レジストを現像した後、走査線の上層と下層を同じエッチング液を用いて同時にエッチングする。下層がAlCuで上層がMoCrの場合を例にとると、エッチング後、レジストを剥離した後の走査線の断面構造は図10に示すような構成となっている。
【0009】
図10において、下層11であるAlCuにテーパが形成されており、上層12であるMoCrはAlCuの上部よりもサイドエッチングの量が少ないので、AlCuの上にMoCrの庇が生じている。走査線10の上には、例えば、ゲート絶縁膜が形成されるが、上層12であるMoCrの庇によって、ゲート絶縁膜102の形状が図11に示すように不規則になる。図11に示すように、走査線10の上層12の庇部150の下側に生じたゲート絶縁膜102の凹部を差込と称している。図11は、走査線10と直角方向に映像信号線20が走査線10を乗り越える断面図を示している。
【0010】
図11において、庇150よりも下側にはゲート絶縁膜102が十分に形成されず、いわゆる差込が生じている。ゲート絶縁膜102の上に映像信号線20をスパッタリング等によって形成するが、ゲート絶縁膜102に差込が形成されている部分には、映像信号線20の膜が形成されず、断線を生じてしまう。また、ゲート絶縁膜102の差込部分において、映像信号線20がつながっていたとしても、その部分の映像信号線20は薄くなるので、電流が流れたときに、熱によって断線してしまう。
【0011】
このような断線対策として、図12に示すように、走査線10を映像信号線20が乗り越える部分において、映像信号線20の下層にa−Si層1035を形成することによって段差を軽減し、映像信号線20の断線を防止することが考えられる。図12において、半導体層103はTFTを形成するa−Si層であり、1035は映像信号線が走査線を乗り越える部分において、段差を軽減するための、a−Siで形成された半導体台座である。しかし、映像信号線20と走査線10の間にa−Si層を形成すると、a−Si層によって透過率が低下するという問題が生ずる。
【0012】
本発明の課題は、Alを主たる成分とする下層11とMoを主たる成分とする上層12から構成される走査線10あるいはゲート電極において、エッチング後に上層の庇150が生ずることを防止し、庇150が生ずることによる映像信号線20の断線を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記問題を克服するものであり、具体的な手段は次のとおりである。
【0014】
(1)走査線が第1の方向に延在して第2の方向に配列し、映像信号線が第2の方向に延在して第1の方向に配列し、前記走査線と前記映像信号線とで囲まれた領域にTFTと画素電極が形成されている液晶表示装置であって、前記TFTはボトムゲートタイプのTFTであり、前記走査線はAlを主成分とする合金を下層とし、Moを主成分とする合金を上層とする2層構造であり、前記上層/前記下層の膜厚比は、0.4以上、1.0以下であることを特徴とする表示装置。
【0015】
(2)前記上層/前記下層の膜厚比は、0.6以上、1.0以下であることを特徴とする(1)に記載の表示装置。
【0016】
(3)前記上層はMoCr合金であり、前記下層はAlCuであることを特徴とする(1)または(2)に記載の表示装置。
【0017】
(4)前記上層の膜厚は40nm以上であることを特徴とする(3)に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、2層構造の走査線を有する表示装置において、走査線の断面において、下層に対して上層の庇部が生ずることを防止することが出来る。これによって、映像信号線と走査線の交差部において、走査線の断面形状に起因する映像信号線の断線を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用される液晶表示装置の断面図である。
【図2】本発明が適用される液晶表示装置の画素部の平面図の例である。
【図3】従来例における2層構造の走査線の断面図である。
【図4】本発明による2層構造の走査線の断面図である。
【図5】2層構造の走査線において、上層の膜厚を変化させた場合の、レジストの端部から上層、あるいは、下層の裾部までの距離を示すグラフである。
【図6】上層/下層の膜厚比が0.6の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図7】上層/下層の膜厚比が0.71の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図8】上層/下層の膜厚比が0.8の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図9】上層/下層の膜厚比が1.0の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図10】従来例における2層構造の走査線の断面図である。
【図11】従来例の2層構造の走査線を映像信号線が交差する部分において、映像信号線に断線が生ずることを示す断面図である。
【図12】従来例において、映像信号線の断線を防止するために、走査線と映像信号線との交差部に、段差を軽減するためにa−Siによる台座を形成した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例により本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明が適用される液晶表示装置の断面模式図である。液晶表示装置は、一般にはいわゆる視野角が問題であるが、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示装置は視野角について優れた特性を有している。IPS方式の液晶表示装置も種々の構造が存在するが、図1はいわゆるIPS−LITEと称されている構造である。図2は、IPS−LITEの構成における画素電極までの構造を示す平面図である。本実施例では、IPS−LITEを例にとって説明するが、本発明は、IPS−LITEに限定されるものではない。
