説明

表示装置

【課題】画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成において、正面輝度の向上と発光の色純度の低下を防止できる表示装置を提供する。
【解決手段】互いに同じ色相である第1領域と第2領域とを有する画素を備え、第1領域と第2領域は、それぞれ有機EL素子を備え、有機EL素子は、第1電極と有機EL層と第2電極とを備え、第2領域に、有機EL素子の光出射側に配されたレンズを有し、第2領域の有機EL素子が特定の式を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electroluminescent)素子を用いた表示装置に関し、特に画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の課題として、光取り出し効率が悪いことが知られている。これは有機EL素子では発光層から光が様々な角度で出射するため、保護膜と外部空間との境界面で全反射成分が多く発生し、発光光が素子内部に閉じ込められてしまうからである。この課題を解決するために、特許文献1では有機EL素子を封止する酸化窒化シリコン(SiNxy)膜上に樹脂から成るマイクロレンズアレイを配置して正面方向への光取り出し効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−039500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように有機EL素子の上にレンズを配置する構成では、レンズがなければ全反射していた光成分を取り出すことができるという効果に加え、集光の効果が期待できる。これらの効果により有機EL表示装置の正面輝度(正面方向即ち基板の法線方向への光取り出し効率)の向上を実現できる。しかし、有機EL表示装置の斜め方向の輝度は減少するため、この構成の場合、広い視野角特性が求められる場面では使いづらくなる。また、有機EL素子に干渉効果を付与した構成の場合、強め合いの干渉効果が効く方向(光路長)では輝度が高くなる。しかし、強め合いの干渉効果が弱まる方向では輝度が低くなるため、この構成の場合も、広い視野角特性が求められる場面では使いづらくなる。
【0005】
正面輝度の向上と広い視野角特性の両方を実現するためには、画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成にすることが考えられる。この構成とすれば、二つの領域のうちのレンズが設けられていない領域を発光させることで広い視野角特性を得ることができ、レンズが設けられている領域を発光させることで正面輝度を向上させることができる。しかし、この構成では、光学干渉の条件によっては正面方向において発光の色純度が低下する場合があり、この場合には良好な色を再現できなかった。
【0006】
そこで、本発明は、画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成において、正面輝度の向上と発光の色純度の低下を防止できる表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、互いに同じ色相である第1領域と第2領域とを有する画素を備え、前記第1領域と前記第2領域は、それぞれ有機EL素子を備え、前記有機EL素子は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層を含む有機EL層と、を備え、前記第2領域に、前記有機EL素子の光出射側に配されたレンズを有し、前記第2領域の前記有機EL素子が下記式を満たすことを特徴とする。
0.9<2L1/λ+φ1/2π<1.1
ここで、L1:前記発光層と前記第1電極の反射面との間の光学距離、λ:光学干渉による強め合い波長、φ1:前記発光層で発光した光が前記第1電極の反射面で反射する際の位相シフト量。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、少なくとも一部の画素において、レンズが設けられた領域の有機EL素子を、正面方向において光学干渉による可視光波長の光の強め合い効果がより大きくなる構成とすることができる。これにより、正面輝度を向上させることができると共に、発光の色純度の低下を防止できる。よって、発光の色純度が高く良好な色を再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の表示装置を構成する有機ELパネル及び画素の概略図である。
