説明

表面の修飾された希土類含有セラミックスナノ粒子

【課題】 生物学的試料中の特定の生体物質の蛍光ラベリングまたは蛍光イメージングに適する手段の提供
【解決手段】 表面の修飾された希土類含有セラミックスナノ粒子(RED−CNP)であって、該粒子表面に、式(I)
PEG−block−ポリ(carbo) (I)
式中、PEGはα−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントを表し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントを表す、
で示されるブロック共重合体、および任意に特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子特定の生体物質を特異的が該カルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖を介して固定されている、上記表面の修飾されたRED−CNP。PEG鎖の立体反発により、生理条件下におけるナノ粒子同士の凝集を阻害し、さらに非標的生体物質の吸着も抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体中、特に、高いイオン強度の水性媒体中で分散安定性を示す表面の修飾された希土類含有セラミックナノ粒子(以下、RED−CNPと略記する場合がある)およびその蛍光ラベリングのための使用に関する。該表面の修飾は特定のブロック共重合体および、任意に、特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子により行われる。
【背景技術】
【0002】
バイオ研究における発光材料の利用は、生体物質や細胞の蛍光イメージングをはじめとしてその重要性が高まっており、免疫診断等の医療診断への応用も期待されている。現在の蛍光イメージングにおいては、蛍光色素や蛍光タンパク質、半導体量子ドットといった蛍光体を利用するのが一般的であり、それらは励起光源に紫外光や短波長可視光を用いる場合が多い。そしてこれらの発光材料(例えば、超微粒子)を用いる場合に、該微粒子の水溶液での分散安定性や該粒子表面への被検体以外の夾雑タンパク質等の非特異的吸着を抑制するために様々な表面処理が施されている。金もしくは半導体コロイド粒子の表面にポリエチレングリコール−b−ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)のブロック共重合体を結合させることにより該コロイド粒子の分散安定性および該粒子表面への非特異吸着を抑制できること(特許文献1参照)、半導体超微粒子に水溶性および非特異的吸着抑制能を付与するためにω−メルカプト脂肪酸のポリエチレングリコールエステルである配位子でそれらの表面を修飾することも知られている(特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、紫外光や短波長可視光は短波長であるために光散乱性が高く、生体深部まで透過できないことや、生体へのダメージ(光毒性)、観察対象物の自家蛍光、蛍光体自体の光分解による退色などが懸念されている。
【0004】
そこで近年、近赤外(NIR)光励起により、NIR発光やアップコンバージョンによる可視発光を示す希土類含有セラミックスナノ粒子(RED−CNP)を用いた蛍光イメージングの研究が盛んに行なわれている。NIR発光やアップコンバージョン発光では、NIR光励起により、光散乱、光毒性、観察対象物の自家蛍光の全ての問題を軽減できる。また蛍光体そのものはセラミックスであるため、長時間励起しても退色することがない。このような長所からRED−CNPの蛍光バイオイメージングへの応用が期待されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。これらの文献の前者には、希土類イオンをドープしたナノ結晶NaYF4:Yb,Erをポリエチレンイミン(PEI)でコーティングすることにより近赤外領域における励起により非常に強いアップコンバージョン発光を生じるナノ粒子が提供できることについて記載されている。後者には、NaYF:Yb、Er(Tm)/NaYFコア/シェル(C/S)型の六方晶ナノ粒子を両親媒性ポリマーの層により親水性にしたところ、粒子が水溶性になり、pH7.4のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中やpH9.3TBEバッファー(Tris−borate−EDTA)中で安定であることが示されている。この文献において、両親媒性ポリマー(25%オクチルアミンおよび40%イソプロピルアミン修飾ポリ(アクリル酸))は該粒子に予め固定されたオレイルアミンのオクタデシル基との疎水性相互作用を介してコーティングされている。さらにまた、本発明者等の一部は、ErでドープしたYナノ粒子表面にポリ(アクリル酸)とα−アセタール−ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(2−(N、N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート)の多層を固定した粒子を製造し、これらの粒子が水性溶液中で一定の分散安定性を示すことを報告した(非特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−80903公報
【特許文献2】特開2002−121548公報