【0022】
図1において、TFT基板100の上にゲート電極101が形成されている。ゲート電極101は、図2に示す走査線10が幅広くなった部分である。走査線10あるいはゲート電極101は、電気抵抗を小さくするために、2層構造になっている。下層1011はAlを主体とする合金であり、上層1012はMoを主体とした合金である。Alを主体とする合金はAl成分が90%以上を占め、Moを主体とする合金とは、Moが90%以上を占める合金である。本実施例では、下層1011はAlCuであり、上層1012はMoCrである。成分は、例えば、AlCuにおいてCuが2.0%未満、より好ましくは0.4%以上1.0%未満、MoCrにおいてCrが5.0%未満、より好ましくは2.0%以上3.0%以下である。
【0023】
ゲート電極101あるいは走査線10の上にはゲート絶縁膜102が形成されている。ゲート絶縁膜102の上にはa−Siによる半導体層103が形成され、半導体層103の上にはドレイン電極104およびソース電極105が形成されている。ドレイン電極104とソース電極105の間にチャンネル部1031が形成されており、これによってTFTが形成される。このタイプのTFTは、ゲート電極101が半導体層103の下側にあるので、ボトムゲートタイプのTFTと呼ばれている。ドレイン電極104は、図2に示すように、映像信号線20が兼用している。ソース電極105は画素電極106の領域に延在し、透明電極であるITO(Indium Tin Oxide)によって形成された画素電極106と接続する。図1において画素電極106は平面ベタで形成されている。図1において、画素電極106と画素電極106の間には映像信号線20が存在している。映像信号線20、ドレイン電極104、ソース電極105は同じ工程で同時に形成される。
【0024】
TFT、画素電極106および映像信号線20を覆って無機パッシベーション膜107が形成されている。無機パッシベーション膜107の上には、スリット1081を有する対向電極108が形成されている。対向電極108は、ITOによって全面ベタで形成され、画素電極106と対向する部分にはスリット1081が形成されている。画素電極106にTFTを介して映像信号が印加されると、対向電極108との間に対向電極108のスリット1081を通して電気力線が発生し、液晶分子を回転させて、液晶層の透過率を変化させ、画像を形成する。図1におけるTはTFT領域、Sはソース電極領域、Pは画素電極領域、Dは映像信号線領域である。
【0025】
図2は、図1に示すIPS−LITEの画素電極106までを示した平面図である。つまり、図2では、図が複雑になるのを防ぐために、スリットを有する対向電極108は記載されていない。なお、図2は図1の断面図と1:1で対応しているものではない。
【0026】
図2において、走査線10が横方向に延在し、縦方向に配列している。走査線10の幅広くなった部分がTFTのゲート電極101となっている。また、映像信号線20が縦方向に延在し、横方向に配列している。映像信号線20はTFTのドレイン電極104を兼ねている。
【0027】
走査線10が幅広くなったゲート電極101の上にa−Siによる半導体層103が形成され、この半導体層103の一方には映像信号線20によるドレイン電極104が形成され、チャンネル部1031を挟んで、ソース電極105が形成されている。ソース電極105は画素領域に延在し、ITO(Indium Tin Oxide)による画素電極106と接続する。画素電極106は平面ベタで形成されている。画素電極106の上には、無機パッシベーション膜を107介してスリット1081を有する対向電極108が形成されている。
【0028】
ゲート電極101および走査線10(以後走査線10で代表する)は、2層構造で形成され、パターニング時のエッチングによって上層12に庇部が生じたりすると、映像信号線20に断線が発生する機会が増大する。図3は従来例における、図2のA−A断面図である。但し、図3では、まだ、レジスト200を剥離する前の状態を示している。図3において、下層11はAlCuであり、上層12はMoCrである。
【0029】
本来は、エッチングレートはMoCrのほうがAlCuよりも速い。しかし、エッチング時、下層11であるAlCuと上層12であるMoCrとの間に電池作用が発生し、MoCrのエッチングレートがAlCuに比べて遅くなる。別な言い方をすると、下層であるAlCuのうちの、MoCrに近い部分のエッチングレートが早くなる。このために、下層11であるAlCuに図3のようなテーパが発生し、その結果、上層であるMoCrによる庇部150が生じてしまう。
【0030】
図3はレジスト200が付いた状態であるが、レジスト200の端部から下層11であるAlCuの裾までの距離d1のほうがレジスト200の端部から上層12であるMoCrの端部までの距離d2よりも大きくなっている。これは、電池作用によって、MoCrのエッチングレートが遅くなっているためと考えられる。
【0031】
図3において、レジスト200をMEA(モノエタノールアミン)にて剥離すると、走査線10の断面は、図10に示すような形状となる。この上にゲート絶縁膜102を積層すると、庇部150において、図11に示すようないわゆる差込が発生し、その上に映像信号線20を形成すると、図11に示すような映像信号線20の断線を生ずる。
【0032】
発明者は、このような、電池作用による上層であるMoCrによる庇部150の発生は、下層11と上層12の膜厚比を制御することによって防止することが出来ることを発見した。図4は本発明による走査線10の断面図である。図4も図2のA−A断面図に対応する部分であり、レジスト200を剥離する前の状態である。図4において、下層11であるAlCuと上層12であるMoCrの膜厚比は1:1である。
【0033】