【図2】本発明の表示装置に用いられる有機EL素子の輝度−視野角特性である。
【図3】実施例の表示装置を構成する有機ELパネル及び画素の概略図である。
【図4】実施例の表示装置に用いられる画素回路である。
【図5】実施例の表示装置を構成する画素の他の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の表示装置の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1(a)は、本発明の表示装置を構成する有機ELパネル11の一例を示す概略図である。有機ELパネル11はマトリクス状に複数配置された画素(m行n列画素)、情報線駆動回路12、走査線駆動回路13、情報線15、走査線16を有する。各画素は各情報線15と各走査線16の交点に配置され、各画素には画素回路14、有機EL素子が配置されている。情報線駆動回路12は画像データに応じた情報電圧(情報信号)を情報線15に印加する回路、走査線駆動回路13は走査信号を走査線16に供給する回路、画素回路14は情報電圧に応じた駆動電流を有機EL素子に供給する回路である。
【0012】
図1(b)は、図1(a)の有機ELパネル11における画素(例えば図1(a)中のa行目b列目の画素)に相当する部分を示す部分断面図である。各画素は互いに異なる視野角特性(視野角特性A、視野角特性B)を有する二つの領域からなる。ここで、画素を構成する「領域」とは、1つの有機EL素子が設けられた領域を意味する。各画素では、基板20の上に上記各領域の有機EL素子毎にパターニングされた第1電極21が形成され、第1電極21の上に発光層を含む有機EL層(有機化合物層)23、第2電極24が順に形成されている。発光層で発光した光は直接第2電極側から外部に取り出されるか、又は第1電極21の反射面で反射された後第2電極側から外部に取り出される。上記各領域内の各有機EL素子間には二つの領域間を分離する領域分離層22が形成され、第2電極24の上には空気中の酸素や水分から有機EL層23を保護するための保護膜25が形成されている。第1電極21と第2電極24は一方がアノード電極、他方がカソード電極である。第1電極21をアノード電極、第2電極24をカソード電極としても良いし、第1電極21をカソード電極、第2電極24をアノード電極としても良い。
【0013】
第1電極21は、例えばAg等の高い反射率を持つ導電性の金属材料から形成される。或いはそのような金属材料から成る層とホール注入特性に優れたITO(Indium−Tin−Oxide)等の透明導電性材料から成る層との積層体から構成しても良い。第1電極21が金属からなる場合、金属と有機EL層23との界面(金属の発光層側の界面)が第1電極21の反射面である。第1電極21が金属膜と透明酸化物導電膜との積層体からなる場合、金属膜と透明酸化物導電膜との界面が第1電極21の反射面である。尚、第1電極21は同一画素内で連続して形成され、つながっていても良い。この場合、同一画素の二つの有機EL素子間に領域分離層22は設けない。
【0014】
第2電極24は、複数の有機EL素子に対して共通に形成されており、発光層で発光した光を素子外部に取り出し可能な半反射性又は光透過性の構成を有している。素子内部での干渉効果を高めるために第2電極24を半反射性の構成とする場合、第2電極24はAg、AgMg等の電子注入性に優れた導電性の金属材料から成る層を2nm〜50nmの膜厚で形成することにより構成することができる。尚、「半反射性」とは、素子内部で発光した光の一部を反射し一部を透過する性質を意味し、可視光に対して20〜80%の反射率を有するものをいい、「光透過性」とは、可視光に対して80%以上の透過率を有するものをいう。
【0015】
有機EL層23は、少なくとも発光層を含む単層又は複数の層からなる。有機EL層23の構成例としては、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層からなる4層構成、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層からなる3層構成等が挙げられる。有機EL層23を構成する材料は公知の材料を使用することができる。尚、第1電極21をアノード電極、第2電極24をカソード電極とした場合と、第1電極21をカソード電極、第2電極24をアノード電極とした場合とでは有機EL層23を構成する各層の積層順が逆になる。
