説明

表面アンカーリングベクターおよびその異質蛋白質のための方法

本発明は、表面アンカーリングベクター、細胞表面上に異質蛋白質を準備する方法およびその用途に関し、グラム陰性菌のプソイドモナスシリンガエに由来する外側細胞膜蛋白質である氷核形成蛋白質(INP)を使用する。

【発明の詳細な説明】
表面アンカーリングベクターおよびその異質蛋白質のための方法技術分野 本発明は、細胞表面上に異質蛋白質を表現できる氷核形成蛋白質(ice nucleation protein:INP)の遺伝子部分を含む表面アンカーリングベクター(surface anchoring vector)に関する。
さらに、本発明は、INPを使用することによって、細胞表面上に異質蛋白質を準備する方法および表面表現方法(surface expression system)によって準備される異質蛋白質の用途に関する。
詳しくは、本発明は、表面アンカーリングベクター、細胞表面上に異質蛋白質を準備する方法およびその用途に関し、グラム陰性菌のプソイドモナスシリンガエ(Pseudomonas syringae)に由来する外側細胞膜蛋白質である氷核形成蛋白質(INP)を使用する。
背景となる技術 現在、新しいワクチンを生産する為や様々な抗原及び抗体のふるい分けを行う為や細胞表面上に有用な酵素を局在させる為に、バクテリオファージ,細菌,酵母等の単細胞生物において、蛋白質の表面表現(surface expression)が研究されている。
蛋白質の表面表現は、最初、ワクチンの安定した生産の為に細胞表面上に抗原ペプチドを表現する為に試みられた。これまで、ワクチンを生産する為には、免疫感作(immunization)を一様に誘導できる安全な細菌を選択する為に、病原菌(pathogenic bacteria)が任意に突然変異を起こされ、ふるい分けされていた。しかし、ふるい分け方法は、ワクチンが人間の体及び動物の体に経口投与されるときの抗原活量(antigenic activities)の損失という不利を有している。従って、この不利を克服するために、多くの研究が行われてきた。
最初は、細胞表面蛋白質の遺伝子部分が、グラム陰性菌で利用され、抗原ポリペプチドの遺伝子に連結され、融合蛋白質(fusion proteins)
の効果的な生産の為に適当な細菌宿主を形質転換するのに使用されるという工程によって、表面表現が行われていた。この工程によって準備される融合蛋白質は、細胞表面上に安定して形成されるので、有効な抗原に作用することができる。
特にグラム陰性菌では、外側膜リポ多糖(LPS)が細胞表面上に表現された蛋白質の抗原性を増加させる。
細胞表面上に蛋白質を表現するために、蛋白質の一次配列内に分泌信号(secretion signal)が必要であり、それは細胞内で生産された異質蛋白質が細胞膜を通過するのを助ける。特にグラム陰性菌では、蛋白質は、内側細胞膜及び細胞周辺腔を通過し、外側細胞膜上に安定して局在し、形成されるべきである。例えば、表面蛋白質,特定の酵素及び毒素の蛋白質は、その蛋白質を細胞表面上に局在させる分泌信号及び標的信号(targeting signal)を有している。実際に、適当なプロモーターと結合した分泌信号,標的信号等を使用することによって、異質蛋白質は細胞表面上に首尾よく表現される。
今まで、グラム陰性菌に存在する表面蛋白質は、細胞表面上に必要な異質ポリペプチドを生産する為に主として使用されてきた。外側細胞膜蛋白質,リポ蛋白質,分泌蛋白質及び細胞表面構造蛋白質(cell surface structure protein)のような4種類の蛋白質が細胞表面表現の為に使用される。外側細胞膜蛋白質としては、Lam B,Pho E,Omp A等が表面表現の為に使用される。しかし、これらの場合、細胞表面から形成されたループに蛋白質が挿入されるべきであるから、細胞表面上に表現された蛋白質のサイズは制限される。さらに、異質蛋白質のC−及びN−末端は、3次元的に互いに接近しているべきであるからである。2つの末端間の距離が長い場合には、このように、C−及びN−末端は、連結されるべきである。
実際には、Lam B又はPho Eが、50−60以上のアミノ酸を含む異質ポリペプチドを挿入するのに使用されれば、構造的な制限の為に、膜蛋白質は安定して生産されない〔Charbit,et al.,J,Immunol.,139:1658-1664(1987);Agterberg,et al.,Vaccines,8:85-91(1990〕。Omp A蛋白質全体が形成されたループに異質蛋白質が挿入されるのに使用されていたが、構造的な制限を克服する為に、外側細胞膜上に異質蛋白質を局在させる最小の標的配列(targetting sequence)を含むOmp A蛋白質の一部が使用されている。
上述の工程によって、Omp A蛋白質のC−末端標的配列の融合により、β−ラクタマーゼが細胞表面上に表現されていた。この場合、Omp Aフラグメントが、細胞表面上に表現され結合された蛋白質を助け、Omp AのN−末端に融合したE.coliリポ蛋白質(LPP)の信号配列(signal sequence)が、外側細胞膜上に局在した蛋白質を助けていた〔Francisco,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,489:2713-2717(1992)〕。