上層11と下層12をこのような膜厚比とした場合には、電池作用による庇部150の発生は防止されている。図4において、レジスト200の端部からAlCuの裾部分までの距離d1は、レジストの端部からMoCrの端部までの距離d2よりも小さい。これは、本来、エッチングレートはMoCrのほうがAlCuよりも速いので、本来の性質があらわれているものと考えられる。
【0034】
一方、AlCuとMoCrとの境界部分では、AlCuのエッチングレートは、MoCrと同じであり、AlCuの裾部分におけるエッチングレートよりも大きい。これは、AlCuとMoCrの境界部分においては、電池作用が発生しており、AlCuのエッチングレートが速くなっているためと考えられる。しかし、この効果のために、下層であるAlCuの断面にテーパが生じ、その上に形成される絶縁膜のカバレッジがよくなり、その上に形成される映像信号線の断線を防止することが出来るという利点を生ずる。
【0035】
図5は、下層11であるAlCuの膜厚を100nmにして、上層12であるMoCrの膜厚を変化させた場合に、図3あるいは図4におけるレジスト200の端部からの距離を測定したものである。図5において、縦軸はレジスト端部からの後退量であり、単位はμmである。図5において、丸は、図3あるいは図4におけるd2であり、□は、図3あるいは図4におけるd1、すなわち、レジスト200の端部からAlCuの裾部分までの距離である。
【0036】
図5において、上層12であるMoCrの厚さが40nmの場合は、レジスト200端部から上層12のMoCrの端部までの距離、すなわち、図3または図4におけるd2と、レジスト端部からAlCuの裾部までの距離、つまり、図3または図4のd1が同等である。この場合、上層のMoCrの庇部150は存在するが、図3に示す従来例よりも庇部150の量wは小さい。この程度の庇であれば、走査線10の上にゲート絶縁膜102を積層した場合の、いわゆる差込の量は小さく、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線は防止することが出来る。
【0037】
図5において、上層12であるMoCrの厚さが大きくなるにしたがって、レジスト200の端部からMoCrの端部までの距離、つまり、図3または図4におけるd2は大きくなる。一方、下層であるAlCuにおけるレジスト端部から裾部までの距離、つまり、図3または図4におけるd1は、MoCrの厚さが80nmまでは、若干増加するが、80nmを超えると低下する。
【0038】
つまり、上層である、MoCrの厚さが40nmをこえると、図3または図4におけるd1の大きくなる量がd2が大きくなる量よりも大きくなる。したがって、上層12であるMoCrによる庇部150の量wは小さくなる。したがって、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102の差込の量は小さくなり、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線の確率も小さくなる。
【0039】
図5において、上層12であるMoCrの厚さが100nmになると、レジスト200の端部から上層12であるMoCrの端部までの距離、つまり、図3または図4におけるd2は、大きくなるが、下層であるAlCuにおけるレジスト端部から裾部までの距離、つまり、図3または図4におけるd1は、小さくなる。したがって、上層が100nmであると、図4に示すように、庇部は無くなる。一方、下層11であるAlCuのテーパは維持されるので、映像信号線20の断線の確率は非常に小さくなる。
【0040】
図5において、下層11であるAlCuの厚さは100nmで一定であるので、上層/下層の膜厚比は、0.4であれば、上層12のMoCrによる庇部の量wは許容範囲内にできるといえる。一方、下層11にAl合金を使用する理由は、Al合金は抵抗が小さいからである。したがって、上層/下層の膜厚比を大きくしすぎると走査線10の抵抗が大きくなり、本来の走査線10の低抵抗化を達成できなくなる。したがって、走査線10における上層(MoCr)/下層(AlCu)の膜厚比は0.4〜1.0とするのがよい。
【0041】
図6〜図9は、走査線10において、上層12と下層11の膜厚比を変化させた場合の走査線端部におけるテーパ角度の比較を示す断面写真である。走査線端部のテーパが小さいほど、ゲート絶縁膜を介して走査線を乗り越える映像信号線の断線の確率は小さくなる。つまり、上層の庇の量wが小さいほど良いのと同時に、テーパ角度は小さいほどよい。
図6は上層12であるMoCrの厚さが60nm、下層11であるAlCuの厚さが100nmであり、上層/下層の膜厚比が0.6の場合である。図6において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。そして、下層11から上層12にかけてのテーパは63度である。図6に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0042】
図7は、上層12であるMoCrの厚さが100nm、下層11であるAlCuの厚さが140nmであり、上層/下層の膜厚比が0.71の場合である。図7において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。図7の下層11における白い曲線は、写真のノイズによるものであり、AlCuの端部を表すものではない。図7において、下層11から上層12にかけてのテーパは62度であり、図6の場合よりも若干小さくなっている。図7に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0043】
図8は、上層12であるMoCrの厚さが80nm、下層11であるAlCuの厚さが100nmであり、上層/下層の膜厚比が0.8の場合である。図8において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。図8の下層11における白い曲線は、写真のノイズによるものであり、AlCuの端部を表すものではない。図8において、下層11から上層12にかけてのテーパは61度であり、図7の場合よりも若干小さくなっている。図8に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0044】
