説明

表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルおよびその製造方法

【課題】表面滑り性を向上させた有機/無機複合ゲルを提供する。
【解決手段】水溶性のラジカル重合性有機モノマーと微分散した水膨潤性粘土鉱物を含む水溶液を、基材面の少なくとも一部が高酸素透過率の基材からなる容器に注入するか、もしくは、酸素濃度が10ppm以上の気体と接触させた状態にして、該水溶性のラジカル重合性有機モノマーを重合させて有機/無機複合ゲルを調製した後、該有機/無機複合ゲルを1.5倍〜15倍の間のゲルが破断しない延伸倍率で延伸処理することにより、マイクロメーターレベルの線状の繰り返し凹凸部がゲル表面に形成され、優れた表面滑り性を示す有機/無機複合ゲルが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子と無機粒子からなる有機/無機複合ゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子と水からなる高分子ヒドロゲルは、透明でソフトな材料および吸水性の高い材料として、多くの活用が考えられてきた(非特許文献1)。しかし、従来の化学架橋による高分子三次元網目からなる高分子ヒドロゲルは、力学的に脆弱で取り扱いが困難な問題を抱えていた。これに対して、高分子と層状剥離した粘土鉱物からなる有機/無機三次元網目を構築することで、高い透明性、高吸水性と極めて優れた力学物性を有する有機/無機複合ヒドロゲルが開発された(特許文献1)。また、媒体(水)を低揮発性媒体(例:グリセリン)に置換することも可能となった(特許文献2)。かかる有機/無機複合ゲルは、一般に透明で、表面は平滑であり、特に、ネットワーク密度が低い場合(例:粘土含有量が少ない場合)は粘着的な表面特性を示す場合が多かった。しかし、例えば、有機/無機複合ゲルをフィルムやシートやブロック成形体などとして用いる場合、他素材との接触に対して、滑り性に優れた特徴を要求される場合が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−53629
【特許文献2】特開2006−028446
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ゲルハンドブック」p226〜727、長田義仁、梶原莞爾編:エヌ・ティー・エヌ株式会社、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、表面滑り性を向上させた有機無機複合ゲルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、水溶性のラジカル重合性有機モノマーと微分散した水膨潤性粘土鉱物を含む水溶液を、基材面の少なくとも一部が、酸素透過率が10cc・20μ/m/day・atm以上の基材からなる容器に注入するか、もしくは、酸素濃度が10ppm以上の気体と接触させた状態にして、該水溶性のラジカル重合性有機モノマーを重合させて有機/無機複合ゲルを調製した後、該有機/無機複合ゲルを1.5倍〜15倍の間のゲルが破断しない延伸倍率で延伸処理することにより、マイクロメーターレベルの縞状の繰り返し凹凸部がゲル表面に形成されること、および該凹凸表面を有する有機/無機複合ゲルが優れた表面滑り性を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、水溶性のラジカル重合性有機モノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造を有する有機無機複合ゲルであり、ゲルの表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルを提供する。
【0008】
また、本発明は、水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)を含む水溶液を、一部または全部が10cc・20μ/m/day・atm以上の酸素透過率を有する基材からなる容器に注入し、該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機無機複合ゲルを調製し、得られた有機無機複合ゲルを1.5倍〜15倍に延伸処理することにより、該基材と接触して得られたゲル表面部に繰り返し凹凸構造を発現させることを特徴とする、表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルの製造方法を提供する。
【0009】
更に、本発明は、水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)を含む水溶液を、酸素濃度が10ppm以上の気体と接触させた状態で、該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機無機複合ゲルを調製し、