【非特許文献1】Dev K.Chatterjee et al.Biomaterials 29(2008)937−943
【非特許文献2】Guang−Shun Yi et al.,Chem.Mater.2007,19,341−343
【非特許文献3】Yukio Nagasaki et al.,J.Photopolymer Science and Technology,(2006),19(2),145−149
【発明の開示】
【0006】
RED−CNPは蛍光バイオイメージングへの応用に適した性質を持つが、生体環境下では極めて高濃度の夾雑タンパク質や高いイオン強度にあるため、このような環境下で分散し、機能する材料設計が必要になる。前記非特許文献1ないし非特許文献3では、一定のポリマーでコートされたナノ粒子が水溶性になり、また、一定のpHにおいて安定な分散性を示すことが記載されている。非特許文献1によれば、PEIに葉酸を共有結合することにより癌細胞のイメージングに使用できることも記載されている。
【0007】
しかしながら、生体環境下で実用化するには、未だ、必ずしも満足できる分散安定性や夾雑タンパク質等の非特異的吸着を抑制できるものでない。
【0008】
そこで、本発明者等は、RED−CNPの表面の修飾について検討してきた結果、非特許文献1および非特許文献2では、それぞれナノ粒子表面へのアミノ基(またはイミノ基)を介するポリマー(PEI)および特定の連結基(オクタデシル基)の結合を利用しているのとは対照的に、一定のブロック共重合体の側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントを介してポリ(エチレングリコール)鎖セグメントをRED−CNP表面に担持させたところ、該ブロック共重合体がRED−CNP表面へ安定に固定化されることのみならず、高いイオン強度下の水性溶液中でも安定にRED−CNPを分散させることができることを見出した。さらに、上記のブロック共重合体をRED−CNP表面へ固定する際に該共重合体に加えて、特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子を共存させて処理すると、該生体分子がRED−CNP表面へ効率よく共固定されることも確認された。しかも、こうして固定された生体分子はそれらが本来有していた特定の生体物質に対する標的指向性を保持していることも確認された。
【0009】
したがって、本発明によれば、表面の修飾された希土類含有セラミックスナノ粒子(RED−CNP)であって、該粒子表面に、式(I)
PEG−block−ポリ(carbo) (I)
式中、PEGはα−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントを表し、そして
ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントを表す、
で示されるブロック共重合体が該カルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖を介して固定されている、上記表面の修飾されたRED−CNP、が提供される。
【0010】
また、別の態様の発明として、該粒子表面に、該共重合体の他に、さらに特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子が共固定されている、上記表面の修飾されたRED−CNPも、提供される。
【0011】
前者では、それ自体蛍光イメージングツールとして使用できることのみならず、例えば、後述するようなPEGのα−末端の官能基を介して該生体分子または非特許文献1に記
載されているような葉酸の如きリガンドを共有結合し、標的指向性を付与することもできる。一方、後者では、該生体分子の特定の生体物質に対する標的指向性を利用して、組織学的な標識として、また、各種のバインディングアッセイ等に使用できる。
【0012】
<発明の詳細な記述>
本発明にいう、希土類含有セラミックナノ粒子(RED−CNP)は、本発明の目的に沿うものである限り、それらの構成元素種、調製方法の如何を問うことなく、近赤外光励起によるアップコンバージョンを伴う如何なる発光ナノ粒子であってもよい。また、ナノ粒子と称するのは、主として数ナノ(nm)ないし数100ナノ(nm)サイズにある粒子を意図しているが、数μmにある微粒子を排除することまで意図するものではない。このような、RED−CNPには、上記非特許文献1〜3、またはそこで引用された文献に記載されたナノ粒子も包含される。限定されるものでないが、元素組成で表すと、ドープする(または含有せしめる)希土類元素または希土類元素の組み合わせをXとしてY:X,La:X,Gd:X,YS:X,GdS:X,LaS:X,YOF:X,YOCl:X,YF:X,GdF:X,LaF:X,LiYF:X,NaYF:X,BaYF:X,BaY:X,YGaO:X,YGa12:X,YSiO:X,YSi:X,LaOCl:X,LaOBr:X,YOCl:X,YOBr:X,LaPO:X,YPO:X,LaVO:X,YVO:X,Al:X,AlYO:X,YAl12:Xをあげることができる。単独でドープする希土類元素Xとしては、Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybをあげることができる。ドープする希土類元素の組み合わせはCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybの中から複数の組み合わせをあげることができるが、好ましくはYbとPr,Eu,Ho,ErまたはTmの組み合わせをあげることができる。