図9は、上層12であるMoCrの厚さが100nm、下層11であるAlCuの厚さが100nmであり、上層/下層の膜厚比が1.0の場合である。図9において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。図9の下層11における白い曲線は、写真のノイズによるものであり、AlCuの端部を表すものではない。図9において、下層11から上層12にかけてのテーパは57度であり、図6〜図8の場合よりも小さくなっている。図9に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0045】
図6〜図9に示すように、上層/下層の膜厚比が0.6以上であると、上層12のMoCrによる庇部の量wは非常に小さくなる。また、走査線10の断面におけるテーパ角度も63度以下と、良好な範囲内に抑えることが出来る。また、図5から、上層/下層の膜厚比が0.4以上であれば、庇部の量wも実用上問題の無い範囲に抑えることが出来る。したがって、上層/下層の膜厚比の範囲は、0.4〜1.0が良好な範囲であり、より好ましくは、0.6〜1.0の範囲である。
【0046】
以上のように、走査線10において、MoCrを上層12とし、AlCuを下層11とした場合を例にとって、庇の量wおよびテーパに対する上層/下層の割合について説明した。しかし、以上説明した内容は、上層がMoを90%以上含む合金で、下層がAlを90%以上含む合金によって形成されている場合にも同様に成り立つ。また、以上の説明は、IPS−LITE方式の液晶表示装置を例にとって説明したが、本発明は、IPS−LITEに限らず、他のIPS方式の液晶表示装置、あるいはIPS以外の液晶表示装置で、ボトムゲート方式のTFTを用いる液晶表示装置についても適用することが出来る。尚、本明細書では、走査線をエッチングする際のエッチング液としてリン酸を主成分として硝酸や酢酸を加えた混酸を使用しているが、特に制限されるものではない。また、本発明は、液晶表示装置以外、有機ELからなる表示装置の他、種々の表示装置に適用できる。また、走査線に限らず、本願発明の思想を逸脱しない範囲で、映像信号線等の他の配線や、配線以外であってもトランジスタの電極等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…走査線、 11…走査線下層、 12…走査線上層、20…映像信号線、100…TFT基板、 101…ゲート電極、 102…ゲート絶縁膜、 103…半導体層、 104…ドレイン電極、 105…ソース電極、 106…画素電極、 107…無機パッシベーション膜、 108…対向電極、 150…庇部、 200…レジスト、 250…断線、 1011…ゲート電極下層、 1012…ゲート電極上層、 1031…チャンネル部、 1035…半導体層台座、 1081…スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に係り、特に走査線の断面形状に起因する映像信号線の断線を防止できる構成を与える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置、例えば、液晶表示装置では画素電極および薄膜トランジスタ(TFT)等がマトリクス状に形成されたTFT基板と、TFT基板に対向して、TFT基板の画素電極と対応する場所にカラーフィルタ等が形成された対向基板が設置され、TFT基板と対向基板の間に液晶が挟持されている。そして液晶分子による光の透過率を画素毎に制御することによって画像を形成している。
【0003】
液晶表示装置はフラットで軽量であることから、TV等の大型表示装置から、携帯電話やDSC(Digital Still Camera)等、色々な分野で用途が広がっている。また、液晶表示装置は、画面を視る角度によって画像が異なるという視野角が問題となるが、この視野角については、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示装置が優れた特性を有している。
【0004】
液晶表示装置では、走査線が第1の方向に延在して第2の方向に配列し、映像信号線が第2の方向に延在して第1の方向に配列している。走査線と映像信号線とで囲まれた領域に画素が形成されている。また、映像信号線が絶縁層を介して走査線の上を乗り越えて延在している。
【0005】
走査線の断面形状における側部が急峻であったり、逆テーパが形成されていたりすると、走査線を覆う絶縁層が不規則になり、その結果、絶縁層の上に形成される映像信号線が断線をする現象を生ずる。「特許文献1」には、TFTのチャンネル部を覆うチャネル保護層を絶縁物の2層構造とし、上側のエッチング速度を速くすることによって、チャネル保護層を順テーパとすることによって、チャネル保護層を覆う絶縁層が破壊することを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−85257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表示装置における走査線は電気抵抗を小さくするためにAl合金が使用される。使用されるAl合金としては、AlNdあるいはAlCu等が使用される。AlCuのほうが抵抗が小さい。一方、Alはヒロックが生じやすく、このヒロックが絶縁膜を突き破って絶縁破壊を生ずることを防止するために、キャップ層としてMoCr等の高融点金属が使用される。以後Al合金層を下層、キャップ層を上層という。
【0008】
走査線は、上層と下層をスパッタリング等で形成したあと、フォトリソグラフィを用いてパターニングを行う。フォトリソグラフィ工程において、レジストを現像した後、走査線の上層と下層を同じエッチング液を用いて同時にエッチングする。下層がAlCuで上層がMoCrの場合を例にとると、エッチング後、レジストを剥離した後の走査線の断面構造は図10に示すような構成となっている。