そのため、選択された外側膜蛋白質が、遺伝子のレベルで異質蛋白質と融合し、融合蛋白質の誘導生合成に使用され、内側膜を安定して通過し、異質蛋白質の外側膜結合を維持するという工程によって、細菌において、外側膜蛋白質を使用した細胞表面表現が行われるべきである。このように、表面アンカーリングモチーフ(surface anchoring motif)として選択される外側膜蛋白質は、以下に述べる要求を満たさなければならない。外側膜蛋白質は、i)それによって融合蛋白質が内側細胞膜を通過できる分泌信号を有さなければならない、ii)それによって蛋白質が外側細胞膜と結合できる標的信号を有さなければならない、iii)細胞表面に大きく表現されなければならない、iv)蛋白質のサイズにかかわらず、安定して表現されなければならない。しかし、全ての要求を満たす細胞表面アンカーリングモチーフ(cell surface anchoring motif)は、未だ開発されておらず、上記の不利益な点を有するものだけが供給されていた。
表面蛋白質としてのリポ蛋白質は、表面表現としても使用されてきた。特に、E.coliリポ蛋白質は、N−末端での分泌信号によって、内側細胞膜を通過でき、末端L−システインによって、共有結合により、外側又は内側膜脂質に直接に局在できる。さらに、主要なリポ蛋白質であるLPPは、N−末端で外側細胞膜に、C−末端で細胞層であるペプチドグリカン(PG)に結合する為、外側膜のOmp Aフラグメントと連結した異質蛋白質は、表面表現の為の外側細胞膜上に安定して分泌できる〔Francisco,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,489:2713-2717(1992)〕。リポ蛋白質の特性を使用することによって、他のリポ蛋白質であるTra Tが、ポリオウイルスC3エピトープ(poriovirus C3 epitope)等のようなペプチドを細胞表面上に表現するのに利用されてきた〔Felici,et al.,J.Mol.Biol.,222:301-310(1991)〕。さらに、その機能が正確に知られていないペプチドグリカン会合リポ蛋白質(peptidoglycan−associated lipoprotein:PAL)が、組換え体抗体を細胞表面上に表現するのに利用されてきた〔Fuchs,et al.,Bio/Technology,9:1369-1372(1991)〕。この場合、PALは、C−末端でペプチドグリカンに、N−末端で組換え体抗体(recombinant antibodies)に結合し、細胞表面上に融合蛋白質を表現する。
外側細胞膜を通過する表面蛋白質としての分泌蛋白質は、表面表現として使用されてきた。しかし、グラム陰性菌では、分泌蛋白質は良く発展せず、特定の分泌工程を助ける蛋白質によって、外側細胞膜を通過するいくつかの分泌蛋白質があっただけである。例えば、クレブシェラ(Klebsiella)sp.からのプルラナーゼ(pullulanase)は、N−末端で脂質成分と置き換えられ、外側細胞膜と結合し、細胞媒体(cell media)に分泌される。
コーナッカー(Kornacker)等は、プルラナーゼのN−末端フラグメントを使用することによって、細胞膜上にβ−ラクタマーゼを表現しようと試みた。不運なことに、プルラナーゼ−β−ラクタマーゼ融合蛋白質は、細胞表面に即時に結合し、細胞媒体に分泌された。また、アルカリ性ホスファターゼの細胞周辺腔蛋白質(periplasmic space protein)は、上記の工程に使用されるように試みられた。しかし、分泌工程には、14以上の蛋白質が必要であったので、アルカリ性ホスファターゼは、細胞表面上に安定して表現されなかった〔Kornacker,et al.,Mol.Microl.,4:1101-1109(1990)〕。
Ig Aプロテアーゼは、病原性微生物であるネイセリア(Neisseria)に由来し、独特の分泌メカニズムを有する。それによってN−末端プロテアーゼが外側細胞膜上に局在できる信号を、Ig AプロテアーゼのC−末端β−フラグメントは有している。細胞表面上に形成されるべき外側細胞膜にプロテアーゼが達した後、形成されたプロテアーゼは、自己加水分解によって細胞媒体内に分泌される。Ig Aプロテアーゼのβ−フラグメントを使用することによって、クラウサー(Klauser)等も、12kDaコレラトキシンBサブユニットを細胞表面上に安定して表現した〔Klauser,et al.,EMBO J.,9:1991-1999(1990)〕
。しかし、分泌工程の間、蛋白質折りたたみは、細胞周辺腔に誘導されるので、融合蛋白質の分泌は抑制された。
その上、鞭毛,毛,房状へり等のような細胞表面上に存在する他の細胞表面構造は、表面表現に使用できる。鞭毛の構造上のサブユニットであるフラジェリンを使用することによって、肝炎Bウィルスから由来する各々のコレラトキシンBサブユニットや他のペプチドは、安定して表現され、これらのペプチドは、各々の抗体と強く結合できた〔Newton,et al.,Science,244:70-72(1989)〕。そして、細胞表面で糸のように働く房状へりの構造上の蛋白質であるフィンブリン(fimbrin)を使用することによって、異質蛋白質も表現された。その結果、小さなペプチドだけが成功して表現された〔Hedegaard,et al.,Gene,85:115-124(1989)〕。
最近、グラム陰性菌の表面蛋白質に加えて、グラム陽性菌の表面蛋白質も、細胞表面上に異質蛋白質を表現しようと試みられている〔Samuelson,et al.,j.Bacteriol.,177:1470-1476(1995)〕。また、内側細胞膜を通過し、細胞膜に結合する表面アンカーリングモチーフが必要である。実際には、ブドウ球菌ハイカス(hyicus)に由来するリパーゼの分泌信号及びブドウ球菌アウレス(aureus)に由来する蛋白質Aの膜結合マトリックスが、異質蛋白質を細胞表面上に表現するのに使用された。その結果、80アミノ酸を含むマラリア血ステージ抗原及び連鎖球菌のG蛋白質に由来するアルブミン結合蛋白質が、グラム陽性菌の細胞表面上に有効に表現された。