【0013】
本発明で用いる式(I)で示されるブロック共重合体におけるポリ(carbo)は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(リンゴ酸)よりなる群から選ばれるポリマー由来であることができる。また、式(I)において、PEGのα−末端が修飾されている場合の例は、置換もしくは未置換C−C12アルコキシ、ヒドロキシ、等であることができる。置換されたアルコキシにいう、置換基は、限定されるものでないが、アミノ、モノ−もしくはジC−Cアミノ、RCH−(ここで、RおよびRは独立してC−Cアルコキシ、アリール−C−Cアルコキシおよび−O−CH(R’)−CH−O−から選ばれるアセタールもしくはケタール残基であることができ、R’は水素原子もしくはC−Cアルキルであることができる)、マレイミド基およびヒドラジド基であることができる。これらの基は、必要により、特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子やその他のリガンド等を共有結合させるのに利用できる。
【0014】
式(I)で示されるブロック共重合体でより具体的なものとしては、下記式(II)、(III−a)、(III−b)、(IV−a)および(IV−b)で示されるブロック共重合体を挙げることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
上記式中、
Aは水素原子または置換もしくは未置換の炭素原子12個までのアルキル基を表し、
Lは直接結合または二価の連結基を表し、
Tは水素原子、ヒドロキシル基または−ZR”であって、ここでZは単結合、CO、OもしくはNHを表し、R”は水素原子、置換もしくは未置換の炭素原子12個までの炭化水素基を表し、
Rは水素原子またはメチル基を表し、
mは4〜2500、好ましくは、10〜1000、より好ましくは100〜250の整数であり、
nは5〜1000、好ましくは、10〜1000、より好ましくは30〜50の整数であり、
x+yまたはzは5〜1000、好ましくは、10〜500、より好ましくは20〜70の整数であり、
そして各式中のカルボキシル基は、独立して30%までエステル(例えば、C−Cアルキル、ベンジル、フェネチル、等のアルコール成分との)の形態にあることができる。Lは直接結合または二価の連結基、例えば、O、NH、COまたはX(CHYであ
って、ここでXはOCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONHもしくはCOOを表し、YはNHもしくはCOを表し、pは1〜6の整数を表す。
【0017】
上式中の各基または各部分の定義は、より具体的には、次のごとき意味を有する。「炭素原子12個(以下、C12のように略記する場合あり。このような記載様式は、他の炭素原子を有する基を表示する場合にも同様に用いられる。)までのアルキル基」とは、直鎖もしくは分岐鎖であってもよいアルキル基であって、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルおよびn−もしくはiso−ドデシルを表す。このようなアルキル基の置換基としては、本発明の目的に沿う限り、どのような基であってもよいが、好ましくは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、式RCH−(ここで、RおよびRは独立して、C−Cアルキルオキシ、アリールオキシもしくはアリール−C1−3アルキルオキシを表すか、一緒になってC−Cアルキルで置換されていてもよいエチレンジオキシ(−O−CH(R′)−CH−O−、ここで、R′は水素原子またはC−Cアルキル基である)を表わす)の基、式R′R′NCH−(ここで、R′およびR′は独立して、有機シリル型のアミノ保護基、例えばトリアルキルシリル基またはR′およびR′はそれらが結合する窒素原子と一緒になって、4〜7員環のジシラ−アザシクロヘテロ環式環を形成しうる原子団である)の基を挙げることができる。例えば、式RCH−の基は、所謂、アセタール部分を示し、緩和な加水分解によって、容易にOCH−(アルデヒド基)に転化できる。他方、式R′R′NCH−の基は、例えば、テトラアルキルアンモニウムフロリドを含む溶液中で容易にHN−に転化できる。
【0018】
したがって、このような置換基を有する式(I)、(II)、(III−a)、(III−b)、(IV−a)または(IV−b)で表されるブロック共重合体は、それらを用いて、本発明に従う表面の修飾されたRED−CNPを形成した後、通常、主として該粒子のシェルまたは表面に存在する上記の置換基をアルデヒド基またはアミノ基に転化し、こうして得られた官能基を介して、特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子やその他のリガンド等を共有結合させることができる。このような置換基を有するポリエチレンセグメントの取得方法は既知であり、例えば、RCH−基の場合は、WO96/33233(または対応するUS−A−5,925,720)を参考にすることができる。また、上記各式で示されるブロック共重合体の一部は市販されており、また多くは公知であり、かりに文献未載のものは公知のものの製造方法に準じて容易に製造できる。
【0019】