【0016】
保護膜25は、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料からなる。或いは無機材料と有機材料との積層膜からなる。無機膜の膜厚は0.1μm以上10μm以下が好ましく、CVD法で形成することが好ましい。有機膜は工程中に表面に付着して除去できない異物を覆って保護性能を向上させるために使用するため、有機膜の膜厚は1μm以上が好ましい。図1(b)では、保護膜25を領域分離層22の形状に沿って形成しているが、保護膜25の表面が平坦であっても良い。有機材料を使うことで容易に表面を平坦にすることが可能である。
【0017】
基板20には各有機EL素子を駆動できるように画素回路が形成されている(不図示)。これらの画素回路は複数の薄膜トランジスタ(以下、TFT:Thin−Film−Transistorという)から構成されている(不図示)。TFTが形成された基板20は、TFTと第1電極21とを電気的に接続するためのコンタクトホールが形成された層間絶縁膜に覆われている(不図示)。層間絶縁膜上には、画素回路による表面凹凸を吸収し、表面を平坦にするための平坦化膜が形成されている(不図示)。
【0018】
図1(c)は、図1(a)の有機ELパネル11における画素配置の一例であり、R画素31、G画素32、B画素33が配置されている。R画素31はR−1領域311、R−2領域312で構成され、各領域は色相が共にR、かつ互いに視野角特性が異なる。G画素32はG−1領域321、G−2領域322で構成され、各領域は色相が共にG、かつ互いに視野角特性が異なる。B画素33はB−1領域331、B−2領域332で構成され、各領域は色相が共にB、かつ互いに視野角特性が異なる。Rを発光し視野角特性の異なる二つの領域からなるR画素31、Gを発光し視野角特性の異なる二つの領域からなるG画素32、Bを発光し視野角特性の異なる二つの領域からなるB画素33が、1つの表示単位である。視野角特性の異なる二つの領域は、例えば、それぞれの領域の有機EL素子を構成する有機EL層の膜厚を変えることで形成されたり、またレンズやプリズムを一方の領域にのみ配置して形成される。
【0019】
本発明の表示装置は、図1(c)のように3つの異なる色相を持った有機ELパネルで構成しても良いし、4つの異なる色相を持った有機ELパネルで構成しても良い。3色相の場合には、例えばR・G・Bの3色相を持った有機ELパネルとし、R・G・Bの3色相の有機EL素子からなる構成としても良いし、白色有機EL素子にR・G・Bの3色相のカラーフィルターを重ねた構成としても良い。4色相の場合には、例えばR・G・B・Wの4色相を持った有機ELパネルとしても良い。
【0020】
このように、本発明の第一の特徴は各画素が異なる視野角特性を有する二つの領域からなることである。具体的にはR−1領域311、G−1領域321、B−1領域331を視野角の広い特性を持つ領域で構成し、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332を正面輝度の高い特性を持つ領域で構成する。ここで、「正面輝度の高い特性」とは、正面方向即ち基板の法線方向への光取り出し効率が高い特性を意味する。以下、R−1領域311、G−1領域321、B−1領域331を「第1領域」、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332を「第2領域」という。第1領域と第2領域が上記各特性を持つためには、例えば第2領域のみに有機EL素子の光出射側に集光性の高い素子を配置する。集光性の高い素子としては、集光レンズ等を用いるのが好ましい。
【0021】
画素内の第1領域と第2領域の視野角特性をグラフで示すと図2のようになる。図2中の(a)はR−1領域311の相対輝度−視野角特性、図2中の(b)はR−2領域312の相対輝度−視野角特性である。輝度はR−1領域311・R−2領域312共に同じ電流を注入し、R−1領域311の正面輝度を1としたときの相対輝度値で表している。図2より、R−1領域311は視野角が広いことが分かる。一方、R−2領域312は視野角が狭いが、正面輝度がR−1領域311の約4倍になることが分かる。G画素32の上記二つの領域及びB画素33の上記二つの領域についても図2と同様の特性を有する。
【0022】