【0009】
図10において、下層11であるAlCuにテーパが形成されており、上層12であるMoCrはAlCuの上部よりもサイドエッチングの量が少ないので、AlCuの上にMoCrの庇が生じている。走査線10の上には、例えば、ゲート絶縁膜が形成されるが、上層12であるMoCrの庇によって、ゲート絶縁膜102の形状が図11に示すように不規則になる。図11に示すように、走査線10の上層12の庇部150の下側に生じたゲート絶縁膜102の凹部を差込と称している。図11は、走査線10と直角方向に映像信号線20が走査線10を乗り越える断面図を示している。
【0010】
図11において、庇150よりも下側にはゲート絶縁膜102が十分に形成されず、いわゆる差込が生じている。ゲート絶縁膜102の上に映像信号線20をスパッタリング等によって形成するが、ゲート絶縁膜102に差込が形成されている部分には、映像信号線20の膜が形成されず、断線を生じてしまう。また、ゲート絶縁膜102の差込部分において、映像信号線20がつながっていたとしても、その部分の映像信号線20は薄くなるので、電流が流れたときに、熱によって断線してしまう。
【0011】
このような断線対策として、図12に示すように、走査線10を映像信号線20が乗り越える部分において、映像信号線20の下層にa−Si層1035を形成することによって段差を軽減し、映像信号線20の断線を防止することが考えられる。図12において、半導体層103はTFTを形成するa−Si層であり、1035は映像信号線が走査線を乗り越える部分において、段差を軽減するための、a−Siで形成された半導体台座である。しかし、映像信号線20と走査線10の間にa−Si層を形成すると、a−Si層によって透過率が低下するという問題が生ずる。
【0012】
本発明の課題は、Alを主たる成分とする下層11とMoを主たる成分とする上層12から構成される走査線10あるいはゲート電極において、エッチング後に上層の庇150が生ずることを防止し、庇150が生ずることによる映像信号線20の断線を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記問題を克服するものであり、具体的な手段は次のとおりである。
【0014】
(1)走査線が第1の方向に延在して第2の方向に配列し、映像信号線が第2の方向に延在して第1の方向に配列し、前記走査線と前記映像信号線とで囲まれた領域にTFTと画素電極が形成されている液晶表示装置であって、前記TFTはボトムゲートタイプのTFTであり、前記走査線はAlを主成分とする合金を下層とし、Moを主成分とする合金を上層とする2層構造であり、前記上層/前記下層の膜厚比は、0.4以上、1.0以下であることを特徴とする表示装置。
【0015】
(2)前記上層/前記下層の膜厚比は、0.6以上、1.0以下であることを特徴とする(1)に記載の表示装置。
【0016】
(3)前記上層はMoCr合金であり、前記下層はAlCuであることを特徴とする(1)または(2)に記載の表示装置。
【0017】
(4)前記上層の膜厚は40nm以上であることを特徴とする(3)に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、2層構造の走査線を有する表示装置において、走査線の断面において、下層に対して上層の庇部が生ずることを防止することが出来る。これによって、映像信号線と走査線の交差部において、走査線の断面形状に起因する映像信号線の断線を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用される液晶表示装置の断面図である。
【図2】本発明が適用される液晶表示装置の画素部の平面図の例である。
【図3】従来例における2層構造の走査線の断面図である。
【図4】本発明による2層構造の走査線の断面図である。
【図5】2層構造の走査線において、上層の膜厚を変化させた場合の、レジストの端部から上層、あるいは、下層の裾部までの距離を示すグラフである。
【図6】上層/下層の膜厚比が0.6の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図7】上層/下層の膜厚比が0.71の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図8】上層/下層の膜厚比が0.8の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図9】上層/下層の膜厚比が1.0の場合の走査線の断面系形状を示す図である。
【図10】従来例における2層構造の走査線の断面図である。
【図11】従来例の2層構造の走査線を映像信号線が交差する部分において、映像信号線に断線が生ずることを示す断面図である。
【図12】従来例において、映像信号線の断線を防止するために、走査線と映像信号線との交差部に、段差を軽減するためにa−Siによる台座を形成した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例により本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明が適用される液晶表示装置の断面模式図である。液晶表示装置は、一般にはいわゆる視野角が問題であるが、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示装置は視野角について優れた特性を有している。IPS方式の液晶表示装置も種々の構造が存在するが、図1はいわゆるIPS−LITEと称されている構造である。図2は、IPS−LITEの構成における画素電極までの構造を示す平面図である。本実施例では、IPS−LITEを例にとって説明するが、本発明は、IPS−LITEに限定されるものではない。
【0022】