得られた有機無機複合ゲルを1.5倍〜15倍に延伸処理することにより、気体と接触したゲル表面部に繰り返し凹凸構造を発現させることを特徴とする、表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られた表面凹凸含有有機/無機複合ゲルは、それのない平滑な表面を有する有機/無機複合ゲルと比べて、優れた表面滑り性を示す。本発明により得られる表面凹凸有機/無機複合ゲルは、従来の有機/無機複合ゲルの特徴と共に、対物および対人における滑り性にすぐれる特徴を併せ持ち、工業用、医療量、美容用、電子部品用、建築用など幅広い分野で有効に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例2で得られた延伸したゲル表面での繰り返し縞状凹凸構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における有機/無機複合ゲルは、水溶性のラジカル重合性有機モノマーから得られる重合体(以下、水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体と呼ぶ)と層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物が分子レベルで複合化し、水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合などのいずれかにより三次元網目を形成し、媒体として水及び/または低揮発性媒体を含むものである。このことは該複合ゲルが水又は親水性有機溶剤により膨潤し、且つ該複合ゲルを20℃で500時間以上処理しても構成成分である水膨潤性粘土鉱物及び水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体が抽出されないことや、延伸や圧縮の力学試験において、大きな可逆的伸張性や圧縮性を示すことから確認される。
【0013】
本発明における水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)としては、水に溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物(B)と相互作用を有するものが好ましく、例えば、粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。これらの官能基を有する水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)としては、具体的には、アミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性のラジカル重合性有機モノマーが挙げられ、なかでもアミド基やエステル基を有する水溶性のラジカル重合性有機モノマーが好ましい。なお、本発明で言う水には、水単独以外に、水と混和する有機溶媒との混合溶媒で水を主成分とするものが含まれる。
【0014】
アミド基を有する水溶性のラジカル重合性有機モノマーの具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数が1〜4のものが特に好ましく選択される。またエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性のラジカル重合性有機モノマーの具体例としては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0015】
かかる水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体としては、例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メトキシエチルアクリレート)、ポリ(エトキシエチルアクリレート)、ポリ(メトキシエチルメタクリレート)、ポリ(エトキシエチルメタクリレート)が例示される。また水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体としては、以上のような単一の水溶性のラジカル重合性有機モノマーからの重合体の他、これらから選ばれる複数の異なる重合性不飽和基含有水溶性のラジカル重合性有機モノマーを重合して得られる共重合体を用いることも有効である。また上記水溶性のラジカル重合性有機モノマーとそれ以外の有機溶媒可溶性重合性不飽和基含有有機モノマー(例えば、鎖長の異なるポリエチレングリコール鎖を側鎖に有するアクリレートやメタクリレート)との共重合体も、本発明にいう一体化した高分子ゲルが達成出来るものであれば使用することができる。
【0016】
本発明における水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体は、上記水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合したものであり、水溶性または水を吸湿する性質を有する親水性(または両親媒性)を有する。さらに、熱、pHや光に応答する等といった機能性や、生体吸収性を含む生体適合性や生分解性などの特性を有しているものは用途に応じてより好ましく用いられる。例えば、水溶液中でのポリマー物性(例えば親水性と疎水性)が下限臨界共溶温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)前後のわずかな温度変化により大きく変化する特性を有する水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体などであり、具体的にはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などが挙げられる。また生体適合性に優れたものとしては、ポリ(メトキシエチルアクリレート)やポリ(メタクリルアミド)などがあげられる。