上述のようなグラム陰性菌及びグラム陽性菌の表面表現の研究によって、蛋白質表現(protein expression)の有用な方法が数多く開発されてきた。最近の3年間、その方法がUSA,ヨーロッパ,日本等で特許として出願され、登録されてきた。特に、グラム陰性菌の外側細胞膜を使用した5件が登録された。又、毛,細胞表面構造を使用した1件と細胞表面リポ蛋白質を使用した1件が登録された。
発明者等は、新しい表面アンカーリングモチーフとして、プソイドモナスシリンガエKCTC 1832に由来する表面蛋白質である氷核形成蛋白質(INP)を利用し、INPを含み、細胞表面上に有効に異質蛋白質を表現する新しい表面アンカーリングベクター、細胞表面上に異質蛋白質を準備する方法およびその用途を開発した。
発明の概略 本発明の目的は、氷核形成蛋白質(INP)の特性を利用した表面表現の為の表面アンカーリングベクターを提供することである。特に、本発明のベクターは、INPがその一次配列内に有する分泌信号及び標的信号を含む。
そして、本発明の目的は、INPの特性を利用した表面アンカーリングベクターを使用し、異質蛋白質を細胞表面上に表現する異質蛋白質を準備する方法を提供することである。
特に、蛋白質が表面上に表現される為、細胞の分裂又は分離なしでさえ、蛋白質が便利に使用できる異質蛋白質の準備方法を本発明は提供する。
さらに、抗体及び抗原の効果的な生産と、抗原のふるい分けの為のライブラリー、結合又は吸収蛋白質、生理活性化物質等の生産とを含む、細胞表面上に表現された異質蛋白質の用途を本発明は提供する。例えば、細胞表面上に表現されたレバンスクラーゼは、レバンを有効に生産するのに使用される。
プソイドモナスシリンガエKCTC 1832に由来するINP遺伝子を含む表面アンカーリングベクターは、全て本発明の範囲内である。
そして、本発明の表面アンカーリングベクターは、全ての細菌宿主に適用できる。好ましくは、宿主はグラム陰性菌の中から選択され、さらに好ましくは、大腸菌,アセトバクター(Acetobacter)sp.,プソイドモナス(Pseudomonas)sp.,クサンソモナス(Xanthomonas)sp.,エルウイニア(Erwinia)sp.及びキモモナス(Xymomonas)sp.の中から選択される。
これらの細菌を使用した準備方法は、全て本発明の範囲内である。
特定の実施の形態では、pANC3ベクター(受入れ番号:KCTC 0326 BP)が構成され、プソイドモナスシリンガエKCTC 1832に由来する中心反復ドメイン削除INR遺伝子(central repeating domain−deleted INP gene)が含まれ、挿入されたC−末端制限部位の為に異質遺伝子が容易にクローンを発生させる。
さらに、全て又は幾らかの制限部位は、INPのC−末端に挿入されてもよく、これらの制限部位を含む全ての表面アンカーリングベクターは、本発明の範囲内となり得る。
特定の実施の形態では、pANC3−CM2組換え体ベクターが構成され、中心反復ドメイン削除INP遺伝子が含まれ、INP遺伝子のC−末端で、CMCase遺伝子のN−末端が、融合蛋白質の形で細胞表面上にCMCaseを生産するために連結される。
特定の実施の形態では、pGINP21Mベクター(受入れ番号:KCTC 0239 BP)が構成され、INP遺伝子が含まれ、挿入されたC−末端制限部位の為に異質遺伝子が容易にクローンを発生させる。
そして、特定の実施の形態では、pASCM1組換え体ベクター(受入れ番号
:KCTC 0237 BP)が構成され、INP遺伝子が含まれ、INP遺伝子のC−末端で、カルボキシメチルセルロース(CMCase)遺伝子のN−末端が、融合蛋白質の形で細胞表面上にCMCaseを生産するために連結される。
そして、特定の実施の形態では、pASLP1組換え体ベクターが構成され、INP遺伝子も含まれ、INP遺伝子のC−末端で、CMCase遺伝子の代わりに、リパーゼ遺伝子のN−末端が、融合蛋白質の形で細胞表面上にリパーゼを生産するために連結される。
そして、特定の実施の形態では、pASLg1組換え体ベクターが構成され、INP遺伝子も含まれ、INP遺伝子のC−末端で、CMCase遺伝子の代わりに、単鎖Fv抗体遺伝子(single chain FV antibody gene)のN−末端が、融合蛋白質の形で細胞表面上に単鎖Fv抗体遺伝子を生産するために連結される。
そして、特定の実施の形態では、pSSTS109組換え体ベクターが構成され、INP遺伝子も含まれ、INP遺伝子のC−末端で、レバンスクラーゼ遺伝子が、融合蛋白質の形で細胞表面上にレバンスクラーゼを生産するために連結される。
図面の簡単な説明 図1は、INP遺伝子を含み、INP遺伝子のC−末端に幾らかの制限部位を含むpGINP21Mベクターの制限図である。
図2は、CMCase遺伝子を含み、細胞表面上にCMCaseを表現するpASCM1組換え体ベクターの制限図である。
図3は、pASCM1組換え体ベクターのE.coli形質転換細胞から細胞表面上に表現されたCMCaseの活量を、洗浄された細胞,培地及び分裂した細胞の各々について比較するグラフで説明する。
図4は、pASLP1組換え体ベクターのE.coli形質転換細胞から細胞表面上に表現されたリパーゼの活量を、脂肪分解の程度で説明する。
図5は、抗原を有するpASIg1組換え体ベクターのE.coli形質転換細胞から細胞表面上に表現された単鎖Fv抗体の結合活量を、エリザ法を行うことによって説明する。
図6は、反復ドメイン削除INP遺伝子を含むpANC3ベクターの制限図である。
図7は、pANC3−CM2組換え体ベクターのE.coli形質転換細胞から細胞表面上に表現されたCMCaseの活量を説明する。