図1において、TFT基板100の上にゲート電極101が形成されている。ゲート電極101は、図2に示す走査線10が幅広くなった部分である。走査線10あるいはゲート電極101は、電気抵抗を小さくするために、2層構造になっている。下層1011はAlを主体とする合金であり、上層1012はMoを主体とした合金である。Alを主体とする合金はAl成分が90%以上を占め、Moを主体とする合金とは、Moが90%以上を占める合金である。本実施例では、下層1011はAlCuであり、上層1012はMoCrである。成分は、例えば、AlCuにおいてCuが2.0%未満、より好ましくは0.4%以上1.0%未満、MoCrにおいてCrが5.0%未満、より好ましくは2.0%以上3.0%以下である。
【0023】
ゲート電極101あるいは走査線10の上にはゲート絶縁膜102が形成されている。ゲート絶縁膜102の上にはa−Siによる半導体層103が形成され、半導体層103の上にはドレイン電極104およびソース電極105が形成されている。ドレイン電極104とソース電極105の間にチャンネル部1031が形成されており、これによってTFTが形成される。このタイプのTFTは、ゲート電極101が半導体層103の下側にあるので、ボトムゲートタイプのTFTと呼ばれている。ドレイン電極104は、図2に示すように、映像信号線20が兼用している。ソース電極105は画素電極106の領域に延在し、透明電極であるITO(Indium Tin Oxide)によって形成された画素電極106と接続する。図1において画素電極106は平面ベタで形成されている。図1において、画素電極106と画素電極106の間には映像信号線20が存在している。映像信号線20、ドレイン電極104、ソース電極105は同じ工程で同時に形成される。
【0024】
TFT、画素電極106および映像信号線20を覆って無機パッシベーション膜107が形成されている。無機パッシベーション膜107の上には、スリット1081を有する対向電極108が形成されている。対向電極108は、ITOによって全面ベタで形成され、画素電極106と対向する部分にはスリット1081が形成されている。画素電極106にTFTを介して映像信号が印加されると、対向電極108との間に対向電極108のスリット1081を通して電気力線が発生し、液晶分子を回転させて、液晶層の透過率を変化させ、画像を形成する。図1におけるTはTFT領域、Sはソース電極領域、Pは画素電極領域、Dは映像信号線領域である。
【0025】
図2は、図1に示すIPS−LITEの画素電極106までを示した平面図である。つまり、図2では、図が複雑になるのを防ぐために、スリットを有する対向電極108は記載されていない。なお、図2は図1の断面図と1:1で対応しているものではない。
【0026】
図2において、走査線10が横方向に延在し、縦方向に配列している。走査線10の幅広くなった部分がTFTのゲート電極101となっている。また、映像信号線20が縦方向に延在し、横方向に配列している。映像信号線20はTFTのドレイン電極104を兼ねている。
【0027】
走査線10が幅広くなったゲート電極101の上にa−Siによる半導体層103が形成され、この半導体層103の一方には映像信号線20によるドレイン電極104が形成され、チャンネル部1031を挟んで、ソース電極105が形成されている。ソース電極105は画素領域に延在し、ITO(Indium Tin Oxide)による画素電極106と接続する。画素電極106は平面ベタで形成されている。画素電極106の上には、無機パッシベーション膜を107介してスリット1081を有する対向電極108が形成されている。
【0028】
ゲート電極101および走査線10(以後走査線10で代表する)は、2層構造で形成され、パターニング時のエッチングによって上層12に庇部が生じたりすると、映像信号線20に断線が発生する機会が増大する。図3は従来例における、図2のA−A断面図である。但し、図3では、まだ、レジスト200を剥離する前の状態を示している。図3において、下層11はAlCuであり、上層12はMoCrである。
【0029】
本来は、エッチングレートはMoCrのほうがAlCuよりも速い。しかし、エッチング時、下層11であるAlCuと上層12であるMoCrとの間に電池作用が発生し、MoCrのエッチングレートがAlCuに比べて遅くなる。別な言い方をすると、下層であるAlCuのうちの、MoCrに近い部分のエッチングレートが早くなる。このために、下層11であるAlCuに図3のようなテーパが発生し、その結果、上層であるMoCrによる庇部150が生じてしまう。
【0030】
図3はレジスト200が付いた状態であるが、レジスト200の端部から下層11であるAlCuの裾までの距離d1のほうがレジスト200の端部から上層12であるMoCrの端部までの距離d2よりも大きくなっている。これは、電池作用によって、MoCrのエッチングレートが遅くなっているためと考えられる。
【0031】
図3において、レジスト200をMEA(モノエタノールアミン)にて剥離すると、走査線10の断面は、図10に示すような形状となる。この上にゲート絶縁膜102を積層すると、庇部150において、図11に示すようないわゆる差込が発生し、その上に映像信号線20を形成すると、図11に示すような映像信号線20の断線を生ずる。
【0032】
発明者は、このような、電池作用による上層であるMoCrによる庇部150の発生は、下層11と上層12の膜厚比を制御することによって防止することが出来ることを発見した。図4は本発明による走査線10の断面図である。図4も図2のA−A断面図に対応する部分であり、レジスト200を剥離する前の状態である。図4において、下層11であるAlCuと上層12であるMoCrの膜厚比は1:1である。
【0033】
上層11と下層12をこのような膜厚比とした場合には、電池作用による庇部150の発生は防止されている。図4において、レジスト200の端部からAlCuの裾部分までの距離d1は、レジストの端部からMoCrの端部までの距離d2よりも小さい。これは、本来、エッチングレートはMoCrのほうがAlCuよりも速いので、本来の性質があらわれているものと考えられる。