【0017】
本発明における有機/無機複合ゲルに用いる粘土鉱物としては、水に膨潤性を有する水膨潤性粘土鉱物(B)であり、好ましくは水によって層間が膨潤する性質を有するものが用いられる。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、特に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みの層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0018】
本発明における水溶性のラジカル重合性有機モノマー重合体(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比(B/A)は、0.05〜2.0であることが好ましく、より好ましくは、0.07〜1.0、特に好ましくは、0.1〜0.7である。0.05以下では得られる一体化された高分子ゲルの強度が弱い場合が多く、2.0以上では一体化が進みにくくなる。
【0019】
本発明の有機無機複合ゲルは水を含有するが、水以外に水より低揮発性の媒体を含有していてもよい。この場合、ゲル中に含まれる水の一部又は全部が低揮発性の媒体に置き換わっていてもよい。
【0020】
本発明で使用する低揮発性媒体としては、水に溶解または混和することができる水より低揮発性の有機分子または有機高分子である。具体的には、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基などの親水性官能基を有する有機分子であり、例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3ブチレングリコールなどが挙げられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いることができる。水以外の媒体を有機/無機複合ゲルに含ませる方法としては、水溶性のラジカル重合性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物を含む水溶液中に水と一緒に共存させておくことや、有機/無機三次元網目が形成された後、水媒体の一部または全部を上記低揮発性媒体で置換する方法、更には、得られた水と低揮発性媒体の共存した有機/無機複合ゲルから、水の一部または全部を揮発させる方法などがあげられる。その他、前記有機/無機三次元網目と媒体に加えて、親水性官能基を有する高分子を共存させることもできる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、コラーゲン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース誘導体、キタンサンガム、ジェランガム、キトサンなどが挙げられる。
【0021】
本発明における表面凹凸とは、マイクロメーターレベル(1〜1000ミクロン)の繰り返し凹凸構造を有するものであり、より好ましくは、10ミクロン〜500ミクロンの幅と、50ミクロンから1000ミクロンの高さを持つ、縞状の繰り返し凹凸構造を表面部に有するものである。縞状とは、長いいく筋かの直線、曲線又はその両方を有する線が列のように並んだ文様を意味し、縞模様ともいえる。
【0022】
かかる表面凹凸は、有機/無機複合ゲルの全面にあっても、一部にあってもよく、目的に応じて各種製造して用いられる。例えば、有機/無機複合ゲルのフィルムやシートにおいて、上下面の全てが表面凹凸を有するもの、上面または下面だけが表面凹凸を有するもの、片面または両面の一部だけが表面凹凸を有するものなどが有効に用いられる。更に、表面凹凸含有領域と平滑領域が一定の間隔で相互に形成されたものなども目的に応じて有効に用いられる。
【0023】
本発明における表面凹凸を有する有機/無機複合ゲルの製造方法としては、水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)と微分散した水膨潤性粘土鉱物(B)を含む水溶液を、酸素透過率が高い性質を有する基材からなる容器に注入し、該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機/無機複合ゲルを調製すること、もしくは、酸素を含む気体と水溶液を接触させた状態で該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機/無機複合ゲルを調製すること、且つ、得られた有機/無機複合ゲルを延伸処理する方法が用いられる。また、酸素透過率が高い基材と低い基材を組み合わせた容器を用いることにより、同様な有機/無機複合ゲル合成およびその後の延伸処理により、部分的に表面凹凸構造を有する有機/無機複合ゲルが製造される。
【0024】