次に、本発明のもう一つの特徴について説明する。本発明の第二の特徴は少なくとも一部の画素において、第2領域の有機EL素子を、下記(1)式を満たす構成とすることである。尚、L1は発光層と第1電極21の反射面との間の光学距離、φ1は光が反射する層と層との界面での位相シフトの和(発光層で発光した光が第1電極21の反射面で反射する際の位相シフト量)である。
【0023】
2L1/λ+φ1/2π=1・・・(1)
【0024】
上記(1)式を満たす構成とは、正面方向において光学干渉による可視光波長の光の強め合い効果がより大きくなる構成である。この構成とすることにより、正面輝度を向上させることができると共に、発光の色純度の低下を防止できる。詳細については後述の実施例で説明する。尚、第1領域の有機EL素子も上記(1)式を満たす構成としても良い。
【0025】
続いて、有機ELパネル11の動作について説明する。R・G・B各画素における視野角特性の異なる二つの領域は画素回路で駆動する。第1電極21が同一画素内で連続して形成され、つながっている場合には二つの領域を同時に駆動することができ、つながっていない場合には二つの領域を独立して駆動することができる。図4の画素回路を用いることにより例えば以下の駆動を行うことができる。
【0026】
視野角の広い特性を持った領域であるR−1領域311、G−1領域321、B−1領域331のみを点灯させると有機ELパネル11は視野角の広い性能が得られる。視野角は狭いが、正面輝度の高い特性を持った領域であるR−2領域312、G−2領域322、B−2領域332のみを点灯させると有機ELパネル11は正面輝度の高い性能が得られる。これらの駆動を組み合わせることにより正面輝度の向上と広い視野角特性の両方を実現できる。
【0027】
また、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332を低電流で点灯させ、正面輝度をR−1領域311、G−1領域321、B−1領域331を点灯させた場合と同等にすると消費電力を低減できる。
【0028】
図3(a)は、本実施例の表示装置を構成する有機ELパネル11の概略図である。本実施例の有機ELパネル11は図1(a)の有機ELパネル11に発光領域の選択制御線駆動回路17、2本の選択制御線18、19を追加した構成としている。各画素はR・G・Bいずれかの色相である。画素回路14は図4の回路を用いる。図4において、P1は走査線、P2は有機EL素子Aの選択制御線、P3は有機EL素子Bの選択制御線である。情報信号として情報電圧Vdataが情報線15から入力される。有機EL素子Aのアノード電極はTFT(M3)のドレイン端子に接続されており、カソード電極は接地電位CGNDに接続されている。有機EL素子Bのアノード電極はTFT(M4)のドレイン端子に接続されており、カソード電極は接地電位CGNDに接続されている。
【0029】
図3(b)は、本実施例の有機ELパネル11における画素に相当する部分を示す部分断面図である。本実施例の各画素は図1(b)の画素において第2領域のみに有機EL素子の光出射側にレンズ26を設けた構成としており、保護膜25より下の層は図1(b)と同じ構成である。本実施例では第1電極21をアノード電極、第2電極24をカソード電極とした。
【0030】
レンズ26は樹脂材料を加工することにより形成されている。具体的にはレンズは型押し等の方法により形成可能である。また、保護膜25を無機膜で厚膜形成した後、その無機膜をエッチングしてレンズ形状に加工しても良い。この場合、図5のような構成になる。このように保護膜25がレンズ形状も兼ねると単層で形成できる点で好ましい。
【0031】
上記構成をとることにより、レンズ26が設けられた第2領域の有機EL素子Bでは、有機EL層23から出射された光が透明な第2電極24を透過し、更に保護膜25、レンズ26を透過して有機EL素子Bの外部へ出射される。レンズ26が設けられた構成ではレンズが設けられていない構成と比べて出射角度が基板の法線方向に近づく。従ってレンズ26が設けられた構成の方が基板の法線方向への集光効果が向上する。即ち表示装置としては正面方向における光の利用効率を高めることができる。また、レンズ26が設けられた構成では、発光層から斜めに出射された光の出射界面に対する入射角度が垂直に近くなるため、全反射する光量が減少する。その結果、光取り出し効率も向上する。
【0032】
一方、レンズが設けられていない第1領域の有機EL素子Aでは、有機EL層23の発光層から斜めに出射された光は、保護膜25から出射する際に更に斜めになって出射するため、広角で光を放出できるが正面方向には多くの光を取り出せない。