【0034】
一方、AlCuとMoCrとの境界部分では、AlCuのエッチングレートは、MoCrと同じであり、AlCuの裾部分におけるエッチングレートよりも大きい。これは、AlCuとMoCrの境界部分においては、電池作用が発生しており、AlCuのエッチングレートが速くなっているためと考えられる。しかし、この効果のために、下層であるAlCuの断面にテーパが生じ、その上に形成される絶縁膜のカバレッジがよくなり、その上に形成される映像信号線の断線を防止することが出来るという利点を生ずる。
【0035】
図5は、下層11であるAlCuの膜厚を100nmにして、上層12であるMoCrの膜厚を変化させた場合に、図3あるいは図4におけるレジスト200の端部からの距離を測定したものである。図5において、縦軸はレジスト端部からの後退量であり、単位はμmである。図5において、丸は、図3あるいは図4におけるd2であり、□は、図3あるいは図4におけるd1、すなわち、レジスト200の端部からAlCuの裾部分までの距離である。
【0036】
図5において、上層12であるMoCrの厚さが40nmの場合は、レジスト200端部から上層12のMoCrの端部までの距離、すなわち、図3または図4におけるd2と、レジスト端部からAlCuの裾部までの距離、つまり、図3または図4のd1が同等である。この場合、上層のMoCrの庇部150は存在するが、図3に示す従来例よりも庇部150の量wは小さい。この程度の庇であれば、走査線10の上にゲート絶縁膜102を積層した場合の、いわゆる差込の量は小さく、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線は防止することが出来る。
【0037】
図5において、上層12であるMoCrの厚さが大きくなるにしたがって、レジスト200の端部からMoCrの端部までの距離、つまり、図3または図4におけるd2は大きくなる。一方、下層であるAlCuにおけるレジスト端部から裾部までの距離、つまり、図3または図4におけるd1は、MoCrの厚さが80nmまでは、若干増加するが、80nmを超えると低下する。
【0038】
つまり、上層である、MoCrの厚さが40nmをこえると、図3または図4におけるd1の大きくなる量がd2が大きくなる量よりも大きくなる。したがって、上層12であるMoCrによる庇部150の量wは小さくなる。したがって、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102の差込の量は小さくなり、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線の確率も小さくなる。
【0039】
図5において、上層12であるMoCrの厚さが100nmになると、レジスト200の端部から上層12であるMoCrの端部までの距離、つまり、図3または図4におけるd2は、大きくなるが、下層であるAlCuにおけるレジスト端部から裾部までの距離、つまり、図3または図4におけるd1は、小さくなる。したがって、上層が100nmであると、図4に示すように、庇部は無くなる。一方、下層11であるAlCuのテーパは維持されるので、映像信号線20の断線の確率は非常に小さくなる。
【0040】
図5において、下層11であるAlCuの厚さは100nmで一定であるので、上層/下層の膜厚比は、0.4であれば、上層12のMoCrによる庇部の量wは許容範囲内にできるといえる。一方、下層11にAl合金を使用する理由は、Al合金は抵抗が小さいからである。したがって、上層/下層の膜厚比を大きくしすぎると走査線10の抵抗が大きくなり、本来の走査線10の低抵抗化を達成できなくなる。したがって、走査線10における上層(MoCr)/下層(AlCu)の膜厚比は0.4〜1.0とするのがよい。
【0041】
図6〜図9は、走査線10において、上層12と下層11の膜厚比を変化させた場合の走査線端部におけるテーパ角度の比較を示す断面写真である。走査線端部のテーパが小さいほど、ゲート絶縁膜を介して走査線を乗り越える映像信号線の断線の確率は小さくなる。つまり、上層の庇の量wが小さいほど良いのと同時に、テーパ角度は小さいほどよい。
図6は上層12であるMoCrの厚さが60nm、下層11であるAlCuの厚さが100nmであり、上層/下層の膜厚比が0.6の場合である。図6において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。そして、下層11から上層12にかけてのテーパは63度である。図6に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0042】
図7は、上層12であるMoCrの厚さが100nm、下層11であるAlCuの厚さが140nmであり、上層/下層の膜厚比が0.71の場合である。図7において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。図7の下層11における白い曲線は、写真のノイズによるものであり、AlCuの端部を表すものではない。図7において、下層11から上層12にかけてのテーパは62度であり、図6の場合よりも若干小さくなっている。図7に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0043】
図8は、上層12であるMoCrの厚さが80nm、下層11であるAlCuの厚さが100nmであり、上層/下層の膜厚比が0.8の場合である。図8において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。図8の下層11における白い曲線は、写真のノイズによるものであり、AlCuの端部を表すものではない。図8において、下層11から上層12にかけてのテーパは61度であり、図7の場合よりも若干小さくなっている。図8に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0044】