図8は、pSSTS109組換え体ベクターのE.coli DH5α形質転換細胞の蛍光抗体染色を示す。左のパネル(A及びC)は、pZL8ベクター及びpSSTS109組換え体ベクターのE.coli形質転換細胞の光微視像を示し、右のパネル(B及びD)は、上記E.coli形質転換細胞各々の同焦点蛍光微視像を示す。
図9は、pSSTS109組換え体ベクターのE.coli DH5α形質転換細胞が使用されたときのスクロースからレバンへの全細胞法での変換を示す。
好ましい実施の形態の詳細な説明 外側細胞膜蛋白質である氷核形成蛋白質は、プソイドモナス(Pseudomonas)sp.,エルウイニア(Erwinia)sp.,クサンソモナス(Xanthomonas)sp.等で見つけられ、過冷却した水の中で氷の形成を誘導するという独特の機能を有する。
様々な種類の細菌からINP遺伝子の配列を考えると、特に8アミノ酸単位がINPの中央領域で反復している。この単位は、氷の粒子のような過冷却した水の配列の枠を供給すると考えられる。そして、特定のアミノ酸配列は、INPのN−及びC−末端の各々に存在する。この配列は、それによってINPが内側細胞膜を通過できる分泌信号及び標的信号であると考えられる。特に、INPのN−末端は、外側細胞膜上に結合する役割を果たす。
INPは、1200以上のアミノ酸から成っており、その分子量は118kDaである。一次アミノ酸配列は、N−末端独特のアミノ酸(総蛋白質配列の15%),C−末端独特のアミノ酸(総蛋白質配列の4%)及び中心反復ドメイン(総蛋白質配列の81%)から成っている。特に、INPの中心領域内で、8アミノ酸は正確に122回反復される。
グリーン(Green)等は、蛋白質の3つの各々の領域内でINP遺伝子の突然変異を使用することによって、INPの生理機能を研究した〔Green,et al.,Mol.Gen.Genet.,215:165-172(1998)〕。その結果、INPの中心反復単位の長さは、氷核形成活量(ice nucleation activity)に影響を及ぼすと確認されている。反復特性の欠如は、氷核形成活量を減少又は失わせ、中心領域の長さが減少した場合のみ、氷核形成活量が維持される。そのため、反復領域は、蛋白質分泌及び標的にかかわらず、氷粒子構造の形成の為に、INPに隣接して、過冷却された水分子を配列すると予想される。そして、INPのN−末端は、外側細胞膜上に結合する役割を果たすと予想される。INPのN−末端が完全に分裂したときでさえ、氷核形成活量は維持される。しかし、INPのC−末端は、外側細胞膜上にINPを分泌及び標的する役割を果たすと予想される。氷核形成活量は、完全にC−末端卵割の為に減少する。
表面表現マトリックスとしては、INPは、その一次アミノ酸配列,その構造及びその特性に由来する多くの利点を有している。第1に、INPsは、細胞表面上に大きく表現される。第2に、細胞表面上に表現されるINPは、細胞成長の定常期(stationary phase)に安定して維持される。第3に、INPは、外側細胞膜に定住し、外部表面に露出する。第4に、INPの中心反復単位の長さが、異質蛋白質のサイズに従って、適応性を有するので、異質蛋白質及び細胞表面間の距離が便利に調整できる。第5に、INPは、グラム陰性菌の広い範囲で表現された安定した酵素なので、グラム陰性菌の様々な宿主が表面表現の為に利用できる。
INP遺伝子を含む表面アンカーリングベクターを構成する為に、要求する遺伝子を含むpGINP21(受入れ番号:KCTC 86089)プラスミドが使用されてきた。INPのC−末端で、翻訳終結コドン(translation termination codon)が削除さわ、Bam HI,Sma I,Eco RIのような3つの新しい制限部位が、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)によって挿入され、異質蛋白質遺伝子の為に、挿入部位を供給する。その結果、pGINP21Mベクター(受入れ番号:KCTC 0239 BP)が構成され(図1参照)、上述のいかなる制限酵素部位も、翻訳コドン(translation codon)を構成する遺伝子操作によって、異質蛋白質遺伝子に挿入するのに役立つ。
さらに、INPのC−末端に全て又は幾らかの制限部位を含む様々なベクターが構成できる。
上記の工程で構成される表面アンカーリングベクターは、原INP DNA配列を含み、INPを表現する。そして、異質蛋白質がINPのC−末端に枠で連結されるとき、融合蛋白質が細胞表面上に表現され、安定して結合される。
表面アンカーリングベクターの有効性の為には、異質蛋白質が合成され、内側細胞膜を通過し、細胞表面上に結合されることが確認されるべきである。このように、異質蛋白質は、INP遺伝子に枠で連結され、細菌の宿主を表現の為に誘導するように形質転換し、融合蛋白質が、細胞表面上に表現されるのを確認した。
上記の工程で構成されるpGINP21Mベクターを使用することによって、pASCM1ベクター(受入れ番号:KCTC 0237 BP)が、グラム陰性菌であるバシラス(Bacillus)sp.に由来するカルボキシメチルセルロース(CMCase)を細胞表面上に表現するように構成される。カルボキシメチルセルロース遺伝子のN−末端390bp DNAが、その遺伝子を含むpUC19ベクターから得られ、〔Park,et al.,Enzyme Microb.Technol.,8(12):725-728(1986)〕pGINP21Mベクターに挿入される。そして、CMCaseのC−末端DNAフラグメントが、異なったpUC19ベクターから得られ、上記のように準備されたベクターに挿入され、pASCM1組換え体ベクターを構成する(図2参照)。