【0033】
図3(c)は、本実施例の有機ELパネル11における画素配置であり、図1(c)と同じ画素配置である。R−1領域311、G−1領域321、B−1領域331では有機EL素子Aの光出射側を平坦とし、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332では有機EL素子Bの光出射側にレンズを設けている。また、本実施例では少なくとも一部の画素において、レンズ26が設けられた第2領域の有機EL素子を、上記(1)式を満たす構成としている。以下、このような構成とする理由を説明する。
【0034】
一般的に、有機EL素子を構成する発光層等の各層の膜厚は数十nm程度であり、各層の膜厚dと各層の屈折率nを掛け合わせた光学距離(nd積)は、可視光波長(350nm以上780nm以下の波長)の数分の1程度に相当する。このため、有機EL素子の内部では可視光の多重反射や干渉が顕著に現われる。この干渉効果によって強められる波長λ(光学干渉による強め合い波長λ)は、下記(2)式のように定まる。
【0035】
λ=2L1cosθ/(m−φ1/2π)・・・(2)
【0036】
1は発光層と第1電極21の反射面との間の光学距離(以下、「光学距離L1」という)、θは発光の放射角度、mは光学干渉の次数(正の整数)、φ1は発光層で発光した光が第1電極21の反射面で反射する際の位相シフト量である。位相シフト量φ1は界面を形成する2つの材料のうち、光が入射する側の材料を媒質I、他方の側の材料を媒質IIとし、それぞれの光学定数を(n1,k1)、(n2,k2)とすると下記(3)式で表すことができる。これらの光学定数は、例えば分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
【0037】
φ1=2π−tan-1(2n1・k2/(n12−n22−k22))・・・(3)
【0038】
有機EL素子からの発光は、発光層内部でキャリアが再結合して放出される発光に、光学干渉の効果を重畳させたものである。このため、各層の光学距離や位相シフト量を変化させると上記(2)式における強め合い波長λが変化するため、有機EL素子の発光特性を調整することが可能となる。
【0039】
本実施例では第1電極21としてアルミ合金を適用した。この場合、第1電極21の反射面で反射する際の位相シフト量φ1は、表1に示す光学定数を上記(3)式に適用して算出される。
【0040】
【表1】

【0041】
ここで、まず本実施例の表示装置が備える有機EL素子の発光層と第1電極21の反射面との間の光学干渉の条件について考える。発光層と第1電極21の反射面との間の発光が干渉する場合、位相シフト量φ1としては発光が第1電極21の反射面で反射する場合を考慮する。この場合、表1の光学定数と上記(3)式より、位相シフト量φ1は3.84(rad)(220.0度)と見積もられる。
【0042】
このとき、発光の放射角度θが0°のときに強め合い波長λが460nmとするには、上記(2)式より、光学距離L1を、m=1の場合89nm、m=2の場合319nm、m=3の場合549nmにそれぞれ設定する。上記(2)式より、強め合い波長λは発光の放射角度θにより異なる。表2〜4にそれぞれの光学距離L1(表2では89nm、表3では319nm、表4では549nm)における発光の放射角度θと強め合い波長λの関係を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
表2〜4より、発光の放射角度θと光学干渉の次数mの値が大きくなるにつれて、強め合い波長λは有機EL素子の正面方向へ放射される場合(発光の放射角度θ=0°の場合)よりも短波長側にシフトすることが分かる。
【0047】
次に、レンズ26に入射する発光の放射角度θについて考える。本実施例では、保護膜25上にレンズ26を形成する。保護膜25は例えば窒化珪素等の無機化合物で構成され、レンズ26は主に樹脂材料で構成されるため、保護膜25とレンズ26の間には屈折率差がある。一般に、窒化珪素のような無機化合物は樹脂材料よりも高屈折率であるため、保護膜25とレンズ26の界面では全反射を生じ、全反射が生じる臨界角θcは保護膜25の屈折率naとレンズ26の屈折率nbを用いて下記(4)式より算出できる。
【0048】
θc=sin-1(nb/na)・・・(4)
【0049】