特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子にいう、特定の生体物質としては、例えば、腫瘍細胞または組織において特異的に発現されているような物質、CD20抗原やHER2等を意味し、このような物質に対する標的指向性を有する生体分子としては、これらの物質に対して特的に結合するモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体等の受容体の可溶性分子等であることができる。
【0020】
上記の式(I)で示されるブロック共重合体は、本発明の目的上、RED−CNP表面へ該RED−CNPが水性媒体、例えばリン酸緩衝化生理食塩水中で安定に分散できる程度に固定されていなければならない。使用するブロック共重合体の種類(各セグメントの分子量の変動を含む)等により最適値を特定することができないが、当業者であれば、後述する具体例を参照に、小実験を行うことでかような程度を容易に決定できるであろう。限定されるものでないが、熱重量分析(TGA)により吸着ポリマー量を定量し、該表面のPEG密度を算出した場合に、0.0051〜0.03鎖/nm、このましくは0.01〜0.03鎖/nmの値をとることができる。また、RED−CNP表面に、該共重合体の他に、さらに特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子が共固定されている場合、該生体分子は、それが該生体物質に対して指向性(または選択的な結合性)を示す限り、少なくとも粒子あたり、1分子存在すればよい。
【0021】
このような表面の修飾されたRED−CNPは、水性媒体中では、RED−CNPおよびその表面に結合した側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントが主として内部に存在し、α−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントが主として外側に存在するようなコア−シェル構造をとるものと確認している。
【0022】
上記の表面の修飾されたRED−CNPは、室温または必要により数度℃まで冷却した温度下、6〜24時間RED−CNPと式(I)で示されるブロック共重合体を適当な緩衝水溶液(pH6.8〜8.0)中で混合攪拌することにより製造できる。RED−CNPとブロック共重合体の割合は、通常、上記のRED−CNPの単位表面積あたりPEGの密度を考慮し、RED−CNPに対してブロック共重合体が大過剰になるように用いる。例えば、重量比で、RED−CNPに対してブロック共重合体を1対1〜10となるように混合すればよい。混合攪拌後、遠心(例えば、90000G、15分間)精製を数度繰返すことにより目的の生成物を取得できる。こうして取得した生成物である表面の修飾されたRED−CNPは、如何なる機序によりブロック共重合体が表面に固定されているか定かでないが、高イオン強度(例えば、150mM NaCl)下で攪拌しても表面から脱着もしくは放出されない。
【0023】
本発明によれば、特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子は、上記製造方法においてRED−CNPとブロック共重合体の混合攪拌時に生体分子も一緒に混合攪拌することにより、容易にRED−CNPの表面に固定できる。理論により拘束されるものでないが、ブロック共重合体分子がその中の複数の側鎖カルボキシル基を介してRED−CNPの表面へ固定される時にポリ(carbo)鎖マトリックスが該生体分子を上記表面固定してしまうのかも知れない。こうして固定された生体分子は、該分子が表面に固定されたRED−CNPを用いて生体分子が標的とする生体物質を水性媒体中で蛍光ラベリング処理する間、該RED−CNP表面から実質的に放出されない。
【0024】
したがって、本発明によれば、上記の表面の修飾されたRED−CNPを含んでなる特定の生体物質の蛍光ラベリングするための試薬が提供される。また、上記の表面の修飾されたRED−CNPを生物学的試料と接触させ、次いでRED−CNPの近赤外光励起による近赤外発光または可視発光を観察することとを含んでなる該試料中の特定生体物質の検出方法も提供される。上記接触は、生物学的試料、例えば、血液、尿等の体液、または特定の器官の細胞もしくは組織と室温または、必要により数度℃に冷却した温度下で直接行うことができる。こうして試料中の特定の分子または領域に結合したRED−CNPに励起光として近赤外線を照射することにより該分子または領域を発光させ観察可能にする。
【0025】
以上に説明したとおり、生体条件下において高い分散安定性を持ち、さらに特異吸着性、非特異吸着抑制能をも併せ持つ上記の表面の修飾されたRED−CNPは、これまで報告されてきた蛍光イメージング用のRED−CNPと比較し、より生理条件下で高い機能性を持つ材料である。そのため、これまでの蛍光イメージングの欠点の多くが解決でき、これまでに観察が困難であった生体内外の現象を可視化できることで、本発明は、生命科学の発展や新たな医療技術の開拓をもたらすことが期待される。
【0026】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0027】
<実施例1> 希土類含有セラミックスナノ粒子(RED−CNP)の合成
硝酸イットリウム・6水和物(4.0mmol)、硝酸エルビウム・6水和物(0.3mmol)、尿素(0.4mol)を加えた水溶液200mlを100℃に加熱し、2時間
反応を行なった。得られた試料を遠心精製(20000g,15min,×3回)、溶媒置換(水)を行い、乾燥後に900℃で1時間熱処理することで、エルビウム含有イットリアナノ粒子(UNP1)を得た。