CMCase酵素を細胞表面上に表現するために、E.coliがpASCM1組換え体ベクターで形質転換され、培養され、表面表現の為に誘導される。そして、CMCase活量が、カルボキシメチルセルロースを基質として使用することによって測定される。その結果、本発明の酵素活量は、洗浄されたE.coli細胞全体と分裂したE.coli細胞の各々について類似している。従って、総酵素活量は、細胞表面上に形成されたCMCaseにおいてのみ出現すると予想される。カルボキシメチルセルロースは、あまりに高い分子量を有していて、外側細胞膜に浸透できないので、CMCaseを表現する細胞表面を、基質溶液に溶解したカルボキシメチルセルロースに接触させる工程によって、酵素活量は出現する。細胞培地は、CMCase活量を示さないので、CMCaseは、細胞表面から分離されず、酵素活量を制限していると考えられる(図3参照)。
そして、INPを含むpASLP1組換え体ベクターは、グラム陰性菌であるプソイドモナス(Pseudomonas)sp.に由来するリパーゼを細胞表面上に表現するために構成されてきた。リパーゼ遺伝子は、PCRを行うことによって、pJH92プラスミドから得られ〔Jung,Kook Hoon,Department of Biological Science,Ph D Thesis,KIST,1990〕、INPの融合蛋白質及びリパーゼを生産するpASLP1組換え体ベクターを構成するために、バム(Bam)HI及びEco RIで消化されたpASCM1組換え体ベクターと連結する。
リパーゼを細胞表面上に表現するために、E.coliがpASLP1組換え体ベクターで形質転換され、培養され、表面表現の為に誘導される。そして、リパーゼ活量が、酢酸第二銅法によって測定される。リパーゼを欠く宿主細胞と比べると、リパーゼを細胞表面上に表現し、形質転換されたE.coliに出現するリパーゼ活量の方が高い。そのため、リパーゼを細胞表面上に表現した宿主細胞は、二重相脂肪分解に直接使用できる(図4参照)。
INP遺伝子を含むpASIg1組換え体ベクターは、単鎖Fv抗体を表現するために構成されてきた。単鎖Fv抗体遺伝子は、E.coliで分泌蛋白質として抗体を生産できるpLUV2プラスミドから得られ、pASIg1組換え体ベクターを構成するために、上述の工程で挿入される。
単鎖Fv抗体を細胞表面上に表現するために、E.coliが形質転換され、培養され、表面表現の為に誘導される。そして、単鎖Fv抗体の表面表現は、表面表現した抗体と結合する抗原の程度を測定するエリザ(ELISA)法(酵素結合免疫測定法(Enzyme−linked Immunoassay))によって確認される。
INP遺伝子を含むpSSTS109組換え体ベクター(受入れ番号:KCTC 0327 BP)は、レバンスクラーゼを表現するために構成されてきた。
レバンスクラーゼは、pZL8ベクターでPCRを行うことによって得られ、pT7Blue(R)ベクターへとサブクローンを発生させ、本発明のpGINP21Mベクターに挿入される。
レバンスクラーゼを細胞表面上に表現するために、E.coliが形質転換され、培養され、表面表現の為に誘導される。レバンスクラーゼの表面表現は、蛍光抗体染色を行うことによって確認される(図8参照)。
さらに、細胞表面上に表現されたレバンスクラーゼは、スクロースからレバンを便利に有効に生産するのに使用できる(図9参照)。
反復ドメイン削除INP遺伝子を含む表面アンカーリングベクターを構成するために、INP遺伝子は、突然変異原を与えられて、中心反復ドメインを削除する。
正確には、INPのN−末端特有のドメイン,最初の2反復サブユニット,最後の3反復サブユニット,C−末端特有のドメインを符号化した遺伝子部分が、pkk223−3プラスミドベクターのタック(tac)プロモーターの下で、クローンを発生させる。その結果、pANC3ベクター(受入れ番号:KCTC 0326 BP)が構成される(図6参照)。
上記の工程により構成されたpANC3ベクターを使用することによって、pANC3−CM2組換え体ベクターが構成され、CMCaseを細胞表面上に表現する。CMCase活量は、上述の工程で測定された。
上述のように、本発明の表面表現方法は、有用な酵素及び抗体を有効に生産した。表現された異質蛋白質は、上記の例では、INPを使用することによる表面表現について説明しているが、決して本発明を限定するものではない。本発明の細胞表面表現方法により、いかなる異質蛋白質も細胞表面上に表現される。
以下の実施例で本発明をさらに説明するが、決して本発明を限定するものではない。
実施例〈実施例1〉表面表現のためのpGINP21Mベクターの構築 INP遺伝子含有表面アンカーリングベクターを構築するために、クローンINP遺伝子含有pGINP21プラスミド(7.1kb)を用いた(供託当局:韓国生物科学および遺伝子工学研究所;受け入れ番号:KCTC 86089、受け入れ日:1994年7月13日)。異質蛋白質遺伝子の挿入点を提供するために、3つの新しい制限点をPCR反応により挿入した。その結果、Kpn I点からINP遺伝子のC−末端までの範囲に渡る約1.7kbの断片をPCR機で増幅した。
次いで、配列ID番号1のプライマーと配列ID番号1のプライマーを用いた。配列ID番号1のプライマーはKpn I制限点を挿入するために合成し、配列ID番号1のプライマーはBam HI、Sma IおよびEco RIの3つの制限点を順次挿入するために合成した。挿入された制限点は、遺伝子増幅後のINP遺伝子の固定を容易にした。PCR機で増幅された遺伝子片は、制限酵素、Kpn IおよびEco RIで消化し、Kpn IおよびEco RIで消化済みのpGINP21ベクター内に挿入した。その結果、pGINP21Mベクターが構築された(図1参照)。ここで、INP遺伝子の翻訳停止コドンの代わりに新しい制限点が挿入される。pGINP21Mベクターのサイズは7.