例えば保護膜25の屈折率naを1.80、レンズ26の屈折率nbを1.68とすると臨界角θcは69°となる。このため、有機EL素子から生じた発光のうち、放射角度θ=69°までの光がレンズ26に入射する。一方、レンズを設けず保護膜25から直接表示装置の外部へと発光を出射させる場合、保護膜25の屈折率naを1.80とし、外部(空気)の屈折率=1を上記(4)式のnbに適用すると臨界角θcは約34°となる。即ち、レンズ26を設けることにより、レンズを設けていない領域では利用できなかった、放射角度θ=34°〜69°までの発光を利用することができる。このように、レンズ26を設けると発光の利用効率が高まるというメリットがある。また、ガラスキャップ封止を採用する場合には、レンズ26の下に保護膜25は必須ではないため、有機EL層23からレンズ26までの屈折率差による全反射を抑制することが可能となる。この場合、レンズ26の全域に光が到達することになる。レンズ26に到達した光が外部に取り出せるかどうかはレンズ26と外部との境界の角度次第で決まるため、レンズ26を設計することにより外部への光取り出しを実現できる。
【0050】
ところで、保護膜25からレンズ26へ入射可能な臨界角θcが69°であること、及び有機EL層23と保護膜25との屈折率差が小さいことから、以下、表2〜4の発光の放射角度θを、第2電極24上の保護膜25内の放射角度と置き換えて考える。
【0051】
レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、光学距離L1を89nmとするとレンズ26に入射する発光の強め合い波長は、表2の放射角度θ=0°〜70°付近までとなる。m=1の場合はおよそ460nm〜157nm、m=2の場合は129nm〜44nm、m=3の場合は75nm〜26nmとなる。一般に人の目で視認される可視光波長領域は380nm〜780nmであることから、レンズを設けた領域の有機EL素子の光学距離L1を89nmに設定した場合に表示装置の視認者から認識される発光は、m=1の場合の条件を満たし強められる発光に限られる。m=2、3の場合の条件にてレンズ26に入射する強め合い波長は、可視光波長以外の光の強め合い条件であるため視認者から認識されない。一般に表示装置は可視光波長領域に発光を示す発光層を備えているため、m=2、3の場合の条件のような波長の強め合い条件は有機EL素子の発光特性には影響しない。従ってm=1の場合の光学干渉の条件により有機EL素子の発光特性が決定される。
【0052】
続いて、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、光学距離L1を319nmとするとレンズ26に入射する発光の強め合い波長は、表3の放射角度θ=0°〜70°付近までとなる。m=1の場合は1643nm〜562nm、m=2の場合は460nm〜157nm、m=3の場合は267nm〜91nmとなる。この場合、可視光波長領域の発光に影響するのは、m=2の場合の条件を満たし強められる発光と、m=1の場合の条件の放射角度θ=約65°〜70°で強められる発光である。m=1の場合の条件のθ=約65°〜70°で強められる発光は、放射角度θが0°のときのm=2の場合の条件の強め合い波長=460nmよりも長波長である。
【0053】
また、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、光学距離L1を549nmとするとレンズ26に入射する発光の強め合い波長は、表4の放射角度θ=0°〜70°付近までとなる。m=1の場合は2827nm〜967nm、m=2の場合は791nm〜271nm、m=3の場合は460nm〜157nmとなる。この場合、可視光波長領域の発光に影響するのは、m=3の場合の条件を満たし強められる発光と、m=2の場合の条件の放射角度θ=約5°〜60°で強められる発光となる。m=2の場合の条件のθ=5°〜50°で強められる発光は、放射角度θが0°のときのm=3の場合の条件の強め合い波長=460nmよりも長波長である。
【0054】
上記のように、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、光学距離L1が異なると表示装置の正面方向での強め合い波長λが460nmで同一にもかかわらず、レンズ26に入射する発光の強め合い波長が異なる。表5に上述したレンズ26へ入射する発光のうち、可視光波長領域に相当する波長範囲をまとめて示す。
【0055】
【表5】

【0056】
レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子での上記三つの光学距離L1の比較において、光学距離L1が最も短い89nmとした場合は他の二つの光学距離L1とした場合と比べてレンズ26に入射する発光の強め合い波長域が狭い。また、光学干渉の効果と次数mの関係について考えると、一般的に、次数mが小さいほど光学干渉による強め合い効果が大きいことが知られている。このため、表3及び4に示したm=2、3の場合では、より低次な干渉条件も同時に満たすため、放射角度θが0°のときの波長よりも長波長でより大きい強め合い効果が同時に生じる。この場合、m=1の場合と比べてより多様な波長や強度の光がレンズ26に入射することから発光の色純度が低下する。更に斜め視野角において低次の干渉も混在してくるため色の変化が複雑になる。
【0057】
よって、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、光学距離L1をm=1の条件に設定すると、同一の強め合い波長に設定する場合において、m>1の条件に比べてより大きい光学干渉の効果による強め合い効果を利用できる。つまり、発光位置と第1電極21の間の光学距離L1は、上記(1)式を満たすようにすればよい。
【0058】
このように、本実施例の表示装置では、発光のレンズ26への入射界面における臨界角θcと光学干渉による強め合い波長の角度依存性、光学干渉の次数mによる強め合い効果の変化に着目している。そして、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子が、所望の強め合い波長において、m=1の場合の光学干渉の条件を満たすように発光層と第1電極21の反射面との間の光学距離を設定している。これにより、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、正面輝度(正面方向への光取り出し効率)と発光の色純度を向上させることができるため、発光の色純度が高く、より明るい即ち良好な色再現性を備え、消費電力の少ない表示装置を提供できる。尚、設定する強め合い波長の制限は特になく、可視光波長領域で発光する発光層を有する有機EL素子であれば適用することができる。RGB3原色系や、3原色+シアン、3原色+イエローといった4原色系の表示装置にも適用することができる。
【0059】
上記の説明では、発光層と第1電極21の反射面との間の光学距離を取り扱ってきたが、発光領域が発光層内部で拡がりや分布を持つ場合等は、光学干渉の条件を満たす光学距離を、発光領域の発光層内部での分布を考慮して適宜調整する。
【0060】
また、成膜時に有機化合物層などの膜厚がばらつく場合などを考慮すると、光学距離L1は式(1)を満たす値から微小値ずれていてもよく、具体的には、式(1’)を満たしていれば本発明の効果を得ることができる。
【0061】
0.9<2L1/λ+φ1/2π<1.1・・・(1’)
【0062】
また、第2電極24と発光位置との間の光学干渉条件について説明する。この場合、その位相シフト量φ2(発光層で発光した光が第2電極24の反射面で反射する際の位相シフト量φ2)としては、発光が第2電極24で反射する場合を考慮する。第2電極24をAg薄膜系で構成した場合、位相シフト量φ2は、4.21(rad)(241.4度)と見積もられる。
【0063】
第2電極24は、光出射側に位置する半透明膜であり、その反射率は、第2電極24の膜厚にもよるが、最大でも40%程度である。そのため、70%以上の高い反射率を備える第1電極21側の干渉条件に比べ、発光への影響度が少ないが、レンズ26を設けた第2領域の有機EL素子において、様々な光学干渉条件を満たす光学距離の設定が可能である。特に、好ましくは、第2電極24と発光位置との間の光学距離L2(発光層と第2電極24の反射面との間の光学距離L2)を、有機EL素子の発するスペクトルの最大ピーク波長λ(光学干渉による強め合い波長λ)に対し、式(5)を満たすことがよい。
【0064】
2>0かつ2L2/λ+φ2/2π<1・・・(5)
【0065】
つまり、第2電極24と発光位置との間の光学干渉条件は、第1電極21側の強め合い波長よりも短い波長を強めるように設定される。たとえば、波長520nmの有機EL素子において、式(5)を満たすように、光学距離L2を33.6nmに設定した場合、位相シフト量φ2=4.21(rad)から見積もると、
2L2/Λ+φ2/2π=1・・・(6)