本発明で用いる容器の基材としては、その後の延伸処理により、表面凹凸を形成させるに十分な酸素透過率を有する基材を用いることが必要であり、好ましくは、10cc・20μ/m/day・atm以上、より好ましくは100cc・20μ/m/day・atm以上、特に好ましくは1000cc・20μ/m/day・atm以上の酸素透過率を有する基材である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ナイロン6、エポキシ樹脂などがあげられる。なお、酸素透過率が高いほかに、同様な酸素量を重合時にゲル表面部に与えることができる、酸素吸着性の高い基材を用いることも同様な効果を発現し、有効に用いられる。一方、延伸処理を行っても凹凸のないまたは少ない平滑な表面を有する有機/無機複合ゲルの調製には、上記より酸素透過率が低い基材が用いられる。酸素透過率としては、好ましくは10cc・20μ/m/day・atm以下、より好ましくは1cc・20μ/m/day・atm以下、特に好ましくは0.1cc・20μ/m/day・atm 以下であり、具体的には、ガラス、石英、ステンレス、アルミ蒸着フィルム/シート、シリカ蒸着フィルム/シート、ガスバリア高分子樹脂(二軸延伸PVA、透明蒸着PET/ナイロン6/PPラミネート樹脂)およびそれらの無機蒸着フィルムなどがあげられる。なお、これらの一種または複数の基材を用いて作成される容器は大きさ、形状によらず任意に設計することが可能である。
【0025】
本発明において、酸素を含む気体と接触させた状態で該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機/無機複合ゲルを調製した後、延伸処理を行う製造方法も有効に用いられる。この場合、気体中に含まれる酸素量としては、良好な有機/無機複合ゲルが形成されると共に、その後の延伸処理により、表面凹凸を形成させるに十分な酸素が含まれておれば良く、ゲル厚みや重合条件により異なり必ずしも限定されないが、好ましくは、10ppm以上、より好ましくは100ppm以上である。但し、酸素濃度があまり多いと重合が不完全となりすぎる場合がある。
【0026】
延伸処理は、有機/無機複合ゲルを破断しない延伸倍率の範囲で、一回または複数回延伸することで行われる。延伸倍率としては、好ましくは1.5〜15倍である。1.5倍以下では、有効な表面凹凸が出ない場合があり、15倍以上では必要のない永久歪みが現れたりして、不都合が生じる場合がある。かかる延伸処理によりマイクロメーターレベルの凹凸が形成される理由は必ずしも明確ではない。推定としては、容器表面や内部に含まれた酸素、または容器基材を通して通過してきた酸素、または接触する気体に含まれている酸素により、有機/無機三次元網目構造の形成が部分的に阻害され、弱くなっているため、引き続く延伸処理により、その部分の三次元網目が一部断裂され、凹凸構造を形成すると推定される。
【0027】
更に、本発明においては、媒体として水のほか、前記した低揮発性媒体、または水と低揮発性媒体との混合媒体を用いた表面凹凸含有有機/無機複合ゲルを製造することが可能である。水の全部または一部を低揮発性媒体に変化させる方法としては、重合前の水溶液中に低揮発性媒体を含ませる方法、水を媒体とした有機/無機複合ゲルを調製後、低揮発性媒体と置換する方法、更に、それらを乾燥して水を揮発させる方法などが用いられる。これらの媒体処理と延伸処理はどちらを先にやっても製造可能である。
【実施例】
【0028】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0029】
(実施例1〜4及び比較例1)
純水60g、水膨潤性粘土鉱物(ヘクトライト:商標ラポナイトXLG)1.372g、水溶性のラジカル重合性有機モノマー(N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA))5.94g、重合開始剤(ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS))0.06gからなる均一透明な水溶液を、実施例1、2、3では、片方がガラス基材、片方がポリカーボネート(PC)(酸素透過率=4500cc・20μ/m/day・atm)基材からなる薄膜調製容器(内部形状:縦130mm、横230mm、高さ2mm)、実施例4では両方がPC基材からなる薄膜調製容器に注入し、50℃で5時間重合を行なった。その結果、いずれの場合も、均一透明で、表面平滑な有機/無機複合ゲルを得られた。得られた有機/無機複合ゲルを実施例1では3.5倍、実施例2と実施例4では7倍、実施例3では12倍に延伸した。その結果、実施例1、2、3では、片面(PC基材面と接触して調製されたゲル面)のみが、延伸方向と垂直方向に線状の繰り返し凹凸を有する表面凹凸有機/無機複合ゲルが得られた。光学顕微鏡を用いて測定した実施例2の表面凹凸の形態例を図1に示す。表面凹凸は平均値でそれぞれ幅220μm、高さ60μm(実施例1)、幅140μm、高さ80μm(実施例2)、幅110μm、高さ100μm(実施例3)であった。この表面凹凸を有する有機/無機複合ゲルの表面滑り特性を、小ガラス板(1.5cm幅 × 2cm 長さ× 0.3cm厚み)を用いて測定した。具体的には、表面凹凸を有する有機/無機複合ゲル表面上で、荷重9g/cmを載せた小ガラス板を水平方向に引っ張り、その時必要な力から動摩擦力(実施例1では0.02N、実施例2では0.01N、実施例3では0.005N)を得た。これに対して、ガラス基材面と接触させて調製したゲル面(比較例1)は平滑であった。この平滑表面の滑り特性測定では、実施例1〜3ではいずれも動摩擦力として0.12Nが得られた。一方、実施例4では、両方のゲル面とも表面凹凸を有する有機/無機複合ゲルであり、動摩擦力として0.01Nが得られた。