1kbである。本発明のpGINP21MベクターでE.coliを形質転換し、この形質転換されたE.coliを1997年3月28日にKRIBB、KISTに供託した(受け入れ番号:KCTC 0239 BP)。
〈実施例2〉 pASCM1組み換えベクターの構築 pASCM1組み換えベクターを構築した。このベクターは、INPを用い、細胞表面上にCMCaseを表現できる。
表面表現用pGINP21Mベクター内にCMCase遺伝子を挿入するために、該ベクターをBam HIおよびEco RIで消化するとともに、CMCaseのN−末端390bp DNAを含有するpUC19ユニバーサルクローン化ベクターもBam HIおよびEco RIで消化した。次いで、上記で作製された2つのDNA片をDNAリガーゼと連結してpGINP21CM1プラスミドを構築した。その後、Eco RIで消化することによって、別のpUC19ベクターのEco RI点からCMCaseのC−末端DNA片を得、これをCMCaseのN−末端含有pGINP21CM1プラスミドのEco RI点に挿入した。その結果、完全なCMCase遺伝子がINP遺伝子のC−末端に連結された。上記で作製したpASCM1組み換えベクターを図2に示す。本発明のpASCM1組み換えベクターでE.coliを形質転換し、この形質転換されたE.coliを1997年3月22日にKRIBB、KISTに供託した(受け入れ番号:KCTC 0237 BP)。
〈実施例3〉 CMCaseの表面表現 pASCM1組み換えベクターでE.coliを形質転換し、100mlのLB培地、抗主物質および100mg/Lのアンピシリンを含有する500mlフラスコ内で培養し、表面表現のために誘導した。
その後、基質としてカルボキシメチルセルロースを用い、DNS法でCMCase活量を測定した。詳しくは、1%(w/v)カルボキシメチルセルロースを50mMクエン酸塩緩衝液に溶解して基質溶液を調製した。この基質溶液0.5mlを酵素溶液0.5mlに添加し、よく混合した後、二重ボイラー中、60℃で30分間加熱して反応させた。その後、2.5−ジニトロサリチル酸7.5g、NaOH14.0g、Rochel塩216.1g、フェノール5.4gおよびNa2235.9gを純粋ILに順次溶解することにより予め調製されたDNS溶液3mlを添加した。次いで、沸騰水中で基質溶液をDNS溶液と5分間反応させた後、氷水中で冷却した。室温に冷却した溶液を用い、550nmでの吸光度を測定し、遊離還元糖の量をグルコースの標準曲線との比較により計算した。酵素1単位が1分間でグルコース1μMを遊離する酵素量を示す。
その結果、洗浄した完全なE.coliを酵素源として用いた場合と、分裂したE.coliを酵素源として用いた場合とで、酵素活量は同じようなものであった。
〈実施例4〉 pASLP1組み換えベクターの構築 pASLP1組み換えベクターを構築した。このベクターは、INPを用い、細胞表面上にリパーゼを表現できる。
実施例2で作製したpASCM1組み換えベクターをBam HIおよびEco RIで消化し、CMCase遺伝子を除去して表面アンカーリングベクターを作製した。リパーゼ遺伝子を得るために、この遺伝子を含有するpJH92プラスミドを用い、これを操作してPCR技術によりBam HI制限点およびEco RI制限点を挿入した。このように、Bam HIおよびEco RIでpJH92ベクターを消化することによってリパーゼ遺伝子を得ることができ、それを上記で作製した表面アンカーリングベクター内に連結した。その結果、pASLP1組み換えベクターが構築された。このベクターは、INPおよびリパーゼを融合蛋白質の形で表現できる。
〈実施例5〉 リパーゼの表面表現 E.coliを塩化カルシウム法によりpASLP1組み換えベクターで形質転換し、実施例3と同様の方法で培養し、表面表現のために誘導した。その後、細胞表面に表現されたリパーゼ活量を下記の酢酸第2銅法により測定した。E.
coli培養液5mlを、イソオクタン5mlに溶解した5%オリーブオイル基質と混合し、40℃で1時間反応させた。その後、溶液相と油相とを懸濁させ、得られた懸濁液3mlを激しく振って酢酸第2銅試薬1mlで処理した。その後、反応混合物の吸光度を715nmで測定した。その際、吸光度が高いほど、多量の油が劣化して酸性脂質を生成するため酵素活量が高いことが予想される。その結果、細胞表面に表現されたリパーゼ活量が図4に示すように測定された。
〈実施例6〉 pASIg1組み換えベクターの構築 pASIg1組み換えベクターを構築した。このベクターは、INPを用い、細胞表面上に、人体に適応化した単鎖Pv抗体を表現できる。
リパーゼ遺伝子を作製するために、単鎖Pv抗体遺伝子を含有し、かつ、この抗体を分泌蛋白質として生成することのできるpLUV2プラスミドをSal IおよびEco RIで消化し、合成オリゴヌクレオチドを連結して、Sal I点の代わりに新しいBgl II制限点を添如した。次いで、実施例2で作製したpASCM1組み換えベクターをBam HIおよびEco RIで消化して表面表現用CMCase遺伝子を除去し、Bgl IIおよびEco RIで消化された単鎖抗体遺伝子に連結した。その結果、pASIg1組み換えベクターが構築された。このベクターは、INPおよび単鎖Fv抗体を融合蛋白質の形で表現できる。
〈実施例7〉 単鎖Fv抗体の表面表現 E.coliをpASIg1組み換えベクターで形質転換し、表面表現のために実施例3と同様の方法で誘導した。その後、細胞表面に表現された単鎖Fv抗体の活量をELISA法により同定した。このELISA法は、抗原と表面表現された抗体との結合度を測定するものである。次いで、抗体を表現する細胞内と、表現ベクターのみを含有する細胞内で、それぞれ、抗原の結合度を比較した。
各細胞を同じ濃度を持つように調整し、採集し、PBS緩衝液(pH7.4)
で洗浄し、同緩衝液1.4mLで再懸濁した。これらの懸濁液を25μl、50μl、100μl、200μlおよび250μlの各分量に分割した後、抗体(H69k)を結合できる臨界濃度のプレS2抗原と混合し、室温で2時間反応させた。次いで、結合溶液を室温で2分間遠心分離し、得られた上澄み液をELISA板に添加し、一晩コートした。このとき、計算量の抗体H69kを添加し、コート抗体の量を下記のELISA法により測定した。