の干渉条件を満たす。つまり、Λ=204nmの波長の光を強めることとなる。これは、第1電極21側での干渉で強められる光よりも短い波長の光を強める条件である。
【0066】
このように、第2電極24側の光学干渉の式を1よりも小さい値で満たす場合(式(5)を満たす場合)、レンズへ入射する発光の強め合い波長領域をより狭くでき、より色純度が高い表示装置を実現することが可能となる。
【0067】
また、このように第2電極24側の光学距離を短く設定しておくことは、第1電極21−第2電極24間のトータル光学距離を短く設定できるため好ましい。
【0068】
本発明の光学干渉の条件は、全ての画素のレンズ26を設けた第2領域の有機EL素子に適用しても良い。この場合、全ての画素のレンズ26を設けた第2領域の有機EL素子で上記本発明の効果が得られる点で好ましい。また、発光色毎に本実施例の光学干渉の条件の適用を使い分けることもできる。
【0069】
また、レンズを設けない第1領域の有機EL素子を、下記(7)式を満たす構成とすると、レンズを設けない第1領域の有機EL素子においても光学干渉による強め合い効果が得られることにより色純度が向上する点で好ましい。
【0070】
2L1/λ+φ1/2π=m (mは正の整数)・・・(7)
【0071】
また、成膜時に有機化合物層などの膜厚がばらつく場合などを考慮すると、光学距離L1は式(7)を満たす値から微小値ずれていてもよく、具体的には、式(7’)を満たしていれば本発明の効果を得ることができる。
【0072】
m−0.1<2L1/λ+φ1/2π<m+0.1・・・(7’)
【0073】
また、mが2以上の整数の場合、斜め視野角において低次の干渉が混在してくるためm=1とするのがより好ましい。
【符号の説明】
【0074】
11:有機ELパネル、12:情報線駆動回路、13:走査線駆動回路、14:画素回路、17:発光領域の選択制御線駆動回路、20:基板、21:第1電極、22:領域分離層、23:有機EL層、24:第2電極、25:保護膜、26:レンズ、31:R画素、32:G画素、33:B画素、311:R画素のR−1領域、312:R画素のR−2領域、321:G画素のG−1領域、322:G画素のG−2領域、331:B画素のB−1領域、332:B画素のB−2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同じ色相である第1領域と第2領域とを有する画素を備え、
前記第1領域と前記第2領域は、それぞれ有機EL素子を備え、
前記有機EL素子は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層を含む有機EL層と、を備え、
前記第2領域に、前記有機EL素子の光出射側に配されたレンズを有し、
前記第2領域の前記有機EL素子が下記式を満たすことを特徴とする表示装置。
0.9<2L1/λ+φ1/2π<1.1
ここで、L1:前記発光層と前記第1電極の反射面との間の光学距離、λ:光学干渉による強め合い波長、φ1:前記発光層で発光した光が前記第1電極の反射面で反射する際の位相シフト量。
【請求項2】
前記第2領域の前記有機EL素子が下記式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
2>0かつ2L2/λ+φ2/2π<1
ここで、L2:前記発光層と前記第2電極の反射面との間の光学距離、λ:光学干渉による強め合い波長、φ2:前記発光層で発光した光が前記第2電極の反射面で反射する際の位相シフト量。
【請求項3】
前記第1領域の前記有機EL素子が下記式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示装置。
m−0.1<2L1/λ+φ1/2π<m+0.1 (mは正の整数)
【請求項4】
前記第1領域の前記有機EL素子が下記式を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表示装置。
0.9<2L1/λ+φ1/2π<1.1

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8663(P2013−8663A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70603(P2012−70603)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】