図9は、上層12であるMoCrの厚さが100nm、下層11であるAlCuの厚さが100nmであり、上層/下層の膜厚比が1.0の場合である。図9において、上層12のMoCrの庇部は観測できないほど小さくなっている。図9の下層11における白い曲線は、写真のノイズによるものであり、AlCuの端部を表すものではない。図9において、下層11から上層12にかけてのテーパは57度であり、図6〜図8の場合よりも小さくなっている。図9に示すように、走査線10の上に形成されるゲート絶縁膜102は走査線10の端部においても正常に形成されている。したがって、ゲート絶縁膜102の上に形成される映像信号線20の断線も防止することが出来る。
【0045】
図6〜図9に示すように、上層/下層の膜厚比が0.6以上であると、上層12のMoCrによる庇部の量wは非常に小さくなる。また、走査線10の断面におけるテーパ角度も63度以下と、良好な範囲内に抑えることが出来る。また、図5から、上層/下層の膜厚比が0.4以上であれば、庇部の量wも実用上問題の無い範囲に抑えることが出来る。したがって、上層/下層の膜厚比の範囲は、0.4〜1.0が良好な範囲であり、より好ましくは、0.6〜1.0の範囲である。
【0046】
以上のように、走査線10において、MoCrを上層12とし、AlCuを下層11とした場合を例にとって、庇の量wおよびテーパに対する上層/下層の割合について説明した。しかし、以上説明した内容は、上層がMoを90%以上含む合金で、下層がAlを90%以上含む合金によって形成されている場合にも同様に成り立つ。また、以上の説明は、IPS−LITE方式の液晶表示装置を例にとって説明したが、本発明は、IPS−LITEに限らず、他のIPS方式の液晶表示装置、あるいはIPS以外の液晶表示装置で、ボトムゲート方式のTFTを用いる液晶表示装置についても適用することが出来る。尚、本明細書では、走査線をエッチングする際のエッチング液としてリン酸を主成分として硝酸や酢酸を加えた混酸を使用しているが、特に制限されるものではない。また、本発明は、液晶表示装置以外、有機ELからなる表示装置の他、種々の表示装置に適用できる。また、走査線に限らず、本願発明の思想を逸脱しない範囲で、映像信号線等の他の配線や、配線以外であってもトランジスタの電極等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…走査線、 11…走査線下層、 12…走査線上層、20…映像信号線、100…TFT基板、 101…ゲート電極、 102…ゲート絶縁膜、 103…半導体層、 104…ドレイン電極、 105…ソース電極、 106…画素電極、 107…無機パッシベーション膜、 108…対向電極、 150…庇部、 200…レジスト、 250…断線、 1011…ゲート電極下層、 1012…ゲート電極上層、 1031…チャンネル部、 1035…半導体層台座、 1081…スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査線が第1の方向に延在して第2の方向に配列し、映像信号線が第2の方向に延在して第1の方向に配列し、前記走査線と前記映像信号線とで囲まれた領域にTFTと画素電極が形成されている表示装置であって、
前記TFTはボトムゲートタイプのTFTであり、
前記走査線はAlを主成分とする合金を下層とし、Moを主成分とする合金を上層とする2層構造であり、
前記上層/前記下層の膜厚比は、0.4以上、1.0以下であることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記上層/前記下層の膜厚比は、0.6以上、1.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記上層はMoCr合金であり、前記下層はAlCuであることを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記上層の膜厚は40nm以上であることを特徴とする請求項3に記載の表示装置。
【請求項1】
走査線が第1の方向に延在して第2の方向に配列し、映像信号線が第2の方向に延在して第1の方向に配列し、前記走査線と前記映像信号線とで囲まれた領域にTFTと画素電極が形成されている表示装置であって、
前記TFTはボトムゲートタイプのTFTであり、
前記走査線はAlを主成分とする合金を下層とし、Moを主成分とする合金を上層とする2層構造であり、
前記上層/前記下層の膜厚比は、0.4以上、1.0以下であることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記上層/前記下層の膜厚比は、0.6以上、1.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記上層はMoCr合金であり、前記下層はAlCuであることを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記上層の膜厚は40nm以上であることを特徴とする請求項3に記載の表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−80160(P2013−80160A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221000(P2011−221000)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(502356528)株式会社ジャパンディスプレイイースト (2,552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(502356528)株式会社ジャパンディスプレイイースト (2,552)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]