【0030】
(実施例5及び6)
ラポナイトXLGの量が0.914gであること、PCの代わりに硬質塩ビ(酸素透過率=130cc・20μ/m/day・atm)を用いること、ガラス基材の代わりにポリエチレンテレフタレート/ナイロン6/ポリプロピレン積層のシリカ透明蒸着フィルムを用いること、延伸が実施例5では3倍延伸を3回、実施例6では12倍延伸を1回行うことを除くと実施例1と同様にして、表面凹凸および動摩擦力を測定した。硬質塩ビ基材を用いたゲル表面には、いずれも繰り返し線状凹凸が形成され、実施例5では幅105μm、高さ100μm、実施例6では幅80μm、高さ130μmであった。また、シリカ透明蒸着フィルム基材を用いたゲル面はいずれも平滑であった。動摩擦力は、実施例5では0.005N、実施例6では0.004Nであった。
【0031】
(実施例7)
均一透明な水溶液中に、重合促進剤(N,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン)48μlを加えること、重合温度・時間を20℃・20時間とすること、薄膜調製容器の高さ1mmまで反応水溶液を充填し、気体として酸素を300ppm含む窒素ガスを導入することを除くと、実施例2と同様にして、有機/無機複合ゲルを調製した。その後、7倍までの延伸処理を行った結果、気体に面したゲル表面には、繰り返し線状凹凸(幅200μm、高さ100μm)構造が形成され、動摩擦力は0.018Nであった。
【0032】
(実施例8および比較例2)
実施例1で得られた有機/無機複合ゲルをグリセリン(80g)水(50g)からなるグリセリン水溶液に浸漬し、次いで、室温で20時間乾燥することにより、媒体のほとんどがグリセリンに置換した有機/無機複合ゲルが得られた。その後、8倍までの延伸処理を行った結果、PC基材に面したゲル表面には繰り返し線状凹凸(幅180μm、高さ100μm)構造が形成され、動摩擦力は0.04Nであった。一方、ガラス基材に面して調製されたゲル表面(比較例2)は平滑で、動摩擦力は、0.25Nであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のラジカル重合性有機モノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造を有する有機無機複合ゲルであり、ゲルの表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲル。
【請求項2】
前記繰り返し凹凸構造が、10ミクロン〜500ミクロンの幅と、50ミクロン〜1000ミクロンの高さを持つ、縞状の凹凸構造である請求項1記載の表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲル。
【請求項3】
前記有機無機複合ゲルに含まれる媒体の一部または全部が水より低揮発性の媒体である請求項1又は2記載の表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲル。
【請求項4】
水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)を含む水溶液を、一部または全部が10cc・20μ/m/day・atm以上の酸素透過率を有する基材からなる容器に注入し、該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機無機複合ゲルを調製し、得られた有機無機複合ゲルを1.5倍〜15倍に延伸処理することにより、該基材と接触して得られたゲル表面部に繰り返し凹凸構造を発現させることを特徴とする、表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルの製造方法。
【請求項5】
水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)を含む水溶液を、酸素濃度が10ppm以上の気体と接触させた状態で、該水溶性のラジカル重合性有機モノマー(A)を重合させて有機無機複合ゲルを調製し、
得られた有機無機複合ゲルを1.5倍〜15倍に延伸処理することにより、気体と接触したゲル表面部に繰り返し凹凸構造を発現させることを特徴とする、表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルの製造方法。
【請求項6】
前記繰り返し凹凸構造が、10ミクロン〜500ミクロンの幅と、50ミクロン〜1000ミクロンの高さを持つ、縞状の凹凸構造である請求項4又は5記載の表面に繰り返し凹凸構造を有する有機無機複合ゲルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−157500(P2011−157500A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21127(P2010−21127)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】