また、同様の方法で、硝酸イットリウム・6水和物(4mmol)、硝酸エルビウム・6水和物(0.3mmol)、硝酸イッテルビウム(0.3mmol)、尿素(0.4mol)を加えた水溶液200mlを100℃に加熱し、2時間反応させ、得られた試料を上記同様に遠心精製、溶媒置換を3回行い、乾燥後に900℃で1時間熱処理することで、イッテルビウム、エルビウム含有イットリアナノ粒子(UNP2)を得た。
【0028】
<実施例2> RED−CNP表面のPEG修飾
UNP2 1.0mgとPEG−b−PAAc(ポリ(アクリル酸))(Mn=5000/3200、Polymer Souce 社、カナダから入手)5.0mgをTris−HCl buffer(10mM,pH7.0)10mL中で攪拌(24時間,4℃)、遠心精製(90000G,15min,×3)し、PEG化UNP1(PEG−UNP1)を調製した。この調製したPEG−UNP1のFT−IR測定より、PEG−b−PAAc由来と考えられるカルボニル基の存在を確認した。このPEG−UNP1のζ電位を測定したところ、ほぼ0mV付近を示しており、粒子表面にPEG−b−PAAcが吸着し、電位が遮蔽されているものと考察した。さらに熱重量分析(TGA)により吸着ポリマー量を定量し、PEG−UNP1表面のPEG密度を算出した結果、0.019chains/nmとなった。これらの結果より、PEG−b−PAAcによってUNP1が効果的に修飾されていることが確認された。
【0029】
<実施例3> PEG修飾RED−CNPの生理条件下における分散安定性評価
調製したPEG−UNP1の分散安定性をDLS測定によって検討した、この結果、PEG−UNP1(1.0mg)は生理条件下(10mM,Tris−HCl buffer,150mM NaCl)10mL中において1週間以上安定し、粒径分布にほとんど変化がないことが確認された。
【0030】
<実施例4> PEG/streptavidin共固定RED−CNPの調製と特異的分子認識能の評価
UNP2 1.0mgとPEG−b−PAAc(Mn=5000/3200)5.0mg、ストレプトアビジン(SA)0.6mgをTris−HCl buffer(10mM,pH7.0)10mL中で攪拌(24h,4℃)、遠心精製(50000G,15min,×3)し、PEG/SA共固定UNP2(PEG/SA−UNP2)を調製した。この調製したPEG/SA−UNP2をビオチン標識抗体プレートに加えて蒸留水で洗浄した後、近赤外(NIR)励起光(980nm)を照射して観察したところ、近赤外光励起型発光の一種であるアップコンバージョン発光(550nm,660nm)、さらに近赤外領域の発光(1500nm)が見られた。
この抗体プレートの発光の明るさは、プレート上のビオチン標識抗体量に依存して増加することも確認され、PEG/SA−UNP2が特異的認識可能であることが示された。同様の手順でビオチン未標識抗体プレートにPEG/SA−UNP2を加えた際には、アップコンバージョン発光および近赤外発光は観察されず、非特異吸着が起きていないことも確認された。
【0031】
<実施例5> PEG/BSA共固定RED−CNPの調製と特異的分子認識能の評価
UNP1 1.0mgとPEG−b−PAAc(Mn=5000/3200)5.0mg、ウシ血清アルブミン(BSA)5.0mgをTris−HCl buffer(10mM,pH7.0)10mL中で攪拌(24h,4℃)、遠心精製(90000G,15min,×3)し、PEG/BSA共固定UNP1(PEG/BSA−UNP1)を調製した。この調製したPEG/BSA−UNP1を抗BSA抗体プレートに加えて蒸留水で洗
浄した後、近赤外(NIR)励起光(980nm)を照射して観察したところ、近赤外光励起型発光の一種であるアップコンバージョン発光(550nm,660nm)が見られた。この抗体プレートの発光の明るさは、プレート上の抗BSA抗体量に依存して増加することも確認され、PEG/BSA−UNP1が特異的認識可能であることが示された。同様の手順で抗マウスIgG抗体プレートにPEG/BSA−UNP1を加えた際には、アップコンバージョン発光は観察されず、非特異吸着が起きていないことも確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】PEGとSAを表層に共固定したRED−CNPの概略図と、アップコンバージョンによる可視発光、近赤外発光の画像である。
【図2】PEG/SA共固定RED−CNPがビオチン化標識抗体プレート上において、抗体量依存的に発光の明るさが増加することを観察した画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の修飾された希土類含有セラミックスナノ粒子(RED−CNP)であって、該粒子表面に、式(I)
PEG−block−ポリ(carbo) (I)
式中、PEGはα−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントを表し、そして
ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントを表す、
で示されるブロック共重合体が該カルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖を介して固定されている、上記表面の修飾されたRED−CNP。
【請求項2】
表面の修飾された希土類含有セラミックスナノ粒子(RED−CNP)であって、該粒子表面に、式(I)
PEG−block−ポリ(carbo) (I)
式中、PEGはα−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントを表し、そして
ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントを表す、
で示されるブロック共重合体が該カルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖を介して固定されており、かつ、
該共重合体の他に、さらに特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子が共固定されている、上記表面の修飾されたRED−CNP。
【請求項3】
式(I)におけるポリ(carbo)が、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(リンゴ酸)よりなる群から選ばれるポリマー由来である、請求項1または2記載の表面の修飾されたRED−CNP。
【請求項4】
式(I)で示されるブロック共重合体が、下記式(II)、(III−a)、(III−b)、(IV−a)
および(IV−b)で示されるブロック共重合体からなる群より選ばれる、請求項1または2記載の表面の修飾されたRED−CNP。
【化1】

上記式中、
Aは水素原子または置換もしくは未置換の炭素原子12個までのアルキル基を表し、
Lは直接結合または二価の連結基を表し、
Tは水素原子、ヒドロキシル基または−ZR’であって、ここでZは単結合、CO、OもしくはNHを表し、R’は水素原子、置換もしくは未置換の炭素原子12個までの炭化水素基を表し、
Rは水素原子またはメチル基を表し、
mは4〜2500の整数であり、
nは5〜10000の整数であり、
X+Yまたはzは5〜1000の整数であり、そして
各式中のカルボキシル基は、独立して30%までエステルの形態であることができる。
【請求項5】
水性媒体中で、RED−CNPおよびその表面に結合した側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントが主として内部に存在し、α−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントが主として外側に存在するようなコア−シェル構造を有する請求項1記載の表面の修飾されたRED−CNP。
【請求項6】
RED−CNPと
式(I)
PEG−block−ポリ(carbo) (I)
式中、PEGはα−末端が修飾されていてもよいポリ(エチレングリコール)鎖を含むセグメントを表し、そして
ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有する反復単位を含むポリマー鎖セグメントを表す、
で示されるブロック共重合体と
任意に、特定の生体物質に対する標的指向性を有する生体分子と
を含む緩衝化された水溶液を攪拌する工程を含んでなる、請求項1または2記載の表面の修飾されたRED−CNPの製造方法。
【請求項7】
請求項2記載の表面の修飾されたRED−CNPを含んでなる特定の生体物質を蛍光ラベリングするための試薬。
【請求項8】
請求項2記載の表面の修飾されたRED−CNPを生物学的試料と接触させ、次いでRED−CNPの近赤外光励起による近赤外発光または可視発光を観察することとを含んでなる該試料中の特定生体物質の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−112861(P2010−112861A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286294(P2008−286294)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月24日 The Conference of Photopolymer Science and Technology発行の「Journal of Photopolymer Science and Technology Volume 21, Number 2(2008)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月27日 The Conference of Photopolymer Science and Technology、フォトポリマー懇話会、千葉大学主催の「第25回フォトポリマーコンファレンス」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月22日 社団法人高分子学会発行の「第37回医用高分子シンポジウム 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月24日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/journals/1angd5/index.html」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月29日 社団法人高分子学会主催の「第37回医用高分子シンポジウム」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月13日 インターネットアドレス「http://www.jstage .jst.go.jp/browse/photopolymer/−char/ja/」に発表
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】