一晩コートした前記板を2%牛血清アルブミン含有TES−T緩衝液(0.05%(v/v)Tween−20.10mMトリス、pH7.4、0.15M NaCl)で2時間ブロックした。その後、第1次抗体H69kを10ng添加し、2時間反応させ、同様の緩衝液で洗浄して未結合の抗体を除去した。次いで、馬−二十日大根ペルオキシダーゼで結合させた第2次抗体を1000倍の上記緩衝液で希釈し、反応させた。ペルオキシダーゼの基質としてH22と、呈色試薬としてOPDを添加して、呈色を誘導し、この反応を硫酸で停止させた。次いで、492nmで吸光度を測定し、細胞を含有しないブランクの吸光度100%に対する百分率に換算した。その結果、図5に示すように抗原結合を制御細胞と比較した。
〈実施例8〉 レバンスクラーゼ遺伝子含有pSSTS109組み換えベクターの構築 pSSTS109組み換えベクターを構築した。このベクターは、INPを用い、細胞表面上にレバンスクラーゼを表現できる。
本発明のpGINP21Mベクターにレバンスクラーゼ遺伝子を正確に挿入した。pZL8ベクター〔Song and Rhee,Biotechnol.Lett.,16:1305-1310(1994)〕をテンプレートとして用い、レバンスクラーゼ遺伝子の増幅のためにPCRを行った。その際、それぞれオープンリーディングフレーム(ORF)の上流配列および下流配列に補足し、かつ、新しい制限酵素点、すなわち、ORFの初めではBam HI点を、ORFの終わりではSma I点およびEco RI点を含有する配列ID番号3と4のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた。
PCR生成物をpT7Blue(R)ベクター(Novagen Co.,USA)に効率よくサブクローン化した。サブクローン化したレバンスクラーゼ遺伝子はBam HI−Eco RIで消化した後、同じ酵素で消化されたpGINP21Mベクターに挿入した。
その結果、pSSTS109組み換えベクターが作製された。大腸菌(E.coli)DH5αを形質転換し、この形質変換された大腸菌(E.coli)を1997年3月27日にKRIBB、KISTに供託した(受け入れ番号:KCTC 0327 BP)。
〈実施例9〉 レバンスクラーゼの表面表現 大腸菌(E.coli)をpSSTS109組み換えベクターで形質変換し、実施例3と同様の表面表現方法で誘導した。
表面アンカーリングレバンスクラーゼの物理的観察を図8に示す。このレバンスクラーゼをレバンスクラーゼ反応抗体およびFITCラベル第2次抗体の蛍光で染色した。陽性反応細胞を図8(D)に示すように効率的に染色した。一方、陰性反応細胞は染色しなかった(図8(B)参照)。これは、INPが異質蛋白質を外部細胞膜に向けることができるとともに表面アンカーリングモチーフとして有用であることの証拠となる。
〈実施例10〉 表面表現方法を用いたショ糖のレバンへの生物的変換 レバンスクラーゼを用いたショ糖のレバンへの酵素変換が報告されている〔Song and Rhee,Biotechnol.Lett.,16:1305-1310(1994)〕。生物的変換の最適温度は10℃であり、この最適温度で、10%ショ糖溶液中で46%の最高収率が得られた。INPアンカーリングモチーフを用いて表面上にレバンスクラーゼを表現する完全な細胞を洗浄した後、それを、酵素の単離なしに最大収率でレバンを直接形成させるために用いるか、あるいは、酢酸塩で緩衝させたショ糖溶液(pH5.5)中、10℃で前記酵素が再懸濁するならば細胞を溶菌させた(図9参照)。
初期細胞濃度は、1.3OD600nmと低かった。レバンスクラーゼの比活量は充分高かったので、この細胞密度は、生物的変換への応用に適切である。添加した正確に77%のショ糖を12日間の反応により加水分解し、重合させてレバン(51.1g/l)に変換した。その際、未重合グルコースは、上記ショ糖溶液から遊離させ、蓄積させた(77g/l)。この陽性細胞の結果と比べて、細胞内のスペースにレバンスクラーゼをとどめた陰性細胞は、反応中、ショ糖をレバンに変換することができなかった。その結果、グルコースは、測定不能量のレバンとともに2.13g/lと少量しか検出されなかった。このように、洗浄した完全な細胞を用いたレバンの形成は、表面露出レバンスクラーゼの反応に由来することが確認された。
〈実施例11〉 反復ドメインが削除されたINPを含有するpANC3ベクターの構築 反復ドメインが削除されたINPを含有する表面アンカーリングベクターを構築するために、遺伝子を突然変異させて中心の反復ドメインを削除した。
INPのN−末端特定ドメインをコード化する組み換えDNA(175アミノ酸残基)、最初の2つの反復サブユニット(32アミノ酸残基)、最後の3つの反復サブユニット(48アミノ酸残基)およびINPのC−末端特定ドメイン(49アミノ酸残基)をpKK223−3プラスミドベクター(ファーマシア社、スウェーデン)のtac促進剤の下に正確に置いた。その結果、表面アンカーリングベクターpANC3になった(図6参照)。
E.coliを本発明のpANC3ベクターで形質変換し、この形質変換されたE.coliを1997年3月27日にKRIBB、KISTに供託した(受け入れ番号:KCTC 0326 BP)。
〈実施例12〉 pANC3−CM2組み換えベクターの構築 pANC3−CM3組み換えベクターを構築した。このベクターは、反復ドメインが削除されたINPを用い、細胞表面上にCMCaseを表現することができる。
実施例2と同様の操作により、CMCaseを遺伝子もpANC3ベクターに正確にサブクローン化して表面アンカーリングベクターpANC3−CM2を作製した。
〈実施例13〉 反復ドメインが削除されたINPを用いたCMCaseの表面表現 INPは、外部細胞膜上に移動させる必要がないかもしれない内部反復ドメインを持つ大きなポリペプチドである。CMCase遺伝子もpANC3アンカーリングベクターにサブクローン化して、実施例12と同様のpANC3−CM2組み換えベクターを作製した。E.coli JM109系をpANC3−CM2組み換えベクターで形質転換し、この形質転換されたE.coli JM109の細胞表面での全CMCase活量を実施例3と同様の操作で求めた。
細胞を洗浄した後、全細胞CMCase活量を測定することにより確認した(図7参照)。42℃で成長した細胞は、37℃で成長した細胞より高いレベルのCMCase活量を示した。その活量は、成長の初めの定常期で最高点に到達し、その後、数時間、低下した。
結果は、INPの中心反復ドメインを欠くINPも細胞表面上でCMCaseを支配するので、INPのN−末端および/またはC−末端ドメインは、それ自身の第1次配列上に分泌信号および標的信号を持つかもしれないということを示す。
本発明で作製されたpGINP21MベクターおよびpANC3ベクターは、CMCase、リパーゼ、人間適応単鎖Pv抗体、レバンスクラーゼ等をE.coliの細胞表面上に効率的に表現した。このベクターは、以下に述べるように非常に有利である。表現された蛋白質は、細胞表面上への蛋白質濃縮により希釈されることはない。細胞分裂、蛋白質の単離または精製は必要ないので、細胞を洗浄するだけで該表現を容易に同定することができる。
INPの第1次配列における分泌信号および標的信号を除いて、INPの中心の反復領域の長さは必要に応じて変えることができるので、INPの特徴を利用した本発明のベクターは、異質蛋白質遺伝子をクローン化するのに有用である。
したがって、このベクターは、異質蛋白質と細胞表面との間の距離を都合良く調節することができるという顕著な利点を持つ。
本発明の製造方法は、INPの特徴を利用し、細胞サイクルに関わらず異質蛋白質を安定に表現することができる。これは、種々の菌宿主に適用できる。また、表面表現は、細胞表面でのしっかりした表現により異質蛋白質の同定を容易にする。
本発明の表面表現方法は、各種抗原、抗体、酵素、結合もしくは吸収蛋白質、生理活性化剤をふるい分けるためのペプチド資料庫等からなる組み換え異質蛋白質の効率的な製造に使用できる。本方法は、広い範囲で応用できるので、新ワクチン、抗ペプチド抗体、生物単離用吸収剤、細胞表面に局在化させた酵素等の製造に使用できる。
特に、細胞表面に表現されたレバンスクラーゼは、ショ糖からレバンを製造するのに非常に有用であり、本発明の方法は、生物的変換に効率よく利用することができる。




【特許請求の範囲】
1.氷核形成蛋白質(INP)の遺伝子部分を含む、表面アンカーリングベクター。
2.INPが、プソイドモナスシリンガエKCTC 1832に由来する、請求項1に記載の表面アンカーリングベクター。
3.INP遺伝子部分が、N−末端分泌信号及びC−末端標的信号を含む、請求項2に記載の表面アンカーリングベクター。
4.INP遺伝子の長さが、INPの中心反復ドメインにおいて適応性を有する、請求項3に記載の表面アンカーリングベクター。
5.異質遺伝子の挿入の為に、INP遺伝子のC−末端に制限部位を含む、請求項2に記載の表面アンカーリングベクター。
6.クローンを発生させるpANC3ベクターである、請求項4または5に記載の表面アンカーリングベクター。
7.請求項6のクローンを発生させるpANC3ベクター(受入れ番号:KCTC 0326 BP)でE.coliを形質転換することによって準備される、形質転換細胞。
8.クローンを発生させるpGINP21Mベクターである、請求項5に記載の表面アンカーリングベクター。
9.請求項8のクローンを発生させるpGINP21Mベクター(受入れ番号
:KCTC 0239 BP)でE.coliを形質転換することによって準備される、形質転換細胞。
10.異質蛋白質の遺伝子が、請求項6の表面アンカーリングベクターに挿入される、表面表現の為の組換え体ベクター。
11.異質蛋白質が表面表現の為のCMCaseを含む、請求項10に記載のpANC3−CM2組換え体ベクター。
12.異質蛋白質の遺伝子が、請求項8の表面アンカーリングベクターに挿入される、表面表現の為の組換え体ベクター。
13.異質蛋白質が表面表現の為のCMCaseを含む、請求項12に記載のpASCM1組換え体ベクター。
14.異質蛋白質が表面表現の為のリパーゼを含む、請求項12に記載のpASLP1組換え体ベクター。
15.異質蛋白質が表面表現の為の人体(humanized)単鎖Fv抗体を含む、請求項12に記載のpASIg1組換え体ベクター。
16.異質蛋白質が表面表現の為のレバンスクラーゼを含む、請求項12に記載のpASLP1組換え体ベクター。
17.請求項10または12の組換え体ベクターで宿主細胞を形質転換することによって準備される、形質転換細胞。
18.宿主細胞が、大腸菌,アセトバクターsp.,プソイドモナスsp.,クサンソモナスsp.,エルウイニアsp.及びキモモナスsp.を含む、請求項17に記載の形質転換細胞。
19.請求項11のpANC3−CM2組換え体ベクターでE.coli JM 109を形質転換することによって得られる、請求項17に記載の形質転換細胞。
20.請求項13のpASCM1組換え体ベクター(受入れ番号:KCTC 0237 BP)でE.coli JM 109を形質転換することによって得られる、請求項17に記載の形質転換細胞。
21.請求項14のpASLP1組換え体ベクターでE.coli JM 109を形質転換することによって得られる、請求項17記載の形質転換細胞。
22.請求項15のpASIg1組換え体ベクターでE.coli JM 109を形質転換することによって得られる、請求項17に記載の形質転換細胞。
23.請求項16のpSSTS109組換え体ベクター(受入れ番号:KCTC 0327 BP)でE.coli DH5αを形質転換することによって得られる、請求項17に記載の形質転換細胞。
24.以下の工程を含む、異質蛋白質の準備方法。
a)請求項17の形質転換細胞を培養する。
b)融合蛋白質の形で細胞表面上にINPを有する異質蛋白質を表現する。
25.異質蛋白質がレバンスクラーゼである、請求項24に記載の異質蛋白質の準備方法。
26.INPの中心反復領域でINP遺伝子の長さを調整することによって、異質蛋白質が適応性を有する、請求項17に記載の異質蛋白質の準備方法。
27.抗体,酵素,抗原,結合蛋白質.吸収蛋白質及びペプチドライブラリーを含む、請求項24の方法により準備された異質蛋白質の用途。
28.異質蛋白質が、請求項23の形質転換細胞を使用することによってレバンを準備するのに使用できるレバンスクラーゼである、請求項27に記載の異質蛋白質の用途。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表平10−508207
【公表日】平成10年(1998)8月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−535148
【出願日】平成9年(1997)4月2日
【国際出願番号】PCT/KR97/00057
【国際公開番号】WO97/37025
【国際公開日】平成9年(1997)10月9日
【出願人】
【氏名又は名称】コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー